(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
<本発明の一実施形態>
(1)直流ケーブルの構造
本発明の一実施形態に係る直流ケーブルについて、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る直流ケーブル1の軸方向と直交する断面図である。
【0020】
(構造概要)
図1に示されているように、直流ケーブル1は、導電部10と、導電部10の外周を覆う絶縁層20と、を備える。
【0021】
導電部10は、例えば純銅(Cu)または銅合金等からなる複数の導電芯線を撚り合わせてなる銅導体等である。絶縁層20は、例えばポリエチレン等の電気絶縁組成物を主成分とする。
【0022】
また、直流ケーブル1は、導電部10と絶縁層20との間に、内部半導電層11を備える。
【0023】
また、直流ケーブル1は、絶縁層20の外周を覆う遮蔽層30と、遮蔽層30の外周を覆う被覆層40と、を備える。
【0024】
遮蔽層30は、例えば絶縁層20の外周に巻かれた銅テープや、複数の軟銅線等の導電素線が被覆されたワイヤシールド等である。絶縁層20と遮蔽層30との間には、外部半導電層21が形成されている。また、被覆層40は、例えばポリ塩化ビニル製の被覆材(シース)からなる。
【0025】
以上のように構成される直流ケーブル1は、例えば直流電力の送電に用いられるよう構成されている。
【0026】
(絶縁層)
絶縁層20は、少なくとも、ベース樹脂と、無機充填剤と、を含む電気絶縁組成物から構成される。ここで、「ベース樹脂」とは、電気絶縁組成物の主成分を構成する樹脂組成物のことをいう。なお、本明細書において、「ベース樹脂」「樹脂組成物」および「電気絶縁組成物」の用語は、絶縁層20を形成する以前、以後に関わらず同様の用語を用いる。
(ベース樹脂)
ベース樹脂は、例えば、少なくとも一部が架橋されるポリエチレンを含む。また、「少なくとも一部が架橋されるポリエチレン」とは、ベース樹脂の少なくとも一部に、架橋しているポリエチレン、および架橋されていないポリエチレンであって絶縁層20を形成する際に架橋されるポリエチレンの少なくともいずれかを含み、さらに、架橋されないポリエチレンを含んでいても良い。絶縁層20が形成された状態の電気絶縁組成物中では、ポリエチレンは少なくとも一部または全部が架橋されて、架橋ポリエチレンとなっている。直流ケーブルの製造工程後における「電気絶縁組成物」には、未架橋のポリエチレンが含まれていてもよい。
【0027】
ポリエチレンは、例えば、有機過酸化物を含む架橋剤によって架橋されている。有機過酸化物を含む架橋剤は、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が用いられる。
【0028】
さらに、ベース樹脂は、極性を有するエチレン共重合体を含んでいてもよい。これにより、無機充填剤との界面の密着性が向上し、無機充填剤の分散性が良くなる。
【0029】
ポリエチレンに対するエチレン共重合体の質量比率は、例えば1/9以下である。ポリエチレンに対するエチレン共重合体の質量比率が1/9を超えるとき、絶縁層20の成形性が悪化する可能性がある。これに対して、ポリエチレンに対するエチレン重合の質量比率が1/9以下であることにより、絶縁層20の成形性の悪化が抑制され、また、特に長期課電時の直流絶縁破壊強度の低下を抑制することができる。
【0030】
極性を有するエチレン共重合体としては、無水マレイン酸グラフトポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体などが挙げられる。または、これらのうち1種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(無機充填剤)
絶縁層20の主成分である電気絶縁組成物は、気相法により形成された酸化マグネシウム(MgO)を含む無機充填剤を含む。直流ケーブル1には、酸化マグネシウムは粉末の状態で含まれている。
【0032】
