特許第6321135号(P6321135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許63211353’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物、およびその製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321135
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物、およびその製造法
(51)【国際特許分類】
   C07H 21/02 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   C07H21/02CSP
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-507836(P2016-507836)
(86)(22)【出願日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2015057386
(87)【国際公開番号】WO2015137469
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2017年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-52076(P2014-52076)
(32)【優先日】2014年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-236800(P2014-236800)
(32)【優先日】2014年11月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿基
(72)【発明者】
【氏名】石毛 和也
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0164107(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/054279(WO,A1)
【文献】 Chem. Pharm. Bull.,1974年,Vol.22(5),p.1022-1028
【文献】 Joshua J. WOODWARD, et al.,c-di-AMP Secreted by Intracellular Listeria monocytogenes Activates a Host Type I Interferon Respons,Science,2010年,Vol.328,p.1703-1705
【文献】 Taichi KAMEGAYA, et al.,IDENTIFICATION OF A STREPTOCOCCUS PYOGENES SF370 GENE INVOLVED IN PRODUCTION OF C-DI-AMP,Nagoya J. Med. Sci.,2011年,Vol.73,p.49-57
【文献】 Nucleosides Nucleotides & Nucleic Acids,2013年,Vol.32(1),p.1-16,書誌は「p.1-16」ですが、文献入手時、p.15,16が欠落していたので、文献登録する頁範囲は「p.1-14」まで
【文献】 高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.20-25
【文献】 Christin A. FREDERICK, et al.,Molecular Structure of Cyclic Deoxydiadenylic Acid at Atomic Resolutiont,Biochemistry,1988年,Vol.27,p.8350-8361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 21/02
C07H 21/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶の製造法であって、
溶媒として水を用いた3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液に酸を添加し、pH1〜3まで低下させる工程を含
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置により測定したときの前記結晶中の水分が3.5〜17%の範囲である、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶の製造法。
【請求項2】
’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶の製造法であって、
下記(1)〜(3)の工程を含む、
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置により測定したときの前記結晶中の水分が3.5〜17%の範囲である、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶の製造法。
(1)3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液に酸を添加し、pH1〜3まで低下させる工程、
(2)3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液を50〜70℃まで加熱する工程、
(3)3’,5’−サイクリックジアデニル酸を1〜10℃になるまで冷却する工程。
【請求項3】
’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶であって、
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置により測定したときの前記結晶中の水分が3.5〜17%の範囲である、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶
【請求項4】
高速液体クロマトグラフィーにおける純度97%以上である、請求項3記載の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶
【請求項5】
高速液体クロマトグラフィーにおける純度99%以上である、請求項3又は4記載の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶
【請求項6】
粉末X線分析において、回折角(2θ)が、9.2±0.45、15.2±0.75、19.0±0.94、20.6±1.02、26.8±1.33(°)に特徴的なピークを示す、請求項3記載の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の結晶
