(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
(構成)
図1は、本実施形態に係る蒸気タービン発電プラント100のシステム構成図である。
図1に示すように、蒸気タービン発電プラント100は蒸気タービンプラント1と起動制御装置(プラント制御装置)2とで構成されている。以下、蒸気タービンプラント1及び起動制御装置2について説明する。
【0013】
1.蒸気タービンプラント
蒸気タービンプラント1は不図示の熱源装置、蒸気発生設備、蒸気タービン、発電機、調整装置等を備えている。
【0014】
熱源装置は熱源媒体に保有される熱量を用いて低温流体を加熱し高温流体を生成して蒸気発生設備に供給する。この熱源装置は、例えば、コンバインドサイクル発電プラントのガスタービン、石炭焚き発電プラントの火炉、太陽熱発電プラントの集熱器などがある。蒸気発生設備は内部に熱交換器を備え、熱源装置で生成された高温流体の保有熱との熱交換により給水を加熱して蒸気を発生させる。蒸気タービンは蒸気発生装置で発生した蒸気によって駆動する。発電機は蒸気タービンに連結され、蒸気タービンの駆動力を電力に変換する。発電機の電力は例えば不図示の電力系統に供給される。
【0015】
調整装置は蒸気タービンプラント1の挙動を調整する。調整装置としては、例えば、熱源装置に対する熱源媒体の供給経路に設けられた熱源媒体量操作部、熱源装置に対する低温流体の供給経路に設けられた低温流体量操作部、蒸気発生装置から蒸気タービンに蒸気を供給する蒸気配管系統に設けられた主蒸気加減弁、先の蒸気配管系統から分岐し蒸気を他系統へ供給するバイパス系統に設けられたバイパス弁、蒸気発生設備の内部に設けられた減温器等がある。熱源媒体量操作部は熱源装置に供給される熱源媒体量を調節して熱源装置で生成される高温流体の保有熱量を操作する機能を有する。低温流体量操作部は熱源装置に供給される低温流体の流量を調節して熱源装置から蒸気発生設備に供給される高温流体の流量を操作する機能を有する。主蒸気加減弁は蒸気タービンに供給される蒸気流量を操作する機能を有する。バイパス弁はバイパス系統を流れる蒸気の流量(バイパス流量)を制御する機能を有する。減温器は蒸気発生設備で生成された蒸気を減温する機能を有する。
【0016】
2.起動制御装置
起動制御装置2は、蒸気タービンプラント1の状態量パラメータの初期値を入力し、これに基づき蒸気タービンプラント1の調整装置への指令値を計算して出力する。この機能を果たすために、起動制御装置2は、初期状態パラメータ取得回路11、記憶回路(データベース)12、操作量決定回路13、起動スケジュール生成回路14、起動制御回路15を備えている。各構成要素について次に順次説明していく。
【0017】
2−1.初期状態パラメータ取得回路
初期状態パラメータ取得回路11は、蒸気タービンプラント1のプラント状態量に関して状態量パラメータの初期値を取得し、操作量決定回路13に出力する。蒸気タービンプラント1の状態量パラメータの初期値とは、蒸気タービンプラントの起動時における各構成機器の暖気状態を表す値である。状態量パラメータとしては、例えば、蒸気タービンプラント1が停止してから経過した時間(停止後経過時間)、蒸気タービンプラント1の被加熱部の温度、熱応力、熱変形、熱伸び、及び熱伸び差などがある。これらは計測値でも、計算値でも、事前の予測値でもよい。上述の被加熱部とは、蒸気タービンプラント1の蒸気タービンの蒸気流入部メタル、蒸気タービンのタービンロータ、蒸気タービンの車室、蒸気タービンプラント1の蒸気発生設備の伝熱管、及び蒸気発生設備の管寄せ(熱交換部)などである。
【0018】
2−2.記憶回路
記憶回路12には、蒸気タービンプラントの状態量パラメータの初期値と、状態量パラメータの初期値に応じて設定された複数のフェーズ時間長及び制御目的量に関する制御基準値を含むプラント操作量の計画値(以降、プラント操作量)との相関関係に関するデータが2組以上格納されている。
【0019】
前述した相関関係には、少なくとも一つのフェーズ時間長の要素が含まれる。フェーズ時間長としては、例えば、以下の要素がある。
・熱源装置の負荷上昇時間:熱源装置の負荷が一定に近い上昇率で上昇し続ける時間をいう。
・熱源装置の負荷保持時間:熱源負荷の負荷かある負荷帯でほぼ一定に保たれる時間をいう。
・蒸気タービン回転数上昇時間:蒸気タービンの回転数が一定に近い上昇率で上昇し続ける時間をいう。
・蒸気タービン回転数保持時間:蒸気タービンの回転数かある回転数でほぼ一定に保たれる時間であって、ヒートソーク時間と呼ばれる。
・蒸気タービン負荷保持時間:蒸気タービンの負荷がある負荷帯でほぼ一定に保たれる時間をいう。
【0020】
また、前述した相関関係には、少なくとも一つの制御目的量の要素が含まれる。制御目的量としては、例えば、以下の要素がある。
・熱源装置の負荷上昇率:単位時間当たりの熱源装置の負荷の上昇量をいう。
・熱源装置の保持負荷帯:熱源負荷の負荷がほぼ一定に保たれるように予め定められた負荷帯をいう。
・蒸気タービン回転数上昇率:単位時間当たりの蒸気タービンの回転数の上昇量をいう。
・蒸気タービン保持回転数:蒸気タービンの回転数がほぼ一定に保たれるように予め定められた回転数をいう。
・蒸気タービン通気蒸気温度:蒸気タービンに通気を開始する時の蒸気温度をいう。
【0021】
2−3.操作量決定回路
操作量決定回路13は、初期状態パラメータ取得回路11で取得した蒸気タービンプラント1の状態量パラメータの初期値と、記憶回路12から読み出した上述のプラント操作量との相関関係のデータとを入力し、これらに基づいて、状態量パラメータの初期値に応じてプラント操作量が連続的に変化するようなプラント操作量と状態量パラメータの初期値との関係線(後の
図3参照)を決定して起動スケジュール生成回路14に出力する。ここで、本願明細書でいう「連続的に変化する」とは、連続する各フェーズにおけるプラント操作量を示す線が同じ値で繋がっていて、離散的箇所を含まないことをいう。
【0022】
2−4.起動スケジュール生成回路
起動スケジュール生成回路14は、操作量決定回路13で決定されたプラント操作量を入力し、これらを基に複数のフェーズの各起動スケジュールを生成し、これら各起動スケジュールを繋ぎ合わせて蒸気タービンプラント1の起動開始から完了までの起動スケジュールを生成する。
【0023】
