(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電磁石が1個の前記蒸着マスクに対して複数個の電磁石エレメントで形成され、前記電源回路が前記複数個の電磁石エレメントのうち、少なくとも1個は独立して発生磁界を変化させる回路を有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の蒸着装置。
電磁石と、被蒸着基板と、磁性体を有する蒸着マスクとを、重ね合せ、かつ、電源回路からの前記電磁石への通電によって前記被蒸着基板と前記蒸着マスクとを吸着させる工程、及び
前記蒸着マスクと離間して配置される蒸着源からの蒸着材料の飛散によって前記被蒸着基板に前記蒸着材料を堆積する工程、
を含み、
前記電磁石と前記蒸着マスクとの吸着の際に、前記電磁石への電流の印加を、前記電磁石のコイルの巻数を変えて電流を流すことで、前記電磁石によって発生する磁場を緩やかに変化させて行う蒸着方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、図面を参照しながら本発明の一実施形態の蒸着装置及び蒸着方法が説明される。本実施形態の蒸着装置は、全体の構成例が
図5Aに、その制御回路の第1実施例の回路例が
図1Aに示されている。
図5Aに示されるように、電磁石3と、電磁石3の一つの磁極と対向する位置に設けられるべき被蒸着基板2を保持する基板ホルダー29と、基板ホルダー29により保持される被蒸着基板2の電磁石3が設けられていない方の面に設けられ、磁性体を有する蒸着マスク1と、蒸着マスク1と対向させて設けられ、蒸着材料を気化又は昇華させる蒸着源5と、を含んでいる。さらに、
図1A〜4Aに示されるように、電磁石3を駆動する電源回路6と、電源回路6と電磁石3との間に接続され、電磁石3への電流の印加の際に電磁石3によって発生する磁界を緩やかに変化させる制御回路7と、を含んでいる。
【0014】
ここに「緩やか」とは、電流の立上り時間を大きくすることを意味し、通常の立上り時間の100倍以上、具体的には、立上り時間(スイッチが投入されてから所定の電流になるまでの時間)がミリ秒のオーダであることを意味する。
【0015】
ここで、本発明者らは、蒸着マスク1と被蒸着基板2との密着性を得るため、
図5Aに示されるような構成で、電磁石に代えて永久磁石を用い、その永久磁石と、タッチプレート4と、被蒸着基板2と蒸着マスク1とを重ねて、磁束と、蒸着マスク1と被蒸着基板2との間のギャップとの関係を調べた。その結果が
図6に示されている。なお、永久磁石は、一面に磁場が生じ、他面には磁場が生じない(磁場が0)シートマグネットを用いた。磁場の異なる3枚の永久磁石を準備し、3枚の永久磁石を交換して蒸着マスク1の面での磁界と、被蒸着基板2と蒸着マスク1とのギャップとの関係を調べた。蒸着マスク1としては、ハイブリッド型のマスクを用いた。なお、ギャップと有機材料の堆積状態との関係を確認した結果から、被蒸着基板2と蒸着マスク1とのギャップは、小さいほど好ましく、3μm以下であれば所望の堆積状態にできることが分っている。
【0016】
そこで、
図6に示される調査結果から、磁石の磁場H又は磁束密度B(B=μH;μは透磁率)は大きいほど好ましいことが分る。しかし、本発明者らは、前述のように、蒸着マスク1を電磁石3で強い磁場によって吸着し、被蒸着基板2と蒸着マスク1とを密着させると、被蒸着基板2に形成されているTFTなどの素子が破損したり、性能が劣化したりし得ることを見出した。また、有機材料が劣化し得ることも見出された。本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねてその原因を調べた結果、電磁石3の電磁コイル32に電流を投入する際に、電磁誘導による起電力で被蒸着基板2に形成されたTFT(図示せず)などの回路に過電流が流れることを見出した。そして、本発明者らは、その過電流や、その過電流で電極22(
図7B参照)などに発生するジュール熱によって、TFTや有機層25(
図7B参照)が破壊したり、劣化したりすることを見出した。
【0017】
電源回路6(
図1A参照)によって電磁石3の電磁コイル32に電流を流す際に、急速に電流が流れ、電磁石3によって発生する磁束Φ(Φ=BS=μHS;Sはコアの断面積)が急速に増加する。磁束Φが急速に変化すると、V∝−dΦ/dtに相当する起電力が発生する。電磁コイル32に電流を投入した際に、電流が0から所定の電流に達するまでの時間(立上り時間)Δtは、電磁石3の自己インダクタンスの大きさに依存するが、通常の電磁石3では、10μs(秒)程度となる。Δtは非常に小さいため、微小時間dtをこのΔtで近似し得る。そのため、例えば300ガウス程度の磁束をこの時間Δtで変化させると、30MV程度の起電力が電磁誘導により発生することになる。この起電力によって、被蒸着基板2内の閉回路に電流が流れ、TFTなどを損傷することになる。この起電力Vは、前述の式からも分るように、磁束Φの変化が大きいほど、また、時間変化が短いほど大きくなる。電磁石3の電磁コイル32は自己インダクタンスを有するため磁束Φの変化は抑制されるが、それでも前述の30MV程度という大きな誘導起電力が発生し、このような誘導起電力は、素子の破損や特性劣化に影響することを示している。さらには、ジュール熱の量Q(J)として、Q=V
