(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)PPS多孔質体
本発明におけるPPS多孔質体は、表面に、多孔構造からなる多孔領域と、実質的に多孔構造を有しない無孔領域とを有するものである。
【0036】
ここで多孔領域とは、多孔質体の表面を観察した走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、空孔間距離が孔径の5倍以下で隣接する空孔が少なくとも3つ以上集合した多孔構造が外接する領域のことであり、具体的には
図1の1に示すように、空孔が多数存在する領域を指す。なお、空孔間距離とは、空孔の外周部と隣接する空孔の外周部との最短直線距離を指す。また、空孔とは孔径が10nm以上、かつ深さが孔径以上となる空隙を指す。さらに、実質的に多孔構造を有しない無孔領域とは、
図1の2に示されるような多孔領域以外の領域、すなわち空孔間距離が互いに5倍以上となる領域のことを指す。
【0037】
多孔領域はPPS多孔質体の外部から内部、あるいは内部から外部へ気体や液体などの流体を充填または透過させる際の流路としての機能を有する。一方、無孔領域はPPS多孔質体の引張、圧縮、曲げなどの機械強度を向上させる支持部としての機能を有する。そのため、表面に多孔領域と無孔領域を有するPPS多孔質体とすることで、機械強度と流体の透過性能を両立させることができる。
【0038】
本発明において、多孔領域の平均面積率が10〜80%であると機械特性と流体の透過性能を両立させることが可能になるため好ましい。多孔領域の平均面積率は20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。また、多孔領域の平均面積率は75%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。ここで多孔領域の平均面積率とは、倍率1,300倍の走査型電子顕微鏡でPPS多孔質体表面を観察した画像において、多孔領域の面積を(S)、表面全体の面積を(S’)としたときに下式により算出される多孔領域の面積率を、任意の10点において計測し、その平均値をとったものである。
【0039】
多孔領域の面積率(%)=(S)/(S’)×100
なお、空孔が表面に均一な頻度で存在する多孔質体の場合、すべて無孔領域(多孔領域の平均面積率0%)、またはすべて多孔領域(多孔領域の平均面積率100%)となるため、本発明のPPS多孔質体とは区別される。
【0040】
多孔領域の面積率が上記の範囲内であると機械特性が向上する理由については次のように推測する。すなわち、多孔領域の平均面積率が高い多孔質体では、引張、圧縮、曲げなどの外力が加わった際に空孔の枝部でクラックが発生し、それが起点となって構造全体が容易に破壊される。それに対し、多孔領域の平均面積率が低い多孔質体は、表面の無孔領域がPPS多孔質体全体の構造を保持する機能を有するため構造が破壊されにくくなる。そのため無孔領域が表面で連続していると機械強度が向上するため好ましい。ここで、無孔領域が表面で連続しているとは、走査型電子顕微鏡などで表面観察を行った場合に、
図1に示されるような、無孔領域を海成分、多孔領域を島成分とする海島構造や、層状のように一方向に無孔領域が連続する構造をいう。引張強度は50MPa以上が好ましい。
【0041】
本発明のPPS多孔質体の空孔率は10〜80%が好ましい。ここで空孔率とは、PPS多孔質体の体積に対する空孔部の体積分率のことであり、以下の式により求めることができる。
【0042】
空孔率(%)={(見かけの体積−実際の体積)/見かけの体積}×100
ここで、見かけの体積とは空孔を含めたPPS多孔質体全体の体積のことである。また、実際の体積とは、PPS多孔質体のうち樹脂成分が占有する体積のことであり、以下の式により求める。
【0043】
実際の体積=(PPS多孔質体の重量)/(PPSの比重)
PPS多孔質体の空孔率が上記好ましい範囲であると、流体が多孔質体を透過するときの圧力損失が小さくなり、透過性能を向上させることができる。また、物質の吸着や脱着効率を高めたり、他素材と複合化する際に充填効率を高めたりすることができる。一方、引張、圧縮、曲げなどの機械強度が損なわれることはない。空孔率は20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、空孔率は70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましい。
【0044】
また、延伸法により作製したPPS多孔質体は特定の方向に配向しているため、機械特性に異方性を有するが、本発明のPPS多孔質体は等方的な構造であるため、等方的に機械特性に優れる。
【0045】
本発明のPPS多孔質体の平均孔径は特に限定されないが、0.01〜1μmの範囲を例示することができる。ここで平均孔径はPPS多孔質体をクロスセクションポリッシャー法(CP法)により形成させた任意の断面10点を倍率10万倍の走査型電子顕微鏡で観察した際、各々の観察画像における空孔の直径を測定し、その平均値を平均孔径とする。
【0046】
本発明のPPS多孔質体は、PPS以外の樹脂成分や添加剤などの副成分が含有されていてもよい。ここで副成分はPPSと単に混合されていても、またPPSと化学結合で結合されていてもよい。副成分としてハロゲン原子を含む成分が含まれているとPPS多孔質体の難燃性が向上するため好ましく、中でも臭素原子を含む成分が含まれていることがより好ましい。ハロゲン原子を含むことは、例えばエネルギー分散型X線分光法(EDX)で検出することが可能である。また、他の副成分として繊維状の充填材が含まれていると、PPS多孔質体の機械強度をさらに向上させることができるため好ましい。
【0047】
本発明のPPS多孔質体のPPSの数平均分子量(Mn)は6,000以上であるとPPS本来の耐熱性や耐薬品性が発現し、機械強度や耐久性などの機械特性に優れた多孔質体が得られるため好ましく、10,000以上がより好ましく、15,000以上がさらに好ましい。数平均分子量の上限は特に制限されないが、100,000以下であると成形性に優れるため好ましい。ここでPPSの分子量はサイズ排除クロマトグラフィーの一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、ポリスチレン換算で算出する。なお、上記の数平均分子量(Mn)は、PPS多孔質体に連結剤等の他の構成成分が連結されている場合には、当該他の構成成分を含むPPSの数平均分子量を意味する。
【0048】
PPS多孔質体のマクロな形態は特に制限されず、繊維、フィルム、シート、樹脂成型品、粉体など各種形態を採用することが可能である。例えば、分離膜として用いるときは中空糸膜やシート状の平膜として用いることが好ましく、特に中空糸膜であればモジュールあたりの膜面積が大きくなるためより好ましい。
【0049】
本発明のPPS多孔質体は表面に多孔構造を有するため、表面が無孔領域のみからなる構造体に比べて流体の透過性能が高い。ここで透過性能とは、ある圧力下において、単位時間、単位面積あたりに多孔質体の一方の表面から、もう一方の表面に流体を透過させたときの透過量、すなわち透過流量である。
(2)PPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体の製造方法およびPPS多孔質体の製造方法
本発明のPPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体は、少なくとも末端に反応性官能基を有するポリフェニレンスルフィド(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、二官能連結剤(C)を反応させることによって製造することが可能であり、また、当該ブロック共重合体から熱可塑性樹脂(B)の成分を除去することによってPPS多孔質体を製造することが可能である。
【0050】
PPS(A)の構造は、下記一般式(I)で表されるフェニレンスルフィド単位の繰り返し構造を有し、かつ末端に反応性官能基を有するプレポリマーである。
【0052】
(一般式(I)中、mはPPS単位フェニレンスルフィド単位の繰り返し数を表す。)
また、PPS末端の反応性官能基とは、連結剤と反応して化学結合を形成することができる官能基のことを指す。PPS末端の反応性官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、イソシアナト基、シラノール基、酸無水物基、エポキシ基およびこれらの誘導体からなる群より選ばれる官能基であることが好ましい。PPSの末端構造がこのような反応性官能基であれば連結剤との反応性が高く、PPSと熱可塑性樹脂とのブロック共重合化反応を短時間かつ高効率に進行させることができる。ここで、反応性官能基がPPSの末端のみに有することにより、PPSの側鎖に反応性官能基を有する場合に比べ、連結剤と化学結合を形成する箇所が限定されて架橋反応が抑制されるため、熱可塑性を有するPPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体を製造することができる。上記の反応性官能基の中で、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基から選ばれる官能基であることが特に好ましく例示できる。
【0053】
分子鎖の末端に官能基を導入する方法としては、PPSを重合させる際に反応性官能基を有するスルフィド化合物(官能基導入剤)を添加する方法や、あるいはPPSを重合した後に反応性官能基を有するスルフィド化合物(官能基導入剤)を添加して反応させる方法が例示できる。このようなスルフィド化合物の具体例としては、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−カルボキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、およびこれらのオリゴマーが挙げられる。なお、PPSの製造方法については(3)項にて詳述する。
【0054】
