【実施例1】
【0021】
<スライドレール10の概略構成について>
始めに、実施例1のスライドレール10の構成について、
図1〜
図8を用いて説明する。本実施例のスライドレール10は、
図1に示すように、自動車のシート1(乗物用シート)とフロアF(乗物本体)との間に左右一対で設けられている。これらスライドレール10は、シート1をフロアFに対して前後方向に位置調節することのできる状態に連結するシートアジャスタとして構成されている。
【0022】
具体的には、上述した各スライドレール10は、それぞれに内蔵された電動式の駆動ユニット13を動作させたり停止させたりすることにより、シート1をフロアFに対して前後方向にスライドさせたりスライドさせた各位置にとどめたりするようになっている。上記駆動ユニット13の各操作は、シートクッション3の外側部に設けられた図示しないスイッチの操作によって行えるようになっている。
【0023】
<シート1の概略構成について>
上述したシート1は、自動車の左席として構成されており、着座乗員の背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、を備えた構成となっている。上述したシートバック2は、その左右両サイドの下端部が、シートクッション3の左右両サイドの後端部に連結された状態として設けられている。また、シートクッション3は、その底面部が、上述した左右一対のスライドレール10を間に介して、フロアF上に前後方向にスライドさせられる状態に連結されて設けられている。
【0024】
上述した各スライドレール10は、フロアF上に取り付けられたロアレール11と、ロアレール11に対して前後方向にスライド可能な状態に組み付けられてシートクッション3の下部に取り付けられたアッパレール12と、アッパレール12とロアレール11との間に動力伝達可能な状態に組み付けられた駆動ユニット13と、を有する。ここで、ロアレール11が本発明の「固定側レール」に相当し、アッパレール12が本発明の「可動側レール」に相当する。
【0025】
上述した各スライドレール10は、常時は、上述した駆動ユニット13が停止されていることに伴うブレーキ力の作用により、アッパレール12のロアレール11に対するスライドが止められた状態として保持されている。そして、各スライドレール10は、上述した駆動ユニット13が上述した不図示のスイッチの操作によって正逆それぞれの方向に駆動操作されることにより、アッパレール12がロアレール11に対して前後方向にスライドするように動かされて、シート1のフロアFに対する前後方向の位置を調節するようになっている。
【0026】
上述したシートクッション3は、詳しくは、上述した左右一対のスライドレール10に対して、左右一対のフロントリンク3B1とリヤリンク3B2とから成る電動式のシートリフタ3Bを介して連結された状態とされている。上記左右一対のフロントリンク3B1とリヤリンク3B2とは、それぞれ、それらの上端部が、シートクッション3の骨格を成すクッションフレーム3Aの各側のサイドフレームに対して回転可能にピン連結された状態として取り付けられている。また、各フロントリンク3B1とリヤリンク3B2とは、それらの下端部が、上述した各側のスライドレール10のアッパレール12上に固定された支持ブラケット3Cに対して回転可能にピン連結された状態として取り付けられている。
【0027】
上記連結により、シートリフタ3Bは、上述した左右一対のフロントリンク3B1とリヤリンク3B2とが協働して動かされる1自由度のリンク運動によって、シート1のフロアFに対する高さ方向の位置を調節するようになっている。上記シートリフタ3Bは、その車幅方向の外側となる左側のリヤリンク3B2に対して、同リヤリンク3B2に回転駆動力やブレーキ力を伝達可能な図示しない駆動ユニットが連結された構成とされている。
【0028】
上記構成により、シートリフタ3Bは、常時は、上述した不図示の駆動ユニットが停止されていることに伴うブレーキ力の作用によって、各リンク3B1,3B2の起倒回転が止められた状態として保持されるようになっている。そして、上記シートリフタ3Bは、上述した不図示の駆動ユニットがスイッチの操作によって正逆それぞれの方向に駆動操作されることにより、各リンク3B1,3B2が一斉に起倒回転するように動かされて、シート1のフロアFに対する高さ方向の位置を調節するようになっている。
【0029】
<補強構造Rの概略構成について>
ところで、上述したシートクッション3の車幅方向の内側となる右側のスライドレール10には、そのアッパレール12の後端部上の位置に、図示しないシートベルトアンカSBA(バックル)の取り付けられたアンカブラケット20が結合されている。これにより、上記右側のスライドレール10は、車両の前部衝突の発生時には、上述した図示しないシートベルトアンカSBAを介してシートベルト装置が着座乗員の身体を受け止めることに伴う剥離方向の大荷重の入力を受ける構成とされている。上記の大荷重は、
