特許第6319734号(P6319734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6319734色素増感型太陽電池用対向電極、これを用いた色素増感型太陽電池および色素増感型太陽電池用対向電極の製造方法。
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  • 特許6319734-色素増感型太陽電池用対向電極、これを用いた色素増感型太陽電池および色素増感型太陽電池用対向電極の製造方法。 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6319734
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】色素増感型太陽電池用対向電極、これを用いた色素増感型太陽電池および色素増感型太陽電池用対向電極の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20180423BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20180423BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20180423BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180423BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   H01G9/20 115A
   H01G9/20 115B
   B22F5/00 K
   B22F7/04 E
   B22F1/00 R
   H01B5/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-104015(P2013-104015)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-225376(P2014-225376A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2015年7月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591261026
【氏名又は名称】トーホーテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591282205
【氏名又は名称】島根県
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】菅原 智
(72)【発明者】
【氏名】叶野 治
(72)【発明者】
【氏名】竹中 茂久
(72)【発明者】
【氏名】金山 真宏
(72)【発明者】
【氏名】今若 直人
【審査官】 井原 純
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/053501(WO,A1)
【文献】 特開2006−302618(JP,A)
【文献】 特開2005−196982(JP,A)
【文献】 特開2013−020757(JP,A)
【文献】 特開2003−092111(JP,A)
【文献】 特開平11−350006(JP,A)
【文献】 特開2010−280951(JP,A)
【文献】 特開昭62−120403(JP,A)
【文献】 特開昭55−002741(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072568(WO,A1)
【文献】 特開平10−251713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
B22F 1/00
B22F 5/00
B22F 7/04
H01B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素増感型太陽電池において透明電極上に形成された酸化チタン層からなる負極と対向し、かつ曲げ性を有する色素増感型太陽電池用対向電極であって、
層状に結合された厚さ10〜50μmの金属多孔質層と、基板として使用される厚
さ10〜50μmかつシート状金属緻密層のみから構成され、
前記金属多孔質層を構成する金属粒子が相互に金属結合で結合され、
前記金属多孔質層と前記シート状金属緻密層が金属結合で結合され、
前記金属多孔質層は、前記シート状金属緻密層上に凸状に形成され、
前記金属多孔質層と前記シート状金属緻密層の厚みの比が0.9〜1.1であり
前記金属多孔質層の空隙率が30〜60%であり、
前記金属多孔質層と前記シート状金属緻密層はチタンまたはチタン合金であ
ことを特徴とする曲げ性を有する色素増感型太陽電池用対向電極。
【請求項2】
前記シート状金属緻密層の空隙率が1%以下であることを特徴とする請求項1に記載の曲げ性を有する色素増感型太陽電池用対向電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池用対向電極を有することを特徴とする曲げ性を有する色素増感型太陽電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の曲げ性を有する色素増感型太陽電池用対向電極の製造方法であって、
