(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(B)乳酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又は塩の含有量が、0.01質量%以上5.0質量%以下である、請求項1記載の鋼板用洗浄剤。
前記(B)乳酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又は塩と、前記(C)非イオン界面活性剤の質量比〔(B)/(C)〕が、0.1以上20以下である、請求項1又は2記載の鋼板用洗浄剤。
汚れが付着した鋼板を前記請求項1〜3のいずれか1項記載の鋼板用洗浄剤に浸漬して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程の後、浸漬して洗浄した被洗浄鋼板を水でリンスするリンス工程とを有する、鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の鋼板用洗浄剤(以下、単に「洗浄剤」ともいう)は、(A)アルカリ剤(以下、「A成分」ともいう)と、(B)乳酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又は塩(以下、「B成分」ともいう)と、(C)特定の非イオン界面活性剤(以下、「C成分」ともいう)と、(D)グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上のキレート剤(以下、「D成分」ともいう)と、(E)水とを含有する。
【0012】
従来のアルカリ性の鋼板用洗浄剤は、前記特許文献1に開示されているように、アルカリ剤と、非イオン界面活性剤と、キレート剤と、水とを含有する。本実施形態の鋼板用洗浄剤はさらに、特定のB成分及びC成分として特定の非イオン界面活性剤を含有することにより、より低温条件(例えば、30℃)であっても良好な洗浄性が得られる。本実施形態の効果の発現機構は定かではないが、以下のように考えられる。
【0013】
低温での洗浄では、鋼板上の汚れ成分(圧延油等)の粘度が上昇し洗浄性が低下すると考えられる。しかし、本件発明は、前記B成分によって鋼板表面を軽くエッチングし、汚れ成分をエッチングされた鋼板表面と共に除去することにより、低温条件での粘度の上昇の影響受けることなく良好な洗浄性を有すると考えられる。さらに、前記C成分は、炭化水素基の炭素数が8以上16以下であるため、窒素原子を含む界面活性剤や炭素数が18以上の界面活性剤と比較して鋼板表面に吸着し難い。そのため、前記B成分と前記C成分を組み合わせることにより、前記B成分による鋼板表面のエッチングを阻害せず、低温でも良好な洗浄性を有すると考えられる。
【0014】
〔鋼板用洗浄剤〕
<A成分:(A)アルカリ剤>
A成分は、油汚れの除去性を確保するため、水溶性のアルカリ剤であればいずれのものも使用できるが、中でも無機アルカリ剤が好ましい。無機アルカリ剤の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム等のアルカリ金属の珪酸塩、リン酸三ナトリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム等のアルカリ金属のホウ酸塩等を用いることができる。二種以上の水溶性アルカリ剤を組み合わせてもよい。油汚れの除去性を確保し洗浄性を高める観点から、アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ金属の珪酸塩が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、オルソ珪酸ナトリウム及びメタ珪酸ナトリウムがより好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが更に好ましい。
【0015】
A成分の含有量は、洗浄性及び抑泡性を確保する観点から、洗浄剤中、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、そして、洗浄剤の保存安定性の観点から、10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。
【0016】
<B成分:(B)乳酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又は塩>
B成分は、低温洗浄性を向上させるために配合される。当該B成分は、乳酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらの塩の内、低温洗浄性の向上の観点から、乳酸、クエン酸、及びこれらの塩がより好ましい。
【0017】
B成分の含有量は、低温洗浄性の向上の観点から、洗浄剤中、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、0.10質量%以上がより更に好ましく、0.15質量%以上がより更に好ましく、そして、油汚れの除去性の観点から、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましく、0.80質量%以下がより更に好ましく、0.50質量%以下がより更に好ましく、0.40質量%以下がより更に好ましく、0.30質量%以下がより更に好ましい。なお、B成分が塩である場合は、酸型の構造に換算した質量を上記範囲とする。
【0018】
<C成分:(C)非イオン界面活性剤>
C成分は、前記一般式(1)で示される化合物から選ばれるいずれか少なくとも1種が用いられる。
【0019】
前記一般式(1)で示される化合物において、R
