特許第6321158号(P6321158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321158
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】流体デバイスの新規な使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20180423BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   C12Q1/04
   C12M1/34 C
【請求項の数】15
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-525331(P2016-525331)
(86)(22)【出願日】2014年7月10日
(65)【公表番号】特表2016-523105(P2016-523105A)
(43)【公表日】2016年8月8日
(86)【国際出願番号】SE2014050883
(87)【国際公開番号】WO2015005863
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2016年1月28日
(31)【優先権主張番号】1350861-9
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】516008028
【氏名又は名称】グラディエンテク エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クリューガー,ジョハン
(72)【発明者】
【氏名】スロースランド,サラ
(72)【発明者】
【氏名】ウ,ジガン
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0217771(US,A1)
【文献】 特表2011−516079(JP,A)
【文献】 特開2011−193758(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/050981(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/044116(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/018499(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0035292(US,A1)
【文献】 Chemical Sensors,2012年,Vol.28, Suppl.A,pp.46-48
【文献】 Analyst,2013年 2月,Vol.138,pp.1000-1003
【文献】 The Japanese Journal of Antibiotics,2003年,Vol.56, No.6,pp.674-680
【文献】 家畜共済における抗菌性物質の使用指針,農林水産省,2009年,pp.49-58,<http://www.maff.go.jp/j/keiei/hoken/saigai_hosyo/s_yoko/>
【文献】 Lab Chip,2014年 9月,Vol.14,pp.3409-3418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 − 3/00
C12M 1/00 − 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験物質と微生物(6)との反応を測定する方法であって、前記方法は、
流体デバイス(1)の培養室(10)に配置される三次元(3D)培養マトリックス(2)中で前記微生物(6)の培養を提供するステップ(S1)であって、
前記流体デバイス(1)が、前記培養室(10)の第1の端部(12)と隣接する第1の流体チャネル(20)と、及び前記培養室(10)の第2の異なる端部(14)と隣接する第2の流体チャネル(30)と、を有する、
ステップ(S1)と、
第1の濃度で前記試験物質を含有する第1の流体の流れに、前記第1の流体チャネル(20)の入力(22)を接続するステップ(S2)と、
前記試験物質を欠くか、或いは前記第1の濃度よりも低濃度の第2の濃度で前記試験物質を含有する第2の流体の流れに、前記第2の流体チャネル(30)の入力(32)を接続して、前記3D培養マトリックス(2)の少なくとも一部に渡って前記試験物質の濃度勾配を形成するステップ(S3)と、及び
前記3D培養マトリックスにおける任意の境界領域(5)のうち、前記第1の端部(12)及び/又は前記第2の異なる端部(14)に関連する位置に基づき、且つ、前記境界領域(5)の幅に基づき、前記試験物質と前記微生物(6)との反応を測定するステップ(S4)であって、
前記境界領域(5)が、前記微生物(6)が前記試験物質と第1の反応を示す第1の反応領域(3)と、前記微生物(6)が前記試験物質と第2の異なる反応を示す第2の反応領域(4)と、の間に存在する、ステップ(S4)と、
を備える、方法。
【請求項2】
前記反応を測定するステップ(S4)は、
前記3D培養マトリックス(2)における前記任意の境界領域(5)のうち、前記第1の端部(12)及び/又は前記第2の異なる端部(14)に関連する前記位置に基づき、前記境界領域(5)の前記幅に基づき且つ前記境界領域(5)の形状に基づき、前記物質に対する前記微生物(6)の前記応答を測定すること、を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(S2)が、
前記第1の濃度の前記試験物質を含有する第1の流体を含む第1の流体貯蔵部(26)に対し、前記第1の流体チャネル(20)の前記入力(22)を接続するステップ(S10)と、及び
前記第1の流体貯蔵部(26)から前記第1の流体チャネル(20)の前記入力(22)へ前記第1の流体をポンピングし、前記第1の流体チャネル(20)の出力(24)を通して出力するステップ(S11)と、を含み、並びに
前記ステップ(S3)が、
前記試験物質を欠くか、或いは前記第2の濃度で前記試験物質を含有する第2の流体を含む、第2の流体貯蔵部(36)に対し、前記第2の流体チャネル(30)の前記入力(32)を接続するステップ(S12)と、及び
前記第2の流体貯蔵部(36)から前記第2の流体チャネル(30)の前記入力(32)へ前記第2の流体をポンピングし、前記第2の流体チャネル(30)の出力(34)を通して出力するステップ(S13)と、を含む、
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、
前記3D培養マトリックス(2)の少なくとも1つの画像を撮像するステップ(S21)と、及び
前記少なくとも1つの画像において前記境界領域(5)を識別するステップ(S22)であって、
前記ステップ(S4)が、前記少なくとも1つの画像において識別された前記境界領域(5)のうち、前記第1の端部(12)及び/又は前記第2の異なる端部(14)に関連する前記位置に基づき、且つ前記境界領域(5)の前記幅に基づき、前記試験物質に対する前記微生物(6)の前記反応を測定することを含む、ステップ(S22)と、
を更に備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(S21)が、明視野顕微鏡または位相差顕微鏡(68)を使用して、前記3D培養マトリックス(2)の前記少なくとも1つの画像を撮像することを含み、且つ
前記ステップ(S22)が、前記少なくとも1つの画像において検出された光強度に基づき、前記境界領域(5)を識別するように構成されたコンピュータ(62)によって前記少なくとも1つの画像を処理すること、を含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、
前記微生物(6)に結合するように、または前記微生物(6)によって吸収されるように構成された少なくとも1つの蛍光性のラベルを前記3D培養マトリックス(2)に加えるステップ(S20)を更に含み、
前記ステップ(S21)が、蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡(68)を使用して、前記3D培養マトリックス(2)の前記少なくとも1つの画像を撮像すること、を含み、且つ、
前記ステップ(S22)が、前記少なくとも1つの画像において検出された蛍光に基づいて、前記境界領域(5)を識別するように構成されたコンピュータ(62)によって前記少なくとも1つの画像を処理すること、を含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(S21)が、前記3D培養マトリックス(2)の少なくとも一部の上の前記試験物質の定常状態の濃度勾配の少なくとも形成後に、前記微生物(6)の前記培養物を有する前記3D培養マトリックス(2)の前記少なくとも1つ画像を撮像すること、を含む、
請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、前記第1の流体の流れから前記3D培養マトリックス(2)を通過する前記第1の流体または第2の流体の流れを実質的に含んでいない前記3D培養マトリックス(2)の中への前記試験物質の拡散によって、前記3D培養マトリックス(2)の前記少なくとも一部の上に前記濃度勾配を設定するステップ(S30)を更に含む、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(S2)が、前記第1の濃度の第1の試験物質を含み、且つ、第2の試験物質を含まないかまたは第3の濃度の前記第2の試験物質を含む前記第1の流体の流れに、前記第1の流体チャネル(20)の前記入力(22)を接続すること、を含み、
前記ステップ(S3)が、前記第1の試験物質の第1の濃度勾配及び前記第2の試験物質の第2の濃度勾配を前記3D培養マトリックス(2)の前記少なくとも一部の上に形成するために、前記第1の試験物質を含まないかまたは前記第2の濃度の前記第1の試験物質を含み、且つ、前記第3の濃度より高い第4の濃度の前記第2の試験物質を含む前記第2の流体の流れに、前記第2の流体チャネル(30)の前記入力(32)を接続すること、を含み、且つ
前記ステップ(S4)が、前記微生物(6)が前記第1の試験物質及び前記第2の試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域(3)と、前記微生物(6)が前記第1の試験物質及び前記第2の試験物質に対して第2の異なる反応を示すそれぞれの第2の反応領域(4)との間の前記3D培養マトリックス(2)における任意の境界領域(5)のうち、前記第1の端部(12)及び/または前記第2の異なる端部(14)に関連するそれぞれの位置に基づき、且つ、前記境界領域(5)の前記幅に基づき、前記第1の試験物質及び前記第2の試験物質に対する前記微生物(6)の反応を測定すること、を含む、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(S2)が、前記第1の濃度の第1の試験物質を含み、且つ、第3の濃度の第2の試験物質を含む前記第1の流体の流れに、前記第1の流体チャネル(20)の前記入力(22)を接続すること、を含み、
前記ステップ(S3)が、前記3D培養マトリックス(2)の前記少なくとも一部の上に前記第1の試験物質の第1の濃度勾配及び前記第2の試験物質の第2の濃度勾配を形成するために、前記第1の試験物質を含まないかまたは前記第2の濃度の前記第1の試験物質を含み、且つ、前記第2の試験物質を含まないかまたは前記第3の濃度よりも低い第4の濃度の前記第2の試験物質を含む前記第2の流体の流れに、前記第2の流体チャネル(30)の前記入力(32)を接続すること、を含み、且つ
