(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1つの静電界浸レンズは、(i)平行な表面を有する平坦電極対のセット、(ii)平面状開口スリット電極のセット、(iii)同軸リング電極対のセット、(iv)同軸リング形状開口スリットのセット、によって形成されている、請求項1又は2に記載の多重反射分析部。
前記静電界浸レンズは第1の静電界浸レンズおよび第2の静電界浸レンズを含み、前記第2の静電界浸レンズは前記静電無場空間によって前記第1の静電界浸レンズから分離されていて、前記第1および第2の静電界浸レンズは前記イオンミラーから前記静電無場空間によって分離されている、請求項4に記載の多重反射分析部。
イオンは前記静電界浸レンズと前記イオンミラーを分離している前記静電無場空間を、前記静電界浸レンズ間の前記静電無場空間より高い運動エネルギーで通過する、請求項1から5のいずれかに記載の多重反射分析部。
前記静電界浸レンズは前記周期レンズを重ね合わされて、イオンを前記Y方向および前記Z方向に集束させるレンズのセットを形成している、請求項7に記載の多重反射分析部。
前記少なくとも1つのイオンミラーは、前記イオンミラーの前記引き伸ばしの方向Zに周期性である微弱静電場を提供する機構を有している、請求項1から8のいずれかに記載の多重反射分析部。
【背景技術】
【0002】
[0002]多重反射質量分析計、即ち飛行時間型(MR−TOF MS)又は開放型トラップ又は静電トラップ(E−トラップ)の何れかは、本質的にイオンエネルギー広がり及び空間広がりから独立したイオンパケットの等時性運動を整備するために格子無しイオンミラーを備えている。
【0003】
[0003]多重反射質量分析計のためのイオンミラーの或る重要な部類は、二次元静電場を形成するように1つの横断方向Zに実質的に引き伸ばされているイオンミラーに代表される。この場は平面対称か又は中空円筒対称のどちらかを有している。ここに参考文献として援用される旧ソ連特許第1725289号は、平面対称のイオンミラーを有するMR TOF MSを紹介している。Zエッジを別にすれば、静電場は二次元E(X,Y)であり、即ち、本質的にデカルト座標Zとは独立している。イオンは、ジグザグ軌道に沿って動いており、X軸に対して小さい角度を成して射出され、周期的にミラーからX方向に反射され、Y方向に空間集束され、Z方向にゆっくりとドリフトしてゆく。米国特許第7196324号、イギリス特許第2476964号、イギリス特許第2477007号、国際公開第2011/086430号、及び同時係属出願第223322−313911号は、ここに参考文献として援用されるものであって、同軸リング電極のセット2つによって形成されている中空円筒状ミラーを有する多重反射分析部を開示している。平面状ミラーとは対照的に、円筒状ミラーはZエッジを排除しており、而して、方位角Z方向に完全独立の静電場を形成する。分析部は、機器寸法につきコンパクトなイオン経路折り返しを提供している。但し、ジグザグイオン軌道を配設する場合、イオン経路は円筒表面から逸れてしまうので、イオンミラーが半径方向Y変位に対して等時性の高いものであることが要求される。
【0004】
[0004]両方―平面状と中空円筒状―の幾何学形状の二次元イオンミラーを有する静電多重反射分析部は、飛行時間型分析部としての使用(旧ソ連特許第1725289号、米国特許第7385187号)、開放型トラップとしての使用(イギリス特許第2478300号、国際公開第2011/107836号)、及び静電トラップとしての使用(イギリス特許第2476964号、イギリス特許第2477007号、国際公開第2011/086430号)について開示されている。飛行時間型(TOF)分析部ではオンパケットは高速応答検出器に向かって固定経路に沿って進行し、静電トラップではイオンパケットは無限にトラップされる。それらは画像電流検出器によって検出されながらも反射し続ける。開放型静電トラップはTOFとトラップの間のハイブリッド型と考えてもよかろう。イオンは、反射回数の或るスパン内で緩く定義されている反射回数後に検出器に到達する。
【0005】
[0005]多重反射飛行時間型質量分析計は、ここに参考文献として援用されるイギリス特許第2403063号及び米国特許第7385187号に開示されている様に、Z方向にイオンを閉じ込める周期レンズのセットと組み合わせることもできる。ここに参考文献として援用される米国特許第2011186729号は、平面対称の静電場にZ方向に空間的に周期性の微弱場を重ね合わせてこの方向へのイオン閉じ込めを提供するという準平面型イオンミラーを開示している。その様な周期場は、それ単独で又は周期レンズとの組合せで、イオン集群での空間的Z広がりに因る飛行時間歪の有意低減化を可能にする。ここに参考文献として援用されるイギリス特許第2476964号、イギリス特許第2477007号、国際公開第2011/086430号は、円筒状中空分析部内の接線方向の周期レンズを開示している。
【0006】
[0006]多重反射質量分析計の設計における一般的な傾向は、所与のエネルギー許容度及び位相空間アクセプタンス即ちイオンパケットの初期の空間広がり、角度広がり、及びエネルギー広がりのアクセプタンスでの分光計の質量分解能を増加させるために、ミラー間の周期的イオン運動中のイオンパケット広幅化効果を最小限にするというものである。質量分析部のエネルギー許容度を改善するために、ここに参考文献として援用される米国特許第4731532号は、純粋に減速性の場を有する格子無しイオンミラーであって、運動エネルギーKに関する飛行時間Tの2次集束、即ち、dT/dK=d