2・t/Rで示される熱が発生する(R:被蒸着基板2内の閉回路の電気抵抗(Ω))。このジュール熱の発生によって、高温に弱い有機材料はその特性を劣化させることがある。
【0018】
そして、本発明者らがさらに鋭意検討を重ねて調べた結果、電磁石3によって生じる起磁力(N・I;Nはコイルの巻数、Iは電磁コイルに流れる電流の大きさ)が徐々に大きくなるように変化させることによって、発生する磁束の変化が緩やかになって、このような問題を解決し得ることを見出した。すなわち、電磁石3の自己インダクタンスのみならず、電磁コイル32の巻数N又は電流Iを徐々に大きくするか、又は立上り時間Δtを大きくすることによって、誘導起電力を小さくすることができ、この問題を解決できることが見出された。具体的には、従来の立上り時間Δtを100倍程度、さらに好ましくは1000倍程度に引き延ばすことで、誘導起電力を1000分の1程度にでき問題を解決できることが見出された。磁束の変化を緩やかにする具体的な手段は、電磁石3に印加される起磁力自体を徐々に増加させる手段、すなわち電磁コイル32の巻数又は電流を徐々に増やすか、遅延回路、すなわち、チョッパや、キャパシタなどのリアクタンス素子を用いて電磁コイル32への電流の印加を徐々に増やすことなどが挙げられる。この電磁誘導の原因になる起磁力(磁場)の立上りを緩やかにすることによって、被蒸着基板2に形成されたTFTなどの素子や有機層の破損、劣化を防止し得ることが見出された。
【0019】
誘導起電力を小さくするには、前述のように、磁束Φの変化を小さくする必要がある。dtは近似的に、磁束が0からΦになる時間と見ることができる。従って、例えば
図1Bに示される所定の磁界になるまでの時間Δtを大きくすればよいことになる。このΔtは、前述のように、遅延させない場合の1000倍程度、すなわち10ms(ミリ秒)程度になるように設定されればよい。なお、これまでの説明では、電流を電磁石3の電磁コイル32に投入する場合についてであったが、電流をオフにして磁束Φを0にする場合も同様に磁束が急速に変化する。従って、この場合も、逆方向の誘導起電力が発生し、同様の問題があるが、電流を投入する場合と同様のタップ制御や遅延回路を挿入することによって、その問題を解消することができる。その具体例について、
図1A〜4Bを参照してさらに詳細に説明がされる。
【0020】
(実施例1)
図1A〜1Bに示される例は、電磁石3の電磁コイル32に複数個のタップ32b、32c、32dが形成され、スイッチ71が順次回転することによって、タップ32bからタップ32cに順次接続が変る構成になっている。磁束Φはコイルの巻数をNとし、電流をIとすると、Φ=N・Iになる。例えば、スイッチ71がタップ32bに接続されていると、
図1Aの約1/3の電磁コイル32のみに電流が流れる。その結果、巻数は約1/3となり、磁束Φは=N・I/3となる。続いてスイッチ71をタップ32c、32dに順次切り替えて磁束Φを徐々に大きくできる。従って、磁束の変化は小さくなり、電磁誘導の影響を殆ど受けない状態にすることができる。このタップ32b〜32dの数はこの例に限定されるものではなく、電磁誘導の影響を受けない程度の数に設定され得る。また、スイッチ71の切り替えの時間を長くすることによりさらに立上り時間を遅延することができる。この電磁コイル32の長さを変える場合、厳密には、電磁コイル32の長さが異なると、電磁コイル32の抵抗値が変わり電流Iも変化するが、電磁コイル32としては、できるだけ抵抗が小さくなるように形成されるので、その変化は無視され得る。
【0021】
図1Aに示される制御回路7による磁場H(又は電磁コイル32の巻数N)の時間に対する変化が
図1Bに示されている。この縦軸の変化は、タップ32a〜32cの数によって、また、横軸の間隔は、スイッチ71の切り替え速度によって、自在に調整され得る。
【0022】
(実施例2)
図2Aに示される例は、電源回路6が、交流電源61と整流回路64で構成され、交流電源61の電圧は変圧器62の2次コイル63のタップ63a〜63cの切り替えによって可変され得る。
図2Aに示される例では、2次コイル63に3個のタップ63a、63b、63cが形成され、スイッチ71によって各タップ63a〜63cを切り替えられる。その出力端子は、整流回路64に接続される。整流回路64は通常の、4個のダイオードをブリッジ接続したもので、その出力が電磁石3の電磁コイル32に接続されている。この
図2Aに示される例では、例えばスイッチ71がタップ63aに接続されていると、変圧器62の2次コイル63の約1/3程度の部分だけが出力として使用される。従って、この出力を整流した直流電流は、変圧器62の2次コイル63に現れる出力の1/3程度だけの利用となり、少ない電流での起磁力となる。すなわち、スイッチ71がタップ63aに接続されている状態では、電磁コイル32に流れる電流がI/3程度となるため、前述の
