特許第6319104号(P6319104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6319104
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】ポリアリレート及びそれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20180423BHJP
   C08G 63/193 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   C08J5/18
   C08G63/193
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-558562(P2014-558562)
(86)(22)【出願日】2014年1月21日
(86)【国際出願番号】JP2014051035
(87)【国際公開番号】WO2014115694
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2016年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-11111(P2013-11111)
(32)【優先日】2013年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-11116(P2013-11116)
(32)【優先日】2013年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】小川 典慶
(72)【発明者】
【氏名】片桐 寛夫
(72)【発明者】
【氏名】杉山 源希
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−086604(JP,A)
【文献】 特開2008−293006(JP,A)
【文献】 特開2000−302853(JP,A)
【文献】 特開昭60−203632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−64/42
C08J 5/00− 5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分から得られるポリアリレートを成形してなる成形品からなる、フラットパネルディスプレイ用構成材として使用されるフィルムであって、前記ポリアリレートが、全使用二価フェノールに対して、下記構造式で表される化合物からなる群より選択される1以上の二価フェノールの割合が50mol%以上であり、かつ鉛筆硬度が2H以上であることを特徴とするフィルム
【化1】
【請求項2】
前記ポリアリレートにおける、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定されたポリスチレン換算重量平均分子量が2万以上15万未満である請求項1記載のフィルム
【請求項3】
前記フィルムの厚さが5〜200μmである請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記フィルムが湿式成形または押出成形にて成形された請求項1から3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
モバイル端末ディスプレイ用構成材として使用される請求項1から4のいずれかに記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い鉛筆硬度を有するポリアリレートおよびその成形品に関わり、耐傷性が求められる用途、特にフラットパネルディスプレイ構成材料として好適なフィルムに関する。また、本発明は、溶融流動性が高いポリアリレートとそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略 )とテレフタル酸及びイソフタル酸類から誘導された非晶性ポリアリレートは、エンジニアリングプラスチックとして知られている。かかるポリアリレートは耐熱性が高く、衝撃強度に代表される機械的強度や寸法安定性に優れ、加えて非晶性で透明であるために、その成形品は電気・電子、自動車、機械などの分野に幅広く応用されている。
【0003】
近年、携帯電話、携帯ゲーム機、スマートフォン、電子ブックリーダー等のモバイル分野で使用される液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーのようなフラットパネルディスプレイは、指先を画面に直接接触させることで操作することを前提に設計されており、操作時の爪による引っ掻きや可搬時の他物品との接触により、傷が生じる可能性があった。そのため、当初は高硬度のガラス板によるディスプレイ部材が主流であったが、不意の落下や時に受ける衝撃、揺れ、捻れ等により破損しやすく、また強度を増すには厚くなるため重くなる欠点があった。そのため、透明樹脂であるアクリル樹脂やハードコートを施したポリカーボネート樹脂がガラス代替として用いられている。(特許文献1)
【0004】
しかしながら、同様の透明性を有するポリアリレート樹脂に関しては、様々なポリアリレートが開発されているものの、耐傷性が必ずしも満足するものではなく、改善の余地があった。(特許文献2)
【0005】
また、耐熱性に優れる反面、高温でないと溶融流動性が発現せず、射出成形では、350℃以上の高温で成形せざるを得なかった。そのため、ポリアリレートに添加される各種離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料が分解し、金型に堆積したり、樹脂中に気泡状欠陥を生じさせることがあり、メンテナンス性や歩留まりを改善する余地があった。
【0006】
一方、ポリアリレートの分子末端を変性することで、ポリアミドとの相溶性改善や耐候性の改善している事例があったが、ポリアリレート単体の加熱溶融成形時の流動性改善について記載されていない。(特許文献3、特許文献4)さらには、分子末端に長鎖フルオロアルキル基を有するポリアリレートを使用し、電子写真感光体のトナークリーニング性を改善する事例があったが、湿式成形の事例であり熱溶融成形時の流動性改善についての記載はなく、またフッ素化合物は高価なため安価な材料で流動性改善の必要性があった。(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−255521号公報