本発明でブロック共重合化反応に用いるPPS(A)の数平均分子量(Mn)は6,000〜100,000であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲であれば、得られるPPS多孔質体のPPSも同等の数平均分子量が得られ、耐熱性や耐薬品性、機械特性に優れたPPS多孔質体とすることができる。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂(B)は、二官能連結剤(C)と反応して化学結合を形成することが可能であり、かつPPSが分解されない条件にて加水分解、熱分解、酸化分解されるものであれば特に限定されず、各種熱可塑性樹脂を採用することが可能である。熱可塑性樹脂の例としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリアリレート、エラストマー、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂などが挙げられる。連結剤と反応する反応性官能基を有していない熱可塑性樹脂の場合は、二官能連結剤と反応する反応性官能基を熱可塑性樹脂に化学結合により修飾させてから用いることができる。
【0056】
ブロック共重合化反応はPPSが溶融する280〜300℃付近の高温で反応を行うことが好ましいため、熱可塑性樹脂(B)としては熱安定性が高く、かつ分解除去が容易な樹脂が好ましい。そのため、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリアリレートが好ましく、コストの観点からポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドがより好ましい。中でも、芳香族ポリエステルは耐熱性が比較的高く、そしてアルカリ水溶液により容易に加水分解除去できるためさらに好ましい。
【0057】
熱可塑性樹脂(B)としてポリエステルを用いる場合、ジカルボン酸またはジカルボン酸アルキルエステルと、ジオールを重合反応させて得られるポリエステルや、ラクチドを重合反応させて得られるポリエステルであればいずれでもよく、特にテレフタル酸またはそのジメチルエステルと、エチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールを用いて得られるポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートを用いると、低コストでPPS多孔質体を製造することができるため好ましい。
【0058】
熱可塑性樹脂(B)としてポリカーボネートを用いる場合、ジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られるポリカーボネートであればいずれでもよく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)とホスゲンから製造されたポリカーボネートなどが挙げられる。
【0059】
熱可塑性樹脂(B)としてポリアミドを用いる場合、環状ラクタムの開環重合により得られるポリラクタム類、ω−アミノカルボン酸の重縮合で得られるポリアミドや、ジアミンとジカルボン酸の重縮合で得られるポリアミド類、半芳香族ポリアミド類などのいずれでもよく、ナイロン6,ナイロン11,ナイロン12、ナイロン66,ナイロン610,ナイロン6/612などが挙げられる。
【0060】
PPSおよび熱可塑性樹脂の溶融粘度については特に限定されないものの、一般的にPPSと熱可塑性樹脂の溶融粘度が近いほど、すなわちPPSと熱可塑性樹脂との溶融粘度比が1に近いほどPPSと熱可塑性樹脂を溶融混練したときに樹脂同士が微分散化しやすくなり、ブロック共重合化反応の反応率が向上するため好ましい。ここで、溶融粘度とは、反応時の温度およびせん断速度における粘度を意味する。
【0061】
本発明の製造方法ではPPS(A)と熱可塑性樹脂(B)をブロック共重合化するための連結剤として、二官能連結剤(C)を用いる。本発明における連結剤とは、PPSや熱可塑性樹脂と反応して化学結合を形成することが可能な反応性官能基を分子内に2つ有する化合物あるいは樹脂のことであり、連結剤の反応性官能基の具体的としてはエポキシ基、オキサゾリン基、イソシアナト基、シラノール基、アルコキシシラン基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基、カルボジイミドが例示できる。ここで分子内に反応性官能基を3つ以上有する場合、PPSおよび熱可塑性樹脂と反応して架橋し、ブロック共重合体が得られなくなる場合がある。そのため熱可塑性のブロック共重合体を製造するためには二官能の連結剤であることが必要である。連結剤の反応性官能基がエポキシ基、すなわち連結剤がエポキシ樹脂であると、アミン、カルボン酸、アルコール、芳香族アルコール、チオール、イソシアネート、シラノール、酸無水物など各種官能基と反応して化学結合を形成することが可能であり、また反応を短時間かつ高効率に進行させることができるため好ましい。なお、連結剤としてエポキシ樹脂を用いる場合における、エポキシ樹脂の好ましい態様については(4)項にて詳述する。
【0062】
連結剤は分子内にハロゲン原子を含むことが好ましい。ハロゲン原子は炭素原子、窒素原子、酸素原子に比べて原子量が大きいため、ハロゲン原子を含むと連結剤の分子量が高くなり、PPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体を製造する際に昇華や蒸発を抑制することが可能になる。また、ハロゲン原子が有する自己消火性を利用して、PPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体の難燃性を向上させることができる。連結剤1分子中に含まれるハロゲン原子数についても特に限定されず、分子中に1つ以上ハロゲン原子を含む連結剤を用いることが可能である。
【0063】
なお、連結剤の耐熱性とは、300℃、1気圧の窒素雰囲気下において連結剤の熱的安定性が高いことを意味する。具体的には、熱重量測定(TG)装置において、窒素フローしながら30℃から300℃まで30℃/分で昇温し、その後300℃で10分間保持した条件において、重量保持率が50重量%以上であることを指す。ここで重量保持率は以下の式により算出する。重量保持率は75重量%以上であると、連結剤の耐熱性がより高くなり、ブロック共重合化反応の反応率が向上するため好ましい。
【0064】
重量保持率(重量%)=(測定後連結剤重量(g))/(測定前連結剤重量(g))×100
PPSを溶融状態で反応させる場合は280〜300℃、また、溶液状態で反応させる場合では200〜250℃で反応させることができる。そのため、連結剤の耐熱性が低い場合、高温での反応時に連結剤が昇華や蒸発、熱分解して反応に寄与しない連結剤の割合が増加して、ブロック共重合化反応の反応率が低下する。連結剤が耐熱性を有することにより、ブロック共重合化反応の反応率を向上させることができる。
【0065】
ここで、例えばPPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体を製造する際、無触媒の条件で製造することができるが、触媒の存在下で反応を行うこともできる。触媒を添加した場合、PPSと熱可塑性樹脂が直接反応してブロック共重合化反応の反応率が向上する効果を有する。本製造方法で用いることができる触媒としては、例えば、ポリエステルを製造する際に用いられる触媒を例示でき、具体的にはポリエステルを製造する際にエステル化反応の触媒として用いられる、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウムなどの化合物や、エステル交換反応に用いられる、マグネシウム、マンガン、カルシウム、コバルト、亜鉛、リチウム、チタンなどの化合物、さらには重合反応に用いられる、アンチモン、チタン、アルミニウム、スズ、ゲルマニウムなどの化合物を例示できる。
【0066】
PPS成分と熱可塑性樹脂成分は、連結剤を介して連結されるだけでなく、各成分の繰り返し単位に由来する末端構造同士が直接連結する場合があってもよい。また、PPS単位や熱可塑性樹脂単位はブロック共重合体一分子中に複数存在していてもよい。すなわち、ジブロック共重合体やトリブロック共重合体のみならず、テトラブロック以上のマルチブロック共重合体であってもよい。
【0067】
PPS(A)、熱可塑性樹脂(B)、二官能連結剤(C)の混合比率は適宜設定可能であるが、PPSと熱可塑性樹脂と連結剤の総重量に対し、PPSは10〜90重量%であることが好ましく、20〜80重量%であることがより好ましい。PPSの混合比率がこの好ましい範囲にあることにより、ブロック共重合化反応の反応率が高くなる傾向にあり、また、モルフォロジーが均一になる傾向にある。熱可塑性樹脂は総重量に対し、10〜95重量%であることが好ましく、20〜90重量%であることがより好ましい。熱可塑性樹脂が上記好ましい範囲であるとPPSと熱可塑性樹脂がブロック共重合化した際に熱可塑性樹脂が分散成分(島成分)となりにくく、熱可塑性樹脂成分を除去して多孔質化することが容易となる。
【0068】
また、連結剤の混合比率は総重量に対し、0.1〜20重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましい。連結剤の混合比率はPPSや熱可塑性樹脂の数平均分子量や分子鎖中の官能基数などから適宜混合比率を定めることが好ましい。
【0069】
連結剤を添加する順序について特に限定されず、PPSおよび熱可塑性樹脂と共に同時に混合して反応させもよいし、PPSと連結剤、あるいは熱可塑性樹脂と連結剤をあらかじめ混合して反応させた後、さらに熱可塑性樹脂またはPPSを混合して反応させることも可能である。また、PPSと熱可塑性樹脂とをあらかじめ混合した後に連結剤を添加してもよい。
【0070】
PPSと熱可塑性樹脂と連結剤を含む混合物を加熱して反応させる温度は、PPSの分子量、熱可塑性樹脂の種類や分子量、連結剤の種類や分子量などに依存するため一概に規定できないが、PPSおよび熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であることが好ましく、具体例としては290℃以上であることが好ましく例示でき、295℃以上であることがより好ましい。また、反応温度の上限としては400℃以下であることが例示でき、380℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、320℃以下であることがさらに好ましい。反応温度がこのような好ましい範囲にあることにより、反応中にPPSおよび熱可塑性樹脂の熱分解を抑制し、かつ連結剤の昇華や蒸発、熱分解を抑制することができる。ここでPPSおよび熱可塑性樹脂が溶融する温度は示差走査型熱量測定装置(DSC)により測定することができる。
