(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
図1〜
図5を参照して、本発明の実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100を説明する。以下では、主に妊娠状態モニタリングシステム100をベッドと共に使用する場合を例として説明するが、妊娠状態モニタリングシステム100をその他の装置、例えば分娩台やストレッチャーと共に使用することもできる。
【0016】
本明細書及び本発明において「妊娠状態」とは、母体(妊婦)の状態且つ/又は当該母体内の胎児に関連する様々な状態を意味する。また、本明細書及び本発明において、ベッド、分娩台、ストレッチャー等、妊娠状態モニタリングシステムと共に使用され且つその上に妊婦が載せられる装置や機器を「載置台」と呼ぶ。
【0017】
図1に示す通り、本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100は、荷重検出部1、制御部3、記憶部4、表示部5を主に有する。荷重検出部1と制御部3とは、A/D変換部2を介して接続されている。制御部3には更に、報知部6、通信部7、及び入力部8が接続されている。本明細書及び本発明では、表示部5、報知部6、通信部7をまとめて「出力部」と呼ぶ。
【0018】
荷重検出部1は、4つの荷重検出器1a、1b、1c、1dを備える。荷重検出器1a、1b、1c、1dのそれぞれは、例えばビーム形のロードセルを用いて荷重を検出する荷重検出器である。このような荷重検出器は例えば、特許第4829020号や特許第4002905号に記載されている。荷重検出器1a、1b、1c、1dはそれぞれ、配線によりA/D変換部2に接続されている。
【0019】
荷重検出部1の4つの荷重検出器1a、1b、1c、1dは、被験者が使用するベッドの脚の下に配置される。具体的には荷重検出器1a、1b、1c、1dは、
図2に示す通り、ベッドBDの四隅の脚の下端部に取り付けられたキャスターCa、Cb、Cc、Cdの下にそれぞれ配置される。
【0020】
A/D変換部2は、荷重検出部1からのアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器を備え、荷重検出部1と制御部3にそれぞれ配線で接続されている。
【0021】
制御部3は、専用又は汎用のコンピュータであり、内部に信号解析部31、呼吸情報算出部32、心拍情報算出部33、重心位置算出部34、状態監視部35が構築されている。
【0022】
記憶部4は、妊娠状態モニタリングシステム100において使用されるデータを記憶する記憶装置であり、例えばハードディスク(磁気ディスク)を用いることができる。表示部5は、制御部3から出力される情報を妊娠状態モニタリングシステム100の使用者に表示する液晶モニター等のモニターである。
【0023】
報知部6は、制御部3からの情報に基づいて所定の報知を聴覚的に行う装置、例えばスピーカを備える。通信部7は、所定の回線を通じて外部と通信を行う部分であり、例えばモデムを備える。入力部8は、制御部3に対して所定の入力を行うためのインターフェイスであり、キーボード及びマウスにし得る。
【0024】
このような妊娠状態モニタリングシステム100を使用してベッド上の被験者S(母体(妊婦)S1及び胎児S2)の状態を監視する動作について説明する。
【0025】
妊娠状態モニタリングシステム100を使用した被験者の状態の監視は、
図3に示す通り、被験者Sの荷重を荷重信号として検出する荷重検出工程(S101)、検出した荷重信号を解析する信号解析工程(S102)、解析した信号に基づいて妊婦の呼吸情報及び心拍情報を算出する呼吸情報算出工程(S103)及び心拍情報算出工程(S104)、検出した荷重信号に基づいて妊婦及び胎児の重心位置を算出する重心位置算出工程(S105)、上記工程において算出された各種情報に基づいて妊娠状態を監視する状態監視工程(S106)、及び監視結果を出力する出力工程(S107)を主に含む。
【0026】
[荷重検出工程]
荷重検出工程S101では、荷重検出器1a、1b、1c、1dを用いてベッドBD上の被験者S(母体(妊婦)S1及び胎児S2)の荷重を検出する。荷重検出器1a、1b、1c、1dは、上記の通りキャスターCa、Cb、Cc、Cdの下にそれぞれ配置されているため、ベッドBDの上面に加えられる荷重は、4つの荷重検出器1a、1b、1c、1dに分散して検知される。
【0027】
