特許第6321404号(P6321404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321404
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】蓄電材料の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20180423BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20180423BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180423BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20180423BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20180423BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20180423BHJP
【FI】
   H01M4/04 A
   H01M4/139
   H01M4/62 Z
   H01G13/00 381
   H01G11/86
   H01G11/30
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-35750(P2014-35750)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-162299(P2015-162299A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】三尾 巧美
(72)【発明者】
【氏名】西 幸二
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祥子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】市原 豊
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−522398(JP,A)
【文献】 特開平08−190912(JP,A)
【文献】 特開2011−204576(JP,A)
【文献】 特開2014−017064(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/046305(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01G 11/30
H01G 11/86
H01G 13/00
H01M 4/139
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも増粘剤および活物質を含む蓄電材料を製造する蓄電材料の製造装置であって、
界面活性剤を含む前記増粘剤の溶解液を作製する溶解液作製装置と、
前記溶解液および前記活物質の粉体を混練する混合物混練装置と、
を備え、
前記溶解液作製装置は、
記憶された前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と最終的な前記活物質のスラリの粘度との関係に基づいて、前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を決定し、
前記混合物混練装置は、
決定した前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度となるように前記溶解液作製装置で作製された前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液を導入し、導入した前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液と、投入される前記活物質の粉体とを混練する蓄電材料の製造装置。
【請求項2】
前記混合物混練装置は、
前記溶解液および前記活物質の粉体の混合物を搬送する混合物搬送装置、
を備える請求項1の蓄電材料の製造装置。
【請求項3】
前記溶解液作製装置は、
前記界面活性剤および前記増粘剤を溶媒に溶解する増粘剤溶解装置と、
前記溶解液を所定の粘度に調整する粘度調整装置と、
を備える請求項1又は2の蓄電材料の製造装置。
【請求項4】
少なくとも増粘剤および活物質を含む蓄電材料を製造する蓄電材料の製造方法であって、
界面活性剤を含む前記増粘剤の溶解液を作製する溶解液作製工程と、
前記溶解液および前記活物質の粉体を混練する混合物混練工程と、
を備え、
前記溶解液作製工程は、
記憶された前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と最終的な前記活物質のスラリの粘度との関係に基づいて、前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を決定し、
前記混合物混練工程は、
決定した前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度となるように前記溶解液作製工程で作製された前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液を導入し、導入した前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液と、投入される前記活物質の粉体とを混練する蓄電材料の製造方法。
【請求項5】
前記蓄電材料の製造方法は、
前記溶解液および前記活物質の粉体の混合物を搬送する混合物搬送工程、
を備える請求項4の蓄電材料の製造方法。
【請求項6】
前記溶解液作製工程は、
前記界面活性剤および前記増粘剤を溶媒に溶解する増粘剤溶解工程と、