【0071】
さらに、本発明のPPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体の製造方法における重合雰囲気は、例えば窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気下での反応、また、減圧下や高圧下での反応などを適宜採用することができる。
【0072】
また、ブロック共重合化反応の際に、反応系中に有機極性溶媒を含んでもよい。ここで有機極性溶媒とは反応温度においてPPS、熱可塑性樹脂、連結剤の少なくとも一部が溶解することができる溶媒を指し、例えば、1−クロロナフタレンやN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ジエチレングリコール、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。有機極性溶媒を用いたときの反応温度としては、PPSや熱可塑性樹脂が溶解する温度であればよいが、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。また、反応温度の上限も特に制限されないが、260℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。上記好ましい反応温度の上限以下であれば連結剤が分解する可能性はなく、また、溶媒の沸点を超えることもない。なお、沸点を超えて反応を行う必要がある場合にはオートクレーブなどの高圧容器を用いて反応を行うこともできる。
【0073】
PPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに他の各種の添加剤を添加することもできる。これら他の添加剤としては、繊維状無機充填材、非繊維状無機充填材、繊維状有機充填材、サイジング剤、シランカップリング剤、耐摩耗剤、離型剤、着色防止剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、抗菌剤等が挙げられる。繊維状の充填材を添加することにより、PPS多孔質体の機械強度を向上させることができるため好ましい。
【0074】
PPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体は、樹脂成型品やフィルム、シート、繊維、粉体など各種形状を採用することができる。繊維やフィルムの場合は延伸することも可能である。
【0075】
PPS多孔質体を製造する方法は、PPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体から熱可塑性樹脂成分を化学的に分解除去できればいかなる方法でもよく、加水分解、熱分解、酸化分解などいずれの方法も用いることができる。それらの中でも、加水分解にて除去する方法が好ましく用いられる。
【0076】
熱可塑性樹脂(B)としてポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドを用いる場合、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液により加水分解除去する方法であれば、溶媒によるマトリックス成分の膨潤を抑止することができ、かつ熱可塑性樹脂成分の除去時間を短くできるため好ましい。ポリエステルやポリカーボネートを用いる場合、アルカリ性水溶液であれば、加水分解の効率が高く、短時間での除去が可能になるためより好ましい。また、ポリアミドを用いる場合、酸性水溶液にて除去することが好ましい。
【0077】
アルカリ性水溶液の種類については特に限定されないが、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物を用いることが好ましく、コスト、入手のしやすさと加水分解速度のバランスから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0078】
アルカリ性水溶液の濃度は、0.10〜10Mの範囲が好ましい。アルカリ性水溶液の濃度が上記好ましい範囲であると、分解除去にかかる時間を低減できる一方、水溶液の粘度が高くなり過ぎて分解除去の効率が低下することもない。
【0079】
アルカリ性水溶液の温度は、熱可塑性樹脂成分の加水分解速度の観点から60〜120℃が好ましく、除去効率の観点から、加圧状態での処理や水溶液の攪拌処理も好ましい。
【0080】
熱可塑性樹脂成分を除去した後は、適切な溶媒で残存する処理液を除去することが好ましく、例えば、酸やアルカリ水溶液による処理を用いた場合、処理後にイオン交換水で洗浄し、その後乾燥することが好ましい。
【0081】
上記のような処理を行うことにより、ブロック共重合体における熱可塑性樹脂成分が分解除去されて空孔を形成し、一方、PPS成分は分解されずに多孔領域の枝部や無孔領域を形成するため、本発明のPPS多孔質体を製造することができる。
(3)PPS(A)の製造方法
上記のPPS(A)の製造方法の一例として、環式PPS(a)を、反応性官能基を有するスルフィド化合物の存在下に加熱するPPS(A)の製造方法(A1)、および、少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、および反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物を含む混合物を加熱するPPS(A)の製造方法(A2)が挙げられる。以下、これらのPPS(A)の製造方法につき詳細を記す。
(3−1)PPS(A)の製造方法(A1)
PPS(A)の第1の好ましい製造方法として、環式PPS(a)を、反応性官能基を有するスルフィド化合物の存在下に加熱する方法が挙げられる。
【0082】
PPS(A)の製造方法(A1)におけるスルフィド化合物の添加量は、環式PPS(a)のフェニレンスルフィド構造単位1モル当たりに対し0.01〜25モル%が好ましく、0.01〜15モル%がより好ましく、0.01〜10モル%がさらに好ましく、0.01〜5モル%が特に好ましい。スルフィド化合物の添加量が上記好ましい範囲であると、得られるPPSへの反応性官能基の導入が十分となる一方、得られるPPSの分子量が低くなる、原料コストが増えるなどの不利益もない。
【0083】
製造方法(A1)によりPPS(A)を製造する際の加熱温度は、環式PPS(a)と反応性官能基を有するスルフィド化合物からなる反応混合物が溶融解する温度であることが好ましく、このような温度条件であればPPS(A)を得るのに過度な長時間を要しない。なお、環式PPS(a)が溶融解する温度は、環式PPS(a)の組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため一意的に示すことはできないが、例えば環式PPS(a)を示差走査型熱量計で分析することで溶融解温度を把握することが可能である。加熱温度の下限としては、180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。加熱温度の下限がこの好ましい温度範囲であれば、環式PPS(a)が溶融解し、短時間でPPS(A)を得ることができる。また、環式PPS間、加熱により生成したPPS間、およびPPSと環式PPS間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じることはなく、得られるPPS(A)の特性が低下することもない。加熱温度の上限としては、400℃以下が例示でき、好ましくは360℃以下、より好ましくは340℃以下である。加熱温度の上限がこの温度以下であれば、好ましくない副反応による得られるPPS(A)の特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
【0084】
反応時間は、使用する環式PPS(a)における環式化合物の含有率や繰り返し数(i)、および分子量などの各種特性、使用するスルフィド化合物の種類、また、加熱の温度などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応が起こらないように設定することが好ましい。加熱時間としては0.01〜100時間が例示でき、0.05〜20時間が好ましく、0.05〜10時間がより好ましい。
【0085】
反応性官能基を有するスルフィド化合物の存在下における環式PPS(a)の加熱は、実質的に溶媒を含まない条件下で行うことも可能である。このような条件下で行う場合、短時間での昇温が可能であり、反応速度が高く、短時間でPPS(A)を得やすくなる傾向がある。ここで実質的に溶媒を含まない条件とは、環式PPS(a)に対し溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下であることがより好ましい。
【0086】
PPS(A)の重合反応は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
【0087】
また、当該反応は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これにより環式PPS間、加熱により生成したPPS間、およびPPSと環式PPS間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる。なお、非酸化性雰囲気とは環式PPSが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、より好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの観点から窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下で行う場合、架橋反応など好ましくない副反応を抑制させるため、50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。減圧条件の下限としては、環式PPSに含まれる分子量の低い環式化合物の揮散を抑制させるため、0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。
