【実施例】
【0026】
以下、本件発明の実施例を示し、本件発明をより詳細に説明する。但し、本件発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
まず、本件発明では、エネルギー分散型X線分析装置を用いて、加速電圧を18〜25kV、ビーム電流を0.5〜2.8nA、積算時間を5分としたときに得られるX線スペクトルに基づき、はんだ中の銅濃度を定量するが、この理由について以下に示す。参考までに、本実施例で用いるエネルギー分散型X線分析装置は、日本電子株式会社製の型番EX−23000BUとした。
【0028】
図1は、電子ビームの加速電圧を変化させて測定したはんだの特性X線エネルギースペクトルである。なお、
図1の右側に示すスペクトル波形は左側に示すスペクトル波形中において破線が囲まれた部分を拡大したものである。ここで、分析範囲を1.2mm×0.9mmとし、ビーム電流を2.0nAとし、積算時間を300秒とし、試料高さを10mmとした。その結果、電子ビームの加速電圧が10kVのときに、X線エネルギーがCu−Lα線(0.93keV)で強度1772のピークが示され、X線エネルギーがCu−Kα線(8.04keV)でピークが示されていない。また、電子ビームの加速電圧が15kVのときに、X線エネルギーがCu−Lα線(0.93keV)でピークが示されず、X線エネルギーがCu−Kα線(8.04keV)で強度512のピークが示された。また、電子ビームの加速電圧が25kVのときに、X線エネルギーがCu−Lα線(0.93keV)で強度599のピークが示され、X線エネルギーがCu−Kα線(8.04keV)で強度729のピークが示された。
【0029】
すなわち、
図1に示す結果より、電子ビームの加速電圧が10kVの場合には、明瞭なCu−Kα線のピークは認められず、また、Cu−Lα線のピークは認められるものの連続するX線の強度が強いためピークの認定が困難である。また、電子ビームの加速電圧が15kVの場合には、Cu−Lα線において明瞭なピークが認められない。これらに対して、電子ビームの加速電圧が25kVの場合には、Cu−Lα線及びCu−Kα線においてピークが明瞭に確認でき、連続するX線においてピークの認定が容易である。
【0030】
また、
図2は、電子ビームのビーム電流を変化させて測定したはんだの特性X線エネルギースペクトルである。なお、
図2の右側に示すスペクトル波形は左側に示すスペクトル波形中破線が囲まれた部分を拡大したものである。ここで、分析範囲を1.2mm×0.9mmとし、加速電圧を25kVとし、積算時間を300秒とし、試料高さを10mmとした。その結果、電子ビームのビーム電流が1.0nAのときに、X線エネルギーがCu−Lα線(0.93keV)で強度542のピークが示され、X線エネルギーがCu−Kα線(8.04keV)で強度593のピークが示されている。また、電子ビームの加速電圧が2.0nAのときに、X線エネルギーがCu−Lα線(0.93keV)で強度599のピークが示され、X線エネルギーがCu−Kα線(8.04keV)で強度729のピークが示された。また、電子ビームの加速電圧が3.0nAのときに、X線エネルギーがCu−Lα線(0.93keV)でピークが示されず、X線エネルギーがCu−Kα線(8.04keV)で強度630のピークが示された。
【0031】
すなわち、
図2に示す結果より、電子ビームのビーム電流が1.0nA,2.0nAの場合には、Cu−Kα線及びCu−Lα線において明瞭なピークが認められた。ところが、電子ビームのビーム電流が3.0nAの場合には、Cu−Lα線において明瞭なピークが認められなかった。
【0032】
以上のことから、エネルギー分散型X線分析装置を用いてはんだ中の銅濃度を定量するにあたって、加速電圧を18〜25kVとし、ビーム電流を0.5〜2.8nAとした測定条件を採用し、Cu−Kα線の観察により銅濃度の定量を行うことが好ましいことが分かる。なお、積算時間は10分以内であれば、はんだ中の銅濃度を定量する上で支障が生じないことが経験上確認されている。
【0033】
次に、本件発明に係るはんだ中の銅濃度定量方法において、得られるX線スペクトルの銅の積算値(Cu−Kα線におけるスペクトル波形とバックグラウンドとの差の積算値)と錫の積算値(Sn−Lα線におけるスペクトル波形とバックグラウンドとの差の積算値)との比(銅の積算値/錫の積算値)、また、得られるX線スペクトルの銅のピーク強度と錫のピーク強度との比(銅のピーク強度/錫のピーク強度)を算出することで、はんだ中の銅濃度を高精度で信頼性高く定量出来ることとした理由について以下に述べる。
【0034】
〈X線スペクトルの銅の積算値と錫の積算値との比(銅の積算値/錫の積算値)と銅濃度の関係について〉
