(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
切削インサートがすべてサイズと形が同じであり、インサートポケット(62,64,66,68)が軸方向及び径方向で互いにオフセットしていることを特徴とする請求項1又は2に記載の切削工具。
少なくとも2つの径方向及び軸方向にオフセットしたインサートポケット(62,64,66,68)が、工具本体(60)上で、切削インサート(32,34,36,38)がそれぞれこれらのインサートポケット(62,64,66,68)に固定されたときに、それらの主切れ刃(40)が共通の軸方向オーバラップを有するように配置されることを特徴とする請求項3に記載の切削工具。
切削工具(80)の切削インサート(32,34,36,38)とインサートポケット(62,64,66,68)は、対応するインサートポケット(62,64,66,68)に固定されたとき、切削インサート(32,34,36,38)が0.1mm以上の、好ましくは約0.2mmの、そして0.5mm以下の同じ軸方向オフセット(da)で同じ円錐つるまき線に配置されるように設計され、同じ軸方向オフセット(da)は最も好ましくは約0.26mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の切削工具。
切削インサート(32,34,36,38)が、実質的に軸方向のねじによって工具本体(60)の対応するインサートポケット(62,64,66,68)に固定されるための中心孔(46)を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の切削工具。
切削インサート(32,34,36,38)は、それぞれ工具本体の対応するインサートポケット(62,64,66,68)に、被削材(20)の径方向の加工のための主切れ刃(40)と被削材(20)の軸方向の加工のための副切れ刃(44)の間のリード角(Kr)がこれらの切削インサート(32,34,36,38)の各々について同じであるように固定されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の切削工具。
被削材を選ぶステップにおいて、被削材は複数の層(22,24,26,28)を含む複合材料で作られ、被削材(20)をフェースミーリングするステップで機械加工される少なくともひとつの層の厚さ(pth)がオフセットした2つの引き続く切削インサート(32,34;34,36;36,38)の間の軸方向オフセット(da)に等しいことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
複合材料が不均質な材料であることは公知である。実際、複合材料は非常に多くの場合、2つのはっきりと区別される相から成っている。第1の相(phase)は、強化ファイバー、特にカーボン又はグラス・ファイバーで構成される。これらのファイバーは比較的硬く、脆い。さらに、これらのファイバーは異なる層(plies)の集合から成り、各層は内部のファイバーに関して独自の一方向性を有する。
図1は、知られている複合材料20を構成している層22,24,26,及び28の概略分解図を示す。層28の方向を方向の基準に取ると(層28のファイバーの方向を0°とすると)、層22,24,26のファイバーは、それぞれ、角度で45°,90°,及び135°の方向に向いている。
【0003】
複合材料の第2の相(phase)は、ポリマー樹脂マトリクスから成り、それが各層内のファイバー、そしていろいろな層のファイバーを互いに結合する。このマトリクスは軟らかく、延性を有する。
図1に戻ると、層が結合された後の複合材料は、強化ファイバーの方向を必要に応じて選ぶことができるので多軸積層体と呼ばれる。
【0004】
複合材料の部品は、成型プロセス、ミーリング又は孔明け工程によって製造される。複合材料の不均質性、ここでは非等方性、は機械加工に関していくつか難しい問題を発生させる。複合材料の機械加工でよく発生する欠陥は、層の剥離、樹脂の過熱、切断されないファイバー、及びファイバー引き抜き(pull-out)である。
【0005】
この分野の人々は、しばしば2つの大きな問題の間でトレードオフ(trade-off)を迫られる。すなわち、一方では複合材料の部品の完全性を維持すること、そして他方では切削工具の摩耗を減らすこととの間のトレードオフである。
【0006】
しかし、特に航空関連の技術分野では、機械加工で要求される高い品質レベルは、加工される部品の高品質の切削を要求する。これは特に金属部品を固定するのに用いられる複合材料表面の作成、又は複合材料同士を接着するプロセスの前の表面の作成、に関して要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、複合材料の積層体を高精密にフェースミーリングする切削方法及び切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、切削工具の軸に対して直角方向に被削材をフェースミーリングするための次の切削工具によって達成され、その切削工具は、