【0088】
また、当該反応は、加圧条件下で行うことも可能である。加圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから加圧条件にすることが好ましい。なお、加圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも高いことを指し、上限としては特に制限はないが、反応装置の取り扱いの容易さの面からは0.2MPa以下が好ましい。
【0089】
本製造方法(A1)では、PPSの末端反応性官能基の導入率が高く、かつ高分子量化が可能な製造方法である。そのため、ブロック共重合化反応における収率を向上させることができ、また、ブロック共重合体の高分子量化が可能である。
(3−2)PPS(A)の製造方法(A2)
PPS(A)の第2の好ましい製造方法として、少なくともスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、有機極性溶媒、および反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物を含む混合物を加熱する製造方法(A2)が挙げられる。
【0090】
製造方法(A2)におけるジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、分解を抑制すると共に加工に適した粘度のPPSを効率よく得る観点から、スルフィド化剤1モル当たり0.8モル以上1.5モル未満、好ましくは0.9モル以上1.1モル未満、さらに好ましくは0.95モル以上1.05モル未満の範囲が例示できる。ジハロゲン化芳香族化合物の使用量が上記好ましい範囲であると、ジハロゲン化芳香族化合物の分解を抑制でき、また、PPS(A)の分子量が低下しないので十分な機械物性が発現する。
【0091】
製造方法(A2)において、PPSの重合溶媒として用いる有機極性溶媒の使用量に特に制限はないが、安定した反応性および経済性の観点から、スルフィド化剤1モル当たり2.5モル以上5.5モル未満、好ましくは2.5モル以上5.0モル未満、より好ましくは2.5モル以上4.5モル未満の範囲が選択される。
【0092】
さらに、製造方法(A2)ではPPSを製造する際に反応性官能基を有するモノハロゲン化化合物を添加するが、モノハロゲン化化合物の使用量は、ジハロゲン化芳香族化合物1モルに対し0.01〜10モル%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8モル%の範囲にあることがより好ましく、1〜5モル%の範囲にあることがさらに好ましい。モノハロゲン化化合物の使用量が上記好ましい範囲であると、得られるPPS(A)における反応性末端の導入率が低くなる傾向もなく、一方でPPSの分子量が低下し機械物性が発現しないということもない。
【0093】
また、ジハロゲン化芳香族化合物やモノハロゲン化化合物などのハロゲン化化合物の合計量を特定の範囲にすることが好ましく、スルフィド化剤1モルに対してハロゲン化化合物の合計量を0.98モル以上1.10モル未満にすることが好ましく、1.00モル以上1.08モル未満がより好ましく、1.03モル以上1.07モル未満が一層好ましい。スルフィド化剤1モルに対するハロゲン化化合物の合計量が上記好ましい範囲であると、ハロゲン化化合物の分解を抑制でき、また、PPS(A)の分子量が低下しないので十分な機械物性が発現する。
【0094】
製造方法(A2)による方法でPPS(A)を製造する際、モノハロゲン化化合物の添加時期は特に制限はなく、後述する脱水工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、モノハロゲン化化合物の添加時期は、ジハロゲン化芳香族化合物の転化率が80%未満の時期であることが好ましく、70%未満の時期がより好ましい。その観点から、脱水工程完了後から重合開始までの間、重合開始時つまりジハロゲン化芳香族化合物と同時に添加することが最も好ましい。モノハロゲン化化合物の添加が上記好ましい時期に行われる場合には、脱水工程時にモノハロゲン化化合物が揮散しないような還流装置重合や、途中(加圧状態)で添加するための圧入装置は不要であり、また、重合終了時点でモノハロゲン化化合物の消費が完結せず重合系内に残存するようなこともない。
【0095】
製造方法(A2)では、スルフィド化剤を水和物もしくは水性混合物の形態で用いることができるが、この際、ジハロゲン化芳香族化合物やモノハロゲン化化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去する脱水工程を行うことが好ましい。この脱水の方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温〜100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。また、この脱水工程が終了した段階での系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.9〜1.1モルであることが好ましい。なお、ここでの系内の水分量とは脱水工程で仕込まれた水分量から系外に除去された水分量を差し引いた量である。
【0096】
製造方法(A2)では、前記した脱水工程で調製した反応物とジハロゲン化芳香族化合物やモノハロゲン化化合物を有機極性溶媒中で接触させて重合反応させる重合工程を行う。重合工程開始に際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、100〜220℃、好ましくは130〜200℃の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもよい。
【0097】
この重合反応は200℃以上280℃未満の温度範囲で行うことが好ましい。細かい反応条件に特に制限はないが、例えば、一定速度で昇温した後、245℃以上280℃未満で反応を一定時間継続する方法、200℃以上245℃未満において一定温度で一定時間反応を行った後に245℃以上280℃未満に昇温して反応を一定時間継続する方法、200℃以上245℃未満、中でも230℃以上245℃未満において一定温度で一定時間反応を行った後、245℃以上280℃未満に昇温して短時間で反応を完了させる方法などが挙げられる。
【0098】
また、前記した重合反応を行う雰囲気は非酸化性雰囲気下であることが望ましく、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、特に経済性および取り扱いの容易さの観点から窒素雰囲気下で行うことが好ましい。さらに、重合反応における反応圧力に関しては、使用する原料及び溶媒の種類や量、あるいは重合反応温度などに依存し一概に規定できないため、特に制限はない。
【0099】
本発明のブロック共重合体の製造方法では、上記した方法により得られた重合反応物からPPS(A)を回収してブロック共重合化反応に用いることができる。上記した重合反応物にはPPSおよび有機極性溶媒が含まれ、その他成分として未反応原料や水、副生塩などが含まれる場合もある。この様な反応混合物からPPSを回収する方法に特に制限はなく、例えば必要に応じて有機極性溶媒の一部もしくは大部分を蒸留などの操作により除去した後に、PPS成分に対する溶解性が低く且つ有機極性溶媒と混和し、副生塩に対して溶解性を有する溶剤と必要に応じて加熱下で接触させて、PPS(A)を固体として回収する方法が例示できる。このような特性を有する溶剤は一般に比較的極性の高い溶剤であり、用いた有機極性溶媒や副生塩の種類により好ましい溶剤は異なるので限定はできないが、例えば水やメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールに代表されるアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどに代表される酢酸エステル類が例示でき、入手性、経済性の観点から水、メタノールおよびアセトンが好ましく、水が特に好ましい。
【0100】
このような溶剤による処理を行うことで、PPS(A)に含有される有機極性溶媒や副生塩の量を低減することが可能である。この処理によりPPS(A)は固形成分として析出するので、公知の固液分離法を用いて回収することが可能である。固液分離方法としては、例えばろ過による分離、遠心分離、デカンテーションなどを例示できる。なお、これら一連の処理は必要に応じて数回繰り返すことも可能であり、これによりPPS(A)に含有される有機極性溶媒や副生塩の量がさらに低減される傾向にある。
【0101】
また、上記の溶剤による処理の方法としては、溶剤と重合反応物を混合する方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。溶剤による処理を行う際の温度に特に制限はないが、20〜220℃が好ましく、50〜200℃がさらに好ましい。このような範囲では例えば副生塩の除去が容易となり、また比較的低圧の状態で処理を行うことが可能であるため好ましい。ここで、溶剤として水を用いる場合、水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましいが、必要に応じてギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、アクリル酸、クロトン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸性化合物及びそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物およびアンモニウムイオンなどを含む水溶液を用いることも可能である。この処理後に得られたPPS(A)が処理に用いた溶剤を含有する場合には必要に応じて乾燥などを行い、溶剤を除去することも可能である。
(3−3)環式PPS(a)
