【実施例】
【0084】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0085】
<電磁波遮蔽用樹脂組成物の作製>
電磁波遮蔽用樹脂組成物の原料としては、以下のものを使用した。
(1)ベース樹脂
(1−1)PVC
PVC−1
平均重合度1100(大洋塩ビ社製、商品名「TH−1000」)
PVC−2
平均重合度1350(大洋塩ビ社製、商品名「TH−1400」)
PVC−3
平均重合度2000(大洋塩ビ社製、商品名「TH−2000」)
PVC−4
平均重合度2800(大洋塩ビ社製、商品名「TH−2800」)
(1−2)塩素化PE
塩素化PE−1
結晶率0.1質量%(昭和電工株式会社製、商品名「エラスレン406E」)
塩素化PE−2
結晶率0.7質量%(昭和電工株式会社製、商品名「エラスレン401A」)
塩素化PE−3
結晶率1.3質量%(昭和電工株式会社製、商品名「エラスレン301A」)
塩素化PE−4
結晶率14質量%(昭和電工株式会社製、商品名「エラスレン303B」)
塩素化PE−5
結晶率12.9質量%(エラスレン301Aとエラスレン303Bとの混合物、エラスレン301A:エラスレン303B=3質量%:73質量%)
【0086】
(2)可塑剤
可塑剤−1
フタル酸ジイソノニル(ジェイ・プラス社製、商品名「DINP」)
可塑剤−2
フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(ジェイ・プラス社製、商品名「DOP」)
【0087】
(3)炭素繊維
炭素繊維−1
東邦テナックス社製HT M100(ミルド)、平均長さ40μm、アスペクト比5.7
炭素繊維−2
東邦テナックス社製HT M100(ミルド)、平均長さ160μm、アスペクト比23
炭素繊維−3
東邦テナックス社製HT C503(チョップド)、平均長さ6000μm、アスペクト比857
炭素繊維−4
東邦テナックス社製HT C903(Niメッキチョップド)、平均長さ6000μm、アスペクト比800
炭素繊維−5
東邦テナックス社製HT C923(Niメッキチョップド)、平均長さ6000μm、アスペクト比800
【0088】
(4)炭素粒子
炭素粒子−1
アセチレンブラック、吸油量(DBP吸油量)175mL/100g、アスペクト比3未満、平均一次粒径35nm(電気化学工業社製、商品名「デンカブラック(粒状)」)
炭素粒子−2
ケッチェンブラック、吸油量(DBP吸油量)495mL/100g、アスペクト比3未満、平均一次粒径34nm(ライオン社製、商品名「EC600JD」)
炭素粒子−3
ファーネスブラック、吸油量(DBP吸油量)50mL/100g、アスペクト比3未満、平均一次粒径78nm(旭カーボン株式会社製、商品名「旭♯35」)
炭素粒子−4
ファーネスブラック、吸油量(DBP吸油量)63mL/100g、アスペクト比3未満、平均一次粒径80nm(旭カーボン株式会社製、商品名「旭♯50」)
炭素粒子−5
ファーネスブラック、吸油量(DBP吸油量)101mL/100g、アスペクト比3未満、平均一次粒径28nm(旭カーボン株式会社製、商品名「旭♯70」)
【0089】
(5)シリカ
シリカ−1
湿式シリカ(東新化成株式会社製、商品名「アエロジル200」)
シリカ−2
乾式シリカ(東新化成株式会社製、商品名「アエロジルR−974」)
【0090】
(6)カップリング剤
カップリング剤−1
商品名「KBM−1003」(信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
カップリング剤−2
商品名「KBM−503」(信越化学工業社製、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)
カップリング剤−3
商品名「KBM−903」(信越化学工業社製、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)
カップリング剤−4
商品名「KBE−903」(信越化学工業社製、3−アミノプロピルトリエトキシシラン)
カップリング剤−5
商品名「KBM−803」(信越化学工業社製、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)
カップリング剤−6
商品名「KBM−1083」(信越化学工業社製、長鎖ビニルシランカップリング剤)
カップリング剤−7
