(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6320908
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】水中補修システム及びそれを用いた水中補修方法
(51)【国際特許分類】
B29C 73/02 20060101AFI20180423BHJP
G21C 19/02 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
B29C73/02
G21C19/02
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-252304(P2014-252304)
(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2016-112750(P2016-112750A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 裕晃
(72)【発明者】
【氏名】豊田 清一
【審査官】
▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−58719(JP,A)
【文献】
特開昭61−87028(JP,A)
【文献】
特開2008−216201(JP,A)
【文献】
特開2002−4589(JP,A)
【文献】
特開昭62−199430(JP,A)
【文献】
特開2003−4195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 73/00−73/34
G21C 19/02
E02D 37/00
B23P 6/00
B65D 90/00
E04B 1/62
F27D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補修対象の補修に用いる中空形状の補修部材であって、補修対象に向けた開口部を有する補修部材を補修対象の補修対象箇所に密着するよう配置して支持する位置固定装置と、
前記位置固定装置によって補修対象の補修対象箇所に固定された補修部材と補修対象とによって画定された第1空間の内部に空気を充填する空気充填装置と、
前記空気によって満たされた前記第1空間の内部にシール剤を充填し、前記補修部材と前記シール剤とによって前記補修対象の補修対象箇所を封止するシール剤充填装置と
を備えたことを特徴とする水中補修システム。
【請求項2】
請求項1記載の水中補修システムにおいて、
前記位置固定装置は、
前記補修対象に接触させた吸着パッド部の内部を真空状態にして前記補修対象に対する前記位置固定装置の相対位置を固定するエジェクタと、
前記補修部材に対して着脱可能に設けられ、前記補修部材を前記補修対象に押し付けて密着させるエアシリンダと
を備えたことを特徴とする水中補修システム。
【請求項3】
補修対象の補修に用いる中空形状の補修部材であって、補修対象に向けた開口部を有する補修部材を補修対象の補修対象箇所に密着するよう配置して支持する手順と、
補修対象の補修対象箇所に固定された補修部材と補修対象とによって画定された第1空間の内部に空気を充填する手順と、
前記空気によって満たされた前記第1空間の内部にシール剤を充填し、前記補修部材と前記シール剤とによって前記補修対象の補修対象箇所を封止する手順と
を有することを特徴とする水中補修方法。
【請求項4】
請求項3記載の水中補修方法において、
前記第1空間に充填された前記シール剤を硬化させる手順と、
前記補修部材の支持を解除する手順と
を有することを特徴とする水中補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば原子力発電所や使用済み燃料貯蔵施設等に設置された燃料貯蔵プールの内壁を補修する水中補修システム及びそれを用いた水中補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所や使用済み燃料貯蔵施設等に設置された燃料貯蔵プールにおいては、貯蔵されている放射性物質や放射性廃棄物からの放射線の遮断、及びそれらの冷却のための水が貯留されている。そのため、燃料貯蔵プールの内面にライニングとして施してある金属板に欠陥等が生じて補修が必要となった場合には、水を抜かずに補修を行うことが必要である。
【0003】