2T/dK
2=0、を提供する格子無しイオンミラーを開示している。本発明は主として分析部等時性に関わるものであることから、我々は対エネルギー時間集束(time-per-energy focusing)を「エネルギー集束」と呼称することにする。ここに参考文献として援用されるA.フェレンチコフ他、テクニカルフィジックス、第50巻、第1号、2005年、73−81ページ(A. Verenchikov et al., Technical Physics, v.50, N1, 2005, p.73-81)による論文には、ミラー電極のうちの1つに加速性電位を有する平面状イオンミラーであって、3次エネルギー集束、即ち、dT/dK=d
2T/dK
2=d
3T/dK
3=0、を提供する平面状イオンミラーが記載されている。ここに参考文献として援用される同時係属出願第223322−318705号は、平面状か又は中空円筒状のどちらかの幾何学形状の格子無しイオンミラーであって4次エネルギー集束(d
4T/dK
4=0)及び5次エネルギー集束(d
5T/dK
5=0)を持つ格子無しイオンミラーを開示している。高次エネルギー集束の達成は、100,000より上の質量分解能での質量分析部のエネルギー許容度を>10%へ増加させることを可能にする。
【0007】
[0007]格子無しイオンミラーでは、不均質場構造のせいで、イオン飛行時間は一般的にイオンエネルギーのみならずイオン初期座標及び運動方向にも依存するので、イオンパケットの空間広がりに対しての飛行時間の周期的集束を提供するようにイオンミラーを設計することが重要である。一般的に、イオン反射のためのX方向を有する二次元Z独立場について、分析部通過飛行時間Tは、運動エネルギーK、初期空間座標Y
0、及び角座標b
0(b=dY/dX)に依存する。初期イオンパラメータの小さい偏差があるとき、飛行時間偏差は、テイラー式によって、
【0008】
【数1】
【0009】
と表され、ここに、t=(T−T
0)/T
0は相対飛行時間偏差であり、T
0はゼロ初期座標Y
0=B
0=0及び平均運動エネルギー値K
0を有するイオンに対応する飛行時間であり、δ=(K−K
0)/K
0は相対エネルギー偏差であり、y=Y/Hはイオンミラーのウインドー高さHに対し正規化された座標である。展開(収差)係数(...|...)は正規化された偏差、即ち、(t|δ)=dt/dδ、(t|δδ)=(1/2)d
2t/dδ
2、など、である。N次エネルギー集束とは、Nべき乗までを含め、δの純粋なべき乗で全ての係数はゼロであることを意味する。2次空間集束(即ち、空間広がり及びエネルギー広がりに対する飛行時間集束)とは(t|yy)=(t|yb)=(t|bb)=0であることを意味し、というのは、混合2次項(t|yδ)及び(t|bδ)は平面Y=0に対する系対称性に因り消えるからである。
【0010】
[0008]ここに参考文献として援用されるM.ヤヴォー他、フィジックスプロセディア、第1巻、第1号、2008年、391−400頁(M. Yavor et al., Physics Procedia, v.1, N1, 2008, p391-400)による論文は、3次エネルギー集束と2次空間集束とY方向の幾何学的集束を同時に提供する平面状イオンミラーのための幾何学形状及び電位の詳細を提供している。その様な分析部では、ミラー場でのイオンパケットの広幅化は、空間広がりとエネルギー広がりの両方に起因する所謂「混合」3次収差、即ち、項(t|yyδ)y
02δ、項(t|ybδ)y
0b
0δ、及び項(t|bbδ)b
02δによって支配されており、というのも、残りの3次収差は平面Y=0に対する系対称性に因り消えるからである。これらの項は、FWHMレベルにおいても、またなおいっそう厳格には10%ピーク高さレベルにおいても、多重反射質量分析計の分解能の劣化に関与する。この劣化は、特に、イオンがイオン運動の「理想」円筒表面から半径Y方向に周期的にシフトされる中空円筒状分析部では目立っており、またイオンがここに参考文献として援用される米国特許第2007176090号に記載されている「二重直交」加速器を通って十分に大きいY広がりで射入されるという周期的レンズを有する平面状質量分析部でも同じく目立っている。
【0011】
[0009]ここに参考文献として援用される同時係属出願第223322−318705号に記載されている様に、エネルギー集束の次数は、イオン反射の領域での静電位分布を最適化することによって増加させることができる。改善は、異なった電極電位を有するミラー電極の数を増やすことによって、及びイオン反射の領域に十分に薄い電極を選定することによって、達成される。この設計戦略は、但し、高次エネルギー集束を高次空間集束と同時に実現したいと欲する場合にはうまくいかない。5次エネルギー集束までなら2次空間集束と組み合わせて実現させることができるかもしれない。3次エネルギー集束を3次空間集束と組み合わせて手に入れるには、加速性電位を有するミラー電極の幅を増加させなくてはならないが、その様な幾何学的修正はイオンミラーの空間アクセプタンスを小さくしてしまうという負の因果関係を生じさせる。