(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する。本発明の窒化珪素質焼結体は、(a)Si
6−zAl
zO
zN
8−zと表されるβ-サイアロンを含む粒子を含む。前記(a)の粒子は、β-サイアロンから成るものであってもよいし、α-サイアロンとβ-サイアロンとの両方を含むものであってもよい。
【0014】
β-サイアロンはβ窒化珪素の固溶体である。β-サイアロンにおいて、焼結の際に液相が生成し、高温において固溶が進行する。サイアロン化させることで加工性が向上する。固溶が進みすぎると粒界相が極端に少なくなってしまい、機械的特性が低下する。粒界相を残存させながら、サイアロン化させることで、加工性と機械的特性とが向上する。
【0015】
前記(a)における固溶量z値は0.1以上1.0以下である。この範囲内であることにより、窒化珪素質焼結体の強度が一層高くなる。z値は、窒化珪素質焼結体の製造に用いる原料中のAl量により調整することができる。すなわち、原料中のAl量を多くするほど、z値は高くなり、原料中のAl量を少なくするほど、z値は低くなる。
【0016】
ただし、Al量を決めれば一概にz値が決まるわけではなく、粒界相内の希土類元素、Al、Ca、O、Nの組成、粒界相量、焼成条件によっても、固溶量z値は変化する。Al成分として、Al2O3を用いるよりもAlNを用いたほうが、z値が高くなる傾向はある。
【0017】
前記(a)の長径における平均粒径は3μm以下である。平均粒径が3μm以下であることにより、窒化珪素質焼結体の焼成後における冷却時に、結晶粒子間に隙間が生じにくい。その結果、窒化珪素質焼結体の摺動表面において剥離が生じにくくなる。前記(a)の長径における平均粒径は、1μm以下であることが好ましい。この場合、結晶粒子間の隙間が一層生じにくく、その結果、摺動表面における剥離が一層生じにくい。
【0018】
前記(a)の長径における最大粒径は30μm以下である。最大粒径が30μm以下であることにより、窒化珪素質焼結体の焼成後における冷却時に、結晶粒子間に隙間が生じにくい。その結果、窒化珪素質焼結体の摺動表面において剥離が生じにくい。
【0019】
前記(a)のアスペクト比は5以下である。アスペクト比が5以下であることにより、窒化珪素質焼結体の焼成後における冷却時に、結晶粒子間に隙間が生じにくい。その結果、窒化珪素質焼結体の摺動表面において剥離が生じにくい。
【0020】
前記(a)のアスペクト比は3以下であることが好ましい。この場合、上記の隙間が一層生じにくく、摺動表面における剥離が一層生じにくい。
本発明の窒化珪素質焼結体は、(b)希土類元素、Al、及びCaを含む粒界相を含む。前記(b)の粒界相は、希土類元素及びAlを含むことにより、窒化珪素質焼結体の焼結時に、前記(a)の粒子の粒成長を効果的に抑制することができる。
【0021】
このことにより、前記(a)の粒子の粒径をより小さく、より等軸状にする(アスペクト比を小さくする)ことができる。そして、前記(a)の粒子の長径における平均粒径が3μm以下、前記(a)の粒子の長径における最大粒径が30μm以下、かつ前記(a)の粒子のアスペクト比が5以下という条件を容易に満足させることができる。
【0022】
その結果、前記(a)の粒子と前記(b)の粒界相との間におけるマイクロポアの生成を抑制すると共に、生成するマイクロポアの集合体の大きさをより小さくすることができ、マイクロポアの集合体の直径が100μm以下という条件を容易に満足させることができる。そして、窒化珪素質焼結体の機械的特性を向上させることができ、例えば、窒化珪素質焼結体をベアリング用転動体等に用いた場合には、剥離が生じにくくなり、転がり寿命特性を向上させることができる。
【0023】
さらに、前記(a)β-サイアロン粒子を含み、前記(b)の粒界相が希土類元素及びAlに加えてCaを含むことで、加工性をさらに向上させることができる。さらに、上記のように前記(a)の粒子の粒径やアスペクト比を小さくすることにより、加工性を維持しながら、焼結体の機械的特性を向上させることができ、例えばベアリング用転動体等に加工する場合に、加工を短時間で精度よく行うことができ、転がり寿命特性も向上する。
