(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱可塑性樹脂粒子が、非晶性ポリイミド、カプロラクタムの開環重縮合反応により得られるポリアミド、ラウリルラクタムの開環重縮合反応により得られるポリアミド、または、非晶性ナイロンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料。
前記熱可塑性樹脂粒子が、破断伸度が10〜2000%であり、引張弾性率が3000MPa以下である熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の繊維強化複合材料は、少なくとも、熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材と、からなる繊維強化複合材料であって、熱可塑性樹脂粒子が、熱処理された熱可塑性樹脂粒子である繊維強化複合材料である。
熱処理された熱可塑性樹脂粒子を構成要素として供えることで、複合材料の層間靭性が向上し、優れた耐衝撃性を発現する繊維強化複合材料となる。
【0014】
本発明においては、熱可塑性樹脂粒子が、硬化性樹脂不溶性熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子であることが好ましい。また、硬化性樹脂の硬化後の破断伸度より高い破断伸度を有する熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子であることが好ましく、さらには、硬化性樹脂の硬化後の引張弾性率より低い引張弾性率を有する熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子であることがより好ましい。なお、本発明でいう破断伸度、引張弾性率は、熱可塑性樹脂または硬化性樹脂をダンベル形の試験片に成形し、ISO527に準じて引張試験を行うことで求められる樹脂の引張破断伸度および引張弾性率である。
【0015】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、少なくとも、熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材と、からなる繊維強化複合材料の製造方法であって、熱可塑性樹脂粒子を熱処理する工程と、熱処理された熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材とを一体化させる工程と、硬化性樹脂を硬化させる工程と、を含む繊維強化複合材料の製造方法である。
本発明においては、熱可塑性樹脂粒子を熱処理する工程が、熱可塑性樹脂粒子を流体中で熱処理する工程であることが好ましい。
【0016】
本発明において、熱処理された熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材とを一体化させる方法は、特に制限が無く、例えば、熱処理された熱可塑性樹脂粒子を硬化性樹脂に添加し硬化性樹脂組成物とし、かかる硬化性樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる方法、強化繊維基材に熱処理された熱可塑性樹脂粒子を付着させた後、硬化性樹脂を強化繊維基材に含浸させる方法、硬化性樹脂を強化繊維基材に含浸させた後、熱処理された熱可塑性樹脂粒子を硬化性樹脂が含浸した強化繊維基材に付着させる方法などがあげられる。熱処理された熱可塑性樹脂を、繊維強化複合材料の樹脂層に均一に分散させやすいことから、熱処理された熱可塑性樹脂粒子が添加された硬化性樹脂組成物を、強化繊維基材に含浸させる方法が、より好ましい。硬化性樹脂組成物を繊維強化基材に含浸させる方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ハンドレイアップ法、樹脂移送法、プリプレグ法、などが挙げられる。これらの方法の中でも、強度の高い繊維強化複合材料を得やすいプリプレグ法が好ましい。
【0017】
本発明のもう一つの態様であるプリプレグは、少なくとも、熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材と、からなるプリプレグであって、熱可塑性樹脂粒子が、熱処理された熱可塑性樹脂粒子であるプリプレグである。
本発明のプリプレグの製造方法は、少なくとも、熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材と、からなるプリプレグの製造方法であって、熱可塑性樹脂粒子を熱処理する工程と、熱処理された熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材とを一体化させる工程と、を含むプリプレグの製造方法である。
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
(強化繊維基材)
本発明に用いられる強化繊維基材は、強化繊維を各種形状に加工した基材である。強化繊維基材は、シート状の形態であることが好ましい。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維が使用できる。これらの強化繊維の中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましい。比強度及び比弾性率が高く、軽量かつ高強度の複合材料が得られるため、炭素繊維が特に好ましく、引張強度が高いPAN系炭素繊維が最も好ましい。