荷重検出器1a、1b、1c、1dはそれぞれ、荷重(荷重変化)を検出してアナログ信号としてA/D変換部2に出力する。A/D変換部2は、サンプリング周期を例えば5ミリ秒として、アナログ信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号(以下「荷重信号」)として制御部3に出力する。以下では、荷重検出器1a、1b、1c、1dから出力され、A/D変換部2においてデジタル変換された荷重信号を、それぞれ荷重信号sa、sb、sc、sdと呼ぶ。
【0028】
[信号解析工程]
信号解析工程S102は、信号解析部31により、荷重信号sa、sb、sc、sdの各々を複数の成分に分離する工程である。具体的には、荷重信号sa〜sdの各々を、母体S1の呼吸に応じて振動する成分、母体S1の心拍に応じて振動する成分、胎児S2の心拍に応じて振動する成分、及び母体S1の子宮の収縮に応じて振動する成分に分離する。
【0029】
信号解析部31は、まず、荷重信号saについてフーリエ解析を行い、例えば0.1Hz〜20Hzの周波数帯域の周波数スペクトルを求める。求められた周波数スペクトルの一例を
図4(a)、
図4(b)に示す。
図4(a)は母体S1の子宮に収縮が生じていない期間に取得された荷重信号saに対するフーリエ解析の結果、
図4(b)は母体S1の子宮に収縮が生じている期間に取得された荷重信号saに対するフーリエ解析の結果である。なお、荷重信号sa〜sdはいずれもベッドBD上の被験者Sの生体活動に応じて振動しているため、荷重信号sa〜sdの各々についてのフーリエ解析の結果は略同一となる。したがってフーリエ解析は荷重信号sa〜sdの少なくとも1つについて行えばよく、必ずしも荷重信号saについて行う必要はない。
【0030】
人間の呼吸は、1分間に約12〜20回程度行われるため、人間の呼吸の周波数は0.2〜0.33Hz程度である。したがって、荷重信号saについてフーリエ解析を行えば、0.2〜0.33Hzの周波数帯域において、母体S1の呼吸の周波数(母体呼吸周波数)に対応する位置に周波数ピークが現れる。信号解析部31は、この周波数帯域に現れた周波数ピークの位置に基づいて、母体呼吸周波数を特定する。
【0031】
図4(a)、
図4(b)に示す例においては、0.2〜0.33Hz程度の周波数帯域では、周波数ν
1bHzの位置に周波数ピークが現れている。したがって信号解析部31は、母体呼吸周波数(の中心値)がν
1bHzであると特定する。なお、胎児S2は肺呼吸を行っていないため、周波数スペクトルに胎児の呼吸に対応する周波数ピークは現れない。
【0032】
人間の心拍は、1分間に30〜200回程度行われるため、人間の心拍の周波数は0.5〜3.3Hz程度である。また、母体の心拍数の正常値は約80〜90回程度(1.33〜1.5Hz程度)、胎児の心拍数の正常値は、母体の心拍数の正常値よりも大きい約120〜160回程度(2〜2.66Hz程度)であることがわかっている。
【0033】
したがって、荷重信号saについてフーリエ解析を行えば、0.5〜3.3Hz程度の周波数帯域において、母体S1の心拍の周波数(母体心拍周波数)に対応する位置、及び胎児S2の心拍の周波数(胎児心拍周波数)に対応する位置に周波数ピークが現れる。信号解析部31は、この周波数帯域に現れた周波数ピークの位置に基づいて、母体心拍周波数及び胎児心拍周波数を特定する。
【0034】
図4(a)、
図4(b)に示す例においては、0.5〜3.3Hz程度の周波数帯域では、周波数ν
1hHzの位置、及び周波数ν
1hHzより高周波数側である周波数ν
2hHzの位置に周波数ピークが現れている。したがって信号解析部31は、母体心拍周波数(の中心値)がν
1hHzであり、胎児心拍周波数(の中心値)がν
2hHzであると特定する。
【0035】
母体S1の子宮に収縮が生じている時には、子宮を構成する子宮筋は微小振動しており、その周波数は約3〜20Hz程度であることが分かっている(例えば、特許文献1参照)。したがって、荷重信号saについてフーリエ解析を行えば、3〜20Hz程度の周波数帯域において、母体S1の子宮筋の振動周波数(子宮筋周波数)に対応する位置に周波数ピークが現れる。信号解析部31は、この周波数帯域に現れた周波数ピークの位置に基づいて、子宮筋周波数を特定する。
【0036】
図4(b)に示す例においては、3〜20Hz程度の周波数帯域では、周波数ν
1cHzの位置に周波数ピークが現れている。したがって信号解析部31は、子宮筋周波数(の中心値)がν
1cHzであると特定する。なお、母体S1の子宮に収縮が生じていない期間に取得された荷重信号saに対するフーリエ解析の結果の一例を示す
