特許第6321566号(P6321566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6321566銀ナノワイヤの製造方法並びに銀ナノワイヤおよびそれを用いたインク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321566
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】銀ナノワイヤの製造方法並びに銀ナノワイヤおよびそれを用いたインク
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
【請求項の数】17
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-41062(P2015-41062)
(22)【出願日】2015年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-180772(P2015-180772A)
(43)【公開日】2015年10月15日
【審査請求日】2017年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-45754(P2014-45754)
(32)【優先日】2014年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏敏
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/102863(WO,A1)
【文献】 特開2010−084173(JP,A)
【文献】 特表2013−531133(JP,A)
【文献】 特表2013−503260(JP,A)
【文献】 特表2014−505963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/24, 1/00, 1/02, 9/00
H01B 1/00, 1/22, 5/00,13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀化合物を溶解させたアルコール溶媒中で銀をワイヤ状に還元析出させる銀ナノワイヤの製造方法において、
塩化物、臭化物、アルカリ金属水酸化物、アルミニウム塩および有機保護剤が溶解しているアルコール溶媒中で前記還元析出を進行させること、
前記アルコール溶媒に溶解させるアルミニウム塩のAl総量とアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量とのモル比Al/OHを0.01〜0.40とすること、
前記アルコール溶媒に溶解させるアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量と銀化合物のAg総量とのモル比OH/Agを0.005〜0.50とすること、
前記有機保護剤が、ビニルピロリドンと他のカチオン性モノマーとの重合組成を有するコポリマーであること、
を特徴とする銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項2】
有機保護剤の組成は、他のカチオン性モノマー0.1〜10質量%、残部ビニルピロリドンである請求項1に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項3】
有機保護剤は、ビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウム(Diallyldimethylammonium)塩モノマーとの重合組成を有するコポリマーであり、その組成はジアリルジメチルアンモニウム(Diallyldimethylammonium)塩モノマー0.1〜10質量%、残部ビニルピロリドンである請求項1に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項4】
溶媒であるアルコールがポリオールである請求項1〜3のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項5】
アルコール溶媒は、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリンの1種以上からなるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属水酸化物として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの1種以上を使用する請求項1〜5のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項7】
アルミニウム塩として、硝酸アルミニウムを使用する請求項1〜6のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項8】
アルミニウム塩として、塩化アルミニウムを使用する請求項1〜6のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項9】
塩化物として、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、銅の塩化物のうち1種以上を使用する請求項1〜8のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項10】
臭化物として、水素、リチウム、ナトリウム、カリウムの臭化物のうち1種以上を使用する請求項1〜9のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項11】
銀化合物として、硝酸銀を使用する請求項1〜10のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項12】
前記銀の還元析出を60℃以上かつ使用する溶媒アルコールの沸点以下の温度範囲で進行させる請求項1〜11のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項13】
ビニルピロリドンと他のカチオン性モノマーとのコポリマーに被覆され、金属成分のうち、Alを100〜1000ppm含有する、平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上の銀ナノワイヤ。
【請求項14】
平均長さ(nm)と平均直径(nm)の比を平均アスペクト比と呼ぶとき、平均アスペクト比が250以上である請求項13に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項15】
ビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウム(Diallyldimethylammonium)塩モノマーとのコポリマーに被覆され、金属成分のうち、Alを100〜1000ppm含有する、平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上の銀ナノワイヤ。
