特許第6321852号(P6321852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6321852
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】ロボットアームのカップリング装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/04 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   B25J15/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-75988(P2017-75988)
(22)【出願日】2017年4月6日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102452
【氏名又は名称】エスアールエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090310
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 正俊
(72)【発明者】
【氏名】萩原 敏治
(72)【発明者】
【氏名】垣渕 貴美
【審査官】 永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/113031(WO,A1)
【文献】 特開2008−221390(JP,A)
【文献】 特表2009−530121(JP,A)
【文献】 特開2009−136942(JP,A)
【文献】 特開2015−171756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームに取り付けられるマスタープレートと、
ツールが取り付けられるツールプレートと、
前記マスタープレート側に設けられ、前記マスタープレートと前記ツールプレートとが面接触した状態において前記ツールプレート内に形成した孔内に先端が侵入し、非ロック位置とロック位置との間を駆動手段によって進退駆動され、前記駆動手段によって前記ロック位置においても駆動力が印加されている転動体押圧部材と、
縦断面形状が円形で、その円形縦断面が前記転動体押圧部材の先端と前記ツールプレートの孔の周面との間に位置して、前記転動体押圧部材の先端の周囲に間隔をおいて配置された複数の転動体と、
前記転動体押圧部材の前記非ロック位置から前記ロック位置への摺動に応じて前記転動体押圧部材の摺動方向にほぼ直交する転動体移動方向に沿って前記複数の転動体の円形縦断面が前記ツールプレートの孔の周面側に進行したとき、前記複数の転動体をそれぞれ受けるように、前記ツールプレートの孔の周面に設けられたツールプレート側転動体受け部とを、
有し、前記複数の転動体は、前記転動体押圧部材の周囲に環状に形成された1つの転動体押圧部材側収容部に収容され、前記転動体押圧部材側収容部は、前記摺動方向の縦断面形状が円弧状である転動体押圧部材側円弧状溝部を前記摺動方向に対して傾斜した状態で有し、前記ツールプレート側転動体受け部は、その周囲に環状に形成された1つのツールプレート側収容部を有し、前記ツールプレート側収容部は、前記摺動方向の縦断面形状が円弧状であるツールプレート側円弧状溝部を前記転動体押圧部材側円弧状溝部と反対側に傾斜した状態で有し、前記両円弧状溝部の縦断面形状における径は、前記複数の転動体の円形縦断面の径よりも小さく形成されているロボットアームのカップリング装置。
【請求項2】
請求項1記載のロボットアームのカップリング装置において、前記転動体押圧部材側円弧状溝部は、前記転動体押圧部材の摺動方向に対して0度より大きく90度未満の角度をなし、前記ツールプレート側円弧状溝部は、前記転動体押圧部材の摺動方向に対して45度以上90度未満の角度をなすロボットアームのカップリング装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のロボットアームのカップリング装置において、前記転動体押圧部材は、前記駆動手段の先端にフローティング構造で設けられているロボットアームのカップリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームにツールを脱着できるロボットアームのカップリング装置に関し、特に、そのロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームのカップリング装置は、ロボットアームに取り付けられるマスタープレートと、ツールが取り付けられるツールプレートとを、ロック手段によって結合するものが知られている。