(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、本実施形態に係る駆動力伝達装置10の模式図を示す。駆動力伝達装置10は、入力シャフト12、出力シャフト14、伝達部材16、制御部19、及び速度センサ21A,21Bを備える。駆動力伝達装置10は、例えば、車両の内燃機関等の駆動源から、駆動輪に駆動力を伝達する際の変速手段として用いられる。
【0011】
入力シャフト12は、図示しない駆動源により回転駆動させられる。出力シャフト14は、入力シャフト12と離間するようにして設けられるとともに、当該入力シャフト12と同軸上に設けられる。出力シャフト14は、例えば
図1に示すように中空形状であって、その内部に入力シャフト12が配置されるものであってもよいし、後述する
図13のように、入力シャフト12と同軸上に並んで配置されるものであってもよい。
【0012】
伝達部材16は、入力シャフト12の駆動力を、弾性部材18を介して出力シャフト14に伝達する。後述するように、伝達部材16は、入力シャフト12の軸周方向に沿って往復運動させられる振動子20と同期して、入力シャフト12の駆動力を出力シャフト14に伝達する。なお、
図1では、伝達部材16が出力シャフト14上に2つ設けられているが、この形態に限らない。例えば伝達部材16は一つであってもよい。また、径方向のバランスを取るために(カウンタウェイトとして)、軸対象に複数の伝達部材16を設けてもよい。伝達部材16は、弾性部材18、振動子20、クラッチ22及びブレーキ24を備える。
【0013】
弾性部材18は、出力シャフト14に固定点が設けられるとともに、当該出力シャフト14の軸心から外れた位置に、軸周回りに延設される。例えば、出力シャフト14の軸方向端面に、周方向に沿ってスロットを形成するとともに、このスロット内に弾性部材18を配置する。スロットがガイドとなって、弾性部材は出力シャフト14の軸周に沿って伸縮(弾性振動)させられる。弾性部材18は、例えばコイルばねから構成されてよく、長さ方向に沿った一端が出力シャフト14に固定され、他端が振動子20に固定されている。
【0014】
弾性部材18の振動周期は、駆動源の最大回転周期よりも短くなるように形成されていることが好適である。例えば、駆動源を内燃機関として、その最大回転数(最大許容回転数)が6000rpm(=100Hz)であった場合、100Hzより高い固有振動数を備える弾性部材18を備えることが好適である。このようにすることで、後述するように、入力シャフト12の一回転中に、複数回に亘って、出力シャフト14に駆動力を伝達することが可能となる。
【0015】
振動子20は、弾性部材18に連結されており、弾性部材18の伸縮に伴って出力シャフト14の軸周方向に沿って往復運動させられる。振動子20は、例えば金属等の剛性材料からなり、弾性部材18とともにスロットに沿って往復移動するような錘から構成されてもよいし、後述する
図13のように、出力シャフト14と同軸に配置されるとともに、弾性部材18の伸縮に伴って軸周りに回動する伝達シャフトであってもよい。
【0016】
クラッチ22は、振動子20を入力シャフト12に係合させる係合手段である。クラッチ22は、振動子20と入力シャフト12との係合/開放を高速に行えるものから構成される。例えば、弾性部材18の振動数よりも短いサイクルで係合/開放を行えるものであることが好適である。このことから、クラッチ22は、例えば、係合/開放の動作を電磁石への電力の断続をもって行う、電磁クラッチから構成される。
【0017】
また、クラッチ22は、ワンウェイクラッチであってもよい。ワンウェイクラッチは、入力シャフト12と振動子20の相対速度に応じて機械的に作動する。ワンウェイクラッチを用いることにより、入力シャフト12と振動子20との相対速度が比較的大きい領域において、後述するように、制御部19から係合制御信号が出力されても、入力シャフト12と振動子20との速度差が小さくなったときに確実に両者を係合させることができる。すなわち、制御遅延に対して余裕時間(
図6参照)を持った制御を行うことができる。
