特許第6321634号(P6321634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6321634光第二高調波発生化合物、光第二高調波発生色素組成物及び細胞検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321634
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】光第二高調波発生化合物、光第二高調波発生色素組成物及び細胞検査方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 44/12 20060101AFI20180423BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20180423BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   C09B44/12CLA
   C09B44/12CSP
   G01N21/64 F
   C12Q1/04
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-518307(P2015-518307)
(86)(22)【出願日】2014年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2014063754
(87)【国際公開番号】WO2014189145
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2017年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2013-109179(P2013-109179)
(32)【優先日】2013年5月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】塗谷 睦生
(72)【発明者】
【氏名】安井 正人
(72)【発明者】
【氏名】新井 達郎
(72)【発明者】
【氏名】百武 篤也
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 瞬
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−137549(JP,A)
【文献】 特開2005−029726(JP,A)
【文献】 特開昭64−070452(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/034623(WO,A1)
【文献】 特開2001−316231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 44/12
C12Q 1/04
G01N 21/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアゾベンゼン系誘導体又はその塩である光第二高調波発生化合物。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数6〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、RからR18は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、アルキル基、アルコシキ基、アリール基、アミノ基、水酸基、ニトロ基、シアノ基から選択されるいずれかの置換基を示すが、RとR、RとR10、R13とR14、R17とR18とは、一緒になって炭素数5〜7の環構造をとってもよい。Xは、−N192021を示す。ここで、R19、R20、R21はそれぞれ独立に炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。ただし、aは0、bは0、nは1〜10の整数である。)
【請求項2】
少なくとも請求項記載の化合物を含有する光第二高調波発生色素組成物。
【請求項3】
細胞膜近傍の色素により生じる第二高調波を利用した細胞の検査方法であって、請求項記載の光第二高調波発生色素組成物を検査対象の細胞に導入する色素導入工程と、前記細胞に導入された光第二高調波発生化合物から放出される第二高調波を検出する第二高調波検出工程とを有する細胞検査方法。
【請求項4】
前記色素導入工程後、前記第二高調波検出工程前に、前記細胞の細胞膜の膜電位変化を誘発する細胞刺激工程を有する請求項記載の細胞検査方法。
【請求項5】
前記第二高調波検出工程において、第二高調波の検出を経時的に行う請求項記載の細胞検査方法。
【請求項6】
前記細胞が神経細胞である請求項いずれか1項記載の細胞検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な光第二高調波発生化合物、光第二高調波発生色素組成物及びそれを用いた細胞検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳機能の理解のためには、まず、その生理機能を観察する必要がある。脳の高次機能を支える神経細胞の情報処理は細胞膜の電位の変化として行われることから、パッチクランプ法の開発以来、細胞膜電位の測定が主としてこれらの電気生理学的手法を用いて行われてきた。
【0003】
