特許第6320811号(P6320811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カルソニックカンセイ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6320811-気体圧縮機 図000002
  • 特許6320811-気体圧縮機 図000003
  • 特許6320811-気体圧縮機 図000004
  • 特許6320811-気体圧縮機 図000005
  • 特許6320811-気体圧縮機 図000006
  • 特許6320811-気体圧縮機 図000007
  • 特許6320811-気体圧縮機 図000008
  • 特許6320811-気体圧縮機 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6320811
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】気体圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/344 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   F04C18/344 361G
   F04C18/344 351M
   F04C18/344 351T
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-57062(P2014-57062)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-178820(P2015-178820A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2017年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】柳川 英輝
(72)【発明者】
【氏名】中澤 圭佑
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−192885(JP,A)
【文献】 実開昭61−005389(JP,U)
【文献】 特開2002−048081(JP,A)
【文献】 特開2002−048080(JP,A)
【文献】 実開昭63−078183(JP,U)
【文献】 米国特許第04653991(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と一体的に回転する略円柱状のロータと、前記ロータを該ロータの外周面の外方から取り囲む輪郭形状の内周面を有するシリンダと、前記ロータに形成したベーン溝に摺動可能に挿入され、前記ベーン溝からの背圧を受けて前記シリンダの内周面に先端側が当接可能に設けられた複数枚の板状のベーンと、前記ロータ及び前記シリンダの両端をそれぞれ塞ぐ2つのサイドブロックとを有する圧縮機本体を備え、
前記圧縮機本体の内部には、前記ロータの外周面と前記シリンダの内周面と前記両サイドブロックの各内側の面と前記ベーンとによって仕切られた圧縮室が複数形成され、前記圧縮室に供給された媒体を圧縮して、圧縮された高圧の媒体を吐出する気体圧縮機であって、
前記2つのサイドブロックのうちの少なくとも一方のサイドブロックの、前記ロータの端面に向いた面に、前記媒体の圧縮過程で前記ベーン溝の底部と連通し、前記ベーン溝の底部に前記ベーンを前記シリンダの内周面側に突出させる前記背圧を供給する背圧供給溝を有し、
前記背圧供給溝の外周縁が、ロータ回転方向前側に向かうに従ってロータ回転中心から遠ざかるように形成されていることを特徴とする気体圧縮機。
【請求項2】
前記背圧供給溝のロータ回転方向前側の先端部の前記ベーン溝の底部が横切る周方向端部が直線的に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の気体圧縮機。
【請求項3】
