(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6319985
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】光モジュール及び光モジュール製造方法。
(51)【国際特許分類】
G02B 6/12 20060101AFI20180423BHJP
G02B 6/13 20060101ALI20180423BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
G02B6/12 341
G02B6/12 301
G02B6/13
G02B5/28
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-213744(P2013-213744)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-75734(P2015-75734A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108501
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】徳成 正雄
(72)【発明者】
【氏名】中川 茂
(72)【発明者】
【氏名】平 洋一
【審査官】
山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】
英国特許出願公開第02478912(GB,A)
【文献】
特開2012−225953(JP,A)
【文献】
特開2007−164109(JP,A)
【文献】
特開2004−309838(JP,A)
【文献】
特開2009−069360(JP,A)
【文献】
特開2002−207181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12−6/13,6/26
G02B 5/28
H01S 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に設けられた少なくとも1つの光導波路に、前記基板の表面に対して垂直な面及び傾斜した面から成る複数の溝を形成することと、
複数の異なる波長の光のうちの対応する波長の光をそれぞれが反射する複数の光選択フィルターを、前記複数の溝の前記傾斜した面に対応させて形成することと、
を含み、
前記複数の光選択フィルターを前記複数の溝の前記傾斜した面に対応させて形成することは、複数のDBR(Distributed Bragg Reflector:分布ブラッグ反射)フィルターを前記複数の溝の前記傾斜した面に対応させて形成することであり、
前記複数のDBRフィルターを前記複数の溝の前記傾斜した面に対応させて形成することは、前記複数の溝の各々の大きさに対応する開口が1つ形成されたマスクを用いて、順次、前記マスクの前記開口を前記複数の溝の各々に位置合わせし、前記複数の溝の前記傾斜した面に前記DBRフィルターを蒸着することを含む、光モジュール製造方法。
【請求項2】
前記光導波路の前記複数の溝に位置合わせして、前記光導波路の上に前記複数の異なる波長の光にそれぞれ対応した複数の発光及び受光素子対を設けることをさらに含む、請求項1に記載の光モジュール製造方法。
【請求項3】
前記複数の溝を形成することは、前記基板の表面に対して垂直な面及び45度に傾斜した面から成る複数の溝を形成することである、請求項1又は2に記載の光モジュール製造方法。
【請求項4】
基板の表面に設けられた少なくとも1つの光導波路に、前記基板の表面に対して垂直な面及び傾斜した面から成る複数の溝を形成することと、
複数の異なる波長の光のうちの対応する波長の光をそれぞれが反射する複数の光選択フィルターを、前記複数の溝の前記傾斜した面に対応させて形成することと、
を含み、
前記複数の光選択フィルターを前記複数の溝の前記傾斜した面に対応させて形成することは、複数のDBR(Distributed Bragg Reflector:分布ブラッグ反射)フィルターを前記複数の溝の前記傾斜した面に対応させて形成することであり、
