【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は独立請求項において規定される。本発明の好ましい実施形態及び変更形態は、それぞれの従属請求項において記載される。
【0013】
本発明は、固く脆い材料の分離プロセスを向上することを可能にする。
【0014】
1)マルチフィラメント形成:従来技術とは対照的に、単一のテーパー状フィラメント形状部(filament formation)を生成するだけでなく、一連の複数の連続したフィラメント形状部を生成することによって、ワークを分割することによる分離の準備が達成される。これらのフィラメント形状部のそれぞれは、比較的狭く、ワークを貫通する単一のフィラメント形状部を用いた分離プロセスと比較して、フィラメント形状部の方向に対して横断方向に非常に少ない数の微小亀裂をもたらす。各単一のフィラメント形状部(=フィラメント+微小亀裂)のあまり顕著でないテーパーに起因して、ワークが分離された場合、破断縁のより高い縁強度と組み合わせて、加工溝の全体のより良好な幾何学的正確性が達成される。
【0015】
個別のフィラメント形状部がピコ秒〜フェムト秒のパルス列によって生成され、このパルス列は、時間で分割及びオフセットされ、レーザービームの出射側から開始してワークに導入される。同じレーザー出力において、切削速度が対応して削減された状態で、マルチパルスシーケンスによってより大きい切削深さを実現することができる。
【0016】
2)プラズマの空間幾何形状は、特殊な光学系によって影響を与えることができる。レーザー放射ビームは、細長い断面形状、例えば、ランセット形、楕円形、又は滴形の断面を有して生成される。このようにして、プラズマ爆発によって生じる制御可能な好ましい方向の損傷/亀裂が得られる。
【0017】
意図された破断線が湾曲するか又は方向を変える場合、レーザー放射ビームは、断面形状の方向位置合わせに関して制御されるべきである。それにより、断面形状の長手方向延長部がワークの意図された分離線に沿う。
【0018】
3)保護雰囲気下でのフィラメント形状部の生成は、主として装置構成の一態様であり、この製造装置は、加工されるワークを取り巻く雰囲気を既定の方法で調整することができるようになっている。
【0019】
雰囲気を選択的に調整することによって、ワークの自発的な破断を阻止又は防止することが可能になる。
【0020】
本発明はまた、収束したレーザー放射によって基板を分離する方法に関する。本方法は、
基板を保護ガス雰囲気にさらすステップと、
レーザー放射の波長域において透明である基板に超短パルスレーザー放射を向けるステップと、
レーザー照射により既定の基板体積の深さにおけるフィラメント状の材料改質部を生成するステップと、
材料改質部によって規定される分離線に沿って基板を破断するステップと、
を含む。
【0021】
透明材料における超短パルスレーザー放射によって引き起こされ得る2つの非線形光学効果が存在する。2つの非線形光学効果のうち、一方は光学カー効果であり、他方は、プラズマバブルにおけるレーザービームの発散である。このような効果は既知であり、したがって簡潔に概説だけする。
【0022】
カー効果は、印加又は発生する電界の強度に応じる透明材料(レーザー放射の波長域において透明である)の光学特性の変化を指す。レーザー放射は、レーザー放射の光強度に応じる強度を有する透明材料内の電界を伴う。この電界によって、屈折率の増加を含む、照射された材料の光学特性の変化が生じる。これは更に、レーザー放射の自己収束につながる。
【0023】
自己収束及び結果として起こる照射された断面積の減少に起因して、単位面積あたりの出力密度及びひいては放射強度が強力に増加し、非常に高い値に達することができる。結果として、電界は更に増強され、多光子イオン化につながる。イオン化は、分子又は原子における電荷分離、及び収束点におけるプラズマ形成を意味する。いずれにせよ、収束点において基板の材料に損傷がもたらされ、その損傷は材料改質部と以下で称され、それ自体はプラズマバブルとして現れる。
【0024】
局所的に生成されるプラズマバブルの領域において、レーザービームの発散が起こり、再びレーザービームの次の収束がそれに続く。このようにして、一連の珠(pearl string)のようなものを基板の材料に生成することができる。これは一連の連続的に整列した複数の収束領域及び発散領域からなり、フィラメントと称される。
【0025】
収束及び発散によって、レーザービームは基板の材料に伝播するようにもたらすことができ、それにより、材料は深さ方向に一種の穿孔を受ける。この効果は、ガラス等の透明材料の加工から知られており、例えば、基板をレーザー放射に対して動かすことにより、意図された破断線又は分離線として基板に一種のミシン目線を生成するのに用いられる。
【0026】
