(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
検煙室に設けられた発光素子及び受光素子を有し、前記受光素子が前記検煙室内の煙濃度に対応した検出値を出力する煙感知器と、前記煙感知器からの出力を受信する火災受信機とを備えた火災監視システムであって、
煙濃度がゼロのときの前記受光素子の検出値である基準値を記憶する基準値記憶部と、
前記基準値と前記受光素子の検出値との差分値に第1補正係数を乗じて第1補正値を得る第1補正部と、
前記第1補正値を第1煙濃度に換算する第1換算部と、
前記第1煙濃度と火災閾値との比較結果に基づいて火災発生の有無を判定する火災判定部とを備え、
前記基準値の初期値である初期基準値に対する前記基準値の変化率の増大に応じて前記第1補正係数が増大側に設定され、前記第1補正係数には上限値が設けられ、
前記火災判定部は、前記第1補正係数が前記上限値に到達すると、前記基準値の変化率が増大しても前記第1補正係数を前記上限値としたままで、火災発生の有無を判定する
ことを特徴とする火災監視システム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る火災監視システム及び煙感知器の実施の形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下に示す図面の形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正がなされうる。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る火災監視システムの模式図である。火災監視システム100は、煙感知器1と、煙感知器1と伝送線31を介して接続された火災受信機20とを有する。本実施の形態の火災監視システム100の伝送線31には、さらに端末機器群30が接続されている。端末機器群30は、火災感知器、警報装置、防排煙装置、及び中継器のうち任意のものを含む。火災感知器は、赤外線放射、紫外線放射、燃焼ガス等の火災に起因する物理現象を検出するセンサを有し、火災に起因する物理現象に応じた検出値を出力する。警報装置は、例えば、ベルやスピーカなどの音響警報を出力する装置、フラッシュライト等の視覚的な警報を出力する光警報装置である。防排煙装置は、例えば、防火扉、シャッター等である。中継器は、火災受信機20と煙感知器1との間、あるいは火災受信機20と端末機器群30との間に介在し、信号を中継する。なお、ここで示した端末機器群30の具体的構成は一例であり、本実施の形態ではこれらを特に区別する必要はない。
【0013】
火災受信機20は、自機に接続された煙感知器1あるいは端末機器群30に含まれる火災感知器からの検出値を受信し、受信した検出値に基づいて火災発生の有無を判定する。火災の発生を検出した場合には、警報装置及び防排煙装置を動作させるとともに自機にて火災の発生を報知する火災報知処理を行う。
【0014】
図2は、実施の形態1に係る煙感知器及び火災受信機の機能ブロック図である。煙感知器1は、内部に検煙室2aを区画形成するラビリンス内壁2と、検煙室2aの内部に設けられた発光素子3及び受光素子4と、制御部5と、伝送回路8とを有する。制御部5は、発光素子3の発光及び消灯を制御する駆動回路である駆動部6と、受光素子4から出力される信号を増幅し、デジタル値に変換して検出値として出力する回路であるA/D変換器7とを有する。伝送回路8は、火災受信機20との間で信号を送受信する回路である。
【0015】
制御部5は、基準値演算部10と、第1補正部11と、第1換算部12と、第2補正部13と、第2換算部14とを備える。また、制御部5は、初期基準値記憶部15と、基準値記憶部16と、第1補正係数記憶部17と、第2補正係数記憶部18と、換算式記憶部19とを備え、これらはメモリで構成される。
【0016】
火災受信機20は、制御部21と伝送回路22とを有する。制御部21は、火災判定部23と、火災閾値記憶部24と、異常判定部25と、異常閾値記憶部26とを備える。伝送回路22は、煙感知器1との間で信号を送受信する回路である。火災判定部23は、伝送回路22を介して取得した煙感知器1からの出力と、火災閾値記憶部24に記憶された火災閾値Sとを比較し、その比較結果に基づいて、火災発生の有無を判定する。異常判定部25は、伝送回路22を介して取得した煙感知器1からの出力と、異常閾値記憶部26に記憶された異常閾値Tとを比較し、その比較結果に基づいて、異常発生の有無を判定する。火災閾値記憶部24及び異常閾値記憶部26は、メモリで構成される。