図2〜
図3に示すように、アッパレール12がロアレール11に対して後方側の最大スライド位置(リヤモースト)までスライドして後方側に張り出した状態となっている時において、アッパレール12をロアレール11から剥離させる方向に変形させる負荷として特に強く作用するようになっている。
【0030】
そこで、上記アッパレール12とロアレール11との間の剥離方向の負荷が強く掛けられる部分には、上記剥離方向の変形を防止するための補強構造Rが設けられている。具体的には、上記の補強構造Rは、ロアレール11の後端部領域に取り付けられたロア側Jフック30と、アッパレール12の後端部領域上に取り付けられたアッパ側Jフック40と、によって構成されている。ここで、ロア側Jフック30が本発明の「固定側係合部」に相当し、アッパ側Jフック40が本発明の「可動側係合部」に相当する。
【0031】
上述したロア側Jフック30とアッパ側Jフック40とは、
図6に示すように、互いに高さ方向に掛け合わされる形に曲げ返された形状とされている。詳しくは、上記ロア側Jフック30とアッパ側Jフック40とは、アッパレール12のロアレール11に対する前後方向のスライド動作を阻害しない形に掛け合わされる構成とされている。
【0032】
上記補強構造Rは、常時は、上述したアッパ側Jフック40がロア側Jフック30に対して高さ方向及び車幅方向に僅かに離間した関係となる状態に位置して、アッパレール12のロアレール11に対する前後方向のスライド動作を阻害しない構成とされている。しかし、上記補強構造Rは、
図2〜
図3で前述したようにアッパレール12が後方側の最大スライド位置(リヤモースト)まで移動した状態において、車両の前部衝突の発生によりシートベルトアンカSBAに剥離方向の大荷重が入力されると、
図7に示すように、アッパ側Jフック40がロア側Jフック30に対して下側から当接した状態に掛け合わされて、上記の負荷をこれらの間で強く受け止めるようになっている。
【0033】
上記補強構造Rによる負荷の受け止めにより、アッパレール12のロアレール11に対する剥離方向の塑性変形が抑制される。その結果、車両の前部衝突の発生後であっても、アッパレール12がロアレール11に対して前後方向にスライドすることができる状態に維持される。したがって、衝突後であっても、シート1を前方側にスライドさせて、後席への乗降開口を広げるといった使用が可能となる。
【0034】
しかしながら、上記補強構造Rは、
図7に示すように、上述したアッパ側Jフック40とロア側Jフック30との間に入力される大荷重が、これらの塑性変形なしには受け止めきれないような大きさの場合には、ロア側Jフック30のアッパ側Jフック40と掛け合わされている部分が局所的に引き上げられる形に変形してしまうことがある。そして、上記変形後に、アッパ側Jフック40がアンカブラケット20等の他部材の変形により上記引き上げられた位置状態に保持されることがあると、アッパ側Jフック40がその位置から前側へスライドすることのできない状態となってしまう。その理由は、ロア側Jフック30の変形を伴わなかった前側の部分が、アッパ側Jフック40の前側に立ちはだかってスライドを阻害してしまうからである。
【0035】
そこで、上記補強構造Rには、上記のような塑性変形を伴う大荷重が入力された場合であっても、変形後にアッパ側Jフック40を前側へスライドさせられるようにロア側Jフック30を変形させる構造が採用されている。具体的には、
図3に示すように、ロア側Jフック30のアッパ側Jフック40と当接するフック部32の先端側の下面32Lが、前側の面領域32Aよりも後側の面領域32Bの方が低い位置に形成された構成とされている。これにより、
図8に示すように、上記ロア側Jフック30の後側の面領域32Bがアッパ側Jフック40によって引き上げられる形に変形しても、前側の面領域32Aが上記変形後の後側の面領域32Bよりも高い位置にあることで、アッパ側Jフック40の前側にロア側Jフック30の形状が立ちはだかることなくアッパ側Jフック40を前側へとスライドさせられるようになっている。ここで、上記ロア側Jフック30のフック部32の先端側の下面32Lが本発明の「当接面」に相当する。以下、上述した補強構造Rの具体的な構成について、その周辺構造と合わせて詳しく説明していく。
【0036】
<スライドレール10の具体的な構成について>
先ず、スライドレール10の構成について
図1、
図4及び