【特許文献2】特開平11−302364号公報
【特許文献3】特開平6−107778号公報
【特許文献4】特開平6−184287号公報
【特許文献5】特開平9−73183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い鉛筆硬度を有し、耐傷性にすぐれたポリアリレートおよびそれを用いた成形品、フィルムを提供することを課題とする。更に、本発明は、従来より低温で高い流動性を示すポリアリレートおよびそれを用いた成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する二価フェノールから誘導されたポリアリレートからなる成形品が高い鉛筆硬度を有し、耐傷性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。更に、特定の分子末端構造を有するポリアリレートが、低温で高い流動性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すポリアリレート及びそれを用いた成形品に関する。
<1> 二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分から得られるポリアリレートであって、二価フェノール成分として、下記一般式(A)または(B)で表される化合物を主原料とし、かつ鉛筆硬度がH以上であることを特徴とするポリアリレートである。
【化1】
(式中、RおよびRは、各々独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基を表す。ただし、RおよびRのどちらもメチル基を表すことはない。)
【化2】
(式中、RおよびRは、各々独立に水素原子、またはメチル基を表す。また、aは4〜11の整数を表す。ただし、RおよびRがそれぞれ水素原子である場合は、aは5ではない。)
<2> 前記二価フェノール成分が、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、および1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタンからなる群から選ばれた1種以上である上記<1>記載のポリアリレートである。
<3> ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定されたポリスチレン換算重量平均分子量が2万以上15万未満である上記<1>または<2>記載のポリアリレートである。
<4> 上記<1>〜<3>のいずれかに記載のポリアリレートを成形してなる成形品である。
<5> 上記<4>記載の成形品からなるフィルムである。
<6> 厚さが5〜200μmである上記<5>記載のフィルムである。
<7> 湿式成形または押出成形にて成形された上記<5>または<6>記載のフィルムである。
<8> フラットパネルディスプレイ用構成材として使用される上記<5>〜<7>のいずれかに記載のフィルムである。
<9> モバイル端末ディスプレイ用構成材として使用される上記<8>に記載のフィルムである。
<10> 二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分から得られるポリアリレートであって、該ポリアリレートの分子末端に一般式(C)で表される化合物が用いられ、かつQ値(高架式フローテスターで温度280℃、圧力15.69MPa、直径1mm×長さ10mmのノズル穴より流出する溶融樹脂量)が1×10−2cm/秒以上であることを特徴とするポリアリレートである。
【化3】
(式中、Yは、水酸基または酸クロライドを表す。nは1〜3の整数を表す。Xは
【化4】
であり、R5は各々分岐してもよい炭素数5〜20のアルキル基を表す。)
<11> 前記一般式(C)で表される化合物が、オルソ−t−アミルフェノール、パラ−t−オクチルフェノール、パラノニルフェノール、パラドデシルフェノール、2,4−ジ−t−アミルフェノール、および4−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシルからなる群から選ばれた1種以上である上記<10>記載のポリアリレートである。
<12> 前記二価フェノール成分がビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、および1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選ばれた1種以上である上記<10>または<11>記載のポリアリレートである。
<13> ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定されたポリスチレン換算重量平均分子量が2万以上8万未満である上記<10>〜<12>のいずれかに記載のポリアリレートである。
<14> 上記<10>〜<13>のいずれかに記載のポリアリレートを成形してなる成形品である。
<15> 射出成形によって成形される上記<14>記載の成形品である。
<16> 押出成形によって成形される上記<14>記載の成形品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉛筆硬度が高いポリアリレートおよびそれを用いた成形品が得られ、特に耐傷性に優れたフィルムが得られる。また、本発明によれば、従来より低温で高い流動性が得られるポリアリレートおよびそれを用いた成形品が得られる。さらに、射出成形時の金型汚染が抑制され、メンテナンス性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第1実施形態を詳細に説明する。
本発明の第1実施形態は、二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分から得られるポリアリレートであって、二価フェノール成分として、下記一般式(A)または(B)で表される化合物を主原料とし、かつ鉛筆硬度がH以上であることを特徴とするポリアリレートである。
【化5】
(式中、RおよびRは、各々独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基を表す。ただし、RおよびRのどちらもメチル基を表すことはない。)
【化6】
(式中、RおよびRは、各々独立に水素原子、またはメチル基を表す。また、aは4〜11の整数を表す。ただし、RおよびRがそれぞれ水素原子である場合は、aは5ではない。)