【0019】
炭素繊維としては、引張弾性率が170〜600GPaであることが好ましく、220〜450GPaであることが特に好ましい。また、炭素繊維の引張強度は3920MPa(400kgf/mm
2)以上であることが好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、複合材料の機械的性質を特に向上できる。
シート状の強化繊維基材としては、多数本の強化繊維を一方向に引き揃えたシートや、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙などが挙げられる。シート状物の厚さは、0.01〜3mmが好ましく、0.1〜1.5mmがより好ましい。
【0020】
(熱可塑性樹脂粒子)
本発明に用いられる熱可塑性樹脂粒子は、熱処理された熱可塑性樹脂粒子である。本発明において、熱可塑性樹脂粒子は、強化繊維基材及び硬化性樹脂と一体化されるに先んじて熱処理される。かかる熱処理については、後述する。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂粒子は、熱可塑性樹脂からなる粒子であり、かかる粒子を構成する熱可塑性樹脂としては、従来公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂は、硬化性樹脂可溶性熱可塑性樹脂と硬化性樹脂不溶性熱可塑性樹脂とに大別される。本発明において、熱処理される熱可塑性樹脂粒子が、硬化性樹脂不溶性熱可塑性樹脂であると、得られる複合材料の靭性がより向上しやすいため好ましい。
【0021】
本発明において、硬化性樹脂可溶性熱可塑性樹脂とは、複合材料を成形する温度又はそれ以下の温度で、硬化性樹脂に一部又は全部が溶解し得る熱可塑性樹脂をいう。一部が溶解するとは、後述する「実質的に溶解しない熱可塑性樹脂」を除く意味である。一方、本発明において、硬化性樹脂不溶性熱可塑性樹脂とは、複合材料を成形する温度又はそれ以下の温度において、硬化性樹脂に実質的に溶解しない熱可塑性樹脂をいう。即ち、複合材料を成形する温度において、熱可塑性樹脂を硬化性樹脂中に投入して攪拌した際に、粒子の大きさ又は形状が変化しない熱可塑性樹脂をいう。なお、複合材料を成形する際の温度は、用いる硬化性樹脂により異なるが、一般的に100〜190℃である。
【0022】
硬化性樹脂不溶性熱可塑性樹脂や硬化性樹脂可溶性熱可塑性樹脂の一部(硬化後のマトリクス樹脂において溶解せずに残存した硬化性樹脂可溶性熱可塑性樹脂)は、その粒子が複合材料のマトリクス樹脂中に分散する状態となる(以下、この分散している粒子を「層間粒子」ともいう)。この層間粒子は、複合材料が受ける衝撃の伝播を抑制する。その結果、複合材料の耐衝撃性が向上する。層間粒子は、複合材料に含まれる硬化性樹脂量100質量部に対して、5〜60質量部存在することが好ましい。
【0023】
硬化性樹脂可溶性熱可塑性樹脂の具体例としては、硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用して用いても良い。
硬化性樹脂不溶性熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾールが例示される。これらの中でも、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドは、靭性及び耐熱性が高いため好ましい。ポリアミドやポリイミドは、複合材料に対する靭性向上効果が特に優れている。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。また、これらの共重合体を用いることもできる。
【0024】
非晶性ポリイミドや、ナイロン6(商標)(カプロラクタムの開環重縮合反応により得られるポリアミド)、ポリアミド12(ラウリルラクタムの開環重縮合反応により得られるポリアミド)、非晶性のナイロン(透明ナイロンとも呼ばれ、ポリマーの結晶化が起こらない、又はポリマーの結晶化速度が極めて遅いナイロンをいう)のようなポリアミドは、複合材料の耐熱性を向上させる効果が特に高い。
【0025】
本発明において、熱可塑性樹脂粒子として用いる熱可塑性樹脂が硬化性樹脂の硬化後の破断伸度より高い破断伸度を有する熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子であることが好ましい。熱可塑性樹脂の破断伸度は、10〜2000%であることがより好ましく、50〜1000%であることがさらに好ましく、200〜400%であることが特に好ましい。熱可塑性樹脂の破断伸度がこの範囲にあると、複合材料の層間靭性をより向上させることができる。また、本発明で用いる熱可塑性樹脂は、硬化性樹脂の硬化後の引張弾性率より低い引張弾性率を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂の引張弾性率は、3000MPa以下であることがより好ましく、1000〜2000MPaであることが更に好ましい。
【0026】
これらの熱可塑性樹脂の中でもポリアミドであることがより好ましく、ポリアミド12であることが特に好ましい。
熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、1〜50μmであることが好ましく、3〜30μmであることが特に好ましい。1μm未満である場合、この硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりやすい傾向があるため、硬化性樹脂組成物に十分な量の硬化性樹脂不溶性熱可塑性樹脂を添加することが困難となる場合がある。50μmを超える場合、エポキシ樹脂組成物をシート状に加工する際、均質な厚みのシートが得られ難くなる場合がある。
【0027】
(硬化性樹脂)
本発明で用いる硬化性樹脂には特に制限はなく、例えば熱硬化性樹脂やエネルギー線硬化樹脂を用いることができる。中でも、熱硬化性樹脂は、高い耐熱性を有する繊維強化複合材料を製造できるので、好ましい。熱硬化性樹脂としては、耐熱性および機械特性の観点から、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する熱硬化性樹脂が好ましい。
【0028】
かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。更に、これらの変性体および2種類以上のブレンド樹脂なども用いることができる。これらの熱硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであっても良いし、硬化剤や硬化促進剤などを配合することにより硬化する樹脂であっても良い。
【0029】
これらの熱硬化性樹脂の中でも、耐熱性、力学特性および炭素繊維との接着性のバランスに優れているエポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂としては、特に制限はないが、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂などの2官能エポキシ樹脂、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂やナフタレン型エポキシ樹脂や、ノボラック型エポキシ樹脂であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0030】
更には、フェノール型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。また更に、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などの各種変性エポキシ樹脂も用いることができる。
中でも、分子内に芳香族基を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましく、グリシジルアミン構造、グリシジルエーテル構造の何れかを有するエポキシ樹脂がより好ましい。また、脂環族エポキシ樹脂も好適に用いることができる。
【0031】
グリシジルアミン構造を有するエポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−3−メチル−4−アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体などが例示される。
グリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が例示される。
これらのエポキシ樹脂は、必要に応じて、芳香族環構造などに非反応性置換基を有していても良い。非反応性置換基としては、メチル、エチル、イソプロピルなどのアルキル基、フェニルなどの芳香族基、アルコキシル基、アラルキル基、塩素や臭素などのハロゲン基などが例示される。
【0032】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型樹脂等が挙げられる。具体的にはジャパンエポキシレジン社製jER815(商品名)、jER828(商品名)、jER834(商品名)、jER1001(商品名)、jER807(商品名)、三井石油化学製エポミックR−710(商品名)、大日本インキ化学工業製EXA1514(商品名)等が例示される。
脂環型エポキシ樹脂としては、ハンツマン社製社製アラルダイトCY−179(商品名)、CY−178(商品名)、CY−182(商品名)、CY−183(商品名)等が例示される。
【0033】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社製jER152(商品名)、jER154(商品名)、ダウケミカル社製DEN431(商品名)、DEN485(商品名)、DEN438(商品名)、DIC社製エピクロンN740(商品名)等、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂として、ハンツマン社製社製アラルダイトECN1235(商品名)、ECN1273(商品名)、ECN1280(商品名)、日本化薬製EOCN102(商品名)、EOCN103(商品名)、EOCN104(商品名)等が例示される。
各種変性エポキシ樹脂としては、例えば、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂として旭電化製アデカレジンEPU−6(商品名)、EPU−4(商品名)等が例示される。