ここで、上記のような架橋剤を用いて架橋された架橋ポリエチレンを有する架橋PEケ−ブルでは、架橋剤の分解残渣が架橋ポリエチレン絶縁体の体積抵抗率を低下させ、電荷蓄積を増大させるために、安定した絶縁性能が得られなかった。体積抵抗率の低下は絶縁体のもれ電流を増し、ジュ−ル熱により絶縁体の熱破壊に至る可能性がある。特に架橋剤の分解残渣が多く分布する絶縁層の中層部分で体積抵抗率が低下するため、直流課電の下で外層と内層にかかる電圧の負担が大となり、絶縁体の実効厚さが減少する可能性がある。また、電荷蓄積の増大は、絶縁体中に局部的に高電界を発生させ、低電圧破壊等の原因となり、あるいは極性反転の際又は逆極性のインパルスの侵入の際に絶縁破壊が生ずる可能性がある。
【0033】
そこで、電気絶縁組成物には、上記のように、酸化マグネシウムなどの無機充填剤が添加されている。酸化マグネシウムを形成する方法としては、気相法、または海水原料を利用した方法がある。
【0034】
海水原料を利用した酸化マグネシウム形成方法では、海水から抽出し、マグネシウム塩水溶液等のマグネシウム原料と、アルカリとの溶液反応により、前駆体としての水酸化マグネシウムのスラリーを合成する。この水酸化マグネシウムスラリーを濾過、および水洗して得られたケーキを乾燥し、高温で加熱する。これにより、酸化マグネシウムの微粉末が生成される。
【0035】
一方、気相法による酸化マグネシウム形成方法では、金属マグネシウムを加熱して、マグネシウムの蒸気を発生させる。このマグネシウムの蒸気と酸素含有気体とを接触させることにより、マグネシウムを酸化する。これにより、酸化マグネシウムの微粉末が生成される。
【0036】
本発明者等は、直流ケーブルの長期的な直流絶縁性能および空間電荷特性を向上させるために鋭意検討した結果、海水原料を利用したものではなく、気相法により形成された酸化マグネシウムを用いることが非常に有効であることを見出した。
【0037】
本実施形態では、電気絶縁組成物に含まれる無機充填剤は、気相法により形成された酸化マグネシウムを含む。これにより、長期的な直流絶縁性能および空間電荷特性が優れた直流ケーブルを得ることができる。
【0038】
ここで、本実施形態の直流ケーブルに含まれる酸化マグネシウムの粉末を、比較例として海水原料を利用した酸化マグネシウムの粉末と対比して考える。なお、比較例の海水原料を利用した酸化マグネシウムの粉末も、直流ケーブルを製造する際に用いられることがある。
【0039】
比較例の海水原料を利用した酸化マグネシウムの粉末は、結晶性が低い。また、海水原料を利用した酸化マグネシウムの粉末の一部は、複数の微細な粒子が凝集することにより形成されている。また、海水原料を利用した酸化マグネシウムの粉末は、不純物として酸化カルシウム(CaO)や酸化鉄(Fe
2O
3)を含む。具体的には、例えば、比較例の海水原料を利用した酸化マグネシウムを用いた直流ケーブルは、絶縁層内に含まれる無機充填剤に対してCaOを質量パーセント濃度で0.5%以上含む。また、例えば、比較例の直流ケーブルは、絶縁層内に含まれる無機充填剤に対してFe
2O
3を質量パーセント濃度で0.04%以上含む。この場合、絶縁層中にCaOやFe
2O
3等の不純物を含むことによって、絶縁層中に空間電荷の分布における変位点が形成される可能性がある。
【0040】
これに対して、本実施形態の直流ケーブルに含まれる酸化マグネシウムの粉末を分析した場合、本実施形態の気相法により形成された酸化マグネシウムの粉末は、以下のような特徴を有している。
【0041】
本実施形態に用いられる気相法により形成された酸化マグネシウムの粉末は、海水原料を利用した酸化マグネシウムの粉末よりも結晶性が高い。透過形電子顕微鏡(TEM)等によって絶縁層20を観察したとき、本実施形態の酸化マグネシウムの粉末の一部は、例えば、結晶面である平滑面を有している。また、本実施形態の酸化マグネシウムの粉末は、比較的凝集しておらず個々に分離している。さらに、本実施形態の直流ケーブル1の絶縁層20から酸化マグネシウムの粉末を抽出してX線回折測定を行ったとき、本実施形態の酸化マグネシウムの粉末は、(111)面の回折ピークを有する。例えば、本実施形態の酸化マグネシウムの粉末における(111)面の回折ピークは、等量の比較例の粉末における(111)面の回折ピークよりも高い。
【0042】