図6を用いて説明する。すなわち、スライドレール10は、上述もしたように、ロアレール11と、アッパレール12と、駆動ユニット13と、を有して構成されている。
【0037】
ロアレール11は、車両の前後方向に長尺な1枚の鋼板材が短手方向に略U字型の横断面形状に折り曲げられて形成されている。具体的には、
図4及び
図6に示すように、ロアレール11は、フロアF上に上方側に面を向けて設けられる底面部11Aと、底面部11Aの左右両側の縁部から上方側に立ち上がって互いに内向する側に逆U字状に折り曲げられた形となって延びる左右一対のロア側ひれ部11Bと、を有する横断面形状に形成されている。上記ロアレール11は、前後方向に略一様な横断面形状を有する形とされており、その底面部11Aの前後2箇所の部位が、それぞれフロアFに対してボルト締結されて一体的に結合された状態とされている。
【0038】
アッパレール12は、車両の前後方向に長尺な1枚の鋼板材が短手方向に略ハット型の横断面形状に折り曲げられて形成されている。具体的には、
図4及び
図6に示すように、アッパレール12は、高さ方向に立ち上がる形で延びる左右一対の縦面部12Aと、各縦面部12Aの上縁部間を繋ぐ形で車幅方向に延びる天板面部12Bと、各縦面部12Aの下縁部から互いに相反する外側に向かってU字状に反り上がる形に曲げ返された左右一対のアッパ側ひれ部12Cと、を有する横断面形状に形成されている。上記アッパレール12は、前後方向に略一様な横断面形状を有する形に形成されている。
【0039】
上記アッパレール12は、上述したロアレール11に対して、その長手方向となる前後方向の一方側の端部から差し込まれて組み付けられている。具体的には、上記アッパレール12は、上述した左右のU字状に曲げ返された各アッパ側ひれ部12Cが、ロアレール11の逆U字状に曲げ返された左右のロア側ひれ部11B内にそれぞれ掛け入れられるように、ロアレール11内に前後方向の一方側の端部から差し込まれて組み付けられている。このように組み付けられていることにより、アッパレール12は、ロアレール11に対して、その左右のアッパ側ひれ部12Cがロアレール11の左右のロア側ひれ部11Bに掛け合わされた状態として、上下左右方向にそれぞれ引き離されない形に組み付けられた状態とされている。
【0040】
また、上述したアッパレール12とロアレール11との間には、これらの間の高さ方向及び車幅方向の隙詰めを行う図示しない樹脂シューが設けられている。これら樹脂シューは、アッパレール12とロアレール11との間の四隅に介在して設けられており、その優れた摺動性によりアッパレール12のロアレール11に対する摺動を阻害することなく、両レール11,12間の高さ方向及び車幅方向の隙詰めを行う構成とされている。
【0041】
上述したアッパレール12は、上述したロアレール11に対する組み付けにより、その天板面部12Bが上述したロアレール11の左右のロア側ひれ部11Bの間の隙間11Cから上方側に突出した状態として設けられている。上記突出したアッパレール12の天板面部12B上には、
図1において前述したシートリフタ3Bのフロントリンク3B1とリヤリンク3B2の各下端部を連結するための支持ブラケット3Cがボルト締結されて一体的に結合された状態とされている。
【0042】
更に、
図2に示すように、上述したアッパレール12の天板面部12Bの後端部上には、上述したシートベルトアンカSBA(バックル)の取り付けられる略L字板状の形に折り曲げられたアンカブラケット20がボルト締結されて一体的に結合された状態として設けられている。上記アンカブラケット20は、
図2、
図4及び
図6に示すように、1枚の鋼板材が横断面略L字板状の形に折り曲げられて形成されている。上記アンカブラケット20は、アッパレール12の天板面部12B上に上方側に面を向けて設けられる底板部21と、底板部21の車幅方向の外側となる右側の縁部から斜め上方側に立ち上がる形で延びる傾斜板部23と、傾斜板部23の上方側に延びた先の縁部から上方側に真っ直ぐ起立する形で延びる立板部22と、を有する略L字板状の形に折り曲げられた形状とされている。
【0043】
上述したアンカブラケット20は、上述した底板部21が、アッパレール12の天板面部12Bと上述した支持ブラケット3Cとの間に高さ方向に挟まれた状態としてセットされている。そして、上記アンカブラケット20は、上述した底板部21が、アッパレール12の天板面部12Bと支持ブラケット3Cとに高さ方向に貫通して行われる前後2箇所のボルト締結により、これらに一体的に共締めされた状態として設けられている。
【0044】
上記アンカブラケット20は、
