【文献】
HOSOYA, T. et al.,Bioorganic and Medicinal Chemistry,2003年,Vol. 11,pp. 663-673
【文献】
BETTIOL, E. et al.,PLoS Neglected Tropical Diseases,2009年,Vol. 3, No. 2,pp. 1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記神経学的障害又は神経変性障害が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭認知症、ピック病、慢性外傷性脳障害、外傷性脳損傷、脳卒中、小脳性運動失調、多発性硬化症、ダウン症候群、又は加齢関連CNS障害である、請求項5に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0032】
当業者であれば、図中の要素は、簡潔性及び明瞭性のために例示されており、必ずしも正しい縮尺で示されている訳ではないことを認識するであろう。例えば、図中の要素の幾つかの寸法は、本発明の実施形態の理解向上を支援するために、他の要素と比べて誇張されている場合がある。
【0033】
本明細書に引用されている刊行物、特許、及び特許出願は全て、あらゆる目的のために、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
本発明を詳細に記載する前に、多数の用語を定義することとする。本明細書で使用される場合、「1つの」、「その」、及び「前記」は、状況が明白にそうではないと示さない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「(1つの)タンパク質」への言及は、1つ又は複数のタンパク質を意味する。
【0034】
なお、本明細書では、用語「好ましくは」、「一般的に」、及び「典型的に」は、請求されている発明の範囲を制限するために使用されているのではなく、また、ある特徴が、請求されている発明の構造又は機能にとって、決定的に重要であること、不可欠であること、又は重要であることをさえ示唆するためにも使用されているのではない。むしろ、これらの用語は、本発明の特定の実施形態に使用することができるか又は使用することができない代替的又は追加の特徴を強調することが意図されているに過ぎない。
【0035】
本発明を説明及び規定する目的では、用語「実質的に」は、本明細書では、任意の量的比較、値、測定値、又は他の表現に帰することができる固有の不確実性を表すために使用されることに留意されたい。用語「実質的に」は、本明細書では、量的表現が、当該主題の基本機能に変化をもたらさずに、記載された基準から変動することができる程度を表すためにも使用される。
【0036】
商標が使用される場合、その商標の製品製剤、その商標の製品のジェネリック医薬品及び活性医薬成分を独立して含むことが意図される。
本明細書で使用される用語には、示された置換基とその親部分との間の結合の結合次数を示すための単一ダッシュ「−」又は2重ダッシュ「=」が先行又は後続する場合があり、単一ダッシュは単結合を示し、2重ダッシュは二重結合を示す。
【0038】
は、単結合又は二重結合を意味する。単一ダッシュ又は二重ダッシュがない場合、置換基とその親部分との間には単結合が形成されていると理解される。更に、置換基は、ダッシュが別様に指示しない限り、「左から右に」読むことが意図されている。例えば、C
1〜C
6アルコキシカルボニルオキシ及び−OC(O)C
1〜C
6アルキルは、同じ官能基を示し、同様に、アリールアルキル及び−アルキルアリールは、同じ官能基を示す。
【0039】
化学構造が図示又は記述される場合、明示的に別様に指定されていない限り、炭素は全て、4原子価を満たす水素置換を有すると仮定される。例えば、下記の模式図の左側の構造には、右側の構造に図示されているように、9つの水素が暗示的に存在する。場合によっては、構造中の特定の原子は、置換として1つ又は複数の水素を有するもの(明示的に水素と規定されている)ものとして、文字式で例えば−CH
2CH
2−のように記載される。前述の記述法は説明を簡潔かつ平易にするために化学分野で一般的であり、そうしなければ構造を複雑にしてしまうことが、当業者には理解される。
【0041】
用語「アルコキシ」は、本明細書で使用される場合、酸素原子を介して親分子部分に結合されている、本明細書の定義によるアルキル基を意味する。アルコキシの代表的な例には、限定されるものではないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、2−プロポキシ、ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、及びヘキシルオキシが含まれる。
【0042】
用語「アルキル」は、本明細書で使用される場合、別様の指示がない限り、1〜20個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖炭化水素を意味する。アルキルの代表的な例には、限定されるものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソ−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、3−メチルヘキシル、2,2−ジメチルペンチル、2,3−ジメチルペンチル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、及びn−デシルが含まれる。用語「アルキレン」は、二価のアルキル基を指し、アルキルは、本明細書で定義されている通りである。
【0043】
用語「アリール」は、本明細書で使用される場合、フェニル(つまり、単環式アリール)、又は少なくとも1つのフェニル環を含む二環式環系、又は芳香族二環式環系に炭素原子のみを含む芳香族二環式環、又は少なくとも1つのフェニル環を含む多環式環系を意味する。二環式アリールは、単環式シクロアルキル、単環式シクロアルケニル、又は単環式ヘテロシクリルに融合したアズレニル、ナフチル、又はフェニルであってもよい。二環式アリールは、二環系のフェニル部分内に含まれる任意の炭素原子、又はナプチル環若しくはアズレニル環の任意の炭素原子を介して親分子部分に結合されている。
【0044】
用語「シアノ」及び「ニトリル」は、本明細書で使用される場合、−CN基を意味する。
用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、本明細書で使用される場合、−Cl、−Br、−I、又は−Fを意味する。
【0045】
用語「ハロアルキル」及び「ハロアルコキシ」は、場合に応じて1つ又は複数のハロゲン原子で置換されているアルキル又はアルコキシ基を指す。
用語「へテロアリール」は、本明細書で使用される場合、単環式へテロアリール系か、又は少なくとも1つのヘテロ芳香族環を含む二環式環系を意味する。単環式へテロアリールは、5員環又は6員環であってもよい。5員環は、2つの二重結合、及び1、2、3、又は4つの窒素原子、及び任意選択で1つの酸素原子又は硫黄原子から構成される。6員環は、3つの二重結合、及び1、2、3、又は4つの窒素原子から構成される。5員又は6員へテロアリールは、へテロアリール内に含まれている任意の炭素原子又は任意の窒素原子を介して親分子部分に結合されている。二環式へテロアリールは、フェニル、単環式シクロアルキル、単環式シクロアルケニル、単環式ヘテロシクリル、又は単環式へテロアリールに融合した単環式へテロアリールから構成される。二環式へテロアリールは、いずれの環式部分を介して結合されていてもよい(例えば、へテロアリール又はフェニルのいずれを介してでもよい)。へテロアリールの代表的な例には、限定されるものではないが、以下のものが含まれる:フリル、イミダゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、オキサジアゾリル、オキサゾリル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピラゾリル、ピロリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、トリアゾリル、トリアジニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾオキサジアゾリル、ベンゾオキサチアジアゾリル、ベンゾチアゾリル、シンノリニル、5,6−ジヒドロキノリン−2−イル、5,6−ジヒドロイソキノリン−1−イル、フロピリジニル、インダゾリル、インドリル、イソキノリニル、ナフチリジニル、キノリニル、又はプリニル。
【0046】
用語「ヘテロシクリル」は、本明細書で使用される場合、単環式ヘテロ環又は二環式ヘテロ環を意味する。単環式ヘテロ環は、O、N、及びSからなる群から独立して選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む3員、4員、5員、6員、又は7員環であって、これらの環は飽和又は不飽和であるが、芳香族ではない。3員環又は4員環は、O、N、及びSからなる群から選択される1つのヘテロ原子を含む。5員環は、0又は1つの二重結合、並びにO、N、及びSからなる群から選択される1、2、又は3つのヘテロ原子を含んでいてもよい。6員環又は7員環は、0、1、又は2つの二重結合、並びにO、N、及びSからなる群から選択される1、2、又は3つのヘテロ原子を含む。二環式ヘテロ環は、フェニル、単環式シクロアルキル、単環式シクロアルケニル、単環式ヘテロ環、又は単環式へテロアリールのいずれかに融合した単環式ヘテロ環である。二環式ヘテロ環は、いずれの環式部分を介して結合されていてもよい(例えば、ヘテロ環又はフェニルのいずれを介してでもよい)。ヘテロ環の代表的な例には、限定されるものではないが、以下のものが含まれる:アジリジニル、ジアゼパニル、1,3−ジオキサニル、1,3−ジオキソラニル、1,3−ジチオラニル、1,3−ジチアニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、イソチアゾリニル、イソチアゾリジニル、イソオキサゾリニル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、オキサジアゾリニル、オキサジアゾリジニル、オキサゾリニル、オキサゾリジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピラニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、ピロリニル、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、チアジアゾリニル、チアジアゾリジニル、チアゾリニル、チアゾリジニル、チオモルホリニル、1,1−ジオキシドチオモルホリニル(チオモルホリンスルホン)、チオピラニル、トリチアニル、2,3−ジヒドロベンゾフラン−2−イル、及びインドリニル。
