特許第6321791号(P6321791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321791
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】接触プローブの較正
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/00 20060101AFI20180423BHJP
   G01B 5/008 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   G01B5/00 P
   G01B5/008
【請求項の数】17
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-522867(P2016-522867)
(86)(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公表番号】特表2016-526677(P2016-526677A)
(43)【公表日】2016年9月5日
(86)【国際出願番号】GB2014051951
(87)【国際公開番号】WO2014207470
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2017年4月27日
(31)【優先権主張番号】1311600.9
(32)【優先日】2013年6月28日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】391002306
【氏名又は名称】レニショウ パブリック リミテッド カンパニー
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド スヴェン ウォレス
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ルイ グルチェシャク
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−223865(JP,A)
【文献】 特開2011−214949(JP,A)
【文献】 特開2003−114112(JP,A)
【文献】 米国特許第04866643(US,A)
【文献】 特表2010−533303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00− 5/30
G01B 21/00−21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触要素を有する接触プローブを較正する方法であって、較正アーティファクトの第1の幾何学的特性、および、前記較正アーティファクトまたはさらなる較正アーティファクトの第2の幾何学的特性を、前記接触プローブを用いて測定するステップであって、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性は、前記接触要素の有効直径と、測定値を決定するために使用される推定された直径と、の間の差から結果として生じる、前記測定値と予期される値との間のずれが、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性のそれぞれに関して反対符号を有するようになっている、測定するステップと、前記接触要素の前記有効直径と前記推定された直径との差を特定するステップであって、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性のそれぞれに関して前記予期される値に対する前記測定値のずれを比較して、該ずれの中に差が有るかを決定するステップを備える、特定するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記予期される値は、幾何学的特性に対する既知の寸法および/または第1の表面および第2の表面の既知の相対的な場所であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性は、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性を測定する際に前記接触プローブによって進められる距離が実質的に同じとなるようになっていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の幾何学的特性を測定するステップは、前記較正アーティファクト上の第1の複数のポイントに接触することによって、前記較正アーティファクト上の第1の距離を測定するステップを含み、前記第1の距離は、前記第1の複数のポイントに接触しているときに前記接触要素の中心から決定される距離に、前記推定された直径を加えることによって決定され、前記第2の幾何学的特性を測定するステップは、前記較正アーティファクトまたは前記さらなる較正アーティファクト上の第2の複数のポイントに接触することによって、前記較正アーティファクトまたは前記さらなる較正アーティファクト上の第2の距離を測定するステップを含み、前記第2の距離は、前記第2の複数のポイントに接触しているときに前記接触要素の中心から決定される距離から、前記推定された直径を減じることによって決定されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