【請求項16】
平均長さ(nm)と平均直径(nm)の比を平均アスペクト比と呼ぶとき、平均アスペクト比が250以上である請求項15に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤを液状媒体中に0.05〜5.0質量%含有する銀ナノワイヤインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電体を形成する材料などとして有用な銀ナノワイヤの製造方法に関する。また、その銀ナノワイヤ、およびそれを用いた銀ナノワイヤインクに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書では、太さが200nm程度以下の微細な金属ワイヤの集まりを「ナノワイヤ(nanowires)」と呼ぶ。粉末に例えると、個々のワイヤは粉末を構成する「粒子」に相当し、ナノワイヤ(nanowires)は粒子の集まりである「粉末」に相当する。
【0003】
銀ナノワイヤは、透明基材に導電性を付与するための導電素材として有望視されている。銀ナノワイヤを含有する液(銀ナノワイヤインク)をガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)などの透明基材にコーティングしたのち、液状成分を蒸発等により除去させると、銀ナノワイヤは当該基材上で互いに接触し合うことにより導電ネットワークを形成するので、透明導電体を実現することができる。従来、透明導電材料としてはITOに代表される金属酸化物膜が主として透明電極等の用途に使用されている。しかし、金属酸化物膜は、成膜コストが高いことや、曲げに弱く最終製品のフレキシブル化を阻む要因となることなどの欠点を有している。また、透明導電体の主要用途のひとつであるタッチパネルセンサーの導電性フィルムには高い透明性と高い導電性が要求されるが、昨今、視認性に関する要求も一層厳しくなっている。従来のITOフィルムでは、導電性を稼ぐためにはITO層の厚さを増大させる必要があるが、厚さの増大は透明性の低下を招き、視認性の改善には至らない。
銀ナノワイヤは、ITOに代表される金属酸化物膜に特有の上記欠点を克服するうえで有望である。
【0004】
銀ナノワイヤの製造方法としては、エチレングリコール等のポリオール溶媒に銀化合物を溶解させ、ハロゲン化合物と保護剤であるPVP(ポリビニルピロリドン)存在下において、溶媒のポリオールの還元力を利用して線状形状の金属銀を析出させる手法が知られている(特許文献1、2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2005/0056118号公報
【特許文献2】US2008/0003130号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.of Solid State Chem.1992,100,272−280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記公知の手法によれば、表面がPVPによって保護された銀ナノワイヤが得られる。PVPは銀ナノワイヤを収率良く合成する上で有用な物質であり、多くの事例が文献等で紹介されている。
銀ナノワイヤは、その直径が細く、また長さが長いほど、高い透明性と高い導電性を両立させるうえで有利である。PVPを用いて合成された従来の銀ナノワイヤは、タッチパネルセンサー等の用途で今後更に厳しくなることが予想される要求特性(透明性と導電性の更なる高レベルでの両立)を考慮すると、必ずしも満足できるものではない。
更には、PVPを用いて合成した銀ナノワイヤは、液状媒体中における銀ナノワイヤの分散安定性についても改善が望まれる。具体的には、銀ナノワイヤをインク化したときに沈殿し易いという問題がある。液状媒体中での銀ナノワイヤの分散性は、保護剤の種類に大きく依存する。より詳しくは、溶媒と銀ナノワイヤの溶解度パラメータの差異の程度や、有機保護剤の静電的反発力、立体障害効果などに依存する。
【0008】
本発明は、細く、長い銀ナノワイヤを安定して製造するための新たな技術を開示するものである。そして、その技術により、液状媒体中での分散安定性の改善に有効な銀ナノワイヤを提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、銀化合物を溶解させたアルコール溶媒中で銀をワイヤ状に還元析出させる銀ナノワイヤの製造方法において、
塩化物、臭化物、アルカリ金属水酸化物、アルミニウム塩および有機保護剤が溶解しているアルコール溶媒中で前記析出を進行させること、
前記溶媒に溶解させるアルミニウム塩のAl総量とアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量とのモル比Al/OHを0.01〜0.40とすること、
前記溶媒に溶解させるアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量と銀化合物のAg総量とのモル比OH/Agを0.005〜0.50とすること、
を特徴とする銀ナノワイヤの製造方法が提供される。
【0010】
有機保護剤として、ビニルピロリドンと他のモノマーとのコポリマーが適用できる。その重合組成は、例えば他のモノマー0.1〜10質量%、残部ビニルピロリドンとすることが好ましい。上記の「他のモノマー」としては、カチオン性モノマーが好適である。「他のモノマー」の具体例として、ジアリルジメチルアンモニウム(Diallyldimethylammonium)塩モノマーが挙げられる。
【0011】
溶媒のアルコールとしては、グリコール類が好適である。例えばエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリンなどが挙げられる。1種または2種以上のアルコールからなるアルコール溶媒を使用することができる。
【0012】
アルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの1種以上を使用することができる。
アルミニウム塩としては、例えば硝酸アルミニウムや、塩化アルミニウムが挙げられる。塩化アルミニウムを使用する場合は、後述の塩化物の一部または全部をこれで賄うことが可能である。
【0013】
塩化物としては、例えば水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、銅の塩化物のうち1種以上を使用することができる。
臭化物としては、例えば水素、リチウム、ナトリウム、カリウムの臭化物のうち1種以上を使用することができる。
銀化合物としては、硝酸銀が使用できる。
前記銀の還元析出を60℃以上かつ使用する溶媒アルコールの沸点以下の温度範囲で進行させることが好ましい。
【0014】
