(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321765
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】時計用結合振動子
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-240127(P2016-240127)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2017-111138(P2017-111138A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】15201032.8
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・サルチ
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・アラゴン・カリヨ
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ツァウク
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0222377(US,A1)
【文献】
特開2010−014717(JP,A)
【文献】
特開2015−152605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/04 − 10
G04B 17/22
G04B 17/26
G04B 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方では第1基準点(12)において固定構造物(1)に取り付けられ、他方では第1軸(D1)周囲を枢動する第1移動部品(13)に取り付けられた第1弾性戻り手段(11)を有する第1振動子(10)、及び、第2移動部品(23)に固定された第2弾性戻り手段(21)を有する第2振動子(20)のみから成る、結合振動子を有する等時性時計振動子機構(100)であって、
前記第1振動子(10)及び前記第2振動子(20)は、その後に前記第1移動部品(13)に取り付けられる前記第2弾性戻り手段(21)を介して、機械的な接続により互いに結合され、前記第1振動子(10)は、ばね付きてん輪型であり、前記第1弾性戻り手段(11)は、前記第1基準点(12)を形成する第1釣り合いばねスタッドにより前記固定構造物(1)に取り付けられた第1釣り合いばねであり、前記第2振動子(20)は、ばね付きてん輪型であり、前記第2弾性戻り手段(21)は、前記第2移動部品(23)に取り付けられた第2釣り合いばねであり、前記第2釣り合いばね(21)は、一方では、第2釣り合いばねスタッド(22)において、その外縁または前記第1移動部品(13)のアームに取り付けられ、他方では、第2軸(D2)周囲を枢動する前記第2移動部品(23)に取り付けられ、前記振動子機構(100)の振動は、前記第1移動部品(13)または前記第2移動部品(23)の1つにおいてのみ、持続されることを特徴とする、等時性時計振動子機構(100)。
【請求項2】
少なくとも1つの第3移動部品は、前記第1移動部品(13)及び前記第2移動部品(23)の最大直径を有する部分間に挿入され、前記第3移動部品は、それ自体の上を枢動する自由、または、前記第1移動部品(13)及び前記第2移動部品(23)の最大直径を有する部分間の最小距離を規定する直線に対して直交する方向に滑走する自由のみを有することを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項3】
前記第3移動部品は、前記第1弾性戻り手段(11)及び前記第2弾性戻り手段(21)とは独立した第3弾性戻り手段に取り付けられ、前記第1振動子(10)及び前記第2振動子(20)への空気力学的な接続により結合された第3振動子を規定することを特徴とする、請求項2に記載の振動子機構(100)。
【請求項4】
前記第2弾性戻り手段(21)の剛性は、前記第1弾性戻り手段(11)の剛性の半分未満であることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項5】
前記第2弾性戻り手段(21)の剛性は、前記第1弾性戻り手段(11)の剛性の0.30〜0.40倍であることを特徴とする、請求項4に記載の振動子機構(100)。
【請求項6】
前記第2移動部品(23)の慣性は、前記第1移動部品(13)の慣性の3分の1未満であることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項7】