上述の起動スケジュールは特定の制御目的量についての目標制御線であり、例えば、起動運転中における熱源装置の負荷の目標制御線、蒸気タービンの回転数の目標制御線、蒸気タービンの負荷の目標制御線等がある。起動スケジュール生成回路14は、これらのうち少なくとも一つの起動スケジュールを生成する。
【0024】
2−5.起動制御回路
起動制御回路15は、起動スケジュール生成回路14で生成された起動スケジュールに基づいて蒸気タービンプラント1の調整装置への指令値を計算して出力する。言い換えれば、起動制御回路15は熱源装置の負荷、蒸気タービンの回転数、蒸気タービンの負荷などの制御目的量を起動スケジュール生成回路14で作成された起動スケジュールに追従させる。プラント制御方法としては、例えば、熱源装置の負荷状態についての起動スケジュールを入力し、熱源装置の負荷の変化量を基に、熱源装置の負荷状態を調整する調整装置への指令値を計算し出力する方法や、熱源装置内流体温度についての起動スケジュールを入力し、熱源装置に供給する熱源媒体の量を基に、熱源媒体の供給量を調整する調整装置(バルブ)への指令値を計算し出力する方法など、公知の制御方法を適用することができる。
【0025】
(動作)
次に、起動スケジュールの生成動作について説明する。以下では、停止後経過時間を状態量パラメータとして採用した場合における熱源装置の負荷の起動スケジュールの生成動作を例示する。
【0026】
熱源装置の負荷は、蒸気タービンプラントの起動開始から完了までの過程(起動過程)において、一般に、一定又はこれに近い上昇率での上昇とある負荷帯での保持とを適宜組み合わせて0%から100%まで到達する。このような起動過程では、蒸気タービンプラントの起動開始からの経過時間(起動開始後経過時間)を負荷が引き上げられるフェーズ及び負荷が保持されるフェーズに区切ることができる。以下、具体的に説明する。
【0027】
図2は本実施形態に係る起動制御装置2で生成する起動スケジュールのひな型の一例を示す図である。
図2に例示するように、起動過程において熱源装置の負荷が負荷保持帯L%で1回保持される場合には、蒸気タービンプラントの起動開始後経過時間を以下の4つのフェーズに区切ることができる。
・フェーズP1:熱源装置の負荷が0%で保持される段階。
・フェーズP2:熱源装置の負荷が0%から保持負荷帯L%まで引き上げられる段階。
・フェーズP3:熱源装置の負荷が保持負荷帯L%で保持される段階。
・フェーズP4:熱源装置の負荷が保持負荷帯L%から100%まで引き上げられる段階。
【0028】
この例では、P1−P4のフェーズ時間長と保持負荷帯Lが決定されれば起動スケジュールが定まる。
【0029】
なお、蒸気タービンの回転数の起動スケジュールを生成する場合には、蒸気タービン回転数上昇時間、蒸気タービン回転数上昇率、蒸気タービン回転数保持時間などをフェーズ時間長とすることができる。蒸気タービンの負荷の起動スケジュールを生成する場合には、蒸気タービン負荷保持時間などをフェーズ時間長とすることができる。
【0030】
初期状態パラメータ取得回路11は、蒸気タービンプラント1が停止した時刻(以降、停止時刻T1)から蒸気タービンプラントの予定起動開始時刻(以降、起動開始時刻T2)までの時間(停止後経過時間θ)を取得し、操作量決定回路13に出力する。
【0031】
記憶回路12は、
・停止後経過時間θのデータ(停止後経過時間θd)
・停止後経過時間θdに応じて設定された各フェーズ時間長τ1(θd)、τ2(θd)、τ3(θd)、τ4(θd)のデータ
・保持負荷帯L
の相関関係に関するデータを1組として、2組以上のデータを格納している。これらデータは、対応付けられた1組みの停止後経過時間θd、各フェーズ時間長τ1(θd)〜τ4(θd)、保持負荷帯Lを含む行(または列)を複数有する配列形式(以降、停止後経過時間θd、各フェーズ時間長τ(θd)、保持負荷帯Lの対応表)で記憶回路12に格納されている。ここで、τ1(θd)はフェーズP1の時間長、τ2(θd)はフェーズP2の時間長、τ3(θd)はフェーズP3の時間長、τ4(θd)はフェーズP4の時間長である(以降、これらを各フェーズ時間長τ(θd)と記す)。
【0032】
操作量決定回路13は、初期状態パラメータ取得回路11から停止後経過時間θを入力し、記憶回路12から停止後経過時間θd、停止後経過時間θdに応じて設定された各フェーズ時間長τ(θd)及び保持負荷帯Lのデータの組を記憶回路12の対応表から読み出し、これらに基づいて、停止後経過時間θに応じて連続的に変化するような各フェーズ時間長τ(θ)を決定する。この決定方法については次に説明する。操作量決定回路13は演算された各フェーズ時間長τ(θ)及び保持負荷帯Lを起動計画生成回路14に出力する。
【0033】
フェーズ時間長τ(θ)の演算方法
フェーズ時間長τ(θ)の演算方法の一例として線形補間方法を以下に示す。
(i)停止後経過時間θが、停止後経過時間θd(1)未満の場合、フェーズ時間長τ(θ)=τ(θd(1))とする。
(ii)停止後経過時間θが、停止後経過時間θd(2)以上で、停止後経過時間θd(N−1)未満の場合、フェーズ時間長τ(θ)を下式より計算する。
θd(n)≦θ<θd(n+1)において、
【数1】
(iii)停止後経過時間θが、停止後経過時間θd(N)以上の場合、フェーズ時間長τ(θ)=τ(θd(N))とする。
【0034】
ここで、停止後経過時間θdと各フェーズ時間長τ(θd)の対応表は停止後経過時間θdの順に整列されており、θd(n)は、対応表のn番目の行における停止後経過時間のデータ、τ(θd(n))は、停止後経過時間θd(n)に応じたフェーズ時間長を示す。nは、対応表の行の番号(データの番号)、N(N≧2)は、対応表の行数(データの組数)を示す。
【0035】
起動スケジュール生成回路14は、操作量決定回路13で決定された各フェーズ時間長τ(θ)及び保持負荷帯Lを入力し、これらに基づき起動スケジュールを作成して起動制御回路15に出力する。以下、起動スケジュールの作成方法の一例を説明する。
【0036】
起動スケジュール生成方法
以下の例は、
図2に示した熱源装置の負荷の起動スケジュールLH(t)を作成する方法である。
(i)起動開始後経過時間tが、0以上で、τ1(θ)未満の段階(フェーズP1)、
【数2】