上記の製造方法に従えば、平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上の銀ナノワイヤを得ることができる。平均長さ(nm)と平均直径(nm)の比を平均アスペクト比と呼ぶとき、平均アスペクト比が250以上であるものが特に好ましい。ここで、平均直径、平均長さ、平均アスペクト比は以下の定義に従う。
【0015】
〔平均直径〕
顕微鏡画像(例えばFE−SEM画像)上で、ある1本の金属ワイヤの投影像において、太さ方向両側の輪郭に接する内接円の直径をワイヤ全長にわたって測定したときの前記直径の平均値を、そのワイヤの直径と定義する。そして、ナノワイヤ(nanowires)を構成する個々のワイヤの直径を平均した値を、当該ナノワイヤの平均直径と定義する。平均直径を算出するためには、測定対象のワイヤの総数を100以上とする。
【0016】
〔平均長さ〕
上記と同様の顕微鏡画像上で、ある1本の金属ワイヤの投影像において、そのワイヤの太さ中央(すなわち前記内接円の中心)位置を通る線の、ワイヤの一端から他端までの長さを、そのワイヤの長さと定義する。そして、ナノワイヤ(nanowires)を構成する個々のワイヤの長さを平均した値を、当該ナノワイヤの平均長さと定義する。平均長さを算出するためには、測定対象のワイヤの総数を100以上とする。
本発明に従う銀ナノワイヤは非常に細長い形状のワイヤで構成されている。そのため、回収された銀ナノワイヤは、直線的なロッド状より、むしろ曲線的な紐状の形態を呈することが多い。発明者らは、このような曲線的なワイヤについて、上記のワイヤ長さを画像上で効率的に測定するためのソフトウエアを作成し、データ処理に利用している。
【0017】
〔平均アスペクト比〕
上記の平均直径および平均長さを下記(1)式に代入することにより平均アスペクト比を算出する。
[平均アスペクト比]=[平均長さ(nm)]/[平均直径(nm)] …(1)
【0018】
上記の製造方法により銀ナノワイヤを合成すると、ワイヤ表面は使用した有機保護剤によって被覆される。本発明に従えば、カチオン性の有機保護剤に被覆された銀ナノワイヤを得ることもできる。特に、ビニルピロリドンと他のモノマーとのコポリマー、好ましくはビニルピロリドンと他のカチオン性モノマーとのコポリマーに被覆された銀ナノワイヤが提供される。例えば、ビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウム(Diallyldimethylammonium)塩モノマーとのコポリマーに被覆された銀ナノワイヤが挙げられる。また、上記の製造方法によれば、金属元素のうち、Alを質量割合で100〜1000ppm含有する金属ナノワイヤを得ることができる。
【0019】
また、本発明では、上記の製造方法で得られた銀ナノワイヤを液状媒体中に0.05〜5.0質量%含有する銀ナノワイヤインクが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、細く、かつ長い銀ナノワイヤを安定して製造することができる。特に平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上であり、平均アスペクト比が250以上である銀ナノワイヤを比較的容易に製造することができる。このように細く、長い銀ナノワイヤは、透明導電体の透明性および導電性の向上に有利である。また、アルミニウム塩を使用することによりPVP以外の有機保護剤を適用した収率の良い銀ナノワイヤの合成が可能になった。それにより、分散安定性を改善した銀ナノインクを得ることができる。分散安定性の良い銀ナノインクは、透明基材上へのコーティング工程において、ワイヤの沈降や局所偏在を回避するための時間的余裕が増大し、より高品質の透明導電体を低コストで製造するうえで極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図2】実施例2で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図3】実施例3で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図4】実施例4で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図5】実施例5で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図6】実施例6で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図7】実施例7で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図8】実施例8で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図9】実施例9で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図10】実施例10で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図11】実施例11で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図12】比較例2で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図13】比較例6で得られた銀粒子のSEM写真。
図14】ジアリルジメチルアンモニウムナイトレイトの構造式。
図15】ジアリルジメチルアンモニウムクロリドの構造式。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔アルコール溶媒〕
本発明では、アルコール溶媒中において、そのアルコールの還元力を利用して銀を析出させる手法を適用する。アルコールの種類としては、銀に対して適度な還元力を有し、金属銀をワイヤ状に析出させることができるものが選択される。現時点において、エチレングリコールに代表されるポリオールが銀ナノワイヤの生成に比較的適しているとされるが、今後の研究により、適用可能な多くのアルコール類が確認されると思われる。発明者らは既に、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリンの1種以上からなるアルコール溶媒中で、工業的に実用可能な収率で、細くて長い銀ナノワイヤの合成に成功している。これらのアルコールは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0023】
〔銀化合物〕
銀ナノワイヤを還元析出させるための銀源として、溶媒に可溶な銀化合物を使用する。例えば、硝酸銀、酢酸銀、酸化銀、塩化銀などが挙げられるが、溶媒に対する溶解性やコストを考慮すると硝酸銀(AgNO3)が使いやすい。使用するアルコール溶媒の総量に対するAg添加量は、溶媒1L当たりAg0.001〜0.1モルの範囲とすることが好ましく、0.025〜0.080モルの範囲とすることがより好ましい。
【0024】
〔塩化物〕