個々の切削インサートを固定するための第1及び第2のインサートポケットを備えた工具本体と、
第1及び第2のインサートポケットに固定する第1及び第2の切削インサートと、を備え、
第1及び第2の切削インサートとインサートポケットは、第1及び第2の切削インサートが対応するインサートポケットに固定されたときに、
被削材の径方向加工のための主切れ刃と、
被削材の径方向加工のためのワイパー切れ刃であって、主切れ刃に関連した副切れ刃と、を有する個々の切削インサートは、
第2の切削インサートの主切れ刃と副切れ刃の交点が第1の切削インサートの主切れ刃と副切れ刃の交点から軸方向内側にそして径方向外側にオフセットし、
主切れ刃と副切れ刃の間で画定される各切削インサートのリード角が30°よりも小さくなるように設計される。
【0009】
切削工具の好ましい実施形態は従属請求項で規定される。本発明はさらに次のように提案する。
工具本体は、
第1及び第2のインサートポケットを含む複数のインサートポケットと、
第1及び第2の切削インサートを含む複数の切削インサートと、を備え、
複数の切削インサートの各々は複数のインサートポケットのうちの対応するひとつに固定することができ、複数の切削インサートと複数のインサートポケットは、各切削インサートが対応するインサートポケットに固定されたとき、
被削材の径方向加工のための主切れ刃と、主切れ刃に関連した副切れ刃であって、被削材の径方向加工のためのワイパー切れ刃である副切刃と、を有する切削インサートは、
複数のインサートポケットの主切れ刃と副切れ刃の交点が互いにオフセットして切削工具の軸のまわりで円錐つるまき線に沿って配置され、各切削インサートの主切れ刃と副切れ刃の間のリード角が同じになるように設計され、
切削インサートはすべてサイズと形が同じであり、インサートポケットは互いに軸方向及び径方向にオフセットしており、
工具本体には少なくとも2つの径方向及び軸方向にオフセットしたインサートポケットが、切削インサートがそれぞれこれらのインサートポケットに固定されたときに切削インサートの主切れ刃が共通の軸方向オーバラップを有するように、配置され、
第1のインサートポケットが工具本体で軸方向最も外側のインサートポケットであり、第2のインサートポケットが、第1のインサートポケットから軸方向にオフセットした工具本体のインサートポケットのうちで第1のインサートポケットからの軸方向のオフセットがより小さいインサートポケットであり、第1と第2のインサートポケットの間の軸方向のオフセットは約0.06mmより大きく、
切削工具の切削インサートとインサートポケットは、対応するインサートポケットに固定されたときに切削インサートは同じ円錐つるまき線上で同じ軸方向のオフセットで配置されるように設計され、このずれは0.1mm以上、好ましくは約0.2mm、かつ0.5mm以下であり、この同じ軸方向のオフセットは最も好ましくは約0.26mmであり、
切削インサートは工具本体の対応するインサートポケットに略軸方向ねじによって固定するための中心孔を有し、
リード角は、3°〜12°の間、好ましくは約5°であり、
切削インサートは各々、工具本体の対応するインサートポケットに、被削材の径方向機械加工のための主切れ刃と被削材の軸方向機械加工のための副切れ刃の間のリード角がこれらの切削インサートで同じになるように固定される。
【0010】
本発明はさらに、被削材をフェースミーリングする方法を提案しており、この方法は、
切削工具によって被削材をフェースミーリングするステップを含み、
被削材に対する切削工具の刃当たりの径方向送りは次の不等式、すなわち、
不等式は、Fz≦dr−(da/tan(Kr))であり、
ここで、Fzは、刃当たり径方向送り、
drは、オフセットした2つの引き続く切削インサートの間の径方向オフセット、
daは、オフセットした2つの引き続く切削インサートの間の軸方向オフセット、
Krは、切削インサートのリード角である。
【0011】
この方法の好ましい実施形態は従属請求項に規定されている。本発明はさらに次のように提案する。
フェースミーリングのステップの前に、この方法は、
フェースミーリングする被削材を選ぶステップであって、複合材料から作られた被削材を選ぶステップと、
被削材を選ぶステップにおいて、被削材は複数の層を含む複合材料で作られたもので、被削材のフェースミーリングのステップで加工される少なくとも一枚の層の厚さがオフセットした2つの引き続く切削インサートの間の軸方向のオフセットと等しくなるように選ばれ、
