特許第6321412号(P6321412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321412
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】樹脂製衝撃吸収部材及び車両用部品
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/00 20060101AFI20180423BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20180423BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   F16F7/00 J
   F16F7/12
   B62D21/15 B
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-52052(P2014-52052)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-175431(P2015-175431A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 恵造
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−145378(JP,A)
【文献】 特開平06−264949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00−7/14
B62D 17/00−25/08
25/14−29/04
F16F 7/00−7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂材料からなりフランジ部を有する複数の樹脂成形品が、前記フランジ部が相互に接することによって境界部を形成するように組み合わされ、中空構造体とされた中空衝撃吸収体と、第2樹脂材料からなり前記境界部を覆うように形成された衝撃吸収補助部とを有する衝撃吸収部を備え、前記衝撃吸収部の中空構造の貫通方向に対して平行方向の両端部にフランジ部が位置することを特徴とする、樹脂製衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記衝撃吸収補助部は、前記衝撃吸収部の衝撃吸収方向に対して垂直方向における断面積が、前記衝撃吸収方向において異なっていることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂製衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記衝撃吸収補助部は、前記断面積が前記衝撃吸収方向に沿って大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の樹脂製衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記境界部が、少なくとも一部において、前記境界部の端面と前記衝撃吸収補助部の内面との間に空間を有するように、前記衝撃吸収補助部によって覆われていることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の樹脂製衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記境界部を形成するフランジ部が相互に接合されていることを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の樹脂製衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記第1樹脂材料又は前記第2樹脂材料が強化繊維と、マトリックス樹脂とを含有する繊維強化樹脂材料であることを特徴とする、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の樹脂製衝撃吸収部材。
【請求項7】
前記衝撃吸収補助部が、前記中空衝撃吸収体とは別の独立した部品として形成されたものである、請求項1から請求項6までのいずれかに記載の樹脂製衝撃吸収部材
【請求項8】
前記衝撃吸収補助部が、前記境界部に嵌合されることにより前記中空衝撃吸収体に取り付けられている、請求項7に記載の樹脂製衝撃吸収部材
【請求項9】
請求項1から請求項までのいずれかに記載の樹脂製衝撃吸収部材が用いられたことを特徴とする、車両用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料からなる樹脂製衝撃吸収部材に関するものであり、より詳しくは特定の中空構造を有する衝撃吸収部を備えることにより、衝撃吸収性能に優れる樹脂製衝撃吸収部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の前方や後方には、衝突時の衝撃が人員に直接的に伝わることを防止するために、例えば、クラッシュボックスやフロントサイドメンバ、リアサイドメンバ等の衝撃吸収部材が設けられることが多い。衝撃吸収部材は従来から金属材料で構成されることが一般的であったが、近年では、燃費向上等を目的として車両の軽量化が望まれており、衝撃吸収部材を樹脂で構成した樹脂製衝撃吸収部材に関する研究が盛んに行われている。
【0003】
上記樹脂製衝撃吸収部材においては、安定した衝撃吸収性能を得るために、変形に対して衝撃吸収部材が受ける荷重が一定となるように構造を設計することが行われている。例えば、特許文献1には、テーパ角を持ったテーパ外筒面を有する受け部材と、筒状部材とを摩擦係合可能に嵌合した衝撃吸収部材が開示されている。また、特許文献2には、衝撃吸収方向と直交する方向の断面形状を衝撃吸収方向に向かって変化させた繊維強化樹脂製の衝撃吸収部材が開示されている。さらに、特許文献3には、衝撃入力側の部材厚みよりも反対側の部材厚みを大きくし、かつ、入力部の先端を外周面よりも外側に突出させた繊維強化樹脂製の衝撃吸収部材が開示されている。しかしながら、これらの各特許文献に開示された衝撃吸収部材は特殊で複雑な構造となることが多く、生産性が悪いという問題点があった。
【0004】
また、衝撃吸収部材は、その用途に応じて適切な衝撃吸収性能を備えるように、適宜設計を変更する必要がある。しかしながら、上記各特許文献に記載された樹脂製衝撃吸収部材は、上述したように構造が複雑であることから、衝撃吸収性能を調整するにはその都度、部品の形状や部品の個数を変更する必要があった。このため、上記各特許文献に記載されたような樹脂製衝撃吸収部材は、その用途に応じて適切な衝撃吸収性能を実現することが困難であり、用途が制限される場合が多かった。
【0005】
さらに、樹脂製衝撃吸収部材においては、上述したような問題点に加え、接合に関する問題があった。すなわち、樹脂材料からなる部品同士を接合する方法としては、通常、熱溶着や機械締結等の手段が用いられる。しかしながら、機械締結の場合は、機械締結のために使用するリベットやボルト、ナットにより重量増となってしまい、樹脂材料を用いたことによる十分な軽量化を実現できない場合があった。一方、熱溶着の場合、熱溶着によって接合した複数の部品からなる樹脂製衝撃吸収部材に対して軸圧縮試験を行うと、部品の接合面が剥れてしまい、当初設計した通りの衝撃吸収性能を達成できない事象も見受けられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−87849号公報
【特許文献2】特開2005−195155号公報
【特許文献3】特開平6−264949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した各問題点に鑑みてなされたものであり、簡易な構造で、用途に応じた衝撃吸収性能の調整が容易にできる樹脂製衝撃吸収部材を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者が鋭意検討した結果、複数の部材を組み合わせて樹脂製衝撃吸収部材を構成し、かつ特定の部品の変更を行うだけで衝撃吸収性能を制御できる衝撃吸収構造を採用することによって、用途に応じた衝撃吸収性能の調整が容易になり、かつ、設計要因から発生する形状変更の際にも、その変更が部品全体に及ばないようにできることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明は以下の(1)〜()の手段を提供する。