前記第2移動部品(23)の慣性は、前記第1移動部品(13)の慣性の0.20〜0.30倍であることを特徴とする、請求項6に記載の振動子機構(100)。
【請求項8】
前記第1移動部品(13)及び前記第2移動部品(23)は、いずれもてん輪であることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項9】
前記第1移動部品(13)または前記第2移動部品(23)の一方は、トゥールビヨンまたはカルーセルのキャリッジであり、前記第2移動部品(23)または前記第1移動部品(13)の他方は、てん輪であることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項10】
前記第2移動部品(23)または前記第1移動部品(13)の他方が形成する前記てん輪は、前記第1移動部品(13)または前記第2移動部品(23)の一方が形成する前記トゥールビヨンまたはカルッセルのキャリッジと同軸であり、前記キャリッジ内において枢動され、前記第2振動子(20)の前記第2釣り合いばねスタッド(22)は、アームまたは前記キャリッジのドラムに取り付けられ、前記振動子機構(100)の振動は、その枢動軸において前記トゥールビヨンまたはカルッセルに取り付けられた小型ローラと連携するパレットレバーまたはデテントにより、持続されることを特徴とする、請求項9に記載の振動子機構(100)。
【請求項11】
前記第1移動部品(13)及び前記第2移動部品(23)の最大直径を有する部分間の最小距離は、0.5mm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項12】
前記第2移動部品(23)及び前記第1移動部品(13)は、同軸であることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項13】
少なくとも平面図においては、前記第2移動部品(23)は、前記第1移動部品(13)内にあることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項14】
2つの異なる台上に位置する前記第1移動部品(13)及び前記第2移動部品(23)の最大直径を有する部分は、実質的に同一の直径を有し、かつ、実質的に向かい合っていることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項15】
前記第2弾性戻り手段(21)は、前記2つの異なる台に渡る第2釣り合いばねであることを特徴とする、請求項14に記載の振動子機構(100)。
【請求項16】
前記第2移動部品(23)及び前記第1移動部品(13)は、隣り合って位置し、かつ、互いに実質的に同一平面上にあることを特徴とする、請求項1に記載の振動子機構(100)。
【請求項17】
請求項1に記載の少なくとも1つの振動子機構(100)を有する時計機構部分(200)。
【請求項18】
請求項17に記載の機構部分(200)を有する腕時計(1000)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、一方では第1基準点において固定構造物に取り付けられ、他方では第1軸周囲を枢動する第1移動部品に取り付けられた第1弾性戻り手段を有する第1振動子、及び、第2移動部品に取り付けられた第2弾性戻り手段を有する第2振動子のみから成る、結合振動子を有する等時性時計振動子機構に関する。
【0002】
また、本願発明は、少なくとも1つのその様な振動子機構を有する時計機構部分(ムーブメント)にも関する。
【0003】
また、本願発明は、その様な機構部分を有する腕時計にも関する。
【0004】
本願発明は、時計振動子機構、及びその動作制御の分野に関する。
【背景技術】
【0005】
結合振動子の理論は、常に興味深いが、その実行は、不安定性の問題により阻害される。
【0006】
シーガル社の欧州特許第2365403号明細書は、軸周囲を自由回転する第1てん輪;及び、この第1てん輪を、固定点または第2てん輪に接続する釣り合いばねを有する、機械時計用の振動子を開示する。釣り合いばねは:第1てん輪に接続された第1コイル、及び固定点または第2てん輪に接続された第2コイル、並びに、第1コイルを第2コイルに接続する転移部を有する。少なくとも1つのてん輪に対する実質的に線状の復元トルクは、転移部の弾性変形、及び、少なくとも1つのてん輪に対して振動を発生させるためのコイルにより、基本的に確保される。
【0007】
スウォッチ社グループ研究開発のスイス特許第709281号明細書には、固有振動数において振動する様に構成され、かつ、一方では少なくとも1つの発振部材、及び、他方では発振部材に対してトルクを与える様に構成された振動維持手段を有する強制振動共振器が記載されている。強制振動共振器は、その固有振動数が、上記共振器機構の固有振動数の整数倍(但し、2以上)の0.9〜1.1倍の制御周波数である、少なくとも1つの振動制御装置を有する。特に、制御装置は、発振部材上に自由に枢動可能に取り付けられ、第2のばね付きてん輪が周囲を枢動する第2の枢動軸に対して偏心的に不平衡な第2のばね付きてん輪を少なくとも1つ有する。