(ii)起動開始後経過時間tが、τ1(θ)以上で、τ1(θ)+τ2(θ)未満の段階(フェーズP2)、
【数3】
(iii)起動開始後経過時間tが、τ1(θ)+τ2(θ)以上で、τ1(θ)+τ2(θ)+τ3(θ)未満の段階(フェーズ3)、
【数4】
(iv)起動開始後経過時間tが、τ1(θ)+τ2(θ)+τ3(θ)以上で、τ1(θ)+τ2(θ)+τ3(θ)+τ4(θ)未満の段階(フェーズP4)
【数5】
【0037】
上述の起動スケジュール生成方法をフェーズの数に対して一般化したものを以下に例示する。以下では、フェーズP(m)で負荷L(k)に保持され、その前後のフェーズP(m−1)及びP(m+1)で負荷が変化するものとしている。
(i)起動開始後経過時間tが、Στ(m−2)以上で、Στ(m−1)未満の段階(フェーズP(m−1))、
【数6】
(ii)起動開始後経過時間tが、Στ(m−1)以上で、Στ(m)未満の段階(フェーズP(m))、
【数7】
(iii)起動開始後経過時間tが、Στ(m)以上で、Στ(m+1)未満の段階(フェーズP(m+1))、
【数8】
ここで、P(m)はm番目のフェーズ(1≦m≦M)、τ(m)はフェーズP(m)のフェーズ時間長、Στ(m)はフェーズP(1)からフェーズP(m)までのフェーズ時間長の総和、L(k)はk番目に保持される負荷帯(1≦k≦K)を示す。Mはフェーズの数、Kは起動過程で負荷が保持される回数(負荷保持回数K)を示す。
【0038】
フェーズの数Mは負荷保持回数Kに基づき決定することができる。例えば、
図2では負荷保持回数Kが1であり、この場合にはフェーズの数Mは4となる。
【0039】
負荷保持回数Kと保持負荷帯L(k)(1≦k≦K)との相関関係については、従来のモード別起動の起動スケジュールの生成に用いられていたデータを活用することができる。なお、保持負荷帯L(k)については、上述のフェーズ時間長τ(θ)の計算方法と同様に、従来のモード別起動のデータを用いて停止後経過時間θに応じて連続的に変化するように計算してもよい。
【0040】
(効果)
(1)計算処理の簡略化
本実施形態では、蒸気タービンプラントの起動開始後経過時間を複数のフェーズに区切ることで、例えば熱源装置の負荷上昇時間や熱源装置の負荷保持時間などのフェーズ時間長を起動スケジュールの生成の基礎として有効に活用することができる。さらに、記憶回路12に格納する状態量パラメータの初期値とプラント操作量との相関関係に関するデータには、例えば従来のモード別起動の起動スケジュールに用いられていた実績値のデータを有効的に活用することができる。そのため、予測計算を多用する場合に比べて複雑な計算処理を必要とせず、蒸気タービンプラントの状態量パラメータの初期値に応じた起動スケジュールを簡便に生成することができる。
【0041】
(2)蒸気タービンプラントの起動の高速化
図3は蒸気タービンプラントの停止後経過時間θとフェーズ時間長τ(θ)との関係を示す図である。
図3において、実線は本実施形態の場合におけるフェーズ時間長τ(θ)の推移を示しており、点線はモード別起動の場合におけるフェーズ時間長τ(θ)の推移を示している。
図3に示すように、モード別起動の場合、同一モードでは停止後経過時間θの値に関わらずフェーズ時間長τ(θ)が一定であり、特に各モードにおいて停止後経過時間θの値が小さい条件では必要以上にフェーズ時間長τ(θ)が長く設定されている。それに対し、本実施形態において、操作量決定回路13で計算されるフェーズ時間長τ(θ)は、停止後経過時間θに応じて連続的に変化する。これにより、起動所要時間が停止後経過時間θに応じて連続的に変化する起動スケジュールLH(t)を生成できる。また、上述の実績値のデータを有効的に活用することができる。この実績値は制約条件を満たした運用実績下の値である。そのため、任意の停止後経過時間θに応じて制約条件を満足しながら蒸気タービンプラントの所要起動時間を短縮し得る起動スケジュールを作成することができる。なお、記憶回路12に格納する状態量パラメータの初期値とプラント操作量との相関関係に関するデータは上述の実績値に限られない。例えば、適当な実績値がない場合には理論値を用いてもよい。この場合でも、制約条件を考慮して設定された理論値であれば実績値と同様に制約条件を満足した起動スケジュールが得られる。
【0042】
<第2実施形態>
(構成)
図4は本実施形態に係る蒸気タービン発電プラント101のシステム構成図である。
図4において、上記第1実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0043】
本実施形態に係る起動制御装置2は、所要起動時間計算回路21及び出力回路22を更に備える点で第1実施形態と異なる。第1実施形態との相違点を中心に順次説明していく。
【0044】
1.所要起動時間計算回路
図4において、操作量決定回路13は、第1実施形態と同じ要領で各フェーズ時間長τ(θ)を演算し、これを所要起動時間計算回路21に出力する。
【0045】
起動所要時間計算回路21は、操作量決定回路13が演算した各フェーズ時間長τ(θ)を入力し、これに基づいて、蒸気タービンプラント1の起動開始時刻T2から起動が完了する時刻(以降、起動完了時刻T3)までの時間(以降、所要起動時間Φ(θ))または起動完了時刻T3を計算し、出力回路22に出力する。
図5は蒸気タービンプラント1の状態量パラメータ(本実施形態では停止後経過時間θ)と所要起動時間Φ(θ)との関係を示す図である。
図5に示すように、所要起動時間計算回路21で計算される所要起動時間Φ(θ)は停止後経過時間θに応じて連続的に変化する。すなわち、所要起動時間計算回路21で計算される起動所要時間Φ(θ)は、第1実施形態で説明したフェーズ時間長τ(θ)と同様に停止後経過時間θに応じて連続的に変化する。以下、所要起動時間Φ(θ)及び起動完了時刻T3の計算方法についてそれぞれ説明する。
【0046】
所要起動時間Φ(θ)の計算方法
所要起動時間計算回路21は、操作量決定回路13が演算した各フェーズ時間長τ(θ)の総和として所要起動時間Φ(θ)を計算する。
図2の起動スケジュールのひな型の場合、所要起動時間Φ(θ)はフェーズP1〜P4の各フェーズ時間長τ1(θ)〜τ4(θ)の総和として以下のように計算される。
Φ(θ)=τ1(θ)+τ2(θ)+τ3(θ)+τ4(θ)
起動完了時刻T3の計算方法