前記溶解液を所定の粘度に調整する粘度調整工程と、
を備える請求項4又は5の蓄電材料の製造方法。
【請求項7】
前記界面活性剤は、フッ素系の材料である、請求項4〜6の何れか一項の蓄電材料の製造方法。
【請求項8】
前記フッ素系の材料は、水と親和性を有する、請求項7の蓄電材料の製造方法。
【請求項9】
前記界面活性剤の添加量は、0.01重量%〜0.3重量%である、請求項4〜8の何れか一項の蓄電材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電材料を製造する製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等に適用されている。リチウムイオン二次電池の電極は、先ず、活物質材料(蓄電材料)のスラリを得るために増粘剤の溶解液に活物質の粉体等を混練し、次に、活物質材料のスラリをアルミニウム箔等の基材に塗布して乾燥することにより製造される。そして、リチウムイオン二次電池は、電極を所定の大きさに切断してセパレータを挟んで積層し、当該積層体を非水電解液とともに外装に封入することにより製造される。
【0003】
特許文献1には、基材に活物質材料のスラリを均一に塗布するため、フッ素系界面活性剤を含有するスラリが記載されている。また、特許文献2には、活物質として炭素材料を用いた場合、電極における炭素層と非水電解液との濡れ性を高めるため、非イオン界面活性剤を含有する炭素層を有する電極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−250558号公報
【特許文献2】特開平10−92436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2において、活物質材料のスラリは、増粘剤、溶媒および活物質の粉体等を一時に投入し混練して製造、すなわちバッチ処理して製造している。近年、リチウムイオン二次電池は、需要の増加が著しく、スラリ製造の連続処理化が望まれている。しかし、活物質の粉体は、増粘剤の溶解液に濡れ難いため、活物質の粉体および増粘剤の溶解液の混合物が、製造装置内で堆積し易く、搬送困難になってスラリ製造の連続処理化の障害となっている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、活物質の粉体および増粘剤の溶解液等の混合物の搬送が容易な蓄電材料の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)本発明に係る蓄電材料の製造装置は、少なくとも増粘剤および活物質を含む蓄電材料を製造する蓄電材料の製造装置であって、界面活性剤を含む前記増粘剤の溶解液を作製する溶解液作製装置と、前記溶解液および前記活物質の粉体を混練する混合物混練装置と、を備え、前記溶解液作製装置は、記憶された前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と最終的な前記活物質のスラリの粘度との関係に基づいて、前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を決定し、前記混合物混練装置は、決定した前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度となるように前記溶解液作製装置で作製された前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液を導入し、導入した前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液と、投入される前記活物質の粉体とを混練する。
【0008】
これにより、増粘剤の溶解液には、界面活性剤が添加されているので、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の表面張力が低下し、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に対する活物質の粉体の濡れ速度が上昇する。よって、活物質の粉体は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に馴染み易くなるので、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液および活物質の粉体の混合物が、製造装置内で堆積することはなくスムーズな搬送が可能となる。
【0009】
また、最終的な活物質のスラリの粘度は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と比例関係にあることから、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を所定値に調整することにより、活物質のスラリの粘度を電池の初期性能および塗布・乾燥工程の実行性の兼ね合いから定められる所定範囲内に調整することができる。また、活物質の粉体は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に対し濡れ性が向上するので、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に短時間に分散して損傷を抑制することができる。そして、活物質の粉体は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に均一に分散するので、電極の品質を向上させることができ、電池性能を高めることができる。
【0010】
(請求項2)前記混合物混練装置は、前記溶解液および前記活物質の粉体の混合物を搬送する混合物搬送装置、を備えるようにしてもよい。
これにより、蓄電材料の混練物は、連続処理化が可能となる。
【0011】