脳組織は多数の神経細胞やグリア細胞が複雑に入り組んだネットワークにより形成され、更に各細胞は非常に複雑な構造をしているため、電気生理学的手法による観察には制約があった。例えば、情報処理の鍵を握ると考えられるスパインやそれを支える細部樹状突起の多くは直径が1ミクロンにも満たない非常に微細な構造をしているため、これらに対してはガラス電極の大きさが問題となり、上記電気生理学的手で観察を行うには適していない。
【0004】
そのため、電気生理学的手法に換えて光学的手法を用いた膜電位の測定や可視化が試みられている(特許文献1〜5)。これまでに電位感受性色素や緑色蛍光タンパク質(GFP)からの蛍光観測を基盤としたイメージング法が多く開発されたが、これらには時間分解能と定量性という二つの大きな問題があった。これらの問題を克服し得るものとして、光第二次高調波発生(Second Harmonic Generation;SHG)イメージングの利用が提案されている(特許文献4、5)。
【0005】
SHGは、二つの光子が中心対称性を欠いて存在する物質と相互作用した後、入射光と同じ方向に進み二倍のエネルギーを持つ一つの光子へと変換される二光子現象である。SHGを利用した観察は、二光子顕微鏡の組織透過性の高い近赤外光を利用することができるため、組織深部の観察に適している。また、蛍光色素を利用した観察において色素が一つの又は二つの光子を吸収して励起され、緩和の後基底状態に戻る際に発する蛍光を利用する場合、原理的に定量的な測定は不可能なのに対し、このSHGイメージングによれば、細胞の形態に依存しない膜電位感受性とそれによる膜電位の定量的な可視化が可能である。また、色素の励起に起因する生体組織へのダメージを防止することができることも利点の一つである。
【0006】
神経細胞に細胞外から、蛍光用の色素として知られるFM4−64を導入しそこにフェムト秒レーザーを当てると、蛍光(TPF)シグナルに加えて非常に強いSHGシグナルが透過光経路の検出器により検出される(特許文献4)。この方法を採用することにより、遠位樹状突起やスパインのような微細構造も観察することができるようになった。更に、膜電位固定法により細胞体の膜電位を変化させると、それに応じてSHGのシグナルが忠実に変化する事も確かめられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−122326号公報
【特許文献2】特開平09−005243号公報
【特許文献3】特表平11−508355号公報
【特許文献4】特開2004−212132号公報
【特許文献5】特表2012−14066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在のところ、SHGイメージングに適用できる色素としては上記のFM4−64を用いたものが最も一般的であるが、この色素は蛍光用として開発されたものであるため、SHGシグナルのみならず蛍光までも同時に発してしまい、生体組織にダメージを与えるという問題を有している。そのため、観察の際、SHGシグナルを発するが、TPFシグナルは抑えられて微弱かあるいは発生しない化合物が求められていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、細胞膜に効果的に作用し、SHGシグナルを発するが、TPFシグナルの発生は抑えられた化合物及びそれを用いた細胞検査方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定の化学構造を有す化合物が、細胞膜に効果的に作用し、SHGシグナルを発するがTPFシグナルは抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第一の態様は、式(1)で表されるアゾベンゼン系誘導体又はその塩である光第二高調波発生化合物である。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数6〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、RからR18は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、アルキル基、アルコシキ基、アリール基、アミノ基、水酸基、ニトロ基、シアノ基から選択されるいずれかの置換基を示すが、RとR、RとR10、R13とR14、R17とR18とは、一緒になって炭素数5〜7の環構造をとってもよい。Xは、−N192021、スルホニル基、カルボキシル基、−OR基を示す。ここで、R19、R20、R21はそれぞれ独立に炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を、−ORは末端にアルコキシ基を有する1価のポリアルキレンオキシド基を示す。ただし、aは0又は1、bは0又は1、nは1〜10の整数である。)
【0012】
本発明の第二の態様は、第一の態様の化合物を含有する光第二高調波発生色素組成物である。
【0013】
本発明の第三の態様は、細胞膜近傍の第一態様の光第二高調波発生化合物により生じる第二高調波を利用した細胞の検査方法であって、第二態様の光第二高調波発生色素組成物を検査対象の細胞に導入する色素導入工程と、前記細胞に導入された光第二高調波発生化合物から放出される第二高調波を検出する第二高調波検出工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細胞膜に効果的に作用し、SHGシグナルを発するが、TPFシグナルの発生が抑えられた色素をSHGイメージングに適用できるため、生体組織にあたえるダメージを最小限にして細胞膜の観察を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】比較例1のSHG及びTPFシグナルを示す図である。