前記ステップ(S4)が、前記微生物(6)が前記混合物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域(3)と、前記微生物(6)が前記混合物質に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域(4)との間の前記3D培養マトリックス(2)における任意の境界領域(5)のうち、前記第1の端部(12)及び/または前記第2の異なる端部(14)に関連する位置に基づき、且つ前記境界領域(5)の前記幅に基づき、前記第1の試験物質及び前記第2の試験物質の混合物質に対する前記微生物(6)の反応を測定すること、を含む、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法において、
前記培養室(10)は、前記培養室(10)の第3の端部(16)に隣接する第3の流体チャネル(40)及び前記培養室(10)の第4の異なる端部(18)に隣接する第4の流体チャネル(50)を備え、前記試験物質は第1の試験物質であり、
前記方法は、
第3の濃度の第2の試験物質を含む第3の流体の流れに、前記第3の流体チャネル(40)の入力を接続することと、
前記3D培養マトリックス(2)の少なくとも一部の上に前記第2の試験物質の濃度勾配を形成するために、前記第2の試験物質を含まないかまたは前記第3の濃度より低い第4の濃度の前記第2の試験物質を含む第4の流体の流れに、前記第4の流体チャネル(50)の入力を接続することと、及び
前記微生物(6)が前記第2の試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域(3)と、前記微生物(6)が前記第2の試験物質に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域(4)との間の前記3D培養マトリックス(2)における任意の境界領域(5)のうち、第3の端部及び/または第4の異なる端部に関連する位置に基づき、且つ前記境界領域(5)の前記幅に基づき、前記第2の試験物質に対する前記微生物(6)の反応を測定することと、
を更に含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(4)が、微生物(6)を成長させる成長領域(4)と前記微生物(6)の成長を欠いている非成長領域(3)との間の前記3D培養マトリックス(2)における任意の境界領域(5)のうち、前記第1の端部(12)及び/または前記第2の異なる端部(14)に関連する位置に基づき、前記試験物質に対する前記微生物(6)の感受性を測定すること、を含み、 前記方法が、
前記境界領域(5)の幅に基づき、前記試験物質に対する前記微生物(6)の耐性を測定するステップ(S40)を更に含む、
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、
前記3D培養マトリックスの少なくとも1つの画像を撮像するステップ(S21)と、
前記少なくとも1つの画像において検出された光強度に基づいて、前記境界領域(5)を識別するように構成されたコンピュータ(62)によって前記少なくとも1つの画像を処理することにより、前記少なくとも1つの画像における前記境界領域(5)を識別するステップ(S22)と、
前記3D培養マトリックス(2)において、前記第1の端部(12)と前記第2の異なる端部(14)との間の位置に対する前記検出光強度の関係を測定するステップ(S50)と、及び
前記関係に基づいて、前記微生物(6)に対する前記試験物質の最小抑制濃度、MICを測定するステップ(S51)と、
を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
試験物質に対する微生物(6)の反応を測定するシステム(60)であって、前記システム(60)は、
三次元の3D培養マトリックス(2)において前記微生物(6)の培養物を収容するように構成された培養室(10)、
前記培養室(10)の第1の端部(12)に隣接する第1の流体チャネル(20)、及び、
前記培養室(10)の第2の異なる端部(14)に隣接する第2の流体チャネル(30)、
を備えた流体デバイス(1)と、
第1の濃度の前記試験物質を含む第1の流体を有するとともに、前記第1の流体チャネル(20)の入力(22)に接続されるように構成された第1の流体貯蔵部(26)と、
前記3D培養マトリックス(2)の少なくとも一部の上に前記試験物質の濃度勾配を形成するために、前記試験物質を含まないかまたは前記第1の濃度より低い第2の濃度の前記試験物質を含む第2の流体を有するとともに、前記第2の流体チャネル(30)の入力(32)に接続されるように構成された第2の流体貯蔵部(36)と、及び、
i)前記3D培養マトリックス(2)の少なくとも1つの画像を撮像するように構成され、ii)前記微生物(6)が前記試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域(3)と、前記微生物(6)が前記試験物質に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域(4)との間の前記3D培養マトリックス(2)における任意の境界領域(5)のうち、前記第1の端部(12)及び/または前記第2の異なる端部(14)に関連する位置を識別するために前記少なくとも1つの画像を処理するように構成され、且つ、iii)前記任意の境界領域(5)の前記位置に基づき、且つ前記境界領域(5)の前記幅に基づき、前記試験物質に対する前記微生物(6)の反応を測定するように構成されたコンピュータ・ベースのシステム(62、66)と、
を備える、システム。
【請求項15】
試験物質に対する微生物(6)の反応を測定する流体デバイス(1)の使用であって、前記流体デバイス(1)は、
三次元の3D培養マトリックス(2)において前記微生物(6)の培養物を収容するように構成された培養室(10)と、
前記培養室(10)の第1の端部(12)に隣接するとともに、第1の濃度の前記試験物質を含む第1の流体の流れを運ぶように構成された第1の流体チャネル(20)と、及び、
前記3D培養マトリックス(2)の少なくとも一部の上に前記試験物質の濃度勾配を形成するために、前記培養室(10)の第2の異なる端部(14)に隣接するとともに、前記試験物質を含まないかまたは前記第1の濃度より低い第2の濃度の前記試験物質を含む第2の流体の流れを運ぶように構成された第2の流体チャネル(30)と、
を備え、
前記使用は、前記微生物(6)が前記試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域(3)と、前記微生物(6)が前記試験物質に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域(4)との間の前記3D培養マトリックス(2)における任意の境界領域(5)のうち、前記第1の端部(12)及び/または前記第2の異なる端部(14)に関連する位置に基づき、且つ前記境界領域(5)の前記幅に基づき前記試験物質に対する前記微生物(6)の前記反応を測定すること、
を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、一般的には流体デバイスに関し、特に、試験物質に対する微生物の反応を測定する際に、そのような流体デバイスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質に対する耐性菌は、抗生物質によってこれらの細菌が死滅されまたは分裂を停止することができないので、地球規模の問題が増大していることを表している。細菌の世代交代時間は多くの場合非常に速くなることがあり(約20分)、細菌の短い世代交代時間及び相対的な遺伝的不安定性のために、細菌は迅速に抗生物質への耐性を得る。抗生物質に対する耐性菌の感染の罹患率は人間母集団の中で増加しており、これらの細菌のうちのいくつかは多重耐性にさえなってきており、ときには、それらの成長を停止させることができる効率的な抗生物質がないことを意味している。
【0003】
細菌、菌類、寄生虫及びウィルスを含むがこれらに限定されない微生物の識別及び研究のための従来のアプローチ、及び、その微生物の成長を殺すかまたは抑制する抗生物質に対するそれらの耐性のための従来のアプローチは、主に細菌の例において、ルリア培養液(LB)寒天プレートに制限されていた。その後、これらのLB寒天プレートは確定濃度の殺菌性及び静菌性の抗生物質を含むように作成された。抗生物質感受性試験(AST)及び微生物に対する抗生物質あるいは他の試験物質の効果を評価するためのそのような二次元の(2D)培養方法には、様々な制限がある。例えば、特定の細菌株が所定の抗生物質に対して耐性を有するかどうかを示すことを読み取れる明確な結果を見込むために、微生物、例えば細菌は夜間を通じて培養されることが、通常これらの準備に要求される。さらに、一般的には、LB寒天プレートごとには単一の抗生物質の濃度だけしか試験することができない。
【0004】
別の先行技術のASTアプローチはいわゆるE試験を使用する。E試験は、基本的には寒天拡散法であり、抗生物質としてその効果について評価される試験物質の異なる濃度がしみ込んだ長方形のストリップを使用する。典型的なアプローチでは、E試験ストリップが寒天プレートの上に置かれた後、細菌は寒天プレートの上で2D培養の中で拡散され且つ成長される。E試験ストリップは、拡散によって試験物質を放出し、放出された試験物質の成長抑制効果は24時間の定温培養の後に多くの場合検査される。このアプローチの制限は、非常に長い定温培養時間に加えて、試験物質の抑制濃度の読み出しが、別個のディジタルステップ及びE試験ストリップにおいて使用される選択された濃度の中ででしか可能でないことである。
【0005】
さらに従来のASTアプローチは、異なるウェルの中で試験物質の異なる濃度を有するマイクロタイタプレート分析を使用する。追加細菌を備えたマイクロタイタプレートは、通常、夜間を通じて培養され、細菌に対する抑制効果は異なるウェルの中で光学的な濁り度を測定することにより評価される。このアプローチは、基本的にはE試験ストリップを使用した場合と同様の欠点を有する。
【0006】
AST時間を短縮するために、迅速なAST(RAST)のためのミクロ流体チャネルシステムが開発されている。そのようなRASTアプローチは、細菌が抗生物質を含んでいる小滴の中で取得される小滴ベースのミクロ流体チャネルシステムを有する[非特許文献1〜3]。小滴ベース・システムの制限は、単一の抗生物質の濃度だけしか試験できないことである。他のRASTアプローチには、ガス浸透性のポリジメチルシロキサン(PDMS)微小チャネルを使用すること[非特許文献4]、ミクロ流体の電極構造における細菌の誘電泳動で取得すること[非特許文献5〜6]、抗生物質を有するPDMS層をプレロードすること[非特許文献7]、ミクロ流体チャネルに細菌を共有結合すること及びそれらを機械的な剪断応力にかけること[非特許文献8]、または、非同期磁気ビード回転(AMBR)バイオセンサを使用すること[非特許文献9]、またはミクロ流体のアガロースチャネルシステムにおける単細胞成長を追跡すること[非特許文献10]が含まれる。これらの様々なRASTアプローチの主な制限は、それらが単一抗生物質の濃度あるいは1組の少数の選択された抗生物質の濃度だけしか試験できないことである。
【0007】
さらに、細菌のバイオフィルムの抗生物質の感受性の分析のためにミクロ流体のシステムを使用することが提案された[非特許文献11]。しかしながら、それらミクロ流体のシステムは、24時間の定温培養及び試験される細菌が緑色蛍光タンパク質(GFP)を表現できるプラスミドを含んでいることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 2010/056186
【特許文献2】WO 2012/033439
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Boedicker et al., Lab on a Chip, 2008, 8:1265−1272
【非特許文献2】Churski et al., Lab on a Chip, 2012, 12:1629−1637
