特許第6321645号(P6321645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許63216452−デオキシ−シロ−イノソースの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321645
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】2−デオキシ−シロ−イノソースの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/02 20060101AFI20180423BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20180423BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180423BHJP
【FI】
   C12P19/02ZNA
   !C12N1/21
   !C12N15/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-526412(P2015-526412)
(86)(22)【出願日】2014年7月10日
(86)【国際出願番号】JP2014068497
(87)【国際公開番号】WO2015005451
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2015年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-146832(P2013-146832)
(32)【優先日】2013年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/053052(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/109916(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/112000(WO,A1)
【文献】 YAMAUCHI N., et al.,Biochemical studies on 2-deoxy-scyllo-inosose, an early intermediate in the biosynthesis of 2-deoxys,J. Antibiot.,1992年 5月,45(5),pp.756-766
【文献】 神谷和人,Pentoseの光学異性体とPentoseによるEschetichia coliの増殖抑制について,平成21年度第36回日本防菌防黴学会年次大会講演要旨,日本防菌防黴学会,2009年 9月14日,p.183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C12N 1/00−7/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全培地に対して0.3w/v%以上1.0w/v%以下の天然培地成分(a)と、
下記の成分(b)及び成分(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、
を含有する培地で、2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌を培養し、2−デオキシ−シロ−イノソースを生成すること、及び
生成した2−デオキシ−シロ−イノソースを前記培地から回収すること、
を含む2−デオキシ−シロ−イノソースの生産方法:
(b)全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分;
(c)全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース;
前記天然培地成分が、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、トマトジュース、オートミール、果汁、野菜汁、豆乳、動物乳、スキムミルク、穀物、イモ、豆、海藻又はキノコの酵素消化物、及び廃糖蜜からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記フィチン酸の加水分解物が、myo−イノシトールと遊離のリン酸との混合物である。
【請求項2】
前記培地が、pH5〜6である請求項1に記載の生産方法。
【請求項3】
前記ペントースが、大腸菌のペントースリン酸経路で代謝可能なペントースである請求項1又は請求項2に記載の生産方法。
【請求項4】
前記2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌が、2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素(BtrC)をコードする遺伝子が導入されたことにより2−デオキシ−シロ−イノソース生産能力が付与又は強化された請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の生産方法。
【請求項5】
前記2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌が、本来有しているホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(Zwf)の活性が不活化又は低減化された請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の生産方法。
【請求項6】
前記2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌が、スクロース加水分解酵素(CscA)をコードする遺伝子を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の生産方法。
【請求項7】
前記2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌が、グルコース輸送促進タンパク質(Glf)をコードする遺伝子を有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の生産方法。
【請求項8】
前記天然培地成分が、コーンスティープリカーである請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−デオキシ−シロ−イノソースの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−デオキシ−シロ−イノソース(以下、「DOI」ともいう。)は、医薬原料、化学工業資源等として用いられる有用な物質である。例えば、特開2000−236881号公報によれば、2−デオキシ−シロ−イソノースは、大腸菌を用いて得られた組換えDOI合成酵素を使用して、グルコース−6−リン酸(G−6−P)から短工程で生産できることが明らかとなっている。さらに、例えば、国際公開第2006/109479号によれば、DOI合成酵素を発現させた大腸菌を用いて、D−グルコースから発酵プロセスによりDOIを生産する方法も開発されている。これにより、植物由来資源より得られるD−グルコースからDOIを生産することが可能になった。
【0003】
Journal of Biotechnology,Vol.129,pp.502−509(2007)によると、野生型の大腸菌にDOI合成酵素を発現させただけではDOIの生産性は僅か1.5g/Lであり、DOIの高い生産性(29.5g/L)を達成するためには、大腸菌が保有する3つの酵素遺伝子、ホスホグルコースイソメラーゼ遺伝子(pgi)及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(zwf)及びホスホグルコムターゼ遺伝子(pgm)を同時に破壊して、グルコースの代謝を遮断することが必要であることが示されている。このため、別途解糖系に利用可能な糖(例えばマンニトール)が菌体の増殖/生育のために必要であると結論づけられている。また、同様な高いDOI生産性を得るためには、pgiとzwfの2つを同時に破壊するだけでもよいが、この場合もD−グルコースを唯一の炭素源とすると菌体が増殖できなくなるため、菌体の増殖/生育用の炭素源としてD−マンニトールが必要であることが示されている。
【0004】
国際公開第2010/053052号によると、本来はスクロースを代謝できない大腸菌(大腸菌K12由来株と大腸菌B由来株)のpgiとzwfの2つの遺伝子を破壊し、DOI合成酵素遺伝子(btrC)とスクロース加水分解酵素遺伝子(cscA)を導入することで、スクロースを加水分解し、生成するD−フルクトースとD−グルコースの内、D−フルクトースを菌体の増殖/生育用の炭素源として利用し、D−グルコースをDOI原料の炭素源として利用してDOIを発酵生産できることが示されている。
【0005】
発酵は、微生物の培養と、培養により増殖した微生物を触媒とした物質生産とを含む。微生物の培養及び増殖には栄養源が必要となる。通常の微生物培養培地には、酵母エキス、コーンスティープリカー(以下、「CSL」ともいう。)等といった、天然培地成分を利用することが多い。CSLは、コーンスターチ製造過程で、とうもろこし粒を亜硫酸液に浸漬して得られる副生物であり、とうもろこし粒から溶出された可溶性タンパク質、ペプチド、アミノ酸、糖類、ビタミン類がCSLに含まれる。そのほか、CSLには、とうもろこし粒の亜硫酸液への浸漬中に生じる乳酸発酵によって生成される独特な成分も含まれるため、きわめて栄養価の高い天然培地成分である。CSLは、酵母エキス等と比べて安価なため、抗生物質、ビタミン、アミノ酸、酵素等の生産における微生物培養の重要な培地成分として広く利用されている。DOI発酵生産でも、30g/LのCSL(3w/v%)を培地に添加することで、良好な生産性を得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、天然培地成分には、大腸菌の増殖や物質生産に必要ではない有機物も多く含まれる。DOI生産大腸菌でDOIを生産しようとする場合に、このような有機物が培養液中に大量に含まれていると、培養液の精製負荷が大きくなり、DOIを得るための精製回収工程が煩雑になるので、全培地中の天然培地成分量を例えば1w/v%以下に制限する必要が生じることが明らかになった。しかし、培養液の精製負荷を小さくする為に、天然培地成分の使用量を減らせば栄養源が減ることになり、微生物の増殖が制限されて生産性が悪化することが予想できる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、DOI生産大腸菌を、全培地に対して1w/v%以下の天然培地成分を含む培地で培養することができ、培地中に蓄積したDOIを回収する際の工程数を抑制でき、且つ全培地に対して3w/v%程度の天然培地成分を含む培地でDOI生産大腸菌を培養したときと同等のDOIの生産性を維持し得るDOI生産方法及び当該生産方法により生産されるDOIを提供することである。