また一方、我々独自の格子無しイオンミラーの徹底的な数値シミュレーションは、ミラー電極の数を増加させる、それらをより独立した電極電圧を有する複数部分へ割る、それらの幅及び形状を変える、及び他の類似手段、といった様な直進的措置で、イオンミラーの混合(エネルギー−空間)3次収差の排除を4次又はより高次のエネルギー集束と一体にもたらさないものはないことを示している。上述の最適化手続きを使用すれば、高次のエネルギー等時性に到達することはできるが、但し、混合3次収差の増加を犠牲にしてである。換言すると、エネルギーアクセプタンスの増加は空間アクセプタンスの低下を招く。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[0033]ここに参考文献として援用されるイギリス特許第2403063号及び米国特許第7385187号に開示されている様に、先行技術の多重反射飛行時間型分析部は、ドリフトZ方向に引き伸ばされていてドリフト空間によって分離されている向かい合わせの2つのイオンミラーを備えている。イオンパケットはジグザグ軌道に沿って動いており、周期的にミラー間でX方向に反射される。ジグザグ軌道は、イオンをX軸に対して小さい角度を成して射入することによって、及び周期レンズでの空間的イオン閉じ込めによって、配設されている。
【0025】
[0034]
図1を参照すると、米国特許第7385187号の平面状イオンミラー(MPA−1)が、ミラー引き伸ばしのZ方向に直交するXY平面に示されている。静電場は4つの電極(1番−4番)へ電圧を印可することによって形成されている。外側のキャップ電極(1番電極)間距離は2X
0である。表1は、ミラーウインドーのY高さHに対し正規化された電極のX幅L、同様にK
0/Qに対して正規化された電極電位、を提示しており、ここに、Qはイオン電荷であり、K
0は無場空間での平均イオン運動エネルギーである。静電位は、1番電極及び2番電極では減速性、3番電極では近ドリフト電位、そして4番電極では加速性である(表1を見よ)。先行技術分析部は浮動ドリフト空間で動作しているわけだが、シミュレーションを目的に、ドリフト電位はゼロ(
図1ではU=0)に設定されており、ミラー電位はK
0/Qでシフトされている、即ち、実験上使用される正規化電位はシミュレーションに比べ1だけ小さい。
【0026】
[0035]表1:先行技術ミラーMPA−1についての幾何学形状及び電極電位
【0028】
[0036]再度
図1を参照して、MPA−1についての軸方向静電位分布U(X,Y=0)は、X
0=308及びH=30mmを有する特定のイオンミラーについて、ミラー場が、2つの領域、即ち、加速場(陽イオンにつきU<0)の領域と反射場(陽イオンにつきU>0)の領域から成っていることを示している。加速場の領域は、試料イオン軌道から見られる様に、Y方向への幾何学的イオン集束を遂行する。集束の強さは、4番の電極を調節することによって調整され、ミラーに入ってくる平行なイオンビームは分析部の中間平面の(近軸接近の)一点に折り返して入るような具合に集束される。その様な幾何学的集束は、イオン軌道を4回のミラー反射後のイオン軌道へ変換させる。MPA−1ミラーを有する飛行時間分析部のイオン光学的性質及び等時性は、ここに参考文献として援用されるM.ヤヴォー他、フィジックスプロセディア、第1巻、第1号、2008年、391−400頁(M. Yavor et al., Physics Procedia, v.1, N1, 2008, p391-400)による論文に詳細に記載されている。ミラーの適正調整は、同時に、分析部の中間平面での以下の性質、即ち、上述のY方向への幾何学的集束、各イオン反射回後の3次エネルギー集束(t|δ)=(t|δδ)=(t|δδδ)=0、及び2回のイオン反射後の2次空間集束(t|y)=(t|b)=(t|yδ)=(t|bδ)=(t|yy)=(t|yb)=(t|bb)=0、を提供する。
【0029】
[0037]
図2を参照すると、正規化された時間−エネルギー平面でのイオン分布のシミュレーションプロットが、
図1のMPA−1分析部での偶数回のミラー反射後の時間集束平面(分析部の中間平面に位置する)で示されている。初期イオン集群はσ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及び2Y
0=0.133Hの全高均一Y分布を有している。プロットは、分析部収差に因る最大ΔT/T
0〜2.5x10
−5イオン集群広幅化を特徴付けている。個々の「プローブ」イオンに対応する点は、殆どが2つの曲線、即ちエネルギー収差及び3次混合収差から成る(T−T
0)/T
0=(t|δδδδ)δ
4と(T−T
0)/T
0=(t|δδδδ)δ
4+(t|yyδ)y
02δ、の間に囲われている。十分な確度で、収差(t|δδδδ)δ
4と収差(t|yyδ)y
02δは飛行時間ピークの広幅化で優位を占めている。対応する次数及び幾らか高い次数(5次及び6次)のエネルギー収差係数の値が表2に提示されている。
【0030】
[0038]表2:ミラーMPA−1を有する質量分析部の収差係数
【0032】
[0039]収差係数の値を基に、所与のエネルギー広がり値及び所与の座標広がり値について、収差によって引き起こされる時間広がりの大きさを計算することができる。例えば、合計飛行時間がT
0=1msであるとして、σ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及びY
0/H=±0.067の均一座標広がりを有する
図2のイオン集群を考察してみよう。すると、約95%のイオンは、平均エネルギーからの逸れがδ=2σ