前記複数のDBRフィルターを前記複数の溝の前記傾斜した面に対応させて形成することは、前記複数の溝の各々に対して位置合わせされ大きさが対応する複数の開口が形成された第1マスクと、全ての前記複数の溝をカバーする大きさの開口及びそれぞれ全ての前記複数の溝から溝を1つずつ少なくカバーして1つの溝をカバーするまでの異なる大きさの複数の開口が形成された第2マスクとを用いて、前記第1マスクは前記複数の開口をそれぞれ前記複数の溝に位置合わせして固定し、前記第2マスクは順次前記複数の開口の各々を移動させて前記第1マスクの前記複数の開口の各々に一回ずつ位置合わせし、前記複数の溝の前記傾斜した面に前記DBRフィルターを蒸着することを含む、光モジュール製造方法。
【請求項5】
前記光導波路の前記複数の溝に位置合わせして、前記光導波路の上に前記複数の異なる波長の光にそれぞれ対応した複数の発光及び受光素子対を設けることをさらに含む、請求項4に記載の光モジュール製造方法。
【請求項6】
前記複数の溝を形成することは、前記基板の表面に対して垂直な面及び45度に傾斜した面から成る複数の溝を形成することである、請求項4又は5に記載の光モジュール製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信技術に関し、特に光導波路に対して波長多重の光信号を入出力する光モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術、特に従来の光MCM(Multi-Chip Module)では、信号帯域を増やすためにチャンネル数を増やす空間多重方式が採用されており、12チャンネル250μmピッチのVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)のような光送信のための発光素子とPD(Photo Diode)のような光受信のための受光素子のアレイが使用されることが多い。VCSEL/PDチップは12チャンネルの光導波路上に実装されるが、さらなる広帯域化のために24チャンネル125μmピッチ、48チャンネル62.5μmピッチと高密度化していくことが考えられる。
【0003】
光導波路は光ファイバーに接続されることが想定される。従って、現状使用されている光ファイバーのクラッド径が125μmであることを考えると、高密度化は125μmピッチが限界である。光ファイバーの径を小さくすることにより125μmピッチの限界を乗り越えたとしても、一般的なマルチモード光ファイバーのコア幅35μmと光の染み出しを考えると、48チャンネル以上の高密度化は光導波路が1層では限界がある。また、光導波路を2層以上とすると、光ビームの広がりによる接続損失が深刻な問題になる。
【0004】
図1に、従来の空間多重方式で高密度化した光モジュール100の概略的な上平面図を示す。基板105の表面に複数の光導波路110が高密度に配置されている。各光導波路110の一端に、例えば光を水平方向から垂直方向に反射して変える45度に傾斜したミラーのような反射手段で実施され得る1つの光入出力部115が、横並びにしないで離して設けられ、各光入出力部115に対して入力及び出力用の電気パッド120がそれぞれ2つ設けられて、VCSEL/PDチップ125が構成されている。光導波路110が35μm幅で且つ62.5μmピッチで配列されるのであれば、光導波路110間のスペースは27.5μmとなる。光の染み出しも考慮すると、光導波路110の配列に影響を与えないように電気パッド120から電気配線することは困難である。
【0005】
非特許文献1には、1本の光ファイバーにつき4つの波長を有する並列な12本の光ファイバーのリボンにより10.42Gbpsの48チャネルデータ伝送をする、500Gbpsの並列波長分割多重(PWDM:Parallel Wavelength Division Multiplexing)光相互接続が示されている。高密度化のため粗い波長多重を用いてVCSELやPDと光ファイバーとを接続しているが、その光相互接続では光の伝播を反射だけで制御していて、光の伝播を導波路で制御する構造は存在せず、送信機と受信機のそれぞれで挿入損失(受発光から光ファイバーまでの損失)は6−8dBと大きい。
【0006】