【0013】
本発明の第1実施形態におけるポリアリレートとは、二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分から得られるポリアリレートであって、具体的にはビスフェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成されている芳香族ポリエステルである。その製造方法としては界面重合法、溶液重合法、溶融重合法などが公知である。この中で界面重合法で製造されたポリアリレート樹脂は良好な色調と物性を有しているため好ましい。
【0014】
本発明の第1実施形態において、一般式(A)で表される二価フェノールは、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−2−メチルプロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フェニルメタンなどが例示される。これらは、2種類以上併用して用いてもよい。また、これらの中でも特に1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタンが好ましい。
【0015】
本発明の第1実施形態において、一般式(B)で表される二価フェノールは、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロオクタンなどが例示される。これらは、2種類以上併用して用いてもよい。また、これらの中でも特に1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカンが好ましい。
【0016】
本発明の第1実施形態におけるポリアリレートは、一般式(A)または一般式(B)で表される二価フェノールを主成分とするものであり、具体的には全使用二価フェノールに対して、一般式(A)または一般式(B)で表される二価フェノールの割合が50mol%以上であり、より好ましくは70mol%以上である。
【0017】
前記主成分である一般式(A)または一般式(B)で表される二価フェノール以外に使用可能な二価フェノールとして、具体的には2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン=(ビスフェノールA)、1,1’−ビフェニル−4,4’−ジオール、1,1’−ビフェニル−3,3’−ジメチル−4,4’−ジオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、α,ω−ビス[2−(p−ヒドロキシフェニル)エチル]ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノールなどが例示される。これらは、2種類以上併用して用いてもよい。また、これらの中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、ビスフェノールAが好ましい。
【0018】
また、本発明の第1実施形態におけるポリアリレートを構成する芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、3−tert−ブチルイソフタル酸、ジフェン酸、4,4’−ジカルボン酸およびそれらの酸クロライド等が挙げられる。これらの2価のジカルボン酸は、単独で用いることもできるし、2種類以上を併用することも可能である。特に好適に用いることのできる芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸とイソフタル酸およびそれらの酸クロライドである。
【0019】
本発明の第1実施形態におけるポリアリレートを界面重合法により製造する場合は、前記二価フェノール類、アルカリ、重合触媒を溶解した水相と、芳香族ジカルボン酸成分を溶解した有機相とを混合し、攪拌しながら界面重縮合反応を行うことによって、ポリアリレートを得ることができる。
【0020】
その場合の、重合触媒は、第4級アンモニウム塩であることが好ましく、具体的には、トリn−ブチルベンジルアンモニウムクロライド、トリn−ブチルベンジルアンモニウムブロマイド、トリn−ブチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリn−ブチルベンジルアンモニウムハイドロジェンサルフェート、テトラn−ブチルアンモニウムクロライド、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラn−ブチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラn−ブチルアンモニウムハイドロジェンサルフェ−トが挙げられる。
【0021】
水相に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。
【0022】
有機相に用いる溶媒としては、水と相溶せず、かつ、生成するポリアリレート樹脂を溶解するような溶媒が用いられ、具体的には、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系炭化水素などが挙げられる。
【0023】
なお、本発明の第1実施形態におけるポリアリレートの分子量を調節するために、重合時に末端停止剤を使用することができる。末端停止剤の例として、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノール等の1価のフェノール類、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメート等の1価の酸クロライド等が挙げられる。また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノール、トリスフェノールエタンなど分岐化剤を少量添加してもよい。
【0024】
本発明の第1実施形態におけるポリアリレートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と略称)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は2万以上15万未満であることが好ましい。また、ポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は0.4万以上8万未満が好ましい。
