【文献】
GANDHI, N. S. et al.,Chem. Biol. Drug. Des.,2008年,Vol.72,p.455-82
【文献】
MACCARANA, M. et al.,J. Biol. Chem.,1993年,Vol.268, No.32,p.23898-905
【文献】
BRICKMAN, Y. G. et al. ,J. Biol. Chem.,1995年,Vol.270,p.24941-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0010】
本発明は、ヘパラン硫酸製剤、ヘパラン硫酸HS8に関する。HS8は、FGF2を結合して、かつ幹細胞の多能性/多分化能を維持しながらその増殖を促進することが見出されている。HS8とは、構造的および機能的に関連した単離されたヘパラン硫酸の新規クラスを指す。本発明者らは、短いコンセンサス配列(YCKNGGF)を共有するFGF2に由来するヘパリン結合ドメインへの結合の一般的な特性を有するHS8クラスの数種類の密接に関連したメンバーを同定した。HS8クラスのメンバーは、幹細胞の増殖を刺激することおよびコロニー形成単位(colonly forming units)について濃縮することができる。
【0011】
本発明の一態様では、ヘパラン硫酸HS8が提供される。HS8は、単離された形態または実質的に精製された形態で提供されうる。これは、ヘパラン硫酸成分が少なくとも80%のHS8、より好ましくは、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のうちの1つである組成物を提供することを含みうる。
【0012】
好ましい実施形態では、HS8は、YCKNGGF(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドまたはポリペプチドを結合する能力がある。ペプチドは、この配列の一方または両方の端に1個または複数のさらなるアミノ酸を有していてもよい。例えば、ペプチドは、この配列の一方または両方の端に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれ以上のうちのいずれかのアミノ酸を有していてもよい。
【0013】
一部の実施形態では、HS8は、
・YCKNGGF(配列番号2)、または
・GHFKDPKRLYCKNGGF(配列番号1)
のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を有する、またはからなる、ペプチドまたはポリペプチドを結合する能力がある。
【0014】
他の実施形態では、ポリペプチドは、FGF2タンパク質である。一部の実施形態では、HS8は、配列番号1、2またはFGF2タンパク質のうちのいずれかのアミノ酸配列を有するまたはからなるペプチドに、100μM未満のK
D、より好ましくは、50μM、40μM、30μM、20μM、または10μMのうちの1つよりも小さいK
Dで結合する。
【0015】
HS8は、
(i)YCKNGGFのアミノ酸配列を有するヘパリン結合ドメインを含むポリペプチド分子が接着している固体支持体を用意するステップ、
(ii)該ポリペプチド分子をグリコサミノグリカンを含む混合物と接触させてポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体を形成させるステップ、
(iii)混合物の残りからポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体を分離するステップ、
(iv)ポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体からグリコサミノグリカンを解離させるステップ、
(v)解離されたグリコサミノグリカンを回収するステップ
を含みうる、本明細書中に記載の本発明者らの方法によって取得、同定、単離または濃縮されうる。
【0016】
一部の実施形態では、該支持体に接着しているポリペプチドは、
・YCKNGGF(配列番号2)、または
・GHFKDPKRLYCKNGGF(配列番号1)
から選択されるアミノ酸配列を含みうるまたはからなりうる。
【0017】
本発明者らの方法において、該混合物は、市販の供給源から得られるグリコサミノグリカンを含んでいてもよい。1つの好適な供給源は、ヘパラン硫酸画分、例えば、市販のヘパラン硫酸である。1つの好適なヘパラン硫酸画分は、ブタ腸粘膜からのヘパリンの単離中に得ることができる(例えば、Celsus Laboratories Inc. − 時に「Celsus HS」と呼ばれる)。
【0018】
他の好適なヘパラン硫酸の供給源は、任意の哺乳動物(ヒトまたはヒト以外)からのヘパラン硫酸、特に、腎臓、肺または腸粘膜からのヘパラン硫酸を含む。一部の実施形態では、ヘパラン硫酸は、ブタまたはウシの腸粘膜、腎臓または肺由来である。
【0019】
本発明の別の態様では、上記の態様のうちのいずれか1つによるHS8およびFGF2タンパク質を含む組成物が提供される。
【0020】
本発明の一態様では、上記の態様によるHS8を含む医薬組成物または医薬が提供される。医薬組成物または医薬は、薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤をさらに含んでいてもよい。
【0021】
一部の実施形態では、医薬組成物は、組織、例えば、破損した骨の修復および/または再生を含む、治療の方法における使用のためのものである。一部の実施形態では、医薬組成物または医薬は、FGF2タンパク質をさらに含んでいてもよい。一部の実施形態では、医薬組成物または医薬は、間葉系幹細胞をさらに含んでいてもよい。
【0022】
本発明の別の態様では、HS8は、医療の方法における使用のために提供される。医療の方法は、in vivoでの創傷治癒、組織の修復および/もしくは再生、結合組織の修復および/もしくは再生、骨の修復および/もしくは再生ならびに/または哺乳動物もしくはヒトにおける骨の修復および/もしくは再生の方法を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の関連態様では、医療の方法における使用のための医薬の製造におけるHS8の使用が提供される。一部の実施形態では、医療の方法は、哺乳動物またはヒトにおける破損した骨の修復および/または再生を含む。
【0024】
本発明のさらなる態様では、バイオマテリアルおよびHS8を含む生体適合性のインプラントまたはプロテーゼが提供される。一部の実施形態では、インプラントまたはプロテーゼは、HS8でコーティングされる。一部の実施形態では、インプラントまたはプロテーゼは、HS8で含浸される。インプラントまたはプロテーゼは、FGF2タンパク質および/または間葉系幹細胞でさらにコーティングまたは含浸されてもよい。
【0025】
本発明の別の態様では、生体適合性のインプラントまたはプロテーゼを形成する方法であって、バイオマテリアルをHS8でコーティングするまたは含浸させるステップを含む方法が提供される。一部の実施形態では、該方法は、バイオマテリアルをFGF2タンパク質および間葉系幹細胞のうちの一方または両方でコーティングするまたは含浸させることをさらに含む。
【0026】
本発明の別の態様では、患者において骨折を治療する方法であって、患者への治療有効量のHS8の投与を含む方法が提供される。一部の実施形態では、該方法は、骨折の周囲の組織にHS8を投与することを含む。一部の実施形態では、該方法は、骨折の周囲の組織へのHS8の注入を含む。こうした方法において、HS8は、HS8および薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤を含む医薬組成物または医薬として製剤化されてもよい。
【0027】
一部の実施形態では、該方法は、患者にFGF2タンパク質を投与することをさらに含んでいてもよい。こうした方法において、HS8およびFGF2タンパク質は、HS8およびFGF2タンパク質ならびに薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤を含む医薬組成物として製剤化されてもよい。
【0028】
一部の実施形態では、該方法は、患者に間葉系幹細胞を投与することをさらに含んでいてもよい。こうした方法において、HS8、FGF2タンパク質および間葉系幹細胞のうちの少なくとも2つは、HS8、FGF2タンパク質および間葉系幹細胞のうちの少なくとも2つならびに薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤を含む医薬組成物中に製剤化されてもよい。
【0029】
好ましくは、HS8、FGF2タンパク質および間葉系幹細胞は、それぞれ治療有効量で提供される。一部の実施形態では、骨折を治療する方法は、治療有効量のHS8、および/またはFGF2タンパク質および/または間葉系幹細胞を、HS8、および/またはFGF2タンパク質および/または間葉系幹細胞ならびに薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤を含む医薬組成物として製剤化するステップをさらに含み、ここで、該医薬組成物は、患者に投与される。
【0030】
本発明の別の態様では、患者において骨折を治療する方法であって、バイオマテリアルおよびHS8を含む生体適合性のインプラントまたはプロテーゼを患者の骨折の部位またはその周囲の組織内に外科的に埋め込むことを含む方法が提供される。
【0031】
一部の実施形態では、インプラントまたはプロテーゼは、HS8でコーティングされる。一部の実施形態では、インプラントまたはプロテーゼは、HS8で含浸される。一部の実施形態では、インプラントまたはプロテーゼは、FGF2タンパク質および間葉系幹細胞のうちの一方または両方でさらに含浸される。
【0032】
本発明のさらなる態様では、HS8を含む培地が提供される。
【0033】
本発明の別の態様では、in vitroでの細胞培養におけるHS8の使用が提供される。本発明の関連態様では、in vitroでの結合組織の増殖におけるHS8の使用が提供される。本発明の別の関連態様では、in vitroで結合組織を増殖させる方法であって、間葉系幹細胞を、外因的に添加されたHS8と接触させて培養することを含む方法が提供される。
【0034】
本発明のさらに別の態様では、こうした治療を必要とするヒトまたは動物の患者における組織の修復、置換または再生のための方法であって、
(i)間葉系幹細胞をin vitroでHS8と接触させて前記細胞が組織を形成するのに十分な一定期間培養すること;
(ii)前記組織を回収すること;
(iii)前記組織を傷害または疾患の部位で患者の体内に埋め込んで、患者において組織を修復、置換または再生すること
を含む方法が提供される。
【0035】
組織は、結合組織、例えば、骨、軟骨、腱、または脂肪であってもよい。一部の実施形態では、該方法は、培養中の間葉系幹細胞を外因性のFGF2タンパク質と接触させることをさらに含む。
【0036】
本発明の別の態様では、HS8の存在下における間葉系幹細胞のin vitroの培養によって得られる組織が提供される。一部の実施形態では、該組織は、HS8およびFGF2タンパク質の存在下における間葉系幹細胞のin vitroの培養によって得られる。
【0037】
本発明のさらなる態様では、幹細胞、例えば、間葉系幹細胞を培養する方法であって、幹細胞をHS8と接触させて培養することを含む方法が提供される。
【0038】
本発明の一部の態様では、幹細胞をin vitroで培養する方法であって、幹細胞をin vitroでヘパラン硫酸HS8と接触させて培養することを含む方法が提供される。HS8は、好ましくは、外因性であってかつ単離され、かつ補助剤として、例えば、培地の一部として、培養物に添加される。
【0039】
好ましい実施形態では、HS8と接触しながら培養された幹細胞は、個体数が増大し、すなわち、幹細胞の数が増加し、かつ培養物中の高い割合の細胞が親幹細胞の多分化能または多能性の特性(例えば、幹細胞の型に特徴的な特定の組織型に分化する幹細胞の能力)を維持する。例えば、好ましくは、培養物中の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のうちの1つの幹細胞が、親幹細胞の多分化能または多能性の特性を示す。好ましくは、HS8は、多分化能または多能性である培養物中の細胞の割合(例えば、百分率)を上昇させるために作用する。これは、多分化能または多能性である出発培養物中の細胞の数に対して相対的に測定されてもよい。一部の実施形態では、多分化能または多能性の細胞の割合の上昇は、外因性のHS8の存在が欠けていることのみによって異なる対応する培養条件下におかれる幹細胞の対照培養物に対して比較されてもよい。幹細胞培養物は、任意選択でFGF2を含んでいても、または含んでいなくてもよい。
【0040】
一部の好ましい実施形態では、該方法は、コロニー形成単位(CFU)の数、すなわち、単一の前駆細胞由来の幹細胞のコロニーを形成する能力がある単一の幹細胞の数における増加を提供する。この増加は、CFUである、培養物中の細胞の百分率における増加、例えば、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のうちの1つの増加として測定されうる。この増加は、培養の期間にわたって、1回の継代にわたって、または選択された回数の継代、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回またはそれ以上の継代にわたって測定されてもよく、最初の培養物におけるCFUの数に対して相対的に増加の決定がされる。
【0041】
したがって、本発明の培養方法は、幹細胞の増殖および幹細胞数の増大を可能にし、ここで、高い割合の後代細胞が多分化能もしくは多能性かつ/またはCFUである。したがって、本発明の方法は、in vitro培養における幹細胞増殖中の多能性または多分化能な幹細胞の多能性または多分化能な状態の損失の防止または低減を提供する。これは、後代細胞における幹細胞特性の損失が一般的である既存の幹細胞培養法を超えて有利である。したがって、本発明の方法は、薬、診断および研究における使用のために多数の幹細胞を得る手段を提供する、幹細胞培養物を多分化能/多能性な幹細胞および/またはCFUについて濃縮する手段を提供する。
【0042】
したがって、本発明の方法は、幹細胞培養物の増殖および増大を可能にすると同時に、多能性もしくは多分化能および/またはCFUである、より高い割合(例えば、百分率)の細胞を有するように培養物を濃縮する。
【0043】
本発明の一態様では、間葉系幹細胞(MSC)の培養においてコロニー形成単位(CFU−F)について濃縮する方法であって、MSCをin vitroでヘパラン硫酸HS8と接触させて培養することを含む方法が提供される。
【0044】
本発明の別の態様では、間葉系幹細胞(MSC)の培養において間葉系幹細胞および/またはコロニー形成単位(CFU−F)について濃縮する方法であって、該方法が、培養された細胞が増殖し、かつMSCの集団が増大するように、MSCをin vitroでヘパラン硫酸HS8と接触させて培養することを含み、増大したMSC集団が、
・MSC集団の≦2%が、CD45、CD34、CD14、CD19、HLA−DRのうちのいずれかを発現し、かつ
・MSC集団の≧95%が、CD105、CD73およびCD90を発現し、かつ
・MSC集団の≧40%が、CD49aを発現し、かつ/または
・MSC集団の≧50%が、SSEA−4を発現し、かつ/または
・MSC集団の≧20%が、STRO−1を発現する
ことを特徴とする方法が提供される。
【0045】
本発明の別の態様では、間葉系幹細胞(MSC)の培養において間葉系幹細胞および/またはコロニー形成単位(CFU−F)について濃縮する方法であって、該方法が、in vitroでMSCをヘパラン硫酸HS8と接触させて培養すること、およびMSCを継代することを含み、1回または複数回の継代後にMSC集団が、
・MSC集団の≦2%が、CD45、CD34、CD14、CD19、HLA−DRのうちのいずれかを発現し、かつ
・MSC集団の≧95%が、CD105、CD73およびCD90を発現し、かつ
・MSC集団の≧40%が、CD49aを発現し、かつ/または
・MSC集団の≧50%が、SSEA−4を発現し、かつ/または
・MSC集団の≧20%が、STRO−1を発現する
ことを特徴とする方法が提供される。
【0046】
本明細書中に記載の方法によって得られるまたは製造される幹細胞またはMSCの集団または培養物。
【0047】
・MSC集団の≦2%が、CD45、CD34、CD14、CD19、HLA−DRのうちのいずれかを発現し、かつ
・MSC集団の≧95%が、CD105、CD73およびCD90を発現し、かつ
・MSC集団の≧40%が、CD49aを発現し、かつ/または
・MSC集団の≧50%が、SSEA−4を発現し、かつ/または
・MSC集団の≧20%が、STRO−1を発現する
ことを特徴とする、MSCの集団または培養物。
【0048】
一部の実施形態では、CD49aを発現するMSC集団の百分率は、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%または70%のうちの1つまたは複数よりも高くてもよくまたはそれと等しくてもよい。
【0049】
一部の実施形態では、SSEA−4を発現するMSC集団の百分率は、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、または80%のうちの1つまたは複数よりも高くてもよくまたはそれと等しくてもよい。
【0050】
一部の実施形態では、STRO−1を発現するMSC集団の百分率は、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%または50%のうちの1つまたは複数よりも高くてもよくまたはそれと等しくてもよい。
【0051】
一部の実施形態では、必要とされる継代の回数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回またはそれよりも多い継代のうちのいずれかであってもよい。
【0052】
本明細書中に記載の幹細胞の培養の方法は、in vitroで幹細胞を単離および/または維持するステップを含んでいてもよい。例えば、本明細書中に記載の方法は、
・動物またはヒトから、幹細胞、例えば、間質細胞または骨髄間質細胞を得るステップ、
・幹細胞を単離するステップ、
・STRO−1を発現しているMSCを、例えば、フローサイトメトリーまたは磁気、または蛍光活性化細胞選別によって、分離および/または単離するステップ、
・STRO−1
+brightMSCを、例えば、フローサイトメトリーまたは磁気または蛍光活性化細胞選別によって、分離および/または単離するステップ、
・STRO−1bright/CD106+ MSCを、例えば、フローサイトメトリーによる細胞選別(FACS)によって、分離および/または単離するステップ、
・例えば凍結保存による、幹細胞の保存ステップ
のうちの1つまたは複数も含んでいてもよい。これは、in vitroでの培養もしくは増殖前に動物もしくはヒトから得られた細胞または濃縮/増殖された幹細胞の保存を含みうる。
【0053】
本発明のさらに別の態様では、予め決定された量のHS8および予め決定された量のFGF2を含むキットオブパーツが提供される。キットは、予め決定された量のHS8を含む第1の容器および予め決定された量のFGF2を含む第2の容器を含んでいてもよい。キットは、予め決定された量の間葉系幹細胞をさらに含んでいてもよい。キットは、医療の方法における使用のために提供されてもよい。医療の方法は、in vivoでの創傷治癒、結合組織の修復および/もしくは再生、骨の修復および/もしくは再生ならびに/または哺乳動物もしくはヒトにおける骨の修復および/もしくは再生の方法を含んでいてもよい。キットは、医療を提供するためにHS8、FGF2タンパク質および/または間葉系幹細胞を別個、連続または同時に投与するための説明書と共に提供されてもよい。
【0054】
本発明のさらなる態様では、医療の方法における同時、別個または連続の使用のための、治療有効量の
(i)HS8と、
(ii)FGF2タンパク質、
(iii)間葉系幹細胞
のうちの一方または両方とを含む製品が提供される。医療の方法は、in vivoでの創傷治癒、結合組織の修復および/もしくは再生、骨の修復および/もしくは再生ならびに/または哺乳動物もしくはヒトにおける骨の修復および/もしくは再生の方法を含んでいてもよい。製品は、任意選択で、共投与のための組み合わされた製剤として製剤化されてもよい。
【0055】
本発明のさらなる態様は、以下に記載されている。
【0056】
本発明の一態様では、FGF2に対する高い結合親和性を有するGAGが提供される。より好ましくは、GAGは、ヘパラン硫酸(HS)である。一実施形態では、YCKNGGFのアミノ酸配列を含むFGF2のヘパリン結合ドメインを含むポリペプチドが固体支持体に結合され、GAG−ポリペプチド複合体の形成が可能にされた、本明細書中に記載の方法に従うことによって、HSは、ブタ腸粘膜から得られるGAG混合物から単離された(Celsus Laboratories Inc、Cincinnatti、USAから入手可能、例えば、INW−08−045、Heparan Sulphate I、Celsus Lab Inc、HO−03102、HO−10595、10×100mg)。GAG−ポリペプチド複合体からのGAG成分の解離は、本明細書において「HS8」と呼ばれる固有のHSの単離をもたらした。一実施形態では、HS8は、ポリペプチドGHFKDPKRLYCKNGGF(配列番号1)を固体支持体に結合し、GAG−ポリペプチド複合体を形成させ、かつGAG−ポリペプチド複合体からGAG成分を解離させることによって単離されるHSである。
【0057】
本発明者らは、HS8が、哺乳動物(ヒトおよびヒト以外)の組織および/または細胞外マトリクスを含む、複数の供給源から得られるHS画分から得られうることを確信している。
【0058】
したがって、本発明の一態様では、HS8が提供される。HS8は、単離または精製された形態で提供されてもよい。別の態様では、HS8を含む培地が提供される。
【0059】
本発明のさらに別の態様では、HS8を、任意選択で、薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物または医薬が提供される。一部の実施形態では、医薬組成物または医薬は、FGF2タンパク質をさらに含んでいてもよい。傷害または疾患の予防または治療における使用のための、HS8を含む医薬組成物または医薬が提供される。傷害または疾患の予防または治療のための医薬の製造におけるHS8の使用も提供される。
【0060】
本発明のさらなる態様では、その治療を必要とする患者において傷害または疾患を予防または治療する方法であって、患者に有効量のHS8を投与することを含む方法が提供される。投与されるHS8は、好適な医薬組成物または医薬中に製剤化されてもよく、かつ薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤をさらに含んでいてもよい。任意選択で、医薬組成物または医薬は、FGF2タンパク質も含んでいてもよい。
【0061】
本発明の別の態様では、HS8を骨前駆細胞または骨幹細胞に投与することを含む、骨形成(骨細胞および/または骨組織の形成)を促進または阻害する方法が提供される。
【0062】
本発明の別の態様では、HS8を軟骨前駆細胞または軟骨幹細胞に投与することを含む、軟骨組織の形成(軟骨形成)を促進または阻害する方法が提供される。
【0063】
骨形成または軟骨組織の形成を刺激または阻害する方法は、in vitroで、任意選択で外因的に添加されたFGF2タンパク質の存在下において、骨または軟骨の前駆細胞または幹細胞をHS8と接触させることによって行われてもよい。前駆細胞または幹細胞は、間葉系幹細胞であってもよい。組織形成が促進される場合、形成された組織はヒトまたは動物の患者内への埋め込みのために回収および使用されてもよい。
【0064】
したがって、本発明の一態様では、HS8(すなわち、外因性のHS8)の存在下における、および任意選択でFGF2(すなわち、外因性のFGF2)の存在下における、間葉系幹細胞のin vitroでの培養によって得られる結合組織が提供される。結合組織は、骨、軟骨、筋肉、脂肪、靭帯または腱であってもよい。
【0065】
HS8を使用する疾患の予防または治療は、組織、特に、結合組織、例えば、骨、軟骨、筋肉、脂肪、靭帯または腱などの修復、再生または置換を含んでいてもよい。
【0066】
これらの組織のうちの1つの悪化を有する患者において、悪化の部位で組織の成長、増殖および/または分化を刺激するために、その部位へのHS8の投与が使用されてもよい。例えば、投与の部位に、またはその近くに存在する間葉系幹細胞の刺激は、好ましくはFGF2もその部位に存在するときに、間葉系幹細胞の増殖および適切な結合組織への分化を導き、それによって、損傷した組織の置換/再生および傷害の治療を可能にしうる。
【0067】
代替的に、HS8と接触させて間葉系幹細胞のin vitroの培養物から得られた結合組織は、回収されて、損傷または悪化した組織を置換するために、傷害または疾患の部位に埋め込まれてもよい。損傷または悪化した組織は、任意選択で最初に傷害または疾患の部位から切除されてもよい。
【0068】
別の態様では、幹細胞、好ましくは、間葉系幹細胞、およびHS8を含む医薬組成物が提供されてもよい。傷害、疾患または悪化の部位での組成物の投与、例えば、注入は、その部位での組織の再生を可能にする。
【0069】
したがって、HS8は、治療を必要としている患者への、任意選択でFGF2および/または幹細胞と組み合わせた、HS8の直接適用によってもたらされる、組織の修復、再生および/または置換を含む、in vivoにおける創傷治癒(例えば、瘢痕組織または破損した骨の治癒)に有用である。HS8は、組織の修復、再生および/または置換を必要とする患者内への埋め込みに好適な組織のin vitroでの作製においても有用である。
【0070】
本発明の別の態様では、幹細胞を培養するin vitroの方法であって、幹細胞をin vitroでHS8と接触させて培養することを含む方法が提供される。HS8は、培養された細胞と接触される外因性のHS8であることが好ましい。HS8は、培地の一部として提供されてもよくまたは別々に培養物に添加されてもよい。該方法は、幹細胞の増殖を含むことが好ましい。該方法は、複数の集団倍加または継代、例えば、少なくとも3、4、5、6、7、8、9または10回のうちの1つの集団倍加または継代にわたる、幹細胞の多能性または多分化能の状態の維持を含むことが好ましい。
【0071】
一実施形態では、幹細胞の培養物を増大させるin vitroの方法であって、単一の幹細胞を1×10
3個を超える幹細胞の集団に増大させることを含み、幹細胞培養物をHS8と接触させることを含む方法が提供される。
【0072】
別の実施形態では、1cm
2あたり約2000細胞および5000細胞の間の最初の培養物の大きさから、少なくとも1×10
3倍多い幹細胞を含む増大された培養物の大きさまで幹細胞の培養物を増大させるin vitroの方法であって、幹細胞培養物をHS8と接触させることを含む方法が提供される。一部の実施形態では、最初の培養物の大きさおよび増大された培養物の大きさの間で増大させるための培養時間は、40日、30日、25日のうちの1つよりも短い。
