(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6321932
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
F21S 41/00 20180101AFI20180423BHJP
F21S 43/00 20180101ALI20180423BHJP
F21S 45/00 20180101ALI20180423BHJP
F21V 7/00 20060101ALI20180423BHJP
F21W 103/00 20180101ALN20180423BHJP
F21W 104/00 20180101ALN20180423BHJP
F21W 105/00 20180101ALN20180423BHJP
F21W 102/00 20180101ALN20180423BHJP
F21Y 101/00 20160101ALN20180423BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20180423BHJP
F21Y 115/20 20160101ALN20180423BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20180423BHJP
【FI】
F21S8/12 254
F21S8/10 180
F21S8/12 250
F21V7/00 590
F21W101:10
F21Y101:00 100
F21Y101:00 300
F21Y115:10
F21Y115:20
F21Y115:30
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-197042(P2013-197042)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-64964(P2015-64964A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】八木 隆之
【審査官】
津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−210131(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0009851(US,A1)
【文献】
特開2013−182837(JP,A)
【文献】
特開2010−205418(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0196636(US,A1)
【文献】
特開2009−028742(JP,A)
【文献】
特開2008−272806(JP,A)
【文献】
特表2016−528671(JP,A)
【文献】
特開2012−190594(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/080859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
F21S 43/00
F21S 45/00
F21V 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
入射した光を灯具前方に投影する投影光学部材と、
前記投影光学部材の光軸上に配置され、前記光源から出射した光を前記投影光学部材外に反射させる第1状態と、前記投影光学部材に向けて反射させる第2状態と、を個別に切り替え可能な複数の光学素子が配列されてなる、傾いて配置された光偏向装置と、
を備え、
前記光偏向装置が傾いて配置されていることにより、
前記第1状態にあるときの各光学素子の中心部における法線と前記第2状態にあるときの各光学素子の中心部における法線とがなす各角度の二等分線は、互いに平行で、かつ、前記投影光学部材の光軸に対して前記光源側向きの成分を有し、
前記第1状態にあるときの各光学素子の中心部における法線と前記投影光学部材の光軸との間の角度が、前記第2状態にあるときの各光学素子の中心部における法線と前記光軸との間の角度よりも小さい
ことを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記第1状態と前記第2状態を切り替えるときに前記光学素子による反射光が移動する方向における前記投影光学部材の長さが、該方向と直交する方向における前記投影光学部材の長さよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記光源が、前記投影光学部材の光軸よりも下方に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記投影光学部材の光軸よりも下方に配置され、前記光源から出射した光を前記光偏向装置に向けて反射する反射光学部材をさらに備え、
前記反射光学部材が、前記投影光学部材の前記光偏向装置に近い側に配置されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向装置を使用する車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