なお、本発明者の知る限りにおいて、フィチン酸成分を培地に添加することでDOI生産大腸菌のDOIの生産性が向上することを示す報告も、グルコン酸を培地に添加することでDOI生産大腸菌がDOIを生産することを示す報告もない。また、生育炭素源とは別に特定量のペントースを添加することでDOI生産性が向上することを示す報告もない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、CSL使用量を低減しても、特定量のフィチン酸成分と、特定量のペントース及び/又はグルコン酸と、からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む培地を使用することで、CSL使用量を低減しない場合と同等のDOI生産性を維持できる方法を見出した。
【0009】
本発明の態様は以下のとおりである。
[1] 全培地に対して1.0w/v%以下の天然培地成分(a)と、
下記の成分(b)及び成分(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、
を含有する培地で、2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌を培養し、2−デオキシ−シロ−イノソースを生成すること、及び
生成した2−デオキシ−シロ−イノソースを培地から回収すること、
を含む2−デオキシ−シロ−イノソースの生産方法:
(b)全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分;
(c)全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース及び全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量のグルコン酸からなる群より選ばれる成分。
[2] 前記培地が、pH5〜6である[1]に記載の生産方法。
[3] 前記ペントースが、大腸菌のペントースリン酸経路で代謝可能なペントースである[1]又は[2]に記載の生産方法。
[4] 前記2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌が、2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素(BtrC)をコードする遺伝子が導入されたことにより2−デオキシ−シロ−イノソース生産能力が付与又は強化された[1]から[3]のいずれか1つに記載の生産方法。
[5] 前記2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌が、本来有しているホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(Zwf)の活性が不活化又は低減化された[1]から[4]のいずれか1つに記載の生産方法。
[6] 前記2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌が、スクロース加水分解酵素(CscA)をコードする遺伝子を有する[1]から[5]のいずれか1つに記載の生産方法。
[7] 前記2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌が、グルコース輸送促進タンパク質(Glf)をコードする遺伝子を有する[1]から[6]のいずれか1つに記載の生産方法。
[8] 前記天然培地成分が、コーンスティープリカーである[1]から[7]のいずれか1つに記載の生産方法。
[9] [1]から[8]のいずれか1つに記載の生産方法により生産される2−デオキシ−シロ−イノソース。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、DOI生産大腸菌を、全培地に対して1.0w/v%以下の天然培地成分を含む培地で培養することができ、培地中に蓄積したDOIを回収する際の工程数を抑制でき、且つ全培地に対して3w/v%程度の天然培地成分を含む培地でDOI生産大腸菌を培養したときと同等のDOIの生産性を維持し得るDOI生産方法及び当該生産方法により生産されるDOIを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の2−デオキシ−シロ−イノソース(DOI)の生産方法は、全培地に対して1.0w/v%以下の天然培地成分(a)と、
下記の成分(b)及び成分(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、
を含有する培地で、2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌を培養し、2−デオキシ−シロ−イノソースを生成すること(以下「DOI生成工程」とも称する。)、及び生成した2−デオキシ−シロ−イノソースを培地から精製して回収すること(以下「DOI精製回収工程」とも称する。)を含む。
(b)全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分。
(c)全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース及び全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量のグルコン酸からなる群より選ばれる成分。
【0012】
本発明のDOIの生産方法は、DOI生産大腸菌を、全培地に対して1.0w/v%以下の天然培地成分を含む培地で培養することができ、培地中に蓄積したDOIを精製して回収する際の工程数を抑制でき、且つ全培地に対して3w/v%程度の天然培地成分を含む培地でDOI生産大腸菌を培養したときと同等のDOIの生産性を維持し得る。
【0013】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
なお、「全培地」とは、回分培養の場合は培養容器内に入れた培地のことを指し、流加培養の場合は初発培地と流加培地を合わせたものを指し、連続培養の場合は培養槽中にある培地のことを指す。
【0014】
本発明における「不活化」とは、既存のあらゆる測定系によって測定された酵素(特に断らない限り、本明細書において「酵素」には、単独では酵素活性を示さない「因子」も含まれる)の活性が不活化前のDOI生産大腸菌での活性を100としたとき、その1/10以下である状態を指す。
本発明における酵素活性の「低減」とは、当該酵素をコードする遺伝子の遺伝子組換え技術により、それらの処理を行う前の状態よりも有意に当該酵素の活性が低下している状態を指す。
【0015】
本発明における「活性」の「強化」とは、強化前のDOI生産大腸菌での各種酵素活性が強化後に高まることを広く意味する。
強化の方法としては、DOI生産大腸菌が有している各種酵素の活性が高まれば、特に制限はなく、細胞外から導入された酵素遺伝子による強化、細胞内の酵素遺伝子の発現増強による強化及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0016】
細胞外から導入された酵素遺伝子による強化としては、具体的には、宿主由来の酵素よりも高活性の酵素をコードする遺伝子を宿主微生物の細胞外から遺伝子組換え技術により細胞内に導入して、導入された酵素遺伝子による酵素活性を追加する、又は、この酵素活性に宿主が本来有する酵素活性と置換すること、更には宿主由来の酵素遺伝子又は細胞外からの酵素遺伝子の数を2以上に増加させること、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
微生物内の酵素遺伝子の発現増強による強化としては、具体的には、酵素遺伝子の発現を増強する塩基配列を宿主微生物の微生物外から微生物内に導入すること、宿主微生物がゲノム上に保有する酵素遺伝子のプロモーターを他のプロモーターと置換することによって酵素遺伝子の発現を強化させること、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0017】
本発明における「活性」の「付与」とは、対象酵素遺伝子を見出せない微生物に対して、酵素遺伝子を外部から導入し、対象となる酵素の活性を与えることを広く意味する。付与の方法としては、微生物に対象となる酵素の活性が与えられれば、特に制限はなく、酵素遺伝子を保有するプラスミドによる形質転換、酵素遺伝子のゲノムへの導入、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
「活性」の「強化」又は「付与」で用いられるプロモーターとしては、遺伝子を発現できるものであれば特に制限はないが、構成型プロモーター又は誘導型プロモーターを使用することができる。
【0018】
対象となる酵素遺伝子を、当該微生物が有しているか否かを判断する方法としては、たとえば、KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes;http://www.genome.jp/kegg/)又はNCBI(National Center for Biotechnology Information ;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/)等に登録されている、各菌株の遺伝子情報を参照して判断することが挙げられる。なお、本発明では、KEGG又はNCBIに登録されている、各菌株の遺伝子情報のみを用いることとする。
【0019】
本発明における酵素活性の付与は、例えば酵素をコードする遺伝子を遺伝子組換え技術により宿主細菌の細胞外から細胞内に導入することにより行うことができる。このとき、導入される酵素遺伝子は、宿主細胞に対して同種又は異種の細胞のいずれの由来のものであってもよい。
【0020】