【0047】
語句「1つ又は複数の」置換基は、本明細書で使用される場合、上記の安定性及び化学的実現可能性の条件を満たす限り、1から、利用可能な結合部位の数に基づいて可能である置換基の最大数に等しい幾つかの置換基を指す。別様の指定がない限り、置換されていてもよい基は、基の各置換可能な位置で置換基を有してもよく、置換基は同じであっても異なっていてもよい。用語「独立して選択される」は、本明細書で使用される場合、単一化合物において所与の変数が複数ある場合、同じ値が選択されてもよく、異なる値が選択されてもよいことを意味する。
【0048】
「任意の」又は「任意選択で」は、その次に記載されている事象又は状況が生じても生じなくてもよいことを意味し、その記載は、前述の事象又は状況が生じた場合及び生じない場合を含むことを意味する。当業者であれば、1つ又は複数の任意の置換基を含むと記載されている任意の分子に関して、立体的に現実的な及び/又は合成的に実現可能な化合物のみが含まれることが意図されていると理解するであろう。「置換されていてもよい」は、別様に指定されていない限り、その用語に係る全ての修飾語句を指す。
【0049】
用語「置換されている」は、本明細書で使用される場合、指定部分の水素ラジカルが、特定の置換基のラジカルで置換されているが、その置換は、安定的な又は化学的に実現可能な化合物をもたらすことを意味する。用語「置換可能な」は、指定の原子に関して使用される場合、その原子に結合されているものが水素ラジカルであり、それを、好適な置換基のラジカルで置換することができることを意味する。
【0050】
本明細書には、ニューロンカルシウムホメオスタシス不全を正常化すること、RyRチャネルを安定化すること、及び/又は異常ニューロン小胞体(ER)カルシウムシグナル伝達等の異常ニューロンカルシウムシグナル伝達を正常化することが可能な化合物が開示されている。幾つかの実施形態では、本開示は、アルツハイマー病等のニューロン障害又は神経変性障害を治療するための、これらの化合物を含む方法及び組成物を提供する。
【0051】
用語「正常化する」は、本明細書で使用される場合、異常な又は通常ではない生物学的量を、健康なニューロンに典型的なレベル等の正常な又は典型的なレベルに戻すことを指す。或いは、「正常化する」は、調節不全又はホメオスタシス不全の状態を、健康な、典型的な、又は通常の機能性ニューロン等の、調節された状態又はホメオスタシス状態に戻すことを指す。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「カルシウムホメオスタシス不全」は、例えば、RyRチャネル等のカルシウムチャネルの透過性が変化することにより、細胞、例えばニューロンの細胞内カルシウムが調節不全になることを指す。
【0053】
カルシウムイオン(Ca
2+)は、シナプス活性及び脱分極状態を、ニューロンの生化学系に伝達するのを支援する主な化学伝達物質である。したがって、Ca
2+レベルを調節すること、つまり「カルシウムホメオスタシス」を維持することは、ニューロンの重要なプロセスであり、それは、広範で複雑なCa
2+シグナル伝達経路に依存する。用語「カルシウムシグナル伝達」は、本明細書で使用される場合、ニューロン内に生じるCa
2+シグナル伝達の全てを指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「安定化する」は、RyRチャネル等のイオンチャネルに関して使用される場合、チャネルを通るイオンの流れ又はイオン流量を調節すること、例えば、異常に高いイオン流量を低下させること、又は異常に低いイオン流量を増加させることを指す。本明細書で開示された方法及び組成物の幾つかの実施形態では、RyRチャネル安定化化合物でRyRチャネルを安定化することにより、チャネルを通るCa
2+流量が減少し、ニューロンのカルシウムホメオスタシス不全又は調節不全が正常化され、カルシウムホメオスタシスが回復する。
【0055】
本明細書に開示される組成物及び方法に特に関連するのは、リアノジン受容体により媒介されるER−Ca
2+放出増加である。リアノジン受容体(RyR)は、筋肉及びニューロンのような種々の形態の興奮性動物組織の小胞体(ER)に局在する細胞内カルシウムチャネルの一種である。RyRは、Ca
2+誘導性Ca
2+放出(Ca
2+−induced Ca
2+ release:CICR)と呼ばれる再生プロセスにおいて、Ca
2+自体により活性化される。
【0056】
アルツハイマー病(AD)モデルでは、CICRを誘導する閾値が著しく低下し、シナプス刺激又はN−メチル−D−アスパルテート受容体(NMDAR)活性化が引き金となる通常は無害のCa
2+進入が、この場合は異常なCICR応答の引き金となり得る。放出されるRyR−Ca
2+の量が異常に高いだけではなく、それが生じる細胞区画も異常であり、かなり過剰なRyR誘発Ca
2+放出が、遠位樹状突起及び棘頭部等のシナプス区画に生じるが、通常、NonTgニューロンのこれらの領域では、RyR−Ca
2+放出のレベルは低いことが観察される(
図1を参照)。シナプスカルシウムホメオスタシス不全は、シナプス伝達及び可塑性符号化を妨害し、樹状突起棘喪失を引き起こす場合がある。
【0057】
ニューロンカルシウムホメオスタシス不全はADの中心的要素である可能性が高く、これは初期病因を引き起こし、孤発性ADのアミロイド病理を保持する。更に、ADモデルで観察されるシナプスカルシウムシグナルの調節不全は、シナプス機能不全及び構造的損傷と密接に関連している。RyRは、アミロイド沈着の加速に直接的に関与し(Querfurthら、1997年、Journal of Neurochemistry 69巻:1580〜1591頁)、ヒト脳研究では、RyRの上昇が、MCI及びAD患者で観察され、それは、認知力低下及びシナプス病理に関連する(Kelliherら、1999年、Neuroscience 92巻:499〜513頁;Galeottiら、2008年、Learning&Memory 15巻:315〜323頁)。また、RyR2アイソフォーム発現の増加が、ヒトMCI患者及び幾つかのADマウスモデルで観察されており(Chakrobortyら、2009年、J.Neurosci.29巻(30号):9458〜70頁;Goussakovら、2010年、J Neurosci 30巻:12128〜12137頁;Brunoら、2012年、Neurobiology of Aging 33巻:1001.e1001〜1001.e106.;Antonellら、2013年、Neurobiology of Aging 34巻:1772〜1778頁)、他の研究では、病気の後期でのRyR3上方制御が、Aβ
1−42凝集と一致することが見出されている(Supnetら、2006年、Journal of Biological Chemistry 281巻:38440〜38447頁)。
【0058】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示される方法及び組成物は、従来の薬理学的アンタゴニストのような非選択的阻害活性ではなく、RyRチャネルをアロステリック的に調節する化合物を含む。このようにして、本開示の化合物は、異常なCa
2+シグナルを正常化し、機能的Ca
2+シグナルの完全性を保ちつつ、カルシウムホメオスタシス不全により引き起こされる病因を停止又は予防する。
【0059】
リアノジン受容体には、多数のアイソフォームが存在する。リアノジン受容体アイソフォーム1(RyR1)は、主に骨格筋で発現される。リアノジン受容体アイソフォーム2(RyR2)は、主に心筋(心臓筋肉)で発現されるが、下記で考察するように海馬でも高度に発現される。リアノジン受容体アイソフォーム3(RyR3)は、より広範に発現されるが、特に脳で発現される。
【0060】
本明細書に開示される方法及び組成物が特に標的とする対象物は、RyR2アイソフォームであり、これは、海馬で高度に発現され、記憶符号化に関与し、ADマウスモデル及びヒトMCI患者では初期に上方制御される。しかしながら、RyR2は、主要な心臓アイソフォームであり、このチャネルの全身性「阻害」は、望ましくない非特異的影響を生じさせる可能性がある。したがって、幾つかの実施形態では、本開示は、他のアイソフォームと比較して、RyR2アイソフォームに対する親和性がより高い化合物を供給する。
【0061】
幾つかの実施形態では、本開示のRyR2安定化化合物は、アミロイド沈着、過剰リン酸化タウを低減し、MCIからADへの転換を低減すると共に、初期段階及び中期段階のAD患者の認知力低下速度を低減させる。これらの効果は、AD発症中等で見られる長期カルシウム調節異常の条件下で損なわれるシナプス構造及びシナプス可塑性の保存によるものと考えられる。
【0062】
本開示の化合物は、RyRチャネルリン酸化及び酸化部位をアロステリック調節することによりRyRチャネル放出特性を安定化するように設計されており、チャネル活性を阻害又は低減する古典的アンタゴニストとして機能しないため、心臓機能には顕著な副作用を及ぼさない可能性が高い(心筋細胞はRyR2を発現する)。むしろ、本明細書に開示された化合物は、RyRチャネルから放出されるカルシウムを無差別にブロックせず、正常な生理機能が維持される。
【0063】
幾つかの実施形態では、本開示のRyR安定化化合物を含む医薬組成物は、経口で利用可能であり、毎日摂取される。幾つかの実施形態では、本明細書に開示される化合物及び組成物は、皮下投与され、幾つかの実施形態では、1日おきに投与される。幾つかの実施形態では、化合物の効果は、数週間〜数か月持続する。カルシウムホメオスタシス不全が既に存在する病状の下流にある場合等の他の実施形態では、化合物の効果が持続する期間は、より短期間である。しかし、RyRカルシウム調節異常がフィードフォワード経路の主要な促進要因である場合等の他の実施形態では、本明細書に開示される組成物及び化合物は、長期的な治療効果を示す。
【0064】
当業者であれば理解するであろうが、本明細書に開示される化合物はいずれも、例えば、本組成物及び方法の所望の最終性質に応じて、誘導体又はプロドラッグとして提供することができる。例えば、RyRチャネル安定剤は、使用条件下で代謝又は他の方式で変換されてRyRチャネル安定剤を産出する、好適なプロドラッグ基で修飾されていてもよい。本開示の組成物及び方法に使用されるRyRチャネル安定剤の誘導体は、当業者にとって日常的な試み及び実験作業を使用する技術範囲内にある。