また、本実施形態に用いられる気相法により形成された酸化マグネシウムの粉末の純度は、海水原料を利用した酸化マグネシウムの粉末よりも高い。本実施形態の直流ケーブル1の絶縁層20を組成分析したとき、CaOの質量パーセント濃度は、例えば、絶縁層20内に含まれる無機充填剤に対して0.5%未満、好ましくは0.01%未満である。また、本実施形態では、Fe
2O
3の質量パーセント濃度は、例えば、絶縁層20内に含まれる無機充填剤に対して0.04%未満、好ましくは0.01%未満である。
【0043】
以上のように、本実施形態の酸化マグネシウムの粉末の結晶性がよく、また粉末が凝集していないことにより、酸化マグネシウムの粉末が絶縁層20中に均等に分散され易い。また、絶縁層20中にCaOやFe
2O
3等の不純物を含まないことにより、絶縁層20中に空間電荷の分布における変位点が形成されることがない。これにより、体積抵抗率が高く均一な絶縁層20を得ることができる。
【0044】
また、シランカップリング剤により無機充填剤の酸化マグネシウムの少なくとも一部を表面処理してもよい。これにより、ポリエチレンとの界面の密着性が向上し、機械特性や低温特性が向上する。
【0045】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン等が挙げられる。または、これらのうち1種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、無機充填剤に含まれる酸化マグネシウムは、例えば、ベース樹脂を100重量部として、0.1重量部以上5重量部以下含む。酸化マグネシウムの配合量が0.1重量部未満であるとき、長期的な直流絶縁性能を向上させる効果が十分に得られない。これに対して、酸化マグネシウムの配合量が0.1重量部以上であることにより、長期的な直流絶縁性能を向上させる効果を得ることができる。また、酸化マグネシウムの配合量が5重量部を超えているとき、電気絶縁組成物を加熱溶融したときの粘度が高く、電気絶縁組成物の成形性が著しく低下する。特に、電気絶縁組成物を押出成形する際に電気絶縁組成物の吐出量が低下し生産性が低下してしまう。これに対して、酸化マグネシウムの配合量が5重量部以下であることにより、電気絶縁組成物を押出成形する際に電気絶縁組成物の吐出量の低下を抑制することができる。すなわち、成形性のよい電気絶縁組成物を得ることができる。また、酸化マグネシウムの配合量が5重量部以下であることにより、体積抵抗率が高い電気絶縁組成物を得ることができ、長期的な直流絶縁性能が優れた直流ケーブル1を得ることができる。
【0047】
また、酸化マグネシウムの平均粒子径は、例えば2μm以下であることが望ましい。ここでいう酸化マグネシウムの平均粒子径とは、一次粒子の「体積平均粒子径(MV:Mean Volume Diameter)」のことである。「体積平均粒子径(MV)」は、粒子の粒子径をd
i、粒子の体積V
iとしたとき、以下の式(1)で求められる。
MV=Σ(V
id
i)/ΣV
i ・・・(1)
【0048】
なお、体積平均粒子径の測定には、動的光散乱式粒子径・粒度分布測定装置が用いられる。
【0049】
酸化マグネシウムの平均粒子径が上記上限値以下であることにより、酸化マグネシウムを電気絶縁組成物中に均等に分散させることができる。これにより、体積抵抗率が高く均一な絶縁層20を得ることができる。また、直流ケーブル1の製造工程において、スクリーンメッシュの目詰まりが抑制され、安定的に押出成形することができる。したがって、長期的な直流絶縁性能および空間電荷特性が優れた直流ケーブル1を得ることができる。
【0050】
また、酸化マグネシウムは、粉砕処理を施したものであってもよい。例えば、酸化マグネシウムは、上述したシランカップリング剤により表面処理される際に互いに接着し粒径が大きくなってしまった酸化マグネシウムに対し、ジェット粉砕によって粉砕処理されたものを用いることができる。なお、この場合も酸化マグネシウムの平均粒子径は上記した範囲内であることが好ましい。
【0051】
(その他)