【非特許文献3】Eun et al., ACS Chemical Biology, 2010, 6:260−266
【非特許文献4】Chen et al., Analytical Chemistry, 2010, 82:1012−1019
【非特許文献5】Peitz and van Leeuwen, Lab on a Chip, 2010, 10:2944−2951
【非特許文献6】Chung et al., Biomicroluidics, 2011 , 5:021102
【非特許文献7】Cira et al., Lab on a Chip, 2012, 12:1052−1059
【非特許文献8】Kalashnikow et al., Lab on a Chip, 2012, 12:4523−4532
【非特許文献9】Kinnunen et al., Small, 2012, 8:2477−2482
【非特許文献10】Choi et al., Lab on a Chip, 2013, 13:280−287
【非特許文献11】Kim et al., Lab on a Chip, 2010, 10:3296−3299
【非特許文献12】Haessler et al., Biomed Microdevices, 2009, 11 :827−835
【非特許文献13】Kim et al., Lab on a Chip, 2012, 12:2255−2264
【非特許文献14】Nguyen et al., PNAS, 2013, 110:6712−6717
【非特許文献15】Frisk et al., Electrophoresis, 2007, 28:4705−4712
【非特許文献16】Humphrejy et al., J Gen Mircrobiol, 1952, 7:29−143
【非特許文献17】Hou et al., Lab on a Chip, 2014, Accepted manuscript, DOI:10.1039/C4LC00451E
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、先行技術の欠点を解消する微生物の反応試験のための迅速な方法及びシステムがなおも必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
試験物質に対する微生物の反応の効率的で迅速な測定を可能にすることが一般的な目的である。
【0012】
この目的及び他の目的は、この明細書に定義されるような実施形態によって達成される。
【0013】
実施形態のある態様は、試験物質に対する微生物の反応を測定する方法に関する。その方法は、培養室の第1の端部に隣接する第1の流体チャネル及び培養室の第2の異なる端部に隣接する第2の流体チャネルを有する流体デバイスの培養室に配置された三次元(3D)培養マトリックスにおける微生物の培養を実現することを含む。その方法はまた、第1の濃度の試験物質を含む第1の流体の流れに第1の流体チャネルの入力を接続することを含む。その方法はさらに、試験物質を含まないかまたは3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に試験物質の濃度勾配を形成するために第1の濃度よりも低い第2の濃度の試験物質を含む第2の流体の流れに第2の流体チャネルの入力を接続することを含む。その方法はさらにまた、第1の端部及び/または第2の異なる端部に関連する3D培養マトリックスにおける任意の境界領域の位置に基づいて、試験物質に対する微生物の反応を測定することを含む。境界領域は、微生物が試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域と、微生物が試験物質に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域の間に存在する。
【0014】
実施形態の他の態様は、試験物質に対する微生物の反応を測定するシステムに関する。そのシステムは、3D培養マトリックスにおける微生物の培養物を収容するように構成された培養室を有する流体デバイスを備えている。流体デバイスはまた、培養室の第1の端部に隣接する第1の流体チャネル及び培養室の第2の異なる端部に隣接する第2の流体チャネルを備えている。システムはさらに、第1の濃度の試験物質を含む第1の流体を有する第1の流体貯蔵部を備えている。第1の流体貯蔵部は、第1の流体チャネルの入力に接続されるように構成されている。システムはさらに、試験物質を含まないかまたは第1の濃度より低い第2の濃度の試験物質を含む第2の流体を有する第2の流体貯蔵部を備えている。第2の流体貯蔵部は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に試験物質の濃度勾配を形成するために第2の流体チャネルの入力に接続されるように構成されている。システムはさらに、3D培養マトリックスの少なくとも1つの画像を撮像するように構成され、且つ3D培養マトリックスにおける任意の境界領域のうち、第1の端部及び/または第2の異なる端部に関連する位置を識別するために少なくとも1つの画像を処理するように構成されたコンピュータ・ベースのシステムを備えている。境界領域は、微生物が試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域と微生物が試験物質に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域との間に存在する。コンピュータ・ベースのシステムはまた、境界領域の位置に基づいて試験物質に対する微生物の反応を測定するように構成されている。
【0015】
実施形態のさらなる態様は、試験物質に対する微生物の反応を測定するための流体デバイスの使用に関する。流体デバイスは、3D培養マトリックスにおける微生物の培養物を収容するように構成された培養室を備えている。流体デバイスはまた、培養室の第1の端部に隣接し、且つ、第1の濃度の試験物質を含む第1の流体の流れを運ぶように構成された第1の流体チャネルを備えている。流体デバイスはさらに、培養室の第2の異なる端部に隣接し、且つ、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に試験物質の濃度勾配を形成するために、試験物質を含まないかまたは第1の濃度より低い第2の濃度の試験物質を含む第2の流体の流れを運ぶように構成された第2の流体チャネルを備えている。使用は、第1の端部及び/または第2の異なる端部に関連する3D培養マトリックスにおける任意の境界領域の位置に基づく試験物質に対する微生物の反応を測定することを含む。境界領域は、微生物が試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域と微生物が試験物質に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域との間に存在する。
【0016】
実施形態の態様は、様々な試験物質に対する微生物の反応に関して非常に迅速で効率的な測定を可能にする。濃度の連続的な範囲に対する微生物の反応は、実施形態によって試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
さらなる目的及び利点を有する実施形態は、下記の添付図面とともに以下の説明を参照することによって非常によく理解される。
【0018】
図1】実施形態による試験物質に対する微生物の反応の測定方法を説明するフロー図である。
図2図1のステップに接続する実施形態を示すフロー図である。
図3】実施形態による図1の方法の追加のオプションのステップを示すフロー図である。
図4】実施形態による図1の方法の追加のオプションのステップを示すフロー図である。
図5】実施形態による図1の方法の追加のオプションのステップを示すフロー図である。
図6】実施形態による図3の方法の追加のオプションのステップを示すフロー図である。
図7図6のMICステップの測定の実施形態を示すフロー図である。
図8】実施形態によるミクロ流体デバイス及び微生物を有する3D培養マトリックスの概要を示す概略図である。
図9】実施形態による培養室及びミクロ流体デバイスの流体チャネルの概略図である。
図10】他の実施形態による培養室及びミクロ流体デバイスの流体チャネルの概略図である。
図11】さらなる実施形態による培養室及びミクロ流体デバイスの流体チャネルの概略図である。
図12】また別の実施形態による培養室及びミクロ流体デバイスの流体チャネルの概略図である。
図13】さらなる実施形態による培養室及びミクロ流体デバイスの流体チャネルの概略図である。
図14】さらに別の実施形態による培養室及びミクロ流体デバイスの流体チャネルの概略図である。
図15】また別の実施形態による培養室及びミクロ流体デバイスの流体チャネルの概略図である。
図16】3D培養マトリックスにおける濃度勾配の形成を示す時系列とともに実施形態による試験物質に対する微生物の反応を測定するシステムを概略的に示す図である。
図17A】E、大腸菌K12 MG1655(ブラックボックスは強度測定用の選択されたエリアを示す)を含む3D培養マトリックスによるアンピシリン(左から右の20−0μg/ml)の線形勾配の形成後の3D培養マトリックスを撮像した画像を示す図である。
図17B】アンピシリン用のE、大腸菌K12 MG1655の最小抑制濃度を示す5μg/mlにおいて強度増加を有する図17Aの選択されたエリアの強度プロフィールを示す図である。
図17C図17Aの3D培養マトリックスよるアンピシリン(20−0μg/ml)の線形勾配を概略的に示す図である。
図18A】E、大腸菌K12 MG1655(ブラックボックスは強度測定用の選択されたエリアを示す)を含む3Dマトリックスによるスペクチノマイシン(左から右の50−0のμg/ml)の線形勾配の形成後の3D培養マトリックスを撮像した画像を示す図である。
図18B図18Aにおける選択されたエリアの強度プロフィールを示す図である。
図18C】、図18Aの3D培養マトリックスによるスペクチノマイシン(50−0μg/ml)の線形勾配を概略的に示す図である。
図19】スペクチノマイシンの様々な濃度に晒されたE、大腸菌K12 MG1655における経時的な成長曲線を示す図である。
図20】安定して継続する勾配の抗菌剤を有するミクロ流体デバイスの中で細胞を培養した結果を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面の全体を通じて、同じ参照番号は同様のまたは対応する要素について使用される。
【0020】
本実施形態は、一般的には流体デバイスに関し、特には試験物質に対する微生物の反応を測定する際のそのような流体デバイスの使用に関する。ミクロ流体デバイスのような流体デバイスは、様々な試験物質に対する微生物の反応を監視するためにまたは測定するために特に最適に設計することができる。適切な微生物の培養物を有する三次元の(3D)培養マトリックスを含む培養室を備えたそのような流体デバイスは、より詳細には、試験物質または実際に多数の試験物質の任意の組合せに対する微生物の反応を迅速に測定するための効率的なツールを提供する。
【0021】
そのような流体デバイスは、それらを非常に効率的なツールにする重要な機能を有する。第1に、適切な試験物質の定常状態の勾配は、迅速且つ正確に3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に形成することができる。このことは、試験物質の濃度の連続的な範囲が、3D培養マトリックスの端部若しくは側部のうちの1つにおける高濃度から下がって3D培養マトリックスの別の端部若しくは側部における低い濃度若しくはゼロ濃度で形成されることを意味する。したがって、試験物質の濃度の連続的な範囲は、単一の流体デバイスで試験することができる。このことは、1つまたはせいぜい少数の事前定義の濃度は試験できるが、任意の連続的な濃度の範囲は試験できない従来技術とは明確に異なっている。したがって、例えば、抗生物質の最小抑制濃度のより正確な測定を行うことができる。