商品名「KBM−3066」)(信越化学工業社製、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン)
カップリング剤−8
商品名「ブレンアクト38S」(味の素ファインテクノ社製、イソプロピオキシチタンリン酸化合物)
カップリング剤−9
商品名「ブレンアクト138S」(味の素ファインテクノ社製、環状ジアルコキシチタンリン酸化合物)
カップリング剤−10
商品名「ブレンアクト41B」(味の素ファインテクノ社製、イソプロピオキシチタンリン酸化合物)
カップリング剤−11
商品名「ブレンアクト9SA」(味の素ファインテクノ社製、イソプロピオキシチタンスルホン酸化合物)
カップリング剤−12
商品名「ブレンアクトAL−M」(味の素ファインテクノ社製、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート)
カップリング剤−13
商品名「オルガチックスTC−1040」(マツモトファインケミカル社製、チタンオクチレングリコレート)
カップリング剤−14
商品名「オルガチックスTC−810」(マツモトファインケミカル社製、ドデシルベンゼンスルホン酸チタン化合物)
カップリング剤−15
商品名「オルガチックスTC−510」(マツモトファインケミカル社製、チタンアミノエチルアミノエタノレート)
カップリング剤−16
商品名「KBM−3063」(信越化学工業社製、ヘキシルトリメトキシシラン)
カップリング剤−17
商品名「KBM−3103」(信越化学工業社製、デシルトリメトキシシラン)
【0091】
(7)分散剤
分散剤−1
商品名「アジスパーPN411」(味の素テクノファイン社製、中性高分子系顔料分散剤)
分散剤−2
商品名「アジスパーPA111」(味の素テクノファイン社製、酸性高分子系顔料分散剤)
【0092】
(8)金属
Ni粉末
JFEミネラル社製、商品名「NST201」
Fe粉末
JFEスチール社製、商品名「JIP 270MS」
Cu繊維
虹技社製、商品名「C1100」
【0093】
(9)安定剤
Ca/Zn系安定剤(水澤化学工業社製、商品名「スタビネックスNL221−5」、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ハイドロタルサイトなど、多種を配合したもの)
【0094】
(実施例1〜59並びに比較例1〜20及び30〜31)
上記の電磁波遮蔽用樹脂組成物の原料のうち炭素繊維以外のベース樹脂、可塑剤、炭素粒子、シリカ、カップリング剤、分散剤及び安定剤を表1〜8に示す割合で配合し、バンバリーミキサを用いて165℃で20分間混練した後、炭素繊維を入れ4分間混練することにより、実施例1〜59並びに比較例1〜20及び30〜31の電磁波遮蔽用樹脂組成物を得た。なお、表1〜8において、ベース樹脂、可塑剤、炭素繊維、炭素粒子、シリカ、カップリング剤、分散剤、金属及び安定剤の配合量の単位は質量部である。
【0095】
(比較例21〜29)
上記の電磁波遮蔽用樹脂組成物の原料のうち炭素繊維以外のベース樹脂、可塑剤、炭素粒子、シリカ、カップリング剤、金属及び安定剤を表7〜8に示す割合で配合し、バンバリーミキサを用いて165℃で20分間混練することにより、比較例21〜29の電磁波遮蔽用樹脂組成物を得た。
【0096】
<特性評価>
(1)電磁波遮蔽特性
上記実施例1〜59及び比較例1〜31で得られた電磁波遮蔽用樹脂組成物を160℃のオープンロールでシート型に成形し、電熱プレス(160℃/10分間(5分予熱、5分150MPaで加圧))後、冷却プレス(10分間150MPa加圧)することで、20cm×20cm×1mm、20cm×20cm×2mmの電磁波遮蔽評価用試験シートを得た。
【0097】
そして、電磁波遮蔽評価用試験シートについて、いわゆるKEC法により、室温、30MHzの条件下にて電界遮蔽能及び磁界遮蔽能を測定した。結果を表1〜8に示す。なお、電磁波遮蔽特性の合格基準は下記の通りとした。
(合格基準)電界遮蔽能が60dB以上で且つ磁界遮蔽能が20dB以上
【0098】
(2)炭素繊維の配向度
上記実施例1〜59及び比較例1〜31で得られた電磁波遮蔽用樹脂組成物を上記と同様にして押出加工し、100mm×20mm×1mmの試験シートを作製した。ここで、試験シートの長手方向と試験シートの押出方向とは一致している。そして、これらの試験シートについて、その長手方向及び厚さ方向の体積抵抗率ρ(Ω・cm)を、30℃の条件下にてJIS K6271に準拠して測定した。試験シートの長手方向の体積抵抗率に対する厚さ方向の体積抵抗率の比を表1〜8に示す。この体積抵抗率の比は、炭素繊維の配向度を示すものである。具体的には炭素繊維が押出方向にどの程度配向しているかを示すものである。