前記背圧供給溝から供給される背圧よりも高圧の背圧が供給される高圧供給穴が、前記ベーン溝の底部前記背圧供給溝から離れて非連通状態となる非連通領域において前記ベーン溝の底部と連通する位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の気体圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両などに搭載された空調装置に設置される気体圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車などの車両には、車室内の温度調整を行うための空調装置が設けられている。このような空調装置は、冷媒(冷却媒体)を循環させるようにしたループ状の冷媒サイクルを有しており、この冷媒サイクルは、蒸発器、気体圧縮機、凝縮器、膨張弁が順に設けられている。前記空調装置の気体圧縮機は、蒸発器で蒸発されたガス状の冷媒を圧縮して高圧の冷媒ガスとし、凝縮器へ送出するものである。
【0003】
このような気体圧縮機として、従来より、略楕円状の内周面を有するシリンダ内に、先端部がシリンダの内周面に摺接し、突出収納自在に設けた複数枚のベーンを有するロータが回転自在に軸支されたベーンロータリー型の気体圧縮機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1のベーンロータリー型の気体圧縮機は、回転軸と一体に回転可能なロータと、ロータ外周面の外方から取り囲む輪郭形状の内周面を有するシリンダと、ロータ外周面からシリンダ内周面に向けて突出自在に設けられた複数枚のベーンと、ロータ及びシリンダの両端を塞ぐとともに回転軸の両側を回転可能に軸支した2つのサイドブロックとを有する圧縮機本体を備えている。
【0005】
この圧縮機本体は、ロータの回転方向に沿って隣り合う2枚のベーンにより、ロータ外周面とシリンダ内周面との間に形成される圧縮室の容積をロータの回転にともなって減少させることで、圧縮室に導入した低圧の冷媒ガスを圧縮し、圧縮された高圧の冷媒ガスを吐出室に吐出する。吐出室に吐出された高圧(以下、「吐出圧」という)の冷媒ガスは、該冷媒ガス中に混じっている油分が分離されて外部に吐出され、分離された油は吐出室内の底部に溜められる。
【0006】
吐出室内の底部に溜められた油(冷凍機油等)は、吐出室に吐出された吐出圧の冷媒ガスの圧力を受け、2つのサイドブロック、シリンダに形成された油路から、各サイドブロックのロータ側の端面に形成されたサライ溝を通してベーン溝に供給され、ベーンの先端側をベーン溝から突出させる背圧として機能する。なお、吐出室から油路、サライ溝を通してベーン溝に供給される油は、軸受と回転軸の外周面との間に形成される狭い隙間を通るので圧力損失を受け、吐出室内の吐出圧雰囲気よりも低い圧力である中圧となっている。
【0007】
ところで、特に気体圧縮機の起動直後などでは、ベーンの背圧(中圧)が定常運転時よりも低いため、圧縮過程の終盤において、圧縮室内の圧力が、中圧の背圧とベーンの回転にともなう遠心力を上回って、チャタリング(ベーン先端とシリンダ内周面との間で、離間と衝突が繰り返される現象)が発生する場合がある。
【0008】
そのため、冷媒ガスの圧縮過程の終盤で、ロータの回転にともなって連通状態にあるベーン溝の底部がサライ溝から離れることで、サライ溝とベーン溝の底部が非連通状態となって、ベーン溝の底部に油を閉じ込めるようにしている。これにより、ベーンがシリンダ内周面と摺動して引っ込む方向に移動すると、ベーン溝内の容積が小さくなり、これによって、ベーン溝の内部では吐出圧以上の高圧となり、吐出圧以上の高圧を背圧としてベーンに供給することが可能となる。これにより、チャタリングの発生が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−257576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、冷媒ガスの圧縮過程で、サライ溝とベーン溝の底部が連通している区間から、サライ溝とベーン溝の底部とが非連通状態となる区間へ移行していく状況において、サライ溝とベーン溝の底部との連通断面積が徐々に減少していき、サライ溝とベーン溝の底部とが非連通状態に近づくにつれて背圧が上昇する。
【0011】
低速運転時より高速運転時の方が、この区間(サライ溝とベーン溝の底部が連通している区間から、サライ溝とベーン溝の底部とが非連通状態となる区間)での、サライ溝からベーン溝の底部に供給される油の流量が多くなる。このため、サライ溝とベーン溝の底部とが非連通状態となる前から、ベーン溝の底部にある油の所定量がサライ溝側へ流れきれずに背圧が上昇する傾向がある。そのため、ベーン溝の底部(背圧空間)内の油量が多くなる、例えば高速運転起動時に背圧が過剰に上昇して、ベーン先端がシリンダ内周面と強く摺って摩耗量が増えるなどの不具合が発生する。