図11は蒸気タービンプラント1の起動開始時刻T2、所要起動時間Φ(θ)、起動完了時刻T3の関係を示す図である。
図11に例示するように、起動完了時刻T3は起動開始時刻T2と所要起動時間Φ(θ)の和として計算される。
【0047】
2.出力回路
図4に示すように、出力回路22は、所要起動時間計算回路21で計算された所要起動時間Φ(θ)または起動完了時刻T3を入力し、出力装置に出力する。出力装置の出力方法は、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータが出力内容を確認できればよく、ディスプレイ表示、印刷媒体表示、音声通知等の公知の出力方法を適用することができる。
【0048】
図15は、本実施形態に係る出力装置としてディスプレイを採用した場合における出力内容の一例を示す図である。
図15に示す例では、停止後経過時間θと起動完了時刻T3との関係を示すグラフであって、蒸気タービンプラント1の停止時刻、計画している起動開始時刻、この起動開始時刻で起動した場合の起動完了時刻等がディスプレイに表示されている。このグラフは、停止後経過時間θを変化させて複数の停止後経過時間θに対応する所要起動時間Φ(θ)を予め計算したデータに基づき作成することができる。横軸は蒸気タービンプラント1の停止時刻T1と停止後経過時間θの和であり、縦軸は蒸気タービンプラント1の停止時刻T1、停止後経過時間θ、所要起動時間Φ(θ)の和である。
【0049】
図15において、計画している起動開始時刻は蒸気タービンプラント1を管理するオペレータが入力する数値である。また、計画している起動開始時刻で蒸気タービンプラント1を起動させた場合の起動完了時刻T3は、所要起動時間計算回路21で計算される所要起動時間Φ(θ)に基づき計算される値である。蒸気タービンプラント1を管理するオペレータは、このグラフを確認して蒸気タービンプラント1に関する停止時刻、計画している起動開始時刻、起動開始時刻に対応する起動完了時刻等を確認することができる。
【0050】
(効果)
上記構成により、本実施形態では上述した第1実施形態で得られる各効果に加えて、次の効果が得られる。
【0051】
本実施形態では、所要起動時間計算回路21が操作量決定回路13が演算した各フェーズ時間長τ(θ)を入力し、これに基づき蒸気タービンプラント1の所要起動時間Φ(θ)または起動完了時刻T3を計算し、これらの情報を出力回路22を介して出力装置に出力する。そのため、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータは蒸気タービンプラント1の起動開始時刻T2に対応する起動完了時刻T3を把握することができる。従って、蒸気タービンプラント1を計画的に運用することができる。
【0052】
また、本実施形態では、ディスプレイに停止後経過時間θと起動完了時刻T3との関係を示すグラフであって、蒸気タービンプラント1の停止時刻、計画している起動開始時刻、この起動開始時刻で起動した場合の起動完了時刻等が表示される。そのため、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータは蒸気タービンプラント1の停止後経過時間θと起動完了時刻T3との関係等を容易に視覚的に把握することができる。従って、蒸気タービンプラント1を計画的に運用することができる。
【0053】
<第3実施形態>
(構成)
図6は本実施形態に係る蒸気タービン発電プラント102のシステム構成図である。
図6において、上記第2実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0054】
本実施形態は、出力回路22に替えて、起動開始時刻計算回路31及び入出力装置32を備える点で第2実施形態と異なる。第2実施形態との相違点を中心に順次説明していく。
【0055】
本実施形態では、所要起動時間計算回路21は、蒸気タービンプラント1の状態量パラメータ(本実施形態では停止後経過時間θ)を変化させて任意の複数の停止後経過θとこれらに対応する所要起動時間Φ(θ)を予め計算したデータを用いて所要起動時間Φ(θ)を計算する。所要起動時間計算回路21はこのデータを、対応付けられた停止後経過時間θ、所要起動時間Φ(θ)を含む行(または、列)を複数有する配列形式(以降、停止後経過時間θmと所要起動時間Φ(θm)の対応表)にして起動開始時刻計算回路31に出力する。
【0056】
1.起動開始時刻計算回路
起動開始時刻計算回路31は、所要起動時間計算回路21から出力される停止後経過時間θm及び所要起動時間Φ(θm)の対応表と、入出力回路32(後述する)から出力される蒸気タービンプラントのオペレータが入力した起動完了時刻(以降、所望起動完了時刻Tn4)とを入力し、所望起動完了時刻Tn4で起動完了するために蒸気タービンプラント1の起動を開始すべき時刻(以降、起動開始すべき時刻Tn2)を計算して入出力回路32に出力する。以下、起動開始すべき時刻Tn2の計算方法の一例を説明する。
【0057】
図14は起動開始すべき時刻Tn2の計算方法を示すフローチャートである。
【0058】
・ステップS1
図14に示すように、起動開始時刻計算回路31は、停止後経過時間θmと所要起動時間Φ(θm)の対応表に基づき停止後経過時間θmごとに蒸気タービンプラント1の停止時刻T1から次の起動の起動完了時刻T3までの時間(以降、非稼動時間Ω)を計算する。具体的には、
図11に示すように、非稼動時間Ωは停止後経過時間θと所要起動時間Φ(θ)との和として計算される(非稼動時間Ω=停止後経過時間θ+所要起動時間Φ(θ))。
【0059】
・ステップS2
次に、起動開始時刻計算回路31は、予め用意された、入力の列及び入力の列と同じ長さの出力の列を備え、入力された値を入力の列から検索し、検索した行における(入力された値に対応する)出力の列の値を出力する関数に対し、入力の列にステップS1で計算された、停止後経過時間θmに応じた非稼動時間Ωmを設定し、出力の列に停止後経過時間θmを設定し、停止後経過時間θを計算する関数を生成する。
【0060】
・ステップS3
次に、起動開始時刻計算回路31は、蒸気タービンプラント1の停止時刻T1から所望起動完了時刻Tn4までの時間(以降、所望非稼動時間Ωn)及び停止時刻T1から起動開始すべき時刻Tn2までの時間(以降、待機すべき時間θn)を計算する。以下、所望非稼動時間Ωn及び待機すべき時間θnの計算方法についてそれぞれ説明する。