図6に示すように、上述した底板部21が、アッパレール12の天板面部12B上を車幅方向の外側となる右側へと張り出す位置まで延出した形状とされている。上記底板部21のアッパレール12の天板面部12B上から車幅方向の外側へと延出する部分は、後述するロア側Jフック30との干渉を避けるために段差状に底上げされた形に折り曲げられた形状とされている。そして、上記アンカブラケット20は、上記底板部21のアッパレール12の天板面部12B上を越えてロア側Jフック30よりも車幅方向の外側へと延出した先の位置から、上述した傾斜板部23が斜め上側に立ち上がる形となって形成されている。上記傾斜板部23には、後述するアッパ側Jフック40が車幅方向の外側から当てられて、これらに貫通するようにボルト41が差し込まれることにより一体的に締結された状態とされている。
【0045】
また、
図2、
図4及び
図6に示すように、上述したアンカブラケット20の傾斜板部23の上方側に延びた先の縁部から立ち上がる立板部22には、シートベルトアンカSBA(バックル)を取り付けるためのアンカボルト22Aが車幅方向の内側から外側へ突出する形に差し込まれて一体的に結合されている。また、
図2〜
図4に示すように、上記傾斜板部23には、後述するアッパ側Jフック40に形成された引掛爪42が車幅方向の外側から差し込まれた状態として組み付けられる矩形状の差込孔23Aが形成されている。上記差込孔23Aは、上述したアンカボルト22Aの取付箇所の略直下位置に形成されている。
【0046】
図1に示すように、駆動ユニット13は、上述したロアレール11の底面部11A上に前後側の各端部が固定された状態として取り付けられた送りねじ軸13Aと、同送りねじ軸13Aに螺合されてアッパレール12の天板面部12B下に取り付けられたナット体13Bと、ナット体13Bに回転駆動力を伝達する駆動モータ13Cと、を有する構成とされている。上記駆動ユニット13は、上述した駆動モータ13Cから出力される正逆双方向の回転駆動力やブレーキ力が各側のナット体13Bに伝達されることにより、ナット体13Bが送りねじ軸13Aに対して軸方向に送られたり止められたりして、アッパレール12をロアレール11に対してスライド方向に移送したり止めたりするようになっている。
【0047】
<補強構造Rの具体的な構成について>
次に、上述したロアレール11とアッパレール12との間に設けられた補強構造Rの構成について説明する。すなわち、補強構造Rは、
図2〜
図4に示すように、ロアレール11の後端部領域に取り付けられたロア側Jフック30と、アッパレール12の後端部領域上に取り付けられたアッパ側Jフック40と、によって構成されている。上記ロア側Jフック30は、1枚の鋼板材が横断面略L字状の形に折り曲げられて形成されている。
【0048】
上記ロア側Jフック30は、
図6に示すように、上述したロアレール11の底面部11AとフロアFとの間に上方側に面を向けた形に挟まれた状態として設けられる底板部31と、底板部31の車幅方向の外側の縁部からロアレール11の外周面の形に沿って立ち上がると共に、立ち上がった先で車幅方向の外側に向かって逆U字状の形に折り曲げられた形状とされたフック部32と、を有する形状とされている。上述したロア側Jフック30は、
図3に示すように、上述したロアレール11の前後方向の長さの半分よりも僅かに短い程度の前後方向の長さを持つ長尺な形に形成されている。
【0049】
上述したロア側Jフック30は、上述したように前後方向に長尺な構成とされていることにより、アッパレール12が後方側の最大スライド位置まで後退した状態において、アッパ側Jフック40をそのフック部32の後側の面領域32Bに掛け合わせられる構成とされている。また、上記ロア側Jフック30は、上記アッパレール12が上記後方側の最大スライド位置から前進してロアレール11内に完全に収められるスライド位置まで達した状態においても、アッパ側Jフック40をそのフック部32に掛け合わせられる状態とされるようになっている。
【0050】
上述したロア側Jフック30は、
図6に示すように、上述した底板部31がロアレール11の底面部11AとフロアFとの間に挟まれた状態にセットされて、その前後方向の複数箇所がロアレール11に一体的に締結されて取り付けられた状態とされている。具体的には、
図4に示すように、上述したロア側Jフック30の底板部31には、その前後方向の中央よりも後部側寄りの箇所に、上側に向かって円柱状に突出するように半抜き加工されたダボ31Aが形成されている。また、上記ロア側Jフック30の底板部31には、その前端部に近い箇所に、高さ方向に丸孔状に貫通するように刳り貫かれた締結孔31Bが形成されている。
【0051】