【0024】
前記(b)の粒界相はCaを含む。窒化珪素質焼結体におけるCa量は、100ppm以上、2000ppm以下の範囲が好ましい。100ppm以上である場合、窒化珪素質焼結体の加工性が一層向上する。また、2000ppm以下である場合、窒化珪素質焼結体においてマイクロポアが生じにくく、窒化珪素質焼結体の機械的特性が一層向上する。
【0025】
前記(b)の粒界相に含まれる希土類元素は、焼結助剤として機能する。希土類元素としては、例えば、La、Y、Ce、Nd、Sm、Gd、Dy、Ho、Er、Yb、Lu等が挙げられる。このうち、La、Yは、安価であって入手しやすいため、希土類元素としてLa、Yを用いれば、窒化珪素質焼結体の製造コストを低減することができる。前記(b)は、2種以上の希土類元素を含んでいてもよい。
【0026】
また、La、Yを用いる場合、窒化珪素質焼結体を一層緻密化することができ、低温焼成が可能となる。そのため、窒化珪素質焼結体の製造コストを低減することができると共に、前記(a)の粒子の形状を等軸化(低アスペクト化)し、マイクロポアの生成を抑制することができる。
【0027】
前記(b)がLaを含むことが好ましい。前記(b)がLaを含む場合、窒化珪素質焼結体の表面を研磨したとき、表面の平滑度が高くなる。この理由は以下のように推定できる。前記(b)がLaを含むと、希土類としてY等のみを含む場合に比べて、α−サイアロンが生成しにくく、β−サイアロンが生成し易い。そのことにより、粒界相量を確保することができ、結晶粒子間の隙間を埋めることができる。その結果、マイクロポアが少なくなり、窒化珪素質焼結体の表面における平滑度が高くなる。
【0028】
前記(b)がLaを含む窒化珪素質焼結体を例えば転動体として用いた場合、音響特性が良好になる。音響特性が良好であるとは、転動体の使用中において異音の発生が抑制されることを意味する。音響特性が良好になる理由は、窒化珪素質焼結体の表面における平滑度が高いためであると推定できる。
【0029】
前記(b)の粒界相は、ガラス相を含んでいてもよい。
前記(b)の粒界相が占める面積の比率は1%以上であることが好ましい。この場合、機械的特性が向上する。
【0030】
前記(b)の粒界相が占める面積の比率は30%以下であることが好ましい。この場合、窒化珪素質焼結体の強度が一層向上する。
本発明の窒化珪素質焼結体は、(c)Ti、Zr、Hf、W、Mo、Ta、Nb、V、Crからなる群から選択される1種類以上の元素を含む粒子、及び/又は、SiCを含む粒子を含む。前記(c)の粒子は、窒化珪素質焼結体の焼結時における前記(a)の粒子の粒成長を、ピン止め効果によって抑制する。
【0031】
前記(c)の粒子の平均粒径は3μm以下である。そのため、前記(a)の粒子の粒成長を抑制するという前述の効果が一層高い。また、前記(c)の粒子の平均粒径が3μm以下であることにより、窒化珪素質焼結体を例えばベアリン用転動体等に加工する際に、研削速度を増加させても粗大な傷がつきにくく、剥離が生じにくくなる。これにより、窒化珪素質焼結体の加工性を向上させることができる。前記(c)の粒子の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。この場合、上述した効果が一層著しい。
【0032】
前記(c)の粒子のうち、W系化合物(例えばWO
3、WSi
2等)の粒子、SiCの粒子が一層好ましい。これらの場合、一層微細な前記(c)の粒子を得ることができる。
本発明の窒化珪素質焼結体において、マイクロポアの集合体の直径は100μm以下である。マイクロポアの集合体の直径が100μm以下であることにより、窒化珪素質焼結体の耐剥離性、耐摩耗性、転がり寿命特性が高い。マイクロポアの集合体の直径は、20μm以下であることがより好ましい。この場合、耐剥離性、耐摩耗性、転がり寿命特性が一層高い。