アルコール溶媒中で金属銀をワイヤ状に還元析出させるためには、析出の成長方向に異方性を持たせせる作用を有する塩化物イオンの存在が必要である。塩化物イオンは、核生成した金属銀の特定の結晶面を速やかにエッチングして多重双晶の生成を促し、それによってワイヤとなる核晶の存在比率を高める効果を有すると考えられる。塩化物イオン源としては、溶媒であるアルコールに溶解する塩化物であれば種々のものが適用対象となる。有機塩素化合物であるTBAC(テトラブチルアンモニウムクロライド;(CH3CH2CH2CH2)4NCl)なども対象となる。工業上入手しやすく、価格の安い塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化水素(HCl)、塩化リチウム(LiCl)などが好適な対象となる。また、アルコール溶媒に可溶な塩化銅(II)(CuCl2)を使用してもよい。使用するアルコール溶媒の総量に対する塩化物の添加量は、溶媒1L当たりCl量として0.00001(1×10-5)〜0.01モルの範囲とすることが好ましく、0.00005(5×10-5)〜0.01モルの範囲とすることがより好ましい。
【0025】
〔臭化物〕
臭化物イオンも、金属銀の析出成長方向に異方性を持たせる作用を有する。種々検討の結果、アルコール溶媒中に、上述の塩化物イオンに加え、臭化物イオンを存在させておくことが、平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上といった細くて長い銀ナノワイヤを得る上で極めて有効であることがわかった。臭化物イオン源としては、溶媒であるアルコールに溶解する臭化物であれば種々のものが適用対象となる。有機臭素化合物であるCTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム;(C1633)N(CH3)3Br)なども対象となる。工業上入手しやすく、価格の安い臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化水素(HBr)、臭化リチウム(LiBr)などが好適な対象となる。臭化物の添加量は極めて微量であるが、異方性を持たせるには極めて有効な添加物である。使用するアルコール溶媒の総量に対する臭化物の添加量は、溶媒1L当たりBr量として0.000001(1×10-6)〜0.001(1×10-3)モルの範囲とすることが好ましく、0.000005(5×10-6)〜0.001(1×10-3)モルの範囲とすることがより好ましい。
【0026】
〔アルミニウム塩およびアルカリ金属水酸化物〕
発明者らは、銀を析出させる溶媒中に、アルミニウム塩と、アルカリ金属水酸化物とを所定割合で溶解させておくことにより、アスペクト比の大きい銀ナノワイヤが効果的に合成できることを見出した。このような現象のメカニズムについては現時点で不明であるが、アルミニウムイオンには銀がワイヤ状に成長するための結晶面を活性化する作用や、還元速度を向上させる作用があるのではないかと推測され、そのような作用は、水酸化物イオンの適正存在下で発揮されるものと考えられる。
なお、アルミニウム塩を含有する溶媒中で合成した銀ナノワイヤには、Alの存在が確認される。発明者らの調査によれば、金属成分のうち、Alを100〜1000ppm含有する金属ナノワイヤは、直径の均一性が高く、細くて長いわりに局所的な折れや曲がりが生じにくい傾向が見られた。このような銀ナノワイヤはインク化の操作や、基材へのコーティングの操作において、取り扱い性に優れる。A1を150ppm以上含有する銀ナノワイヤであることがより好ましく、200〜800ppmであるものがより好適な対象となる。
【0027】
本明細書では、溶媒に溶解させるアルミニウム塩のAl総量とアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量とのモル比を「Al/OH」と表記し、以下、このモル比を単に「Al/OHモル比」と呼ぶことがある。詳細な検討の結果、Al/OHモル比を0.01〜0.40とすることにより、細く、長い銀ナノワイヤを合成できる。Al/OHモル比が高すぎるとアルコール溶媒による還元力が低下し、当該溶媒中に溶解している銀イオンあるいは銀錯体を金属銀に還元させることができない。Al/OHモル比が低すぎると平均アスペクト比の大きい、長いワイヤを合成することが難しくなる。
【0028】
だだし、Al/OHモル比が適正範囲にあっても、銀に対するアルカリ水酸化物の量が多すぎると酸化銀を主体とした合成物が多量に形成され、ワイヤの合成ができなくなる。逆に銀に対するアルカリ水酸化物の量が少なすぎると銀の還元反応が生じにくくなる。本明細書では、溶媒に溶解させるアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量と銀化合物のAg総量とのモル比を「OH/Ag」と表記し、以下、このモル比を単に「OH/Agモル比」と呼ぶことがある。詳細な検討の結果、OH/Agモル比は0.005〜0.50の範囲とすることが望ましい。
【0029】
アルカリ金属水酸化物としては、工業的には例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの1種以上を使用することが望ましい。
アルミニウム塩としては、硝酸アルミニウムや、塩化アルミニウムが適用対象となる。硝酸アルミニウムは硝酸アルミニウム九水和物Al(NO3)3・9H2Oとして添加しても構わない。塩化アルミニウムを使用する場合、上述の塩化物を兼ねることができる。
【0030】
〔有機保護剤〕
有機保護剤は、還元反応において析出した銀ナノワイヤの表面を覆い、粗大成長を抑止する作用を有する。また、得られた銀ナノワイヤの表面に存在する有機保護剤は液状媒体への分散性を確保する作用を有する。銀の析出を一方向のみへ優先的に生じさせて銀ナノワイヤを合成するために有効な有機保護剤としてはPVP(ポリビニルピロリドン)が知られている。しかし、PVPを用いて合成した銀ナノワイヤは、分散安定性の良好な銀ナノワイヤインクを得ることが難しい。すなわち、銀ナノワイヤをインク化したときに沈殿し易い。
【0031】
発明者らは、上述のアルミニウム塩が溶解している状態で銀の還元析出を行うと、銀の一方向析出の傾向が強くなり、有機保護剤にPVPを使用しない場合でも、細く、長い良好な形状の銀ナノワイヤが収率良く合成できるようになることを見出した。PVPに代わって適用可能な新たな有機保護剤については、今後研究が進展することにより、種々のものが確認される可能性がある。現在のところ、ビニルピロリドンと他のモノマーとの重合組成を有するコポリマーが極めて有効である。その重合組成は他のカチオン性モノマー0.1〜10質量%、残部ビニルピロリドンであることが好ましい。なお、重合組成を有するとは、モノマー同士が共重合した構造を有することを意味し、実際の製造過程でそれらのモノマー同士の間での重合反応過程を経た化合物であるかどうかはこだわらない。
【0032】