【0012】
そこで、本発明は、ベーンのチャタリングの発生を防止し、かつ背圧が過剰に上昇してベーン先端がシリンダ内周面と強く摺って摩耗するのを防止することができる気体圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明の気体圧縮機は、回転軸と一体的に回転する略円柱状のロータと、前記ロータを該ロータの外周面の外方から取り囲む輪郭形状の内周面を有するシリンダと、前記ロータに形成したベーン溝に摺動可能に挿入され、前記ベーン溝からの背圧を受けて前記シリンダの内周面に先端側が当接可能に設けられた複数枚の板状のベーンと、前記ロータ及び前記シリンダの両端をそれぞれ塞ぐ2つのサイドブロックとを有する圧縮機本体を備え、前記圧縮機本体の内部には、前記ロータの外周面と前記シリンダの内周面と前記両サイドブロックの各内側の面と前記ベーンとによって仕切られた圧縮室が複数形成され、前記圧縮室に供給された媒体を圧縮して、圧縮された高圧の媒体を吐出する気体圧縮機であって、前記2つのサイドブロックのうちの少なくとも一方のサイドブロックの、前記ロータの端面に向いた面に、前記媒体の圧縮過程で前記ベーン溝の底部と連通し、前記ベーン溝の底部に前記ベーンを前記シリンダの内周面側に突出させる前記背圧を供給する背圧供給溝を有し、前記背圧供給溝の外周縁が、ロータ回転方向前側に向かうに従ってロータ回転中心から遠ざかるように形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る気体圧縮機は、背圧供給溝の外周縁を、ロータ回転方向前側に向かうに従ってロータ回転中心から遠ざかるように形成して、圧縮室での媒体の圧縮過程の終盤で、ロータの回転にともなって、ベーン溝の底部が連通状態にある背圧供給溝のロータ回転方向前側の先端部から離れるまでの連通断面積が大きくなるようにしている。
【0015】
このように、前記連通断面積が大きくなることで、背圧供給溝とベーン溝とが非連通状態となる前から、ベーン溝の底部にある油の所定量を背圧供給溝側へ逃げ易くすることができる。これにより、ベーン溝の底部が背圧供給溝のロータ回転方向前側の先端部から離れる前での背圧の上昇が小さくなり、これにともなって、ベーン溝の底部が背圧供給溝から離れた後の背圧の過剰な上昇が抑えられるので、ベーンのチャタリングの発生を防止し、かつ背圧が過剰に上昇して、ベーン先端がシリンダ内周面と強く摺って摩耗するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態1に係る気体圧縮機(ベーンロータリー型の気体圧縮機)を示す概略断面図。
図2図1のA−A線断面図。
図3】本発明の実施形態1におけるフロントサイドブロック側のサライ溝と高圧供給穴を示す図。
図4】冷媒ガスの圧縮過程の終盤で、高圧供給穴がベーン溝の底部に連通した状態を示した概略図。
図5】比較例(従来例)における、冷媒ガスの圧縮過程の終盤で、ベーン溝の底部がサライ溝先端部から離れる前の状態を示した図。
図6】本実施形態における、冷媒ガスの圧縮過程の終盤で、ベーン溝の底部がサライ溝先端部から離れる前の状態を示した図。
図7】本発明の実施形態2に係る気体圧縮機(ベーンロータリー型の気体圧縮機)を示す概略断面図。
図8図7のB−B線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
<実施形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る気体圧縮機の一例としてのベーンロータリー型の気体圧縮機(以下、「コンプレッサ」という)を示す概略断面図である。
【0018】
(コンプレッサ1の全体構成)
図示のコンプレッサ1は、例えば、冷却媒体の気化熱を利用して冷却を行なう空気調和システム(以下、「空調システム」という)の一部として構成され、この空調システムの他の構成要素である凝縮器、膨張弁、蒸発器等(いずれも図示を省略する)とともに冷却媒体の循環経路上に設けられている。なお、このような空調システムとしては、例えば、車両(自動車など)の車室内の温度調整を行うための空調装置が挙げられる。
【0019】
コンプレッサ1は、空調システムの蒸発器から取り入れた気体状の冷却媒体としての冷媒ガスを圧縮し、この圧縮された冷媒ガスを空調システムの凝縮器に供給する。凝縮器は圧縮された冷媒ガスを液化させ、高圧で液状の冷媒として膨張弁に送出する。そして、高圧で液状の冷媒は、膨張弁で低圧化され、蒸発器に送出される。低圧の液状冷媒は、蒸発器において周囲の空気から吸熱して気化し、この気化熱との熱交換により蒸発器周囲の空気を冷却する。