上記ロア側Jフック30は、上述した底板部31に形成されたダボ31Aをロアレール11の底面部11Aに形成された図示しないダボ孔内に下側から嵌め込むと共に、上述した締結孔31Bをロアレール11の底面部11Aに形成された図示しない締結孔に位置合わせした状態にして、これらに貫通するように下側からボルト31Cを差し込んで一体的に締結することにより、底板部31がロアレール11の底面部11Aに一体的に結合された状態とされている。更に、上記ロア側Jフック30は、上述したロアレール11の底面部11Aに対する組み付けの後、ロアレール11の底面部11AをフロアF上に固定するための図示しないボルトが上記底板部31の前後方向の略中央領域を貫通するように上側から差し込まれて締結されることにより、ロアレール11の底面部11Aと共にフロアF上に一体的に結合された状態とされている。
【0052】
フック部32は、
図6に示すように、上述した底板部31の車幅方向の外側の縁部からロアレール11の外周面の形に沿って立ち上がり、ロアレール11のロア側ひれ部11Bの天板面よりも高い位置へ延び出した先の位置で車幅方向の外側に向かって逆U字状の形に折り曲げられた形状とされている。詳しくは、上記フック部32は、
図5に示すように、その逆U字状の形に折り曲げられる高さ位置、より詳しくは後述するアッパ側Jフック40と掛け合わされる際に当接する先端側の下面32Lの高さ位置が、前後方向の領域によって異なる形状とされている。
【0053】
具体的には、
図3に示すように、上記フック部32は、その先端側の下面32Lの後側の面領域32B、すなわち前述したアッパレール12が後方側の最大スライド位置まで後退した時にアッパ側Jフック40が位置する面領域が、前側の面領域32A、すなわちアッパレール12がロアレール11内に完全に収められる位置までスライドした時にアッパ側Jフック40が位置する面領域よりも低い位置に形成された形状とされている。上記フック部32の先端側の下面32Lの後側の面領域32Bと前側の面領域32Aとの間は、これらを連続した滑らかな平坦面で繋ぐ傾斜面32Cにより繋がれている。
【0054】
アッパ側Jフック40は、
図2〜
図4に示すように、1枚の鋼板材が横断面略J字状の形に折り曲げられて形成されている。上記アッパ側Jフック40は、上述したロア側Jフック30よりも前後方向の幅が狭く、高さ方向に長尺となる板形状に形成されている。具体的には、上記アッパ側Jフック40は、
図4及び
図6に示すように、その上端部寄りの箇所が、上述したアンカブラケット20の傾斜板部23の後端部寄りの箇所に車幅方向の外側から面当接した状態に当てられて、これらに貫通するように車幅方向の内側(左側)からボルト41が差し込まれて一体的に締結されることにより、アンカブラケット20の傾斜板部23に一体的に結合された状態とされている。
【0055】
また、上記アッパ側Jフック40には、
図2〜
図4に示すように、上述したボルト41によって締結される部位と前後方向に並ぶ前側の縁部箇所に、車幅方向の内側に向かって直角に折り曲げられた引掛爪42が形成されている。上記引掛爪42は、上述したアッパ側Jフック40をアンカブラケット20の傾斜板部23に車幅方向の外側から面当接させた状態に組み付けることにより、上述したアンカブラケット20に形成された差込孔23A内に差し込まれて、その下面が上記差込孔23Aの下側の面に当てられた状態とされるようになっている。
【0056】
上記組み付けにより、アッパ側Jフック40は、
図3に示すように、大荷重入力時にロア側Jフック30と掛かり合ってアンカブラケット20に対して下方側に引き込まれるように受ける力を、上記差込孔23A内に差し込まれた引掛爪42の引掛かり力によって強く受け止められるようになっている。詳しくは、上記引掛爪42は、アンカブラケット20におけるアンカボルト22Aの取付箇所の略直下位置に引掛けられていることにより、上記アンカボルト22Aから入力される剥離方向の大荷重をその略直下位置で強く受け止められるようになっている。
【0057】
また、上記アッパ側Jフック40は、
図4及び
図6に示すように、上述したアッパ側Jフック40のアンカブラケット20の傾斜板部23に取り付けられた箇所より上側の端部箇所が、アンカブラケット20の立板部22に向かって近づけられる形に折り曲げられた形状とされている。これにより、アッパ側Jフック40は、アンカブラケット20の傾斜板部23に取り付けられて車幅方向の外側に向かって立ち上がる形に設けられていても、その上端部が車幅方向の内側に折り曲げられていることで、外部に対してエッジを立たせない形に取り付けられた状態とされている。
【0058】
上述したアッパ側Jフック40の下端部には、車幅方向の内側にU字状に曲げ返されたフック部43が形成されている。上記フック部43は、
図4及び