1である炭素数8以上16以下の脂肪族炭化水素基としては、油の洗浄性の観点から、直鎖や分岐鎖が挙げられ、同様の観点から、直鎖が好ましい。また、R
1の脂肪族炭化水素基としては、飽和(アルキル基)及び不飽和(アルケニル基)が挙げられる。R
1の炭素数は8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上が更に好ましく、そして、14以下が好ましく、13以下がより好ましい。前記一般式(1)で示される化合物の具体例としてはポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルが挙げられる。炭化水素基としては、カプリル基、カプリン基、ウンデカ基、ラウリル基、イソドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基等が挙げられる。
【0020】
前記一般式(1)で示される化合物において、EOはエチレンオキシ基であり、POはプロピレンオキシ基である。エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基は、付加モル数による分布を有するが、油の洗浄性の観点から、エチレンオキシ基の平均付加モル数nは2以上20以下であり、プロピレンオキシ基の平均付加モル数mは1以上20以下である。エチレンオキシ基の平均付加モル数nは、油の洗浄性の観点から、5以上が好ましく、8以上がより好ましく、12以上が更に好ましく、そして、18以下が好ましく、16以下がより好ましい。プロピレンオキシ基の平均付加モル数mは、油の洗浄性の観点から、1以上が好ましく、そして、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。また、油の洗浄性の観点から、エチレンオキシ基の平均付加モル数nがプロピレンオキシ基の平均付加モル数mよりも大きいことが好ましい。
【0021】
前記一般式(1)中の{(EO)
n/(PO)
m}は、エチレンオキシ基とプロピレンオキシ基の配列に制限はなく、ブロック体でも、ランダム体でもよいことを示す。油の洗浄性の観点から、ブロック体が好ましく、なかでも、−(EO)
n1−(PO)
m−(EO)
n2−(但し、n1+n2=n)の3段ブロック体がより好ましい。n1は1以上が好ましく、3以上がより好ましく、そして、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。mは1以上が好ましく、そして、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。n2は1以上が好ましく、3以上がより好ましく、そして、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。
【0022】
C成分の含有量(前記一般式(1)で示される化合物から選ばれる2種以上を併用する場合はその合計含有量)は、油の洗浄性を確保する観点から、洗浄剤中、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、そして、抑泡性の観点から、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下がより更に好ましい。
【0023】
本実施形態の洗浄剤において、B成分とC成分の質量比〔B成分/C成分〕は、油の洗浄性を確保する観点から、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.5以上が更に好ましく、0.8以上がより更に好ましく、1.5以上がより更に好ましく、そして、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下が更に好ましく、5以下がより更に好ましく、3以下がより更に好ましい。
【0024】
<D成分:(D)グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上のキレート剤>
D成分は、鉄石けん等の汚れに作用して鉄イオン等をキレートし、脂肪酸ナトリウム石けんにして汚れを溶解し易くして、油の洗浄性を向上させると考えられる。D成分としては、グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸又はその塩であり、アルカリ金属塩又は低級アミン塩が好ましい。更には、油の洗浄性の観点から、グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が好ましい。D成分は少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができるが、油の洗浄性の向上の観点から、2種以上を組み合わせることが好ましく、グルコン酸又はその塩と、エチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩を組み合わせるのが好ましく、グルコン酸ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸ナトリウムの組み合わせがより好ましい。
【0025】
D成分の含有量は、油の洗浄性を確保とその効果の向上度の観点から、洗浄剤中、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上が更に好ましく、そして、10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.30質量%以下がより更に好ましい。なお、D成分が塩である場合は、酸型の構造に換算した質量を上記範囲とする。
【0026】