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジュバントとして有用な物質になりうると考えられる3’,5’-サイクリックジアデニル酸の包接化合物、およびその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3’,5’−サイクリックジアデニル酸は、細菌のセカンドメッセンジャーとして発見された物質である。近年になって本物質は1型インターフェロンを誘発しうることが報告されるなど、医薬品としての利用が期待されている(非特許文献1)。
これまで3’,5’−サイクリックジアデニル酸の製造方法としては、化学合成法(非特許文献2、3)や、Bacillus属やStreptococcus属などに由来するジアデニレートシクラーゼを用いた酵素合成法(特許文献4、5)が知られており、形態としては凍結乾燥品として提供されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Science, 328, 1703-1705(2010)
【非特許文献2】SYNTHESIS, 24, 4230-4236(2006)
【非特許文献3】Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids, 32, 1-16(2013)
【非特許文献4】Molecular Cell, 30, 167-178(2008)
【非特許文献5】Nagoya J. Med. Sci., 73, 49-57(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来3’,5’−サイクリックジアデニル酸は、凍結乾燥品として提供されているが、凍結乾燥品以外の調製品は知られていなかった。しかし、凍結乾燥品は、その製造過程において凍結乾燥機が必要となり、大量生産のためにスケールアップを行うにも自ずと限界があった。
したがって、本発明の課題は、特殊な装置や工程を用いずに、凍結乾燥品とは異なる全く新たな3’,5’−サイクリックジアデニル酸の調製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、凍結乾燥品とは異なる3’,5’−サイクリックジアデニル酸の調製品について検討を行った。結果、3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液に酸を添加し、pH1〜3まで低下させるという、きわめて簡易な方法によって、凍結乾燥品とはまったく異なる物性を有する3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物を製造可能であることを新たに見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、従来の凍結乾燥品とはまったく異なる、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物を提供するものである。本発明の包接化合物は、結晶性の物質であり、取り扱いが容易である(たとえば、吸湿性が無く、かつ安定性、溶解性も優れているなど)。また、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸包接化合物の製造法は、調製するための特殊な装置や工程を必要としないものであり、3’,5’−サイクリックジアデニル酸を大量に生産するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(非結晶性)の写真を示す。
図2図2は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸ナトリウム塩の凍結乾燥品の写真を示す。
図3図3は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸アンモニウム塩の凍結乾燥品の写真を示す。
図4図4は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(非結晶性)の熱重量測定/示差熱分析結果を示す。
図5図5は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸ナトリウム塩の凍結乾燥品の熱重量測定/示差熱分析結果を示す。
図6図6は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸アンモニウム塩の凍結乾燥品の熱重量測定/示差熱分析結果を示す。
図7図7は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物の核磁気共鳴スペクトル(H)を示す。
図8図8は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物の核磁気共鳴スペクトル(13C)を示す。
図9図9は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物の核磁気共鳴スペクトル(31P)を示す。
図10図10は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物の赤外線吸収スペクトルを示す。
図11図11は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸ナトリウム塩の凍結乾燥品の赤外線吸収スペクトルを示す。
図12図12は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸アンモニウム塩の凍結乾燥品の赤外線吸収スペクトルを示す。
図13図13は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(結晶性)の写真を示す。
図14図14は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(結晶性)の熱重量測定/示差熱分析結果を示す。
図15図15は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(結晶性)のX線回折スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、下記の構造式で示される3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物を提供するものである。
【0009】
【化1】
【0010】
本発明でいう包接化合物とは、化合物と溶媒とが弱い相互作用により複合体を形成するなど、固形化において溶媒が補助的な役割を果たしている状態の固形物を指し、包接の形態と固形の構造については制限されない。とくに本発明では、溶媒として水を利用していることから、付記しない限り、本発明における包接化合物は水との包接化合物を指す。なお、本発明の包接化合物は、結晶性物質と非結晶性物質とを含む。