図1Aに示される例と同様に、磁束Φ(磁場H)は、Φ=N・I/3となり、弱い磁束(磁場)が生じる。その後タップ63a〜63cを切り替えることによって、前述のように、10ms程度で所望の磁束(磁場)が得られる。従って、磁界の小さいのはスタート時だけであり、最終的に得られる蒸着マスク1の吸着力は、何ら影響を受けない。
【0023】
この
図2Aに示される制御回路7による磁束Φ(磁場H、電流I)の変化も、
図2Bに示されるように、
図1Bと同様に変化し得る。この場合も、縦軸の変化は、タップ63a〜63cの数によって、また、横軸の時間間隔は、スイッチ71の切り替え速度によって、自在に調整され得る。
【0024】
(実施例3)
図3Aに示される例は、いわゆるチョッパ回路を利用したもので、電源回路6から断続的に電流を流すことによって、その立ち上がりを遅らせるものである。電源回路6(直流電源)と電磁石3の電磁コイル32との間にスイッチ72と、平滑化コイル73a及びダイオード73bを有する平滑化回路73とが接続されている。平滑化コイル73aはスイッチ72と電磁石3の電磁コイル32の一端子との間に直列に接続され、ダイオード73bはスイッチ72と電磁石3の電磁コイル32の他端子との間で、電磁石3と並列に接続されている。このスイッチ72を電流の立上り時にオンオフすることで、オフの時間は、平滑化コイル73aに蓄えられたエネルギーによってダイオード73bを介して電流が流れるため、電流は完全には0にはならず若干電流が下がるだけで、再度スイッチ72がオンになると、また電流が立ち上がる。この様子が模式的に
図3Bに示されている。
【0025】
図3Bで、右上がりの曲線部分がスイッチ72をオンにしたとき、右下がりの直線部分(実際には直線にはならないが便宜的に示されている)がスイッチ72をオフにしたときである。この電流(磁場)の変化を近似的に書けば
図3Bの二点鎖線のようになる。換言すると、このようなチョッパ回路73によっても、磁束の立上りを緩やかにすることができる。磁束の立上りは、スイッチ72によるチョッパにより遅延されているが、平滑化コイル73aの影響を受けており、
図3Aの平滑化回路73を、誘導性リアクタンスによる遅延回路と見ることもできる。
【0026】
スイッチ72は、例えば
図3Cに示されるようなサイリスタが用いられ得る。サイリスタ72は、例えばpnpn接合で、内層のp層にゲート端子72gが形成されている。このゲート端子72gに半導体スイッチ素子が接続され、半導体スイッチ素子の高速切り替えによって、サイリスタ72がオンオフ制御される。サイリスタに代えて、大電力用のバイポーラトランジスタ、電界効果型トランジスタ(MOS型及び接合型を含む)、GTO、IGBTなどを使用しても、ゲート端子でオンオフをすることができる。また、電源回路が交流の場合には、ダイオードを使用することもできる。
【0027】
図3Dに示される回路は、
図3Aの変形例で、交流電源61を用いて、スイッチと整流回路74と平滑化回路75とを一体化して制御回路7が形成されている。交流を直流にするための整流回路74はスイッチを兼ねる2個のサイリスタ72bと2個のダイオード75bによるブリッジ回路で形成されている。平滑化回路75は、このダイオード75bと平滑化コイル75aとで形成されている。この回路により、入力が交流でも、直流入力の
図3Aの構造と同様に、チョッパすることができる。この制御回路7によると、交流をチョッパしながら整流して電磁石3に直流を供給することができ、
図3Aの回路と同様に、磁束の増加を緩やかにすることができる。
【0028】
(実施例4)
図4Aは、電源回路6と電磁石3との間に、電磁石3と並列にキャパシタ75が接続された構成になっている。このような構成にすることにより、電源回路6から電流が出力されると、まず、キャパシタ75に多くの電流が流れ、キャパシタ75が充電されるに従って、電磁コイル32に流れる電流が増加する。そのため、
図4Bに示されるように、電磁石3の電磁コイル32に流れる電流(磁場)は緩やかに増加する。この緩やかに増加して所定の電流値に達する時間Δtは、電磁コイル32の抵抗をR、キャパシタ75の容量をCとすると、時定数τ=R・Cと関連する。この時間Δtを、前述のように、10ms程度又はそれ以上にする必要がある。一方、電磁コイル32としては直径1mm程度の銅線(抵抗率1.71×10
-8Ω/m)を使用すると、長さ100mで、抵抗Rは0.2Ωとなる。そうすると、要求されるキャパシタの容量Cは、0.01(s)/0.2(Ω)=0.05F(F:ファラッド)=50mF=50000μFとなる。今後、この容量をできるだけ小さくするため、銅線よりも抵抗率の大きいアルミニウム線(抵抗率は銅の2倍程度)等が用いられる可能性や、コイルの最適化(コイルの線径の縮小やコイル長を長くすることにより抵抗を5倍程度に増加)を考慮すると、キャパシタ75の容量は5000μF以上とすることが好ましい。
【0029】
上述の実施例でも、電源回路6が切断される場合も急速な磁束の変化は電磁誘導の発生を伴うので、同様の回路を経由して遮断される必要がある。
図4Bでは、その遮断の場合の電流変化も図示されている。すなわち、図示されていないスイッチによって回路が切断された場合でも、キャパシタ75に蓄積された電荷が放出され、緩やかに電流が減少する。従って、キャパシタ75を備えた場合、立上り電流が緩やかに増加するだけでなく、立下り電流も緩やかに減少するため好ましい。換言すると、立下りを緩やかにするのに、誘導性リアクタンスの場合には、立上りを緩やかにする制御と同様の制御がスイッチ回路の切断の際に必要になるが、キャパシタの場合は、自動的に緩やかな立下りが得られる。
