(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
点火点を覆うプラグカバー内を点火室とする点火プラグがシリンダヘッドに装着され、前記点火室とピストンに面する燃焼室とを連通する連通孔が前記プラグカバーに備えられ、
前記点火プラグの放電エネルギーを調整可能な放電エネルギー調整手段と、
前記放電エネルギー調整手段を制御する制御手段とを備えたエンジンであって、
前記燃焼室内において過早着火が発生するのを判定する過早着火判定手段が設けられ、
前記制御手段が、前記過早着火判定手段により前記過早着火が判定されると、前記過早着火を解消するように前記放電エネルギーを小さくすべく、前記放電エネルギー調整手段を制御するように構成され、
前記放電エネルギー調整手段が、前記点火プラグに放電電圧を印加する点火コイルと、前記制御手段からの点火信号に基づいて前記点火コイルの一次コイルの通電をオンオフするイグナイタとを備えて構成され、
前記制御手段が、前記イグナイタに与える前記点火信号のオン時間を短くすることにより、前記放電エネルギーを小さくするように構成され、
前記制御手段が、前記点火信号のオン時間を前記一次コイルに流れる一次電流が飽和するまでの前記点火信号のオン状態の継続時間よりも短くすることが可能に設定された第1短縮用時間だけ、前記点火信号のオン時間を短くした後、前記過早着火判定手段により前記過早着火が判定されなくなるまで、1サイクル毎に、前記第1短縮用時間よりも短い第2短縮用時間ずつ、前記点火信号のオン時間を短くするように構成されているエンジン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、プレチャンバー点火プラグのプラグカバーは、燃焼室内で形成される燃焼火炎に晒されるので、プラグカバーやそのプラグカバー内の点火室は高温になる。
従って、プレチャンバー点火プラグを備えたエンジンでは、燃焼室に吸気された混合気が、プレチャンバー点火プラグにより行わせる所望の点火時期よりも前に、点火室内やプラグカバーにおける燃焼室内に臨む面で着火する現象(以下、過早着火と称する場合がある)が起こり易い。
例えば、燃焼室に吸気される混合気の空気過剰率が低くなるほど、燃焼室内の燃焼温度が高くなるので、プラグカバーや点火室は高温になり、又、エンジンの出力が上昇するほど、燃焼室内の圧力が上昇して、燃焼室内の温度が高くなるので、プラグカバーや点火室は高温になる。従って、燃焼室に吸気される混合気の空気過剰率が小さくなるほど、あるいは、エンジンの出力が高くなるほど、過早着火が起こり易い。
そして、過早着火が起こると、燃焼室内の圧力が異常に上昇して、ノッキングが誘発され易くなるので、エンジンの運転が不安定になる虞があり、又、プレチャンバー点火プラグの耐久性が低下する等により、エンジンの耐久性が低下する虞もある。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、過早着火の発生を抑制して、運転の安定性及び耐久性の向上を図り得るエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエンジンは、点火点を覆うプラグカバー内を点火室とする点火プラグがシリンダヘッドに装着され、前記点火室とピストンに面する燃焼室とを連通する連通孔が前記プラグカバーに備えられ、
前記点火プラグの放電エネルギーを調整可能な放電エネルギー調整手段と、
前記放電エネルギー調整手段を制御する制御手段とを備えたものであって、
第1特徴構成は、前記燃焼室内において過早着火が発生するのを判定する過早着火判定手段が設けられ、
前記制御手段が、前記過早着火判定手段により前記過早着火が判定されると、前記過早着火を解消するように前記放電エネルギーを小さくすべく、前記放電エネルギー調整手段を制御するように構成され
、