【0025】
本発明の第1実施形態におけるポリアリレートは、湿式成形、押出成形、ブロー成形、射出成形等公知の方法で成形することが可能であり、さらに湿式成形または押出成形によりフィルムに成形することが可能である。
【0026】
本発明の第1実施形態におけるポリアリレートから得られるフィルムは、5〜200μm厚の範囲であることが好ましい。5μm以上とすることで必要な強度を保ち、200μm以下とすることにより、厚み方向の屈曲率半径差に起因する耐屈曲性の悪化を防ぐことができる。より好ましくは15〜120μmの範囲である。
【0027】
本発明の第1実施形態におけるポリアリレートは、物性を阻害しない範囲で、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良い。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、難燃剤、着色剤などが挙げられる。
【0028】
本発明の第1実施形態におけるポリアリレートを用いた成形品は、鉛筆硬度でH以上の高い硬度を有する。さらに、耐傷性を有するには鉛筆硬度2H以上のものが好ましい。
【0029】
次に、本発明の第2実施形態を詳細に説明する。
本発明の第2実施形態は、二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分から得られるポリアリレートであって、該ポリアリレートの分子末端に一般式(C)で表される化合物が用いられ、かつQ値(高架式フローテスターで温度280℃、圧力15.69MPa、直径1mm×長さ10mmのノズル穴より流出する溶融樹脂量)が1×10−2cm/秒以上であることを特徴とするポリアリレートである。
【化7】
(式中、Yは、水酸基または酸クロライドを表す。nは1〜3の整数を表す。Xは
【化8】
であり、R5は各々分岐してもよい炭素数5〜20のアルキル基を表す。)
【0030】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートとは、二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分から得られるポリアリレートであって、分子末端に長鎖アルキル基を有するものである。具体的にはビスフェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成されている芳香族ポリエステルであり、その製造方法としては界面重合法、溶液重合法、溶融重合法などが公知である。この中で界面重合法で製造されたポリアリレート樹脂は良好な色調と物性を有しているため好ましい。
【0031】
本発明の第2実施形態において、一般式(C)で表される化合物としては、オルソ−t−アミルフェノール、パラ−t−アミルフェノール、パラヘキシルフェノール、パラ−t−オクチルフェノール、パラノニルフェノール、パラドデシルフェノール、2,4−ジーt−アミルフェノールなどのモノフェノール類;4−ヒドロキシ安息香酸−n−ペンチル、4−ヒドロキシ安息香酸−n−ヘキシル、4−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシル、4−ヒドロキシ安息香酸−n−オクチル、4−ヒドロキシ安息香酸−n−ノニル、4−ヒドロキシ安息香酸−n−ドデシル、4−ヒドロキシ安息香酸−n−ステアリルなどのモノヒドロキシ安息香酸類;4−n−ペンチルベンゾイルクロライド、4−n−ヘキシルベンゾイルクロライド、4−2−エチルヘキシルベンゾイルクロライド、4−n−オクチルベンゾイルクロライド、4−n−ノニルベンゾイルクロライド、4−n−ドデシルベンゾイルクロライド、4−n−ステアリルベンゾイルクロライドなどの酸クロライド類が例示される。これらは、2種類以上併用して用いてもよい。中でも、オルソ−t−アミルフェノール、パラ−t−オクチルフェノール、パラノニルフェノール、パラドデシルフェノール、2,4−ジーt−アミルフェノール、4−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシルが好ましい。
【0032】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートに使用可能な二価フェノールとして、具体的には2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン=(ビスフェノールA)、1,1’−ビフェニル−4,4’−ジオール、1,1’−ビフェニル−3,3’−ジメチル−4,4’−ジオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、α,ω−ビス[2−(p−ヒドロキシフェニル)エチル]ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、4,4’−[1,4フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−sec−ブチルフェニル)プロパンなどが示される。これらは、2種類以上併用して用いてもよい。また、これらの中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサンが好ましい。
【0033】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートでは、一般式(C)で表される化合物は前記二価フェノールに対して、具体的には全使用二価フェノールに対して、一般式(C)化合物の割合がモル比で50:1〜5:1(全使用二価フェノール:一般式(C)化合物)の範囲あることが好ましい。その範囲において、特に射出成形での流動性と機械的強度を両立することが可能である。より好ましくは、25:1〜7:1の範囲である。
【0034】
また、本発明の第2実施形態におけるポリアリレートを構成する芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、3−tert−ブチルイソフタル酸、ジフェン酸、4,4’−ジカルボン酸およびそれらの酸クロライド等が挙げられる。これらの2価のジカルボン酸は、単独で用いることもできるし、2種類以上を併用することも可能である。特に好適に用いることのできる芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸とイソフタル酸およびそれらの酸クロライドである。