(1)第1樹脂材料からなりフランジ部を有する複数の樹脂成形品が、上記フランジ部が相互に接することによって境界部を形成するように組み合わされ、中空構造体とされた中空衝撃吸収体と、第2樹脂材料からなり上記境界部を覆うように形成された衝撃吸収補助部とを有する衝撃吸収部を備え、上記衝撃吸収部の中空構造の貫通方向に対して平行方向の両端部にフランジ部が位置することを特徴とする樹脂製衝撃吸収部材。
(2)上記衝撃吸収補助部は、上記衝撃吸収部の衝撃吸収方向に対して垂直方向における断面積が、上記衝撃吸収方向において異なっていることを特徴とする、上記(1)の樹脂製衝撃吸収部材。
(3)上記衝撃吸収補助部は、上記断面積が上記衝撃吸収方向に沿って大きくなるように形成されていることを特徴とする上記(2)の樹脂製衝撃吸収部材。
(4)上記境界部が、少なくとも一部において、上記境界部の端面と上記衝撃吸収補助部の内面との間に空間を有するように、上記衝撃吸収補助部によって覆われていることを特徴とする、上記(1)から上記(3)までのいずれかの樹脂製衝撃吸収部材。
(5)上記境界部を形成するフランジ部が相互に接合されていることを特徴とする、上記(1)から上記(4)までのいずれかの樹脂製衝撃吸収部材。
(6)上記第1樹脂材料又は上記第2樹脂材料が強化繊維と、マトリックス樹脂とを含有する繊維強化樹脂材料であることを特徴とする、上記(1)から上記(5)までのいずれかの樹脂製衝撃吸収部材。
(7)上記衝撃吸収補助部が、上記中空衝撃吸収体とは別の独立した部品として形成されたものである、上記(1)から上記(6)までのいずれかの樹脂製衝撃吸収部材。
(8)上記衝撃吸収補助部が、上記境界部に嵌合されることにより上記中空衝撃吸収体に取り付けられている、上記(7)の樹脂製衝撃吸収部材。
(9)上記(1)から()までのいずれかの樹脂製衝撃吸収部材が用いられたことを特徴とする車両用部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、簡易な構造で、用途に応じた衝撃吸収性能の調整が容易であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の一例を示す概略図である。
図2】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図3】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図4】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図5】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図6】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図7】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図8】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図9】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図10】本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部の他の例を示す概略図である。
図11】各実施例及び比較例における衝撃吸収部の寸法を説明する説明図である。
図12】各実施例における衝撃吸収部の概略図である。
図13】比較例における衝撃吸収部の概略図である。
図14】荷重―変位曲線の一例を示すグラフである。
図15】荷重―変位曲線の他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の樹脂製衝撃吸収部材、及び車両用部品について説明する。
【0013】
第1 樹脂製衝撃吸収部材
上述したように、本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、第1樹脂材料からなりフランジ部を有する複数の樹脂成形品が、上記フランジ部が相互に接することによって境界部を形成するように組み合わされ、中空構造体とされた中空衝撃吸収体と、第2樹脂材料からなり上記境界部を覆うように形成された衝撃吸収補助部とを有する衝撃吸収部を備えることを特徴とするものである。
【0014】
中空構造を有する樹脂製衝撃吸収部材に効率よくエネルギーを吸収させるには、衝撃荷重を負荷した際、エネルギーの吸収完了まで各部品が閉断面を維持して存在しなくてはならない。しかしながら、部品同士が接合している接合部が剥れてしまうと閉断面が存在しなくなることから、それ以上エネルギーを吸収することは難しくなる。したがって、安定したエネルギー吸収を行わせるためには、エネルギーの吸収完了まで確実に部品同士を接合させ続けておく必要がある。この点、本発明の樹脂製衝撃吸収部材における衝撃吸収部は、衝撃吸収補助部が上記境界部を覆うように形成された構造を有するため、衝撃吸収時に上記境界部が剥れてしまうことを抑制することができる。
【0015】
また、本発明によれば衝撃吸収補助部の形状を適宜変更することにより、さまざまな効果を期待できる。例えば、上記衝撃吸収補助部の一部に衝撃吸収方向に垂直な線状の凹形状を設けることにより、エネルギー吸収時に当該凹形状が形成された位置で衝撃吸収部を座屈させ、エネルギーの吸収を開始させることが可能になる。さらに、衝撃吸収性能を向上させたい場合は、例えば、衝撃吸収補助部材の厚みを増やしたり、或いは形状を適宜変更するだけでよい。すなわち、本発明の樹脂製衝撃吸収部材によれば、衝撃吸収部を構成する主要な部品である中空衝撃吸収体の厚みを増やしたり、形状を変更することなく、衝撃吸収補助部の厚みや形状を変更するのみで、用途に応じた衝撃吸収性能の調整が可能になるのである。通常、金属を用いた部品では部品の厚みが一定の形状が多いため、衝撃吸収性能を調整するために厚みを変更すると、それまで使用していた材料の使い回しが出来ずに使用不可となってしまい、材料の無駄が発生してしまうケースがあった。しかしながら、本発明では、衝撃吸収性能を調整する際に、中空衝撃吸収体の厚みを変更する必要がなく、補助部材の変更のみに留めることが可能になる。
さらに、本発明によれば、衝撃吸収補助部の形状を工夫し、フランジ部に対して空間を設けることにより、フランジ部を熱溶着、特に振動溶着を施した際に発生するバリも覆うことが出来るため、フランジ部の加工処理も省略できることが期待できる。
【0016】
本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、樹脂製衝撃吸収部材の一端に入力された衝撃エネルギーを衝撃吸収部で吸収することにより、他端側への衝撃を抑制するために使用されるものである。また、本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、所謂、軸圧縮方向に対する衝撃吸収を想定したものであり、衝撃吸収部の中空構造の貫通方向と同軸方向に受ける衝撃を吸収させるために用いるものであるが、前述の衝撃吸収補助部の存在により、軸圧縮方向に対し垂直方向に作用し部品に掛かる捩り荷重に対しても剛性を発揮する。以下、この「衝撃吸収部の中空構造の貫通方向と同軸方向」を「衝撃吸収方向」という。
また、上記「衝撃吸収特性」とは、吸収した衝撃エネルギー量を吸収の際に破壊された部位の部品重量で除した値を指しており、この数値が大きい程「衝撃吸収特性」に優れていることを意味する。
【0017】
なお、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の一端から入力された衝撃エネルギーは衝撃吸収部で吸収されるが、その衝撃吸収機構は、衝撃吸収方向の衝撃吸収部の圧壊現象を利用したものである。すなわち、通常、衝撃吸収部に衝撃が加わると、図14に例示するように、衝撃荷重Fを吸収しながら、圧壊現象により変位Sが生じ、この衝撃荷重F−変位S曲線に囲まれた面積が吸収された衝撃エネルギー量となる。圧壊現象は衝撃吸収方向の圧縮破壊と、それに伴い発生する座屈現象からなるものであるが、座屈現象により、図14に示すように、初期衝撃荷重以降に加わる荷重は初期衝撃荷重よりも低くなるため、所望の衝撃吸収を達成するためには変位が大きくなってしまう。変位が大きくなると、その分、衝撃吸収部も大きくする必要があるため好ましくない。また、衝撃吸収時の衝撃荷重が大きいと、衝突時に人員が受ける衝撃が大きくなるため好ましくない。よって、衝撃吸収部は図15に例示するように、最大衝撃荷重及び変位が小さくなるように、変位に対して衝撃荷重が一定となるように設計することが好ましい。