【0018】
ブレーキ24は、振動子20をケースなどの固定部材(非回転部材)に固定させる。クラッチ22と同様に、ブレーキ24も、振動子20の固定/開放を高速に行えるものから構成される。ブレーキ24は、例えば、固定/開放の動作を、電磁石への電力の断続をもって行う、電磁ブレーキから構成される。
【0019】
速度センサ21Aは、入力シャフト12の回転速度(角速度)を測定する。また、測定した回転速度を、制御部19に送信する。速度センサ21Bは、振動子20の移動速度を測定する。また、測定した移動速度を、制御部19に送信する。
【0020】
制御部19は、入力シャフト12の回転速度や振動子20の移動速度に応じて、クラッチ22及びブレーキ24の動作を制御する。制御部19は、コンピュータであってよく、当該コンピュータは、後述するクラッチ22及びブレーキ24の動作制御プログラムが記憶されたコンピュータや、組み込みコンピュータであってよい。また、制御部19は、速度センサ21Aから入力シャフト12の回転速度が入力され、また、速度センサ21Bから振動子20の移動速度が入力される入力インターフェイスを備える。
【0021】
制御部19は、所定の制御信号を出力することにより、クラッチ22及びブレーキ24を制御する。すなわち、制御部19は、クラッチ22を制御することにより、振動子20と入力シャフト12との係合/開放を行うことができる。また、制御部19は、ブレーキ24を制御することにより、振動子20の固定/開放を行うことができる。
【0022】
次に、
図2〜
図4を用いて、伝達部材16による駆動力の伝達について説明する。なお、以下では、入力シャフト12の回転速度は、出力シャフト14の回転速度よりも速いものとする。
図2に示すように、弾性部材18は予め軸周回りに付勢されており、その弾性により、出力シャフト14の軸周方向に沿って伸縮させられる。これに伴って振動子20も出力シャフト14の軸周方向に沿って往復移動させられる。
【0023】
なお、駆動力の伝達時に、弾性部材18を振動状態とするために、伝達前の段階(待機段階)で、弾性部材18を付勢状態にしておくことが好適である。例えば、後述する
図4の破線で示すように、弾性部材18を縮めた状態で、振動子20及び出力シャフト14を固定させておく。
【0024】
図3に示すように、クラッチ22は、振動子20の往復運動の周期と同期して、入力シャフト12と振動子20とを係合させる。すなわち、弾性部材18の振動周期と同期して、入力シャフト12の駆動力を出力シャフト14に伝達する。
【0025】
弾性部材18の振動周期と同期させて駆動力の伝達を行うことで、入力シャフト12の回転周期に依存しない駆動力の伝達を行うことができる。さらに、振動周期が駆動源の最大回転周期よりも短い弾性部材18を用いることで、入力シャフト12の1回転中に複数回に亘り、駆動力の伝達を行うことが可能となる。加えて、駆動力の伝達は間欠的に行われるが、この間欠的な伝達が高速(高周波数)で行われることで、例えばPWM制御のような、滑らかな駆動力の伝達が可能となる。
【0026】
振動子20の往復運動の周期と同期した、入力シャフト12と振動子20との係合の一例として、振動子20の移動速度と入力シャフト12の回転速度の速度差が所定値以下となったときに、両者を係合させる。例えば、一方の速度が他方の速度の80%以上120%以下であるときに、両者を係合させる。このように、速度差の小さい状態で入力シャフト12と振動子20を係合させることで、係合時のすべりによる損失が抑制される。
【0027】
より好適には、振動子20と入力シャフト12の角速度が等しいときに、両者を係合させる。振動子20の角速度は、弾性部材18の弾性エネルギーに応じて変化し、振動子20が振動する一周期のうち、角速度の極値を除いて2回、入力シャフト12と振動子20の角速度が等しくなる。この2回のうちのいずれかのタイミングで、クラッチ22は入力シャフト12と振動子20とを係合させる。角速度の等しいときに係合を行うことで、すべりによる損失の発生を防止できる。
【0028】