(請求項3)前記溶解液作製装置は、前記界面活性剤および前記増粘剤を溶媒に溶解する増粘剤溶解装置と、前記溶解液を所定の粘度に調整する粘度調整装置と、を備えるようにしてもよい。
これにより、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液が、適切な粘度に調整されるので、活物質の粉体および界面活性剤を含む増粘剤の溶解液等の混合物は、適切な粘度に混練されることになる。よって、蓄電材料の混練物は、基材に均一に塗布されることになり、塗布膜の品質が向上する。
【0012】
(請求項4)本発明に係る蓄電材料の製造方法は、少なくとも増粘剤および活物質を含む蓄電材料を製造する蓄電材料の製造方法であって、界面活性剤を含む前記増粘剤の溶解液を作製する溶解液作製工程と、前記溶解液および前記活物質の粉体を混練する混合物混練工程と、を備え、前記溶解液作製工程は、記憶された前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と最終的な前記活物質のスラリの粘度との関係に基づいて、前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を決定し、前記混合物混練工程は、決定した前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度となるように前記溶解液作製工程で作製された前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液を導入し、導入した前記界面活性剤を含む増粘剤の溶解液と、投入される前記活物質の粉体とを混練する。
(請求項5)前記蓄電材料の製造方法は、前記溶解液および前記活物質の粉体の混合物を搬送する混合物搬送工程、を備えるようにしてもよい。
(請求項6)前記溶解液作製工程は、前記界面活性剤および前記増粘剤を溶媒に溶解する増粘剤溶解工程と、前記溶解液を所定の粘度に調整する粘度調整工程と、を備えるようにしてもよい。
本発明の蓄電材料の製造方法によれば、上述した蓄電材料の製造装置における効果と同様の効果を奏する。
【0013】
(請求項7)前記界面活性剤は、フッ素系の材料であるようにしてもよい。
フッ素系の材料は、化学的安定性が高く、充放電時に分解しにくいので、電池性能を高めることができる。
【0014】
(請求項8)前記フッ素系の材料は、水と親和性を有するようにしてもよい。
水と親和性のあるフッ素系の材料は、増粘剤の溶解液に対する活物質の粉体の濡れ性を高めることができるので、電池性能をさらに高めることができる。
【0015】
(請求項9)前記界面活性剤の添加量は、0.01重量%〜0.3重量%であるようにしてもよい。
界面活性剤の添加量が、0.01重量%未満であると活物質の粉体の沈降時間が長過ぎ、0.3重量%を越えると増粘剤の溶解液に泡立ちが生じて取り扱いが困難になるため、0.01重量%〜0.3重量%であると良好な混練物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態:蓄電材料の製造装置の概略構成図である。
図2】本発明の実施の形態:蓄電材料の製造装置の製造制御装置による処理を示すフローチャートである。
図3】増粘剤の溶解液に疎水性および親水性のフッ素系界面活性剤をそれぞれ添加したときの活物質の沈降速度を示す図である。
図4】親水性のフッ素系界面活性剤の添加量と活物質の沈降速度との関係を示す図である。
図5】界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と溶解度との関係を示す図である。
図6】マイクロ波による増粘剤の溶解液の粘度、撹拌力による増粘剤の溶解液の粘度および加熱による増粘剤の溶解液の粘度の経時変化を示す図である。
図7】最終的な活物質のスラリの粘度と界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度との関係を示す図である。
図8】超音波による界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度調整および撹拌力による界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度調整の経時変化を示す図である。
図9】電池の容量維持率、すなわち電池の耐久性(繰り返し充放電特性)と活物質のスラリの粘度との関係を示す図である。
図10】電池の容量維持率と活物質材料の累積衝突エネルギとの関係を示す図である。
図11】温度変化による液体と固体の表面張力の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(製造方法および製造装置により製造される蓄電材料)
本実施形態による蓄電材料の製造方法および製造装置は、例えば、リチウムイオン二次電池の電極(正極および負極)を製造するための方法および装置を構成する。リチウムイオン二次電池の電極は、アルミニウム箔や銅箔等の基材に蓄電材料として活物質材料のスラリを塗布して乾燥することにより製造される。本実施形態の蓄電材料の製造方法および製造装置は、活物質材料のスラリを製造する方法および装置である。
【0018】
活物質材料の具体例としては、正極の電極の場合、活物質としてリチウムニッケル酸化物等(固形分)、溶媒としてN−メチルピロリドン等(液体分)、導電助材としてアセチレンブラック等およびバインダとしてポリフッ化ビニリデン等がある。負極の電極の場合、活物質としてグラファイト等(固形分)、溶媒として水(液体分)、増粘材としてカルボキシメチルセルロース等およびバインダとしてSBRゴムやポリアクリル酸等がある。以下では、負極の電極の活物質材料について説明する。
【0019】
ここで、課題でも述べたように、活物質の粉体は、増粘剤の溶解液に濡れ難いため、混練の連続処理化の障害となっているため、活物質の粉体および増粘剤の溶解液の濡れ性を改善、すなわち濡れ速度を高める必要がある。濡れ速度は、活物質の粉体の表面張力および増粘剤の溶解液の表面張力で表される濡れ角、並びに増粘剤の溶解液の粘度で表すことができる。