【0020】
コンプレッサ1は、図1に示すように、一端側(図1の左側)が開口し他端側が塞がれた略円筒状の本体ケース2と、この本体ケース2の一端側の開口を塞ぐフロントヘッド3と、本体ケース2とフロントヘッド3からなるハウジング4内に収納される圧縮機本体5と、駆動源である車両(自動車)のエンジン(不図示)からの駆動力を圧縮機本体5に伝達するための電磁クラッチ6とを備えている。
【0021】
フロントヘッド3は、本体ケース2の開口端面を塞ぐ蓋状に形成されており、本体ケース2の一端側の開口端部周囲にボルト締結で固定されている。フロントヘッド3には、空調システムの蒸発器(不図示)から低圧の冷媒ガスを吸入する吸入ポート7を有し、本体ケース2には、圧縮機本体5で圧縮された高圧の冷媒ガスを空調システムの凝縮器(不図示)に吐出する吐出ポート(不図示)を有している。
【0022】
圧縮機本体5は、図2に示すように、回転軸10と一体的に回転する略円柱状のロータ11と、このロータ11をその外周面11aの外方から取り囲む略楕円形状の内周面12aを有するシリンダ12と、ロータ11の外周面11aからシリンダ12の内周面12aに向けて突出自在に設けられた複数枚(図では5枚)の板状のベーン13と、ロータ11及びシリンダ12の両端面を塞ぐようにして固定された2つのサイドブロック(フロントサイドブロック14、リアサイドブロック15(図1参照))とを備えている。図2は、図1のA−A線断面図である。なお、図2では、圧縮機本体5の外周面側の本体ケース2は省略している。
【0023】
フロントヘッド3とフロントサイドブロック14の間には吸入室16(図1参照)が形成されており、リアサイドブロック15側の本体ケース2内には吐出室17が形成されている。リアサイドブロック15の外側端面には、油分離器18が吐出室17内に位置するようにして設置されている。なお、図1では、吐出室17に設けた油分離器18に関しては、断面形状ではなく外観を示している。
【0024】
フロントサイドブロック14の外面側は、フロントヘッド3の開口端部周囲の内周面に複数のボルトで締結固定されている。一方、リアサイドブロック15は、その外周面が本体ケース2の内周面に嵌合されている。このように、ハウジング4内に収納された圧縮機本体5は、フロントサイドブロック14側がフロントヘッド3にボルトで締結固定され、リアサイドブロック15側がハウジング2の内周面に嵌合されるようにして保持されている。
【0025】
電磁クラッチ6は、フロントヘッド3の外面側に設置されており、エンジンの回転駆動力がベルト(不図示)を介してプーリ19に伝達される。回転軸10の一端側(図1の左側)は、電磁クラッチ6のアーマチュア20の中心貫通孔に嵌合されている。なお、回転軸10は、フロントサイドブロック14とリアサイドブロック15の中心貫通孔に回転可能に軸支されている。
【0026】
そして、コンプレッサ1(圧縮機本体5)の運転時に、プーリ19の内側に設けた電磁石21の励磁によってアーマチュア20がプーリ19の側面に吸着されることにより、ベルト(不図示)を介してプーリ19に伝達されているエンジンの駆動力が、アーマチュア20を介して回転軸10(ロータ11)に伝達される。
【0027】
(圧縮機本体5の構成、動作)
図2に示すように、シリンダ12の内周面12aとロータ11の外周面11aと両サイドブロック14,15(図1参照)との間の空間には、等間隔で設置された5つのベーン13によって仕切られた複数の圧縮室22a,22bが形成されている。
【0028】
各ベーン13は、ロータ11内に形成されたベーン溝23に摺動可能に設置されていて、ベーン溝23の底部23aに供給される冷凍機油による背圧により、ロータ11の外周面11aから外方向に突出する。なお、図2では、シリンダ12の内周面12aとロータ11の外周面11aとの間の上部側の空間に形成される圧縮室を圧縮室22aとし、下部側の空間に形成される圧縮室を圧縮室22bとしている。
【0029】
シリンダ12は、ロータ11の外周面11aの外方を取り囲む断面輪郭が略楕円形状の内周面12aを有している。各圧縮室22a,22bは、ロータ11の回転にともなう冷媒ガスの吸入過程及び圧縮過程で、それぞれ容積の増大及び減少を繰り返す。なお、本実施形態のコンプレッサ1(圧縮機本体5)は、ロータ11が1回転する間に2回の吸入工程と圧縮工程を有している。