細胞外から細胞内へ遺伝子を導入する際に必要なゲノムDNAの調製、DNAの切断及び連結、形質転換、PCR(Polymerase Chain Reaction)、プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの設計、合成等の方法は、当業者によく知られている通常の方法で行うことができる。これらの方法は、Sambrook, J., et al., ”Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1989)などに記載されている。
【0021】
本発明における「遺伝子組換え技術により」等との文言は、生来の遺伝子の塩基配列に対する別のDNAの挿入、又は遺伝子のある部分の置換、欠失又はこれらの組み合わせによって塩基配列上の変更が生じているものであれば全て包含し、例えば、突然変異が生じた結果得られたものであってもよい。
【0022】
本発明において因子又は酵素の活性が不活化された微生物とは、細胞外から細胞内への何らかの方法によって、生来の活性が損なわれた微生物を指す。これらの微生物は、例えば該蛋白質又は酵素をコードする遺伝子を破壊すること(遺伝子破壊)により作出することができる。
【0023】
本発明における遺伝子破壊としては、ある遺伝子の機能が発揮できないようにするために、その遺伝子の塩基配列に変異を入れる、別のDNAを挿入する、及び、遺伝子のある部分を欠失させることを挙げることができる。遺伝子破壊の結果、例えばその遺伝子がmRNAへ転写できなくなり、構造遺伝子が翻訳されなくなる。又は、転写されたmRNAが不完全なために翻訳された構造蛋白質のアミノ酸配列に変異又は欠失が生じて本来の機能の発揮が不可能になる。
【0024】
遺伝子破壊株の作製は、当該酵素又は蛋白質が発現しない破壊株が得られればいかなる方法も用いることが可能である。遺伝子破壊の方法は種々の方法(自然育種、変異剤添加、紫外線照射、放射線照射、ランダム突然変異、トランスポゾン、部位特異的遺伝子破壊等)が報告されているが、ある特定の遺伝子のみ破壊できるという点で、相同組換えによる遺伝子破壊が好ましい。相同組換えによる手法はJ.Bacteriol.,161,1219−1221(1985)やJ.Bacteriol.,177,1511−1519(1995)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,97,6640−6645(2000)等に記載されており、これらの方法及びその応用によって同業技術者であれば容易に実施可能である。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0025】
≪DOI生成工程≫
本発明のDOI生産方法は、全培地に対して1.0w/v%以下の天然培地成分(a)と、下記の成分(b)及び成分(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、を含有する培地で、DOI生産大腸菌を培養し、DOIを生成するDOI生成工程を有する:
(b)全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分;
(c)全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース及び全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量のグルコン酸からなる群より選ばれる成分。
【0026】
DOI生産大腸菌の培養方法としては、DOIを良好に生成できる方法であれば特に制限はなく、例えば、回文培養、連続培養、流加培養等が挙げられる。
回文培養とは、菌を培地に植菌して培養を開始してから終了時まで培地を加えない培養方法を指す。
連続培養とは、培養中の培養容器に培地を連続的又は間欠的に流加しながら、培養容器から培地を抜き出す培養方法を指す。
流加培養とは、培養中の培養容器に培地を連続的又は間欠的に流加し、培養終了時まで培養容器から培地を抜き出さない培養方法を指す。
本発明におけるDOI生成工程においては、流加培養又は連続培養が、培養液中の糖濃度を低くすることでDOI生産大腸菌への浸透圧ストレスを低減させ、また、新鮮な培地を与え続けることで生産効率が向上可能な観点で好ましい。
【0027】
培養条件は培養するDOI生産大腸菌の種類、量、培養装置等により適宜設定することができる。例えば、培養温度は20℃以上40℃以下が好ましく、25℃以上30℃以下がより好ましい。
【0028】
培養時の培養槽の圧力は、常圧(0.1MPa)〜0.5MPaであることが好ましく、常圧(0.1MPa)〜0.2MPaであることがより好ましい。
【0029】
培養時の培地のpHは、例えばpH4〜7にすることができる。培地のpHをこの範囲にすることにより、DOI生産大腸菌のDOI生成効率を向上することができる。より好ましくはpH5〜6となるように培地のpHを調整することが好ましい。
pHの測定は、特に限定されないが、例えば、pHメータ(型番:HM−30V、東亜ディーケーケー(株)製)により行うことができる。
【0030】
培養に際しては通常は、温度、pH、通気条件、撹拌速度等を制御し得る培養槽を用いるのが一般的であるが、本発明のDOI生産方法においては、培養に際して培養槽を使用することに限定されるものではない。培養槽を用いて培養する場合には、必要により、予め前培養として種培養を行い、これを必要量予め調製しておいた培養槽内の培地に接種してもよい。
【0031】
培養に際しては、通気を全く行わなくともよいが、DOI生産大腸菌のDOI生成効率を向上させるためには通気を行った方がよい。通気とは、必ずしも培養液中を空気が通過する必要はなく、培養槽の形状によっては適度に培養液を撹拌しながら培養液上の空気層が換気されるような上面通気も含み、培養槽の内部に何らかの方法で酸素を含む気体が流入できるものであればよい。
【0032】
培養液中に通気する場合は内圧、撹拌羽根位置、撹拌羽根形状、撹拌速度の組み合わせ等により溶存酸素濃度が変化するため、DOIの生産性及びDOI以外の有機酸量等を指標に次のように最適条件を求めることができる。
例えば、ABLE社製培養装置BMJ−01等の比較的小型の培養槽で培養する場合は、350gの初発培地を使用した際、空気を常圧で0.005L/分〜2L/分、撹拌速度50rpm〜2000rpm、より好ましくは、常圧で0.05L/分〜1L/分、撹拌速度100rpm〜1000rpmで達成し得る通気条件で好ましい結果を得ることができる。しかし、通気条件はこれに限定されるものではない。また、上述した通気条件を、培養初期から終了まで一定して保つ必要はなく、培養工程の一部で通気を行ってもよい。
【0033】
培養方法として連続培養又は流加培養を採用する場合には、初発培地に流加培地を添加すればよい。
初発培地とは、菌を植菌して培養を開始する時に培養容器内に存在する培地を指す。
流加培地とは、培養中に培養容器等に流加される培地を指す。流加培地を添加する時期、量、流加速度等の条件は、特に限定されるものではない。例えば、初発培地に、前培養した菌を移して、本培養を開始した時から、初発培地の重量に対して1w/w%〜300w/w%の流加培地を、毎時、初発培地の重量の0.1w/w%〜10w/w%ずつ添加すればよい。
【0034】
本発明のDOI生産方法において、培地は、
全培地に対して1.0w/v%以下の天然培地成分(a)と、
下記の成分(b)及び成分(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、
を含有する。
(b)全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分;
(c)全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース及び全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量のグルコン酸からなる群より選ばれる成分。
また、培地は、これらの成分の他に、DOI生産大腸菌の生育に必要な水等の水性媒体、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有してもよい。
【0035】
培地は滅菌して培養に使用するのが好ましい。当該培地の滅菌方法は、培地を、増殖能力のある微生物等が存在しない無菌状態にすることができる方法であれば限定されない。滅菌方法としては、例えば、加圧滅菌(オートクレーブ;例えば121℃、20分間の加熱滅菌)又はろ過滅菌(例えば孔径0.45μm又は0.2μmのフィルターによるろ過)等による滅菌方法等が挙げられる。加熱滅菌の際に培地成分同士の反応が懸念される場合には、1種類以上の培地成分を、それ以外の培地成分とは別に滅菌し、各々を滅菌後に混合してもよい。
【0036】
<天然培地成分(a)>
本発明における培地は、全培地に対して1.0w/v%以下の天然培地成分(a)を含有する。
天然培地成分(a)とは、天然培地を調製する際に使用される成分のことを指す。具体的には、ペプトン(牛乳、獣肉、魚肉又は大豆タンパク質等由来)、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、トマトジュース、オートミール、果汁、野菜汁、豆乳、動物乳、スキムミルク、穀物、イモ、豆、海藻又はキノコの酵素消化物、廃糖蜜等の天然物に由来する成分が挙げられる。中でも、天然培地成分としてコーンスティープリカーを用いることにより、大腸菌の生育及びDOI生産性培養が効率よく行える。
【0037】
培地に含まれる天然培地成分(a)が、全培地に対して、1.0w/v%以下であることが、DOI精製回収工程の工程数を抑制できるという観点から好ましい。また、天然培地成分は、全培地に対して、0.6w/v%以下であることがより好ましい。
また、培地に含まれる天然培地成分が、全培地に対して、0.1w/v%以上であることが、良好なDOI生産性の観点から好ましい。また、天然培地成分は、全培地に対して、0.3w/v%以上であることがより好ましい。
培地に含まれる天然培地成分の含有率の範囲については、上限値と下限値とを組み合わせて、適宜設定することができる。
【0038】
また、培地に含まれる天然培地成分(a)の量(本培養開始時点)は、0〜2.2w/v%であることが好ましく、0〜1.8w/v%であることがより好ましく、0〜1.0w/v%であることが更に好ましい。
なお、培地が、特に初発培地である場合には、培地に含まれる天然培地成分(a)の量(本培養開始時点)は、0.5w/v%〜1.8w/v%であることがより好ましい。
全培地中の天然培地成分(a)の量を22g/L以下とすることにより、精製負荷の低減された培養液を得ることができるため好ましい。
連続培養又は流加培養する際には、天然培地成分(a)は、初発培地及び流加培地のどちらか一方又は両方に添加することができる。