【0065】
用語「医薬製剤」は、活性成分の生物活性が有効であることを可能にするような形態であり、製剤を投与しようとする対象にとって許容できないほど毒性である更なる成分を含有していない調合物を指す。
【0066】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示される組成物及び方法の活性成分は、薬学的に許容される塩として製剤化される。本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される塩」は、酸付加塩及び塩基付加塩を含む。
【0067】
「薬学的に許容される酸付加塩」は、遊離塩基の生物学的有効性を保持し、生物学的に又は別様に望ましくないものではなく、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、及びリン酸等の無機酸、並びに酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、及びサリチル酸等の有機酸と共に形成される塩を指す。
【0068】
「薬学的に許容される塩基付加塩」には、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、マンガン塩、及びアルミニウム塩等の無機塩基に由来するものが含まれる。例示的な塩は、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩である。薬学的に許容される有機無毒性塩基に由来する塩には、限定されるものではないが、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N−エチルピペリジン、及びポリアミン樹脂等の、一級、二級、及び三級アミン、天然置換アミンを含む置換アミン、環式アミン、並びに塩基性イオン交換樹脂の塩が含まれる。例示的な有機塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン、及びカフェインである。(例えば、S.M.Bergeら、「Pharmaceutical Salts」、J.Pharm.Sci.、1977年;66巻:1〜19頁を参照。この文献は、参照により本明細書に組み込まれる。)
1つの態様では、本開示は、式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0070】
式中、Arは、アリール又はへテロアリールであり、それらの各々は、1、2、3、4、又は5個のR
6基で置換されていてもよく、
Wは、S又はOであり、
Yは、置換された(アリール)C
1〜6アルキル−、又は
【0072】
であり、
Zは、C
1〜6アルキル、ベンジル、アリール、へテロアリール、又はNR
4R
5であり、ここで、アルキル、ベンジル、アリール、又はへテロアリールは、1、2、3、4、又は5個の独立して選択されるR
7基で置換されていてもよく、
R
3は水素であるか、又はR
3はZと共に、1つ又は複数のR
7基で置換されていてもよい複素環を形成してもよく、
R
1及びR
2は、水素、ハロ、CN、ニトロ、ヒドロキシ、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、C
1〜6ハロアルコキシ、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、ジ(C
1〜4アルキル)カルバミル、C
1〜6アルキルカルボニル、C
1〜6アルコキシカルボニル、C
1〜6アルキルカルボニルオキシ、C
1〜6アルキルスルホニル、C
1〜6アルキルカルボニルアミノ、C
1〜6アルキルスルホニルアミノ、アミノスルホニル、C
1〜6アルキルアミノスルホニル、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニル、アミノスルホニルアミノ、C
1〜6アルキルアミノスルホニルアミノ、及びジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニルアミノから各々独立して選択され、各々は、好適な位置において、ハロ、CN、ヒドロキシ、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノから独立して選択される1、2、又は3つの基で置換されていてもよく、
R
4及びR
5は、水素、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、ジ(C
1〜4アルキル)カルバミル、C
1〜6アルキルカルボニル、C
1〜6アルコキシカルボニル、C
1〜6アルキルカルボニルオキシ、C
1〜6アルキルスルホニル、C
1〜6アルキルカルボニルアミノ、C
1〜6アルキルスルホニルアミノ、アミノスルホニル、C
1〜6アルキルアミノスルホニル、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニル、アミノスルホニルアミノ、C
1〜6アルキルアミノスルホニルアミノ、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニルアミノ、及び(アリール)−ヘテロアリール−CH=N−から各々独立して選択されるか、又はR
4及びR
5は、それらに結合している窒素と共に複素環を形成し、各部分(moiety)は、好適な位置において、ハロ、CN、ヒドロキシ、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノから独立して選択される1、2、又は3つの基で置換されていてもよく、
R
6及びR
7は、ハロ、CN、ニトロ、ヒドロキシ、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、C
1〜6ハロアルコキシ、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、ジ(C
1〜4アルキル)カルバミル、C
1〜6アルキルカルボニル、C
1〜6アルコキシカルボニル、C
1〜6アルキルカルボニルオキシ、C
1〜6アルキルスルホニル、C
1〜6アルキルカルボニルアミノ、C
1〜6アルキルスルホニルアミノ、アミノスルホニル、C
1〜6アルキルアミノスルホニル、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニル、アミノスルホニルアミノ、C
1〜6アルキルアミノスルホニルアミノ、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニルアミノ、及びオキソから各々独立して選択され、各々は、好適な位置において、ハロ、CN、ヒドロキシ、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノから独立して選択される1、2、又は3つの基で置換されていてもよく、
但し、上記化合物は、1−{([5−(4−ニトロフェニル)−2−フリル]メチリデンアミノ}イミダゾリジン−2,4−ジオン又は1−{[5−(4−ブロモフェニル)−2−フリル]メチリデンアミノ}イミダゾリジン−2,4−ジオンではない。
【0073】
また、本開示は、式IIの化合物を製造するのに有用な合成中間体を提供する。また、本開示は、本開示の化合物、及びそのような方法で使用される中間体を調製する方法を提供する。
【0074】
本開示の別の態様は、薬学的に許容される担体、溶媒、アジュバント、又は希釈剤、及び1つ又は複数の式Iの化合物を含む医薬組成物を提供する。
また、本開示は、Arが、1、2、3、4、又は5つのR
6基で置換されていてもよいアリールである式Iの化合物を提供する。
【0075】
式Iに基づく特定の実施形態には、Arが、1、2、又は3つのR
6基で置換されいてもよいフェニルであるものが含まれる。他の実施形態は、R
6が、ハロ、CN、ニトロ、ヒドロキシ、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、C
1〜6ハロアルコキシ、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、及びジ(C
1〜4アルキル)カルバミルから独立して選択される化合物を提供する。例えば、Arは、フェニル、4−クロロフェニル、3−ニトロフェニル、2−メトキシフェニル、及び2,3−ジメチル−4−ニトロフェニルであってもよい。
【0076】
他の特定の実施形態は、Arが、1、2、3、4、又は5つのR
6基で置換されていてもよいヘテロアリールである化合物を提供する。
式Iに基づく特定の実施形態には、化合物が式IIであるものが含まれ、
【0078】
式中、R
a1、R
a2、及びR
a3は、水素、ハロ、CN、ニトロ、ヒドロキシ、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、C
1〜6ハロアルコキシ、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、及びジ(C
1〜4アルキル)カルバミルから独立して選択され、R
1、R
2、W、及びYは、本明細書に定義された通りである。他の実施形態は、R
a1、R
a2、及びR
a3が、水素、ハロ、ニトロ、ヒドロキシ、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、及びC
1〜6ハロアルコキシから独立して選択される式IIの化合物を提供する。更に別の実施形態では、R
a1、R
a2、及びR
a3は、水素、ハロ、ニトロ、及びC
1〜6アルコキシから独立して選択される。
【0079】
式I又はII及び任意の上述した実施形態に基づく特定の実施形態には、WがOであるものが含まれる。
式I又はII及び任意の上述した実施形態に基づく他の特定の実施形態には、WがSであるものが含まれる。
【0080】
式I又はII及び任意の上述した実施形態に基づく実施形態には、R
1及びR
2が、水素、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、C
1〜6ハロアルコキシ、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、及びジ−C
1〜4−アルキルアミノから各々独立して選択されるものが含まれる。他の実施形態は、R
1及びR
2が両方とも水素である式I又はIIの化合物を提供する。1つの実施形態では、R
1及びR
2の一方は水素であり、他方はC