グルコン酸又はその塩と、エチレンジアミン四酢酸又はその塩を併用する場合には、油の洗浄性の向上の観点から、グルコン酸又はその塩を、エチレンジアミン四酢酸又はその塩より多く含有させることが好ましい。
【0027】
<(E)水>
本実施形態の鋼板用洗浄剤は、A〜D成分に加えて、更に水を配合することにより調製される。水としては、水道水、工業用水、脱イオン水が挙げられ、脱イオン水が好ましい。水により、鋼板用洗浄剤中の濃度を制御できる。また、本実施形態の鋼板用洗浄剤は、A〜D成分を含有し、水の含有量が少ない濃縮された組成物を、使用時に水で希釈により各成分の濃度を調製して用いることができる。
【0028】
水の含有量は、洗浄剤の保存安定性の観点から、洗浄剤中、75質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、そして、油の洗浄性の向上の観点から、98.7質量%以下が好ましく、98.0質量%以下がより好ましい。
【0029】
本実施形態の鋼板用洗浄剤がA〜D成分以外の成分を含まない場合には、鋼板用洗浄剤中の水の含有量は、前記A〜D成分の残部である。本実施形態の鋼板用洗浄剤におけるA〜D成分の合計の含有量は、油の洗浄性の向上の観点から、0.13質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、そして、洗浄剤の保存安定性の観点から、25質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
【0030】
本実施形態の鋼板用洗浄剤は、油の洗浄性を確保する観点からpHは、12以上が好ましく、13以上がより好ましく、14以上が更に好ましい。pHはA成分の種類及び量より調整することができる。なお、本実施形態の鋼板用洗浄剤には、前記成分の他に、任意の添加剤を加えることができるが、当該添加剤は、A成分によりpHを有効に調整できるように、pHへの緩衝作用の小さいものが好ましい。
【0031】
A〜E成分以外の成分のその他の成分としては、消泡剤、ポリアクリル酸等の分散剤、増粘剤等が挙げられる。これらのその他の成分の含有量は水の一部として置き換えることができる。さらに、低温洗浄性向上の観点から、下記一般式(2)で示されるグリコールエーテルから選ばれるいずれか少なくとも1種が用いることが好ましい。
R−O−(EO)
x−R’ (2)
(Rは炭素数4の脂肪族炭化水素基、R’は水素原子又は炭素数1以上4以下の脂肪族炭化水素基、EOはエチレンオキシ基、xはEOの平均付加モル数であり1以上3以下を満たす数である。)
【0032】
前記一般式(2)で示される化合物は、低温洗浄性向上の観点から、Rが炭素数4の脂肪族炭化水素基、R’が水素原子または炭素数1以上4以下の脂肪族炭化水素基を持ったグリコールエーテルから選ばれる1種以上である。
【0033】
R及びR’の脂肪族炭化水素基としては、直鎖や分岐鎖が挙げられ、低温洗浄性向上の観点から、直鎖が好ましい。Rとしては、n−ブチル基、イソブチル基、ターシャリブチル基を用いることができ、R’としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ターシャリブチル基を用いることができる。Rは、低温洗浄性向上の観点から、n−ブチル基、イソブチル基が好ましく、イソブチル基がより好ましい。R’は、低温洗浄性向上の観点から、水素原子、炭素数4の脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0034】
前記一般式(2)で示される化合物において、EOはエチレンオキシ基である。エチレンオキシ基、付加モル数による分布を有しても良い。低温洗浄性向上の観点から、エチレンオキシ基の平均付加モル数xは1以上であり、そして、3以下であり、2以下が好ましく、1がより好ましい。
【0035】
前記一般式(2)で示される化合物の具体例としては、ジメチルジグリコール、ジメチルジグリコール、ブチルグリコール、イソブチルグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、ジブチルジグリコール、ヘキシルジグリコール、等が挙げられる。これらの中でも、低温洗浄性向上の観点から、ブチルグリコール、イソブチルグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、ジブチルジグリコール、が好ましく、ブチルグリコール、イソブチルグリコールがより好ましく、イソブチルグリコールが更に好ましい。
【0036】
一般式(2)で示される化合物の含有量(併用する場合はその合計含有量)は、低温洗浄性向上の観点から、洗浄剤中、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.08質量%以上が更に好ましく、0.10質量%以上がより更に好ましく、そして、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下がより更に好ましい。
【0037】
本実施形態の鋼板用洗浄剤の調製方法は、特に制限されないが、例えば、D成分を水へ溶解させる観点から、D成分と水を混合し完全にD成分が溶解するまで撹拌して混合液を調製する。前記撹拌は、混合液が均一に混ざり合えばどのような撹拌でもよい。次いで、D成分を含んだ混合液にA成分を配合し撹拌した混合液に、さらにB成分及びC成分を配合する調整方法をとることが挙げられる。
【0038】
本実施形態の鋼板用洗浄剤は、油汚れ及び鉄粉などの固体汚れが付着した鋼板から、汚れを洗浄して除去する洗浄剤として用いられる。
【0039】
