(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
永久磁石界磁を有する回転子とスター結線された三相コイルU,V,Wを有する固定子を備え、定電圧直流電源を供給して120°矩形波通電により始動する電動機の界磁位置誤差補正方法であって、
三相ハーフブリッジ型インバータ回路を介して三相コイルに通電する出力手段と、
上位コントローラからの回転指令に応じて前記出力手段をスイッチング制御して励磁状態を切り替える制御手段と、
前記出力手段の接地側端子と接続し、コイル電流を検出する電流検出手段と、を備え、
コイル端からコモン側へ通電する場合を正方向とし、コモン側からコイル端へ通電する場合を逆方向として、測定対象コイル磁極方向と永久磁石界磁の磁極方向が正対する電気角0°から始まる電気角60°ピッチごとにU相逆方向−W相正方向−V相逆方向−U相正方向−W相逆方向−V相正方向の順で通電する6通電パターンにおいて1相コイルを測定対象相とし、
電動機出力軸が解放された状態において、前記制御手段は、前記出力手段を制御して所定の通電パターンにて固定励磁して電気角0°から始まる電気角60°ピッチで自励位置決めするステップと、
各停止位置において測定対象相が1相通電となる3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により検出されるコイル電流値を測定し第1測定値として記憶するステップと、
前記停止位置のまま反対方向に通電する3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により検出されるコイル電流値を第3測定値として記憶するステップと、
前記停止位置から電気角90°回転させた位置へ自励位置決めして、第1測定値と同じ方向に通電する3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により測定されるコイル電流値を第2測定値として記憶するステップと、
前記6通電パターンについてそれぞれ前記第1測定値、前記第2測定値及び前記第3測定値に相当する測定対象相のコイル電流値を取得して前記制御手段に記憶するステップと、
前記三相コイルに対する6通電パターンについて、任意の相の第1測定値又は前記第2測定値を基準値として残りの5相の測定値が等しくなるように通電パターンごとに補正係数Aを算出し、算出した補正係数Aを前記制御手段に記憶するステップと、を有し、
前記制御手段は、前記永久磁石界磁の位置検出に際して前記6通電パターンごとに測定された前記第1測定値又は前記第2測定値に前記補正係数Aを乗じてオフセット誤差を補正した補正値を求め、該補正値に基づいて前記永久磁石界磁の位置推定を行うことを特徴とする電動機の界磁位置誤差補正方法。
永久磁石界磁を有する回転子とスター結線された三相コイルU,V,Wを有する固定子を備え、定電圧直流電源を供給して120°矩形波通電により始動する電動機の界磁位置誤差補正方法であって、
三相ハーフブリッジ型インバータ回路を介して三相コイルに通電する出力手段と、
上位コントローラからの回転指令に応じて前記出力手段をスイッチング制御して励磁状態を切り替える制御手段と、
前記出力手段の接地側端子と接続し、コイル電流を検出する電流検出手段と、を備え、
コイル端からコモン側へ通電する場合を正方向とし、コモン側からコイル端へ通電する場合を逆方向として、測定対象コイル磁極方向と永久磁石界磁の磁極方向が正対する電気角0°から始まる電気角60°ピッチごとにU相逆方向−W相正方向−V相逆方向−U相正方向−W相逆方向−V相正方向の順で通電する6通電パターンにおいて1相コイルを測定対象相とし、
電動機出力軸が解放された状態において、前記制御手段は、前記出力手段を制御して所定の通電パターンにて固定励磁して電気角0°から始まる電気角60°ピッチで自励位置決めするステップと、
各停止位置において測定対象相が1相通電となる3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により検出されるコイル電流値を測定し第1測定値として記憶するステップと、
前記停止位置から電気角90°回転させた位置へ自励位置決めして、第1測定値と同じ方向に通電する3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により測定されるコイル電流値を第2測定値として記憶するステップと、
前記6通電パターンについてそれぞれ前記第1測定値及び前記第2測定値に相当する測定対象相のコイル電流値を取得して前記制御手段に記憶するステップと、