刃当たりの径方向送りは、ほぼ下の方程式による最適送りであって、それを超えない送りとして選ばれる、すなわち、
方程式は、Fz
max=dr−(pth/tan(Kr))であり、
ここで、Fz
max は、最適の刃あたり径方向送り、
drは、オフセットした2つの引き続く切削インサートの間の径方向オフセット、
pthは、機械加工される複合材料の層厚さ、
Krは、切削インサートのリード角である。
【0012】
さらに、本発明は被削材をフェースミーリングするための切削インサートを提案するものであり、この切削インサートは、フェースミーリングする工具本体の対応するインサートポケットに固定するための中心孔を有し、この孔を通してねじによって工具本体の対応するインサートポケットに工具本体の軸と略平行に固定されたとき、
被削材の径方向の機械加工のための主切れ刃と、主切れ刃に関連する副切刃であって、被削材の軸方向の機械加工のためのワイパー切れ刃である副切れ刃とを有する切削インサートは、主切れ刃と副切れ刃の間のリード角が約30°よりも小さい。
【0013】
さらに、本発明は、工具本体の軸に対して直角方向に被削材をフェースミーリングするための工具本体を提案するものであり、この工具本体は、
切削インサートを収容する第1のインサートポケットであって、工具本体の軸方向最も外側のインサートポケットである第1のインサートポケットと、
切削インサートを収容する第2のインサートポケットであって、第1のインサートポケットから軸方向にオフセットした工具本体のインサートポケットのうちで第1のインサートポケットからの軸方向のオフセットがより小さいインサートポケットである第2のインサートポケットと、を備え、
第2のインサートポケットは、第1のインサートポケットから径方向外側にオフセットしており、
第1のインサートポケットに対する第2のインサートポケットの軸方向のオフセットは約0.06mmより大きい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のその他の特徴と利点は、非限定例として示される本発明の実施形態についての以下でリストされる添付図面を参照した説明によって明らかになるであろう。
【0016】
本発明は被削材の切り屑除去機械加工によって被削材をフェースミーリングするための切削工具又はミーリングカッターを提案する。ミーリングカッターは、中心軸のまわりで予め定められた方向に回転でき、前方端面と前方端面から軸方向後方に伸び中心軸と同心的である包絡面を有する基体を備えた公知のタイプである。ミーリングカッターはさらに、いくつかの切削インサートを備え、それらは周方向に間隔をあけたポケットに装着される。切削インサートは、個別に、上側と、下側と、少なくともひとつの逃げ面とを含み、これが上側と共に切れ刃の境界を定めている。
【0017】
図2は、中心軸82のまわりで回転できる基体としての工具本体60と、そこに固定された4つの切削インサート30を含む切削工具80を底面図で示す。
【0018】
これらの切削インサートは、ここではすべて同じである。しかし、工具本体60はいろいろなインサートポケット62,64,66及び68を含み、各々が各切削インサートの特定の固定位置を定めている。したがって、切削インサート30は、それぞれが固定されるインサートポケット62,64,66及び68に応じて、それぞれ参照符号32,34,36及び38によって区別される。本明細書では、参照符号30に代わる参照符号32,34,36及び38の使用は、それぞれ、対応するインサートポケット62,64,66及び68に固定された切削インサートへの参照であると理解すべきである。したがって、本明細書では、切削インサート30はすべて同じ幾何形状とサイズを有するので、切削インサート32,34,36及び38の各々の位置についての議論は、対応するインサートポケット62,64,66及び68によって定められるそれらの固定位置、並びに切削工具60における対応するインサートポケット62,64,66及び68の位置を参照している。
【0019】
切削インサート32,34,36及び38は工具本体60の軸82のまわりに周に沿って配置されている。本明細書では、「径方向」と「軸方向」いう用語は工具本体60の軸82を基準として用いられるが、これはまた切削工具80の軸でもある。したがって、切削インサート32,34,36及び38は互いに径方向のずれをもって配置される。切削インサート32は径方向で最も内側に配置された切削インサート30であり、切削インサート30の参照符号34,36及び38は切削インサート32からの切削インサート30の径方向のずれが増加している。したがって、切削インサート38は径方向で最も外側に配置された切削インサート30である。
【0020】
さらに、切削インサート32,34,36及び38は互いに軸方向のずれをもって配置されている。