【0061】
所望非稼動時間Ωnの計算方法
図12は蒸気タービンプラントの停止時刻T1、所望起動完了時刻Tn4、所望非稼動時間Ωn等の関係を示す図である。
図12に示すように、所望非稼動時間Ωnは、所望起動完了時刻Tn4と停止時刻T1の差として計算される。
【0062】
待機すべき時間θnの計算方法
待機すべき時間θnは、ステップS2で生成された非稼動時間Ωを入力として待機時間θを出力する関数に上述で計算された所望非稼動時間Ωnを入力して計算される。この計算で出力される待機すべき時間θnは、
図12に示す関係により、停止時刻T1から起動開始すべき時刻Tn2までの時間となる。
【0063】
・ステップS4
次に、起動開始時刻計算回路31は、起動開始すべき時刻Tn2を、
図12に示す関係により、停止時刻T1とステップS3で計算された待機すべき時間θnの和として計算する。
【0064】
起動開始すべき時刻Tn2の計算方法の他の例として、停止後経過時間θの代わりに所要起動時間Φ(θ)を用いてもよい。この場合には、まずステップS2において、非非稼動時間Ωを入力として停止後経過時間θを出力する関数の代わりに、非稼動時間Ωを入力として所要起動時間Φ(θ)を出力する関数を生成する。そして、ステップS3において、この関数に所望非稼動時間Ωnを入力して所要起動時間Φn(θ)を計算する。そして、ステップS4において、非稼動時間Ωが停止後経過時間θと所要起動時間Φ(θ)の和である関係を用いて待機すべき時間θnを計算し、起動開始すべき時間Tn2を計算すれば良い。
【0065】
2.入出力回路
入出力回路32は、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータが入力装置を介して入力した所望起動完了時刻Tn4を入力し、起動開始時刻計算回路31に出力する。また、起動開始時刻計算回路31で計算された、所望起動完了時刻Tn4に起動を完了するための起動開始すべき時刻Tn2を入力し、出力装置に出力する。オペレータから入力装置への入力方法は、キーボード入力等の公知の入力方法を適用することができる。また、入出力回路32から出力装置への出力方法は、ディスプレイ表示、印刷媒体表示、音声通知等の公知の出力方法を適用することができる。
【0066】
図16は、本実施形態に係る出力装置としてディスプレイを採用した場合における出力内容の一例を示す図である。
図16に示す例では、停止後経過時間θと起動完了時刻T3との関係を示すグラフであって、蒸気タービンプラント1の停止時刻、所望起動完了時刻、所望起動完了時刻に起動を完了するために起動開始すべき時刻等が示されている。このグラフは、停止後経過時間θを変化させて複数の停止後経過時間θに対応する非稼動時間Ω(θ)を予め計算したデータに基づき作成することができる。横軸は停止時刻T1と停止後経過θの和であり、縦軸は停止時刻T1と非稼動時間Ω(θ)との和である。所望起動完了時刻Tn4は蒸気タービンプラント1を管理するオペレータにより入力される値であり、起動開始すべき時刻Tn2は起動開始時刻計算回路31により計算される値である。なお、現在時刻と現在時刻で起動した場合の起動完了時刻Tn3を示すこともできる。この場合、現在時刻で起動した場合の起動完了時刻は起動開始時刻計算回路31により計算できる。
【0067】
(効果)
上記構成により、本実施形態では上述した各実施形態で得られる各効果に加えて、次の効果が得られる。
【0068】
本実施形態では、起動開始時刻計算回路31が、蒸気タービンプラント1を所望起動完了時刻Tn4で起動完了するための起動開始すべき時刻Tn2を計算し、入出力回路32を介して出力装置に出力する。そのため、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータは所望起動完了時刻Tn4に起動完了するために起動すべき時刻Tn2を把握することができる。従って、オペレータは、より計画的かつ効率的に蒸気タービンプラント1の起動及び停止を行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、ディスプレイに停止後経過時間θと起動完了時刻T3との関係を示すグラフであって、蒸気タービンプラント1の停止時刻、所望起動完了時刻、所望起動完了時刻に起動を完了するために起動開始すべき時刻等が表示される。そのため、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータは蒸気タービンプラント1の停止後経過時間θと起動完了時刻T3との関係等を容易に視覚的に把握することができる。従って、蒸気タービンプラント1を計画的に運用することができる。
【0070】
<第4実施形態>
(構成)
図7は本実施形態に係る蒸気タービン発電プラント103のシステム構成図である。
図7において、上記第1実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0071】
本実施形態は、プラント状態量計算回路41及びデータベース更新回路42を備える点で第1実施形態と異なる。相違点を中心に順次説明していく。
【0072】
1.プラント操作量計算回路
図7に示すように、プラント状態量計算回路41は蒸気タービンプラント1のプラント状態量と制限値との偏差δ(θ)を計算し、データベース更新回路42(後述する)に出力する。
【0073】
プラント状態量は、計測値、または計測値に基づく計算値である。この計算方法には公知の方法を適用することができる。例えば、被加熱部の熱応力は被加熱部内の温度差(温度分布)を熱伝導方程式により計算し、その温度差に係数をかけることにより計算すればよい。また、蒸気タービンの熱伸び差は蒸気タービンの回転部及び静止部のそれぞれに関して体積平均温度を計算し、これらの温度と基準温度の差に線膨張係数をかけることにより回転部及び静止部のそれぞれの熱伸びを計算し、これらの差を計算すればよい。
【0074】
2.データベース更新回路