更に、電気絶縁組成物は、例えば、酸化防止剤を含んでいても良く、例えば、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4−ビス−[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12あるいはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィドおよび4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)などより選択される1種以上の酸化防止剤を含んでいてもよい。これにより、電気絶縁組成物の耐熱老化性が向上する。
【0052】
また、更に、電気絶縁組成物は、例えば、滑剤、カーボンブラック、着色剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0053】
以上のような電気絶縁組成物を用いることで、長期的な直流絶縁性能および空間電荷特性が優れた直流ケーブル1が得られる。
【0054】
なお、直流ケーブル1における具体的な寸法としては、例えば、導電部10の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層11の厚さは1mm以上3mm以下であり、絶縁層20の厚さは1mm以上35mm以下であり、外部半導電層21の厚さは1mm以上3mm以下であり、遮蔽層30の厚さは1mm以上5mm以下である。本実施形態の直流ケーブル1に適用される直流電圧は、例えば80kV以上600kV以下である。
【0055】
(2)直流ケーブルの製造方法
本実施形態に係る直流ケーブル1は、以下の製造方法により製造することができる。
【0056】
まずは、ベース樹脂となるポリエチレンを含む前駆体と、酸化マグネシウムを含む無機充填剤と、を配合し混練する。
【0057】
前駆体は、例えば、未架橋の低密度ポリエチレン(LDPE)である。無機充填剤は、気相法により形成された酸化マグネシウムである。気相法により形成された酸化マグネシウムの配合量は、例えば、前駆体を100重量部として0.1重量部以上5重量部以下である。なお、無機充填剤には、シランカップリング剤による表面処理が施されていてもよい。電気絶縁組成物となる前駆体には、更に酸化防止剤や滑剤、着色剤等を配合してもよい。
【0058】
この後、有機過酸化物を含む架橋剤を、上記した前駆体のペレットに加熱含浸する。架橋剤に用いられる有機過酸化物は、例えば、ジクミルパーオキサイド等である。
【0059】
これにより、電気絶縁組成物が製造される。すなわち、ここでは、架橋前の電気絶縁組成物であって、架橋されていないポリエチレンを主成分とする電気絶縁組成物が得られる。
【0060】
一方で、例えば純銅または銅合金等からなる複数の導電芯線を撚り合わせて導電部10を形成する。この導電部10の外周を覆うように、内部半導電層11、絶縁層20、外部半導電層21の原材料を順次、押出成形する。このとき、スクリーンメッシュを用いて凝集物を除去するように押出成形してもよい。なお、これら3層を同時に押出成形してもよい。
【0061】
絶縁層20の原材料としては、上記の電気絶縁組成物を用いる。また、内部半導電層11および外部半導電層21の原材料としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体等からなる半導電性組成物を用いることができる。
【0062】
架橋ポリエチレンを得るためには、所定の架橋温度で上記の押出成形物を加熱し、電気絶縁組成物中のポリエチレンを架橋させる。これにより、導電部10の外周に、内部半導電層11、絶縁層20、外部半導電層21が形成される。
【0063】
その後、外部半導電層21を介して絶縁層20の外周に銅テープや軟銅線等を巻き付けて遮蔽層30を形成し、例えば塩化ビニル製の被覆層40を更に形成する。
【0064】
以上により、本実施形態に係る直流ケーブル1が製造される。
【0065】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態やその変形例によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0066】
(a)本実施形態によれば、絶縁層20の主成分である電気絶縁組成物は、気相法により形成された酸化マグネシウムを含む無機充填剤を含んでいる。これにより、絶縁層20の体積抵抗率が高く、長期的な直流絶縁性能および空間電荷特性が優れた直流ケーブル1を得ることができる。