図3は
図2の工具本体60に固定された切削インサート32,34,36及び38を示す断面側面図であるが、切削工具80の軸82のまわりで同じ角平面(angular plane)で仮想的に重ねて示されている。この図は切削インサート32,34,36及び38の軸方向のずれを上述した径方向のずれと合わせて示している。切削インサート32は軸方向で最も外側に固定された切削インサート30である。「外側」という用語は工具本体60の外側、ここでは
図3における下向き方向に対応する外側、を基準にして用いられる。他の切削インサート34,36及び38は切削インサート32から少しずつ軸方向内側にずれている。
【0021】
切削インサート30の径方向及び軸方向のずれは、その固定位置で切れ刃40と44に見られる。各切削インサート32,34,36,38の主切れ刃40は被削材20の径方向の機械加工を行う。さらに、各切削インサート32,34,36,38は主切れ刃と関連した副切れ刃44を有する。固定位置で、
図3に見られるように、各切削インサート32,34,36,38の副切れ刃44は被削材20の軸方向の機械加工を行う。したがって、副切れ刃は主切れ刃40に関連したワイパー切れ刃である。本明細書で「主切れ刃」及び「副切れ刃」という用語は、切削インサートの固定位置における作業切れ刃に対応する。しかし、上述の切削インサートは、各切削インサートがそれぞれのインサートポケットに固定される仕方に応じて、それぞれ主切れ刃及び副切れ刃に変わることができる別の切れ刃を含むことができる。言い換えると、切削インサートは刃先割出可能である。切削インサート32,34,36,38の固定位置で、軸方向内側及び径方向外側へのオフセットは、特に各切削インサート30の主切れ刃40と副切れ刃44の間の交点42に認めることができる。交点42は、主切れ刃40の端における接線が副切れ刃44の端における接線と交わる点と定義される。したがって、交点42は、主切れ刃40と副切れ刃44の間の交線(junction)の曲率半径と無関係に定義される。それでもなお、この半径は3000 mmよりも小さい。ここでは特に交点42の比較が論じられるが、切削インサートの他の特徴的な点を比較して切削インサート32,34,36,38の軸方向及び径方向のオフセットを認めることもできるであろう。
【0022】
複数の、ここでは4つの、切削インサート30は、それらの交点42が工具本体60の軸82のまわりである円錐つるまき線に沿って配置されることにより互いにオフセットするという仕方でずれている。したがって、
図3に示された交点42は整列している。
【0023】
図示した切削インサート30はすべてサイズと形が同じであり、切削インサート32,34,36,38は切削工具60において軸82のまわりのある円錐つるまき線に沿って配置されており、これはそれぞれに対応するインサートポケット62,64,66,68が円錐つるまき線に沿って配置されているためである。図示しないある変形例では、それぞれの固定位置にある切削インサート30の軸82のまわりの円錐つるまき線に沿った配置は互いに異なるサイズを有する切削インサート(図示せず)によって得られる。この変形例では、切削工具60のインサートポケットの配置は、それぞれに切削インサートを固定することによって各切削インサートの交点42が軸82のまわりのある円錐つるまき線に沿って配置されるようになっている。
【0024】
複数の切削インサート32,34,36,38のうち、少なくとも2つの軸方向内側にそして径方向外側にオフセットした切削インサート30を工具本体で固定することが、単一の切削インサート又は軸方向オフセットがない切削インサートを有する工具本体を使用することに比べて有利になる。言い換えると、切削工具80では、第1の切削インサート30の固定位置に対して、軸方向内側にそして径方向外側にオフセットした第2の切削インサート30を有することが、同じ径方向及び軸方向の固定位置にある多数の切削インサートを有する従来の高速送り(high feed)ミーリングカッターに比べて有利である。本明細書では、同じ径方向及び軸方向の位置とは、切削工具のインサートポケットの製造許容誤差、25μmに達する許容誤差、を考慮に入れたものと理解すべきである。したがって、本明細書における「オフセット」とは、0.025mmよりも大きいものと考えるべきである。
【0025】
この有利さは、
図1の従来の複合材料のフェースミーリングに単独で使用された従来の切削インサート90、又は他の切削インサートを同じ径方向及び軸方向位置にした場合、の側面図を示している
図4に見られる。複合材料の機械加工の後、この切削インサート90の切れ刃92は異なる部分94,96,98,100でいろいろな摩耗を示す。部分98の摩耗は0.180mmの溝(notch)で最も進んでいる。
【0026】