図4(a)においては、3〜20Hz程度の周波数帯域に周波数ピークは現れていない。
【0037】
次いで、信号解析部31は、荷重信号sa、sb、sc、sdの各々から、特定した母体呼吸周波数(ν
1bHz)で振動する成分、母体心拍周波数(ν
1hHZ)で振動する成分、胎児心拍周波数(ν
2hHz)で振動する成分、及び子宮筋周波数(ν
1cHz)で振動する成分をそれぞれ分離して取り出す。これらの各成分は、例えば、荷重信号sa〜sdの各々に対してバンドパスフィルタ処理を行うことにより取り出される。
【0038】
以下では、荷重信号sa、sb、sc、sdに含まれる母体呼吸周波数で振動する成分を、それぞれ、母体呼吸成分sa
1b、sb
1b、sc
1b、sd
1bと呼ぶ。同様に、荷重信号sa〜sdに含まれる母体心拍周波数で振動する成分を母体心拍成分sa
1h〜sd
1h、胎児心拍周波数で振動する成分を胎児心拍成分sa
2h〜sd
2h、子宮筋周波数で振動する成分を子宮収縮成分sa
1c〜sd
1cと呼ぶ。
【0039】
[呼吸情報算出工程、心拍情報算出工程]
呼吸情報算出工程S103では、呼吸情報算出部32が、信号解析工程S102において特定された母体呼吸周波数の値に基づき、母体S1の呼吸数を算出する。この算出は、具体的には例えば、母体呼吸周波数[Hz]を呼吸数[回/分]に換算することにより行われる。
【0040】
心拍情報算出工程S104では、心拍情報算出部33が、信号解析工程S102において特定された母体心拍周波数、胎児心拍周波数の値に基づき母体S1、胎児S2の心拍数を算出する。これらの算出も、具体的には例えば、母体心拍周波数[Hz]及び胎児心拍周波数[Hz]を呼吸数[回/分]に換算することにより行われる。
【0041】
[重心位置算出工程]
重心位置算出工程S105では、重心位置算出部34が、ベッドBD上に加えられる全荷重の合成重心である全体重心G
0の位置、母体呼吸成分sa
1b〜sd
1bに基づく母体呼吸重心G
1bの位置、母体心拍成分sa
1h〜sd
1hに基づく母体心拍重心G
1hの位置、胎児心拍成分sa
2h〜sd
2hに基づく胎児心拍重心G
2hの位置をそれぞれ算出する。
【0042】
各重心位置の算出は次の演算により行われる。ベッドBD上に、
図2に示す通りXY座標を設定し、荷重検出器1a、1b、1c、1d、の座標をそれぞれ(X
a、Y
a)、(X
b、Y
b)、(X
c、Y
c)、(X
d、Y
d)、荷重検出器1a、1b、1c、1dの荷重の検出値をそれぞれW
a、W
b、W
c、W
dとすると、ベッドBD上に加えられた荷重の重心位置G(X、Y)は、次式により算出される。
【数1】
【数2】
【0043】
ここで、荷重検出器1a、1b、1c、1dの荷重の検出値W
a、W
b、W
c、W
dとして荷重信号sa、sb、sc、sdの各サンプリング時刻毎の出力値を用いることで、各サンプリング時刻ごとの全体重心G
0の位置が算出される。
【0044】
同様に、荷重検出器1a、1b、1c、1dの荷重の検出値W
a、W
b、W
c、W
dとして母体呼吸成分sa
1b〜sd
1bの各サンプリング時刻毎の出力値を用いることで各サンプリング時刻ごとの母体呼吸重心G
1bの位置が算出され、母体心拍成分sa
1h〜sd
1hの各サンプリング時刻毎の出力値を用いることで各サンプリング時刻ごとの母体心拍重心G
1hの位置が算出され、胎児心拍成分sa
2h〜sd
2hの各サンプリング時刻毎の出力値を用いることで各サンプリング時刻ごとの胎児心拍重心G
2hの位置が算出される。
【0045】
全体重心G
0、母体呼吸重心G
1b、母体心拍重心G
1h、胎児心拍重心G
2hは、それぞれ次の特徴を有する。
【0046】
全体重心G
0の位置は、ベッドBD上に加えられる全荷重の重心の位置であり、ベッドBDに荷重を加える実体が被験者Sのみである場合は、母体S1と胎児S2との合成重心の位置となる。
【0047】
母体呼吸重心G
1b及び母体心拍重心G
1hはそれぞれ、母体呼吸成分sa
1b〜sd
1b、母体心拍成分sa
1h〜sd
1hに基づいて算出された重心位置であるため、母体S1と胎児S2との合成重心よりも母体S1単独の重心寄りの位置となる。母体呼吸重心G
1b及び母体心拍重心G
1hは、母体S1の移動及び胎児S2の移動の両方に起因して移動するが、母体S1の移動の影響を胎児S2の移動の影響よりも大きく受ける。また、ベッドBD上に被験者S以外に起因する荷重(バッグ等の無生物や見舞客等による荷重)が加えられても、これらの荷重の振動周波数は一般に母体呼吸成分sa