本発明では特に、上記「他のモノマー」がカチオン性モノマーである有機保護剤を適用することができる。この場合はコポリマーとしてもカチオン性を呈する。この種の有機保護剤で被覆された銀ナノワイヤは、アルコールや水など、極性の大きい液状媒体でPVPよりも静電的反発力が強く、優れた分散安定性を示す。そして、その優れた分散性を呈している液状媒体に極性の小さい溶媒物質を添加すると、銀ナノワイヤは速やかに凝集する。この性質を利用すると、例えば、銀ナノワイヤを合成後のアルコール溶媒にアセトン、トルエン、ヘキサン、ケロシンなど、極性の小さい液を添加して溶媒の極性を下げることにより、速やかに凝集するため、洗浄・回収が極めて簡便にできるなど、工業的にも優れた特性を持つ。この凝集したものに、再び極性の大きい水などの溶媒を添加すると、良好な分散性を呈することも確認された。カチオン性の有機保護剤として、ビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウム(Diallyldimethylammonium)塩モノマーとの重合組成を有するものが例示できる。
【0033】
〔製造方法〕
従来、銀化合物が溶解しているアルコール溶媒中において、ハロゲン化合物および有機保護剤の存在下で、溶媒であるアルコールの還元力により銀ナノワイヤを得る手法が知られている。この場合、金属銀をワイヤ状に析出させるための有機保護剤としてPVPが適しているとされる。本発明でも、このようなアルコール溶媒の還元力を利用して銀ナノワイヤを生成させる。ただし、本発明ではアルコール溶媒中に、塩化物、臭化物、アルミニウム塩、アルカリ金属水酸化物および有機保護剤が溶解している状況下で銀を還元析出させる。その際、上述したように、溶媒に溶解させるアルミニウム塩のAl総量とアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量とのモル比Al/OHを0.01〜0.40とし、かつ溶媒に溶解させるアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量と銀化合物のAg総量とのモル比OH/Agを0.005〜0.50とする。
【0034】
銀の還元析出反応を進行させる温度は60℃以上溶媒の沸点以下の範囲で設定することができる。沸点は、反応容器内の溶媒液面が接する気相空間の圧力における沸点である。複数種類のアルコールを混合して溶媒とする場合、最も沸点が低いアルコールの沸点以下の温度とすればよい。ただし、穏やかに反応を進行させる観点から、沸騰を避け、沸点より低い温度に管理することが好ましい。例えば溶媒としてエチレングリコールを使用し、大気圧下で反応を進行させる場合、エチレングリコールの沸点は約197℃であるが、60〜185℃で反応を進行させることが好ましく、80〜175℃とすることがより好ましい。反応時間は10〜1440分の範囲とすればよい。
【0035】
手順としては、アルコール溶媒中に銀化合物以外の各物質を溶解させておき、その溶媒(以下「溶液A」という)の温度が所定の反応温度に到達したのちに、銀化合物を溶液A中に添加することが望ましい。銀化合物は、予め別の容器で前記溶媒と同種のアルコール溶媒に溶解させておき、その銀含有液(「溶液B」という)を溶液A中に混合する方法で添加することができる。溶液Aに混合する前の溶液Bは、常温付近の温度(例えば15〜40℃)とすることが望ましい。溶液Bの温度が低すぎると銀化合物の溶解に時間がかかり、高すぎると溶液B中のアルコール溶媒の還元力によって溶液Aに混合する前の段階で銀の還元反応が起こりやすくなる。硝酸銀など、アルコール溶媒に溶けやすい銀化合物は、固体のまま前記溶液A中に添加してもよい。銀化合物の添加は、全量を一度に添加する方法や、一定時間内に断続的または継続的に添加する方法が採用できる。反応進行中は液の撹拌を継続する。また、反応進行中に溶液Aの液面が接する気相の雰囲気は大気または窒素とすることができる。
【0036】
銀の析出反応が終了したのち、銀ナノワイヤを含有するスラリーを遠心分離やデカンテーションなどの手段を用いて固液分離して固形分を回収する。デカンテーションは、静置したまま2〜2週間程度かけ濃縮を行ってもよいし、スラリーに、アセトン、トルエン、ヘキサン、ケロシンなどの極性の小さい溶媒を少なくとも1種類以上添加し、沈降速度を速めて濃縮してもよい。遠心分離の場合は、反応後のスラリーをそのまま遠心分離機にかけて、銀ナノワイヤを濃縮すればよい。
濃縮後、上澄みを除去する。その後、水やアルコールなど極性の大きい溶媒を添加し、銀ナノワイヤを再分散させ、さらに遠心分離やデカンテーションなどの手段を用いて固液分離して固形分を回収する。この再分散と濃縮の工程(洗浄)を繰り返して行うことが好ましい。
【0037】
洗浄後の固形分は有機保護剤を表面に有する銀ナノワイヤを主体とするものである。この銀ナノワイヤは、目的に応じて適切な液状媒体中に分散させた分散液として保管することができる。この銀ナノワイヤ分散液は、各種用途において、銀ナノワイヤ供給源として利用できる。
銀ナノワイヤ分散液に、コーティング装置、印刷装置の方式に応じて適切な粘度に調整するために粘度調整剤を添加し、更に基材との密着性を確保するために必要に応じてバインダーを添加する。更に必要に応じて分散剤等を添加する。このようにして、各種用途に適した銀ナノインクを用意する。銀ナノワイヤインク中の銀ナノワイヤの含有量は、例えば0.05〜5.0質量%の範囲で調整することができる。
この銀ナノワイヤインクを透明基材であるPETフィルム、PC、ガラス等に塗布し、液体成分を蒸発などにより除去して乾燥させることにより、透明導電体を構築することができる。
【0038】
〔銀ナノインクの分散安定性〕
分散安定性は、銀ナノワイヤインクを作成後、そのインクを収容した容器を静置し、インク作成直後および所定時間経過後に銀ナノワイヤインクを基材に塗布し、乾燥塗膜とし、この乾燥塗膜についてシート抵抗を測定することにより評価することができる。銀ナノワイヤの分散安定性が良好なインクでは、作成直後、4時間後、8時間後のそれぞれのインクを塗布して得たシート抵抗値がほとんど変化せず一定となる。分散安定性の悪いインクでは銀ナノワイヤの沈殿に起因してインクの液中に分散している銀ナノワイヤの濃度が低下し、4時間後、8時間後と経過時間の長いインクで形成した塗膜ほど、シート抵抗値が高くなる。このような分散安定性の悪いインクは、容器内のインクを目視すると8時間後に上澄みが透明になっていることが確認できる。
【0039】
この分散安定性は、透明導電体の製造上極めて重要である。銀ナノワイヤの重要な用途のひとつに透明導電フィルムがある。その製造過程では、透明基材であるPETフィルム上に、コーティング装置によりRoll to Rollで連続的に銀ナノインクがコーティングされ、その連続コーティング時間は長いときは半日にもなる。その間、銀ナノワイヤインクはコーティング装置のインクタンクの中に収容されているが、銀ナノワイヤの分散安定性が悪いと、このインクタンク内で銀ナノワイヤが沈殿・凝集を起こしてしまい、品質の安定したコーティング層を形成することが困難となる。
【実施例】
【0040】
〔実施例1〕