PPS(A)の製造方法(A1)に用いられる環式PPS(a)に含まれる環式PPSは、式、−(Ph−S)−の繰り返し単位(Phはフェニレン基)を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(II)で表される環式化合物である。環式PPS(a)としては、一般式(II)の環式PPSを少なくとも50重量%以上含むものであり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含むものが好ましい。
【0103】
環式PPS(a)中に含まれる環式PPSの重量分率の上限値は特に制限されないが、98重量%以下、好ましくは95重量%以下が好ましい範囲として例示できる。通常、環式PPS(a)中の環式PPSの重量分率が高いほど、加熱後に得られるPPSの分子量が高くなる傾向にある。一方で、環式PPS(a)中における環式PPSの重量分率が前記した上限値を超えると、溶融解温度が高くなる傾向にある。
【0104】
また、一般式(II)中の繰り返し数iに特に制限はないが、i=4〜50であることが好ましく、i=4〜25であることがより好ましく、i=4〜15であることがさらに好ましく例示できる。後述するように環式PPSの加熱によるPPSへの転化は環式PPSが溶融解する温度以上で行うことが好ましく、繰り返し数iを前記好ましい範囲にすると、環式PPSの溶融解温度が高くなり過ぎず、環式PPSのPPSへの転化をより低温で行うことができるようになる。
【0105】
さらに、環式PPSは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低くなる傾向にあり、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の使用はPPSへの転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
【0106】
環式PPS(a)における環式PPS以外の成分はPPSオリゴマーであることが好ましい。ここでPPSオリゴマーとは、式、−(Ph−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。PPSオリゴマーの分子量としては、PPSよりも低分子量のものが例示でき、具体的には数平均分子量で5,000未満であることが好ましい。
(3−4)スルフィド化合物
PPS(A)の製造方法(A1)に用いられるスルフィド化合物とは、下記一般式(III)で表される反応性官能基を有するスルフィド化合物である。
【0108】
ここで式(III)中のX、Yは少なくとも一方がアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、イソシアナト基、シラノール基、酸無水物基、エポキシ基、もしくはそれらの誘導体から選ばれる反応性官能基であり、好ましくはアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基から選ばれる反応性官能基である。X、Yのどちらか一方のみが反応性官能基を有する場合、他方の官能基は特に限定されず、水素基あるいはハロゲノ基が例示できる。また、スルフィド化合物における繰り返し数pは0〜20の整数を表す。pは、好ましくは0〜15、より好ましくは0〜10の整数である。繰り返し数pが上記好ましい範囲であると、環式PPSとの溶解性や低粘度特性を損なうことはない。なお、PPS(A)の製造方法(A1)においては、異なる繰り返し数pを有するスルフィド化合物の混合物を用いることもできる。
【0109】
このようなスルフィド化合物の具体例としては、ビス(2−アミノフェニル)スルフィド、ビス(3−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(2−カルボキシフェニル)スルフィド、ビス(3−カルボキシフェニル)スルフィド、ビス(4−カルボキシフェニル)スルフィド、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、5、5’−チオジサリチル酸、2、2’、4、4’−テトラヒドロキシジフェニルスルフィドなどが挙げられ、これらのオリゴマーも含む。これらのなかでも、反応性や結晶性の観点から、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−カルボキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、およびこれらのオリゴマーがより好ましく用いられる。また、これらのスルフィド化合物は1種類単独で用いてもよいし、2種類以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
(3−5)スルフィド化剤
PPS(A)の製造方法(A2)に用いられるスルフィド化剤とは、ジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであればよく、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0110】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことを指す。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、この様な形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
【0111】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
【0112】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系中で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物も用いることができる。これらのアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のしやすさ、コストの観点から好ましい。
【0113】
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系内で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。硫化水素は気体状態、液体状態、水溶液状態のいずれの形態で用いても差し障りない。
【0114】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0115】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95モルから1.50モル、好ましくは1.00モルから1.25モル、さらに好ましくは1.005モルから1.200モルの範囲が例示できる。スルフィド化剤として硫化水素を用いる場合にはアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましく、この場合のアルカリ金属水酸化物の使用量は硫化水素1モルに対し2.0〜3.0モル、好ましくは2.01〜2.50モル、さらに好ましくは2.04〜2.40モルの範囲が例示できる。
(3−6)ジハロゲン化芳香族化合物
PPS(A)の製造方法(A2)に用いられるジハロゲン化芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、1−ブロモ−4−クロロベンゼン、1−ブロモ−3−クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、および1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1−メチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、1、3−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、3,5−ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基を含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロゲン化ベンゼンを主成分とするハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p−ジクロロベンゼンを80〜100モル%含むものであり、さらに好ましくは90〜100モル%含むものである。また、異なる2種類以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
(3−7)有機極性溶媒
PPS(A)の製造方法(A2)に用いられる有機極性溶媒として、有機アミド溶媒が好ましく例示できる。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN−メチル−2−ピロリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましく用いられる。
(3−8)モノハロゲン化化合物
PPS(A)の製造方法(A2)に用いられるモノハロゲン化化合物は、下記一般式(IV)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物であればいかなるものでもよいが、反応性官能基Wとしてアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基、もしくはそれらの誘導体から選ばれる官能基を有するものが好ましく、なかでもアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基を官能基として有するものがより好ましい。
【0117】
(一般式(IV)中のVはハロゲンを示す)