前記放電エネルギー調整手段が、前記点火プラグに放電電圧を印加する点火コイルと、前記制御手段からの点火信号に基づいて前記点火コイルの一次コイルの通電をオンオフするイグナイタとを備えて構成され、
前記制御手段が、前記イグナイタに与える前記点火信号のオン時間を短くすることにより、前記放電エネルギーを小さくするように構成され、
前記制御手段が、前記点火信号のオン時間を前記一次コイルに流れる一次電流が飽和するまでの前記点火信号のオン状態の継続時間よりも短くすることが可能に設定された第1短縮用時間だけ、前記点火信号のオン時間を短くした後、前記過早着火判定手段により前記過早着火が判定されなくなるまで、1サイクル毎に、前記第1短縮用時間よりも短い第2短縮用時間ずつ、前記点火信号のオン時間を短くするように構成されている点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、過早着火判定手段により過早着火が判定されると、制御手段により、過早着火を解消するように放電エネルギーを小さくすべく、放電エネルギー調整手段が制御される。
つまり、放電エネルギーが小さくなることにより、点火室内での混合気の燃焼温度や電極の温度が下がって、プラグカバーや点火室内の温度が過度に上昇するのを防止することができるので、過早着火の発生を抑制することができる。
従って、過早着火の発生を抑制して、運転の安定性及び耐久性の向上を図り得るエンジンを提供することができる。
加えて、上記特徴構成によれば、制御手段からイグナイタに点火信号が送られ、その点火信号に基づいて、イグナイタにより、点火コイルの一次コイルの通電がオンオフされる。一次コイルの通電がオンされると一次コイルに一次電流が流れ、一次コイルの通電がオフされると一次コイルの一次電流が遮断され、その一次電流の遮断に伴って、点火コイルの二次コイルに高電圧の誘導電圧が発生して、点火プラグに放電エネルギーが印加される。
そして、過早着火判定手段により過早着火が判定されると、制御手段により、イグナイタに与える点火信号のオン時間が短くされることにより、プレチャンバー点火プラグに印加される放電エネルギーが小さくされる。
従って、過早着火の発生を的確に抑制することができる。
更に、上記特徴構成によれば、先ず、点火信号のオン時間が第1短縮用時間だけ短くされて、点火コイルの一次コイルに一次電流が流れるのが未飽和の状態に止められ、以降は、過早着火判定手段により過早着火が判定されなくなるまで、1サイクル毎に、第1短縮用時間よりも短い第2短縮用時間ずつ、点火信号のオン時間が短くされるので、一次コイルに流れる一次電流が徐々に小さくなる。
つまり、先ず、点火信号のオン時間が第1短縮用時間だけ短くされることにより、一次コイルに一次電流が流れるのが未飽和の状態に止められるので、プレチャンバー点火プラグに印加される放電エネルギーが確実に小さくなる。以降は、過早着火判定手段により過早着火が判定されなくなるまで、プレチャンバー点火プラグに印加される放電エネルギーが徐々に小さくされるので、放電エネルギーが小さくなり過ぎて、燃焼室内で失火が発生するのを的確に抑制することができる。
従って、燃焼室内で失火が発生するのを的確に抑制しながら、過早着火を的確に且つ極力速く抑制することができる。
【0010】
第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、
前記燃焼室に吸気される混合気の空気過剰率を調整する空燃比調整手段と、
前記燃焼室内における失火異常を判定する失火異常判定手段とが設けられ、
前記制御手段が、混合気の空気過剰率をストイキ又はそれに近いストイキ範囲内とストイキ範囲よりも大きいリーン範囲内とに調整すべく、前記空燃比調整手段を制御するように構成され、並びに、前記失火異常判定手段により前記失火異常が判定されると、前記点火信号のオン時間を、前記リーン範囲の空気過剰率の混合気を着火可能に設定された通常オン時間に戻すように構成されている点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、制御手段により、混合気の空気過剰率をストイキ範囲内やリーン範囲内に調整すべく、空燃比調整手段が制御される。