【0022】
第2に、微生物は3D培養マトリックスにおいて培養される。したがって、微生物は、三次元の中で成長することができる。このことは、その結果として、生存して成長する微生物が存在する3D培養マトリックスのエリアと死滅したまたは低成長の細胞を有するエリアとの間ではるかにより有意な違いを提供する。したがって、実施形態は強化された信号対雑音比を実現する。したがって、微生物が小さい成長しかできず、このため、より低い検出信号しか生成されない二次元(2D)表面上のバイオフィルムで微生物を育てることと比較して、3D培養マトリックスの中の異なるエリアまたは領域で微生物を育てることとの間を区別することははるかに容易である。
【0023】
試験物質の勾配は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に迅速に形成することができる。三次元において微生物成長の可能性を伴うこのことは、非常に短い時間、通常は、1時間またはせいぜい数時間の間に試験物質に対する微生物の反応を読み取ることを可能にする。このことは、典型的には夜通しの培養を必要とする種々の従来技術と比較されるべきである。
【0024】
流体デバイスは、小規模なデバイスとして、すなわち、ミクロ流体デバイスまたはナノ流体デバイスさえ有利に実現される。したがって、成功裡に試験を実行するためには、少量の試験物質及び微生物が必要なだけである。
【0025】
試験物質に対する微生物の反応の測定若しくは監視は、通常の顕微鏡検査を使用して行うことができ、または実に人間の目によってさえ行うことができる。したがって、一般に、複雑ではなく専用に設計された検出機器は、試験物質に対する微生物の反応を測定するためには必要でない。
【0026】
実施形態は、様々な試験物質に対する微生物の反応の監視及び測定において流体デバイスを使用する。流体デバイスは、この明細書において流体培養デバイスとしても称され、試験物質を培養室に、したがってさらに培養室に存在する3D培養マトリックスの中に輸送するために、流体の流れが流体デバイスのチャネルに存在することを示唆する。
【0027】
流体デバイスは、有利には、いわゆるミクロ流体デバイスまたはミクロ流体培養デバイスである。ミクロ流体は、ミクロ流体デバイスの流体チャネルが微小化されたチャネルであることを示唆する。一般に、サブミクロン範囲の寸法を有するそのような流体チャネルについては、表出ナノ流体工学がしばしば使用される。したがって、実施形態の流体デバイスは、そのようなナノ流体デバイスまたはナノ流体培養デバイスである。
【0028】
流体培養デバイスの流体チャネルは、それぞれの流体の流れを運ぶように構成されている。流体の流れは、むしろ流体チャネルにおける液体の液体流れである。しかしながら、流体チャネルにおいてガスの流れまたは実に流動化された固体若しくは粒子の流れを有する可能性もある。油溶性ガスをその中に有する液体の流れも、実施形態において使用することができる。
【0029】
一般的な実施形態では、図8に示すように、流体デバイス1が3D培養マトリックス2における微生物6の培養物を収容するように構成された培養室10を備えている。流体デバイス1はまた、培養室10の第1の端部または側部12に隣接する第1の流体チャネル20及び培養室10の第2の異なる端部または側部14に隣接する第2の流体チャネル30を備えている。そのため、第1の流体チャネル20は、第1の濃度の試験物質を含む第1の流体の流れを運ぶように構成されている。第2の流体チャネル30は、同様に、3D培養マトリックス2の少なくとも一部の上に試験物質の濃度勾配を形成するために、試験物質を含まないかまたは第1の濃度より低い第2の濃度の試験物質を含む第2の流体の流れを運ぶように構成されている。
【0030】
3D培養マトリックス2の少なくとも一部の上に試験物質の濃度勾配を形成するために、2つの流体の流れは異なる濃度で試験物質を含むことになる。この明細書においては、第1の流体の流れは、最も高い濃度の試験物質を含む流体の流れとして定義される。このことは、第2の流体の流れが、試験物質を含まないかまたは第1の流体の流れと比べて異なるすなわち低い濃度の試験物質を含むことを意味する。
【0031】
2つの流体の流れは、試験される1つまたは複数以上の試験物質を除いては同じ成分または要素を有することが好ましい。したがって、流体の流れが液体流れである場合には、第1及び第2の流体の流れは、選択された第1の濃度または選択された第1及び第2の濃度の試験物質が添加される同じ液体または液体混合を含むことが望ましい。同様に、2つの流体の流れがガスの流れである場合には、第1及び第2の流体の流れは、選択された濃度の試験物質が添加される同じガスまたはガス混合を含むことが望ましい。
【0032】
実施形態は、一般的には、3D培養マトリックスを収容するように構成され、且つそれぞれの流体チャネルを備えた異なる端部に隣接する培養室を備えた任意の流体デバイスを使用することができる。本発明の技術分野において利用できるそのような流体チャネルがいくつか存在する。例えば、実施形態において優れて作動するミクロ流体デバイスがGradientech AB(ウプサラ、スウェーデン)によってCELLDIRECTOR(登録商標) Rubyとして販売されている。実施形態によって使用することができる流体デバイスも、例えば以下の文献[非特許文献12〜17、19及び特許文献1、2]に開示され、ミクロ流体デバイスに関するそれらの教示は参照によってこの明細書に組込まれている。
【0033】
図20は、ミクロ流体デバイスの培養室にゲルと細胞の混合物を注入することを概略的に示す。細胞は、形成された3D培養マトリックスにおいて最初に均等に分散される。例示的な実施例において、安定して連続的な勾配は、抗菌剤を含む第1の流体の流れ及び抗菌剤を含まない第2の流体の流れの提供により形成された。これにより勾配は、培養室及び3D培養マトリックスの上に形成される。下の図は、3D培養マトリックス中の細胞を培養し、且つ抗菌剤の勾配にそれらを晒した結果を示す。
【0034】
図1は、実施形態による試験物質に対する微生物の反応を測定する方法のフロー図である。その方法は、ステップS1において、流体デバイスの培養室の中に配置された3D培養マトリックスにおける微生物の培養を実現することを含む。この流体デバイスは、培養室の第1の端部または側部に隣接する第1の流体チャネル及び培養室の第2の異なる端部または側部に隣接する第2の流体チャネルを備えている。次のステップS2は、第1の濃度の試験物質を含む第1の流体の流れに第1の流体チャネルの入力を接続することを含む。ステップS3は、同様に、試験物質を含まないかまたは第1の濃度より低い第2の濃度の試験物質を含む第2の流体の流れに第2の流体チャネルの入力を接続することを含む。したがって、その結果、試験物質の濃度勾配は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に形成される。次のステップS4は、第1の端部若しくは側部に関係する及び/または第2の異なる端部若しくは側部に関係する3D培養マトリックスにおける任意の境界領域の位置に基づいて、試験物質に対する微生物の反応を測定する。この境界領域は、微生物が試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域と微生物が試験物質に対して第2の異なる反応を示す第2反応領域との間に存在する。
【0035】
2つのステップS2及びS3は、任意の順序で連続的に実行することができ、すなわちステップS2はステップS3の前または後に実行することができる。あるいは、2つのステップのS2及びS3は、少なくとも部分的には並列して実行することができる。
【0036】
試験物質に対する3D培養マトリックスにおける微生物の反応は、少なくとも3つのはっきりと目に見える領域が一般に存在することを示唆する。これらの領域は、微生物が試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域を含む。この第1の反応領域は、第1の端部または側部及び第1の流体チャネルに最も近い領域である。したがって、第1の反応領域は、試験物質のより高い濃度に晒された3D培養マトリックスの一部に対応する。領域はまた、微生物が試験物質に対して第2の反応を示し、且つこの第2の反応が第1の反応とは異なる第2の反応領域を含む。第2の反応領域は、第2の端部または側部及び第2の流体チャネルに最も近い領域である。したがって、第2の反応領域は、試験物質のより低い濃度に晒された3D培養マトリックスの一部に対応する。
【0037】
境界領域は、その結果、第1の反応領域と第2の反応領域との間に存在する3D培養マトリックスの一部を構成する。この境界領域5は、図17Aに示すように、第1の反応領域3と第2の反応領域4との間の基本的には多分に非常に薄い境目または境界である。あるいは、境界領域5は、図18Aに示すように、第1及び第2の端部または側部の間の3D培養マトリックスにおいてより広い範囲を有する。
【0038】
境界領域は、その結果、試験物質の部分的な濃度が第1の反応領域における第1の反応から第2の反応領域における第2の反応までの試験物質に応じてシフトまたは変化を達成する3D培養マトリックスの一部を構成する。
【0039】
例えば、試験物質が抗生物質または別の殺菌剤若しくは静菌剤である場合には、第2の反応領域は、実質的には生存または成長する細菌を有する3D培養マトリックスの一部の可能性があり、その中で、この明細書では細菌によって代表される微生物が試験物質の比較的低い濃度に晒される。その一方、第1の反応領域は、生存または成長する細菌が存在しない3D培養マトリックスの一部であることが望ましく、したがって、第1の反応領域は、(細胞の死滅または細胞の成長がないことにより)細菌の相対的な欠如によって特徴づけられる。その結果、境界領域は、成長/生存の一部と無成長/細胞死滅の一部との間の境界または部分を構成する。
【0040】
図17Aは、はっきりと成長している細菌を有する第2の反応領域4(図では白信号として見える)を示す。3D培養マトリックスのこの一部において、試験物質、この明細書ではアンピシリンの濃度は低すぎて、E、大腸菌K12 MG1655細菌中の細胞成長を防ぐことまたは細胞死を引き起こすことができない。しかしながら、第1の反応領域3においては、アンピシリンの濃度は十分に高く、細胞成長を防ぐかまたは細胞死を引き起こす。したがって、E、大腸菌K12 MG1655は、3D培養マトリックスのこの一部では実質的に見られない。示された実験においては、境界領域5は、基本的には、特にこのE、大腸菌株用のアンピシリンの最小抑制濃度(MIC)を定義する明確な境目または境界である。
【0041】
図18Aにおいては、生存し且つ成長するE、大腸菌K12 MG1655を有する第2の反応領域4と試験物質としてのスペクチノマイシンの濃度が細菌を殺すかまたは少なくとも任意の細菌の成長を防ぐのに十分に高かった第1の反応領域3との間のより広い境界領域5では状況が多少異なる。この実験では、境界領域5においていくらか生存し且つ成長する細菌によって示されるように、E、大腸菌K12 MG1655のいくらかは抗生物質スペクチノマイシンに対して耐性が見られる。しかしながら、この境界領域5における細菌の量は十分に小さく、図18Aに明瞭に示されるように、第2の反応領域4における細菌の量とは異なる。
【0042】
微生物の運動性反応が試験される設定に対応して、第2の反応領域は、(試験物質が微生物の中に運動性を引き起こしたかさもなければ運動性を持たない微生物の場合に)微生物の運動性が小さいか若しくは無い3D培養マトリックスの一部か、または、(微生物が運動性を持ち且つ試験物質がこの運動性を抑制する場合に)微生物の運動性が大きい3D培養マトリックスの一部であり得る。そして、第1の反応領域は、微生物の中に運動性を引き起こすかまたは微生物の運動性を抑制する試験物質の十分に高い濃度を有する3D培養マトリックスの一部であり得る。境界領域はまた、第1及び第2の反応領域の間の3D培養マトリックスの一部であり、且つ、境界領域の一方の側の上の非運動性/低い運動性の部分から境界領域の他方の側の上の運動性/高い運動性の部分まで運動性の切り替えまたは変化によって特徴づけられている。境界領域は、したがって、図17Aに類似する明瞭な境目若しくは境界か、または微生物のある中間的な運動性を持つより広い部分であり得る。