【0033】
ここで、マイクロポアとは、焼成時に生成する結晶粒子と粒界相との隙間を意味する。また、本発明におけるマイクロポアの集合体の直径とは、最終的に製品の表面となる部分(特に他の部材と摺動する面、他の部材と接する面等)において測定した場合のマイクロポアの集合体の直径のことである。
【0034】
例えば、焼成後に、表面から所定の深さ(例えば、200μm以上、500μm以下)まで研磨して製品とするのであれば、研磨後の表面においてマイクロポアの集合体の直径を測定し、焼成後に研磨をしないのであれば、焼成後の表面においてマイクロポアの集合体の直径を測定する。マイクロポアの集合体の直径の測定は、例えば、表面を鏡面研磨した後、光学顕微鏡にて観察することによって行う。
【0035】
前記(a)の粒子が針状形状である場合、前記(a)の粒子のアスペクト比が大きく粒径が大きいほど、粒子が3次元的にからみあい、焼成時に隙間(マイクロポア)が多くなってしまう。マイクロポアが多くなると、それらは偏析し、マイクロポアの集合体として存在する。マイクロポアの集合体の直径が大きいと、窒化珪素質焼結体の加工時に傷、剥離が生じやすくなり、加工性が低下する。また、例えば、窒化珪素質焼結体をベアリング用転動体とした場合、マイクロポアの集合体の直径が大きいと、転がり疲労による剥離が生じやすくなり、転がり寿命特性が低下する。また、サイアロン粒子を含む窒化珪素質焼結体を切削工具、摺動部材、耐摩耗部材等として用いた場合、マイクロポアの集合体の直径が大きいと、寿命特性(耐欠損性、耐剥離性)が低下する。
【0036】
窒化珪素質焼結体は、不純物として、原料あるいは製造工程内から入ってくるFe及び/又はMgを含んでいてもよい。窒化珪素質焼結体におけるFeの濃度は、例えば200ppm以下とすることができる。この範囲内である場合、窒化珪素焼結体の機械的特性が向上する。窒化珪素焼結体におけるMgの濃度は、例えば2000ppm以下とすることができる。この範囲内である場合、窒化珪素焼結体においてマイクロポアが生じにくく、窒化珪素質焼結体の機械的特性が向上する。
【0037】
本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法では、少なくとも、(A)不純物としてCaを含むα率が70%以上の窒化珪素と、(B)希土類酸化物及び希土類水酸化物の少なくとも一方と、(C)酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムの少なくとも一方と、(D)Ti、Zr、Hf、W、Mo、Ta、Nb、V、Crからなる群から選択される1種以上の元素の窒化物、炭化物、珪化物、及び酸化物のうちの1種類以上からなる平均粒径1μm以下の粉末、及び/又は、SiCからなる平均粒径1μm以下の粉末と、を原料とする。原料は、前記(A)〜(D)のみであってもよいし、さらに他のものを含んでいてもよい。
【0038】
前記(A)の窒化珪素におけるα率は70%以上であり、好ましくは90%以上である。α率が70%以上であることにより、窒化珪素質焼結体が緻密化し、強度が向上する。ここで、「α率」とは、窒化珪素全体に対するα-窒化珪素の割合である。
【0039】
前記(A)の窒化珪素は、不純物として少なくともCaを含む。前記(A)の窒化珪素におけるCaの濃度は、50ppm以上、2000ppm以下の範囲が好ましい。50ppm以上である場合、窒化珪素質焼結体の加工性が一層向上する。また、2000ppm以下である場合、窒化珪素質焼結体においてマイクロポアが生じにくく、窒化珪素質焼結体の機械的特性が一層向上する。
【0040】
前記(A)の窒化珪素は、さらに、例えば不純物として、Fe及び/又はMgを含んでいてもよい。前記(A)の窒化珪素におけるFeの濃度は、例えば、200ppm以下とすることができる。この範囲内である場合、窒化珪素焼結体の機械的特性が向上する。
【0041】