金属粒子とバインダーとを含むペーストを、厚さ10〜50μmの緻密な金属シート上に塗布し、
これを焼結して、前記金属粒子からなる厚さ10〜50μmで空隙率30〜60%の金属多孔質層と前記金属シートからなる金属緻密層とを有し前記金属多孔質層と前記金属緻密層の厚みの比が0.9〜1.1である構造とするとともに、前記金属粒子同士を金属結合させ、前記金属多孔質層と前記金属緻密層とを金属結合させることを特徴とする曲げ性を有する色素増感型太陽電池用対向電極の製造方法。
【請求項5】
ガラス板と、前記ガラス表面にコーティングした透明導電膜と、前記透明導電膜上に載置した酸化チタン粒子層と、前記酸化チタン粒子表面に吸着させた色素からなる負極とを有し、前記負極と前記対向電極との間に電解液を封止したことを特徴とする請求項3に記載の曲げ性を有する色素増感型太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の金属複合体、これを用いた色素増感型太陽電池用対向電極と色素増感型太陽電池およびシート状金属複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、再生可能エネルギーの一つとして多岐に亘り検討されている。前記の太陽電池の中には、化合物半導体を利用したものや、単結晶または多結晶のシリコンを用いたもの、色素増感太陽電池、有機系の太陽電池等、構造、性能、用途の異なる何種類かのタイプがある。
【0003】
前記した太陽電池のうち色素増感太陽電池は、化合物半導体やシリコン系の太陽電池に比べて電池構成が簡素であり、製造に大掛かりな装置を必要としないことから、コストの点で有利であると考えられている。
【0004】
色素増感太陽電池は、光電極基板、電解質および対抗電極基板から構成されている(例えば、非特許文献1参照)。光電極基板では、光エネルギーを受けてTiOに付着している色素が励起され、電子を発生する。この電子は、酸化チタンに注入され、酸化チタンに装着されている透明導電性基板を経由して外部回路に電流が流れて、電流回路に接続された負荷に対して仕事をした後、対向電極基板に電子が戻り、対向電極基板で電解液を還元する、という循環回路を形成している。
【0005】
前記した光電極基板は、一般的には、透明電極層で構成されている場合が多いが、透明電極層は高価であり、コストの点でも改善の余地が求められている。
【0006】
前記したようなコストの低減という課題を解決することを目的として、種々の解決手段が以下に述べるように、公知文献に開示されている。まず、色素増感太陽電池の光電極基板としては、透明導電性ガラスの下にTi/TiOの複合板を使用したもの(例えば、特許文献1参照)や、Ti板の替わりに孔の開いたTi板(Ti多孔体)を使用する技術などが提唱されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0007】
また、対向電極基板としては、ガラスなどの基板に白金(Pt)をコーティングしたものが用いられる。白金は電子を電解液に伝達し電解液を還元する効率を高めるための触媒作用と、導電作用を担っている。導電性は厚みに依存するので、ある程度の厚さが必要となるが、白金は高価であるために白金以外の金属を用いてコストダウンをすることが報告されている。Pt以外の板状の金属板として開口部付きのチタン板を透明基板と共に用いることで、対向基板側から太陽エネルギーを受光する構造(例えば、特許文献4参照)も報告されている。
【0008】
更には、金属チタンとTiOを対向電極に用いた色素増感太陽電池も提案されている(例えば、特許文献5参照)。また、対向電極にチタン板を用いた場合には前記チタン基板に形成された凹凸が電子授受の触媒サイトの役割を担っている、との報告もある(例えば、非特許文献2参照)。
【0009】
対向電極基板として金属粒子と導電性接合材料、触媒部を接合させた複合材料を用いることも提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【0010】
色素増感太陽電池の長期安定性を考えた時に、電解液のシーリングも重要な要素である。受光側は光電極基板で封止し、対向電極側は対向電極基板で封止し、側面は封止材でそれぞれシーリング処理を行い、太陽電池の内部に仕込んだ電解液が長期間にわたって漏れないような製造がされている。しかしながら、色素増感太陽電池の場合は、シリコン系の太陽電池と比較して長期安定性に欠けると言われる。これは、内部に電解液を封入していて、そのシーリングの長期信頼性の点で実績がない、というのが実態と思われる。
【0011】
このように色素増感太陽電池は、シリコン系の太陽電池に比べてコストは安いものの、一層のコスト低減が求められていること、電解液の液漏れに対して、長期安定性という観点からの実績がない、等、改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−048594号公報
【特許文献2】WO2009/075107号公報
【特許文献3】WO2010/109785号公報
【特許文献4】特開2010−055935号公報
【特許文献5】特開2006−286534号公報