このようなモノハロゲン化化合物の具体例としては、2−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸、4−クロロ安息香酸、2−アミノ−4−クロロ安息香酸、4−クロロ−3−ニトロ安息香酸、4’−クロロベンゾフェノン−2−カルボン酸、2−クロロアニリン、3−クロロアニリン、4−クロロアニリン、2−クロロフェノール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノールなどのモノハロゲン化化合物を挙げることができる。これらのなかでも重合時の反応性や汎用性などの観点から4−クロロ安息香酸、4−クロロアニリン、4−クロロフェノールがより好ましく例示できる。また、これらのモノハロゲン化化合物は1種類単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもできる。
(4)エポキシ樹脂
二官能連結剤として二官能エポキシ樹脂を用いる場合における、エポキシ樹脂の好ましい態様について詳述する。なお、一般的にエポキシ樹脂という用語は、硬化前のプレポリマー、およびプレポリマーに硬化剤や他の成分を配合した組成物を反応させて得られる硬化物の2つの意味で用いられるが、本発明におけるエポキシ樹脂とは、分子内にエポキシ基を有する硬化前のプレポリマーのことを指す。
【0118】
エポキシ樹脂は各種求核剤と反応して化学結合を形成することが可能であり、求核剤の例としては、アミン、カルボン酸、アルコール、芳香族アルコール、チオール、イソシアネート、シラノール、酸無水物等が挙げられる。エポキシ樹脂がこれらの求核剤と反応すると、エポキシ基が開環し、第二級アルコールが生成する。
【0119】
エポキシ樹脂の数平均分子量は特に限定されないが、エポキシ樹脂には耐熱性が求められるため、300以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、700以上であることがさらに好ましい。数平均分子量の上限に関しては、3,000以下であることが好ましく、2,000以下であることがより好ましい。数平均分子量の上限が上記好ましい範囲であると、PPSやポリエステルとの混和性が低下してブロック共重合化反応に寄与しないエポキシ樹脂の割合が増加することはない。なお、エポキシ樹脂の数平均分子量はGPC分析により、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0120】
本発明のエポキシ樹脂は分子内にハロゲン原子を含むことが好ましい。ハロゲン原子は炭素原子、窒素原子、酸素原子に比べて原子量が大きいため、エポキシ樹脂の分子量が高くなり、ブロック共重合体を製造する際に昇華や蒸発を抑制することが可能になる。また、同じ分子量のエポキシ樹脂で比較すると、ハロゲン原子を含むエポキシ樹脂の方が分子鎖が短いため、PPSや熱可塑性樹脂の反応性官能基との反応性が向上し、ブロック共重合化反応の反応率が向上する。さらに、ハロゲン原子が有する自己消火性を利用して、PPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体の難燃性を向上させることができる。エポキシ樹脂1分子中に含まれるハロゲン原子数についても特に限定されず、分子中に1つ以上ハロゲン原子を含むエポキシ樹脂を用いることが可能である。
【0121】
本発明のエポキシ樹脂のエポキシ当量の範囲は反応させるPPSやポリエステルの末端等量に応じて適宜設定することが可能である。ここでエポキシ当量とは、1等量のエポキシ基を含む樹脂の質量のことであり、その単位をg/epで表す。エポキシ当量が小さすぎるとエポキシ樹脂の耐熱性が低くなることから、200g/ep以上であることが好ましい。エポキシ当量の上限に関しては、3,000g/ep以下であることが好ましい。エポキシ当量の上限が上記好ましい範囲であると、樹脂の粘度が高くなり過ぎてPPSやポリエステルとの混和性が低下することはない。
【0122】
本発明で用いられるエポキシ樹脂は、耐熱性を有し、かつ二官能であればとくに限定されず、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、オレフィン酸化型(脂環型)などが例示できる。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、水素化ビスフェノールA型、水素化ビスフェノールF型、ビフェニル型、ナフタレン型、脂肪族の二価アルコールや芳香族の二価アルコールとエピクロルヒドリンまたはβ−メチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるエポキシ樹脂、およびそれらが重合したプレポリマー、そしてそれぞれの各種異性体やアルキル、ハロゲン置換体などが挙げられる。グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、フタル酸などのジカルボン酸やヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸と、エピクロルヒドリンまたはβ−メチルエピクロルヒドリンとを反応して得られるエポキシ樹脂、およびそれらが重合したプレポリマー、そしてそれぞれの各種異性体やアルキル、ハロゲン置換体などが挙げられる。オレフィン酸化型エポキシ樹脂としては、共役または非共役直鎖状ジエン、共役または非共役環状ジエンなどのエポキシ化ポリオレフィン、およびそれらが重合したプレポリマー、そしてそれぞれの各種異性体やアルキル、ハロゲン置換体などが挙げられる。さらに、α−オレフィンと、α,β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル類を共重合成分とするエポキシ系含有オレフィン系共重合体なども挙げられる。
【0123】
エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、クロロ化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クロロ化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ブロモ化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルプレポリマー、クロロ化ビスフェノールAジグリシジルエーテルプレポリマー、ブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテルプレポリマー、クロロ化ビスフェノールFジグリシジルエーテルプレポリマー、ブロモ化ビスフェノールFジグリシジルエーテルプレポリマーなどを好適に用いることができる。
【0124】
また、耐熱性の観点からブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ブロモ化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルプレポリマー、ブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテルプレポリマーなどを用いることがより好ましい。ブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテルまたはブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテルプレポリマーを用いるとブロック共重合体の難燃性を向上させる効果を奏するためさらに好ましい。これらのエポキシ樹脂は単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
(5)ポリフェニレンスルフィド−熱可塑性樹脂ブロック共重合体
二官能連結剤として二官能エポキシ樹脂を用いる場合、本発明のPPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体を製造方法により、下記一般式(I)で表されるPPS単位と、熱可塑性樹脂単位とが第二級アルコールを含む連結基を介して結合した熱可塑性のPPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体(以下、単に「エポキシ連結のブロック共重合体」という場合がある)が得られる。ここでブロック共重合体の熱可塑性とは、共重合体30mgを300℃で30秒間加熱したときにブロック共重合体が溶融して流動変形することを意味する。
【0126】
エポキシ連結のブロック共重合体に含有される連結基は第二級アルコールを含むことが特徴である。ここで連結基とは、PPS単位および熱可塑性樹脂単位を連結してPPSと熱可塑性樹脂のブロック共重合体を形成する構造のことであり、下記一般式(V)で表すことができる。
【0128】
一般式(V)中、Rの構造は特に限定されず、各種アルキレン基やアリール基等任意の基であり、Rは置換基を含んでもよい。また、Rの構造中にハロゲン原子を含む場合は、ブロック共重合体の難燃性が向上するため好ましい。
【0129】
エポキシ連結のブロック共重合体においては、連結基はエポキシ樹脂を前駆体とするため、エポキシ基がPPSまたは熱可塑性樹脂と反応すると第二級アルコールが生成する。また、第二級アルコールが含まれることにより、ブロック共重合体の親水性が向上したり、添加剤との接着性が向上したりする効果を奏する。第二級アルコールを有することは、赤外分光法(IR)や核磁気共鳴法(NMR)などの手法で分析することにより、その存在を確認することが可能である。
【0130】
エポキシ連結のブロック共重合体においては、PPS単位と連結基が、第二級アミン、エステル、エーテル、スルフィド、アミドおよびシロキサンからなる群から選ばれる構造を介して結合していることが好ましい。PPS(A)の反応性官能基が、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、イソシアナト基、シラノール基、酸無水物基、エポキシ基であると、PPS単位と連結基が上記の群から選ばれる構造を介して結合することとなる。
【0131】
また、PPS単位と連結基が、第二級アミン、エステル、エーテル、スルフィド、アミド、シロキサンからなる群から選ばれる構造を介して結合していることは、PPS−熱可塑性樹脂ブロック共重合体を赤外分光法(IR)や核磁気共鳴法(NMR)、質量分析法、エネルギー分散型X線分光法(EDX)などの各種手法で分析することにより確認することが可能である。
【0132】