アルコール溶媒としてエチレングリコール、銀化合物として硝酸銀、塩化物として塩化ナトリウム、臭化物として臭化ナトリウム、アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウム、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物、有機保護剤としてビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムナイトレイト(diallyldimethylammonium nitrate)(図14に構造式を示す)のコポリマー(ビニルピロリドン99質量%、ジアリルジメチルアンモニウムナイトレイト1質量%でコポリマー作成、重量平均分子量130,000)を用意した。
【0041】
室温にて、エチレングリコール540g中に、塩化ナトリウム0.041g、臭化ナトリウム0.0072g、水酸化ナトリウム0.0506g、硝酸アルミニウム九水和物0.0416g、ビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムナイトレイトのコポリマー5.24gを添加して溶解させ、溶液Aをとした。これとは別の容器中で、エチレングリコール20g中に硝酸銀を4.25gを添加して溶解させ、溶液Bとした。
この例では、Al/OHモル比(前述)は0.0876、OH/Agモル比(前述)は0.0506となる。
【0042】
溶液Aの全量を常温から115℃まで撹拌しながら昇温したのち、溶液A中に、溶液Bの全量を1分かけて添加した。溶液Bの添加終了後、さらに撹拌状態を維持して115℃で24時間保持した。その後、反応液を室温まで冷却した。冷却後に、反応液にアセトンを反応液の10倍量添加し、10分撹拌後に24時間静置を行った。静置後、濃縮物と上澄みが観察されたため、上澄み部分を、ピペットにて丁寧に除去し、濃縮物を得た。
【0043】
得られた濃縮物に500gの純水を添加し、10分撹拌を行い濃縮物を分散させた後、さらにアセトンを10倍量添加し、さらに撹拌後に24時間静置を行った。静置後、新たに濃縮物と上澄みが観察されたため、上澄み部分を、ピペットにて丁寧に除去を行った。過剰な有機保護剤は良好な導電性を得るためには不要なものであるため、この洗浄操作を必要に応じて1〜20回程度行い、固形分を十分に洗浄した。
【0044】
洗浄後の固形分に純水を加えてこの固形分の分散液を得た。この分散液を分取し、溶媒の純水を観察台上で揮発させたのち高分解能FE−SEM(高分解能電界放出形走査電子顕微鏡)により観察した結果、固形分は銀ナノワイヤであることが確認された。図1に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。SEM観察において、無作為に選んだ5視野について観察される全ての銀ナノワイヤを測定対象とし、前述の定義に従い、平均直径および平均長さを求めた。測定対象のワイヤ総数は100個以上である。なお、直径測定は高分解能SEM倍率150,000倍、長さ測定は高分解能SEM倍率2,500倍で撮影した画像により行った。
その結果、平均直径は45nm、平均長さは15μmであり、平均アスペクト比は15000nm/45nm≒333であった。
【0045】
上記洗浄後の固形分に、純水:イソプロピルアルコールの質量比が8:2である溶媒を添加し、増粘剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを回転粘度計(Thermo scientific社製、HAAKE RheoStress 600、測定コーン:Cone C60/1°Ti (D=60mm)、プレート:Meas. Plate cover MPC60)で50rpmで粘度が35mPasになるように添加してインクを作成した。インク中の銀ナノワイヤ含有量は0.3質量%になるように調整した。この銀ナノワイヤインクを番手No.7のバーコーターで5cm×5cmのサイズのPETフィルム(東レ社製、ルミラーUD03)の表面に塗布し、120℃で1分間乾燥させた。この乾燥塗膜のシート抵抗を、三菱化学アナリテック社製、ロレスタHP MCP−T410により測定した。また、この乾燥塗膜の全光線透過率を、日本電色工業社製、ヘーズメーターNDH 5000により測定した。
その結果、インク作成直後のシート抵抗は46Ω/□、上記全光線透過率は90.9%(PET基材込みの全光線透過率)であった。これらの値は、タッチパネルセンサー用透明導電フィルムの要求特性を十分満たす優れた特性である。
【0046】
その後、上記のインクを容器中に静置したまま、4時間後および8時間後に、当該容器の底から1cm高さ位置に設けた試料採取口からインクを分取し、上記と同様の方法でPETフィルム上に塗布し、乾燥させ、シート抵抗および全光線透過率を測定した。
その結果、4時間経過時シート抵抗は47Ω/□、上記全光線透過率は90.9%であった。また、4時間経過時シート抵抗は43Ω/□、上記全光線透過率は90.7%であった。銀ナノワイヤが、インク中に安定して存在しており、当該銀ナノインクは高い分散安定性を有していることが確認された。
本例の銀ナノワイヤについて、60%硝酸を使用して加熱分解し溶液化した後、ICP発光分光分析法(装置:アジレント・テクノロジー株式会社製 ICP発光分光分析装置720−ES)でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は430ppmであった。
【0047】
〔実施例2〕
銀ナノワイヤの合成において、塩化物として塩化カリウム0.0527g、臭化物として臭化カリウム0.0083g、アルカリ金属水酸化物として水酸化カリウム0.0710gを添加したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.0876、OH/Agモル比は0.0506となる。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は41nm、平均長さは12μmであり、平均アスペクト比は12000nm/41nm≒293であった。
図2に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は440ppmであった。
【0048】
〔実施例3〕
銀ナノワイヤの合成において、塩化物として塩化リチウム0.030g、臭化物として臭化カリウム0.0083g、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.030gを添加したことを除き、実施例1と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.0876、OH/Agモル比は0.0506となる。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は41nm、平均長さは12μmであり、平均アスペクト比は12000nm/41nm≒293であった。
図3に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は530ppmであった。
