【実施例】
【0033】
以下、本発明に係る磁気軸受装置の好適な実施例について、
図1乃至
図5を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例に適用される5軸制御型磁気軸受の概略構成図である。この5軸制御型磁気軸受は、ラジアル4軸に制御用電磁石と変位センサを配置し、アキシャル1軸に制御用電磁石と変位センサを配置した構成を示している。すなわち、この5軸制御型磁気軸受は、回転軸回りの自由度を除く5自由度(重心の並進運動について3つの自由度、重心周りの回転運動について2つの自由度)の運動を能動的に制御するように構成されている。
【0034】
この5軸制御型磁気軸受は、DCモータ1により回転駆動されるロータ軸(回転軸)2の上方側の半径方向(ラジアル方向)に、4個のラジアル電磁石3xp、3xm、3yp、3ymが、それぞれ、X軸、Y軸ごとにペア(一対)で配置されている。また、各ラジアル電磁石3xp、3xm、3yp、3ymの位置に対応して、それぞれラジアルセンサ4xp、4xm、4yp、4ymが配置されている。同様にして、DCモータ1の下方側におけるロータ軸2の半径方向(ラジアル方向)に4個のラジアル電磁石5xp、5xm、5yp、5ymが、それぞれ、X軸、Y軸ごとにペアで配置されている。また、各ラジアル電磁石5xp、5xm、5yp、5ymの位置に対応して、それぞれラジアルセンサ6xp、6xm、6yp、6ymが配置されている。これらの8個のラジアル電磁石3xp、3xm、3yp、3ym、5xp、5xm、5yp、5ymによってラジアル磁気軸受を構成している。
【0035】
さらに、ロータ軸2の軸方向(アキシャル方向)には、2個のアキシャル電磁石7zm、7zpが上下ペアで配置され、アキシャル磁気軸受を構成している。尚、ロータ軸2の下端部にはアキシャルセンサ8zが配置されている。
【0036】
これらのラジアル電磁石3xp、3xm、3yp、3ym、5xp、5xm、5yp、5ymとラジアルセンサ4xp、4xm、4yp、4ym、6xp、6xm、6yp、6ymは、X軸、Y軸方向がそれぞれペアで独立してフィードバック制御系を構成し、電流(励磁電流)を制御して各ラジアル電磁石の吸引力を調節している。これによって、ロータ軸2は、回転軸が中心位置となるように制御されながらDCモータ1によって回転駆動される。尚、アキシャル電磁石7zm、7zpとアキシャルセンサ8zもフィードバック制御系を構成している。尚、上述したX軸、Y軸、Z軸方向を詳細に説明すると次のようになる。
図1の上部軸受側のX軸はXh軸、上部軸受側のY軸はYh軸となる。また、
図1の下部軸受側のX軸はXb軸、下部軸受側のY軸はYb軸となる。さらに、ロータ軸2の軸方向はZ軸となる。
【0037】
図2は、本発明の一実施例に適用される磁気軸受を備えた真空ポンプの構成を示す断面図である。この真空ポンプは複合翼を備えたターボ分子ポンプを構成している。
図2に示すように、真空ポンプ21の中央部分にロータ軸2が回転自在に配置され、そのロータ軸2の中央部には該ロータ軸2を回転駆動させるためのDCモータ1が取り付けられている。また、DCモータ1の上部に位置するロータ軸2のラジアル方向にはラジアル電磁石3が配置されて、ロータ軸2の一方の磁気軸受を構成している。尚、ラジアル電磁石3の近傍には、ロータ軸2の変位を検出するためのラジアルセンサ4が配置されている。
【0038】
また、DCモータ1の下部に位置するロータ軸2のラジアル方向にはラジアル電磁石5が配置されて、ロータ軸2の他方の磁気軸受を構成している。尚、ラジアル電磁石5の近傍には、ロータ軸2の変位を検出するためのラジアルセンサ6が配置されている。
【0039】