性は、実質的に同じ形状の断面を有する第1の表面および第2の表面を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の表面は、凸形表面であり、前記第2の表面は、凹形表面であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記接触プローブは、座標位置決め機のクイルに取り付けられ、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性の測定は、前記座標位置決め機のアームを移動させることによって実施されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記接触プローブは、回転プローブヘッドに取り付けられ、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性の測定は、軸線の周りの回転プローブヘッドの回転によって実施されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記回転プローブヘッドは、座標位置決め機のクイルに装着され、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性の1つの測定が、前記座標位置決め機のアームが適切な位置に固定された状態での前記回転プローブヘッドの回転によって実施され、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性のさらなる測定が、適切な位置に固定された前記回転プローブヘッドを有する前記座標位置決め機のアームを移動させることによって実施されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記接触プローブを用いて前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性を測定する際に座標位置決め機および/または回転プローブヘッドによって進められる距離は、前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性の両方に関して実質的に同じであることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性は、異なるアーティファクトの幾何学的特性であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
座標位置決め機の中のおおよそ同じ位置において、前記異なるアーティファクトを位置付けるステップを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記異なるアーティファクトは、メス型のアーティファクトおよびオス型のアーティファクトであることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1または複数の較正アーティファクトの第1の複数の幾何学的特性を測定するステップ、および、前記1または複数の較正アーティファクト、もしくは、さらなる1または複数の較正アーティファクトの第2の複数の幾何学的特性を測定するステップを備え、前記接触要素の有効直径と、測定値を決定するために使用される推定された直径と、の間の差から結果として生じる、前記幾何学的特性の測定値と前記幾何学的特性の予期される値との間のずれは、前記第1の複数の幾何学的特性に関して、前記第2の複数の幾何学的特性とは反対符号を有することを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の幾何学的特性および前記第2の幾何学的特性の前記測定から前記接触プローブの有効直径を決定するステップを含むことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
推定された直径を有する接触要素を有する接触プローブを較正する方法であって、前記方法は、オス型のアーティファクトの表面上の複数のポイント、および、対応するメス型のアーティファクトの中のアパーチャーを画定する表面上の複数のポイントを、前記接触プローブを用いて測定するステップと、前記オス型のアーティファクトおよび前記メス型のアーティファクトのそれぞれに関する前記測定されるポイントの比較によって、前記接触要素の直径と前記推定された直径との差を特定するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
接触プローブと、前記接触プローブを移動させるための関節式デバイスと、前記接触プローブを移動させるように前記関節式デバイスの移動を制御するための、および、前記接触プローブからの信号を受け入れるための、1または複数のプロセッサーと、を含み、前記1または複数のプロセッサーは、前記関節式デバイスを制御し、かつ、前記接触プローブからの信号を処理し、請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の方法にしたがって、前記接触プローブを較正するように配置されることを特徴とする座標位置決め機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触プローブを較正するための方法および装置に関し、とりわけ、スタイラス先端部などのような、接触要素(contact element)の寸法を決定するためのものである。
