【実施例】
【0017】
(実施例1〜7)
爆砕工程および成形工程に続き、加熱工程を経てバイオマス固体燃料を得た。各実施例における加熱工程ではφ600mm電気式バッチ炉にそれぞれの原料を4kg投入し、2℃/minの昇温速度で各実施例における目標温度(表1における加熱温度)まで昇温させ、加熱した。表1における加熱時間は、昇温開始から目標温度到達までの時間を示す。以下、目標温度と加熱温度は同一のものを指す。実施例1〜3、および5〜7の加熱工程における加熱温度と、加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料の性状を表1に示す。
【0018】
(比較例1〜3)
比較例1〜3は爆砕や加熱等の工程を経ていない生のバイオマスである。なお比較例3のPKSとはパームカーネルシェル(椰子の果実の種子から核油を搾油した後の殻)である。比較例1〜3の生のバイオバスの性状を表1に示す。
【0019】
(比較例4)
比較例4は、上記爆砕工程および成型工程を経た直後の、加熱前のバイオマス固体燃料である。比較例4の加熱前のバイオマス固体燃料の性状を表1に示す。
【0020】
表1において、粉砕性指数(HGI)はJIS M 8801に基づくものであり、高いほど粉砕性が良好であることを示す。また、表1には高位発熱量、工業分析値(気乾ベース)に基づき算出された燃料比、および元素分析の結果とこれに基づき得られた酸素O、炭素C、水素Hのモル比をそれぞれ示す。なお表1における工業分析値、元素分析値、発熱量はJIS M 8812、8813、8814に基づく。
【0021】
【表1】
【0022】
上記実施例および比較例で得られた各バイオマス個体燃料について、さらに下記の分析を行った。
【0023】
[COD低減]
図1は加熱工程における加熱温度と、得られたバイオマス固体燃料を水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)の相関を示すものである。COD測定用浸漬水試料の調製は、昭和48年環境庁告示第13号(イ)産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法に従い、CODはJIS K0102(2010)−17によって分析した。
【0024】
図1には記載しないが、比較例2のCODは270ppm、比較例3のCODは29ppmである。なお
図1から、比較例4(爆砕後、加熱工程を経ていないバイオマス固体燃料)のCODは3500ppm以上と高い値となっている。これに対し、170℃以上で加熱されたバイオマス固体燃料はCODが3000ppm以下となり、タール分の溶出が低いことが示された。したがって、実施例1〜7のバイオマス固体燃料は、屋外貯蔵時においてもタール分の溶出が少なくハンドリング性に優れた燃料であることが示されている。とりわけ、加熱温度が230℃以上となる実施例3以降では、爆砕工程や加熱工程を経ていない生のバイオマス(比較例2、比較例3)と同等のCODとなり、貯蔵時における環境への影響がほとんどないことが示される。
【0025】
[粉砕性]
図2は加熱工程における加熱温度と、得られたバイオマス固体燃料の粉砕性(HGI)、および粉砕速度(後述)の相関を、比較例4および実施例1〜7のバイオマス固体燃料について示す図である。なお、
図2以降では加熱工程における加熱温度を240℃とした例を実施例4として示す。
【0026】
表1、また
図2から明らかなとおり、実施例1〜7では加熱により性状が変化し、比較例1〜3(生のバイオマス)、および比較例4(加熱前のバイオマス固体燃料)よりもHGI(JIS M 8801に基づく)の値が上昇している。一般的な石炭(瀝青炭)のHGIは50前後であり、実施例1〜7の粉砕特性は石炭に近接した良好なものといえる。
【0027】
また
図2における粉砕速度とは、試料を700ccボールミルで粉砕後に150μm篩を通過したものを粉砕後の試料として重量を測定することで、単位時間当たりの粉砕重量(g/min)を測定したものである。加熱により粉砕速度が向上し、特に230℃以上での加熱により粉砕速度が急上昇している。加熱に伴うタール等有機成分の溶出・固化により、バイオマス固体燃料の硬度が上昇し、粉砕効率が向上したものと言える。
【0028】
[水中浸漬]
図3はバイオマス固体燃料の水中浸漬試験結果である。各実施例および比較例の固体燃料を水中に浸し、所定時間経過後に取り出して水分を拭き取って固体水分を測定した。実施例3のバイオマス固体燃料では水分15%前後でそれ以上の吸水が起こらず、平衡となった。実施例4〜実施例7は196時間経過後でも平衡には達していないものの、実施例3における平衡水分15%以下で平衡に達するものと推定される。また、比較例4(加熱前のバイオマス固体燃料)は約20日経過後に水分25wt%で平衡となった(不図示)。これらの結果は、加熱に伴うタール等有機成分の溶出・固化により、バイオマス固体燃料の表面が疎水性に変化したためと考えられ、屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示している。
【0029】
[固体強度]
表2は固体強度(JIS Z 8841 回転強度試験方法に基づく)の測定結果である。加熱した場合、水中浸漬(比較例4は水中浸漬時間96時間、それ以外は192時間)した場合であっても固体強度はほとんど低下しておらず、比較例4(未加熱のバイオマス固体燃料)と比べても粉化が発生しにくく、ハンドリング性を維持できるものと言える。
【0030】
【表2】
【0031】
[収率]
図4は加熱工程を経た後のバイオマス固体燃料の収率である。なお各実施例の目標温度(加熱温度)における保持は行っていない。280℃以上で加熱した場合は収率減少の傾きが大きくなっている。
【0032】
[熱重量分析]
図5はバイオマス固体燃料の熱重量分析である。熱重量分析装置((株)リガク製、品番TG8110)を用いて
図5の各実施例に相当する温度まで昇温し、60min保持した。実施例3(230℃)では保持による重量減少はほとんど見られず、実施例5(260℃)では温度保持による重量減少が多少見られるものの大きくは減少しないことが示される。これに対し実施例7(300℃)では温度保持により大きく重量が減少していることが示される。
【0033】
なお、
図4における実施例7の収率は約68%であり、
図5における実施例7の保持時間10min時点(加熱開始から70min時点)における重量とほぼ同一である。これは、
図4の収率を求める際に600φ電気式バッチ炉を冷却した後、固体燃料を取り出して収率を求めているため、冷却時に電気式バッチ炉の熱容量によって熱分解が進行しているためと考えられる。したがって、実施例7のバイオマス固体燃料は300℃において10minの温度保持を行ったものと同視できる。
【0034】
これに対し、実施例3(230℃)および実施例5(260℃)でも温度保持により重量は減少するものの、その減少は緩やかであるため、
図4の収率と
図5における温度保持時間ゼロの時点での重量がほぼ一致する結果になっているものと推察される。したがって、実施例3,5のバイオマス固体燃料は実質的に温度保持時間がゼロと評価することができる。上述のように実施例3,5においてもCOD低減、粉砕性向上、固体強度確保の効果が得られており、製造コスト低減のために温度保持時間ゼロとしても、これらの効果が得られることが示される。
【0035】
なお本実施例ではバッチ炉を用いているが、連続炉を用いてもよい。本発明ではバッチ炉を用いた際の温度保持時間を低減できるため、連続炉を用いる場合は炉内滞留時間を短縮できる。
【0036】
以上の実施例1〜7の結果から、本発明によるとCODの低減、粉砕性向上、吸水低減、固体強度向上、収率向上を図ったバイオマス固体燃料を、低コストで得ることができることが示された。