さらに、ロータ軸2の下端部近傍にはアキシャル方向にアキシャル電磁石7が配置され、ロータ軸2のアキシャル方向の磁気軸受を構成している。また、ロータ軸2の下端部にはロータ軸2のアキシャル方向の変位を検出するためのアキシャルセンサ8が配置されている。尚、ロータ軸2の上端部及び下端部には、それぞれ、保護用ドライベアリング11,12が配置され、ラジアル磁気軸受4,5の発振などによってロータ軸2が異常に変位するのを抑制している。
【0040】
また、真空ポンプ21の固定側にはステータ翼13が配置され、そのステータ翼13に対向してロータ翼14が回転自在に配置されている。このような構成により、DCモータ1の回転駆動によってロータ軸2が回転すると、ロータ翼14がステータ翼13に対して相対的に回転するので、図示しない容器からの空気は吸気口フランジ15から吸引されて排気口フランジ16より外部へ排出される。このような真空ポンプ21は、例えば、800Hz(1.25msec/1回転)の回転速度で高速回転するため、所望の容器内を極めて高い真空状態に維持することができる。
【0041】
図3は、本発明の一実施例に適用される真空ポンプを半導体製造措置に取り付けたときの取付姿勢を示す概念図である。
図3に示すように、真空ポンプ21は、半導体製造装置22に対して最適な姿勢で取り付けられる。例えば、図の下方を重力の方向とすると、真空ポンプ21aのように垂直方向に取り付けたり、真空ポンプ21bのように傾斜方向に取り付けたり、真空ポンプ21cのように水平方向に取り付けたり、或いは、真空ポンプ21dのように倒立方向に取り付けたりすることができる。
【0042】
図3に示すように、真空ポンプ21aのように半導体製造装置22に対して垂直方向に取り付けた場合は、磁気軸受のロータ軸の自重はラジアル方向の電磁石側には全く加わらないが、真空ポンプ21cのように半導体製造装置22に対して水平方向に取り付けた場合は、磁気軸受のロータ軸の全自重がラジアル方向の電磁石側に加わる。すなわち、真空ポンプ21は様々な姿勢で半導体製造装置22に取り付けられるため、該真空ポンプ21に構成される磁気軸受の電磁力には、重力のベクトル方向に起因して、ロータ軸の自重が変動的に加算(減算)される。そのため、真空ポンプ21の取付姿勢に関わらず磁気軸受の剛性を安定的に維持するためには、比較的簡単なアルゴリズムで磁気軸受の電流を適正に制御する必要がある。そこで、本発明の実施例では、磁気軸受の取付姿勢によって変動する電磁石の不安定ばね定数の力(不安定要素)を抽出し、この不安定要素を不安定補償ゲインとしている。そして、磁気軸受の取付姿勢によらず一義的に決まっている基本ゲインに不安定補償ゲインを加算してゲイン指令値を生成している。さらに、このゲイン指令値に基づいて、それぞれの取付姿勢に最適な電流指令値を生成し、生成された電流指令値によって、一対の電磁石を適正に制御している。以下、これについて詳細に説明する。
【0043】
図4は、本発明の一実施例に適用される磁気軸受と制御機器とからなる磁気軸受装置の構成を示す概念図である。
図4に示すように、磁気軸受装置20は、磁気軸受23と制御機器24とを備えて構成されている。ラジアル方向の磁気軸受23は、ロータ軸2のx方向(+x〜−xの方向)において、一対のラジアル電磁石(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm)が対向して配置されている。また、それぞれのラジアル電磁石(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm)の近傍には、それぞれ、x方向のロータ軸変位を検出するラジアルセンサ(+xセンサ4xpと−xセンサ4xm)が配置されている。そして、各ラジアルセンサ(+xセンサ4xpと−xセンサ4xm)からの変位信号Sxp、Sxmが制御機器24へフィードバックされている。また、制御機器24からの制御信号(電流)Ixp、Ixmが、x軸の一対のラジアル電磁石(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm)へ供給されている。従って、変位信号Sxp、Sxmのフィードバックによって制御された電流Ixp、Ixmにより、+x電磁石3xpと−x電磁石3xmの吸引力が制御され、その結果、ロータ軸2は基準位置(中心位置)へ復帰するように働く。