【0073】
別の実施形態では、幹細胞の培養においてコロニー形成単位(CFU)の数を増加させるin vitroの方法であって、幹細胞をHS8と接触させて培養することを含む方法が提供される。一部の実施形態では、CFUは、CD49a、CD73、CD105、STRO−1、またはCD90のうちの1種または複数を発現する。
【0074】
別の実施形態では、間葉系幹細胞のin vitro培養においてSTRO−1またはSTRO−1
+bright細胞の割合を高めるために方法であって、間葉系幹細胞をHS8と接触させて培養することを含む方法が提供される。
【0075】
別の実施形態では、in vitro培養における幹細胞増殖中の多分化能幹細胞の多分化能状態の損失を防止または低減するin vitroの方法であって、幹細胞をHS8と接触させて培養することを含む方法が提供される。一部の実施形態では、該方法は、培養物中に幹細胞を少なくとも10回の集団倍加の間、維持することを含む。
【0076】
本明細書中に示されているように、HS8は、FGF2を安定化する特性を有し、かつそれによってFGF2の作用を延長する。HS8は、培地中でFGF2が分解するのを防止する(
図46)。これは、FGF2製剤、および培地を含むFGF2の製剤の保存に有用に適用されうる。
【0077】
したがって、本発明の一態様では、増殖因子および単離されたHS8を含む組成物が提供される。増殖因子は、タンパク質増殖因子であってもよく、FGF2であることが好ましい。組成物は、単離されたFGF2および単離されたHS8を含んでいてもよい。一部の実施形態では、組成物は、培地であってもよい。他の実施形態では、組成物は、FGF2を含む医薬組成物または医薬であってもよい。
【0078】
組成物は、容器内にFGF2および単離されたHS8を含むFGF2製剤であってもよい。好適な容器は、ボトル、バイアル、チューブまたはシリンジでありうる。
【0079】
増殖因子の安定性を高める方法であって、増殖因子を、単離されたHS8と接触させることを含む方法も提供される。
【0080】
増殖因子の安定性は、その半減期の期間、すなわち、所定の組成物中の増殖因子の半分が分解されるおよび/またはその活性を失うのにかかる時間の長さで測定されうる。増殖因子は、タンパク質増殖因子であることが好ましく、より好ましくはFGF2である。HS8は、FGF2の半減期を維持および延長するために働く。該方法は、in vitroにおいて、単離されたHS8を増殖因子(例えば、FGF2)と、例えば、増殖因子(例えば、FGF2)組成物の調製、その保存または輸送の一部として、接触させることを含んでいてもよい。代替的に、該方法は、in vivoにおいて、例えば、単離されたHS8を[組織内に天然に存在するまたは外因的に組織に添加される]増殖因子(例えば、FGF2)が存在する組織に投与することによって、単離されたHS8を増殖因子(例えば、FGF2)と接触させることを含んでいてもよい。該方法は、組織に外因性の増殖因子(例えば、FGF2)を添加するステップも含んでいてもよい。
【0081】
単離されたHS8を含む(または単離されたHS8が添加されている)所定の組成物中または組織内でのFGF2の安定性は、HS8を含まない(または単離されたHS8が添加されていない)比較可能な組成物に対して比較されうる。
【0082】
上記の組成物および方法において、HS8は、本明細書中に記載のように、精製されてもよい。FGF2は、単離および/もしくは精製されてもよく、単離されなくてももしくは部分的に単離されてもよく、例えば、細胞外マトリクス材料の一部、または細胞の構成物中に存在していてもよい。単離または精製されたFGF2は、組換えFGF2であってもよい。組換えFGF2は、Peprotech;Merck Millipore、MA;Life Technologies Corporation;Gibco;およびInvitrogenなどのいくつかの製造業者から市販されている。
【0083】
任意選択で、現在の態様および実施形態は、(Brickmanら(Glycobiology 第8巻 第5号 463〜471ページ、1998)によっておよびWO2010/011185に記載されているような)HS1またはHS2を含まない。一部の実施形態では、本発明によるヘパラン硫酸は、HS2、および/または
図29による亜硝酸二糖消化プロファイルを有するヘパラン硫酸、および/または
図30による亜硝酸二糖消化プロファイルを有するヘパラン硫酸を含まない。
好ましい実施形態の説明
本発明者らは、HS8と呼ばれる、ヘパラン硫酸分子の新規クラスを同定した。本発明者らは、HS8が以下の有利な特性を有することを示している:
・HS8は、STRO1を発現している間葉系幹細胞(MSC)について濃縮する(
図12、
図14);
・HS8は、STRO−1+ve親和性で単離されたMSCおよびプラスチックへの接着性によって単離されたMSCの増殖の増加をもたらす(
図17、18、19、20)。
【0084】
・HS8を欠乏したヘパラン硫酸(HS8−ve画分)とは対照的に、HS8は、ヒトMSCの国際的に認識された定義と一致する表面マーカー発現パターンを有するヒトMSCの集団について濃縮する(
図22);
・HS8とのhMSCの培養物は、CD49a、SSEA−4およびSTRO−1の高レベルの発現を有するヒトMSC集団を提供する(
図22)。対照的に、hMSCへの培養補助剤としてのFGF−2の添加は、STRO−1を発現するhMSCの割合に対して負に影響し、hMSCの多分化能性の損失をもたらす(
図22、23および25)。
【0085】
・HS8は、CFU−F形成を増加させる;
・HS8は、FGF−2媒介性のMSCの増殖を促進する(
図26);
・HS8は、ERK経路のFGF2媒介性シグナル伝達を維持させる。
【0086】
・HS8は、間葉系幹細胞の増殖を促進する(
図42および43)
HS8
本発明は、HS8と呼ばれる一クラスのヘパラン硫酸分子に関する。HS8分子は、FGF2のヘパリン結合ドメインに相当するポリペプチドに結合する1種または複数のGAGを含む化合物の混合物を濃縮する方法によって入手可能である。特に、HS8分子は、アミノ酸配列YCKNGGFを含むまたはからなるドメインである、FGF2のヘパラン結合ドメインに結合するヘパラン硫酸について濃縮することによって得られうる。濃縮のプロセスは、HS8を単離するために使用されてもよい。
【0087】
本発明は、HS8で濃縮された化合物の混合物、およびこうした混合物を使用する方法にも関する。
【0088】
ここに記載の方法によって入手可能であることに加えて、HS8は、機能的および構造的に定義もされうる。
【0089】
機能的に、HS8は、YCKNGGF(配列番号2)のアミノ酸配列を有する、またはからなる、ペプチドを結合する能力がある。ペプチドは、このペプチドの一方または両方の端に1個または複数のさらなるアミノ酸を含んでいてもよい。例として、ペプチドは、GHFKDPKRLYCKNGGF(配列番号1)であってもよい。
【0090】
好ましくは、HS8は、100μM未満のK
D、より好ましくは、50μM、40μM、30μM、20μM、または10μMのうちの1つよりも小さいK
Dで該ペプチドを結合する。
【0091】
好ましくは、HS8は、100μM未満のK
D、より好ましくは、50μM、40μM、30μM、20μM、または10μMのうちの1つよりも小さいK
DでFGF2タンパク質も結合する。HS8とFGF2タンパク質との間の結合は、以下のアッセイ方法によって決定されうる。
【0092】
FGF2は、ブロッキング溶液(SAB中に0.2%のゼラチン)中に3μg/mlの濃度で溶解され、ブロッキング溶液中に0〜3μg/mlの希釈系列が確立される。ヘパリンで予めコーティングされたヘパリン/GAG結合プレートの3通りずつのウェル内に200μlのFGF2の各希釈物の分注;37℃で2時間インキュベートされ、SABで注意深く3回洗浄されて、200μlの250ng/mlのビオチン化された抗FGF2がブロッキング溶液中に添加される。37℃で1時間のインキュベーション、SABで注意深く3回洗浄し、200μlの220ng/mlのExtrAvidin−APがブロッキング溶液中に添加される。37℃で30分間のインキュベーション、SABでの注意深い3回の洗浄、残液を除去するために軽くたたき、200μlの発色試薬(SigmaFAST p−ニトロフェニルリン酸)が添加される。吸光度を405nmで1時間以内で読み取りながら室温で40分間インキュベートする。
【0093】
このアッセイにおいて、結合は、吸光度を測定することによって決定されてもよく、かつ添加されたヘパラン硫酸の非存在下におけるFGF2タンパク質、またはFGF2タンパク質を結合しないヘパラン硫酸を添加されたFGF2タンパク質などの対照に対して相対的に決定されてもよい。
【0094】
配列番号1などのYCKNGGFを含むペプチドと、またはFGF2タンパク質と、高い親和性で結合する相互作用を示すヘパラン硫酸の選択を含む方法によってHS8が他のヘパラン硫酸および/またはGAGから選択されうることに関して、かつ非特異的な結合とは対照的に、HS8の結合は、特異的であることが好ましい。
【0095】
本発明によるHS8は、好ましくは、幹細胞の多能性または多分化能を維持しながらその増殖を増加させる。
【0096】
ヘパリンリアーゼI、IIおよびIIIでの消化の完了および結果として生じる二糖断片のその後のキャピラリー電気泳動分析後のHS8の二糖組成は、
図44および45に示されている。
【0097】
本発明によるHS8は、ヘパリンリアーゼI、IIおよびIIIでの消化の完了および結果として生じる二糖断片のその後のキャピラリー電気泳動分析によって決定されるような、HS8が保持された種について
図45に各二糖についてまたはHS8が保持された種について
図44に示される、標準化された百分率の値の±10%(より好ましくは、±9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%または0.5%のうちの1つ)の範囲内の二糖組成を有するヘパラン硫酸を含む。
【0098】
ヘパリンリアーゼI、IIおよびIIIでの消化の完了および結果として生じる二糖断片のその後のキャピラリー電気泳動分析によって決定されるようなHS8の二糖組成は、以下のいずれか1つによる二糖組成を有しうる:
【0110】
好ましい実施形態において、挙げられる8種の二糖の合計重量百分率は、100%(任意選択で、±3.0%以下、または±2.0%以下、±1.0%以下、±0.5%以下)である。
【0111】
HS3と呼ばれる(WO2010/030244に記載される)、増殖因子BMP2に高い親和性を有するとして単離されたHSとのHS8の比較は、HS3と比較されるHS8の構造的相違点は、以下の二糖の量によって特徴付けされることを明らかにする:ΔUA−GlcNS,6SおよびΔUA−GlcNS。特に、HS8は、HS3よりも高い百分率組成のΔUA−GlcNS,6S、およびHS3よりも低い百分率組成のΔUA−GlcNSを有する。
【0112】
したがって、HS8は、15.5±4.0以下、または±3.5以下、または±3.0以下、または±2.5以下、または±2.0以下、±1.5以下、または±1.0以下、または±0.5以下、または±0.25以下、または±0.1以下のΔUA−GlcNS,6Sの百分率組成を有することによって特徴付けされうる。HS8は、さらにまたはあるいは、15.7±4.0以下、または±3.5以下、または±3.0以下、または±2.5以下、または±2.0以下、または±1.5以下、または±1.0以下、または±0.5以下、または±0.25以下、または±0.1以下のΔUA−GlcNSの百分率組成を有することによって特徴付けされうる。
【0113】
HS8は、12.7±1.5以下、±1.0以下、または±0.5以下、または±0.25以下、または±0.1以下のΔUA,2S−GlcNS,6Sの百分率組成を有することによっても特徴付けされうる。
【0114】
HS8は、7.2または±2.0以下、±1.5以下、±1.0以下、または±0.5以下、または±0.25以下、または±0.1以下のΔUA,2S−GlcNSの百分率組成を有することによっても特徴付けされうる。
【0115】
HS8は、6.5±1.5以下、±1.0以下、または±0.5以下、または±0.25以下、または±0.1以下のΔUA,2S−GlcNAc,6Sの百分率組成を有することによっても特徴付けされうる。
【0116】
HS8は、8.9±0.5以下、または±0.25以下、または±0.1以下のΔUA−GlcNAc,6Sの百分率組成を有することによっても特徴付けされうる。
【0117】
これらの実施形態では、残りの二糖成分の百分率組成は、上に挙げられている通り、または
図44もしくは45に示されている通り±10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%または0.5%のうちの1つであってもよい。
【0118】
ヘパリンリアーゼI、IIおよびIIIでのHS8の消化ならびに/または二糖のキャピラリー電気泳動分析は、実施例18に従って行われることが好ましい。
【0119】
ヘパリンリアーゼ酵素でのHS製剤の消化は、以下のように行われうる:HS製剤(1mg)は、(10mMの酢酸カルシウムを含む)500μLの酢酸ナトリウムバッファー(100mM、pH7.0)中にそれぞれ溶解され、各2.5mUの3種の酵素が添加される;試料は、試料チューブを穏やかに反転させながら(9rpm)、37℃で一晩(24時間)インキュベートされる;さらに各2.5mUの3種の酵素が試料に添加され、この試料は、試料チューブを穏やかに反転させながら(9rpm)、37℃でさらに48時間インキュベートされる;消化物は、加熱(100℃、5分)によって停止され、次いで、凍結乾燥される;消化物は、500μLの水中に再懸濁され、分析用に一定分量(50μL)が分取される。
【0120】
HS製剤の消化からの二糖のキャピラリー電気泳動(CE:capillary electrophoresis)は、以下のように行われうる:キャピラリー電気泳動オペレーティングバッファーは、20mMのH
3PO
4の水溶液を20mMのNa
2HPO
4.12H
2Oの溶液に添加してpH3.5にすることによって作製される;カラム洗浄液は、(50%w/wのNaOHから希釈された)100mMのNaOHである;オペレーティングバッファーおよびカラム洗浄液は、0.2μmの酢酸セルロースメンブレンフィルターを取り付けたフィルターユニットを使用して、両方とも濾過される;二糖の保存溶液(例えば、12種)は、水中に二糖を溶解(1mg/mL)することによって調製される;標準のための較正曲線は10μg/100μLの各二糖を含むすべての標準を含む混合物を調製することによって決定され、10、5、2.5、1.25、0.625、0.3125μg/100μlを含む希釈系列が調製される;2.5μgの内標準(ΔUA,2S−GlcNCOEt,6S)を含む。HSの消化物は水で希釈され(50μL/mL)、同一の内標準が各試料に添加される(2.5μg)。溶液は、凍結乾燥され、水(1mL)中に再懸濁される。試料は、PTFE親水性ディスポーザブルシリンジフィルターユニットを使用して濾過される。
【0121】
分析は、キャピラリー電気泳動機器を使用して、取り付けられた未コーティングのシリカキャピラリーチューブ上、25℃で、20mMのオペレーティングバッファーを使用して、30kVのキャピラリー電圧で行われる。試料は、陰極(逆極性)端で流体力学的な注入を使用してキャピラリーチューブに導入される。各流動の前に、キャピラリーは、100mMのNaOH(2分)、および水(2分)で洗い流され、オペレーティングバッファー(5分)で予め調整される。バッファー補充システムは、一貫した容量、pHおよびイオン濃度が確実に維持されるように、入口および出口のチューブにおいてバッファーを置換する。水のみのブランクは、試料シークエンスの最初、中間および最後のいずれもにおいて流動される。吸光度は、232nmでモニターされる。すべてのデータは、データベースに保存され、その後、検索および再加工される。2通りずつまたは3通りずつでの消化/分析が行われてもよく、HS消化物中の二糖の標準化された百分率は、分析の結果の相加平均として算出される。
【0122】
一部の実施形態では、HS8は、18から27kDaの範囲内の(相加)平均分子量を有する。一部の実施形態では、これは、20から25kDa、21から25kDa、21から24kDa、21から23kDa、20から24kDa、20から23kDa、または20から22kDaのうちの1つであってもよい。
【0123】
一部の実施形態では、HS8鎖は、少なくとも25個の二糖単位を含む。一部の実施形態では、これは、少なくとも26個の二糖、少なくとも27個の二糖、少なくとも28個の二糖、少なくとも29個の二糖、少なくとも30個の二糖、少なくとも31個の二糖、少なくとも32個の二糖、少なくとも33個の二糖、少なくとも34個の二糖、少なくとも35個の二糖、少なくとも36個の二糖、少なくとも37個の二糖、少なくとも38個の二糖、少なくとも39個の二糖、少なくとも40個の二糖、少なくとも41個の二糖、少なくとも42個の二糖、少なくとも43個の二糖、または少なくとも44個の二糖のうちの1つであってもよい。
【0124】
HS8を同定するために、本発明者らは、ヘパリン結合ドメインを有する特定のポリペプチドに対する結合を示すグリコサミノグリカン分子について濃縮することを含む方法を使用した。単離されたGAGの混合物および/または分子は、次いで、同定され、ヘパリン結合ドメインを含むタンパク質を発現している細胞および組織の増殖および分化をモジュレートするそれらの能力について試験される。これは、in vitroおよびin vivoの両方における、細胞および組織の増殖および分化に対する特定のGAG糖配列の効果の調節された分析を可能にする。この方法は、参照により本明細書に組み込まれている、PCT/GB2009/000469(WO2010/030244)に記載されている。本発明者らは、FGF2に高い結合を有するGAGを単離および特徴付けするために、この方法を線維芽細胞増殖因子2(FGF2)に適用した。
【0125】
したがって、HS8を同定するために、本発明者らは、ヘパリン/ヘパラン結合ドメインを有するタンパク質に結合する能力のあるグリコサミノグリカンを単離する方法を用意した。該方法は、
(i)ヘパリン結合ドメインを含むポリペプチド分子が接着している固体支持体を用意すること;
(ii)該ポリペプチド分子をグリコサミノグリカンを含む混合物と接触させてポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体を形成させること;
(iii)混合物の残りからポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体を分離すること;
(iv)ポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体からグリコサミノグリカンを解離させること;
(v)解離されたグリコサミノグリカンを回収すること
を含む。
【0126】
本発明者らは、細胞または組織の増殖または分化をモジュレートするそれらの能力によって同定された単離されたグリコサミノグリカンも用意した。これを行うため、彼らは、細胞および/または組織の増殖および/または分化を刺激または阻害する能力のあるグリコサミノグリカンを同定する方法を用意した。該方法は、
(i)ヘパリン結合ドメインを含むポリペプチド分子が接着している固体支持体を用意すること;
(ii)該ポリペプチド分子をグリコサミノグリカンを含む混合物と接触させてポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体を形成させること;
(iii)混合物の残りからポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体を分離すること;
(iv)ポリペプチド−グリコサミノグリカン複合体からグリコサミノグリカンを解離させること;
(v)解離されたグリコサミノグリカンを回収すること;
(vi)回収されたグリコサミノグリカンを、ヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質が存在する細胞または組織に添加すること;
(vii)細胞の増殖、細胞の分化、1種または複数のタンパク質マーカーの発現のうちの1つまたは複数を測定すること
を含む。
【0127】
本発明者らは、これらの方法を使用して、FGF2に結合する能力のあるGAGを同定した(これを彼らはHS8と呼んだ)。ここで、本発明者らの方法において使用されたポリペプチドは、GHFKDPKRLYCKNGGF(配列番号1)のヘパリン結合ドメインを含んでいた。
【0128】
本発明者らの方法において、GAGを含む混合物は、合成のグリコサミノグリカンを含んでいてもよい。しかし、細胞または組織から得られたGAGが好ましい。例えば、混合物は、細胞外マトリクスを含んでいてもよく、ここで、細胞外マトリクス材料は、in situで(すなわち、それが得られるヒトもしくは動物の体内の組織から直接に)生組織をかき集めることによって、またはヒトもしくは動物の体から抽出された(生または死)組織をかき集めることによって得られる。代替的に、細胞外マトリクス材料は、培養中に増殖した細胞から得られてもよい。細胞外マトリクス物質は、結合組織または結合組織細胞、例えば、骨、軟骨、筋肉、脂肪、靭帯または腱から得られてもよい。一実施形態では、ブタ粘膜からの市販のヘパラン硫酸(Celsus HS)が使用された。
【0129】
GAG成分は、組織もしくは細胞試料または、当業者によく知られている、一連の日常的な分離ステップ(例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー)による抽出物から抽出されうる。
【0130】
GAG混合物は、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸およびヘパラン硫酸を含みうる、異なる型のグリコサミノグリカンの混合物を含んでいてもよい。好ましくは、固体支持体と接触されるGAG混合物は、ヘパラン硫酸について濃縮される。ヘパラン硫酸が濃縮されたGAG画分は、GAG混合物においてカラムクロマトグラフィー、例えば、弱い、中程度の、または強力な陰イオン交換クロマトグラフィー、ならびに強力な高圧液体クロマトグラフィー(SAX−HPLC)、と共に適切な画分の選択を行うことによって得られうる。
【0131】
回収されたGAGは、GAGを同定するため、例えば、GAGの組成もしくは配列を決定するため、またはGAGの構造特性を決定するために、さらなる分析に供されうる。GAG構造は、一般には非常に複雑であり、現在利用可能な分析技法を考慮しても、GAG配列構造を正確に決定することはほとんどの場合不可能である。
【0132】
しかし、回収されたGAG分子を、部分的なまたは完全な糖消化(例えば、亜硝酸による化学なもの、またはヘパリナーゼIIIなどのリアーゼを用いた酵素的なもの)に供して、GAGに特有であり特徴的な糖断片が得られうる。特に、二糖(または四糖)を得るための消化が、GAGの特有の二糖「指紋」をもたらす、得られる二糖のそれぞれの百分率を測定するために使用されうる。
【0133】
GAGの硫酸化のパターンが決定され、GAG構造を決定するために使用されうる。例えば、ヘパラン硫酸に関しては、アミノ糖における硫酸化のパターンならびにC2位、C3位およびC6位における硫酸化のパターンがヘパラン硫酸を特徴付けるために使用されうる。
【0134】
二糖分析、四糖分析および硫酸化の分析が、それぞれGAGについての独特のスペクトルをもたらすものであるHPLC、質量分析およびNMRなどの他の分析技法と併せて使用されうる。これらの技法を組み合わると、GAGの決定的な構造的特徴付けがもたらされうる。
【0135】
例えば、Celsus HS(HS8が由来するもの)およびHS3(BMP2結合HS)と比較したHS8の1
HNMRスペクトルが
図31および32に示されている。本発明によるHS8は、
図31または32のHS8スペクトルに対応する1
HNMRスペクトルを有しうる。一部の実施形態では、本発明によるHS8は、4.0〜3.5ppmにおけるスペクトルが
図32のHS8のものに対応する1
HNMRスペクトルを有しうる(3.8〜3.7ppmの最高線)。一部の実施形態では、本発明によるHS8は、約3.8ppmにおけるピークおよび/または約3.7ppmにおけるピークを有しうる。一部の実施形態では、例えば、
図32に示されている通り、HS8はその独特のメチンおよび/またはメチレン1
HNMRスペクトルによって他のHS8と区別されうる。
【0136】
GAGとヘパリン結合ドメインとの間の親和性の高い結合相互作用により、GAGが親和性の高い結合相互作用に寄与する特定の糖配列を含有することが示される。さらなるステップは、GAGの完全なもしくは部分的な糖配列、または結合相互作用に関与するGAGの重要な部分を決定することを含みうる。
【0137】
GAG−ポリペプチド複合体は、グルコサミノグリカン鎖を溶解する薬剤、例えばリアーゼを用いた処理に供されうる。リアーゼ処理により、ポリペプチドとの結合相互作用に関与しない結合したGAGの部分が切断されうる。ポリペプチドとの結合相互作用に関与するGAGの部分はリアーゼ作用から保護されうる。リアーゼの除去後、例えば、洗浄ステップの後にポリペプチドに結合したままであるGAG分子が、ポリペプチドの特異的な結合パートナー(「GAGリガンド」)である。短いGAG分子の方が複雑さが少ないので、GAGリガンドの解離および回収後に、GAGリガンドの構造的特徴付けの程度がより高くなることが予測されうる。例えば、糖配列(すなわち、GAGリガンドに含有される単糖の一次(直鎖)配列)、硫酸化パターン、二糖および/または四糖消化分析、NMRスペクトル、質量分析スペクトルならびにHPLCスペクトルのいずれかの組合せにより、GAGリガンドの高レベルの構造的特徴付けがもたらされうる。
【0138】
本明細書で使用される場合、「濃縮すること(enriching)」、「濃縮(enrichment)」、「濃縮された(enriched)」などの用語は、それにより、混合物の相対的な組成が、1つまたは複数の実体によってもたらされるその混合物の画分が増加する一方で1つまたは複数の異なる実体によってもたらされる混合物の画分が減少するように変更される(または変更された)プロセス(または状態)を示す。濃縮によって単離されたGAGは純粋である、すなわち、実質的にただ1つの型のGAGを含有するものでありうる、または異なる型のGAGの混合物のままでありえ、該混合物は、ヘパリン結合ドメインに結合する特定のGAGを、出発混合物と比較して大きな割合で有する。
【0139】
同定されたGAGは、ヘパリン結合ドメインを含有するタンパク質が発現または含有される細胞または組織と接触させた場合に機能的効果を示すことが好ましい。機能的効果は、モジュレートまたは強化する効果でありうる。
【0140】