【0043】
運動性及び細胞死滅は、実施形態によって監視され且つ測定することができる微生物の反応の実施例に過ぎない。他の実施例は、限定はされないが、細胞の成長、増殖、引き起こされたストレスの様々な形態に対する反応行動、マトリックス付着、変異性などを含んでいる。
【0044】
反応が測定されるべき微生物は、流体デバイスの3D培養マトリックスの中で育てられ培養することができる任意の微生物であり得る。そのような微生物の限定されない実施例は、細菌、菌類、寄生虫、ウィルス、及びさらにヒト細胞あるいは他の哺乳類の細胞のような細胞を含んでいる。微生物の単一の種または菌株は試験することができ、そのため、3D培養マトリックスの中で培養することができる。あるいは、組み合わされた多数の反応、すなわち、少なくとも2つの微生物が測定されることがあり得る。そのようなアプローチにおいては、多数の異なる微生物は3D培養マトリックスにおいて共培養される。
【0045】
3D培養マトリックスは、適切な微生物用の培養マトリックスのように適切な任意の材料で作ることができる。そのような材料は、細胞培養用に従来から使用されている材料の中から選択することができる。好ましいが限定されない材料の例には、天草、アガロース、コラーゲンI、MATRIGEL(登録商標)のような細胞外マトリックス(ECM)ゲル、N終端上のフルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)保護グループで固相合成法によって形成されたフェニルアラニン(Phe)ジペプチドの混合物のようなヒドロゲル、及びFmocに保護されたリシン(Lys)または単独でフェニルアラニンが含まれる。
【0046】
特定の実施形態においては、微生物は1つの菌株であり、試験物質は抗生物質であり、抗生物質のMICは流体デバイスによって測定される。
【0047】
試験物質に対する3D培養マトリックスにおける微生物の反応は、培養室の第1及び/または第2の端部若しくは側部に関連する境界領域の位置に基づいて、図1のステップS4において測定される。培養室の端部若しくは側部に関連する境界領域のこの位置は、濃度または少なくとも試験物質の濃度範囲に相関する。したがって、境界領域の位置または境界領域と第1の端部若しくは側部との間の距離、及び/または、境界領域と第2の異なる端部若しくは側部との間の距離は、試験物質の濃度または濃度の範囲に対応する。このように、微生物の反応が変化するかまたは第1の反応領域における第1の反応から第2の反応領域における第2の反応まで切り替わる濃度若しくは濃度範囲を正確に測定することが可能である。
このことはさらに、境界領域の位置が、それによって、例えば、抗生物質のMIC、微生物の運動性を抑制し/引き起こす試験物質の運動性の抑制/濃度促進、微生物のマトリックス付着を禁止し/引き起こす試験物質の付着抑制/濃度促進などに変形または変換できることを意味する。
【0048】
特定の実施形態においては、ステップS4は、3D培養マトリックスにおける境界領域の第1の端部及び/または第2の異なる端部に関連する位置に基づいて、及び、境界領域の幅に基づいて、試験物質に対する微生物の反応を測定することを含む。したがって、この特定の実施形態においては、反応を測定する場合に、境界領域の位置、すなわち境界領域と培養室の第1及び/または第2の端部との間の距離のみならず、境界領域の幅も使用される。例えば、境界領域の幅が実質的にゼロ(図17Aを参照)である場合、すなわち、基本的には第1及び第2の反応領域の境目すなわち境界がゼロである場合には、微生物の反応の変化は試験物質の特定の濃度で発生する。しかしながら、境界領域がゼロでない幅(図18Aを参照)を持っている場合には、微生物の反応の変化は境界領域のそれぞれの端部に対応する濃度範囲で発生する。
【0049】
ゼロでない幅を有する境界領域はさらに、試験物質に対する微生物の任意の耐性に関する情報を提供する。したがって、拡張された境界領域は、微生物のいくつかに試験物質に対する耐性が存在することを示唆する。なぜならば、例えば、微生物は試験物質の濃度で成長することができるか、さもなければ試験物質の濃度が微生物を殺すかまたは耐性を持たない微生物の成長を防止するからである。このことは、試験物質に対する微生物の所定の時間における任意の耐性を測定するかまたは検出するために、境界領域の幅を使用できることを意味する。
【0050】
事実、試験物質に対する耐性を引き起こしまたは試験物質に対する耐性の喪失を確かに生じさせる微生物内の任意の変異を検出することは、実施形態の流体デバイス及び方法によって実際に可能である。したがって、3D培養マトリックスにおける微生物の培養によって及び第1及び第2の流体チャネルを通る第1及び第2の流体の流れによって流体デバイスを作動させる場合に、境界領域の幅を時間の経過とともに監視することが可能である。境界領域の幅の時間の経過とともに生じる増加は、したがって多くの場合、微生物の少なくともいくつかの中での試験物質に対する耐性の利得を示唆する。これに対して、境界領域の幅の減少は、多くの場合、以前に試験物質に対する耐性を示した微生物の中で試験物質に対する耐性の喪失を示唆する。
【0051】
このように、特定の実施形態においては、試験物質に対する微生物の反応を測定する場合に、境界領域の位置のみならず、その幅も使用することが望ましい。
【0052】
多数の試験物質及び勾配を使用した流体デバイスのより複雑な設定及び配置においては、関連するものであればよいのは境界領域の幅あるいは複数の境界領域の幅だけではない。これらの場合には、追加または代替で、境界領域の実際の形状を試験物質に対する微生物の反応として記述することができる。境界領域の形状は、その結果、面積、曲率、異なる方角の幅などのようなパラメータを包含することができる。したがって、特定の実施形態においては、試験物質に対する微生物の反応を測定する場合、境界領域の位置及び境界領域の形状が使用される。
【0053】
図2は、特定の実施形態による図1の中のステップS2及びS3を示すフロー図である。この図は、図8をさらに参照して且つこの明細書に示される流体デバイス1とともに以下さらに説明する。その方法は、図1のステップS1から続く。次のステップS10は、第1の濃度の試験物質を有する第1の流体を含む第1の流体貯蔵部26に第1の流体チャネル20の入力22を接続することを含む。次のステップS11は、第1の流体貯蔵部26から第1の流体チャネル20の入力22の中に第1の流体をポンピングすることさもなければ供給すること、及び第1の流体チャネル20の出力24を通じて出力することを含む。
【0054】
ステップS12は、試験物質を有しないかまたは第2の濃度で試験物質を有する第2の流体を含む第2の流体貯蔵部36に第2の流体チャネル30の入力32を接続することを含む。続くステップS13は、第2の流体貯蔵部36から第2の流体チャネル30の入力32の中に第2の流体をポンピングすることさもなければ供給すること、及び第2の流体チャネル30の出力34を通じて出力することを含む。方法は、その後、図1のステップS4に続く。
【0055】
したがって、特定の実施形態においては、各流体チャネル20及び30は、流体を有する流体貯蔵部26及び36に接続されて、流体チャネル20、30を通じて流体を流し、且つ、培養室10における3D培養マトリックス2に試験物質を輸送する。流体は、流体チャネル20及び30を通じて流体の流れを形成することができる任意の機器(図示せず)を使用して、流体貯蔵部26、36から流体チャネル20、30の中に引き出すことができる。多くの場合、流体ポンプまたは推進機は、流体貯蔵部26、36及び流体チャネル20、30の入力22、32からの流体経路の中に配列され、及び/または、流体チャネル20、30の出力24、34に接続される。両方の流体経路上で作動する単一のポンプまたは推進機を使用することが可能である。
【0056】
図8において、流体チャネル20、30は共通の出力24、34を備えている。したがって、第1の流体チャネル20及び第2の流体チャネル30は、培養室10のポイント下流で一緒になる。代替のアプローチでは、流体チャネル20、30の各々はそれぞれの出力24、34を備えている。
【0057】
貯蔵部26、36から流体チャネル20、30の入力22、32の中への流体のポンピングは、反応を測定する流体デバイス1の使用法または動作を通じて実行されることが望ましい。したがって、流体のポンピングは、少なくとも試験物質に対する微生物6の反応が測定されるまで実行されることが望ましい。
【0058】
2つの流体貯蔵部26、36の中に存在する流体は、試験物質のそれぞれの濃度以外は同じ流体であることが望ましい。
【0059】
流体チャネル20、30を通る流体の流れを均一で変動しないようにすることは、3D細胞マトリックス2の少なくとも一部の上に試験物質の勾配が形成されることを意味する。このことは、流体チャネル20、30が流体貯蔵部26、36に接続されて、チャネルを通る流体のポンピングがたった今開始したばかりのときは、試験物質の濃度勾配が3D培養マトリックス10の上にまだ形成されていないことを意味する。これとは明確に異なり、培養室10の第1の端部若しくは側部12は試験物質の第1の濃度に晒され、且つ培養室20の第2の端部若しくは側部14は試験物質の第2の濃度に晒されるかまたは試験物質には全く晒されない。この点において、実質的に、試験物質は3D培養マトリックス2の中に拡散せず、そのことは、一般的には試験物質のゼロの濃度を有することになる。時間とともに、試験物質は、第1の流体チャネル20における第1の流体から3D培養マトリックス2の中に拡散していく。結局、試験物質の定常状態の濃度勾配は、試験物質の第1の濃度を有する第1の流体チャネル20に面している3D培養マトリックス2の第1の端部と、試験物質のゼロの濃度若しくは第2の濃度を有する第2の流体チャネル20に面している3D培養マトリックス2の第2の端部とを備えた3D培養マトリックス2の少なくとも一部の上に形成される。
【0060】
図2では、2つの流体チャネル20、30を備えた流体デバイス1が仮定されている。3つ以上の流体チャネル20、30が培養室10のそれぞれの端部に隣接する場合には、それぞれの接続及びポンピングのステップは、このような流体チャネルの各々に対して実行されることが望ましい。
【0061】
図2では、ステップは連続する順で表されている。ステップS10及びS12は、任意の順でまたは少なくとも部分的には並行して実行することができる。ステップS11及びS13のポンピングは、一般的には、流体デバイス1の全体の使用法または動作にわたって並列して実行される。
【0062】
したがって、特定の実施形態では、方法は図4に示されるような追加のステップS30を含む。方法は、図1のステップS3からまたは実に図2の中のステップS13から継続する。この付加のステップS30は、試験物質が第1の流体の流れから3D培養マトリックス2の中に拡散することによって、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上の濃度勾配を形成することを含む。試験物質のこの拡散は、3D培養マトリックスを通過する第1または第2の流体の流れが実質的に無い状態で達成されることが望ましい。
【0063】
したがって、拡散はいわゆる供給側の流体チャネル20からであり、それは他の流体チャネル、表示された吸収側の流体チャネル30と比較して流体において試験物質のより高い濃度を含んでいる。好ましい実施形態では、2つの流体チャネル20、30における流体の流速は、培養室10における3D培養マトリックス2を通過する流体の流れが存在しないので、実質的には同様に維持されることが望ましい。実質的に類似していることは、2つの流れが同一であることが望ましいが、ポンプシステムの流速における固有の変化のせいでわずかに異なることがあり得ることを示している。したがって、2つの流体チャネル20、30における流速の差は、10%未満が望ましく、2.5%未満のように、5%未満であることがさらに望ましく、1%未満であることが最も望ましい。