前記三相コイルに対する6通電パターンごとに任意の相の前記第1測定値と前記第2測定値との差分にて検出信号偏差の振幅を求め、該振幅を基準として残りの5相の振幅が等しくなるようにセンシング通電パターンごとの補正係数Bを求め、前記第2測定値及び前記補正係数Bを前記記憶部に記憶するステップと、を有し、
前記制御手段は、前記永久磁石界磁の位置検出に際して、前記6通電パターンごとに測定値と前記第2測定値の差分に前記補正係数Bを乗算して振幅誤差を補正した補正値を求め、該補正値に基づいて前記永久磁石界磁の位置推定を行うことを特徴とする電動機の界磁位置誤差補正方法。
電動機出力軸に外部駆動装置が接続されており、前記外部駆動装置により前記電動機出力軸を所定角度回転させて位置決めする請求項1又は請求項2記載の電動機の界磁位置誤差補正方法。
【背景技術】
【0002】
従来、小型直流モータはブラシ付きDCモータが用いられてきたが、ブラシ音・電気ノイズ・耐久性等に問題がありブラシレスDCモータが登場した。さらに最近では小型軽量化・堅牢化・ローコスト化等の観点から位置センサを持たないセンサレスモータが注目され、まず情報機器分野のハードディスクドライブ等に採用されたがベクトル制御技術の発展により家電・車載分野でも採用され始めた。
【0003】
図1に位置センサを備えないセンサレスモータの一例として3相ブラシレス直流(DC)モータの構成を示す。回転子軸1を中心に回転する回転子2にはS極とN極で一対の永久磁石3が設けられている。永久磁石界磁の磁極構造(IPM,SPM)あるいは極数等は様々である。固定子4には120°位相差で設けられた極歯に電機子巻線(コイル)U,V,Wが配置され、中性点(コモン)Cを介してスター結線されている。
【0004】
図2に代表的なセンサレス駆動回路例のブロックダイアグラムを示す。MOTORは3相センサレスモータである。MPU51はマイクロコントローラ(制御手段)である。INV52は、3相ハーフブリッジ構成のインバータ回路(出力手段)である。RS53は電流センサである。ADC54は電流値をデジタル値に変換するA/Dコンバータである。なお実際の回路にはこのほかに電源部、位置センサ入力部あるいはゼロクロスコンパレータとダミーコモン生成部、ホストインターフェース部等が必要であるが煩雑化を避けるため省略してある。
【0005】
図3に3相ブラシレスDCモータの駆動方式の代表的な例として120°通電のタイミングチャートを示す。区間1はU相からV相に、区間2はU相からW相に、区間3はV相からW相に、区間4はV相からU相に、区間5はW相からU相に、区間6はW相からV相に、矩形波通電される。破線は誘起電圧波形である。HU〜HWはモータに内蔵されるホールセンサの出力波形であり、従来の位置センサ付きブラシレスDCモータはこの信号に基づいて励磁切り替えが行われる。
【0006】
これに対してセンサレス駆動では誘起電圧から回転子位置を検出するが、零速時は誘起電圧が発生しないため回転子位置が判らず始動できない。そこでリラクタンス変化あるいは磁気抵抗変化などから初期位置を検出するためにコイル電流センサと電流検出回路を設け、インバータを用いてPWM駆動によりコイルにサイン波状のコイル電流を流して電流応答から位置を推定する方法がある。電流センサ及び電流検出回路を備えてコイル電流を検出している先行技術として特開2006−254626号公報(特許文献1)や特開2014−503170号公報(特許文献2)が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
センサレスモータの初期位置を知るためにはセンシングパルスを印可して界磁位置に応じた周期的変化を検出する必要がある。そこで零速あるいは低速域における界磁位置の推定は、一般的に界磁構造に起因するリラクタンス変化、磁気飽和に起因する磁気抵抗変化、などを検出することで行われるが、それら位置検出信号の位置変位に応じた出力変化量は概して小さなものである。
位置検出信号の出力変化量が小さいことから、モータ生産ラインあるいはユーザーサイドでは信号レベルのマージンやモータごとの固有誤差量等を把握する必要があるが、検出手順が複雑であることから現状は好適な検証手段が用意されていないという課題がある。
【0009】