そして、失火異常判定手段により失火異常が判定されると、制御手段により、点火信号のオン時間が、リーン範囲の空気過剰率の混合気を着火可能に設定された通常オン時間に戻される。
つまり、燃焼室に吸気される混合気の空気過剰率がストイキ範囲内やリーン範囲内に調整される場合、混合気の空気過剰率が大きいほど、混合気が着火し難くなるので、空気過剰率がリーン範囲の希薄混合気でも着実に着火できるように、過早着火が発生していない通常時には、点火信号のオン時間は、リーン範囲の空気過剰率の混合気を着火可能に設定された通常オン時間に設定される。
そして、過早着火を解消するように、点火信号のオン時間が短くされている状態で、燃焼室に吸気される混合気の空気過剰率が大きくなる等により、燃焼室内で失火異常が発生しても、点火信号のオン時間が通常オン時間に戻されるので、失火異常を速やかに解消することができる。
従って、過早着火の発生を抑制することができると共に、その過早着火を抑制しているときに、燃焼室で失火異常が発生しても、失火異常が速やかに解消されるので、運転の安定性をさらに向上することができる。
【0012】
本発明に係るエンジンは、点火点を覆うプラグカバー内を点火室とする点火プラグがシリンダヘッドに装着され、前記点火室とピストンに面する燃焼室とを連通する連通孔が前記プラグカバーに備えられ、
前記点火プラグの放電エネルギーを調整可能な放電エネルギー調整手段と、
前記放電エネルギー調整手段を制御する制御手段とを備えたものであって、
第3特徴構成は、前記燃焼室内において過早着火が発生するのを判定する過早着火判定手段が設けられ、
前記制御手段が、前記過早着火判定手段により前記過早着火が判定されると、前記過早着火を解消するように前記放電エネルギーを小さくすべく、前記放電エネルギー調整手段を制御するように構成され、
前記放電エネルギー調整手段が、前記点火プラグに放電電圧を印加する点火コイルと、前記制御手段からの点火信号に基づいて前記点火コイルの一次コイルの通電をオンオフするイグナイタとを備えて構成され、
前記制御手段が、前記イグナイタに与える前記点火信号のオン時間を短くすることにより、前記放電エネルギーを小さくするように構成され、
前記燃焼室に吸気される混合気の空気過剰率を調整する空燃比調整手段と、
前記燃焼室内における失火異常を判定する失火異常判定手段とが設けられ、
前記制御手段が、混合気の空気過剰率をストイキ又はそれに近いストイキ範囲内とストイキ範囲よりも大きいリーン範囲内とに調整すべく、前記空燃比調整手段を制御するように構成され、並びに、前記失火異常判定手段により前記失火異常が判定されると、前記点火信号のオン時間を、前記リーン範囲の空気過剰率の混合気を着火可能に設定された通常オン時間に戻すように構成されている点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、過早着火判定手段により過早着火が判定されると、制御手段により、過早着火を解消するように放電エネルギーを小さくすべく、放電エネルギー調整手段が制御される。
つまり、放電エネルギーが小さくなることにより、点火室内での混合気の燃焼温度や電極の温度が下がって、プラグカバーや点火室内の温度が過度に上昇するのを防止することができるので、過早着火の発生を抑制することができる。
従って、過早着火の発生を抑制して、運転の安定性及び耐久性の向上を図り得るエンジンを提供することができる。
加えて、上記特徴構成によれば、制御手段からイグナイタに点火信号が送られ、その点火信号に基づいて、イグナイタにより、点火コイルの一次コイルの通電がオンオフされる。一次コイルの通電がオンされると一次コイルに一次電流が流れ、一次コイルの通電がオフされると一次コイルの一次電流が遮断され、その一次電流の遮断に伴って、点火コイルの二次コイルに高電圧の誘導電圧が発生して、点火プラグに放電エネルギーが印加される。