1b〜sd
1b、母体心拍成分sa
1h〜sd
1hの振動周波数とは異なるため、母体呼吸重心G
1b及び母体心拍重心G
1hはこれらの荷重の影響を受けない。
【0048】
胎児心拍重心G
2hは、胎児心拍成分sa
2h〜sd
2hに基づいて算出された重心位置であるため、母体S1と胎児S2との合成重心よりも胎児S2単独の重心寄りの位置となる。胎児心拍重心G
2hは、母体S1の移動及び胎児S2の移動の両方に起因して移動するが、胎児S2の移動の影響を母体S1の移動の影響よりも大きく受ける。また、ベッドBD上に被験者S以外に起因する荷重(バッグ等の無生物や見舞客等による荷重)が加えられても、これらの荷重の振動周波数は一般に胎児心拍成分sa
2h〜sd
2hの振動周波数とは異なるため、胎児心拍重心G
2hはこれらの荷重の影響を受けない。
【0049】
求められた全体重心G
0、母体呼吸重心G
1b、母体心拍重心G
1h、及び胎児心拍重心G
2hの位置、及びこれらの時間的変動の軌跡である全体重心軌跡GT
0、母体呼吸重心軌跡GT
1b、母体心拍重心軌跡GT
1h、及び胎児心拍重心軌跡GT
2hは、記憶部4に記憶される。
【0050】
[状態監視工程、出力工程]
状態監視工程S106では、状態監視部35が、上記の工程において算出された各種波形や各種情報の少なくとも1つを用いて、様々な妊娠状態を監視する。出力工程S107では、状態監視工程S106における監視結果に基づく様々な出力(表示部5への表示、報知部6による報知、通信部7を介する通信等)が行われる。
【0051】
状態監視部35において行われる状態監視は、一例として(1)妊娠検査、(2)子宮収縮状態の監視、(3)胎児心拍の監視、(4)ノンストレステスト、(5)分娩時期の推定、(6)破水モニタリング、(7)陣痛モニタリング、を含む。
【0052】
(1)妊娠検査
信号解析工程S102において得られる周波数スペクトルの0.5〜3.3Hz程度の周波数帯域を観察すると、母体の子宮内に胎児が存在しない場合は母体心拍周波数に対応する位置に単独の周波数ピークが現れるのみであるが、母体の子宮内に胎児が存在する場合には母体心拍周波数に対応する位置及び胎児心拍周波数に対応する位置にそれぞれ周波数ピークが現れる。
【0053】
したがって、信号解析工程S102において得られた周波数スペクトルの0.5〜3.3Hz程度の周波数帯域に2つの周波数ピークが現れるか否かに基づいて妊娠検査を行うことができる。また、現れる周波数ピークの数に基づき胎児の数を判定することもできる。例えば、周波数ピークの数が3つであれば、胎児の数は2人であると判定できる。判定結果は表示部5に表示される。
【0054】
(2)子宮収縮状態の監視
妊娠中の母体の子宮は、母体の疲労等の様々な原因により収縮する。子宮の収縮は、母体によって腹部の張りや痛みとして感知される。また、分娩の直前に生じる陣痛は子宮の強度の収縮が原因である。
【0055】
状態監視部35による子宮収縮状態の監視は、例えば次のように行われる。
【0056】
状態監視部35は、信号解析工程S102において得られた周波数スペクトルの3〜20Hz程度の周波数帯域に周波数ピークが現れているか否かに基づいて、母体S1に子宮収縮が生じているか否かを判定する。具体的には、信号解析工程S102において得られた周波数スペクトルの3〜20Hz程度の周波数帯域に周波数ピークが現れている場合には母体S1に子宮収縮が生じていると判定し、周波数ピークが現れていない場合には母体S1に子宮収縮が生じていないと判定する。
【0057】
更に、状態監視部35は、信号解析工程S102において得られた子宮収縮成分sa
1c〜sd
1cの波形の振幅に基づいて、子宮収縮の強度を推定する。具体的には、振幅が大きければ子宮収縮の強度も大きいと推定し、振幅が小さければ子宮収縮の強度も小さいと推定する。
【0058】
状態監視部35により判定された子宮収縮の有無、及び子宮収縮の強度は、表示部5に表示される。また状態監視部35は、子宮収縮の状態が所定の基準を満たした時、例えば所定時間を越えて子宮収縮が継続した時や子宮収縮の強度が所定値を超えた時に、報知部6を用いた報知や通信部7を用いた通信を行い、医師や助産師に監視結果を通知してもよい。
【0059】
(3)胎児心拍の監視
状態監視部35は、信号解析工程S102において得られた胎児心拍成分sa
2h〜sd
2hの波形、及び心拍情報算出工程S104において算出された胎児S2の心拍数に基づいて、胎児S2の心拍状態を監視することができる。
【0060】