【0030】
シリンダ12には、各圧縮室22a,22bへ冷媒ガスG1を吸入させるための各吸入孔(不図示)と、各圧縮室22a,22bで圧縮された冷媒ガスG2を吐出するための各吐出孔24a,24bが設けられている。
【0031】
具体的には、圧縮室22a,22bの容積が増加する過程において、吸入室16から供給される低圧の冷媒ガスG1を、シリンダ12に形成された各吸入孔(不図示)を通して圧縮室22a,22b内に吸入し、容積が減少する過程において、圧縮室22a,22b内に閉じこめられた冷媒ガスを圧縮し、これによって冷媒ガスは高温、高圧となる。そして、この高温、高圧の冷媒ガスG2は、各吐出孔24a,24bを通して、シリンダ12、ハウジング2及び両サイドブロック14,15で囲まれて区画された空間である吐出チャンバ25a,25bに吐出される。
【0032】
各吐出チャンバ25a,25bには、冷媒ガスの圧縮室22a,22b側への逆流を阻止する吐出弁26と、吐出弁26の過大な変形(反り)を阻止する弁サポート27が設けられている。吐出孔24a,24bから吐出チャンバ25a,25bに吐出された高温、高圧の冷媒ガスG2は、リアサイドブロック15に形成された吐出口28a,28bから、吐出室17内に設けた油分離器18に導入される。
【0033】
油分離器18は、冷媒ガスと混ざった冷凍機油(ロータ11に形成されたベーン溝23から圧縮室22a,22bに漏れたベーン背圧用の油など)を、遠心力を利用して冷媒ガスから分離するものである。詳細には、圧縮室22a,22bから高圧の冷媒ガスG2が、各吐出孔24a,24bに吐出されて、吐出チャンバ25a,25b、吐出口28a,28b等を通して油分離器18内に導入されると、油分離器18の内周面に沿って冷媒ガスが螺旋状に旋回され、冷媒ガスに混ざっている冷凍機油を遠心分離するように構成されている。
【0034】
そして、図1のように、油分離器18内で冷媒ガスG2から分離された冷凍機油Rは吐出室17の底部に溜まり、冷凍機油が分離された後の高圧(吐出圧)の冷媒ガスG2は、吐出室17から吐出ポート(不図示)を通して外部の凝縮器(不図示)に吐出される。
【0035】
吐出室17の底部に溜まる冷凍機油Rは、吐出室17に吐出された吐出圧の冷媒ガスG2による高圧雰囲気により、リアサイドブロック15に形成された油路29a及び背圧供給用の溝部であるサライ溝30(図2参照)を通してベーン溝23の底部23aに供給され、ベーン13を外方に突出させる背圧となる。
【0036】
同様に、吐出室17の底部に溜まる冷凍機油Rは、吐出室17に吐出された吐出圧の冷媒ガスによる高圧雰囲気により、リアサイドブロック15に形成された油路29a,29b、シリンダ12に形成された油路31、フロントサイドブロック14に形成された油路32及び背圧供給用の溝部であるサライ溝33(図3参照)を通してベーン溝23の底部23aに供給され、ベーン13を外方に突出させる背圧となる。
【0037】
なお、図3は、フロントサイドブロック14側のサライ溝33を示しており、このサライ溝33は、リアサイドブロック15側の後述するサライ溝30のように、ロータ回転方向前側の外周縁が突出していなく、径方向内側に湾曲している。
【0038】
サライ溝30、33を通してベーン溝23に供給される冷凍機油Rは、軸受と回転軸10の外周面との間に形成される狭い隙間を通るので圧力損失を受け、吐出室17内の吐出圧雰囲気よりも低い圧力である中圧となっている。
【0039】
また、本実施形態のコンプレッサ1は、前記中圧よりも高圧の冷凍機油Rをベーン溝23の底部23aに供給するために、フロントサイドブロック14の油路32に連通するようにして、リング状の油溝34及び高圧供給穴35(図1図3参照)がフロントサイドブロック14に形成されている。
【0040】
油溝34は、回転軸10の外周面周囲に沿って形成されている。高圧供給穴35は、一端側が油溝34に連通し、他端側がフロントサイドブロック14のロータ11側の端面に開口している。図4に示すように、高圧供給穴35は、圧縮過程の終盤で、サライ溝33とベーン溝23の底部23aが連通している状態から、ベーン溝23の底部23aがサライ溝33から離れて両者が非連通状態となった後に、ベーン溝23の底部23aと連通するように形成されている。
【0041】