【0017】
制御部5及び制御部21に含まれる各機能部は、専用のハードウェア、またはメモリに格納されるプログラムを実行するMPU(Micro Processing Unit)で構成される。制御部5及び制御部21が専用のハードウェアである場合、制御部5及び制御部21は、例えば、単一回路、複合回路、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(field-programmable gate array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。制御部5及び制御部21が実現する各機能部のそれぞれを、個別のハードウェアで実現してもよいし、各機能部を一つのハードウェアで実現してもよい。制御部5がMPUの場合、制御部5が実行する各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアやファームウェアはプログラムとして記述され、メモリに格納される。MPUは、メモリに格納されたプログラムを読み出して実行することにより、制御部5及び制御部21の各機能を実現する。メモリは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。
【0018】
図3は、実施の形態1に係る煙感知器及び火災受信機の監視動作を説明するタイミングチャートである。
図3では、1台の火災受信機20に対して、3台の煙感知器1−1、1−2、1−3が接続されている場合を例に、火災監視の動作と、煙感知器1の異常確認の動作の概要を説明する。
【0019】
(火災監視)
火災受信機20は、周期的に、例えば4秒に1回の周期で、煙感知器1−1、1−2、1−3に対して一斉に煙濃度を要求する信号を出力し、その後受信待ち状態になる。煙感知器1−1〜1−3は、通常は受信待ち状態であり、火災受信機20から煙濃度を要求する信号を取得すると、自機の識別情報とともに検出した煙濃度に対応する信号を送信する。各煙感知器1−1〜1−3には、互いに重複しないように送信タイミングが予め設定されており、その送信タイミングに従って煙濃度を送信する。火災受信機20は、各煙感知器1−1〜1−3から受信した煙濃度に基づいて、火災発生の有無を判定する。
【0020】
(異常確認)
上述のような通常の火災監視に加え、火災受信機20と煙感知器1との間では、煙感知器1の異常の有無を確認する異常確認の通信が行われる。異常確認は、周期的に、例えば24時間に1回の周期で行われ、火災受信機20と各煙感知器1との間で個別に行われる。具体的には、火災受信機20は、煙感知器1−1に対して異常確認を要求する信号を出力し、その後受信待ち状態になる。煙感知器1−1は、火災受信機20から異常確認を要求する信号を取得すると、自機の識別情報とともに異常に関する情報を出力する。煙感知器1−1からの異常に関する情報を取得した火災受信機20は、その情報に基づいて、異常発生の有無を判定する。異常が発生していると判断した場合には、火災受信機20に設けられたディスプレイやランプ等の表示部又は音声出力部、あるいは煙感知器1−1に設けられたランプ等の表示部又は音声出力部を用いて、異常の発生を報知する。ここで、異常に関する情報とは、煙感知器1の検出精度に関する情報を含み、より詳しくは検煙室2a、発光素子3及び受光素子4の汚損状態を示す情報を含む。火災受信機20は、同様に、煙感知器1−2及び煙感知器1−3との間でもそれぞれ異常確認の通信を行う。
【0021】
次に、煙感知器1による煙濃度の検出と、汚損に伴う異常検出について、詳細に説明する。
【0022】
図4は、実施の形態1に係る煙感知器の特性関数及び特性関数の変化を説明する図である。特性関数とは、受光素子4の検出値と煙濃度との対応関係を、正の一次関数で近似したものである。
図4において、実線で示す初期特性関数Y0は、初期の特性関数である。初期とは、検煙室2a、発光素子3及び受光素子4の汚損前をいい、通常は煙感知器1の使用開始前である工場出荷時をいう。初期特性関数Y0において、煙濃度がゼロのときの受光素子4の検出値を、初期基準値VN0と称する。この初期特性関数Y0を用いることにより、煙感知器1は、受光素子4の検出値Vに対応する煙濃度Xを得ることができる。
【0023】