図6に示すように、上述したアッパ側Jフック40のアンカブラケット20の傾斜板部23に取り付けられた箇所から、同傾斜板部23の傾斜角度に沿って車幅方向の内側に向かって斜め下がりに延びて、ロアレール11のロア側ひれ部11Bの天板面よりも低い位置で車幅方向の内側にU字状に曲げ返された形状とされている。上記フック部43は、
図3に示すように、上述したロア側Jフック30のフック部32の先端側の下面32Lの後側の面領域32Bよりも前後幅の広い構成とされている。上記フック部43は、アッパレール12が後方側の最大スライド位置まで後退した時には、上記ロア側Jフック30のフック部32の先端側の下面32Lの後側の面領域32Bの前後方向の全域に亘って下側から掛けられる状態に位置するようになっている。
【0059】
上記の状態では、フック部43は、
図6に示すように、上述したロア側Jフック30のフック部32に対して互いの鉤形状が浅く重なるように下側から掛け入れられた状態として、同フック部32との間に高さ方向及び車幅方向に僅かな隙間を空けた状態とされるようになっている。したがって、
図3に示すように、上記アッパ側Jフック40は、上記のようにロア側Jフック30のフック部32の低位置に形成された後側の面領域32Bにおいて浅く掛け合わされるようになっていることから、上記位置からアッパレール12を前側へスライドさせても、ロア側Jフック30の形状が前側に立ちはだかることがない。そのため、通常時におけるアッパレール12のロアレール11に対する前後方向のスライド移動が阻害されることがない。
【0060】
上記アッパ側Jフック40は、上述したアンカブラケット20に対して、次のように取り付けられている。すなわち、アッパ側Jフック40は、アッパレール12にアンカブラケット20が取り付けられ、ロアレール11にロア側Jフック30が取り付けられ、更に、アッパレール12がロアレール11にスライド可能な状態に組み付けられた状態において、そのフック部43がロア側Jフック30のフック部32に掛け合わされると共にアンカブラケット20にボルト41により締結されて取り付けられている。上記アッパ側Jフック40は、上記のようにアンカブラケット20と別体で構成されていることにより、上記のように他の周辺部品が組み付けられた後であっても、ロア側Jフック30に引掛けた状態に組み付けることが簡便に行えるようになっている。
【0061】
上記構成の補強構造Rは、アッパレール12が後方側の最大スライド位置にある状態において、車両の前部衝突の発生によりシートベルトアンカSBAに剥離方向の大荷重が入力されると、
図7に示すように、アッパ側Jフック40のフック部43がロア側Jフック30のフック部32に対して下側から掛け合わされて、上記の負荷をこれらの間で強く受け止めるようになっている。その際、上記補強構造Rは、上述したアッパ側Jフック40とロア側Jフック30との間に入力される大荷重がこれらの塑性変形なしには受け止めきれないような大きさの場合に、ロア側Jフック30のアッパ側Jフック40のフック部43と掛け合わされているフック部32の先端側の下面32Lの後側の面領域32Bが、局所的に引き上げられる形に変形してしまうことがある。
【0062】
しかしながら、このような変形が起こったとしても、ロア側Jフック30のフック部32は、
図8に示すように、上記引き上げられる方向に変形する後側の面領域32Bよりも前側の面領域32Aの方が高い位置に形成されていることから、上記変形後にアッパ側Jフック40の前側にロア側Jフック30のフック部32の前側の面領域32Aが立ちはだかることがない。したがって、上記変形後に、アッパ側Jフック40がアンカブラケット20等の他部材の変形により引き上げられた位置状態に保持されることがあっても、アッパ側Jフック40をその位置から前側へとスライドさせることができる。
【0063】
詳しくは、上記ロア側Jフック30の引き上げられる方向に変形するフック部32の後側の面領域32Bは、その前側の面領域32Aとの間を繋ぐ面領域が、これらを連続した滑らかな平坦面で繋ぐ傾斜面32Cによって形成されていることから、上記変形後であっても、傾斜面32Cによって前側の面領域32Aと比較的連続した滑らかな平坦面で繋がれた状態として保持されるようになっている。したがって、上記変形後であっても、アッパ側Jフック40の前側にロア側Jフック30の構成面が立ちはだかりにくくなることから、衝突後にシート1を前方側にスライドさせて、後席への乗降開口を適切に広げることができる。
【0064】
なお、上記ロア側Jフック30の引き上げられる方向に変形するフック部32の後側の面領域32Bは、前側の面領域32Aよりも高い位置まで変形することがあってもよい。その場合であっても、後側の面領域32Bが予め前側の面領域32Aよりも下げられた位置に形成されていることで、変形後に前側の面領域32Aとの間に形成される高さ方向の段差が小さくて済むため、アッパ側Jフック40の前側にロア側Jフック30の構成面が立ちはだかりにくくなることに変わりはない。