一方、モータの磁気回路は着磁誤差や素材のばらつきなどからコイルごとに磁気特性にばらつきがあり、また駆動回路にも出力段の特性や配線容量などでばらつきがある。そのためコイルごとに位置検出信号は振幅・オフセット・位相などの誤差が発生する。しかし現状は誤差を簡単に補正する方法がないことから、結果的にモータに数式モデルに近い高精度が要求されることになりそれは困難でコストアップの要因ともなっている。また誤差低減には限界があり現状ではかなりの誤差が残存している。その結果、位置検出信号の出力変化量が小さい場合は信号誤差が信号変化量と同程度の大きさとなり位置検出そのものが不可能といった重大な問題となる。
【0010】
従って、モータと駆動回路が組み合わされた段階で位置検出信号の誤差の補正が望まれるが、生産ラインあるいはユーザーで簡単に実行できる補正手段は提案されていないことからセンサレスモータの用途が限られ、初期位置検出を行わずオープンループスタートするか、それでは始動できない場合はセンサレス化をあきらめホールセンサあるいはエンコーダーなどを使わざるを得なかった。
【0011】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、永久磁石界磁の初期位置検出信号の出力を簡単に評価できる方法を提案し、併せて初期位置検出信号に発生する誤差を補正する方法を提案し、従来は初期位置検出が困難であったモータシステムでも位置検出を可能とすることで、センサレスモータシステムの適用範囲を拡大することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
永久磁石界磁を有する回転子とスター結線された三相コイルU,V,Wを有する固定子を備え、定電圧直流電源を供給して120°矩形波通電により始動する電動機の界磁位置誤差補正方法であって、三相ハーフブリッジ型インバータ回路を介して三相コイルに通電する出力手段と、上位コントローラからの回転指令に応じて前記出力手段をスイッチング制御して励磁状態を切り替える制御手段と、前記出力手段の接地側端子と接続し、コイル電流を検出する電流検出手段と、を備え、コイル端からコモン側へ通電する場合を正方向とし、コモン側からコイル端へ通電する場合を逆方向として、
測定対象コイル磁極方向と永久磁石界磁の磁極方向が正対する電気角0°から始まる
電気角60°ピッチごとにU相逆方向−W相正方向−V相逆方向−U相正方向−W相逆方向−V相正方向の順で通電する6通電パターンにおいて1相コイルを測定対象相とし、電動機出力軸が解放された状態において、前記制御手段は、前記出力手段を制御して所定の通電パターンにて固定励磁して電気角0°から始まる電気角60°ピッチで自励位置決めするステップと、各停止位置において測定対象相が1相通電となる3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により検出されるコイル電流値を測定し第1測定値として記憶するステップと、前記停止位置のまま反対方向に通電する3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により検出されるコイル電流値を第3測定値として記憶するステップと、前記停止位置から電気角90°回転させた位置へ自励位置決めして、第1測定値と同じ方向に通電する3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により測定されるコイル電流値を第2測定値として記憶するステップと、前記6通電パターンについてそれぞれ前記第1測定値、前記第2測定値及び前記第3測定値に相当する測定対象相のコイル電流値を取得して前記制御手段に記憶するステップと、前記三相コイルに対する6通電パターンについて、任意の相の第1測定値又は前記第2測定値を基準値として残りの5相の測定値が等しくなるように通電パターンごとに補正係数Aを算出し、算出した補正係数Aを前記制御手段に記憶するステップと、を有し、前記制御手段は、前記永久磁石界磁の位置検出に際して前記6通電パターンごとに測定された前記第1測定値又は前記第2測定値に前記補正係数Aを乗じてオフセット誤差を補正した補正値を求め、該補正値に基づいて前記永久磁石界磁の位置推定を行うことを特徴とする。
【0013】
これにより、センシング通電を行なって6通電パターンについて測定された第1測定値又は第2測定値のオフセット誤差を補正することで、永久磁石界磁位置の推定誤差を低減することができる。