上記のような燃料貯蔵プール内壁の補修に関する技術として、例えば、特許文献1(特開2012−194118号公報)には、補修対象と平板と2つの側板と底板とを有する第1区画体を用い、第1区画体の側板側から接ぎ部材を固定し、補修対象と第1区画体と接ぎ部材とで囲まれた空間に接着剤を充填する水中接着補修方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−194118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、水中に接着剤を注入して硬化させるため、水中での接着剤の希釈や水の流動によって、補修対象と接着剤との密着及び接着剤の硬化が阻害されるため、補修部の接着剤が補修対象から剥離しやすくなることが懸念される。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、補修対象の補修部分により高い耐久性を持たせることができる水中補修システム及びそれを用いた水中補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、補修対象の補修に用いる中空形状の補修部材であって、補修対象に向けた開口部を有する補修部材を補修対象の補修対象箇所に密着するよう配置して支持する位置固定装置と、前記位置固定装置によって補修対象の補修対象箇所に固定された補修部材と補修対象とによって画定された第1空間の内部に空気を充填する空気充填装置と、前記空気によって満たされた前記第1空間の内部にシール剤を充填し、前記補修部材と前記シール剤とによって前記補修対象の補修対象箇所を封止するシール剤充填装置とを備えたものとする。
【発明の効果】
【0008】
補修対象の補修部分により高い耐久性を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施の形態に係る水中補修システムの全体構成を燃料貯蔵プールとともに概略的に示す図である。
【
図2】
図1におけるA部の拡大図であり、水中補修方法における移動工程の様子を示す図である。
【
図3】
図1におけるA部の拡大図であり、水中補修方法における固定工程の様子を示す図である。
【
図4】
図1におけるA部の拡大図であり、水中補修方法における押付工程及び排水・乾燥工程の様子を示す図である。
【
図5】
図1におけるA部の拡大図であり、水中補修方法における充填工程の様子を示す図である。
【
図6】
図1におけるA部の拡大図であり、水中補修方法における切離し工程の様子を示す図である。
【
図7】
図1におけるA部の拡大図であり、水中補修方法における移動工程の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る水中補修システムの全体構成を燃料貯蔵プールとともに概略的に示す図である。また、
図2は、
図1におけるA部の拡大図であり、位置固定装置を補修対象箇所(後述)の近辺に移動させた様子を示す図である。
【0012】
図1及び
図2において、燃料貯蔵プール90は、コンクリート壁91により形成され、ライニング板(ステンレスなどの金属板)92が内張りされて構成されている。燃料貯蔵プール90には、貯蔵されている放射性物質や放射性廃棄物(図示せず)からの放射線の遮断、及びそれらの冷却のための水(燃料貯蔵プール水)93が貯留されている。
【0013】
水中補修システム100は、補修対象であるライニング板92の補修に用いる補修部材としてのチャンバー12(後述)を補修位置に固定するための位置固定装置1と、位置固定装置1に送る圧縮空気を生成するコンプレッサなどのエア源2と、エア源2から位置固定装置に送られる圧縮空気を調整するエアコントロール装置3と、位置固定装置1から水及び空気を吸引する真空源としての負圧ユニット4と、ワイヤ5aなどを介して位置固定装置1を搬送するジブクレーン等のクレーン装置5と、水中補修システム100の各部に電力を供給するAC電源6と、図示しない入力装置や表示装置、記憶装置等を有し、水中補修システム100の全体の動作を制御する制御装置7とを備えている。
【0014】
位置固定装置1は、その基礎構造を構成するフレーム部材10と、フレーム部材10に固設され、ライニング板92に対する位置固定装置1の相対位置を固定するためのエジェクタ11と、ライニング板92の補修に用いる中空形状の補修部材であって、ライニング板92に対向する開口部12aを有するチャンバー12と、フレーム部材10に固設されるとともにチャンバー12に対して着脱可能に設けられ、チャンバー12をライニング板92の補修対象位置に押し付けて密着させるためのエアシリンダ13と、補修に用いる補修部材としてのシール剤14aを収容したシール剤容器14と、シール剤容器14内のシール剤14aをチャンバー12内に押し出すためのエアシリンダ15とを備えている。