図2】比較例3のSHG及びTPFシグナルを示す図である。
図3】実施例1のSHG及びTPFシグナルを示す図である。
図4】比較例4のSHG及びTPFシグナルを示す図である。
図5】比較例5のSHG及びTPFシグナルを示す図である。
図6】比較例6のSHG及びTPFシグナルを示す図である。
図7】実施例2のSHG及びTPFシグナルを示す図である。
図8】実施例3のSHG及びTPFシグナルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0017】
本発明の第一の態様は、式(1)で表されるアゾベンゼン系誘導体又はその塩である光第二高調波発生化合物である。
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数6〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、RからR18は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、アルキル基、アルコシキ基、アリール基、アミノ基、水酸基、ニトロ基、シアノ基から選択されるいずれかの置換基を示すが、RとR、RとR10、R13とR14、R17とR18とは、一緒になって炭素数5〜7の環構造をとってもよい。Xは、−N192021、スルホニル基、カルボキシル基、−OR基を示す。ここで、R19、R20、R21はそれぞれ独立に炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を、−ORは末端にアルコキシ基を有する1価のポリアルキレンオキシド基を示す。ただし、aは0又は1、bは0又は1、nは1〜10の整数である。)
【0018】
式(1)で表されるアゾベンゼン系誘導体又はその塩である光第二高調波発生化合物を、細胞に導入することにより、時間分解能と定量性に優れたSHGを用いた膜電位の測定や可視化が可能となる。
【0019】
式(1)中のR及びRは、それぞれ独立に炭素数6〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、本発明の第一の態様の化合物が細胞膜と相互作用するための疎水性部位である。上記炭素数は6〜12が好ましく、6〜10が更に好ましい。SHGは、二つの光子が中心対称性を欠いて存在する物質と相互作用した場合に生じるため、SHGは、本質的にその空間反転対称性の破れた細胞膜の表面・界面にある化合物でのみ発生が許される。ここで、R及びRの炭素数が6以上であれば細胞膜との相互作用が高くなって、細胞に導入された際に、R及びRの部分が細胞膜に挿入されて化合物が中心対称性を欠いた分布をとる。その結果、導入された化合物がSHG活性を発現するようになる。R及びRの炭素数が12以下であれば、化合物の親水性が極度に損なわれることがなく好ましい。
【0020】
式(1)中のXは、−N192021、スルホニル基、カルボキシル基、−OR基であり、本発明の第一の態様の化合物の水溶性を担保するための親水性部位である。ここで、R19、R20、R21はそれぞれ独立に炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を、−ORは末端にアルコキシ基を有する1価のポリアルキレンオキシド基を示す。なかでも、−N192021、スルホニル基、カルボキシル基を選択することが、水や親水性溶媒への溶解性が向上するため好ましい。
【0021】
本発明の第一の態様の化合物において、式(1)中のXが−N192021であり、且つ、a=b=0である場合が、化合物の親水性と疎水性のバランスの点からは好ましい。また、nは1〜10が好ましく、3〜8がより好ましい。nが1以上であれば毒性の問題がなく細胞への影響が小さいために好ましく、10以下であれば溶解性に問題がないために好ましい。
【0022】
本発明の第一の態様の化合物は、式(1)の構造中「−NR」及び「−(CH−X」で挟まれる構造部分を最適化したことにより、SHG活性を示すがTPF活性を示さないという特有の性質を示す。
【0023】
SHGイメージングに用いる化合物は、二光子との相互作用及びその結果としての光第二高調波発生効率が高いことが必要となる。より強いシグナルを得るにはより強い入射光の照射が必要となるが、過度に強いレーザー光を照射すると、例えば生体組織の光損傷を招いたり、また色素そのものが光劣化を起こしたりしてしまう可能性が高くなるため望ましくない。そこで、なるべく弱い励起光強度で強いSHG光を得るには、効率よく二光子と相互作用してSHGを発することが必要である。一般的に有機化合物材料において非線形光学特性を向上させる方法として、適切な電子供与性・吸引性置換基を選択して、共役系を拡大させる方法がとられる。本発明第一の態様の化合物では、例えば、a又はbを1とし共鳴構造を延長したり、RとR、RとR10、R13とR14、R17とR18とを環構造として、キノリン又はナフタレン構造としたりすることで共役系の調節を行うことが可能である。
【0024】
上記RからR18のとりうるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等の炭素数1〜4程度のアルキル基等を挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ基等の炭素数1〜6程度のアルコキシ基等を挙げることができる。また、アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等の炭素数6〜14程度のアリール基等が挙げられる。