【0018】
上述したような安定した衝撃吸収性能を得るためには、圧壊現象時に生じる座屈現象のピッチ(以下、「座屈ピッチ」という。)を小さくすることが必要である。座屈ピッチが大きい場合、座屈に伴って衝撃荷重が急激に低下してしまうために、所望の衝撃エネルギー量の吸収に要する変位が大きくなってしまう。そのため、安定した衝撃吸収性能を得るためには、小さい座屈ピッチを繰り返し、衝撃荷重の急低下が発生しないような設計が必要である。本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、上述した特定の中空構造を有する衝撃吸収部を用いることで、座屈ピッチを小さくすること且つ閉断面を維持することを実現し、これによって安定した衝撃吸収性能を実現するものである。
本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、少なくとも上記衝撃吸収部を有するものであり、必要に応じて他の構成を有してもよいものである。以下、本発明に用いられる各構成について順に説明する。
【0019】
1.衝撃吸収部
本発明における衝撃吸収部は、第1樹脂材料からなりフランジ部を有する複数の樹脂成形品が、上記フランジ部が相互に接することによって境界部を形成するように組み合わされ、中空構造体とされた中空衝撃吸収体と、第2樹脂材料からなり上記境界部を覆うように形成された衝撃吸収補助部とを有する衝撃吸収部を備えることを特徴とするものである。以下、このような衝撃吸収部について詳細に説明する。なお、上記樹脂成形品に用いられる第1樹脂材料については後述する。
【0020】
本発明に用いられる衝撃吸収部について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の樹脂製衝撃吸収部材を構成する衝撃吸収部の代表的な例を示す概略図である。図1(b)は、図1(a)に例示する衝撃吸収部の衝撃吸収方向Xに垂直方向の断面図である。図1(a)、(b)に例示するように、本発明に用いられる衝撃吸収部10は、フランジ部21a、22aを有する樹脂成形品21、22が組み合わされて中空構造とされた中空衝撃吸収体20と、衝撃吸収補助部30とを有するものである。ここで、樹脂成形品21、22は上記フランジ部21a、22aが相互に接することによって境界部20aを形成するように組み合わされている。また、上記衝撃吸収補助部30は、上記境界部20aを覆うように形成されている。さらに、上記各樹脂成形品21、22は第1樹脂材料からなるものであり、上記衝撃吸収補助部は第2樹脂材料からなるものである。なお、図1中の点線矢印Xは、衝撃吸収部10の衝撃吸収方向を示すものである。
【0021】
(1)中空衝撃吸収体
本発明における中空衝撃吸収体は、第1樹脂材料からなりフランジ部を有する複数の樹脂成形品が、上記フランジ部が相互に接することによって境界部を形成するように組み合わされ、これによって中空構造体とされたものである。
【0022】
本発明における中空衝撃吸収体は上記樹脂成形品によって構成されるものであるため、本発明における中空衝撃吸収体の形状は、上記樹脂成形品の形状に依存するものである。上記樹脂成形品の形状としては、フランジ部を有するものであり、かつ当該フランジ部が相互に接するように複数の樹脂成形品を組み合わせて中空構造体を形成できる形状であれば特に限定されるものではない。もっとも、本発明における樹脂成形品は、上記フランジ部が相互に接するように組み合わせて中空構造を形成できることが必要であるため、通常、中空衝撃吸収体を形成した後に衝撃吸収方向に対して平行方向の両端部に相当する位置にフランジ部が形成された形状を有することになる。
【0023】
なお、本発明における上記「フランジ部」とは、上記樹脂成形品の端部に設けられた平坦部であり、複数の樹脂成形品が組み合わされて中空構造とされた場合に、衝撃吸収補助部によって嵌合可能な程度の面積を有する部位をいうものとする。
【0024】
このような本発明に用いられる樹脂成形品の形状は、上記フランジ部を有し、かつ中空構造を形成できる形状であれば特に限定されるものではない。このような形状としては、例えば、図2に例示する樹脂成形品21、22のようなハット形状、図3に例示する樹脂成形品23のような平板状等を挙げることができる。本発明に用いられる樹脂成形品は、これらのいずれの形状を有するものであってもよい。なお、図2図3の各図中の各符号は、23が樹脂成形品を示すこと以外は、図1と同様である。
【0025】
また、本発明においては中空衝撃吸収体を構成するために複数の樹脂成形品が用いられるが、本発明に用いられる複数の樹脂成形品は全て同一の形状を有するものであってもよく、又は異なる形状の樹脂成形品が組み合わされて用いられていてもよい。ここで、本発明に用いられる樹脂成形品が全て同一形状である場合の中空衝撃吸収体の例としては、例えば、図2に示すような態様を挙げることができる。また、異なる形状の樹脂成形品が組み合わされてなる中空衝撃吸収体の例としては、例えば、図3に示すような態様を挙げることができる。本発明においては、これらのいずれの態様であっても好適に用いることができる。また、いずれの態様を採用するかは本発明の樹脂製衝撃吸収部材の用途等に応じて適宜決定することができるものである。
【0026】
本発明に用いられる樹脂成形品の厚みは、全体において均一であってもよく、或いは部位によって厚みが異なっていてもよい。樹脂成形品の厚みが部位によって異なる態様としては、例えば、衝撃吸収方向に対して連続的あるいは断続的に厚みが異なる態様、フランジ部とそれ以外の部位とで厚みが異なる態様等を挙げることができるが、これに限られるものではない。
【0027】
本発明において中空衝撃吸収体を構成するために用いられる樹脂成形品の数は、少なくとも2以上であれば特に限定されるものではない。したがって、本発明における中空衝撃吸収体は2つの樹脂成形品が組み合わされて中空構造とされたものであってもよく、或いは3つ以上の樹脂成形品が組み合わされて中空構造とされたものであってもよい。ここで、3つ以上の樹脂成形品が組み合わされた中空衝撃吸収体としては、例えば、図4に挙げるようなものを例示することができる。なお、図4中の符号は、図1図3と同様である。
【0028】
なかでも、本発明の中空衝撃吸収体は、2つの樹脂成形品が組み合わされてなることが好ましい。中空衝撃吸収体を構成するための樹脂成形品の数を最小限にすることにより、構造をより簡略化することができるため、本発明の樹脂製衝撃吸収部材をより生産性に優れ、かつ用途に応じた衝撃吸収性能の簡易な調整が可能になるからである。
【0029】
本発明における中空衝撃吸収体は、上記フランジ部が相互に接することによって境界部を形成するように複数の樹脂成形品が組み合わされてなるものであるところ、当該境界部には、後述する衝撃吸収補助部が当該境界部を覆うように形成される。すなわち、当該衝撃吸収補助部は上記境界部を嵌合し、複数の樹脂成形品を締結する締結具としての機能も備えるものである。このため、上記境界部において各樹脂成形品のフランジ部は、相互に接合されていてもよく、或いは接合されていなくてもよい。仮に、フランジ部が相互に接合されていなくても、上記衝撃吸収補助部の締結具としての機能によって各樹脂成形品が固定されるからである。もっとも、本発明においては、上記境界部において各樹脂成形品のフランジ部が相互に接合されていることが好ましい。上記フランジ部が相互に接合されていることにより、複数の樹脂成形品をより強固に結合させることができるため、本発明の樹脂製衝撃吸収部材が衝撃を吸収する際に、境界部においてフランジ部が剥離することに起因して衝撃吸収性能が低下してしまうことをより効果的に防止でき、当初の設計通りの衝撃吸収性能を達成することが容易になるからである。
【0030】
上記境界部において、上記フランジ部が相互に溶着されている態様としては、所望の接合強度を達成できる態様であれば特に限定されるものではない。したがって、フランジ部の全面が接合されている態様であってもよく、或いはフランジ部の一部が接合されている態様であってもよい。
【0031】