多数個の微小ミラー素子がそれぞれ傾倒可能に配置されており、微小ミラー素子の傾倒角度を第1傾倒角度と第2傾倒角度とにデジタル的に切り替えて、光源からの光の反射方向をONの第1反射方向とOFFの第2反射方向とに適宜変化させることができる、光偏向装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、少なくとも一つの光源により反射された光の光路中に配置される反射性の光偏向装置を有し、光偏向装置に当たる光が、照明装置から出射する光束を形成するように反射可能である車両用照明装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−104288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、上記のような光偏向装置を使用する灯具では、ミラー素子をONにしたときの光の反射方向が投影光学部材の光軸よりも上向きとなるため、投影光学部材の光軸近傍に入射する光束が少なくなり、配光パターンの中心光度が不足するという問題がある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、光偏向装置を使用する車両用前照灯において、光偏向装置による反射光の向きを調整して、投影光学部材から投影される配光パターンの中心光度を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、光源と、入射した光を灯具前方に投影する投影光学部材と、投影光学部材の光軸上に配置され、光源から出射した光を投影光学部材外に反射させる第1状態と、投影光学部材に向けて反射させる第2状態と、を個別に切り替え可能な複数の光学素子が配列されてなる光偏向装置と、を備える車両用前照灯である。第1状態にあるときの各光学素子の中心部における法線と投影光学部材の光軸との間の角度は、第2状態にあるときの各光学素子の中心部における法線と光軸との間の角度よりも小さい。
【0008】
この態様によると、光偏向装置の各光学素子を上記のように配置することによって、光偏向装置が第2状態にあるとき、投影光学部材の光軸近傍に入射する光束を増やすことができる。この結果、投影光学部材から投影される配光パターンの中心光度を高めることができ、車両用前照灯でハイビームを形成したり、ADB(Adaptive Driving Beam)を実行したりするときに有利となる。
【0009】
第1状態と第2状態を切り替えるときに光学素子による反射光が移動する方向における投影光学部材の長さが、この方向と直交する方向における投影光学部材の長さよりも小さくてもよい。これによると、投影光学部材の左右方向の幅を大きくして、投影光学部材から投影される配光パターンの中心光度を高めることができる。
【0010】
光源が、投影光学部材の光軸よりも下方に配置されてもよい。
【0011】
投影光学部材の光軸よりも下方に配置され、光源から出射した光を光偏向装置に向けて反射する反射光学部材をさらに備え、反射光学部材が、投影光学部材の光偏向装置に近い側に配置されてもよい。このように反射光学部材を光源の近傍に備えることで、射出光束を絞ることができ、投影光学部材から投影される配光パターンの中心光度をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光偏向装置を使用する車両用前照灯において、光偏向装置による反射光の向きを調整して、投影光学部材から投影される配光パターンの中心光度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用前照灯の概略構造を示す鉛直断面図である。
【
図2】車両用前照灯の内部構造を模式的に示す斜視図である。
【
図3】従来の車両用前照灯における光偏向装置の概略断面図である。
【
図4】従来の車両用前照灯における、ミラー素子のOFF時の位置とON時の位置を示す図である。
【
図5】(A)は、従来の車両用前照灯における入射光と反射光の広がりを模式的に示す図であり、(B)は、投影光学部材の正面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る車両用前照灯おける光偏向装置の概略断面図である。
【
図7】(A)、(B)は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯における、ミラー素子のOFF時の位置とON時の位置を示す図である。
【
図8】(A)は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯における入射光と反射光の広がりを模式的に示す図であり、(B)は、投影光学部材の正面図である。
【
図9】(A)〜(C)は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯により形成される配光パターンの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯1の概略構造を示す鉛直断面図である。