その一例が特許文献1に開示されている。特許文献1のカップリング装置のロック手段は、マスタープレートとツールプレートを接触させた状態で、マスタープレートの中央に設けたカム部材が、ツールプレートの中央に形成した孔内に侵入し、かつこの孔内を進退可能である。カム部材の先端周囲に設けた複数の鋼球が、カム部材が進行したとき、カム部材に押圧されて孔の壁面側に向けて移動して、カム部材と孔の壁面との間に介在して、マスタープレートとツールプレートをロックする。カム部材の先端面の周面には、鋼球ごとに鋼球を収容可能なマスター側鋼球収容溝が形成され、鋼球受けには、鋼球ごとに鋼球を収容可能なツール側鋼球収容溝が形成されている。これら鋼球収容溝は、縦断面形状が鋼球と線当たりするような特殊な形状とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3717923号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、鋼球収容溝の縦断面形状を鋼球と線当たりするような形状としているのは、鋼球によるロック時の接触応力を軽減するためであるが、高精度の加工を必要とする特殊な形状の鋼球収容溝を、複数の鋼球それぞれに対応して、カム部材とツールプレートとに形成しなければならず、その製造が面倒であった。
【0005】
本発明は、接触応力を軽減できるうえに製造が容易であるロボットアームのカップリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のロボットアームのカップリング装置は、ロボットアームに取り付けられるマスタープレートと、ツールが取り付けられるツールプレートとを、有している。前記マスタープレート側に転動体押圧部材が設けられて、前記ツールプレート内の孔に先端が侵入している。転動体押圧部材は、前記マスタープレートと前記ツールプレートとが面接触した状態において非ロック位置とロック位置との間を摺動可能である。例えば非ロック位置は、例えばマスタープレート側にあり、ロック位置はツールプレート側にある。前記転動体押圧部材は、駆動手段によって進退させることができ、前記ロック位置において駆動手段によって駆動力が印加されている。駆動手段と転動体押圧部材とは一体に形成することもできるし、別個に形成することもできる。前記転動体押圧部材の先端の周囲に間隔をおいて複数の転動体が配置されている。転動体は、その縦断面形状が円形のもので、例えば球体または円柱状体を使用することもできる。転動体の配置は、その円形縦断面形状が、転動体押圧部材の先端と前記ツールプレート側の孔の周面との間に位置するように行われている。前記転動体押圧部材の前記非ロック位置から前記ロック位置への摺動に応じて、前記転動体押圧部材の摺動方向にほぼ直交する転動体移動方向に沿って前記複数の転動体それぞれの円形縦断面形状が前記ツールプレートの孔の周面側に進行したとき、前記各転動体を受けるように、前記ツールプレート内に転動体受け部が設けられている。前記複数の転動体は、前記転動体押圧部材の周囲に環状に形成された1つの転動体押圧部材側収容部に収容されている。前記転動体押圧部材側収容部は、前記摺動方向の縦断面形状が円弧状である転動体押圧部材側円弧状溝部を、前記摺動方向に対して傾斜して有している。前記転動体受け部は、その周囲に環状に形成された1つのツールプレート側収容部を有し、前記ツールプレート側収容部は、前記摺動方向の縦断面形状が円弧状であるツールプレート側円弧状溝部を前記転動体押圧部材側円弧状溝部と反対側に傾斜した状態で、有している。前記両円弧状溝部の縦断面形状における径は、前記複数の転動体の円形縦断面の径よりも小さく形成されている。
【0007】