【背景技術】
【0002】
ワークピースが製造された後に、座標測定機(CMM:Coordinate Measuring Machine)などのような位置決め装置または他のタイプの座標位置決め装置の上でそれらを検査することは、一般的に行われていることである。そのような座標位置決め装置は、典型的に、クイルを有しており、接触プローブがマシンの可動範囲の中で3つの直交する方向Χ、Y、Ζに駆動され得るように、タッチトリガープローブまたはスキャニングプローブなどのような接触プローブが、クイルに装着されている。
【0003】
特許文献1は、ワークピースの表面を測定するための動作においてプローブが使用されることを可能にするために、2つの回転自由度で接触プローブを向けさせることができる関節式プローブヘッドを説明している。一般的に、そのようなプローブヘッドは、接触プローブが2つの実質的に直交する回転軸線の周りに向けさせられることを可能にする2つの回転駆動メカニズムを含む。そのような関節式プローブヘッドは、CMMのクイルに装着され得、プローブが5自由度(すなわち、CMMによって提供される3つの線形自由度、および、関節式プローブヘッドによって提供される2つの回転自由度)で位置決めされることを可能にする。
【0004】
接触プローブは、ワークピースの表面に接触するためのスタイラス先端部などのような接触要素を有し、プローブのスタイラスのたわみを引き起こし、プローブは、たわみに応答して信号を発生させる。スタイラス先端部は、通常、ワークピースを測定するためにプローブが使用される前に較正される。較正球体(calibrated sphere)(いわゆるマスターボール)を、プローブを用いて測定することによって、スタイラス先端部直径を較正することが知られている。この測定は、たとえば、特許文献2または特許文献3に開示されているように、プローブの異なる向きで実施され得る。しかし、そのような方法に伴う不利益は、それが、座標位置決め機および/またはプローブヘッドの精度に依存し、かつ、時間のかかるものであるということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,189,806号明細書
【特許文献2】国際公開第00/25087号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/002501号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2011/107729号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2011/107746号パンフレット
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、接触要素を有する接触プローブを較正する方法が提供され、方法は、較正アーティファクト(calibrated artefact)の第1の幾何学的特性、および、その較正アーティファクトまたはさらなる較正アーティファクトの第2の幾何学的特性を、接触プローブを用いて測定するステップであって、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性は、接触要素の有効直径(effective diameter)と測定値を決定するために使用される推定された直径との間の差から結果として生じる、幾何学的特性の測定値と予期される値との間のずれ(deviation)が、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性のそれぞれに関して反対符号を有するようになっている、測定するステップと、接触要素の有効直径と推定された直径との差を特定するステップであって、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性のそれぞれに関して予期される値に対する測定値のずれを比較して、該ずれの中に差が存在するかを決定するステップを備える、特定するステップと、を含む。
【0007】
第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性の測定から、接触要素の有効直径とその推定された直径との間の差に起因する、測定と予期される値とのずれは、プローブ、回転ヘッド、および/または、プローブが取り付けられている座標位置決め機の他の態様に起因するずれから特定され得る(切り離される)。とりわけ、接触要素とその推定されたサイズとの差から結果として生じる測定誤差は、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性の幾何学的特性を測定するときに反転し、一方、プローブの長さとその推定された長さとの差から結果として生じる測定誤差、アーティファクトが較正温度との温度差から結果として生じる測定誤差、接触プローブの移動を制御する回転ヘッドおよび/もしくは座標位置決め装置から起こる測定誤差は、幾何学的特性を測定するときに反転しない可能性がある。したがって、幾何学的特性を測定する際の誤差における反転の存在は(測定値のずれと、予期される値と、の差として見られる)、接触要素の有効直径とその推定された直径との差を特定するために使用され得る。誤差の他の原因が、接触要素の有効直径とその推定された直径との差から結果として生じる誤差よりも大きい程度を有する場合には、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性に関する予期される値からの測定値の合計ずれは、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性の両方に関してプラスまたはマイナスであり得るということが理解されることとなる。