図2は、車両用前照灯1の内部構造を模式的に示す斜視図である。車両用前照灯1は、車両前方の左右に一つずつ配置される。なお、左右の車両用前照灯は、一部の部品が左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成である。
【0015】
車両用前照灯1は、車両前方側に開口部を有するランプボディ2と、ランプボディ2の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー4とを備える。透光カバー4は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ2と透光カバー4とにより形成される灯室3内には、光源10と、反射光学部材20と、光偏向装置30と、投影光学部材50とが収容される。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ2に取り付けられる。
【0016】
光源10は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
【0017】
反射光学部材20は、光源10から出射した光を光偏向装置30の反射面に導くように構成されており、例えば、砲弾形状の中実導光体や、内面が所定の反射面となっている反射鏡等が用いられる。なお、光源12から出射した光を光偏向装置30の反射面に直接導ける場合は、反射光学部材20を設けなくてもよい。
【0018】
光偏向装置30は、投影光学部材50の光軸上に配置され、光源10から出射した光を選択的に投影光学部材50へ反射するように構成されている。光偏向装置30は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System)やDMD(Digital Mirror Device)といった複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源10から出射した光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光源10から出射した光の一部を投影光学部材50へ向けて反射し、それ以外の光を投影光学部材50外の方向へ向けて反射することができる。
【0019】
図3は、光偏向装置30の概略断面図である。光偏向装置30は、複数の微小なミラー素子32がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ34と、ミラー素子32の反射面32aの前方側(
図3では右側)に配置された透明なカバー部材36と、を有する。ミラー素子32は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子をほぼ等分する回動軸32bを有している。
【0020】
マイクロミラーアレイ34の各ミラー素子32は、光源から出射した光を投影光学部材外に反射する第1のOFF状態(
図3に点線で表す)と、光源から出射した光を投影光学部材に向けて反射する第2のON状態(
図3に実線で表す)と、の間で個別に切り替え可能に構成されている。
【0021】
図1に戻り、投影光学部材50は、例えば、前方側表面及び後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなり、投影光学部材50の後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。投影光学部材50は、その後方焦点が車両用前照灯1の光軸上、かつ光偏向装置30のマイクロミラーアレイ34の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材50はリフレクタであってもよい。
【0022】
図2を参照して、光源10から出射した光は、反射光学部材20で反射されて、光偏向装置30のマイクロミラーアレイに照射される。ここで、入射光は、光偏向装置30上にある分布をもって照射される。したがって、
図2に示すように、光偏向装置30上には、入射光が照射される第1照度領域R1と、入射光が実質的に照射されない第2照度領域R2からなる照度分布が形成される。
【0023】
光偏向装置30は、第1照度領域R1と重なるミラー素子の一部を照射状態として配光パターンを形成するための光を灯具前方に照射するとともに、第1照度領域R1と重なるミラー素子の残部を非照射状態として所定の配光パターン形状を形成することができる。車両用前照灯1が形成する配光パターンの例については、
図9を参照して後述する。
【0024】
光源10の出射強度調節および光偏向装置30の各ミラー素子のオン/オフ制御は、制御部300により実行される。制御部300は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。なお、制御部300は、