【0030】
本発明の一実施形態の蒸着装置(電源回路6及び制御回路7は図示されていない)は、
図5Aに示されるように、タッチプレート4上に載置される電磁石3と、電磁石3の一方の磁極の面にタッチプレート4を介して被蒸着基板2を保持できるように設けられる基板ホルダー29と、基板ホルダー29により保持される被蒸着基板2の電磁石3と反対面に設けられる蒸着マスク1と、蒸着マスク1と対向するように設けられ、蒸着材料を気化又は昇華させる蒸着源5とを有している。そして、蒸着マスク1が磁性体からなる金属層(金属支持層12:
図5B参照)を有し、電磁石3は、蒸着マスク1が有する金属支持層12を吸着するように電磁コイル32に電流を印加する電源回路6及び制御回路7(
図1A〜4A参照)に接続されている。蒸着マスク1は、マスクホルダー15上に載置されており、基板ホルダー29、及び、タッチプレート4を保持する支持フレーム41はそれぞれ上に持ち上げられるようになっている。そして、図示しないロボットアームにより運搬された被蒸着基板2が基板ホルダー29上に載せられ、基板ホルダー29が下げられることにより、被蒸着基板2が蒸着マスク1と接触する。さらに支持フレーム41を下げることにより、タッチプレート4が被蒸着基板2と重ね合される。その上に、電磁石3が図示しない電磁石支持部材の操作によりタッチプレート4上に装着される。なお、タッチプレート4は、被蒸着基板2を平坦にすると共に、図示されていないが内部に冷却水を循環させることにより、被蒸着基板2及び蒸着マスク1を冷却するために設けられている。このタッチプレート4は、蒸着マスク面での磁界の面内分布を均一にするために材質や厚さが定められる。
【0031】
電磁石3は、
図5Cに概略図が示されるように、鉄心などからなる磁心31の周囲に電磁コイル32が巻回されている。
図5Aは、例えば蒸着マスク1の大きさが、1.5m×1.8m程度の大きさになるので、
図5Cに示される断面が5cm角程度の大きさの磁心31を有する電磁石3が、蒸着マスク1の大きさに合せて複数個並べて配置された構造を示している(
図5Aでは、横方向が縮尺され、電磁石の数が少なく描かれている)。
図5Aに示される例では、電磁石3の各磁心31に巻回される電磁コイル32(個々の電磁石を単位電磁石という)が直列に接続されている。しかし、それぞれの単位電磁石3の電磁コイル32が並列に接続されてもよい。また、数個単位が直列に接続されてもよい。この単位電磁石の電磁コイル32の接続部にタップ32b〜32dを形成すれば、全体としての回路構造が
図1Aに示される構造に対応する。しかし、タップは単位電磁石の電磁コイル32の途中に形成されてもよい。単位電磁石の一部に独立して電流の印加をできるようにすることもできる。
【0032】
この電磁石3の電磁コイル32に直流電流が流されると、
図5Cに示されるように、右ネジの法則により磁界Hが発生する。その磁界H内に磁性体が置かれると、磁界Hの大きさに応じた磁気が磁性体に誘起される。この磁界Hの大きさは、前述のように、電磁コイル32の巻数Nと流れる電流の大きさIの積N・Iで定まる。従って、電磁コイル32の巻数Nを多くするほど、また電流Iを大きくするほど大きな起磁力N・Iを得ることができる。しかし、このN・Iの変化の割合に応じて電磁誘導が発生するので、前述のように、この変化が大きすぎるとトラブルが生じる。そこで、この急激な磁界Hの変化にならないように、前述の制御回路7(
図1A〜4A)が形成される。
【0033】
図5Aに示される例では、単位電磁石の周囲がシリコーンゴム、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂33で固定されている。この樹脂33は必ずしも必要ではないが、単位電磁石を固定することができ、電磁石3の取り扱いが容易になる。しかし、本実施形態では、この電磁石は真空状態で使用されるものであるので、単位電磁石を樹脂33で固めるのではなく、周囲を素通しにして熱放射で電磁石を冷却することができるようにすることができる。このとき、電磁石の表面が、アルマイト処理等の黒色化処理がされた処理面であることが好ましい。また、電磁石の表面が、例えば算術平均粗さRaで、10μm以上の粗面とされた粗面化処理面であってもよい。すなわち、表面粗さがRa10μm以上になるように、表面の粗面化処理が行われることが好ましい。表面粗さがRa10μmということは、粗面化が理想的な半球であるとすると、表面積が2.18倍になる。その結果、放熱効果も2倍以上になる。冷却装置は、このような熱放射又は水冷することができる装置の他、上述の電磁石3の処理面が形成された表面を有する電磁石も含む広義の意味である。連続して電流が多く流される場合には、電磁石3が発熱する可能性があり、そのような場合は、電磁石3を水冷で冷却することが好ましい。
【0034】