【0008】
幾何学的特性は、較正アーティファクト、または、さらなる較正アーティファクトの寸法であることが可能であり、その値は、既知である。そのような実施形態では、寸法に関する測定値は、既知の寸法と比較され、測定値の誤差が決定される。第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性に関する測定の誤差が比較され、誤差の差が、接触要素の有効直径とその推定された直径とのずれを特定するために使用される。別の実施形態では、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性は、較正アーティファクトの上の第1の表面および第2の表面のそれぞれの場所であり、(平面に対して垂直な軸線に沿って共通の場所を有する表面などのような)第1の表面および第2の表面の相対的な場所が既知である。このように、接触要素の有効直径と推定された直径との差を特定するステップは、第1の表面および第2の表面の場所の測定を互いに比較するステップを含むことが可能である。
【0009】
幾何学的特性は、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性のそれぞれの幾何学的特性を測定する際に接触プローブによって進められる距離が実質的に同じとなるようになっていることが可能である。たとえば、第1の幾何学的特性は、較正アーティファクトの内部円形表面であることが可能であり、第2の幾何学的特性は、さらなる較正アーティファクトの外部円形表面であることが可能であり、内部円形表面は、接触要素の推定された直径だけ、外部円形表面のものよりも大きい直径を有している。両方の表面を測定する際に実質的に同じ距離を進むことによって、プローブ長さ、温度、プローブヘッド、および座標測定機のずれなどのような、原因からの非反転の誤差は、両方の測定に関して等しいことが可能である。
【0010】
第1の幾何学的特性を測定するステップは、較正アーティファクト上の第1の複数のポイントに接触することによって、較正アーティファクト上の第1の距離を測定するステップを含むことが可能であり、第1の距離は、第1の複数のポイントに接触しているときに接触要素の中心から決定される距離に、推定された直径を加えることによって決定され、第2の幾何学的特性を測定するステップは、較正アーティファクトまたはさらなる較正アーティファクト上の第2の複数のポイントに接触することによって、較正アーティファクトまたはさらなる較正アーティファクト上の第2の距離を測定するステップを含むことが可能であり、第2の距離は、第2の複数のポイントに接触しているときに接触要素の中心から決定される距離から、推定された直径を減じることによって決定される。たとえば、第1の幾何学的特性は、アーティファクトの内部に向いている円形表面の直径であることが可能であり、第2の表面は、較正アーティファクトまたはさらなる較正アーティファクトの外部に向いている円形表面の直径であることが可能である。そのような実施形態では、接触要素の有効直径と推定された直径との差を特定するステップは、測定される距離のずれを、それぞれの距離に関して予期される値と比較するステップを含むことが可能である。ずれの差は、接触要素の有効直径と推定された直径との差を指示することが可能である。第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性を測定するステップは、反対方向に向く第1の表面および第2の表面上のポイントの間の距離を測定するステップを含むことが可能であり、距離測定は、測定されるポイントにおいて、それぞれの表面に対して垂直な方向である。第1の表面および第2の表面は、反対方向に面する平面的な表面であることが可能であり、距離が、表面の平面に対して垂直な軸線に沿った方向に測定される。この代替的実施形態では、幾何学的特性は、第1の表面および第2の表面のそれぞれの場所である。好ましくは、それぞれの表面の場所は、実質的に同じである。したがって、測定される距離と予期されるゼロ長さ(zero length)との比較は、接触要素の有効直径と推定された直径との差を特定する。表面同士の間のゼロ距離(zero distance)に起因して、(エンコーダー誤差などのような)誤差の他の原因は、適用しなくてもよく、または、重要でない可能性がある。
【0011】
第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性は、アーティファクトの内部表面および外部表面、または、連続的な表面の異なる部分などのような、共通のアーティファクト上の異なる表面上の測定から決定され得る。あるいは、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性は、異なるアーティファクトの表面上の測定から決定され得る。方法は、接触プローブを用いた測定のための座標位置決め機の中のおおよそ同じ位置において、異なるアーティファクトを位置付けるステップを含むことが可能である。
【0012】