1〜6アルキルである。
【0081】
式I又はII及び任意の上述した実施形態に基づく特定の実施形態には、Yが(アリール)C
1〜6アルキル−であるものが含まれる。1つの実施形態は、Yがベンジルである化合物を提供する。別の実施形態では、Yは、1−フェニル−エチル−である。
【0082】
式I又はII及び任意の上述した実施形態に基づく特定の実施形態には、Yが、
【0084】
であり、
Zが、C
1〜6アルキル、ベンジル、アリール、へテロアリール、又はNR
4R
5であり、ここで、アルキル、ベンジル、アリール、又はへテロアリールが、1、2、3、4、又は5つの独立して選択されるR
7基で置換されていてもよく、
R
3が水素であるものが含まれる。
【0085】
この実施形態は、Zが、C
1〜6アルキル、ベンジル、アリール、又はへテロアリールであり、各々が、1、2、3、4、又は5つの独立して選択されるR
7基で置換されていてもよい化合物を提供する。例えば、1つの実施形態では、Zは、メチル又はエチル等のC
1〜6アルキルであってもよい。別の例示的な実施形態では、Zはベンジルである。他の実施形態は、Zがアリール又はへテロアリールであり、各々が、1、2、3、4、又は5つの独立して選択されるR
7基で置換されていてもよい化合物を提供する。1つの例示的な実施形態では、Zは、1、2、又は3つのR
7基で置換されていてもよいアリールである。別の例示的な実施形態では、Zは、1、2、又は3つのR
7基で置換されていてもよいフェニルである。他の実施形態は、Zが、1つ又は2つのR
7基で置換されていてもよいヘテロアリールである化合物を提供する。1つの例示的な実施形態では、Zはピリジニルである。
【0086】
また、この実施形態は、ZがNR
4R
5である化合物を提供する。
1つの実施形態では、R
4及びR
5は、水素、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、ジ(C
1〜4アルキル)カルバミル、C
1〜6アルキルカルボニル、C
1〜6アルコキシカルボニル、C
1〜6アルキルカルボニルオキシ、C
1〜6アルキルスルホニル、C
1〜6アルキルカルボニルアミノ、C
1〜6アルキルスルホニルアミノ、アミノスルホニル、C
1〜6アルキルアミノスルホニル、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニル、アミノスルホニルアミノ、C
1〜6アルキルアミノスルホニルアミノ、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニルアミノ、及び(アリール)−ヘテロアリール−CH=N−から各々独立して選択され、各々は、好適な位置において、ハロ、CN、ヒドロキシ、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノから独立して選択される1、2、又は3つの基で置換されていてもよい。ある実施形態は、R
4及びR
5が水素である化合物を提供する。他の実施形態は、R
4が水素であり、R
5がC
1〜6アルキルである化合物を提供する。
【0087】
別の実施形態では、R
4及びR
5は、それらに結合している窒素と共に、好適な位置において、ハロ、CN、ヒドロキシ、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノから独立して選択される1、2、又は3つの基で置換されていてもよい複素環を形成していてもよい。他の実施形態は、R
4及びR
5が、窒素と共に、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノで置換されていてもよいピペラジニル環を形成する化合物を提供する。
【0088】
式I又はII及び任意の上述した実施形態に基づく特定の実施形態には、Yが、
【0090】
であり、
Zが、C
1〜6アルキル、ベンジル、アリール、へテロアリール、又はNR
4R
5であり、ここで、アルキル、ベンジル、アリール、又はへテロアリールが、1、2、3、4、又は5つの独立して選択されるR
7基で置換されていてもよく、
R
3が、Zと共に、1つ又は複数のR
7基で置換されていてもよい複素環を形成していてもよいものが含まれる。
【0091】
この実施形態は、R
3がZと共にイミダゾリジン−2,5−ジオニルを形成していてもよい化合物を形成する。
幾つかの実施形態では、式(I)の化合物は、表1及び2に示されている化合物、又はそれらの薬学的に許容される塩から選択される。
【0092】
別の態様では、本発明は、1つ又は複数の式(I)の化合物、及び薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。本発明の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩の純粋な形態又は適切な医薬組成物での投与は、許容される投与方法又は同様の用途に有用な作用剤のいずれによってでも実施することができる。したがって、投与は、例えば、錠剤、坐剤、丸剤、軟質弾性及び硬質ゼラチンカプセル、粉末、溶液、懸濁液、又はエアゾル等の、固形物、半固形物、凍結乾燥粉末、又は液体剤形の形態での、好ましくは、正確な用量を簡単に投与するのに好適な単位剤形での、例えば、経口、経鼻、非経口(静脈内、筋肉内、又は皮下)、局所的、経皮的、膣内、膀胱内、嚢内、直腸的、又は経尿道、眼腫瘍内、脳室内、髄腔内、肺内及び洗浄法(irrigation method)によるものであってもよい。
【0093】
組成物は、従来の医薬担体又は賦形剤及び本発明の化合物を活性作用剤として含み、加えて、他の薬剤、医薬品、担体、アジュバント等を含んでもよい。本発明の組成物は、癌又は他の疾患の治療を受けている患者に一般的に投与される抗癌剤又は他の作用剤と組み合わせて使用してもよい。アジュバントには、保存剤、湿潤剤、懸濁剤、甘味料、香味料、芳香剤、乳化剤、及び調剤助剤が含まれる。微生物作用の防止は、種々の抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、及びソルビン酸等により確保することができる。また、等張剤、例えば、糖及び塩化ナトリウム等を含むことが望ましい場合がある。注射用剤形の持続的吸収は、吸収を遅延する作用剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によりもたらすことができる。
【0094】
また、必要に応じて、本発明の医薬組成物は、例えば、クエン酸、ソルビタンモノラウラート、トリエタノールアミンオレアート、ブチル化ヒドロキシトルエン等の、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、及び酸化防止剤等の、少量の補助物質を含んでいてもよい。剤形は、徐放性放出又は持続性放出として設計することができる。
【0095】
非経口注入に好適な組成物は、生理学的に許容される無菌の水溶液又は非水溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョン、及び無菌の注射用溶液又は分散液に再構成するための無菌粉末を含んでいてもよい。好適な水性及び非水性担体、希釈剤、溶媒、又は基剤の例には、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びグリセロール等)、デキストロース、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ヒドロキシセルロース、アカシア樹脂、それらの好適な混合物、植物油(オリーブ油等)、及びオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルが含まれる。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングを使用することにより、分散剤の場合は必要とされる粒径を維持することにより、及び界面活性剤を使用することにより、維持することができる。液体製剤は、緩衝化等張性溶液であってもよい。
【0096】
経口投与用の固形剤形には、カプセル、錠剤、丸剤、散剤、及び果粒剤が含まれる。そのような固形剤形では、活性化合物は、以下のものと混合される:クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム等の少なくとも1つの不活性常用賦形剤(又は担体)、又は(a)充填剤又は増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及びケイ酸、(b)結合剤、例えば、セルロース誘導体、デンプン、アリグナート(alignate)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアカシアゴム、(c)湿潤剤、例えばグリセロール、(d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、クロスカルメロースナトリウム、複合ケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム、(e)溶解遅延剤、例えばパラフィン、(f)吸収促進剤、例えば四級アンモニウム化合物、(g)湿潤剤、例えば、セチルアルコール、及びグリセロールモノステアラート、及びステアリン酸マグネシウム等、(h)吸着剤、例えば、カオリン及びベントナイト、並びに(i)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、又はそれらの混合物。また、カプセル、錠剤、及び丸剤の場合、剤形は、緩衝剤を更に含んでいてもよい。
【0097】
上述のような固形剤形は、腸溶コーティング及び他の当技術分野で周知のコーティング等のコーティング及びシェルを用いて調製することができる。それらは、鎮静剤を含有していてもよく、また、腸管のある部分で1つ又は複数の活性化合物を遅延様式で放出する組成物であってもよい。使用することができる埋込み組成物の例は、ポリマー物質及びワックスである。また、活性化合物は、適切な場合、前述の賦形剤の1つ又は複数を用いたマイクロカプセル化形態であってもよい。
【0098】
経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容されるエマルジョン剤、溶剤、懸濁剤、シロップ剤、及びエリキシル剤が含まれる。そのような剤形は、例えば、本発明の化合物又は薬学的に許容されるそれらの塩、並びに例えば、水、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール、及びエタノール等の担体中の任意の医薬アジュバント;可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド:油類、特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル;又はこれらの物質の混合物等を溶解、分散し、それにより溶液又は懸濁液を形成すること等により調製される。