図5Aに示されるように、蒸着装置には基板ホルダー29及びマスクホルダー15が設けられている。この基板ホルダー29は、複数のフック状のアームで被蒸着基板2の周縁部を保持し、上下に昇降できるように、図示しない駆動装置に接続されている。ロボットアームによりチャンバー内に搬入された被蒸着基板2をフック状のアームで受け取り、被蒸着基板2が蒸着マスク1に近接するまで基板ホルダー29が下降する。そして位置合せを行えるように図示しない撮像装置も設けられている。タッチプレート4は支持フレーム41により支持され、タッチプレート4を被蒸着基板2と接するまで下降させる駆動装置に支持フレーム41を介して接続されている。タッチプレート4が下降されることにより、被蒸着基板2が平坦にされる。蒸着装置は、本実施形態の蒸着マスク1と被蒸着基板2との位置合せの際に、蒸着マスク1と被蒸着基板2のそれぞれに形成されたアライメントマークを撮像しながら、被蒸着基板2を蒸着マスク1に対して相対的に移動させる微動装置も備えている。位置合せは、電磁石3により蒸着マスク1を不必要に吸着させないように、電磁石3への通電は止めた状態で行われる。なお、図示されていないが、蒸着装置は、
図5Aに示される装置の全体がチャンバー内に入れられ、内部を真空にする装置も備えられている。
【0035】
蒸着マスク1は、樹脂フィルム11と金属支持層12と、その周囲に形成されるフレーム(枠体)14を備えており、蒸着マスク1は、
図5A及び
図5Bに示されるように、フレーム14が、マスクホルダー15上に載置される。金属支持層12に磁性材料が用いられる。その結果、電磁石3の磁心31との間で吸引力が働き、被蒸着基板2を挟んで吸着される。なお、金属支持層12は強磁性体で形成されてもよい。この場合、金属支持層12は、電磁石3の強い磁界によって、着磁(外部磁界が除去されても強い磁化が残留する状態)される。このような強磁性体が用いられていると、電磁石3と蒸着マスク1とを分離する際に、電磁石3に逆方向の電流を流した方が分離しやすい。このような着磁のための強い磁界を生成する場合でも、本実施形態の制御回路7(
図1A〜4A参照)が設けられることにより、電磁誘導による支障は生じない。
【0036】
金属支持層12としては、例えばFe、Co、Ni、Mn又はこれらの合金が用いられ得る。その中でも、被蒸着基板2との線膨張率の差が小さいこと、熱による膨張が殆どないことから、インバー(FeとNiの合金)が特に好ましい。金属支持層12の厚さは、5μm〜30μm程度に形成される。金属支持層12がなくても、周囲の枠体14が磁性体で形成されてもよい。
【0037】
なお、
図5Bでは、樹脂フィルム11の開口11aと金属支持層12の開口12aが被蒸着基板2(
図5A参照)側へ向かって先細りするようなテーパ形状になっている。その理由が以下に説明される。蒸着源5は、点状、線状、面状など、種々の蒸着源が用いられ得る。例えばるつぼが線状に並べて形成されたライン型の蒸着源5(
図5Aの紙面と垂直方向に延びている)が、例えば紙面の左端から右端まで走査されることにより、被蒸着基板2の全面に蒸着が行われる。この蒸着源5は、前述のように、るつぼの形状により定まる蒸着材料の放射ビームの断面形状が、一定角度θで広がる断面扇形の形状で、蒸着材料を放射する。この扇形の断面形状の側面側の蒸着粒子でも、金属支持層12や樹脂フィルム11に遮られることなく、被蒸着基板2の所定の場所に届くように、金属支持層12及び樹脂フィルム11の開口12a及び開口11aがテーパ状に形成されている。金属支持層12の開口12aが大きく形成されればテーパ状でなくてもよい。しかし、前述の電磁石3による吸着の効果を高める点からは、できるだけ樹脂フィルムの開口11aの近くまで達するように大きく形成されることが好ましい。
【0038】
(蒸着方法)
次に、本発明の一実施形態による蒸着方法が説明される。本発明の一実施形態の蒸着方法は、前述の
図5Aに示されるように、電磁石3と、被蒸着基板2と、磁性体を有する蒸着マスク1とを重ね合せ、かつ、電源回路6(
図1A〜4A参照)からの電磁石3への通電によって被蒸着基板2と蒸着マスク1とを吸着させる工程、及び蒸着マスク1と離間して配置される蒸着源5からの蒸着材料51の飛散によって被蒸着基板2に蒸着材料を堆積する工程、を含んでいる。そして、電磁石3と蒸着マスク1との吸着の際に、電磁石3への電流の印加が電磁石3によって発生する磁場を緩やかに変化させて行われる。電磁石3による吸着の前に、蒸着マスク1と被蒸着基板2との位置合せが行われてもよい。
【0039】
前述のように、蒸着マスク1の上に被蒸着基板2が重ねられる。この被蒸着基板2と蒸着マスク1との位置合せが次のように行われる。被蒸着基板2と蒸着マスク1のそれぞれに形成された位置合せ用のアライメントマークを撮像装置で観察しながら、被蒸着基板2を蒸着マスク1に対して相対的に移動させることにより行われる。この際、電磁石3による磁界を発生させないで行えるので、磁界の影響(吸引)を受けることなく正確な位置合せがなされ得る。この方法により、蒸着マスク1の開口11aと被蒸着基板2の蒸着する場所(例えば後述される有機EL表示装置の場合、装置基板の第1電極のパターン)とを一致させることができる。位置合せされた後は、電磁コイル32に電流が印加される。このとき、前述のように、