機能的効果は、ある特定の型の細胞の増殖もしくはある1つの細胞型から別の細胞型への分化、または1つもしくは複数のタンパク質マーカーの発現を促進する(刺激する)または阻害するものでありうる。例えば、GAGは、細胞増殖を促進しうる、すなわち、細胞数の増加もしくは幹細胞の特殊化した細胞型(例えば、結合組織における間葉系幹細胞)への分化を促進しうる、または、細胞の多分化能もしくは分化の状態を示すタンパク質マーカー(例えば、アルカリホスファターゼ活性、RUNX2、オステリックス、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、VII型コラーゲン、X型コラーゲン、オステオポンチン、オステオカルシン、BSPII、SOX9、アグリカン、ALBP、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質−α(C/EBPα)、脂肪細胞脂質結合タンパク質(ALBP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、骨シアロタンパク質2、(BSPII)、コラーゲン2a1(Coll2a)およびSOX9の検出などのマーカー)の発現を促進または阻害しうる。
【0141】
本明細書で使用される場合、「モジュレートする効果」という用語は、別の1つまたは複数のプロセスにおける第2の実体の正常な機能が、第1の実体が存在することによって改変される場合に、第1の実体が第2の実体に対して有する効果を意味するものと理解される。モジュレートする効果はアゴニスト性であってもアンタゴニスト性であってもよい。
【0142】
モジュレートする効果は、強化する効果でありうる。「強化する効果」という用語は、効力を増大させる効果を意味するものと理解される。本発明の好ましい実施形態では、「強化する効果」という用語は、第1の実体が第2の実体に対して有する、別の1つまたは複数のプロセスにおけるその第2の実体の効力の増大をもたらす効果を指す。本発明のさらに好ましい実施形態では、強化する効果とは、単離されたGAGのヘパリン結合因子に対する効果を意味するものと理解され、前記効果により、前記ヘパリン結合因子の効力が増大する。
【0143】
本明細書で使用される場合、「接触させる」プロセスは、2つ以上の別個の実体を物理的近傍にさせることを含む。「接触させる」プロセスは、2つ以上の別個の実体を、それらの2つ以上の別個の実体の一部が分子レベルで相互作用することが可能になるのに十分な条件下でそれに十分な時間にわたって極めて近傍にさせることを含む。本明細書で使用される場合、「接触させる」プロセスは、1つまたは複数のGAGおよびヘパリン結合因子のヘパリン結合ドメインに対応するポリペプチドを有する化合物の混合物を極めて近傍にさせることを含むことが好ましい。「接触させる」プロセスの例は、混合、溶解、膨潤、洗浄を含む。好ましい実施形態では、GAG混合物とポリペプチドの「接触」は、互いに対して高い親和性を示すGAGとポリペプチドの間で、共有結合によるものであってよいが非共有結合によるものであることが好ましい複合体が形成されるのに十分である。
【0144】
ポリペプチドは、ヘパリン結合ドメインを有する選択されたタンパク質の完全長のまたは完全長に近い一次アミノ酸配列を含んでいてもよい。ヘパリン結合ドメインをGAG混合物から遮蔽する可能性をもたらす、より長いポリペプチドにおいて生じうるフォールディングにより、ポリペプチドについては短いことが好ましい。好ましくは、ポリペプチドは、ヘパリン結合ドメインを含むアミノ酸配列を有することになり、かつ任意選択でペプチドのN末端およびC末端の一方またはそれぞれに1個または複数のアミノ酸を含む。これらのさらなるアミノ酸は、ポリペプチドを固体支持体に結合するために必要とされる、ポリペプチドへのリンカーまたは結合分子の付加を可能にしうる。
【0145】
本発明者らの方法の好ましい実施形態では、ヘパリン結合ドメイン内のアミノ酸の数に加えて、ポリペプチドは、1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらにより好ましくは1〜5個のさらなるアミノ酸を含む。一部の実施形態では、ヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列は、ポリペプチドのアミノ酸のうちの少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%を占める。ポリペプチドを固体支持体の表面に接着するために、ポリペプチドは、分子タグを含むように改変されることが好ましく、かつ固体支持体の表面は、その分子タグに高い親和性を有する、すなわち、分子タグおよびプローブが結合対を形成する、対応する分子プローブを組み込むように改変される。タグおよび/またはプローブは、抗体、細胞受容体、リガンド、ビオチン、これらの構造体の任意の断片もしくは誘導体、上記の任意の組合せ、またはプローブが結合するようにもしくはこれ以外の場合には特異性と関連するように設計または構成されうる任意の他の構造体のうちのいずれか1つから選択されうる。タグおよびプローブとしての使用に好適な好ましい結合対は、ビオチンおよびアビジンである。
【0146】
ポリペプチドは目的のタンパク質由来であり、それは、この場合はFGF2である。「由来」とは、ポリペプチドが、目的のタンパク質中に存在するヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列を含むために、選出、選択または調製されることを意味する。ヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列は、例えば、GAG結合に対するヘパリン結合ドメイン配列における変化の効果を調べるために、目的のタンパク質から見出されるものから改変されてもよい。
【0147】
本明細書において、該タンパク質は、FGF2である。好ましいヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列は、GHFKDPKRLYCKNGGF(配列番号1)[これは、ヒトFGF2のアミノ酸157〜172において見出される]、または配列YCKNGGF(配列番号2)を有する配列である。
【0148】
特定のポリペプチドのアミノ酸配列における小さなバリエーションがその部分の本来の機能性の維持を可能にしうることは、当業者によって理解される。ペプチド中の特定のアミノ酸残基を、等配電子的および/または等電子的な他のアミノ酸残基で置換することは、無置換のペプチドの特定の特性を維持または改良のいずれかをしてもよいことも理解される。これらのバリエーションも、本発明の範囲内に包含される。例えば、アミノ酸アラニンは、ペプチドの1つまたは複数の特性を維持しながら、時にアミノ酸グリシンと置換されてもよい(その逆もまた同様である)。用語「等配電子的」は、2つの実体間の空間的類似性を指す。穏やかに上昇された温度で等配電子的である基の2つの例は、イソプロピルおよびtert−ブチル基である。用語「等電子的」は、2つの実体間の電子的類似性を指し、例は、2つの実体が、同一の、または同様の、pKaの機能性を有する場合である。
【0149】
ヘパリン結合ドメインに対応しているポリペプチドは、合成物または組換え体であってもよい。
【0150】
固体支持体は、共有結合または非共有結合を通して、直接的または間接的に、分子が結合されうる表面を有するいかなる基質であってもよい。固体支持体は、表面に結合されたプローブに物理的な支持を提供することができる任意の基質材料を含んでいてもよい。それは、マトリクス支持体であってもよい。材料は、一般に、表面へのプローブの結合、およびその後のあらゆる処理、取扱い、またはアッセイの実施中に生じる加工に関連した条件に耐えることができる。材料は、天然に存在していても、合成であっても、または天然に存在する材料の改変形態であってもよい。固体支持体は、プラスチック材料(ポリマー、例えば、ポリ(塩化ビニル)、シクロオレフィンコポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルブテン)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFEまたはTeflon(登録商標))、ナイロン、ポリ(ビニルブチレート)などを含む)などであってもよく、いずれも、単独でまたは他の材料と組み合わせて使用される。さらなる硬質の材料、例えば、ガラスが考えられてもよく、これは、シリカを含み、かつさらに、例えば、バイオガラスとして利用できるガラスを含む。採用されうる他の材料は、多孔性材料、例えば、調節された細孔ガラスビーズなど、を含む。1つまたは複数の官能基、例えば、アミノ、カルボキシル、チオール、またはヒドロキシル官能基のうちのいずれかを有することのできる、例えば、その表面上に組み込まれる、当技術分野において既知の任意の他の材料も意図される。
【0151】
好ましい固体支持体は、カラムの表面上に固定されたポリペプチドを有するカラムを含む。その表面は、カラムの壁であってもよく、かつ/またはカラムの中央のスペース内にパックされたビーズによって提供されてもよい。
【0152】
ポリペプチドは、固体支持体上に固定されていてもよい。固定化の方法の例は、吸着、共有結合性結合、包括および膜限局を含む。本発明の好ましい態様では、ポリペプチドおよびマトリクスの間の相互作用は、実質的に恒久的である。本発明のさらに好ましい実施形態では、ペプチドおよびマトリクスの間の相互作用は、イオン交換クロマトグラフィーに対して好適に不活性である。好ましい配置では、ポリペプチドは、固体支持体の表面に結合される。当業者は、2つの実体を互いに物理的および/または化学的に結合するために選択する多数の選択肢を有するはずであることが理解される。これらの選択肢は、本発明の範囲内にすべて包含される。好ましい配置では、ポリペプチドは、ストレプトアビジンとのビオチンの相互作用を通して固体支持体に吸着される。この配置の代表的な例では、ビオチンの分子は、ポリペプチドに共有結合で結合され、その結果、ビオチン−ポリペプチドコンジュゲートは、固体支持体に共有結合で結合されているストレプトアビジンに結合する。別の配置では、ポリペプチドとビオチン、および/またはマトリクスとストレプトアビジンの分子を連結するためにスペーサーまたはリンカー部分が使用されてもよい。
【0153】
GAG混合物を固体支持体と接触させることによって、GAG−ポリペプチド複合体の形成が可能にされる。これらは、固体支持体から混合物の残りを除去することによって、例えば、固体支持体を洗浄して非結合材料を溶出させることによって、混合物の残りから分離される。カラムが固体支持体として使用される場合、GAG混合物の非結合成分は、カラムに結合したGAG−ポリペプチド複合体を残して、カラムから溶出されうる。
【0154】
特定のオリゴ糖が非特異的な様式でポリペプチドと相互作用しうることが理解される。ある特定の実施形態では、非特異的な様式でポリペプチドと相互作用するオリゴ糖は、含まれていてもよく、またはヘパリン結合因子の影響をモジュレートする1種または複数のGAGで濃縮された化合物の混合物から除去されてもよい。非特異的な相互作用の例は、好適な大きさおよび/または形にされた分子のポケット内での一時的な限局である。さらに、これらのオリゴ糖は、ペプチドと全く相互作用を示さないオリゴ糖よりも遅く溶出されうることが理解される。そのうえ、非特異的に結合する化合物は、特異的な様式で(例えば、イオン性の相互作用を通して)結合する化合物の場合のようにそれらを溶出させるための同一の外部から刺激の入力を必要としなくてもよいことが理解される。本発明者らの方法は、オリゴ糖の混合物をその混合物の成分:特異的な様式でポリペプチドに結合するもの;非特異的な様式でポリペプチドに結合するもの;およびポリペプチドに結合しないものに分離することができる。これらの名称は、各GAG−ペプチド対について操作上定められる。
【0155】
GAGおよびポリペプチドの結合が生じる固体支持体の表面に存在する条件(例えば、塩濃度)を変化させることによって、ヘパリン結合ドメインに最も高い親和性および/または特異性を有するGAGが選択されうる。したがって、目的のタンパク質および/または目的のタンパク質のヘパリン結合ドメインに高い結合親和性を有するGAGが得られうる。結合親和性(K
d)は、10μM未満、1μM未満、100nM未満、10nM未満、1nM未満、100pM未満のうちの1つから選択されてもよい。
【0156】
記載の方法によって得られるGAGは、in vitroおよび/またはin vivoにおいて、一範囲の適用において有用でありうる。GAGは、in vitroでの細胞もしくは組織、またはin vivoでの細胞もしくは組織の培養のいずれかにおける細胞または組織の成長および/または増殖および/または分化の刺激または抑制における使用のために提供されてもよい。
【0157】
GAGは、こうした目的のための製剤として提供されてもよい。例えば、記載の方法によって得られるGAGを含む、すなわち、HS8を含む培地が提供されてもよい。
【0158】
in vitroにおけるHS8の存在下での細胞または組織の培養から得られる細胞または組織は、回収されて、治療を必要とするヒトまたは動物の患者内に埋め込まれてもよい。したがって、細胞および/または組織の埋め込みの方法が提供されてもよく、該方法は、
(a)in vitroで細胞および/または組織をHS8と接触させて培養するステップ、
(b)細胞および/または組織を回収するステップ、
(c)治療を必要とするヒトまたは動物の対象内に細胞および/または組織を埋め込むステップ
を含む。
【0159】
細胞は、パート(a)においてHS8と接触させて、細胞または組織の成長、増殖または分化を可能にするために十分な一定期間培養されてもよい。例えば、この一定期間は、少なくとも5日、少なくとも10日、少なくとも20日、少なくとも30日または少なくとも40日から選択されてもよい。
【0160】
別の実施形態では、HS8は、傷害または疾患の予防または治療を含む、医療の方法における使用のために製剤化されてもよい。HS8および薬学的に許容される賦形剤、担体またはアジュバントを含む医薬組成物または医薬が提供されてもよい。こうした医薬組成物または医薬は、損傷または疾患の予防または治療のために提供されてもよい。傷害または疾患の予防または治療のための医薬の製造におけるHS8の使用も提供される。任意選択で、本発明による医薬組成物および医薬は、GAGが結合するヘパリン結合ドメインを有する目的のタンパク質(すなわち、FGF2)も含んでいてもよい。さらなる実施形態では、医薬組成物および医薬は、幹細胞、例えば、間葉系幹細胞をさらに含んでいてもよい。
【0161】
傷害または疾患の治療は、細胞または組織、例えば、結合組織(例えば、骨、軟骨、筋肉、脂肪、腱または靭帯)の修復、再生または置換を含んでいてもよい。組織の修復のために、HS8を含む医薬組成物または医薬は、新しい組織の成長、増殖および/または分化を刺激して傷害の修復をもたらすためにまたは病態を治癒させるもしくは軽減する(例えば、病態の症状の軽減をもたらす)ために、傷害または疾患の部位に直接に投与されてもよい。組織の修復または再生は、医薬組成物または医薬中に幹細胞を組み合わせることによって向上されてもよい。
【0162】
組織の置換のために、HS8は、患者における傷害または疾患の部位での埋め込み用の細胞および/または組織を作製するために、細胞および/または組織のin vitroでの培養中に細胞および/または組織と接触されてもよい。細胞または組織の移植は、傷害または疾患のある組織の置換によって患者において損傷または疾患のある組織の修復を行うために使用されうる。これは、傷害/疾患のある組織の切除ならびにHS8と接触させて細胞および/または組織を培養することによって調製された新しい組織の埋め込みを含んでいてもよい。
【0163】
本発明による医薬組成物および医薬は、したがって、
(a)HS8;
(b)幹細胞と組み合わせたHS8;
(c)HS8によって結合されるヘパリン結合ドメイン(例えば、配列番号1)を含むタンパク質と組み合わせたHS8;
(d)HS8によって結合されるヘパリン結合ドメイン(例えば、配列番号1)を含むタンパク質および幹細胞と組み合わせたHS8;
(e)HS8と接触させた細胞または組織の培養物から得られる組織または細胞
のうちの1つを含んでいてもよい。
【0164】
HS8は、身体組織の修復または再生、特に、骨再生、神経再生、骨格組織構築、心血管系傷害の修復、ならびに胚および成体幹細胞の自己複製および増殖において使用されてもよい。したがって、HS8は、骨関節炎、軟骨置換、あらゆる種類の破損した骨(例えば、脊柱円板融合処置、長骨破損、頭蓋欠損)、重大なまたは癒合しない骨欠損の再生を含む、広範囲にわたる疾患および傷害を予防または治療するために使用されうる。
【0165】
組織の修復、再生または置換におけるHS8の使用は、創傷治癒、例えば、創傷治癒の促進、瘢痕または骨組織の治癒および組織移植における使用を含んでいてもよい。
【0166】
別の態様では、本発明は、HS8を含む生物学的スキャフォールドを提供する。一部の実施形態では、本発明の生物学的スキャフォールドは、整形外科、血管、プロテーゼ、皮膚および角膜の用途で使用されてもよい。本発明によって提供される生物学的スキャフォールドは、持続放出性薬物送達装置、生体弁、生体弁尖頭、薬物溶出ステント、血管移植片、創傷治癒または皮膚移植片ならびに整形外科用のプロテーゼ、例えば、骨、靭帯、腱、軟骨および筋肉を含む。本発明の好ましい実施形態では、生物学的スキャフォールドは、内側(および/または外側)の表面が、カテーテルに結合された1種または複数のGAG化合物(HS8を含む)を含むカテーテルである。
【0167】
別の態様では、本発明は、アジュバントとしての使用のために記載された方法によって単離される1種または複数のGAG(HS8を含む)を提供する。アジュバントは、免疫アジュバントであってもよい。
【0168】
別の態様では、本発明は、1種または複数のGAGを含む化合物の混合物を含む薬学的に許容される製剤であって、前記混合物がHS8に関して濃縮されている、製剤を提供する。別の態様では、本発明は、別個、同時または連続の投与のための、
(i)HS8に関して濃縮されている、1種または複数のGAGを含む化合物の混合物;および
(ii)FGF2
を含む薬学的に許容される製剤を提供する。好ましい一実施形態では、該製剤は、1種または複数のGAGを含む化合物の混合物を含み、前記混合物は、本質的な混加物中のHS8およびFGF2に関して濃縮されており、治療を必要とする患者に同時に投与される。
【0169】
本発明の別の態様では、組織の修復、または再生における使用のためにキットであって、(i)予め決定された量のHS8、および(ii)予め決定された量のFGF2を含むキットが提供される。
【0170】
本発明の濃縮された混合物の化合物は、薬学的に許容されるその塩として対象に投与されうる。例えば、本発明の濃縮された混合物の化合物のベースの塩は、これらに限定されないが、薬学的に許容される陽イオン、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよびアルキルアンモニウムなどで形成されたものを含む。本発明は、その範囲内に、陽イオン性の塩、例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩を含む。
【0171】
カルボン酸基を有する本発明の濃縮された混合物の化合物が、投与可能なプロドラッグの形態で送達されてもよいことは理解されよう。ここで、その酸性基は、エステル化され(−CO2R’の形態を有す)る。用語「プロドラッグ」は、in vivoにおいて、−OR’基から−OH基、またはそこからカルボン酸の陰イオンへの変換に特に関する。したがって、本発明のプロドラッグは、細胞内への薬物吸着および/または薬物送達を促進するために働きうる。プロドラッグのin vivoでの変換は、リパーゼおよびエステラーゼなどの細胞酵素によって、またはin vivoでのエステル加水分解などの化学切断によって促進されうる。本発明の態様による医薬および医薬組成物は、疾患または傷害の部位での注入を含むがこれらに限定されない、いくつかの経路による投与用に製剤化されてもよい。医薬および組成物は、液体または固体の形態で製剤化されてもよい。液体製剤は、注入による、ヒトまたは動物の身体の選択された領域への投与用に製剤化されてもよい。
【0172】
個体に対する利益を示すのに十分である、「治療有効量」での投与が好ましい。投与される実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療中の傷害または疾患の性質および重症度に依存することになる。治療の処方、例えば、投与量の決定などは、一般的な開業医および他の医師の責任の範囲内にあり、典型的には、治療される障害、個々の患者の状態、送達の部位、投与の方法および開業医に知られている他の要因を考慮する。上述の技術およびプロトコールの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2000、Lippincott,Williams&Wilkins出版の中で見出されうる。
【0173】
幹細胞
HS8と接触させる細胞は幹細胞を含む。
【0174】
HS8は、幹細胞の増殖および/もしくは分化、ならびに/または幹細胞の分化系列決定(lineage−commitment)において使用されうる。
【0175】
本明細書において培養され、記載される幹細胞は、いかなる種類の幹細胞であってもよい。該幹細胞は全能性であっても多分化能(多能性)であってもよい。該幹細胞は任意の組織に由来する胚性幹細胞であっても成体幹細胞であってもよく、また、造血幹細胞であっても神経幹細胞であっても間葉系幹細胞であってもよい。該幹細胞は成体幹細胞であることが好ましい。
【0176】
本明細書では、幹細胞は、分裂(すなわち、自己再生)し、全能性または多分化能(多能性)を保ち、特殊化した細胞を生じさせる能力を有する任意の細胞型を意味する。
【0177】
本発明において培養される幹細胞は、現存する培養物から、または、血液、骨髄、皮膚、上皮もしくは臍帯(通常は廃棄される組織)を含めた任意の成体組織、胚組織または胎児組織から直接得られうる、またはそれに由来しうる。
【0178】
幹細胞の多分化能は、適切なアッセイを使用することによって決定されうる。そのようなアッセイは、多能性の1つまたは複数のマーカー、例えば、アルカリホスファターゼ活性、RUNX2、オステリックス(osterix)、I型コラーゲン、II型コラーゲン、IV型コラーゲン、VII型コラーゲン、X型コラーゲン、オステオポンチン、オステオカルシン、BSPII、SOX9、アグリカン、ALBP、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質−α(C/EBPα)、脂肪細胞脂質結合タンパク質(ALBP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、骨シアロタンパク質2、(BSPII)、コラーゲン2a1(Coll2a)およびSOX9の検出を検出することを含んでよい。
【0179】
一部の好ましい実施形態では、幹細胞は、間葉系幹細胞(MSC)である、例えば、軟骨細胞、骨芽細胞、筋細胞および脂肪細胞などの結合組織および/または骨細胞に分化する能力がある。
【0180】
間葉系幹細胞は、低侵襲性の技法によって骨髄から容易に得られ、培養物中で増大し、所望の系列に分化しうる。分化は、特定の増殖因子の適用によって誘導されうる。骨形成タンパク質(BMP)などの形質転換増殖因子ベータ(TGF−ベータ)スーパーファミリーメンバータンパク質は、間葉系幹細胞の軟骨形成性分化および骨形成性分化の重要な因子である。
【0181】
間葉系幹細胞は、STRO−Iなどの選択マーカーを使用して、骨髄再増殖に対するそれらの可能性を示すCD34+画分から単離および検出されうる。これらの細胞表面マーカーは、間葉系幹細胞の細胞表面上にのみ見出され、細胞多能性の指標である。
【0182】
適切な間葉系幹細胞は、骨髄の吸引により回収された骨髄単核細胞(BMMNC)から得られうる、またはそれに由来しうる(例えば、Wexlerら、Adult bone marrow is a rich source of human mesenchymal’stem’ cells but umbilical cord and mobilized adult blood are not.HAEMOPOIESIS AND LEUCOCYTES British Journal of Haematology 121(2):368〜374、2003年4月)またはWharton’s Jelly of the umbilical cord(例えば、Taら、Long−term Expansion and Pluripotent Marker Array Analysis of Wharton’s Jelly−Derived Mesenchymal Stem Cells.Stem Cells Dev.2009年7月20日(Epub))。
【0183】
間葉系幹細胞は、当技術分野で周知の通り、適切な分化因子を適用することによりヒト胚性幹細胞または人工多能性幹細胞などの多能性幹細胞を分化させることによって得られうる。
【0184】
間葉系幹細胞は、軟骨、骨、筋肉、腱、靭帯、および脂肪の成分を生成する能力を有する多能性(多分化能)前駆細胞である。これらの初期の前駆細胞は出生後に存在し、幹細胞の特性を示す、すなわち、低い発生率および広範囲にわたる再生可能性を示す。これらの性質に対して、それらの発生の柔軟性と組み合わせて、傷害組織の置換するためのそれらの潜在的使用に関して極めて大きな関心が生じている。本質的に、これらの幹細胞は、培養してそれらの数を増大させ、次いで、傷害部位に移植すること、または足場中/上に播種した後に適切な組織構築物を生成することができる。
【0185】
したがって、骨格、筋肉、腱、靭帯および血液の修復/再生のための代替の手法は、特定の組織増殖因子の賢明な選択と共に再生を支持およびガイドする伝導性または誘導性足場と組み合わせて、適切な前駆細胞、骨の場合では骨芽前駆細胞(例えば、間葉系幹細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、筋芽細胞、骨幹細胞または骨前駆細胞)などを選択し、増大させ、モジュレートすることである。
【0186】
幹細胞は、任意の動物またはヒト、例えば、非ヒト動物、例えば、ウサギ、モルモット、ラット、マウスまたは他のげっ歯類(げっ歯目の任意の動物由来の細胞を含める)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、非ヒト霊長類または他の非ヒト脊椎動物生物体;および/または非ヒト哺乳動物;および/またはヒトから得られうる。幹細胞はヒトであることが好ましい。任意選択で、幹細胞は非ヒトである。任意選択で、幹細胞は非胚性幹細胞である。任意選択で、幹細胞は全能性ではない。
【0187】
本発明のさらに別の態様では、本発明の方法のいずれかによって生成される幹細胞または他の細胞、またはその断片もしくは産物を含む医薬組成物が提供される。医薬組成物は、医療の方法において有用でありうる。適切な医薬組成物は、薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤をさらに含んでいてもよい。
【0188】
本発明の別の態様では、本発明の方法のいずれかによって生成される幹細胞または他の細胞は、医療の方法において使用されてもよく、治療を必要とする個体に治療有効量の前記医薬または医薬組成物を投与するステップを含む医療の方法が提供されることが好ましい。
【0189】