このように構成されたロボットアームのカップリング装置では、駆動手段によって駆動力が印加されたとき、転動体押圧部材が非ロック位置からロック位置に摺動し、各転動体がツールプレート側収容部側に押圧される。このとき、ツールプレート側収容部及び転動体押圧部材側収容部それぞれの円弧状溝部の径は転動体の円形縦断面の径よりも小さいので、転動体は、縦断面において両円弧状溝部にそれぞれ2点で接触し、接触点での応力を分散させている。しかも、両円弧状溝部は、複数の転動体を使用しているにも関わらず、複数の転動体に対していずれも環状の1つの溝として形成されているので、その形成が容易である。しかも、これら円弧状溝部は摺動方向に傾斜して形成されている。従って、ロック位置においても転動体押圧部材に印加されている駆動力の転動体移動方向の成分が、傾斜している転動体押圧部材側円弧状溝部によって発生し、この成分が傾斜しているツールプレート側円弧状溝部側に伝達され、この成分が、ツールプレート側円弧状溝部が傾斜していることによって、転動体をツールプレート側に押し付ける成分に変換され、これが駆動力に加わるので、転動体を押し付ける力を増大させる。従って、強固にロックすることができる。
【0008】
前記ツールプレート側円弧状溝部は、前記転動体押圧部材の摺動方向に対して45度以上90度未満の角度をなし、前記転動体押圧部材側円弧状溝部は、前記転動体押圧部材の摺動方向に対して0度より大きく90度未満の角度をなすものとすることができ、0度より大きく約45度以下とすることが望ましい。さらに、転動体押圧部材側円弧状部の円弧状部の角度をツールプレート側円弧状部の円弧状溝部の角度よりも小さくすることが望ましく、例えば前記転動体押圧部材側円弧状溝部の角度を約5度〜15度とし、前記ツールプレート側円弧状溝部の角度を45度とするのか最も望ましい。
【0009】
このように構成すると、上述したように転動体押圧部材側の円弧状溝部で転動体の移動方向の成分が発生する。特に、押圧部材側円弧状溝部の角度を0度に近い角度とすると、楔効果により駆動力よりも大きい転動体の移動方向成分を発生することができる。特にその角度を約5度〜15度とすると、かなり大きな値の転動体の移動方向成分とすることができる。またツールプレート側円弧状溝部では、その角度を45度以上90度未満とすると転動体の移動方向の成分以上の値である進退方向の転動体押しつけ力を発生させることができ、より強固にロックすることができる。
【0010】
前記転動体押圧部材は、前記駆動手段の先端にフローティング構造で設けることもできる。このように構成すると、転動体押圧部材が駆動手段の先端に対してフリーであるので、複数の転動体それぞれと転動体押圧部材とが均一に接触し、各転動体に均一に押しつけ力が印加される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によるカップリング装置によれば、転動体押圧部材側及びツールプレート側の収容部の円弧状溝部それぞれが1つの環状に形成されているので、その加工が容易であり、さらに転動体押圧部材側及びツールプレート側の収容部の円弧状溝部それぞれが転動体の円形縦断面の径より小さく、かつ転動体押圧部材の摺動方向に傾斜して形成されているので、応力を分散させることができる。また両円弧状溝部の縦断面が傾斜しているので、転動体を強固にロックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態のロボットアームのカップリング装置の分解状態の縦断面図である。
図2図1のカップリング装置の非ロック状態の縦断面図である。
図3図1のカップリング装置のロック状態の縦断面図である。
図4図1のカップリング装置のロック状態における部分拡大縦断面図である。
図5図4における転動体押圧部材及び鋼球の拡大図である。
図6図4におけるツールプレート側収容部と鋼球の拡大図である。
図7図1のカップリング装置のロック状態の説明図である。
図8】第2の実施形態のロボットアームのカップリング装置の縦断面図である。
図9】第3の実施形態のロボットアームのカップリング装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態のロボットアームのカップリング装置は、ロボットアーム(図示せず)にツールを交換可能に取り付けるためのもので、図1に示すように、マスタープレート2と、ツールプレート4とを有している。マスタープレート4は、ロボットアームに取り付けられ、ツールプレート4にはツールが取り付けられる。ツールが取り付けられたツールプレート4は、ロック手段、例えばロック機構6によって、図3に示すようにロックされる。
【0014】
図1に示すように、マスタープレート2は、ロボットアームに取り付けられる平板状のマスターボディ8を有している。マスターボディ8の中央には、その一方の面、例えば上面から他方の面、例えば下面に貫通する孔、例えば円孔10が形成されている。この円孔10は、マスターボディ8の下面側に、径が拡大された拡大部10aを有している。