【0035】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートを界面重合法により製造する場合は、前記二価フェノール類、一般式(C)で表される化合物、アルカリ、重合触媒を溶解した水相と、芳香族ジカルボン酸成分を溶解した有機相とを混合し、攪拌しながら界面重縮合反応を行うことによって、ポリアリレートを得ることができる。
【0036】
その場合の、重合触媒は、第4級アンモニウム塩であることが好ましく、具体的には、トリn−ブチルベンジルアンモニウムクロライド、トリn−ブチルベンジルアンモニウムブロマイド、トリn−ブチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリn−ブチルベンジルアンモニウムハイドロジェンサルフェート、テトラn−ブチルアンモニウムクロライド、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラn−ブチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラn−ブチルアンモニウムハイドロジェンサルフェ−トが挙げられる。
【0037】
水相に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。
【0038】
有機相に用いる溶媒としては、水と相溶せず、かつ、生成するポリアリレート樹脂を溶解するような溶媒が用いられ、具体的には、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系炭化水素などが挙げられる。
【0039】
なお、本発明の第2実施形態におけるポリアリレートの分子量を調節するために、末端停止剤として一般式(C)で表される化合物を使用するが、それ以外の末端停止剤を、かかる性能を保持する範囲で併用することも可能である。例として、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、4−ヒドロキシ安息香酸メチル、4−ヒドロキシ安息香酸−n−ブチル、塩化ベンゾイル等の1価のフェノール類、ヒドロキシ安息香酸、酸クロライド等が挙げられる。これらを併用する場合でも一般式(C)で表される化合物の50mol%未満の使用が好ましい。また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノール、トリスフェノールエタンなど分岐化剤を少量添加してもよい。
【0040】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と略称)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は2万以上8万未満であることが好ましい。また、ポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は0.4万以上4万未満が好ましい。
【0041】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートは、湿式成形、押出成形、ブロー成形、射出成形等公知の方法で成形することが可能であるが、押出成形または射出成形が好ましく、さらには射出成形が好ましい。
【0042】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートを用いて射出成形する場合は、必要とされる安定性や離型性を確保するため、所望に応じて、ヒンダードフェノール系やホスファイト系酸化防止剤;シリコン系、脂肪酸エステル系、脂肪酸系、脂肪酸グリセライド系、密ろう等天然油脂などの滑剤や離型剤;ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ジベンゾイルメタン系、サリチレート系等の紫外線吸収剤や光安定剤;ポリアルキレングリコール、脂肪酸グリセライド等帯電防止剤などを適宜併用してもよく、さらにはコスト等から一般のポリカーボネートと性能を損なわない範囲で任意に混合して使用する事も可能である。
【0043】
離型剤としては、具体的にはステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ブチルステアレート、ベヘニルベヘネート、エチレングリコールモステアレート、ステアリン酸モノグリセライド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ビーズワックス、オレイン酸モノグリセライド、モンタン酸エステル、ラウリン酸ソルビタンエステル、ポリエチレンワックス、シリコンオイル等の離型剤が挙げられる。中でも、ステアリン酸モノグリセライドが好ましい。
【0044】
酸化防止剤としては、具体的にはトリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)スピロペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリフェニルホスファイト、ジステアリルチオジプロピオネート、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト等の酸化防止剤(安定剤)等が挙げられる。中でもサイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0045】
帯電防止剤としては、具体的にはアルキルベンゼンスルホネート、ラウリルアルコール硫酸エステル、ノニルフェノール酸化エチレン、アクリル酸エステル、ポリビニルスルホン酸、ポリエチレングリコール、1−ヒドロキシエチル−2−アルキルイミダゾリン、アジピン酸ブチル、ポリアクリル酸等が挙げられる。
【0046】
紫外線吸収剤としては、具体的にはフェニルサリチレート、p−t−ブチルフェニルサリチレート、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジノニルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ベンゾトリアゾリルフェノール)等が挙げられる。
【0047】
さらには、ペリレン系、ペリノン系、アンスラキノン系、複素環系等の染料を添加することも可能である。
【0048】