K=±0.022未満であり、即ち、4.4%の合計エネルギー広がり内に留まる。4次収差(t|δδδδ)δ
4に因り、正規化された飛行時間の最大偏差は、11.5*0.022
4≒2.6E−6に等しくなり、絶対時間広がりは2.6nsである。同様に5次収差(t|δδδδδ)δ
5は、8.5*2*0.022
5≒9E−8を導き、0.09nsに対応する。奇数次収差については逆符号の偏差が合算されるので、2という追加の因数が現れる。座標広がりは、主として混合収差(t|yyδ)y
02δに因る飛行時間広がり0.0727*0.067
2*2*0.022
≒1.4E−5及び絶対値14nsに寄与する。
【0033】
[0040]
図3を参照すると、もう1つの先行技術のイオンミラー(MPA−2)が示されており、対応する飛行時間型質量分析部は、向かい合わせに設置されていてドリフト空間によって分離されている2つの前記ミラーから成る。ミラーは、ここに参考文献として援用される同時係属出願第223322−318705号に記載されている。当該ミラーは5次エネルギー集束(t|δ)=(t|δδ)=(t|δδδ)=(t|δδδδ)=(t|δδδδδ)=0を提供する。このために、ミラーキャップは1番電極から離隔されていて、別体の0番電極を形成しており、減速性電圧が1番電極、2番電極、及び3番電極へ印可され、無場電位(
図3ではU=0)が4番電極へ印可され、加速性電位が5番電極へ印可されている。ミラー寸法及び5次エネルギー集束モード(MPA−2−5)でのミラー電極の電気的調整は表3に提示されており、キャップからキャップまでの離隔距離は2X
0=908mmであり、ミラーウインドーの高さはH=30mmである。
【0034】
[0041]表3:先行技術ミラーMPA−2についての幾何学形状及び電極電位
【0036】
[0042]隣接の電極同士を電気的に接続することによって、独立に調節される電圧の数を減らすことができ、ミラーMPA−2はエネルギー集束の次数を4次(t|δ)=(t|δδ)=(t|δδδ)=(t|δδδδ)=0(モードMPA−2−4)又は3次(t|δ)=(t|δδ)=(t|δδδ)=0(モードMPA−2−3)へ減少させるように調整できる。電気的調整の対応するモードは表3に示されており、電位分布U(X,Y=0)は
図3に示されている。
【0037】
[0043]
図4を参照して、我々独自のシミュレーションで我々はエネルギー集束を犠牲にすることが混合3次収差の同時低減化を可能にさせることを見いだした。一例として、ミラーMPA−2の幾何学形状及び電位は、3次エネルギー集束モードMPS−2−3では2次空間集束が達成されており、即ち(t|y)=(t|b)=(t|yy)=(t|yb)=(t|bb)=0、且つ混合3次収差が排除される、即ち(t|yyδ)=(t|ybδ)=(t|bbδ)=0、となるように最適化される。これは飛行時間の完全3次集束を意味し、というのもY=0平面に対する系対称性が理由で分析部内の残りの3次収差係数は消えてしまうからである。本事例での優勢な消えない収差は引き続き4次収差(t|δδδδ)δ
4である。
【0038】
[0044]表4:ミラーMPA−2を有する質量分析部の収差係数
【0040】
[0045]
図4を参照すると、飛行時間のイオンエネルギーへの依存性が上述の3通りのモードでプロットされている。これらの依存性は、混合3次収差を無視できるとしたなら、エネルギー集束の次数増加が時間ピーク広幅化の有意低減化をもたらすはずであることを示している。例示としての7%エネルギー広がりについて、3次エネルギー集束から4次エネルギー集束そして次いで5次エネルギー集束へと進めてゆくと時間広がりを相応して3倍乃至30倍落とすことができる。しかしながら、表4に示されている様に、エネルギー集束次数を増加させることは3次混合収差(t|yyδ)の発達を引き起こし、全体としての時間ピーク広幅化の改善を削ぎ、ひいては分析部のエネルギー許容度を制限する。
【0041】
[0046]
図5を参照すると、時間−エネルギー平面内の飛行時間分布のプロットが、3次エネルギー集束モードMPA−2−3へ調整されていて完全3次集束も提供している
図3のミラーMPA−2による偶数回のイオン反射後の時間集束平面で示されている。初期イオン集群は、
図2をプロットするのに使用されているのと同じσ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及び2Y
0=0.133Hの全高均一Y分布を有している。混合3次収差の排除に因り、プロットの点は曲線(T−T
0)/T
0=(t|δδδδ)δ
4を大凡なぞっており、つまりは4次収差(t|δδδδ)δ
4が飛行時間広幅化で優位を占めていることを意味している。表2と表4を比べると、MPA−2−3調整モードのミラーMPA−2は、ミラーMPA−1に比べ2倍大きい収差係数(t|δδδδ)を有しており、そのことは、繰り返しになるが、一般的傾向、即ち、より低い3次混合収差を目指して調整するとエネルギー収差が増加する、ということを反映している。
図2と
図5を比べると、時間広幅化は、形式上ではより高い次数の全体集束にもかかわらず
図5のほうが幾分高めである。
【0042】
[0047]
図6を参照すると、時間−エネルギー平面内の飛行時間分布のプロットが、4次エネルギー集束モードMPA−2−4へ調整されている
図3のミラーMPA−2による偶数回のイオン反射後の時間集束平面で示されている。初期イオン集群は、
図2及び