特許文献1には、表面に複数の受光素子が形成され裏面に複数のV溝が形成された光透過性の材料から成る第1の基板と、第1の基板と同屈折率の光透過性の材料から成りV溝と嵌合する形状の複数の凸部が表面に形成された第2の基板が、それぞれV溝と凸部を嵌合して接合することにより一体に成形され、嵌合されたV溝と凸部を横切って通る波長多重の光は、各V溝の一方の斜面に形成された無反射膜では反射せずに通過し、各V溝の他方の斜面に形成されたバンドリジェクションフィルターでは対応する波長の光だけが反射して第1の基板中を通り受光素子に入るようにした、光受信器が示されている。光は第1の基板と第2の基板の中を伝播するが、第1の基板と第2の基板は光導波路自体ではないので、光が伝播するには各V溝の一方の斜面に無反射膜を形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−257476号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】B.E. Lemoff etal., 500-Gbps Parallel-WDM Optical Interconnect, in Proceedings ElectronicComponents and Technology Conference, Vol.2, 2005, pp.1027-1031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、空間多重方式によるチャネル密度の限界を超えてチャネル数を増やし高密度化することができる光通信技術の実現を目的とする。本発明の目的には、光導波路に対して波長多重の光信号を入出力する光モジュール及びその製造方法の提供が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明により提供される1実施態様の光モジュールは、基板の表面に設けられた少なくとも1つの光導波路と、基板の表面で光導波路に設けられ、基板の表面に対して垂直な面及び傾斜した面から成る複数の溝と、光導波路の複数の溝に位置合わせされ、光導波路の上に複数の異なる波長の光にそれぞれ対応して設けられた、複数の発光及び受光素子対と、光導波路の複数の溝の傾斜した面に設けられ、それぞれ、対応する発光及び受光素子対の発光素子からの対応する波長の光を反射して光導波路に入れ、光導波路を伝播する伝播光から対応する波長の光を選択して対応する発光及び受光素子対の受光素子に反射する、複数の光選択フィルターとを含む。
【0011】
好ましくは、複数の異なる波長の光は、少なくとも20nmの波長間隔を有する異なる波長の光であると良い。
【0012】
好ましくは、傾斜した面は、基板の表面に対して45度に傾斜した面であると良い。
【0013】
好ましくは、光選択フィルターは、DBR(Distributed Bragg Reflector:分布ブラッグ反射)フィルターであると良い。
【0014】
好ましくは、複数の発光及び受光素子対は、それぞれ対応する複数の光選択フィルターの反射面に対向して設けられていると良い。
【0015】
好ましくは、複数の溝及び複数の光選択フィルターは、光透過性のアンダーフィルで覆われていると良い。
【0016】
本発明により提供される1実施態様の光モジュール製造方法は、基板の表面に設けられた少なくとも1つの光導波路に、基板の表面に対して垂直な面及び傾斜した面から成る複数の溝を形成することと、複数の異なる波長の光のうちの対応する波長の光をそれぞれが反射する複数の光選択フィルターを、複数の溝の傾斜した面に対応させて形成することとを含む。
【0017】
好ましくは、光モジュール製造方法は、光導波路の複数の溝に位置合わせして、光導波路の上に複数の異なる波長の光にそれぞれ対応した複数の発光及び受光素子対を設けることをさらに含むと良い。
【0018】
好ましくは、複数の溝を形成することは、基板の表面に対して垂直な面及び45度に傾斜した面から成る複数の溝を形成することであると良い。
【0019】
好ましくは、複数の光選択フィルターを複数の溝の傾斜した面に対応させて形成することは、複数のDBR(Distributed Bragg Reflector:分布ブラッグ反射)フィルターを複数の溝の傾斜した面に対応させて形成することであると良い。
【0020】
好ましくは、複数のDBRフィルターを複数の溝の傾斜した面に対応させて形成することは、複数の溝の各々の大きさに対応する開口が1つ形成されたマスクを用いて、順次、マスクの開口を複数の溝の各々に位置合わせし、複数の溝の傾斜した面にDBRフィルターを蒸着することを含むと良い。
【0021】