状態監視部35は、胎児S2の心拍数が正常値の範囲(一例として120〜160[回/分])から逸脱した場合に、胎児S2の心拍状態が異常であると判定し、表示部5にその旨を表示してもよい。また、報知部6を用いた報知や通信部7を用いた通信を行い、医師や助産師に判定結果を通知してもよい。
【0061】
(4)ノンストレステスト
状態監視部35は、胎児S2の心拍状態の監視と、母体S1の子宮収縮状態の監視とを並行して行うことでノンストレステスト(NST)を実行することもできる。
【0062】
ノンストレステストとは、胎児が分娩時のストレスに耐える能力を有しているか否かを確認することを主な目的として、妊娠後期に産科において行われるテストであり、胎児の心拍の様子と母体の子宮収縮の様子とを同期して検知することにより実行される。医師や助産師は、胎児の心拍の様子と母体の子宮収縮の様子とを同期して観察することにより、胎児が分娩時のストレスに耐え得るか否か等を判断する。具体的には例えば、母体の子宮に収縮が生じた際に胎児の心拍数が著しく減少する等の症状が観察されれば、胎児には分娩時の子宮の収縮に耐える能力がないと判断して、帝王切開分娩を検討する。
【0063】
状態監視部35は、信号解析工程S102において得られた子宮収縮成分sa
1c〜sd
1cの波形と胎児心拍成分sa
2h〜sd
2hの波形とを同期させて監視し、胎児が分娩時のストレスに耐える能力を有しているか否かを判定する。又は状態監視部35による判定は行わず、子宮収縮成分sa
1c〜sd
1cの波形と胎児心拍成分sa
2h〜sd
2hの波形とを同期させて表示部5に表示するのみでもよい。
【0064】
(5)陣痛発生時期の推定
臨月に至り分娩時期が近づくと、母体の子宮内の胎児は子宮口に向かって移動し、頭部を母体の骨盤の中に入れる。胎児の頭部が母体の骨盤の中に入ると、胎児の胎動が減少することが知られている。また胎児がこのような状態に至ると、ほどなく陣痛を生じて分娩に至ることが一般的である。
【0065】
状態監視部35は、母体呼吸重心G
1b及び/又は母体心拍重心G
1hの位置と、胎児心拍重心G
2hの位置とを比較し、胎児心拍重心G
2hの位置が母体呼吸重心G
1b及び/又は母体心拍重心G
1hの位置に相対して下方に移動したことに基づいて胎児S2が母体S1の子宮内を子宮口に向かって移動したと推定する。また、状態監視部35は、胎児心拍重心G
2hの移動の頻度が低下したことに基づいて胎児S2の頭部が母体S1の骨盤の中に入ったと推定する。
【0066】
状態監視部35は、これらの推定(胎児S2が母体S1の子宮内を子宮口に向かって移動したとの推定且つ/又は胎児S2の頭部が母体S1の骨盤の中に入ったとの推定)に基づいて、陣痛発生の時期、ひいては分娩の時期が近付いていると推定することができる。推定結果は、表示部5に表示されてもよく、報知部6を用いた報知や通信部7を用いた通信を行い、医師や助産師に通知されてもよい。
【0067】
(6)破水モニタリング
破水(胎児を包む卵膜が破れ、子宮内の羊水が子宮外に流れ出る現象)は、陣痛が生じた後、分娩の直前に生じる場合のほか、陣痛発生前に生じることもある。状態監視部35は、次の方法により母体S1に破水が生じたことを検知することができる。
【0068】
母体S1に破水が生じると、母体S1の子宮内の羊水は、子宮口及び膣を介して母体S1の体外に流出する。これにより、被験者Sとは別体の無生物である羊水がベッドBDの上面に現れる。したがって、全体重心G
0の位置は、被験者Sとは別体の無生物である羊水による荷重が加わったことにより変動する。
【0069】
また、破水により、母体S1の体内(子宮内)に存在していた羊水が取り除かれる。したがって、母体呼吸重心G
1b且つ/又は母体心拍重心G
1hの位置は、母体S1の体内の一部に偏在していた一定の重量が取り除かれたことにより、所定の態様の変動を示す。
【0070】
すなわち、母体S1が羊水を体内から体外に排出することにより、全体重心G
0の位置は下方に移動し、母体呼吸重心G
1b且つ/又は母体心拍重心G
1hの位置は所定の態様の変動を示す。状態監視部35は、全体重心G
0と、母体呼吸重心G
1b且つ/又は母体心拍重心G
1hとがこのような移動を示したことに基づき、母体S1に破水があったと判定する。判定結果は、表示部5、報知部6且つ/又は通信部7を用いて、母体S1、医師、助産師等に通知される。
【0071】
(7)陣痛モニタリング
分娩が間近に迫ると、母体S1の子宮はそれまでの妊娠過程における収縮よりも強く収縮する。この収縮により母体S1に陣痛が生じる。陣痛は周期的に生じる本陣痛と、本陣痛の前に生じる非周期的な前駆陣痛とに分類されている。また本陣痛は、最初は10〜15分程度の周期で発生し、分娩が近づくにしたがって発生の周期が短くなる。