前記酸化防止剤や離型剤等の添加剤は2種類以上併用することも可能である。使用目的等にもよるが、物性に影響を与えない範囲で添加され、ポリアリレートに対して2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下の添加量である。
【0049】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートを射出成形する場合の成形温度は、流動性の観点と金型汚染性の抑制の観点から280〜330℃が好ましい。さらには290〜320℃が好ましい。
【0050】
本発明の第2実施形態におけるポリアリレートは、射出成形に必要な流動性が、従来のポリアリレートに比べ大幅に低くなっており、加熱溶融時の流動性の目安となるQ値(高架式フローテスターで温度280℃、圧力15.69MPa、直径1mm×長さ10mmのノズル穴より流出する溶融樹脂量)が1×10−2cm/秒以上である。さらに好ましくは、2×10−2cm/秒以上であり、上限は、90×10−2cm/秒程度である。
【実施例】
【0051】
以下に本発明の第1実施形態の実施例を比較例と共に示し、発明の内容を詳細に示すが、本発明の第1実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
<GPC条件>
Waters社製アライアンスHPLCシステム、
昭和電工株式会社製Shodex805Lカラム2本、
0.25w/v%クロロホルム溶液サンプル、1ml/分クロロホルム溶離液、
254nmのUV検出の条件で測定。
ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。
【0053】
<鉛筆硬度試験>
ガラス基板上に形成された本発明のポリアリレートフィルムをJIS K5600−5−4に基づく鉛筆硬度試験により硬度測定を行った。
【0054】
<実施例A1>
5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液2.3リットルに、ハイドロサルファイト0.5gと下記構造式で表される1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン(本州化学工業株式会社製、以下「OCAP」と略)318g(1mol)を溶解し、重合触媒としてトリn−ブチルベンジルアンモニウムクロライド2.1gを加え、さらにテレフタル酸クロライド/イソフタル酸クロライド=1/1混合物(東京化成工業製株式会社製)205gとp−ターシャリーブチルフェノール(DIC株式会社製、以下「PTBP」と略)6gを溶解した塩化メチレン溶液2.7リットルを加えて、約20℃で2時間界面重縮合反応を行った。反応終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、60℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
【化9】
【0055】
この重合体のGPC測定によって得られた分子量は、Mw=57700,Mn=18100であった。得られた重合体を赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1750cm−1付近の位置にカルボニル基またはエステル基による吸収、1220cm−1付近の位置にエーテル結合による吸収が認められ、エステル結合を有するポリアリレートであることが確認された。
【0056】
得られたポリアリレートを塩化メチレンに15質量%溶解し、ドクターブレードを用いてガラス基板上にキャストフィルムを作製し、乾燥後20μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムに対して鉛筆硬度試験を行った。
【0057】
<実施例A2>
OCAPを下記構造式で表される1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン(本州化学工業株式会社製、以下「OCZ」と略)296gに変更した以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=71400,Mn=18100のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例A1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【化10】
【0058】
<実施例A3>
OCAPを下記構造式で表される1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン(田岡化学工業株式会社製、以下「CD」と略)352gに変更した以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=64000,Mn=19400のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例A1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【化11】
【0059】
<実施例A4>
OCAPを190.8gに変更し、さらに下記構造式で表される1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン(田岡化学工業株式会社製、以下「OCCD」と略)76gとビスフェノールA(三菱化学株式会社製、以下「BPA」と略)45.6gを用いた以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=63100,Mn=19900のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【化12】
【0060】
<実施例A5>
OCAPを、CD281.6gと2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(本州化学工業株式会社製、以下「BPC」と略)51.2gに変更した以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=64700,Mn=20000のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例A1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【0061】
<実施例A6>