【0020】
濡れ速度を高める方策としては、活物質の粉体の表面張力を大きくして濡れ角を大きくするか、増粘剤の溶解液の表面張力を小さくして濡れ角を大きくするか、増粘剤の溶解液の粘度を小さくすればよい。活物質の粉体の表面張力を大きくするには、紫外線照射による表面改質を実施すればよい。増粘剤の溶解液の表面張力を小さくするには、界面活性剤の添加、または温度上昇を実施すればよい。増粘剤の溶解液の粘度を小さくするには、温度上昇、または分子量の変更を実施すればよい。実験の結果、上記実施事項のうち、界面活性剤を添加して増粘剤の溶解液の表面張力を小さくすることが、濡れ速度を高めるのに最も効果的である。
【0021】
界面活性剤としては、非イオン系およびイオン系がある。イオン系の界面活性剤としては、カチオン系、アニオン系、両性系があるが、どれも充放電反応を阻害するため除外する。非イオン系の界面活性剤としては、エステル系、エーテル系、エステルエーテル系があるが、エステル系、エーテル系、エステルエーテル系は、どれも酸化還元、熱分解等が生じ易く化学的安定性が不足するため除外する。
【0022】
非イオン系の界面活性剤としては、その他として糖鎖系、リン脂質系、フッ素系があるが、糖鎖系およびリン脂質系は、充放電時に分解し易いため除外する。一方、フッ素系は、化学的安定性が高く、充放電時に分解しないので、活物質の粉体および増粘剤の溶解液の濡れ性を改善するものとして使用可能であり、電池性能を高めることができる。
【0023】
フッ素系の界面活性剤としては、疎水性(水との親和性の低いもの(25℃における水に対する溶解度が1重量%より少ないもの))および親水性(水との親和性の高いもの(25℃における水に対する溶解度が1重量%以上のもの))があり、それぞれの濡れ速度について実験を行った。濡れ速度は、所定量の疎水性および親水性のフッ素系界面活性剤を添加した増粘剤の溶解液の液面に、活物質の粉体をそれぞれ投入し、活物質の粉体が界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の液底に到達するまでの沈降時間を測定することにより評価した。ここで、増粘剤の溶解液を25℃とした理由は、図11に示すように、液体は、固体よりも温度を変化させたときの表面張力の増減幅が大きい(グラフの傾きが急である)ので、増粘剤の溶解液を昇温した方が活物質の粉体を昇温するよりも濡れ改善に有効なためである。
【0024】
実験の結果、図3に示すように、親水性のフッ素系界面活性剤は、疎水性のフッ素系界面活性剤よりも活物質の粉体の沈降時間が短くなり、活物質の粉体および界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の濡れ性を大幅に改善することができ、電池性能をさらに高めることができる。この親水性のフッ素系界面活性剤としては、例えば、ヘキサフルオロプロペン誘導体がある。なお、活物質の粉体は、フッ素系界面活性剤を添加していない増粘剤の溶解液に投入した場合は全く沈降しなかったため、疎水性のフッ素系界面活性剤を添加することも効果的である。
【0025】
次に、親水性のフッ素系界面活性剤は、添加量によって濡れ速度が変化するか否かについて実験を行った。実験の結果、図4に示すように、親水性のフッ素系界面活性剤は、0.01重量%未満であると活物質の粉体の沈降時間が長過ぎ、0.3重量%を越えると増粘剤の溶解液の泡立ちが増加して取り扱いが困難になるため、0.01重量%〜0.3重量%の添加量が好適である。
【0026】
次に、親水性のフッ素系界面活性剤は、添加の有無によって電池性能に影響を与えるか否かについて実験を行った。電池性能は、リチウムイオン二次電池の容量低下速度により評価する。ここで、容量低下速度は、リチウムイオン二次電池の初期の充電状態を100%としたとき、充放電を繰り返すことにより充電状態が例えば60%の状態まで低下したときの充放電回数に基づいて表される。実験の結果、親水性のフッ素系界面活性剤は、添加する方が添加しない方よりも容量低下速度を低くすることができ、電池性能を向上させることができる。
【0027】
(蓄電材料の製造装置の構成)
本実施形態の蓄電材料の製造装置について、図1を参照して説明する。蓄電材料の製造装置1は、溶解液作製装置2と、活物質投入装置3と、混合物搬送装置4と、混合物混練装置5と、製造制御装置6等とを備えて構成される。
【0028】
溶解液作製装置2は、界面活性剤および増粘剤を溶媒に投入し、界面活性剤および増粘剤を溶媒に溶解し、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を調整する装置であり、ハウジング21と、マイクロ波装置22と、超音波装置23と、第一ホッパ24と、第二ホッパ25と、貯留タンク26と、供給管路27と、定量ポンプ28等とを備えている。
【0029】
ハウジング21は、中空円筒形状に形成され、軸方向が鉛直方向となるように配置されている。マイクロ波装置22は、マグネトロンを備え、ハウジング21の上面に配置されている。超音波装置23は、ハウジング21の外周に配置され、圧電素子等の超音波発生素子がハウジング21の外周面に密着固定されている。第一ホッパ24は、増粘剤を収容してハウジング21内に投入可能なように、ハウジング21の上面に突設されている。
【0030】
第二ホッパ25は、界面活性剤を収容してハウジング21内に投入可能なように、ハウジング21の上面に突設されている。貯留タンク26は、溶媒を収容してハウジング21内に供給可能なように、ハウジング21の外周に連設されている。供給管路27は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液を混合物搬送装置4に供給可能なように、ハウジング21の下面に配管されている。定量ポンプ28は、供給管路27の途中に配置されている。