本発明による培養方法および技法によって得られる幹細胞および他の細胞は、医療の方法において使用するための別の細胞型に分化させるために使用されうる。したがって、分化細胞型は、記載されている培養方法および技法によって得られ、その後分化させた、幹細胞に由来するものであってよく、その産物であるとみなされうる。そのような分化細胞を、任意選択で薬学的に許容される担体、アジュバントまたは賦形剤と共に含む医薬組成物が提供されうる。そのような医薬組成物は、医療の方法において有用でありうる。
【0190】
間葉系幹細胞
間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄から最初に単離された、総骨髄単核細胞(BMMNC)104〜105個のうちのたったの1つとして存在するものである(Friedensteinら、1966)。これらの細胞は、CFU−F(コロニー形成単位線維芽細胞)集団と称される単一の前駆細胞由来のコロニーを形成する能力がある。MSCは現在、脂肪組織(GimbleおよびGuilak 2003;Zukら、2001)、臍帯血(Biebackら、2004;Ericesら、2000;Goodwinら、2001;Koglerら、2004;Wagnerら、2005)および筋肉(Jiangら、2002)を含めた多くの他の組織において同定されている。
【0191】
多分化能ヒト間葉系間質細胞(MSC)に関する最小の基準は、Internation Society for Cellular Therapyによって詳述されている(Dominiciら、Cytotherapy(2006)8巻、4号、315−317)。これにより、ヒトMSCを定義するための3つの基準が提唱されている:プラスチックへの接着性、特定の表面抗原発現および多分化能分化可能性。特に、「第1に、MSCは、組織培養フラスコを使用して標準の培養条件で維持したときにプラスチック接着性でなければならない。第2に、フローサイトメトリーによって測定して、MSC集団の≧95%が、CD105、CD73およびCD90を発現しなければならない。さらに、これらの細胞は、CD45、CD34、CD14またはCD11b、CD79αまたはCD19およびHLA クラスII(HLA−DR)の発現を欠かなければならない(≦2%陽性)。第3に、細胞は、標準のin vitroでの分化条件で骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨芽細胞に分化できなければならない。」と述べられている。
【0192】
Dominiciらも、MSCをほぼ一意的に同定する生物学的性質は、標準のin vitroでの組織培養物−分化条件を使用して骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨芽細胞に三血球系間葉系分化するそれらの能力であることを述べた。彼らは、骨芽細胞への分化が、アリザリンレッド染色またはフォンコッサ染色によって実証されうること、脂肪細胞分化がオイルレッドOを用いた染色によって最も容易に実証されうること、および軟骨芽細胞分化が、II型コラーゲンに対するアルシアンブルーを用いた染色または免疫組織化学的染色によって実証されうることを確認した。Dominiciらは、そのようなアッセイのためのキットが市販されていること、および分化の実証は全ての研究者が実行可能であることを述べた。
【0193】
Dominiciらは、今後、同様にヒトMSCを定義するために使用されうる新規の表面マーカーを同定することができることも理解している。これらの3種のマーカー:CD49a、SSEA−4およびSTRO−1が現在公知である。
【0194】
Riderらは、CD49a+クローンでは未選別胞と比較してCD90およびCD105の発現が促進されたことを報告し、CD49a+クローンが未選別胞と比較して脂肪、骨および軟骨への多系列分化を容易に受けることを実証した。これにより、間葉系幹細胞を濃縮し、骨髄単核幹細胞の不均一なプールから最も多分化能の細胞を選択するための戦略を提供するためのアルファ−1インテグリン(CD49a)選択の使用が支持される(Riderら、J.Mol.Hist(2007)38:449−458)。Riderらは、CFU−F細胞がCD49aの発現に関連すること、CD49aを発現するCFU−F細胞がSTRO−1も同時発現すること、およびCD49aがMSCをヒトに加えてラットおよびマウスから単離するために使用されうることも報告した。これは、CD49aが濃縮に対する保存的マーカーであることを示す。
【0195】
Gangらは、段階特異的胚抗原SSEA−4が未分化の多能性ヒト胚性幹細胞に対するマーカーとして一般に使用され、また、胚盤胞段階の胚への分割も成体ヒト間葉系幹細胞集団を同定するものであり、MSCを単離するために使用されうることを報告した(Gangら、Blood 2007;109:1743−1751)。Gangらは、クローン原性間質細胞(CFU−F)、いわゆるSTRO−1
+brightの濃縮における、表面マーカーSTRO−1に結合するモノクローナル抗体の使用ことも記載している。
【0196】
グリコサミノグリカン
本明細書で使用される場合、「グルコサミノグリカン」および「GAG」という用語は互換的に使用され、また、オリゴ糖を含み、それらの結合した糖の1つまたは複数がアミノ置換基またはその誘導体を有する分子の大きな集合を指すことが理解される。GAGの例は、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸およびヘパラン硫酸である。
【0197】
本明細書で使用される場合、「GAG」という用語は、GAGコンジュゲートである分子を包含するように拡張される。GAGコンジュゲートの例は、ペプチド成分がオリゴ糖成分と共有結合したプロテオグリコサミノグリカン(PGAG、プロテオグリカン)である。
【0198】
ヘパラン硫酸(HS)
ヘパリン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は、プロテオグリカンの高度に多様なサブグループであり、タンパク質骨格に共有結合により結合したヘパラン硫酸グルコサミノグリカン側鎖で構成される。コアタンパク質は3つの主要な形態:パールカンとして公知の分泌形態、グリピカンとして公知の、原形質膜内に固定された形態、およびシンデカンとして公知の膜貫通形態で存在する。これらは、哺乳動物の細胞表面および大多数の細胞外マトリクスに遍在する構成物である。HS鎖を、あまり一般的には見出されないコアに結合させることができるアグリン、またはアミロイド前駆体タンパク質などの他のタンパク質が存在する。
【0199】
「ヘパラン硫酸」(「ヘパラン硫酸」または「HS」)は、ゴルジ装置においてD−グルクロン酸(GIcA)およびN−アセチル−D−グルコサミン(GIcNAc)のタンデムな反復からなる多糖として最初に合成される。新生多糖は、その後、一連のステップ:GIcNAcのN−脱アセチル化/N−硫酸化、GIcAからイズロン酸(IdoA)へのC5エピマー化、IdoAおよびGIcAのC2におけるO−硫酸化、N−スルホグルコサミン(GIcNS)のC6におけるO−硫酸化および時々GIcNSのC3におけるO−硫酸化で修飾されうる。HSのN−脱アセチル化/N−硫酸化、2−O−硫酸化、6−O−硫酸化および3−O−硫酸化は、それぞれ、HS N−脱アセチル化酵素/N−スルホトランスフェラーゼ(HSNDST)、HS 2−O−スルホトランスフェラーゼ(HS2ST)、HS 6−O−スルホトランスフェラーゼ(HS6ST)およびHS 3−O−スルホトランスフェラーゼの特異的作用によって媒介される。修飾ステップのそれぞれにおいて、潜在的な基質のほんの一部のみが修飾され、その結果、大きな配列多様性が生じる。HSのこの構造的な複雑さにより、その配列を決定すること、およびHS構造と機能との間の関係を理解することが難しいものになっている。
【0200】
ヘパラン硫酸側鎖は、(1→4)グリコシド結合によって結合した、交互に配置されたD−グルクロン酸またはL−イズロン酸とD−グルコサミンからなる。グルコサミンは、多くの場合、N−アセチル化またはN−硫酸化され、ウロン酸とグルコサミンはどちらもさらにO−硫酸化される。特定の結合パートナーに対する特定のHSPGの特異性は、グルコサミンおよびウロン酸に結合したカルボキシル基、アセチル基および硫酸基の特定のパターンによって生じる。ヘパリンとは対照的に、ヘパラン硫酸は、N−硫酸基およびO−硫酸基よりもN−アセチル基を多く含有する。ヘパラン硫酸側鎖は、コアタンパク質のセリン残基に四糖結合(−グルクロノシル−β−(1→3)−ガラクトシル−β−(1→3)−ガラクトシル−β−(1→4)−キシロシル−β−1−O−(セリン))領域を通じて結合する。
【0201】
ヘパラン硫酸鎖とコアタンパク質はどちらも、最終的にそれらの生物活性に影響を及ぼす可能性がある一連の修飾を受けうる。HSの複雑さは、核酸の複雑さに勝ると考えられてきた(Lindahlら、1998、J.Biol.Chem.273、24979;SugaharaおよびKitagawa、2000、Curr.Opin.Struct.Biol.10、518)。HS種内の変動は、N−アセチル化グルコサミンを含有する二糖の硫酸化されていない領域によって分離された、糖残基のランダムでない高度に硫酸化された配列の合成から生じる。N−アセチルグルコサミンからN−スルホグルコサミンへの最初の変換により、グルクロン酸からイズロン酸へのエピマー化およびグルコサミンまたはイズロン酸におけるO−硫酸化の複雑なパターンを含めた他の修飾のための焦点が生じる。さらに、修飾されていない、低硫酸化された、N−アセチル化された配列内では、ヘキサウロン酸残基はグルクロン酸として残るが、高度に硫酸化されたN−硫酸化された領域では、C−5エピマーイズロン酸が優性である。これにより、任意の所与の鎖内の可能性のある潜在的な二糖バリアントの数が限定されるが、それぞれの存在量が限定されない。大多数の修飾は、N−硫酸化ドメインにおいて、またはそれらのすぐ隣で起こり、したがって、成熟鎖では、低硫酸化のドメインによって分離された高硫酸化の領域が存在する(Brickmanら(1998)、J.Biol.Chem.273(8)、4350−4359、その全体が参照により本明細書に組み込まれている)。
【0202】
高度に変動するヘパラン硫酸鎖は、自己分泌、接触分泌およびパラ分泌フィードバックループの複雑な組合せによる増殖の調節および接着因子の細胞への提示を含めた多数の細胞外リガンドの作用のモジュレーションにおいて重要な役割を果たし、したがって細胞内シグナル伝達、およびそれにより幹細胞の分化を制御すると仮定される。例えば、ヘパラン硫酸グルコサミノグリカンは遺伝的に記載されうるにもかかわらず(Albertsら(1989)Garland Publishing,Inc、New York&London、804頁および805頁)、単一の供給源から単離されたヘパラン硫酸グルコサミノグリカンは生物活性が異なりうる。Brickmanら、1998、Glycobiology 8、463に示されている通り、神経上皮細胞から得たヘパラン硫酸グルコサミノグリカンの2つの別々のプールは、分裂促進的な状態に応じてFGF−1またはFGF−2のいずれかを特異的に活性化することができた。同様に、ヘパラン硫酸(HS)のFGF−1またはFGF−2のいずれかと相互作用する能力はWO96/23003に記載されている。この特許出願によると、FGF−1と相互作用することができるそれぞれのHSは胎齢約11日〜約13日のマウス細胞から得られ、一方、FGF−2と相互作用することができるHSは胎齢約8日〜約10日に得られる。
【0203】
上記の通り、HS構造は非常に複雑であり、HS間で変動する。実際に、HS構造の変動は、細胞の増殖を促進し、細胞分化を導くことにおける各HSの異なる活性の寄与において重要な役割を果たすと考えられる。構造的な複雑さは、核酸の複雑さに勝ると考えられ、HS構造は特定の独特の硫酸化パターンを有する反復二糖単位の連続であると特徴付けることができるにもかかわらず、現在のところ、核酸配列決定のために利用可能なものと同等の、HS配列構造を決定するために利用可能な標準の配列決定技法は存在しない。重要なHS配列構造を決定するための単純な方法の不在下で、HS分子は、当業者により、いくつもの分析技法によって積極的に同定され、構造的に特徴付けられる。これらとしては、二糖分析、四糖分析、HPLCおよび分子量決定の1つまたは組合せが挙げられる。これらの分析技法は当業者には周知であり、当業者に使用される。
【0204】
HSから二糖および四糖を作製するための2つの技法として、亜硝酸消化およびリアーゼ消化が挙げられる。これらの消化技法を実施する1つのやり方についての記載が下で純粋に例として提供され、そのような記載は本発明の範囲を限定するものではない。
【0205】
亜硝酸消化
ヘパラン硫酸の亜硝酸に基づく解重合が完了すると、炭水化物鎖がその個々の二糖成分に最終的に分解される。
【0206】
例えば、亜硝酸は、0.5MのH
2SO
4および0.5MのBa(NO
2)
2、250μlを別々に氷上で15分冷却することによって調製されうる。冷却後、Ba(NO
2)
2をH
2SO
4と混合し、ボルテックスした後に遠心分離して硫酸バリウム沈殿物を除去する。HNO
2、125mlをH
2O、20μlに再懸濁させたGAG試料に添加し、ボルテックスした後に25℃で15分、時々混合しながらインキュベートした。インキュベート後、1MのNa
2CO
3を試料に添加してpH6にした。次に、0.1MのNaOH中0.25MのNaBH
4、100μlを試料に添加し、混合物を20分にわたり50℃まで加熱する。次いで、混合物を25℃まで冷却し、酸性化した氷酢酸を試料に添加してpH3にする。次いで、混合物を10MのNaOHで中和し、凍結乾燥によって体積を減少させる。分解の程度検証するために、最終的な試料をBio−Gel P−2カラムに流して二糖および四糖を分離する。
【0207】
リアーゼ消化
ヘパリナーゼIIIは、糖鎖をグルクロニド結合で切断する。一連のヘパリナーゼ酵素(I、IIおよびIII)はそれぞれ、ある特定のヘパラン硫酸配列を特定の硫酸化認識部位で解重合することにより比較的特異的な活性を示す。ヘパリナーゼIは、HS鎖に沿ってNS領域を伴うHS鎖を切断する。これにより、硫酸化ドメインの破壊が導かれる。ヘパリナーゼIIIは、NAドメインを伴うHSを解重合させ、その結果、炭水化物鎖が個々の硫酸化ドメインに分離する。ヘパリナーゼIIは、主に、変動する硫酸化パターンが見出されるHS鎖のNA/NS「肩」ドメインで切断する。注:ヘパランポリマーの反復二糖骨格は、アミノ糖グルコサミンと結合したウロン酸である。「NS」とは、アミノ糖がアミノ基上に硫酸を有し、C2、C6およびC3の他の基を硫酸化することが可能であることを意味する。「NA」とは、アミノ基が硫酸化されておらず、アセチル化されたままであることを示す。
【0208】
例えば、ヘパリナーゼIIIを使用したNA領域における解重合のために、酵素および凍結乾燥したHS試料の両方を、20mMのトリス−HCL、0.1mg/mlのBSAおよび4mMのCaCl
2、pH7.5を含有する緩衝液中に調製する。純粋に例として、ヘパリナーゼIIIをHS 1μgあたり5mUで添加し、37℃で16時間インキュベートした後、5分にわたって70℃まで加熱することによって反応を停止させることができる。
【0209】
二糖および四糖はカラムクロマトグラフィーによって溶出されうる。
【0210】
骨折
一部の態様では、本発明は、骨折を治療するためのHS8の治療的使用(ヒトおよび/または獣医学的)に関する。
【0211】
骨折は、医学的状態である。本出願において、「骨折」は、骨にひびが入った、骨が破損したまたは削れた、骨への損傷または傷害を含む。破損とは、骨における不連続性を指す。骨折は、物理的な影響、もしくは機械的なストレスによってまたは骨粗鬆症もしくは骨関節炎などの医学的状態によって惹起されうる。
【0212】
骨折の整形外科的分類法は、閉鎖骨折または開放骨折および単純骨折または多断片骨折を含む。閉鎖骨折では、皮膚が完全なままであるのに対して、開放骨折では、骨が創傷部位を貫通して曝露されることもあり、これは、より高い感染のリスクをもたらす。単純骨折は、1本に沿って生じ、骨を2本に分割する傾向がある。多断片骨折は、骨を複数の断片に分割(spilt)する。
【0213】
他の骨折の型は、圧迫骨折、圧縮骨折、回旋骨折、完全骨折、不全骨折、横骨折、線状骨折、斜骨折および粉砕骨折を含む。
【0214】
多くの対象において、骨創治癒(骨折癒合)は、天然に生じ、傷害後に開始される。出血は、通常は、凝固ならびに白血球および線維芽細胞の誘引をもたらし、その後、コラーゲン繊維が産生される。この後、コラーゲンマトリクスを骨に変換して骨基質(カルシウムヒドロキシアパタイト)が沈着(石灰化)する。再生された未成熟な骨は、成熟した骨よりも典型的には弱く、時が経過するにつれて、未成熟な骨は、成熟した「層状」骨を産生するためのリモデリングの過程を受ける。完全な骨の治癒過程には、著しく時間がかかり、典型的には、何ヶ月もかかる。
【0215】
骨折が生じ、HS8を使用する治療から利益を受けうる骨は、すべての骨型、特に、これらに限定されないが、長骨(例えば、大腿骨、上腕骨、指骨)、短骨(例えば、手根骨、足根骨)、扁平骨(例えば、頭蓋骨、肋骨、肩甲骨、胸骨、下肢帯)、不規則骨(例えば、椎骨)、種子骨(例えば、膝蓋骨)を含むすべての哺乳類の骨を含む。
【0216】
骨折が生じ、HS8を使用する治療から利益を受けうる骨は、骨格骨(すなわち、あらゆる骨格の骨)、頭蓋顔面領域の骨、軸骨格の骨(例えば、椎骨、肋骨)、付属器官の骨(例えば、四肢の骨)、骨盤の骨格の骨(例えば、骨盤)を含む。
【0217】
骨折が生じ、HS8を使用する治療から利益を受けうる骨は、顎、鼻および頬などの顔の骨を含む、頭部(頭蓋)および頸部の骨も含む。HS8は、歯または顔または頭蓋の手術中に骨の修復または再生を補助するために使用されてもよく、これは、例えば顎骨を含む、顔および/または口の(歯とは異なるような)骨の再構築を含みうる。
【0218】
骨折は、骨粗鬆症を有する対象によって示されるような、病理学的な有孔性を含む。
【0219】
本発明を制限するものではないが、HS8の一次作用は、創傷部位内の、創傷部位に隣接した、または創傷部位内へ移動させられる細胞上であってもよく、かつ間葉系幹細胞、骨幹細胞、前骨芽細胞もしくは骨芽細胞上、または創傷層内へのもしくは内での移動が見出されるもしくは引き起こされる付属的なもしくは血管性のいかなる細胞上であってもよい。
【0220】
HS8ならびにHS8を含む医薬組成物および医薬は、哺乳動物対象における骨折の治療の方法における使用のために提供される。治療は、骨における創傷治癒を含んでいてもよい。治療は、骨の修復、再生および成長を含んでいてもよい。HS8は、新しい骨成長を促進することによって骨折修復を促進する。HS8は、骨折修復の速度を向上させるために働き、骨創治癒がより速く起こるのを可能にして傷害からの回復時間の向上をもたらす。治療は、改良された骨強度をもたらしてもよい。
【0221】
治療は、骨粗鬆症または骨関節炎の治療を含みうる。
【0222】
HS8の投与は、骨折の周囲の組織にであることが好ましい。これは、骨折が生じた骨組織への直接の投与を含みうる。投与は、骨もしくは骨折の周囲の結合組織にまたは骨の近くのかつ骨に供給している血管系(例えば、血管)にであってもよい。投与は、傷害の部位に直接であってもよく、創傷の初期の治癒によって形成される仮骨にであってもよい。本発明の医薬および医薬組成物は、いくつかの経路による投与用に製剤化されてもよい。最も好ましくは、HS8は、注入のための流体または液体の形態で製剤化される。
【0223】
一部の実施形態では、HS8は、例えば、創傷部位における埋め込み用の薬物カプセル中に、放出制御製剤として製剤化される。HS8は、ナノ繊維または生分解性の紙または布などの担体材料(例えば、バイオマテリアル)に結合、上に含浸、または中に吸収されてもよい。
【0224】
HS8を含む医薬組成物、医薬、インプラントおよびプロテーゼは、FGF2も含んでいてもよい。FGF2を結合するHS8の能力のために、HS8は、創傷部位へのFGF2の送達を補助するFGF2の担体として働きうる。
【0225】
対応する未処理の骨折と比較して骨折の治癒を促進するのに十分である、「治療有効量」での投与が好ましい。投与される実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、骨折の性質および重症度に依存することになる。治療の処方、例えば、投与量の決定などは、一般的な開業医および他の医師の責任の範囲内にあり、典型的には、骨折の性質、個々の患者の状態、送達の部位、投与の方法および開業医に知られている他の要因を考慮することになる。HS8用量の単回投与または反復投与は、処方する医師の指導に従って投与されうる。純粋に例として、HS8は、少なくとも1ng/ml、より好ましくは少なくとも5ng/mlおよび任意選択で10ng/ml以上の投与量で送達されうる。個別のHS8投与量は、1mg未満かつ1μgを超えるオーダー、例えば、約5μg、約10μg、約25μg、約30μg、約50μg、約100μg、約0.5mg、または約1mgのうちの1つであってもよい。上述の技術およびプロトコールの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2000、Lippincott,Williams&Wilkins出版の中で見出されうる。
【0226】
HS8は、他の治療、例えば、鎮痛薬または抗炎症薬の投与、骨の固定および接着、例えば、ギプス包帯で傷害を受けた四肢を固定すること、外科的介入、例えば、骨を整復すること、または骨を移動させて、ずれ、屈曲もしくは脱臼を補正することなどと一緒に、骨折を治療するために使用されてもよい。外科手術が必要とされる場合には、HS8は、外科的処置中に骨折に直接投与(例えば、適用)されてもよい。
【0227】
バイオマテリアル
本発明の医薬組成物および医薬は、HS8でコーティングおよび/または含浸されたバイオマテリアルの形態をとっていてもよい。インプラントまたはプロテーゼは、バイオマテリアルから形成されてもよい。こうしたインプラントまたはプロテーゼは、細胞の移植(transplantion)、骨成長、組織再生、組織再構築および/または組織リモデリングを補助するために外科的に埋め込まれてもよい。
【0228】
HS8は、望ましい部位における新しい組織の形成を促進するために、インプラントまたはプロテーゼに適用されてもよい。ヘパラン硫酸は、タンパク質とは異なり、特に壊れにくく、合成バイオスキャフォールドの製造ならびにインプラントおよびプロテーゼへの適用に必要とされる溶媒に耐える極めて良好な能力を有することは理解されよう。
【0229】
バイオマテリアルは、HS8でコーティングまたは含浸されていてもよい。含浸は、例えば重合中に、HS8をバイオマテリアルの構成的な成分と混合すること、またはバイオマテリアル内にHS8を吸収することによって、バイオマテリアルを形成することを含んでいてもよい。コーティングは、バイオマテリアルの表面上にHS8を吸着することを含んでいてもよい。
【0230】
対象に投与されたまたは埋め込まれたときに、バイオマテリアルは、コーティングまたは含浸されたHS8がバイオマテリアルから放出されるのを可能にしなければならない。バイオマテリアル放出動態は、バイオマテリアルの構造、例えば、多孔性を改変することによって改変されてもよい。
【0231】
HS8でバイオマテリアルをコーティングするまたは含浸させることに加えて、1種または複数の生物学的に活性な分子が、バイオマテリアル上に含浸またはコーティングされてもよい。例えば、BMP−2、BMP−4、OP−1、FGF−1、FGF−2、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3;VEGF;コラーゲン;ラミニン;フィブロネクチン;ビトロネクチンからなる群から選択される少なくとも1種がある。上記の生理活性分子に加えてまたは代替的に、1種または複数のビスホスホネートが、HS8と共にバイオマテリアル上へ含浸またはコーティングされてもよい。有用なビスホスホネートの例は、エチドロン酸;クロドロン酸;アレンドロン酸;パミドロン酸;リセドロン酸;ゾレドロン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含みうる。
【0232】
HS8でコーティングまたは含浸されたバイオマテリアルは、医学的および獣医学的な目的において有用でありうる。本発明が患者の生活の質を向上させうるまたは潜在的に動物、例えば、育種における使用のための価値ある競走馬の寿命を延長しうることは理解されよう。
【0233】
バイオマテリアルは、スキャフォールドまたはマトリクス支持体を提供する。バイオマテリアルは、組織における移植に好適でありうる、または(例えば、溶液中のマイクロカプセルとしての)投与に好適でありうる。
【0234】
インプラントまたはプロテーゼは、生体適合性、例えば、無毒性および低免疫原性(最も好ましくは、非免疫原性)でなければならない。バイオマテリアルは生分解性であってもよく、それによって、創傷治癒が生じるにつれてバイオマテリアルが分解されて、最終的に対象においてin situに再生された骨のみを残す。代替的に、例えば、大きな不連続性にわたって骨再生を導くためおよび/または骨創治癒中の構造支持体として働くために、非生分解性のバイオマテリアルが使用されてもよく、好結果の創傷治癒後、任意選択の要件であるバイオマテリアルの外科的除去を伴う。
【0235】
バイオマテリアルは、軟性および/または柔軟性、例えば、ヒドロゲル、フィブリンウェブもしくはフィブリンメッシュ、またはコラーゲンスポンジであってもよい。「ヒドロゲル」は、天然または合成でありうる、有機ポリマーが、凝固または固体化されて水または他の溶液の分子を封入してゲルを形成する三次元の開放格子構造を生じるときに形成される物質である。固体化は、凝集、凝結、疎水性相互作用または架橋結合によって生じうる。
【0236】
代替的に、バイオマテリアルは、例えば、固体材料、例えば、プラスチックまたは生物学的に不活性な金属、例えば、チタンなどから形成された、相対的に硬質の構造であってもよい。
【0237】
バイオマテリアルは、架橋されたポリマーによって提供されうる多孔性マトリクス構造を有しうる。マトリクスは、骨成長のために必要とされる栄養素および増殖因子に対して浸透性であることが好ましい。
【0238】
マトリクス構造は、好適な架橋剤、例えば、カルシウム塩、ポリアクリル酸、ヘパリンで、繊維、例えば、フィブリンもしくはコラーゲン、またはアルギン酸ナトリウムの液境膜の繊維、キトサン、または他の多糖類を架橋することによって形成されてもよい。代替的に、スキャフォールドは、コラーゲンまたはアルギネートによって作製された、当業者に知られている十分に確立された方法を使用して架橋された、ゲルとして形成されてもよい。
【0239】
マトリクス形成のための好適なポリマー材料は、これらによって限定されないが、アガロース、コラーゲン、フィブリン、キトサン、ポリカプロラクトン、ポリ(DL−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン−コ−グリコリド)、ポリグリコリド、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、これらのコポリマー、または酢酸セルロース;酪酸セルロース、アルギネート、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、スルホン化ポリスルホン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、これらのコポリマーの群から選択されうる非生分解性ポリマーの群から選択されうる生分解性/生吸収性ポリマーを含む。