【0025】
これらのうち、RとR、RとR10、R13とR14、R17とR18とは、一緒になって炭素数5〜7の環構造をとってもよい。これらが環構造をなす場合は、キノリン又はナフタレン構造をとることが好ましい。
【0026】
式(1)の化合物として、下記の構造式(2)〜(3)で示されるものが特に好ましい。ここで、RからR18、X、n等の記号の指す内容は式(1)におけるものと同じである。また、R22からR29は、それぞれ独立に水素又はアルキル基である。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
上記R22からR29のとりうるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等の炭素数1〜4程度のアルキル基等を挙げることができる。
【0031】
本発明の第一の態様の化合物として、更に具体的には下記の構造式で示されるものが挙げられる。
【化6】
【0032】
式(1)で表されるアゾベンゼン系誘導体は、塩の形態で存在する場合もある。本発明の塩の種類は特に限定されないが、例えば、ClO付加塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0033】
本発明の第二の態様は、上記第一の態様の化合物を含有する光第二高調波発生色素組成物である。本発明の色素組成物の形態は特に限定されず、第一の態様の化合物を含有すれば、溶液、懸濁液又は粉末等任意の形態をとることができる。なかでも、溶液とすることが取り扱いの容易性の点から好ましい。
【0034】
式(1)で表されるアゾベンゼン系誘導体又はその塩は適当な溶媒(例えば、水、メタノール等の低級アルコール、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒)に溶解することにより、光第二高調波発生色素組成物溶液を調製することができる。更に適当な緩衝剤や保存剤等、蛍光色素により細胞ないし細胞膜を観察する際に用いられる組成物に通常添加される化合物を含有していてもよい。光等の刺激を受けると細胞を活性させて膜電位活動を誘発する生理活性物質を加えることも可能である。
【0035】
本発明の第三の態様は、細胞膜近傍の第一態様の光第二高調波発生化合物により生じる第二高調波を利用した細胞の検査方法であって、第二態様の光第二高調波発生色素組成物を検査対象の細胞に導入する色素導入工程と、前記細胞に導入された光第二高調波発生化合物から放出される第二高調波を検出する第二高調波検出工程とを有するものである。
【0036】
本発明の第三態様における色素導入工程において、光第二高調波発生色素組成物を観察対象の細胞に導入するには、蛍光色素による観察の際に用いられる方法が、特に限定されること無く使用することができる。
【0037】
例えば、検査対象である生体から抽出した細胞を、本発明の第一態様の光第二高調波発生化合物を適切な濃度で含む第二態様の組成物溶液中に所定時間浸漬することで、本発明の第一態様の光第二高調波発生化合物を細胞に適用することができる。また、細胞に第二態様の組成物溶液をピペットで供給してもよい。
【0038】
本発明の第三態様における第二高調波検出工程には、二光子レーザー走査顕微鏡を好適に用いることができる。ここで二光子レーザー走査顕微鏡とは、近赤外パルスレーザーを標本面上に集光し走査させて、そこでの二光子現象により発生するSHGシグナルを検出することにより像を得る顕微鏡である。
【0039】
使用できる二光子レーザー走査顕微鏡は、近赤外域波長のサブピコ秒の単色コヒーレント光パルスを発するレーザー光源と、レーザー光源からの光束を所望の大きさに変える光束変換光学系と、光束変換光学系で変換された光束を対物レンズの像面に集光し走査させる走査光学系と、集光された上記変換光束を標本面上に投影する対物レンズ系と、光検出器と、を備えていれば、特に限定されること無く使用することができる。
【0040】
パルスレーザー光を、ダイクロイックミラーを経て、光束変換光学系、対物レンズ系により集光して、標本面で焦点を結ばせることにより、標本内にある光第二高調波発生化合物に二光子相互作用により誘起されたSHGを生じさせる。標本面をレーザービームで走査し、各場所での蛍光強度を光検出器等の光検出装置で検出して、得られた位置情報に基づいて、コンピュータでプロットすることにより、二次元又は三次元像が得られる。走査機構としては、例えば、ガルバノミラー等の可動ミラーを用いてレーザービームを走査してもよく、ステージ上に置かれた光第二高調波発生材料を含む標本を移動させてもよい。
【0041】
二光子励起レーザー走査顕微鏡は、このような構成により、二光子吸収そのものの非線形効果を利用して、面内、高軸方向共に高い空間分解能を得ることができる。
【0042】
本発明の第一の態様の化合物は、その一部を細胞膜に埋めているため、細胞膜の膜電位感受性を有する。そのため、化合物が発するSHGシグナル光の光強度は、細胞膜の膜電位変化に依存して変化する。
【0043】
本実施態様に係る細胞検査方法においては、このSHGシグナル光の膜電位感受性による光強度の変化を膜電位の光学測定法として用いることで、従来の数倍〜数十倍の信号強度で測定することを可能とする。また、二光子励起レーザー走査顕微鏡の高い時空間分解能をもって細胞の膜電位の経時変化を、SHGシグナル光の経時変化として間接的に観察することも可能である。例えば、神経細胞の情報処理は、細胞膜の電位の変化として行われるため、本実施形態に係る細胞検査方法は、神経細胞の情報処理の観察に特に有効である。