クラッチ22によって入力シャフト12と振動子20とが係合されると、
図3上段から下段に示すように、入力シャフト12と出力シャフト14の速度差(入力シャフト角速度>出力シャフト角速度)に応じて、弾性部材18が縮められて、当該弾性部材18の弾性エネルギーが蓄積される。すなわち、入力シャフト12の駆動エネルギーが、弾性部材18の弾性エネルギーに変換される。
【0029】
さらに
図4に示すように、クラッチ22を開放するとともに、ブレーキ24によって振動子20を固定する。このとき、弾性部材18は、蓄積した弾性エネルギーを出力シャフト14に伝達する。言い換えると、弾性部材18は、入力シャフト12の駆動エネルギーを、力として出力シャフト14に伝達する。すなわち、振動子20の固定に伴い、縮められた弾性部材18は、自然長に伸張するために、出力シャフト14を回転させる(押し出す)。以上のようにして、入力シャフト12から出力シャフト14に駆動力が伝達される。
【0030】
弾性部材18を介した、入力シャフト12から出力シャフト14への駆動力の伝達は、以下のように数値で表すことができる。例えば、入力シャフト12の角速度と出力シャフト14の角速度との比が5:3である場合、クラッチ22の係合中の差動分である2/5の入力エネルギーは、弾性エネルギーとして弾性部材18に保存され、残りの3/5のエネルギーが出力シャフト14に伝達される。
【0031】
制御部19は、上記のような駆動伝達を可能にするための制御を実行する。制御部19は、速度センサ21A,21Bから、入力シャフト12の回転速度及び振動子20の移動速度を受信する。または、測定された速度に代えて、入力シャフト12、出力シャフト14、及び弾性部材18の固有振動数等から算出した算出値を用いてもよい。
【0032】
制御部19は、入力シャフト12及び振動子20の相対速度が所定速度以下となった場合に、クラッチ22を制御することにより、振動子20と入力シャフト12とを係合させる制御を行う(弾性エネルギー蓄積制御)。これにより、入力シャフト12と出力シャフト14との速度差に応じて、弾性部材18が縮められて弾性部材18に弾性エネルギーが蓄積される。
【0033】
弾性部材18に弾性エネルギーが蓄積されると、制御部19は、クラッチ22を開放させた後に、ブレーキ24により振動子20を固定する制御を行う(弾性エネルギー伝達制御)。ブレーキ24による振動子の固定は、振動子の駆動伝達機10に対する速度が所定値以下となった場合に固定するように制御してもよい。これにより、弾性部材18は伸長し、蓄えられた弾性エネルギーは出力シャフト14へ伝達される。これにより、入力シャフト12から出力シャフト14に駆動力が伝達される。
【0034】
以上説明した駆動伝達に伴う、入力シャフト12、振動子20、及び出力シャフト14の速度変化を、
図5に例示する。
図5のAで示す領域では、振動子20はクラッチ22及びブレーキ24から開放され、出力シャフト14の軸周方向に沿って往復運動している。このとき、振動子20の最大角速度は、入力シャフト12の角速度よりも高くなっている。
【0035】
図5のBで示す領域のように、振動子20の角速度と入力シャフト12の角速度が等しいときに、クラッチ22によって入力シャフト12と振動子20が係合される。係合中は振動子20と入力シャフト12とが等速度となる。
【0036】
弾性部材18に弾性エネルギーを蓄積させた(縮めた)のち、クラッチ22による契合を開放する(
図5のC)。その後ブレーキ24によって振動子20が固定され、振動子20の角速度は0となる(
図5のD)。弾性部材18の弾性エネルギーが出力シャフト14に伝達された後に、ブレーキ24が開放され振動子20は再び往復運動する(
図5のA)。
【0037】
図6に、入力シャフト12、出力シャフト14、及び振動子20の角速度及びトルク変化を例示する。なお、同図中段のL/Uは、クラッチ22またはブレーキ24の係合(Lock Up)を指しており、LU1はクラッチ22による係合を指し、LU2はブレーキ24による係合を指している。
【0038】