【0044】
さらに、ラジアル方向の磁気軸受23は、ロータ軸2のy方向において、一対のラジアル電磁石(+y電磁石3ypと−y電磁石3ym)が対向して配置されている。また、それぞれのラジアル電磁石(+y電磁石3ypと−y電磁石3ym)の近傍には、それぞれ、y方向のロータ軸変位を検出するラジアルセンサ(+yセンサ4ypと−yセンサ4ym)が配置されている。尚、
図4は、x軸方向の電流を説明する図であるため、y方向のラジアル電磁石(+y電磁石3ypと−y電磁石3ym)及びy方向のラジアルセンサ(+yセンサ4ypと−yセンサ4ym)については信号系統が省略されている。また、
図4では、x軸、y軸のそれぞれのラジアルセンサ4xp、4xm、4yp、4ymは、それぞれのラジアル電磁石3xp、3xm、3yp、3ymに固定されているように見えるが、それぞれのラジアルセンサ4xp、4xm、4yp、4ymとそれぞれのラジアル電磁石3xp、3xm、3yp、3ymは取付け高さの位置が異なるため、実際には両者は固定されていない。尚、ロータ軸2が異常変位したときは、その両端付近で保護用ドライベアリング11、12で支持されるように構成されている(
図2参照)。
【0045】
このような構成により、変位センサであるラジアルセンサ(+xセンサ4xp、−xセンサ4xm)がロータ軸2の位置を検出して制御機器24へ変位信号Sxp、Sxmをフィードバックする。すると、制御機器24は、あらかじめ記憶されている基準位置との差に基づいて信号処理を行い、ラジアル電磁石(+x電磁石3xp、−x電磁石3xm)に流す電流を適正に決定する。そして、制御機器24内の電流制御アンプ(図示せず)からラジアル電磁石(+x電磁石3xp、−x電磁石3xm)へ所望の電流(Ixp、Ixm)を供給する。これによって、ラジアル電磁石(+x電磁石3xp、−x電磁石3xm)は所望の吸引力によってロータ軸2を基準位置(ラジアル方向x軸の中心位置)へ復帰させるように働く。ラジアル方向のy軸についても同様の動作を行い、ロータ軸2を基準位置(ラジアル方向y軸の中心位置)へ復帰させるように働く。
【0046】
図5は、本発明の一実施例に適用される磁気軸受の制御機器の制御系統を示すブロック図である。この図は、磁気軸受のロータ軸におけるラジアル方向のXh軸に介在する一対の電磁石(ラジアル電磁石)の電流を制御する制御機器の制御系統についてのみ表示している。
【0047】
先ず、
図5に示す磁気軸受の制御機器の構成、及びそれぞれの要素の機能について説明する。制御機器24は、ラジアル方向に対向している一対の電磁石の電流の制御を個別に行う電流制御アンプ31xp、31xmと、電流制御アンプ31xp、31xmからの電流検出値をそれぞれ二乗化する二乗器32xp、32xmと、それぞれ二乗化された電流検出値を加算する加算器33と、電流検出値の二乗・加算値を平均化するローパスフィルタ34と、ローパスフィルタ34から出力された電流検出値の二乗・加算値に補正係数を乗算して補正ゲイン指令値の平均値を求める補正係数乗算器35と、補正係数乗算器35から出力された補正ゲイン指令値と基本ゲイン設定値とを加算してゲイン指令値Gを求める加算器36と、ロータ軸のラジアル方向の4軸とスラスト方向の1軸の位置情報を有する力指令中間信号を処理して出力する補償器37と、補償器37から出力されたXh軸の力指令中間信号をゲイン指令値