図7に示すように、データベース更新回路42は、プラント状態量計算回路41から出力されたプラント状態量と制限値との偏差δ(θ)を入力し、また、操作量決定回路13で計算された停止後経過時間θとこれに応じた各フェーズ時間長τ(θ)を入力し、偏差δ(θ)の大きさが予め決定された規定値以上である場合には記憶回路12に信号を出力し、偏差δ(θ)が小さくなるように記憶回路12のデータベースを更新する。例えば、データベース更新回路42は、偏差δ(θ)に余裕があればフェーズ時間長τ(θ)を短くし、差δ(θ)に余裕がなければフェーズ時間長τ(θ)を長くするような、停止後経過時間θとフェーズ時間長τ(θ)との対応関係を生成し、記憶回路12に既に同じ停止後経過時間θに対応するフェーズ時間長τ(θ)がある場合には上書きして更新する。
【0075】
図8は、本実施形態に係るデータベース更新回路42の動作を示すフローチャートである。以下、
図8を参照して上述の更新手順の一例を説明する。
【0076】
図8に示すように、データベース更新回路42は、プラント状態量と制限値との偏差δ(θ)を余裕幅α1及び余裕幅α2(余裕幅α1≦余裕幅α2)と比較し、その結果に応じてステップS2−S4のいずれかに手順を移す(ステップS1)。ここで、余裕幅α1及び余裕幅α2は予め定められた値であり、温度の計測誤差や、熱応力や熱変形や熱伸びなどの計算精度や、制限値の設定精度などが考慮されている。
【0077】
・偏差δ(θ)が余裕幅α1未満の場合、データベース更新回路42は、偏差δ(θ)と余裕幅α1との差から以下の式に基づき、フェーズ時間長τ(θ)が長くなるようなフェーズ時間長更新値τa(θ)を計算し(ステップS2)、後述のステップS5へ移る。
【0078】
τa(θ)=τ(θ)+β×(α1−δ)
ここで、制限値との差の反映係数βは予め定められた値であり、温度の計測誤差や、熱応力、熱変形、熱伸びなどの計算精度や、制限値の設定精度などが考慮されている。
【0079】
・偏差δ(θ)が余裕幅α1以上で、余裕幅α2未満の場合、データベース更新回路42は、以下のようにフェーズ時間長τ(θ)をそのまま更新フェーズ時間長τa(θ)として扱い(ステップS3)、ステップS5に移る。
【0080】
τa(θ)=τ(θ)
・偏差δ(θ)が余裕幅α2以上の場合、データベース更新回路42は、偏差δ(θ)と余裕幅α2との差から以下の式に基づき、フェーズ時間長τ(θ)が短くなるような更新フェーズ時間長τa(θ)を計算し(ステップS4)、ステップS5に移る。
【0081】
τa(θ)=τ(θ)−β×(δ−α2)
次に、データベース更新回路42は、記憶装置12に同じ停止後経過時間θに対応するフェーズ時間長τ(θ)が既に格納されているかどうか判断する(ステップS5)。同じ停止後経過時間θに対応するフェーズ時間長τ(θ)が格納されている場合にはステップS6に進み、格納されていない場合にはステップS7に進む。
【0082】
ステップS5における判断の結果、同じ停止後経過時間θに対応するフェーズ時間長τ(θ)が格納されている場合には、データベース更新回路42は記憶回路12に既に格納されている停止後経過時間θに対応するフェーズ時間長τ(θ)を削除し、更新フェーズ時間長τa(θ)を保存する(ステップS6)。
【0083】
ステップS5における判断の結果、同じ停止後経過時間θに対応するフェーズ時間長τ(θ)が格納されていない場合には、データベース更新回路42は新しいデータとして待機時間θ及びこれに対応する更新フェーズ時間長τa(θ)を記憶回路12に格納する(ステップS7)。
【0084】
(効果)
上記構成により、本実施形態では上述した第1実施形態で得られる各効果に加えて、次の効果が得られる。
【0085】
本実施形態では、プラント状態量計算回路41が蒸気タービンプラント1の運転中にプラント状態量と制限値との偏差δ(θ)を計算し、データベース更新回路42がこの偏差δ(θ)の大きさと予め決定された規定値とを比較して記憶回路12のデータベースを更新する。そのため、偏差δ(θ)に余裕がある場合にはステップS4にてフェーズ時間長τ(θ)が短くなるよう計算され、所要起動時間Φ(θ)が短くなった起動スケジュールを生成することができ、高速起動を図ることができる(
図9を参照)。一方、偏差δ(θ)に余裕がない場合にはステップS2にてフェーズ時間長τ(θ)が長くなるよう計算され、所要起動時間Φ(θ)が長くなった起動スケジュールを生成することができ、プラント状態量を低減させることができ、蒸気タービンプラント1の機器安全性の向上を図ることができる。従って、プラント状態量を制限値以下にしつつ、蒸気タービンプラント1の機器安全性を低下させることなく、所要起動時間を短縮し得る起動スケジュールを生成することができる。
【0086】
<その他>
本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び置換をすることも可能である。
【0087】
例えば、保持負荷帯L(k)はプラント操作量のうちの制御目的値の一つであり、保持負荷帯L(k)に代えて別の制御目的値を計算するようにしてもよい。
図10は熱源装置の負荷上昇率と停止後経過時間θとの関係を示す図である。
図10に示すように、例えば、熱源装置の負荷上昇率について、フェーズ時間長τ(θ)の計算方法と同様に停止後経過時間θとの関係を求めてもよい。蒸気タービン保持回転数、蒸気タービン通気蒸気温度なども同様である。
【0088】
また、例えば、初期状態パラメータ取得回路11、データベース12、操作量決定回路13、及び起動スケジュール生成回路14が動作を開始するタイミングを蒸気タービンプラント1の起動開始前とすることができるが、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいてはこれら回路が動作を開始するタイミングは必ずしも限定されない。例えば、蒸気タービンプラント1の起動直前や蒸気タービンプラント1のプラント運転中の任意のタイミングでもよい。蒸気タービンプラント1の起動前に動作させた場合には、予め起動完了時刻を把握することができる。また、これら回路は既存のデータを活用することにより計算量を抑制して短時間で起動スケジュールを生成できるため、蒸気タービンプラント1の起動直前に動作させた場合でも起動スケジュールを作成し提供することができる。また、蒸気タービンプラント1の運転中に動作させた場合でも、起動スケジュールを随時更新しながら起動制御が実行される。
【0089】