【0099】
(3)低温脆化特性
上記実施例1〜59及び比較例1〜31で得られた電磁波遮蔽用樹脂組成物を、打抜き型で打抜いて38mm×6mm×2mmの試験片を作製し、JIS K 7216に準拠した脆化試験を行い、脆化温度(℃)を測定した。結果を表1〜8に示す。なお、表1〜8において、脆化温度が−60℃未満のものは、「−60↓」と記載した。また低温脆化特性の合格基準は下記の通りとした。
(合格基準)脆化温度が−50℃以下
【0100】
(4)耐屈曲性
上記実施例1〜59及び比較例1〜31で得られた電磁波遮蔽用樹脂組成物についてJIS K 7216に準拠した引張試験を行い、初期引張伸び、引張伸び残率(熱老化)、引張伸び残率(耐油)を測定した。これらを耐屈曲性の指標とした。引張試験は、3号試験片を作製し、この試験片について引張速度200mm/minの条件下にて行った。結果を表1〜8に示す。なお、引張伸び残率(熱老化)は、ギアオーブン(大気中)で100℃、48時間放置した後の3号試験片の引張伸び残率であり、引張伸び残率(耐油)は、非極性油(IRM−2)中に70℃で4時間浸漬した後の3号試験片の引張伸び残率である。また表1〜8において、引張伸び残率(熱老化)及び引張伸び残率(耐油)を測定する際に3号試験片が溶解した場合には、「溶解」と表示した。耐屈曲性の合格基準は下記の通りとした。
(合格基準)以下の要件を全て満たすこと。
・初期引張伸びが200%以上
・引張伸び残率(熱老化)が80%以上
・引張伸び残率(耐油)が70%以上
【0101】
さらに、上記実施例1〜59及び比較例1〜31のうち実施例40、41、比較例5、31については、得られた電磁波遮蔽用樹脂組成物を用いて急速充電器用リードケーブルを作製し、この急速充電器用リードケーブルについても、電磁波遮蔽特性、低温脆化特性及び耐屈曲性の評価を行った。
【0102】
急速充電器用リードケーブルは以下のようにして作製した。
【0103】
まず上記のベース樹脂、可塑剤、炭素繊維、シリカ、カップリング剤、分散剤、金属及び安定剤を表4,6、8に示す割合で配合し、バンバリーミキサを用いて165℃で25分間混練した後、炭素粒子を投入し、2分間追加混練することにより、実施例40、41、比較例5、31の導電性熱可塑性樹脂組成物を得た。この導電性熱可塑性樹脂組成物をフィーダールーダー(製品名「FR150」、モリヤマ社製)にて空中ホットカット後、ただちに水冷してペレット状に加工することで導電性熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。
【0104】
一方、パワー線2本(以下、各パワー線を「パワー線A」及び「パワー線B」と呼ぶ)及び通信線2組を撚り合わせてメッシュテープで巻いてなる集合ケーブルを用意した。ここで、2本のパワー線A,Bとしてはそれぞれ、外径8.89mm、絶縁厚が1.71mmのものを用い、2組の通信線としては、外径1.1mm、絶縁厚0.57mmの線を2本撚り合わせてジュートで包囲してなる通信線1組と、外径1.1mm、絶縁厚0.57mmの1〜7の線7本のうち1,6の線を撚り合わせてなる通信線1組とを用いた。
【0105】
そして、上記のようにして得られた導電性熱可塑性樹脂組成物ペレットを単軸押出機(L/D=20、スクリュー形状:フルフライトスクリュー、マース精機社製)に投入し、その押出機からチューブ状の押出物を押し出し、上記集合ケーブル上に、厚さ2.00mmとなるように導電層を形成した。その後、上記単軸押出機を用いて、厚さ2.95mmとなるようにシースを被覆した。こうして遮蔽の急速充電器用リードケーブル(以下、「ケーブルA」と呼ぶ)を得た。
【0106】
一方、集合ケーブル上に導電層を形成しなかったこと以外は上記遮蔽ケーブルと同様の手順で無遮蔽の急速充電器用リードケーブル(以下、「ケーブルB」と呼ぶ)を準備した。
【0107】
こうして得られたケーブルA,Bを用いて、以下のようにしてケーブルAの電磁波遮蔽特性、低温脆化特性及び耐屈曲性の評価を行った。
【0108】
(5)電磁波遮蔽特性
電磁波遮蔽特性は以下のようにして測定した。
【0109】
(測定準備)
まず以下のようにしてケーブルAの電磁波遮蔽特性を測定する準備を行った。
【0110】