【0072】
状態監視部35は、母体S1に子宮収縮が生じているか否かの判定に基づいて母体S1の陣痛の状況を監視することができる。なお、母体S1に生じている子宮収縮が陣痛に関連するものであるか否かを判定する必要がある場合は、例えば、子宮収縮成分sa
1c〜sd
1cの波形の振幅に基づいて推定される子宮収縮の強度が所定値を超えているか否かにより判定を行っても良く、母体S1に陣痛が生じるべき時期であるか否か(例えば臨月であり且つ胎児S2の頭部が母体S1の骨盤に入っているか否か)により判定を行ってもよい。
【0073】
状態監視部35による陣痛モニタリングは、具体的には例えば、次のように行われる。
【0074】
状態監視部35は所定のサンプリング周期(一例として5秒)で、母体S1に子宮収縮が生じているか否か、即ち母体S1に陣痛が生じているか否かを判定する。そして所定のサンプリング時刻t
0(
図5)において子宮収縮の有無の判定結果が「無し」から「有り」に転じれば、サンプリング時刻t
0を陣痛開始時刻t
s1として記憶部4に記憶させる。
【0075】
次いで、状態監視部35は、所定のサンプリング時刻t
1において子宮収縮の有無の判定結果が「有り」から「無し」に転じた場合に、サンプリング時刻t
1を陣痛終了時刻t
e1として記憶部4に記憶し、陣痛開始時刻t
s1と陣痛終了時刻t
e1との差分に基づいて陣痛継続時間Dを算出する。
【0076】
次いで、状態監視部35は、所定のサンプリング時刻t
2において子宮収縮の有無の判定結果が再度「無し」から「有り」に転じた場合に、サンプリング時刻t
2を陣痛開始時刻t
s2として記憶部4に記憶し、陣痛開示時刻t
s1と陣痛開始時刻t
s2との差分に基づいて陣痛周期Tを算出する。
【0077】
状態監視部35は、算出した陣痛周期Tが所定の長さ(一例として1時間)を越えていれば、陣痛に周期性はないと判定し、サンプリング時刻t
0とサンプリング時刻t
1との間に生じた陣痛は前駆陣痛であったと判定する。なお、陣痛周期Tの算出を行うことなく、例えば陣痛終了時刻t
e1から所定時間(一例として1時間)経過した時点で、サンプリング時刻t
0とサンプリング時刻t
1との間に生じた陣痛は前駆陣痛であったと判定してもよい。
【0078】
一方で、状態監視部35は、算出した陣痛周期Tが第1の所定値(一例として10分から15分程度)であればサンプリング時刻t
0とサンプリング時刻t
1との間に生じた陣痛と、サンプリング時刻t
2に開始した陣痛とは、いずれも周期性を有する本陣痛であると判定する。その後、陣痛の終了及び次の陣痛の開始が生じるたびに、陣痛継続時間Dの算出及び陣痛周期Tの算出を繰り返し、陣痛周期Tが第2の所定値(一例として5分から7分程度)であるか否かを判定する。
【0079】
状態監視部35は、陣痛周期Tが第2の所定値であると判定した場合には、被験者Sに分娩が迫っていると判定し、その旨を表示部5に表示するとともに、様々な出力を行う。
【0080】
具体的には例えば、妊娠状態モニタリングシステム100が病室のベッドと共に使用されている場合には、通信部7及び院内回線を通じて医師・助産師に分娩時期の接近を知らせる。医師・助産師は、この報知を受けて分娩に向けた人的、物的な様々な準備を開始することができる。
【0081】
妊娠状態モニタリングシステム100が自宅のベッドと共に使用されている場合には、報知部6を介して、被験者Sに産院に向かうよう促す。また、通信部7を介してタクシー会社等と通信して配車を依頼するとともに、産院に対して、被験者Sがまもなく産院に向かう旨を通知する。この時、母体S1の呼吸数や心拍数、胎児S2の心拍数、陣痛周期T、陣痛継続時間Dを合わせて産院に通知してもよい。また、母体S1の呼吸数や心拍数、胎児S2の心拍数等に基づき必要であると判定される場合には、タクシーを配車する代わりに救急車を手配しても良い。
【0082】
本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100の効果を以下にまとめる。
【0083】
本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100は、ベッドBDの脚の下に配置された荷重検出器1a〜1dからの荷重信号に基づいて母体S1の子宮収縮状態を判定している。したがって本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100によれば、母体S1の子宮収縮状態(陣痛の状態を含む)を非侵襲でモニターすることができる。また、妊娠状態モニタリングシステム100を母体S1に取付ける手間がなく、妊娠状態モニタリングシステム100が母体S1から脱落する恐れもない。