【0039】
また、本発明における培地は、特定量の天然培地成分(a)の他に、下記のフィチン酸成分(b)及び成分(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。
フィチン酸成分(b):全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分。
成分(c):全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース及び全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量のグルコン酸からなる群より選ばれる成分。
【0040】
<フィチン酸成分(b)>
本発明における培地は、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分(b)を含有することができる。
フィチン酸成分としては、フィチン酸、フィチン酸の加水分解物及びフィチン酸の塩が挙げられる。
フィチン酸は、myo−イノシトールの六リン酸エステルであり、イノシトールヘキサキスリン酸とも呼ばれる。また、フィチン酸のマグネシウム及びカルシウムの混合塩は極めて水に不溶性でありフィチンと呼ばれ、穀類などの植物種子や幼植物に多量に存在し、リン酸の主要貯蔵形物質であることが知られている。また、フィチン酸はホスファターゼの一種、フィターゼにより加水分解され、6個のリン酸が一つずつ遊離する6段階の反応を経て、myo−イノシトールと無機リン酸とを生成する。
【0041】
フィチン酸の加水分解物とは、フィチン酸の加水分解物であれば特に制限はされないが、DOIの生産性向上の観点より、フィチン酸を加水分解して生成するmyo−イノシトールと遊離のリン酸との混合物であることが好ましい。また、1〜5個のリン酸が結合しているフィチン酸の部分加水分解物であってもよい。また、myo−イノシトールに1〜5個のリン酸が結合したmyo−イノシトールのリン酸エステルであれば、実際にはこれらが加水分解により得られたものでなく、化学合成又は穀物、豆類、果物、肉、魚等からの抽出物等から得られたものであってもよい。
本明細書においてフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物とは、フィチン酸の加水分解物中のmyo−イノシトール又はそのリン酸エステルのモル数がフィチン酸モル数に等しいことを指す。
【0042】
フィチン酸の塩とは、フィチン酸にカルシウム、マグネシウム、カリウム又はナトリウム等が結合したもの、及びその2種以上の混合塩を指す。フィチン酸の部分加水分解物との塩も本発明におけるフィチン酸の塩に含まれる。
フィチン酸成分(b)は、フィチン酸、フィチン酸の加水分解物又はフィチン酸の塩を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
フィチン酸成分(b)は、フィチン酸、フィチン酸の加水分解物及びフィチン酸の塩からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。
2種以上のフィチン酸成分(b)を使用する場合、フィチン酸成分(b)の総含有率は、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下又は0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸と当モル量であることが好ましい。
【0043】
フィチン酸の含有率は、全培地に対して、0.02w/v%以上0.30w/v%以下であることが好ましく、0.03w/v%以上0.20w/v%以下であることがより好ましく、0.05w/v%以上0.10w/v%以下であることがさらに好ましい。
フィチン酸の加水分解物の含有率は、全培地に対して、0.02w/v%以上0.30w/v%以下のフィチン酸に等モル量であることが好ましく、0.03w/v%以上0.20w/v%以下のフィチン酸に等モル量であることがより好ましく、0.05w/v%以上0.10w/v%以下のフィチン酸に等モル量であることがさらに好ましい。
フィチン酸の塩の含有率は、全培地に対して、0.02w/v%以上0.30w/v%以下のフィチン酸に等モル量であることが好ましく、0.03w/v%以上0.20w/v%以下のフィチン酸に等モル量であることがより好ましく、0.05w/v%以上0.10w/v%以下のフィチン酸に等モル量であることがさらに好ましい。
【0044】
フィチン酸成分の含有量は、0.4mmol/L以上5.0mmol/L以下であることが好ましく、0.5mmol/L以上3.0mmol/L以下であることがより好ましく、0.74mmol/L以上1.5mmol/L以下であることがさらに好ましい。
フィチン酸成分の含有量は、全培地に含まれるフィチン酸、フィチン酸の加水分解物及びフィチン酸の塩の合計量を意味する。
フィチン酸成分の含有量が全培地に対して、0.74mmol/L以上であれば、DOI生産性の向上効果があるので好ましく、1.5mmol/L以下であれば、生産コストが高くなりすぎないので好ましい。なお、全培地に対して0.74mmol/L以上1.5mmol/L以下のフィチン酸成分の含有量は、フィチン酸の含有率に換算すると、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下に該当する。
【0045】
実生産では複数の原料を調達するよりも、1種の原料を調達する方が簡単かつ低コストである。そのためフィチン酸成分としては、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物、又は、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩のいずれか1種を含有することがより好ましい。
【0046】
流加培養又は連続培養する際は、フィチン酸成分を初発培地及び流加培地のどちらか一方又は両方に添加してもよい。流加培養する際は、フィチン酸を初発培地及び流加培地のどちらか一方或いは両方に添加してもよいが、初発培地に添加することがより好ましい。
【0047】
酵母にとって、フィチン酸は発酵促進剤となることが知られている。
酵母はフィターゼによりフィチン酸を加水分解し、生成したmyo−イノシトールを利用する。酵母にとってmyo−イノシトールはフォスファチジルイノシトールとして主要リン脂質を構成する不可欠の物質である。
J.Biosci.Bioeng.Vol.98,No.2,107−113,2004には、細胞内にmyo−イノシトールが蓄積すると、細胞膜のフォスファチジルイノシトール含量が上がり、エタノール耐性になることが示されている。しかし、大腸菌の膜にフォスファチジルイノシトールは含まれず、J.Bacteriol.Vol.177,No.10,2926−2928,1995には、培地にmyo−イノシトールを添加しても野生型の大腸菌はフォスファチジルイノシトールを合成できないことが示されており、フィチン酸が酵母に与えるような効果を大腸菌が得られるとは考えられない。
【0048】
<ペントース及び/又はグルコン酸>
本発明における培地は、全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース及び全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量のグルコン酸からなる群より選ばれる成分(c)を含有することができる。
本発明のDOI生産方法に使用し得るペントースとしては、大腸菌のペントースリン酸経路で代謝可能なペントースであれば特に制限はされない。具体的には、D−キシロース、L−アラビノース、D−リボース等が挙げられる。
【0049】
ペントースの全培地に対する含有率は、全培地に対して、0.01w/v%以上0.45w/v%以下であることが好ましく、0.02w/v%以上0.10w/v%以下であることがより好ましく、0.02w/v%以上0.05w/v%以下であることがさらに好ましい。
なお、ペントースの含有率は、全培地に含まれるD−キシロース、L−アラビノース、D−リボース等の合計量を意味する。
【0050】
グルコン酸の全培地に対する含有率は、全培地に対して、0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量であることが好ましく、0.02w/v%以上0.10w/v%以下のペントースに等モル量であることがより好ましく、0.02w/v%以上0.05w/v%以下のペントースに等モル量であることがさらに好ましい。
また、本発明において「グルコン酸」としては、グルコン酸の他に、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム及びグルコン酸カルシウム等のグルコン酸塩が含まれる。
なお、グルコン酸の含有率は、全培地に含まれるグルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム等の合計量を意味する。
ペントース及び/又はグルコン酸は、いずれかの種類を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ペントース及びグルコン酸を併用する場合、ペントースとグルコン酸との総含有率は、全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下であることが好ましく、0.02w/v%以上0.10w/v%以下であることがより好ましく、0.02w/v%以上0.05w/v%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
流加培養又は連続培養する際は、ペントース及び/又はグルコン酸を初発培地及び流加培地のどちらか一方或いは両方に添加してもよい。流加培養する際は、ペントース及び/又はグルコン酸を初発培地及び流加培地のどちらか一方或いは両方に添加してもよいが、流加培地に添加することがより好ましい。本発明で使用するペントースは、D−キシロースやL−アラビノースなど、大腸菌のペントースリン酸経路で代謝されるものを使用することができる。
流加培地中のペントース及び/又はグルコン酸の濃度は、ペントースの濃度に換算して、0.02w/v%以上が好ましく、0.03w/v%〜1.00w/v%の範囲がより好ましく、0.04w/v%〜0.10w/v%の範囲がさらに好ましい。
【0052】