【0240】
コラーゲンは、その生体適合性ならびに支持細胞結合および機能の好ましい特性のために、マトリクス構築に有望な材料である(米国特許第5,019,087号;Tanaka,S.;Takigawa,T.;Ichihara,S.&Nakamura,T. Mechanical properties of the bioabsorbable polyglycolic acid−collagen nerve guide tube Polymer Engineering&Science 2006、46、1461〜1467)。臨床的に許容されるコラーゲンスポンジは、マトリクスの一例であり、当技術分野においてよく知られている(例えば、Integra Life Sciencesから)。
【0241】
フィブリンスキャフォールド(例えば、フィブリン接着剤)は、代替のマトリクス材料を提供する。フィブリン接着剤は、創傷接合剤として、増殖因子を送達する貯蔵体、および生物学的インプラントの配置および固定における助剤として広範囲にわたる臨床的適用を受けている(Rajesh Vasita、Dhirendra S Katti.Growth factor delivery systems for tissue engineering:a materials perspective.Expert Reviews in Medical Devices.2006;3(1):29〜47;Wong C、Inman E、Spaethe R、Helgerson S.Thromb.Haemost.2003 89(3):573〜582;Pandit AS、Wilson DJ、Feldman DS.Fibrin scaffold as an effective vehicle for the delivery of acidic growth factor(FGF−1).J.Biomaterials Applications.2000;14(3);229〜242;DeBlois Cote MF.Doillon CJ.Heparin−fibroblast growth factor fibrin complex:in vitro and in vivo applications to collagen based materials.Biomaterials.1994;15(9):665〜672)。
【0242】
参照により本明細書に組み込まれている、Luong−Vanら(In vitro biocompatibility and bioactivity of microencapsulated heparan sulphate Biomaterials 28(2007)2127〜2136)は、ポリカプロラクトンマイクロカプセルからのHSの持続性の局所的な送達を記載している。
【0243】
バイオマテリアルのさらなる例は、ヒドロキシアパタイトまたはヒアルロン酸を組み込んだポリマーである。
【0244】
HS8と組み合わせての使用に好適なバイオマテリアルの一例は、JAX(商標)骨間隙充填剤(Smith&Nephew)である。Jax顆粒剤は、高純度の硫酸カルシウムからなり、その形状を保持して、スキャフォールドに、調節された、顆粒内多孔性および顆粒移動安定性を与える。Jax顆粒剤は、体内で安全かつ完全に溶解する。
【0245】
他の好適なバイオマテリアルは、セラミックまたは金属(例えば、チタン)、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、脱灰された骨基質(DBM)、自己移植片(すなわち、患者の組織に由来する移植片)、または同種移植片(患者でない動物の組織に由来する移植片)を含む。バイオマテリアルは、合成的(例えば、金属、フィブリン、セラミック)または生物学的(例えば、動物組織、例えば、ヒト以外の哺乳動物(例えば、ウシ、ブタ)、またはヒト)から作製される担体材料)であってもよい。
【0246】
バイオマテリアルは、さらなる細胞で補助されてもよい。例えば、バイオマテリアルに、未分化の骨前駆細胞、例えば、幹細胞、例えば、間葉系幹細胞、より好ましくは、ヒト間葉系幹細胞を「播種」する(またはそれを共合成する)ことができる。
【0247】
治療される対象は、いかなる動物またはヒトであってもよい。対象は、哺乳動物であることが好ましく、より好ましくはヒトである。対象は、ヒト以外の哺乳動物(例えば、ウサギ、モルモット、ラット、マウスもしくは他のげっ歯動物(げっ歯目の中の任意の動物からの細胞を含む)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ(雌ウシ、例えば、乳牛、またはウシ属(Bos)の中の任意の動物を含む)、ウマ(ウマ科(Equidae)の中の任意の動物を含む)、ロバ、およびヒト以外の霊長類)であってもよい。ヒト以外の哺乳動物は、家庭用ペット、または商業的な目的で飼育される動物、例えば、競走馬、または農業用家畜、例えば、ブタ、ヒツジもしくはウシであってもよい。対象は、雄性または雌性でありうる。対象は、患者であってもよい。
【0248】
本発明の方法は、指示された通り、in vitroまたはin vivoで実施されてもよい。用語「in vitro」は、培養中の細胞を用いた操作を包含することが意図されるのに対して、用語「in vivo」は、完全な多細胞生物を用いた操作を包含することが意図される。
【0249】
細胞の継代
ここに記載されている方法は、培養中の細胞の継代、または分割を含んでいてもよい。該方法は、連続的または継続的な継代を含んでいてもよい。
【0250】
用語「継代」は、一般に、一定分量の細胞培養物を取り出すプロセス、完全にまたは部分的に細胞を解離させるプロセス、希釈するプロセスおよび培地中に植え付けるプロセスを指しうる。継代は、1回または複数回繰り返されてもよい。一定分量は、細胞培養物の全体または一部を含みうる。一定分量の細胞は、完全にもしくは部分的にコンフルエントであってもよく、またはコンフルエントでなくてもよい。継代は、以下の連なるステップのうちの少なくとも一部を含んでいてもよい:吸引、すすぎ、トリプシン処理、インキュベーション、移動、急冷、再播種および等分。Hedrick Lab、UC San Diegoによって公表されているプロトコール(http://hedricklab.ucsd.edu/Protocol/COSCell.html)が使用されてもよい。
【0251】
培養中の細胞は、基質またはフラスコから解離、および「分割」されてもよく、組織培地中への希釈および再播種によって、継代培養または継代されてもよい。
【0252】
継代のプロセスは、少なくとも1回、例えば2回、3回、4回、5回など(以下に記述されるように)、繰り返されうる。場合によっては、これは、何回でも、例えば、限界なく、繰り返されてもよい。最も好ましくは、このプロセスは、3回以上、例えば、5回以上、6回以上、7回以上、8回以上、9回以上、10回以上、11回以上、12回以上、13回以上、14回以上、15回以上、16回以上、17回以上、18回以上、19回以上、20回以上、21回以上、22回以上、23回以上、24回以上、25回以上繰り返される。
【0253】
細胞は、当技術分野において知られている機械的または酵素的な手段などの、任意の好適な手段によって解離されうる。細胞は、例えば、細胞スクレーパーまたはピペットを使用して、機械的な解離によって剥離されてもよい。細胞は、好適な篩の大きさを通して、例えば、100ミクロンまたは500ミクロンの篩を通して、篩分けによって解離されてもよい。細胞は、酵素的解離によって、例えば、回収されたコラゲナーゼまたはtrypLEでの処理によって、分割されてもよい。この解離は、完全であってもよくまたは部分的であってもよい。
【0254】
希釈率は、任意の好適な希釈率であってもよい。細胞培養中の細胞は、任意の好適な比で分割されてもよい。例えば、細胞は、1:2以上、1:3以上、1:4以上または1:5以上の比で分割されてもよい。細胞は、1:6以上、1:7以上、1:8以上、1:9以上または1:10以上の比で分割されてもよい。分割の比は、1:10以上であってもよい。それは、1:11、1:12、1:13、1:14、1:15、1:16、1:17、1:18、1:19または1:20またはそれ以上であってもよい。分割の比は、1:21、1:22、1:23、1:24、1:25または1:26またはそれ以上であってもよい。
【0255】
したがって、幹細胞は、1回または複数回の継代の間、継代されてもよい。例えば、幹細胞は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25回またはそれ以上の継代の間、継代されてもよい。幹細胞は、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95回またはそれ以上の継代の間、継代されてもよい。幹細胞は、培養で限界なく増殖されてもよい。
【0256】
継代は、細胞増殖の世代として表されてもよい。本発明者らの方法および組成物は、幹細胞を、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25世代またはそれ以上の間、増殖させることを可能にするのに好適である。幹細胞は、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95世代またはそれ以上の間、増殖されてもよい。
【0257】
継代は、細胞倍加の回数としても表されうる。本発明者らの方法および組成物は、幹細胞を、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25回またはそれ以上の細胞倍加の間、増殖させることを可能にするのに好適である。幹細胞は、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95回またはそれ以上の細胞倍加の間、培養されてもよい。
【0258】
幹細胞は、5を超える、10を超える、15を超える、20を超える、25を超える、30を超える、40を超える、45を超える、50を超える、100を超える、200を超える、500を超えるまたは800を超える継代、世代または細胞倍加の間、培養されてもよい。幹細胞は、100、200、500またはそれ以上の継代、世代または細胞倍加の間、維持されてもよい。
【0259】
一部の実施形態では、各継代において細胞はHS8と接触されてもよい。他の実施形態では、HS8は、選択された数の継代培養物のみにおいて、例えば、継代培養物の50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%のうちの1つにおいて、培地中に存在していてもよい。
【0260】
増殖された幹細胞は、培養物を播種するのに使用された最初の幹細胞の少なくとも1つの特性を保持しうる。幹細胞は、1回または複数回の継代後にこの特性を保持しうる。これらは、複数回の継代後にそのようにしうる。これらは、上記のような一定回数の継代後にそのようにしうる。
【0261】
特性は、形態学的性質、免疫組織化学的特性、分子生物学的特性などを含みうる。特性は、生物活性を含みうる。特に、幹細胞は、細胞表面マーカーなどの、特定の分子マーカーの発現、または発現の維持、によって特徴付けされうる。
【0262】
マーカーの検出は、当技術分野において知られている任意の手段を通して、例えば、免疫学的に、達成されうる。組織化学的染色、フローサイトメトリー(FACS)、ウエスタンブロット、酵素結合免疫測定法(ELISA)などが使用されてもよい。
【0263】
生物活性は、一定回数の継代後の細胞生存率を含みうる。細胞生存率は、多様な方法で、例えば、トリパンブルー排出法によって、試験されうる。生体染色のためのプロトコールは、以下の通りである。好適な容量(20〜200μL)の細胞懸濁液を適切なチューブに入れ、等量の0.4%トリパンブルーを添加して穏やかに混合し、室温で5分間置かせる。10μlの染色された細胞を血球計数器に入れ、生存(染色されていない)細胞および死滅した(染色された)細胞の数を計数する。それぞれの4分の1において染色されていない細胞の平均の数を算出し、2×10
4を乗算して細胞/mlを求める。生存細胞の百分率は、死滅細胞および生存細胞の数で除算された生存細胞の数である。
【0264】
細胞の生存率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0265】
増殖された幹細胞は、幹細胞型の特性である、系列に分化する能力を保持しうる。特定の系列に分化させるための幹細胞の誘導の方法は、当技術分野において知られており、増殖された幹細胞の能力をアッセイするために使用されうる。増殖された細胞のすべてまたは実質的な部分は、この能力を保持しうる。これは、増殖された幹細胞の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0266】
増殖された幹細胞は、増殖の間または後に正常な核型を保持しうる。「正常な」核型は、幹細胞が由来した、またはそこから変化したがいかなる実質的な様式にもない、親幹細胞の核型と同一、類似、または実質的に類似の核型である。例えば、転座、染色体損失、欠失などのいかなる全体的異常もあってはならない。
【0267】
核型は、いくつかの方法によって、例えば、光学顕微鏡法の下で視覚的に、評価されうる。核型は、McWhirら(2006)、Hewittら(2007)、ならびにGallimoreおよびRichardson(1973)に記載のように調製および分析されてもよい。細胞は、標準的なGバンド分染技術(Oakland Calif.にあるCytogenetics Labなどのルーチン的核型分析サービスを提供する多くの臨床的診断学研究室で利用可能である)を使用して核型決定されてもよく、かつ公表されている幹細胞の核型と比較されてもよい。
【0268】
増殖された細胞のすべてまたは実質的な部分は、正常な核型を保持しうる。この割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0269】
培地
HS8(好ましくは単離されたHS8)を含む培地は、いかなる種類であってもよいが液体またはゲルであることが好ましく、他の栄養素および増殖因子(例えば、FGF−2)を含んでいてもよい。培地は、液体またはゲルへの再構成用の乾燥された形態、例えば、粉末(powered)形態で調製されてもよい。HS8は、好ましくは、微量でない量で存在することになる。例えば、培地中のHS8の濃度は、約1ng/ml培地から約1000ng/ml培地までの間の範囲に及びうる。好ましくは、培地中のHS8の濃度は、約500ng/ml以下、より好ましくは、250ng/ml以下、100ng/ml以下、90ng/ml以下、80ng/ml以下、70ng/ml以下、60ng/ml以下、50ng/ml以下、40ng/ml以下、30ng/ml以下、20ng/ml以下、10ng/ml以下、または5ng/ml以下のうちの1つである。
【0270】
ヘパラン硫酸の投与量
in vitroおよびin vivoの両方の使用において、HS8は、約500ng/ml以下、より好ましくは、250ng/ml以下、100ng/ml以下、90ng/ml以下、80ng/ml以下、70ng/ml以下、60ng/ml以下、50ng/ml以下、40ng/ml以下、30ng/ml以下、20ng/ml以下、10ng/ml以下、5ng/ml以下のうちの1つ;または約100mg以下、50mg以下、40mg以下、30mg以下、20mg以下、10mg以下、5mg以下、4mg以下、3mg以下、2mg以下、または1mg以下の;または約0.3〜5μg/ml、0.3〜4、0.3〜3、0.3〜2.5、0.3〜2、0.3〜1.5、0.3〜1.0、0.3〜0.9、0.3〜0.8、0.3〜0.7、0.3〜0.6、0.3〜0.5、0.3〜0.4、1〜2、1〜1.75、1〜1.5、1〜1.25、1.25〜2、1.5〜2、または1.75〜2μg/mlの間の濃度または投与量で使用されうる。
【0271】
FGF2
本明細書において、FGF2は、(塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)またはFGF−βとしても知られる)線維芽細胞増殖因子2を指し、これは、線維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバーである。
【0272】
FGF2は、多くの組織の基底膜に存在し、シグナル刺激の非存在下において膜を結合したままであると考えられている。FGF2は、創傷治癒、腫瘍発生および血管新生に関与していることが示されている。
【0273】
FGF2のチロシンキナーゼ受容体に対する結合は、分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MEK)の活性化および細胞外シグナル関連キナーゼ(ERK)のリン酸化に関与しているシグナルカスケードを刺激する(例えば、Ok−Jin Parkら、The Journal of Biological Chemistry、285、(2010)3568〜3574を参照されたい)。
【0274】
Homo sapiensからのFGF2のアミノ酸配列は、
図28に示される(ヘパリン結合ドメイン配列番号1に下線が引かれている)。この配列は、Genbankにおいて受託番号NP_001997.5(GI:153285461)の下で入手可能である。
【0275】
本明細書において、「FGF2」は、
図28に例示されるFGF2のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のうちの1つの配列同一性を有するタンパク質またはポリペプチドを含む。
【0276】
FGF2タンパク質またはポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1に対して75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%のうちの1つの配列同一性を有するアミノ酸配列、を有するヘパリン結合ドメインも含むことが好ましい。
【0277】
FGF2タンパク質またはポリペプチドは、完全長のFGF2タンパク質またはポリペプチドの断片またはトランケートであってもよい。
【0278】
FGF2タンパク質は、任意の動物またはヒト、例えば、ヒト以外の動物、例えば、ウサギ、モルモット、ラット、マウスもしくは他のげっ歯動物(げっ歯目の中の任意の動物からを含む)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ(雌ウシ、例えば、乳牛、またはウシ属の中の任意の動物を含む)、ウマ(ウマ科の中の任意の動物を含む)、ロバ、およびヒト以外の霊長類または他のヒト以外の脊椎動物の生物;および/またはヒト以外の哺乳動物;および/またはヒトから、または由来であってもよい。
【0279】
FGF2の投与量
in vitroおよびin vivoの両方の使用において、FGF2は、HS8と組み合わせて使用されてもよい。本発明の一部の細胞培養法において、外因性のHS2が培養物に添加される。FGF2の好適な濃度または投与量は、約500ng/ml以下、より好ましくは、250ng/ml以下、100ng/ml以下、90ng/ml以下、80ng/ml以下、70ng/ml以下、60ng/ml以下、50ng/ml以下、40ng/ml以下、30ng/ml以下、20ng/ml以下、10ng/ml以下、5ng/ml以下のうちの1つ;または約100mg以下、50mg以下、40mg以下、30mg以下、20mg以下、10mg以下、5mg以下、4mg以下、3mg以下、2mg以下、または1mg以下の;または約0.1〜5ng/ml、0.1〜0.2、0.1〜0.3、0.1〜0.4、0.1〜0.5、0.1〜0.6、0.1〜0.7、0.1〜0.8、0.1〜0.9、0.1〜1.0、0.1〜1.5、0.1〜0.2.0、0.1〜2.5、0.1〜3.0、0.1〜3.5、0.1〜4.0、0.1〜4.5、0.1〜5.0ng/mlの範囲の間を含む。
【0280】
一部の実施形態では、in vitroおよびin vivoでのHS8の使用は、外因性のFGF2の添加を排除する。例えば、本発明の一部の細胞培養法において、外因性のFGF2は、培養物に添加されない。
【0281】
本発明は、記載の態様および好ましい特徴の組合せを含む。ただし、こうした組合せが明らかに許すことのできないまたは明白に回避される場合を除く。
【0282】
本明細書中で使用される節の表題は、組織化目的のみのためのものであり、記載の対象事項を限定するものとして解釈されるものではない。
【0283】
本発明の態様および実施形態は、例として、添付の図を参照しながら、ここで例示されることになる。さらなる態様および実施形態は、当業者には明らかであろう。この文中で言及されるすべての文書は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0284】
本発明の原理を例示している実施形態および実験は、ここで、以下の通りである添付の図に関して述べられることになる。
【発明を実施するための形態】
【0286】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、例として、本発明を実施するために本発明者らによって意図される最良の様式の特定の詳細を含む、以下の付随的な説明に記載される。本発明が、これらの特定の詳細に限定されることなく実施されうることは、当業者には明らかであろう。
【実施例1】
【0288】
本発明者らは、診療所において直ちに使用されうるヘパラン硫酸(HS)製剤のスケールアップに適した市販のブタCelsusヘパラン硫酸供給源からの新規FGF2結合HSの精製を調べた。
【0289】
FGF2からのヘパリン結合ドメイン(HBD)ペプチド配列GHFKDPKRLYCKNGGF[配列番号1]が選択され(The structure of glycosaminoglycans and their interactions with proteins;Gandhi NSおよびMancera RL.、Chem Biol Drug Des.2008 Dec;72(6):455〜82)、FGF2に結合する特異的なHS種を精製するために使用された。
【0290】
ペプチドを合成すると、それは、
3Hヘパリンアッセイにかけられ、用量依存的な様式でニトロセルロース膜に吸収されたペプチドに対する
3Hヘパリンの特異的結合が
3Hヘパリンの全計数と比較された。一度FGF2−HBDペプチドに対する
3Hヘパリンの特異的結合が示されると、そのペプチドは、親和性クロマトグラフィーによってFGF2に結合するブタCelsus HSから特異的なHSをプルダウンするために使用された。この新しいHS種は、HS8と命名された(かつ別名HS8Gが与えられた)。
【0291】
HS8は、グリコサミノグリカン(GAG)結合プレートでFGF2との結合におけるその特異性について分析され、FGF2に対するHS8の特異的な結合が、ヘパリン、ブタCelsus HSおよびHS8陰性画分と比較して測定された。
【0292】
GAGは、GAG結合プレート(5μg/ml)上に播種され、一晩、およびその後、組換えヒトFGF2(0〜100ng/ml)と共に、インキュベートされ、FGF2に対するGAGの結合の特異性を確認するためにELISA法が使用された。
【0293】
結果は、HS8が、他のGAG種と比較して、FGF2により多く結合することを明白に示した(
図1)。FGF2を結合するHS8の能力は、他の増殖因子(VEGF、BMP2、PDGFBB、FGF1、およびFGF7)に対して比較され、これは、HS8がFGF2に特異的であることを明らかにした(
図2)。
【0294】
HS8の生理活性を決定するために、HS8は、STRO1ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を用いたin vitroの細胞増殖アッセイにもかけられた。本発明者らは、HS8を、独立の培地補助剤として、異なる用量(50ng/ml、100ng/ml、500ng/ml、1000ng/ml、5000ng/mlおよび10000ng/ml)で、短期間のhMSCの増殖において、コントロールと比較して使用した。外因性の増殖因子のいかなる添加もなしで、本発明者らは、HS8を用いたhMSCの用量依存的な増殖を認めた(
図3および4)。
【実施例2】
【0295】
間葉系幹細胞(MSC)
MSCは、in vitroで骨形成、軟骨形成、脂肪形成、筋原性および他の系列に分化するように誘導されうるプラスチック接着性細胞として広範に定義され、最近、名称「多分化能間葉系間質細胞」も、MSCに対して、International Society for Cytotherapy(Zulmaら、2011)によって案出された。MSCは、骨髄、脂肪組織、皮膚組織、椎間板、羊水、多様な歯組織、ヒト胎盤および臍帯血において見出されている(Siら、2011およびZulmaら、2011)。MSCの治療可能性は、認識されており、骨組織再生および非骨格組織再生などの多くの臨床的適用において使用されてきた。近年、MSCの免疫抑制性および抗炎症性の効果が記載された。これは、低レベルの主要組織適合複合体−I分子(MHC−1)をそれらの細胞表面上で発現すること、Tリンパ球およびBリンパ球の両方の活性化および増殖を抑制する能力、および損傷した組織を保護しながら傷害を受けた組織の微小環境を改変することによる、MSCの弱い免疫原性に起因する(Siら、2011およびZulmaら、2011)。GVHDを治療するために有効に(affectively)使用されうる、このMSCによって媒介される免疫抑制は、機序における種間変動を有する(Renら、2009およびShiら、2010)。サイトカイン感作マウスMSCは、一酸化窒素(NO)によって媒介され、サイトカイン感作ヒトMSCは、インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)を通して行われた。
【0296】
ヘパリンおよびヘパラン硫酸グルコサミノグリカン(HSGAG)
ヘパリンは、肥満細胞で産生、貯蔵され、それと比較して、HSGAGは全ての動物組織において見出され、HS鎖が細胞表面またはECMタンパク質に結合したプロテオグリカンとして存在する。HSは、代謝、輸送、情報伝達、細胞接着、細胞の増殖および分化に影響を及ぼし、全ての器官系を支持する(Bishopら、2007およびGandhiら、2008)。ヘパリンおよびHSは、反復ウロン酸−(1→4)−D−グルコサミン二糖サブユニットからなる直鎖多糖である。ウロン酸は、D−グルクロン酸またはL−イズロン酸のいずれかでありうる。さらに、特定の位置における修飾により、異なるN−硫酸化複合体配列、O−硫酸化複合体配列およびN−アセチル化複合体配列が生じる[Oriら、2008]。ヘパリン内の最も豊富な二糖はIdoA(2S)−(1→4)−GlcNS(6S)であり、したがって、鎖長全体を通して高度に負に荷電しており、それにより、ヘパリンのタンパク質との結合における選択性がわずかになる、またはなくなる。他方では、HSは硫酸化されていないGlcA−(1→4)−GlcNA二糖を最も一般的な形態として有し、これにより、硫酸化されていないNAドメインの分離したブロックと高度に硫酸化されたヘパリン様IdoA−(1→4)−GlcNS二糖(NSドメイン)のブロックとが生じる。NAドメインおよびNSドメインはNA/NS移行ドメインによって分離されている。このHS構造の多様性が広範囲の生物学的機能に関与する。