図5Aには図示されていないが、電源回路6と電磁石3との間に電磁石3によって発生する磁場を緩やかに変化させる制御回路7が挿入されているので、磁束変化は緩やかになる。磁束が安定したら、その磁束が維持され、電磁誘導の発生もないので、安定した磁場が得られる。その結果、電磁石3と蒸着マスク1との間で強い吸引力が働き、被蒸着基板2と蒸着マスク1とがしっかりと密着する。
【0040】
その後、
図5Aに示されるように、蒸着マスク1と離間して配置される蒸着源5からの蒸着材料51の飛散(気化又は昇華)によって被蒸着基板2に蒸着材料51が堆積される。具体的には、前述のように、るつぼなどか線状に並べて形成されたラインソースが用いられるが、これには限定されない。例えば有機EL表示装置を作製する場合、開口11aが一部の画素に形成された蒸着マスクが複数種類用意され、その蒸着マスク1が取り換えられて複数回の蒸着作業で有機層が形成される。
【0041】
この蒸着方法によれば、電磁石3により印加される磁界(磁束)は制御回路(
図1A〜4A参照)によって、印加の初期の立上りが緩やかになるため、電磁誘導による起電力が抑制される。その結果、電磁誘導により被蒸着基板2に流れる過電流が抑制され、被蒸着基板2に形成された素子や有機材料などへの影響を抑制することができる。
【0042】
(有機EL表示装置の製造方法)
次に、上記実施形態の蒸着方法を用いて有機EL表示装置を製造する方法が説明される。蒸着方法以外の製造方法は、周知の方法で行えるため、本発明の蒸着方法により有機層を積層する方法を主として、
図7A〜7Bを参照しながら説明される。
【0043】
本発明の一実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板21の上に図示しないTFT、平坦化膜及び第1電極(例えば陽極)22を形成し、その一面に蒸着マスク1を位置合せして重ね合せ、有機材料51を蒸着するに当たり、前述の蒸着方法を用いて有機層の積層膜25を形成することを含んでいる。積層膜25上に第2電極26(
図7B参照;陰極)が形成される。
【0044】
例えばガラス板などの支持基板21は、完全には図示されていないが、各画素のRGBサブ画素ごとにTFTなどのスイッチ素子が形成され、そのスイッチ素子に接続された第1電極22が、平坦化膜上に、AgあるいはAPCなどの金属膜と、ITO膜との組み合わせにより形成されている。サブ画素間には、
図7A〜7Bに示されるように、サブ画素間を区分するSiO
2又はアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などからなる絶縁バンク23が形成されている。このような支持基板21の絶縁バンク23上に、前述の蒸着マスク1が位置合せして固定される。この固定は、前述の
図5Aに示されるように、例えば支持基板21の蒸着面と反対側にタッチプレート4を介して設けられる電磁石3を用いて、吸着することにより行われる。前述のように、蒸着マスク1の金属支持層12(
図5B参照)に磁性体が用いられているので、電磁石3により磁界が与えられると、蒸着マスク1の金属支持層12が磁化して磁心31との間で吸引力が生成する。電磁石3が磁心31を有しない場合でも、電磁コイル32に流れる電流により発生する磁界によって吸着される。なお、蒸着マスク1の開口11aは絶縁バンク23の表面の間隔よりも小さく形成されている。絶縁バンク23の側壁には有機材料ができるだけ被着しないようにし、有機EL表示装置の発光効率の低下の防止が図られている。
【0045】
この状態で、
図7Aに示されるように、蒸着装置内で蒸着源(るつぼ)5から有機材料51が飛散され、蒸着マスク1の開口11aが形成された部分のみの支持基板21上に有機材料51が蒸着され、所望のサブ画素の第1電極22上に有機層の積層膜25が形成される。前述のように、蒸着マスク1の開口11aは、絶縁バンク23の表面の間隔より小さく形成されているので、絶縁バンク23の側壁には有機材料51は堆積されにくくなっている。その結果、
図7A〜7Bに示されるように、ほぼ、第1電極22上のみに有機層の積層膜25が堆積される。この蒸着工程は、順次蒸着マスク1が交換され、各サブ画素に対して行われてもよい。複数のサブ画素に同時に同じ材料が蒸着される蒸着マスクが用いられてもよい。蒸着マスク1が交換される場合には、
図7Aには図示されていない電磁石3(
図5A参照)により蒸着マスク1の金属支持層12(
図5B参照)への磁界を除去するように電源回路6(
図1A〜4A参照)がオフにされる。この際にも、支持基板21に形成されるTFTなどの素子が電磁誘導の影響を抑制できるように制御回路7が動作するように形成される。
【0046】
図7A〜7Bでは、有機層の積層膜25が単純に1層で示されているが、有機層の積層膜25は、異なる材料からなる複数層の積層膜で形成されてもよい。例えば陽極22に接する層として、正孔の注入性を向上させるイオン化エネルギーの整合性の良い材料からなる正孔注入層が設けられる場合がある。この正孔注入層上に、正孔の安定な輸送を向上させると共に、発光層への電子の閉じ込め(エネルギー障壁)が可能な正孔輸送層が、例えばアミン系材料により形成される。さらに、その上に発光波長に応じて選択される発光層が、例えば赤色、緑色に対してはAlq