【0049】
〔実施例4〕
アルコール溶媒としてプロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、銀化合物として硝酸銀、塩化物として塩化リチウム、臭化物として臭化カリウム、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム、硝酸アルミニウムとして硝酸アルミニウム九水和物、有機保護剤としてビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムナイトレイトのコポリマー(ビニルピロリドン99質量%、ジアリルジメチルアンモニウムナイトレイト1質量%でコポリマー作成、重量平均分子量130000)を用意した。
【0050】
室温にて、プロピレングリコール500g中に、塩化リチウム0.030g、臭化カリウム0.00832g、水酸化リチウム0.0075g、硝酸アルミニウム九水和物0.0416g、ビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムナイトレイトのコポリマー5.24gを添加して溶解させ、溶液Aをとした。これとは別の容器中で、プロピレングリコール20g中に硝酸銀を4.25gを添加して溶解させ、溶液Bとした。
この例では、Al/OHモル比は0.0876、OH/Agモル比は0.0127となる。
【0051】
上記以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は48nm、平均長さは30μmであり、平均アスペクト比は30000nm/48nm=625であった。
図4に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は200ppmであった。
【0052】
〔実施例5〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.120g、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物0.4992gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.2628、OH/Agモル比は0.2025となる。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は38nm、平均長さは17μmであり、平均アスペクト比は17000nm/38nm≒447であった。
図5に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は750ppmであった。
【0053】
〔実施例6〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.030g、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物0.1248gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.2628、OH/Agモル比は0.0506となる。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は43nm、平均長さは29μmであり、平均アスペクト比は29000nm/43nm≒674であった。
図6に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は570ppmであった。
【0054】
〔実施例7〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.030gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.0876、OH/Agモル比は0.0506となる。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は31nm、平均長さは15μmであり、平均アスペクト比は15000nm/31nm≒484であった。
図7に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は410ppmであった。
【0055】
〔実施例8〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.0225g、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物0.0052gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.0146、OH/Agモル比は0.0380となる。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は32nm、平均長さは17μmであり、平均アスペクト比は17000nm/32nm≒531であった。
図8に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は300ppmであった。
【0056】
〔実施例9〕
アルコール溶媒として1,3−プロパンジオール、銀化合物として硝酸銀、塩化物として塩化ナトリウム、臭化物として臭化ナトリウム、アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウム、硝酸アルミニウムとして硝酸アルミニウム九水和物、有機保護剤としてビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムナイトレイトのコポリマー(ビニルピロリドン99質量%、ジアリルジメチルアンモニウムナイトレイト1質量%でコポリマー作成、重量平均分子量130000)を用意した。
【0057】
室温にて、1,3−プロパンジオール500g中に、塩化ナトリウム0.0413g、臭化ナトリウム0.0072g、水酸化ナトリウム0.0253g、硝酸アルミニウム九水和物0.0104g、ビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムナイトレイトのコポリマー5.24gを添加して溶解させ、溶液Aをとした。これとは別の容器中で、1,3プロパンジオール20g中に硝酸銀を4.25gを添加して溶解させ、溶液Bとした。
この例では、Al/OHモル比は0.0438、OH/Agモル比は0.0253となる。
【0058】
上記以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は48nm、平均長さは19μmであり、平均アスペクト比は19000nm/48nm≒396であった。
図9に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は370ppmであった。
【0059】
〔実施例10〕