【0099】
懸濁液は、活性化合物に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天、及びトラガカント、又はこれらの物質の混合物等を含有していてもよい。
【0100】
直腸内投与用組成物は、例えば、本発明の化合物を、例えば、カカオ脂、ポリエチレングリコール、又は坐剤用ワックス等の好適な非刺激性賦形剤又は担体と混合することにより調製することができる坐剤であり、それらは、常温では固体だが、体温では液体であり、したがって好適な体腔にあると融解し、活性成分をそこに放出する。
【0101】
本発明の化合物の局所投与用剤形には、軟膏剤、散剤、噴霧剤、及び吸入剤が含まれる。活性成分は、必要な場合、生理学的に許容される担体及び任意の保存剤、緩衝剤、又は噴射剤と、無菌条件下で混合される。オフタルミン酸製剤、眼軟膏剤、散剤、及び溶液剤も、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0102】
一般的に、意図した投与方法に応じて、薬学的に許容される組成物は、約0.01%〜約99.99重量%の本発明の1つ又は複数の化合物又はその薬学的に許容される塩、及び99.99%〜0.01重量%の好適な医薬賦形剤を含有するであろう。1つの例では、組成物は、約0.5%〜約75重量%が本発明の化合物及びその薬学的に許容される塩となり、残りが好適な医薬賦形剤となる。
【0103】
そのような剤形を調製する実際の方法は、当業者に公知であるか又は明白であろう。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版(Mack Publishing Company、イーストン、ペンシルベニア州、1990年)を参照されたい。投与される組成物は、いかなる場合でも、本発明の教示に従って疾患状態を治療するために、治療上有効量の本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有するであろう。
【0104】
別の態様では、本開示は、1つ又は複数の式Iの化合物を対象に投与することを含む、対象のニューロンカルシウムホメオスタシス不全を正常化する方法を提供する。幾つかの実施形態では、対象は、ヒト対象である。
【0105】
別の態様では、本開示は、1つ又は複数の式Iの化合物を対象に投与することを含む、対象の神経学的障害又は神経変性障害を治療する方法を提供する。幾つかの実施形態では、神経学的障害又は神経変性障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭認知症、ピック病、慢性外傷性脳障害、外傷性脳損傷、脳卒中、小脳性運動失調、多発性硬化症、ダウン症候群、又は加齢関連CNS障害である。幾つかの実施形態では、神経学的障害又は神経変性障害は、アルツハイマー病である。幾つかの実施形態では、対象は、ヒト対象である。
【0106】
本発明の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩は、「有効量」又は「治療上有効量」で投与される。それらは、使用される特定の化合物の活性、化合物の代謝安定性及び作用期間、年齢、体重、全体的な健康、性別、食事、投与の方法及び時間、排出速度、併用薬物、特定の疾患状態の重症度、及び治療を受けている宿主を含む様々な要因に大きく依存するであろう。本発明の化合物は、1日当たり約70〜約1400mgの範囲の用量レベルで患者に投与することができる。約70キログラムの体重を有する正常ヒト成人の場合、1日当たり体重1キログラム当たり約1〜約20mgの範囲の用量が一例である。しかしながら、使用される特定の用量は様々であってもよい。例えば、用量は、患者の必要性、治療されている症状の重症度、及び使用されている化合物の薬理学的活性を含む幾つかの因子に依存する場合がある。特定の患者の至適用量の決定は、当業者に周知である。
【0107】
実施例
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態及びそれらの種々の用途を例示するものである。それらは、説明のために示されているに過ぎず、本発明を限定するものと理解されるべきではない。
【0108】
本開示の化合物の調製は、以下の例により更に説明されるが、それらは、本開示の範囲又は趣旨を、本開示に記載の特定の手順及び化合物に限定するものと解釈されるべきではない。全ての場合で、別様の指示がない限り、カラムクロマトグラフィーは、シリカゲル固相を使用して実施される。
【0109】
当業者であれば、以下の例に示されているように、本開示により包含される化合物を生成するためには、出発物質及び反応条件は様々であってよく、反応の順序は変更してもよく、追加ステップを使用してもよいことを認識するであろう。本開示の化合物を合成するのに有用な一般的に知られている化学合成スキーム及び条件を提供する一般的な文献は、多数入手可能である(例えば、Smith及びMarch、March’s Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms,and Structure、第5版、Wiley−Interscience、2001年;又はVogel,A Textbook of Practical Organic Chemistry,Including Qualitative Organic Analysis,第4版、New York:Longman、1978年を参照)。
【0110】
出発物質は、商業的に業者から取得することができるか、又は当業者に公知の確立した文献方法により調製することができる。反応は、使用される試薬及び物質に適切であり、達成しようとする変換に好適な溶媒中で実施される。有機合成の当業者であれば、分子に存在する官能基は、提案されている変換と適合性であるべきであることを理解するであろう。それには、本開示の所望の化合物を得るために、合成ステップの順序を変更するか、又は別のものではなく1つの特定のプロセススキームを選択するという判断が求められる場合がある。
【0111】
場合によっては、上記の変換の幾つかを達成するために、ある反応性官能基の保護が必要になり得る。一般的に、そのような保護基の必要性、並びにそのような基を結合及び除去するのに必要な条件は、有機合成の当業者には明白であろう。熟練した専門家に対する多数の選択肢が記載されている権威のある文献は、以下のものである:J.F.W.McOmie、「Protective Groups in Organic Chemistry」、Plenum Press、London and New York 1973年;T.W.Greene及びP.G.M.Wuts、「Protective Groups in Organic Synthesis」、第3版、Wiley、New York 1999年;「The Peptides」;3巻(編者:E.Gross及びJ.Meienhofer)、Academic Press、London and New York 1981年;「Methoden der organischen Chemie」、Houben−Weyl、第4版、15/l巻、Georg
Thieme Verlag、Stuttgart 1974年;H.−D.Jakubke及びH.Jescheit、「Aminosauren,Peptide,Proteine」、Verlag Chemie、Weinheim、Deerfield Beach及びBasel 1982年;及び/又はJochen Lehmann、「Chemie der Kohlenhydrate:Monosaccharide and Derivate」、Georg Thieme Verlag,Stuttgart 1974年。保護基は、当技術分野で公知の方法を使用して、都合のよいその後の工程で除去することができる。
【0112】
実施例1:材料及び方法。
脳切片Ca
2+シグナル伝達及び電気生理学。3×Tg−ADマウス、TgCRND8マウス、PS1/APPマウス、及び非トランスジェニック(NonTg)J29/C57BL6対照マウスは、組織内で繁殖されたものであった。3〜5か月齢の成体雄マウス及び雌マウスを使用した。動物は、Rosalind Franklin University of Medicine and Scienceの動物実験委員会により承認されたプロトコールに従って飼育及び使用した。海馬脳切片(300μm)を、以前の文献に従って調製した(Briggsら、Neurobiol.Aging、2013年、34巻:1632〜1643年)。マウスをハロタンで麻酔にかけ、断頭し、脳を取り出して、氷冷スクロース切断溶液(200mMスクロース、1.5mM KCl、0.5mM CaCl
2、4.0mM MgCl
2、1.0mM KH
2PO
4、25mM NaHCO
3、10mM Na−アスコルビン酸塩、及び20mMデキストロース、95%O
2/5%CO
2で平衡化)に入れた。チャンバーを氷冷スクロース切断溶液で満したCamden Instruments社製ビブラトームにより水平海馬切片を調製し、その後、標準人工脳脊髄液(aCSF;130mM NaCl、2.5mM KCl、2.0mM CaCl
2、1.2mM MgSO4、1.25mM NaH
2PO
4、25mM NaHCO
3、及び10mM デキストロース[305〜310mOsm]、95% O
2/5% CO
2で平衡化、pH7.3〜7.4)に移し、使用前に少なくとも1時間32℃で維持した。ホールセルパッチクランプ測定を、連続灌流したaCSF(1.5〜2.0mL/分)中、室温(23℃)にて実施した。パッチピペット(5〜7MΩ)を、細胞内溶液(135mM K−グルコナート、2.0mM MgCl
2、4.0mM Na
2−ATP、0.4mM Na−GTP、10mM Na−ホスホクレアチン、10mM HEPES、KOHでpH7.3に調整)及び蛍光Ca