【0011】
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液に酸を添加し、pH1〜3まで低下させることによって得ることができる。
【0012】
本発明の包接化合物の取得に用いる3’,5’−サイクリックジアデニル酸は、酵素合成法や化学合成法など公知の方法によって合成すればよく、酵素合成法によって合成したものが好ましい。酵素合成を行う際には、既知の方法に従えばよく、たとえば非特許文献4、5に記載の方法を用いることができる。反応後、反応液中に生成した3’,5’−サイクリックジアデニル酸は、活性炭やイオン交換樹脂などを用いた通常のクロマトグラフィー処理法により単離精製することができる。
【0013】
本発明の包接化合物を取得するには、3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液に酸を添加し、pH1〜3、好ましくはpH1.5〜2.0まで低下させればよい。使用する酸としては、上記pHに調整できるものであれば良く、具体的には塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸を例示することができる。なお、酸を急激に添加することによるアモルファス化や急激な析出を防ぐため、添加はゆっくり行うことが好ましい。
【0014】
また、包接化合物の取得率が低い場合には、上記包接化合物のろ液に対して、同様の処理を数回繰り返すことによって再度包接化合物を取得しても良い。
【0015】
また、本発明の包接化合物を取得するには、(1)3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液に酸を添加し、pH1〜3まで低下させる工程、(2)当該3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液を50〜70℃まで加熱する工程、(3)当該3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液を1〜10℃になるまで冷却する工程、を含む方法によって行っても良い。さらに、(1)(2)の工程、(2)(3)の工程は、同時に行うこともできる。また、(1)希釈した3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液に酸を添加し、pH1〜3まで低下させる工程、(2)pHを調整した当該3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液を50〜70℃まで加熱する工程、(3)当該3’,5’−サイクリックジアデニル酸水溶液を1〜10℃になるまで冷却する工程、から成る方法によって行っても良い。より確実に包接化合物を取得するため、(3)の冷却はゆっくりと行うことが好ましい。具体的には、温度勾配−3〜−11℃/hrで冷却することが好ましい。
【0016】
上記製法によって得られた3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、ろ取した後、室温(25℃)〜70℃で1〜10時間乾燥させることで、製品とすることができる。本発明の包接化合物は、乾燥時の温度を室温(25℃)〜40℃の低温下で乾燥させることによって結晶性物質となり、40〜70℃の高温条件下で乾燥させると非結晶性物質として得ることができる。具体的には、本発明の包接化合物は、乾燥時の温度を室温(25℃)以上〜40℃未満の低温下で乾燥させることによって結晶性物質となり、40以上〜70℃以下の高温条件下で乾燥させると非結晶性物質として得ることができる。また、得られた包接化合物は、ろ取した後、乾燥させる前に適宜エタノールなどで洗浄してもよい。乾燥させる際には、減圧乾燥等の方法を適宜利用してもよい。
【0017】
この様な方法で得られた本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、高速液体クロマトグラフィー法にて純度検定したとき、97%以上、より好ましくは99%以上の純度を有し、以下の物性を有するものである。なお、下記の物性のうち、とくに限定していない記載は、結晶性物質、非結晶性物質の双方に共通する性質である。
【0018】
(1)水分含量
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、乾燥度合いによって異なるものの、熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置により測定したときの水分は、3.5〜17%の範囲である。すなわち本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物には、3’,5’−サイクリックジアデニル酸1分子に対し1〜7分子の、より詳細には1.1〜6.1分子の水分子が結合または付着している。
【0019】
(2)熱分析
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したとき、包接化合物が結晶性物質であるときには193℃付近、非結晶性物質であるときには220℃付近に吸熱ピークを有する。
【0020】
(3)形状
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、針状の形状を示す。
【0021】
(4)赤外線吸収スペクトル
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(非結晶性)は、赤外線吸収スペクトルを測定したとき、3087、1686、1604、1504、1473、1415、1328、1213(cm−1)付近に特徴的なピークを有する。
【0022】
なお、赤外線吸収スペクトル測定では、一般に2(cm−1)未満の誤差範囲を含む場合があることから、上記数値と赤外線吸収スペクトルにおけるピークの位置が完全に一致する包接化合物のほか、ピークが2cm−1未満の誤差で一致する包接化合物も、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物に包含される。例えば、赤外線吸収スペクトルを測定したとき、3087±1.9、1686±1.9、1604±1.9、1504±1.9、1473±1.9、1415±1.9、1328±1.9、1213±1.9(cm−1)に特徴的なピークを有する。
【0023】
(5)粉末X線解析