また、前記(A)の窒化珪素におけるMgの濃度は、例えば2000ppm以下とすることができる。この範囲内である場合、窒化珪素焼結体においてマイクロポアが生じにくく、窒化珪素質焼結体の機械的特性が向上する。
【0042】
前記(A)の窒化珪素としては、平均粒径が1.5μm以下(すなわち、0μmより大きく、1.5μm以下)の粉末が好ましい。平均粒径が1.5μm以下である場合、窒化珪素質焼結体が緻密化し、強度が高くなる。また、マイクロポアの集合体が小さくなる。
【0043】
全原料に対する前記(A)の窒化珪素の重量比は、70重量%以上、90重量%以下の範囲が好ましい。この範囲内である場合、窒化珪素質焼結体が奏する前述の効果(加工性、転がり寿命)が一層顕著になる。なお、前記(A)におけるα-窒化珪素は、焼成の際に大部分がβ-サイアロンに変化する。このとき、完全にβ-サイアロンに変化してもよいし、α-サイアロンあるいはα-窒化珪素が一部残ってもよい。
【0044】
前記(B)及び前記(C)は、例えば、焼結助剤として機能する。前記(B)が酸化ランタン又は水酸化ランタンを含むことが好ましい。前記(B)が酸化ランタン又は水酸化ランタンを含む場合、製造された窒化珪素質焼結体の表面を研磨したとき、表面の平滑度が高くなる。この理由は以下のように推定できる。前記(B)が酸化ランタン又は水酸化ランタンを含むと、粒界相がLaを含む。粒界相がLaを含むと、希土類としてY等のみを含む場合に比べて、α−サイアロンが生成しにくく、β−サイアロンが生成し易い。そのことにより、粒界相量を確保することができ、結晶粒子間の隙間を埋めることができる。その結果、マイクロポアが少なくなり、製造された窒化珪素質焼結体の表面における平滑度が高くなる。
【0045】
前記(B)が酸化ランタン又は水酸化ランタンを含む場合、製造した窒化珪素質焼結体を例えば転動体として用いると、音響特性が良好になる。音響特性が良好になる理由は、製造した窒化珪素質焼結体の表面における平滑度が高いためであると推定できる。
【0046】
また、前記(C)は前記(a)及び前記(b)にアルミを供給するアルミ源として機能する。全原料に対する前記(B)の重量比は、3重量%以上、15重量%以下の範囲が好ましい。この範囲内である場合、窒化珪素質焼結体が奏する前述の効果が一層顕著になる。また、前記(B)の重量比が3重量%以上の場合は、窒化珪素質焼結体が一層緻密化し、強度が一層向上する。また、前記(B)の重量比が15重量%以下である場合は、粒界相が過量となりにくく、窒化珪素質焼結体の強度が一層向上する。
【0047】
全原料に対する前記(C)の重量比は、3重量%以上、25重量%以下の範囲が好ましい。この範囲内である場合、窒化珪素質焼結体が奏する前述の効果が一層顕著になる。また、前記(C)の重量比が3重量%以上の場合、窒化珪素質焼結体が一層緻密化し、強度が一層向上する。また、前記(C)の重量比が25重量%以下である場合、粒界相が過量となりにくく、窒化珪素質焼結体の強度が一層向上する。
【0048】
全原料に対する酸化アルミニウムの重量比は、3重量%以上、15重量%以下の範囲が好ましい。この範囲内である場合、窒化珪素質焼結体が奏する前述の効果が一層顕著になる。また、全原料に対する窒化アルミニウムの重量比は、0重量%以上、10重量%以下の範囲が好ましい。この範囲内である場合、窒化珪素質焼結体が奏する前述の効果が一層顕著になる。
【0049】
前記(C)として、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの両方を含むことが好ましい。この場合、窒化珪素質焼結体が一層緻密化し強度が一層向上するとともに、β-サイアロンの固溶量が増加し、加工性が向上する。ただし、固溶が進みすぎると粒界相が極端に少なくなってしまい、機械的特性が低下する。粒界相を残存させながら、サイアロン化させることで、加工性と機械的特性とが向上する。そのためにも、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの量と比を調整し、焼成条件も制御することが好ましい。
【0050】