Gに基づいて増幅処理するゲインアンプ38と、ゲインアンプ38から出力された非線形な力−電流指令中間信号の特性を線形化する力一電流リニアライザ39と、線形化された電流指令中間信号を分岐して一方の信号を反転させる反転器40と、反転しない方の電流指令中間信号とバイアス電流設定値とを加算して電流指令値を求め電流制御アンプ31xpへ出力する加算器41xpと、反転器40で反転された電流指令中間信号とバイアス電流設定値とを加算して電流指令値を求めて電流制御アンプ31xmへ出力する加算器41xmとを備えて構成されている。
【0048】
次に、
図5に示す各要素の機能について詳細に説明する。電流制御アンプ31xpは、ロータ軸のラジアル方向に対向している一方の+x電磁石3xp(
図4参照)へ適正な電流(励磁電流)を流すための機能を備えている。電流制御アンプ31xmは、ロータ軸のラジアル方向に対向している他方の−x電磁石3xm(
図4参照)へ適正な電流(励磁電流)を流すための機能を備えている。
【0049】
二乗器32xp及び二乗器32xmは、それぞれ、電流制御アンプ31xp及び電流制御アンプ31xmから、磁気軸受のロータ軸(図示せず)をそれぞれx軸の反対方向に引き合う電磁石ペア(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm)の電流検出値(Ixhp、Ixhm)を取得して、これらの電流検出値(Ixhp、Ixhm)をそれぞれ二乗化する機能を備えている。加算器33は、二乗器32xp、32xmでそれぞれ二乗化された電流検出値を加算して(Ixhp^2+Ixhm^2)を求める機能を備えている。ローパスフィルタ34は、ノイズ等を除去するために、加算器33から出力された電流の二乗・加算値(Ixhp^2+Ixhm^2)を平均化する機能を備えている。
【0050】
補正係数乗算器35は、加算器33からローパスフィルタ34を介して出力された電流の二乗・加算値(Ixhp^2+Ixhm^2)に対して、ロータ軸の変位を補正するための補正係数Kcdを乗算し、磁気軸受の不安定ばね定数を補正するための補正ゲイン指令値Kcomp=Kcd(Ixhp^2+Ixhm^2)の平均値を計算する機能を備えている。加算器36は、補正係数乗算器35から出力された補正ゲイン指令値Kcompと磁気軸受の配置姿勢によらずあらかじめ設定されている基本ゲイン設定値Kctrlとを加算してゲイン指令値G(Kctrl+Kcomp)を求める機能を備えている。
【0051】
補償器37は、ロータ軸のラジアル方向の4軸Pxh、Pyh、Pxb、Pybとスラスト方向の1軸Pzからの位置信号を処理して、ロータ軸の位置情報を有する力指令中間信号を出力する機能を備えている。尚、位置信号Pxhは、
図1に示す5軸制御型磁気軸受における上部のX軸(Xh軸)方向の一対の電磁石3xp、3xmの相対的位置ずれを検出する一対のラジアルセンサ4xp、4xmの信号である。また、位置信号Pyhは、
図1に示す5軸制御型磁気軸受における上部のY軸(Yh軸)方向の一対の電磁石3yp、3ymの相対的位置ずれを検出する一対のラジアルセンサ4yp、4ymの信号である。同様にして、位置信号Pxbは、
図1に示す5軸制御型磁気軸受における下部のX軸(Xb軸)方向の一対の電磁石5xp、5xmの相対的位置ずれを検出する一対のラジアルセンサ6xp、6xmの信号であり、位置信号Pybは、下部のY軸(Yb軸)方向の一対の電磁石5yp、5ymの相対的位置ずれを検出する一対のラジアルセンサ6yp、6ymの信号である。また、位置信号Pzは、上下ペアでZ軸方向に配置されているアキシャル電磁石7zm、7zpの相対的位置ずれ(スラスト方向の位置ずれ)を検出するアキシャルセンサ8zの信号である。このような5軸全ての位置信号の処理系統を表示すると、信号処理系統の図が複雑になるので、