図6下段には、入力シャフト12が、伝達部材16から受けるトルク(駆動力伝達装置10から見た入力トルク)と、出力シャフト14が、伝達部材16から受けるトルク(伝達部材16から出力シャフト14に伝達されるトルク)の変化を示している。以下、前者を入力軸トルク、後者を出力軸トルクと呼ぶ。
【0039】
クラッチ22により入力シャフト12及び振動子20が係合されると(LU1:ON)、入力軸トルクが立ち上がる。さらにクラッチ22の係合が解かれて(LU1:OFF)振動子20がブレーキ24に固定されると(LU2:ON)、弾性部材18の弾性エネルギーは出力シャフト14に伝達される。
【0040】
図6上段と下段とを併せて検討すると、入力側角速度に対して出力側角速度は低くなり、入力軸トルクに対して出力軸トルクは高くなる。発明者がこの結果について精査したところ、入力側角速度に対する出力側角速度の割合(変速比)は約1/4であり、入力軸トルクに対する出力軸トルクの割合(トルク比)は約4倍であった。
【0041】
図7には、
図6とは異なる変速比、トルク比での変速例が示されている。なお、
図7下段のトルク変化を示すグラフでは、出力軸トルクの値と併せて、その平均値も示している。初期状態(1)では、入力シャフト12と出力シャフト14の変速比を1/1.3とし、トルク比を1.3としている。この状態から、入力シャフト12の角速度を増加させる(2)。このとき、振動子20の角速度変化(振幅)を増加させて、振動子20の最大角速度が、最終的な入力軸の角速度((3)の200rad/s)を上回るようにする。具体的には、クラッチ22の係合期間を長く(LU1→長)して振動子20を引っ張る。または/加えて、ブレーキ24の係合期間を短く(LU2→短)して、弾性エネルギーの、弾性部材18の振動への割り当てを増やす。このようにすることで、弾性部材18の振幅を増加させる。
【0042】
さらに、振動子20の角速度が所望の角速度となったときにクラッチ22を係合させて弾性部材18の弾性エネルギーを蓄積するとともに、クラッチ22を開放してブレーキ24を係合させて出力シャフト14に弾性エネルギーを伝達する(3)。(3)の例では、変速比を1/2.5とし、トルク比を2.5としている。
【0043】
このように、本実施形態では、振動子20の振幅、クラッチ22の係合期間、及びブレーキ24の係合期間を変化させることで、入力シャフト12と出力シャフト14の変速比及びトルク比を変化させることができる。このような変速は、原理上、無段階(連続)に行うことができる。つまり、
図1のような簡素な構造で、無段階変速が可能となる。
【0044】
なお、所望の変速比、トルク比を得るための、振動子20の振幅、クラッチ22の係合期間、及びブレーキ24の係合期間は、一つの値に限られない。例えば
図8、
図9では、上記3つのパラメータの条件を変えて、同一の変速比及びトルク比を得る例が示されている。
【0045】
図8では、
図9と比較して、振動子20の振幅を小さくしているが、クラッチ22の係合期間(LU1)及びブレーキ24の係合期間(LU2)を
図9と比較して長く設定している。このように、振動子20の振幅、クラッチ22の係合期間、及びブレーキ24の係合期間の条件を種々変更させても、同一の変速比及びトルク比を得ることができる。
【0046】
なお、
図8と
図9のトルク変化を比較すると、クラッチ22の係合期間が短い
図9の方が、出力軸トルクの変動が大きい。この点について、
図10を用いて説明する。
図10では、クラッチ22の係合期間を変更させた際の、出力軸トルクの変化が示されている。これによると、クラッチの係合期間が長くなるほど、出力軸トルクの変動幅が小さくなる。
【0047】
このように、出力軸トルクの変動を抑えるとの観点から、クラッチ22の係合期間は長いことが好適である。その一方で、ばね係数が小さいなど、所定の弾性エネルギーに対して振幅が大きくなる弾性部材18を用いる場合などは、
図9のように、クラッチ22の係合期間を短くせざるを得ない。そこで、このような場合には、駆動力伝達装置10を複数台繋げて、補完的にクラッチ22の係合期間を定めることが好適である。