また、フランジ部の接合方法としては、例えば、振動溶着、超音波溶着等の溶着、接着剤を用いた接着、及び機械締結等を挙げることができる。本発明においては、これらのいずれの接合方法であっても好適に用いることができるが、接合による重量増がなく、樹脂材料を用いたことによる軽量化効果を阻害しないという点において溶着方法が用いられることが好ましい。
【0032】
(2)衝撃吸収補助部
次に、本発明に用いられる衝撃吸収補助部について説明する。本発明に用いられる衝撃吸収補助部は、第2樹脂材料からなり、複数の樹脂成形品のフランジ部が相互に接するよう組み合わされてなる境界部を覆うように形成されたものである。以下、このような衝撃吸収補助部について詳細に説明する。なお、第2樹脂材料については後述する。
【0033】
本発明に用いられる衝撃吸収補助部は、少なくとも次の2つの機能を備えるものである。まず第1に、本発明における衝撃吸収部の衝撃吸収性能を制御・調整する機能である。本発明における衝撃吸収部の衝撃吸収性能は、衝撃吸収方向に対して垂直方向の断面積に依存する。したがって、本発明における衝撃吸収部の衝撃吸収性能には、上記中空衝撃吸収体の衝撃吸収方向に対して垂直方向の断面積のみではなく、衝撃吸収補助部の上記衝撃吸収方向に対して垂直方向の断面積も寄与することになる。このため、本発明においては、衝撃吸収補助部の上記断面積を任意に調整することにより、衝撃吸収部全体の断面積を変化させることができる。このことを換言すると、衝撃吸収補助部の上記断面積を任意に調整することにより、中空衝撃吸収体の上記断面積を変化させることなく、衝撃吸収部全体としての衝撃吸収性能を調整・制御することができることになる。さらに、用途に応じて本発明の樹脂製衝撃吸収部材の衝撃吸収性能を調整する場合においても、上記中空衝撃吸収体をすべての用途において共通のものとし、衝撃吸収補助部の形状を変化させることによって任意に衝撃吸収性能を調整することも可能になる。
【0034】
第2に、本発明における樹脂成形品の締結機能である。上述したように、本発明における衝撃吸収補助部は上記境界部を覆うように形成されるものである。このため、本発明における衝撃吸収補助部は、中空衝撃吸収体を構成する複数の樹脂成形品を嵌合し、締結する機能を有するものである。そして、このような締結機能により、本発明の樹脂製衝撃吸収部材が衝撃吸収をする際に、上記境界部が剥離して衝撃吸収性能が低下することを防止し、当初の設計通りの衝撃吸収性能を容易に実現することを可能にするものである。
【0035】
本発明に用いられる衝撃吸収補助部は、上記境界部を覆うように形成されるものであるところ、当該衝撃吸収補助部が上記境界部を覆うように形成されている態様としては、上記衝撃吸収補助部が、上記中空衝撃吸収体と一体に形成されている態様であってもよく、あるいは上記中空衝撃吸収体とは別の独立した部品として形成されている態様であってもい。なかでも本発明における衝撃吸収補助部は、上記中空衝撃吸収体とは別の独立した部品として形成されていることが好ましい。これにより、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の用途に応じて衝撃吸収補助部を交換することによって衝撃吸収性能を調整・制御することが可能になるため、本発明の樹脂製衝撃吸収部材をあらゆる用途に適用可能なものにできるからである。
【0036】
ここで、本発明における衝撃吸収補助部が上記中空衝撃吸収体とは別の独立した部品として形成されている場合、衝撃吸収補助部が「境界部を覆うように形成される」とは、中空衝撃吸収体とは独立の部品として形成された衝撃吸収補助部が、上記境界部を覆うように上記中空衝撃吸収体に取り付けられていることを意味する。この場合において、衝撃吸収補助部が、上記中空衝撃吸収体に取り付けられている態様としては、当該衝撃吸収補助部が上述した2つの機能を奏することができる態様であれば特に限定されるものではない。したがって、ボルト・ナットを用いた機械締結、振動溶着、超音波溶着等の接合方法を用いてもよく、又はこのような接合方法を用いることなく、上記衝撃吸収補助部を、上記境界部に嵌合させるのみであってもよい。
【0037】
上記衝撃吸収補助部を上記境界部に嵌合させる方法としては、上述した衝撃吸収部の締結機能が得られる態様であれば特に限定されるものではない。このような態様としては、単に、上記衝撃吸収補助部で上記境界部に挟み込む方法であってもよいし(態様1)、上記衝撃吸収補助部の内部または上記境界部の一方に凹部又は開口部を設け、他方に当該凹部又は開口部へ嵌め込み可能な凸部を設け、当該凹部に上記凸部を嵌め込むことによって嵌合する方法であってもよい(態様2)。
【0038】
上記態様1の場合、上記衝撃吸収補助部の内側の境界部と接する部位に、境界部と衝撃吸収補助部との間の位置が事後的に変化してしまうことを防止するための凸形状を有することが好ましい。また、当該凸形状の形状は三角形、四角形、又は円形でもよいが、三角形であることが好ましい。図5は、上記衝撃吸収補助部に上記凸形状が形成されている場合の一例を示す概略図である。図5に例示するように、本発明に用いられる衝撃吸収補助部30は、境界部との位置が事後的に変化してしまうことを防止するための凸形状31を有することが好ましい。なお、図5(b)は、図5(a)におけるフランジ部の平面Dでの断面図である。
【0039】
一方、上記態様2は、溶着設備が不要になることや溶着時間の削減などのコストダウンを図ることが可能になるという利点を有するものである。図6はこのような態様2の一例を示す概略図である。図6に例示するように、上記樹脂成型品21のフランジ部の一部に開口部21bを設け、上記衝撃吸収補助部30の内側に、上記開口部21bへ嵌め込み可能な凸部32を形成し、当該凸部32を上記開口部21bへ嵌め込むように嵌合されていてもよい。
【0040】
次に、上記衝撃吸収補助部が上記境界部を覆うように形成されている態様としては、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の用途等に応じて、上記衝撃吸収補助部が上述した2つの機能を奏するような態様であれば特に限定されるものではない。このため、上記衝撃吸収補助部が上記境界部の全体を覆うように形成されている態様であってもよく、上記衝撃吸収補助部が上記境界部を部分的に覆うように形成されている態様であってもよい。したがって、例えば、図7(a)に例示するように、上記衝撃吸収補助部30は上記境界部の衝撃吸収方向Xに平行方向の端面のみを覆うように形成されていてもよく、あるいは図7(b)に例示するように、上記境界部の全ての端面を覆うように形成されていてもよい。
【0041】
また、本発明における衝撃吸収補助部は上記境界部の端面と上記衝撃吸収補助部の内面が接するように形成されていてもよく、或いは、上記境界部の端面と上記衝撃吸収補助部の内面との間に空間を有するように形成されていてもよい。後者の場合は、上記境界部の端面にバリ等が存在する場合であっても、そのバリを除去することなく衝撃吸収補助部を形成することができるため、バリ等の除去工程を省略できるという利点がある。図8は、上記境界部の端面と上記衝撃吸収補助部の内部との間に空間を有する場合の一例を示す概略図である。図8に例示するように、本発明における衝撃吸収補助部30は、上記境界部の端面と上記衝撃吸収補助部30の内面との間に空間を有するように形成されていてもよい。
【0042】
本発明に用いられる衝撃吸収補助部の形状は、上記境界部を覆うように形成されることによって、当該境界部を嵌合して複数の樹脂成形品を結合することができ、かつ衝撃吸収部の衝撃吸収方向に対して垂直方向の断面積を所望の範囲できる形状であれば特に限定されるものではない。したがって、本発明に用いられる衝撃吸収補助部の形状は、衝撃吸収方向の全域に渡って一様であってもよく、或いは衝撃吸収方向において、衝撃吸収方向に対して垂直方向の断面積が異なっていてもよい。後者の場合は、衝撃吸収方向において上記断面積が異なることによって衝撃吸収部の衝撃吸収性能を制御することができ、本発明の樹脂製衝撃吸収部材を用途に応じた衝撃吸収性能を備えるものすることが容易になるという利点がある。
【0043】