図5では代表的に位置信号Pxhのみの信号処理系統が表示されている。ゲインアンプ38は、補償器37で生成されて出力されたXh軸の力指令中間信号を入力し、加算器36から出力されて設定されたゲイン指令値G(Kctrl+Kcomp)に基づいて、Xh軸の力指令中間信号を増幅処理する機能を備えている。
【0052】
力一電流リニアライザ39は、ゲインアンプ38から出力された非直線性を有する電流指令中間信号(力−電流特性の信号)を、バイアス電流設定値に基づいて線形化する機能を備えている。尚、力一電流リニアライザ39は、バイアス電流設定値を検出して、一対の電磁石5xp、5xmの両方に電流が存在しないときのみ回路の切り替えを行って線形化機能を有効化している。反転器40は、力一電流リニアライザ39から出力された線形の電流指令中間信号が分岐された一方の信号を反転させる機能を備えている。加算器41xpは、反転しない方の電流指令中間信号とバイアス電流設定値OChとを加算して電流指令値Cxhpを求め、この電流指令値Cxhpを電流制御アンプ31xpへ出力する機能を備えている。加算器41xmは、反転器40で反転された電流指令中間信号とバイアス電流設定値OChとを加算して電流指令値Cxhmを求め、この電流指令値Cxhmを電流制御アンプ31xmへ出力する機能を備えている。
【0053】
次に、
図5に示す磁気軸受の制御機器の動作について
図4を参照しながら説明する。ここでは、ロータ軸のラジアル方向のXh軸に対向する一対の電磁石(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm:
図4参照)のバイアス電流を制御する場合を例に挙げて説明する。
【0054】
先ず、ロータ軸をそれぞれ反対方向に引き合う一対の電磁石ペア(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm)の電流検出値(Ixhp、Ixhm)を、それぞれ、電流制御アンプ31xp、31xmから取得し、二乗器32xp、32xmと加算器33とを用いて電流検出値の二乗の和(Ixhp^2+Ixhm^2)を計算する。そして、ローパスフィルタ34を通して(Ixhp^2+Ixhm^2)を平均化した後、補正係数演算器35で平均化した(Ixhp^2+Ixhm^2)に補正係数Kcdを乗算し、磁気軸受の不安定性(不安定ばね定数)を補正する補正ゲイン指令値Kcomp=Kcd(Ixhp^2+Ixhm^2)の平均値を計算する。尚、二乗器32xp、32xmへ入力するのは、電流検出値(Ixhp、Ixhm)ではなく、バイアス電流指令値(Cxhp、Cxhm)であってもよい。また、ローパスフィルタ34を用いなくても基本的な動作には支障はないが、磁気軸受のロータ軸の回転によって生じるノイズ障害などを防止するためにローパスフィルタ34を用いることが望ましい。
【0055】
次に、加算器36が、補正係数演算器35で求めた補正ゲイン指令値Kcompと、磁気軸受の配置姿勢によらず一義的に決まる基本ゲインKctrlとを加算してゲイン指令値G(Kctrl+Kcomp)を求め、このゲイン指令値G(Kctrl+Kcomp)をゲインアンプ38に設定する。
【0056】
一方、補償器37は、ラジアル方向4軸のPxh、Pyh、Pxb、Pybからのロータ軸の位置信号をそれぞれ処理して、各軸の力指令中間信号を生成する。ここでは、補償器37がXh軸の力指令中間信号を生成する場合について説明する。補償器37で生成されたXh軸の力指令中間信号は、ゲイン指令値G(Kctrl+Kcomp)の設定されたゲインアンプ38に入力される。これによって、ゲインアンプ38は、磁気軸受の配置姿勢に基づく基本ゲインKctrlに対して不安定ばね定数が補正されたゲイン指令値G(Kctrl+Kcomp)に基づいて、Xh軸の力指令中間信号を増幅処理して出力する。