また、PPS単位と熱可塑性樹脂単位は、上記の連結基を介して連結されるだけでなく、各単位の繰り返しに由来する末端構造同士が直接連結する場合があってもよい。また、PPS単位や熱可塑性樹脂単位はブロック共重合体一分子中に複数存在していてもよい。すなわち、ジブロック共重合体やトリブロック共重合体のみならず、テトラブロック以上のマルチブロック共重合体であってもよい。
【0133】
エポキシ連結のブロック共重合体の数平均分子量は、ブロック共重合体を形成する熱可塑性樹脂の構造により異なるため、一概には規定できないが、10,000以上であることが例示でき、15,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましい。また、その上限としては2,000,000以下であることが例示でき、1,000,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましく例示できる。ブロック共重合体の数平均分子量が前記範囲にあることにより、ブロック共重合体の物性が良好となる。また、本発明のブロック共重合体は単峰性の分子量分布を示すことも好ましい形態である。なお、ここでの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。
【実施例】
【0134】
以下に本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
A.分子量の測定
PPSの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に記す。
【0135】
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL(スラリー状:約0.2重量%)
B.ポリエステルの抽出率の分析
ポリエステルの抽出は、ブロック共重合体の反応生成物1.00gを溶融プレスして厚さ100μm以下のフィルム状とした後、凍結粉砕して粉末状とした。続いて、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を30g加え、50℃のオイルバスを用いて3時間還流することにより、ブロック共重合体中に残存する未反応のポリエステルをHFIP中に溶出させた。3時間の加熱撹拌後、平均目開き0.45μmのメンブレンフィルタを用いてろ過を行い、HFIP可溶成分と不溶成分を分離回収した。不溶成分を80℃で一晩真空乾燥した。得られた各乾燥固体の重量を測定し、抽出前後の重量から以下の式によりポリエステルの抽出率を算出した。
【0136】
ポリエステルの抽出率(重量%)=ブロック化反応後重量(g)/ブロック化反応前重量(g)×100
C.ポリエステルのアルカリ減量率の測定
PPS−ポリエステルブロック共重合体をアルカリ水溶液で加水分解処理したときのアルカリ減量率は次式により算出した。
【0137】
アルカリ減量率(重量%)={(アルカリ加水分解前の重量(g))−(アルカリ加水分解後の重量(g))}/(アルカリ加水分解前の重量(g))×100
D.走査型電子顕微鏡の観察
プレスフィルムの表面および断面の観察は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S−5500)を用い、白金パラジウムでスパッタリング処理した試料を観察した。
E.膜厚の測定
走査型電子顕微鏡によって観察した多孔質体の任意の10ヶ所の断面厚さの平均値を膜厚とした。
F.平均孔径の測定
PPS多孔質体をクロスセクションポリッシャー法(CP法)により形成させた任意の断面10点を倍率10万倍の走査型電子顕微鏡で観察した際、各々の観察画像における空孔の直径を測定し、その平均値を平均孔径とした。
G.空孔率の測定
直径20mm、厚さ50μmの円盤状のPPS多孔質体を作製し、次式により空孔率を算出した。
【0138】
空孔率(%)={(見かけの体積−実際の体積)/見かけの体積}×100
ここで、見かけの体積および実際の体積は次式により算出した。
【0139】
見かけの体積(m
3)=切り取った膜の面積(m
2)×膜厚(m)
実際の体積(m
3)=多孔質体の重量(g)/材質の比重(g・m
−3)
H.引張強度の測定
引張強度測定法としては、テンシロン引張試験機(東洋ボールドウィン製UTM−4L)を用いた。PPS多孔質体から長さ50mm、幅10mmの短冊状のサンプルを切り出し、25℃湿度65%の雰囲気下で引張速度300mm/分で引張強度を測定した。
I.水の透過流量の測定
水の透過流量は、シート状のPPS多孔質体(直径40mm、厚み50μm)を減圧ろ過用のステンレスセルに挟んで固定し、JIS K 3831(1990)の減圧ろ過試験に準拠して実施した。試験液としてイオン交換水500mLを用い、ゲージ圧−10kPaにてイオン交換水の全量がセルを通過したときの時間を計測し、イオン交換水の流量を算出した。ここで、同一の水準から作製した別々のPPS多孔質体にて3回測定し、その平均値をPPS多孔質体の水の透過流量とした。
J.エポキシ樹脂の重量保持率の分析
エポキシ樹脂の重量保持率の分析は、セイコーインスツル製TG−DTA装置を用い、90℃/分で300℃まで昇温後、300℃で10分間保持した。そして測定後の重量を測定し、次式により重量保持率を算出した。
【0140】
重量保持率(重量%)=測定後重量(g)/測定前重量(g)×100
[参考例1]環式PPSの調製
撹拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を14.03g(0.120モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液12.50g(0.144モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20モル)、及びp−ジクロロベンゼン(p−DCB)18.08g(0.123モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。
【0141】
回転速度400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約1時間かけて昇温した。この段階で、反応容器内の圧力はゲージ圧で0.35MPaであった。次いで200℃から270℃まで約30分かけて昇温した。この段階の反応容器内の圧力はゲージ圧で1.05MPaであった。270℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
【0142】
得られた内容物をガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は93%、反応混合物中の硫黄成分がすべて環式PPSに転化すると仮定した場合の環式PPS生成率は18.5%であることが分かった。
【0143】
次に、得られた内容物500gを約1,500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16μmのガラスフィルターでろ過した。フィルター上に残存した成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分撹拌し、再度前記同様のろ過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体を得た。得られた乾燥固体を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を分離した。
【0144】
抽出操作後に円筒濾紙内に残留した固形成分を70℃で一晩真空乾燥しオフホワイト色の固体を約6.98g得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルよりこれはPPS構造からなる化合物であり、また、重量平均分子量は6,300であった。
【0145】
クロロホルム抽出操作にて得られた抽出液から溶媒を除去した後、約5gのクロロホルムを加えてスラリーを調製し、これを約300gのメタノールに撹拌しながら滴下した。これにより得られた沈殿物をろ過回収し、70℃で5時間真空乾燥を行い、1.19gの白色固体を得た。この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置:日立製M−1200H)、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜13の環式化合物を約98重量%含み、本発明におけるPPS(A)の製造に好適に用いられる環式PPS混合物であることが分かった。なお、GPC測定を行った結果、環式PPS混合物は室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
[参考例2]アミノ基末端PPSの製造方法
参考例1に示した方法により得られる環式PPS混合物20gに、PPS単位1モルに対し、ビス(4−アミノフェニル)スルフィドを0.80g(2.0モル%)混合した粉末を、ガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。320℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し120分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し黒色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式PPSのPPSへの転化率は97.0%であることが分かった。
【0146】
GPC測定の結果、環式PPSに由来するピークと生成したPPSのピークが確認でき、得られたPPSの数平均分子量は16,000、重量平均分子量は26,000、分散度は1.62であることが分かった。また、PPS構造単位1モル当たりに対するアミノ基含有量は0.6モル%であった。
[参考例3]カルボキシル基末端PPSの製造方法
ビス(4−カルボキシフェニル)スルフィドを0.5モル%、反応時間を120分とした以外は参考例2と同様に実施し、黒色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式PPSのPPSへの転化率は96.2%であることが分かった。GPC測定の結果、環式PPSに由来するピークと生成したPPSのピークが確認でき、得られたPPSの数平均分子量は17,000、重量平均分子量は35,000、分散度は2.06であることが分かった。また、PPS構造単位1モル当たりに対するカルボキシル基含有量は0.37モル%であった。