より高いレーザー出力の場合、それに応じてより深い穿孔を達成することができ、それにより穿孔の領域における分離が容易になる。
【0027】
しかし、より深い穿孔を施すことは、予め応力を受けているガラス、つまり、開始状態で既に増大した固有応力を呈する材料に関して問題を提示する。特に特許文献1に記載されているように、高まった固有応力により、穿孔された領域において亀裂の自発的な形成及び伝播につながる場合がある。特に比較的高いレーザー出力の場合、加工中に既に基板の破断が起こり得る。したがって、分離プロセスを確実に管理及び制御することができないため、産業用途はかなり困難になる。
【0028】
基板のレーザー照射中にワークを特殊な雰囲気にさらすと、自発的な亀裂を低減又は更には完全に防止することができることがわかっている。例えば、レーザー照射中、ヒドロキシル(OH)イオンが少ないか又は更にはOHイオンのない保護ガス雰囲気が優勢な場合、亀裂が著しく低減又は遅延する。
【0029】
レーザー照射中、窒素雰囲気を与えることにより、穿孔の領域に自発的な破断亀裂が生じるまでの時間が十分に延長される。
【0030】
このようにして、基板が破断するように自発的な破断亀裂が基板に生じる前に、基板のレーザー照射のプロセスを終了することが可能になる。それに応じて、超短パルスレーザー放射による照射中、基板は、OHイオンが少ないか又はOHイオンのない雰囲気にさらされる。例えば、レーザー照射中に基板を収容する適度にガス密のチャンバーをこの目的で用いることができる。
【0031】
0.2vol%未満、好ましくは0.1vol%未満の水分を含む保護ガス雰囲気によって特に良好な実績(experiences)が得られた。
【0032】
したがって、レーザー照射により、既定の基板体積の穿孔と同様の深さにおいてフィラメント状の材料改質部を生成することが可能になる。既定の基板体積は、既定の分離領域を指し、この分離領域に沿って穿孔が生成され、したがって基板の表面に後の分離領域又は分離線を画定する。
【0033】
このようにして分離線に沿って基板の深さ方向に穿孔することを可能にするために、基板又はレーザービームは互いに対して動かすことができることが特に有利である。通常、基板は、例えば、レーザー放射に対して一定の距離を有して基板の二次元移動を可能にするX−Y軸調整アセンブリによって動かすことができる。さらに、この構成は、基板とレーザービームとの間の距離の調整を可能にするために、可動なZ軸構成と組み合わせることができる。
【0034】
基板材料は、少なくともレーザー放射の波長域において光学的に透明である。この場合、この波長域における光透過率は、少なくとも80%/cm、好ましくは少なくとも85%/cm、及び最も好ましくは少なくとも90%/cmである。したがって、レーザー放射は材料を貫通することができる。
【0035】
基板は、ガラス、サファイア、ダイアモンドを含む群から選択される材料を含むことができる。驚くことに、本発明に係るレーザー照射は、例えばディスプレイ用途で知られている強化ガラス、及びまた板ガラスにも用いることができる。更に驚くことに、ガラスセラミック材料も加工することができる。
【0036】
経路に沿って基板に生成される深さ方向の穿孔は、基板の分離が起こることを意図されている分離線に沿って延びる。分離線は直線とすることができるが、真っ直ぐでなくても曲線であってもよい。例えば、分離線は、ドリル穴と同様に材料の分離を可能にするように非常に小さい半径を有することができる。
【0037】
穿孔は、基板の表面から深さ方向に垂直に延びることができる。しかし、同様に、表面に対して或る特定の角度で穿孔を生成し、例えば、基板に斜めの分離縁を生成することができる。この場合、レーザービームは垂直ではなく、代わりに基板の表面に対して既定の角度に向けられる。
【0038】
その後、穿孔された分離線に沿って材料の分離が達成される。この目的で、穿孔によって生じ、材料の損傷に相当する材料改質部が、分離縁の特定の表面品質と分離される基板の強度とを伴う分離を可能にするために、特定の程度に達することが必要である。
【0039】
分離線における分離は、穿孔が基板の材料の厚さの少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、及び最も好ましくは少なくとも55%に相当する深さに延びる場合に良好に行われることがわかっている。この場合、フィラメントは互いに対して約200μm〜800μmの間隔を有するべきである。フィラメントは約15μm〜250μmの断面を有することができる。
【0040】
このようにして、基板材料の十分広範囲にわたる予めの損傷を分離線に沿って達成することができ、それにより良好な分離能力が得られる。分離線に沿って材料を分離する場合、そのように生成された分離縁の驚くほど良好な品質を伴う分離縁が形成される。
【0041】