図5をプロットするのに使用されているのと同じσ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及び2Y
0=0.133Hの全高均一Y分布を有している。プロットは消えない収差(t|yyδ)y
02δの多少の寄与を明白に実証している。
図2と同様、個々のイオンに対応する点は殆どが2つの曲線、即ち(T−T
0)/T
0=(t|δδδδδ)δ
5と(T−T
0)/T
0=(t|δδδδδ)δ
5+(t|yyδ)y
02δに対応する対称性であって傾いている曲線の間に囲われている。プロットから見られる様に、(t|δδδδδ)δ
5収差は(t|yyδ)y
02δ収差(初期のδ広がり及びy広がりを被る)を凌いで優勢である。而して、4次エネルギー集束は、3次エネルギー集束に比べて3倍小さい時間広がりを可能にさせており、
図4のプロットと一貫性がある。
【0043】
[0048]
図7を参照すると、時間−エネルギー平面内の飛行時間分布のプロットが、5次エネルギー集束モードMPA−2−5へ調整されている
図3のミラーMPA−2による偶数回のイオン反射後の時間集束平面で示されている。初期イオン集群は、
図2、
図5、及び
図6をプロットするのに使用されているのと同じσ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及び2Y
0=0.133Hの全高均一Y分布を有している。
図6と同様、
図7では、個々のイオンに対応する点は2つの曲線、即ち(T−T
0)/T
0=(t|δδδδδδ)δ
6と(T−T
0)/T
0=(t|δδδδδδ)δ
6+(t|yyδ)y
02δに対応する対称性であって傾いている曲線の間に囲われている。但し(
図6とは違って)消えない収差(t|yyδ)y
02δの寄与は絶対的優勢を来たしている。MPA−2−4モードとMPA−2−5モードの間の切り換えは時間広がりを
図4によって予測される10倍ではなく1.5倍しか改善していない。
【0044】
[0049]従って、反射場と加速場を有する2つの領域から成る「典型的」先行技術イオンミラーでは、避けられない支配的な3次混合収差が理由で、対エネルギー時間集束(time per energy focusing)の改善は分解能及びエネルギー許容度への限定効果しかない。
【0045】
[0050]
本発明のミラー−レンズ組合せ体
[0051]
図8を参照すると、平面状ミラーと平面状レンズの組合せ体がXY平面に示されML−1と表記されている。イオンミラーと平面状レンズはどちらも、Z方向に直交するXY平面に実質的に二次元の静電場を形成するようにZ方向に実質的に引き伸ばされている。多重反射飛行時間型分析部は、向かい合わせになっていて無場ドリフト空間によって分離されている2つのその様なミラー−レンズ組合せ体を備えている。シミュレーションを目的に、ドリフト電位はゼロU
D=0へ設定されている。ミラー静電場は1番から5番までの電極によって形成されている。減速性電圧が1番電極、2番電極、及び3番電極へ印可され、而して減速性のミラー場を形成している。4番電極はドリフト電位(U
4=U
D=0)にある。最も高い加速性電圧が、幾何学的イオン集束のための5番電極へ印可されている(陽イオンについてはU
5<U
6)。6番電極は、ミラーのための無場シールドの役割を演じている。この電極は、6番電極の無場領域が(陽イオンについての)U
6<U
Dの印可によって形成される予備集束からミラーを分離できるほど十分に長い。6番電極の電位は、ドリフト電位U
D=0より低くなるようにバイアスをかけられ、その結果、6番のシールド電極と電位U=0のドリフトの間に界浸レンズが形成されるようにしている。その様な界浸レンズはイオンがミラーに向かって動くのを加速する。
図8に示されている試料イオン軌道は、ミラーへの道のり途中でイオンが界浸レンズによってまず幾何学的に集束され、次いでイオンミラーの加速場領域に形成されるレンズによって追加的に集束されることを実証している。電極幅及び電気的調整のオプションは表5に提示されている。特定のミラー−レンズ組合せ体ML−1について、キャップからキャップまでの距離は2X
0=836mmであり、ミラーウインドーの高さはH=24mmである。
【0046】
[0052]表5:ミラー−レンズ組合せ体ML−1についての幾何学形状及び電極電位
【0048】
[0053]ミラー−レンズ組合せ体ML−1は、4次エネルギー集束(t|δ)=(t|δδ)=(t|δδδ)=(t|δδδδ)=0が、無視できるほどに小さい3次混合収差と共に実現され、而して本発明の目的が達成されるように設計されている。
【0049】
[0054]
図9を参照すると、時間−エネルギー平面での飛行時間分布のプロットが、
図2、
図5−
図7について使用されているのと同じ相対エネルギー及びY座標の初期広がり(σ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及び2Y
0=0.133Hの全高均一Y分布)を有するイオンの集群について、
図8のミラーML−1からの偶数回のイオン反射後の時間集束平面(分析部の中間平面に位置する)で示されている。3次混合収差はほぼ打ち消されており、5次収差(t|δδδδδ)δ
5が優勢になっている。結果として、飛行時間広幅化の振幅は、
図6の4次エネルギー集束MPA−2−4を有する先行技術の分析部に比べ3倍小さくなる。
【0050】
[0055]