[参考例4]ポリエチレンテレフタレートの製造方法
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部、得られるポリマー100gに対してマグネシウム原子換算で0.05mmolの酢酸マグネシウムを、150℃、窒素雰囲気下で溶融後、撹拌しながら240℃まで4時間かけて昇温し、メタノールを留出させ、エステル交換反応を行い、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHT)を得た。
【0147】
BHTを試験管に投入し、250℃で溶融状態を保持した後、得られるポリマー100g当たりアンチモン原子換算で0.2mmolの三酸化アンチモン、得られるポリマー100g当たりリン原子換算で0.1mmolのリン酸トリメチルを添加した。各化合物を投入後5分経過した後に反応を開始した。反応器内を250℃から290℃まで60分かけて徐々に昇温するとともに、圧力を常圧から40Paまで60分かけて減圧し、290℃、40Paで200分間重合反応させた。重合反応終了後、溶融物をストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリエチレンテレフタレートのペレットを得た。得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度を測定した結果、0.69dL/gであった。
[実施例1]
撹拌機、バキュームスターラー、窒素吹き込み管を具備した試験管に、参考例2記載の方法により得られるアミノ基末端PPSを50重量部、参考例4記載の方法により得られるポリエチレンテレフタレートを50重量部、そしてエポキシ樹脂として二官能エポキシ樹脂であるブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ製、エポキシ当量350〜450、重量保持率95.3重量%)7重量部を量り取り、試験管内を密封した後、窒素置換した。続いて、試験管を300℃のオイルバス中に入れ、5分間静置して樹脂を溶融した後、攪拌した。攪拌開始5分後に攪拌を停止し、試験管を急冷させることにより生成物を回収した。
【0148】
GPC測定の結果、生成物のクロマトグラムは単峰性であり数平均分子量は42,000、重量平均分子量は83,000であり、反応に用いたPPSのブロック共重合体化による高分子量化を確認した。また、得られたPPS−ポリエチレンテレフタレートブロック共重合体を凍結粉砕し、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)にて抽出処理した結果、ブロック共重合体中に含まれる未反応のポリエチレンテレフタレートは添加したポリエチレンテレフタレートに対して30重量%であった。
【0149】
次に、得られたPPS−ポリエチレンテレフタレート共重合体を溶融プレスしてフィルム(厚さ50μm)を作製した。続いて7Mの水酸化ナトリウム水溶液に80℃で4時間浸漬処理してポリエチレンテレフタレートを加水分解除去し、イオン交換水で3回洗浄し、100℃で3時間真空乾燥してPPS多孔質体を得た。PPS多孔質体の分子量をGPCで測定したところ、数平均分子量は16,000、重量平均分子量は26,000であった。また、加水分解処理前後のマクロな形態が変化しておらず、加水分解処理によるブロック共重合体の重量減少率は46重量%であった。
【0150】
走査型電子顕微鏡にてPPS多孔質体の表面および断面を観察したところ、いずれも多孔構造が観察された。また、表面を倍率1,300倍で観察したところ、多孔領域と無孔領域が共に観察され、観察した視野全体に対する多孔領域の平均面積率は55%であった。無孔領域は観察した画像において連続していた。また、PPS多孔質体の平均孔径は0.25μm、空孔率は47%であった。得られたPPS多孔質体の引張強度および水の透過流量を表1に示す。引張強度が高く、かつ水の透過流量が大きいことがわかった。
[実施例2]
参考例3記載の方法により得られるカルボキシル基末端PPSを用いた以外は実施例1と同様の方法でブロック共重合体を得た。GPC測定の結果、生成物のクロマトグラムは単峰性であり数平均分子量は37,000、重量平均分子量は72,000であった。また、得られたブロック共重合体をHFIPにて抽出処理した結果、ブロック共重合体中に含まれる未反応のポリエチレンテレフタレートは添加したポリエチレンテレフタレートに対して38重量%であった。次に実施例1と同様の方法で加水分解処理して多孔化したところ、処理前後のマクロな形態が変化しておらず、加水分解処理によるブロック共重合体の重量減少率は38重量%であった。
【0151】
走査型電子顕微鏡にてPPS多孔質体の表面を倍率1,300倍で観察したところ、多孔領域と無孔領域が共に観察され、観察した視野全体に対する多孔領域の平均面積率は52%であった。無孔領域は観察した画像において連続していた。また、PPS多孔質体の平均孔径は0.22μm、空孔率は48%であった。得られたPPS多孔質体の引張強度および水の透過流量を表1に示す。
[実施例3]
アミノ基末端PPSを35重量部、ポリエチレンテレフタレート65重量部、ブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテルを7重量部とした以外は実施例1と同様の方法でブロック共重合体を得た。また、得られたブロック共重合体をHFIPにて抽出処理した結果、ブロック共重合体中に含まれる未反応のポリエチレンテレフタレートは添加したポリエチレンテレフタレートに対して43重量%であった。次に実施例1と同様の方法で加水分解処理して多孔化したところ、加水分解処理前後のマクロな形態が変化しておらず、加水分解処理によるブロック共重合体の重量減少率は48重量%であった。
【0152】
走査型電子顕微鏡にてPPS多孔質体の表面を倍率1,300倍で観察したところ、多孔領域と無孔領域が共に観察され、観察した視野全体に対する多孔領域の平均面積率は58%であった。無孔領域は観察した画像において連続していた。また、PPS多孔質体の平均孔径は0.38μm、空孔率は62%であった。得られたPPS多孔質体の引張強度および水の透過流量を表1に示す。
[実施例4]
アミノ基末端PPSを65重量部、ポリエチレンテレフタレート35重量部、ブロモ化ビスフェノールAジグリシジルエーテルを7重量部とした以外は実施例1と同様の方法でブロック共重合体を得た。また、得られたブロック共重合体をHFIPにて抽出処理した結果、ブロック共重合体中に含まれる未反応のポリエチレンテレフタレートは添加したポリエチレンテレフタレートに対して26重量%であった。次に実施例1と同様の方法で加水分解処理して多孔化したところ、加水分解処理前後のマクロな形態が変化しておらず、加水分解処理によるブロック共重合体の重量減少率は27重量%であった。
【0153】
走査型電子顕微鏡にてPPS多孔質体の表面を倍率1,300倍で観察したところ、多孔領域と無孔領域が共に観察され、観察した視野全体に対する多孔領域の平均面積率は41%であった。無孔領域は観察した画像において連続していた。また、PPS多孔質体の平均孔径は0.20μm、空孔率は39%であった。得られたPPS多孔質体の引張強度および水の透過流量を表1に示す。
[比較例1]
市販のPPS(東レ製“トレリナ(登録商標)E2088”)と、参考例1で調製した環式PPSオリゴマーをそれぞれ50重量部ずつ混合し、リップ間隔0.2mmに調整したT−ダイ付き二軸溶融混練機HK−25D(パーカーコーポレーション製)に供し、300℃で溶融製膜を実施した。ドラム温度を60℃とし、巻き取り速度を調整することにより、厚さ150μmのPPSポリマー/環状PPSオリゴマー混合物フィルムを作製した。得られたフィルムを直径5cmの円形状に切り出し、100℃のN−メチル−2−ピロリドン100mlに12時間浸漬し、環状PPSオリゴマーを溶解除去した。N−メチル−2−ピロリドン20mlで洗浄し、続いてイオン交換水で3回洗浄を繰り返した後、100℃で3時間真空乾燥してPPS多孔質フィルムを作製した。走査型電子顕微鏡にてPPS多孔質体の表面を倍率1,300倍で観察したところ、均一な多孔領域のみ観察され、実質的に無孔領域は存在しなかった。また、PPS多孔質体の平均孔径は0.002μm、空孔率は50%であった。得られたPPS多孔質体の引張強度および水の透過流量を表1に示す。水の透過流量は高いものの、引張強度が低かった。
[比較例2]
窒素置換したオートクレーブに市販のPPS(東レ製“トレリナ(登録商標)E2088”)を17重量部、ジエチレングリコールを10重量部、N−メチル−2−ピロリドンを73重量部投入し、250℃の加圧条件下で溶解した。この溶液をスリット型の口金を用いて235℃で吐出し、空気中を22mm通過した後、NMP60重量%の凝固浴中に導きPPSフィルムを得た。
【0154】
走査型電子顕微鏡にてPPS多孔質体の表面を倍率1,300倍で観察したところ、表面に空孔は観察されなかった。また、PPS多孔質体の平均孔径は6μm、空孔率は45%であった。得られたPPS多孔質体の引張強度および水の透過流量を表1に示す。引張強度は高いものの、透過流量が小さかった。
[比較例3]
二官能エポキシ樹脂を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法でPPS/ポリエチレンテレフタレートブレンドのプレスフィルムを作製し、アルカリ加水分解処理を行った。アルカリ処理における重量減少率は0重量%であり、また、加水分解処理前後のマクロな形態が変化していなかったことから、加水分解前のPPS−ポリエチレンテレフタレートブロック共重合体はPPSが海成分、ポリエチレンテレフタレートが島成分の海島構造であり、アルカリ処理後においてもポリエチレンテレフタレートが分解除去されなかった。
【0155】
走査型電子顕微鏡にてアルカリ処理後のプレスフィルムの表面を倍率1,300倍で観察したところ、表面および断面に空孔は観察されなかった。得られたPPS多孔質体の引張強度および水の透過流量を表1に示す。
【0156】
【表1】