また、制御手段には、上記一連のステップからなる評価測定により得られた測定値が記憶されていることから、任意の時点で上位コントローラに送出し表示することができ、測定値から永久磁石界磁の初期位置検出能力を簡易的に評価できる。例えば各相の前記第1測定値を比較することで位置検出信号の相間オフセット量が判りモータ及び駆動回路の相間アンバランスを発見でき、同時にセンシング電流の大きさの妥当性を評価できる。また前記第1測定値と前記第3測定値の差分をとれば通電方向を反転させたときの磁気飽和による磁気抵抗変化の検出量が判り、界磁極性の検出確度及び磁気飽和を起させるセンシング電流の大きさの妥当性を評価できる。さらに前記第1測定値と前記第2測定値の差分をとれば位置検出信号の振幅からリラクタンス変化と磁気抵抗変化の合成された変化量を評価できる。
【0014】
永久磁石界磁を有する回転子とスター結線された三相コイルU,V,Wを有する固定子を備え、定電圧直流電源を供給して120°矩形波通電により始動する電動機の界磁位置誤差補正方法であって、三相ハーフブリッジ型インバータ回路を介して三相コイルに通電する出力手段と、上位コントローラからの回転指令に応じて前記出力手段をスイッチング制御して励磁状態を切り替える制御手段と、前記出力手段の接地側端子と接続し、コイル電流を検出する電流検出手段と、を備え、コイル端からコモン側へ通電する場合を正方向とし、コモン側からコイル端へ通電する場合を逆方向として、
測定対象コイル磁極方向と永久磁石界磁の磁極方向が正対する電気角0°から始まる
電気角60°ピッチごとにU相逆方向−W相正方向−V相逆方向−U相正方向−W相逆方向−V相正方向の順で通電する6通電パターンにおいて1相コイルを測定対象相とし、電動機出力軸が解放された状態において、前記制御手段は、前記出力手段を制御して所定の通電パターンにて固定励磁して電気角0°から始まる電気角60°ピッチで自励位置決めするステップと、各停止位置において測定対象相が1相通電となる3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により検出されるコイル電流値を測定し第1測定値として記憶するステップと、前記停止位置から電気角90°回転させた位置へ自励位置決めして、第1測定値と同じ方向に通電する3相センシング通電を行なって前記電流検出手段により測定されるコイル電流値を第2測定値として記憶するステップと、前記6通電パターンについてそれぞれ前記第1測定値及び前記第2測定値に相当する測定対象相のコイル電流値を取得して前記制御手段に記憶するステップと、前記三相コイルに対する6通電パターンごとに任意の相の前記第1測定値と前記第2測定値との差分にて検出信号偏差の振幅を求め、該振幅を基準として残りの5相の振幅が等しくなるようにセンシング通電パターンごとの補正係数Bを求め、前記第2測定値及び前記補正係数Bを前記記憶部に記憶するステップと、を有し、前記制御手段は、前記永久磁石界磁の位置検出に際して、前記6通電パターンごとに測定値と前記第2測定値の差分に前記補正係数Bを乗算して振幅誤差を補正した補正値を求め、該補正値に基づいて前記永久磁石界磁の位置推定を行うことを特徴とする。
これにより、センシング通電を行なって6通電パターンについて生じた振幅誤差を補正することで、永久磁石界磁位置の推定誤差低減効果を高めることができる。
【0015】
尚、上記補正係数A,Bを求めるために、測定時に自励位置決めではなく、電動機出力軸に外部駆動装置を接続して、前記外部駆動装置により前記電動機出力軸を所定角度回転させて位置決めするようにしてもよい。
外力を用いて位置決めする場合には、測定時に位相誤差は発生するが、通常は小さく無視できる範囲となる。
【発明の効果】
【0016】
永久磁石界磁の位置検出信号の誤差要因には位相誤差・オフセット誤差・振幅誤差がある。本案は位相角に関してエンコーダー等による機械的角度を用いることを避け、3相センシング通電による第1測定値〜第3測定値の測定時も運用時の永久磁石界磁の位置検出時も同じ電気角体系の位相角を用いることから位相誤差を小さく抑えることができる。また、永久磁石界磁の位置検出時の測定値のオフセット誤差あるいは振幅誤差も測定と同時に誤差補正係数等により演算補正されるため正確な位置検出が可能である。よって、従来は位置検出が困難であったリラクタンス偏差の少ない表面磁石型モータや磁気抵抗偏差の小さなスロットレスモータでも位置検出でき、センサレスモータの用途が拡大される。
誤差補正により位置検出精度が向上することからセンシング電流を従来より小さくすることができ、センシング時間の短縮やモータ及び駆動回路の負担を低減できる。
既存装置への組み込みはプログラムの変更だけで済みハードウェアの変更は不要のため、ローコストでプラグインできる。