【0015】
この拡大部10aに、シリンダヘッド12のフランジ14が収容されている。シリンダヘッド12は、円孔10と同心に形成された円筒状のもので、マスターボディ8の下面よりも下方に先端が突出している。このシリンダヘッド12内には、ロック機構6の一部をなす転動体押圧部材、例えば鋼球押圧部材16が上下方向に摺動可能に配置されている。この鋼球押圧部材16の詳細は後述する。
【0016】
この鋼球押圧部材16の上端から、シリンダヘッド12の上壁12aを貫通して上方に首部17が円孔10内に突出しており、その上端部には、円孔10の内周面に接触するように駆動手段、例えばピストン18が配置されている。ピストン18とシリンダヘッド12の上壁12aとの間に部屋20が形成されている。この部屋20には、マスターボディ8に形成されたポート22及び通路24を介して、流体、例えばエアーが給排される。また、円孔10の上面は、蓋26によって閉じられており、この蓋26とピストン18の上面との間には部屋28が形成されている。この部屋28には、マスターボディ8に形成されたポート30及び通路32を介して、流体、例えばエアーが給排される。
【0017】
ポート30及び通路32を介してエアーを部屋28に供給し、通路24及びポート22を介して部屋20からエアーを排気すると、ピストン18が降下し、鋼球押圧部材16も降下する。この降下状態において、逆にポート22及び通路24を介してエアーを部屋20に供給し、通路28及びポート30を介して部屋28からエアーを排気すると、ピストン18が上昇し、鋼球押圧部材16も上昇する。このように鋼球押圧部材16は、その摺動方向、例えば上下方向に摺動可能である。
【0018】
シリンダヘッド12の周囲には、所定間隔をあけて複数の貫通孔34が形成され、これら貫通孔34内には、それぞれ転動体、例えばボール、具体的には鋼球36が配置されている。これら鋼球36は、いずれも鋼球押圧部材16の先端が接触可能に配置されており、鋼球押圧部材16が降下したことにより、転動体移動方向、例えば水平方向に沿ってツールプレート4側に移動可能である。これら鋼球36もロック機構6の一部をなす。
【0019】
ツールプレート4は、マスターボディ8と同じ大きさのツールボディ38を有している。ツールボディ38には、図2に示すようにマスターボディ8の下面とツールボディ38の上面とを面接触させた状態で、マスターボディ8の円孔10と同心となる孔、例えば円孔40が上面から下面まで貫通しており、その円孔40は、シリンダヘッド12を内部に収容できる大きさである。円孔40は、ツールボディ38の上面側に径を拡大させた拡大部42を有し、この拡大部42内に収まるように平板状の収容部部材44が配置されている。収容部部材44は、円孔40と同心に上下方向に貫通した孔、例えば円孔を有し、その内周面に、各鋼球36と対向するように、ロック機構6の一部をなすツールプレート側転動体受け部、例えばツールプレート側収容部46が形成されている。ツールプレート側収容部46の詳細は後述する。
【0020】
図2に示すようにシリンダヘッド12のフランジ14の下面と収容部部材44の上面とを面接触させた状態で、鋼球36はツールプレート側収容部46に接触しているが、鋼球押圧部材16は上昇したままであり、鋼球36には接触していない。即ち、鋼球押圧部材16は非ロック位置にある。この状態においてポート30からエアーを供給し、ポート22からエアーを排気すると、図3に示すように、ピストン18が降下し、鋼球押圧部材16も降下し、鋼球36に接触し、鋼球36は水平方向に沿ってツールプレート4側に移動し、収容部部材44のツールプレート側収容部46に押し付けられ、マスタープレート2とツールプレート4とがロックされる。即ち、鋼球押圧部材16の降下位置がロック位置である。ロック位置にあるときにもピストン18へのエアーの供給は継続され、鋼球押圧部材16による各鋼球36の押圧は継続されている。なお、マスターボディ8はロボットアームに締結具、例えば転動体ト(図示せず)によって、ツールボディ38はツール、締結具、例えばボルト(図示せず)によってそれぞれ結合され、この結合が行われたうえで、ロック機構6によってロックされている。
【0021】