【0034】
これらのエポキシ樹脂は、適宜選択して1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。この中で、ビスフェノール型に代表される2官能エポキシ樹脂は、分子量の違いにより液状から固形まで種々のグレードの樹脂がある。従って、これらの樹脂はプリプレグ用マトリクス樹脂の粘度調整を行う目的で配合すると好都合である。
【0035】
(硬化剤)
本発明において硬化性樹脂組成物には、必要に応じて硬化性樹脂を硬化させる硬化剤が配合されていてもよい。硬化剤としては、公知の硬化剤が用いられる。
例えば、硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合に使用される硬化剤としては、ジシアンジアミド、芳香族アミン系硬化剤の各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が挙げられる。ジシアンジアミドは、プリプレグの保存安定性に優れるため好ましい。また、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミン化合物及びそれらの非反応性置換基を有する誘導体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるという観点から特に好ましい。ここで、非反応性置換基は、エポキシ樹脂の説明において述べた非反応性置換基と同様である。
【0036】
アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ−p−アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ−p−アミノベンゾエートが好ましく用いられる。これらを用いて硬化させた複合材料は、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体と比較して耐熱性は劣るが、引張伸度に優れる。そのため、複合材料の用途に応じて、使用する硬化剤の種類は適宜選択される。
【0037】
硬化性樹脂組成物に含まれる硬化剤の量は、少なくとも樹脂組成物に配合されている硬化性樹脂を硬化させるのに適する量を、用いる硬化性樹脂及び硬化剤の種類に応じて適宜調節すればよい。配合量は、硬化剤・硬化促進剤の有無と添加量、硬化性樹脂との化学反応量論及び組成物の硬化速度などを考慮して、適宜、所望の配合量で用いることができる。保存安定性の観点から、樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂100質量部に対して、硬化剤を30〜100質量部配合することが好ましく、30〜70質量部がより好ましい。
【0038】
硬化剤として、コート剤によりマイクロカプセル化された硬化剤(例えば、DDSコート10(松本油脂社製))を用いることも可能である。マイクロカプセル化された硬化剤は室温状態において未硬化の硬化性樹脂と反応することを防止するため、物理的、化学的な結合により硬化剤の表層を硬化性樹脂と反応性の少ない物質、具体的には、ポリアミド、変性尿素樹脂、変性メラミン樹脂、ポリオレフィン、ポリパラフィン(変性品も含む)等のコート剤によりコートしたものである。 これらのコート剤は、単独使用又は併用してもよく、また、前記以外の種々のコート剤によりマイクロカプセル化された硬化剤を用いることもできる。
【0039】
(その他添加剤等)
硬化性樹脂として、低粘度の硬化性樹脂を用いる場合、樹脂組成物に適切な粘度を与えるために、熱処理された熱可塑性樹脂粒子以外の熱可塑性樹脂を配合してもよい。この樹脂組成物に粘度調節のために配合する熱可塑性樹脂には、最終的に得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性を向上させる効果もある。
【0040】
樹脂組成物に配合する熱可塑性樹脂の量は、樹脂組成物に用いる硬化性樹脂の種類に応じて異なり、樹脂組成物の粘度が後述する適切な値になるように適宜調節すればよい。通常、樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂100質量部に対して、熱可塑性樹脂は5〜100質量部となるように配合することが好ましい。樹脂組成物の好ましい粘度は、80℃におけるその最低粘度が10〜450Poiseであり、より好ましくは最低粘度が50〜400Poiseである。
本発明で用いる硬化性樹脂には、上記成分以外に、本発明の目的・効果を阻害しない限り、必要に応じて、適宜、酸無水物、ルイス酸、ジシアンジアミド(DICY)やイミダゾール類の如く塩基性硬化剤、尿素化合物、有機金属塩などの各種添加剤を含むことができる。
【0041】
具体的には、酸無水物としては、無水フタル酸、トリメリット酸無水物、無水ピロメリット酸等が例示される。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素塩類が例示され、更に詳細には、BF3モノエチルアミン、BF3ベンジルアミン等が例示される。イミダゾール類としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールが例示される。また、尿素化合物である3−[3,4−ジクロロフェニル]−1,1−ジメチル尿素(DCMU)等や、有機金属塩であるCo[III]アセチルアセトネート等を例示することができる。反応性希釈剤としては、例えば、ポリプロピレンジグリコール・ジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等の反応性希釈剤が例示される。