方法は、較正アーティファクト上の複数のポイントを測定することによって、第1の幾何学的特性を決定するステップ、および、較正アーティファクトまたはさらなる較正アーティファクト上の複数のポイントを測定することによって、第2の幾何学的特性を決定するステップを含むことが可能であり、幾何学的特性は、複数のポイントに対して曲線をフィットさせることによって決定される。第1の幾何学的特性は、凸形表面上の複数のポイントを測定することによって決定され得、第2の幾何学的特性は、凹形表面上の複数のポイントを測定することによって決定され得る。本明細書で使用されているような「凸形表面」および「凹形表面」は、単一の湾曲した表面に限定されないが、互いに対してある角度で接続されている、場合によっては真っ直ぐな一連の表面を含み、それぞれ、内向きに窪んでいるか、または、外向きに膨らんでいるということが理解されることとなる。
【0013】
凸形表面および凹形表面は、実質的に同じ(2次元の)形状の断面を有することが可能である。凸形表面および凹形表面は、実質的に同じ幾何学的特性を有することが可能である。たとえば、凸形表面は、凹形表面によって画定されるボアの直径と実質的に同じ直径を有する円形または球体を画定することが可能である。円形特徴は、回転ヘッドとともに使用するのにとりわけ適切である可能性があり、回転ヘッドは、回転軸線に対して固定された角度でプローブを用いて、凸形表面および凹形表面を測定することが可能である。実質的に同じ形状および寸法を有する凸形表面および凹形表面の可能性のある利点は、接触プローブを用いて表面を測定する際に座標位置決め機/回転ヘッドによって進められる距離が、両方の表面に関して実質的に同じであることが可能であるということである。したがって、エンコーダー誤差などのような、座標位置決め機/回転ヘッドの中の原因から起こり得る測定の誤差は、2つの測定を比較するときに相殺することが可能であり、座標測定機/回転ヘッドに起因する誤差から、先端部サイズに起因する誤差を切り離すことを可能にする。
【0014】
「実質的に同じ」幾何学的特性、形状、および寸法は、表面の対応する幾何学的特性、形状、および寸法の任意の差が、接触要素の直径程度以下であるということを意味している可能性があるということが理解されることとなる。たとえば、一実施形態では、凸形表面は、凹形表面の直径よりも小さい直径を有することが可能である。これは、座標位置決め機/回転ヘッドが、両方の表面を測定するときに、同じ距離を進むことができるということを確実にすることが可能である。接触要素は、典型的に、38mm未満の、好ましくは、26mm未満の、および、より好ましくは、13mm未満の直径を有することが可能である。接触要素に関する最小直径は、20μmであることが可能である。凸形表面と凹形表面との間の直径の差は、接触要素に関して最大直径と最小直径の中間などのような、異なる接触要素のサイズを収容するための妥協であることが可能である。
【0015】
凸形表面および凹形表面は、それぞれ、閉じられた表面または開いた表面であることが可能である。凸形表面は、アーティファクトの外向きに向いている表面であることが可能であり、かつ/または、凹形表面は、アーティファクトまたは別のアーティファクトの内向きに向いている表面であることが可能である。凸形表面は、球体またはシリンダーの表面であることが可能であり、かつ/または、凹形表面は、リング形状のアーティファクトの中のボアまたはアパーチャーであることが可能である。
【0016】
さらなる実施形態では、第1の幾何学的特性は、互いの方を向く平行な表面の第1の対の間の距離であることが可能であり、第2の幾何学的特性は、互いから離れる方を向く平行な表面の第2の対の間の距離であることが可能である。
【0017】
別の実施形態では、第1の幾何学的特性は、第1の方向を向く平面的な表面上の複数のポイントを測定することによって決定され、第2の幾何学的特性は、第1の方向とは反対の第2の方向を向く平面的な表面上の複数のポイントを測定することによって決定される。平面的な表面は、単一のアーティファクトの表面または平面的な表面が平行となるように一緒に保持された別々のアーティファクトの表面であることが可能である。平面的な表面は、おおよそ同じ平面の中に位置決めされ得る。平面的な表面は、スタガード配置(staggered arrangement)で互いに接触している2つのゲージブロックによって提供され得る。このように、他のブロックに接触しているそれぞれのブロックの側部の表面の一部分は、測定に利用可能である。
【0018】
接触プローブは、座標位置決め機のクイルに取り付けられ得、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性の測定は、座標位置決め機のアームを移動させることによって実施される。
【0019】
接触プローブは、回転ヘッドに取り付けられ得、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性の測定は、軸線の周りの回転ヘッドの回転によって実施される。
【0020】
回転ヘッドは、座標位置決め機のクイルに装着され得る。第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性の1つの測定が、座標位置決め機のアームが適切な位置に固定された状態での回転ヘッドの回転によって実施され得、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性のさらなる測定が、適切な位置に固定された回転ヘッドを有する座標位置決め機のアームを移動させることによって実施され得る。