また、例えば、各フェーズ時間長τ(θ)を計算する方法として操作量決定回路13において線形補間方法を用いて計算する場合を説明した。しかしながら、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいてはこの方法に限られない。以下、停止後経過時間θからフェーズ時間長τ(θ)を計算する他の方法について説明する。
【0090】
近似式を用いる計算方法
停止後経過時間θからフェーズ時間長τ(θ)を計算する近似式を生成し、この近似式に基づき各フェーズ時間長τ(θ)を計算する。この近似式を生成する際には、線形式、非線形式等の式を予め決定し、式を構成する各項の係数を記憶回路12に格納された停止後経過時間θdと各フェーズ時間長τ(θd)との対応表に基づき決定する。なお、操作量決定回路13が予め上述の近似式を格納していれば起動制御装置2は記憶回路12を備えていなくてもよい。この場合、新たなデータを蓄積して今後の起動制御に活用することはできないが、既存のデータを最大限活用することにより起動制御装置2をより低コストで構築できる。
【0091】
対応表による計算方法
上述した線形補間方法又は近似式を用いる方法により停止後経過時間θを変化させて任意の複数の停止後経過時間θとこれらに対応するフェーズ時間長τ(θ)とを予め計算しておく。一方で、入力の列及び入力の列と同じ長さの出力の列を備え、入力された値を入力の列から検索し、検索した行における(入力された値に対応する)出力の列の値を出力する関数を事前に用意する。そして、この関数の入力の列と出力の列に、上述の任意の停止後経過時間θとこれに対応するフェーズ時間長τ(θ)をそれぞれ設定し、停止後経過時間θを入力としてフェーズ時間長τ(θ)を出力とする関数を生成する。そして、この関数を用いて停止後経過時間θからフェーズ時間長τ(θ)を計算する。なお、操作量決定回路13が上述の関数を備えていれば、起動制御装置2は記憶回路12を備えていなくてもよい。この場合、上述の近似式を用いる計算方法と同様に、新しいデータを蓄積して活用することはできないが、既存のデータを最大限活用することにより起動制御装置2をより低コストで構築できる。
【0092】
また、所要起動時間Φ(θ)の計算方法として各フェーズ時間長τ(θ)を総和する方法を例示した。しかしながら、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいてはこの方法に限られない。以下、所要起動時間Φ(θ)の他の計算方法を説明する。
【0093】
近似式を用いる計算方法
停止後経過時間θから所要起動時間Φ(θ)を計算する近似式を生成し、この近似式に基づき所要起動時間Φ(θ)を計算する。この近似式を生成する際には、線形式、非線形式等の式を予め決定されし、式を構成する各項の係数を、記憶回路12に格納された停止後経過時間θdとこれに応じて設定された各フェーズ時間長τ(θd)との対応表に基づき決定する。この各項の係数は、例えば停止後経過時間θdから各フェーズ時間長τ(θd)を計算する近似式の各項の係数をそれぞれ総和すればよい。あるいは、操作量決定回路13で停止後経過時間θから各フェーズ時間長τ(θ)を計算する近似式が用いられている場合には、この近似式に基づいて停止後経過時間θから所要起動時間Φ(θ)を計算する近似式の各項の係数を決定する。停止後経過時間θから所要起動時間Φ(θ)を計算する近似式の各項の係数は、例えば停止後経過時間θから各フェーズ時間長τ(θ)を計算する近似式の各項の係数をそれぞれ総和すればよい。なお、所要起動時間計算回路21が、上述の停止後経過時間θから所要起動時間Φ(θ)を計算する近似式を備えていれば、操作量決定回路13から各フェーズ時間長τ(θ)に関する信号を出力する必要がないため信号処理を簡略化することができる。
【0094】
対応表を用いる計算方法
上述した、全てのフェーズ時間長τ(θ)を総和する方法や近似式を用いる方法などにより、停止後経過時間θを変化させて任意の複数の停止後経過時間θとこれらに対応する所要起動時間Φ(θ)とを予め計算しておく。一方で、入力の列及び入力の列と同じ長さの出力の列を備え、入力された値を入力の列から検索し、検索した行における(入力された値に対応する)出力の列の値を出力する関数を事前に用意する。そして、この関数の入力の列と出力の列に、上述の任意の停止後経過時間θとこれに対応する所要起動時間Φ(θ)をそれぞれ設定し、停止後経過時間θを入力として所要起動時間Φ(θ)を出力する関数を生成する。そして、この関数を用いて停止後経過機時間θから所要起動時間Φ(θ)を計算する。なお、所要起動時間計算回路21が上述の関数を備えていれば、操作量決定回路13から各フェーズ時間長τ(θ)に関する信号を出力する必要がないため信号処理を簡略化することができる。
【0095】
また、出力装置としてディスプレイを採用した場合における表示内容の一例として、停止後経過時間θと起動完了時刻T3との関係を示すグラフが表示される場合を説明した。しかしながら、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいては、ディスプレイに表示される内容はこれに限られない。例えば、
図11に示すように、蒸気タービンプラント1の停止時刻T1、起動開始時刻T2、起動完了時刻T3を一つの時間軸で示したものを表示してもよい。この場合、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータは蒸気タービンプラント1の停止時刻T1、起動開始時刻T2、起動完了時刻T3等の関係を一連で把握することができるため、蒸気タービンプラント1をより計画的に運用することができる。
【0096】
また、起動開始時刻計算回路31が起動開始すべき時刻Tn2を計算し、入出力回路32を介して出力装置に出力する構成を説明した。しかしながら、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいてはこの構成に限られない。例えば、起動開始時刻計算回路31が、起動開始すべき時刻Tn2とともに、蒸気タービンプラント1を所望起動完了時刻Tn4で起動完了させることができるかどうかの信号(以降、起動完了可否信号)を出力し、入出力回路32を介して出力装置に出力してもよい。この場合の起動開始時刻計算回路31の動作を
図12及び
図13を参照して説明する。
図13は、蒸気タービンプラントの停止時刻T1、所望起動完了時刻Tn4、所要起動時間Φ(θ)等の関係を示す図である。例えば、起動開始時刻計算回路31は現在時刻と起動開始すべき時刻Tn2とを比較し、現在時刻が起動開始すべき時刻Tn2よりも早ければ、すなわち