3に赤色又は緑色の有機物蛍光材料がドーピングされて形成される。また、青色系の材料としては、DSA系の有機材料が用いられる。発光層の上には、さらに電子の注入性を向上させると共に、電子を安定に輸送する電子輸送層が、Alq
3などにより形成される。これらの各層がそれぞれ数十nm程度ずつ積層されることにより有機層の積層膜25が形成されている。なお、この有機層と金属電極との間にLiFやLiqなどの電子の注入性を向上させる電子注入層が設けられることもある。本実施形態では、これらも含めて有機層の積層膜25と言っている。このような積層膜25は、電磁誘導の影響を受ける可能性があるが、本実施形態では、前述のように電源回路6と電磁石3と間に制御回路71〜75(
図1A〜4A)が接続されているので、立上りが緩やかになり、電磁誘導の影響が抑制される。
【0047】
有機層の積層膜25のうち、発光層は、RGBの各色に応じた材料の有機層が堆積される。また、正孔輸送層、電子輸送層などは、発光性能を重視すれば、発光層に適した材料で別々に堆積されることが好ましい。しかし、材料コストの面を勘案して、RGBの2色又は3色に共通して同じ材料で積層される場合もある。2色以上のサブ画素で共通する材料が積層される場合には、共通するサブ画素に開口が形成された蒸着マスクが形成される。個々のサブ画素で蒸着層が異なる場合には、例えばRのサブ画素で1つの蒸着マスク1を用いて、各有機層を連続して蒸着することができる。また、RGBで共通の有機層が堆積される場合には、その共通層の下側まで、各サブ画素の有機層の蒸着がなされ、共通の有機層のところで、RGBに開口が形成された蒸着マスク1を用いて一度に全画素の有機層の蒸着がなされる。なお、大量生産する場合には、蒸着装置のチャンバーが何台も並べられ、それぞれに異なる蒸着マスク1が装着されていて、支持基板21(被蒸着基板2)が各蒸着装置を移動して連続的に蒸着が行われてもよい。
【0048】
LiF層などの電子注入層などを含む全ての有機層の積層膜25の形成が終了したら、前述のように、電磁石3の電源回路6をオフにし蒸着マスク1から電磁石3が分離される。その後、第2電極(例えば陰極)26が全面に形成される。
図7Bに示される例は、トップエミッション型で、図中支持基板21と反対面から光を出す方式になっているので、第2電極26は透光性の材料、例えば、薄膜のMg-Ag共晶膜により形成される。その他にAlなどが用いられ得る。なお、支持基板21側から光が放射されるボトムエミッション型の場合には、第1電極22にITO、In
3O
4などが用いられ、第2電極26としては、仕事関数の小さい金属、例えばMg、K、Li、Alなどが用いられ得る。この第2電極26の表面には、例えばSi
3N
4などからなる保護膜27が形成される。なお、この全体は、図示しないガラス、樹脂フィルムなどからなるシール層により封止され、有機層の積層膜25が水分を吸収しないように構成される。また、有機層はできるだけ共通化し、その表面側にカラーフィルタを設ける構造にすることもできる。
【0049】
(まとめ)
(1)本発明の第1の実施形態に係る蒸着装置は、電磁石と、前記電磁石の一つの磁極と対向する位置に設けられるべき被蒸着基板を保持する基板ホルダーと、前記基板ホルダーにより保持される前記被蒸着基板の前記電磁石が設けられていない面に設けられ、磁性体を有する蒸着マスクと、前記蒸着マスクと対向させて設けられ、蒸着材料を気化又は昇華させる蒸着源と、前記電磁石を駆動する電源回路と、前記電源回路と前記電磁石との間に接続され、前記電磁石への電流の印加の際に前記電磁石によって発生する磁界を緩やかに変化させる制御回路と、を含んでいる。
【0050】
本発明の一実施形態の蒸着装置によれば、電磁石で蒸着マスクを吸着する構成にしているので、被蒸着基板と蒸着マスクとの位置合せは、磁場の印加なしで容易に行うことができる。また、磁場の印加によって、その間に挟まれる被蒸着基板と蒸着マスクとが充分に密着され得る。しかも、電磁石により発生する磁場の変化を緩やかにする制御回路が電源回路と電磁石の電磁コイルとの間に挿入されているので、電磁石に電流を投入しても、被蒸着基板に形成されるTFTなどの素子が、電流の投入によって発生する電磁誘導の影響を受けるのを抑制し得る。
【0051】
(2)前記制御回路が、前記電磁石の電磁コイルへの電流の投入から前記電磁コイルで所定の電流に達するまでの立上り時間をミリ秒のオーダにする回路を含むことが好ましい。こうすることにより、立上り時間が従来の100倍以上となり、磁束の変化が小さくなるので、電磁誘導の影響を防止できる。
【0052】
(3)前記制御回路が、前記電磁石のコイルの途中に形成される複数個のタップと前記電源回路との接続を順次切り替えることで、前記電磁石によって発生する磁界を緩やかに変化させる回路であってもよい。この構造であれば、コイルの巻数が徐々に増えるので、磁場が徐々に増加し、立上り時間が延ばされ得る。
【0053】
(4)前記電源回路が、交流電源と2次コイルに複数個のタップを有する変圧器とを含み、前記制御回路が、前記2次コイルの複数個のタップを順次切り替えるスイッチ回路と該スイッチ回路の交流出力を直流に変換する整流回路とを有し、前記整流回路の出力が前記電磁石のコイルに接続されている回路であってもよい。この構成でも、電流が徐々に増加するので、磁場が徐々に増加し、立上り時間が延ばされ得る。