【0042】
(熱処理工程)
本発明においては、熱可塑性樹脂粒子に対して熱処理を行う。かかる熱処理を行った熱可塑性樹脂粒子を用いることで、層間靭性にすぐれた繊維強化複合材料を得ることができる。かかる熱処理は、液体や気体などの流体中で行われることが好ましく、気体中で行われることがより好ましい。流体中で熱処理を行うことで、熱可塑性樹脂粒子の表面全体を均等に熱処理することができる。
【0043】
気体中で熱処理を行う場合は、用いる気体は特に制限はなく、例えば、空気、酸素、オゾン、二酸化窒素などの酸化性気体、一酸化炭素、一酸化窒素などの還元性気体、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性気体を用いることができる。熱処理温度は、用いる熱可塑性樹脂粒子に応じて、適宜調節することができ、用いる熱可塑性樹脂粒子の融点以上の温度であることが好ましく、より好ましくは100〜800℃、更に好ましくは250〜600℃である。
【0044】
加熱処理の方法としては、熱可塑性樹脂粒子を、処理温度まで加熱された流体中に分散噴霧することが好ましい。熱可塑性樹脂粒子を流体中に分散噴霧することにより、樹脂粒子全体を均一に熱処理することができる。流体中に樹脂を分散噴霧する場合、流体の流量(気体である場合は風量)は、0.1〜10m
3/minであることが好ましく、0.5〜5m
3/minであることがより好ましい。また、分散噴霧する樹脂の供給量は、加熱流体1m
3に対して1〜100g/minとすることが好ましい。
【0045】
(一体化工程)
本発明において、熱処理された熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材とを一体化させる方法は、特に制限が無く、例えば、熱処理された熱可塑性樹脂粒子を硬化性樹脂に添加し硬化性樹脂組成物とし、かかる硬化性樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる方法、強化繊維基材に熱処理された熱可塑性樹脂粒子を付着させた後、硬化性樹脂を強化繊維基材に含浸させる方法、硬化性樹脂を強化繊維基材に含浸させた後、熱処理された熱可塑性樹脂粒子を硬化性樹脂が含浸した強化繊維基材に付着させる方法などがあげられる。
【0046】
中でも、熱処理された熱可塑性樹脂を得られる繊維強化複合材料の樹脂層に均一に分散させやすい熱処理された熱可塑性樹脂粒子が添加された硬化性樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる方法が好ましい。
熱処理された熱可塑性樹脂粒子を硬化性樹脂に添加し硬化性樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂、必要に応じて硬化剤、その他添加剤とを混合し、熱可塑性樹脂粒子を硬化性樹脂に、好ましくは均一に、分散させることにより硬化性樹脂組成物を製造することができる。
【0047】
硬化性樹脂組成物の混練方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合は、混練温度としては、10〜160℃の範囲が例示できる。10〜160℃の範囲であれば、樹脂の熱劣化や、部分的な硬化反応を抑制でき、好適に樹脂組成物を混練することができる。好ましくは20〜130℃であり、更に好ましくは30〜110℃の範囲である。
【0048】
混練機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を供えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混練は、大気中又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。大気中で混練が行われる場合は、温度、湿度管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下の一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混練することが好ましい。
【0049】
(樹脂含浸工程)
硬化性樹脂組成物を繊維強化基材に含浸させる方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ハンドレイアップ法、樹脂移送法、プリプレグ法、などが挙げられる。これらの方法の中でも、強度の高い繊維強化複合材料を得やすいプリプレグ法が好ましい。
プリプレグ法により樹脂を含浸させる場合、樹脂の含浸方法には特に制限が無く、従来公知のいかなる方法も採用できる。具体的には、ホットメルト法や、溶剤法が好適に採用できる。
ホットメルト法は、離型紙の上に、上記樹脂組成物を薄いフィルム状に塗布して樹脂組成物フィルムを形成し、次いで形成したフィルムを離型紙から剥離して樹脂組成物フィルムを得、その後強化繊維基材に樹脂組成物フィルムを積層して加圧下に加熱することにより樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる方法である。