次に、汚損に伴う煙感知器1の感度の変化について説明する。ラビリンス内壁2に埃等が付着するなどして検煙室2a内に白色汚損が生じると、発光素子3の照射光の反射量(ノイズレベル)が上昇する。このため、受光素子4の検出値が全体的に上昇し、白色汚損後の検出値の特性関数は、初期特性関数Y0よりも上方向にシフト(平行移動)する。一方、ラビリンス内壁2に埃等が付着するなどして検煙室2a内に黒色汚損が生じると、発光素子3の照射光の反射量(ノイズレベル)が減少する。このため、受光素子4の検出値が全体的に低下し、黒色汚損後の検出値の特性関数は、初期特性関数Y0よりも下方向にシフト(平行移動)する。このように、ラビリンス内壁2に汚損が生じると、特性関数が上又は下方向に平行移動し、煙濃度がゼロのときの受光素子4の検出値である基準値VNも上昇又は低下する。
【0024】
また、発光素子3及び受光素子4の表面に埃等が付着するなどして汚損が生じると、光の透過量が減少する。そうすると、汚損後の特性関数は、初期特性関数Y0よりも直線の傾き(検出の感度)が低下する。すなわち実際の煙濃度が同じ条件であっても、汚損後は汚損前よりも受光素子4の検出値が低下する。
図4(A)、(B)には、それぞれ、初期特性関数Y0よりも傾きが低下した特性関数Y2、Y3を二点鎖線で例示している。
【0025】
このように、検煙室2a、発光素子3及び受光素子4が汚損すると、その汚損内容に応じて特性関数に変化が生じる。したがって、本実施の形態の煙感知器1は、より正確な煙濃度を得るために、受光素子4の検出値を補正して煙濃度に換算する。この補正は、概念的には、低下した特性関数の傾きを上昇させるものである。汚損は、通常は経時とともに大きくなるため、補正量も経時とともに大きくなる。汚損レベルが大きくなりすぎると、検出値を補正しても正確な煙濃度の検出が困難となるので、汚損レベルに基づいて煙感知器1の異常を検出する。また、煙感知器1の検出値が補正されている状態で、清掃等により感度低下の要因が取り除かれると、煙感知器1の感度は概ね初期状態に戻るが、検出値は補正された状態であるので、その補正の程度によっては煙濃度の正確な検出が困難となる。このため、本実施の形態の煙感知器1は、後述するように検出値の補正に上限を設け、清掃の前後で煙感知器1の感度に差が出すぎないようにする。以下、煙濃度の検出と汚損レベルの検出の動作を説明する。
【0026】
図5は、実施の形態1に係る煙感知器の煙濃度の検出動作を説明するフローチャートである。
図2、
図5を参照して、煙濃度の検出動作を説明する。
図2に示すように、発光素子3が光を発すると、検煙室2a内の煙粒子によって生じる散乱光を受光素子4が受光し、その受光量に対応した検出値VがA/D変換器7から出力される。A/D変換器7から出力される検出値Vは、基準値演算部10と第1補正部11とに入力されている。
図5において、煙濃度の検出処理を開始すると、第1補正部11は、基準値記憶部16に記憶された基準値VNと、A/D変換器7から出力される検出値Vとの差分値ΔVを算出する(S10)。
【0027】
ここで、基準値VNは、煙濃度がゼロのときの受光素子4の検出値である。基準値演算部10は、A/D変換器7から出力される検出値を用いて所定周期で基準値VNを演算し、演算された基準値VNは基準値記憶部16に記憶されている。基準値VNは、例えば、A/D変換器7から出力される検出値の移動平均値とすることができる。具体的には、A/D変換器7から出力された過去N回分の検出値の合計値を、サンプリング数Nで除算し、これと同様の処理をM回繰り返して得た値の合計値をMで除算することによって算出することができる。なお、基準値VNの算出方法はこれに限定されないが、上述したような算出処理を繰り返して例えば24時間の移動平均を算出し、これを基準値VNとすることができる。検出値の移動平均値を基準値VNとして用いることで、外乱による検出値への影響を抑制することができる。また、基準値VNを周期的に更新することで、煙感知器1の汚損状態に応じた基準値VNを得ることができる。一般に、煙感知器1の汚損は徐々に進み急激な変化は想定されないので、火災監視の通信を行う度に基準値VNを計算しなくてもよい。
【0028】
第1補正部11は、基準値VNの初期基準値VN0からの変化率γVNに対応した第1補正係数を、第1補正係数記憶部17から取得する(S11)。ここで、第1補正係数は、