【0084】
本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100は、べッドBDの脚の下に配置された荷重検出器1a〜1dからの荷重信号に基づいて胎児S2の心拍の状態をモニターすることができる。したがって、母体S1の腹部に超音波プローブを取り付けて胎児の心音を検知する従来の方法とは異なり、胎児が子宮内でどのような姿勢を取っていても(即ち胎児の心臓が母体の腹部表面から遠い位置にあっても)、良好に胎児の心拍の状態を監視することができる。
【0085】
本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100により、母体S1の子宮収縮の様子と、胎児S2の心拍の様子とを同期して観察することができる。したがって、本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100を病院に設置すれば、従来は母体の腹部に複数のセンサを取り付けて行っていたノンストレステストを、非侵襲で実施することが可能となる。また、本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100を妊婦の自宅に設置すれば、例えば臨月に至った母体S1の子宮の収縮の様子と胎児S2の心拍の様子を常にモニタリングすることができるため、不測の事態を迅速に検知し、適切な対応を取ることが可能となる。
【0086】
また、本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100を分娩室の分娩台と共に使用することで、分娩中の母体S1の子宮の収縮の様子と胎児S2の心拍の様子を、非侵襲でモニタリングすることができる。即ち、従来の分娩監視装置を妊娠状態モニタリングシステム100に置き換えることができる。本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100は、分娩台の脚の下に荷重検出器1a〜1dを配置するだけで使用できるため、例えば緊急を要する分娩処置において、母体S1にセンサを取り付ける時間を省略できる等の効果がある。
【0087】
本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100を妊婦の自宅に設置すれば、例えば臨月を迎えた妊婦は、胎児の頭部が骨盤に収まったことに基づいて、陣痛の開始を予見することができる。このように、陣痛開始時期の予見性を高めることは、妊婦の不安感を解消する上で大いに効果的である。また例えば、臨月を迎えた妊婦が睡眠中に破水した場合も、迅速にこれを検知し適切な報知を行うことができる。
【0088】
本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100を妊婦の自宅に設置して陣痛モニタリングを行うことで、例えば初産婦であっても陣痛の周期を正確に把握し、適切なタイミングで病院に移動することができる。また、本実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100を病院の陣痛室に設置すれば、妊婦を分娩室に移動させる適切なタイミングを、医師や助産師の手を煩わせることなく決定することができる。
【0089】
<変形例>
上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100において、次の変形態様を採用することも可能である。
【0090】
上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100は、重心位置算出工程S105で算出した母体S1の母体呼吸重心G
1bの位置及び母体呼吸重心軌跡GT
1bを表示部5に表示してもよい。
【0091】
このような構成を有する妊娠状態モニタリングシステム100を分娩台と共に用いれば、使用者である医師や助産師は、母体呼吸重心G
1bの移動の様子に基づいて母体S1の呼吸の様子を監視し、分娩中の母体S1に適切な呼吸を行うよう促すことができる。具体的には例えば、医師等は、母体呼吸重心G
1bが停止していることに基づいて母体S1が呼吸を止めて過度に力んでいると判断し、リラックスして呼吸を継続するよう母体S1に促す。