図11には、2台の駆動力伝達装置10を、入力シャフト12の同軸上に並べた際の、トルク変化が示されている。入力軸トルクが複相化され、その結果、出力軸トルクが平滑化される。
【0048】
制御部19は、上記のような無段階変速制御を行う。制御部19には、出力シャフト14の入力シャフト12に対する要求変速比及び要求トルク比(要求情報)を入力する入力インターフェイス(または信号線)を有する。また、制御部19は、変速比及びトルク比ならびに、振動子20の振幅、クラッチ22の係合期間、及びブレーキ24の係合期間が関連付けられたテーブル(表)を図示しない記憶部に格納している。このようなテーブルは、振動子20の振幅、クラッチ22の係合期間、及びブレーキ24の係合期間を種々変化させたときの、入力シャフト12及び出力シャフト14の変速比及びトルク比との関係を実測または算出することによって得ることができる。なお、テーブルに代えて、当該テーブルに対応するアルゴリズムや関数を記憶するようにしてもよい。
【0049】
制御部19は、入力インターフェイスから入力された要求変速比及び要求トルク比に基づき、テーブルを参照し、振動子20の振幅、クラッチ22の係合期間及びブレーキ24の係合期間を取得する。次に、取得した振動子20の振幅、クラッチ22の係合期間、及びブレーキ24の係合期間に基づいて、クラッチ22及びブレーキ24を制御する。
【0050】
次に、本実施形態にかかる駆動力伝達装置10の、具体的な構成について説明する。
図12には、駆動力伝達装置10の具体的な構成の中から、主要な要素を抽出した模式図が示されている。この図では、入力シャフト12の軸方向に沿って、伝達部材16及び出力シャフト14が配置されている。
【0051】
伝達部材16は、クラッチ22、ブレーキ24、弾性部材18及び伝達シャフト26を備える。クラッチ22は、入力シャフト12の軸方向端部のフランジと係合可能なように、伝達シャフト26の軸方向端部に設けられる。伝達シャフト26の軸方向中央部には、ブレーキ24が設けられる。さらに伝達シャフト26の、クラッチ22が設けられた端部とは対向する他端には、弾性部材18が設けられる。弾性部材18は伝達シャフト26に連結されており、弾性部材18の振動に伴って、伝達シャフト26は軸周方向に往復移動させられる。このことから、伝達シャフト26は、
図1等の振動子20に相当する。
【0052】
図13に、
図12の具体的な構成を例示する。入力シャフト12、伝達シャフト26、及び出力シャフト14が同軸上に配置されている。入力シャフト12及び伝達シャフト26は、軸受28を介してベース30に回転可能に支持されている。
【0053】
入力シャフト12には、径方向に張り出すようにして、フランジ32が形成されている。このフランジ32を挟むようにして、クラッチ22が設けられる。クラッチ22は、可動部22Aと励磁部22Bを備える。
【0054】
励磁部22Bは、図示しない電源から励磁電流が送られ、これにより磁束を生じさせる。励磁部22Bは、円環状の部材であって、入力シャフト12や伝達シャフト26とは離間するようにして、ベース30に固定される。
【0055】
可動部22Aは、金属等の磁性材料から構成された円環状の部材であって、励磁部22Bから生じた磁束に応じて移動可能となっている。可動部22Aは、軸方向に当該可動部22Aに螺入する締結部34を介して、伝達シャフト26に連結されている。締結部34の軸部36の長さは、伝達シャフト26の入力側フランジ38の軸方向厚さよりも長く形成されている。このような構造を備えることで、可動部22Aは、伝達シャフト26に対して軸周方向には固定され、また、軸方向には移動可能となっている。励磁部22Bに磁束が生じると、可動部22Aが軸方向に引き寄せられて、入力シャフト12のフランジ32と係合する。
【0056】
伝達シャフト26は、入力側フランジ38、中間フランジ40、及び出力側フランジ42を備える。これらのフランジは、入力シャフト12から出力シャフト14に向かって、軸方向に沿ってそれぞれ伝達シャフト26に形成されている。入力側フランジ38に設けられたクラッチ22の可動部22Aが入力シャフト12と係合すると、伝達シャフト26は入力シャフト12と同期回転する。