少なくとも2つの軸方向内側及び径方向外側にオフセットした切削インサート30を用いて、いろいろな摩耗を示す異なる部分を異なる切削インサート30に分布させることができる。ここで、摩耗した部分98,100は、第1及び第2の切削インサートのうち軸方向内側及び径方向外側に最も大きくずれた切削インサートに、すなわち第2の切削インサートに分布したであろう。逆に、部分94,96は、第1及び第2の切削インサートのうち軸方向外側及び径方向内側に最も大きくオフセットした切削インサートに、すなわち第1の切削インサートに分布したであろう。このような摩耗の分布を考えると、第2の切削インサートは取り替えてもよいが、第1の切削インサートはまだ機械加工作業にさらに使用できそうである。このように、提案した切削工具80では、摩耗した部分を含む切削インサートだけを交換することができるが、
図4に示された各切削インサート90は、機械加工にまだ使用できる摩耗していない部分94と96を含むけれど、交換しなければならない。
【0027】
整理すると、2つの軸方向内側及び径方向外側にオフセットした切削インサートで機械加工するときは、各切削インサートがその適正な摩耗に応じて交換される、例えば、最も摩耗する切削インサートはNサイクルの機械加工毎に、他の切削インサートは(Nより大きい)Mサイクルの機械加工毎に交換される。これに対して、同じ軸方向及び径方向位置にある2つの切削インサートの場合、2×Mサイクル後に初めて摩耗する未摩耗部分があるにもかかわらず、両方の切削インサートを部分の摩耗のために両方の切削インサートを2×Nサイクル毎に交換しなければならないであろう。このように、提案した切削工具は、切削インサートの全体的な消耗が少ない切削工具になる。
【0028】
それぞれ軸方向内側にそして径方向外側にオフセットした2つよりも多くの切削インサートによって、例えば4つの軸方向内側にそして径方向外側にオフセットした切削インサート32,34,36,38を有する上述の工具本体60によるより、さらに良い摩耗の分布と、その結果としてのより小さな切削インサートの消耗、を実現できる。上で述べたように、2つよりも多くの軸方向内側にそして径方向外側にずれた切削インサートの場合、切削工具の複数の切削インサートは工具本体60の軸82のまわりである円錐つるまき線に沿って配置されることが好ましい。
【0029】
異なる切削インサートへの摩耗の分布によってもたらされる改善は、特に材料の非等方性による。非等方材料では、工具の摩耗はフェースミーリングのさいの各切削部分の切り込みの深さによる。例えば、
図1の複合材料をフェースミーリングする場合、45°の角度方向に向いた層22を加工する工具の切削部分は、0°の角度方向に向いた層28を加工する工具の切削部分と同様には摩耗しない。
図4の切削インサート90では、4つの部分94,96,98,100の摩耗の違いは、複合材料20のフェースミーリングのさいに各部分が加工する4つの異なる層22,24,26,28の違いによる。部分94はほとんど層28だけを加工し、部分96はほとんど層26だけを加工し、部分98はほとんど層24だけを加工し、部分100はほとんど層22だけを加工する。
【0030】
したがって、知られている複合材料を機械加工する場合、フェースミーリングの方法として、軸方向にずれた各切削インサートがもっぱらひとつの層にあてられ、この層がフェースミーリングでこの切削インサートが加工するほぼ唯一の層であるように、切削工具80を用いる方法が提案される。
【0031】
したがって、軸方向内側へそして径方向外側へずれた切削インサートの数は、複合材料で加工される層の数と等しい又は少なくともそれより多くなるように選ばれることが好ましい。この特徴によって、たとえ軸方向のオフセットが加工される層の厚さに等しくなるように選ばれなくても、各軸方向内側へそして径方向外側へオフセットした切削インサートはほぼひとつ又は2つの対応する層だけを加工することが保証される。
図5は、複合材料20を加工する
図3の切削インサートのひとつを示す断面斜視図である。この場合、切削インサート34はほぼ複合材料の層26だけを加工する。
図6は、被削材に対して
図5におけると同じ位置にある切削工具80の側面図を示す。
【0032】
さらに、2つのオフセットした切削インサート32と34,又は34と36,又は36と38、の間の軸方向オフセットは、複合材料の層22,24,26、又は28の少なくともひとつの厚さに等しいことが好ましい。引き続く2つのオフセットした切削インサートの間の軸方向オフセットと複合材料のひとつの層の厚さの等しさについては、これは上下10%まで、好ましくは上下5%まで、と理解すべきである。各層の厚さが異なる場合、各層の軸方向のオフセットは、各インサートの切り込み深さがその切削インサートによって加工される予定の層の厚さに対応するように調整することが好ましい。製造をシンプルなものにし、