【0057】
次に、電磁石の吸引力は電流の二乗に比例するために力一電流特性は非直線性を有するので、ゲインアンプ38からの出力信号(力指令中間信号)は、力一電流リニアライザ39に入力されてバイアス電流設定値OChにより線形化される。従って、力一電流リニアライザ39は、バイアス電流設定値OChを検出して、電流が存在するときのみ回路の切り替えを行って線形化機能を有効化している。尚、力一電流リニアライザ39は用いなくてもよいが、その場合は電流補正の制御性能が劣化する。
【0058】
次に、力一電流リニアライザ39の出力の力指令中間信号を分岐し、一方の信号はそのままの極性として、他方の信号を反転器40で反転させる。これは、ロータ軸のラジアル方向におけるXh軸の両側に対向して介在する一対のラジアル電磁石(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm)に対して反対極性の電流を流すためである。
【0059】
すなわち、力一電流リニアライザ39から出力された分岐信号の一方の力指令中間信号は、そのまま加算器41xpでバイアス電流設定値OChが加算されて電流指令値Cxhpとして生成され、分岐信号の他方の力指令中間信号は、反転器40によって反転されてから加算器41xmでバイアス電流設定値OChが加算されて電流指令値Cxhmとして生成させる。言い換えると、ラジアル方向において反対方向に引き合う電磁石ペア(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm)のそれぞれの電流指令値(Cxhp、Cxhm)が生成され、これらの電流指令値(Cxhp、Cxhm)がそれぞれ電流制御アンプ31xp、31xmに入力される。
【0060】
これによって、電流制御アンプ31xpから、磁気軸受の配置姿勢に基づく不安定ばね定数が補正された電流が、ラジアル方向におけるXh軸の一方に配置されたラジアル電磁石(+x電磁石3xp)に流れ、電流制御アンプ31xmから、磁気軸受の配置姿勢に基づく不安定ばね定数が補正された電流が、ラジアル方向におけるXh軸の他方に配置されたラジアル電磁石(−x電磁石3xm)に流れる。
【0061】
すなわち、磁気軸受のロータ軸が重力に対して垂直に設置された場合はXh軸には重力がかからないので、電磁石にはバイアス電流設定値OChに応じた小さな電流しか流れない。そのため、ゲインアンプ38に設定されるゲイン指令値G(Kctrl+Kcomp)は小さい値になり、低いゲインで磁気軸受の電流が制御される。
【0062】
ここで、ロータ軸の姿勢が水平に変更されると、Xh軸には重力に対抗してロータ軸を浮上させるために大きな電流が電磁石に流れる。大きな電流が流れると、磁気軸受の不安定ばね定数Kdが増大し、そのままでは磁気軸受の剛性が低下してしまう。そこで、本発明における実施例の構成では、ゲインアンプ38に設定されるゲイン指令値G(Kctrl+Kcomp)が大きな値となり、高いゲインで増幅された電流指令値によって磁気軸受が制御されるため、磁気軸受の剛性が低下することなく、磁気軸受は適正な剛性を確保することができる。
【0063】
尚、
図5に示す制御機器における電流補正機能は、磁気軸受装置の調整時などおいて、任意に解除させることができる。その場合は、
図4で述べたように、ラジアルセンサ(+xセンサ4xp、−xセンサ4xm)による変位信号Sxp、Sxmのフィードバックのみの制御機能となる。
【0064】
次に、制御機器による磁気軸受の不安定ばね定数の補償機能について、数式を用いて説明する。尚、以下の数式に用いる各符号については、それぞれ次のように定義する。
Fo:現在の、対向する両側の電磁石が発生している合計の吸引力(力) 単位〔N〕
δo:現在の、電磁石のエアギャップ 単位〔m〕