【0067】
(b)本実施形態によれば、絶縁層20中における気相法により形成された酸化マグネシウムの配合量は、ベース樹脂を100重量部として0.1重量部以上5重量部以下である。酸化マグネシウムの配合量が0.1重量部以上であることにより、長期的な直流絶縁性能を向上させる効果を得ることができる。酸化マグネシウムの配合量が5重量部以下であることにより、体積抵抗率が高く成形性のよい電気絶縁組成物を得ることができる。
【0068】
(c)本実施形態によれば、シランカップリング剤により酸化マグネシウムを表面処理してもよい。これにより、ポリエチレンとの界面の密着性が向上し、機械特性や低温特性が向上する。
【0069】
(d)本実施形態によれば、ベース樹脂は、例えば、極性を有するエチレン共重合体を含んでいる。このとき、ポリエチレンに対するエチレン共重合体の質量比率は1/9以下である。長期的な直流絶縁性能、特に長期課電時の直流絶縁破壊強度の低下を抑制することができる。
【0070】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0071】
上述の実施形態では、電気絶縁組成物がポリエチレンや架橋ポリエチレンを主成分とするものとしたが、他のポリオレフィン類であってもよい。また、電気絶縁組成物の主成分としては、例えば低密度、中密度、高密度のポリオレフィン類や、直鎖状、分枝状のポリオレフィン類等であってもよい。また、電気絶縁組成物の主成分としては、ポリオレフィン類の共重合体やグラフト体等であってもよい。
【0072】
また、上述の実施形態では、無機充填剤の酸化マグネシウムがシランカップリング剤により表面処理されているとしたが、この場合に限られるものではない。無機充填剤の酸化マグネシウムがシランカップリング剤により表面処理されていなくてもよい。または、無機充填剤の酸化マグネシウムは、シランカップリング剤により表面処理されている粉末と、表面処理されていない粉末と、を混合させたものであってもよい。この場合、シランカップリング剤により表面処理されている粉末と、表面処理されていない粉末と、を合わせた合計の酸化マグネシウムの配合量は、ベース樹脂を100重量部として、0.1重量部以上5重量部以下であることが好ましい。
【0073】
また、上述の実施形態では、無機充填剤が気相法により形成された酸化マグネシウムのみであるとしたが、この場合に限られるものではない。無機充填剤は、気相法により形成された酸化マグネシウムと、海水原料を利用した酸化マグネシウムと、を混合したものであってもよい。
【実施例】
【0074】
次に、本発明に係る実施例について比較例と共に説明する。
【0075】
(1)電気絶縁組成物の合成
以下の表1に示す各種の電気絶縁組成物を以下の手順により合成した。
【0076】
【表1】
【0077】
本実施例のベース樹脂となる前駆体としては、LDPE(密度d=0.920g/mm
3、MFR:Melt Flow Rate=1g/10分)を主成分として用いた。実施例5から9については、ベース樹脂の前駆体がエチレン共重合体として無水マレイン酸変性PE、またはエチレンエチルアクリレート共重合体を含むものを合成した。なお、ポリエチレンに対するエチレン共重合体の質量比率は1/9以下である。
【0078】
一方、比較例の前駆体としては、実施例と同様のLDPEを用いた。
【0079】
本実施例1〜9の電気絶縁組成物には、気相法により形成された酸化マグネシウム(気相法MgO)からなる無機充填剤を添加した。
【0080】
気相法MgOの粉末としては、粒子径が約0.05μmのもの、または粒子径が約0.2μmのものを用いた。気相法MgOの配合量は、ベース樹脂を100重量部として、0.1重量部以上5重量部以下である。以下に、気相法MgOの粉末の生成方法を説明する。
【0081】
実施例1〜12に係る気相法MgOの生成方法は、窒素ガス雰囲気で、金属マグネシウムを加熱して、マグネシウムの蒸気を発生させる。このマグネシウムの蒸気と酸素含有気体を700℃以上の温度で接触させることによって、マグネシウムを酸化する。これにより、酸化マグネシウムの微粉末を生成した。