これにより、圧縮過程の終盤(冷媒ガスが吐出される直前付近)において、吐出室17内の冷凍機油Rは、吐出室17に吐出された吐出圧の冷媒ガスによる高圧雰囲気により、リアサイドブロック15に形成された油路29a,29b、シリンダ12に形成された油路31、フロントサイドブロック14に形成された油路32、油溝34及び高圧供給穴35を通してベーン溝23の底部23aに、ベーン背圧として供給される。このときのベーン背圧は、供給経路中での圧力損失が小さいため、吐出室17に吐出された冷媒ガスの吐出圧(前記中圧よりも高い)と略同程度である。
【0042】
次に、本発明の特徴である、リアサイドブロック15に形成した背圧供給溝としてのサライ溝30の詳細について説明する。
【0043】
サライ溝30は、図2に示したように、リアサイドブロック15のロータ11側の端面に、外周側が略円弧状に湾曲し凹状輪郭を有するようにして、回転軸10の軸回りの所定の角度範囲に対応して形成されており、ロータ11の回転にともなう冷媒ガスの圧縮過程で、ベーン溝23の拡径された底部23aにサライ溝30が連通するようにしている。これにより、吐出室17の底部に溜まった冷凍機油Rが、吐出室17に吐出された吐出圧の冷媒ガスによる高圧雰囲気により、リアサイドブロック15に形成された油路29a及びサライ溝30を通してベーン溝23の底部23aに、ベーン背圧として供給される。
【0044】
この際、冷媒ガスの圧縮過程の終盤では、ロータ11の回転にともなって、連通状態にあるベーン溝23の底部23aをサライ溝30の、ロータ11の回転方向前側(ロータ回転方向前側)の先端部(以下、この先端部を「サライ溝先端部」という)30aから離すことで、サライ溝30(サライ溝先端部30a)とベーン溝23の底部23aとを非連通状態とし、これにより、ベーン溝23の底部23aに冷凍機油を閉じ込めて、ベーン背圧を上昇させるようにしている。このベーン背圧の上昇によって、ベーン13のチャタリングの発生が防止される。
【0045】
ところで、図5に示す比較例(従来例)のように、冷媒ガスの圧縮過程の終盤で、連通状態にあるベーン溝23の底部23aが、サライ溝30のロータ回転方向前側の湾曲したサライ溝先端部30aから離れる前の状況において、この底部23aとサライ溝先端部30a側との連通断面積Aが小さい。即ち、図5に示す比較例(従来例)では、サライ溝30のサライ溝先端部30aの外周縁を、ロータ回転方向前側に向かうに従ってロータ回転中心から遠ざかるように形成していなく、径方向内側に湾曲している。
【0046】
これにより、特に高速運転起動時では、サライ溝30からベーン溝23の底部23aに供給される冷凍機油の流量が多くなるため、連通状態にあるベーン溝23の底部23aが、サライ溝30のサライ溝先端部30aから離れる前の状況で、前記連通断面積Aが小さいと、ベーン溝23の底部23aにある冷凍機油の所定量がサライ溝30側へ流れきれずに背圧が過剰に上昇する。
【0047】
これにより、ベーン13の先端がシリンダ12の内周面12aと強く摺って摩耗量が増える。なお、ベーン13の先端がシリンダ12の内周面12aと強く摺ると、気体圧縮機1の運転に要する動力の損失が増える。
【0048】
そこで、本実施形態では、図6に示すように、サライ溝30のロータ回転方向前側のサライ溝先端部30aの外周縁30a1を、ロータ回転方向前側に向かうに従ってロータ回転中心から遠ざかるように形成して、サライ溝先端部30aの外周縁30a1と周方向端部30a2を直線的に形成し、外周縁30a1と周方向端部30a2を繋ぐ先端角部30a3を、R(アール)部としている。
【0049】
よって、図6に示すように、冷媒ガスの圧縮過程の終盤で、ロータ11の回転にともなって連通状態にあるベーン溝23の底部23aが、サライ溝30のサライ溝先端部30aから離れる前の状況において、ベーン溝23の底部23aが直線的な周方向端部30a2を横切っている。
【0050】
このように、本実施形態では、ロータ11の回転にともなって連通状態にあるベーン溝23の底部23aが、サライ溝30のサライ溝先端部30aから離れる前の状況において、ベーン溝23の底部23aが直線的な周方向端部30a2を横切るため、ベーン溝23の底部23aとサライ溝先端部30a(周方向端部30a2)側との連通断面積Aが、図5に示した比較例(従来例)の場合よりも大幅に大きくなる。
【0051】
このため、サライ溝30のサライ溝先端部30a(周方向端部30a2)が、ロータ11の回転にともなって連通状態にあるベーン溝23の底部23aから離れる前の状況において、この底部23aとサライ溝先端部30a(周方向端部30a2)側との連通断面積Aを大きくすることができる。