図3に示すように複合材料の層22,24,26,28の各々を同じ厚さで加工するために、すべての引き続く切削インサートの軸方向オフセットを同じ値に等しくなるように選ぶことが好ましい。以下では、
図3,5及び6に示されるように、各層の厚さは同じであると考えて、それをpthで表す。
図7は複合積層体20の層26を加工している切削インサート34のところで示す
図6の拡大図である。この拡大図は、引き続く2つのオフセットした切削インサートの間の軸方向オフセットがpthと等しくなるように、切削インサート32と36の間の軸方向オフセットがpthの2倍になっていることを示している。
【0033】
言い換えると、提案された切削工具80では、引き続く2つのオフセットした切削インサートの間の軸方向オフセットは、材料一般の、又は加工される特定材料の機械的性質が変動する平均深さに対応する特性深さに応じて摩耗のより良い分布を実現するように選ばれる。提案されたフェースミーリングの方法及び切削工具では、このように軸方向オフセットの選択が従来の切削工具における切削インサートの軸方向オフセットの選択と、例えば米国特許第6960051号明細書や仏国追加特許公報第2894497号明細書から知られる切削工具の場合と全く異なる。
【0034】
上記の特許文献では、切削インサートの間の軸方向オフセットはフェースミーリングのさいのバリの発生を抑えるように選ばれる。金属を加工するときのバリを抑えるという目的には、引き続く2つのオフセットした切削インサートの軸方向オフセットはできるだけ小さくなるように選ばなければならない。バリの形成を抑える点では、軸方向最も外側の切削インサートと軸方向2番目に外側の切削インサートの間の軸方向オフセットが特に重要になる。実際、軸方向最も外側の切削インサートはフェースミーリングで仕上げる切削インサートであり、軸方向2番目に外側の切削インサートは、仕上げの前に加工する最後のインサートである。したがって、この説明で「仕上げの切削インサート」とは、被削材をフェースミーリングで仕上げる切削インサートである。仏国追加特許公報第2894497号明細書に開示されているように、仕上げの切削インサートは単独でなく複数の仕上げ切削インサートがあってもよく、軸方向2番目に外側の切削インサートは、すべての仕上げ切削インサートを別にして、軸方向最も外側の切削インサートであると理解すべきである。言い換えると、軸方向2番目に外側の切削インサートとは、仕上げ切削インサートから軸方向にオフセットした工具本体の切削インサートのうちで仕上げ切削インサートからの軸方向のオフセットが最も小さな切削インサートである。
【0035】
これに対して、提案された方法及び切削工具80では、軸方向オフセットは、特に軸方向最も外側の切削インサートと軸方向2番目に外側の切削インサートの間の軸方向オフセットは、約0.06mmよりも大きくなることがある。この軸方向オフセットはまた、0.1mm以上であってもよく、好ましくは約0.2mmに達することもできる。軸方向オフセットは、特に加工中の各切削インサートの過熱を避けるために0.5mm以下に制限することができるが、過熱はここではいくつかの切削インサートの間の切削作業の分布によっても制限される。しかしながら、上述のように、軸方向のオフセットは引き続く各切削インサートの間で同じであることが好ましく、複合材料の層の厚さに等しいことがさらに好ましい。カーボンファイバーの複合材料の層はよく知られているように厚さが0.26mmであり、同じ軸方向オフセットは約0.26mmであることが最も好ましい。本明細書において、「約」という語は、そうでないと明示されていない限り、上下10%、好ましくは上下5%、と理解すべきである。
【0036】
同じ形とサイズの切削インサートを用いることが好ましく、軸方向のオフセットは全く工具本体60の対応するインサートポケット62、64,66,68の軸方向オフセットによって生ずる。既に述べたように、切削インサートのいろいろな軸方向オフセットに関する上の議論は対応する工具本体のインサートポケットにも同じようにあてはまる。したがって、特に工具本体60で、軸方向最も外側のインサートポケットと軸方向2番目に外側のインサートポケットの間の軸方向オフセットは約0.06mm以上であるものが提案される。言い換えると、仕上げインサートポケットと、ワイパーインサートポケットから軸方向にオフセットした工具本体のインサートポケットのうちで仕上げインサートポケットからの軸方向オフセットが最小のインサートポケットの間の軸方向オフセットが約0.06mm以上である。
【0037】
引き続く2つのオフセットした切削インサートの軸方向オフセットの上述の選択の結果として、径方向のオフセットは、切削インサートがその固定位置で上述のような円錐つるまき線に沿って配置されるように選ばれる。この円錐つるまき線は切削インサート30のリード角Krに関して選ばれる。