図4にロック状態における鋼球押圧部材16、鋼球36、収容部部材44の状態を拡大して示す。鋼球押圧部材16は、その先端、即ち下端部の全周面にテーパ面48を有している。このテーパ面48は、鋼球押圧部材16の下端から上方に向かうに従って鋼球押圧部材16の径が徐々に増大するように、鋼球押圧部材16の高さ方向に中途まで形成されている。このテーパ面48が鋼球押圧部材16の進退方向、即ち上下方向に対してなす角度は45度である。このテーパ面48の上端から鋼球押圧部材16の上端近傍まで1つの転動体押圧部材側収容部、例えば鋼球収容部50が、鋼球押圧部材16の周面全域に形成されている。
【0022】
図5にさらに拡大して示すように、この鋼球収容部50の縦断面形状は、テーパ面48に同じ角度で連ねてテーパ面52を有し、このテーパ面52に連ねて鋼球収容部50の上端まで鋼球押圧部材16の全周に亘って1つの転動体押圧部材側円弧状部、例えば円弧状溝部54が形成されている。この円弧状溝部54は、その縦断面においてマスタープレート2側にある上端が鋼球押圧部材16の進退方向に対して鋼球36側に傾くように傾斜しており、その縦断面における径は、鋼球36の径よりも小さく形成されている。そのため、鋼球36は、傾斜している円弧状溝部54の縦断面において両端の2点で円弧状溝部54に各鋼球36が接触している。実際には、この2点それぞれが通る鋼球押圧部材16の周囲に沿った円周上で各鋼球36が接触している。この円弧状溝部54の傾斜角度は、円弧状溝部54の両端を繋ぐ直線が鋼球押圧部材16の進退方向、即ち上下方向に対して約5度をなしている。
【0023】
図4に示すように、収容部部材44も、その下端部全周面にテーパ面56を有している。このテーパ面56は、その下端から上方に向かうに従って径が増大し、その角度は上下方向に対して約45度をなしている。このテーパ面56の上端から鋼球36の上端より幾分下方までの全周面に環状の1つのツールプレート側転動体受け部、例えば収容部58が形成されている。収容部58は、図6に拡大して示すようにツールプレート側収容部、例えば円弧状溝部60を有している。円弧状溝部60は、収容部部材44の全周面に亘って形成されており、その縦断面においてマスタープレート2側にある上端が鋼球押圧部材16の進退方向に対して鋼球36側に傾くように傾斜している。即ち、鋼球押圧部材16の円弧状溝部54と反対側に傾斜している。その縦断面における径も、鋼球36の径よりも小さく形成されている。そのため、鋼球36は、傾斜している円弧状溝部60の縦断面において両端の2点で円弧状溝部60に接触している。実際には、この2点それぞれが通る鋼球押圧部材16の周囲に沿った円周上で各鋼球36が接触している。この円弧状溝部60の傾斜角度は、円弧状溝部60の両端を繋ぐ直線が鋼球押圧部材16の進退方向、即ち上下方向に対して約45度をなしており、テーパ面56と同一角度である。円孔状溝部60の上端には、全周面に亘ってテーパ面62が形成され、その角度もテーパ面56と同じく約45度である。
【0024】
1個の鋼球36に対して1か所の鋼球を受ける部分を設けるのではなく、円周状に各鋼球36より小さい半径で円周溝である円弧状溝部54、60を設けているので、各鋼球36と円弧状溝部54、60の接触点を2か所と増加させることができ、鋼球36と円弧状溝部54、60との接触点での応力を軽減することができる。従って、鋼球36を受ける側である円弧状溝部54、60の加工が簡素化される。
【0025】
しかも、円弧状溝部54は、約5度傾斜している。従って、図7(a)に示すように、楔効果によって、上下方向に加えられるピストン18による押し力f1よりも大きな鋼球36の移動方向(水平方向)の鋼球押し力f2が発生し、これが鋼球36に加えられる。ここで円弧状溝部60は約45度に傾斜しているので、f2*tan45度=f2の上向きの締結力f3を発生し、この締結力f3によって鋼球36は円弧状溝部60に締結される。従って、ピストン18による押し力f1が小さい場合でも、f1を楔効果によって押しつけ力f2に増大し、これに等しい締結力f3で鋼球36を円弧状溝部60に締結することができる。このとき、ピストン18は、鋼球押圧部材16の押圧を継続しているので、鋼球36は、ピストン18による押しつけ力に、締結力f3が加えられて、鋼球36は円弧状部60に押し付けられている。
【0026】
図8に第2の実施形態のカップリング装置の部分省略縦断面図を示す。このカップリング装置では、ピストン18と鋼球押圧部材16とが別個に形成され、結合具、例えばボルト66によって結合されている。他の構成は、第1の実施形態のカップリング装置と同様であるので、詳細な説明は省略する。このようにピストン18と鋼球押圧部材16とを別個に形成すると、それぞれの製造が容易になる。