DOI生産大腸菌は、Zwfの活性が低減化又は不活化されており、グルコースをペントースリン酸経路へ送ることができないが、Metabolic Engineering Vol.6, pp164−174、2004によれば、zwf破壊大腸菌は、トリカルボン酸回路の活性化などにより、最少培地でも元の大腸菌と同等の生育が可能であることが明らかになっている。しかし、驚くべきことに、DOI生産大腸菌では、流加培地に0.05w/v%という低濃度でD−キシロース、L−アラビノース又はグルコン酸を添加して培養することで、DOI生産性が大きく向上した。
【0053】
本発明における培地は、特定量の天然培地成分(a)と、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分(b)と、全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース及び全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量のグルコン酸からなる群より選ばれる成分(c)と、を含有することが、DOI生産性向上の観点から好ましい。
【0054】
フィチン酸成分とペントースとを組み合わせる場合において、フィチン酸成分とペントースとの全培地における含有比率(フィチン酸成分:ペントース)は、質量基準で、0.9:1〜6.8:1であることがDOI生産性の観点より好ましい。また、フィチン酸成分とペントースとの全培地における含有比率(フィチン酸成分:ペントース)は、質量基準で、1:1〜4:1であることがより好ましく、1.2:1〜3.5:1であることがさらに好ましい。
【0055】
フィチン酸成分とペントース及び/又はグルコン酸とを組み合わせる場合において、フィチン酸成分とペントース及び/又はグルコン酸との全培地における含有比率(フィチン酸成分:ペントース及び/又はグルコン酸)は、物質量基準で、0.2:1〜1.8:1であることがDOI生産性の観点より好ましい。また、フィチン酸成分とペントース及び/又はグルコン酸との全培地における含有比率(フィチン酸成分:ペントース及び/又はグルコン酸)は、物質量基準で、0.3:1〜1.6:1であることがより好ましく、0.4:1〜0.9:1であることがさらに好ましい。
【0056】
<その他の炭素源>
通常、DOIの原料、大腸菌の生育等にもペントース又はグルコン酸以外の炭素源(以下「その他の炭素源」とも称する。)が必要である。本発明の製造方法に用いる培地は、上述の天然培地成分(a)並びにフィチン酸成分(b)及び/又は成分(c)に加えて、その他の炭素源を含むことができる。
その他の炭素源としては、スクロース、デンプン、D−グルコース、D−フルクトース等が挙げられる。中でも、その他の炭素源としては、DOIの原料となる糖という観点から、グルコースが好適である。スクロース加水分解酵素遺伝子(cscA)を保有する菌を使用する場合は、スクロースも好適に使用できる。
【0057】
<その他の成分>
本発明における培地は、上述の天然培地成分(a)並びにフィチン酸成分(b)及び/又はペントース若しくはグルコン酸(成分(c))の他に、DOI生産大腸菌の生育に必要な水等の水性媒体、窒素源、無機塩類、ビタミン等、培養中の培地の発泡を防ぐための消泡剤等を含有してもよい。無機塩類、ビタミン等は、大腸菌の生育に好適であれば必要に応じて含まれていてもよい。無機塩類及びビタミン類を含有する培地としては、例えば公知のM9培地等の組成が例示されるが、これらに限定されない。
【0058】
DOI生産大腸菌を、流加培養又は連続培養する際は、炭素源となる糖は初発培地に添加してもよいし、流加培地に添加してもよい。
初発培地に糖を添加する場合は、大腸菌に浸透圧ストレスがかからない程度の濃度で添加するのが好ましい。又は、初発培地には添加せずに、流加培地中に、流加培地の25w/v%から50w/v%の濃度になるように糖を添加し、本培養開始と同時に流加を開始することが好ましい。流加培地に糖を添加することで、DOI生産大腸菌にかかる浸透圧ストレスが低減され、良好な生産性を得られる。
【0059】
窒素源としては、全培地に対し1.0w/v%以下である天然物(微生物、植物、動物乳又は動物肉等)に由来する窒素原子含有成分、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、アンモニア、その他アミノ酸や窒素化合物等を挙げることができる。
窒素源の種類及び量については、当業者が適宜設定することができる。
無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩、硫酸塩等が使用される。例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、モリブデン酸ナトリウム、ホウ酸、硫酸銅、ヨウ化カリウム、又は炭酸カルシウム等が挙げられる。これら無機塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。培地中の無機塩類の濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、通常約0.001〜1.0%(wt)である。
さらに必要に応じて、ビタミン類を含むこともできる。ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、ニコチン酸等が挙げられる。
【0060】
培地に添加するその他の成分の種類及び量についても、当業者が適宜設定することができる。なお、数少ない成分を少量添加することで、DOI回収時の精製負荷が小さくなると予測されるため好ましい。
【0061】
<2−デオキシ−シロ−イノソース(DOI)生産大腸菌>
本発明においてDOI生産大腸菌としては、炭素源からDOIを発酵生産する能力を付与された大腸菌が挙げられる。ここで、炭素源としては、好ましくは糖が挙げられる。また、DOI生産大腸菌としては、遺伝子組換えにより、大腸菌のDOI生産活性に関与する酵素活性の増強、不活性化、低減化又はこれらを組み合わせることにより、DOI生産活性が向上した組換え大腸菌を用いることが好ましい。
【0062】
DOI生産活性を向上させた組換え大腸菌としては、例えば、国際公開第2010/053052号パンフレットに記載の組換え大腸菌等が挙げられる。
【0063】
具体的には、DOI生産大腸菌としては、下記(i)の遺伝子組み換えと、下記(ii)〜(iii)より選択される1以上の遺伝子組換えと、を含む組換え大腸菌が好ましい。また、下記(iv)の遺伝子組換えをさらに含む組換え大腸菌は、スクロースからDOIを生産可能にするためより好ましい。さらに、下記(v)の遺伝子組換えをさらに含む組換え大腸菌は、グルコースの取り込みを促進してDOI生産性を向上できるため更に好ましい。
【0064】
(i)DOI合成酵素(BtrC)活性を付与又は強化する遺伝子組換え。
(ii)大腸菌が本来保有しているホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性を不活化又は低減化する遺伝子組換え。
(iii)大腸菌が本来保有しているグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(Zwf)活性を不活化又は低減化する遺伝子組換え。
(iv)スクロース加水分解酵素(CscA)活性が付与された遺伝子組換え。
(v)グルコース輸送促進タンパク質(Glf)活性が付与された遺伝子組換え。
【0065】
(i)のBtrCとは、グルコース−6−リン酸からDOIを生成する反応を触媒する酵素の総称を意味する。なお、本発明におけるDOI生産大腸菌においてBtrCは、バチルス属由来、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌由来、又はパエニバチルス(Paenibacillus)由来のものが、高い酵素活性の観点で好ましい。
(ii)のPgiとは、国際生化学連合(I.U.B)酵素委員会報告に準拠した酵素番号5.3.1.9に分類され、グルコース−6−リン酸からフルクトース−6−リン酸への異性化反応を可逆的に触媒する酵素の総称を指す。
(iii)のZwfとは、国際生化学連合(I.U.B)酵素委員会報告に準拠した酵素番号1.1.1.49に分類され、NADPを補酵素として、グルコース−6−リン酸から6−ホスホグルコノ−1,5−ラクトンへの脱水素反応を触媒する酵素の総称を指す。
(iv)のCscAとは、国際生化学連合(I.U.B)酵素委員会報告に準拠した酵素番号3.2.1.26に分類され、スクロースからD−グルコースとD−フルクトースを生成する加水分解反応を触媒する酵素の総称を意味する。
(v)のGlfは、細胞外のD−グルコースを細胞内に輸送するザイモモナス属細菌に由来するグルコース輸送促進タンパク質(glucose facilitator protein)を指す。
【0066】
DOI合成酵素(BtrC)活性を付与又は強化する遺伝子組換えは、具体的には、2−デオキシ−シロ−イノソース合成酵素(BtrC)をコードする遺伝子を大腸菌に導入する遺伝子組み換えであればよい。これにより、大腸菌のDOI生産能力が付与又は強化される。
【0067】
また、スクロース加水分解酵素(CscA)活性が付与された遺伝子組換えは、具体的には、CscAをコードする遺伝子を大腸菌に導入する遺伝子組み換えであればよい。これにより、遺伝子組み換え大腸菌が利用可能な原料の種類が増えるため、大腸菌のDOI生産能力が強化されると推測される。
グルコース輸送促進タンパク質(Glf)活性が付与された遺伝子組換えは、具体的には、Glfをコードする遺伝子を大腸菌に導入する遺伝子組み換えであればよい。これにより、大腸菌のDOI生産能力が強化される。
【0068】
DOI合成酵素は、グルコース−6−リン酸を基質としてDOIを生成する酵素である。そのため、DOI生産大腸菌が、本来有しているホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(Zwf)の活性を不活化又は低減化するように遺伝子組換えをしたDOI生産大腸菌を利用することが、グルコースから効率よくDOIを生産できるため好ましい。
この場合、当該DOI生産大腸菌は、D−グルコースをエネルギー源としては利用できなくなる。そのため、D−グルコース以外にエネルギー源となる糖を培地に添加することで、DOIを良好に生産できる。D−グルコース以外にエネルギー源となる糖としては、D−フルクトース、D−マンノース等が挙げられる。
また、スクロース加水分解酵素(CscA)をコードする遺伝子を遺伝子組換えで導入することにより、DOI生産大腸菌は、スクロースを加水分解できるようになるため好ましい。具体的には、スクロース加水分解酵素(CscA)をコードする遺伝子を有するDOI生産大腸菌は、スクロースの加水分解生成物であるD−グルコースをDOIへ変換し、D−フルクトースをエネルギー源とすることが可能になるため好ましい。
