【文献】
MUELLER ASTRID,ABSTRACTS OF PAPER; 239TH NATIONAL MEETING OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2010.03.21,VOL.239,P.CELL−22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
機械的分解が、精製機、グラインダー、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦グラインダー、超音波処理装置、又はフリューダイザーを用いて行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヘルスケアは、依然として科学研究の重要なフロンティアである。費用対効果の高い、より安全な薬剤を発見し、開発する必要性がこれまでに増加し続けている。
【0003】
ヒドロゲル(合成及び天然起源の両方)は、例えば、3D細胞培養に適した足場として現れた。ヒドロゲル中の相互に接続した細孔のネットワークは、大量の生体液の保持を可能にし、酸素、栄養分、及び老廃物の輸送を促進する。さらに、ほとんどのヒドロゲルは、穏やかな細胞適合性の条件下で形成することができ、生物学的特性を界面化学により調節することができる。修飾された機械的、化学的、及び生物学的特性を有する、操作されたヒドロゲルは、ECMを模倣する可能性を有し、それ故、3D細胞培養におけるその有用性を確立している。3D細胞培養のための市販の製品は、例えば、PuraMatrix
TM(3DM Inc.)及びMatrigel(BD Biosciences)である。PuraMatrix
TMは、ファイバーの直径5〜10nmを有する、ECMにおける天然の線維状コラーゲンの構造に似た、自己集合したペプチドナノファイバーのヒドロゲルである。それは通常99.5%の高い水分含量も有する。US 7,449,180及びWO 2004/007683は、ペプチドヒドロゲルを開示している。Matrigelは、マウス腫瘍細胞により分泌されるゼラチン状のタンパク質混合物である。該混合物は、多くの組織において見出される複雑な細胞外環境と類似し、細胞生物学者により細胞培養のための基質として使用されている。ヒトECM成分の混合物を含むMaxGel
TM ECM Matrix(Sigma-Aldrich)は、外気温においてゲルを形成する。
【0004】
従来の細菌性セルロースは、創傷治癒膜、及び細胞培養における足場として使用されている。細菌性セルロースの使用における制限は、発酵した材料の特有の構造である;培養の際に、発酵槽内で空気と水の界面において非常に堅固な膜として、細菌性セルロースが形成される。
【0005】
ヒドロゲル材料は、親水性の支持材料を必要とする培養目的に広く使用され、例えば、寒天タイプの親水コロイドは、植物細胞、細菌、及び真菌の培養において、様々な微生物学的な目的のために使用される。
【0006】
米国特許第5,254,471号は、細胞を培養するための、超微細なファイバーでできた担体を開示する。国際公報第WO 2009/126980は、平均重合度150〜6200を示すセルロースを含む、セルロースベースのヒドロゲルを開示する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、セルロースナノファイバー及び/又はその誘導体を含み、該セルロースナノファイバー又はその誘導体がヒドロゲル又は膜の形態である、薬剤送達組成物に関する。セルロースナノファイバー又はその誘導体は、植物材料又は微生物性セルロースを含む原料、又は細菌性セルロース(BC)として一般に知られる細菌の発酵過程に由来する原料等の非動物ベースの材料から得ることができる。
【0018】
特別の定めがない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される用語は、当該分野において一般に使用される意味を有する。具体的には、以下の用語は以下に示す意味を有する。
【0019】
用語「薬剤送達組成物」は、セルロースナノファイバー及び/又はセルロースナノファイバーの誘導体、並びに薬剤又は薬物を含む材料のことをいう。前記材料は、ヒト及び動物のための薬剤又は薬物の送達における使用に適している。セルロースナノファイバーは、ヒドロゲル又は膜の形態であり得る。前記組成物は様々な添加物をさらに含み得る。
【0020】
用語「セルロース原料」は、セルロースパルプ、精製パルプ、又はセルロースナノファイバーの生産に使用できる、いかなるセルロース原料源をもいう。該原料はセルロースを含むいかなる植物材料に基づいたものでもあり得る。また、該原料は、細菌性発酵過程に由来し得る。植物材料は木であり得る。木は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスモミ若しくはツガ等の軟材の木からのもの、又はカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ若しくはアカシア等の硬材の木からのもの、又は軟材及び硬材の混合物からのものであり得る。非木材の材料は、農業残渣、草、又はわら、葉、樹皮、種子、殻、花、綿からの野菜若しくは果実、トウモロコシ、小麦、オート麦、ライ麦、大麦、米、亜麻、麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、ラミー、ケナフ、バガス、竹、若しくは葦等のその他の植物材料からのものであり得る。
【0021】
セルロース原料は、セルロースを産生する微生物由来でもあり得、従って、それは微生物性セルロースと呼ばれる。「セルロースナノファイバー」は、特定の発酵過程から直接単離することができる。該セルロースを産生する微生物は、Agrobacterium属、Rhizobium属、Pseudomonas属、又はAlcaligenes属、好適には、Acetobacter xylinum種、又はAcetobacter pasteurianus種等のAcetobacte属であり得る。