本実施形態の鋼板用洗浄剤は、例えば、鋼板を圧延油の存在下で冷間圧延する工程と、圧延された鋼板に付着する圧延油を洗浄剤により洗浄する工程を含む冷間圧延鋼板の製造方法における、前記洗浄工程において、アルカリ洗浄剤として用いることができる。即ち、前記冷間圧延鋼板の製造方法の前記洗浄工程において、アルカリ洗浄剤として本発明の鋼板用洗浄剤を用いること以外は、従来と同様の方法を採用することができる。前記冷間圧延する工程は、製鉄所等において鋼板を圧延油の存在下で冷間圧延する加工処理工程である。
【0040】
本実施形態の鋼板用洗浄剤を用いた洗浄工程では、本実施形態の鋼板用洗浄剤に鋼板を浸漬して行うことが好ましい。油の洗浄性の観点から、鋼板用洗浄剤のpHが12以上で行うことが好ましく、13以上がより好ましく、14以上が更に好ましい。
【0041】
前記洗浄工程における洗浄温度は、油の洗浄性の観点から、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、エネルギーコストを削減する観点から、40℃以下が好ましく、38℃以下がより好ましく、35℃以下が更に好ましい。
【0042】
前記洗浄工程における浸漬時間は、洗浄性の観点から、0.1秒以上が好ましく、0.5秒以上がより好ましく、鋼板の生産性の観点から、15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
【0043】
本実施形態の鋼板用洗浄剤が対象とする好ましい鋼板としては、例えば、パーム油を含有する合成エステル系圧延油で冷間圧延された鋼板が挙げられる。
【0044】
本実施形態の鋼板用洗浄剤を用いることができる洗浄工程は、連続洗浄、即ち浸漬洗浄、スプレー洗浄、ブラシ洗浄、電解洗浄等が挙げられ、圧延油等の油汚れ及び鉄粉などの固体汚れを洗浄除去することができる。本発明の鋼板用洗浄剤は、洗浄工程が浸漬ならびに電解洗浄であることが好ましく、圧延された鋼板を、アルカリ浸漬洗浄槽ならびにアルカリ電解洗浄槽内にロールにより通過させる場合に好適に適用される。
【0045】
電解洗浄は洗浄液中で鋼板をプラス(又はマイナス)にし、直流電流を流す洗浄方法であり、電流により鋼板から発生する酸素(又は水素)の気泡を利用し、物理力により鋼板に付着した油汚れや鉄粉などの固体汚れを取る工程である。
【0046】
本実施形態の鋼板用洗浄剤を用いた電解洗浄において、電解洗浄時の電流密度は、0.5A/dm
2以上が好ましく、1A/dm
2以上がより好ましく、30A/dm
2以下が好ましく、20A/dm
2以下がより好ましい。
【0047】
洗浄工程の後には、浸漬して洗浄した被洗浄鋼板を水でリンスするリンス工程を設けることができる。リンス工程における温度や浸漬時間の条件は適宜調整することができる。温度は、油の洗浄性の観点から、5℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、エネルギーコストを削減する観点から、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。浸漬時間は、洗浄性の観点から、0.1秒以上が好ましく、0.5秒以上がより好ましく、鋼板の生産性の観点から、15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
【0048】
洗浄後に得られる鋼板は自動車用鋼板や缶詰などの飲料用鋼板、家電用鋼板など様々な用途に用いることができる。洗浄後の鋼板表面の油汚れなどの付着量は、鋼板の用途により異なるが、洗浄前の鋼板の炭素付着質量を100%とした時、洗浄後に5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。
【0049】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法、組成物、或いは用途を開示する。
<1>(A)アルカリ剤と、(B)乳酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又は塩と、(C)下記一般式(1):
R
1−O−{(EO)
n/(PO)
m}−H (1)
(R
1は炭素数8以上16以下の脂肪族炭化水素基、EOはエチレンオキシ基、POはプロピレンオキシ基であり、nはEOの平均付加モル数、mはPOの平均付加モル数であり、nは2以上20以下、mは1以上20以下を満たす数、{ }内のPOとEOの付加形態はランダム配列、ブロック配列のいずれでもよい。)で表される非イオン界面活性剤と、(D)グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上のキレート剤と、(E)水とを含有する鋼板用洗浄剤。
<2>前記(A)アルカリ剤が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の珪酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、炭酸二カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属のホウ酸塩からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい、前記<1>記載の鋼板用洗浄剤。
<3>前記アルカリ金属の水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上であることが好ましく、前記アルカリ金属の珪酸塩が、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウムから選ばれる1種以上であることが好ましく、前記アルカリ金属のリン酸塩が、リン酸三ナトリウムであることが好ましく、前記アルカリ金属の炭酸塩が、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウムから選ばれる1種以上であることが好ましく、前記アルカリ金属のホウ酸塩が、ホウ酸ナトリウムであることが好ましい前記<1>又は<2>記載の鋼板用洗浄剤。