上記衝撃吸収補助部の上記断面積が、衝撃吸収方向において異なっている態様としては、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の用途等に応じて、上記衝撃吸収部の衝撃吸収性能を所定のものにできる態様であれば特に限定されるものではない。このような態様としては、例えば、衝撃吸収方向に沿って上記断面積が大きくなるように形成されている態様、衝撃吸収方向に沿って上記断面積が規則的または不規則的に変化するように形成されている態様等を挙げることができる。本発明においてはこれらのいずれの態様の衝撃吸収補助部であっても好適に用いることができるが、なかでも、上記断面積が上記衝撃吸収方向に沿って大きくなるように形成されている態様であることが好ましい。これにより、本発明に用いられる衝撃吸収部を、衝撃吸収が進むにつれて衝撃吸収性能が向上するものにできるため、過大な衝撃が加わった場合においても、衝撃吸収部が完全に破壊されることによって衝撃吸収性能が損なわれることを防止できるからである。なお、上記衝撃吸収補助部が、上記断面積が衝撃吸収方向に沿って大きくなるように形成されている場合の例としては、例えば、図1に示したような例を挙げることができる。また、衝撃吸収方向に沿って上記断面積が規則的に又は不規則的に変化するように形成されている場合の例としては、例えば、図9に示すような例を挙げることができる。
【0044】
衝撃吸収補助部の上記断面積が上記衝撃吸収方向に沿って大きくなるように形成されている態様において、衝撃を受ける先端側の上記断面積と他端側の断面積との比は、衝撃吸収部の衝撃吸収性能を所定のものにできる範囲で適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。なかでも本発明において、上記衝撃吸収補助部の上記断面積が上記衝撃吸収方向に沿って大きくなるように形成されている場合、衝撃を受ける先端側の上記断面積Aと他端側の上記断面積Bとの比A/Bは、0<A/B<1であることが好ましい。
【0045】
また、本発明に用いられる衝撃吸収補助部は、一部に衝撃吸収方向に平行な線状凹部を有するものであってもよい。このような線状凹部を有し、断面積を減少させることにより、本発明の樹脂製衝撃吸収部材が衝撃を吸収する際に、当該線状凹部が形成された位置の座屈を誘発できるため、衝撃吸収性能の設計自由度がさらに広がるからである。図10は、本発明に用いられる衝撃吸収補助部が、このような線状凹部を有する場合の一例を示す概略図である。図10に例示するように、本発明における衝撃吸収補助部30は、衝撃吸収方向Xに平行な線状凹部33を有してもよい。
【0046】
なお、図10においては、上記線状凹部が形成された一例として、上記衝撃吸収補助部の先端のみに形成された態様を例示したが、本発明において上記線状凹部が形成されている態様はこのような態様に限定されるものではなく、例えば、上記衝撃吸収補助部の上記衝撃吸収方向の全体にわたって上記線状凹部が形成されていてもよいものである。
また、上記線状凹部の数、及び深さ、幅、長さ等の具体的な形状については、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の用途等に応じて、上記衝撃吸収部に衝撃が加わった際の座屈開始位置を所定の位置にできるように適宜調整すればよい。
【0047】
2 第1樹脂材料及び第2樹脂材料
次に、上記樹脂成形品に用いられる第1樹脂材料、及び上記衝撃吸収補助部に用いられる第2樹脂材料について説明する。なお、以下の説明においては、第1樹脂材料及び第2樹脂材料を合わせて、単に「樹脂材料」と称する場合がある。
【0048】
本発明に用いられる樹脂材料としては、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の用途や本発明における衝撃吸収部の構造等に応じて、所望の衝撃吸収性能を達成できるものであれば特に限定されるものではない。したがって、本発明に用いられる樹脂材料は熱可塑性樹脂を含むものであってもよく、或いは熱硬化性樹脂を含むものであってもよい。
【0049】
[熱可塑性樹脂]
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等を挙げることができる。
【0050】
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。
【0051】
上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等を挙げることができる。上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等を挙げることができる。上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等を挙げることができる。上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを挙げることができる。上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を挙げることができる。上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂を挙げることができる。上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
【0052】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化点又は融点が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
【0053】
[熱硬化性樹脂]
本発明に用いられる熱硬化性樹脂の例としては、例えば、熱硬化性樹脂の場合、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂などの硬化物及びこれらの変性体を挙げることができる。上記エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を有するものであれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル系樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジアリールスルホン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂及びそれらの変性物などが挙げることができる。なお、本発明に用いられる熱硬化性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。
【0054】
[繊維強化樹脂材料]
本発明に用いられる樹脂材料は、上述した熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のみからなるものであってもよいが、上記熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂がマトリックス樹脂として用いられ、かつ当該マトリックス樹脂中に強化繊維が含まれる繊維強化樹脂材料が用いられることが好ましい。従来、衝撃吸収部材は金属材料から構成されることが一般的であったところ、このような繊維強化樹脂材料は、金属材料よりも重量あたりの強度が優れているため、従来の金属材料の代替材料としての使用に適しているからである。
【0055】
(強化繊維)
上記強化繊維の種類は、熱可塑性樹脂の種類や衝撃吸収部に付与する衝撃吸収性能の程度に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。このため、本発明に用いられる強化繊維としては無機繊維又は有機繊維のいずれであっても好適に用いることができる。
【0056】
上記無機繊維としては、例えば、炭素繊維、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然繊維、玄武岩などの鉱物繊維、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、及び金属繊維等を挙げることができる。上記金属繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維を挙げることができる。上記ガラス繊維としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、ホウケイ酸ガラス繊維等からなるものを挙げることができる。
【0057】
上記有機繊維としては、例えば、ポリベンザゾール、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート等の樹脂材料からなる繊維を挙げることができる。
【0058】