【0008】
セイコー社の欧州特許第112633号明細書には、機械的時間源に電力を投入する主ぜんまい、及び、回転角制御機構を有する、機械時計が記載されている。回転角制御機構は、ばねが完全に巻かれた状態において、釣り合いばねにより戻されたてん輪の回転に空気抵抗が加わると共に、ばねが完全には巻かれていない状態において、釣り合いばねにより、てん輪の回転に空気抵抗が加わらない様に構成される。
【0009】
スウォッチ社グループ研究開発のスイス特許第699081号明細書には、第1の低周波共振器を、第2の高周波共振器に結合させることによる共振器が記載されている。第1共振器は、第1ばねに関する第1慣性質量を有し、第2共振器は、第2ばねに関する第2慣性質量を有する。第3ばねは、第1及び第2の共振器を結合させるために、第1及び第2の慣性質量間に配置される。
【0010】
エタ・マニュファクテュール・オルロジェール・スイス社の国際公開第2016/037717号は、板材(プレート)に対して少なくとも旋回運動の動作をする様に取り付けられ、歯車列を介して駆動トルクを受ける様に構成されたガンギ車、及び、第1弾性戻り手段により板材に接続された第1剛構造を有する第1振動子、を有する制御装置を開示する。また、この制御装置は、第1剛構造に対する第2剛構造の旋回運動を少なくとも可能とする様に構成された第2弾性戻り手段により第1剛構造に接続された第2剛構造を有する、第2振動子も有する。第2構造は、ガンギ車内に有る補助的案内手段と連携して、第1振動子及び第2振動子を歯車列と同期させるための運動伝達手段を共に形成する様に構成された案内手段を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第2365403号明細書
【特許文献2】スイス特許第709281号明細書
【特許文献3】欧州特許第112633号明細書
【特許文献4】スイス特許第699081号明細書
【特許文献5】国際公開第2016/037717号
【発明の概要】
【0012】
本願発明は、良好な安定性を確保可能とすると共に製造の容易な、簡易な結合振動子を規定することを目的とする。
【0013】
従って、本願発明は、請求項1に係る結合振動子を有する等時性時計振動子機構に関する。
【0014】
また、本願発明は、その様な振動子機構を少なくとも1つ有する時計機構部分に関する。
【0015】
また、本願発明は、上記タイプの機構部分を有する腕時計に関する。
【0016】
本願発明の他の特徴及び効果については、以下の添付図面を参照しながら後述する詳細な説明を読むことにより、明らかとなるであろう:
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、2つの結合振動子を有する振動子機構の概略図であり、第1の結合振動子は、構造及び第1移動部品間に取り付けられた第1弾性戻り手段を有し、第1移動部品上には、第1移動部品上のみでの励起効果によりその他端において片持ち第2移動部品に取り付けられた第2弾性戻り手段が取り付けられる。
【
図2】
図2は、
図1と同一の振動子機構を示すが、第2移動部品上でのみ励起効果を有する図である。
【
図3】
図3は、ばね付きてん輪型の2つの結合振動子を有する振動子機構の概略平面図であり、第1の結合振動子は、構造及び第1てん輪間に取り付けられた第1釣り合いばねを有し、第1てん輪は、第2振動子の第2釣り合いばねを取り付けるための釣り合いばねスタッドを支持し、第2振動子は、その他端において第2てん輪に取り付けられる。
【
図4】
図4は、ばね付きてん輪型の2つの結合振動子を有する振動子機構の概略側面図であり、2つのてん輪は、同軸上に取り付けられる。
【
図5】
図5は、特定の時間経過の終点において特定の位相変位がどの様に得られるか、及び、空気力学的に結合された移動部品間における空間の機能としての、位相変位変異曲線の形状を示す簡易図である。
【
図6】
図6は、実質的に同一の直径を有して互いに正面向きに面する2つの同軸てん輪の縁部間における空気力学的結合を示す概略図である。
【
図7】
図7は、一方が他方の中に組み込まれた2つの同軸てん輪の縁部間における空気力学的結合を示す概略図である。
【
図8】
図8は、
図3に示した配置において極めて近接した2つのてん輪間における空気力学的結合を示す図である。
【
図9】
図9は、
図7に示した配置を有する2つのてん輪間に配置されたワッシャ(座金)またはボールを用いた空気力学的結合を示す図である。