<4>前記(A)アルカリ剤の含有量は、鋼板用洗浄剤中、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい前記<1>〜<3>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<5>前記(B)乳酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又は塩の含有量が、鋼板用洗浄剤中、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、0.10質量%以上がより更に好ましく、0.15質量%以上がより更に好ましく、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましく、0.80質量%以下がより更に好ましく、0.50質量%以下がより更に好ましく、0.40質量%以下がより更に好ましく、0.30質量%以下がより更に好ましい前記<1>〜<4>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<6>前記(C)非イオン界面活性剤が、R
1が、直鎖又は分岐鎖であり、飽和(アルキル基)及び/又は不飽和(アルケニル基)であることが好ましい前記<1>〜<5>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<7>前記R
1の炭素数が、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上が更に好ましく、14以下が好ましく、13以下がより好ましい前記<1>〜<6>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<8>前記平均付加モル数nは、5以上が好ましく、8以上がより好ましく、12以上が更に好ましく、18以下が好ましく、16以下がより好ましい前記<1>〜<7>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<9>前記平均付加モル数mは、1以上が好ましく、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が更に好ましい前記<1>〜<8>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<10>前記平均付加モル数nが前記平均付加モル数mよりも大きいことが好ましい前記<1>〜<9>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<11>前記(C)非イオン界面活性剤の含有量が、鋼板用洗浄剤中、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下がより更に好ましい前記<1>〜<10>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<12>前記(B)乳酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又は塩と、前記(C)非イオン界面活性剤の質量比〔(B)/(C)〕が、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.5以上が更に好ましく、0.8以上がより更に好ましく、1.5以上がより更に好ましく、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下が更に好ましく、5以下がより更に好ましく、3以下がより更に好ましい前記<1>〜<11>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<13>前記(D)グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上のキレート剤の含有量が、鋼板用洗浄剤中、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上が更に好ましく、10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.30質量%以下がより更に好ましい前記<1>〜<12>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<14>前記(E)水の含有量が、鋼板用洗浄剤中、75質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、98.7質量%以下が好ましく、98.0質量%以下がより好ましい前記<1>〜<13>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<15>前記(A)〜(D)の合計の含有量は、鋼板用洗浄剤中、0.13質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、25質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい前記<1>〜<14>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<16>下記一般式(2):
R−O−(EO)
x−R’ (2)