本発明に用いられる強化繊維は1種類であってもよく、又は2種類以上であってもよい。本発明において2種類以上の強化繊維を用いる場合は、複数種の無機繊維を併用してもよく、複数種の有機繊維を併用してもよく、無機繊維と有機繊維とを併用してもよい。複数種の無機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維と金属繊維とを併用する態様、炭素繊維とガラス繊維を併用する態様等を挙げることができる。一方、複数種の有機繊維を併用する態様としては、例えば、アラミド繊維と他の有機材料からなる繊維とを併用する態様等を挙げることができる。さらに、無機繊維と有機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用する態様を挙げることができる。
【0059】
本発明においては、上記強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維は、軽量でありながら強度に優れた繊維強化樹脂材料を得ることができるからである。上記炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
【0060】
本発明に用いられる強化繊維は、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している強化繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、強化繊維及びマトリックス樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
【0061】
本発明に用いられる強化繊維の平均繊維長は1〜100mmであることが好ましい。平均繊維長が1mm未満の場合、繊維強化樹脂材料の圧縮強度が所望の範囲よりも不足することがあり、衝撃吸収時の衝撃吸収部の変位が大きくなってしまう場合があるからである。また、平均繊維長が100mmを超える場合、繊維強化樹脂材料の圧縮強度が所望の範囲よりも大きくなり過ぎて、初期の衝撃荷重が大きくなったり、繊維長が長過ぎることにより、座屈ピッチが大きくなり過ぎて、衝撃荷重の急低下を招いたりする場合があるからである。本発明に用いられる強化繊維の平均繊維長のより好ましい範囲は5〜75mmであり、さらに好ましい範囲は10〜50mmである。ここで、強化繊維の平均繊維長(La)は、例えば、繊維強化樹脂材料から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長(Li)を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式に基づいて求めることができる。繊維強化樹脂材料からの強化繊維の抽出は、例えば、繊維強化樹脂材料に対し、500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
La=ΣLi/100
【0062】
本発明に用いられる強化繊維の平均繊維径は、強化繊維の種類等に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、強化繊維として炭素繊維が用いられる場合、平均繊維径は、通常、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、4μm〜12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜8μmの範囲内であることがさらに好ましい。一方、強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、平均繊維径は、通常、3μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。ここで、上記平均繊維径は、強化繊維の単糸の直径を指すものとする。したがって、強化繊維が繊維束状である場合は、繊維束の径ではなく、繊維束を構成する強化繊維(単糸)の直径を指すことになる。強化繊維の平均繊維径は、例えば、JIS R7607に記載された方法によって測定することができる。
【0063】
本発明に用いられる強化繊維は、その種類に関わらず単糸からなる単糸状であってもよく、複数の単糸からなる繊維束状であってもよい。また、本発明に用いられる強化繊維は、単糸状のもののみであってもよく、繊維束状のもののみであってもよく、両者が混在していてもよい。繊維束状のものを用いる場合、各繊維束を構成する単糸の数は、各繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。本発明に用いられる強化繊維が繊維束状である場合、各繊維束を構成する単糸の数は特に限定されるものではないが、通常、1000本〜10万本の範囲内とされる。
【0064】
一般的に、炭素繊維は、数千〜数万本のフィラメントが集合した繊維束状となっている。強化繊維として炭素繊維を用いる場合に、炭素繊維をこのまま使用すると、繊維束の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の繊維強化材料を得ることが困難になる場合がある。このため、強化繊維として炭素繊維を用いる場合は、繊維束を拡幅したり、又は開繊したりして使用するのが通常である。
【0065】
炭素繊維束を開繊して用いる場合、開繊後の炭素繊維束の開繊程度は特に限定されるものではないが、繊維束の開繊程度を制御し、特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ未満の炭素繊維(単糸)又は炭素繊維束を含むことが好ましい。この場合、具体的には、下記式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される炭素繊維束(A)と、それ以外の開繊された炭素繊維、すなわち単糸の状態または臨界単糸数未満で構成される繊維束とからなることが好ましい。
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0066】
さらに、本発明においては、繊維強化樹脂材料中の炭素繊維全量に対する炭素繊維束(A)の割合が0Vol%超99Vol%未満であることが好ましく、20Vol%以上99Vol未満であることがより好ましく、30Vol%以上95Vol%未満であることがさらに好ましく、50Vol%以上90Vol%未満であることが最も好ましい。このように特定本数以上の炭素繊維からなる炭素繊維束と、それ以外の開繊された炭素繊維又は炭素繊維束を特定の比率で共存させることで、繊維強化樹脂材料中の炭素繊維の存在量、すなわち繊維体積含有率(Vf)を高めることが可能となるからである。
【0067】
炭素繊維の開繊程度は、繊維束の開繊条件を調整することにより目的の範囲内とすることができる。例えば、繊維束に空気を吹き付けて繊維束を開繊する場合は、繊維束に吹き付ける空気の圧力等をコントロールすることにより開繊程度を調整することができる。この場合、空気の圧力を強くすることにより、開繊程度が高く(各繊維束を構成する単糸数が少なく)なり、空気の圧力を弱くすることより開繊程度が低く(各繊維束を構成する単糸数が多く)なる傾向がある。
【0068】
本発明において強化繊維として炭素繊維を用いる場合、炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)は本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。炭素繊維の場合、上記Nは通常1<N<12000の範囲内でとされるが、下記式(2)を満たすことがより好ましい。
0.6×10/D<N<1×10/D (2)
(ここでDは炭素繊維の平均繊維径(μm)である)
【0069】
(繊維強化樹脂材料)
上述した通り、本発明に用いられる繊維強化樹脂材料は、強化繊維とマトリックス樹脂とを含有するものであるが、本発明においては上記マトリックス樹脂として、熱可塑性樹脂が用いられることが好ましい。上記マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることにより、例えば、本発明の樹脂製衝撃吸収部材をプレス成形によって製造する場合に、成形時間を短くすることができる等の利点があるからである。また、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることにより、本発明に用いられる繊維強化樹脂材料をリサイクル又はリユースすることができる場合があるからである。
【0070】