【0021】
方法は、1または複数の較正アーティファクトの第1の複数の幾何学的特性を測定するステップ、および/または、1または複数の較正アーティファクト、もしくは、さらなる1または複数の較正アーティファクトの第2の複数の幾何学的特性を測定するステップを含むことが可能であり、接触要素の有効直径と、測定値を決定するために使用される推定された直径と、の間の差から結果として生じる、幾何学的特性の測定値と幾何学的特性の予期される値との間のずれは、第1の複数の幾何学的特性に関して、第2の複数の幾何学的特性とは反対符号を有している。第1の複数の幾何学的特性は、同じまたは同様の形状であるが異なる寸法を有する1または複数の較正アーティファクトの第1の表面の幾何学的特性であることが可能である。第2の複数の幾何学的特性は、同じまたは同様の形状であるが異なる寸法を有する1または複数の較正アーティファクトまたはさらなる1または複数の較正アーティファクトの第2の表面の幾何学的特性であることが可能である。これは、接触要素の直径と推定された直径との差を特定することをさらに支援することが可能であり、その理由は、この差に起因する任意の誤差は、サイズとともに増減することとならず、一方、他の要因に起因する測定誤差は、サイズとともに増減するからである。
【0022】
方法は、第1の表面および第2の表面を、これらの表面を持つアーティファクトがおおよそ同じ温度であるときに、測定するステップを含むことが可能である。これは、立て続けに測定を実施することによって実現され得る。このように、アーティファクトのサイズを変化させて誤差を導入し得る温度変化が緩和される。
【0023】
方法は、第1の幾何学的特性および第2の幾何学的特性の測定から接触プローブの有効直径を決定するステップを含むことが可能である。
【0024】
本発明の第2の態様によれば、推定された直径を有する接触要素を有する接触プローブを較正する方法が提供され、方法は、オス型のアーティファクトの表面上の複数のポイント、および、メス型のアーティファクトの中のアパーチャーを画定する表面上の複数のポイントを、接触プローブを用いて測定するステップと、オス型のアーティファクトおよびメス型のアーティファクトのそれぞれに関する測定の比較によって、接触要素の直径と推定された直径との差を特定するステップと、を含む。
【0025】
オス型のアーティファクトの表面は、メス型のアーティファクトによって画定されるアパーチャーよりも大きいか、小さいか、または、同じサイズであることが可能である。本明細書で使用されているような「オス型のアーティファクト」および「メス型のアーティファクト」は、オス型のアーティファクトがメス型のアーティファクトの中にぴったりとフィットする相補的なアーティファクトに限定されないということが理解されることとなる。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、接触プローブの接触要素の直径と推定された直径との差を特定する方法が提供され、その方法は、接触プローブを用いて、第1のアーティファクトの第1の表面上の複数のポイント、および、第1のアーティファクトまたはさらなるアーティファクトの第2の表面上の複数のポイントを測定することから測定データを受け取るステップと、第1の表面および第2の表面に関する測定データを比較し、第1の表面の測定から反転された第2の表面の測定における誤差を特定するステップと、を含む。
【0027】
本発明の第4の態様によれば、その上に記憶されたインストラクションを有するデータキャリアーが提供され、それは、プロセッサーによって実行されるときに、プロセッサーが本発明の第3の態様の方法を実施することを引き起こす。
【0028】
本発明の第5の態様によれば、座標位置決め機が提供され、座標位置決め機は、接触プローブと、接触プローブを移動させるための関節式デバイスと、接触プローブを移動させるように関節式デバイスの移動を制御するための、および、接触プローブからの信号を受け入れるための、1または複数のプロセッサーと、を含み、1または複数のプロセッサーは、関節式デバイスを制御し、かつ、接触プローブからの信号を処理し、本発明の第1の態様または第2の態様にしたがって、接触プローブを較正するように配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態による方法を実施するための座標位置決め機を示す図である。
図2a】座標測定機クイルの移動による、オス型の較正アーティファクトおよびメス型の較正アーティファクトの測定を概略的に示す図である。
図2b】座標測定機クイルの移動による、オス型の較正アーティファクトおよびメス型の較正アーティファクトの測定を概略的に示す図である。
図3a】回転プローブヘッドの移動による、オス型の較正アーティファクトおよびメス型の較正アーティファクトの測定を概略的に示す図である。
図3b】回転プローブヘッドの移動による、オス型の較正アーティファクトおよびメス型の較正アーティファクトの測定を概略的に示す図である。
図4】本発明の別の実施形態によるさらなる較正アーティファクトの測定を概略的に示す図である。
図5】本発明の一層さらなる実施形態による別の較正アーティファクトの測定を概略的に示す図である。