【0297】
線維芽細胞増殖因子(FGF)タンパク質およびヘパリン結合ドメイン
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、ヒトでは22種のメンバーで構成されるポリペプチド増殖因子の大きなファミリーである。EGFは、FGF受容体(FGFR)として公知のFGF細胞表面受容体チロシンキナーゼのサブファミリーに結合し、それを活性化することにより、発生、分化、細胞増殖、血管新生および創傷治癒において主要な役割を果たす(Ornitzら、1996)。さらに、FGFは、最もよく研究されているヘパリン結合タンパク質の中に入り、また、HSGAGはFGFRとの分子会合を導くことによってFGFシグナル伝達を調節する(Pellegrini、2001)。さらに、FGFR1によるFGF2シグナル伝達はMSC増大のために重要である(Gronthosら、1999)。
【0298】
ヘパリン/HSとFGF2の相互作用
種々の試験により、タンパク質のヘパリン/HS結合部位の一般的な構造的特徴が理解されてきた(Gandhiら、2008;Hilemanら、1998およびOriら、2008)。1989年にCardinおよびWeintraubが21種のヘパリン結合タンパク質の分析後にヘパリン結合ドメイン(HBD)を決定するための最初の試みを行い、典型的なヘパリン結合部位が配列XBBXBXまたはXBBBXXBX(ここで、Bは正に荷電したアミノ酸(アルギニン、リシンおよびまれにヒスチジン)であり、Xはハイドロパシー残基である)を有する可能性があることを提唱した。次のコンセンサス配列TXXBXXTBXXXTBBは、1998年にHilemanらにより、いくつかのタンパク質に関するX線およびNMRの比較後に導入された。この配列では、Tは回転を定義し、Bは塩基性アミノ酸(アルギニンまたはリシン)であり、Xはハイドロパシー残基である。
【0299】
GAGと、正に荷電した塩基性アミノ酸がヘパリン鎖上の負に荷電した硫酸基またはカルボキシレート基とイオン結合を形成したタンパク質との間に強力なイオン性相互作用が予測される。それらの役割は、ヘパリンとの、および場合によって、NSドメインのようなHS内の高度に硫酸化された領域との相互作用の決定因子としてのものである(Frommら、1997およびOriら、2008)。さらに、他の種類の結合、すなわち、ファンデルワールス力、水素結合および疎水性相互作用が存在する。これらの結合は、中性アミノ酸も必要なより不均一のHSとの相互作用のために役立つ(Frommら、1997およびOriら、2008)。FGF2について考えると、アミノ酸のグルタミンおよびアスパラギンが、イオン結合に加えて、糖のヒドロキシル基と水素結合を形成することによってHSとの相互作用に重要な役割を果たす(Thompsonら、1994)。
【0300】
これまでに公開された多数の試験によると、FGF2のヘパリン結合ドメインとして種々のペプチド配列が存在し、それらは表1にまとめられている。本明細書では、完全なFGF2配列(288aa)に従ってアミノ酸が番号付けされた番号付け系が採用される。
【0301】
移植片対宿主病(GVHD)
造血細胞移植(HCT)は、同種異系HCT手技が毎年増加している、血液学的悪性疾患を治療するために使用される集中的な療法である(Ferraraら、2009)。HCTの主要な合併症は、主に胃腸管、肝臓、皮膚、および肺に影響を及ぼす免疫学的障害であるGVHDである。Billingham、1966〜67年によると、GVHDが生じるには3つの要件、すなわち、1)移植片がTリンパ球である免疫学的コンピテント細胞を含有しなければならないこと、2)レシピエントが移植ドナーには存在しない組織抗原を発現しなければならないこと、および3)患者が移植された細胞を消滅させるために有効な反応を開始することができてはいけないこと、が満たされるはずである。GVHDの病態生理は、骨髄破壊的な前処置レジメンを使用して宿主の欠陥が生じた骨髄を除去すると開始される。損傷した組織によってサイトカイン(TNFα、IL1、LPS)が産生されるので、宿主の抗原提示細胞が活性化される。この段階で同種異系HCTが実施されると、ドナーT細胞が活性化され、それにより、より多くのサイトカインが産生され、それにより細胞性および炎症性の反応が導かれ、その結果GVHDが生じる。非造血幹細胞;MSCは、それらの強力な免疫抑制性に起因して同種異系T細胞応答を低下させ、GVHDを改善することができる(Le Blancら、2008;Meulemanら、2009およびToubaiら、2009)。
【0302】
治療目的でのhMSCのスケールアップの必要
細胞に基づく療法においてhMSCを使用することの主要な欠点は、すでに診療所で使用されているにもかかわらず十分な細胞数を得ることが難しいことある。骨髄単核細胞の0.01%〜0.0001%までの少なさでありうる少数のhMSCにより、その広範にわたる使用が妨げられる。Caplan、2009によると、彼らは、異なる年齢のドナーから骨髄を得、分散させ、培養フラスコに置き、後でCFU−Fを計数し、年代に対する有核骨髄細胞あたりのMSCによって示した。有核骨髄細胞あたりのMSCの注目すべき減少が観察され、出生から十代までで10分の1に減少し、十代から高齢まででさらに10分の1に減少した。明らかに年齢とともに骨髄中のMSCの数が減少する。さらに、Caplanは、これらの減少が、観察される若年のおよび成人の骨折治癒速度と並行することを指摘した。比較すると、骨髄中の造血幹細胞の力価は有核骨髄細胞10
4個あたり1であり、個体の年齢全体を通して一定のままであった。
【0303】
現行のhMSCの増大方法
研究者は、hMSCの培養において骨髄の微小環境を模倣することができれば、臨床使用のための治療的な数のhMSCを実現されうると考えた。基本的に、模倣は、2つの広範なやり方、すなわち、ECMを用いてhMSCを増殖させること、および外因性増殖因子の補充を用いてhMSCを増殖させることによって実現されうる。ECM基材を使用する場合、hMSC結合および累積的な細胞数の増加が観察されたが(Grunertら、2007およびMatsubaraら、2004)、増大した細胞は幹細胞性を欠いた(Coolら、2005)。さらに、FGF2が外因性増殖因子補助剤として一般に使用され、同様に、標準の培地を用いた対照と比較して顕著な細胞数の増幅が示された(Lingら、2006およびSotiropoulouら、2006)。ECM基材を用いて増殖させた細胞と一致して、FGF2を用いて増殖させた細胞でも分化した前駆細胞の量が対照における多分化能hMSCと比較して増加した(Gronthosら、1999およびWalshら、2000)。したがって、幹細胞性に悪影響を及ぼすことなく治療的な数のhMSCを実現することができるhMSCの増殖を促す分子の同定には、GVHDを緩和するための骨再生および骨髄移植のためのhMSCの臨床使用に大きな見込みが示される。
【0304】
HS GAGは、細胞の幹細胞性に影響を及ぼすことなくhMSCの増殖を改善する
Nurcombeらは、1993年に、マウス神経前駆細胞に対するFGFの活性はHS GAGによって調節され、この相互作用がFGF2とそれらの受容体の結合に必要であることを示した。さらに、HSGAGとFGFの結合には有意差があり、9日目にはこれらの細胞によって産生されるHS GAGはFGF2に優先的に結合し、11日目までに、HSGAGの結合はFGF1にシフトした。さらに、これらの独特のヘパラン硫酸は、神経前駆細胞上の細胞表面受容体との相互作用することによってFGF2と特異的な受容体との結合を媒介する(Brickmanら、1995)。1998年に、Brickmanらは、不死化した胎齢10日のマウス神経上皮2.3D細胞から2つの別々のHSプールを単離し、特徴付けることによってこれらの所見をさらに裏付けた。一方のプールは対数増殖期の細胞に由来するものであり、FGF−2の活性を増大させた。他方のプールは接触阻止および分化を受けている細胞由来であり、FGF1を優先した。我々の研究室によって以前に記載されている通り、HS2という名称の胚性HS GAG製剤は、in vivoで移植した場合にマウスにおいて多分化能を著しく失うことなくhMSCの増殖を増加させ、骨形成の増加を導いた。この証拠は、ECM成分HS GAGが多分化能に悪影響を及ぼすことなくhMSCの増殖を改善することを示唆している。したがって、HS2と比較して、臨床環境での使用のために容易にスケーラブルでありうる、FGF2に対して高い結合親和性を有し、細胞の増殖に対するFGF2の活性を強化するHSバリアントが特に必要とされている。
【0305】
結果
FGF−2に対する結合親和性が高いヘパラン硫酸のカラムクロマトグラフィーによる単離(HS8)
診療所において容易に使用されうるHS製剤をスケールアップするために、FGF2結合HS2を精製する戦略に沿って、市販のブタCelsusヘパラン硫酸供給源(Celsus Laboratoris、USA)から別のFGF2結合HSを精製する可能性を探求した。表1に示されているこれらのペプチド配列のうち、FGF2−Gandhi−HBDと命名された
157GHFKDPKRLYCKNGGF
172(Gandhiら、2008)を使用した。
【0306】
[
3H]ヘパリンアッセイ
ペプチドを合成した際に、それらを
3Hヘパリンアッセイに供し、FGF2−HBD−ペプチドのヘパリンに結合する能力を試験した。既知量のペプチドまたは飽和量のペプチドを同一のニトロセルロース膜上で乾燥した。ます風乾し、次いで真空乾燥器中、80℃で45分さらに乾燥した。次いで、膜を1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、計数バイアル中、4%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS中0.1μCiの[
3H]ヘパリン(Perkin Elmer、Boston、USA)と共に16時間インキュベートした。その後、膜を洗浄し、放射活性をPerkin Elmer Tri−Carb 2800 TCR Liquid Scintillation Analyzerによって決定した。
【0307】
既知量のペプチド(配列番号1)を使用した場合、これらは用量依存的にCPMの増加を示した。BMP2−HBDを陽性対照として使用した[
図6(A)]。しかし、最も高い計数は、ニトロセルロース膜が500μg/mlのペプチド溶液中に飽和したものであった場合に示された。500μg/mlの溶液レベルの各ペプチドについてニート[
3H]ヘパリンのうちのCPMの百分率を算出した。BMP2−HBD(7.2%)が最も高く、その次にFGF2−Gandhi−HBD(4.97%)であった。[
3H]ヘパリンアッセイから得られた結果に従って、アフィニティークロマトグラフィーにより、FGF2−Gandhi−HBDを使用して、ブタCelsus HS由来のFGF2に対する高い親和性結合性HS(HS8)をプルダウンした。クロマトグラムが
図6(B)に示されている。
【0308】
HS8の特徴付け
GAG結合親和性アッセイ
HS8を、96ウェルGAG結合プレート(Iduron、UK)を用い、FGF2および他のタンパク質(R&D Systems)との結合におけるその親和性に供し、HS8+のFGF2との特異的な結合をヘパリン(Sigma)、Porcine Celsus HS(Celsus Laboratories、USA)およびHS8陰性画分と比較して測定した。GAGSをGAG結合プレート(2.5〜10μg/ml)上に播種し、一晩置き、標準のアッセイ緩衝液(SAB)中0.2%のFish Gelatin(Sigma)を用いて37℃で1時間ブロッキングした。
【0309】
次いで、0〜100ng/mlの組換えヒトFGF2、ウェルあたり200μlと共に37℃で2時間インキュベートし、その後、250ng/mlのビオチン化一次抗体(R&D Systems)、ウェルあたり200μlと共に37℃で1時間インキュベートした。次のステップでは、プレートを220ng/mlのExtrAvidin−AP(Sigma)、ウェルあたり200μlと共に37℃で30分インキュベートした。一晩インキュベーションからこのステップまで、各ステップの間にプレートをSABで3回洗浄した。最後に、SigmaFAST p− Nitrophenyl phosphate(Sigma)、ウェルあたり200μlと共に40分インキュベートし、405nmでの吸光度をVictor
3 1420 multi−label counter、PerkinElmerによって読み取った。
【0310】
試験した3種の濃度(2.5μg/ml、5μg/mlおよび10μg/ml)の全てにおいて全てのGAGのFGF2との結合が、FGF2の量が増加するとともに同様に増加し、100ng/mlのFGF2で飽和に達した(
図8)。異なるGAGをFGF2との結合に関して試験した場合、結果は、HS8+が、他のGAG種と比較して、FGF2に対して最も高い結合の親和性を有することを明白に示した(
図9)。100ng/mlのFGF2ポイントにおけるCelsus HS:HS8+の差異の倍率を比較した場合、比は1;1.51であった。
【0311】
次いで、HS8+画分およびHS8(−)画分の異なるタンパク質に結合する能力を試験した(
図10)。HS8+は、VEGF、BMP2、PDGFBB、FGF1、およびFGF7と比較してFGF2との結合に高い親和性を有する[
図10(A)]。他方では、HS8(−)画分は、他のタンパク質と比較してFGF1との結合に最大の親和性を有する[
図10(B)]。
【0312】
種々のGAGの、ヘパリンとFGF2について競合する能力を、Onoら、1999により改変されたこのアッセイで試験した。既知濃度のFGF2(R&D Systems)と異なる濃度のGAGをマイクロチューブ中、室温(RT)で30分混合した。
【0313】
このビーズ溶液[20μlのヘパリン−アガロースビーズ(I型、Sigma)およびポリアクリルアミドゲル(Bio−Gel P−30、Bio−Rad)]40μlを添加し、RTで30分混合した。ヘパリンビーズを、遠心分離により(2000rpm、1分)、BSA−PBS(PBS中1%BSA)を用いて3回、およびPBST(0.02%Tweenを含有するPBS)を用いて3回洗浄し、各チューブに1:500 ビオチン化抗FGF2(R&D Systems)100μlを添加し、RTで1時間インキュベートした。上記の通り洗浄した後、1:10のTMB基質(R&D Systems)100μlを添加し、RTで30分混合した。停止液(2NのH
2SO
4、50μl)を加え、遠心分離後の上清100μlを96ウェルプレートに移した。450nmでの吸光度をVictor
3 1420 multi label counter、Perkin Elmerによって読み取った。
【0314】
まず、添加したヘパリンビーズの量との結合に必要なFGF2の量をFGF2最適化によって測定し、20ng/mlのFGF2用量を実験の次のセットのために選択した[
図11(A)]。
【0315】
次いで、競合アッセイにおいて使用するGAGの範囲を得るために、まず、種々の量のヘパリンを使用した。ヘパリン50μgの添加が内部のヘパリンのビーズへの結合と競合させるためにほぼ十分であった[
図11(B)]。したがって、0〜50μgの範囲のGAGSを競合アッセイにおいて使用した[
図11(C)]。競合の百分率を考慮した場合、ヘパリンは、50μgを添加した場合に最も競合的であり、これは約13%に達し、その後、HS8+、43%、Celsus HS、50%およびHS8(−)、63%と続いた。
【0316】
増殖アッセイ
このアッセイでは、21歳のラテンアメリカ系男性ドナーに由来するhMSCの2種の変形を使用した。STRO1陽性細胞を磁気活性化細胞選別によって単離し(5〜7回の継代)、HM21細胞を従来のプラスチック接着性によって単離した(5回の継代)。細胞を、1cm
2あたり細胞3000個の播種密度で播種し、24時間にわたってプレートに結合させた。次いで、異なる濃度のHS8+を独立の培地補助剤として50〜10000ng/mlで使用し、陽性対照として、2.5ng/mlのヒト組換えFGF2(R&D Systems)を培地に添加した。2日または3日で培地交換を実施した。培地交換を2日毎に行ったSTRO1細胞では、漸増濃度のHS8+に伴って生細胞計数が増加し、6日目までに、対照と比較して、5000ng/mlにより最も高い計数が得られた(
図12)。比較すると、培地交換を3日毎に行ったHM21細胞は、6日目までに、10000ng/mlで対照と比較してわずかに高い計数を示した(
図13)。
【0317】
2種の細胞型を用いた生細胞計数において有意差が認められたので、5回継代したSTRO1細胞およびHM21細胞を用いて6日間増殖アッセイを行い、培地交換を3日毎に行った対照と比較した。STRO1はHM21細胞と比較してわずかに高い増殖計数を示したが、どちらの細胞型においても、対照および処理された細胞はほぼ同じ細胞計数をもたらした[(
図14(A)]。次いで、STRO1細胞、6日目の1cm
2あたりの細胞計数を、培地交換の時間間隔が異なる以前の実験からのデータに基づいて算出した[
図14(B)]。興味深いことに、対照と処理された細胞のどちらにおいても、培地交換を2日毎に実施した場合、3日毎と比較して多くの細胞計数がもたらされた。さらに培地交換を2日毎に実施した場合、処理された細胞計数が処理されていない対照よりも多かった。
【0318】
概要
配列
157GHFKDPKRLYCKNGGF
172を使用して、アフィニティークロマトグラフィーにより、Porcine Celsus HSから、FGF2に高い親和性で結合するHS(HS8)を調製した。
【0319】
グルコサミノグリカン(GAG)結合アッセイ結果では、HS8+が他のGAG種と比較してFGF2との結合の最も高い親和性を有することが示された。さらに、100ng/mlのFGF2ポイントにおけるCelsus HS:HS8+の差異の倍率は、比率が1;1.51であった。競合の百分率を検討したヘパリンビーズ競合アッセイでは、ヘパリンは、50μgを添加した場合に最も競合的であり、約13%に達し、その後、HS8+、43%、Celsus HS、50%およびHS8(−)、63%と続いた。磁気活性化細胞選別によって単離したSTRO1+hMSCおよび従来のプラスチック接着性によって単離したHM21 hMSCを細胞増殖アッセイに使用し、HS8+を独立の培地補助剤として5μg/mlの濃度で使用した場合、および2日毎に培地交換した場合に高い細胞計数が得られた。結論として、現在では、FGF2に対して高い結合親和性を有し、hMSCを増殖する能力を増大させる、FGF2に対する高い結合親和性ヘパラン硫酸(HS8)を市販のヘパラン硫酸供給源のプールから首尾よく単離した。
【0320】
結論として、現在では、市販のヘパラン硫酸供給源のプールからFGF2に対する高い結合親和性ヘパラン硫酸(HS8)を首尾よく単離しており、これがヘパリンを含めた他のGAGと比較して高い結合能を有することを示した。さらに、HS8+は、独立の培地補助剤として使用した場合、培地交換を2日毎に行った場合に細胞増殖を増加させる。したがって、これらの細胞をFGF2に対して高い親和性を有するように工学的に操作したヘパラン硫酸(HS8)中で培養することによって、高品質のex vivoで増大させたMSCの必要性に対処したと考える。
【0321】
さらなる試験
FGF2に特異的なHS(HS8)の単離
FGF2に対する高い結合親和性HSであるHS8の単離を首尾よく実現したが、他のFGF2 HBDペプチド配列(表1)をLeeら、2007に従って[
3H]ヘパリンアッセイ、GAG 結合アッセイおよび細胞結合アッセイによってさらに試験する。
【0322】
結合親和性アッセイ
HS8の結合親和性は、すでにGAG結合プレートによって確認されており、これをドットブロットアッセイおよびBIAcore T100との動力学的結合(Cainら、2005)によってさらに検証する。
【0323】
競合アッセイ
ELISA法からの結果をウエスタンブロット法によってさらに確認する。
【0324】
増殖アッセイ
増殖アッセイの結果を、より多くのhMSC株を使用し、また細胞の継代数も減らしてさらに検証する。さらに、BRDU試薬(Roche)およびWST−1試薬(Roche)を使用することによって短期増殖アッセイを行う。
【0325】
二糖分析
Muraliら、2009に従って陰イオン交換クロマトグラフィーを使用してHS8の二糖分析を行い、HS8の組成が明らかになり得る。
【0326】
FGF2の安定性
安定性アッセイをSYPROアッセイおよびFGF2 quantikineアッセイとして行う。SYPROアッセイでは、FGF2タンパク質とGAGの相互作用を特異的なSypro Orange色素によるタンパク質の変性温度として測定する(Uniewiczら、2010)。細胞培養物中のFGF2濃度を測定するために、FGF2 quantikineアッセイを製造者の推奨(R&D Systems Quantikine(登録商標)ELISA、cat no.DFB50)の通り行う。結果が
図46に示されている。
【0327】
in−vitroでHS8を用いて増殖させたhMSCの生物活性の確認
多分化能を、プラスチック接着性、骨形成性組織、脂肪形成性組織および軟骨形成性組織への分化、ならびに表面マーカーに関するFACSについて確認する(Dominiciら、2006)。骨髄穿刺液ならびにHS8を用いてまたは用いずに増大させたhMSCからCFU−Fアッセイを実施する(Cawthon、2002およびGuillotら、2007)。hMSCの免疫調節活性を混合Tリンパ球アッセイによって評価する。
【0328】
in−vivoでHS8を用いて増殖させたhMSCの生物活性の確認
単離し、HS8の存在下で増殖させた細胞をマウス骨再生モデル(Zannettinoら、2010)において使用し、また、GVHDの異種間ヒトNOD−SCIDマウスモデル(Tiastoら、2007およびToubaiら、2009)に置いても使用する。
【実施例3】
【0329】
FGF2に対する種々のGAGの結合能力は、GAG結合プレート(Iduron)を使用して評価された。ヘパリン結合増殖因子(HBGF)BMP−2、FGF1、FGF2、FGF7、PDGF−BBおよびVEGFに対する種々のGAGの結合能力もまた、GAG結合プレート(Iduron)を使用して評価された。使用される材料および方法は、以下に記載されている。
【0330】
HS8は、ヘパリンとほぼ同様に、かつ未加工の出発Celsus HSおよびHS8−フロースルー画分よりも確実に良好に、FGF−2を結合することが見出された(
図15)
HS8(HS8+)は、試験された他のすべてのHBGFを超えてFGF2を優先的に結合し、FGF2に対してヘパリンよりも高い結合能力を有する、すなわち、HS8は、FGF2に特異的な結合を示す。HS8−および未加工の出発Celsus HSは、試験されたHBGFのいずれにもほとんど選択性を示さなかった(
図16)。
【0331】
材料
1.標準アッセイバッファー(SAB) − 100mM NaCl、50mM 酢酸ナトリウム、0.2%v/v tween20、pH7.2
2.ブロッキングバッファー − 0.4%アイシングラス(Sigmaカタログ番号67041)+SAB
3.GAG結合プレート(Iduron、UK)
4.R&D Systemsからのタンパク質:BMP2−カタログ番号355BM、FGF1−カタログ番号231BC、FGF2−233FB、FGF7−カタログ番号251KG、PDGF BB−カタログ番号220BB、VEGF−カタログ番号293VE
5.R&D Systemsからの抗体:BMP2−カタログ番号BAM3552、FGF1−カタログ番号BAF232、FGF2−BAM233、FGF7−カタログ番号BAF251、PDGF BB−カタログ番号BAF220、VEGF−カタログ番号BAF293
6.ExtraAvidin−AP(Sigmaカタログ番号E2636)
7.Sigma FAST p−ニトロフェニルリン酸(Sigma、N2770)
方法
1.SAB中にGAGを溶解する(5μg/ml)
2.GAG結合プレート中に200μlのGAG溶液/ウェルを添加し、光から保護して室温で一晩インキュベートする
3.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
4.プレートを、光から保護して250μl/ウェルのブロッキングバッファーで37℃で1時間インキュベートする
5.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
6.ブロッキングバッファーでタンパク質を溶解し、連続希釈を行う:0、0.781、1.56、3.125nM
7.GAGでコーティングされたプレートに200μl/ウェルの希釈されたタンパク質を分注し、37℃で2時間インキュベートする
8.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
9.ブロッキング溶液中の250ng/mlのビオチン化された一次抗体の200μl/ウェルを添加し、37℃で1時間インキュベートする
10.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
11.ブロッキング溶液中の220ng/mlのExtraAvidin−APの200μl/ウェルを添加し、37℃で30分間インキュベートする
12.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
13.200μl/ウェルの発色試薬を添加する:脱イオン水中のSigma FAST p−ニトロフェニルリン酸、室温で40分間インキュベートする
14.405nmで吸光度を読み取る
【実施例4】
【0332】
hMSC増殖に対するHS8の効果を立証するために、BrdU取り込み増殖アッセイが行われた(以下に記載のプロトコール)。
【0333】
HS8(HS8+)に対するヒト間葉系幹細胞の用量反応は、36時間にわたるBrdUの取り込みによってモニターされた。FGF2は、投与陽性対照として使用された。HS8+は、hMSC増殖を促進することおよび他のGAGよりも有意により多くの刺激を与えることが見出された(
図17)。
【0334】
プロトコール(細胞増殖ELISA、BrdU(比色) Roche)
1.細胞播種 − 190μlの培地/ウェル(96ウェルプレート)中に5000細胞
2.培地− DMEMと共に1000mg/L+10%ウシ胎仔血清(FCS)+1% 2mM L−グルタミン(gluatamine)+1%ペニシリンおよびストレプトマイシン
3.37℃かつ5%のCO
2中で6時間インキュベートする
4.6時間のインキュベーション後、所定のウェルについてレイアウト通りに10μlの培地中に種々の用量の処理剤を添加する
5.FGF2(ng/ml)およびGAG(μg/ml) − 10、5、2.5、1.25、0.625、0.3125
6.37℃かつ5%のCO
2中で処理剤と共に36時間インキュベートする
7.各ウェル内にBrdUを添加する。
【0335】
8.細胞を37℃かつ5%CO
2中でBrdUで2時間標識する(20μlのBrdU標識溶液/ウェルを添加する)
9.軽くたたくことによってプレートから標識培地を除去する
10.200μl/ウェルのFixDenatを細胞に添加し、15〜25℃で30分間インキュベートする