そして、過早着火判定手段により過早着火が判定されると、制御手段により、イグナイタに与える点火信号のオン時間が短くされることにより、プレチャンバー点火プラグに印加される放電エネルギーが小さくされる。
従って、過早着火の発生を的確に抑制することができる。
更に、上記特徴構成によれば、制御手段により、混合気の空気過剰率をストイキ範囲内やリーン範囲内に調整すべく、空燃比調整手段が制御される。
そして、失火異常判定手段により失火異常が判定されると、制御手段により、点火信号のオン時間が、リーン範囲の空気過剰率の混合気を着火可能に設定された通常オン時間に戻される。
つまり、燃焼室に吸気される混合気の空気過剰率がストイキ範囲内やリーン範囲内に調整される場合、混合気の空気過剰率が大きいほど、混合気が着火し難くなるので、空気過剰率がリーン範囲の希薄混合気でも着実に着火できるように、過早着火が発生していない通常時には、点火信号のオン時間は、リーン範囲の空気過剰率の混合気を着火可能に設定された通常オン時間に設定される。
そして、過早着火を解消するように、点火信号のオン時間が短くされている状態で、燃焼室に吸気される混合気の空気過剰率が大きくなる等により、燃焼室内で失火異常が発生しても、点火信号のオン時間が通常オン時間に戻されるので、失火異常を速やかに解消することができる。
従って、過早着火の発生を抑制することができると共に、その過早着火を抑制しているときに、燃焼室で失火異常が発生しても、失火異常が速やかに解消されるので、運転の安定性をさらに向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
図1に示すように、エンジンは、シリンダ1、そのシリンダ1内に往復摺動自在に内嵌されたピストン2、シリンダ1のシリンダヘッド1hに装着されたプレチャンバー点火プラグ(即ち、点火プラグ)30、及び、このエンジンの運転を制御する制御部(制御手段の一例であり、所謂、エンジン・コントロール・ユニット(ECU))3等を備えて構成されている。
シリンダ1内においてピストン2の頂部とシリンダヘッド1hとの間に、燃焼室4が形成され、シリンダヘッド1hには、燃焼室4に夫々連通する状態で吸気ポート5及び排気ポート(図示省略)が設けられ、更に、吸気ポート5を開閉する吸気バルブ6、排気ポートを開閉する排気バルブ(図示省略)も設けられている。
【0019】
そして、吸気バルブ6及び排気バルブが開閉動作されることにより、燃焼室4において、吸気行程、圧縮行程、燃焼膨張行程、排気行程の各行程が順次行われて、ピストン2の往復運動が連結棒によってクランクシャフト7の回転運動として出力されるように構成されている。このような構成は、通常の4ストロークエンジンと同様の構成である。このクランクシャフト7には、起動初期に燃焼室4における燃焼を伴うことなくクランクシャフト7の回転を確保するためのセルモータ8が備えられている。
【0020】
このエンジンは、例えば、気体燃料である都市ガス(13A)を燃料Gとするものであり、吸気行程では、吸気バルブ6を開状態として、吸気ポート5から燃焼室4へ、燃焼用空気Aと燃料Gとの混合気を吸気するように構成されている。圧縮行程及び燃焼膨張行程では、燃焼室4に吸気した混合気を圧縮して燃焼膨張させるように構成されている。排気行程では、排気バルブを開状態として、燃焼室4から排気ポートに燃焼排ガスを排出するように構成されている。
【0021】
更に、このエンジンには、吸気ポート5に燃料Gを噴射するインジェクター9、吸気ポート5を通して燃焼室4に吸気される混合気の吸気量を調整可能なスロットルバルブ10、燃焼室4に吸気される混合気の空気過剰率を調整する空燃比調整手段11、及び、プレチャンバー点火プラグ30に印加する放電エネルギーを調整可能な点火回路14(放電エネルギ調整手段の一例)が設けられている。
【0022】