OCAPを222.6gに変更し、さらに1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(田岡化学工業株式会社製、以下「BPZ」と略)80.4gを用いた以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=57000,Mn=17800のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例A1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【0062】
<実施例A7>
5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液45リットルに、OCZを5.92kg(20mol)を溶解し、重合触媒としてトリn−ブチルベンジルアンモニウムクロライド42gを加え、さらにテレフタル酸クロライド/イソフタル酸クロライド=1/1混合物(東京化成工業製株式会社製)4.1kgとPTBP240gを溶解した塩化メチレン溶液55リットルを加えて、約20℃で2時間界面重縮合反応を行った。それ以外は実施例A1と同様中和、精製、固形化、乾燥を行い、Mw=37800,Mn=9770のポリアリレートを得た。
【0063】
このポリアリレートをベント付30mm単軸押出機(ムサシノキカイ株式会社製MK−30)にシリンダー温度320℃で導入し、フィードブロック型のTダイを経て、水平2本ロール(ロール温度:150℃)により除冷し、押出フィルム(約110μm厚)を得た。得られたフィルムをガラス板に載せ、実施例A1と同様鉛筆硬度試験を行った。
【0064】
<比較例A1>
OCAPをBPA228gに変更した以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=78300,Mn=24400のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例A1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【0065】
<比較例A2>
OCAPをBPZ268gに変更した以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=57700,Mn=11200のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例A1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【0066】
<比較例A3>
OCAPを1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(本州化学工業株式会社製、以下「BPAP」と略)290gに変更した以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=48600,Mn=15300のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例A1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【0067】
<比較例A4>
OCAPをBPC256gに変更した以外は、実施例A1と同様に行い、Mw=66800,Mn=17400のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例A1と同様に成形を行い、鉛筆硬度測定を行った。
【0068】
表1に、実施例A1〜A7、比較例A1〜A4の結果をまとめて示した。
【0069】
【表1】
【0070】
以下に本発明の第2実施形態の実施例を比較例と共に示し、発明の内容を詳細に示すが、本発明の第2実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
<GPC条件>
Waters社製アライアンスHPLCシステム、
昭和電工株式会社製Shodex805Lカラム2本、
0.25w/v%クロロホルム溶液サンプル、1ml/分クロロホルム溶離液、
254nmのUV検出の条件で測定。
ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。
【0072】
<流動性(Q値)測定条件>
高架式フローテスター(株式会社島津製作所製CFT−500D)を使用して、温度280℃、圧力15.69MPaで、直径1mm×長さ10mmのノズル穴(オリフィス)より流出する溶融樹脂量(単位:×10-2cm/秒)を測定した。
【0073】
<射出成形評価>
小型射出成形機((株)新興セルビック製C.Mobile)を用いて、射出圧を283MPa、射出速度を20mm/秒、ポリアリレートの樹脂温度を320℃、金型温度を100℃にし、樹脂温度320℃で成形できない場合は、樹脂温度を360℃、金型温度を150℃にし、厚さ1mmのJIS7号引張ダンベル片を射出成形した。
【0074】
<射出成形時金型汚染評価>
前記射出成形評価条件で、500ショット射出成形を繰り返した後、金型表面をウエスで拭き取り、付着物の有無を確認した。付着物が確認できなかった場合を○、付着物が確認できた場合を×で評価した。
【0075】
<実施例B1>
5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液2.3リットルに、ハイドロサルファイト0.5gとビスフェノールA(三菱化学株式会社製、以下「BPA」と略)228g(1mol)を溶解し、重合触媒としてトリn−ブチルベンジルアンモニウムクロライド2.1gを加え、さらにテレフタル酸クロライド/イソフタル酸クロライド=1/1混合物(東京化成工業製株式会社製)205gと下記構造式で表されるパラドデシルフェノール(油化スケネクタディー株式会社製、以下「PDP」と略)21.0gを溶解した塩化メチレン溶液2.7リットルを加えて、約20℃で2時間界面重縮合反応を行った。反応終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、60℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
【化13】
【0076】