【0031】
活物質投入装置3は、ロスインウエイト制御により所定量の活物質の粉体等を混合物搬送装置4に供給する装置であり、ハウジング31と、低周波発生装置32と、供給管路33等とを備えている。ハウジング31は、中空円筒状に形成され、軸方向が鉛直方向となるように配置されている。低周波発生装置32は、ハウジング31の外周に配置され、ソレノイドがハウジング31の外周面に固定されている。供給管路33は、活物質の粉体を混合物搬送装置4に供給可能なように、ハウジング31の下面に配管されている。
【0032】
混合物搬送装置4は、活物質の粉体および界面活性剤を含む増粘剤の溶解液等の混合物(以下、単に「混合物」という)を搬送する装置であり、ハウジング41と、一対のスクリュウ42と、駆動モータ43と、ギヤ機構44と、供給管路45等とを備えている。ハウジング41は、略中空円筒状に形成され、軸方向が水平方向となるように配置されている。ハウジング41の一端面側の上部には、溶解液作製装置2の供給管路27および活物質投入装置3の供給管路33の各排出口が連接される開口41aが設けられている。
【0033】
一対のスクリュウ42は、ハウジング41の内部において平行且つ並べて配置され、互いに噛み合って軸線回りに同方向もしくは逆方向に回転可能なように、一対のスクリュウ42の回転軸が、ハウジング41の両端面に軸支持されている。駆動モータ43は、ハウジング41の一端面、すなわち一対のスクリュウ42の後端側の端面に固定され、駆動モータ43のモータ軸が、ギヤ機構44を介して一対のスクリュウ42の回転軸に連結されている。供給管路45は、混合物を混合物混練装置5に供給可能なように、ハウジング41の他端面、すなわち一対のスクリュウ42の前端側の端面に配管されている。
【0034】
混合物混練装置5は、混合物を混練する装置であり、ハウジング51と、撹拌羽根52と、駆動モータ53と、排液管路54等とを備えている。ハウジング51は、中空円筒形状に形成され、軸方向が鉛直方向となるように配置されている。撹拌羽根52は、ハウジング51の内部において回転可能なように、撹拌羽根52の回転軸が、ハウジング51の上面の中心部に軸支持されている。駆動モータ53は、ハウジング51の上面上部に固定され、駆動モータ53のモータ軸が、撹拌羽根52の回転軸に連結されている。排液管路54は、活物質材料のスラリ(混練物)を外部に排液可能なように、ハウジング51の周面に配管されている。
【0035】
製造制御装置6は、記憶部61と、溶解液作製制御部62と、活物質投入制御部63と、混合物搬送制御部64と、混合物混練制御部65等とを備えている。
記憶部61には、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の溶解度と界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度との関係を示すデータ(図5参照)、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と界面活性剤を含む増粘剤溶解時間との関係を示すデータ(図6参照)、活物質材料のスラリの粘度と界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度との関係を示すデータ(図7参照)、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と超音波の付与時間との関係を示すデータ(図8参照)、その他の溶解制御、粘度調整、混練制御等に関するデータが記憶されている。
【0036】
溶解液作製制御部62は、溶解液作製装置2の動作を制御する制御部であり、マイクロ波装置22を駆動してマイクロ波を発生させ、ハウジング21内に投入された溶媒にマイクロ波を付与して界面活性剤および増粘剤を溶媒に溶解し、超音波装置23を駆動して超音波を発生させ、ハウジング21内に投入された界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に超音波を付与して当該溶解液の粘度を調整する。
【0037】
すなわち、溶解液作製制御部62は、最終的な活物質材料のスラリの粘度に基づいて、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を決定し、決定した粘度となるように、超音波を所定時間付与する粘度調整を制御する。そして、溶解液作製制御部62は、定量ポンプ28を駆動制御して所定量の界面活性剤を含む増粘剤の溶解液を供給管路27を介して混合物搬送装置4に供給する。
【0038】
活物質投入制御部63は、活物質投入装置3の動作を制御する制御部であり、低周波発生装置32を駆動して低周波を発生させ、ハウジング31内の活物質の粉体の架橋を防止し、ロスインウエイト制御により所定量の活物質の粉体等を供給管路33を介して混合物搬送装置4に供給する。
【0039】
混合物搬送制御部64は、混合物搬送装置4の動作を制御する制御部であり、駆動モータ43を駆動して一対のスクリュウ42を軸線回りで回転させ、ハウジング41の開口41aから供給される界面活性剤を含む増粘剤の溶解液および活物質の粉体等を撹拌することにより混合しつつ、当該混合物をスクリュウ後端側からスクリュウ前端側に向かって搬送し、供給管路45を介して混合物混練装置5に供給する。
【0040】
混合物混練制御部65は、混合物混練装置5の動作を制御する制御部であり、駆動モータ53を駆動して撹拌羽根52を回転させ、ハウジング51内に供給された混合物を撹拌して混練し、活物質材料のスラリを製造する。詳細は後述するが、混練の指標は、活物質材料の粒子の運動エネルギ、活物質材料の粒子の平均自由行程および活物質材料の混練時間に基づいて設定される。そして、混合物混練制御部65は、設定した混練の指標が目標値以下となるように混練の条件を設定し、設定した混練の条件にしたがって活物質材料の混練を制御する。