【0064】
3D培養マトリックス2の上及び長方形または正方形の底面を備えた培養室10に隣接する流体チャネル20、30の一部の上に流体の有効な流れがない場合には、3D培養マトリックス2の上の濃度勾配は線形になる。
【0065】
試験物質の濃度勾配は、培養室及び培養室の形状に関連する流体チャネルの位置及びその中に配置された3D培養マトリックスに依存して、3D培養マトリックスの全体の上または3D培養マトリックスの一部の上に形成することができる。
【0066】
ある実施形態においては、2つの流体の流れの中の試験物質のそれぞれの濃度は、手順の全体にわたって固定される。したがって、そのような場合においては、第1の濃度及び第2の濃度(ゼロでない場合)は固定されることが望ましい。別の実施形態では、手順の期間中に流体の流れのうちの少なくとも1つにおいて、試験物質の濃度を変更しまたは調整することが可能である。そのような変更は、濃度における1つ以上のステップの観点から可能であり、すなわち、試験物質の最初の濃度から新たな濃度に切り替えることが可能である。あるいは、濃度の変更は徐々に且つ時間にわたってすることができる。
【0067】
例えば、流体の流れの中の試験物質の最初の濃度が検出可能ないかなる効果をも得られなかった場合には、濃度の変更が行われる。例えば、両方の流体の流れの中の抗生物質の濃度が低すぎると、そのため3D培養マトリックスの全体にわたって微生物の成長を得ているときには、少なくとも第1の流体チャネルにおける抗生物質の濃度を増加することが適切な場合があり得る。
【0068】
流体の流れの少なくとも1つにおける試験物質の濃度の変更も、様々な負荷試験の中で使用することができる。
【0069】
図3は、様々な実施形態による方法の追加手順を示すフロー図である。ある実施形態においては、方法は、図1のステップS3から(または図2のステップS13若しくは図4のステップS30から)継続する。次のステップS21は、この実施形態において、3D培養マトリックスの少なくとも1つの画像又は写真を撮像することを含む。その後、境界領域はステップS22における少なくとも1つの画像の中で識別される。その後、方法は図1のステップS4に継続し、そこでは、3D培養マトリックスの第1及び/または第2の端部若しくは側部に関連する境界領域の位置に基づいて試験物質に対する微生物の反応が測定され、またそこでは、少なくとも1つの画像の中で位置が識別される。
【0070】
したがって、3D培養マトリックスの1つ以上の画像が撮像され、その後、これらの画像の少なくとも1つの中で境界領域が識別される。その後、境界領域の位置及びさらにオプションによる境界領域の幅及び/または形状が、画像から手作業で、または、この明細書においてさらに説明する適切な機器を使用した画像処理によって、測定され得る。
【0071】
特定の実施形態では、3D培養マトリックスの少なくとも1つの画像は、明視野顕微鏡を使用して、または位相差顕微鏡を使用して、ステップS21において撮像される。そのような場合、境界領域の位置及びオプションによる幅及び/または形状は、少なくとも1つの画像の中で検出された光強度に基づいて識別することができる。ある実施形態においては、ステップS22は、したがって、少なくとも1つの画像の中で検出された光強度に基づいて、境界領域を識別するように構成されたコンピュータによって少なくとも1つの画像を処理することを含む。
【0072】
したがって、ほとんどの実施形態では、3D培養マトリックスに関して明視野顕微鏡または位相差顕微鏡を使用して撮像された画像の中の第1の反応領域と第2の反応との間に明瞭な目に見える差異が存在することになる。結果として、画像の中で検出された光強度は、手作業で、または適切な画像処理プログラム若しくはソフトウェアを備えたコンピュータを使用して、画像の中の境界領域の位置、及びオプションによる幅及び/または形状を識別するために使用することができる。このことは、最も実用的な実施形態では、微生物の染色またはラベリングが必要ではないことを意味する。
【0073】
しかしながら、追加のオプションのステップS20を有することは可能であり、それは少なくとも1つの蛍光性のラベルを3D培養マトリックスに加えることを含む。その結果、この蛍光性のラベルは、微生物に結合するように構成されるかまたは微生物によって取り込まれるように構成される。そのような場合には、3D培養マトリックスの少なくとも1つの画像は、ステップS21において蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡を使用して撮像することが望ましい。その後、境界領域は、少なくとも1つの画像の中で検出された蛍光に基づいて、境界領域を識別するように構成されたコンピュータによって少なくとも1つの画像を処理することによりステップS22において識別することができる。あるいは、少なくとも画像の中の蛍光に基づいて、境界領域(位置及びオプションの幅及び/または形状)を識別するために少なくとも1つの画像の手作業の検査を使用することができる。
【0074】
上記説明した実施形態では、少なくとも1つの蛍光性のラベルが3D培養マトリックスに加えられた。代替のアプローチでは、微生物は、蛍光性の物質のような、少なくとも1つの物質で自身を表すことができ、それは蛍光顕微鏡若しくは共焦点顕微鏡または実に任意の他の画像技法を使用して撮像された画像の中で検出することができる。あるいは、微生物は、例えば、そのような物質をコード化する設計された表現ベクトルの形質移入によって、そのような物質を表せさせることができる。したがって、そのようなアプローチでは、ステップS20における蛍光性のラベルの追加を省略することができる。
【0075】
ある好ましい実施形態では、ステップS21は3D培養マトリックスの少なくとも一部の上の試験物質の定常状態の濃度勾配の形成の少なくとも後に、3D培養マトリックスの少なくとも1つの画像を撮像することを含む。したがって、特定のアプローチでは、試験物質に対する微生物の反応を測定する前に、定常状態の濃度勾配をまず形成することが望ましい。したがって、境界領域を識別するために撮像され且つ分析されまたは処理される少なくとも1つの画像は、そのような定常状態の濃度勾配の形成の後に撮像されることが望ましい。
【0076】
さらに、定常状態に達する前に、勾配の形成は予測可能で、いくつかの場合においては、例えば、蛍光合成物を使用して直接に映像化することができ、したがって定常状態の勾配を達成する前に試験物質の既に知られている濃度に関する微生物の反応の読み出しを可能にする。
【0077】
ステップS21において3D培養マトリックスの単一の画像を撮像することができる。あるいは、3D培養マトリックスの複数の画像は、流体チャネルの入力をそれぞれの流体の流れに接続することから、例えば0〜12時間の間隔内で周期的に撮像される。ある特定の実施形態では、画像が周期的に撮像される時間間隔は、0〜6時間、0〜4時間、若しくは0〜3時間が望ましく、または0〜2時間若しくは0〜1時間がさらに望ましく、その後に、それぞれの流体の流れに流体チャネルを接続することによる監視が開始する。
【0078】
前の説明では、主に、流体デバイスの中の単一の試験物質に対する反応を測定することに対して検討がなされた。しかしながら、さらに、多数の試験物質の混合物に対する反応を測定するときには、または、実に多数の試験物質若しくはその混合物に対する異なる反応を測定するときには、多数の試験物質に対する反応を同時に測定することが可能である。
【0079】
ある実施形態では、図1のステップS2は、それによって、第1の濃度の第1の試験物質を含み、且つ第2の試験物質を含まずまたは第3の濃度の第2の試験物質を含む第1の流体の流れに第1の流体チャネルの入力を接続することを含む。一方、ステップS3は、第1の試験物質を含まずまたは第2の濃度(それは第1の濃度より低い)の第1の試験物質を含み、且つ第3の濃度よりも高い第4の濃度の第2の試験物質を含む第2の流体の流れに第2の流体チャネルの入力を接続することを含む。第1の試験物質の第1の濃度勾配及び第2の試験物質の第2の濃度勾配は、その結果、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に形成される。
【0080】
ステップS4は、この実施形態において、培養室の第1及び/または第2の端部若しくは側部に関する3D培養マトリックスの中の任意の境界領域の位置に基づいて、第1の試験物質及び第2の試験物質に対する微生物の反応を測定することを含む。境界領域は、微生物が第1の試験物質及び第2の試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域と、微生物が第1の試験物質及び第2の試験物質に対して第2の異なる反応を示すそれぞれの第2の反応領域との間に存在する。
【0081】
したがって、この実施形態では、第1の試験物質の濃度勾配は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上の第1の流体チャネル(第1の試験物質の高濃度)から第2の流体チャネル(第1の試験物質の低濃度)に向かって形成される。これに対応して、第2の試験物質の濃度勾配は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上の第2の流体チャネル(第2の試験物質の高濃度)から第1の流体チャネル(第2の試験物質の低濃度)に向かって形成される。
【0082】
試験物質が、例えば、異なる抗生物質である場合には、2つの境界領域が存在する可能性がある。1つの場合では第1の流体チャネルから第2の流体チャネルに向かって移動する場合には、3D培養マトリックスは以下に示す領域、すなわち、微生物が生存しないまたは成長の無い微生物を有する第1の「死滅」領域、第1の境界領域、生存し且つ成長する微生物を有する成長領域、第2の境界領域、及び第2の「死滅」領域の中に急降下することがある。それぞれの領域の位置及び幅(形状)は、特定の抗生物質、抗生物質の濃度(第1及び第4の濃度並びにオプションの第2及び第3の濃度)及び特定の微生物に依存する。
【0083】
別のアプローチでは、ステップS2は、第1の濃度の第1の試験物質を含み且つ第3の濃度の第2の試験物質を含む第1の流体の流れに第1の流体チャネルの入力を接続することを含む。次に、ステップS3は、第1の試験物質を含まないかまたは(第1の濃度より低い)第2の濃度の第1の試験物質を含み、且つ、第2の試験物質を含まないかまたは第3の濃度より低い第4の濃度の第2の試験物質を含む第2の流体の流れに第2の流体チャネルの入力を接続することを含む。第1の試験物質の第1の濃度勾配及び第2の試験物質の第2の濃度勾配は、その結果、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に形成される。
【0084】
ステップS4は、この実施形態において、培養室の第1及び/または第2の端部若しくは側部に関連する3D培養マトリックスにおける任意の境界領域の位置に基づいて、第1及び第2の試験物質の混合物に対する微生物の反応を測定することを含む。境界領域は、微生物が混合物に対して第1の反応を示す第1の反応領域と、微生物が混合物に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域との間に存在する。
【0085】
したがって、この実施形態では、第1の試験物質の濃度勾配は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に第1の流体チャネル(第1の試験物質の高濃度)から第2の流体チャネル(第1の試験物質の低濃度)に向かって形成される。これに対応して、第2の試験物質の濃度勾配は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に第1の流体チャネル(第2の試験物質の高濃度)から第2の流体チャネル(第2の試験物質の低濃度)に向かって形成される。