図10を参照すると、時間−エネルギー平面での飛行時間分布のプロットが、
図9をプロットするのに使用されているのと同じエネルギー及びY座標の初期広がりを有するイオンの集群について、ミラーML−1による偶数回のイオン反射後の時間集束平面で示されているが、今回は僅かに異なる電気的調整のものである。この「シフトされた」調整を用いた場合、1次及び3次の収差係数(t|δ)及び(t|δδδ)は完全に排除されるわけではないが、幾分小さい値へ調整されるので、飛行時間広幅化の振幅は所与のエネルギー広がりについて最小限に抑えられる。その様な調整にとっての1つの実施可能なオプションは、依存性t(δ)を5次チェビシフ多項式によって表すというものである。
図9及び
図10のプロットについて、対応する電気的調整は表5に提示され、関連収差係数の値は表6に示されている。
図9と
図10を比較すると、飛行時間広幅化の振幅は「シフトされた」調整では2倍小さい。
【0051】
[0056]表6:ミラー−レンズ組合せ体ML−1の2通りの調整についての関連収差係数
【0053】
[0057]
図11を参照すると、平面状レンズと組み合わされた平面状ミラーの更に別の幾何学形状(ML−2)が示されている。この組合せ体では、ミラー及びレンズからの離隔距離は、幾何学形状ML−1に比べると著しく増加されており(ウインドー高さHによって正規化されている6番電極の幅は、ML−1での4.96に比較してML−2では8.10である)、5次エネルギー集束と同時の3次混合収差の排除を可能にさせた。全ての電極の幅及び電気的調整のモードは表7に与えられている。キャップからキャップまでの距離の絶対値及びミラーウインドー高さの絶対値は、2X
0=1080mm及びH=30mmである。
【0054】
[0058]表7:ミラー−レンズ組合せ体ML−2についての幾何学形状及び電極電位
【0056】
[0059]
図12を参照すると、時間−エネルギー平面での飛行時間分布のプロットが、
図2、
図5−
図7、
図9、及び
図10をプロットするのに使用されているのと同じエネルギー及びY座標の初期広がり(σ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及び2Y
0=0.133Hの全高均一Y分布)を有するイオンの集群について、
図11のミラーML−2による偶数回のイオン反射後の時間集束平面で示されている。はっきりと見られる様に、本発明の目的は達せられており、即ち、正規化された時間広がり振幅はΔT/T
0<10
−6まで小さくなっている。飛行時間広幅化の振幅は、(
図7)のMPA−2−5調整モードの5次エネルギー集束ミラーを有する先行技術分析部での場合よりもほぼ1桁小さくなった。表8に示されている様に、3次空間収差、3次混合収差並びに5次エネルギー収差を排除した後、時間広がりはより高次の収差―6次収差(t|δδδδδδ)δ
6及び4次空間収差―による支配を来たす。
【0057】
[0060]表8:ミラー−レンズ組合せ体ML−2を有する分析器の関連収差
【0059】
[0061]
図13を参照すると、飛行時間収差の飛行時間ピーク形状への影響が異なったイオンミラー設計について比較されている。ピークは、分析部に飛行時間収差が無い場合のFWHMでの質量分解能R
m=T
0/(2ΔT
i)=300000に対応するガウス分布を有する初期時間広がりΔT
i(通常はイオン源でのターンアラウンド時間によって定義される)を仮定してシミュレートされている。イオン集群の初期のエネルギー及び空間の広がりは、
図2、
図5−
図7、
図9、
図10、及び
図12をプロットするのに使用されているのと同じである(σ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及び2Y
0=0.133Hの全高均一Y分布)。横のスケールは全てのプロットで等しい。
図13−Aは、飛行時間収差を何も持たない(即ち、ピーク形状が分析部進入時と同じである)「理想」分析部についてのピーク形状を示している。
図13−Bは、3次エネルギー集束及び2次空間集束を持つMPA−1先行技術質量分析部についてのピーク形状を示している。この事例でのイオンミラー収差は、FWHMピーク幅と長いピークテールの両方に寄与している。
図13−Cは、3次完全集束モードMPA−2−3にあるMPA−2先行技術質量分析部についてのピーク形状を示している。この事例では3次混合収差の排除がFWHMピーク幅を実際に「理想」ピークの幅まで小さくしているが、4次エネルギー収差がピーク右側の非常に長いテールに寄与している。
図13−Dは、5次エネルギー集束モードMPA−2−5にあるMPA−2先行技術質量分析部についてのピーク形状を示している。
図13−Cに比較すると、エネルギー広がりに起因する長いテールは無くなっているが、消えない3次混合収差がなおも小さいピーク高さでの質量分解能を劣化させている。最後に、
図13−Eは、本発明のミラー−レンズ組合せ体ML−2を有する質量分析部でのピーク形状を示している。この分析部では、所与のエネルギー及び空間イオンの広がりについて、飛行時間収差寄与は無視できるほどであり、ピーク形状は実際に「理想」形状である。
【0060】
[0062]而して、新規性のあるミラー−界浸レンズ組合せ体は、先行技術の格子無しイオンミラーの設計を用いては実現され得なかった多重反射飛行時間型分析部でのFWHMレベルと低いピーク高さレベルの両方における超高レベルの質量分解能達成を可能にさせており、本発明の目標到達が実証された。