【0041】
(製造制御装置による処理)
次に、製造制御装置6による処理について、図2を参照して説明する。製造制御装置6は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解に関するデータを読み込み(図2のステップS1)、界面活性剤、増粘剤および溶媒等を溶解液作製装置2に投入する(図2のステップS2)。界面活性剤および増粘剤の投入順番は、どちらが先でもよい。そして、製造制御装置6は、溶解液作製装置2を駆動し(図2のステップS3)、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の溶解度が所定値に達したら(図2のステップS4)、溶解液作製装置2の駆動を停止する(図2のステップS5)。
【0042】
具体的には、溶解液作製制御部62は、記憶部61から界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の溶解度との関係を示すデータ、および界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度と界面活性剤を含む増粘剤溶解時間との関係を示すデータを読み出す。そして、溶解液作製制御部62は、所定量の溶媒を貯留タンク26を介してハウジング21内に供給し、所定量の増粘剤を第一ホッパ24を介してハウジング21内に投入するとともに、所定量の界面活性剤を第二ホッパ25を介してハウジング21内に投入する。
【0043】
そして、溶解液作製制御部62は、マイクロ波装置22を駆動しハウジング21内の溶媒にマイクロ波を付与して界面活性剤を含む増粘剤を溶解する。そして、溶解液作製制御部62は、マイクロ波装置22を界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の溶解度が所定値に達する時間駆動したら、マイクロ波装置22の駆動を停止する。
【0044】
すなわち、図5に示すように、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度μは、溶媒に界面活性剤および増粘剤を投入した直後の溶媒に界面活性剤および増粘剤が溶解していない溶解度0%のときをμoとすると、溶解度が80%になるとμg(>μo)に上昇し、溶媒に界面活性剤および増粘剤が完全に溶解した溶解度100%のときはμs(>μg)まで上昇する。
【0045】
そして、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の溶解度が、80%に達するまでマイクロ波装置22を駆動するとした場合、図6に示すように、マイクロ波装置22の駆動時間、すなわち界面活性剤を含む増粘剤溶解時間Tは、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度μがμoからμgに達するまでのTgとなる。ここで、マイクロ波による溶解は、溶媒にマイクロ波を照射して振動させ、溶媒を界面活性剤および増粘剤に浸透させることにより行っている。このマイクロ波の周波数帯域としては、溶媒がマイクロ波のエネルギを吸収し易い帯域が望ましく、例えば溶媒として水を使用する場合、0.9GHz〜400GHzの周波数帯域が使用される。
【0046】
なお、界面活性剤を含む増粘剤の溶媒に対する溶解は、従来のように撹拌することにより行ってもよいが、本実施形態ではマイクロ波により溶媒を振動させて界面活性剤および増粘剤を溶媒に溶解している。図6に示すように、マイクロ波の振動による溶媒に対する界面活性剤を含む増粘剤の溶解の方が、撹拌力による溶媒に対する界面活性剤を含む増粘剤の溶解や加熱、例えば高温にした溶媒に対する界面活性剤を含む増粘剤の溶解よりも効率よく行うことができるためである。
【0047】
すなわち、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の目標値である粘度μsに調整する時間Tは、撹拌力による場合はT12、加熱による場合はT13(>T12)掛かるのに対し、マイクロ波による場合はT11(<T12<T13)に短縮することができる。よって、マイクロ波による溶解に必要な電力は、撹拌力による溶解に必要な電力よりも低減される。
【0048】
次に、製造制御装置6は、粘度調整に関するデータを読み込み(図2のステップS6)、溶解液作製装置2を駆動し(図2のステップS7)、所定の粘度調整時間経過したか否かを判断する(図2のステップS8)。所定の粘度調整時間経過したら、溶解液作製装置2の駆動を停止する(図2のステップS9)。
【0049】
具体的には、溶解液作製制御部62は、超音波装置23を駆動して超音波をハウジング21内の界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に所定の粘度調整時間付与して界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を調整する。そして、溶解液作製制御部62は、超音波装置23を界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度が所定値に達する時間駆動したら、超音波装置23の駆動を停止する。
【0050】
ここで、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度調整について説明する。図7に示すように、最終的な活物質材料のスラリの粘度νは、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度μと比例関係にある。よって、活物質材料のスラリの粘度νは、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度μを所定値に調整することにより、電池の初期性能および塗布・乾燥工程の実行性の兼ね合いから定められる所定範囲内νa〜νbに調整することができる。