前記(D)は、例えば、焼結性向上、高強度化、マイクロポア抑制、色むら防止等の効果を奏する。全原料に対する前記(D)の重量比は、5重量%以下の範囲が好ましく、3重量%以下の範囲がさらに好ましい。この範囲内である場合、窒化珪素質焼結体が奏する前述の効果が一層顕著になる。
【0051】
本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法において、全原料から前記(A)及び(D)を除いた残りの重量は、全原料の重量の6重量%以上、30重量%以下の範囲となる。このことにより、製造した窒化珪素質焼結体が奏する前述した効果が一層顕著になる。
【0052】
本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法において、原料の混合には、公知の混合方法を適宜選択して用いることができ、例えば、ボールミル等の方法を用いることができる。また、前記成形体は、例えば、金型成形、鋳込み成形、ラバー成形、射出成形、押出し成形、シート成形等の方法を用いて作製することができる。
【0053】
前記成形体の焼成は、例えば、常圧焼成、ガス圧焼成、熱間静水圧プレス(HIP)焼成、ホットプレス焼成等により行うことができる。安価な焼成方法として常圧焼成が好ましいが、常圧焼成で焼成した後に10MPa以下の圧力でガス圧焼成してもよい。特に10MPa以下の圧力でのガス圧焼成であれば、10MPa以上のHIP焼成よりも処理量が増加するため、HIP焼成より安価になることから有用である。焼成温度は、1500℃以上、1800℃以下とすることができる。焼成は、窒素を含む圧力1MPa以上の非酸化雰囲気で行われる。
【0054】
最高温度のときに加える雰囲気圧力は、5MPa以上、150MPa以下の範囲が好ましい。特に、5MPa以上、10MPa以下の範囲であると、製造コストも低減できるので一層好ましい。
【0055】
焼成後、雰囲気圧力を下げないように制御しながら、降温する。降温速度は、500℃/h以下(好ましくは20℃/h以上、300℃/h以下の範囲)が好ましい。この範囲内である場合、β-サイアロンの固溶量が安定するため、加工性や機械的特性が向上するとともに、マイクロポアの生成を抑制することができる。
【0056】
また、降温時に加える雰囲気圧力は、最高温度時の雰囲気圧力を維持することが好ましい。通常、降温時には、温度低下とともに、雰囲気圧力が低下する。そのため、降温時にガスを炉内に流入させ、雰囲気圧力を下げないように制御する。このとき、マイクロポアの生成を抑制することができる。
【0057】
また、降温後、一定の圧力及び温度において保持することができる。この保持における温度は、1100℃以上、1500℃以下の範囲が好ましい。この範囲内であることにより、β-サイアロンの固溶量が安定するため、加工性や機械的特性が向上するとともに、マイクロポアの生成を抑制することができる。また、上記の保持における圧力は、5MPa以上、150MPa以下の範囲が好ましい。この範囲内であることにより、マイクロポアの生成を抑制することができる。また、保持時間は、1hr以上、24hr以下が好ましい。この範囲内であることにより、β-サイアロンの固溶量が安定するため、加工性や機械的特性が向上するとともに、マイクロポアの生成を抑制することができる。
【0058】
本発明の窒化珪素質焼結体は、ベアリングボール(ベアリング用転動体)、ピストンリング、ローラー、切削工具等、様々な用途に用いることができる。
(実施例)
1.窒化珪素質焼結体の製造
以下の(A)〜(D)の原料を、表1に示す配合比に従って配合し、ボールミル等で粉砕混合して、混合粉末を作製した。ここでは、試料1〜試料28の28種類の混合粉末を作製した。
【0059】
(A)不純物としてCa、Feを含む、α率が92%である窒化珪素(表1では「Si
3N
4」と表示)
(B) 水酸化ランタン又は酸化イットリウム(表1では「希土類」と表示)
(C−1)酸化アルミニウム(表1では「Al
2O
3」と表示)