【0092】
上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100は、信号解析工程S102において得られた周波数スペクトルに基づく妊娠検査を予め行い、胎児S2が存在すると判定した場合にのみ陣痛モニタリングを行うよう構成してもよい。
【0093】
上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100を用いて陣痛モニタリングを行う場合には、信号解析工程S102におけるフーリエ解析は、周波数3Hz〜20Hzの周波数帯域の周波数スペクトルのみを求めるものであってもよい。また、状態監視部35が陣痛の有無を判定するサンプリング周期は、陣痛周期Tが長い時期は長め(一例として30秒〜1分)に設定し、陣痛周期が短くなるに従って短く(一例として1〜5秒に)してもよい。これらの構成を採用することにより、陣痛モニタリングの精度を損なうことなく処理不可を低減することができる。
【0094】
上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100において、荷重検出器1a、1b、1c、1dは、ビーム形ロードセルを用いた荷重センサに限られず、例えばフォースセンサを使用することもできる。
【0095】
上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100において、荷重検出器は4つに限られない。ベッドBDに追加の脚を設けて5つ以上の荷重検出器を使用してもよい。又はベッドBDの脚のうち3つのみに荷重検出器を配置してもよい。荷重検出器が3つの場合でも、これを一直線に配置しなければ、ベッドBD面上での被験者Sの重心位置Gを検出できる。
【0096】
上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100おいては、荷重検出器1a、1b、1c、1dは、ベッドBDの脚の下端に取り付けられたキャスターCa、Cb、Cc、Cdの下にそれぞれ配置されていたがこれには限られない。荷重検出器1a、1b、1c、1dはそれぞれ、ベッドBDの4本の脚とベッドBDの床板との間に設けられてもよいし、ベッドBDの4本の脚が上下に分割可能であれば、上部脚と下部脚との間に設けられても良い。ベッドBDに代えて分娩台やストレッチャーを用いる場合も同様に、荷重検出器は分娩台やストレッチャーの脚部に組み込まれていても良い。なお、本明細書及び本発明において「載置台に設けられた荷重検出器」とは、上述のようにベッドBDの4本の脚とベッドBDの床板との間に設けられた荷重検出器や、載置台の一部分(脚部等)に組み込まれた荷重検出器を意味する。
【0097】
荷重検出器1a、1b、1c、1dをベッドBDと一体型とし、ベッドBDと本実施形態の身体状態モニタリングシステム100とからなるベッドシステムBDSを構成してもよい(
図6)。
【0098】
なお、上記の実施形態において、荷重検出部1とA/D変換部2との間に、荷重検出部1からの荷重信号を増幅する信号増幅部や、荷重信号からノイズを取り除くフィルタリング部を設けても良い。
【0099】
なお、上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100において、表示部5は、使用者が視覚的に認識できるようにモニター上に情報を表示するものには限られない。例えば表示部5は、被験者Sの妊娠状態を定期的に印字して出力するプリンタでもよい。さらに、妊娠状態モニタリングシステム100は表示部5を有さなくてもよく、情報を出力する出力端子を有するのみであってもよい。表示を行うためのモニター(ディスプレイ装置)等は、当該出力端子を介して妊娠状態モニタリングシステム100に接続される。
【0100】
なお、上記実施形態の報知部6は聴覚的に報知を行っていたが、報知部6は、光の点滅等によって視覚的に報知を行う構成であってもよく、振動により報知を行う構成であってもよい。また、上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100は、報知部6を有さなくても良い。
【0101】
なお、上記実施形態の妊娠状態モニタリングシステム100において、配線によって接続されている構成同士は、それぞれ無線によって接続されていてもよい。
【0102】
本発明の特徴を維持する限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。