この実施形態では、インジェクター9から噴出する燃料Gの噴出量を調整可能な燃料調整弁12が、インジェクター9に燃料Gを供給する燃料供給路13に設けられている。
つまり、燃料調整弁12によりインジェクター9から噴出する燃料Gの噴出量を調整することにより、吸気ポート5を通して燃焼室4に吸気される混合気の空気過剰率を調整可能となり、空燃比調整手段11が、この燃料調整弁12を備えて構成されている。
【0023】
点火回路14は、
図2に示すように、プレチャンバー点火プラグ30に放電電圧を印加する点火コイル15と、半導体スイッチング素子からなり、点火コイル15の一次コイル15fの通電をオンオフするイグナイタ16とを備えて構成されている。
制御部3から、イグナイタ16をオンオフする点火信号Sがイグナイタ16に与えられる。イグナイタ16がオンすると、点火コイル15の一次コイル15fにバッテリー17から一次電流が流れ、イグナイタ16がオフすると、一次コイル15fの一次電流が遮断されるのに伴って、点火コイル15の二次コイル15sに高電圧の誘導電圧が発生し、その誘導電圧が点火プラグ30の中心電極31に印加されて、中心電極31と接地電極32との間で火花放電する。
そして、イグナイタ16に与える点火信号Sのオン時間を調整することにより、点火コイル15の一次コイル15fに流れる一次電流が調整されて、プレチャンバー点火プラグ30に印加される放電エネルギーが調整されることになる。
【0024】
図1に示すように、プレチャンバー点火プラグ30は、プラグ本体33と、プラグ本体33の先端部(
図1の下方側の端部)に設けられた点火点(図示せず)を覆って点火室34を形成するプラグカバー35とを備えて構成されており、プラグカバー35とプラグ本体33とが一体とされている。
プラグカバー35は、円筒状のプラグカバー基端部35bと、そのプラグカバー基端部35bの一端を閉じるドーム状のプラグカバー頭部35aとを備えた有底円筒状に構成されている。このプラグカバー35は、そのドーム状のプラグカバー頭部35aの頂点をプラグ本体33の軸心上に位置させて、プラグカバー基端部35bをプラグ本体33に外嵌させた状態で、プラグ本体33に一体的に組み付けられる。
【0025】
そして、このプレチャンバー点火プラグ30が、そのプラグ本体33の軸心を燃焼室4の中心軸(
図1の直線Wに沿う軸)に一致させて、そのプラグカバー頭部35aを燃焼室4に突出させた状態で、シリンダヘッド1hに装着される。
【0026】
プラグカバー35(具体的にはプラグカバー頭部35a)には、燃焼室4と点火室34とを連通する複数の連通孔36が形成されている。プレチャンバー点火プラグ30は、燃焼室4から連通孔36を通して点火室34へ流入する混合気に火花点火して燃焼させ、その燃焼により形成された燃焼火炎を、連通孔36を通して燃焼室4へ噴出させるように構成されている。このようにして、燃焼室4から点火室34への混合気の流入、及び、点火室34から燃焼室4への燃焼火炎の噴出を、複数の連通孔36により行うことにより、燃焼室4に吸気された混合気を燃焼させるように構成されている。ここで、点火室34に流入する混合気は、燃焼室4から連通孔36を通して流入される混合気がすべてであり、点火室34に対して燃焼室4以外から燃料Gや混合気が供給されることはない。
【0027】
次に、制御部3の制御動作について説明する。
制御部3は、エンジンを制御するプログラムを実行可能なマイクロコンピュータ等を備えて構成され、点火回路14のイグナイタ16に点火信号Sを印加することにより、プレチャンバー点火プラグ30の中心電極31と接地電極32との間での火花放電の時期を制御するように構成されている。
【0028】
エンジンは、吸気バルブ6を開動作させた状態でピストン2が上死点から下降することにより、燃焼室4に混合気を吸気する吸気行程が行われる。次に、吸気バルブ6を閉動作させた状態でピストン2が上昇することにより、燃焼室4の混合気を圧縮する圧縮行程が行われる。この圧縮行程では、ピストン2が下死点から上昇することにより燃焼室4の容積が減少されるので、燃焼室4に吸気された混合気が連通孔36を通して点火室34に流入する。