【0086】
この実施形態は、第1の流体の流れが両方の試験物質の最も高い濃度を含むのに対して、従来の実施形態では、第1の流体の流れが第1の試験物質の最も高い濃度を含む点で、また第2の流体の流れが第2の試験物質の最も高い濃度を含む点で、従来の実施形態とは異なる。
【0087】
このため、本実施形態は、試験物質の混合物またはカクテルに対する微生物の反応を測定するためにより適切である。明瞭な差異における従来の実施形態は、単一の流体デバイス及び単一の培養室を使用して、2つの試験物質の並列試験を可能にする。
【0088】
ある実施形態では、流体デバイスの培養室は、それぞれの流体の流れに接続することができる少なくとも4つの端部または側部を備えている。したがって、培養室は、その結果として追加的に、培養室の第3の端部または側部に隣接する第3の流体チャネル及び培養室の第4の異なる端部または側部に隣接する第4の流体チャネルを備えている。この実施形態では、試験物質は第1の試験物質である。
【0089】
その後、方法は、第3の濃度の第2の試験物質を含む第3の流体の流れに第3の流体チャネルの入力を接続し、且つ第2の試験物質を含まないかまたは第3の濃度より低い第4の濃度の第2の試験物質を含む第4の流体の流れに第4の流体チャネルの入力を接続する追加のステップを含む。したがって、第2の試験物質の濃度勾配は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に形成される。この実施形態では、方法はさらに、3D培養マトリックスにおける任意の境界領域のうち、第3及び/または第4の端部若しくは側部に関連する位置に基づいて、第2の試験物質に対する微生物の反応を測定することを含む。この境界領域は、微生物が第2の試験物質に対して第1の反応を示す第1の反応領域と、微生物が第2の試験物質に対して第2の異なる反応を示す第2の反応領域との間に存在する。
【0090】
この実施形態では、2つの試験物質は並列して試験することができる。例えば、培養室及び3D培養マトリックスが長方形または正方形の断面を有する場合には、第1の試験物質の濃度勾配は第1及び第2の流体チャネルの間のX方向に沿って形成することができるのに対して、第2試験物質の濃度勾配は今度は第3及び第4の流体チャネルの間のY方向に沿って形成される。
【0091】
以下、方法の特定の使用について、試験物質が抗生物質である場合、または殺菌剤及び/または静菌剤の他の形態である場合についてさらに説明する。この実施形態では、図1のステップS4は、培養室の第1及び/または第2の端部若しくは側部に関連する3D培養マトリックスにおける境界領域の位置に基づいて、試験物質に対する微生物の感受性を測定することを含む。この境界領域は、その結果、微生物を育てる成長領域と、微生物を育てない非成長領域の間に存在する。
【0092】
この実施形態では、図5に示されるような付加ステップを実行することができる。その方法は、図1のステップS4から継続する。これに続くステップS40は、境界領域の幅に基づいて試験物質に対する微生物の耐性を測定する。したがって、境界領域がゼロでない幅を持っている場合には、試験物質に対して耐性がある微生物は境界領域に対応する濃度範囲の中で成長することができる。ステップS40の変形は、境界領域の形状に基づいて試験物質に対する微生物の耐性を測定することを含む。
【0093】
図6は、例えば明視野顕微鏡または位相差顕微鏡を使用して、図3のステップS21において3D培養マトリックスを撮像した画像から試験物質のMICを測定するために使用することができる図1のステップS4の実施形態を示すフロー図である。方法はこのように、図3のステップS22から継続し、ステップS50に継続する。このステップS50は、培養室の第1の端部若しくは側部と第2の異なる端部若しくは側部との間の3D培養マトリックスにおける位置に対する検出された光強度の関係を測定することを含む。したがって、基本的には、このステップS50は、第1の端部または側部と側部の第2の端部との間の異なる距離で検出された光強度を測定することに対応する。この関係は、例えば、グラフの形式であってもよいし、または、図17B及び18Bを参照すると、培養室の第1及び第2の端部の間の距離に対する検出された光強度の方法を示すプロットであってもよい。
【0094】
例えば、3D培養マトリックスは、検出された光強度の値を持つ行及び列のマトリックスと見なすことができる。そのような場合においては、長方形または正方形の3D培養マトリックスの場合において、3D培養マトリックスの第1の側部から3D培養マトリックスの第2の反対の側部に向かって移動する場合には、行は検出された光強度の値を表すことができる。したがって、そのような行は濃度勾配の方向と並行である。ある実施形態では、検出された光強度の平均値を持つ平均の行は、すべての行の検出された光強度の値を合計し、且つ行の数でそれぞれの合計値を除算することによって得られる。あるいは、合計行は、濃度勾配の方向と垂直な方向におけるすべての行の検出された光強度の値を合計することによって計算される。その後、異なる距離で検出された光強度の測定は、平均の行または合計の行の上で実行することができる。
【0095】
その後、次のステップS51は、その関係に基づいて微生物用の試験物質のMICを測定することを含む。
【0096】
図7は、このMICの測定を実行することができる方法をより詳細に示すフロー図である。その方法は、ステップS50から継続する。次のステップS60は、検出された光強度と位置との間の関係を表す信号にキンクが存在する位置を識別することを含む。この信号は、したがって、図17B及び18Bに示されるように、グラフで表現することができる。ステップS60は、このように、信号を調査して、信号にキンクが存在する位置を識別する。
【0097】
次のステップS61は、3D培養マトリックスにおける位置に対する濃度を定義する事前定義の勾配情報に基づいて、ステップS60において識別され且つキンクに相当する位置を試験物質の濃度に変換することを含む。したがって、このアプローチでは、3D培養マトリックスの中の試験物質の濃度と端部の1つに関連する位置との間に事前定義の関係がある。
【0098】
一般的に、濃度勾配は、定常状態における線形の濃度勾配であり、すなわち、第1の端部若しくは側部の第1の濃度から第2の端部若しくは側部の第2の濃度またはゼロ濃度まで拡がる。そのような場合においては、試験物質の濃度と端部位置の1つに関係する距離または位置との間には単純な関係がある。
【0099】
さらに、例えば放射性のラベルを使用して試験物質にラベルを付けること、または、実質的に同様の拡散特性を持ち、主に分子のサイズによって指示され、試験物質としての3D培養マトリックスを通過する蛍光性のように容易に検出できる検出物質を使用することは可能である。そのような場合には、放射能でラベル付けられた試験物質の濃度勾配または検出物質を容易に測定することが可能であり、また、3D培養マトリックスにおける位置に対する濃度を定義する事前定義の勾配情報をそのような実験から簡単に測定することができる。
【0100】
いずれの場合も、事前定義済の勾配情報は、ステップS60において測定された位置をステップS61において試験物質のMICに対応する濃度の値に変換することを可能にする。
【0101】
3D培養マトリックス内で定常状態の勾配を形成するために必要な時間は、2つの流体チャネルの間の3D培養マトリックスの幅及び試験物質の拡散定数に依存する。その一方、拡散定数は、温度、3D培養マトリックスの粘性、及び試験物質の分子の半径に依存する。例えば、アガロースマトリックスにおけるアンピシリンは、D=0.016cm/hの拡散定数を持っている[18]。
【0102】
図9〜15は、流体チャネルの様々な数及び位置並びに培養室の異なる形状を示す異なる実施形態による流体デバイスの一部を示す。しかしながら、示された図は、単に実施形態の少数の例示的な例として見なされるべきであり、さらなる変形及び修正は可能で且つ実施形態の範囲内にある。
【0103】
図9は、第1の側部12に隣接する第1の流体チャネル20及び第2の反対側の側部14に隣接する第2の流体チャネル30を有する長方形または正方形の培養室10を備えた流体デバイスの実施形態を示す。この実施形態では、線形の濃度勾配は、定常状態の期間に培養室10に存在する3D培養マトリックス全体の上に形成される。
【0104】
2つの流体チャネルは、必ずしも図9に示されるような培養室の対面する側部に隣接する必要はない。図10は、培養室10の2つの近傍の側部12、16に隣接する第1の流体チャネル20及び第2の流体チャネル30を備えた培養室10を示す。この実施形態では、濃度勾配はこれらの2つの近傍の側部12、16の間に形成される。
【0105】
前に説明したように、2つを超える流体チャネルを使用することが可能である。図11は、培養室10の各側部12、14、16、18がそれぞれの流体チャネル20、30、40、50によって隣接されている実施形態を示す。このアプローチでは、第1の流体チャネル20から第2の反対側の流体チャネル30まで(Xの方向)の3D培養マトリックス上の第1の試験物質の第1の線形の濃度勾配を形成するために、2つの異なる試験物質を試験することができる。一方、3D培養マトリックス上の第2の試験物質の第2の線形の濃度勾配は、第3の流体チャネル40から第4の反対側の流体チャネル50まで(Y方向)形成することができる。
【0106】
図9〜11において、長方形または正方形の培養室10が開示されている。しかしながら、実施形態はそれに限定されない。図12は、培養室10の第1の側部12に隣接する第1の流体チャネル20、第2の近傍の側部14に隣接する第2の流体チャネル30、及び第3の近傍の側部16にさらに隣接するオプションとして第3の流体チャネル40を備えた三角形の形状を有する培養室10を示す。
【0107】
さらに、5、6、7または多くの側部までも備えたより複雑な培養室の形状が可能である。図13は、6個の側部12、14及び6個までの流体チャネル20、30を備えた六角形の培養室10を示し、そのうち2個だけが図の中に引用符号で標示されている。したがって、この実施形態では、単一の流体デバイスにおいて、3つの異なる線形の濃度勾配を形成することが可能であり、且つ、そのために3つの異なる試験物質を試験する。
【0108】
流体デバイスはさらに、図14に概略的に示されるような円形または楕円形の培養室10を備えることができる。そのような場合には、流体チャネル20、30は、培養室10のそれぞれの端部12、14に隣接する。これらの端部12、14は、培養室10の円周の異なる一部に対応し、したがって培養室10の中に配列される3D培養マトリックスの横方向表面の異なる部分に対応する。
【0109】
図9〜14において、流体チャネルは培養室の側部の形式の端部または周囲の部分に隣接している。また他の例として、図15に示されるように、培養室10の上端または上側または天井12及び底または下側14で表される端部12、14に隣接する流体チャネル20、30を備えることが可能である。
【0110】
本実施形態は、様々な微生物、試験物質、及び反応の識別を測定するため及び監視するために使用することができる。したがって、実施形態は、病院の診療室、研究室、診断の実験室、健康管理施設などにおいて多くの異なる用途を発見する。
【0111】
例えば、実施形態は、MICを識別するため、または、微生物の成長、増殖、死滅若しくは生存性に関する任意の所定の微生物に対して効果を有する生物活性合成物の最小の濃度を識別するために、生物活性合成物の効果の有無を有する他の濃度の閾値を識別するために使用することができる。
【0112】