【0057】
出力側フランジ42には、弾性部材18が連結されている。弾性部材18は、出力シャフト14の軸周りに設けられたスロット44に配置されており、スロット44の延設方向に沿った一端が出力側フランジ42と連結され、他端が出力シャフト14に連結されている。伝達シャフト26が入力シャフト12と係合されているとき、伝達シャフト26は弾性部材18を縮めるように付勢する。
【0058】
中間フランジ40には、ブレーキ24が設けられる。ブレーキ24は、クラッチ22と同様に、中間フランジ40を挟むようにして、可動部24A及び励磁部24Bを備える。可動部24Aは、ベース30に対して軸方向にのみ移動可能となっている。励磁部24Bに磁束が生じると、可動部24Aが軸方向に引き寄せられて、伝達シャフト26と係合する。これにより、伝達シャフト26の回転が止められる。
【0059】
入力シャフト12から出力シャフト14への駆動力の伝達は、以下のようにして行われる。まず、クラッチ22によって入力シャフト12と伝達シャフト26を係合させることで、両者が同期回転する。この同期回転によって、伝達シャフト26に連結された弾性部材18が縮められる。さらにクラッチ22を開放してブレーキ24により伝達シャフト26を固定することで、弾性部材18は出力シャフト14に弾性エネルギーを伝達する。その結果、入力シャフト12から出力シャフト14に駆動力が伝達される。
【0060】
なお、上述の実施形態では、入力シャフト12の回転速度が出力シャフト14の回転速度よりも速い場合の駆動伝達の例を挙げていたが、この形態に限らない。例えば、本実施形態に係る駆動力伝達装置10は、入力シャフト12の回転速度が出力シャフト14の回転速度よりも遅い場合に駆動伝達を行うこともできる。
図14,15は、入力シャフト12の回転速度が出力シャフト14の回転速度よりも遅いときの駆動力伝達のタイムチャートが示されている。
図14では、振動子20の加速中(ばねの伸び<自然長)に、クラッチ22の係合/開放を行い、また振動子20の減速中(ばねの伸び>自然長)に、ブレーキ24による固定/開放を行っている。
図15では、振動子20の加速中に、クラッチ22の係合/開放を行い、また振動子20の加速中に、ブレーキ24による固定を行い、さらに、振動子20の加速中にブレーキ24の開放を行っている。
【0061】
また、上述の実施形態では、出力シャフト14に弾性部材18及び振動子20を設けていたが、この形態に限らない。
図16,17は、出力シャフト14に代えて、入力シャフト12に弾性部材18及び振動子20を設けたときの駆動力伝達のタイムチャートが示されている。
図16,17では、入力シャフト12の回転速度が出力シャフト14の回転速度より速い例が示されている。
図16では、振動子20の加速中に、クラッチ22の係合/開放を行い、また振動子20の減速中に、ブレーキ24による固定/開放を行っている。
図17では、振動子20の加速中に、クラッチ22の係合/開放を行い、また振動子20の減速中に、ブレーキ24による固定を行い、さらに、振動子20の加速中にブレーキ24の開放を行っている。
【0062】
図18及び
図19には、本実施形態に係る駆動力伝達装置10の動力伝達の別例が示されている。この例では、入力シャフト12と出力シャフト14とが互いに逆方向に回転している場合の動力伝達の例が示されている。
【0063】
図18には動力伝達装置10のタイミングチャートが示されている。上段のグラフは入力シャフト12、振動子20、及び出力シャフト14の角速度の推移が示されている。縦軸は角速度を表し、横軸は時間を表している。この図に示されているように、入力シャフト12と出力シャフト14は速度0のラインを跨いでおり、両者が逆回転していることが理解される。
【0064】
同図中段のグラフは、出力シャフト14のトルクと弾性部材18の伸びを示したものである。縦軸は弾性部材18の振動変位を表している。なお、この振動変位にばね定数を掛けることで出力シャフト14の出力トルクとなる。横軸は、上段のグラフと同期した時間を表している。