表1には、それぞれ銅濃度の異なる試料1〜4について、エネルギー分散型X線分析装置を用いて、加速電圧を25kV、ビーム電流を2.0nA、積算時間を300秒としたときに得られるX線スペクトルの銅の積算値(Cu−Kα線におけるスペクトル波形とバックグラウンドとの差の積算値)と錫の積算値(Sn−Lα線におけるスペクトル波形とバックグラウンドとの差の積算値)との比(銅の積算値/錫の積算値)を求めた結果を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示す試料は、銅濃度が0.50wt%の試料1(ニホンゲンマ社製(品番:NP303 3.0))、銅濃度が0.71wt%の試料2(ニホンゲンマ社製(品番:NP503 B20))、銅濃度が3.04wt%の試料3(ニホンゲンマ社製原料(品番:NP303)を使用した溶融はんだ浴から採取)、銅濃度が1.09wt%の試料4(MBH analycal LTD製(品番:74XCA5)である。これら試料は、熱間樹脂に埋め込んだ後に、表面をバフ仕上げした。そして、これら各試料について2回ずつネルギー分散型X線分析装置を用いてX線スペクトルの銅の積算値(Cu−Kα線におけるスペクトル波形とバックグラウンドとの差の積算値)と錫の積算値(Sn−Lα線におけるスペクトル波形とバックグラウンドとの差の積算値)との比(銅の積算値/錫の積算値)を測定した。その結果、試料1の積算値比の平均は0.58となり、試料2の積算値比の平均は0.84となり、試料3の積算値比の平均は4.26となり、試料4の積算値比の平均は1.47となった。
【0037】
図3は、本実施例における測定条件での銅の積算値と錫の積算値との比(銅の積算値/錫の積算値)[%]と銅濃度[wt%]との関係を示したグラフである。
図3は、表1に示す結果をグラフ化したものであるが、検量線が銅濃度が0.5wt%から3.04wt%まで優れた直線性を有し、一次関数式「Y=0.688X+0.108」で表すことが可能である。従って、以上の結果から、本件発明に係るはんだ中の銅濃度定量方法によれば、はんだ中の銅濃度を、Y=aX+b(a、bは定数であり、a≠0である)で表される一次関数式のYを求めることで簡易且つ迅速に定量することが出来ることが分かった。また、この場合に、定数a,bの値に関しては、「0.6≦a≦0.8」、「0.03≦b≦0.2」を満たすことが確認出来た。そして、はんだ中の銅濃度は、銅の積算値(Cu−Kα線におけるスペクトル波形とバックグラウンドとの差の積算値)と錫の積算値(Sn−Lα線におけるスペクトル波形とバックグラウンドとの差の積算値)との比(銅の積算値/錫の積算値)から簡易でありながらも高精度で信頼性高く求めることが出来ることが分かった。
【0038】
〈X線スペクトルの銅のピーク強度と錫のピーク強度との比(銅のピーク強度/錫のピーク強度)と銅濃度の関係について〉
表2には、それぞれ銅濃度の異なる試料1〜4について、エネルギー分散型X線分析装置を用いて、加速電圧を25kV、ビーム電流を2.0nA、積算時間を300秒としたときに得られるX線スペクトルの銅のピーク強度(Cu−Kα線におけるピーク強度)と錫のピーク強度(Sn−Lα線におけるピーク強度)との比(銅のピーク強度/錫のピーク強度)を求めた結果を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示す試料は、銅濃度が0.50wt%の試料1(ニホンゲンマ社製(品番:NP303 3.0))、銅濃度が0.71wt%の試料2(ニホンゲンマ社製(品番:NP503 B20))、銅濃度が3.04wt%の試料3(ニホンゲンマ社製原料(品番:NP303)を使用した溶融はんだ浴から採取)、銅濃度が1.09wt%の試料4(MBH analycal LTD製(品番:74XCA5)である。これら試料は、熱間樹脂に埋め込んだ後に、表面をバフ仕上げした。そして、これら各試料について2回ずつネルギー分散型X線分析装置を用いてX線スペクトルの銅のピーク強度(Cu−Kα線におけるピーク強度)と錫のピーク強度(Sn−Lα線におけるピーク強度)との比(銅のピーク強度/錫のピーク強度)を測定した。その結果、試料1のピーク強度比の平均は1.72となり、試料2のピーク強度比の平均は1.76となり、試料3のピーク強度比の平均は3.95となり、試料4のピーク強度比の平均は2.19となった。
【0041】
図4は、本実施例における測定条件での銅のピーク強度と錫のピーク強度との比(銅のピーク強度/錫のピーク強度)[%]と銅濃度[wt%]との関係を示したグラフである。
図4は、表2に示す結果をグラフ化したものであるが、検量線が銅濃度が0.8wt%から3.04wt%まで優れた直線性を有し、Yが0.8以上の場合に、一次関数式「Y=0.688X+0.108」で表すことが可能である。従って、以上の結果から、本件発明に係るはんだ中の銅濃度定量方法によれば、はんだ中の銅濃度を、Y=aX+b(a、bは定数であり、a≠0である)で表される一次関数式のYを求めることで簡易且つ迅速に定量することが出来ることが分かった。また、この場合に、定数a,bの値に関しては、「1.0≦a≦1.2」、「−1.2≦b≦−1.5」を満たすことが確認出来た。そして、はんだ中の銅濃度は、銅のピーク強度(Cu−Kα線におけるピーク強度)と錫のピーク強度(Sn−Lα線におけるピーク強度)との比(銅のピーク強度/錫のピーク強度)から簡易でありながらも高精度で信頼性高く求めることができ、特に銅濃度が概ね0.8wt%以上のはんだに関して高精度で信頼性高く求めることができ好ましいことが分かった。