制御部3は、点火信号Sを点火回路14に送ることにより、点火タイミング(例えば、上死点直前)に、プラグ本体33を作動させて、点火点にて火花点火して点火室34の混合気に点火する。すると、点火室34での燃焼が進み、燃焼火炎が連通孔36を通して燃焼室4に噴出する。これにより、燃焼室4の混合気が燃焼されて燃焼膨張行程が行われて、ピストン2が下降する。次に、排気バルブを開動作させた状態でピストン2が上昇することにより、燃焼室4の燃焼排ガスを排気ポートに導いて排出する排出行程が行われる。
このようにして、エンジンは、吸気行程、圧縮行程、燃焼膨張行程、排気行程の順に各行程を行う一連の動作を繰り返し行う4ストロークエンジンとして構成されている。
【0029】
又、制御部3は、混合気の空気過剰率をストイキ又はそれに近いストイキ範囲内とストイキ範囲よりも大きいリーン範囲内とに調整すべく、燃料調整弁12を制御するように構成されている。
例えば、エンジンがヒートポンプ式の空調システムにおいて、ヒートポンプの駆動用として用いられる場合、空調負荷に応じてエンジンに負荷がかかるので、制御部3は、エンジン負荷に応じてエンジンの回転速度を調整すべく、スロットルバルブ10を制御するように構成されている。
そして、例えば、制御部3は、回転速度が高回転速度範囲のときは、混合気の空気過剰率をストイキ範囲内に調整すべく、燃料調整弁12を制御し、回転速度が高回転速度範囲よりも低い低回転速度範囲のときは、混合気の空気過剰率をリーン範囲内に調整すべく、燃料調整弁12を制御するように構成されている。
ちなみに、ストイキ範囲は、例えば、略1.0に設定され、リーン範囲は、例えば、1.5〜1.9の範囲に設定される。
【0030】
又、制御部3は、過早着火が発生していない通常時は、
図3(a)に示すように、イグナイタ16に与える点火信号Sのオン時間Tonを、通常オン時間Tcに設定するように構成されている。この通常オン時間Tcは、プレチャンバー点火プラグ30に対して、リーン範囲の空気過剰率の混合気を着実に着火可能な放電エネルギーを印加させることが可能な時間に設定される。
図3に示すように、通常オン時間Tcは、一次電流が飽和するまでの点火信号Sのオン状態の継続時間Tsよりも長い時間、例えば、7msecに設定される。
【0031】
以上が、本発明のエンジン及びプレチャンバー点火プラグ30の基本構成である。
先にも説明したように、本発明のエンジンは、過早着火の発生を抑制するように構成されている。以下、過早着火の発生を抑制するための制御に関して説明する。
図1に示すように、本発明では、燃焼室4内において過早着火が発生するのを判定する過早着火判定手段21が設けられている。
そして、制御部3が、過早着火判定手段21により過早着火が判定されると、過早着火を解消するように放電エネルギーを小さくすべく、点火回路14を制御するように構成されている。
【0032】
図1に示すように、この実施形態では、シリンダ1内の圧力(燃焼室4内の圧力)を検出する筒内圧力センサ22、及び、クランクシャフト7のクランク角を検出するクランク角検出器23が設けられている。そして、筒内圧力センサ22にて検出されるシリンダ1内の圧力、及び、クランク角検出手段23により検出されるクランクシャフト7のクランク角に基づいて、1サイクル毎に過早着火が発生しているか否かを判定する過早着火判定部24が、制御部3を用いて構成されている。
つまり、過早着火判定手段21が、筒内圧力センサ22、クランク角検出器23及び過早着火判定部24により構成されている。
尚、筒内圧力センサ22にて検出されるシリンダ1内の圧力、及び、クランク角検出手段23により検出されるクランクシャフト7のクランク角に基づいて、過早着火判定部24により過早着火が発生しているか否かを判定する手法は、公知の各種手法を採用することができるので、詳細な説明を省略して、以下に一例を簡単に説明する。