【特許文献6】特開2010−21102号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ULVAC TECHNICAL JOURNAL、No.70(2009)、P.1、永田智啓ら
【非特許文献2】表面技術、Vol.59(2008)、P.633、村中武彦ら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、色素増感太陽電池の対向電極基板に係るもので、本発明の目的は、特に、電解質に対する耐漏れ性を担保しつつ、安価で優れた変換効率を生起することができる対向電極基板用の部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる実情に鑑み前記課題について鋭意検討を進めたところ、金属緻密層と金属多孔質の薄膜を層状に組み合わせた複合材を対向電極基板として使用することにより、液漏れがなく、しかも変換効率が高く、かつ、製造コストの低い色素増感太陽電池を構成できることを見出し本願発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本願発明に係る色素増感型太陽電池用対向電極は、色素増感型太陽電池において透明電極上に形成された酸化チタン層からなる負極と対向し、かつ曲げ性を有する対向電極であって、層状に結合された厚さ10〜50μmの金属多孔質層と、基板として使用される厚さ10〜50μmのシート状金属緻密層のみから構成され、金属多孔質層を構成する金属粒子が相互に金属結合で結合され、金属多孔質層とシート状金属緻密層が金属結合で結合され、金属多孔質層は、シート状金属緻密層上に凸状に形成され、金属多孔質層とシート状金属緻密層の厚みの比が0.9〜1.1であり金属多孔質層の空隙率が30〜60%であり、金属多孔質層とシート状金属緻密層はチタンまたはチタン合金であることを特徴とするものである。
【0021】
本願発明に係るシート状金属複合体は、前記金属緻密層の空隙率が1%以下であることを好ましい態様とするものである。
【0022】
本願発明に係るシート状金属複合体は、前記金属多孔質層と金属緻密層の厚みが、それぞれ10〜50μmの範囲にあることを好ましい態様とするものである。
【0026】
本願発明に係る色素増感型太陽電池は、上述した特徴を有する本発明の対向電極を有していることを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の曲げ性を有する色素増感型太陽電池用対向電極の製造方法は、金属粒子とバインダーとを含むペーストを厚さ10〜50μmの緻密な金属シート上に塗布し、これを焼結して、金属粒子からなる厚さ10〜50μmで空隙率30〜60%の金属多孔質層と金属シートからなる金属緻密層とを有し金属多孔質層と金属緻密層の厚みの比が0.9〜1.1である構造とするとともに、金属粒子同士を金属結合させ、金属多孔質層と前記金属緻密層とを金属結合させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本願発明に係るシート状金属複合体を色素増感太陽電池の対向電極基板として使用することにより、耐液洩れ姓を維持しつつ、従来に比べて変換効率の高い色素増感太陽電池を安価に製造することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のシート状金属複合体を使用した色素増感型太陽電池を示す模式断面図である。
図2】本発明の別の好ましい態様のシート状金属複合体を使用した色素増感型太陽電池を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の最良の実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本願発明に係る対向電極を組み込んだ色素増感太陽電池の好ましい態様の一例を表している。本願発明に係る色素増感太陽電池の動作原理につき以下に説明する。
【0031】
図1に示す太陽電池は、ガラス板1、同ガラス表面にコーティングした透明導電膜2、同透明導電膜2上に載置した酸化チタン粒子層3、同酸化チタン粒子表面に吸着させた色素からなる負極、および金属緻密層6とこれに金属結合させた金属多孔質層5で構成された正極からなり、さらに、前記負極と正極との間に封止された電解液7から構成されている。
【0032】
太陽電池を構成するガラス板1を通過した太陽光は、透明導電膜2上に載置した酸化チタン粒子層2の表面に担持されている色素4を励起し、その際に、酸化チタン粒子層3と接液している電解液7中に溶解しているヨウ素イオン(I)をヨウ素イオン(I)まで還元されて前記酸化反応で電子を生成させる。
【0033】
前記の電子は、透明導電膜2を介して、外部回路8および外部負荷9を経た後、正極を構成する金属緻密層6を経由し、同金属緻密層6に接合された金属多孔質層5と接液している電解液7中のヨウ素イオン(I)をヨウ素イオン(I)まで酸化することができる。このようにして電池としての循環回路が形成される。
【0034】
前記したような電子の流れを形成することにより、前記太陽電池に結合させた外部負荷9に対して太陽光エネルギーを電気エネルギーとして供給することができる。
【0035】
次に、本願発明に係る正極の好ましい態様につき、以下に詳細に説明する。
本願発明に係る正極は、金属緻密層6と同金属緻密層6に金属結合している金属多孔質層5から構成される。
【0036】