さらに、1セットの異なる試験物質用のMICの形成によって、試験された微生物の表現型の同一性は、例えば診断試験で確立することができる。表現型の分析は、微生物株の十分な識別に帰着するか、または様々な試験物質に対する反応に関する微生物の一般的な分類に帰着する。
【0113】
実施形態はまた、成長、増殖、生存性または微生物の他の行動の態様に対する試験合成物用のMICの変化を、時間をかけて追跡するために使用することができる。このアプローチは、いくつかの世代を通じて時間をかけて、微生物の中で、抗生物質の耐性のような、耐性の発育または喪失を監視することを可能にし、それによって、試験物質の効果を代謝しまたは抵抗する微生物の能力を変質させることを可能にする。この種の実験は、試験物質の適切な臨床用量の表示及び/または管理の回数を実現するために使用することができる。したがって、実施形態は、薬力学及び任意の所定のタイプの微生物における任意の試験物質若しくは試験物質の組合せの薬物動態学の両方を研究するために使用することができる。
【0114】
実施形態はさらに、抗生物質のように、個々の物質よりも総合的に効率的である試験物質の組合せを評価し且つ識別するために使用することができ、または試験物質が相乗効果を持つかどうか、若しくはそれらが例えば成長、増殖、生存性、若しくは微生物の他の行動の態様に対する効果を総合的に持たないかどうかを評価するために使用することができる。
【0115】
実施形態は、微生物の成長、増殖、生存性、死滅、拡散能力若しくは微生物の他の行動の態様に対する効果のための新規薬剤または化合物をスクリーニングするために使用することができる。
【0116】
実施形態はまた、臨床実践の中で使用される物質に対する任意の所定の微生物の反応の最初のプロフィールを迅速に取得するために使用することができる。その狙いは、したがって、微生物感染に苦しむ患者の反微生物治療に適している物質を識別できることである。このことは、適切な治療を計画するために、患者の寿命が感染を引き起こす微生物の速い識別に左右される場合であっても使用することができる。
【0117】
実施形態はさらに、細胞の行動、細胞の生存性、細胞の増殖、細胞の死滅及び/または宿主細胞上のウィルス及び試験物質の量及び効果のための読み出し情報として使用される細胞分化に対する効果と共に、ウィルスに感染した宿主細胞に対する薬または試験物質の効果を研究するために使用することができる。このアプリケーションでは、ウィルスは、それらが感染させることができることが知られている細胞と一緒に置かれることが望ましい。したがって、細胞変性効果のような感染した宿主細胞に対するのと同様に、ウィルス粒子に対する両者の直接の効果は、異なる濃度の試験物質の効果を研究するために使用することができる。
【0118】
寄生虫に対する薬の効果に関する研究の例として、寄生虫に感染し、且つ流体デバイスの3D培養マトリックスの中で培養された人間またはマウスの赤血球を使用して、マラリア原虫を研究することができる。次に、薬の1つ以上の勾配に対する寄生虫と赤血球の反応は試験することができる。
【0119】
流体デバイスの培養室における3D培養マトリックスの中の微生物の培養は、少なくとも部分的に閉じられた培養室の内部の微生物を飼育することを可能にする。このことは、潜在的に有害な微生物に対する職員の保護を実現するだけでなく、3D培養マトリックスの中の試験サンプルの汚染に対しても保護する。
【0120】
実施形態の別の態様は、図16に示すように、試験物質に対する微生物の反応を測定するためのシステム60に関する。システム60は、培養室10によって表され、且つ図の中のチャネルに隣接する流体デバイスを備えている。流体デバイスは、3D培養マトリックスの中の微生物の培養物を収容するように構成された培養室10を備えている。流体デバイスはまた、培養室10の第1の端部または側部に隣接する第1の流体チャネル及び培養室10の第2の異なる端部または側部に隣接する第2の流体チャネルを備えている。システム60は、第1の濃度の試験物質を含む第1の流体を有する第1の流体貯蔵部(図8を参照)をさらに備えている。第1の流体貯蔵部は、第1の流体チャネルの入力に接続されるように構成されている。システム60はまた、試験物質を含まないかまたは第1の濃度より低い第2の濃度の試験物質を含む第2の流体を有する第2の流体貯蔵部を備えている。第2の流体貯蔵部は、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上の試験物質の濃度勾配を形成するために第2の流体チャネルの入力に接続されるように構成されている。
【0121】
システム60はまた、3D培養マトリックスの少なくとも1つの画像を撮像するように構成され、且つ、3D培養マトリックスにおいて、第1の端部及び/または第2の異なる端部に関連する任意の境界領域の位置を識別するために少なくとも1つの画像を処理するように構成されたコンピュータ・ベースのシステム62、66を備えている。この境界領域は、微生物が試験物質に対する第1の反応を示す第1の反応領域と微生物が試験物質に対する第2の異なる反応を示す第2の反応領域の間に存在する。コンピュータ・ベースのシステム62、66も、境界領域の位置に基づいて試験物質に対する微生物の反応を測定するように構成されている。
【0122】
図16では、コンピュータ・ベースのシステム62、66は、カメラまたは他の画像若しくは信号取り込み機器すなわち検出器66によって例示されている。このカメラまたは検出器66は、3D培養マトリックスの写真を撮像するために、図の中に示されるような顕微鏡68に接続されるかまたは関連して配置されていることが望ましいが、必須のことではない。カメラ66は、画像データ及びコンピュータ62の演算処理装置によって実行される符号化手段を含むコンピュータプログラムを格納するように構成されたメモリを備えたコンピュータ62に接続されることが望ましい。コンピュータプログラムは、そのため、例えば検出された光強度または検出された蛍光に基づいて、画像の中の境界領域の位置及びオプションとして幅及び/または形状を識別するように構成されている。コンピュータプログラムはまた、この明細書で前述したように、境界領域の位置を試験物質に関する濃度の値または濃度の値の範囲に変換するように構成されていることが望ましい。
【0123】
システム60のオプションの画面64は、取り込まれた画像(図17Aまたは18A)、3D培養マトリックスにおける位置に対する若しくは濃度勾配に沿った試験物質の濃度に対する検出された光強度若しくは検出された蛍光を示す処理されたグラフ(図17Bまたは18B)、及び/または測定の濃度若しくは濃度範囲を表示するためにコンピュータ62に接続することができる。
【0124】
実施形態の別の態様は、試験物質に対する微生物の反応を測定する流体デバイスの使用に関する。流体デバイスは、3D培養マトリックスの中の微生物の培養物を収容するように構成された培養室を備えている。流体デバイスはまた、培養室の第1の端部に隣接し、且つ、第1の濃度の試験物質を含む第1の流体の流れを運ぶように構成された第1の流体チャネルを備えている。流体デバイスは、培養室の第2の異なる端部に隣接し、且つ、3D培養マトリックスの少なくとも一部の上に試験物質の濃度勾配を形成するために、試験物質を含まないかまたは第1の濃度より低い第2の濃度の試験物質を含む第2の流体を運ぶように構成された第2の流体チャネルをさらに備えている。その使用は、第1の端部及び/または第2の異なる端部に関連する3D培養マトリックスにおける任意の境界領域の位置に基づいて、試験物質に対する微生物の反応を測定することを含む。境界領域は、微生物が試験物質に対する第1の反応を示す第1の反応領域と微生物が試験物質に対する第2の異なる反応を示す第2の反応領域の間に存在する。
【0125】
実験
実験1−アンピシリン
細菌負荷E、大腸菌K12 MG1655は、ルリア煮出し汁(LB)プレート上で培養された。E、大腸菌細胞は、MULTISKANR(登録商標) FCマイクロプレート測光器(Thermo Scientific)で測定されたように、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)によってOD600=0.1に希釈された。OD600=0.1細胞を持つPBS及び低い溶解温度アガロースの同じ量はともに混合された。白い先端を備えたピペットは、混合物の8μΙを吸い上げるため、且つミクロ流体デバイスCELLDIRECTOR(登録商標) Ruby(Gradientech AB)の培養室に混合物を注入するために使用された。図20の上パネルを参照されたい。ミクロ流体デバイスの流体チャネル入力は、Muelle−Hinton培養液及びそこに20μg/mlのアンピシリンをも含む貯蔵部の1つを備えた流体貯蔵部に接続された。流体チャネルに培養液を引き込むために使用される推進機の速度は、30分の間は5μl/分にセットされ、残りの時間は2μl/分にセットされた。
【0126】
ミクロ流体デバイスは、電荷結合デバイス(CCD)カメラに接続されたEclipse TE2000ニコン倒立顕微鏡システムに装着された。実験期間中37°Cに3D培養マトリックスの中の温度を維持するために、ミクロ流体デバイスは、サーマルスタットに接続された。本実験では、培養室全体が顕微鏡の視野に入るように、2x対物レンズが使用された。明るさ及び焦点距離の調節に続いて、ソフトウェア支援のCCDカメラのコマ撮り写真(1写真/30秒)がオンされた。
【0127】
写真は、培養室の選択された中央の部分と整合させるためにカットされた。図17A及び18Aのブラックボックスを参照されたい。写真から検出された光強度データを抽出するために画像処理ソフトウェアが使用された。X軸として濃度勾配を備えY軸として勾配の方向に垂直なすべての線のグレースケールの値、すなわち検出された光強度の値を合計するために、空間の成長状況分散図が使用された。
【0128】
アンピシリンのMICを表す特異点は、このチャートで見つけることができる。図17Bに示されるように、光学的強度によって表される細胞成長率の図も描画された。
【0129】
図17Aは、アンピシリンの濃度が低い吸引の流体チャネルに近い大きな細胞成長を示す。E、大腸菌細胞は、図で見られる白い帯域に対応する。図17Bは、アンピシリンの濃度勾配に対する細胞成長を示す。MICは、この実験においては5μg/mlであると測定された。図17Cは、3D培養マトリックス中で形成されたアンピシリンの濃度勾配を示す。
【0130】
図17Bにおいて10μg/mlの近傍で見られる頂点は3D培養マトリックスにおける断裂のせいであることに留意されたい。
【0131】
実験2−スペクチノマイシン
この実験は、50μg/mlのスペクチノマイシンがアンピシリンの代わりに流体貯蔵部のうちの1つに加えられたことを除き、実験1と同様に行なわれた。結果は図18A〜18Cに示されている。
【0132】
実験1(図17A及び17B)と比較して、図18A及び18Bは明らかに、はるかに広い境界を示している。このように、この実験は、E、大腸菌細胞中のスペクチノマイシンの耐性の存在を示したが、その一方、実験1においてはこれに対応するアンピシリンの耐性は検出されなかった。
【0133】
図19は、時間経過による3D培養マトリックス中の異なる位置における、平均グレースケールの値、すなわち検出された強度、これによる細胞密度を示す。これらの異なる位置は、0、12.5、25、37.5及び50μg/mlのスペクチノマイシンの濃度に対応する。
【0134】
前述された実施形態は、本発明の少数の例示的な例として理解されたい。様々な修正、組合せ及び変更が本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態になされることは、当業者によって理解されるはずである。特に、異なる実施形態における異なる部分の解決策は、他の構成において組み合わせることができ、技術的に可能である。しかしながら、本発明の範囲は添付された特許請求の範囲によって定義される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A-17B】
図17C
図18A-18B】
図18C
図19
図20