図1では灯室3外に設けられているが、灯室3内に設けられてもよい。制御部300は、撮像装置312に接続された画像処理装置310、ステアリングセンサ320、ナビゲーションシステム330、図示しないライトスイッチ等からの信号を受信する。そして、制御部300は、受信した信号に応じて、光源10および光偏向装置30に各種の制御信号を送信する。
【0025】
図4は、光偏向装置30の長手方向が略垂直になるように配置された従来の車両用前照灯における、各ミラー素子32のOFF時の位置(点線で表す)とON時の位置(実線で表す)を示す図である。図から分かるように、従来の構成では、ミラー素子は、OFF時の位置とON時の位置とが鉛直軸に対して対称になっていた。言い換えると、OFF時のミラー素子の中心部における法線N
OFFと、ON時のミラー素子の中心部における法線N
ONの二等分線Mが、投影光学部材の光軸Xと略平行になっていた。
【0026】
図5(A)は、従来の車両用前照灯における入射光と反射光の広がりを模式的に示す図である。
図5(A)には、光源10から出射され反射光学部材20により反射されてマイクロミラーアレイに入射する入射光の広がりIと、OFF時、ON時にそれぞれマイクロミラーアレイで反射された反射光の広がりE1、E2とが模式的に示されている。なお、
図5(A)では、説明を簡略化するためにマイクロミラーアレイを一つのミラー素子に置き換えて図示している。
【0027】
光源10から出射した光は反射光学部材20により反射されるため、入射光Iは完全な平行光とはならない。つまり、入射光Iは、ミラー素子32の反射面32aに入射する際の入射角がある程度の広がりを持つ。そして、ミラー素子32は、OFF時の位置で入射光Iを反射した場合に、反射光E1が投影光学部材60に向かわないように、かつ、ON時の位置で入射光Iを反射した場合に、反射光E2が投影光学部材60に向かうように配置されている。
【0028】
図5(A)に示すように、従来の車両用前照灯の構成では、ON時の反射光E2が投影光学部材60の光軸Xよりもやや上向きとなるため、投影光学部材の光軸近傍に入射する光束が少なくなってしまう上、投影光学部材の下側の部分を活用することができない。このため、
図5(B)に正面図で示すように、投影光学部材60の下側を切り欠いて使用することもあった。
【0029】
投影光学部材の光軸近傍に入射する光束が少ないと、車両用前照灯でハイビーム配光パターンを形成したり、または対向車や前走車など前方車両の位置に応じて配光パターンを制御するADB(Adaptive Driving Beam)を実行したりするときに重要である中心光度(仮想鉛直スクリーン上での水平線と垂直線の交点近傍の光度)が不足するという点で問題になりうる。
【0030】
そこで、本実施形態では、
図6に示すように、光偏向装置30を、前面のカバー部材36がやや下向きになるように傾斜させて配置するようにした。これについて、
図7を参照してより具体的に説明する。
【0031】
図7(A)は、本実施形態に係る車両用前照灯における、ミラー素子のOFF時の位置(点線で表す)とON時の位置(実線で表す)を示す図である。図示のように、OFF時のミラー素子32の中心部における法線N
OFFと投影光学部材の光軸X(またはその平行線)との間の角度αが、ON時のミラー素子32の中心部における法線N
ONと光軸X(またはその平行線)との間の角度βよりも小さくなるように、光偏向装置30が傾斜されている。これは、
図7(B)に示すように、OFF時のミラー素子の法線N
OFFと、ON時のミラー素子の法線N
ONとがなす角度の二等分線Mが、投影光学部材の光軸Xに対して下向きの成分を有していると言い換えることも可能である。
【0032】
図8(A)は、本実施形態に係る車両用前照灯における入射光と反射光の広がりを模式的に示す図である。
図5(A)と同様に、
図8(A)には、光源10から出射され反射光学部材20により反射されてマイクロミラーアレイに入射する入射光の広がりIと、OFF時、ON時にそれぞれマイクロミラーアレイで反射された反射光の広がりE1、E2とが模式的に示されている。なお、
図8(A)では、説明を簡略化するためにマイクロミラーアレイを一つのミラー素子に置き換えて図示している。
【0033】
図8(A)に示すように、光偏向装置30を下向きに傾斜させて配置することによって、ON時の反射光の広がりE2の中心を、投影光学部材50の光軸Xに向けることができるので、投影光学部材の光軸近傍に入射する光束を増やすことができる。この結果、投影光学部材から投影される配光パターンの中心光度を高めることができ、車両用前照灯でハイビームを形成したり、ADB(Adaptive Driving Beam)を実行したりするときに有利となる。
【0034】
また、ON時の反射光の広がりE2を投影光学部材50に対して上下に偏りなく配置できるため、
図8(B)に正面図で示すように、従来よりも投影光学部材50を大型にすることができる。
【0035】
さらに、光偏向装置30を下向きに傾けることによって、マイクロミラーアレイを構成するミラー素子のうち、配光パターンの下側を形成するミラー素子が投影光学部材の像面湾曲に沿うようになる。この結果、配光パターンの下側すなわち路面側で像のピントが合いやすくなり、路面に鮮明な明暗分布を形成することができる。