アルコール溶媒としてグリセリン、銀化合物として硝酸銀、塩化物として塩化ナトリウム、臭化物として臭化ナトリウム、アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウム、硝酸アルミニウムとして硝酸アルミニウム九水和物、有機保護剤としてビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムナイトレイトのコポリマー(ビニルピロリドン99質量%、ジアリルジメチルアンモニウムナイトレイト1質量%でコポリマー作成、重量平均分子量130000)を用意した。
【0060】
室温にて、グリセリン610g中に、塩化ナトリウム0.0413g、臭化ナトリウム0.0072g、水酸化ナトリウム0.0380g、硝酸アルミニウム九水和物0.0104g、ビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムナイトレイトのコポリマー5.24gを添加して溶解させ、溶液Aをとした。これとは別の容器中で、グリセリン20g中に硝酸銀を4.25gを添加して溶解させ、溶液Bとした。
この例では、Al/OHモル比は0.0292、OH/Agモル比は0.0380となる。
【0061】
上記以外は、実施例1と同様の条件で実験を行った。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は47nm、平均長さは17μmであり、平均アスペクト比は17000nm/47nm≒362であった。
図10に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は380ppmであった。
【0062】
〔実施例11〕
有機保護剤としてビニルピロリドンとジアリルジメチルアンモニウムクロリド(diallyldimethylammonium chloride)(図15に構造式を示す)のコポリマー(ビニルピロリドン99質量%、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド1質量%でコポリマー作成、重量平均分子量100,000)を用意し、A液の作成において、上記有機保護剤5.24g添加して溶解させたことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.0876、OH/Agモル比は0.0127となる。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められ、その平均直径は40nm、平均長さは13μmであり、平均アスペクト比は13000nm/40nm=325であった。
図11に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は290ppmであった。
【0063】
〔比較例1〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.00188g、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物0.0052gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.1752、OH/Agモル比は0.0032となる。
OH/Agモル比が小さすぎたため、固形分は極めて少量しか得られなかった。銀イオンの還元がほとんど行われていないと推測される。
【0064】
〔比較例2〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.060g、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物0.0052gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.0055、OH/Agモル比は0.1013となる。
SEM観察の結果、銀ナノワイヤの生成が認められた、その平均直径は25nm、平均長さは5μmであり、平均アスペクト比は5000nm/25nm=200であった。Al/OHモル比が小さすぎたため、平均長さが短かった。
図12に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
【0065】
〔比較例3〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.03g、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物0.2496gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.5257、OH/Agモル比は0.0506となる。
Al/OHモル比が大きすぎたため、固形分は極めて少量しか得られなかった。銀イオンの還元がほとんど行われていないと推測される。
【0066】
〔比較例4〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.40g、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物0.4992gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.0789、OH/Agモル比は0.6751となる。
固形物は回収できたが、OH/Agモル比が高すぎたことにより、銀ナノワイヤの発生は確認できず、不定形の固形分が僅かにしか得られなかった。
【0067】
〔比較例5〕
銀ナノワイヤの合成において、アルカリ金属水酸化物として水酸化リチウム0.00188g、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム九水和物0.0104gを添加したことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0.3505、OH/Agモル比は0.0032となる。
比較例1と同様、OH/Agモル比が小さすぎたため、固形分は極めて少量しか得られなかった。銀イオンの還元がほとんど行われていないと推測される。
【0068】
〔比較例6〕
銀ナノワイヤの合成において、水酸化リチウムの添加量を0.00375gとしたこと、およびアルミニウム塩を添加しなかったことを除き、実施例4と同様の条件で実験を行った。
この例では、Al/OHモル比は0(Al無添加)、OH/Agモル比は0.0063となる。
SEM観察の結果、太いロッド状の銀粒子の生成が認められた。その平均直径は160nm、平均長さは11μmであり、平均アスペクト比は11000nm/160nm≒69であった。Al無添加の場合、ここで使用した有機保護剤では、細い銀ナノワイヤの合成ができなかった。図13に、その銀粒子のSEM写真を例示する。
本例の銀ナノワイヤについて、実施例1と同様の方法でAl含有量を調べた結果、金属成分中のAl含有量は40ppmであった。
【0069】
表1に、各例に使用した原料、および結果の一覧を示す。
【0070】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15