図4で示した特性関数の傾きを補正するものである。上述のように汚損により受光素子4の感度が低下すると、基準値VNはその初期値である初期基準値VN0から変化する。基準値VNの初期基準値VN0からの変化率γVNと、特性関数の傾きと、の間には、直線的な比例関係がある。この比例関係に着目して、変化率γVNの増大に応じて第1補正係数が増大となるようにされた第1補正係数のテーブル又は換算式が、第1補正係数記憶部17に記憶されている。第1補正係数のテーブル又は換算式は、基準値VNの変化率γVNと、汚損後の特性関数の傾きを初期特性関数Y0の傾きに一致させる第1補正係数との対応関係を示すものである。第1補正部11は、第1補正係数記憶部17を参照して、変化率γVNに応じた第1補正係数を用いる。基準値VNの変化率γVNは、例えば、初期基準値VN0からの基準値VNの変化量を、初期基準値VN0で除算(正規化)した値の絶対値(=|(VN−VN0)/VN0|)とすることができる。
【0029】
第1補正部11は、ステップS11で取得した第1補正係数が予め定められた上限値以下であるか否かを判定し(S12)、ステップS12の判定により、上限値以下であれば(S12;Yes)、ステップS11で取得した第1補正係数をステップS10で取得した差分値ΔVに乗じて、第1補正値を算出する(S13)。ステップS12の判定により、ステップS11で取得した第1補正係数が上限値を超えている場合には(S12;No)、第1補正部11は、差分値ΔVに第1補正係数の上限値を乗じて第1補正値を算出する(S14)。第1換算部12は、ステップS13又はステップS14で算出した第1補正値を、第1煙濃度に換算する(S15)。換算式記憶部19は、受光素子4の検出値と煙濃度との対応関係を表す初期特性関数Y0を、換算式として記憶しており、制御部5の第1換算部12は、その初期特性関数Y0を用いて第1補正値をステップS15で換算した第1煙濃度に換算することができる。
【0030】
第1補正係数及び第1補正係数の上限値について、
図4を参照して説明する。まず、受光素子4の感度が低下して、煙感知器1の特性関数が
図4(A)に示す特性関数Y2の状態であるとする。受光素子4の検出値と基準値VNとの差分値ΔV2に、基準値VNの変化率γVNに応じた第1補正係数を乗じることで、初期特性関数Y0と同じ傾きの特性関数Y1における、検出値Vと基準値VNとの差分値ΔV2aを得ることができる。
図4(A)の差分値ΔV2aは、
図5のステップS13における第1補正値であり、差分値ΔV2を増大側に補正した値といえる。特性関数Y1の傾きは、初期特性関数Y0の傾きと同じであるので、特性関数Y1において差分値ΔV2aが指し示す煙濃度X1と、初期特性関数Y0において差分値ΔV2aと同じ大きさの値が指し示す煙濃度とは、同じ値となる。このため、第1補正係数で補正された差分値ΔV2aを、初期特性関数Y0を用いて煙濃度に換算することで、感度が補正された状態の煙濃度を得ることができる。
【0031】
ここで、第1補正係数記憶部17に記憶された第1補正係数のテーブル又は換算式は、上述のように基準値VNの変化率γVNと第1補正係数との対応関係を示すものであり、変化率γVNが大きいほど第1補正係数が大きくなるような対応関係がある。しかし、本実施の形態では、第1補正係数には上限値が設けられており、第1補正係数が上限値に到達すると、基準値VNの初期基準値VN0からの変化率γVNがさらに増大したとしても、第1補正係数は上限値のまま維持される。
【0032】
図4(B)に示すように、特性関数Y2の状態よりも受光素子4の感度が低下して特性関数Y3の状態である場合を例に、第1補正係数の上限値について検討する。特性関数Y3上の検出値Vと基準値VNとの差分値ΔV3に、第1補正係数を乗じて第1補正値を算出するが、特性関数Y1の傾き(=初期特性関数Y0の傾き)と同じ傾きになるように特性関数Y3を補正するための第1補正係数が、上限値を超える場合には、第1補正係数として上限値を用いる。
図4(B)に示すように、差分値ΔV3を上限値で補正して得られたΔV3aは、特性関数Y1の傾き(=初期特性関数Y0の傾き)よりも小さい傾きの特性関数上に投影されることになる。このように第1補正係数に上限値を設けて第1補正係数が過大となるのを抑制することで、補正前の差分値ΔV3と補正後の値ΔV3aとの差を抑制することができる。第1補正係数で補正されたΔV3aは、初期特性関数Y0を用いて煙濃度X2に換算される。
【0033】