(C−2)窒化アルミニウム(表1では「AlN」と表示)
(D)WO
3、WSi
2、SiCのうちのいずれか(表1では「その他」と表示)
【0060】
【表1】
表1において、(A)〜(D)の配合比の単位は重量%(Wt%)である。前記(A)は不純物としてCaとFeを含む。
【0061】
また、「希土類」と表示されている(B)の種類は、試料1〜試料21では、平均粒径1μm以下のY
2O
3であり、試料22〜28では、平均粒径1μm以下のLa(OH)
3である。
【0062】
また、「その他」と表示されている(D)の種類は、試料2〜試料10、試料15〜試料28では、平均粒径1μm以下のWO
3であり、試料11では、平均粒径1μm以下のWO
3及び平均粒径1μm以下のSiCであり、試料12、試料13では、平均粒径1μm以下のWSi
2である。試料1、試料14では、(D)は配合されていない。(B)及び(C)は焼結助剤である。
【0063】
次に、試料1〜試料28のそれぞれについて、全原料を30MPaの成形圧力でプレス成形した後、150MPaの静水圧力(CIP)で成形し、球状の成形体を作製した。
次に、表2に示す焼成条件(温度、時間、気圧)で成形体を焼成し、Φ10mmのサイアロン粒子を含む窒化珪素質焼結体を作製した。
【0064】
【表2】
なお、成形体の焼成は、窒素雰囲気の炉内で行った。また、成形体の焼成は、1次焼成と2次焼成とを順次行った。
【0065】
1次焼成と2次焼成の条件は上記表2に示すものである。表2の「一次焼成」及び「二次焼成」における「(イ)℃×(ロ)hr×(ハ)MPa」は、(イ)℃の温度、(ハ)MPaの圧力において、(ロ)hr焼成を行ったことを意味する。
【0066】
焼成後、表2に示す「二次焼成後降温条件」により、試料の温度を1300℃まで降温した。「二次焼成後降温条件」における「(ニ)℃/h×8MPa」は、炉内の窒素圧力を8MPaに保持しながら、(ニ)℃/hの速度で降温することを意味する。また、「(ニ)℃/h×圧力保持無し」は、炉内の窒素圧力を一定に保持することなく、(ニ)℃/hの速度で降温することを意味する。なお、圧力を一定に保持しない場合、炉内の窒素圧力は温度低下とともに降圧する。
【0067】
1300℃まで降温後、上記表2に示す「降温後保持条件」により、試料を保持した。「降温後保持条件」における「1300℃×2hr×8MPa」は、1300℃の温度、8MPaの圧力において、2hr保持を行ったことを意味する。2hrの保持が終了すると、炉冷(何もせず冷却)した。炉冷のとき、炉内の窒素圧力も、温度とともに降圧した。
【0068】
また、表2の「降温後保持条件」における「なし」は、1300℃まで降温後、一定温度での保持を行わず、炉冷したことを意味する。炉冷のとき、炉内の窒素圧力も、温度とともに降圧した。
【0069】
2.窒化珪素質焼結体の評価
(2−1)Ca、Fe量の同定
窒化珪素質焼結体におけるCaの濃度とFeの濃度は表3に示すとおりである。Caの濃度とFeの濃度は、ICP発光分析の方法で測定した値である。なお、表3において、窒化珪素質焼結体含まれるCaの濃度は「含有Ca」と表示し、Feの濃度は「含有Fe」と表示している。
【0070】
【表3】
(2−2)結晶相の同定
試料1〜試料28の窒化珪素質焼結体について、結晶相の同定をX線回折法により行った。その分析の結果、全ての試料について、Si
6−zAl
zO
zN
8−zと表されるβ-サイアロンの結晶相のピークが認められた。このことから、試料1〜試料28の窒化珪素質焼結体が前記(a)の粒子を含むことが確認できた。
【0071】
試料3、試料10、試料20、試料21については、β―サイアロンの結晶相のピークと、α−サイアロンの結晶相のピークとが認められた。その他の試料については、β―サイアロンの結晶相のピークは認められたが、α−サイアロンの結晶相のピークは認められなかった。
【0072】