図12に示すように起動開始すべき時刻Tn2に対して現在時刻が停止時刻T1側に位置していれば、所望起動完了時刻Tn4で起動完了可信号を出力し、現在時刻が起動開始すべき時刻Tn2よりも遅ければ、すなわち
図13に示すように現在時刻に対して起動開始すべき時刻Tn2が停止時刻T1側に位置していれば、所望起動完了時刻Tn4で起動完了不可信号を出力するように構成すればよい。
【0097】
また、上述のように所望起動完了時刻Tn4で起動完了することが不可能な場合に、起動開始時刻計算回路31が、現在時刻に蒸気タービンプラント1の起動を開始した場合に起動完了できる時刻(以降、起動完了可能時刻Tn3)を計算し、入出力回路32に出力してもよい。この場合、起動開始時刻計算回路31は、停止時刻T1から現在時刻までの時間(停止後経過時間θ)を計算し、この停止後経過時間θに基づき所要起動時間Φ(θ)を計算し、現在時刻と所要起動時間Φ(θ)との和として起動完了可能時刻Tn3を計算する。
【0098】
上述のように、起動開始時刻計算回路31が、所望起動完了時刻Tn4での起動完了可否信号や、所望起動完了時刻Tn4で起動完了不可能である場合における起動完了可能時刻Tn3などを出力し、入出力回路32を介して出力装置に出力することにより、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータは所望起動完了時刻Tn4に起動完了可能かどうかを把握することができる。また、オペレータは、所望起動完了時刻Tn4に起動完了できない場合に現在の時刻から起動した場合の起動完了可能時刻Tn3を把握することができる。従って、オペレータは蒸気タービンプラント1を計画的に運用し、電力需要に柔軟に対応させることができる。
【0099】
また、起動開始時刻計算回路31が、所要起動時間計算回路21から出力される停止後経過時間θmと所要起動時間Φ(θm)の対応表と、入出力回路32から出力される所望起動完了時刻Tn4とを入力し、起動開始すべき時刻Tn2を計算する場合を例示した。しかしながら、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいてはこの構成に限られない。例えば、起動開始時刻計算回路31が、停止後経過時間θmと非稼動時間Ωmの対応表、または、予め生成された、非稼動時間Ωを入力として停止後経過時間θを出力とする関数を備えてもよい。この場合、起動開始時刻計算回路31は起動所要時間計算回路21から上述の対応表を入力する必要がないため、信号処理を簡略化することができる。
【0100】
また、出力装置としてディスプレイを採用した場合における表示内容の一例として、停止後経過時間θと起動完了時刻T3との関係を示すグラフが表示される場合を説明した。しかしながら、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいては、ディスプレイに表示される内容はこれに限られない。例えば、
図12に例示するように一つの時間軸に停止時刻T1、所望起動完了時刻Tn4、起動開始すべき時刻Tn2、現在時刻をディスプレイに表示してもよい。上述の情報をディスプレイに表示することにより、蒸気タービンプラント1を管理するオペレータは、停止時刻T1、所望起動完了時刻Tn4、起動開始すべき時刻Tn2、現在時刻等の関係を一連で把握できる。そのため、蒸気タービンプラント1の運用スケジュールをより効率的に立案することができる。
【0101】
また、機器熱負荷計算回路41及びデータベース更新回路42が動作を開始するタイミングを蒸気タービンプラント1の起動開始前とすることができるが、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいてはこれら回路が動作を開始するタイミングは必ずしも限定されない。例えば、機器熱負荷計算回路41及びデータベース更新回路42は、蒸気タービンプラント1の運転中を含めた任意のタイミングで動作を開始してもよい。蒸気タービンプラント1が停止した後、次回の起動までの間にこれら回路が動作を開始した場合、次回の起動時に、更新されたデータを反映した起動スケジュールを生成することができる。また、蒸気タービンプラント1の運転中にこれら回路が動作を開始した場合、蒸気タービンプラント1が停止した後、次回の起動までの時間が短い場合でも次回の起動時に、更新されたデータを反映した起動スケジュールを生成することができる。
【0102】
また、本発明に係る起動制御装置は、コンバインドサイクル発電プラント、汽力発電プラント、及び太陽熱発電プラント等の蒸気タービンを備えるプラント全てに適用可能である。
【0103】
例えば、本発明に係る起動制御装置をコンバインドサイクル発電プラントに適用する場合、熱源媒体には天然ガス・水素等の燃料ガス、熱源媒体量操作部には燃料ガス調節弁、低温流体には空気、低温流体量操作部には入口案内翼、熱源装置にはガスタービン、高温流体にはガスタービン排ガス、蒸気発生設備には排熱回収ボイラを採用することができる。
【0104】
また、本発明に係る起動制御装置を汽力発電プラントに適用する場合、熱源媒体には石炭や天然ガス、熱源媒体量操作部には燃料調節弁、低温流体には空気や酸素、低温流体量操作部には空気流量調節弁、熱源装置にはボイラ中の火炉、高温流体には燃焼ガス、蒸気発生設備にはボイラ中の伝熱部(蒸気発生部)を採用することができる。
【0105】
また、本発明に係る起動制御装置を太陽熱発電プラントに適用する場合、熱源媒体には太陽光、熱源媒体量操作部には集熱パネルの駆動装置、低温流体及び高温流体には油や高温溶媒塩等の太陽熱エネルギを変換して保有している媒体、低温流体量操作部は油や高温溶媒塩等の流量調節弁、熱源装置には集熱パネル、蒸気発生設備には高温流体との熱交換により給水を蒸気へと加熱する設備を採用することができる。
【0106】
また、本発明に係る起動制御装置を燃料電池と蒸気タービンを組み合わせた発電プラントに適用する場合、熱源媒体には一酸化炭素・水素等の燃料ガス、熱源媒体量操作部には燃料ガス調節弁、低温流体には空気、低温流体量操作部には空気調節弁、熱源装置には燃料電池、高温流体には燃料電池排ガス、蒸気発生設備には排熱回収ボイラを採用することができる。