従来は製造ラインやユーザーサイドでは位置検出能力の検証が困難であったが、本案によれば数秒間で評価でき位置検出信号の余裕や安定度などを把握して安心してモータシステムを運用できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る電動機の界磁位置誤差補正方法の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本願発明は、電動機の一例として、回転子に永久磁石界磁を備え、固定子に巻き線を120°位相差で配置してスター結線し、相端がモータ出力手段に接続されたセンサレスモータを用いて説明する。尚、モータによりアクチュエータを往復動させるリニアアクチュエータに用いることも可能である。
【0019】
以下では、一例として3相永久磁石界磁型同期モータをセンサレス駆動するセンサレスモータの永久磁石界磁位置誤差補正方法について、センサレスモータ駆動装置の構成と共に説明する。
【0020】
図1を参照して本発明に係る3相ブラシレスDCモータの一実施例を示す。一例として2極永久磁石ロータと3スロットを設けた固定子4を備えた3相ブラシレスDCモータを例示する。モータはインナーロータ型でもアウターロータ型でもいずれでもよい。また、永久磁石型界磁としては永久磁石埋め込み型(IPM型)モータや表面永久磁石型(SPM型)モータのいずれであってもよい。
【0021】
図1において、回転子軸1には回転子2が一体に設けられ、界磁として2極の永久磁石3が設けられている。固定子4には120°位相差で極歯U,V,Wが永久磁石3に対向して配置されている。固定子4の各極歯U,V,Wに巻線u,v,wを設けて相間をコモンCでスター結線して後述するモータ駆動装置に配線された3相ブラシレスDCモータとなっている。尚、コモン線は、不要であるので省略されている。
【0022】
次に、三相センサレスモータのモータ駆動回路の一例を
図2に示す。
始動時の駆動方式としては120°通電バイポーラ矩形波励磁を想定している。
MOTORは三相センサレスモータである。MPU51はマイクロコントローラ(制御手段)である。MPU51は、三相コイル(U,V,W)に対する6通りの通電パターンと各通電パターンに対応する120°通電の励磁切り替え区間(区間1〜区間6)を指定する界磁位置情報を記憶し、上位コントローラ50からの回転指令に応じて出力手段をスイッチング制御して励磁状態を任意に切り替える。
【0023】
三相ハーフブリッジ型インバータ回路52(INV:出力手段)は、三相コイルに通電し、モータトルクを制御するために励磁相切り替えあるいはPWM制御などのスイッチング動作を行う。インバータ回路52は、スイッチング素子に逆並列に接続されるダイオードを備え、正極電源ライン及び接地電源ラインに任意に接続可能なハーフブリッジ型スイッチング回路が3相分設けられている。
【0024】
インバータ回路52の共通接地側端子には電流センサ53(RS:電流検出手段)が直列に接続されている。電流センサ53は、界磁極性による磁気抵抗変化を検出可能な電流閾値に対応するリファレンス電圧(電圧基準値)を発生させる。尚、本実施例では、電流センサ53としてシャント抵抗rを用いた。電流センサ53(電流検出手段)の出力はA/Dコンバータ54(ADC:Analog-to-Digital Converter,アナログ‐デジタル変換回路、A/Dコンバータ手段)へ送出される。A/Dコンバータ54は、電流センサ53の出力からコイル電流値を測定する。また、センシングパルスの通電時間を測定するタイマー55(TMR:タイマー手段)を設ける。タイマー55は、センシングパルスの所定通電時間の経過を測定する。A/Dコンバータ54とタイマー55は高性能なものは必要なく、低廉なMPU51に内蔵されるもので実用になる。例えば、12ビット、データアクイジョン時間1us、変換時間10us程度のADCは一般的な汎用MPUマイクロプロセッシングユニットに搭載されており本案の目的に対しては充分である。またタイマー55に関しても20MHz程度の低速のMPUクロックでも使用可能である。また、MPU51には、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ56(記憶部)が内蔵されている。
【0025】
ここで、永久磁石界磁位置の検出原理について説明する。
図4にコイルに定電圧矩形波パルスを印可したときの電流波形模式図を示す。
コイルに定電圧パルスを印可した時の電流は次式で上昇する。
I(t)=(L/R)・(1−e
(−
t・
R/L))
但し、Iはコイル電流、Lはコイルインダクタンス、Rはコイル抵抗
ここでパルス時間tを一定とすればピーク電流値I(t)が、あるいはピーク電流値I(t)を一定とすればパルス時間tがインダクタンスLを反映する。