即ち、点火時期よりも前に、燃焼室4内で燃焼が開始してしまうため、点火時期を制御していた状態と比較して、筒内圧力センサ22にて検出されるシリンダ1内の圧力の最大値が急激に上昇することになる。このような現象に基づき、筒内圧力センサ22にて検出されるシリンダ1内の圧力、及び、クランク角検出手段23により検出されるクランクシャフト7のクランク角に基づいて、過早着火の発生の有無を判定することができる。
【0033】
又、燃焼室4内における失火異常を判定する失火異常判定手段25も設けられている。
この実施形態では、筒内圧力センサ22の検出情報に基づいて、1サイクル毎に平均有効圧を演算すると共に、演算した平均有効圧が所定の失火判定用圧力以下になると、失火異常と判定する失火異常判定部26が、制御部3を用いて構成されている。ちなみに、失火判定用圧力は、燃焼室4内での燃焼が正常な状態での平均有効圧よりも低い所定の圧力に設定される。
つまり、失火異常判定手段25が、筒内圧力センサ22及び失火異常判定部26により構成されている。
【0034】
次に、点火回路14を制御して過早着火を抑制する制御について、説明を加える。
図3(b)、(c)に示すように、この実施形態では、制御部3が、点火回路14のイグナイタ16に与える点火信号Sのオン時間Tonを短くすることにより、放電エネルギーを小さくするように構成されている。
又、制御部3が、点火信号Sのオン時間Tonを一次電流が飽和するまでの点火信号Sのオン状態の継続時間Tsよりも短くすることが可能に設定された第1短縮用時間ΔT1だけ、点火信号Sのオン時間Tonを短くした後、過早着火判定手段21により過早着火が判定されなくなるまで、1サイクル毎に、第1短縮用時間ΔT1よりも短い第2短縮用時間ΔT2(図示省略)ずつ、点火信号Sのオン時間Tonを短くするように構成されている。
上述のように、通常オン時間Tcが7msecに設定される場合、第1短縮用時間ΔT1は、例えば5msecに設定され、第2短縮用時間ΔT2は、例えば0.1msecに設定される。
【0035】
過早着火を抑制する制御について、更に説明を加える。
制御部3は、1サイクル毎に、点火信号Sのオン時間Tonを設定する通電時間設定制御を実行し、その通電時間設定制御にて設定したオン時間Tonの点火信号Sを点火回路14に与え、並びに、エンジン負荷に応じてエンジンの回転速度を調整すべく、スロットルバルブ10を制御すると共に、回転速度に応じて混合気の空気過剰率をストイキ範囲とリーン範囲とに調整すべく、燃料調整弁12を制御する。
従って、プレチャンバー点火プラグ30は、通電時間設定制御で設定された点火信号Sのオン時間Tonに応じた放電エネルギーが与えられて作動する。
そして、過早着火判定手段21は、エンジンの作動中、1サイクル毎に過早着火の発生の有無を判定する。
【0036】
以下、
図4に示すフローチャートに基づいて、通電時間設定制御について説明する。
制御部3は、エンジンの起動が指令されると、通電時間設定制御を実行し、先ず、起動時は、点火信号Sのオン時間Tonを通常オン時間Tcに設定し(ステップ#1)、以降、過早着火判定手段21により過早着火が判定されず、且つ、失火異常判定手段25により失火異常が判定されない間は、点火信号Sのオン時間Tonを変更しない(ステップ#2〜4))。
従って、プレチャンバー点火プラグ30には、オン時間Tonが通常オン時間Tcに調整された点火信号Sが与えられる。
【0037】
制御部3は、ステップ#2において、過早着火判定手段21により過早着火が判定されたと判断すると、オン時間Tonを直前のオン時間Tonよりも第1短縮用時間ΔT1だけ短くし(ステップ#5)、更に、1サイクル毎に、過早着火判定手段21により過早着火が判定されたか否かを判断して、過早着火が判定されたと判断する間は、1サイクル毎に、オン時間Tonを直前のオン時間Tonよりも第2短縮用時間ΔT2だけ短くする(ステップ#6,7)。