【0050】
樹脂組成物を樹脂組成物フィルムにする方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いることもできる。具体的には、ダイ押し出し、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどを利用し、離型紙、フィルムなどの支持体上に樹脂組成物を流延、キャストをすることにより得ることが出来る。フィルムを製造する際の樹脂温度としては、フィルムを製造する樹脂の組成、粘度に応じて適宜決定する。具体的には、前述の硬化性樹脂組成物製造方法における混練温度と同じ温度条件が好適に用いられる。含浸は1回ではなく、複数回に分けて任意の圧力と温度にて、多段的に行うこともできる。
【0051】
溶剤法は、硬化性樹脂組成物を適当な溶媒を用いてワニス状にし、このワニスを強化繊維基材に含浸させる方法である。これらの従来法の中でも、特に本発明のプリプレグは、従来公知の製造方法であるホットメルト法により、好適に製造することができる。
樹脂組成物フィルムを用いて強化繊維基材へ樹脂組成物を含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。
硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用い、エポキシ樹脂組成物フィルムをホットメルト法で強化繊維基材に含浸させる場合の含浸温度は、50〜150℃の範囲が好ましい。50〜150℃の範囲であれば、硬化性樹脂の硬化反応を抑制しながら、強化繊維基材に均質に樹脂を含浸しやすい。含浸温度は60〜145℃がより好ましく、70〜140℃が特に好ましい。
上記のような方法により、層間靭性に優れた本発明の繊維強化複合材料を与える本発明のプリプレグを製造することができる。
【0052】
本発明のプリプレグの形態は、強化繊維基材に、樹脂組成物が含浸されている形状であれば特に制限が無い。しかし、強化繊維と、前記強化繊維間に含浸された硬化性樹脂組成物とからなる強化繊維層と、前記強化繊維層の表面に被覆された樹脂被覆層とからなるプリプレグが好ましい。樹脂被覆層の厚みは2〜50μmが好ましい。樹脂被覆層の厚みが2μm未満の場合、タック性が不十分となり、プリプレグの成形加工性が著しく低下する場合がある。樹脂被覆層の厚みが50μmを超える場合、プリプレグを均質な厚みでロール状に巻き取ることが困難となり、成形精度が著しく低下する場合がある。樹脂被覆層の厚みは、5〜45μmがより好ましく、10〜40μmが特に好ましい。
【0053】
樹脂組成物の含有率(RC)は、プリプレグの全質量を基準として、15〜60質量%であることが好ましい。含有率が15質量%よりも少ない場合は、得られる複合材料に空隙などが発生し、機械特性を低下させる場合がある。含有率が60質量%を超える場合は、強化繊維による補強効果が不十分となり、実質的に質量対比機械特性が低いものになる場合がある。好ましくは、含有率は、20〜50量%であり、より好ましくは25〜50質量%である。
本発明のプリプレグは、目的に応じて積層され、成形並びに硬化されて繊維強化複合材料が製造される。この製造方法自体は公知である。本発明のプリプレグにより製造される繊維強化複合材料は、優れた層間靭性を有しており、優れた耐衝撃性を有する繊維強化複合材料である。
【0054】
(樹脂硬化工程)
本発明において、熱処理された熱可塑性樹脂粒子と、硬化性樹脂と、強化繊維基材とを一体化させた後、引き続いて、硬化性樹脂を硬化させることにより本発明の繊維強化複合材料を製造することができる。プリプレグ法により一体化を行った場合、プリプレグの成形並びに硬化方法としては、従来公知の方法、例えば、マニュアルレイアップ、自動テープレイアップ(ATL)、自動繊維配置、真空バギング、オートクレーブ硬化、オートクレーブ以外の硬化、流体援用加工、圧力支援プロセス、マッチモールドプロセス、単純プレス硬化、プレスクレーブ硬化、又は連続バンドプレスを使用する方法が挙げられる。
【0055】
例えば、熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂とするプリプレグを用いて繊維強化複合材料をオートクレーブ硬化法により成形する場合、プリプレグを積層して、オートクレーブ中で0.2〜1.0MPaに加圧し、150〜204℃で1〜8時間加熱することによって、成形された繊維強化複合材料を作製することができる。
上記のような方法により、層間靭性に優れた本発明の繊維強化複合材料を製造することができる。このようにして得られる本発明の繊維強化複合材料は、優れた層間靭性を有しており、優れた耐衝撃性を有する繊維強化複合材料である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する成分や試験方法を以下に記載する。
【0057】
〔成分〕
[強化繊維基材]
・使用した東邦テナックス社製の炭素繊維ストランド(テナックス IMS60(商品名))の引張強度と弾性率は下記の通りである。
・引張強度5800MPa(590kgf/mm
2)
・弾性率290GPa(30tf/mm
2)
【0058】
[硬化性樹脂組成物]
(エポキシ樹脂)