穿孔の領域において、分離縁は通常、隣接する平行なフィラメントのパターンを示し、分離縁の下にある領域ではそうではなく貝殻状の断裂パターンを示す。分離縁に得られる粗さ値はRa<100μmの範囲である。
【0042】
生成された分離縁は高レベルの縁強度を更に示す。これは4点曲げ試験によって求められる。達成される平均強度値は、強化ガラスの場合、少なくとも120MPaである。
【0043】
レーザー源は、基板が透明である波長域に応じて選択される。放出される放射の波長域は、基板の透過域内にある。
【0044】
レーザービームは、十分に高い強度を達成するために、ガウス強度分布を伴って空間的に収束することができる。第1の焦点は、基板、つまり基板体積内に位置する。レーザーパルスが基板体積においてこの点に当たる場合、プラズマを生成することができ、したがってその場所に材料改質部を生じることができる。その後の発散効果及び更なる収束効果によって、複数の収束点を含むフィラメント状の穿孔を基板体積において生成することができる。
【0045】
例えば、透明ガラスにおける収束点は略球対称形状であることが多い。しかし、特殊な光学系によって、強化ガラスに非球状の空間形状の収束点を生成することが可能になる。例えば、楕円形、ランセット形、又は滴形の収束点が生成される。収束点のそのような形状は、亀裂の良好な伝播に起因して、特に1つの収束点から次の収束点へと亀裂の形成を促進し、したがってまた、達成することができる分離縁の品質を向上する。
【0046】
本発明に係る好適なレーザー源は、10kHz〜120kHz、好ましくは30kHz〜110kHz、及び最も好ましくは35kHz〜105kHzの反復周波数(repetition rate)で動作する。
【0047】
レーザーパルスの適切なパルス幅は、100ピコ秒を下回る、好ましくは10ピコ秒未満、及び最も好ましくは1ピコ秒未満の範囲である。レーザー源は約7ワット〜12ワットの範囲の電力で動作することが特に好都合である。
【0048】
このようなレーザー放射によって、強化ガラスの深さ方向に穿孔された分離線の生成にとって非常に良好な結果が得られる。
【0049】
レーザー出力の増大により、特に強化ガラスにおいて自発的な亀裂の形成がより起こりやすくなることにつながり得る。一方、非強化ガラスでは、より密集した穿孔を達成することが可能であり、それにより更に分離能力が向上する。
【0050】
本発明は更に、収束したレーザー放射によって、基板、特に強化ガラス又はガラスセラミックを分離する装置に関する。本装置は、
基板を収容するガス密チャンバーと、
超短パルスレーザー光源と、
基板及び/又はレーザー光源を互いに対して移動させる手段と、
を備え、それとともに、
基板は保護ガス雰囲気にさらされ、
レーザー放射の波長域において透明である基板に超短パルスレーザー放射が向けられ、
レーザー照射により、フィラメント状の材料改質部が既定の体積において生成され、基板の深さ方向に延び、
材料改質部によって規定される分離線に沿って分離が達成される。
【0051】
本発明は更に、少なくとも一面が本発明に係る方法によって加工されている、強化ガラス又はガラスセラミックの物品に関する。
【0052】
収束したレーザー放射によって基板、特に強化ガラス又はガラスセラミックを分離する方法の一変更形態において、基板は第2の雰囲気にさらされ、その後、後の分離線に沿って基板に穿孔する。この第2の雰囲気は、ヒドロキシル(OH)イオンを含む保護ガス雰囲気(したがって第1の雰囲気を表す)とは異なる。第2の雰囲気は、第1の雰囲気よりも多い量のOHイオンを含む。
【0053】
OHイオンの量の増大により、穿孔された分離線に沿ったワークの分離又は分割を促進することができることがわかっている。湿り蒸気等のOHイオンが豊富な雰囲気にさらすことにより、亀裂の形成を促進し、ひいては制御することができる。このようにして、材料の分離を達成する分割のプロセスステップに選択的に影響を与えることができ、それにより産業への容易な適用性がもたらされる。特に、自発的な破断亀裂が生じることを防止することが可能になる。
【0054】
少なくとも1.4vol%、好ましくは少なくとも2vol%のOHイオン量を有する第2の雰囲気によって特に良好な実績が得られた。
【0055】
したがって、基板を収容するチャンバーはガス密とすることができ、それにより、OHイオンが少ない第1の雰囲気が容易に確立されることが特に有利である。さらに、このチャンバーは、基板をOHイオンが豊富な雰囲気にさらすようにも構成することができることが特に有利である。しかし、この装置は2つの別個のチャンバーを備えることが同様に可能であり、2つの別個のチャンバーはそれに応じて第1の雰囲気又は第2の雰囲気を与えるようになっている。
【0056】
本発明の更なる詳細は、図示の例示的な実施形態及び添付の特許請求の範囲の記載から明らかとなる。
【0057】
以下、本発明の例示的な実施形態を図面を参照して記載する。