2+センサとしての50μMビス−fura−2ヘキサカリウム(Life Technologies社)で満たした。海馬CA1錐体ニューロンを、赤外線微分干渉コントラスト(IR−DIC)光学法により視覚的に、及びそれらの受動的膜特性及びスパイク頻度順応により電気生理学的に、識別した。膜電位は、Digidata1322 A−Dコンバータ及びMulticlamp700B増幅器を用いて10kHzで得た電流固定モードで取得し、pClamp10.2(Molecular Devices社製)を使用して記録及び分析した。Minianalysis6.0.7(Synaptosoft社、フォートリー、ニュージャージー州)を使用して、0.2mVの最小振幅及び3mV*msecの最小面積を有する自発的興奮性シナプス後電位(sEPSP)事象を検出及び測定した。更なる実験詳細は、Chakrobortyら、2012年、J.Neurosci.32巻(24号):8341〜53頁を参照されたい。
【0113】
個々のfura−2充填錐体ニューロンのCa
2+シグナル伝達を、浴aCSFを絶えず灌流させ、カフェイン(10mM、1分間)を浴灌流(bath perfusion)により適用した以外は上記のように、2光子画像化により測定した。電圧開口型Ca
2+チャネル(VGCC)応答を、8〜10回の連続スパイクを誘発するように調整した電流レベルでパッチピペットから流した電流による脱分極により誘発させた。VGCC Ca
2+応答を、カフェインRyR Ca
2+測定の3〜4分前に測定し、各切片は、カフェイン曝露後に廃棄した。分析しようとする試験阻害化合物を、1時間のプレインキュベーション中に導入し、カフェイン適用前、適用中、及び適用後、aCSF灌流中で維持した。
【0114】
外傷性脳損傷の導入。マウスにイソフルランで深く麻酔をかけ、感覚運動皮質に小さな開頭術を施し(3×3mm)、その後、軽度のTBIをもたらす設定でBenchmark Impactor Stereotaxic TBIデバイスを使用して単回のCCI(制御された皮質衝撃)を与えた。皮質挫傷傷害は、以前に開発された改良手順を使用して実施する(Suttonら、1993年、J.Neurotrauma 10巻(2号):135〜49頁)。傷害は、平坦で円形のインパクター先端(直径2mm)で与える。インパクターを垂直から18.0度傾けることにより、平坦インパクター先端を傷害部位の脳表面に対して垂直にすることができる。適所に配置したら、インパクター先端は、定位マウス脳地図に基づき、露出した脳の皮質表面から0.6mm下の深さに3.0m/sで入り込む。傷害は片側に与えられ、皮質傷害の範囲は、CCI後の細胞構築分布の変化により規定される。この手順の後、連続縫合又は断続パターンを使用して、頭皮を単一繊維ナイロン縫合糸で縫合し、リドカインで処置する。TBI導入の1日、7日、又は30日後のいずれかで、マウスを経心腔的灌流に処し、脳を4%パラホルムアルデヒドで固定する。その後、リン酸化タウ種及びアミロイド種を測定するための標準的プロトコールを使用する免疫染色を、生理食塩水処置マウス及び薬物処置マウスで実施する。
【0115】
経心腔的灌流。マウスにウレタンで深く麻酔をかけ、胸腔を開き、心臓の左心室にカニューレを挿入し、右心房に小さな穴を開ける。氷冷生理食塩水(3mL)及びその後4%パラホルムアルデヒド(5mL)又は4%パラホルムアルデヒド/1%グルタルアルデヒドを、循環系で灌流させる。この後、マウスを鋭いはさみで断頭し、脳を染色又は顕微鏡検査用に調製した。
【0116】
細胞培養及び色素負荷。N2a細胞(ATCC#CCL−131)を、50:50ダルベッコ変法イーグル培地:Opti変法イーグル培地(Gibco 11995−065:Gibco 31985−070)、5%ウシ胎仔血清(Gibco 26140−079)、1%ABAM(Gibco 15240)で培養し、37℃、10%CO
2でインキュベートした。0.05%トリプシン−EDTA(Gibco 25300−062)を使用して、細胞を5分間室温で継代し、非機械的にプレートから剥離させた。酵素活性を、DMEM中10%FBSで停止させ、細胞を、ポリ−Lコーティング円形ガラススリップカバー(Chemglass CLS−1760−012)に30%培養密度で播種し、その後37℃、10%CO
2にて、50:50DMEM:OptiMEM中2.5%FBSで一晩増殖させた。蛍光性カルシウム指示薬であるfura−2AM(Invitrogen社 F1201)を、DMSOで1mMに希釈した。N2a細胞を、5μM fura−2AM(新しい培地で希釈した)で30分間培養し、その後1×PBSで洗浄し、新しい培地を添加し(50:50)、最低で15分間脱エステル化させた。10μMのダントロレン又は試験化合物を添加し、30分間インキュベートした。インキュベーション及び洗浄は全て、37℃、10%CO
2で行った。
【0117】
Ca
2+画像化及び化合物適用。fura2−AMで満たしたN2a細胞を有するガラスカバースリップを、2光子レーザ画像化システムに接続されている直立型オリンパスBX51顕微鏡の試料台の浸漬チャンバーに設置した。対照培地、ダントロレン、又は試験化合物の1つ(10μM)のいずれかで(30分間)インキュベートしたN2a細胞に対し、RyR媒介性カルシウム応答を誘発するために、重力駆動灌流系によりカフェイン(5mM)を浴適用した。個々の細胞のCa
2+画像化は、特別仕様のビデオ速度の2光子画像化システムを使用して達成した。レーザ励起は、Ti:サファイアレーザ(Mai Tai広帯域型、Spectra−Physics社)から、780nm(80MHz)の100fsパルスにより提供した。レーザ光線を、X軸は、高速の(7.9kHz)双方向走査を可能にする共振検流計(General Scanning Lumonics社)により、Y軸は、従来の線形検流計により走査して、30フレーム/sの全フレーム走査速度を提供した。オリンパス40×水浸漬対物レンズ(開口数0.8)を用いて、レーザ光線の焦点を細胞に合わせた。放射された蛍光を、広範囲光電子増倍管(Electron Tubes社)により検出して、ビデオ信号を導出し、それをVideo Savant5.0ソフトウェア(IO Industries社)により捕捉及び分析した。バックグラウンドを補正した画像の詳しい分析は、MetaMorphソフトウェアを用いて実施した。明確性を考慮して、結果は、[Ca
2+]の増加が比率の増加に対応するように、逆比で表した。変化率%は、[(F
0/ΔF)−1]
*100として算出し、式中F
0は、ベースラインでの平均静止蛍光であり、ΔFは、Ca
2+放出を反映する蛍光の減少である。処置群の間の差は、二元配置ANOVA及びScheffe事後解析を使用して、有意性を評価した(p<0.05)。核領域を除き、観察野にある細胞全ての体細胞Ca
2+応答を分析した(n=8〜20)。化合物は全て三重反復で試験した。
【0118】
実施例2:ダントロレンによるRyR安定化
実施例1で示した手順を使用して、RyR安定化化合物(ダントロレン)が、AD発症及び外傷性脳損傷に関連するニューロン特性に影響を及ぼすことが可能か否かを調査した。
【0119】
2つのADモデル(3×Tg−AD及びPS1/APP)では、ダントロレン(1−{[5−(4−ニトロフェニル)−2−フリル]メチリデンアミノ}イミダゾリジン−2,4−ジオン;このダントロレンのナノ結晶性製剤は、RYANODEX(商標)という商品名である)による中長期(4週間)処置(5〜10mg/kg、ヒト集団での臨床用量と一致する)は、樹状突起棘での過剰なER−Ca
2+放出をNonTgレベルに戻し(
図1)、シナプス伝達特性及びシナプス完全性を回復させ(
図2)、可溶性及び不溶性のAβ沈着を著しく低減し(
図2E)、RyR2発現を正常化した(
図3)。これらの知見は、AD発病及びアミロイドベータ凝集には、RyR−Ca
2+調節異常が中心的な役割を果たすという主張を裏づけるだけでなく、疾患の後期段階でさえ治療効果を得ることができることを示すものであり、Ca
2+ホメオスタシス不全、アミロイド病理、及びシナプス機能不全にはフィードフォワード疾患機序が関与することを裏づけている。
【0120】
また、ダントロレンによるRyR機能安定化は、アミロイド病理に加えて、ADのTgCRND8マウスモデルではリン酸化タウを低減させるという証拠が存在する(
図4)。同様に、TBIのマウスモデルでは、ダントロレン処置は、海馬歯状回でのリン酸化タウ染色の量を著しく低減する(
図5)。
【0121】
なお、ダントロレンによる長期経口処置(10か月+)は、アミロイド病理を増加させることが見出されており(Zhangら、2010年、Journal of Neuroscience 30巻:8566〜8580頁)、ダントロレンほど病原性ではないRyR2標的化合物の必要性が示唆されている。
【0122】
実施例3:RyR2安定化化合物のヒット−リード最適化。
最初はダントロレン
【0124】
と類似するスキャフォールドに基づいていたが、強いin vitro活性を維持し、かつ薬物特性の向上を示す新しい全く異なる薬物様類似体を開発した(
図6を参照)。基礎構造特徴をダントロレン様スキャフォールドに組み込んで、薬物特性の向上を付与したため、AD及び他の神経変性疾患の全身性活性剤候補の開発が可能になった。
【0125】
多様なRyR安定剤の合成は、確立されているスズキ反応化学、その後のヒドラゾン形成で達成した。20個の多様なハロゲン化アリール及び5つのヒドラジンを使用して、100個の新しい候補を生成した。簡潔に述べると、5−ホルミル−2−フリルボロン酸を、炭酸セシウム等の塩基の存在下で触媒性テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を使用し、スズキ反応条件下にてハロゲン化アリール(R
1)で処理した。その後、得られたジアリール種を、1%酢酸/ジメチルホルムアミド中でヒドラジン誘導体(R
2)を使用するヒドラゾン形成に供した。20個のハロゲン化アリールR1誘導体は、多様な置換ベンゼン及びヘテロ芳香族ハロゲン化アリールを含んでいた。5つのR2ヒドラジンは、多様な薬物代謝薬物動態学(DMPK)プロファイルをもたらすヒダントイン、尿素、及びアミド官能基、並びに様々なアリール基を含んでいた。
【0127】
化合物を精製し、その後HPLC−MSで試験した。>95%の純度であった。化合物は、pH7.4で15mg/mLから>200mg/mLの範囲の水溶解度を示した。ダントロレンよりも水溶解度を向上させるために可溶化部分(solubilizing moieties)を組み込むことに重点をおいた。
【0128】
実施例4:第一世代化合物の構造と活性との関係。
化合物をスクリーニングして、それらを、更に試験するか又は更なる調査から除外するかを判断した。スクリーニングカスケードは、薬化学アッセイ、細胞培養アッセイでの迅速スループットスクリーニング試験、非トランスジェニック(NonTg)対照マウス及びADマウスからの急性脳切片調製、及び長期処置ADマウスでの効力を含んでいた。こうした試験のための方法は、実施例1に述べられている。リード化合物は、RyR2アイソフォームを主に発現するN2A細胞で有効であった。