【0054】
(5)前記制御回路がチョッパ制御回路により形成され、前記チョッパ制御回路では前記電源回路の一対の出力端子の第1端子と前記電磁石のコイルの一端との間にスイッチ回路及び誘導性リアクタンス素子が直列に接続され、前記スイッチ回路の前記誘導性リアクタンス素子との接続点と前記電源回路の一対の出力端子の第2端子との間で前記電磁石と並列に、かつ、前記電源回路の極性と逆向きにダイオードが接続されている回路でもよい。この構造であれば、立上り時間が断続されるので、同様に立上り時間が延ばされ得る。
【0055】
(6)前記スイッチ回路が、GTOサイリスタ、IGBT、ダイオード、バイポーラトランジスタ、及び電界効果型トランジスタから選ばれる1つにより形成されることにより、簡単な構成で立上り時間が断続され得る。
【0056】
(7)前記制御回路が、前記電源回路の一対の出力端子の間に前記電磁石と並列に接続される容量性リアクタンス素子を含んでいてもよい。この構成であれば、例えばキャパシタの挿入のみで、立上り時間が延ばされ得る。
【0057】
(8)前記容量性リアクタンス素子が、少なくとも5000μFの容量を有すれば、電磁誘導の問題を生じない程度に、電流の立上りが緩やかにされ得るので好ましい。また、容量性リアクタンスであれば、電源回路が切断される際の立下りも自動的に緩やかになるので、電磁誘導の影響を防止する観点から、特に優れている。
【0058】
(9)前記蒸着マスクの有する磁性体が、強磁性体であってもよい。
【0059】
(10)前記電磁石が1個の前記蒸着マスクに対して複数個の電磁石エレメントで形成され、前記電源回路が前記複数個の電磁石エレメントのうち、少なくとも1個は独立して発生磁界を変化させる回路を有していれば、個々の電磁石の磁場の強さが調整され得る。
【0060】
(11)前記電磁石を冷却する冷却装置が前記電磁石に近接して設けられていることが、電流が大きくても電磁石を冷却しやすいので好ましい。
【0061】
(12)前記電磁石の表面が、アルマイト処理面、黒色化処理面、及び粗面化処理面の少なくとも1つの処理面にされていることが、放熱がよくなるため好ましい。
【0062】
(13)前記粗面化処理面が、表面粗さRaで10μm以上であることがさらに好ましい。
【0063】
(14)また、本発明の第2の実施形態の蒸着方法は、電磁石と、被蒸着基板と、磁性体を有する蒸着マスクとを、重ね合せ、かつ、電源回路からの前記電磁石への通電によって前記被蒸着基板と前記蒸着マスクとを吸着させる工程、及び前記蒸着マスクと離間して配置される蒸着源からの蒸着材料の飛散によって前記被蒸着基板に前記蒸着材料を堆積する工程、を含み、前記電磁石と前記蒸着マスクとの吸着の際に、前記電磁石への電流の印加を前記電磁石によって発生する磁場を緩やかに変化させて行うことを含んでいる。
【0064】
本発明の第2の実施形態の蒸着方法によれば、被蒸着基板と蒸着マスクとの位置合せが、電磁石による吸引なしでできるので、容易に行われ得る。しかも、その後電磁石の駆動により、被蒸着基板と蒸着マスクとの吸着が完全に行われ得る。この際、磁場の発生が緩やかに生じるので、被蒸着基板に形成された素子の破損や、その素子や有機層の特性の劣化が抑制され得る。
【0065】
(15)前記電磁石への電流の印加を、前記電磁石の電磁コイルへの電流の投入から前記電磁コイルで所定の電流に達するまでの立上り時間がミリ秒のオーダになるべく行うことが好ましい。立上り時間が大きくなることによって、磁束の変化が小さくなり、電磁誘導の影響を少なくすることができる。
【0066】
(16)前記電磁石のコイルの巻数を変えて電流を流すことで、前記電磁石によって発生する磁界を緩やかに変化させ得る。
【0067】
(17)前記電磁石のコイルへの電流の印加を、リアクタンス素子を介して行なうことにより、磁界の発生が緩やかにされ得る。
【0068】
(18)さらに、本発明の第3の実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板上にTFT及び第1電極を少なくとも形成し、前記支持基板上に前記(14)〜(17)のいずれか1項に記載の蒸着方法を用いて有機材料を蒸着することによって有機層の積層膜を形成し、前記積層膜上に第2電極を形成することを含んでいる。
【0069】
本発明の第3の実施形態の有機EL表示装置の製法によれば、有機EL表示装置が製造される際に、支持基板の上に形成される素子や有機層の特性が劣化せず、繊細なパターンの表示画面が得られる。
実施形態により開示される蒸着装置は、電磁石(3)により蒸着マスクが吸着される構造になっており、電磁石(3)を駆動する電源回路(6)と電磁石(3)との間に接続され、電磁石(3)への電流の印加の際に電磁石(3)によって発生する磁界を緩やかに変化させる制御回路(7)を含んでいる。その結果、電磁石(3)の電磁コイル(32)に流れる電流の変化が緩やかになり、電磁誘導による影響が抑制され、被蒸着基板に形成される素子などの不良や、素子特性の劣化を抑制する。