好ましくは、複数のDBRフィルターを複数の溝の傾斜した面に対応させて形成することは、複数の溝の各々に対して位置合わせされ大きさが対応する複数の開口が形成された第1マスクと、全ての複数の溝をカバーする大きさの開口及びそれぞれ全ての複数の溝から溝を1つずつ少なくカバーして1つの溝をカバーするまでの異なる大きさの複数の開口が形成された第2マスクとを用いて、第1マスクは複数の開口をそれぞれ複数の溝に位置合わせして固定し、第2マスクは順次複数の開口の各々を移動させて第1マスクの複数の開口の各々に一回ずつ位置合わせし、複数の溝の傾斜した面にDBRフィルターを蒸着することを含むと良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、空間多重方式によるチャネル密度の限界を超えてチャネル数を増やし高密度化することができる光通信技術が実現される。特に、光導波路に対して波長多重の光信号を入出力する光モジュール及びその製造方法が提供され、光導波路の数を増やさなくても、光信号の帯域を各光導波路で波長の数分だけ増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来の空間多重方式で高密度化した光モジュールの構造を概略的に示す上平面図である。
【
図2】本発明の1実施形態に係る光モジュールの構造を概略的に示す上平面図である。
【
図3】本発明の1実施形態に係る光モジュールの構造を概略的に示す側断面図である。
【
図4】(A)は
図3の構造の一部を拡大して示す側断面図であり、(B)は(A)の構造の一部を拡大して示す側断面図である。
【
図5】(A)〜(E)は本発明の1実施形態に係る光モジュール製造方法のマスク操作を概略的に示す図である。
【
図6】(A)〜(F)は本発明の1実施形態に係る光モジュール製造方法の他のマスク操作を概略的に示す図である。
【
図7】
図6の他のマスク操作を実施するのに使用する装置を概略的に示す図である。
【
図8】本発明の1実施形態に係る光モジュールに使用されるDBRフィルターの波長に対する反射率の一例を示すグラフである。
【
図9】本発明の1実施形態に係る光モジュールに使用されるDBRフィルターの反射及び透過による損失の1例を示すグラフと表である。
【
図10】本発明の1実施形態に係る光モジュールに使用されるDBRフィルターの反射及び透過による損失の他の1例を示すグラフと表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、記載された実施形態の内容に限定して解釈されるべきではない。なお、実施形態の説明の全体を通じて同じ構成部分乃至構成要素には同じ番号を付している。
【0025】
図2に、本発明の1実施形態に係る光モジュール200の概略的な上平面図を示す。光モジュール200では、
図1の光モジュール100に比べて、複数の光導波路210は基板205の表面に適切な間隔でもって配置される。これは、例えば
図2に示すように1つの光導波路210において4波長で多重化した光信号を伝送するので、1波長の光信号を伝送する光モジュール100における光導波路110の間隔程までに光導波路210の間隔を狭くする必要がないからである。
【0026】
光モジュール200は、各光導波路210にそれぞれ4つのVCSEL/PDチップ225が設けられる構成をなす。各VCSEL/PDチップ225は、波長が異なるため、各光導波路210を横切り平行に並べて設けられ、各光導波路210に対する光入出力部215は横に並んでいる。光入出力部215は、後で説明されるように、光導波路210に溝を形成してその溝に配置する光選択フィルターで実施される。
図1の光モジュール100のように光入出力部115を横並びにしないで離して設けるとなると、光導波路110に反射手段を配置するための溝は、例えばレーザーアブレーションなどで個別に形成しなければならないが、光モジュール200では光入出力部215は横並びに設けられるので、光選択フィルターを配置するための溝は、例えばダイシングなどにより一括して形成することができる。また、各VCSEL/PDチップ225には、各光入出力部215に対して入力及び出力用の電気パッド220がそれぞれ2つ設けられている。各電気パッド220は光導波路210の間に光導波路210を貫通せず支障なく設けることができる。
【0027】
図1の1波長の光信号を伝送する光モジュール100では、62.5μmピッチで250μm幅に4つの光導波路110を設けることで4チャネルを達成するのに対して、4波長多重の光信号を入出力する光モジュール200では、250μm幅に1つの光導波路210を設けることで4チャネルを達成する。光モジュール200は、空間多重方式によるチャネル密度の限界を超えてチャネル数を増やし高密度化することができるだけでなく、光入出力部215の形成を簡単にして、電気パッド220を有するVCSEL/PDチップ225の配置を容易にすることができる。