【0061】
[0063]
代替設計及び付加設計
[0064]
図14を参照すると、本発明のTOF分析部の幾つかの幾何学的な構成1から構成3がブロック略図のレベルで示されている。基本的な対称構成1は、
図8及び
図11のミラー−レンズ組合せ体を採用している。構成1は、各々が反射部分11及び加速レンズ部分12を含んでいる2つのイオンミラーと、2つの界浸レンズ13と、を備えている。シールド14が界浸レンズ13間の空間15にドリフト電位U
Dとは異なる電位U
Sを有する無場空間を作り出していることによって各レンズ13は対応する加速ミラー部分12から分離されている。別の分析部構成2は、1つの界浸レンズ13しか採用しておらず、よって分析部は1つのイオンミラー及び1つのミラー−レンズ組合せ体を備えている。更に別の分析部構成3は1つのレンズ16を採用してこのレンズの両側の電位U
Dが等しくなるようにしている。或る意味で、構成3は、ゼロドリフト空間長さを有する構成1と見なすこともできる。
【0062】
[0065]再度
図14を参照して、ミラー−レンズ組合せ体は、更に、ここに参考文献として援用される本起草者によるイギリス特許第2403063号及び米国特許第5017780号の中で平面状MR−TOF MSについて開示されている平面状レンズのアレイと組み合わせることもできる。構成4では、周期レンズ17がイオンをZ方向に集束させる。レンズ17は、ドリフト電位U
Dを有する空間15内に置かれている。周期レンズは、界浸レンズ及びイオンミラーによるY方向の集束に直角である方向にイオンを集束させることに留意されたし。別の構成5では、平面状レンズ16(イオンをY方向に集束させる)及び周期レンズ17(イオンをZ方向に集束させる)について静電場が重ね合わされている。その様な重ね合わせは、イオンをYとZの両横断方向に集束させる3D場を有する周期レンズを形成することができる。
【0063】
[0066]更に別の実施形態(図示せず)では、一方又は両方のミラーの静電場は、Z方向(ミラー引き伸ばしの方向)に周期性のある微弱場を重ね合わされていてもよい。その様なZ方向へのイオンミラー場の空間変調(時間変調ではない)は、ここに参考文献として援用される本起草者による米国特許第2011186729号に開示されている様に、Z方向のイオン閉じ込めを提供する。別の実施形態では、その様なイオンミラー場の空間的な周期的変調は、周期レンズ又は空間Z変調界浸レンズによる上記集束と組み合わされており、その結果、組み合わされたZ集束が、Z方向のイオンパケット幅に関係付けられる主要な飛行時間収差の相互打消しを可能にさせる。Z方向の空間集束の等時性改善が、現記載のY空間方向の空間及び飛行時間集束との類推に基づいて期待される。
【0064】
[0067]新規性のあるミラー−界浸レンズ組合せ体は分析部収差を実質的に低減する。上述のZ方向の等時的な幾何学的集束は、分析部収差をなおいっそう減少させるものと期待される。そうすると初期ターンアラウンド時間はピーク幅を定義するものと期待される。これは飛行経路の更なる延長を現実的にする。別の実施形態では、ミラー−レンズ組合せ体は、ここに参考文献として援用される本起草者による米国特許第7196324号、イギリス特許第2476964号、イギリス特許第2477007号、国際公開第2011/086430号、及び同時係属出願第223322−313911号に開示されている様に、分析部寸法に対比して効率的な軌道折り返しを提供する中空円筒状質量分析部内に実装されていてもよい。この場合、ミラー−レンズ組合せ体の電極はドリフト方向Zに小さい(ミラーウインドー高さに対比)湾曲を有している。中空円筒状対称を新規性のあるミラー−界浸レンズ組合せ体と組み合わせれば、新規性のあるイオンミラーが半径方向イオン変位に対するはるかに高い許容度を有していることから追加の効果がもたらされ、而して、円筒状飛行時間型分析部及び静電トラップ型分析部での分解能の高値(50万乃至100万範囲)への道が開ける。
【0065】
[0068]更に別の実施形態では、一方又は両方の中空円筒対称のミラーの静電場は、無場空間内の接線方向に周期性のレンズか又は接線方向に周期的に変調される界浸レンズのどちらかとの組合せで接線Z方向に周期的に(空間的にであって時間的にではない)変調されていてもよい。
【0066】
[0069]分解能RをR〜1,000,000を目標に更に改善するためには、小さい(d=2−3mm)孔の気体イオンガイド内のイオン閉じ込め改善によって、及び分析部内に加速場強度の比例増加を伴うより高い加速エネルギーを使用することによって、ターンアラウンド時間を縮めるようにしてもよい。
【0067】
[0070]2X
0=1080mm、ウインドー高さH=30mm、正中表面の直径2R=320mmの
図11のイオンミラーとp=10mmピッチの周期レンズを有する或る特定の中空円筒状MR−TOF型分析部について数値推定を行ってみよう。その様な分析部は100m飛行経路を有する。参考文献として援用される国際公開第2011/86430号及び同時係属出願第223322−313911号に開示されている様に、選ばれたパラメータは半径方向イオン経路逸脱効果を最小限にし判定基準R>2X
0/3及びR>50*2X
0*α
2を満たしており、ここに、α〜p/2X