Ipluso:現在の、+側電磁石(+x電磁石3xp)の電流 単位〔A〕
Iminuso:現在の、−側電磁石(−x電磁石3xm)の電流 単位〔A〕
ΔF:現在と一瞬後の間に変化する吸引力(力) 単位〔N〕
Δδ:現在と一瞬後の間に変化するエアギャップ 単位〔m〕
F:一瞬後の、対向する両側の電磁石が発生している合計の吸引力(力) 単位〔N〕
A:力と電流の二乗の比例定数(A=F/I^2) 単位〔N/A^2〕
Gctrl:磁気軸受のばね定数(補正なしの制御回路の基本の値) 単位〔N/m〕
Kctrl:補正ゲイン加算用ゲインアンプの基本ゲイン 単位〔無次元〕
Krem:磁気軸受のばね定数Gctrlから基本ゲインKctrlを除いた残りの係数 単位〔N/m〕 従って、Gctrl=Kctrl×Kremとなる。
【0065】
以上のように各符号を定義すると、一瞬後の、対向する両側の電磁石(+x電磁石3xpと−x電磁石3xm)が発生している合計の吸引力(力)は、次の式(1)で表わされる。
【0066】
ここで、補正パラメータKcdと補正ゲインKcompを導入する。なお、Kcd=2A/δoであり、エアギャップδoの変化量は少ないので、ここでは、補正パラメータKcdは固定定数として扱う。
【0067】
従って、補正ゲインKcompは、次の式(2)で表わされる。
【0068】
ここで、補正ゲインKcompを回路の基本ゲイン設定値に加算すると、一瞬後の、対向する両側の電磁石が発生している合計の吸引力Fは、次の式(3)で表わされる。
【0069】
尚、一瞬後の電磁石の力“F”を表わす式(3)において、第1項は現在の電磁石の力、第2項は磁気軸受がロータ軸を中心に引き戻すばねの力であり、第3項は磁気軸受の不安定ばね定数の力であり、第4項はロータ軸の変位を補正する力である。
【0070】
前述の式(3)は、式(4)のように表わされる。
【0071】
従って、前述の式(4)から分かるように、補正ゲイン指令値を基本ゲインに加算することにより、対向する一対の電磁石の一瞬後における合計吸引力(F)は、一対の電磁石の現在の合計吸引力(F0)に対して、ロータ軸を磁気軸受の中心に引き戻すばね力(Gctrl×Δδ)のみが加わる状態となり、磁気軸受の不安定なばね定数による吸引力は打ち消されてしまう。すなわち、対向する一対の電磁石は、ロータ軸を磁気軸受の中心に引き戻す力のみが働くことになる。
【0072】
尚、前述の各式で示された(Ipluso^2+Iminuso^2)には磁気軸受の回転周波数に起因するリップルやノイズが含まれるので、式(2)で示した補正ゲインKcomp=Kcd×(Ipluso^2+Iminuso^2)の計算は、この信号を約1Hz程度のローパスフィルタを通過させてから実行する必要がある。
【0073】
ここで、特許請求の範囲における請求項で述べる各手段と
図5に示す各要素との対応関係について説明する。電流取得手段は、2つの二乗器32xp、32xm、及び加算器33に対応する。補正係数演算手段は補正係数演算器35に対応する。第1の加算手段は加算器36に対応する。電流制御手段は、ゲインアンプ38、反転器40、加算器41xp、41xm、及び電流制御アンプ31xp、31xmに対応する。二乗化手段は二乗器32xp、32xmに対応する。第2の加算手段は加算器33に対応する。線形手段は力−電流リニアライザ39に対応する。尚、本制御機能24は、オペアンプ等を用いた電子部品(ディスクリート)で実現してもよいし、マイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)等を用いてソフトウエアで実現してもよい。
【0074】
以上、本発明の具体的な実施例を説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。