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂(4官能基)[三菱化学株式会社社製jER604](硬化後の引張弾性率:3500MPa 硬化後の破断伸度:5%)
(エポキシ樹脂硬化剤)
・3,3’−ジアミノジフェニルスルホン [小西化学工業株式会社製3,3’−DAS]
【0059】
[熱可塑性樹脂粒子]
平均粒子径20μmのポリアミド12(粉砕物)[ダイセル・エボニック株式会社製 VESTOSINT 2158(商品名)(引張弾性率:1400MPa 破断伸度:300% 融点:184℃ 密度:1.016g/cm
3)](エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂粒子)
【0060】
[その他添加剤]
平均粒子径20μmのポリエーテルスルホン[住友化学株式会社製PES−5003P(商品名)](エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂)
【0061】
〔測定方法〕
(1)平均粒子径
平均粒子径は、日機装株式会社製レーザー回折・散乱式の粒度分析計(マイクロトラック法)MT3300を用いて、粒度分布の測定を実施し、その50%粒子径(D50)を平均粒子径とした。
【0062】
(2)層間靭性(GIc)
得られたプリプレグを所定の寸法にカットした後、積層し、0°方向に10層積層した積層体を2つ作製した。初期クラックを発生させるために、離型フィルムを2つの積層体の間にはさみ、両者を組み合わせて、積層構成[0]
20のプリプレグ積層体を得た。通常の真空オートクレーブ成形法を用い、0.59MPaの圧力下、180℃の条件で2時間成形した。得られた成形物(複合材料)を幅12.7mm×長さ304.8mmの寸法に切断し、層間破壊靭性モードI(GIc)の試験片を得た。試験方法として、双片持ちはり層間破壊靱性試験法(DCB法)を用い、き裂進展長さ、荷重、及びき裂開口変位を計測することにより、GIc算出した。
【0063】
(3)層間破壊靭性モードII(GIIc)
得られたプリプレグを所定の寸法にカットした後、積層し、0°方向に10層積層した積層体を2つ作製した。初期クラックを発生させるために、離型フィルムを2つの積層体の間にはさみ、両者を組み合わせ、積層構成[0]
20のプリプレグ積層体を得た。通常の真空オートクレーブ成形法を用い、0.59MPaの圧力下、180℃の条件で2時間成形した。得られた成形物(複合材料)を幅12.7mm×長さ304.8mmの寸法に切断し、層間破壊靭性モードII(GIIc)の試験片を得た。この試験片を用いて、GIIc試験を行った。
GIIc試験方法として、3点曲げ荷重を負荷するENF(end notched flexure test)試験を行った。支点間距離101.6mm、厚さ25μmのPTFEフィルムにより作製したクラックの先端が、支点から38.1mmとなる位置に試験片を配置し、2.54mm/minの速度で曲げの負荷を与えて初期クラックを形成させた。その後、初期クラックにより生じたクラックの先端が、支点から25.4mmの位置になるように試験片を配置し、2.54mm/minの速度で曲げの負荷を与えて試験を行った。同様に、クラック先端が、支点から25.4mmの位置になるように試験片を配置し、2.54mm/minの速度で曲げの負荷を与えて、3回の曲げ試験を実施し、それぞれの曲げ試験の荷重―ストロークからGIIcを算出した。
【0064】
(実施例1)
日本ニューマチック工業株式会社製の表面改質機 メテオレインボー MR−10を用いて、ポリアミド12粒子(熱可塑性樹脂粒子)を550℃に加熱した空気中(熱風風量:1.2m
3/min)に1.0kg/hrの供給速度で噴射し、熱処理を行い、熱処理された熱可塑性樹脂粒子を得た。
混練装置で、エポキシ樹脂であるjER604(100質量部)に、硬化性樹脂可溶性熱可塑性樹脂であるPES−5003P(30質量部)を添加し、120℃で60分間攪拌機を用いて撹拌しPES−5003Pをエポキシ樹脂に完全溶解させた後、樹脂温度を80℃以下に冷ました。その後、熱処理されたポリアミド12粒子(30質量部)をエポキシ樹脂に添加混練し、さらに硬化剤(40質量部)を混練して、硬化性樹脂組成物を調製した。
調製した硬化性樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して51g/m
2の樹脂フィルムを、2枚作製した。次に、炭素繊維束を一方向に配列させた炭素繊維シートに、上記作製した樹脂フィルム2枚をシート両面に重ねた。加熱、加圧することにより、樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、炭素繊維の目付が190g/m
2で、マトリクス樹脂の質量分率が35.0%の一方向プリプレグを作製した。
作製した一方向プリプレグを用いて複合材料を製造し、その靭性を評価した。得られた複合材料は、GIc:4.0in−lb/in
2、GIIc:13in−lb/in
2と優れた靭性を示した。
【0065】
(比較例1)
熱可塑性樹脂粒子を熱処理しなかった以外は実施例1と同様にして一方向プリプレグを作成した。作製した一方向プリプレグを用いて複合材料を製造し、その靭性を評価した。得られた複合材料は、GIc:3.5in−lb/in
2、GIIc:10in−lb/in
2と実施例1と比較して靭性に劣った複合材料であった。