【0015】
エジェクタ11は、補修対象に接触する位置に吸着パッド部11aを有している。また、エジェクタ11は、水ライン4aを介して負圧ユニット4に接続されており、吸着パッド部11aを補修対象であるライニング板92に接触させた状態でその内部を負圧状態または真空状態にすることによりライニング板92に吸着し、ライニング板92に対する位置固定装置1の相対位置を固定する。
【0016】
エアシリンダ13は、図示しないエアラインを介して接続されたエアコントロール装置3から送られる圧縮空気によって伸縮動作が制御される。また、エアシリンダ13とチャンバー12との接続部の接合力は、気中や水中での移動時には十分に固定され、かつ、ライニング板92に押し付けられた状態で充填されたシール剤14aが硬化した状態でエアシリンダ13を縮長させると容易に離脱するよう構成されている。なお、エアシリンダ13とチャンバー12との接続部に切離し機構を設け、制御装置7からの制御信号によって切離しを行うように構成しても良い。
【0017】
チャンバー12の開口部12aの外縁のライニング板92と接触する位置には、スポンジなどのように通気性、通水性及び弾性を有する部材で形成された密着部材12bが密着性を確保するために設けられている。チャンバー12は、エアライン3aを介してエアコントロール装置3と接続されており、チャンバー12内にはエアコントロール装置3から圧縮空気が供給される。また、チャンバー12は、充填ライン14bを介してシール剤容器14と接続されており、チャンバー12内にはシール剤容器14からシール剤14aが供給される。
【0018】
エアシリンダ1
5は、図示しないエアラインを介して接続されたエアコントロール装置3から送られる圧縮空気によって伸縮動作が制御される。
【0019】
ここで、エア源2とエアコントロール装置3は、位置固定装置1によって補修対象の補修対象箇所に固定された補修部材と補修対象とによって画定された第1空間の内部に空気を充填する空気充填装置を構成し、シール剤容器14とエアシリンダ15は、空気によって満たされた第1空間の内部にシール剤を充填し、補修部材とシール剤とによって補修対象の補修対象箇所を封止するシール剤充填装置を構成する。
【0020】
次に、本実施の形態に係る水中補修システムを用いた水中補修方法を図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図3〜
図7は、
図2と同様に
図1におけるA部の拡大図であり、水中補修方法における各工程の様子を示す図である。
【0022】
(1)移動工程(
図2参照)
まず、クレーン装置5により、位置固定装置1を燃料貯蔵プール90に貯留された水93の中に投入し、ライニング板92補修対象箇所である欠陥部92aにチャンバー12の開口部12aが対向するよう配置する。欠陥部92aは、例えば、ライニング板
92に生じた微小な亀裂等であり、燃料貯蔵プール90に貯留された水の漏えいなどの原因となる。
【0023】
(2)固定工程(
図3参照)
次に、クレーン装置5により、位置固定装置1をライニング板92側に移動させ、エジェクタ11の吸着パッド部11aがライニング板92に密着する位置に配置する。この状態で、水ライン4aを介して負圧ユニット4により内部の水を吸引し、その内部を負圧状態または真空状態にする。これにより、エジェクタ11はライニング板92に吸着し、ライニング板92に対する位置固定装置1の相対位置が固定される。
【0024】
(3)押付工程(
図4参照)
次に、図示しないエアラインを介してエアコントロール装置3からエアシリンダ13に圧縮空気を供給して伸長させ、チャンバー12をライニング板92の補修対象箇所(欠陥部92a)に押し付けて密着させる。このとき、欠陥部92aは、開口部12aに囲まれる配置となる。ここで、スポンジ(密着部材12
b)のつぶれ状況からチャンバー12とライニング板92の密着状況を確認する。
【0025】
(4)排水・乾燥工程(
図4参照)
次に、エアライン3aを介してエアコントロール装置3からチャンバー12とライニング板92とによって画定される空間12c(液相空間、第1空間)に圧縮空気を供給し、空間12c内の残水を開口部12a、並びに図示しないベントホール(チャンバー12の底面に設けた水抜き穴であり、例えばM4サイズのものを8箇所に設ける)から排出させ、空間12cを気相空間とすることにより、空間12cの内部を乾燥させる。ここで、エアライン3aを介して供給される空気による空間12c内部の乾燥状況は、予め実験等により算出した時間に基づいて確認する。