【0052】
このように、連通状態にあるベーン溝23の底部23aが、サライ溝30のサライ溝先端部30aから離れる前の状況で連通断面積Aを大きくすることができるので、例えば高速運転起動時等において、サライ溝30からベーン溝23の底部23aに供給される冷凍機油の流量が多くなっても、ベーン溝23の底部23aにある冷凍機油の所定量をサライ溝30側へ流す(逃がす)ことができる。
【0053】
よって、サライ溝30のサライ溝先端部30a(周方向端部30a2)が、ロータ11の回転にともなって連通状態にあるベーン溝23の底部23aから離れる前の状況において、背圧が過剰に上昇することを防止することができる。
【0054】
これにより、ベーン13のチャタリングの発生を防止し、かつベーン13の先端がシリンダ12の内周面12aと強く摺って摩耗することを防止することができる。
【0055】
また、本実施形態では、図4に示したように、圧縮過程の終盤で、サライ溝33とベーン溝23の底部23aが連通している状態から、ベーン溝23の底部23aがサライ溝33から離れて両者が非連通状態となった後に、高圧供給穴35がベーン溝23の底部23aと連通するように構成されている。
【0056】
これにより、圧縮過程の終盤(冷媒ガスが吐出される直前付近)において、圧縮室22a,22bの圧力が上昇していても、高圧供給穴35からベーン溝23の底部23aに吐出圧と略同程度の冷凍機油がベーン背圧として供給されるので、ベーン13のチャタリングの発生を防止することができる。
【0057】
なお、圧縮過程の終盤で、サライ溝33とベーン溝23の底部23aが連通している状態から、ベーン溝23の底部23aがサライ溝33から離れて両者が非連通状態となった後において、底部23a内の背圧が仮に前記吐出圧以上に上昇していた場合には、背圧の一部を連通した高圧供給穴35側に逃がすことができる。これにより、背圧が過剰に上昇することを防止することができる。
【0058】
<実施形態2>
図7は、本発明の実施形態2に係るコンプレッサ(ベーンロータリー型の気体圧縮機)を示す概略断面図、図8は、図7のB−B線断面図である。
【0059】
図7図8に示すように、本実施形態に係るコンプレッサ1aは、前記実施形態1でフロントサイドブロック14に設けていた高圧供給穴がなく、サライ溝33のみを設けた構成である。
【0060】
また、本実施形態に係るコンプレッサ1aも、図2及び図6に示した実施形態1と同様に、リアサイドブロック15に設けたサライ溝30は、ロータ回転方向前側のサライ溝先端部30aの外周縁30a1を、ロータ回転方向前側に向かうに従ってロータ回転中心から遠ざかるように形成して、サライ溝先端部30aの外周縁30a1と周方向端部30a2を直線的に形成し、外周縁30a1と周方向端部30a2を繋ぐ先端角部30a3を、R(アール)部としている。
【0061】
本実施形態においても、実施形態1と同様に、連通状態にあるベーン溝23の底部23aが、サライ溝30のサライ溝先端部30aから離れる前の状況で連通断面積Aを大きくすることができる。よって、例えば高速運転起動時等において、サライ溝30からベーン溝23の底部23aに供給される冷凍機油の流量が多くなっても、ベーン溝23の底部23aにある冷凍機油の所定量をサライ溝30側へ流す(逃がす)ことができるので、背圧が過剰に上昇することを防止することができる。
【0062】
なお、前記した実施形態では、リアサイドブロック15に形成したサライ溝30の、ロータ回転方向前側のサライ溝先端部30aの外周縁30a1を、ロータ回転方向前側に向かうに従ってロータ回転中心から遠ざかるように形成した構造であったが、フロントサイドブロック14側のサライ溝33においても同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1、1a コンプレッサ(気体圧縮機)
2 本体ケース
3 フロントヘッド
4 ハウジング
5 圧縮機本体
6 電磁クラッチ
11 ロータ
12 シリンダ
13 ベーン
14 フロントサイドブロック
15 リアサイドブロック
18 油分離器
23 ベーン溝
23a 底部
30、33 サライ溝(背圧供給溝)
30a サライ溝先端部
30a1 外周縁
30a2 周方向端部
30a3 先端角部
35 高圧供給穴
連通断面積
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8