スクロースは、サトウキビ、甜菜等から得られる糖であり、スクロースが含まれる粗糖又は廃糖蜜はバイオエタノールの原料となるなど、重要なバイオマス原料である。大腸菌K12由来株、B由来株等は、本来はスクロースを加水分解できないが、スクロース加水分解酵素(CscA)をコードする遺伝子を導入した遺伝子組換え大腸菌は、粗糖や廃糖蜜を原料としてDOIを生産可能になるため好ましい。
【0069】
さらに、本発明におけるDOI生産大腸菌は、DOI生産性向上及び粗糖、廃糖蜜等のスクロースを含む原料からも生産を可能にするDOI生産性向上の観点より、本来有しているホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(Zwf)の活性が不活化又は低減化され、且つスクロース加水分解酵素(CscA)をコードする遺伝子を有しているDOI生産大腸菌であることがより好ましい。
また、グルコース輸送促進タンパク質(Glf)をコードする遺伝子を遺伝子組み換えでDOI生産大腸菌に組み込むことにより、グルコースを細胞内に取り込む際にホスホエノールピルビン酸を必要としなくなるので、グルコース取込みが促進され、DOI生産性が向上するため好ましい。
なお、DOI生産大腸菌の培地への接種量、接種方法等は、特に制限されない。
【0070】
≪DOI精製回収工程≫
本発明のDOI生産方法は、生成した2−デオキシ−シロ−イノソースを培地から精製して回収するDOI精製回収工程を有する。
【0071】
精製回収工程は、DOI生成工程で得られたDOIを回収するものであり、一般に、培養物中に蓄積したDOIを、培養物から精製して回収することにより行われる。
本発明における培養物とは、培養により得られる物であり、具体的には、培地、培養されたDOI生産大腸菌、DOI生産大腸菌によって生成されたDOI等を含有する。
また、培養物の一例として、培養液等が挙げられる。
【0072】
培養物からDOIを精製して回収する方法は、例えば培養液からならば通常知られた方法が利用できる。例えば、菌体を遠心分離などで除去した後、培養上清を活性炭処理してタンパク質、高分子成分等を除き、処理液をイオン交換樹脂に添加し蒸留水で溶出を行う。また、屈折率、pH、伝導率等を測定しながら不純物を含まないフラクションを分取して、その水溶液を取り除いてDOIを回収することができる。
本発明によれば精製負荷が低減されることで、DOI精製回収工程において使用する活性炭量又はイオン交換樹脂量を削減することができる。
【0073】
<2−デオキシ−シロ−イノソース>
本発明のDOIは、全培地に対して1.0w/v%以下の天然培地成分(a)と、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸、全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の加水分解物及び全培地に対して0.05w/v%以上0.27w/v%以下のフィチン酸に等モル量のフィチン酸の塩からなる群より選ばれるフィチン酸成分(b)、並びに、全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントース及び全培地に対して0.01w/v%以上0.45w/v%以下のペントースに等モル量のグルコン酸からなる群より選ばれる成分(c)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、を含有する培地で、2−デオキシ−シロ−イノソース生産大腸菌を培養し、2−デオキシ−シロ−イノソースを生成すること、及び生成した2−デオキシ−シロ−イノソースを培地から回収すること、を含む2−デオキシ−シロ−イノソースの生産方法により得られる。
DOIの各生産工程は、前述のDOIの生産方法で説明した各工程についての説明を引用するものとする。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」はw/v%を意味する。
【0075】
(製造例)
国際公開第2010/053052号パンフレットに記載の方法と同様にDOI生産大腸菌株、BΔpgiΔzwf/pGAP−btrC−cscA−glf株を作製した。
【0076】
[製造例1]
<エシェリヒア・コリpgi遺伝子の近傍領域のクローニング>
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNAの全塩基配列は公知であり(GenBank accession number CP000819)、エシェリヒア・コリのホスホグルコースイソメラーゼをコードする遺伝子(以下pgiと呼ぶことがある)の塩基配列も報告されている。pgi(1,650bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、CAGGAATTCG CTATATCTGG CTCTGCACG(配列番号1)、CAGTCTAGAG CAATACTCTT CTGATTTTGA G(配列番号2)、CAGTCTAGAT CATCGTCGAT ATGTAGGCC(配列番号3)及びGACCTGCAGA TCATCCGTCA GCTGTACGC(配列番号4)の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号1のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位を、配列番号2及び3のプライマーは5’末端側にXbaI認識部位を、配列番号4のプライマーは5’末端側にPstI認識部位をそれぞれ有している。
【0077】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNAを、Current Protocols in Molecular Biology(JohnWiley & Sons)記載の方法により調製した。得られたゲノムDNAを鋳型として、配列番号1の塩基配列を有するプライマーと配列番号2の塩基配列を有するプライマーとの組み合わせ、及び配列番号3の塩基配列を有するプライマーと配列番号4の塩基配列を有するプライマーとの組み合わせで、通常の条件でPCRを行うことにより、それぞれ約1.0kb(以下pgi−L断片及びpgi−R断片と呼ぶことがある)のDNA断片を増幅した。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収した。pgi−L断片をEcoRI及びXbaIで、pgi−R断片をXbaI及びPstIでそれぞれ消化した。この消化断片2種と、温度感受性プラスミドpTH18cs1(GenBank accession number AB019610)のEcoRI及びPstI消化物とを混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換して、pgiの5’上流近傍断片と3’下流近傍断片の2つの断片を含むプラスミドを得た。得られたプラスミドをpTHΔpgiと命名した。
【0078】
[製造例2]
<エシェリヒア・コリBΔpgi株の作製>
製造例1で得たプラスミドpTHΔpgiをエシェリヒア・コリB株に形質転換し、細胞が温度感受性プラスミドを保持できる30℃でクロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレート上で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をLB培地30℃で3時間から一晩培養した。その後、LB液体培地又は生理食塩水で希釈して、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレート上に塗布した。このLB寒天プレートを、温度感受性プラスミドを保持できない42℃で培養し、生育した形質転換体を染色体外−染色体間相同組換えによりプラスミド全長がエシェリヒア・コリ染色体に組み込まれた株として得た。
【0079】
この株からゲノムDNAを取得し、これを鋳型としたPCRを実施して、pTH18cs1が有するクロラムフェニコール耐性遺伝子が染色体上に存在すること、並びにpgiの5’上流近傍領域、及び3’下流近傍領域のそれぞれと相同な領域が染色体上に存在することをもって、プラスミド全長がエシェリヒア・コリ染色体に組み込まれた株であることを確認した。
プラスミド全長がエシェリヒア・コリ染色体に組み込まれた株を、クロラムフェニコールを含まないLB液体培地20mlを入れた100ml容のバッフル付きフラスコに植え、これを30℃で4時間振とう培養した。この培養液を、クロラムフェニコールを含まないLB液体培地で希釈し、クロラムフェニコールを含まないLB寒天培地上に塗布した。これを42℃で培養して生育したコロニーを無作為に96個選抜し、それぞれを、クロラムフェニコールを含まないLB寒天培地上、又はクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に生育させ、クロラムフェニコール感受性の株を選抜した。
さらに、選抜された株からゲノムDNAを取得し、これを鋳型としたPCRを実施してpgiが欠損した株を選抜し、これをBΔpgi株と命名した。
【0080】
[製造例3]
<エシェリヒア・コリzwf遺伝子の近傍領域のクローニング>
エシェリヒア・コリのグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(以下zwfと呼ぶことがある)の塩基配列も報告されている。zwf(1,476bp)の塩基配列近傍領域をクローニングするため、CAGGAATTCA TGCGTTGCAG CACGATATC(配列番号5)、CAGTCTAGAT AACCCGGTAC TTAAGCCAG(配列番号6)、CAGTCTAGAC TGCGCTTATC CTTTATGGT(配列番号7)及びGACCTGCAGT TACCGGTCAT GCGTGTAAC(配列番号8)の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを4種合成した。配列番号5のプライマーは5’末端側にEcoRI認識部位を、配列番号6及び7のプライマーは5’末端側にXbaI認識部位を、配列番号8のプライマーは5’末端側にPstI認識部位をそれぞれ有している。
【0081】