【
図10】
図10は、第1釣り合いばねの外側コイルを支持する固定構造物を有する同一機構の異なる斜視図であり、第1釣り合いばねの内側コイルは、キャリッジと同軸のてん輪にその他端部が依然取り付けられた第2釣り合いばねの第1端部を支持するトゥールビヨンキャリッジ(カゴ)に取り付けられる。
【
図11】
図11は、第1釣り合いばねの外側コイルを支持する固定構造物を有する同一機構の異なる斜視図であり、第1釣り合いばねの内側コイルは、キャリッジと同軸のてん輪にその他端部が依然取り付けられた第2釣り合いばねの第1端部を支持するトゥールビヨンキャリッジに取り付けられる。
【
図12】
図12は、第1釣り合いばねの外側コイルを支持する固定構造物を有する同一機構の異なる斜視図であり、第1釣り合いばねの内側コイルは、キャリッジと同軸のてん輪にその他端部が依然取り付けられた第2釣り合いばねの第1端部を支持するトゥールビヨンキャリッジに取り付けられる。
【
図13】
図13は、第1釣り合いばねの外側コイルを支持する固定構造物を有する同一機構の異なる斜視図であり、第1釣り合いばねの内側コイルは、キャリッジと同軸のてん輪にその他端部が依然取り付けられた第2釣り合いばねの第1端部を支持するトゥールビヨンキャリッジに取り付けられる。
【
図14】
図14は、第1釣り合いばねの外側コイルを支持する固定構造物を有する同一機構の異なる斜視図であり、第1釣り合いばねの内側コイルは、キャリッジと同軸のてん輪にその他端部が依然取り付けられた第2釣り合いばねの第1端部を支持するトゥールビヨンキャリッジに取り付けられる。
【
図15】
図15は、2つの結合振動子を有する上述の様な振動子機構をもった時計機構部分を有する腕時計を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明は、2つの主要な振動子のみの組合せにより極めて容易に達成し得る、結合振動子を有する等時性時計振動子機構100に関する:この振動子機構100は、第1振動子10及び第2振動子20のみから成る。
【0019】
本明細書においては、枢動軸の周囲を枢動可能な如何なる構成部品、すなわち、限定されない実施形態において設けられた回転輪を、“移動部品”と称する。
【0020】
第1振動子10は、一方では第1基準点12において固定構造物1に取り付けられ、他方では第1軸D1周囲を枢動する第1移動部品13に取り付けられた第1弾性戻り手段11を有する。
【0021】
第2振動子20は、第2移動部品23に取り付けられた第2弾性戻り手段21を有する。
【0022】
本願発明によれば、第1振動子10及び第2振動子20は、第1移動部品13及び第2移動部品23間の空気力学的な接続、並びに/または、その後に第1移動部品13に取り付けられる第2弾性戻り手段21を介した機械的な接続により、互いに結合される。
【0023】
特に、第1弾性戻り手段11は1つだけ存在し、第2弾性戻り手段21は1つだけ存在する。
【0024】
より詳細には、第1振動子10及び第2振動子20は、第1移動部品13及び第2移動部品23間における空気力学的な接続、並びに、第1移動部品13に取り付けられた第2弾性戻り手段21を介した機械的な接続の双方により、互いに結合される。
【0025】
本願発明の特定の実施形態においては、第2弾性戻り手段21は、一体化された連結構造、または、薄いストリップ(細長い一片)を有するたわみ軸受である。
【0026】
本願発明の特定かつ限定されない実施形態においては、第1振動子10は、ばね付きてん輪型であり、第1弾性戻り手段11は、第1基準点12を形成する第1釣り合いばねスタッドにより固定構造物1に取り付けられた第1釣り合いばねである。また、第2振動子20も、ばね付きてん輪型であり、第2弾性戻り手段21は、第2移動部品23に取り付けられた第2釣り合いばねである。
【0027】
本願発明の他の実施形態においては、結合のための第1弾性戻り手段11及び/または第2弾性戻り手段21は、薄い弾性ストリップまたは類似の物である。
【0028】
釣り合いばねを有する本実施形態の特定の変形態様においては、第2ばね21は、一方では、第2釣り合いばねスタッド22において、縁部に、または、第1移動部品13のアーム(腕部)に取り付けられ、他方では、第2軸D2周囲を枢動する第2移動部品23に取り付けられる。振動子機構100の振動は、第1移動部品13または第2移動部品23の1つにおいてのみ、持続される。
【0029】
別の変形態様においては、上記振動は、2つの主要な振動子10、20の各々において、独立して持続される。
【0030】
より詳細には、第2弾性戻り手段21の剛性は、第1弾性戻り手段11の剛性の半分未満である。
【0031】
更に詳細には、第2弾性戻り手段21の剛性は、第1弾性戻り手段11の剛性の0.30〜0.40倍である。