【0082】
上述の条件で、実施例1および11に用いる平均粒径が0.05μmの酸化マグネシウムを得た。
【0083】
また、上述の条件で、温度の条件をさらに高温側へ変更することにより、実施例2、3、及び5に用いる平均粒径0.2μmの酸化マグネシウムを得た。
【0084】
また、上記の方法で得られた平均粒径0.05μmの酸化マグネシウムに対し、ビニルトリメトキシシランをアルコールに溶解した溶液を酸化マグネシウムと混ぜて混合し粉砕処理することにより、酸化マグネシウム粉末の表面にシラン系膜を形成した。これにより、実施例6、8、11および12に用いる、平均粒径が0.05μmである酸化マグネシウムを得た。
【0085】
また、上記の方法で得られた平均粒径0.05μmの酸化マグネシウムに対し、ビニルトリメトキシシランをアルコールに溶解した溶液を酸化マグネシウムと混ぜて混合し粉砕処理することにより、酸化マグネシウム粉末の表面にシラン系膜を形成するとともに、平均粒径が0.2μmである、実施例4、7、9および10に用いる酸化マグネシウムを得た。
【0086】
一方、比較例1の電気絶縁組成物には酸化マグネシウムを添加せず、比較例2の電気絶縁組成物はベース樹脂を100重量部として10重量部の配合量で気相法MgOを添加し、比較例3および4の電気絶縁組成物は海水原料を利用した酸化マグネシウムを添加した。
【0087】
実施例1から7の電気絶縁組成物には、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイドを添加した。実施例8、10〜12の電気絶縁組成物には、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを添加した。また、実施例9の電気絶縁組成物には、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンを添加した。
【0088】
一方、比較例の電気絶縁組成物はジクミルパーオキサイドを添加した。
【0089】
また、本実施例および比較例ともに、電気絶縁組成物は、酸化防止剤として4,4′−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)を添加した。
【0090】
以上により得られた各種の電気絶縁組成物を、各種評価を行うために、プレス成形にて約0.15mmの厚さのシートサンプルに成形した。
【0091】
(2)電気絶縁組成物の試験
(体積抵抗率)
上記のように各シートサンプルに成形された電気絶縁組成物を用いて、温度90℃、直流印加電界80kV/mmの条件で体積抵抗率を評価した。その結果は、表1のとおりである。
【0092】
(長期直流V−t試験)
上記のように各シートサンプルに成形された電気絶縁組成物を用いて、長期直流V−t試験を実施した。長期直流V−t試験では、温度90℃のシリコン油中にシートサンプルを浸漬させ、直径25mmの平板電極を用いてシートサンプルに所定の直流電界を印加することにより、シートサンプルが絶縁破壊するまでの時間を評価した。このとき、絶縁破壊までの時間が数十分から1000時間を超える結果が得られるように、10kV/mmから300kV/mmの間で印加電界を調整した。これらの結果から、絶縁破壊電界(V)と時間(t)との関係(V−t曲線)を求め、下記の式(2)により、寿命指数(n)を求めた。
V
n×t=const. ・・・(2)
ここで、V:電界(kV/mm)、t:時間(h)である。
【0093】
表1において、寿命指数が20以上のものを二重丸印(◎)、15以上20未満のものを一重丸印(○)、15未満のものをばつ印(×)として標記した。
【0094】
(空間電荷測定)
続いて、上記の各シートサンプルに成形された電気絶縁組成物を用い、パルス静電応力法(PEA法)により空間電荷特性を評価した。空間電荷の測定では、温度30℃、大気圧下で、1時間に亘って50kV/mmの直流電界をシートサンプルに成形された電気絶縁組成物に連続印加した。
【0095】
得られた空間電荷の測定結果から、電界強調係数(FEF:Field Enhancement Factor)を以下の式(3)により求めた。
【0096】
【数1】
【0097】