【0027】
図9に第3の実施形態のカップリング装置の部分省略縦断面図を示す。このカップリング装置では、第2の実施形態のようにピストン18と鋼球押圧部材16とを別個に形成し、ボルト66によって結合した上で、ボルト66の柱状部66aと鋼球押圧部材16との間に、カラー68を挿入してある。即ち、ボルト66の柱状部66aが内部に挿通されたカラー68は、鋼球押圧部材16の中心に上下方向に貫通するように形成した貫通円孔69に挿入されている。貫通円孔69は、下部の径が拡大されており、この拡大された下部にカラー68の下端に形成したフランジが接触している。また、カラー68の上端は、ピストン18の首部17の下端に接触している。鋼球押圧部材16の上端は、首部17の下端と微小な隙間を有している。貫通円孔69の径は、カラー68の外径よりも大きくされている。従って、鋼球押圧部材16は、ボルト66及びピストン18に対して、図10における上下左右に微小に移動可能なフローディング構造である。このようにフローティング構造とすることで、環状に配置された複数の鋼球36が、円弧状溝部54、60と均一に接触し、円弧状溝部54、60に均一に力が加わるようになる。
【0028】
上記の各実施形態では、円弧状溝部54は約5度の角度をなすように構成したが、0度よりも大きく90度未満であればよい。しかし、5度〜15度の角度とすることが望ましい。また、円弧状溝部60は約45度の角度をなすように構成したが、45度以上90度未満の角度とすることができる。上記の各実施形態では、ピストン18はエアーによって駆動したが、これに代えて圧油によって駆動することもできるし、電磁ソレノイドによって駆動することもできる。また、上記の実施形態では、マスターボディ8とシリンダヘッド12とを別個に形成したが、一体に形成することができるし、ツールボディ38と収容部部材44とを別個に形成したが、一体に形成することもできる。また、転動体として鋼球36を使用したが、例えば合成樹脂製のボールを転動体として使用することもできる。また、鋼球36のような球体に代えて、円柱体を転動体として使用することもできる。その場合、円柱体の縦断面、例えば円柱体の中心軸を通る縦断面が円形となるが、この円形縦断面が、第1の実施形態の図2若しくは図3、第2の実施形態の図4または第3の実施形態の図5において、それぞれ円形に示した鋼球36の位置に位置するように、鋼球押圧部材16の周囲に間隔をおいて複数の円柱体を配置する。こ上記の実施形態では、蓋26を設けて部屋28を閉じたが、マスターボディ8はロボットアームに取り付けられるので、取り付けられるロボットアームの面によって部屋28を閉じることもでき、その場合には、蓋26を設けても設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0029】
2 マスタープレート
4 ツールプレート
16 鋼球押圧部材(転動体押圧部材)
18 ピストン(駆動手段)
36 鋼球(転動体)
46 ツールプレート側収容部(ツールプレート側転動体受け部)
50 収容部(転動体押圧部材側収容部)
54 円弧状溝部(転動体押圧部材側円弧状溝部)
58 収容部(転動体受け部)
60 円弧状溝部(ツールプレート側円弧状溝部)
【要約】
【課題】 ロック機構における接触応力を軽減できる上に製造を容易にする。
【解決手段】 ロボットアーム用マスタープレート2とツール取付用ツールプレート4とが接触した状態でプレート2側のボール押圧部材16は、その先端がプレート4内に侵入し、非ロック位置とロック位置との間をピストン18によって進退駆動され、ロック位置で駆動力が印加されている。ボール押圧部材16の非ロック位置からロック位置への摺動に応じて、押圧部材16の先端の周囲の複数の鋼球36がプレート4側に進行したとき、プレート4のボール受け部44が鋼球36を受ける。押圧部材16の周囲に環状に形成されて鋼球36を収容しているボール収容溝58の縦断面形状が円弧状の円弧状部60が摺動方向に対して傾斜し、ボール受け部44の周囲に環状に形成されたボール収容溝50の縦断面形状が円弧状の円弧状部54は、円弧状部60と反対側に傾斜し、両円弧状部54、60の縦断面形状における径は、鋼球36の径よりも小さい。
【選択図】 図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9