【0026】
(5)充填工程(
図6参照)
次に、空間12cの内部が十分に乾燥した場合(つまり、乾燥に必要な時間が経過した場合)、充填ライン14
bを介してシール剤容器14から空間12cにシール剤14aを充填する。ここで、空間12c内部のシール剤14aの硬化状況は、予め実験等により算出した時間に基づいて確認する。
【0027】
(6)切離し工程(
図7参照)
次に、空間12c内部のシール剤14aが十分に硬化した場合(つまり、硬化に必要な時間が経過した場合)、図示しないエアラインを介してエアコントロール装置3からエアシリンダ13に圧縮空気を供給して宿長させ、チャンバー12からエアシリンダ13を分離する。これにより、チャンバー12(補修部材)とシール剤14aとによってライニング板92(補修対象)の欠陥部92a(補修対象箇所)を封止する。
【0028】
(7)移動工程(
図7参照)
次に、水ライン4aを介してエジェクタ11の吸着パッド部11aに水を導入して加圧状態にし、吸着パッド部11aによる吸着状態を解消して、ライニング板92に対する固定を解除する。位置固定装置1がライニング板92から離れたことを確認し、クレーン装置5により、位置固定装置1を燃料貯蔵プール90に貯留された水93の中から引き上げ回収する。
【0029】
以上のように構成した本実施の効果を説明する。
【0030】
従来技術のように、水中において、補修対象と平板と2つの側板と底板とを有する第1区画体を用い、第1区画体の側板側から接ぎ部材を固定し、補修対象と第1区画体と接ぎ部材とで囲まれた空間に接着剤を充填して硬化させる場合、水中での接着剤の希釈や水の流動によって、補修対象と接着剤との密着及び接着剤の硬化が阻害されるため、補修部の接着剤が補修対象から剥離しやすくなることが懸念される。
【0031】
これに対して、本実施の形態においては、補修対象の補修に用いる中空形状の補修部材であって、補修対象に向けた開口部を有する補修部材を補修対象の補修対象箇所に密着するよう配置して支持し、補修部材と補修対象とによって画定された第1空間の内部に空気を充填し、空気によって満たされた第1空間の内部にシール剤を充填し、補修部材とシール剤とによって補修対象の補修対象箇所を封止するように構成したので、補修対象の補修部分により高い耐久性を持たせることができる。
【0032】
すなわち、本実施の形態においては、補修対象箇所であるライニング板92の欠陥部92aをチャンバー12で覆った状態で空気を充填し、欠陥部92aとその近傍を気相とするため、シール剤14aのライニング板92への密着性および硬化性を向上させることができ、シール剤14aのライニング板92からの剥離が発生しくい、高い耐久性の補修を行うことができる。
【0033】
また、チャンバー12の大きさは、その開口部12aが欠陥部92aを囲む大きさであれば足りるため、補修対象位置や補修対象形状として自由度の高い選択が可能である。
【0034】
また、チャンバー12の補修対象への押し付け、空間12cへの空気の充填、及びシール剤14aの充填が補修の主工程であり、比較的簡便な作業のため、より多くの作業者が実施することができる。
【0035】
なお、本実施の形態においては、燃料貯蔵プール90の側壁のライニング板92における欠陥部92aの補修を行う場合を例示して説明したがこれに限られず、燃料貯蔵プール90の底部のライニング板92の方向にチャンバー12の開口部12a及びエジェクタ11の吸着パッド部11aが向くように位置固定装置1の方向を調整し、本実施の形態に係る水中補修方法を実施することも可能である。また、燃料貯蔵プール90の角部に適合するようにチャンバー12の形状やエジェクタ11の方向等を構成することにより、角部についても本実施の形態に係る水中補修方法を適用することができる。
【0036】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本願発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0037】
1 位置固定装置
2 エア源
3 エアコントロール装置
3a エアライン
4 負圧ユニット
4a 水ライン
5 クレーン装置
6 AC電源
7 制御装置
10 フレーム部材
11 エジェクタ
11a 吸着パッド部
12 チャンバー
12a 開口部
12b 密着部材
12c 空間
13 エアシリンダ
14 シール剤容器
14a シール剤
15 エアシリンダ
90 燃料貯蔵プール
91 コンクリート壁
92 ライニング板
93 水
100 水中補修システム