【0051】
界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度μは、図7に示す所定の粘度範囲内μa〜μb又は当該所定の粘度範囲の上限値μbより所定値高い値μcに調整する。活物質の粉体等との混練を行い最終的な活物質材料のスラリ粘度を得るための粘度調整時間は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度を最終的な活物質材料のスラリ粘度に近い所定の粘度範囲内μa〜μbに調整することで短縮される。
【0052】
よって、活物質が、せん断力を受ける時間は短縮されるので、活物質の損傷を低くすることができる。また、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度μが、上限値μbより所定値高い値μcになっても、後で溶媒を加えることにより所定の粘度範囲内μa〜μbに調整可能だからである。
【0053】
界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度調整は、従来のように撹拌力によるせん断エネルギで増粘剤の分子鎖を切断することにより行ってもよいが、本実施形態では超音波による衝突エネルギとせん断エネルギで増粘剤の分子鎖を切断することにより行っている。図8に示すように、超音波による界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度調整の方が、撹拌力による界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度調整よりも効率よく調整できるためである。
【0054】
すなわち、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の目標値である粘度μpに調整する時間Tは、撹拌力による場合はT2掛かるのに対し、超音波による場合はT1(<T2)に短縮することができる。よって、超音波による粘度調整に必要な電力は、撹拌力による粘度調整に必要な電力よりも低減される。なお、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の粘度μは、粘度調整時間Tの経過とともに低下していき、最終的に水の粘度に収束する。
【0055】
次に、製造制御装置6は、溶解液作製装置2および活物質投入装置3を駆動し、所定量の界面活性剤を含む増粘剤の溶解液および活物質の粉体等を混合物搬送装置4に供給する(図2のステップS10)。
具体的には、溶解液作製制御部62は、定量ポンプ28を駆動して所定量の界面活性剤を含む増粘剤の溶解液を供給管路27を通じて混合物搬送装置4の開口41aから一対のスクリュウ42の後端側に供給する。活物質投入制御部63は、低周波発生装置32を駆動して所定量の活物質の粉体等を供給管路33を通じて混合物搬送装置4の開口41aから一対のスクリュウ42の後端側に供給する。
【0056】
次に、製造制御装置6は、混合物搬送装置4を駆動して界面活性剤を含む増粘剤の溶解液および活物質の粉体等を搬送する(図2のステップS11)。
具体的には、混合物搬送制御部64は、駆動モータ43を駆動して一対のスクリュウ42を軸線回りで回転させ、ハウジング41の開口41aから供給される界面活性剤を含む増粘剤の溶解液および活物質の粉体等を撹拌することにより混合しつつ、当該混合物をスクリュウ後端側からスクリュウ前端側に向かって搬送し、供給管路45を介して混合物混練装置5に供給する。活物質の粉体は、界面活性剤により増粘剤の溶解液に濡れ易くなるので、活物質の粉体および界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の混合物が、混合物搬送装置4内で堆積することはない。
【0057】
次に、製造制御装置6は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液および活物質の粉体等の混合物の混練に関するデータを読み込み(図2のステップS12)、混合物混練装置5を駆動し(図2のステップS13)、所定の混練時間経過したか否かを判断する(図2のステップS14)。製造制御装置6は、所定の混練時間経過したら、混合物混練装置5の駆動を停止し(図2のステップS15)、最終的な活物質材料のスラリを製造する。
【0058】
具体的には、混合物混練制御部65は、記憶部61から混練時間のデータを読み出し、駆動モータ53を駆動して撹拌羽根52を所定の混練時間回転させ、ハウジング51内に供給された混合物を撹拌して混練する。そして、混合物混練制御部65は、撹拌羽根52を所定の混練時間回転させたら、駆動モータ53の駆動を停止する。
【0059】
ここで、混練の指標および条件の設定について説明する。図9の実験結果に示すように、電池の容量維持率P、すなわち電池の耐久性(繰り返し充放電特性)は、活物質材料のスラリの粘度νの上昇に伴って上昇する。ところが、電池の容量維持率Pは、混練装置の撹拌羽根の混練周速vを高めると(va<vb)、活物質材料のスラリの粘度νが同一になるように混練しても低下する。
【0060】
活物質材料の粒子は、撹拌羽根の混練周速vが速くなると混練中の衝突回数が多くなって損傷する確率が高くなる。そして、電解液の分解は、活物質材料の粒子が損傷して小さく分裂すると、表面積が増大し促進される。以上のことから、電池の容量維持率Pは、活物質材料の粒子の損傷が大きく関わっていることが考えられる。
【0061】