【0038】
ステップ#6において、過早着火判定手段21により過早着火が判定されなかったと判断すると、ステップ#3において、失火異常判定手段25により失火異常が判定されたか否かを判断し、失火異常が判定されなかったと判断した場合は、オン時間Tonを直前のオン時間Toから変更せず(ステップ#4)に、ステップ#2に戻り、失火異常が判定されたと判断した場合は、オン時間Tonを通常オン時間Tcに戻し(ステップ#8)、空気過剰率を低くする又はエンジン負荷を小さくして(図示省略)、ステップ#2に戻る。
【0039】
つまり、過早着火判定手段21により過早着火が判定されると、先ず、オン時間Tonが通常オン時間Tcよりも第1短縮用時間ΔT1だけ短くなるように調整された点火信号S(
図3(b)参照)が、プレチャンバー点火プラグ30に与えられ、以降、過早着火判定手段21により過早着火が判定される間は、1サイクル毎に、オン時間Tonが直前のオン時間Tonよりも第2短縮用時間ΔT2ずつ短く調整された点火信号S(
図3(c)参照)が、プレチャンバー点火プラグ30に与えられる。
【0040】
従って、過早着火判定手段21により過早着火が判定されると、点火信号Sのオン時間Tonが短くされて、プレチャンバー点火プラグ30に与えられる放電エネルギーが小さくなるので、過早着火の発生が抑制される。
そして、そのように過早着火の発生を抑制すべく、プレチャンバー点火プラグ30に与える放電エネルギーを小さくするにしても、最初は、点火信号Sのオン時間Tonを比較的大きい幅で短くし、以降は、1サイクル毎に過早着火判定手段21により過早着火が判定されたか否かを判断しながら、過早着火が判定されなくなるまで、点火信号Sのオン時間Tonを1サイクル毎に徐々に小さくする。
このことにより、放電エネルギーが小さくなり過ぎて、燃焼室4内で失火が発生するのを的確に抑制することができるので、燃焼室4内で失火が発生するのを的確に抑制しながれ、過早着火を的確に且つ極力速く抑制することができる。
【0041】
又、過早着火の抑制の際に、オン時間Tonを短くし過ぎて、燃焼室4内で失火異常が発生しても、
図3(a)に示すように、点火信号Sのオン時間Tonが通常オン時間Tcに戻されるので、失火異常を速やかに解消することができる。
又、混合気の空気過剰率がストイキ範囲に調整されているときに、過早着火の抑制のために点火信号Sのオン時間Tonが短く設定され、そのようにオン時間Tonが短く設定されている状態で、混合気の空気過剰率がリーン範囲に調整されて、失火が発生しても、点火信号Sのオン時間Tonが通常オン時間Tcに戻されるので、失火異常を速やかに解消することができる。
【0042】
〔別実施形態〕
次に別実施形態を説明する。
(イ) 過早着火判定手段21の具体構成は、上記の実施形態において例示した構成、即ち、筒内圧力センサ22、クランク角検出器23及び過早着火判定部24を備えた構成に限定されるものではなく、公知の種々の構成を採用することができる。例えば、燃焼開始時期が進角してしまうので、結果的にNOx排出量が急激に増え、又、排気の温度も急降下する。そこで、過早着火判定手段21は、排気中のNOx濃度を検出するNOxセンサや、排気の温度を検出する排気温度センサを備えて構成することができる。
【0043】
(ロ) 過早着火は、混合気の空気過剰率が小さいほど発生し易いので、本願発明の過早着火を抑制するための構成は、混合気の空気過剰率が所定値(例えば、ストイキ範囲の上限である1.5)以下のときに実行し、混合気の空気過剰率が所定値よりも大きいときは実行しないように構成しても良い。
【0044】
(ハ) 点火信号Sのオン時間Tonの通常オン時間Tcの具体例として、上記の実施形態では、一次電流が飽和するまでのオン状態の継続時間Tsよりも長い時間としたが、そのオン状態の継続時間Tsよりも短い時間でも良い。