(Rは炭素数4の脂肪族炭化水素基、R’は水素原子又は炭素数1以上4以下の脂肪族炭化水素基、EOはエチレンオキシ基、xはEOの平均付加モル数であり1以上3以下を満たす数である。)で示されるグリコールエーテルから選ばれるいずれか少なくとも1種を含むことが好ましい前記<1>〜<15>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<17>前記Rが、直鎖又は分岐鎖であることが好ましい前記<1>〜<16>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<18>前記R’が、直鎖又は分岐鎖であることが好ましい前記<1>〜<17>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<19>前記エチレンオキシ基の平均付加モル数xが、1以上が好ましく、3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1が更に好ましい前記<1>〜<18>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<20>前記(B)グリコールエーテルの含有量(併用する場合はその合計含有量)が、鋼板用洗浄剤中、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.08質量%以上が更に好ましく、0.10質量%以上がより更に好ましく、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下がより更に好ましい前記<1>〜<19>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<21>pHが、12以上が好ましく、13以上がより好ましく、14以上が更に好ましい前記<1>〜<20>いずれか記載の鋼板用洗浄剤。
<22>汚れが付着した鋼板を前記<1>〜<21>いずれか記載の鋼板用洗浄剤に浸漬して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程の後、浸漬して洗浄した被洗浄鋼板を水でリンスするリンス工程とを有する、鋼板の製造方法。
<23>前記洗浄工程における洗浄温度が、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以下が好ましく、38℃以下がより好ましく、35℃以下が更に好ましい前記<22>記載の鋼板の製造方法。
<24>前記洗浄工程において鋼板を鋼板用洗浄剤に浸漬する時間が、0.1秒以上が好ましく、0.5秒以上がより好ましく、15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい前記<22>又は<23>記載の鋼板の製造方法。
<25>前記洗浄工程が、浸漬洗浄、スプレー洗浄、ブラシ洗浄、電解洗浄の少なくともいずれかであることが好ましい前記<22>〜<24>いずれか記載の鋼板の製造方法。
<26>前記洗浄工程が、電解洗浄であり、電解洗浄時の電流密度が、0.5A/dm
2以上が好ましく、1A/dm
2以上がより好ましく、30A/dm
2以下が好ましく、20A/dm
2以下がより好ましい前記<22>〜<25>いずれか記載の鋼板の製造方法。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0051】
〔鋼板用洗浄剤の調製〕
<実施例1〜18、及び比較例1〜10>
上記実施例等の洗浄剤は、表1に示した成分及び配合量で以下の手順で300g調製した。表1に記載の配合量の単位は質量%である。
1.300mlのビーカーに(D)キレート剤と水を混合撹拌して混合液を得た。
2.前記1で得られた混合液に(A)アルカリ剤を配合して、撹拌した。
3.前記2で得られた混合液に(C)非イオン界面活性剤と、(B)多価カルボン酸として、乳酸、シュウ酸、及び/またはクエン酸を配合し、撹拌して洗浄剤を得た。
実施例14では、(C)非イオン界面活性剤、(B)多価カルボン酸を配合する際にイソブチルグリコールを更に配合した。実施例17では、(C)非イオン界面活性剤、(B)多価カルボン酸を配合する際にブチルグリコールを更に配合した。実施例18では、(C)非イオン界面活性剤、(B)多価カルボン酸を配合する際にブチルジグリコールを更に配合した。
【0052】
(C)非イオン界面活性剤の欄に記載の非イオン界面活性剤1〜3は下記の非イオン界面活性剤である。
【0053】
<非イオン界面活性剤1>
非イオン界面活性剤1は、下記製造例1に従って製造された下記一般式(3)で表される非イオン界面活性剤である。
C
6H
13(C
6H
13)CH−O−(EO)
5−(PO)
2−(EO)
5−H (3)
(一般式(1)において、R
1は炭素数13のアルキル基、n=10、m=2、3段ブロック体)
【0054】
<非イオン界面活性剤2>
非イオン界面活性剤2は、下記製造例2に従って製造された下記一般式(4)で表される非イオン界面活性剤である。
C
12H
25,C
14H
29−O−(EO)
7−(PO)
1.5−(EO)
7−H (4)
(ただし、一般式(4)において、C
12H
25,C
14H
29−はC
12H
25−とC
14H
29−の混合物であることを示す。すなわち、一般式(1)において、R
1は炭素数12と14のアルキル基の混合物、n=14、m=1.5、3段ブロック体)
【0055】
<非イオン界面活性剤3>
非イオン界面活性剤3は、下記一般式(5)で表される非イオン界面活性剤(商品名:ブラウノンO−209、青木油脂工業社製)である。
【化1】
(一般式(5)において、R
2は炭素数18のアルケニル基、p+q=9)