【0129】
スクリーニング後に選択した化合物は、表1に特定されており、この表は化合物の構造と活性との関係に関する情報も提示する。
【0131】
幾つかの類似体は、10μMでの試験において、N2A細胞のRyR誘発Ca
2+を効果的に阻止する(表1)。ダントロレンは、カフェインが示すベースラインから3.09倍のCa
2+増加を1.96に低減し、ADマウスモデルでの効力も示す。したがって、同様か又はより良好な低減を示す類似体を活性とみなすと結論を下すことは合理的である。具体的には、RD09、RD11、及びRD05は、ダントロレンよりも大幅にカルシウム放出を阻止し、RD95及びRD14は、カフェイン刺激Ca
2+放出に対するダントロレンの効果と同等である。
【0132】
ダントロレン及び最も活性な化合物であるRD09及びRD11は、左側のフェニル環にニトロ置換基を有するため、この官能基は活性にとって重要であると考えられる。しかしながら、ニトロ基は溶解度及びバイオアベイラビリティの低下と関連している。注目すべきことに、意外にも、RD05はニトロ基を持たないにもかかわらず、活性を全て保持している。また、意外にも、RD05の脳レベルはダントロレンのレベルの>50倍である。これらの官能基置換は、更なる代謝安定性及び溶解度を付与し、ダントロレンと比較して、全体的なバイオアベイラビリティを向上させる。
【0133】
ダントロレンのヒダントイン官能基の置換も調査した。幾つかの化合物では、この官能基はアセチル及び尿素機構と置換されており、その結果生じた化合物は活性を保持した(例えば、化合物RD09、RD95、及びRD14)。また、化合物RD11のように、芳香族機構をダントロレンのヒダントイン基の代わりに導入した。これにより、イオン性ピリジル部分が種々の塩に変換され得るため、全体的なDMPKの向上が強化される。
【0134】
表1に示されている化合物の合成法は、以下の通りである。
RD05。5−フェニル−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、3−アミノイミダゾリジン−2,4−ジオン(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z270[M+H]
+。
【0135】
RD09。5−(3−ニトロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、酢酸ヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z274[M+H]
+。
【0136】
RD10。5−(2−クロロ−4−ニトロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、4−N−メチル−N−1−ピペラジンカルボヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z350[M+H]
+。
【0137】
RD11。5−(3−ニトロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、2−ピリジンカルボヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z337[M+H]
+。
【0138】
RD14。5−{4−ニトロ−2,3−ジメチルフェニル}−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、セミカルバジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z303[M+H]
+。
【0139】
RD54。5−(2−クロロ−4−ニトロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、N−フェニルヒドラジンカルボキサミド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z386[M+H]
+。
【0140】
RD77。5−(4−ブロモフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、4−ニトロベンズヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z415[M+H]
+。
【0141】
RD83。5−(4−ニトロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、2,4−ジクロロベンズヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z405[M+H]
+。
【0142】
RD91。5−(2,3−ジクロロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、2−ピリジンカルボヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z361[M+H]
+。
【0143】
RD95。5−(2−メトキシフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、セミカルバジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z260[M+H]
+。
【0144】
実施例5:第二世代化合物の合成。
強力かつ選択的な、in vivoで全身的に利用可能な化合物を提供するために、薬化学的最適化を行った。RyR安定剤のin vivoプロファイル、特に薬物動態(PK)パラメータの最適化に注力した取り組み、及びin vivoで全身投与した場合の脳曝露を増加させる取り組みは、比較的少数である。したがって、第二世代の合成の取り組みは、理想的な特性の集団を有するRyR安定剤の開発に集中して行った。
【0145】
合成化学戦略は、有意なin vitroカルシウム放出阻止、適切なin vivo脳血漿中濃度、及び本発明者らのADマウスモデルでの効力可能性を示した化合物RD05により例示される、確立された一連のリード化合物のファーマコフォアに基づいていた。
【0146】
Ca
2+放出を正常化するために必要である重要な基礎構造特徴を特定し、反復戦略を使用して、>100個の類似体を合成し、ファーマコフォアの各領域を系統的に調査して、所望の物理的及び生物学的特性の集合を有する至適化候補を提供した。最適化ステップから選択された候補は、実施例3に記載の化合物の第一世代合成に由来するリード候補と共に、表2に示されている。
【0149】
表2に示されている(かつ表1には示されていない)化合物の合成法は、以下の通りである。
CK008。5−(4−クロロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、酢酸ヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z263[M+H]
+。
【0150】
CK0010。5−(4−クロロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、プロパノヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z277[M+H]
+。
【0151】
CK012。5−フェニル−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、カルボヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z245[M+H]
+。
【0152】
CK013。5−フェニル−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、フェニル酢酸ヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z305[M+H]
+。
【0153】
CK017。5−(4−クロロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、カルボヒドラジド(0.5mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z468[M+H]
+。
【0154】
DL041。5−(3−ニトロフェニル)−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、フェニル酢酸ヒドラジド(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z350[M+H]
+。
【0155】
SM008。5−フェニル−2−フルアルデヒド(1.0mmol)を、ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解する。この溶液を、ジメチルホルムアミド(2mL)中の、1−フェニルエチルアミン(1.0mmol)及び1.0M塩酸溶液(260μL)の溶液に滴加する。添加の完了後、混合物を、rtで25時間撹拌する。この混合物を水で希釈し、2倍の体積のジクロロメタンで抽出する。有機層を収集し、溶媒を回転蒸発により除去する。残渣を、水−アセトニトリル勾配を使用して分取逆相HPLCで精製し、所望の産物を得る。ESI−MS:m/z275[M+H]
+。
【0156】
実施例6:細胞培養系及びADマウスのニューロンにおける迅速スクリーニングアッセイ。
実施例5に示されているRyR2安定化化合物を、96ウェルプレートで増殖させたRyR2発現N2A細胞系を使用して試験し、実施例1に開示されているように、高速自動画像化システムで試験した。ダントロレンで同様に示されているように、強力なアゴニスト刺激に応答したRyR誘発カルシウムを低減する能力について、化合物をスクリーニングした(
図7)。
【0157】
また、実施例1に開示されているように、非トランスジェニック(NonTg)マウス及びAD(PS1/APP)マウスに由来する海馬脳切片調製物で化合物を試験し、生理学的刺激によりADマウスに誘発された異常なRyR調節カルシウムシグナルを正常化するそれらの能力を決定した。
図8Aに示されているように、CK013及びCK017による処置は、ダントロレンと同様に、異常なRyR誘発カルシウムシグナルを正常化した。試験した化合物による処置は全て、対照NonTgマウスに与える影響は最小限であり、電圧開口型Ca
2+チャネル内向き流束、受動的膜特性、又はスパイク特性等の、ADマウスで変更されない他の基本的Ca