【0065】
<まとめ>
以上をまとめると、本実施例のスライドレール10は、次のような構成となっている。すなわち、乗物本体(フロアF)に取り付けられる固定側レール(ロアレール11)と、固定側レール(ロアレール11)にスライド可能な状態に組み付けられる可動側レール(アッパレール12)と、可動側レール(アッパレール12)の固定側レール(ロアレール11)に対する剥離を防止する補強構造(補強構造R)と、を有するスライドレール(スライドレール10)である。補強構造(補強構造R)は、固定側レール(ロアレール11)に取り付けられる固定側係合部(ロア側Jフック30)と、可動側レール(アッパレール12)に取り付けられる可動側係合部(アッパ側Jフック40)と、を有し、両係合部(両フック30,40)が互いに可動側レール(アッパレール12)のスライドを許容しつつ両レール(両レール11,12)間に剥離方向の大荷重が入力される作用により互いに当接して剥離方向の移動を規制する形に係合する構成とされている。固定側係合部(ロア側Jフック30)の可動側係合部(アッパ側Jフック40)と当接する当接面(下面32L)が、互いに剥離方向の高さ位置の異なる面領域(前側の面領域32Aと後側の面領域32B)をスライド方向に並んで有する形状とされている。
【0066】
このような構成となっていることにより、可動側係合部(アッパ側Jフック40)が固定側係合部(ロア側Jフック30)の当接面(下面32L)の低い側の面領域(後側の面領域32B)に位置する状態で、大荷重の入力により当接面(下面32L)の低い側の面領域(後側の面領域32B)が可動側係合部(アッパ側Jフック40)によって高い位置に引き上げられるように変形しても、上記当接面(下面32L)の他の面領域(前側の面領域32A)が高い位置にあることから、可動側係合部(アッパ側Jフック40)のスライド方向の移動が阻害されにくくなる。したがって、上記変形後であっても、可動側係合部(アッパ側Jフック40)のスライドが許容されるようにすることができる。
【0067】
また、当接面(下面32L)は、その剥離方向の高さ位置が互いに異なる面領域(前側の面領域32Aと後側の面領域32B)同士が傾斜面(傾斜面32C)によって連続的に繋げられた形状とされている。このような構成となっていることにより、上記当接面(下面32L)の剥離方向の高さ位置が互いに異なる面領域(前側の面領域32Aと後側の面領域32B)同士が互いに段差なく繋げられるため、変形後の可動側係合部(アッパ側Jフック40)のスライドがより阻害されにくくなる。また、固定側係合部(ロア側Jフック30)が断面形状の急激的な変化を伴わない形状となるため、固定側係合部(ロア側Jフック30)を構造強度の高い構成とすることができる。
【0068】
また、当接面(下面32L)の剥離方向の高さ位置が互いに異なる各面領域(前側の面領域32Aと後側の面領域32B)が、それぞれ、剥離方向(高さ方向)に直交する面形状とされている。このような構成とされていることにより、可動側係合部(アッパ側Jフック40)から固定側係合部(ロア側Jフック30)に入力される剥離方向の大荷重を、固定側係合部(ロア側Jフック30)に真っ直ぐ伝達して強く支えさせることができる。
【0069】
また、固定側係合部(ロア側Jフック30)と可動側係合部(アッパ側Jフック40)とは、互いの先端部に形成されたフック部(フック部32,43)同士が剥離方向の大荷重の入力作用により掛かり合う形に係合する構成とされている。このような構成となっていることにより、可動側係合部(アッパ側Jフック40)から固定側係合部(ロア側Jフック30)に入力される剥離方向の大荷重を、両者のフック部(フック部32,43)同士の掛かり合う構造により、逃がすことなく確実に受け止められるようにすることができる。
【0070】
また、可動側係合部(アッパ側Jフック40)が、可動側レール(アッパレール12)上に取り付けられたブラケット(アンカブラケット20)に取り付けられている。このような構成となっていることにより、可動側係合部(アッパ側Jフック40)を、固定側係合部(ロア側Jフック30)に係合させられる状態に通してから、可動側レール(アッパレール12)上に取り付けられたブラケット(アンカブラケット20)に取り付けるといった、組み付け性の向上を図ることができる。また、可動側係合部(アッパ側Jフック40)及びブラケット(アンカブラケット20)のそれぞれを個別に取り替え可能な汎用性の高い構成とすることができる。
【0071】