第1補正係数の上限値は、要求される煙濃度の検出精度や準拠すべき規格等に応じて定めることができる。例えば、検出値Vと基準値VNとの差分値ΔVに、第1補正係数の上限値を乗じて得た第1補正値に対応する煙濃度が、火災閾値Sの+50%の範囲内に収まる値とする。例えば、火災閾値Sが11%/mのときには、補正後の検出値に基づいて算出された煙濃度が16.5%/mとなる第1補正係数を上限値とする。
【0034】
このように、基準値VNの変化率γVNに応じた第1補正係数を用いて検出値Vと基準値VNとの差分値ΔVを補正することで、煙感知器1の初期の感度と同等の感度で煙濃度を検出することができる。また、第1補正係数に上限値を設けたので、補正が適用されている状態で、清掃等により煙感知器1の感度低下の要因が取り除かれて初期状態に戻った場合、補正は継続されても、補正後の値に基づいた煙濃度と実際の煙濃度との差を、第1補正係数に上限値を設けなかった場合と比べて抑制することができる。したがって、煙感知器1の清掃後の、煙濃度の検出精度の低下を抑制することができる。特に、上述のように基準値VNを算出するにあたって検出値の移動平均を用いた場合、基準値VNへの外乱の影響を抑えることができる一方で、清掃により検出精度が向上した場合でも基準値VNは清掃前の検出値が反映されるため、第1補正係数は必要以上に大きな値となりうる。しかし、本実施の形態のように第1補正係数に上限値を設けておき、補正しすぎないようにしておくことで、煙感知器1の清掃後における煙濃度の誤検出を抑制することができる。なお、煙感知器1が清掃された後、基準値VNは初期基準値VN0、あるいはそれに近い値となる。基準値VNの算出に移動平均値を用いた場合でも、時間の経過とともに基準値VN及び第1補正係数は妥当な値に収束していく。
【0035】
上述のように第1補正係数に上限値を設けた場合、煙感知器1の汚損が進んでいくと、検出される煙濃度と実際の煙濃度とが乖離していく。このため、本実施の形態では、検煙室2a、発光素子3及び受光素子4の汚損レベルを検出し、汚損レベルに基づいて煙感知器1の異常を検出する。
【0036】
図6は、実施の形態1に係る煙感知器の汚損レベルの検出動作を説明するフローチャートである。制御部5の第2補正部13は、基準値記憶部16に記憶された基準値VNと初期基準値記憶部15に記憶された初期基準値VN0との差分値ΔVNに対応した第2補正係数を、第2補正係数記憶部18から取得する(S20)。続けて第2補正部13は、ステップS20で取得した第2補正係数を差分値ΔVNに乗じて、第2補正値を算出する(S21)。次に、第2換算部14は、ステップS21で算出した第2補正値を、換算式記憶部19に記憶された特性関数を用いて、第2煙濃度に換算する(S22)。このように本実施の形態では、基準値VNの初期基準値VN0からの変化量(差分値ΔVN)を補正してステップS22で煙濃度に換算した値を、汚損レベルとして用いる。
【0037】
第2補正係数について説明する。基準値VNの初期基準値VN0からの変化量(差分値ΔVN)と、ラビリンス内壁2、発光素子3及び受光素子4の汚損レベルとの間には、直線的な比例関係がある。この比例関係に着目して差分値ΔVNの増大に応じて第2補正係数が増大するように作成された第2補正係数の対応テーブル又は換算式が、第2補正係数記憶部18に記憶されている。この対応テーブル又は換算式は、基準値VNと初期基準値VN0との差分値ΔVNの絶対値と、第2補正係数との対応関係を示すものである。第2補正部13は、差分値ΔVNに対応した第2補正係数を用いて、ΔVNを補正する。
【0038】
図7は、実施の形態1に係る煙感知器の基準値VNと煙濃度で示される汚損レベルとの関係を説明する図である。
図7において、初期特性関数Y0及び汚損後の特性関数Y3は、
図4(B)で示したものと同様である。上述のように、検煙室2a、発光素子3及び受光素子4の汚損に伴い、基準値VNは初期基準値VN0から変化する。基準値VNと初期基準値VN0との差分値ΔVNに第2補正係数を乗じて得られる第2補正値ΔVNaは、初期特性関数Y0における検出値と汚損後の特性関数Y3における検出値との差分を表す。この第2補正値ΔVNaを、初期特性関数Y0の換算式に当てはめると、煙濃度X3が得られる。すなわち、検出値を実際の特性関数Y3を用いて換算した場合の煙濃度と、初期特性関数Y0を用いて換算した場合の煙濃度との差分に相当する煙濃度が、煙濃度X3として得られるので、この煙濃度X3を、汚損レベルを示す情報として用いる。
【0039】