以下、一定時間のパルスを印可した時のピーク電流を測定することで位置を推定する方法を用いるものとして説明する。なお位置検出原理はこの他にも、ピーク電流到達時間を測定する、あるいはコイル蓄積エネルギーを測定する等、様々あり本例に限定するものではない。
【0026】
次に位置検出信号の測定方法の一例について説明する。
測定対象コイル磁極方向と界磁磁極方向が正対する電気角0°方向を第1軸、電気角90°方向を第2軸、電気角180°方向を第3軸とすると、第1軸におけるインダクタンスは最も小さく、そのため電流増加率が大きく位置検出信号(第1測定値)はこの位置で最大値となる。第2軸におけるインダクタンスは最も大きく、そのため電流増加率が低く抑えられ位置検出信号(第2測定値)はこの位置で最小値となる。リラクタンスの2周期性から第1測定値と第3測定値は等しい。しかし大電流により磁気飽和を起すと磁気抵抗が変化し界磁極性を反映して第3測定値は減少する。
【0027】
ここでインダクタンスをリラクタンス成分と磁気抵抗成分にわけて説明する。
まずリラクタンスによるピーク電流変化は2周期性をもち1相に関して以下の式で近似できる。
ΔIa=cos(2θ)、cos(2θ+π)
但しθ=界磁位置。他の2相についてはθを+120°、−120°すれば得られる。
また磁気抵抗によるピーク電流変化は1周期性で1相に関して以下の式で概略近似できる。
ΔIb=ΔIa
但しθが0〜π/2,3π/2〜2πではΔIb=−1とする。他の2相についてはθを+120°、−120°すれば得られる。
【0028】
図5にピーク電流変化ΔIpk(=ΔIa+ΔIb)の近似式波形を示す。横軸は回転子角度θを、縦軸はセンシング通電によるピーク電流値を表す。3コイルにそれぞれ正方向と逆方向に通電することから通電パターンは6個あり6相波形となる。逆方向通電パターン名にはアンダーバーを付す。参考にU相正方向通電パターンの第1測定値(最大値)を■で、第2測定値(最小値)を▲で、第3測定値(逆方向通電)を●で示す。
通電パターンごとの第1測定値(最大値)及び第2測定値(最小値)は0°から始まる電気角30°ピッチで発生しており、この波形に基づいて回転子位置を推定することができる。例えば電気角150°から電気角210°の区間3ではU相が最大値であることから、6個の測定値のなかでU相が最大であれば回転子は区間3に位置していると判定できる。他の区間についても同様に位置を特定できる。
【0029】
図6に上述のピークコイル電流測定法により測定した実測波形を示す。三相スロットレスモータを外力で1°ステップで回転させて、ステップごとに6通電パターンを測定して電気角360°について2160データをプロットしたものである。
各波形はほぼ相似でありそれぞれにリラクタンス変化による2周期成分と磁気抵抗変化による1周期成分とが観測されている。しかし通電パターン間ではオフセットあるいは振幅に大きな誤差が発生しており、近似値波形とは大幅に異なりこの波形では位置検出は不可能のように見える。
【0030】
図7に
図6の実測波形に誤差補正(後述)を施した補正波形を示す。近似値とよく一致しており、位置誤差は非常に少ない。本案によれば従来は位置検出不可能と思われていたケースでも極めて正確な位置検出が可能となる。
【0031】
ここで評価測定について説明しておく。
評価測定とはセルフチューニングの一種で、運用前にモータ自力で回転子を位置決めしながら位置検出を実施して、誤差補正のための測定値及び補正係数を得ることを指す。本案では、運用時において誤差補正を行うために、運用前に位置検出データを取得して補正係数を算出する必要がある。また通常モータシステム運用時に位置検出信号のノイズマージンや確度を知ることは困難である。そこで運用前に位置検出信号の測定値を読み出し、位置検出能力を判定することが望ましく評価測定を行えば可能である。
【0032】
評価測定時に上述のような電気角全域で多点測定を行うことは駆動装置の付加・測定時間などから現実的ではない。そこで駆動回路を用いて固定励磁(強制転流)により30°ステップで位置決めし、6通りの通電パターンごとに第1測定値・第2測定値・第3測定値を各々測定する。この過程で得られる6パターン×3データの合計18データから6データあるいは12データを用いて誤差補正係数(後述)を求めることができる。補正係数は記憶部の不揮発性メモリ56に格納しておき、運用時の位置検出の際に利用する。
【0033】