表4における「サイアロン相」の列に、各試料において認められた結晶相のピークを示す。表4において、「β」は、β―サイアロンの結晶相のピークは認められたが、α−サイアロンの結晶相のピークは認められなかったことを意味し、「α/β」は、β―サイアロンの結晶相のピークと、α−サイアロンの結晶相のピークとが認められたことを意味する。
【0073】
【表4】
また、分析の結果から、Si
6−zAl
zO
zN
8−zと表されるβ-サイアロンにおけるz値を求めた。求めたz値を表3に示す。なお、z値は、X線回折測定により測定されるサイアロン相中のβ-サイアロンのa軸格子定数と、β-窒化珪素のa軸格子定数(7.60442Å)との差から、以下の算出式により算出されるものである。算出式:z=(a−7.60442)/0.03。
【0074】
また、試料4、5、7、18〜20では、WSi
2及びW
5Si
3の結晶相のピークが認められ、試料11では、WSi
2及びW
5Si
3とSiCとの結晶相のピークが認められ、試料2、3、9、12、13、21では、WSi
2の結晶相のピークが認められ、試料6、8、10、15、16、22、23では、W
2Cの結晶相のピークが認められた。また、試料24〜28ではW
2Cの結晶相のピークが認められた。
【0075】
このことから、試料2〜試料13、試料15〜試料28の窒化珪素質焼結体が前記(c)の粒子を含むことが確認できた。
(2−3)相対密度、3点曲げ強度、破壊靱性の評価
試料1〜試料28の窒化珪素質焼結体について、相対密度、3点曲げ強度、破壊靱性を評価した。窒化珪素質焼結体の相対密度は、まず、アルキメデス法により、窒化珪素質焼結体の密度を測定し、次に、測定した密度を相対密度に換算する方法で算出した。
【0076】
ここで、100%密度とは、原料の密度と重量%から換算した値を用いている。従って、あくまで緻密度を判断する参照値であり、99.0%の相対密度であっても、1%の空隙があるという意味ではない。
【0077】
また、3点曲げ強度は、JIS−R1601に準拠して、3×4×40mmの試験片を用い、30mmスパンにて測定した。また、破壊靱性は、ASTM F2094−06に準拠して、ビッカース圧子を用い、圧入荷重20kgf、保持時間30秒の条件で測定を行い、新原の式を用いて計算した。評価結果を上記表3に示す。
【0078】
なお、表3において、3点曲げ強度を「強度」と表示し、破壊靱性を「靭性」と表示している。
(2−4)平均粒径、最大粒径、アスペクト比の測定
試料1〜試料28の窒化珪素質焼結体について、前記(a)の粒子の長径における平均粒径、前記(a)の粒子のアスペクト比、前記(a)の粒子の長径における最大粒径、前記(c)の粒子の平均粒径を測定した。
【0079】
前記(a)の粒子の長径における平均粒径は、以下のように測定した。まず、窒化珪素質焼結体の表面を250μmの深さまで研削し、鏡面研磨を行った。次に、鏡面研磨を行った表面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察し、100個の前記(a)の粒子についてそれぞれ長径を測定した。それらの平均値を、前記(a)の粒子の長径における平均粒径とした。
【0080】
また、前記(a)の粒子の長径における最大粒径は、以下のように測定した。まず、前記のように鏡面研磨を行った表面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて、倍率1000倍にて10視野観察し、その中での長径の最大値を、前記(a)の粒子の長径における最大粒径とした。
【0081】
また、前記(a)の粒子のアスペクト比は、上と同様に、100個の前記(a)の粒子において長径及び短径を測定して各粒子のアスペクト比を導き出し、それらの平均値をとることで算出した。
【0082】
また、前記(c)の粒子の平均粒径は、窒化珪素質焼結体をTEM(透過型電子顕微鏡)又はSEMにて観察し、前記(c)の粒子の粒径を30個測定し、それらの平均値をとることで算出した。
【0083】