【0044】
パッチクランプ法の開発以来、神経細胞膜電位の測定は電気生理学的手法が主にとられている。しかしながら、神経細胞は非常に複雑な構造を持ち、特に情報処理の鍵を握ると考えられるスパインやそれを支える樹状突起の多くは直径が1ミクロンにも満たない非常に微細な構造を有する。そのため、ガラス電極の大きさが問題となり、非常に細かな構造に対しては、このような電気生理学的手法の適用には限界があった。本実施態様に係る細胞検査方法では、第二高調波検出工程が細胞の形態に依存しないため、細部構造を対象とする神経細胞の情報処理の観察に特に有用である。また、同時に、従来のパッチクランプによる膜電位測定を行うことで、より多くの情報を得ることも可能である。
【0045】
このような神経細胞の情報処理の観察を行う場合、神経細胞への色素導入工程後、第二高調波検出工程前に、細胞膜の膜電位変化を誘発する細胞刺激工程を設けることが有用である。細胞膜の膜電位変化の誘発は、例えば、パッチクランプ等の刺入電極により電気刺激したり、光を受けると細胞を活性させて膜電位活動を誘発させる生理活性物質を細胞に導入し、任意の刺激領域に刺激光(UVレーザー光)を照射して刺激領域の細胞に興奮性の刺激を与える等、通常採られる方法が特に制限無く採用できる。
【0046】
上記光を受けると細胞を活性させて膜電位活動を誘発させる生理活性物質としては、例えば、生理活性物質であるグルタミン酸に、グルタミン酸の生理活性を不活化させる側鎖(ケージドコンパウンド)がついたケージドグルタミン酸を用いる。このケージドグルタミン酸は、普段は不活性であるが、紫外線を照射するとそのコンパウンドが開裂しグルタミン酸が解離して生理活性を誘導する。また、ケージドコンパウンドにグルタミン酸を結びつけたケージドグルタミン酸に代えて、例えば、生理活性を誘導するアミノ酸、環状ヌクレオチド(cNMPs)、又は、カルシウム等をケージドコンパウンドに結びつけたケージド試薬を、あるいは、チャネルロドプシン等の光感受性チャネル分子を用いてもよい。
【0047】
本実施態様に係る細胞検査方法は、神経、血管等各細胞の微細構造から組織全体の広い時空間領域での生理変化を明らかにすることが可能となり、脳機能疾患等の病態生理解明に有効である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[合成例1]Ap1の合成
【化7】
【0049】
<第一段階>
100mlナスフラスコに42%テトラフルオロほう酸水溶液15.0ml(94.0mmol)、4−アミノピリジン0.478g(5.08mmol)を加え氷冷で攪拌した。その中に、亜硝酸ナトリウム0.357g(5.17mmol)をゆっくり加え、更に、N,N−ジメチルアニリン1.21g(9.99mmol)をゆっくり滴下し、室温で16時間攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを約12にし、オレンジ色の結晶を析出させた後、吸引ろ過を行い、結晶を得た。これをクロロホルムに溶かしてろ過をした。ろ液を100mlナスフラスコに取り、エバポレーターで溶媒を留去して粗結晶を得た。この粗結晶をトルエン:ヘキサンで再結晶を行ったところ、オレンジ色の結晶化合物1が0.441g(1.95mmol)得られた(収率:38%)。得られた結晶化合物1のスペクトルデータを以下に示す。
【0050】
H−NMR(CDCl 270MHz)δ:3.13(s,6H),6.76(dd,J=2.2Hz,J=8.1Hz,2H),7.63(dd,J=1.5Hz,J=5.4Hz,2H),7.91(dd,J=2.2Hz,J=8.1Hz,2H),8.71(dd,J=1.5Hz,J=5.4Hz,2H)
【0051】
<第二段階>
耐圧チューブに化合物1を49.6mg(0.219mmol)、3−ブロモプロピルトリエチルアンモニウムブロミドを46.6mg(0.154mmol)、アセトニトリルを1.22ml加えて5分間Nバブリングし、80℃で23時間加熱攪拌した。反応溶液を50mlナスフラスコに移して、溶媒を留去した。酢酸エチル、アセトンでそれぞれデカンテーションした。これを蒸留水100mlに溶かして分液ロートに移し、100mlの酢酸エチルで洗浄する操作を3回行った。水をエバポレータで留去すると、紫色固体のAp1が37.5mg(70.9mmol)得られた(収率:46%)。得られたAp1のスペクトルデータを以下に示す。
【0052】
H−NMR(CDCl 270MHz)δ:1.50(t,J=7.2Hz,9H),2.85−2.98(m,2H),3.25(s,6H),3.44(q,J=7.2Hz,6H),3.84(t,J=8.0Hz,2H),5.23(t,J=7.8Hz,2H),6.80(d,J=9.4Hz,2H),7.98(d,J=9.4Hz,2H),8.04(d,J=7.0Hz,2H),10.0(d,J=7.0Hz,2H)
【0053】
[合成例2]Ap2の合成
【化8】
【0054】
<第一段階>
二口フラスコにアニリン1.72g(18.5mmol)、無水DMF50ml、炭酸ナトリウム3.43g(32.4mmol)、1−ヨードブタン7.00ml(59.8mmol)を加えて窒素置換した。95℃で還流させて20時間過熱攪拌した後、室温まで放冷した。水100mlを加えて分液ロートに移し、酢酸エチル100mlで2回抽出した。酢酸エチル層を水50mlで2回、飽和食塩水50mlで1回洗浄し、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM:hex=1:9、v/v)で精製し、透明の油状液体3.09g(15.0mmol)を得た(収率:81%)。得られた油状液体のスペクトルデータを以下に示す。