とくに本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物が結晶性物質であるとき、本発明の包接化合物は粉末X線分析において特徴的なピークを有する。たとえば本発明の包接化合物をCu−Kα線を用いた粉末X線回折装置で分析すると、後述実施例に示すように、回折角(2θ)が、9.2、10.2、10.9、11.1、13.7、15.2、19.0、20.6、22.4、23.1、24.3、26.6、26.8(°)付近、中でもとくに回折角(2θ)が9.2、15.2、19.0、20.6、26.8(°)付近に特徴的なピークを示す。
【0024】
なお一般に、粉末X線回折における回折角(2θ)は、5%未満の誤差範囲を含む場合があることから、粉末X線回折におけるピークの回折角が完全に一致する包接化合物のほか、ピークの回折角が5%未満の誤差で一致する包接化合物も、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物に包含される。例えば、粉末X線回折において、回折角(2θ)は、9.2±0.45、10.2±0.50、10.9±0.54、11.1±0.55、13.7±0.68、15.2±0.75、19.0±0.94、20.6±1.02、22.4±1.11、23.1±1.15、24.3±1.21、26.6±1.32、26.8±1.33(°)に、とくに回折角(2θ)が9.2±0.45、15.2±0.75、19.0±0.94、20.6±1.02、26.8±1.33(°)に特徴的なピークを有する。
包接化合物が非結晶性物質であるときには、粉末X線回折において明瞭なピークは生じない。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないのは明らかである。
(実施例1)3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(非結晶性)の製造
公知の方法に従って3’,5’−サイクリックジアデニル酸を合成し、精製を行った。
精製して得られたOD257が709の3’,5’−サイクリックジアデニル酸溶液(141mL)を、OD257が20となるよう水で希釈した。撹拌しながら1Nの塩酸溶液をゆっくり加え、pH1.8となるよう調整した。結果、水溶液中に白色固体が析出した。
【0026】
包接化合物をさらに効率よく取得するため、プログラムインキュベーターを用いて当該溶液を60℃に加温した。その後、温度勾配 −4℃/hrで、液温が4℃になるまで冷却した。析出物をグラスフィルター(17G3)にて濾取し、白色固体を得た。当該白色固体を60℃で6時間乾燥させ、包接化合物(非結晶性)2.169gを得た。
【0027】
(参考例)3’,5’−サイクリックジアデニル酸の凍結乾燥品の製造
酵素合成した3’,5’−サイクリックジアデニル酸1gを20mLの水に懸濁した後、1N NaOH溶液でpH7.0に,または5%アンモニア水で7.4に調整することによって、懸濁した3’,5’−サイクリックジアデニル酸を溶解した。
溶解した3’,5’−サイクリックジアデニル酸溶液を水でさらに35mLまで希釈した後、凍結乾燥機にて凍結乾燥を行うことにより、3’,5’−サイクリックジアデニル酸のナトリウム塩またはアンモニウム塩の凍結乾燥品を得た。
【0028】
(実施例2)3’,5’−サイクリックジアデニル酸包接化合物(非結晶性)の物性
上記実施例1で調製した3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物に対する機器分析の結果を示す。
(機器分析)
(A)純度検定
上記実施例1で得られた3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物の純度を、高速液体クロマトグラフィー法で分析した。結果、3’,5’−サイクリックジアデニル酸純度は99.8%であった。なお、高速液体クロマトグラフィー法は以下の条件で行った。
(条件)
カラム:Hydrosphere C18(YMC社製)
溶出液:0.1M TEA-P(pH6.0)
検出法:UV260nmによる検出
【0029】
(B)形状
3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物の代表的な写真を図1に示す。図1に示すように、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は針状の形状を示すことが明らかとなった。
また、3’,5’−サイクリックジアデニル酸ナトリウム塩、および3’,5’−サイクリックジアデニル酸アンモニウム塩の凍結乾燥品は、写真を図2、3に示すように、包接化合物とは全く異なる形状であった。
【0030】
(C)水分
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したところ、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物中の水分は、再乾燥前の包接化合物で8.7〜9.5%、100℃の減圧乾燥による再乾燥後の包接化合物で3.5〜3.6%、再乾燥した包接化合物を室温、湿度40〜50%で一晩放置した包接化合物で10.3%、再乾燥した包接化合物を温度30℃、湿度70%で一晩放置した包接化合物で15.0%、20℃で2時間真空乾燥させた包接化合物で17.0%であった。
すなわち計算により、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、乾燥の度合いに応じて、3’,5’−サイクリックジアデニル酸1分子に対しそれぞれ1.1〜6.1分子の水分子が結合又は付着していることが明らかとなった。
【0031】
なお、3’,5’−サイクリックジアデニル酸ナトリウム塩の凍結乾燥品、3’,5’−サイクリックジアデニル酸アンモニウム塩の凍結乾燥品についても同様に熱重量測定を行ったところ、再乾燥前の測定値で、ナトリウム塩の凍結乾燥品は16〜17%、アンモニウム塩の凍結乾燥品は13〜15%の水分を含有していた。
【0032】
(D)示差走査熱量分析
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したところ、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、220℃付近において特徴的吸熱ピークを示した(図4)。
これに対し、3’,5’−サイクリックジアデニル酸ナトリウム塩の凍結乾燥品は267℃付近を示し(図5)、アンモニウム塩の凍結乾燥品は228〜229℃付近に吸熱ピークを示した(図6)。
【0033】
(E)核磁気共鳴スペクトル
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物に6NのNaOH溶液を2μL添加して溶解させ、重水を用いて濃度6mg/0.6mlとなるよう希釈し、核磁気共鳴スペクトル測定(H、13C、31P)を行った。測定結果をそれぞれ図7〜9に示す。
【0034】