【0056】
<製造例1(非イオン界面活性剤1の製造例)>
オートクレーブに7−トリデカノール200.4g(1モル)及びKOH(触媒)0.30g(0.4質量%)を仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、7−トリデカノールを撹拌しながらオートクレーブ内の温度を130℃に昇温した。エチレンオキサイド220g(5モル)を3.5kg/cm
2の圧力(ゲージ圧)でオートクレーブ中に導入し、前記圧力が低下して一定になるまで7−トリデカノールとエチレンオキサイドとを反応させた後、オートクレーブ内の温度を120℃まで下げた。次いで、プロピレンオキサイド116g(2モル)を3.5kg/cm
2の圧力(ゲージ圧)でオートクレーブ中に導入した。前記圧力が低下して一定になるまでとプロピレンオキサイドを反応させた後、オートクレーブ内の温度を130℃まで昇温した。エチレンオキサイド220g(5モル)を3.5kg/cm
2の圧力(ゲージ圧)でオートクレーブ中に導入し、前記圧力が低下して一定になるまでエチレンオキサイドを反応させた後、オートクレーブ内の温度を室温まで低下させて、非イオン界面活性剤1を約750g得た。
【0057】
<製造例2(非イオン界面活性剤2の製造例)>
オートクレーブにn−ドデカノール93.2g(0.5モル)、n−テトラデカノール107.2g(0.5モル)、及びKOH(触媒)0.30g(0.4質量%)を仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した後、n−ドデカノールとn−テトラデカノールを撹拌しながらオートクレーブ内の温度を130℃に昇温した。エチレンオキサイド308g(7モル)を3.5kg/cm
2の圧力(ゲージ圧)でオートクレーブ中に導入し、前記圧力が低下して一定になるまでn−ドデカノールとn−テトラデカノールとエチレンオキサイドとを反応させた後、オートクレーブ内の温度を120℃まで下げた。次いで、プロピレンオキサイド87g(1.5モル)を3.5kg/cm
2の圧力(ゲージ圧)でオートクレーブ中に導入した。前記圧力が低下して一定になるまでプロピレンオキサイドを反応させた後、オートクレーブ内の温度を130℃まで昇温した。エチレンオキサイド308g(7モル)を3.5kg/cm
2の圧力(ゲージ圧)でオートクレーブ中に導入し、前記圧力が低下して一定になるまでエチレンオキサイドを反応させた後、オートクレーブ内の温度を室温まで低下させて、非イオン界面活性剤2を約900g得た。
【0058】
〔鋼板洗浄試験〕
〔評価方法〕
<被洗浄鋼板>
パーム油を含有する合成エステル系圧延油で冷間圧延された厚さ0.2mmの鋼板を60mm×25mmの大きさに切断し、鋼板洗浄試験に用いた。当該鋼板の洗浄前の炭素付着量を後述の残存炭素付着量測定方法と同様の方法によって測定した結果、80mg/m
2であった。
【0059】
<洗浄試験手順>
300mlビーカー中に洗浄剤300gを入れた後に、洗浄剤を表1記載の設定温度に加温した。次いで、前記洗浄剤中に縦100mm×横50mmの大きさの鉄製電極板1対(電極間距離は20mm)を設置した。電極間の等距離かつ中心に被洗浄鋼板をほぼ平行に1秒間浸漬し、その後続けて電流密度8A/dm
2で鋼板電位を負から正にそれぞれ0.35秒ずつ一度切り替えて電解洗浄した。その後に鋼板をスプレー(圧力:2kgf/cm
2)で1秒間60℃の温水を吹きかけ、その後に鋼板を60℃の温水で5秒間浸漬リンスした後に乾燥した。
【0060】
<残存炭素付着量測定方法>
鋼鈑表面の汚れの付着量の指標として、炭素・水素/水分分析装置(型番RC−612 LECO社製)を使用し、鋼板上に付着している炭素量(残存炭素付着量)を測定した。装置条件は、鉄の軟化温度以下でかつ鋼板上の汚れが燃焼すると考えられる500℃で鋼板を加熱し、揮発・熱分解または燃焼により発生したCO
2から鋼板上に付着している炭素量を割り出した。測定は、最大強度(CO
2発生量最大)ピークを100%とし、1%以下まで強度が落ちるまで行った。なお、洗浄剤1種に対して、5枚の被洗浄鋼板を用いて評価し、その平均を求めた。結果を表1に示す。また、表1には、洗浄前の炭素付着量(80mg/m
2)に対する残存炭素量の割合(%)を併せて示す。なお、「非イオン界面活性剤3」は前記一般式(1)で示される非イオン界面活性剤に含まれないが、便宜上、表1の(C)成分欄に記載した。また、マレイン酸は本発明の(B)成分に含まれないが、便宜上、(B)多価カルボン酸として表1に記載した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1の比較例1−1は、B成分を含有しない洗浄剤を用いて50℃で洗浄した場合であり、比較例1−2は同様の洗浄剤を用いて30℃で洗浄した場合である。50℃で洗浄性が良好でも30℃では大きく洗浄性が劣る。
【0063】
表1の結果から、本発明の洗浄剤組成物は、比較例に比べ、鋼板表面に付着している油汚れに対する良好な洗浄性を有していることが確認された。当該結果から、鋼板用洗浄剤にB成分を配合することで低温洗浄条件で良好に使用することが出来ることがわかる。
【0064】
具体的には、実施例1、8、11と比較例1―2、2とを対比することで、同じC成分用いている条件にて、乳酸、シュウ酸及び/又はクエン酸を含有することにより低温洗浄性が向上することがわかる。なお、比較例2はB成分に相当する量をD成分として増量した例である。
【0065】
また、実施例1、3、8、9、11、12と比較例7〜9を対比することにより、B成分による低温洗浄性の効果は、C成分である特定の非イオン界面活性剤を配合することにより発現することがわかる。