本発明に用いられる繊維強化樹脂材料の圧縮弾性率は、本発明の樹脂製衝撃吸収部材に所望の衝撃吸収性能を付与できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、なかでも10GPa以上であることが好ましく、15GPa以上であることがより好ましく、20GPa以上であることがさらに好ましい。圧縮弾性率が上記範囲よりも小さいと、衝撃吸収部の剛性が不足し、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の衝撃吸収性能が低下する場合があるからである。本発明に用いられる繊維強化樹脂材料の圧縮弾性率を上記範囲内にするには、例えば、繊維強化樹脂材料中の強化繊維の含有率を調整したり、繊維長を調整したり、また、強化繊維または/及びマトリックス樹脂の種類を変更する等の方法により達成される。より具体的には、強化繊維の含有率を上げる、繊維長を長くする、また、より圧縮弾性率の大きい強化繊維または/及びマトリックス樹脂を用いることで、圧縮弾性率を大きくすることができる。また、これらの逆の調整をすれば圧縮弾性率を小さくすることができる。
【0071】
また、本発明に用いられる繊維強化樹脂材料の圧縮強度は特に限定されないが、150MPa以上であることが好ましく、200MPa以上であることがより好ましく、250MPa以上であることがさらに好ましい。繊維強化樹脂材料の圧縮強度が上記範囲よりも小さいと衝撃吸収部の強度が不足し、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の衝撃吸収性能が低下する場合があるからである。本発明に用いられる繊維強化樹脂材料の圧縮強度を上記範囲内にするには、例えば、繊維強化樹脂材料中の強化繊維の含有率を調整したり、繊維長を調整したり、また、強化繊維または/及びマトリックス樹脂の種類を変更する等の方法により達成される。より具体的には、強化繊維の含有率を上げる、繊維長を長くする、また、より圧縮強度の大きい強化繊維または/及びマトリックス樹脂を用いることで、圧縮強度を大きくすることができる。
なお、繊維強化樹脂材料の圧縮弾性率及び圧縮強度は、例えば、JIS K7076に記載された方法によって測定することができる。
【0072】
上述したように、本発明に用いられる繊維強化樹脂材料は少なくとも強化繊維とマトリックス樹脂とを含むものであるが、本発明の目的を損なわない範囲内であれば、必要に応じて各種添加剤を含んでもよい。上記各種添加剤は、繊維強化樹脂材料の用途等に応じて、繊維強化樹脂材料に所望の機能又は性質等を付与できるものであれば特に限定されるものではない。本発明に用いられる各種添加剤としては、例えば、溶融粘度低下剤、帯電防止剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤、導電性粒子、フィラー、カーボンブラック、カップリング剤、発泡剤、滑剤、腐食防止剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、着色防止剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、滑剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、無機および有機の抗菌剤、防虫剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤等を挙げることができる。
【0073】
本発明に用いられる繊維強化樹脂材料中におけるマトリックス樹脂の存在量は、マトリックス樹脂の種類や強化繊維の種類等に応じて適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではないが、通常、強化繊維100質量部に対して3質量部〜1000質量部の範囲内とされる。
【0074】
本発明に用いられる繊維強化樹脂材料中における強化繊維の体積含有率は、10〜70Vol%であることが好ましい。繊維強化樹脂材料中における強化繊維の体積含有率が10Vol%未満の場合、所望の圧縮弾性率または圧縮強度を得られない場合がある。一方、70Vol%を超える場合、繊維強化樹脂材料の流動性が低下してしまい、成形時に所望の形状を得られない場合がある。繊維強化樹脂材料中における強化繊維の体積含有率のより好ましい範囲は20〜60Vol%であり、さらに好ましい範囲は30〜50Vol%である。
【0075】
また、繊維強化樹脂材料中の強化繊維の存在状態は特に限定されるものではなく、例えば、一方向に配向した状態であってもよく、又はランダムに配向した状態であってもよい。なかでも本発明においては、樹脂製衝撃吸収部材中の形状剛性や強度の均一性の観点から、強化繊維の長軸方向が繊維強化樹脂材料の面内方向においてランダムに配向した、2次元ランダム配向の状態であることが好ましい。ここで、繊維強化樹脂材料内における強化繊維の2次元ランダム配向は、例えば、繊維強化樹脂材料の任意の方向、及びこれと直交する方向を基準とする引張試験を行い、引張弾性率を測定した後、測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比(Eδ)を測定することで確認できる。弾性率の比が2未満である場合に、炭素繊維が2次元ランダム配向していると評価でき、弾性率の比が1.3未満の場合には、優れた2次元ランダム配向と評価される。
【0076】
(繊維強化樹脂材料の製造方法)
次に本発明に用いられる繊維強化樹脂材料の製造方法について説明する。本発明に用いられる繊維強化樹脂材料は、一般的に公知の方法を用いて製造することができる。例えば、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂が用いられる場合は、1.強化繊維をカットする工程、2.カットされた強化繊維を開繊させる工程、3.開繊させた強化繊維と繊維状又は粒子状の熱可塑性樹脂を混合した後、加熱圧縮してプリプレグを得る工程により製造することができるが、この限りではない。なお、この方法の場合、前記プリプレグが繊維強化樹脂材料である。
【0077】
本発明に用いられる第1樹脂材料と第2樹脂材料とは同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。第1樹脂材料と第2樹脂材料とが相互に異なる態様としては、本発明に用いられる衝撃吸収部に所望の衝撃吸収性能を付与できる態様で特に限定されるものではない。このような態様としては、例えば、上記第1樹脂材料及び第2樹脂材料の一方に上記繊維強化樹脂材料を用い、他方に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いる態様、上記第1樹脂材料及び第2樹脂材料として、強化繊維の平均繊維長、強化繊維の体積含有率、マトリックス樹脂の種類等が相互に異なる繊維強化樹脂材料を用いる態様等を挙げることができるが、これに限られるものではない。
【0078】
3 樹脂製衝撃吸収部材
上述したように、本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、少なくとも上述した衝撃吸収部を有するものであるが、本発明を損なわない範囲で、当該衝撃吸収部以外の他の構成を有していてもよい。本発明に用いられる他の構成としては、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、周辺の部品と接続するためのフランジ部材を挙げることができる。
【0079】
次に、本発明の樹脂製衝撃吸収部材の製造方法について説明する。本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、上述した衝撃吸収部を製造することによって得ることができる。本発明における衝撃吸収部は、一般的に公知の方法を用いて製造することができ、例えば、第1樹脂材料及び第2樹脂材料として、強化繊維及び熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂材料を用いる場合は、繊維強化樹脂材料を予め軟化点以上の温度に加熱し、次いで繊維強化樹脂材料を構成する熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度を有する金型でコールドプレスする方法が適用できる。また、繊維強化樹脂材料を、熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度を有する金型内に投入してプレスした後に、熱可塑性樹脂の軟化点未満の温度まで冷却するホットプレス法も適用できるが、この限りではない。