活物質材料の粒子の損傷の要因としては、撹拌羽根の混練周速vの他に、活物質材料の混練時間tや活物質材料の固形分率(固形分/(固形分+液体分))ηが考えられる。そこで、既知の平均自由行程に基づいて、活物質材料の粒子が、所定空間内を自由運動するモデルで活物質材料の粒子の衝突回数を求める。そして、混練の指標となる活物質材料の累積衝突エネルギDは、次式(1)に示すように、活物質材料の粒子の運動エネルギmv2/2と活物質材料の粒子の衝突回数√(2)・η・σ・vと活物質材料の混練時間tとを乗算することにより求めることができる。これにより、混練する前の段階で混練での活物質材料の粒子の損傷状態は予測可能となる。
【0062】
【数1】
ここで、D:活物質材料の粒子の累積衝突エネルギ、m:活物質材料の単粒子重量、v:撹拌羽根の混練周速、η:活物質材料の固形分率、σ:活物質材料の粒子の平均粒径、t:活物質材料の混練時間
【0063】
そして、図10に示すように、電池の容量維持率Pと活物質材料の累積衝突エネルギDとの関係を求める。この関係は、活物質材料の粒子の損傷の要因となる撹拌羽根の混練周速v、活物質材料の固形分率η(固形分率は、固形分と液体分との比率を変化させる)および活物質材料の混練時間tを調整することにより求める。そして、このときの関係式P=f(D)を求め、必要最低限の電池の容量維持率Ppとなる活物質材料の累積衝突エネルギDpを求め、活物質材料の累積衝突エネルギがDp以下となる混練の条件、すなわち撹拌羽根の混練周速v、活物質材料の固形分率ηおよび活物質材料の混練時間tを設定する。
【0064】
上述したように、活物質材料の粒子の衝突回数は、活物質材料の粒子の平均自由行程に基づいて、活物質材料の粒子が所定空間内を自由運動するモデルで求めている。よって、活物質材料の累積衝突エネルギは、この活物質材料の粒子の衝突回数と活物質材料の運動エネルギと活物質材料の混練時間とを乗算することにより求めることができ、電池の耐久性の指標として用いることができる。そして、活物質材料の粒子が損傷し難い混練は、混練する前の段階で混練での活物質材料の粒子の損傷状態を予測することで可能となる。よって、耐久性の高い電池の製造が可能となる。
【0065】
上述の蓄電材料の製造装置1によれば、増粘剤の溶解液には、界面活性剤が添加されているので、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液の表面張力が低下し、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に対する活物質の粉体の濡れ速度が上昇する。よって、活物質の粉体は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に馴染み易くなるので、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液および活物質の粉体の混合物は、混合物搬送装置4内で堆積することはなくスムーズな搬送が可能となる。そして、活物質材料のスラリ製造は、連続処理化が可能となる。
【0066】
また、活物質の粉体は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に対し濡れ性が向上するので、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に短時間に分散して損傷を抑制することができる。そして、活物質の粉体は、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液に均一に分散するので、電極の品質を向上させることができ、電池性能を高めることができる。
また、界面活性剤を含む増粘剤の溶解液が、適切な粘度に調整されるので、活物質の粉体および界面活性剤を含む増粘剤の溶解液等の混合物は、適切な粘度に混練されることになる。よって、活物質材料のスラリは、基材に均一に塗布されることになり、塗布膜の品質が向上する。
【0067】
なお、上述の実施形態では、界面活性剤および増粘剤を投入し、界面活性剤および増粘剤の溶解並びにその溶解液の粘度調整を行う工程としたが、増粘剤を投入して溶解し、その溶解液の粘度調整を行って界面活性剤を投入する工程としてもよい。ただし、溶解液の粘度調整と界面活性剤の投入との順番は、逆になると粘度調整前の溶解液は高粘度なため界面活性剤が溶解液中を拡散し難くなるので、その場合は超音波の照射時間を長くする等の処理が必要となる。また、界面活性剤および増粘剤の溶解並びにその溶解液の粘度調整は、並行して処理するようにしてもよい。
【0068】
また、上述の実施形態では、マイクロ波装置22および超音波装置32を有する溶解液作製装置2を備える構成の蓄電材料の製造装置1について説明したが、溶解液作製装置2を撹拌羽根を有する溶解装置に置き換えた構成の蓄電材料の製造装置としてもよい。
また、上述の実施形態では、リチウムイオン二次電池の負極用の活物質材料を製造する場合について説明したが、リチウムイオン二次電池の正極用の活物質材料を製造する場合も適用可能である。その場合、ポリフッ化ビニリデン等のバインダをN−メチルピロリドン等の溶媒に対して溶解するときにマイクロ波を照射するが、当該溶解液にアセチレンブラック等の導電助材を混ぜるときは超音波を照射しない。アセチレンブラック等の導電助材の混ぜる量により溶解液の粘度が調整可能なためである。
また、本発明が適用される蓄電材料としては、リチウムイオン二次電池の電極用の活物質材料に限定されるものではなく、蓄電材料であれば例えばキャパシタの材料等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1:蓄電材料の製造装置、 2:溶解液作製装置、 3:活物質投入装置、 4:混合物搬送装置、 5:混合物混練装置、 6:製造制御装置、 22:マイクロ波装置(増粘剤溶解装置)、 23:超音波装置(粘度調整装置)、 61:記憶部、 62:溶解液作製制御部、 63:活物質投入制御部、 64:混合物搬送制御部、 65:混合物混練制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11