11.振り落とすことおよび軽くたたくことによってFixDenat溶液を完全に除去する
12.100μl/ウェルの抗BrdU−POD作用溶液を添加し、15〜25℃で90分間インキュベートする
13.振り落とすことによって抗体コンジュゲートを除去し、250μl/ウェルの洗浄溶液(1×PBS)で3回すすぐ
14.軽くたたくことによって洗浄溶液を除去する。
【0336】
15.100μl/ウェルの基質溶液を添加し、15〜25℃で30分間インキュベートする
16.370nmでの吸光度を測定する(参照波長:492nm)
【実施例5】
【0337】
hMSC増殖に対するHS8の効果を立証するために、FACSに基づいた細胞増殖アッセイが行われた(以下に記載のプロトコール)。
【0338】
HS8(HS8+)に対するヒト間葉系幹細胞の用量反応は、(FACSに基づいた)Guava ViaCount法によって6日にわたってモニターされた。FGF2は、投与陽性対照として使用された。HS8は、hMSC増殖を促進することおよび有意な刺激を与えることが見出された。
【0339】
細胞増殖プロトコール
材料
1.HM20 hMSC − ラテンアメリカ系20歳男性のドナー(Lonzaから購入された)
2.FGF2(R&D systems.カタログ番号233−FB−025)
3.維持培地:DMEM(10mg/l グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン
4.HS8(+)バッチ2、HS8(−)バッチ2、ブタ粘膜ヘパラン硫酸(Celsus laboratories、USA)、ヘパリン(Sigmaカタログ番号H3149)
5.Guava Flex試薬(Millipore)
方法
1.HM20細胞は、24穴プレート上に3000細胞/cm
2で500μl/ウェルの培地中に播種された(0日目)
2.1日目 − 高くなっていく濃度のFGF2(ng/ml)およびGAG(μg/ml)での培地交換 − 500μlの新鮮な培地中に10、5、2.5、1.25、0.625、0.3125、0.156
3.2日毎の培地交換
4.細胞は、所定の時点(2日目、4日目および6日目)で回収される − 100μlのトリプシンで回収され、100μlの培地(時=2日目)または300μlの培地(4日目および6日目)で中和される
5.細胞は、Guava装置で計数された(Guava flex試薬:細胞懸濁液は、1:200である)
【実施例6】
【0340】
ヒト間葉系幹細胞の単離
ヒト骨髄(BM)単核細胞の調製
密度勾配分離によるヒト骨髄(BM)の回収およびBM単核細胞の調製
1.インフォームドコンセント後に、ヒト骨髄(BM)のおよそ40mLを健康な若年志願者(18〜40歳)から後腸骨稜(寛骨)の吸引によって回収した。BMをすぐに、防腐剤を含まない、ヘパリンナトリウムを含有する50mLのチューブに入れる(10,000単位/チューブ)。
【0341】
2.10μLの一定分量を取り出し、White Cell Fluid(WCF)中1:20に希釈し、血球計算器を用いて有核細胞含有量を数え上げた。
【0342】
3.次いで、等体積のブロッキング緩衝液をBM吸引物に添加し、十分に混合し、次いで、70μmのFalcon細胞濾過器と通して濾して小さな血餅および骨断片を除去する。
【0343】
4.次いで、Ficoll−Hypaque(Lymphoprep)溶液3mLをおよそ12個の丸底14mLポリスチレンファルコンチューブの底部に分注し、7.5mLの希釈したBMを慎重に重ねる。
【0344】
5.チューブを室温で30分、400gで遠心分離する。
【0345】
6.使い捨てのプラスチックPasteurピペットを使用して全てのチューブから白血球バンドを回収し、4×14mLのポリプロピレンチューブ中にプールする。
【0346】
7.細胞を、HHF洗浄緩衝液で希釈し、試料を4℃で10分、400gで遠心分離することによってBMMNCをペレット化する。
【0347】
8.緩衝液を吸引し、細胞を1つのチューブ中にプールする。
【0348】
接着性によるMSCの単離
1.BMNC画分を15cmのディッシュ中、維持培地(DMEM、1g/lのグルコース、10%FCS、2mMのL−グルタミン、50U/mlのペニシリンおよび50U/mlのストレプトマイシン)に播種し、最初の培地交換前に3日間、細胞を接着させる。
【0349】
2.細胞を3〜4日毎に培地交換しながら維持培地中で培養し、85%集密になったら0.125%トリプシンを使用して常套的に継代する。再播種の際、細胞を1cm
2あたり3,000個で播種する。全ての培養物を加湿したインキュベーター中、37℃、5%CO
2で維持する。
【0350】
3.非酵素的な細胞解離溶液(CellStripper、Mediatech、USA)を使用して細胞を培養物から取り出し、PBS中で1回洗浄した後、計数する。次いで、細胞1×10
5個を96ウェルプレートに分注し、細胞を450×gで5分、ペレット化する。その後、2%FCS/PBS中に予め希釈した免疫表現型検査用抗体溶液を添加し、細胞を氷上で20分インキュベートする。次いで、細胞を2%FCS/PBS中で2回洗浄した後、2%FCS/PBSに再懸濁させ、GUAVA PCA−96ベンチトップフローサイトメーター(Guava Technologies Inc.、USA)で分析する。全ての試料を3連で測定する。
【0351】
STRO−1陽性BMSSCの磁気活性化細胞選別(MACS)
MACSの使用により、全体的な幹細胞収率を大きく損なうことなく、BMSSC集団を部分的に精製すること、および多数のBMMNCを処理することが可能になる。密度勾配遠心分離した後、40mLのBM吸引物から単核細胞およそ1〜2×10
8個が回収される。免疫標識前に、BMMNCをブロッキング緩衝液0.5mLに再懸濁し、氷上でおよそ30分インキュベートして、Fc受容体媒介性の抗体の結合の可能性を低下させる。
【0352】
磁気活性化細胞選別(MACS)を使用したSTRO−1+BMSSCの単離
1.BMMNCを、4℃で10分、400gで遠心分離することによってペレット化し、BMMNC 5×10
7個あたりSTRO−1上清500μlに再懸濁させ、氷上で60分、時々穏やかに混合しながらインキュベートする。
【0353】
2.BMMNCをHHF洗浄緩衝液中で2回洗浄し、次いで、ビオチン化ヤギ抗マウスIgM(μ鎖特異的)を含有するHHF、0.5mLに中に1/50希釈で再懸濁させ、4℃で45分インキュベートする。
【0354】
3.BMMNCをMACS緩衝液中で3回洗浄し、MACS緩衝液450μL中に再懸濁させ、それにストレプトアビジンマイクロビーズ50μLを添加する(MACS緩衝液90μL中、細胞10
7個あたりマイクロビーズ10μL)。混合物を氷上で15分インキュベートする。
【0355】
4.氷冷のMACS緩衝液中で1回洗浄した後、細胞の少量の一定分量をフローサイトメトリー分析用に取り出す(前試料)。次いで、残りの細胞をミニMACSカラム(細胞10
8個のカラム容量、Miltenyi Biotec、MSカラム)に置く。STRO−1−細胞(陰性画分)はカラム中に保持されず、重力の下で新鮮な2mLのポリプロピレンチューブを通過して流出液中に入るが、STRO−1+細胞は磁化マトリクスに結合したままになる。
【0356】
5.カラムをMACs緩衝液0.5mLで3回洗浄してあらゆる非特異的に結合したSTRO−1−細胞を除去し、新鮮な2mLのポリプロピレンチューブ中に回収する。
【0357】
6.カラムを磁場から抜いた後、カラムをMACS緩衝液で新鮮な2mLのポリプロピレンチューブ中に洗い流すことによってSTRO−1+細胞(陽性画分)を回収する。次いで、STRO−1+細胞を計数し、二色FACSのために処理する。
【0358】
7.前MACS画分、STRO−1−画分、およびSTRO−1+画分のそれぞれから少量の試料(細胞0.5〜1.0×10
5個)を取り出し、別々の、ストレプトアビジン−FITCコンジュゲート(1/50)0.2mLを含有する2mLのポリプロピレンチューブに入れる。次いで、細胞試料を氷上でさらに5分インキュベートして、濃縮手順の評価を可能にする。標識されていない前MACS細胞の試料(細胞1.0×0
5個)が陰性対照としての機能を果たす。
【0359】
8.これらの試料を HHF中で2回洗浄し、FACS Fix溶液中に固定し、その後、フローサイトメトリーによって分析して純度および回収率を評価する。
【0360】
9.この時点で、部分的に精製されたSTRO−1+BMSSCの培養物を増大させることもでき、二色FACSによってさらに精製することもできる。
【0361】
コロニー効率アッセイによる骨髄の品質の評価
ヒト骨髄穿刺液における予測されるCFU−Fコロニーの発生率は、播種した細胞10
5個あたりおよそ5〜10CFU−Fである。
【0362】
1.BMMNCを6ウェル培養プレート中、20%(v/v)FBS、2mMのL−グルタミン、100μMのl−アスコルビン酸−2−リン酸、50U/mLのペニシリン、50mg/mLのストレプトマイシン、およびβ−メルカプトエタノール(5×10
−5M)を補充したα−MEMにウェルあたり細胞0.3×10
5個、1.0×10
5個、および3.0×10
5個で播種する。培養は3連でセットアップし、5%CO2および>90%湿度の中、37℃で12日インキュベートする。
【0363】
2.12日目の培養物をPBSで2回洗浄し、次いで、PBS中1%(w/v)パラホルムアルデヒドに20分固定する。
【0364】
3.次いで、固定された培養物を、0.1%(w/v)トルイジンブルー(1%パラホルムアルデヒド溶液中)を用いて1時間染色し、次いで、水道水ですすぎ、乾燥させる。細胞50個を超える凝集体をCFU−Fとしてスコアする。
【0365】
高度に精製されたBMSSCの蛍光活性化細胞選別
測定可能なCFU−Fは全てSTRO−1+BMMNC画分中に含有されるが、BMSSCは総STRO−1+集団のたったの2%未満にしか相当しない。大多数のSTRO−1+細胞はグリコホリン−A+有核赤血球およびいくつかのCD19+B細胞である。したがって、STRO−1発現に基づくBMSSCの選択単独では、CFU−Fの部分的な濃縮しかもたらされない(およそ10倍)。クローン原性BMSSCは全て、有核赤血球およびリンパ球には存在しないマーカー、特にCD106およびCD146の発現に基づいて二色FACSによってさらに識別されうるSTRO−1
bright細胞画分中に含有される。下記の方法により、総STRO−1+細胞画分少数の亜集団、播種した細胞2〜3個毎に1個がCFU−Fを形成する能力を有するSTRO−1
bright/CD106+BMMSC(1.4%±0.3;n=20)を単離することが可能になる。この濃縮のレベルは未分画のBMMNCで観察されるCFU−Fの平均発生率(播種した細胞10,000個あたり1CFU−F)よりもほぼ5,000倍高い。
【0366】
フローサイトメトリー細胞選別(FACS)を使用したSTRO−1bright/CD106+BMSSCの単離
1.免疫標識前に、二色免疫蛍光法およびFACSのために、MACSにより単離したSTRO−1+細胞BMMNC(常套的に、BMMNC1×10
8個から細胞2〜5×10
6個)を製剤中HHF、0.5mL中に再懸濁させる。
【0367】
2.MACSにより単離したSTRO−1+細胞およそ3〜5×10
5個を、以下を添加した3つの適切に標識したチューブに分注する:
(i)一次抗体なし(2重陰性対照)、氷上で維持。
【0368】
(ii)ストレプトアビジン−FITCコンジュゲート(HFF中1/100希釈)、氷上で30分インキュベートする(FITC対照)。次いで細胞をHHF中で2回洗浄する。
【0369】
(iii)HFF中20μg/mLに希釈したマウスIgG抗ヒトCD106(VCAM−1)0.5mL。STRO−1+細胞を氷上で30分インキュベートし、HHF中で2回洗浄し、PEとコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)0.2mL中に再懸濁させる、(PE対照)。試料をインキュベートし、洗浄し、次いでHFF中に再懸濁させる。
【0370】
(iv)MACSにより単離したSTRO−1+細胞の残りの1〜2×10
6個はマウスIgG抗ヒトCD106(VCAM−1)0.5mL中に再懸濁させ、上記の通りインキュベートし、HHF中で2回洗浄し、PEとコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)およびストレプトアビジン−FITCコンジュゲート(HHF中1/100希釈)0.2mL中に再懸濁させ、次いで、氷上で30分インキュベートする(選別用試料)。次いで、細胞を前と同様に洗浄し、次いでHHF中に再懸濁させる。
【0371】
3.試料をHHF中に1mlあたり細胞1×10
7個の濃度で再懸濁させた後、FITCおよびPEを同時に検出することが可能な488nmの波長で光を放出する250MWアルゴンレーザーを取り付けた任意の選別機で選別する。試料(i〜iii)を使用して、FITCとPE両方の補償を確立する。5.試料(iv)から選別されたSTRO−1
bright/VCAM−1+細胞を、適切な増殖培地を含有するチューブ中に回収し、混合する。6.細胞計数を上記の通り実施する。次いで、選別された細胞を培養する。
【0372】
ヒトBMSSCのex vivoでの培養
血清が豊富な培地
1.STRO−1
bright/CD106+単離されたBMSSC集団(1cm
2あたり1〜3×10
4個)を、20%胎児ウシ血清、l−アスコルビン酸−2−リン酸100μM、2mMのL−グルタミン、50U/mLのペニシリンおよび50μg/mLのストレプトマイシンを補充した、イーグル培地のα−改変(α−MEM)を含有する組織培養フラスコまたはプレート中、4%CO2、相対湿度>90%、37℃で2週間培養する。初代BMSSC集団を、培養物が80〜90%集密度に達したら継代する。
【0373】
2.接着性培養物を無血清HBSSで1回洗浄し、37℃で5〜10分にわたってT75フラスコあたり0.5%トリプシン/EDTA溶液2mLを添加することにより、酵素的な消化によって細胞を放出させる。
【0374】
3.単一細胞懸濁液の0.4%トリパンブルー/PBS中1:5希釈物を調製することによって細胞の生存能力を評価し、血球計算器を使用して生存細胞の数を決定する。
【0375】
4.BMMSC単一細胞懸濁液をプールし、10%FBS、l−アスコルビン酸−2−リン酸100μM、2mMのL−グルタミン、50U/mLのペニシリンおよび50μg/mLのストレプトマイシンを補充したα−MEM増殖培地中に1cm
2あたり0.5〜1.0×10
4個で再播種し、5%CO
2、相対湿度>90%、37℃でインキュベートする。培養物を、週2回、培地を吸引して出し、37℃に温めた等体積の新鮮に調製した培地と交換することにより供給する。
【0376】
血清欠乏培地
この方法は、造血前駆細胞を増殖させるために最初に開発された血清欠乏培地(SDM)の改変である。
【0377】
1.フィブロネクチンでコーティングしたプレートまたはフラスコを、1cm
2あたり5μgのフィブロネクチン溶液を用いて室温で90分プレコーティングすることによって調製する。この後、フィブロネクチン溶液を吸引して出し、培養容器を滅菌PBSで1回洗浄した後に細胞を播種する。
2.STRO−1
bright/CD106+単離されたBMSSC集団(1cm
2あたり1〜3×10
4個)を、フィブロネクチンでコーティングした組織培養フラスコまたはプレート中で、2%(w/v)ウシ血清アルブミン(Cohn画分V)、10μg/mLの組換えヒトインスリン、ヒト低密度リポタンパク質、200μg/mLの鉄飽和型ヒトトランスフェリン、2mMのL−グルタミン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム(10
−8M)、l−アスコルビン酸−2−リン酸100μM、β−メルカプトエタノール(5×10
−5M)、10ng/mLの血小板由来増殖因子−BB、50U/mLのペニシリンおよび50μg/mLのストレプトマイシンを補充したα−MEMを含有する培地中に懸濁させて培養する。
【0378】
3.次いで、培養物を4%CO
2、相対湿度>90%、37℃で2週間インキュベートする。初代BMSSC集団を、培養物が80〜90%集密度に達したら継代する。
【0379】
ex vivoで増大させたMSCの凍結保存
1.常套的に、培養物で増大させたMPCの単一細胞懸濁液を上記の通りトリプシン/EDTA消化によって調製する。次いで、細胞を低温HFF中に希釈し、洗浄する。
【0380】
2.細胞ペレットをFBS中1mlあたり細胞1×10
7個の濃度で再懸濁し、氷上で維持する。次いで、等体積の凍結混合物(低温FBS中20%DMSO)を徐々に添加しながら細胞を穏やかに混合して、10%DMSO/FBS、1mlあたり細胞5×10
6個の最終濃度にする。次いで、1ミリリットルの一定分量を氷上で予冷した1.8mLのクライオバイアルに分注し、次いで、速度制御冷凍装置を使用して毎分−1℃の速度で凍結させる。
【0381】
3.次いで、凍結させたバイアルを、長期間保管するために液体窒素に移す。凍結ストックの回収は細胞を37℃のウォーターバスで急速に解凍することによって実現される。次いで、細胞を低温HFF中に再懸濁させ、280gで10分高速回転させる。
【0382】
4.細胞の生存能力を評価するために、0.4%トリパンブルー/PBS中1:5希釈物を調製し、血球計算器を使用して細胞の数を決定する。一般には、この手順により80〜90%の生存能力が得られる。
【実施例7】
【0383】
コロニー形成単位線維芽細胞(CFU−F)アッセイ
hMSCのCFU−F特性は、以下に記載の方法を使用して評価された。hMSCは、4回の継代の間に補助剤なしの対照培地のうちの1つの中で培養され、次いで、補助剤なしの対照培地、または対照培地にヘパリン(1.25μg/ml)、Celsus HS(1.25μg/ml)、HS8−(1.25μg/ml)、HS8(HS8+)(1.25μg/ml)もしくはHS8(HS8+)(2.5μg/ml)のうちの1つを加えたもののうちの1つの中で培養された。結果は、
図24Aおよび24Bに示されている。
【0384】
材料
1.hMSC − (Lonzaから購入された)。
【0385】
2.維持培地:DMEM(1000mg/L グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン。
【0386】
3.100%メタノール中のクリスタルバイオレット0.5%。
【0387】
方法
1.MSCは、100×15mmのペトリ皿中に10ml/皿の維持培地と共に150細胞/cm
2で3通りずつ播種される。
【0388】
2.細胞は、7日目に培地が交換されて14日間培養された。
【0389】
3.14日目に、プレートは、クリスタルバイオレット(0.5%、100%メタノール中)で以下のように染色された:
a.培地を除去し、PBSで2回洗浄する
b.10ml/皿のクリスタルバイオレットを添加し、30分間インキュベートする
c.PBSで1回およびH
2Oで1回洗浄し、プレートを乾燥させる
d.他のコロニーと接触していなかった、50個を超える細胞を有するコロニーが計数された
【実施例8】
【0390】
MSCの多分化能特性
以下に記載の方法により、骨(骨形成)および脂肪(脂肪形成)に分化するMSCの能力についてアッセイすることによってMSCの多分化能特性の維持が試験された。結果は、
図25に示されている。
【0391】
細胞
継代4回目の細胞(P4) − 通常の維持培地中で培養されたhMSC
継代7回目の細胞(P7) − 以下の処理剤のうちの1つを含む通常の維持培地中でP4からP7まで培養されたhMSC:
・HS8(HS8(+)) 2.5μg/mL
・HS8(−) 1.25μg/mL
・Celsus HS 1.25μg/mL
・ヘパリン 1.25μg/mL
・FGF2 1.25μg/mL
骨形成性の分化
材料
1.hMSC − (Lonzaから購入された)
2.維持培地:DMEM(1000mg/L グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン
3.処理維持培地:DMEM(1000mg/L グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン、10nM デキサメタゾン、10mM β−グリセロールリン酸および25μg/mL L−アスコルビン酸−2−リン酸
4.PBS中のパラホルムアルデヒド4%
5.アリザリンレッド溶液:100mLのH
2O中に1.37g;pH4.1〜4.3
方法
1.細胞は、6ウェルプレート中に24時間播種された(3,000セル/cm
2)
2.対照ウェル用の培地は、維持培地で変更された
3.処理されたウェル用の培地は、10nMのデキサメタゾン、10mMのβ−グリセロールリン酸および25μg/mLのL−アスコルビン酸−2−リン酸を含む維持培地で変更された
4.次いで、すべての細胞は、3日毎の培地交換で28日間培養された
5.細胞は、次いで、アリザリンレッドで染色された:
a.PBSで3回洗浄する
b.細胞を4%のパラホルムアルデヒドで10分間固定する
c.ddH
2Oで3回洗浄する
d.細胞にアリザリンレッド溶液を添加し、ゆっくりと振盪させながら、30分間インキュベートする
e.ddH
2Oで3回洗浄する
f.染色された細胞を空気乾燥させる
脂肪形成性の分化
材料
1.hMSC − (Lonzaから購入された)
2.脂肪細胞維持培地:DMEM(4500mg/L グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン
3.脂肪細胞処理培地:DMEM(4500mg/L グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン、1μM デキサメタゾン、10μM インスリン、20μM インドメタシン(indomethazine)および115μg/mL 3−イソブチル−1−メチルキサンチン
4.PBS中のパラホルムアルデヒド4%
5.オイルレッドO溶液:0.36%、60%イソプロパノール中
方法
1.細胞は、6ウェルプレート中に3通りずつで播種された(18,000/cm
2)
2.細胞は、コンフルエンスまで培養された
3.対照ウェル用の培地は、脂肪細胞維持培地(4500mg/L グルコース)で変更された
4.処理されたウェル用の培地は、1μMのデキサメタゾン、10μMのインスリン、20μMのインドメタシン(indomethazine)および115μg/mLの3−イソブチル−1−メチルキサンチンを含む脂肪細胞維持培地で変更された
5.その後、3日毎の培地交換で28日間培養された
6.細胞は、次いで、オイルレッドOで染色された:
a.PBSで3回洗浄する
b.細胞を4%のパラホルムアルデヒドで60分間固定する
c.ddH
2Oで1回洗浄する
d.細胞にオイルレッドO溶液を添加し、ゆっくりと振盪させながら、1時間インキュベートする
e.60%のイソプロパノール中で2回洗浄する
f.ddH2Oで3から5回洗浄する
g.ddH
2Oをプレート上に残すまたは染色された細胞を空気乾燥させる
【実施例9】
【0392】
FGF−2媒介性の増殖hMSCに対するHS8の効果は、以下に記載の方法を使用して調査された。HS8は、FGF−2媒介性のMSCの増殖を促進することが見出された(
図26)。
【0393】
細胞
継代4回目の細胞(P4) − 以下の処理剤を含むまたは含まない通常の維持培地中で培養されたhMSC:
・FGF2 0.156ng/mL 単独
・FGF2 0.156ng/mLと共に種々の用量のHS8(+)
細胞増殖プロトコール
材料
1.hMSC − (Lonzaから購入された)。
【0394】
2.FGF2(R&D systems.カタログ番号233−FB−025)。
【0395】
3.維持培地:DMEM(1000mg/l グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン。
【0396】
4.HS8(HS8(+))、HS8(−)、ブタ粘膜ヘパラン硫酸(Celsus laboratories、USA)、ヘパリン(Sigmaカタログ番号H3149)。
【0397】
5.Guava Flex試薬(Millipore)。
【0398】
方法
1.細胞は、24穴プレート上に3000細胞/cm
2で500μl/ウェルの培地中に播種された(0日目)
2.1日目 − 維持培地に加えてFGF2(0.156ng/mL)単独または多様な濃度のHS8(+)と共にFGF2(0.156ng/mL)を含むように培地が交換された500μlの新鮮な培地中に10、5、2.5、1.25、0.625、0.3125、0.156(μg/ml)
3.2日毎の培地交換。
【0399】
4.細胞は、4日目に100μlのトリプシンで回収され、300μlの培地で中和される。
【0400】
5.細胞は、GUAVA装置で計数された(Guava flex試薬:細胞懸濁液は、1:200である)
【実施例10】
【0401】
ERK経路を介したFGF−2シグナル伝達に対するHS8の効果は、以下に記載の方法を使用して調査された。ERK1/2およびFRS2aのリン酸化によって測定されたように、HS8は、ERK経路のFGF2媒介性シグナル伝達を促進する/持続させることが見出された(
図27)。
【0402】
細胞
P4−hMSCは、以下の処理剤を含むまたは含まない通常の維持培地中で培養された:
・FGF2 0.312ng/mL 単独
・HS8(HS8(+)) 2.5ng/mL
ウエスタンブロット
材料
1.hMSC − (Lonzaから購入された)
2.FGF2(R&D systems.カタログ番号233−FB−025)
3.維持培地:DMEM(1000mg/L グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン
4.無血清培地:DMEM(1000mg/L グルコース)、0.2%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン
5.リン酸化FRS2aに対する抗体(Cell Signaling.カタログ番号3861) TBST中の5%BSA中に1:1000
6.リン酸化ERK1/2に対する抗体(Cell Signaling.カタログ番号9106L) TBST中の5%BSA中に1:2000
7.全ERK1/2に対する抗体(Cell Signaling.カタログ番号9102L) TBST中の5%BSA中に1:1000
8.アクチンに対する抗体(Millipore Chemicon.カタログ番号MAB1501R) TBST中の5%BSA中に1:8000
方法
1.細胞は、6ウェルプレート上に10,000/cm
2で維持培地中に播種される
2.1日目:培地を2mL/ウェルで無血清培地に交換する
3.3日目:ウェルに処理剤を添加する。必要とされる量のHS8(+)および/またはFGF2が無血清培地中に調剤され、10μL/ウェルで添加される
4.細胞は、異なる時点(30分間および24時間)で1.5×laemmliバッファーで100μL/ウェル中に回収される
5.溶解液は、95℃で5分間加熱され、−20℃で保存された。
【0403】
6.試料は、一度だけ凍結融解される
7.20μL/ウェルの試料が、Novex 4〜12%ビス−トリス SDS PAGEゲル、10ウェル(Invitrogen.カタログ番号NP0335BOX)の各レーンにロードされる
8.ゲルは、1×MOPSバッファーで180Vで50分間泳動された