【0038】
図3を参照すると、リード角Krは、固定位置で、すべての切削インサート30の主切れ刃40と副切れ刃44の間で形成される。リード角Krは30°よりも小さくなるように選ばれる。このように小さなリード角は、被削材20を加工するときのきず(flaw)の発生を抑え、被削材20の良好な仕上げを与える。特に、被削材が
図1と3に示されているような複合材料で作られたものである場合、30°よりも小さいリード角Krは、薄片発生(flaking)やファイバー引き出しの発生を抑える。さらに、このように小さなリード角を用いると切り屑の形成が可能になるが、60°で見られるような大きなリード角は小さな切り屑、ときにはパウダーの形成につながる。
【0039】
複合材料などの特定材料の機械加工の仕上げで良い結果を得るためには、リード角の値は12°以下に、しかし工具のバランスを考慮して切削インサートの間の径方向オフセットを抑えるように3°以上に選ぶことが好ましい。5°という特定のリード角Krで実験が行われたが、複合材料でファイバーの引き出しや薄片の発生はなかった。したがって、リード角Krは約5°に、すなわち、製造許容誤差が一般に角度で15分であるから、その上下10%、好ましくは上下5%、に選ばれそうである。上述の米国特許第6960051号明細書と仏国追加特許公報第2894497号明細書に対して、提案された小さなリード角Krの切削工具80は、複合材料などの脆い材料をフェースミーリングするときに加工の傷の発生を抑えるという利点がある。
【0040】
図3に戻ると、切削インサート30が配置される円錐つるまき線の角度、すなわち交点42を結ぶ線の角度、は切削インサート30の同じリード角Krよりも小さくなるように選ばれる。この選択によって、ひとつの切削インサート30が常にそれに続く径方向もっと内側の切削インサート30の前に被削材20を加工するような径方向の送りを実現することが可能になる。ここで、考えている送りは刃当たりの送りFz(「カットあたりの送り」とも呼ぶ)であり、これは回転あたりの送りFnを切削インサートの数で割ったものに対応する。
【0041】
このために、径方向の送りFzは次の不等式に従って選ばなければならない。
すなわち、不等式は、
(1)・・・Fz≦dr−(da/tan(Kr))であり、
ここで、
Fzは、刃当たり径方向送り、
drは、オフセットした2つの引き続く切削インサートの間の径方向オフセット、
daは、オフセットした2つの引き続く切削インサートの間の軸方向オフセット、
Krは、切削インサートのリード角である。
【0042】
フェースミーリングの最適送りFz
maxは上の不等式の上限である。この最適送りは、より径方向内側の切削インサート30がより径方向外側の切削インサートに先行する前の切削工具によるフェースミーリングでの最も速い送りである。したがって、最適送りでは複数の切削インサート32,34,36及び38が送り方向で同じ傾斜した直線に沿って被削材20を径方向に加工する。複合材料のフェースミーリングでは、引き続く2つの切削インサートの間の最適な軸方向のオフセットは複合材料の各層の厚さに等しく、最適送りは好ましくは次の式に従う。
すなわち、方程式は、
(2)・・・Fz
max=dr−(pth/tan(Kr))であり、
ここで、Fz
max は、最適の刃あたり径方向送り、
drは、オフセットした2つの引き続く切削インサート(32,34;34,36;36,38)の間の径方向オフセット、
pthは、機械加工される複合材料の層厚さ、
Krは、切削インサート(32,34,36,38)のリード角である。
【0043】
フェースミーリングをさらに最適化するために、加工される材料によって許される最大切り屑厚さを考慮に入れることができる。この最大切り屑厚さ(以下ではHmaxで表す)は、それを超えると加工の品質が低下する切り屑厚さに対応する。加工品質の低下は、複合材料では認められるはがれと薄片の発生につながる。この最大切り屑厚さは、提案された切削工具の回転あたり径方向送り(Fn)が次の式に従うときに得られる。
すなわち、方程式は、
(3)・・・Fn=Z×Fz=Hmax/sin(Kr)であり、
ここで、Fn は、回転あたりの径方向送り、
Zは、切削工具の刃の数、すなわち切削インサートの数、
Fzは、刃あたりの径方向送り、
Hmaxは、最大切り屑厚さ、
Krは、切削インサートのリード角である。
【0044】
上述したように、径方向の送りはまた不等式(1)によっても制限されている。したがって、最大の切り屑厚さで除去しながら加工できるためには、径方向のオフセットが次の式に従うことが好ましい。
(4)・・・
dr≧(Hmax/(sin(Kr)×Z))+da/(tan(Kr))、
ここで、drは、2つのオフセットした切削インサートの間の径方向オフセット、