【0036】
光偏向装置30でOFF状態とON状態を切り替えるときにミラー素子による反射光が移動する方向(本実施形態では上下方向)における投影光学部材50の長さは、この方向と直交する方向(本実施形態では左右方向)における投影光学部材50の長さよりも小さいことが好ましい。こうすると、投影光学部材50へのOFF時の反射光の入射を防止し、投影される配光パターンの中心光度をさらに高めることができる。
【0037】
本実施形態では、光源10および反射光学部材20がともに投影光学部材50の光軸よりも下方に配置され、反射光学部材20が、投影光学部材50よりも光源10および光偏向装置30に近づけて配置されている。このように反射光学部材を光源の近傍に配置することで、反射光学部材からの射出光束を絞ることができる。一例として、光源10を矩形の平面光源とした場合、光源10の発光面の法線に対し、射出光束を上下±30°以内、左右±50°以内に抑えることができる。こうすると、投影光学部材から投影される配光パターンの中心光度をさらに高めることができる。
【0038】
図9(A)〜(C)は、本実施形態に係る車両用前照灯1により形成される配光パターンの一例を示す模式図である。
図9の各図は、灯具前方の所定位置(例えば25m前方)に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成された配光パターンを示している。
【0039】
図2に示したように、光偏向装置30上には、略楕円形状の第1照度領域R1が形成される。そして、第1照度領域R1と重なるミラー素子が照射状態とされて、第1照度領域R1を形成する光が投影光学部材50を介して灯具前方に照射される。これにより、
図9(A)に示すように、略楕円形状のハイビーム用配光パターンPHが形成される。すなわち、第1照度領域R1とハイビーム用配光パターンPHとは略相似形状である。光偏向装置30は、第1照度領域R1と重なるミラー素子のうち、周縁部に位置するミラー素子を非照射状態として、ハイビーム用配光パターンPHの輪郭を明瞭化する等の処理を実施してもよい。ハイビーム用配光パターンPHの形状は公知であるため、その詳細な説明は省略する。
【0040】
また、車両用前照灯1は、第1照度領域R1と重なるミラー素子の一部を照射状態とし、残部を非照射状態とすることで、所望の形状の配光パターンを形成することができる。例えば、
図9(B)に示すように、水平線Hより上方かつ左側に光照射領域を有し、右側に遮光領域が形成された、いわゆる左片ハイ用配光パターンPHLを形成することができる。また、左片ハイ用配光パターンPHLに限らず、右片ハイ用配光パターンやロービーム用配光パターン、水平線Hより上方の中央部に遮光領域を有しこの遮光領域の水平方向両側に光照射領域を有する、いわゆるスプリット配光パターン等も形成することができる。
【0041】
また、
図9(C)に示すように、車両用前照灯1は、ハイビーム用配光パターンPHにおける他車両や歩行者と重なる領域に、遮光領域Sを形成することができる。これにより、他車両や歩行者にグレアを与えるおそれの低減と、運転者の視認性の向上との両立を図ることができる。遮光領域Sは、例えば次のようにして形成することができる。
【0042】
すなわち、画像処理装置310は、カメラ等の撮像装置312で撮像された画像データを取得し、画像処理を施す。これにより、画像処理装置310は、画像データ中に含まれる車両や歩行者を特定し、これらの位置を検出する。車両や歩行者を特定する技術や位置を検出する技術は公知であるため説明を省略する。検出された車両や歩行者の位置情報は制御部300に送られる。制御部300は、車両や歩行者の位置情報を用いて、ハイビーム用配光パターンPHにおける車両や歩行者の存在位置に遮光領域Sを形成するよう、光偏向装置30を制御する。光偏向装置30は、第1照度領域R1と重なるミラー素子のうち、遮光領域Sに対応するミラー素子を非照射状態とする。これにより、ハイビーム用配光パターンPH中に遮光領域Sが形成される。
【0043】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明した。本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれる。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0044】
実施の形態では、光偏向装置のマイクロミラーアレイを構成する各ミラー素子が、水平方向に延びミラー素子をほぼ等分する回動軸を有していることを述べた。この代わりに、マイクロミラーアレイを構成する各ミラー素子が、正方形のミラー素子の対向する頂点を結ぶような回動軸を有していてもよい。この場合、ミラー素子の回動軸が略水平になるように、光偏向装置を約45°傾斜させて配置すれば、このような光偏向装置も本発明に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 車両用前照灯、 10 光源、 20 反射光学部材、 30 光偏向装置、 32 ミラー素子、 34 マイクロミラーアレイ、 50 投影光学部材。