【0028】
図3に、本発明の1実施形態に係る光モジュール300の概略的な側断面図を示す。光モジュール300でも、複数の光導波路310は基板305の表面に適切な間隔でもって配置される。光導波路310は、例えば35μmサイズのコア315とクラッド320から成る。各光導波路310には、基板305の表面に対して垂直な面及び傾斜した面から成る溝325が、光信号の多重化する波長の数に対応して複数設けられる。例えば、940nm、980nm、1020nm及び1060nmの波長で多重化するとすると、各光導波路310には4つの溝325が形成される。
【0029】
光導波路310の上には、それら4つの異なる波長の光にそれぞれ対応して、4つの発光及び受光素子対である例えばVCSEL/PDチップ335a(940nm)、335b(980nm)、335c(1020nm)、335d(1060nm)が、光導波路310の4つの溝325に位置合わせされ設けられる。4つの溝325の傾斜した面には、それぞれ、4つの光選択フィルターであるDBRフィルター330a、330b、330c、330dが設けられる。4つのDBRフィルター330a−330dは、対応するVCSEL/PDチップ335a−335dの発光素子であるVCSELから出て当たる対応する波長の光を反射して光導波路310に入れ、光導波路310を伝播し溝325の垂直な面を出て当たる伝播光から対応する波長の光を選択して対応するVCSEL/PDチップ335a−335dの受光素子であるPDに反射する。
【0030】
特に、940nm、980nm、1020nm及び1060nmの波長で多重化した光信号が入力されるとする。DBRフィルター330dは、光導波路310を右側から伝播し溝325の垂直な面を出て当たる伝播光から対応する1060nmの波長の光を反射し、残りの940nm、980nm及び1020nmの波長の光を通す。DBRフィルター330cは、光導波路310を右側から伝播し溝325の垂直な面を出て当たる伝播光から対応する1020nmの波長の光を反射し、残りの940nm及び980nmの波長の光を通す。DBRフィルター330bは、光導波路310を右側から伝播し溝325の垂直な面を出て当たる伝播光から対応する980nmの波長の光を反射し、残りの940nmの波長の光を通す。DBRフィルター330aは、光導波路310を右側から伝播し溝325の垂直な面を出て当たる伝播光から対応する940nmの波長の光を反射する。
【0031】
逆に、940nm、980nm、1020nm及び1060nmの波長で多重化した光信号が出力されるとする。DBRフィルター330aは、VCSEL/PDチップ335aから出て当たる対応する940nmの波長の光を反射して光導波路310に入れる。DBRフィルター330bは、光導波路310を左側から伝播する940nmの波長の光を通し、またVCSEL/PDチップ335bから出て当たる対応する980nmの波長の光を反射し、940nm及び980nmの波長の光を光導波路310に入れる。DBRフィルター330cは、光導波路310を左側から伝播する940nm及び980nmの波長の光を通し、またVCSEL/PDチップ335cから出て当たる対応する1020nmの波長の光を反射し、940nm、980nm及び1020nmの波長の光を光導波路310に入れる。DBRフィルター330dは、光導波路310を左側から伝播する940nm、980nm及び1020nmの波長の光を通し、またVCSEL/PDチップ335dから出て当たる対応する1060nmの波長の光を反射し、940nm、980nm、1020nm及び1060nmの波長の光を光導波路310に入れる。
【0032】
VCSEL/PDチップ335a−335dにはそれぞれ電気接続のための配線340が設けられるが、配線340は光導波路310を貫通するようなことはない。光導波路310を伝播する伝播光は溝325の垂直な面を通って出るので、そこでの伝播光の反射は小さく、反射による損失を抑えることができ、無反射膜などの光学フィルターをさらに用いる必要はない。溝325及びDBRフィルター330a−330dは、光透過性のアンダーフィル345で覆われている。伝播光は、溝325の垂直な面を通って出るときに、空気中ではなくてアンダーフィル345中に入るようにすると、光の発散を抑えてさらに損失を減らせる。
【0033】
図4の(A)に、