【0055】
H−NMR(CDCl 270MHz)δ:0.95(t,J=7.3Hz,6H),1.35(tq,J=7.3Hz,J=7.6Hz,4H),1.56(tt,J=7.6Hz,J=7.7Hz,4H),3.25(t,J=7.7Hz,4H),6.59(d,J=7.2Hz,1H),6.63(d,J=8.1Hz,2H),7.19(dd,J=7.2Hz,J=8.1Hz,2H)
【0056】
<第二段階>
100mlナスフラスコに42%テトラフルオロほう酸水溶液14.6ml(91.5mmol)、4−アミノピリジン0.235g(2.49mmol)を加え氷冷攪拌した。30ml三角フラスコに、N,N−ジブチルアニリン1.01g(4.93mmol)、エタノール11.0ml、42%テトラフルオロほう酸11.0ml(68.9mmol)を加えて氷冷攪拌した。氷冷攪拌していた100mlナスフラスコ中の溶液に亜硝酸ナトリウム0.171g(2.48mmol)をゆっくり加えた。ここに氷冷攪拌していた30ml三角フラスコ中の溶液をゆっくり滴下していった後、室温で15時間攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを約12にし、飽和食塩水25mlを加えた後、その溶液を分液ロートに移し、酢酸エチル150mlで2回抽出した。酢酸エチル層を飽和食塩水300mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。更に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(EA:hex=1:3、v/v)で精製して、赤褐色の粘性固体の化合物2を0.185g(0.589mmol)得た(収率:24%)。得られた化合物2のスペクトルデータを以下に示す。
【0057】
H−NMR(CDCl 270MHz)δ:0.99(t,J=7.3Hz,6H),1.40(tq,J=7.3Hz,J=15Hz,4H),1.61−1.70(m,4H),3.38(tt,J=7.7Hz,4H),6.69(dd,J=2.1Hz,J=7.2Hz,2H),7.62(dd,J=1.6Hz,J=4.7Hz,2H),7.87(dd,J=2.1Hz,J=7.2Hz,2H),8.70(dd,J=1.6Hz,J=4.7Hz,2H)
【0058】
<第三段階>
耐圧チューブに化合物2を48.9mg(0.158mmol)、3−ブロモプロピルトリエチルアンモニウムブロミドを51.4mg(0.170mmol)、アセトニトリルを0.80ml加えて5分間Nバブリングし、100℃で24時間加熱攪拌した。反応溶液を50mlナスフラスコに移して、溶媒を留去した後、トルエンでデカンテーションした。紫色固体のAp2が96.1mg(0.157mmol)得られた(収率:99%)。得られたAp2のスペクトルデータを以下に示す。
【0059】
H−NMR(CDCl 270MHz)δ:1.01(t,J=7.3Hz,6H),1.36−1.51(m,17H),2.80−2.97(m,2H),3.41−3.80(m,10H),3.83(t,J=7.7Hz,2H),5.18(t,J=7.9Hz,2H),6.75(d,J=9.3Hz,2H),7.94(d,J=9.3Hz,2H),8.01(d,J=6.7Hz,2H),9.87(d,J=6.7Hz,2H)
【0060】
[合成例3]Ap3の合成
【化9】
【0061】
<第一段階>
30mlナスフラスコに42%テトラフルオロほう酸水溶液2.30ml(14.4mmol)、4−アミノピリジン38.4mg(0.408mmol)を加え氷冷攪拌した。10ml三角フラスコに、N,N−ジヘキシルアニリン0.208g(0.794mmol)、エタノール1.70ml、42%テトラフルオロほう酸1.70ml(10.7mmol)を加えて氷冷攪拌した。氷冷攪拌していた30mlナスフラスコ中の溶液に亜硝酸ナトリウム30.3mg(0.439mmol)をゆっくり加えた。ここに氷冷攪拌していた10ml三角フラスコ中の溶液をゆっくり滴下し、室温で19時間攪拌した。水酸化ナトリウムを加えてpHを約12にし、飽和食塩水5mlを加えた後、その溶液を分液ロートに移し、酢酸エチル25mlで2回抽出した。酢酸エチル層を飽和食塩水80mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。更に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(EA:hex=1:3、v/v)で精製して、赤褐色の粘性固体の化合物3[(E)―N,N−dihexyl−4−(pyridin−4−yldiazenyl)aniline]を22.3mg(0.0608mmol)得た(収率:15%)。得られた化合物3のスペクトルデータを以下に示す。
【0062】
H−NMR(CDCl 270MHz)δ:0.91(t,J=6.7Hz,6H),1.28−1.43(m,12H),1.55−1.71(m,4H),3.37(t,J=7.7Hz,4H),6.68(dd,J=1.9Hz,J=6.3Hz,2H),7.62(dd,J=1.6Hz,J=4.6Hz,2H),7.87(dd,J=1.9Hz,J=6.3Hz,2H),8.70(dd,J=1.6Hz,J=4.6Hz,2H)
【0063】
<第二段階>