一方、上位コントローラ50は、こうして得られたデータのいくつかを読み出すことで運用前の時点で位置検出能力の評価に役立てることができる。例えば任意の1通電パターンの第1測定値からセンシング電流の大きさが最適か判定できる。あるいは第1測定値と第2測定値の差分(第1測定値−第2測定値)即ち振幅からインダクタンス等の変化量を判定できる。また第1測定値と第3測定値との差分(第1測定値−第3測定値)から界磁極性の検出が確実に行われているか判定できる。さらに他の通電パターンデータとの数値比較によりコイルごとの磁気回路特性あるいは駆動回路特性のばらつきを判定できる。
以上の評価測定はモータシステム運用前に1回行えばよく、所要時間は概ね20秒ほどであり、自動測定ができるので利用者の負担は少ない。
【0034】
引き続き誤差補正方法を述べる。
誤差要因としては位相誤差・オフセット誤差・振幅誤差が考えられ、本案はそれぞれの要因に対して、上述の評価測定ですでに得られている補正係数を用いて補正する。
【0035】
最初に位相誤差の補正原理について説明する。
位相誤差の補正は電動機出力軸が解放された状態においてセットアップ通電を用いて位置決めする。セットアップ通電とは、1相通電あるいは2相通電あるいは3相通電により所望の位置へ自励位置決めすることである。2相通電及び3相通電は1相通電と異なり保持力を有する。なお自励位置と電気角180°離れていた場合はそこで停止したまま位置決めできないので例えば電気角90°ずれた位置でいったん位置決めする2段階位置決めなどを行ってもよい。
【0036】
図3にコイルごとの誘起電圧波形が示されている。例えば1相通電にてU相のみを正方向に連続通電すると、区間0°〜180°では右へ、区間180°〜360°では左へ回転し、トルクバランス点の180°位相位置に停止する。さらに3相通電(U−VW励磁)にてU相を電源電位に接続しV相とW相をGNDに接続するとやはり180°位相位置に停止する。この位置がU相正方向通電時の第1軸を表す。
【0037】
第2軸も同様にセットアップ通電にて位置決め可能である。例えばU相正方向通電の場合、第2軸位相角は270°となり、V相を電源電位にW相をGNDに接続する2相通電(V−W励磁)を行えば270°に位置決めされる。
第3軸は第1軸の通電方向を反対にすれば得られ第1軸位置のままで逆方向通電すれば測定できる。従って第3軸もセットアップ通電にて位置決めしていることになる。
【0038】
さて仮に評価測定時に外力を用いると機械角で位置決めされ、一方、運用時の回転子角度は電気角をとるため両者には磁気回路のアンバランスなどにより位相誤差が発生する可能性がある。位相誤差を無くすためには電動機の磁気回路特性及び駆動回路出力特性に数式モデル並みの精度を持たせればよいがそれは現実問題として不可能に近い。そこで本案では評価測定時に外力を用いずセットアップ通電による自励位置決めを行うこととした。これにより、磁気回路特性及び駆動回路出力特性を反映した理想的な位置決めが行われ、永久磁石界磁の位置検出時との位相誤差を防止できる。
【0039】
次にオフセット誤差の補正方法を説明する。
図8は、評価測定における通電パターンごとの第1測定値■(最大値)をプロットしたものである。通電パターンは6個あり、測定値6個はパターンごとにばらついている。図には参考に多点測定した波形も記載した。
ここで任意の相の第1測定値を基準として残りの5相の第1測定値が等しくなるように各通電パターンの測定値の比率から補正係数Aを求める。あるいは第2測定値(最小値)が等しくなるように補正係数Aを求めてもよい。
運用時の位置検出に際しては、測定値に補正係数Aを乗じてオフセット誤差を補正した補正値とする。参考までに第1測定値に補正係数Aを乗じた補正値を丸印○で記入した。当然オフセット誤差補正の結果、ピークは一直線上に並ぶ。
【0040】
次に振幅誤差の補正方法を説明する。
図9は、評価測定における通電パターンごとの第1測定値■(最大値)及び第2測定値▲(最小値)をプロットしたものである。通電パターンは6個あり、測定値は12個である。参考に多点測定した波形も記載した。
ここで通電パターンごとに第1測定値と第2測定値との差分(第1測定値−第2測定値)を演算し、検出信号の偏差である振幅を求める。そして任意の相の振幅を基準として残りの5相の振幅が等しくなるようにセンシング通電パターンごとの補正係数Bを求める。そして各通電パターンの第2測定値及び補正係数Bを記憶部の不揮発性メモリ56に記憶しておく。
運用時の位置検出に際しては、通電パターンごとに測定値と第2測定値の差分に補正係数Bを乗算する[(測定値−第2測定値)×補正係数B]演算を行うことにより振幅誤差を補正した補正値とする。この補正値に基づいて永久磁石界磁(回転子)の位置推定を行う。