エシェリヒア・コリB株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号5の塩基配列を有するプライマーと配列番号6の塩基配列を有するプライマーとの組み合わせ、及び配列番号7の塩基配列を有するプライマーと配列番号8の塩基配列を有するプライマーとの組み合わせで、通常の条件でPCRを行うことにより、それぞれ約0.85kb(以下zwf−L断片と呼ぶことがある)のDNA断片及び約1.0kb(以下zwf−R断片と呼ぶことがある)のDNA断片を増幅した。これらのDNA断片をアガロース電気泳動にて分離、回収した。zwf−L断片をEcoRI及びXbaIで、zwf−R断片をXbaI及びPstIでそれぞれ消化した。この消化断片2種と、温度感受性プラスミドpTH18cs1のEcoRI及びPstI消化物とを混合し、T4DNAリガーゼで反応した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換して、zwfの5’上流近傍断片と3’下流近傍断片の2つの断片を含むプラスミドを得た。得られたプラスミドをpTHΔzwfと命名した。
【0082】
[製造例4]
<エシェリヒア・コリBΔpgiΔzwf株の作製>
製造例3で得たプラスミドpTHΔzwfを、製造例2で得たエシェリヒア・コリBΔpgi株に形質転換し、細胞が温度感受性プラスミドを保持できる30℃で、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレート上で一晩培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体をLB培地30℃で3時間から一晩培養後、LB液体培地又は生理食塩水で希釈して、クロラムフェニコール10μg/mlを含むLB寒天プレート上に塗布した。このLB寒天プレートを、温度感受性プラスミドを保持できない42℃で培養し、生育した形質転換体を染色体外−染色体間相同組換えによりプラスミド全長がエシェリヒア・コリ染色体に組み込まれた株として得た。
【0083】
この株からゲノムDNAを取得し、これを鋳型としたPCRを実施して、pTH18cs1が有するクロラムフェニコール耐性遺伝子が染色体上に存在すること、並びにzwfの5’上流近傍領域、及び3’下流近傍領域のそれぞれと相同な領域がゲノム上に存在することをもって、プラスミド全長がエシェリヒア・コリ染色体に組み込まれた株であることを確認した。
プラスミド全長がエシェリヒア・コリ染色体に組み込まれた株を、クロラムフェニコールを含まないLB液体培地20mlを入れた100ml容のバッフル付きフラスコに植え、これを30℃で4時間振とう培養した。この培養液を、クロラムフェニコールを含まないLB液体培地で希釈し、クロラムフェニコールを含まないLB寒天培地上に塗布した。これを42℃で培養して生育したコロニーを無作為に96個選抜し、それぞれを、クロラムフェニコールを含まないLB寒天培地上、又はクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に生育させ、クロラムフェニコール感受性の株を選抜した。
さらに選抜された株からゲノムDNAを取得し、これを鋳型としたPCRを実施してzwfが欠損した株を選抜し、これをBΔpgiΔzwf株と命名した。
【0084】
[製造例5]
<GAPDHプロモーター制御下、DOI合成酵素遺伝子(btrC)発現ベクターの構築>
エシェリヒア・コリのGAPDH遺伝子の塩基配列はすでに報告されている。グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーターを取得するため、CGAGCTACAT ATGCAATGAT TGACACGATT CCG(配列番号9)、及びCCAAGCTTCT CGAGGTCGAC GGATCCGAGC TCAGCTATTT GTTAGTGAAT AAAAGG(配列番号10)の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーをそれぞれ合成した。配列番号9のプライマーはその5’末端側にNdeI認識部位を、配列番号10のプライマーはその5’末端側から順にHindIII、XhoI、SalI、BamHI、SacI認識部位をそれぞれ有している。
上記2種のプライマーとともに、エシェリヒア・コリB株のゲノムDNAを鋳型に用い、通常条件でPCR法を行い、DNAフラグメントを増幅した。得られたDNAフラグメントを制限酵素NdeIとHindIIIで消化することで約100bpのGAPDHプロモーターをコードするフラグメントを得た。次に上記のDNAフラグメントと、NdeI、HindIIIで消化した大腸菌用クローニングベクターpBR322(GenBank accession number J01749)を混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーを、アンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で30℃一晩培養し、得られた菌体からプラスミドを回収した。このプラスミドをpGAPと命名した。
【0085】
Bacillus circulansが有するDOI合成酵素遺伝子(btrC)の塩基配列はすでに報告されている(GenBank accession number AB097196)。btrC遺伝子を取得するために、CACTGGAGCT CGCTGGTGGA ATATATGACG ACTAAACAAA TTTG(配列番号11)、及びCAGGATCCTT ACAGCCCTTC CCGGATC(配列番号12)の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーをそれぞれ合成した。配列番号11のプライマーはその5’末端側から順にSacI認識部位と13塩基のGAPDH遺伝子のリボソーム結合配列を有している。配列番号12のプライマーはその5’末端側にBamHI認識部位を有している。
上記2種のプライマーとともに、Bacillus circulansのゲノムDNAを鋳型として通常条件でPCR法を行い、得られたDNAフラグメントを制限酵素SacI及びBamHIで消化することで約1.1kbpのDOI合成酵素遺伝子(btrC)フラグメントを得た。このDNAフラグメントとプラスミドpGAPを制限酵素SacI及びBamHIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーを、アンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で30℃一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpGAP−btrCを回収して、DOI合成酵素遺伝子(btrC)発現ベクターを構築した。
【0086】
[製造例6]
<GAPDHプロモーター制御下でのDOI合成酵素遺伝子(btrC)及びスクロース加水分解酵素遺伝子(cscA)発現ベクターの構築>
エシェリヒア・コリO−157株が有するスクロース加水分解酵素遺伝子(cscA)の塩基配列はすでに報告されている。すなわち、GenBank accession number AE005174に記載のエシェリヒア・コリO−157株ゲノム配列の3274383−3275816に記載されている。cscA遺伝子を取得するために、GCGGATCCGC TGGTGGAATA TATGACGCAA TCTCGATTGC(配列番号13)、及びGACGCGTCGA CTTAACCCAG TTGCCAGAGT GC(配列番号14)の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーをそれぞれ合成した。配列番号13のプライマーはその5’末端側から順にBamHI認識部位と13塩基のGAPDH遺伝子のリボソーム結合配列を有している。配列番号14のプライマーはその5’末端側にSalI認識部位を有している。
【0087】
上記2種のプライマーとともに、エシェリヒア・コリO−157株のゲノムDNA(SIGMA−ALDRICH:IRMM449)を鋳型として通常条件でPCR法を行い、得られたDNAフラグメントを制限酵素BamHI及びSalIで消化することで約1.4kbpのスクロース加水分解酵素遺伝子(cscA)フラグメントを得た。このDNAフラグメントとプラスミドpGAP−btrCを制限酵素BamHI及びSalIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーを、アンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で30℃一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpGAP−btrC−cscAを回収して、DOI合成酵素遺伝子(btrC)及びスクロース加水分解酵素遺伝子(cscA)発現ベクターを構築した。
【0088】
[製造例7]
<GAPDHプロモーター制御下でのDOI合成酵素遺伝子(btrC)、スクロース加水分解酵素遺伝子(cscA)及びグルコース輸送促進タンパク質遺伝子(glf)発現ベクターの構築>
Zymomonas mobilisが有するグルコース輸送促進タンパク質遺伝子(glf)の塩基配列はすでに報告されている(GenBank accession number M60615)。glf遺伝子を取得するために、CCTGTCGACG CTGGTGGAAT ATATGAGTTC TGAAAGTAGT CAGG(配列番号15)、及びCTACTCGAGC TACTTCTGGG AGCGCCACA(配列番号16)の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーをそれぞれ合成した。配列番号15のプライマーはその5’末端側から順にSalI認識部位と13塩基のGAPDH遺伝子のリボソーム結合配列を有している。配列番号16のプライマーはその5’末端側にXhoI認識部位を有している。
【0089】
上記2種のプライマーとともに、Zymomonas mobilisのゲノムDNAを鋳型として通常条件でPCR法を行い、得られたDNAフラグメントを制限酵素SalI及びXhoIで消化することで約1.4kbpのグルコース輸送促進タンパク質遺伝子(glf)フラグメントを得た。このDNAフラグメントとプラスミドpGAP−btrC−cscAを制限酵素SalI及びXhoIで消化することで得られるフラグメントを混合し、リガーゼを用いて結合した後、エシェリヒア・コリDH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートに生育する形質転換体を得た。得られたコロニーを、アンピシリン50μg/mLを含むLB液体培地で30℃一晩培養し、得られた菌体からプラスミドpGAP−btrC−cscA−glfを回収して、DOI合成酵素遺伝子(btrC)、スクロース加水分解酵素遺伝子(cscA)及びグルコース輸送促進タンパク質遺伝子(glf)発現ベクターを構築した。