【0080】
本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、上記衝撃吸収部の一端に入力された衝撃エネルギーを衝撃吸収部で吸収することにより、他端側への衝撃を抑制するために使用されるものである。本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、所謂、軸圧縮方向に対する衝撃吸収を想定したものであり、衝撃吸収部の中空構造の貫通方向と同軸方向に受ける衝撃に対するものである。また、本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、簡易な構造のために様々な車両用部品に適用できる。
【0081】
第2 車両用部品
次に、本発明の車両用部品について説明する。本発明の車両用部品は、上述した本発明の樹脂製衝撃吸収部材が用いられることを特徴とするものである。本発明の車両用部品としては、本発明の樹脂製衝撃吸収部材が用いられているものであれば特に限定されるものではないが、例えば、クラッシュボックス、フロントサイドメンバ、リアサイドメンバ、フロントホイールハウスアッパメンバ、ロアメンバ等が挙げられる。
【0082】
また、本発明の車両用部品は上述した本発明の樹脂製衝撃吸収部材が用いられていればよいものであるため、例えば、本発明の樹脂製衝撃吸収部材のみからなるものであってもよく、或いは本発明の樹脂製衝撃吸収部材が他の部品と組み合わされたものであってもよい。なお、当該他の部品は、本発明の車両用部品の用途に応じて適宜決定されるものであり、特に限定されるものではない。また、当該他の部品を構成する材料についても、本発明の車両用部品の用途に応じて適宜決定すればよく、任意の樹脂材料或いは任意の金属材料を用いることができる。
【0083】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる態様であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を示すことにより、本発明についてさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は以下の実施例の態様に限定されるものではない。
【0085】
本実施例における各値は、以下の方法に従って求める。
(1)強化繊維の平均繊維長
繊維強化樹脂材料中の強化繊維の平均繊維長は、繊維強化樹脂材料を500℃の炉内にて1時間加熱して、熱可塑性樹脂を除去した後、無作為に抽出した強化繊維100本の長さをノギスで1mm単位まで測定し、その平均値とする。平均繊維長が1mmを下回る場合は、光学顕微鏡下で0.1mm単位まで測定する。
【0086】
(2)繊維強化樹脂材料中の強化繊維の体積含有率
繊維強化樹脂材料中の強化繊維の体積含有率は、水中置換法により繊維強化樹脂材料の密度を求め、予め測定した強化繊維単独の密度と樹脂単独の密度との関係から、強化繊維の体積含有率を算出する。
【0087】
(3)繊維強化樹脂材料の圧縮弾性率及び圧縮強度
繊維強化樹脂材料の圧縮弾性率及び圧縮強度は、事前に80℃真空下で24時間乾燥させた試験片をJIS K7076に準拠して測定する。
【0088】
(4)樹脂製衝撃吸収部材の衝撃吸収性能
樹脂製衝撃吸収部材の衝撃吸収性能の評価は、IMATEK社製落錐衝撃試験機IM10を使用して、樹脂製衝撃吸収部材の中空構造の貫通方向と同軸方向に2500Jの衝撃エネルギーを付与した際の、初期衝撃荷重と衝撃吸収に要した変位を測定することによって行う。なお、初期衝撃荷重及び衝撃吸収に要した変位共に小さい方が、衝撃吸収性能は優れているといえる。
また、各実施例及び各比較例で形成する樹脂製衝撃吸収部材のサイズを表す符号の内容は、図11に示すとおりである。
【0089】
[参考例]
強化繊維として平均繊維長20mmにカットした東邦テナックス社製のPAN系炭素繊維「テナックス(登録商標)」STS40−24KS(平均繊維径7μm)を使用し、熱可塑性樹脂としてユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を使用して、面内方向に炭素繊維が2次元ランダム配向し、かつ、繊維強化樹脂材料全体に対する繊維体積含有率が35Vol%となるように混合し、280℃に加熱したプレス装置にて、圧力2.0MPaで5分間加熱圧縮することで繊維強化樹脂材料Aを作製する。得られる繊維強化樹脂材料Aの平均繊維長は約20mmであり、圧縮弾性率は10GPaであり、圧縮強度は150MPaであり、密度は1300kg/mである。
【0090】
[実施例1]
第1樹脂材料及び第2樹脂材料として参考例の繊維強化樹脂材料Aを用い、これを280℃まで加熱し、コールドプレス成形を行うことにより、樹脂成形品及び衝撃吸収補助部を作製する。次いで、作製した樹脂成形品のフランジ部を振動溶着し、かつフランジ部から構成される境界部を覆うように衝撃吸収補助部を形成することにより、図12に示す衝撃吸収部からなる樹脂製衝撃吸収部材を作製する。本実施例における衝撃吸収部の各部の寸法は、m=36.32mm、n=12mm、p=90mm、q=30mm、r=105度、s=105度である。また、樹脂成形品の厚みは2mm均一である。さらに、衝撃吸収補助部は厚みが1mmで均一であり、衝撃吸収方向全域に渡って、衝撃吸収方向に直交する方向の断面形状は略一様とする。
作製した樹脂製衝撃吸収部材を落錐衝撃試験機に、衝撃吸収方向が鉛直となるようにセットし、衝撃吸収方向と同軸方向に6000Jの衝撃エネルギーを付与すると、初期衝撃荷重は132kN、衝撃吸収に要した変位は109mmとなる。また、衝撃吸収特性は66.4J/gとなる。
【0091】
[実施例2]
衝撃吸収補助部の厚みを2mmとすること以外は、実施例1と同様の方法により樹脂製衝撃吸収部材を作製する。
作製した樹脂製衝撃吸収部材を落錐衝撃試験機に、衝撃吸収方向が鉛直となるようにセットし、衝撃吸収方向と同軸方向に6000Jの衝撃エネルギーを付与すると、初期衝撃荷重は156kN、衝撃吸収に要した変位は90mmとなる。また、衝撃吸収特性は69.9J/gとなる。
【0092】
[実施例3]
衝撃吸収補助部の厚みを4mmとすること以外は、実施例1と同様の方法により樹脂製衝撃吸収部材を作製する。
作製した樹脂製衝撃吸収部材を落錐衝撃試験機に、衝撃吸収方向が鉛直となるようにセットし、衝撃吸収方向と同軸方向に6000Jの衝撃エネルギーを付与すると、初期衝撃荷重は198kN、衝撃吸収に要した変位は68mmとなる。また、衝撃吸収特性は72.1J/gとなる。
【0093】
[比較例1]
参考例1の繊維強化樹脂材料Aを280℃まで加熱し、コールドプレス成形を行うことにより樹脂成形品を作製する。次いで、当該樹脂成形品のフランジ部を振動溶着することにより、図13に示すような衝撃吸収部からなる樹脂製衝撃吸収部材を作製する。本比較例においては、衝撃吸収補助部は用いない。本比較例における衝撃吸収部の各部の寸法は、m=36.32mm、n=12mm、p=90mm、q=30mm、r=105度、s=105度である。また、樹脂成形品の厚みは2mmである。
作製した樹脂製衝撃吸収部材を落錐衝撃試験機に、衝撃吸収方向が鉛直となるようにセットし、衝撃吸収方向と同軸方向に6000Jの衝撃エネルギーを付与すると、初期衝撃荷重は114kN、衝撃吸収に要した変位は141mmとなる。また、衝撃吸収特性は59.8J/gとなる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の樹脂製衝撃吸収部材は、一端に入力された衝撃エネルギーを衝撃吸収部で吸収することにより、他端側への衝撃を抑制するために使用されるものであり、例えば、車両等の衝撃吸収装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0095】
10 衝撃吸収部
20 中空衝撃吸収体
21、22 樹脂成形
21a 境界部
21b 開口部
30 衝撃吸収補助部
31 凸形状
32 凸部
33 線状凹部
X 衝撃吸収方向
図1
図2
図3
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図10
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