図7の補正波形はこのようにして求めた波形であり、最大値・最小値とも一直線上になる。この振幅誤差補正方法は補正演算が2段階必要となるが最も誤差の低減効果が高い。
【0041】
なお、位置検出信号の誤差はモータと駆動回路の双方で発生するため、両者の組み合わせが確定した段階で評価測定することが好ましい。またモータあるいは駆動回路を交換したときにも評価測定をして補正係数を更新する必要がある。
一度評価測定すれば後は評価測定する必要はなく、駆動回路の電源オンにて直ちに運用開始するために補正係数A、Bあるいは第2測定値を不揮発性メモリ56に記憶しておくことが好ましい。
【0042】
次に、MPU51による振幅誤差補正を行う動作手順を説明する。
本案が適用される状況には以下に述べる3種ある。まず、1.運用前に永久磁石界磁停止位置の誤差補正係数を得るための評価測定と、2.始動時の初期永久磁石界磁位置検出(初期回転子位置検出)と、3.低速時の永久磁石界磁位置検出である。以下、それぞれの動作手順についてプログラムフローにより説明する。
【0043】
1.運用前の評価測定プログラムフロー
評価測定開始する。セットアップ通電(U相正方向センシング通電)で電気角0°へ位置決めする。U相正方向センシング通電にて第1測定値、U相逆方向通電にて第3測定値を測定する(尚、電気角90°先の位置にてU相逆通電により第2測定値を測定)。
【0044】
MPU51は、以上の動作を30°歩進し通電パターンを切り替えながら繰り返し、全部で6通りの通電パターンについて第1測定値、第2測定値、第3測定値を各々取得する。
【0045】
次に任意の相の通電パターンを基準にすべての通電パターンの第1測定値が等しくなるように誤差補正係数Aを求める。
先ず、通電パターンごとに第1測定値−第2測定値の演算を行って振幅を求める。
【0046】
次いで、任意の通電パターンを基準にすべての通電パターンの振幅が等しくなるように誤差補正係数Bを求める。
そして、通電パターンごとに求めた補正係数A及び補正係数Bと第2測定値を不揮発性メモリ56に書き込む。
最後に、必要に応じて測定値を読み出し性能評価する。
以上で評価測定終了する。
【0047】
2.始動時の初期位置検出プログラムフロー
初期位置検出開始通電パターン1にてセンシングパルスを印可し位置検出信号を測定する測定作業を6回繰り返し、通電パターン1〜6の位置検出信
号の測定を行う。
【0048】
次に、通電パターンごとに(測定値−第2測定値)×補正係数Bにて演算を行って振幅誤差を補正した補正値を求める(オフセット誤差補正時は、測定値×補正係数Aにて補正値とする)。
MPU51は補正値に基づいて初期回転子位置を推定する。以上により、初期回転子位置検出動作を終了する。回転子推定位置に基づいて定電圧直流電源を供給して120°矩形波通電により始動励磁開始する。
【0049】
3.低速回転時の位置検出プログラムフロー
駆動励磁を中断し、回転子位置検出動作を開始する。回転子の現在位置に応じた通電パターンにてセンシング通電し位置検出信
号を測定する。上記測定を位置特定に必要な通電パターンについてだけ行う。
【0050】
次に、測定した通電パターンごとに(測定値−第2測定値)×補正係数Bにて振幅誤差を補正した補正値を求める(オフセット誤差補正時は、測定値×補正係数Aにて補正値とする)。
MPU51は、補正値に基づいて現在回転子位置を推定する。MPU51は、励磁パターン更新し位置検出動作を終了する。回転子推定位置に基づいて定電圧直流電源を供給して120°矩形波通電により駆動励磁を再開する。
【0051】
尚、上記補正係数A,Bを求めるために、測定時に自励位置決めではなく、電動機出力軸に外部駆動装置(ステッピングモータ)を接続して、外部駆動装置により電動機出力軸を所定角度回転させて位置決めするようにしてもよい。
外力を用いて位置決めする場合には、測定時に位相誤差は発生するが、通常は小さく無視できる範囲となる。
【0052】
なお、以上の位置検出原理やモータ駆動回路構成あるいはプログラム構成は様々考えられ、本実施例に限定するものではなく、本案主旨を逸脱しない範囲でモータ設計者や電子回路技術者あるいはプログラマーであれば当然なし得る測定原理や回路構成あるいはプログラム構成も含まれる。
【解決手段】MPU51は、永久磁石界磁の位置検出に際して通電パターンごとにオフセット誤差が生じている場合に測定された第1測定値又は第2測定値に補正係数Aを乗じてオフセット誤差を補正した補正値を求め、該補正値に基づいて永久磁石界磁の位置推定を行う。