図3の光モジュール300の一部を拡大した側断面図を示す。溝325は、基板305の表面に対して垂直な面326及び傾斜した面327から成る。傾斜した面327の傾斜角αは好ましくは45度であると良い。
図4の(B)に、DBRフィルター330aを含む(A)の一部を拡大した側断面図を示す。
図4の(B)に示すように、DBRフィルター330a−330dは、例えば屈折率がn1である誘電体405と屈折率がn2である誘電体410とを交互に重ねた多層膜400から成る。誘電体405と誘電体410の境界面での多重反射光の干渉によって反射率に波長依存性ができる。誘電体405と誘電体410の1層ごとの厚さを変えることにより、反射率の波長依存性を変えることができる。例えば層の厚さを厚くすると、より長い波長を反射するようになる。
【0034】
図5の(A)〜(E)に、本発明の1実施形態に係る光モジュール製造方法のマスク操作を概略的に示す。左側には側断面図が、そして右側にはマスクの上平面図がそれぞれ示されている。(A)では、基板305の表面に設けられた少なくとも1つの光導波路310に、基板305の表面に対して垂直な面及び傾斜した面から成る4つの溝325が形成される。好ましくは、溝325の傾斜した面は45度に傾斜して形成されると良い。(B)〜(E)では、4つの異なる波長の光のうちの対応する波長の光をそれぞれが反射する4つの光選択フィルターであるDBRフィルター330a−330dが、4つの溝325の傾斜した面に対応させて形成される。
【0035】
(B)では、DBRフィルター330aを形成するために、溝325の大きさに対応する開口510が1つ形成されたマスク505を用いて、DBRフィルター330aを形成する溝325に位置合わせし、溝325の傾斜した面にDBRフィルター330aを蒸着する。蒸着の際は、溝325の垂直な面にDBRフィルターの誘電体が付着しないように全体を少し傾ける。(C)では、マスク505を移動して開口510をDBRフィルター330bを形成する溝325に位置合わせし、溝325の傾斜した面にDBRフィルター330bを蒸着する。(D)では、マスク505をさらに移動して開口510をDBRフィルター330cを形成する溝325に位置合わせし、溝325の傾斜した面にDBRフィルター330cを蒸着する。(E)では、マスク505をさらに移動して開口510をDBRフィルター330dを形成する溝325に位置合わせし、溝325の傾斜した面にDBRフィルター330dを蒸着する。
【0036】
図5には示していないが、好ましくは、光導波路の4つの溝325に位置合わせして、光導波路310の上に4つの異なる波長の光にそれぞれ対応した4つの発光及び受光素子対であるVCSEL/PDチップ335a−335dを設けると良い。
【0037】
図6の(A)〜(F)に、本発明の1実施形態に係る光モジュール製造方法の他のマスク操作を概略的に示す。左側には側断面図が、そして右側にはマスクの上平面図がそれぞれ示されている。
図5と同様に、(A)では、基板305の表面に設けられた少なくとも1つの光導波路310に、基板305の表面に対して垂直な面及び傾斜した面から成る4つの溝325が形成される。そして、好ましくは、溝325の傾斜した面は45度に傾斜して形成されると良い。(B)〜(F)では、4つの異なる波長の光のうちの対応する波長の光をそれぞれが反射する4つの光選択フィルターであるDBRフィルター330a−330dが、4つの溝325の傾斜した面に対応させて形成される。
【0038】
(B)では、4つの溝325の各々に対して位置合わせされ大きさが対応する4つの開口610が形成された第1マスク605を、4つの開口610をそれぞれ4つの溝325に位置合わせして固定する。(C)では、全ての4つの溝325をカバーする大きさの開口620及びそれぞれ全ての4つの溝325から溝325を1つずつ少なくカバーして1つの溝325をカバーするまでの異なる大きさの3つの開口625、630、635が形成された第2マスク615を、固定した第1マスク605の上に、第2マスク615の開口620に全ての4つの開口610が入るように位置合わせして、全ての4つの溝325の傾斜した面にDBRフィルター330aの形成に必要な誘電体を蒸着する。(D)では、第2マスク615を移動させて、固定した第1マスク605におけるDBRフィルター330aの形成位置の1つの開口610を覆う第2マスク615の開口625に残りの3つの開口610が入るように位置合わせして、残りの3つの溝325の傾斜した面にDBRフィルター330bの形成に必要な誘電体をさらに蒸着する。