図6】接触プローブの有効直径を図示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1を参照すると、座標測定機(CMM)8は、ベース22を含み、ベース22の上には、アーム12、16、および18が装着されており、アームは、3つの線形方向、X、Y、Zにアーム(クイル)12の端部を移動させるように移動可能である。クイル12に取り付けられているのは、回転プローブヘッド10であり、回転プローブヘッド10に、接触プローブ14が取り付けられている。回転プローブヘッド10は、2つの垂直軸線のまわりで接触プローブ14を回転させるためのものである(円形矢印によって指示されている)。したがって、組み合わせられた座標測定機8および回転プローブヘッド10は、接触プローブ14を5自由度に位置決めすることができる装置を提供する。
【0031】
接触プローブ14は、たわむために装着されているスタイラス26と、スタイラス先端部24とを含み、スタイラス先端部24は、この実施形態では球体である。スタイラス先端部24は、ワークピースの表面に接触するための接触要素であり、プローブ14は、スタイラス24がたわむと信号を発生させる。接触プローブ14は、タッチトリガーまたはスキャニングプローブであることが可能である。
【0032】
CMM8および回転プローブヘッド10は、コントローラーおよび評価ユニット28と通信しており、それは、CMM8および回転プローブヘッド10の移動を制御するための信号を発生させ、かつ、測定データへと処理するために接触プローブ14から信号を受信する。
【0033】
使用時に、スタイラス先端部24の中心の位置は、回転プローブヘッド10およびCMM8の中の位置エンコーダー(図示せず)から決定される。しかし、スタイラス先端部24とワークピースとの実際の接点の正確な位置を決定するために、スタイラス先端部24の直径が考慮に入れられなければならない。したがって、接触の位置を計算する際に使用される推定された直径と、スタイラス先端部24の有効直径との間の任意の差が、測定における不正確さを結果として生じさせることとなる。図6に示されているように、スタイラス先端部24の有効直径28は、その実際の直径でなくてもよい。その理由は、プローブは、表面と接触するとすぐに、スタイラス先端部24と表面2との接触を指示する信号を発生させなくてもよいが、しかし、信号が発生させられ、または、スキャニングプローブに関する誤差を得る前に、タッチトリガープローブに関する「プレトラベル(pre-travel)」の小さい要素が存在し得る(図6において矢印によって指示されている)。接触の後で、信号が発生させられる前に、プローブが小さい距離だけ進むというこの要件は、スタイラス先端部24の直径を、その実際の直径よりも効果的に小さく見えさせる。それは、本明細書で説明されている方法によって決定されるこの「有効」直径の補正である。
【0034】
スタイラス先端部24の有効直径を決定するために、較正ルーチンが実施される。図2a、図2b、図3a、および図3bを参照すると、較正方法は、接触プローブ10を使用して、第1のオス型のアーティファクト100の第1の凸形表面102(この実施形態では、較正球体)上の複数のポイント(点線101、301によって図示されている)を測定することと、第2のメス型のアーティファクト200の第2の凹形表面202(この実施形態では、較正リングゲージ(calibrated ring gauge))上の複数のポイント(点線201、401によって図示されている)を測定することとを含む。ゲージリング100の凹形表面202の直径が、球体100の直径と実質的に同じであるという点において、2つのアーティファクト100および200は、相補的であることが可能である。
【0035】
図2aおよび図2bに示されているように)固定されたプローブヘッド10の回転軸線を有する円形経路105に沿ったCMM8のX、Y、Z軸線の移動によって、または、(図3aおよび図3bに示されているように)固定されたCMM8の線形軸線を有するその軸線に対して固定された角度でプローブ26を備えるその軸線405の1または複数の周りのプローブヘッド10の回転によって、測定が実施され得る。あるいは、測定は、CMM8がプローブ26を移動させ、複数のポイントでアーティファクトの表面にタッチし、測定を行うことを伴う、円形経路の周りの回転ヘッド10の回転などのような、CMM8およびプローブヘッド10の移動の組み合わせを通して実施され得、または、CMM8が、回転ヘッド10がプローブ26を移動させる状態で、円形経路でプローブ26を移動させ、複数のポイントでアーティファクトの表面にタッチし、測定を行う。
【0036】
接触プローブ26、回転ヘッド10、およびCMM8の中のトランスデューサーからの信号は、スタイラス先端部24の中心の場所を決定するために使用され得る。アーティファクト100、200のそれぞれに関して、表面102、202に接触しているときに、円形が、スタイラス先端部24の中心の場所にフィットさせられ、それぞれの円形の直径が決定される。球体100の外部表面102の直径を決定するために、(スタイラス先端部24の中心が、円形の中心から離れる方向に、外部表面102から間隔を置いて配置されるので、)スタイラス先端部24の推定された直径は、表面102に接触しているときにスタイラス先端部24の中心の場所に関して決定される直径から打ち消される。ゲージリング200の内部表面202の直径は、(スタイラス先端部24の中心が、円形の中心に向かう方向に内部表面202から間隔を置いて配置されるので、)ゲージリング200の内部表面202と接触しているときにスタイラス先端部24の中心の場所に関して決定される円形の直径に、スタイラス先端部24の推定された直径を加えることによって決定される。