また、スライドレール(スライドレール10)が、乗物用シート(シート1)を乗物本体としての乗物床面(フロアF)に対して前後方向にスライドさせられる状態に連結する構成とされている。固定側係合部(ロア側Jフック30)が、固定側レール(ロアレール11)の後端部に取り付けられている。当接面(下面32L)が、前側の面領域(前側の面領域32A)よりも後側の面領域(後側の面領域32B)の方が下げられた位置に形成された構成とされている。可動側係合部(アッパ側Jフック40)が、シートベルトアンカ(シートベルトアンカSBA)から剥離方向の大荷重の入力を受ける構成とされている。
【0072】
このように、固定側係合部(ロア側Jフック30)が固定側レール(ロアレール11)の後端部に取り付けられていることで、可動側レール(アッパレール12)がリヤモースト付近にある状態で乗物の前部衝突が発生すると、シートベルトアンカ(シートベルトアンカSBA)から可動側係合部(アッパ側Jフック40)を介して固定側係合部(ロア側Jフック30)に対して剥離方向の大荷重が入力される。その際、固定側係合部(ロア側Jフック30)の当接面(下面32L)が、前側の面領域(前側の面領域32A)よりも後側の面領域(後側の面領域32B)の方が下げられた形状とされていることで、可動側レール(アッパレール12)のスライド位置によりどちらの面領域が上側に引き上げられる形に変形しても、可動側係合部(アッパ側Jフック40)が前方にスライドできる状態に保持されやすくなる。したがって、衝突発生後に可動側レール(アッパレール12)を前方にスライドさせて、後席への乗降開口を適切に広げることができる。
【0073】
<その他の実施形態について>
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、本発明のスライドレールは、自動車の左席以外のシートの他、鉄道等の自動車以外の車両に適用されるシートや、航空機、船舶等の様々な乗物用に供されるシートを、乗物のフロア等の乗物本体に対してスライド可能な状態に連結するものとして設けられるものであってもよい。
【0074】
また、スライドレールは、乗物用シートを乗物本体に対して幅方向にスライド可能な状態に連結するものであってもよい。また、スライドレールは、固定側レールが乗物の側壁に取り付けられるなどして横向きに倒された形で使われるものであってもよい。このような用途で使われる例としては、特開2010−274738号公報等の文献に開示されているような、シートバック(乗物用シート)を乗物の側壁(乗物本体)に対して背凭れ角度の調整を行える状態に連結する用途で使われるもの等が挙げられる。また、スライドレールは、上記実施例で示したような電動タイプの構成に限らず、手動によるロック・解除の切換え操作によってシートの前後方向の位置を調節する手動タイプの構成であってもよい。
【0075】
また、本発明の構成は、固定側係合部の可動側係合部と当接する当接面が、互いに剥離方向の高さ位置が異なる面領域をスライド方向に並んで有する形状とされているものであればよく、スライド方向のどちらの領域に相対的な高さ位置の低い面領域が形成されるものであってもよい。また、上記固定側係合部の当接面の剥離方向の高さ位置が異なる面領域同士は、互いに湾曲面や階段状の小刻みな段差面を介して繋げられた形状とされていてもよい。また、上記高さ位置の異なる面領域同士は、上記のような繋ぎ面を介さずに直接、互いの間に段差を成す形に繋げられた形状とされていてもよい。また、上記高さ位置の異なるそれぞれの面領域は、剥離方向に直交する面形状となっているものの他、斜めに面を向けるものや、湾曲面、段差面等の様々な形状から成る面で構成されていてもよい。
【0076】
また、固定側係合部と可動側係合部とは、大荷重入力時に、互いの先端部に形成されたフック部同士が掛かり合って荷重を受け止める構成とされたものに限らず、単に、剥離方向に面を当接させて荷重を受け止めるものや、互いの間に形成された凹凸形状を嵌合させて荷重を受け止めるもの等、様々な形態から成る構成を適用することができるものである。また、可動側係合部は、可動側レール上に取り付けられるアンカブラケット等の他の機能部品によって形成されたものであってもよい。また、固定側係合部も、固定側レールに取り付けられる他の機能部品によって形成されたものであってもよい。
【0077】
また、乗物の前部衝突の発生時に、可動側レールと固定側レールとの間に剥離方向の大荷重を作用させるシートベルトアンカは、シートベルトのタングプレートが装着される車幅方向の内側に配置されるバックルの他、シートベルトの引き出された先の端部を固定する車幅方向の外側に配置されるロアアンカを対象としてもよい。また、その両方を対象としてもよい。