0は分析部内の軌道傾斜角である。中空円筒状分析部は、前記出願に開示されている様に、イオンを中間円筒表面のイオン反射点まで操舵するための少なくとも1つの半径方向操舵電極を有しているのが望ましい。本発明の3次空間集束との組合せの場合のそれらの注意事項は、円筒状MR−TOF分析部の最小の空間収差を確約するはずであり、我々のシミュレーションで評価したところでは、先の仮定のイオンパケット広がり(σ
K=0.011K
0のガウスエネルギー分布及び2Y
0=0.133Hの全高均一Y分布)について2ΔT/T
0<1E−6より下である。
【0068】
[0071]提案されている円筒状分析部でのターンアラウンド時間によって設定される分解度限界を推定してみよう。好適な加速エネルギー8kVで、最大電圧(5番電極)は約18.5kVであり、即ち電気的破壊を回避するには十分に小さい(<20kV)。そしてm/z=1000amuイオンの典型的な飛行時間はT
0=2.5msと計算される。R〜1,000,000での分析部収差によって設定される相対エネルギー広がりへのΔK/K
0〜7%制限を勘案すると、直交加速器内の場強度をΔX=1.5mm連続イオンビーム寸法でE=400V/mmへ持っていくことができる。小孔四重極イオンガイドを使用すれば、出力ビーム直径を1000amuイオンについて大凡0.3mmへ持っていくことができる。イオンガイドを過ぎてのビーム直径は、熱エネルギーkT=0.026eV、V
RF=1000V、及び50amuでの四重極内低質量切り捨てを許容する100amuでのパラメータq=0.01について、
【0069】
【数2】
と推定することができる。加速器手前での連続イオンビームの適正な望遠鏡的再集束で、且つ静電レンズ(四重極と加速器の間)内の位相空間ΔX*ΔV
xの温存を勘案すると、直交加速器内の1000amuイオンの横断方向速度広がりΔV
xは熱運動速度に対比して約5倍(1.5mm/0.3mm)低減され、(逆方向への速度を勘案すると)24m/sにまで下げることができる。するとA=4E+10m
2/s加速に対応する400V/mmパルス場でのターンアラウンド時間は、ターンアラウンド時間ΔT
i=ΔV
x/A=0.6nsを生じさせることになる。L=100mのMR−TOFでの1000amuイオンについての2.5ms飛行時間を勘案すると、その様なターンアラウンド時間は分解能を約2E+6レベルに制限するものと予想される。換言すると、飛行経路の延長及び円筒状中空分析部内の加速電圧増加が実際にターンアラウンド時間制限を軟化させ、MR−TOF型分析部でのR>1E+6の可能性を開く。
【0070】
[0072]但し、円筒状MR−TOFでの長く延びた飛行時間のせいで、直交加速器の期待デューティサイクルは、ここに参考文献として援用される米国特許第2007176090号に開示されている二重直交抽出の方法を以てしても非常に低く―0.1%から0.2%の間―になる。MR−TOF型分析部の分解能と感度の間の制約的な連関を取り除くため、直交加速器は、望ましくは、ここに参考文献として援用される国際公開第2011/135477号に開示されている頻回符号化パルシングの方法を採用するべきである。代わりに、MR−TOF分析部をMS−MSタンデムの第2段として使用している事例では、直交加速器はパルス式半径方向射出を有する直線状のイオントラップに置き換えられるのが望ましいであろう。置き換えは、小強度の親イオンビームがパルス式トラップ及びMR−TOF型分析部での空間電荷飽和を回避することが理由で実施可能になる。その様なトラップは、Z軸方向に沿って向きを定められ、角度α/2だけ傾けられていて、角度α/2でのイオン操舵のための偏向器が次に続いており、分析部内でのイオン軌道傾斜角はα〜p/2X
0であり、数値例では1/100に等しい。イオン軌道との干渉を回避するため、及びMR−TOFへの気体負荷を軽減するため、トラップには、ここに参考文献として援用される本起草者による米国特許第7326925号に記載されている静電セクタによって形成されている等時性曲線状入口が続いているのが望ましい。
【0071】
[0073]
同軸イオンミラー
[0074]改善されたイオンミラースキームは、ここに参考文献として援用されるイギリス特許第2080021号、米国特許第5017780号、米国特許第6013913A号、米国特許第5880466号、及び米国特許第6744042号に開示されている飛行時間検出器又は画像電流検出器を有する同軸多重反射型分析部に適用できる。円筒状二次元静電場は、平面状2次元場と非常に似通った特質を提供することが知られている。上述のイオン光学研究に基づくと、少なくとも単一の集束レンズが、また望ましくは界浸レンズが、同軸多重反射型分析部の空間及びエネルギーのアクセプタンスを改善するものと期待される、ということが自明になる。その様な飛行時間型又は静電トラップ型の分析部は、(a)無場領域によって分離されている2つの平行で整列している格子無し同軸イオンミラーであって、イオンを同軸方向に反射するように配列されているミラーと、(b)前記ミラーが無場空間電位に比較して加速性の電位を有する少なくとも1つの電極を有していることと、(c)イオンを半径方向に集束させるように配列されていて前記イオンミラーの間に設置されている少なくとも1つの静電レンズと、を備えているべきである。前記少なくとも1つのレンズは界浸であるのが望ましい。ミラー−界浸レンズ配列は対称であるのが望ましい。
【0072】
[0075]本発明を好適な実施形態に関連付けて説明してきたが、当業者には、形態及び詳細事項における様々な修正が、付随の特許請求の範囲の中に述べられている本発明の範囲から逸脱すること無くなされ得ることが自明であろう。