金属緻密層6は、チタンあるいはチタン合金で構成されていることが好ましく、一般的に入手可能なチタンもしくはチタン合金の圧延箔が使用される。厚みは、10μm〜50μmの範囲に形成することが好ましい。
【0037】
金属緻密層6は、内部に保持した電解液を封止するべく、その空隙率は、1%以下であることが好ましい。例えば、市中で入手可能な金属圧延箔を本願発明に係る金属緻密層6として適用することができる。
【0038】
金属緻密層6は電子の輸送を担うので、電気抵抗の観点からある程度の厚みは必要であるが、現実的に圧延箔として入手可能な下限と思われる10μm程度の厚みの材料であれば電気伝導度の点では十分である。
【0039】
一方、金属緻密層6は、電解液7の封止性を考えると厚いほうが好ましいが、色素増感太陽電池としての意匠性や曲がり特性を考慮すると厚みに自ずと上限を設けた方が好ましく、その厚みは50μm以下とすることが好ましい。前記厚みが50μmを超えると曲がり特性が悪くなると新たな課題が発生する。
【0040】
金属緻密層6と金属多孔質層5のそれぞれの厚みは10〜50μmであることが好ましいが、この厚さ範囲内であっても、どちらか一方が極端に厚く、どちらか一方が極端に薄いことは好ましくない。金属緻密層6と金属多孔質層5とは金属結合により接合しているが、どちらか一方の厚みが大きく異なると界面に応力が発生し、そりの原因となる。金属緻密層6と金属多孔質層5の厚さの比は、0.9〜1.1が好ましい。
【0041】
また、前記金属多孔質層5は、金属緻密層6の上に層状に載置すると共に、金属多孔質層5からなる層は、空隙を含んだ構造であることが好ましく、その空隙率は、30%〜60%の範囲に構成しておくことがより好ましい。
【0042】
金属多孔質層5は電解液7と十分に接触する必要があり、前記空隙率は、30〜60%が好ましい範囲とされる。前記空隙率が30%未満の場合には、電解液との接触が十分ではなく、電解液への電子の伝達が不十分であり好ましくない。
【0043】
一方、空隙率が60%を超える場合には、電解質との接触という観点では十分であるが、多孔質層5を構成する金属粒子同士の連結性が低くなり、多孔質層の電気抵抗が高くなる、これは、金属緻密層6からの電子の流れを滞らせることとなり好ましくない。
【0044】
よって、本願発明に係る金属多孔質層5の空隙率は、30〜60%が好ましい範囲とされる。同範囲の空隙率を有する金属多孔質層5を正極に使用することで、触媒性能が改善され電解液7中に含まれるヨウ素イオンをIからIまで効率よく還元生成することができる、という効果を奏するものである。
【0045】
前記したような特性を有する金属緻密層6と金属多孔質層5を色素増感太陽電池の正極として組み込むことにより、従来の対向電極基板を使用した場合に比べて、優れた変換効率を有する色素増感太陽電池を安価に製造できる、という効果を奏するものである。
【0046】
金属多孔質層5の厚みは、10μm〜50μmの範囲に制御することが好ましい。前記したような厚みの金属多孔質層5を構成することにより、同金属多孔質層5中でのヨウ素イオンの還元反応を効率よく進めることができる、という効果を奏するものである。
【0047】
金属多孔質層5の厚みが10μm未満の場合には、陰極との極間距離が大きくなり、その結果、セル抵抗が増加して光変換効率が低下する傾向を示す。一方、金属多孔質層5の厚みが50μmを超える場合には、セル抵抗は減少するが、陰極との短絡の危険性が高まる。よって、金属多孔質層5の厚みは、10μm〜50μmの範囲に制御することが好ましいとされる。
【0048】
図2は、本願発明に係るシート状多孔質に係る別の好ましい態様を表している。当該実施態様においては、金属緻密層6の上に載置する金属多孔質層5を内部に向かって凸状に形成することを好ましい態様とするものである。このような異形の金属多孔質層5を設けることにより、極間距離を有効に制御することができセル抵抗を下げることができると、いう効果を奏するものである。
【0049】
前記したような特性を有する金属緻密層6と金属多孔質層5を色素増感型太陽電池の正極に組み込むことにより、従来の正極に比べて、変換効率の点で優れているのみならず、安価に色素増感型太陽電池を製造することができる、という効果を奏するものである。
【0050】
本願発明のシート状複合体を使用した色素増感太陽電池は、薄く曲げ性を有するものが製造可能となるので、矩形のみならず曲面を有するような形状の色素増感太陽電池も構成することができる、という効果を奏するものである。
【0051】
次に、本願発明に係る正極の製造方法に係る好ましい態様につき以下に説明する。
本願発明に係る正極は、金属緻密層6に対応した金属箔に金属粒子を分散させたペースト組成物を塗工した後、加熱してバインダー成分を揮発除去してから、800℃〜1200℃、真空雰囲気において加熱することにより金属緻密層6に載置した金属多孔質層5を製造することができる。
【0052】
この処理により前記ペースト組成物中に分散させた金属粒子同士の焼結が進み、3次元的な網目構造を有する金属多孔質層5を得ることができる。また、金属多孔質層5と金属箔からなる金属緻密層6との拡散接合を促進させることもできる。
【0053】
結果として、金属多孔質層5と金属緻密層6が金属結合され、本願発明に係る一体的に構成されたシート状金属複合体を得ることができる。
【0054】