測定結果を上記表3に示す。なお、表3において、前記(a)の粒子の長径における平均粒径を「長径平均」と表示し、前記(a)の粒子のアスペクト比を「アスペクト比」と表示し、前記(a)の粒子の長径における最大粒径を「最大粒径」と表示し、前記(c)の平均粒径を「(c)の平均粒径」と表示している。
【0084】
(2−5)マイクロポアの集合体、及び粒界相の分析
試料1〜試料28の窒化珪素質焼結体について、試料の表面を250μmの深さまで研削し、鏡面研磨を行った。鏡面研磨を行った試料表面を、倍率20倍以上、300倍以下の条件で光学顕微鏡にて観察すると、白い樹枝状模様(マイクロポアの集合体)が見られた。この白い樹枝状模様は、SEM又はTEMにおいては粒界の隙間(欠落)として観察される。このマイクロポアの集合体の直径を30個測定し、その平均値を、マイクロポアの集合体の直径とした。その結果を上記表4に示す。試料5、試料7、試料11においてはマイクロポアの集合体が見られなかった。
【0085】
また、上記のように鏡面研磨を行った試料表面を、倍率5000倍の条件で、SEMによって観察した。そして、試料表面における全体の面積に対し粒界相の面積が占める比率を、粒界相が占める面積の比率とした。粒界相が占める面積の比率を上記表4に示す。
【0086】
また、X線回折により、試料1〜試料28における粒界相が、希土類元素、Al、及びCaを含むことを確認した。粒界相が含む希土類元素は、試料1〜21ではYであり、試料22〜28ではLaであった。
【0087】
(2−6)加工性、転がり寿命の評価
試料1〜試料28の窒化珪素質焼結体について、加工性を以下のように評価した。まず、窒化珪素質焼結体の表面を250μmの深さまで研削し、次に、定盤砥石(番手:#80)を用いて、一定荷重で湿式機械研削した。そのときの10分間の加工における研削量を測定した。
【0088】
研削量が200μm以上であれば、加工性を「〇」と評価し、研削量が100μm以上、200μm以下であれば、加工性を「△」と評価し、研削量が100μm未満であるか、研削途中に剥離が生じた場合は、加工性を「×」と評価した。評価結果を上記表4に示す。
【0089】
また、試料1〜試料28の窒化珪素質焼結体について、転がり寿命(ボールとしての転がり疲労寿命)を、スラスト型試験で評価した。具体的には、窒化珪素質焼結体をスラスト試験用平板形状に鏡面研磨加工し、その上に保持器と軸受用の玉3個(軸受鋼SUJ2製、直径9.525mm)とを組み合わせ、油中で1000rpm、300kgfの条件で評価を行った。
【0090】
1000時間以上で剥離が見られた場合は、転がり寿命を「○」と評価し、300時間以上1000時間未満で剥離が見られた場合は、転がり寿命を「△」と評価し、300時間未満で剥離が見られた場合は、転がり寿命を「×」と評価した。評価結果を上記表4に示す。
【0091】
表4の評価結果からわかるように、試料3〜8、試料10〜12、試料15〜20、試料22〜28では、加工性及び転がり寿命の評価がいずれも「△」以上であった。
(2−7)音響特性の評価
試料3〜8、試料10〜12、試料15〜17、試料20、試料22〜28の窒化珪素質焼結体について、音響特性を以下のように評価した。まず、窒化珪素質焼結体を用いてベアリングボールを作成し、その表面を研磨した。ベアリングボールはベアリング用転動体に対応する。次に、金属製の外輪と金属製の内輪との間にベアリングボールを配置し、ベアリングを構成した。その外輪にマイクロホン(ピックアップセンサ)を取り付け、外輪を固定した。次に、内輪を10000rpmで回転させ、発生した音をマイクロホンで検出した。
【0092】
マイクロホンの出力が20dB未満であれば、窒化珪素質焼結体の音響特性を「◎」と評価し、20dB以上25dB未満であれば「○」と評価し、25dB以上30dB未満であれば「△」と評価し、30dB以上であれば「×」と評価した。評価結果を上記表4に示す。希土類としてLaを含む窒化珪素質焼結体の音響特性が特に優れていた。
【0093】
なお、本発明は、前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。