耐圧チューブに化合物3を51.8mg(0.141mmol)、3−ブロモプロピルトリエチルアンモニウムブロミドを29.7mg(98.0μmol)、アセトニトリルを1.22ml加えて5分間Nバブリングし、80℃で23時間加熱攪拌した。反応溶液を50mlナスフラスコに移して、溶媒を留去した後、酢酸エチルでデカンテーションした。これを蒸留水100mlに溶かして抽出ロートに移し、100mlの酢酸エチルで洗浄する操作を8回行った。水をエバポレーターで留去すると、紫色固体のAp3が51.6mg(77.1μmol)得られた(収率:79%)。得られたAp3のスペクトルデータを以下に示す。
【0064】
H−NMR(CDCl 270MHz)δ:0.92(t,J=6.62Hz,6H),1.42−1.25(m,12H),1.50(t,J=7.0Hz,9H),1.60−1.77(m,8H),2.83−2.98(m,2H),3.45(q,J=7.2Hz,6H),3.83(t,J=8.0Hz,2H),5.20(t,J=7.8Hz,2H),6.74(d,J=9.4Hz,2H),7.94(d,J=9.4Hz,2H),8.00(d,J=6.8Hz,2H),9.90(d,J=6.8Hz,2H)
【0065】
上記Ap1〜Ap3及び市販のSHGイメージング用色素FM4−64を用い、以下の手順に従って、SHGイメージングをおこなった。FM4−64は下記構造を有す化合物である。
【化10】
【0066】
<比較例1>
FM4−64を100μM含有する緩衝液を作成し、培養したヒトの正常な星状細胞にピペットを用いて導入した。細胞に導入された色素は時間と共に細胞体全体に広がる。
【0067】
測定には、市販のレーザー走査型共焦点顕微鏡に波長可変型フェムト秒モード同期赤外レーザーを光源として組み込むことにより、SHGイメージングやTPFイメージングが可能な多光子顕微鏡を用いた。1,000nmの励起光を照射することにより、色素から波長500nmのSHGシグナル光が、赤外パルスレーザーが進行する方向と同方向に発生する。シグナルはレーザー光進行方向側に設けた光電子増倍管にて検出することができる。又、同様の励起光を照射して、TPFシグナル光の後方散乱成分を観察する。図1に、得られたSHG及びTPFイメージ像を示す。
【0068】
<比較例2,3及び実施例1>
色素としてAp1〜Ap3を用いるほかは比較例1と同様にしてSHG及びTPFイメージングを行い、それぞれ比較例2,3及び実施例1とした。図2に比較例3(Ap2を用いた場合)、図3に実施例1(Ap3を用いた場合)において得られたイメージ像をそれぞれ示す。ここで、Ap1を用いた比較例2による像は、SHGシグナル光を観察することができなかったため記載していない。
【0069】
図1のFM4−64を用いた例では、SHGシグナル以外にTPFシグナルも同様に観察される。これに対し、Ap2を用いた図2は、SHGシグナルはほとんどみられない。TPFシグナルも、非常に弱いものであった。
【0070】
これに対し、本発明の光第二高調波発生色素であるAp3を用いた場合は、図3から明らかなようにSHGシグナルを観察できる一方、TPFシグナルについては観察されていない。
【0071】
更に、表1に示される、アニオン性、中性、双性、ジカチオン性の色素を用いて、それぞれ、緩衝液への溶解性、毒性、培養細胞(CHO細胞)に適用した際のSHG及びTPFシグナルの有無を評価した。ここで、#1〜5の色素は、本発明の範囲外の光第二高調波発生色素であり、#6及び7の色素は、本発明の範囲内の光第二高調波発生色素である。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に記した上記光第二高調波発生色素のうち、#6、7の双性イオン性色素の合成法について、以下に説明する。
【0074】
[合成例4]色素#6[(E)−3−(4−((4−(dihexylamino)phenyl)diazenyl)pyridin−1−ium−1−yl)propane−1−sulfonate]の合成:
【化11】
【0075】
1,3−プロパンスルトン122mg(1.0mmol)と、上記合成例3の第一段階で合成された化合物3[(E)−N,N−dihexyl−4−(pyridin−4−yldiazenyl)aniline]を50mg(0.14mmol)とをジクロロメタン(2mL)に溶かした溶液を室温で24時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ジクロロメタン/メタノール=5/1)で精製し、32mg(0.06mmol)の色素#6を得た(収率:45%)。得られた化合物のH−NMR及びHRMS(高分解能マススペクトロスコピー)による分析結果を以下に示す。
【0076】
H−NMR(DMSO−d,400MHz)δ:0.88(t,J=7.0Hz,6H),1.31(bs,12H),1.60(bs,4H),2.22(m,2H),2.46(t,J=7.0Hz,2H),3.52(t,J=7.1Hz,4H),4.66(t,J=7.0Hz,2H),6.95(d,J=4.7Hz,2H),7.91(d,J=4.7Hz,2H),8.10(d,J=3.5Hz,2H),8.97(d,J=3.5Hz,2H)
【0077】
HRMS(ESI):計算値[C2640S(M+Na)]:511.27133、実測値:511.27059
【0078】
[合成例5]色素#7[(E)−3−(4−((4−(dioctylamino)phenyl)diazenyl)pyridin−1−ium−1−yl)propane−1−sulfonate]の合成:
<第一段階>
【化12】
【0079】