FEFを指標とすることで、各電気絶縁組成物における電界への影響を具体的に数値化し、比較することができる。すなわち、FEFが小さいほど、電界への影響が小さいことを示している。
【0098】
表1において、FEFの値が1.10未満のものを丸印(○)、1.15を超えるものをばつ印(×)として表記した。
【0099】
表1に示されているように、本実施例1から12では、いずれも体積抵抗率が10
15Ω・cm以上を超える高い値を示し、長期直流V−t試験、空間電荷測定も良好な結果を示した。
【0100】
これらに対して、気相法MgOを添加しない比較例1では、体積抵抗率が10
13Ω・cmのオーダと低く、長期直流V−t試験、空間電荷測定も悪い結果を示している。気相法MgOの添加量が規定値を超えた比較例2では、体積抵抗率が低下し、長期直流V−t試験の結果、空間電荷特性も悪い結果となっている。また、海水原料を利用したMgOを使用した比較例3と4では、体積抵抗率が10
14Ω・cmのオーダと低く、長期直流V−t試験の結果、空間電荷特性も劣っている。
【0101】
この結果により、本実施形態のように、直流ケーブルの絶縁層がベース樹脂を100重量部として気相法により形成された酸化マグネシウムを0.1重量部以上5重量部以下で含むことにより、優れた長期的な直流絶縁性能および空間電荷特性を得ることができることが分かる。
【0102】
また、表1に示されているように、特に、シランカップリング剤により表面処理を施した気相法MgOを用いた実施例4や、LDPEに極性を含むエチレン共重合体を配合した実施例5、さらに、シランカップリング剤により表面処理を施した気相法MgOを用い極性を含むエチレン共重合体を配合した実施例6〜12では、他の実施例に比べて、長期直流V−t試験、空間電荷の測定が顕著に良好な結果を示した。
【0103】
なお、実施例11のようにシランカップリング剤で処理したMgOと、処理していないMgOとを混合した場合や、実施例12のように無機充填剤が気相法のものと海水原料由来のものとを混合した場合であっても、長期直流V−t試験、空間電荷の測定が良好な結果を示した。
【0104】
これらの結果により、シランカップリング剤により酸化マグネシウムが表面処理されていることにより、ポリエチレンとの界面の密着性が向上し、長期的な直流絶縁性能および空間電荷特性が向上することが分かる。また、ポリエチレンに対するエチレン共重合体の質量比率が1/9以下であることにより、長期課電時の直流絶縁破壊強度の低下を抑制することができることが分かる。
【0105】
(2)直流ケーブルの実施例
次に、本発明の実施例に係る直流ケーブルについて述べる。
【0106】
図1における導電部10に相当する構成として、直径14mmの導体を撚り合わせた導電部を用意した。
【0107】
一方で、ベース樹脂となる未架橋の低密度ポリエチレン(LDPE)および無水マレイン酸変成PEを含む前駆体と、ビニルトリメトキシシランによる処理を施した粒子径約0.2μmの気相法MgOと、を配合し混練した。次に、架橋剤としての2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを、前駆体のペレットに加熱含浸した。なお、それぞれの配合量は、上記した電気絶縁組成物の実施例8に相当する配合量とした。これにより、電気絶縁組成物を得た。
【0108】
続いて、
図1における内部半導電層11に相当する構成として、(エチレン−酢酸ビニル共重合体)からなる半導電性組成物を1mmの厚さで押出成形し、上記導電部の周囲に内部半導電層を形成した。また、上記の電気絶縁組成物を14mmの厚さで導電部の周囲に押出成形した。このように、上記の電気絶縁組成物を押出成形することにより、
図1における絶縁層20に相当する構成を得た。更に、
図1における外部半導電層21に相当する構成として、(エチレン−酢酸ビニル共重合体)からなる半導電性組成物を1mmの厚さで押出成形し、電気絶縁組成物から構成される絶縁層の周囲に外部半導電層を形成した。以上により、本実施例に係る直流ケーブルを得た。
以上、本発明の実施例について具体的に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。