(E)では、第2マスク615をさらに移動させて、固定した第1マスク605におけるDBRフィルター330a−330bの形成位置の2つの開口610を覆う第2マスク615の開口630に残りの2つの開口610が入るように位置合わせして、残りの2つの溝325の傾斜した面にDBRフィルター330cの形成に必要な誘電体をさらに蒸着する。(F)では、第2マスク615をさらに移動させて、固定した第1マスク605におけるDBRフィルター330a−330cの形成位置の3つの開口610を覆う第2マスク615の開口635に残りの1つの開口610が入るように位置合わせして、残りの1つの溝325の傾斜した面にDBRフィルター330dの形成に必要な誘電体をさらに蒸着する。(C)〜(F)の誘電体の蒸着を繰り返してDBRフィルター330a−330dの多層膜400を形成する。
【0039】
図7に、
図6のマスク操作を実施するのに使用する装置700を概略的に示す。誘電体の蒸着は真空チャンバー705内で行われる。真空チャンバー705内では、誘電体の蒸着源710から誘電体物質が上方に位置する光導波路310へ放出される。第2マスク615をXYステージ715で移動させて、光導波路310の上に固定した第1マスク605の開口610に対して第2マスク615の開口620、625、630、635をそれぞれ位置合わせする。XYステージ715はステージコントローラ720で制御する。このように、第1マスク605の開口610と第2マスク615の開口620、625、630、635との位置合わせは、XYステージ715をステージコントローラ720で制御することで迅速に行え、誘電体の蒸着を効率良く繰り返してDBRフィルター330a−330dの多層膜400を形成することができる。
【0040】
図8に、光モジュール300に使用されるDBRフィルター330a−330dについての波長に対する反射率の一例のグラフを示す。DBRフィルター330a−330dの特性として、特定の波長付近で反射率が高く、それ以外の波長域では反射率が低くなるようなフィルターを例に挙げて示したが、特定の波長に対して反射率の高いフィルターには、それより長い波長の光は通らない構造になっているため、フィルター特性は、
図8に示すように、用いる波長、例えば1000nmを境にその前後の波長間にステップがあり、長波長側では反射率が高く、短波長側では反射率が低いものであれば良い。VCSEL/PDチップの配置が示した例と逆の場合は、上記と逆のフィルター特性のもの、即ち長波長側では反射率が低く、短波長側では反射率が高いものにしなければならない。
【0041】
図9に、光モジュール300に使用されるDBRフィルター330a−330dについての反射及び透過による損失の1例のグラフと表を示す。この例には光がS偏光の場合が示されている。第1フィルターはDBRフィルター330a(940nm)であり、第2フィルターはDBRフィルター330b(980nm)であり、第3フィルターはDBRフィルター330c(1020nm)であり、第4フィルターはDBRフィルター330d(1060nm)である。DBRフィルターの構成は、誘電体ペア(対)を20ペアにした多層膜構造である。その誘電体ペアは、例えばMgF2(フッ化マグネシウム)のような屈折率が1.38の誘電体を光の波長の0.2608倍の厚さにしたものと、例えばSiO2(二酸化ケイ素)のような屈折率が1.45の誘電体を光の波長の0.2482倍の厚さにしたものとで構成している。
【0042】
グラフに示されるように、第1フィルターは、波長が940nm〜980nmで反射率は高くなっていて波長が980nmの光も反射するが、波長が980nmの光は第2フィルターで反射されて第1フィルターには達しないので、動作上は問題ない。第2フィルターも、波長が980nm〜1020nmで反射率は高くなっていて波長が1020nmの光も反射するが、波長が1020nmの光は第3フィルターで反射されて第2フィルターには達しないので、動作上は問題ない。第3フィルターも、波長が1020nm〜1060nmで反射率は高くなっていて波長が1060nmの光も反射するが、波長が1060nmの光は第4フィルターで反射されて第3フィルターには達しないので、動作上は問題ない。
【0043】