この重合体のGPC測定によって得られた分子量は、Mw=38300,Mn=8940であった。得られた重合体を赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1750cm−1付近の位置にカルボニル基またはエステル基による吸収、1220cm−1付近の位置にエーテル結合による吸収が認められ、エステル結合を有するポリアリレートであることが確認された。
【0077】
得られたポリアリレートに離型剤としてステアリン酸モノグリセライド(花王株式会社製)を0.03質量%、ホスファイト系酸化防止剤サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト(株式会社ADEKA製、アデカスタブPEP−36)を0.03質量%添加、混合後、300℃、9.8MPa圧で5分間圧縮した固形物を粗粉砕し、Q値測定および320℃射出成形を行った。
【0078】
<実施例B2>
BPAの代わりに、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(本州化学工業株式会社製、以下「BPC」と略)256gと、PDPの代わりに下記構造式で表されるオルソ−t−アミルフェノール(油化スケネクタディー株式会社製、以下「OTAP」と略)13.1gを用いた以外は、実施例B1と同様に行い、Mw=33200、Mn=8880のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例B1と同様に成形評価を行った。
【化14】
【0079】
<実施例B3>
BPAの代わりに、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン(本州化学工業株式会社製、以下「OCZ」と略)296gと、PDPの代わりに下記構造式で表される2,4−ジ−t−アミルフェノール(油化スケネクタディー株式会社製、以下「DTAP」と略)18.7gを用いた以外は、実施例B1と同様に行い、Mw=37600、Mn=8960のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例B1と同様に成形評価を行った。
【化15】
【0080】
<実施例B4>
BPAの代わりに、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(本州化学工業株式会社製、以下「BPE」と略)214gと、PDPの代わりに下記構造式で表される4−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシル(上野製薬株式会社製、以下「POEH」と略)20.0gを用いた以外は、実施例B1と同様に行い、Mw=38900、Mn=10600のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例B1と同様に成形評価を行った。
【化16】
【0081】
<実施例B5>
BPAの代わりに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン(本州化学工業株式会社製、以下「MIBK」と略)270gと、PDPの代わりに下記構造式で表されるパラノニルフェノール(油化スケネクタディー株式会社製、以下「PNP」と略)17.6gを用いた以外は、実施例B1と同様に行い、Mw=36200、Mn=9920のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例B1と同様に成形評価を行った。
【化17】
【0082】
<実施例B6>
BPAの代わりに、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル(DIC株式会社製、以下「DHPE」と略)101gと4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール(三井ファインケミカル株式会社製、以下「BPM」と略)173gと、PDPの代わりに下記構造式で表されるパラ−t−オクチルフェノール(DIC株式会社製、以下「PTOP」と略)13.7gを用いた以外は、実施例B1と同様に行い、Mw=45900、Mn=12000のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例B1と同様に成形評価を行った。
【化18】
【0083】
<比較例B1>
PDPを下記構造式で表されるp−ターシャリーブチルフェノール(DIC株式会社製、以下「PTBP」と略)12gに変更した以外は、実施例B1と同様に行い、Mw=39600、Mn=12300のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例B1と同様に成形評価を行ったが、320℃では射出成形できなかったため、360℃条件で射出成形を行った。
【化19】
【0084】
<比較例B2>
POEHをPTBP12gに変更した以外は、実施例B4と同様に行い、Mw=39400,Mn=11100のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例1と同様に成形評価を行ったが、320℃では射出成形できなかったため、360℃条件で射出成形を行った。
【0085】
<比較例B3>
PDPをp−ターシャリーブチルフェノール(DIC株式会社製、以下「PTBP」と略)2.7gに変更した以外は、実施例B1と同様に行い、Mw=114000、Mn=22700のポリアリレートを得た。得られたポリアリレートは、実施例B1と同様に成形評価を行ったが、Q値測定はほとんど樹脂が流れず、時間に対する流出量の傾きがほとんど無かったため検出せず(ND)とした。また、320℃では射出成形できなかったため、360℃条件で射出成形を行ったが、360℃条件でも金型に樹脂を充填には至らず、500ショット射出成形は出来なかった。
【0086】
表2に、実施例B1〜B6、比較例B1〜B3の結果をまとめて示した。
【0087】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の活用例としては、耐傷性が求められる携帯機器用フラットパネルディスプレイやタッチパネルディスプレイの前面板等を提供することが可能である。本発明の活用例としては、従来のポリアリレートに比べ低温で射出成形可能であるため、省エネルギーであり、離型剤や添加剤の金型汚染も少なくメンテナンス性に貢献する。さらに、加熱溶融時に高流動性が求められる各種射出成形品、特にフラットパネルディスプレイの導光板や各種光学用レンズ、照明用カバー等に応用可能である。