4−アミノピリジン201mg(2.1mmol)に42%テトラフルオロホウ酸2.1gを0℃で加え攪拌すると乳濁状の液体が得られた。これに硝酸ナトリウム138mg(2.0mmol)を5mLの水に溶かした水溶液をゆっくり加え更に0℃で攪拌した。そこに、N,N−ジヘキシルアニリン1.3g(5.0mmol)と酢酸(3mL)の混合物を加えた後、更にTHF(5mL)を加え、室温で3時間攪拌した。その後、2N水酸化ナトリウム溶液(50mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ジクロロメタン/メタノール=15/1)で精製し、目的物を220mg(0.6mmol)得た(収率:30%)。得られた化合物4[(E)−N,N−dioctyl−4−(pyridin−4−yldiazenyl)aniline]のH−NMRによる分析結果を以下に示す。
【0080】
H−NMR(CDCl,400MHz)δ:0.89(t,J=6.8Hz,6H),1.29−1.34(m,20H),1.64(bs,4H),3.37(t,J=7.7Hz,4H),6.68(d,J=4.5Hz,2H),7.62(d,J=3.0Hz,2H),7.87(d,J=4.5Hz,2H),8.70(d,J=3.0Hz,2H)
【0081】
<第二段階>
【化13】
【0082】
1,3−プロパンスルトンを122mg(1.0mmol)と、化合物4を42mg(0.1mmol)とをジクロロメタン(2mL)に溶かした溶液を室温で24時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ジクロロメタン/メタノール=5/1)で精製し、42mg(0.074mmol)の色素#7を得た(収率:74%)。得られた化合物のH−NMR及びHRMS(高分解能マススペクトロスコピー)による分析結果を以下に示す。
【0083】
H−NMR(DMSO−d,400MHz)δ:0.86(t,J=7.0Hz,6H),1.31(m,20H),1.60(bs,4H),2.24(m,2H),2.46(t,J=7.0Hz,2H),3.52(t,J=7.6Hz,4H),4.66(t,J=6.9Hz,2H),6.95(d,J=4.8Hz,2H),7.91(d,J=4.8Hz,2H),8.10(d,J=3.6Hz,2H),8.96(d,J=3.6Hz,2H)
【0084】
HRMS(ESI):計算値[C3048S(M+Na)]:567.33393、実測値:567.33375
【0085】
#1〜7の光第二高調波発生色素及び上記で検討したAp3の溶解性、細胞毒性、CHO細胞に適用した際のSHG及びTPFシグナルの有無を、表2に示す。ここで、本発明外の色素#1〜5を使用した試験を、それぞれ比較例4〜8とした。これに対し、本発明内の色素#6、7及びap3を使用した試験を、それぞれ実施例2〜4とした。
【0086】
[色素の溶解性評価]
合成された表2の色素群(色素♯1〜♯7)に対しDMSO(Dimethyl Sulfoxide)を色素の濃度が約100mMとなるように加え、溶解を試みた。色素♯1、♯2及び♯3が容易に溶解したのに対し、色素♯6及び♯7は一部難溶性が認められ、色素♯4、♯5に関しては全く溶解が見られなかった。
【0087】
[色素のSHG及びTPFシグナル評価]
色素♯1〜♯3、♯4、♯5及びAp3のDMSO溶液を、細胞外液(Artificial Cerebrospinal Fluid)を用いて1,000倍希釈し、すべて解けたとして最終濃度が約100μMとなるようにした。
【0088】
観測の対象としてはカバーガラスの上で培養したCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞を用い、これを上記の色素溶液に浸す事で細胞膜の染色を試み、そのまま数分のうちに顕微鏡下で観測を行った。
【0089】
観測には超短フェムト秒レーザー(Newport社製MaitaiHP)を搭載した多光子レーザー顕微鏡システム(オリンパス社製FV1000MPE)を用い、1,000nmのパルスレーザー照射後のSHG及び2光子蛍光(Two−Photon Fluorescence:TPF)を各色素同じ検出条件にて観測した。各色素につき視野を変えて3枚ずつの画像を取得し、各色素間のシグナル強度を定性的に比較した。上記検討で得られた画像のうち、各色素について一枚ずつを図4〜8に示す。それぞれ、図4〜6は比較例4〜6の画像、図7、8は実施例2、3の画像である。
【0090】
なお、色素の溶解が不可能であった色素♯4、♯5に関してはSHG、TPFともにシグナルが全く得られなかったため、評価できない(not applicable:n/a)ものとした。
【0091】
[色素の細胞毒性評価]
色素による細胞毒性の評価のため、近赤外光を用いた微分干渉像により染色前後の細胞の形態を確認した。特に、細胞の生理状態が悪化すると、1)細胞外基質との相互作用により伸びた構造を持っていた細胞がその接着を失う事でカバーガラスから離れ丸くなること、2)滑らかな様相を呈していた細胞膜が不均一で凸凹した形態になること、の2点に着目し、細胞毒性を評価した。
【0092】
【表2】
【0093】
本発明内の色素#6、7及びap3を使用した実施例2〜4は、緩衝液への溶解性や毒性に問題はなかった。これらの色素#6、7及びap3を細胞に適用した場合、TPFシグナルは観察されず、SHGシグナルのみが観察された。図6、7に、実施例2、3のSHG及びTPFのシグナルを示す。以上の検討から、本発明の色素を細胞に導入することによって、無蛍光SHGイメージングが可能である事が確認され、膜電位の測定や可視化が可能となることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8