表に示されるように、波長が940nmの光については、第1フィルターでの損失は反射による0.6dBで、第2フィルターでの損失は透過による0.3dBで、第3フィルターでの損失は透過による0.1dBで、第4フィルターでの損失は透過によるものはなく0.0dBであり、損失合計は1.0dBである。波長が980nmの光については、第1フィルターまで達しないので第1フィルターでの損失は存在せず、第2フィルターでの損失は反射による0.4dBで、第3フィルターでの損失は透過による0.3dBで、第4フィルターでの損失は透過による0.2dBであり、損失合計は0.9dBである。波長が1020nmの光については、第1及び第2フィルターまで達しないので第1及び第2フィルターでの損失は存在せず、第3フィルターでの損失は反射による0.4dBで、第4フィルターでの損失は透過による0.5dBであり、損失合計は0.9dBである。波長が1060nmの光については、第1、第2及び第3フィルターまで達しないので第1、第2及び第3フィルターでの損失は存在せず、第4フィルターでの損失は反射による0.6dBであり、損失合計は0.6dBである。光がS偏光の場合に、それら4波長の多重化において、1dB以下の接続損失が実現できている。
【0044】
図10に、光モジュール300に使用されるDBRフィルター330a−330dについての反射及び透過による損失の他の1例のグラフと表を示す。この例には光がP偏光の場合が示されている。第1フィルターはDBRフィルター330a(940nm)であり、第2フィルターはDBRフィルター330b(980nm)であり、第3フィルターはDBRフィルター330c(1020nm)であり、第4フィルターはDBRフィルター330d(1060nm)である。DBRフィルターの構成は、誘電体ペア(対)を18ペアにした多層膜構造である。その誘電体ペアは、例えばMgF2(フッ化マグネシウム)のような屈折率が1.38の誘電体を光の波長の0.2641倍の厚さにしたものと、例えばMgO(酸化マグネシウム)のような屈折率が1.74の誘電体を光の波長の0.2095倍の厚さにしたものとで構成している。
【0045】
グラフに示されるように、第1フィルターは、波長が940nm〜1020nmで反射率は高くなっていて波長が980nm及び1020nmの光も反射するが、波長が980nm及び1020nmの光はそれぞれ第2及び第3フィルターで反射されて第1フィルターには達しないので、動作上は問題ない。第2フィルターも、波長が980nm〜1060nmで反射率は高くなっていて波長が1020nm及び1060nmの光も反射するが、波長が1020nm及び1060nmの光はそれぞれ第3及び第4フィルターで反射されて第2フィルターには達しないので、動作上は問題ない。第3フィルターも、波長が1020nm〜1080nmで反射率は高くなっていて波長が1060nmの光も反射するが、波長が1060nmの光は第4フィルターで反射されて第3フィルターには達しないので、動作上は問題ない。
【0046】
表に示されるように、波長が940nmの光については、第1フィルターでの損失は反射による0.3dBで、第2フィルターでの損失は透過による0.6dBで、第3フィルターでの損失は透過による0.1dBで、第4フィルターでの損失は透過によるものはなく0.0dBであり、損失合計は1.0dBである。波長が980nmの光については、第1フィルターまで達しないので第1フィルターでの損失は存在せず、第2フィルターでの損失は反射による0.2dBで、第3フィルターでの損失は透過による0.3dBで、第4フィルターでの損失は透過による0.3dBであり、損失合計は0.8dBである。波長が1020nmの光については、第1及び第2フィルターまで達しないので第1及び第2フィルターでの損失は存在せず、第3フィルターでの損失は反射による0.2dBで、第4フィルターでの損失は透過による0.6dBであり、損失合計は0.8dBである。波長が1060nmの光については、第1、第2及び第3フィルターまで達しないので第1、第2及び第3フィルターでの損失は存在せず、第4フィルターでの損失は反射による0.3dBであり、損失合計は0.3dBである。光がP偏光の場合に、それら4波長の多重化において、1dB以下の接続損失が実現できている。
【0047】
以上、実施態様を用いて本発明の説明をしたが、本発明の技術的範囲は実施態様について記載した範囲には限定されない。実施態様に種々の変更又は改良を加えることが可能であり、そのような変更又は改良を加えた態様も当然に本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
300 光モジュール
305 基板
310 光導波路
325 溝
330a−330d 光選択フィルター
335a−335d 発光及び受光素子対