また、金属多孔質層5の空隙率は30%〜60%の範囲になるように構成することが好ましいが、原料チタン粉末またはチタン合金粉末の粒径、ペースト中に配合する金属チタン粒子とバインダーの混合比率、加熱温度を最適に調整することにより、得られる金属多孔質層5の空隙率を制御することができる。
【0055】
以上述べたように、本願発明に係るシート状金属複合体を色素増感太陽電池の正極として採用した場合に、従来の太陽電池と同等以上の変換効率を有する色素増感太陽電池を安価に提供することができるという効果を奏するものである。
【実施例】
【0056】
[実施例1]
1)チタンペースト作製
平均粒径20μm、最大粒径30μmのチタン粉と、エチルセルロース、アクリル樹脂、ターピオネールの混合物からなるバインダー成分とを量比(Vol.%)75%:25%で混合してチタンペーストを作製した。
【0057】
2)チタンペースト塗工
上記チタンペーストをスクリーン印刷機を用いて、厚さ35μmのチタン圧延箔上に塗工した。このとき塗工厚みは、40μmとした。
【0058】
3)加熱処理
チタン圧延箔に塗工したチタンペーストを150℃で乾燥した後、350℃、大気雰囲気で熱処理しバインダー成分を除去した。その後、真空雰囲気、950℃で2Hr処理してチタン箔とチタン焼結体の複合体を得た。焼結体の厚みは35μmであり、空隙率は45%であった。
【0059】
4)色素増感太陽電池の製造と評価
前記3)の加熱処理で得られたシート状チタン複合体を対向電極基板として、図1に示す色素増感太陽電池を製造した。シート状チタン複合体を使用しない従来の色素増感太陽電池のシート抵抗、変換効率、製造コストをそれぞれ指数100で表現すると、セル抵抗は91、変換効率は102、製造コストは60であった。
【0060】
[実施例2]
実施例1において、燒結温度を900℃とした以外は実施例1と同じ条件で、チタン箔とチタン焼結体の複合体を得た。焼結体の厚みは36μmであり、空隙率は55%であった。このシート状チタン複合体を対向電極基板とする色素増感太陽電池を製造した。シート状チタン複合体を使用しない従来の色素増感太陽電池のシート抵抗、変換効率、製造コストをそれぞれ指数100で表現すると、セル抵抗は90、変換効率は102、製造コストは62であった。
【0061】
[実施例3]
実施例1において、チタンペースト塗工物の加熱処理温度を1050℃とした以外は実施例1と同じ条件で、チタン箔とチタン焼結体の複合体を得た。焼結体の厚みは34μmであり、空隙率は35%であった。このシート状チタン複合体を対向電極基板とする色素増感太陽電池を製造した。シート状チタン複合体を使用しない従来の色素増感太陽電池のシート抵抗、変換効率、製造コストをそれぞれ指数100で表現すると、セル抵抗は92、変換効率は101、製造コストは61であった。
【0062】
[比較例1]
実施例1において、チタンペースト塗工物の加熱処理温度を700℃とした以外は実施例1と同じ条件で、チタン箔とチタン焼結体の複合体を得た。チタン焼結体のチタン粒子同士は接合しているものの、チタン箔とチタン焼結体の結合強度は不十分で金属結合していないようであった。焼結体の厚みは37μmであり、空隙率は65%であった。このシート状チタン複合体を対向電極基板とする色素増感太陽電池は、多孔質膜が安定でなく、洗浄、その他作業中に剥離する傾向が見られ、太陽電池用電極としては不適切であった。
【0063】
[比較例2]
実施例1において、チタンペーストの塗工厚みを60μmとした以外は実施例1と同じ条件で、チタン箔とチタン焼結体の複合体を得た。焼結体の厚みは51μmであり、空隙率は45%であった。このシート状チタン複合体は、多孔質層側が凹となるわずかな反りが生じていたが、作業中に剥離する等の不都合は生じなかったので、このシート状チタン複合体を対向電極基板とする色素増感太陽電池を製造したが、電極が短絡してしまい、電池性能が全く発現しなかった。
【0064】
[比較例3]
実施例1において、チタン箔の厚さを55μmとした以外は実施例1と同じ条件で、チタン箔とチタン焼結体の複合体を得た。焼結体の厚みは35μmであり、空隙率は45%であった。このシート状チタン複合体は、多孔質層側が凸となるわずかな反りが生じていたが、作業中に剥離する等の不都合は生じなかった。
しかしながら、この太陽電池は、対向電極基板としての柔軟性がなく、意匠性を十分に発揮することが出来なかった。
【0065】
[比較例4]
実施例1で用いたチタンペーストをポリエチレンフィルム(PET)上に塗工し、乾燥後チタン成形体をPETフィルムから剥離し、チタン成形体のみを脱脂処理、真空燒結処理し、厚さ35μm、空隙率45%のチタン多孔質膜を得た。
このチタン多孔質膜を単層で対向電極基板として色素増感太陽電池を製造したが、電解液の漏洩が生じ、太陽電池としての耐久性を確保できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本願発明は色素増感太陽電池の対向電極基板に関するものであり、従来に比べて、同等以上の変換効率である色素増感太陽電池を安価に提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…ガラス板、
2…透明導電膜、
3…酸化チタン粒子層、
4…色素、
5…金属多孔質層、
6…金属緻密層、
7…電解液、
8…外部回路、
9…外部負荷。


図1
図2