【0037】
この実施形態では、球体100の外部表面102の測定された直径と、リングゲージ200の内部表面202の測定された直径は、これらの較正アーティファクトに関する既知の(予期される)直径と比較され、また、測定された直径の誤差が比較される。誤差の差は、スタイラス先端部24の有効直径が、測定データを計算するために使用される推定された直径とは異なる可能性があるということを指示している。推定された直径に対する補正は、誤差の差から決定され得る。有効直径を得るために推定された直径に対する補正は、測定された誤差の差の半分に等しいことが可能である。
【0038】
そのような実施形態では、別々のアーティファクトを測定することは必要でない可能性があるが、リングゲージの外部表面および内部表面などのような、同じアーティファクト上の異なる表面も使用され得る。
【0039】
典型的に、スタイラス先端部の推定された直径は、直径を較正する最初の推測であることとなる。
【0040】
ここで図4を参照すると、代替的実施形態では、表面302および402が、2つのゲージブロック300および400上で測定されている。ゲージブロック300、400は、表面302、402の部分的な領域が接触するように係合されており、表面302、402が平行であり、実質的に同じ平面内に存在し、反対側方向を向いているということを確実にしている。複数のポイントが、CMMタッチおよび/または回転ヘッドタッチのいずれかを通して、それぞれの表面302、402上で測定される。相対する表面302、402の相対的な場所が決定される。
【0041】
相対的な場所のゼロでない差は、スタイラス先端部24の有効直径が、測定データを計算するために使用される推定された直径とは異なっているということを指示している。推定された直径に対する補正は、測定された場所の差の符号から決定され得る。たとえば、表面402が、(図4に図示されているように)表面302の左に間隔を置いて配置されているとみなされる場合には、これは、有効直径が推定された直径よりも小さいからであり、一方、表面402が表面302の右にあるように測定される場合には、これは、有効直径が推定された直径よりも大きいからである。有効直径を得るために推定された直径に対する補正は、測定された場所の差に等しいことが可能である。
【0042】
図5を参照すると、3つのゲージブロック300、400、および500が、一緒に係合されており、ゲージブロック400は、ゲージブロック300および500からオフセットされている。これは、2対の平行な面/表面302、502および402a、402bを提供しており、一方の対302、502は、互いに向き合っており、他方の対402a、402bは、互いから離れるように向いている。表面同士の間の距離、D1、D2は、同じであるべきである。
【0043】
少なくとも1つのポイントが、CMMタッチおよび/または回転ヘッドタッチのいずれかを通して、それぞれの表面302、402、402a、402b上で測定される。表面302と表面502との間および表面402aと表面402bとの間の距離、D1およびD2が、それぞれ決定される。表面302、502に関して、スタイラス先端部24がこれらの表面に接触しているときに、スタイラス先端部24の中心は、その対の他方の表面502、302に向かって距離Rだけ変位させられている。したがって、表面302、502の間の距離を決定するために、スタイラス先端部24の推定された直径が、表面302、502に接触しているときのスタイラス先端部24の中心の場所同士の間の距離に加えられる。スタイラス先端部24が表面402a、402bに接触しているときには、スタイラス先端部24の中心は、他方の表面402b、402aから離れるように距離Rだけ変位させられている。したがって、表面402a、402bの間の距離を決定するために、スタイラス先端部24の推定された直径が、その対の表面402a、402bに接触しているときのスタイラス先端部24の中心の場所同士の間の距離から減じられる。
【0044】
表面302、502、402a、402bの対の測定された距離が、既知の距離と比較される。測定される直径と既知の値との誤差が比較される。誤差の差は、スタイラス先端部24の有効直径が、測定データを計算するために使用される推定された直径とは異なっているということを指示している。直径に対する補正は、測定される誤差の差から決定され得る。有効直径を得るために推定された直径に対する補正は、誤差の差の半分に等しいことが可能である。
【0045】
本明細書で説明されているような本発明に対して、修正例および代替例が作製され得るということが理解されることとなる。たとえば、オス型およびメス型のアーティファクトは、相補的でなくてもよく、たとえば、ゲージリングの凹形表面の直径は、球体の直径とはかなり異なっていてもよい。凹形表面および凸形表面のサイズがかなり異なっているシナリオでは、表面が、異なるアーティファクトの表面であるということは必要ないことが可能である。
【0046】
この方法は、特許文献4および特許文献5に説明されているような非線形の座標位置決め機とともに実施され得る。方法は、回転プローブヘッド10なしに実施され得、接触プローブ14は、座標測定機8のクイル12に対して固定されている。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5
図6