結果、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物はHのときは8.37、7.96、6.08、4.98−5.02、4.86、4.51−4.55、4.17(ppm)付近にピークを有していた。また、13Cのときは、157.9、155.4、150.0、141.6、121.3、93.1、82.8、76.7、73.3、65.2(ppm)付近にピークを有していた。31Pのときは、−0.91(ppm)付近にピークを有していた。
【0035】
(F)赤外線吸収スペクトル
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物、3’,5’−サイクリックジアデニル酸ナトリウム塩の凍結乾燥品、3’,5’−サイクリックジアデニル酸アンモニウム塩の凍結乾燥品について、フーリエ変換赤外分光光度計Spectrum One(Perkin Elmer)を用いてATR(Attenuated Total Reflectance、減衰全反射)法によって赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0036】
それぞれの包接化合物で観察された特徴的なピーク(cm−1)の値を表1に示す。また、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物、3’,5’−サイクリックジアデニル酸ナトリウム塩の凍結乾燥品、3’,5’−サイクリックジアデニル酸アンモニウム塩の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ図10〜12に示す。
【0037】
結果、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、3087、1686、1604、1504、1473、1415、1328、1213(cm−1)付近に特徴的なピークを有していた。
【0038】
【表1】
【0039】
(G)粉末X線回折
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸包接化合物について、下記の測定条件でX線回折スペクトルを測定した。
【0040】
(測定条件)
ターゲット:Cu
X線管電流:40mA
X線管電圧:45kV
走査範囲:2θ=4.0〜40.0°
前処理:めのう製乳鉢を用いて粉砕
【0041】
測定の結果、X線回折スペクトルのパターンに明瞭なピークは観察されず、本包接化合物は非結晶性であることが示された。
【0042】
(実施例3)
[1]3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物の製造(1)
公知の方法により、酵素的に3’,5’−サイクリックジアデニル酸を合成し、精製を行った。精製して得られたOD257が473の3’,5’−サイクリックジアデニル酸溶液(280mL)を、OD257が40となるよう水で希釈した。撹拌しながら2Nの塩酸溶液を加えpH1.8となるよう調整した。結果、水溶液中に白色固体が析出した。
【0043】
包接化合物をより効率的に取得するため、プログラムインキュベーターを用いて当該溶液を50℃に加温した。その後、温度勾配 −3℃/hrで、液温が4℃になるまで冷却し、固体を析出せしめた。析出物をグラスフィルター(17G3)にて濾取し、白色固体を得た。当該白色固体を室温にて真空乾燥させ、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物を得た。
【0044】
[2]3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物の製造(2)
公知の方法により、酵素的に3’,5’−サイクリックジアデニル酸を合成し、精製を行った。精製して得られたOD257が758の3’,5’−サイクリックジアデニル酸溶液(400mL)を、OD257が100となるよう水で希釈した。包接化合物をより効率的に取得するため、プログラムインキュベーターを用いて当該溶液を50℃に加温し、撹拌しながら2Nの塩酸溶液を加えpH1.8となるよう調整した。
【0045】
その後、温度勾配 −4℃/hrで、液温が4℃になるまで冷却し、固体を析出せしめた。析出物をグラスフィルター(17G3)にて濾取し、白色固体を得た。当該白色固体を室温にて真空乾燥させ、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物を8.5g得た。
【0046】
(実施例4)3’,5’−サイクリックジアデニル酸包接化合物(結晶性)の物性
(H)形状
上記実施例3で調製した3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(結晶性)の写真を図13に示す。図13に示すように、3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(結晶性)は針状の形状を示した。
(I)示差走査熱量分析
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したところ、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物は、193℃付近において特徴的吸熱ピークを示した(図14)。
(J)水分
熱重量測定/示差熱分析(TG/DTA)装置(昇温速度5℃/分)で分析したところ、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物中の水分を温度20℃の条件で2時間真空乾燥させたときの水分含量は17.0%であった。
【0047】
(K)粉末X線回折
本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸包接化合物について、(G)と同一の測定条件でX線回折スペクトルを測定した。
【0048】
結果、図15および表2に示すように、本発明の3’,5’−サイクリックジアデニル酸包接化合物は、回折角(2θ)が、9.2、10.2、10.9、11.1、13.7、15.2、19.0、20.6、22.4、23.1、24.3、26.6、26.8(°)付近に特徴的なピークを示した。
【0049】
また、X線回折スペクトルのパターンから、本実施例において取得した3’,5’−サイクリックジアデニル酸包接化合物は結晶性物質であることが判明した。
【0050】
【表2】
【0051】
(L)純度検定
3’,5’−サイクリックジアデニル酸の包接化合物(結晶性)の純度を、高速液体クロマトグラフィー法で分析した。結果、3’,5’−サイクリックジアデニル酸純度は99.7%であった。なお、高速液体クロマトグラフィー法の条件は、実施例1と同じとした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15