はじめに、ケーブルAの両端を口出しし、一端側の露出されたパワー線A及びパワー線Bを変換コネクタに接続し、変換コネクタは、パワーアンプを介してシグナルジェネレータに接続した。一方、口出しした他端側の露出されたパワー線A及びパワー線B同士を終端抵抗で接続した。こうしてパワー線A及びパワー線Bを信号が流れるようにした。一方、ケーブルAから1m離れた位置にハイブリッドアンテナを配置し、ハイブリッドアンテナにはスペクトラムアナライザを接続した。そして、ケーブルAの一端を、変換コネクタと共にアルミホイルで覆った。またケーブルAの他端を、終端抵抗と共にアルミホイルで覆った。
【0111】
ここで、使用した機器に関する具体的な情報は下記の通りである。
・シグナルジェネレータ(SG):E8257D(Agilent Technologies社製)
・パワーアンプ:A00110−4040−R(R&K社製)
・変換コネクタ:KBL−602(協立電子工業社製)
・終端抵抗:50Ω(日本抵抗器製作所社製)
・ハイブリッドアンテナ:3143B(ETS-LINDGREN社製)
・スペクトラムアナライザ:N9020A(Agilent Technologies社製)
【0112】
一方、ケーブルBについてもケーブルAと同様の測定準備を行った。
【0113】
(測定)
上記のようにして測定の準備が完了した後、SGによってケーブルA,Bに30MHzの信号を流し、ケーブルA,Bからそれぞれ放射される電磁波をハイブリッドアンテナで受信し、スペクトラムアナライザで測定した。そして、ケーブルBからの放射電磁波と、ケーブルAからの放射電磁波との差に基づいて電磁波遮蔽能を求めた。結果を表9に示す。表9において、電磁波遮蔽特性の合格基準は下記の通りとした。
(合格基準)電磁波遮蔽能が20dB以上
【0114】
ここで、「20dB以上」とは、ケーブルAから放射される電磁波の99%以上が遮蔽されることを意味する。
【0115】
(6)低温脆化特性
上記ケーブルAについて、JIS C 3005、4.20.1のA法に準拠した低温巻き付けを行い、ケーブルAの表面に破損又はひび割れが生じるかどうかを調べた。このとき、低温槽の温度は−30℃とし、巻き付けた円筒の直径は314mmとし、円筒への巻付けは0.5周とした。結果を表9に示す。表9に示すように、ケーブルAにおいて、破損又はひび割れが生じなければ「合格」と判断し、破損又はひび割れが生じていれば「不合格」と判断した。
【0116】
(7)耐屈曲性
上記ケーブルAについて、巻付加熱及び曲げを行って耐屈曲性を評価した。
【0117】
巻付加熱は、JIS C 3005、4.19.1のA法に準拠して行い、ケーブルAの表面に破損又はひび割れが生じるかどうかを調べた。このとき、恒温槽の温度は120℃とし、巻き付けた円筒の直径は314mmとし、円筒への巻付けは0.5周とした。結果を表9に示す。表9に示すように、ケーブルAにおいて、破損又はひび割れが生じなければ「合格」と判断し、破損又はひび割れが生じていれば「不合格」と判断した。
【0118】
曲げは、JIS C 3005、4.27.1 a)の丸形に準拠して行い、破損又はひび割れが生じるかどうかを調べた。このとき、連続回転数は10000回とした。結果を表9に示す。表9において、破損又はひび割れが生じなければ「合格」とし、破損又はひび割れが生じていれば「不合格」とした。
【0119】
なお、耐屈曲性については、巻付加熱及び曲げの両方の結果が合格であれば「合格」と判断し、巻付加熱又は曲げの結果のいずれか一方でも不合格であれば「不合格」と判断した。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
【表7】
【0127】
【表8】
【0128】
【表9】
【0129】
表1〜8に示すように、実施例1〜59の電磁波遮蔽用樹脂組成物は、電磁波遮蔽特性、耐屈曲性及び低温脆化特性の点で合格基準に達していた。一方、比較例1〜31の電磁波遮蔽用樹脂組成物は電磁波遮蔽特性、耐屈曲性及び低温脆化特性のうちの少なくとも1つの点で合格基準に達していなかった。
【0130】
また表9に示す結果より、実施例40、41の電磁波遮蔽用樹脂組成物を用いたケーブルは、電磁波遮蔽特性、耐屈曲性及び低温脆化特性の点で合格基準に達していた。一方、比較例5、31の電磁波遮蔽用樹脂組成物を用いたケーブルは、電磁波遮蔽特性、耐屈曲性及び低温脆化特性の少なくとも1つの点で合格基準に達していなかった。
【0131】
以上より、本発明の電磁波遮蔽用樹脂組成物によれば、シートの形態だけでなくケーブルの形態でも、優れた電磁波遮蔽特性、耐屈曲性及び低温脆化特性を有することが確認された。