Hmaxは、最大切り屑厚さ、
Zは、切削工具の刃の数、すなわち切削インサートの数、
Krは、切削インサートのリード角、
daは、2つのオフセットした切削インサートの間の軸方向オフセットである。
【0045】
したがって、切り屑除去による最適加工は、上記のFz
maxを最大切り屑厚さHmaxで選ぶことができるときに得られ、したがって複合材料の最適の最も速い切り屑除去での径方向オフセット(dr)は次の式に従う。
(5)・・・
Hmax/(sin(Kr)×Z)=Fz
max=dr−(pth/(tan(Kr))、
ここで、Fz
max は、最適の刃あたり径方向送り、
drは、2つのオフセットした切削インサートの間の径方向オフセット、
Hmaxは、最大切り屑厚さ、
Zは、切削工具の刃の数、すなわち切削インサートの数、
Krは、切削インサートのリード角、
daは、2つのオフセットした切削インサートの間の軸方向オフセットである。
【0046】
カーボンファイバーとエポキシで作られた複合材料では、最大切り屑厚さが0.3mmに等しいことが認められており、上の等式(3)と(5)及び不等式(4)におけるHmaxは約0.3mmと選ぶことができる。
【0047】
本明細書は特に複合材料のフェースミーリングについて説明している。しかし、異なるオフセットした切削インサートへの摩耗の軸方向分布と小さなリード角は、非等方性材料や等方性材料で局所的なきずのある材料など、すべての種類の材料の機械加工についても提案されている。しかし、軸方向外側及び径方向内側にオフセットした切削インサート32,34,36及び38は引き続く切削インサートの主切れ刃40が軸方向にオーバラップすることを可能にする。したがって、オーバラップした切れ刃のひとつが故障しても、引き続く切削インサートのオーバラップした切れ刃のひとつによって埋め合わせることができる。この利点は、共通の軸方向でのオーバラップを示す少なくとも2つの径方向及び軸方向にオフセットした切削インサートによって、例えば32と34で、34と36で、36と38で、実現できる。これらのオーバラップによって、切削インサートのひとつの切れ刃が故障した場合でも材料の損傷が避けられ、加工される材料の健全さを守り、加工サイクルの終わりまで被削材20の加工を続けることが可能になる。したがって、提案された切削工具80とフェースミーリング方法は完全に等方的な材料のフェースミーリングでも有益である。
【0048】
切削工具80によりフェースミーリングの方法によって上で提案したようなフェースミーリングを可能にする適当な切削インサートも提案される。このような提案される切削インサート30は
図8,9及び10に斜視図で示されている。さらに、
図11は切削インサート30の側面図を示す。
図12は
図11の、XII−XXIによる断面図を示す。この切削インサート30は、切削工具80と合わせて説明した切削インサート32,34,36,38についての上の一般的な記述に対応する。したがって、この切削インサート30も、主切れ刃40,副切れ刃44,及びその交点42を有し、リード角Krは約30°より小さく、ここでは5°である。上の一般的な説明から導かれるこれらの特徴の他に、この切削インサート30はさらに、工具本体60の対応するインサートポケットに固定するための中心孔46を備える。
図3に示されているように、この中心孔46は、工具本体60の軸82に略平行な切削インサート30の孔46を通って延びるねじに合わせて設計されている。軸82に略平行なねじによるこの切削インサート30の固定の仕方は、直交径方向の(orthoradial)ねじによって切削インサートを受けるように設計されたインサートポケット(図示せず)に比べて、工具本体60の対応するインサートポケットをより単純に迅速に製造することを可能にする。
【0049】
限られた数の実施形態とその成分が本明細書で具体的に説明され図示されたが、当業者には多くの変更や変形が可能であることは明らかであろう。切削工具80について、ただひとつの円錐つるまき線を有し、その上に切削インサート32,34,36,38が配置されていると記述したが、ひとつ以上の補充の円錐つるまき線と補充の切削インサートも、切削工具80について提案できるであろう。補充の円錐つるまき線は、上述の円錐つるまき線と同じであってそれから角度的にオフセットして配置されていてもよい。この補充の円錐つるまき線に関して、その切削インサートの径方向及び軸方向の位置は、各切削インサート32,34,36,38の径方向及び軸方向の位置に対応するように選ぶことができる。さらに、補充のつるまき線と独立に、切削インサート32と同様のひとつ以上の補充のワイパーインサートもフェースミーリングの仕上げを改善するために考えられる。さらに改善するために、ひとつ以上のワイパーインサートにコーティングすることができる。