【0065】
また、同図下段のグラフは、伝達部材16のクラッチ22及びブレーキ24の係合タイミング(ロックアップタイミング)が示されている。縦軸は係合の割合を示すものであり、0が開放、1(=100%)が完全係合の状態を表している。横軸は上段及び中段のグラフと同期した時間を表している。
【0066】
図19には、
図18の上段のグラフから、伝達部材16の動力伝達の1周期分を抜き出したグラフが拡大されている。振動子20の絶対速度(弾性部材18の振動+出力シャフト14の回転)が0の時点となる時刻t11を起点とする。弾性部材18が縮むことで振動子20は入力シャフト12(第1回転軸)と同一方向に移動する。時刻t12において弾性部材18が自然長(振動子20の振幅速度成分が最大値となるときの弾性部材18の長さ)となり、更に弾性部材18が縮むことで減速する振動子20の絶対速度が、時刻t13で入力シャフト12の回転速度が等しくなる。このとき、振動子20と入力シャフト12とがクラッチ22により係合される(第1状態)。両者の相対速度は0であるから、理論上すべりは発生しない。
【0067】
振動子20と入力シャフト12が係合されると、入力シャフト12と出力シャフト14(第2回転軸)が逆回転しているため、両シャフト12,14のトルクによって、自然長よりも縮んだ状態の、言い換えると、出力シャフト14の回転方向とは逆方向に当該出力シャフト14を付勢可能な状態の弾性部材18が更に縮められる。つまり、入力シャフト12及び出力シャフト14の付勢によって弾性部材18に弾性エネルギーが蓄積される(時刻t13〜t14)。
【0068】
時刻t14にてクラッチ22による係合が開放されると(第2状態)、振動子20はさらに縮んで時刻t15において出力シャフト14と等速度となる。つまり弾性部材18が縮み切って振動子20の振動速度が0になる。その後、弾性部材18の伸張運動により、振動子20は入力シャフト12とは逆方向に(出力シャフト14とは順方向に)移動させられる。時刻t16において弾性部材18が自然長となり、さらに弾性部材18が伸びる方向、つまり出力シャフト14の回転方向に振動子20が移動させられる。
【0069】
時刻t17において振動子20の絶対速度が0になると、振動子20はブレーキ24を介してケースなどの固定部材(非回転部材)に係合される(第3状態)。両者(振動子20とケース)の相対速度は0であるから、理論上すべりは発生しない。
【0070】
このとき、自然長を越えて伸びた、言い換えると、出力シャフト14の回転方向に当該出力シャフト14を付勢可能となった弾性部材18が、出力シャフト14を引き寄せるように縮む(時刻t17〜t18)。引き寄せる方向は出力シャフト14の回転方向と同一であるから、弾性部材18の弾性エネルギーが出力シャフト14の回転方向と順方向のトルクとなって出力シャフト14を付勢する。言い換えると、弾性部材18の弾性エネルギーが出力シャフト14に放出される。弾性エネルギーの放出後、ブレーキ24による係合が解除され(第4状態)時刻t11(=t18)と同様の動作に移行する。
【0071】
このように、本実施形態においては、時刻t13〜t14にて入力シャフト12及び出力シャフト14から弾性部材18に付勢することで、弾性部材18に弾性エネルギーを蓄積させる。さらに、出力シャフト14から伝達されたトルクの少なくとも一部を、時刻t17〜t18にて弾性部材18から出力シャフト14に戻している。言い換えると、本実施形態では、弾性部材18の弾性エネルギーと出力シャフト14のトルクとのエネルギー伝達の相殺を介して、入力シャフト12から出力シャフト14へのトルク伝達が行われる。
【0072】
なお、
図18及び19の実施形態におけるクラッチ22やブレーキ24の係合タイミングは、振動子20の絶対速度と入力シャフト12の回転速度が完全に一致した時点や、振動子20の絶対速度が完全に0になった時点に限らなくてもよく、すべりによる損失が入出力されるエネルギーから見て無視できる程度のものであればよい。例えば、一方の速度が他方の速度の80%以上120%以下であるときに、両者を係合させるようにしてもよい。