2+シグナル伝達事象にも影響を及ぼさなかった(
図8B〜8D)。
【0158】
実施例7:in vivo研究。
NonTgマウス及びADマウスのin vivo中長期処置パラダイムで化合物を試験して、ADで影響を受けない別個のカルシウム経路に影響を及ぼさずに、ADマウスの異常なRyRカルシウム応答が正常化されるか否かを決定した。
【0159】
CA1錐体ニューロンのCa
2+シグナル伝達特性及び電気生理学的特性を、実施例1で開示されているプロトコールに従って海馬脳切片で研究した。簡潔に述べると、3×Tg−ADマウスを、生理食塩水(0.9%)、CK013、又はCK017のいずれかで4週間(10mg/kg;ip)処置し、その後、CA1錐体ニューロンのホールセルパッチクランプ測定及び2光子カルシウム画像化のために、急性海馬脳切片調製物を作製した。目的は、本発明者らの化合物が、ADマウスの正常なRyR媒介カルシウムシグナル伝達を回復させ、正常な膜生理機能を維持することができるか否かを決定することであった。
図9に示されている結果は、CK013処置及びCK017処置3×Tg−ADマウスでは両方とも、RyR誘発カルシウム応答は、NonTg対照応答と異なるものではなく、生理食塩水処置3×Tg−ADマウスでの異常なRyRカルシウム応答と比較して、有意に低減されている。
【0160】
また、静止膜電位及び膜入力抵抗等の受動的膜特性は、これらの化合物により影響を受けなかった。表3に示されるように、静止膜電位(RMP)及び膜入力抵抗(Ri)には、群間に統計的有意差はなかった(p>0.05)。加えて、心臓重量:体重比は、処置群間に統計的有意差はなく(表4;p>0.05)、絶対的な体重又は心臓重量にも群間で差はなかった(データ非表示;p<0.05)。
【0163】
以下、上記の実施形態から把握できる技術的思想を付記する。
[付記1]
構造:
【0165】
を有する化合物又はその薬学的に許容される塩であって、式中、
Arはアリール又はへテロアリールであり、それらの各々は、1、2、3、4、又は5つのR
6基で置換されていてもよく、
WはS又はOであり、
Yは、置換された(アリール)C
1〜6アルキル−、又は
【0167】
であり、式中、
Zが、C
1〜6アルキル、ベンジル、アリール、へテロアリール、又はNR
4R
5であり、ここで、アルキル、ベンジル、アリール、又はへテロアリールは、1、2、3、4、又は5つの独立して選択されるR
7基で置換されていてもよく、
R
3は水素であるか、又はR
3はZと共に、1つ又は複数のR
7基で置換されていてもよい複素環を形成してもよく、
R
1及びR
2は、水素、ハロ、CN、ニトロ、ヒドロキシ、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、C
1〜6ハロアルコキシ、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、ジ(C
1〜4アルキル)カルバミル、C
1〜6アルキルカルボニル、C
1〜6アルコキシカルボニル、C
1〜6アルキルカルボニルオキシ、C
1〜6アルキルスルホニル、C
1〜6アルキルカルボニルアミノ、C
1〜6アルキルスルホニルアミノ、アミノスルホニル、C
1〜6アルキルアミノスルホニル、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニル、アミノスルホニルアミノ、C
1〜6アルキルアミノスルホニルアミノ、及びジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニルアミノから各々独立して選択され、各々は、好適な位置において、ハロ、CN、ヒドロキシ、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノから独立して選択される1、2、又は3つの基で置換されていてもよく、
R
4及びR
5は、水素、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、ジ(C
1〜4アルキル)カルバミル、C
1〜6アルキルカルボニル、C
1〜6アルコキシカルボニル、C
1〜6アルキルカルボニルオキシ、C
1〜6アルキルスルホニル、C
1〜6アルキルカルボニルアミノ、C
1〜6アルキルスルホニルアミノ、アミノスルホニル、C
1〜6アルキルアミノスルホニル、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニル、アミノスルホニルアミノ、C
1〜6アルキルアミノスルホニルアミノ、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニルアミノ、及び(アリール)−ヘテロアリール−CH=N−から各々独立して選択されるか、又はR
4及びR
5は、それらに結合している窒素と共に複素環を形成し、各部分は、好適な位置において、ハロ、CN、ヒドロキシ、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノから独立して選択される1、2、又は3つの基で置換されていてもよく、
R
6及びR
7は、ハロ、CN、ニトロ、ヒドロキシ、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、C
1〜6ハロアルコキシ、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、ジ(C
1〜4アルキル)カルバミル、C
1〜6アルキルカルボニル、C
1〜6アルコキシカルボニル、C
1〜6アルキルカルボニルオキシ、C
1〜6アルキルスルホニル、C
1〜6アルキルカルボニルアミノ、C
1〜6アルキルスルホニルアミノ、アミノスルホニル、C
1〜6アルキルアミノスルホニル、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニル、アミノスルホニルアミノ、C
1〜6アルキルアミノスルホニルアミノ、ジ−C
1〜4アルキルアミノスルホニルアミノ、及びオキソから各々独立して選択され、各々は、好適な位置において、ハロ、CN、ヒドロキシ、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノから独立して選択される1、2、又は3つの基で置換されていてもよく、
但し、前記化合物は1−{([5−(4−ニトロフェニル)−2−フリル]メチリデンアミノ}イミダゾリジン−2,4−ジオン又は1−{[5−(4−ブロモフェニル)−2−フリル]メチリデンアミノ}イミダゾリジン−2,4−ジオンではない、化合物。
[付記2]
Arが、1、2、3、4、又は5つのR
6基で置換されていてもよいアリールである、付記1に記載の化合物。
[付記3]
構造:
【0169】
を有し、式中、R
a1、R
a2、及びR
a3が、水素、ハロ、CN、ニトロ、ヒドロキシ、C
1〜6アルキル、C
1〜6ハロアルキル、C
1〜6アルコキシ、C
1〜6ハロアルコキシ、アミノ、C
1〜6アルキルアミノ、ジ−C
1〜4−アルキルアミノ、カルボキシ、カルバミル、C
1〜6アルキルカルバミル、及びジ(C
1〜4アルキル)カルバミルから独立して選択される、付記1又は2に記載の化合物。
[付記4]
WがOである、付記1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
[付記5]
R
1及びR
2が両方とも水素である、付記1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
[付記6]
Yが、
【0171】
であり、式中、
Zが、C
1〜6アルキル、ベンジル、アリール、へテロアリール、又はNR
4R
5であり、ここで、アルキル、ベンジル、アリール、又はへテロアリールが、1、2、3、4、又は5つの独立して選択されるR
7基で置換されていてもよく、かつ
R
3が水素である、付記1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
[付記7]
Zがメチル又はエチルである、付記6に記載の化合物。
[付記8]
Zがベンジルである、付記6に記載の化合物。
[付記9]
Zがピリジニルである、付記6に記載の化合物。
[付記10]
ZがNR
4R
5である、付記6に記載の化合物。
[付記11]
R
4及びR
5が水素である、付記10に記載の化合物。
[付記12]
R
4及びR
5が、窒素と共に、C
1〜3アルキル、C
1〜3アルコキシ、アミノ、C
1〜3アルキルアミノ、及びジ−C
1〜3−アルキルアミノで置換されていてもよいピペラジニル環を形成している、付記10に記載の化合物。
[付記13]
Zが、C
1〜6アルキル、ベンジル、アリール、へテロアリール、又はNR
4R
5であり、ここで、アルキル、ベンジル、アリール、又はへテロアリールが、1、2、3、4、又は5つの独立して選択されるR
7基で置換されていてもよく、
R
3が、Zと共に、1つ又は複数のR
7基で置換されていてもよい複素環を形成していてもよい、付記1に記載の化合物。
[付記14]
【0174】
及びそれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される、付記1に記載の化合物。
[付記15]
付記1〜14のいずれか一項に記載の化合物と、薬学的に許容される担体、溶媒、アジュバント、又は希釈剤とを含む医薬組成物。
[付記16]
対象におけるニューロンカルシウムホメオスタシス不全を正常化する方法であって、有効量の付記1〜14のいずれか一項に記載の化合物を前記対象に投与することを含む方法。
[付記17]
前記対象がヒト対象である、付記16に記載の方法。
[付記18]
対象における神経学的障害又は神経変性障害を治療する方法であって、有効量の付記1〜14のいずれか一項に記載の化合物を前記対象に投与することを含む方法。
[付記19]
前記神経学的障害又は神経変性障害が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭認知症、ピック病、慢性外傷性脳障害、外傷性脳損傷、脳卒中、小脳性運動失調、多発性硬化症、ダウン症候群、又は加齢関連CNS障害である、付記18に記載の方法。
[付記20]
前記神経学的障害又は神経変性障害がアルツハイマー病である、付記19に記載の方法。
【0175】
本発明を、詳細に、その特定の実施形態を参照して説明したが、添付の特許請求の範囲に規定されている本発明の範囲から逸脱せずに、改変及び変異が可能であることは明白であろう。より詳しくは、本発明の幾つかの態様が、特に有利なものとして本明細書で特定されているが、本発明は、本発明のこれらの特定の態様に限定される訳ではないことが企図される。