【0032】
より詳細には、第2移動部品23の慣性は、第1移動部品13の慣性の3分の1未満である。
【0033】
更に詳細には、第2移動部品23の慣性は、第1移動部品13の慣性の0.20〜0.30倍である。
【0034】
特定の実施形態においては、第1移動部品13及び第2移動部品23は、てん輪である。
【0035】
別の特定の実施形態においては、第1移動部品13または第2移動部品23は、トゥールビヨンまたはカルッセルのキャリッジであり、第2移動部品23または第1移動部品13は、それぞれてん輪である。
【0036】
より詳細には、第2移動部品23または第1移動部品13をそれぞれ形成するてん輪は、第1移動部品13または第2移動部品23をそれぞれ形成するトゥールビヨンまたはカルッセルのキャリッジと同軸であり、キャリッジ内において枢動される。第2振動子20の第2釣り合いばねスタッド22は、アームまたはキャリッジのドラムに取り付けられる。振動子機構100の振動は、その枢動軸においてトゥールビヨンまたはカルッセルに取り付けられた小型ローラと連携するパレットレバー3またはデタントにより、持続される。
【0037】
特定の実施形態においては、空気力学的結合を可能とする効果があり、第1移動部品13及び第2移動部品23の大きな直径を有する部分間、特に最大直径を有する部分間の最小距離Gは、0.5mm未満である。この空気力学的結合は、2つのモード(同相または位相対立)の内の1つのモードにおいてのみ、振動子機構100を安定させる傾向があるので、第2弾性戻り手段21により主要な結合が達成された場合でさえ、有益な効果を奏する。空気力学的結合は、例えば、一方ではトゥールビヨンまたはカルッセルのキャリッジのアーム4、及び、他方ではてん輪縁部5の間に、不連続の使用においてさえ存在する。
【0038】
好都合に、振動子機構100は、好適には0.1〜0.5mmの範囲内で、第1移動部品13及び第2移動部品23間の距離を変更する手段を有する。
【0039】
図5は、位相変位曲線が時間の機能として採ることのできる形状を概略的に例示すると共に、0.5mmに顕著に近い特定の値において、位相変位が実質的に一定値に安定することを明示する図である。当然のことながら、安定状態に達するまでに、特定の遷移過程時間△Tが要求され、例えば、2つの従来の時計ばね付きてん輪から成る3Hzで振動する振動子において、てん輪が同一平面上にあり0.5mm離間する場合には、200秒程度の時間が要求される。
【0040】
特定の実施形態において、第2移動部品23及び第1移動部品13は同軸上にある。
【0041】
別の特定の実施形態において、少なくとも平面図においては、第2移動部品23は、第1移動部品13内にある。
【0042】
別の特定の実施形態において、2つの異なる台上に位置する第1移動部品13及び第2移動部品23の最大直径を有する部分は、実質的に同一の直径を有し、かつ、実質的に向かい合っている。
【0043】
特定の実施形態を有さない後者の変形態様においては、第2弾性戻り手段21は、2つの台上に渡る第2釣り合いばねである。
【0044】
更に別の特定の実施形態においては、第2移動部品23及び第1移動部品13は、隣り合って位置し、かつ、実質的に同一平面上にある。
【0045】
図9は、2つのてん輪間に配置されたワッシャもしくはボールまたは類似の物を用いた空気力学的結合を示す。かかる解決方法もまた、2つのてん輪間に位置する第3移動部品を用いて、
図8に示す解決方法の変形態様に対して適用可能である。より詳細には、少なくとも1つの第3移動部品が、第1移動部品13及び第2移動部品23の最大直径を有する部分間に挿入される。この第3移動部品は、それ自体の上を枢動する自由、または、第1移動部品13及び第2移動部品23の最大直径を有する部分間の最小距離を規定する直線に対して直交する方向に滑走する自由のみを有する。更に詳細には、第3移動部品は、第1弾性戻り手段及び第2弾性戻り手段とは独立した第3弾性戻り手段に取り付けられ、第1振動子10及び第2振動子20への空気力学的な接続により結合された第3振動子を規定する。
【0046】
1つ以上の移動部品を挿入することにより、より高周波の逆位相モードにおける2つの結合振動子を有するシステムの安定性が確保される。これらの移動部品の各々は、独立した弾性戻り手段に接続可能であり、これにより、移動部品に均一の振動を与える。てん輪の場合には、その様な変形態様は、シリコンまたは他の種類の微細加工可能な材料から成るMEMS型または類似の実施形態において、一体化されたたわみ軸受により、達成可能である。
【0047】
また、本願発明は、少なくとも1つのその様な振動子機構100を有する時計機構部分200にも関する。
【0048】
また、本願発明は、このタイプの機構部分200を有する腕時計1000にも関する。