9.分離されたタンパク質バンドは、次いで、1×転写バッファー中でニトロセルロース膜に100Vで1時間30分間転写された
10.ニトロセルロース膜は、ポンソーS溶液で染色され、目的のタンパク質の大きさに応じて細片に切断された
11.膜は、次いで、TBST中の5%BSAまたは5%脱脂乳のいずれかの中でゆっくりと振盪させながら室温で30分から1時間ブロッキングされた
12.推奨された希釈率の一次抗体は、次いで、ゆっくりと振盪させながら4℃で一晩インキュベートされた
13.ブロットは、次いで、TBSTで3回、それぞれ5分間洗浄された
14.推奨された希釈率の二次抗体は、次いで、ゆっくりと振盪させながら室温で1時間から2時間インキュベートされた。
【0404】
15.ブロットは、TBSTで3回、それぞれ5分間洗浄された
16.ブロットを化学発光試薬と共にインキュベートし、バンド可視化のためにX線フィルムを現像するために暗室に運ぶ。
【実施例11】
【0405】
HS8のNMR分析
HS8の試料を分析するまで−20℃で保管した。化学シフトの比較および定量化のために使用される内部標準物質tBuOH(200μL、δ1.24ppm)を含有するD2O(600μL)中に溶解させることによってNMR分析を完了した。Celsus HSを約1mg、4mgおよび7mgの量に正確に秤量し、ワーキングD2O/tBuOH溶液に入れ、HS8と同じ実行で分析した。標準溶液の直線あてはめにより、アセチルメチル領域の積分値について0.995またはそれよりも良好な回帰が得られ、内部標準と比較して、この領域はδ3.15〜3.25ppmであり、アノマー領域の最低磁場部分はδ5.15〜5.65ppmであった。
【0406】
低シグナル対ノイズを生じさせる小さなサンプルサイズに起因して、アセチル領域データのみを使用してHS8の量を算出し、0.7mgの値が得られた。アセチルピークのシグナル対ノイズを比較する第2の実験を完了し、0.5mgの値が記録された。これは、内部標準に関連しない絶対値である。さらなる分析前にtBuOHを除去するための3回の凍結−乾燥ステップの後に記録された質量は1.2mgであった。SEC HPLCデータを積分しておおよその純度値を得ることができ、それも58%が記録され、それにより、0.7mgのHS−GAGが材料中に存在したことが示唆されることに注目されたい。この重量の矛盾は小さなGAG試料では新しい現象ではないので、変動する湿度および塩の割合が記録された質量に影響したに違いないと仮定した。
【0407】
HS8、Celsus HSおよびHS3*の1
HNMRスペクトルが
図31に示されている。示されているプロットにおける、他のシグナル(Celsus HSが4.8〜4.9の最も高いピークであり、HS3が中間の高さのピークである)と比較したHS8の強度の差異(最低ピーク4.8〜4.6ppm)は、全てのスペクトルをアセチルメチル共鳴の高さに対して標準化したことに起因し、このHS8試料の場合では、わずかに良好なシミングが観察され、線幅が狭くなり、アセチル共鳴がわずかに鋭く高くなった。
【0408】
Celsus HSと比較したHS8の化学組成の変化は2−D NMRによって正確に区別される。
【0409】
HS8 1
HNMRメチン領域およびメチレン領域のより厳密な検査により、Celsus HSおよびHS3と比較した差異が示された(
図32)。
【0410】
[*HS3は、BMP−2のヘパラン結合ドメインに対して特異的かつ高い結合親和性を有する単離されたヘパラン硫酸である。HS3は、WO2010/030244に記載されている]
【実施例12】
【0411】
HS8および他のHS製剤のHPLC−SEC−RI
ヘパラン硫酸製剤(およそ1mg、正確に秤量した)を水中2mg/mLまで作製した。これらの製剤のヘパリンリアーゼI、IIおよびIII消化物は水中2mg/mLであった。溶液を遠心分離し(14000g、2分)、200μLの一定分量を分析のために取得した。
【0412】
SEC−RI系は、Waters 2690 Alliance分離モジュールおよびWater2410屈折率モニター(範囲64)からなる。RIクロマトグラムからの定量化のためのdn/dcを0.129(ref)に設定した。試料を注射し(50μL)、50mMの酢酸アンモニウムを2つのSuperdex(商標)ペプチド10/300GLカラムから順番に毎分0.5mLの流速で用いて溶出した(300×10mm GE Healthcare、Buckinghamshire、UK)。データを収集し、ASTRAソフトウェア(バージョン4.73.04、Wyatt Technology Corp)を使用して分析した。
【0413】
HS8製剤全体のサイズ−排除クロマトグラフィーにより、別個のサイズ−排除プロファイルが示された。Celsus HS出発材料は15mLで空隙化シグナルを示し、様々なサイズの追加的な材料が溶離液およそ23mLに溶出した。
図33に示されている通り、HS8材料(FGF−2アフィニティーカラムに保持される)は、SECカラムを空隙にする材料が豊富であるというサイズプロファイルを示す。
【0414】
これは、HS8とCelsus HSプロファイルの中間のサイズプロファイルを示すHS3製剤のサイズプロファイルとも別個である(
図34)。HS8クロマトグラムは、この試料を水ではなく50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH7)中に調製したので、およそ36mLにおいて大きな塩シグナルを示す。
【0415】
図35は、Celsus由来のHSの2つの異なるバッチについてのSECクロマトグラムを示す。バッチ#10697を、HS3およびHS8の両方を調製するための出発材料として使用した。これらの両方のバッチの酵素を用いた消化は、バッチ#10595の方が、全く消化されず、カラムを空隙にする材料がより多いと思われる以外は同様である。
【0416】
HS8のヘパリンリアーゼ消化物のサイズプロファイル(
図36)は、Celsus HS出発材料(
図35)ともHS3(
図36)とも全く異なる。HS3について得られたサイズプロファイルは、以前の消化物について得られたものと非常に類似するものであった。HS8クロマトグラムは、HS3消化物についてと同様に、空隙容量(15mL)ではわずかなシグナル強度を示し、これにより、この材料の大部分がいくらかの程度まで消化されたことが示唆される。しかし、2つのHS3消化物はおよそ19mLで有意かつ別個のシグナル強度を示すが、HS8はおよそ18mLで広範なシグナルを示す。
【実施例13】
【0417】
[3H]ヘパリンアッセイ
FGF2のアミノ酸配列に由来する配列番号1のヘパリン結合能力は、以下に記載のプロトコールを使用して評価された。結果は、
図37に示されている。
【0418】
材料
(1)ペプチド:
Gandhiら(HS8)−Nanyang Technological Universityによって製作された
GHFKDPKRLYCKNGGF−Ahx−(K)ビオチン
(2)3Hヘパリン 0.1μCi(Perkin Elmer、Boston、USA)
(3)ニトロセルロースメンブレン(BioRad、USA)
(4)PBS中のウシ血清アルブミン4%(w/v)
(5)真空オーブン(Thermo Fisher Scientific、USA)
(6)Tri−Carb 2800 TCR液体シンチレーション分析計(Perkin Elmer、Boston、USA)
方法
(1)FGF2−HBDペプチドをPBSで望ましい濃度(4.66×10−9、9.32×10−9、1.86×10−8、3.73×10−8モル)に作り上げる
(2)同一のニトロセルロースメンブレンを既知の濃度のペプチドで2通りずつ浸漬する
(3)メンブレンを1時間空気乾燥させる
(4)800℃の真空オーブン内で45分間のさらなる乾燥
(5)メンブレンをPBSで3回洗浄する
(6)メンブレンに3Hヘパリン 0.1μCiを添加し、シンチレーション計数バイアル中で16時間インキュベートする
(7)メンブレンをPBSで4回洗浄する
(8)Tri−Carb 2800 TCR液体シンチレーション分析計(Perkin Elmer、Boston、USA)で放射能を決定する
【実施例14】
【0419】
固定化されたヘパリンを結合することについてのヘパリン結合ドメインペプチド配列番号1の能力は、以下に記載のプロトコールを使用して評価された。結果は、
図38に示されている。
【0420】
材料
1.標準アッセイバッファー(SAB) − 100mM NaCl、50mM 酢酸ナトリウム、0.2%v/v tween20、pH7.2
2.ブロッキングバッファー − 0.4%アイシングラス(Sigmaカタログ番号67041)+SAB
3.GAG結合プレート(Iduron、UK)
4.ペプチド:
Gandhiら(HS8)−Nanyang Technological Universityによって製作された
GHFKDPKRLYCKNGGF−Ahx−(K)ビオチン
5.ExtraAvidin−AP(Sigmaカタログ番号E2636)
6.Sigma FAST p−ニトロフェニルリン酸(Sigma、N2770)
方法
1.SAB中にヘパリンを溶解する(5μg/ml)
2.GAG結合プレート中に200μlのヘパリン溶液/ウェルを添加し、光から保護して室温で一晩インキュベートする
3.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
4.プレートを、光から保護して250μl/ウェルのブロッキングバッファーで370℃で1時間インキュベートする
5.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
6.ブロッキングバッファー中にペプチドを溶解し、連続希釈を行う:0、50、100、200nM
7.GAGでコーティングされたプレートに200μl/ウェルの希釈されたタンパク質を分注し、370℃で2時間インキュベートする
8.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
9.ブロッキング溶液中の220ng/mlのExtraAvidin−APの200μl/ウェルを添加し、370℃で30分間インキュベートする
10.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
11.200μl/ウェルの発色試薬を添加する:脱イオン水中のSigma FAST p−ニトロフェニルリン酸、室温で40分間インキュベートする
12.405nmで吸光度を読み取る
【実施例15】
【0421】
FGF−2は、HS8を結合するその能力について評価された。これは、未加工の出発HS(HS−PMブタ粘膜)、または糖なし、との結合と比較された。結果は、
図39に示されている。
【0422】
材料
1.標準アッセイバッファー(SAB) − 100mM NaCl、50mM 酢酸ナトリウム、0.2%v/v tween20、pH7.2
2.ブロッキングバッファー − 0.4%アイシングラス(Sigmaカタログ番号67041)+SAB
3.GAG結合プレート(Iduron、UK)
4.R&D Systemsからのタンパク質:FGF2−233FB
5.R&D Systemsからの抗体:FGF2−BAM233
6.ExtraAvidin−AP(Sigmaカタログ番号E2636)
7.Sigma FAST p−ニトロフェニルリン酸(Sigma、N2770)
方法
1.SAB中にGAGを溶解する(5μg/ml)
2.GAG結合プレート中に200μlのGAG溶液/ウェルを添加し、光から保護して室温で一晩インキュベートする
3.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
4.プレートを、光から保護して250μl/ウェルのブロッキングバッファーで370℃で1時間インキュベートする
5.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
6.ブロッキングバッファーでタンパク質を溶解し、連続希釈を行う:0、0.781、1.56、3.125nM
7.GAGでコーティングされたプレートに200μl/ウェルの希釈されたタンパク質を分注し、370℃で2時間インキュベートする
8.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
9.ブロッキング溶液中の250ng/mlのビオチン化された一次抗体の200μl/ウェルを添加し、370℃で1時間インキュベートする
10.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
11.ブロッキング溶液中の220ng/mlのExtraAvidin−APの200μl/ウェルを添加し、370℃で30分間インキュベートする
12.プレートをSABで250μl/ウェルで注意深く3回洗浄する
13.200μl/ウェルの発色試薬を添加する:脱イオン水中のSigma FAST p−ニトロフェニルリン酸、室温で40分間インキュベートする
14.405nmで吸光度を読み取る
【実施例16】
【0423】
HS8の存在下におけるプラスチック接着性間葉系幹細胞の6日にわたる増殖を分析した。結果は、
図40に示されている。
【0424】
細胞増殖プロトコール
材料
1.HM20 hMSC − ラテンアメリカ系20歳男性のドナー(Lonzaから購入された)
2.FGF2(R&D systems.カタログ番号233−FB−025)
3.維持培地:DMEM(1000mg/l グルコース)、10%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L−グルタミン
4.HS8
5.Guava Flex試薬(Millipore)
方法
1.HM20細胞は、24穴プレート上に3000細胞/cm
2で500μl/ウェルの培地中に播種された(0日目)
2.1日目 − 培地が交換された GAG(μg/ml) − 2.5および0.5
3.2日毎の培地交換
4.細胞は、所定の時点(6日目)で回収される − 100μlのトリプシンで回収され、300μlの培地で中和される
5.細胞は、Guava装置で計数された(Guava flex試薬:細胞懸濁液は、1:200である)
【実施例17】
【0425】
未加工のCelsus出発HS(HS−PM)、または非結合HSフロースルー(HS8−)と比較した、単離されたHS8の存在下におけるSTRO−1単離間葉系幹細胞の36時間にわたる増殖は、以下に記載のようにBrDUの取り込みによって測定された。結果は、
図41に示されている(その中でHS8G=HS8)。
【0426】
プロトコール(細胞増殖ELISA、BrdU(比色)、Roche)
1.細胞播種 − 190μlの培地/ウェル(96ウェルプレート)中に5000細胞
2.培地−アルファMEM+10%ウシ胎仔血清(FCS)+1%L−グルタミン(gluatamine)+1%ペニシリンおよびストレプトマイシン+100nM L−グルタミン酸
3.370℃かつ5%のCO
2中で6時間インキュベートする
4.6時間のインキュベーション後、所定のウェルについてレイアウト通りに10μlの培地中に種々の用量の処理剤を添加する
5.GAG(μg/ml) − 10、5、2.5、1.25、0.625、0.3125
6.37℃かつ5%のCO
2中で処理剤と共に36時間インキュベートする
7.各ウェル内にBrdUを添加する。
8.細胞を37℃かつ5%CO
2中でBrdUで2時間標識する(20μlのBrdU標識溶液/ウェルを添加する)
9.軽くたたくことによってプレートから標識培地を除去する
10.200μl/ウェルのFixDenatを細胞に添加し、15〜25℃で30分間インキュベートする
11.振り落とすことおよび軽くたたくことによってFixDenat溶液を完全に除去する
12.100μl/ウェルの抗BrdU−POD作用溶液を添加し、15〜25℃で90分間インキュベートする
13.振り落とすことによって抗体コンジュゲートを除去し、250μl/ウェルの洗浄溶液(1×PBS)で3回すすぐ
14.軽くたたくことによって洗浄溶液を除去する。
15.100μl/ウェルの基質溶液を添加し、15〜250℃で30分間インキュベートする
16.370nmでの吸光度を測定する(参照波長:492nm)
【実施例18】
【0427】
二糖のキャピラリー電気泳動(CE)分析
ヘパラン硫酸(HS)は、Celsus Laboratories Inc.(HO−03103、ロット#HO−10697)からであった。細菌のヘパリナーゼによる高級ブタヘパリンの消化に由来する、二糖標準(ΔUA,2S−GlcNS,6S;ΔUA,2S−GlcNS、ΔUA,2S−GlcNAc,6S、ΔUA−GlcNS,6S、ΔUA−GlcNS、UA−GlcNAc、ΔUA,2S−GlcNAc、ΔUA−GlcNAc,6S、ΔUA,2S−GlcN、ΔUA,2S−GlcN,6S、ΔUA−GlcN,6S、ΔUA−GlcN カタログ番号HD001からHD013、Iduron Ltd、Manchester、UK)は、Iduron Ltd、Manchester、UKから購入された。天然に存在しない二硫酸化された二糖の合成誘導体(ΔUA,2S−GlcNCOEt,6S)も、Iduronから、内標準としての使用のために購入された。ヘパリンオリゴ糖(dp4、dp6、dp8、dp10、dp12(カタログ番号HO04、HO06、HO08、HO10、HO12))および選択的に脱硫酸化されたヘパリン標準(2−O脱硫酸化ヘパリン、6−O脱硫酸化ヘパリンおよびN−脱硫酸化ヘパリン)(カタログ番号DSH001/2、DSH002/6、DSH003/N、Iduron Ltd、Manchester、UK)も、Iduron Ltd、Manchester、UKから購入された。
【0428】
ヘパリンリアーゼI(ヘパリチナーゼ、EC4.2.2.8、ヘパリチナーゼIとしても知られる)、ヘパリンリアーゼII(ヘパリチナーゼII、指定されたEC番号なし)およびヘパリンリアーゼIII(ヘパリナーゼ、EC4.2.2.7、ヘパリチナーゼIIIとしても知られる)は、生化学工業株式会社、日本から得られた。凍結乾燥された粉末(0.1U/バイアル)として供給される、この酵素は、0.1%BSA中に溶解され、0.5mU/μLを含む溶液が得られた。各一定分量(5μL; 2.5mU)は、必要とされるまで冷凍された(−80℃)。
【0429】
ヘパリンリアーゼ酵素でのHS製剤の消化
HS製剤(1mg)は、(10mMの酢酸カルシウムを含む)500μLの酢酸ナトリウムバッファー(100mM、pH7.0)中にそれぞれ溶解され、各2.5mUの3種の酵素が添加された。試料は、チューブを穏やかに反転させながら(9rpm)、37℃で一晩(24時間)インキュベートされた。さらに各2.5mUの3種の酵素が試料に添加され、この試料は、チューブを穏やかに反転させながら(9rpm)、37℃でさらに48時間インキュベートされた。消化物は、加熱(100℃、5分)によって停止され、次いで、凍結乾燥された。消化物は、500μLの水中に再懸濁され、CEによる分析用に一定分量(50μL)が分取された。
【0430】
キャピラリー電気泳動(CE)
キャピラリー電気泳動オペレーティングバッファーは、20mMのH
3PO
4の水溶液を20mMのNa
2HPO
4.12H
2Oの溶液に添加してpH3.5にすることによって作製された。カラム洗浄液は、(50%w/wのNaOHから希釈された)100mMのNaOHであった。オペレーティングバッファーおよびカラム洗浄液は、0.2μmの酢酸セルロースメンブレンフィルター(47mmφ;Schleicher and Schuell、Dassel、Germany)を取り付けたMilliporeフィルターユニットを使用して、両方とも濾過された。
【0431】
12種の二糖標準の保存溶液は、水中に二糖を溶解(1mg/mL)することによって調製された。標準のための較正曲線を決定するために、12種すべての標準を含む混合物が調製された。12種の標準混合物の保存溶液は10μg/100μLの各二糖を含み、10、5、2.5、1.25、0.625、0.3125μg/100μLを含む希釈系列が調製された;2.5μgの内標準(ΔUA,2S−GlcNCOEt,6S)を含む。HSの消化物は水で希釈され(50μL/mL)、同一の内標準が各試料に添加された(2.5μg)。溶液は、凍結乾燥され、水(1mL)中に再懸濁された。試料は、PTFE親水性ディスポーザブルシリンジフィルターユニット(0.2μm;13mmφ;Advantec、東洋濾紙株式会社、日本)を使用して濾過された。
【0432】
分析は、Agilent
3DCE(Agilent Technologies、Waldbronn、Germany)機器を使用して、取り付けられた未コーティングのシリカキャピラリーチューブ(75μm ID、全長64.5cmおよび有効長56cm、Polymicro Technologies、Phoenix、AZ、部品番号TSP075375)上、25℃で、20mMのオペレーティングバッファーを使用して、30kVのキャピラリー電圧で行われた。試料は、陰極(逆極性)端で流体力学的な注入(50mbar×12秒)を使用してキャピラリーチューブに導入された。
【0433】
各流動の前に、キャピラリーは、100mMのNaOH(2分)、および水(2分)で洗い流され、オペレーティングバッファー(5分)で予め調整された。バッファー補充システムは、一貫した容量、pHおよびイオン濃度が確実に維持されるように、入口および出口のチューブにおいてバッファーを置換した。水のみのブランクは、試料の順番の最初、中間および最後のいずれもにおいて流動された。吸光度は、232nmでモニターされた。すべてのデータは、ChemStoreデータベースに保存され、その後、検索されてChemStationソフトウェアを使用して再加工された。
【0434】
標準混合物中の12種のヘパリン二糖のうちの11種は、上に詳述した条件を使用して分離された。12種目の二糖、ΔUA−GlcNは、これらの実験のために使用された条件下で移動しない。しかし、この二糖は、ヘパラン硫酸において生じることが報告されていない。標準較正曲線のためのR2値は、0.9949から1.0までの範囲に及んだ。
【0435】
HS製剤のヘパリンリアーゼI、IIおよびIII消化は2通りずつで行われ、2通りずつのそれぞれがCEに2回注入された。したがって、HS消化物中の二糖の標準化された百分率は、分析の結果の相加平均である。標準混合物において分離された11種の二糖のうち、それらのうちの8種のみが、HS消化物中に検出される。他の小さなシグナルが、消化の電気泳動図のベースライン上に認められ、これらは、オリゴ糖>2dpに該当しうる。上記のように、より大きなオリゴ糖は、二糖と比較して、より小さいUV吸光度を有することになる。
【0436】
Celsus HS(Lot#10697)の試料に対して2連の分析を完了し、同じ試料に対する分析の以前のセットと比較した:これらの結果が
図42に示されている。2セットの分析間に優れた相関が観察された。Celsus HS消化物中の8種の二糖の割合は他の以前の分析と同様であり、ΔUA−GlcNAcおよびΔUA−GlcNSが大きな成分であり、ΔUA−GlcNAc,6S、ΔUa−GlcNS,6sおよびΔUA,2S−GlcNS,6Sがより小さな割合であった(
図42)。これは、HPLC−SECプロファイルと一致して、大きな割合のモノ硫酸化二糖および硫酸化されていない二糖、より小さな割合のジ硫酸化二糖および小さな割合のトリ硫酸化二糖に対応する。保持されないHSは、Celsus HS出発材料と比較してモノ硫酸化二糖および硫酸化されていない二糖が豊富である。この保持されない材料のパターンは、HPLC−SECクロマトグラムでは全く異なって見られる。HS8の分析の場合では、サンプルサイズから単一の分析のみが可能であり、したがって、この製剤に関する誤差データはもたらされない。HS8、HS3およびCelsus HSの比較が
図44に示されている。
【0437】
HS8についての二糖組成は、より硫酸化された(荷電した)画分がCelsus HSから一般に調製されているという点で、HS3(WO2010/030244に記載の通り、Celsus HSから、BMP2由来のヘパリン結合ドメインに対する親和性によって単離されたHS)のものと同様である。しかし、HS8についてはHS3と比較してより大きな割合のUA−GlcNS,6sおよびより小さな割合のUS−GlcNSが存在するという点で著しい差異がある。
【0438】
HS8が由来する未加工のCelsus HSの平均分子量は20〜25kDa(ヘパリンの約15kDaと比較して)であり、HS8をアフィニティークロマトグラフィーによって同定するプロセスではHS鎖の観察される分子量に実質的な変化は生じなかった。各二糖単位の分子量は約430〜約650KDaの範囲であることが予想される。二糖あたり500ダルトンの大まかな平均(例えばヘパリン中の平均二糖は約650ダルトンである)を使用して、平均(22kDa)HS8あたり約44環のHS8の鎖長を示す(基本的な近似として)。
【実施例19】
【0439】
HS8がFGF2に優先的に結合し、hMSCの増殖速度を増大させることが同定されたので、HS8活性の機構をさらに探究した。
【0440】
FGF2中和抗体またはFGFR1阻害剤(キナーゼ阻害剤と中和抗体の両方)は、hMSCにおけるHS8の増殖効果を低下させる能力があり(
図47〜50)、これにより、hMSCにおけるHS8の分裂促進効果が、他の分子ではなくFGF2/FGFRとの相互作用によるものであることが確認される。HS8の存在下ではFGF2の急速な分解が遅延し(
図46)、これにより、培地中でHS8がFGF2と相互作用してそれが分解されるのを保護することがもたらされる。
【0441】
HS8がhMSC自己再生を促進する一方で多分化能を維持することを示した(上記)。hMSCの常套的な培養物にHS8を補充することにより、培養物がより速く増大するかどうかを試験するために、3つの個々のドナー由来のhMSCをHS8補充培地で別々に増殖させた。3ドナーにわたって、HS8に曝露したhMSCがより多くのコロニーを形成することができ(
図51)、さらなる細胞の倍加にもかかわらず、バイオマーカーCD14、19、34、45、HLA−DR、CD73、90、105、CD49a、SSEA−4およびSTRO−1についてFACSによって測定される幹細胞様表現型を維持することを観察した(例えば、
図22に示されている通り)。hMSCをHS8補充培地で増大させた場合、「幹細胞性」を示すバイオマーカーが維持された。
【0442】
これらの細胞に、3つの間葉系幹細胞系列の全てに容易に分化する能力があり(骨を含む、アリザリンレッド染色、フォンコッサ染色、オイルレッドO染色およびアルシアンブルー染色によって測定される)、また、骨形成が促進されることも見出し、これにより、この戦略が、整形外科の外傷療法に有効でありうることが示唆される。HS8はMSCの骨に分化する能力に悪影響を及ぼさなかった。
【0443】
したがって、HS8をラットの頭蓋冠欠損モデルに適用した(
図52)。骨治癒の改善が明らかであり、これにより、外傷部位においてHS8がFGF2と相互作用して、FGF−2依存性機構によって内在性幹前駆細胞および骨前駆細胞の活性を加速することが示唆され、したがって、頭蓋冠骨欠損の治療に対するこの手法の治療的可能性が強調される。
(参考文献)
【0444】
【表7】
【0445】
【表8】
【0446】
【表9】
【0447】
【表10】
【0448】
【表11】
【0449】
【表12】