【0090】
[製造例8]
<pGAP−btrC−cscA−glfのBΔpgiΔzwf株への導入>
上記のプラスミドpGAP−btrC−cscA−glfをBΔpgiΔzwf株に形質転換し、アンピシリン50μg/mLを含むLB寒天プレートで37℃一晩培養することによりBΔpgiΔzwf/pGAP−btrC−cscA−glf株を得た。
【0091】
[比較例1]初発培地のCSL濃度が1%で流加培地のCSL濃度が0%の条件でDOI生産
前培養として500mL容バッフル付三角フラスコにいれたLB Broth, Miller培養液(Difco244620)100mLにBΔpgiΔzwf/pGAP−btrC−cscA−glf株を植菌し、28℃、120rpmで16時間撹拌培養を行った。
表1の組成よりなる初発培地(CSL低減培地)350gの入った1L容の培養槽(ABLE社製培養装置BMJ−01)を滅菌し、そこに前培養液20mLを移し、培養(本培養)を開始した。培養開始と共に、表2の組成よりなる流加培地を0.1g/minの速度で流加した。流加培地は、グルコース溶液、フルクトース溶液、リン酸二水素カリウムと硫酸アンモニウムと塩化ナトリウムとを含有する溶液、硫酸マグネシウム溶液、塩化カルシウム溶液、及び塩酸チアミン溶液をそれぞれ別々に滅菌した後、表2の組成になるように混合して作製した。培養は大気圧下、通気量0.5L/min、撹拌速度800rpm、培養温度28℃、pH5.0(12.5v/v%アンモニア溶液で調整)で48時間行った。
培養終了後、得られた培養液中のDOI蓄積量をHPLCで定法に従って測定した(カラム:ULTRON PS−80H(信和化工)、溶離液:過塩素酸水溶液(pH=2.1)、流速1.0mL/min)。48時間目のDOI蓄積濃度は46g/Lだった。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】


【0094】
[実施例1]フィチン酸を初発培地に添加してDOI生産
表1の組成の初発培地に0.14w/v%(2.11mmol/L)となるようにフィチン酸を添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は66g/Lだった。
【0095】
[実施例2]D−キシロースを流加培地に添加してDOI生産
表2の組成の流加培地に0.05w/v%となるようにD−キシロース添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は58g/Lだった。
【0096】
[実施例3]フィチン酸を初発培地に、D−キシロースを流加培地に添加してDOI生産
表1の組成の初発培地に0.14w/v%となるようにフィチン酸を添加し、表2の組成の流加培地に0.05w/v%となるようにD−キシロース添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は72g/Lだった。
【0097】
[参考例1]初発培地と流加培地のCSL濃度が3w/v%の条件でDOI生産
表3の組成の初発培地と表4の組成の流加培地を使用し、培養をpH5.4で行った以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は68g/Lだった。
【0098】
【表3】


【0099】
【表4】


【0100】
比較例1、実施例1〜3及び参考例1の結果を表5に示す。
CSL濃度1w/v%の初発培地及びCSLを使用しない流加培地でDOI生産大腸菌を流加培養した場合、DOI生産性は低下したが、フィチン酸を初期培地に、又はD−キシロースを流加培地に添加することで、初期培地及び流加培地のCSL濃度を3w/v%として生産した場合と同等の生産性を得られることが確認された。
【0101】
【表5】

【0102】
[実施例4]フィチン酸を流加培地に添加してDOI生産
表2の組成の流加培地に0.14w/v%となるようにフィチン酸を添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は55g/Lだった。
フィチン酸は、流加培地に添加するよりも、初発培地に添加した方が大きい効果を得られることが確認された。
【0103】
[実施例5]フィチン酸及びD−キシロースを初発培地に添加してDOI生産
表1の組成の初発培地に0.14w/v%となるようにフィチン酸を及び0.05w/v%となるようにD−キシロースを添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は68g/Lだった。
D−キシロースは流加培地に添加した方が大きな効果が得られることが確認された。
【0104】
[実施例6]流加培地にL−アラビノースを添加してDOI生産
表2の組成の流加培地に0.05w/v%となるようにL−アラビノースを添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は、50g/Lだった。
D−キシロースと同様にL−アラビノースでも生産性を向上させる効果が確認された。この結果より、D−リボース、D−リブロース等のペントースリン酸経路で代謝されるペントースを添加しても、同様の効果が得られると考えられる。
【0105】
[実施例7]初発培地にフィチン酸を添加し、流加培地にD−キシロースを添加してDOI生産
表2の組成の流加培地に0.025w/v%となるようにD−キシロースを添加した以外は実施例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は66g/Lだった。
より高い生産性を得るには流加培地のD−キシロース濃度は0.025w/v%より高い濃度が好ましいことが確認された。
【0106】
[実施例8]初発培地にフィチン酸を添加し、流加培地にD−キシロースを添加してDOI生産
表1の組成の初発培地に0.09w/v%(1.35mmol/L)となるようにフィチン酸を添加した以外は実施例2と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は65g/Lだった。
より高い生産性を得るには初発培地のフィチン酸濃度は0.09w/v%より高い濃度が好ましいことが確認された。
【0107】
[実施例9]初発培地にmyo−イノシトールとリン酸塩を添加してDOI生産
表1の組成の初発培地に、0.14w/v%(2.11mmol/L)になるように添加したフィチン酸と等モル濃度になるようにmyo−イノシトール、リン酸二水素カリウム、又はmyo−イノシトールとリン酸二水素カリウムとの組み合わせを添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は、それぞれ47g/L、54g/L、68g/Lとなった。
myo−イノシトール及びリン酸二水素カリウムの両方添加した場合に、フィチン酸を添加した場合と同程度の効果を得られることが確認された。
【0108】
[実施例10]初発培地にフィチン酸カルシウムを添加し、流加培地にD−キシロースを添加してDOI生産
表1の組成の初発培地に、0.14w/v%フィチン酸と等モル濃度になるようにフィチン酸カルシウムを添加した以外は実施例2と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDO蓄積濃度は70g/Lとなった。
フィチン酸カルシウムでもフィチン酸と同等の効果が得られることが確認された。
【0109】
[実施例11]初発培地にフィチン酸カルシウムを添加してDOI生産
表1の組成の初発培地に、0.19w/v%(2.84mmmol/L)、又は0.48w/v%フィチン酸と等モル濃度(7.35mmol/L)になるようにフィチン酸カルシウムを添加した以外は比較例1と同様に行った。48時間目のDO蓄積濃度は、それぞれ62g/L、57g/Lだった。
【0110】
[実施例12]流加培地にD−キシロースを添加してDOI生産
表2の組成の流加培地に、0.5w/v%、又は1.0w/v%の濃度になるようにD−キシロースを添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDO蓄積濃度は、それぞれ66g/Lと58g/Lだった。
【0111】
[実施例13]流加培地にグルコン酸を添加してDOI生産
表2に示す流加培地に、0.05w/v%D−キシロースと等モル濃度になるようにグルコン酸を添加した以外は比較例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は63g/Lとなった。
D−キシロースとL−アラビノースと同じように、グルコン酸を用いた場合にも生産性を向上させる効果が確認された。
【0112】
[実施例14]初期培地にフィチン酸、流加培地にD−キシロースを添加して、スクロースからDOI生産
表6に示す組成の流加培地を使用し、流加培地に0.05w/v%になるようにD−キシロースを添加し、培養のpHを5.5とした以外は実施例1と同様に培養及びDOI蓄積量の測定を行った。48時間目のDOI蓄積濃度は52g/Lだった。
スクロースを原料とした場合でも、フィチン酸とD−キシロースを添加したCSL低減培地でDOIの良好な生産が可能であることが確認された。
【0113】
【表6】


【0114】
[実施例15]DOIの粗精製
DOIを安定化させるために、実施例3で得た培養液、又は参考例1で得た培養液に硫酸を加えてpH3.0にした。菌体を除く為に、8000×gで20分間遠心分離した。脱色と粗精製のために、遠心分離上清の0.5w/w%活性炭を添加して攪拌した。活性炭を除く為に、ろ紙と0.45μmのメンブレンフィルターを使って濾過した。分光光度計における純水の400nmの波長の透過率を100%とした場合、活性炭除去後のろ液の400nmの波長の透過率は、実施例3で得た培養液のろ液では40%で、参考例1で得られた培養液のろ液では8%あった。
本発明によるDOI生産方法で得られた培養液は精製負荷が小さいことが確認された。
【0115】
日本国特許出願2013−146832号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書の記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的に且つ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【配列表】
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