なお、この煙濃度X3は、火災受信機20に送信される。火災受信機20の異常判定部25は、煙濃度X3が予め記憶された異常閾値Tを超えた場合には異常であると判定する。異常閾値Tは、例えば、UL268によれば、火災閾値Sの±50%以内の値とすることが定められている。このため、UL規格に準拠する場合、煙濃度の火災閾値Sが11%/mであれば、異常閾値Tは、5.5%/m以上16.5%/m以下の範囲であり、この煙濃度X3がこの範囲を外れた場合に、異常であると判定される。
【0040】
このように、本実施の形態では、火災監視に用いる煙濃度の算出に際し、基準値VNと検出値Vとの差分値ΔVを用いて煙濃度を算出する。このため、汚損に伴う特性関数の平行移動の変化は相殺され、差分値ΔVに第1補正係数を乗じることで特性関数の傾きを補正すれば、初期特性関数Y0を用いて煙濃度を得ることができる。また、受光素子4の検出値を第1補正係数で補正するため、汚損により受光素子4の感度が低下しても、煙濃度の検出精度を維持することができる。また、受光素子4の検出値を補正する第1補正係数に上限値を設けた。このため、第1補正係数が増大側に設定されている状態で清掃等により煙感知器1の感度が初期状態あるいは初期に近い状態に戻った後の、煙感知器1の煙濃度の検出精度の低下を抑制できる。したがって、煙濃度の検出精度が低下することによる火災の誤報あるいは火災の非検出を抑制することができる。また、煙濃度の検出とは別に、基準値VNの初期基準値VN0からの変化量に基づいて煙感知器1の汚損レベルを算出して、異常判定を行うようにしたので、煙感知器1が汚損等により所望の検出精度を保てなくなった場合にはそれを検出することができる。このように、本実施の形態によれば、煙感知器1が清掃された後の煙濃度の検出精度の維持と、汚損に起因した煙感知器1の異常検出とを両立させることができる。
【0041】
図8は、実施の形態1に係る煙感知器の基準値VNの算出タイミングの一例を説明する図である。「受信機に係る技術上の規格を定める省令」の第九条では、火災監視システム100において、煙感知器1が演算等の動作を行ってよい期間である演算許可期間が定められている。このような制約がある場合を考慮し、
図8に示す例では、250msを1周期とし、最後の10msを演算許可期間としている。この演算許可期間にのみ煙感知器1に演算等の動作が許されている。煙感知器1は、第1補正値及び第2補正値の演算を、毎周期の演算許可期間において分散して行う。このようにすることで、規格に準拠し、かつ第1補正値及び第2補正値の演算負荷が一時に集中することによる煙濃度の検出動作への影響を抑制することができる。
【0042】
実施の形態2.
実施の形態1は、煙感知器1と火災受信機20を備えた火災監視システム100において、煙感知器1から出力される第1煙濃度及び第2煙濃度に基づいて、火災受信機20が火災発生の有無及び異常発生の有無を判断する構成であった。本実施の形態2では、第1煙濃度及び第2煙濃度の検出に加え、火災発生の有無及び異常発生の有無を判断する煙感知器1Aを説明する。
【0043】
図9は、実施の形態2に係る煙感知器1Aの機能ブロック図である。煙感知器1Aの制御部5は、実施の形態1において火災受信機20に設けられていた火災判定部23と、火災閾値記憶部24と、異常判定部25と、異常閾値記憶部26とを備える。さらに好ましくは、煙感知器1Aは、報知部27を備える。報知部27は、音声を出力するブザーやスピーカ等の音響装置と、視覚的な情報を出力するランプ等の表示装置と、のいずれか又は両方を含む。煙感知器1Aは、実施の形態1と同様に第1煙濃度及び第2煙濃度を検出し、さらに火災判定部23にて火災発生の有無を判定するとともに、異常判定部25にて異常発生の有無を判定する。火災の発生を検出した場合には、報知部27は、火災の発生を報知する。また、異常の発生を検出した場合には、報知部27は、異常の発生を報知する。
【0044】
このように火災及び異常の発生を判定する煙感知器1Aに本発明を適用しても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
実施の形態2において、煙感知器1Aは、実施の形態1のように、伝送回路を備え、伝送線を介して火災受信機と接続されていてもよく、火災の発生や異常の発生を検出した場合に、火災信号や異常信号を火災受信機に送信するようにしてもよい。
【0045】
なお、上記実施の形態1、2において、第1補正係数の更新回数に上限を設けてもよい。すなわち、上述のように第1補正係数は、基準値VNの初期基準値VN0からの変化率γVNの増大に応じて増大側に設定されるが、第1補正係数を増大側に設定し直す回数に上限を設けてもよい。