【0022】
用語「セルロースパルプ」は、化学的、機械的、熱機械的、又は化学熱機械的なパルプ化工程を使用して、任意のセルロース原料から分離したセルロースファイバーをいう。通常、ファイバーの直径は15〜25μmの間で変動し、長さは500μmを超えるが、本発明はこれらのパラメーターに限定されることを意図しない。
【0023】
用語「セルロースナノファイバー」は、分離したセルロースナノファイバー(CNF)、又はセルロース原料若しくはセルロースパルプ由来のナノファイバーの束の収集物をいう。ナノファイバーは通常、高いアスペクト比を有する:数平均直径は通常200nm未満であるが、長さは1μmを超え得る。また、ナノファイバーの束の直径はより大きいものであり得るが、一般的には1μm未満である。最も小さいナノファイバーは、通常直径2〜12nmであるいわゆるエレメンタリーフィブリル(elementary fibril)に類似する。フィブリル又はフィブリルの束の寸法は、原料及び分解方法に依存する。セルロースナノファイバーは、いくらかのヘミセルロースも含み得る;その量は植物源に依存する。
【0024】
セルロース原料、セルロースパルプ、又は精製パルプの機械的分解は、精製機、グラインダー、ホモジナイザー、コロイダー(colloider)、摩擦グラインダー、超音波処理装置、マイクロフリューダイザー(microfluidizer)、マクロフリューダイザー(macrofluidizer)又は流動化型ホモジナイザーなどのフリューダイザー等の適切な機器を用いて実施される。結果として、セルロースナノファイバーが得られる。好ましくは、微生物性セルロースを含むセルロース原料を機械的に分解する。
【0025】
「セルロースナノファイバー」又は「セルロースナノファイバー又はその誘導体」は、セルロースナノファイバー又はナノファイバーの束の、いかなる化学的又は物理的に修飾された誘導体でもあり得る。化学的修飾は、例えば、セルロース分子のカルボキシメチル化、酸化(例えば、TEMPO-酸化)、エステル化、又はエーテル化反応に基づいたものであり得る。修飾は、セルロース表面上の、アニオン性、カチオン性、若しくは非イオン性物質、又はこれらの任意の組み合わせの物理的吸着によっても実現し得る。望ましい修飾は、セルロースナノファイバーの製造前、製造後、又は製造中に実施することができる。特定の修飾は、ヒトの体内で分解可能なCNF材料をもたらし得る。
【0026】
適切な場合には、セルロースパルプ等のセルロース原料を、機械的分解の前に酸及び塩基で前処理する。該前処理は、セルロースパルプを、酸で処理し(+1より多い電荷を有するいかなる正電荷イオンも除くために、好ましくは塩酸を用いる)、次いで、+1の電荷を有する正電荷イオンを含む無機塩基(好ましくはNaOH、Na
+イオンがそれ以前のイオンを置換する)で処理することにより行われる。この前処理は、「セルロースナノファイバー」に優れたゲル化特性及び透明性を提供する。この前処理された生産物は、酸−塩基で前処理された、又はイオン交換された、「セルロースナノファイバー」と称される。
【0027】
「セルロースナノファイバー」の微生物純度は、該生産物に関して多くの場合必須である。従って、「セルロースナノファイバー」を、ヒドロゲル又は膜の形態で滅菌し得る。それに加え、フィブリル化等の機械的分解の前及び機械的分解中の、該生産物の微生物混入を最小化することが重要である。フィブリル化に先立って、パルプがまだ無菌である漂白工程の後すぐに、パルプ製造機からセルロースパルプを無菌的に収集することは有利である。
【0028】
いくつかの広く使用されているセルロースナノファイバーの同義語が存在する。例えば:ナノセルロース、ナノフィブリル化セルロース(nanofibrillated cellulose)(CNF)、ナノフィブリルセルロース(nanofibrillar cellulose)、セルロースナノファイバー、ナノスケールフィブリル化セルロース、ミクロフィブリルセルロース(microfibrillar cellulose)、ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillated cellulose)(CNF)、又はセルロースミクロフィブリル(cellulose microfibril)。
【0029】
さらに、特定の微生物により生産されたセルロースナノファイバーも、例えば、細菌性セルロース(BC)、微生物性セルロース(MC)、バイオセルロース、ナタデココ(NDC)、又はココデナタ(coco de nata)などの様々な同義語を有する。
【0030】
本発明に記載のセルロースナノファイバーは、いわゆるセルロースウィスカー(セルロースナノウィスカー、セルロースナノ結晶、セルロースナノロッド、棒状セルロース微結晶、又はセルロースナノワイヤーとしても知られる)と同じ材料ではない。いくつかの場合において、両材料について類似した用語が使用される。例えば、Kuthcarlapatiら(Metals Materials and Processes 20(3):307-314, 2008)により、彼らは明らかにセルロースナノウィスカーと言及していたが、研究された材料は「セルロースナノファイバー」と称されていた。通常、これらの材料は、セルロースナノファイバーのようにフィブリル構造に沿った非結晶部分を有さず、これがより堅固な構造をもたらす。セルロースウィスカーもセルロースナノファイバーよりも短い;通常、長さは1μm未満である。
【0031】
個々のセルロースナノファイバーの大きさは、上記のECMにおけるコラーゲンファイバーの大きさ(即ち4〜10nm)に非常に近い。
【0032】
本発明の実験において、2種類のセルロースナノファイバーが使用された:不透明な天然のCNF、及びTEMPO−酸化されたセルロースである光学的に透明なCNF。該材料の詳細な説明は、本願実施例の材料及び方法のセクションに示す。
【0033】
用語「セルロースナノファイバーヒドロゲル」は、セルロースナノファイバーの水性分散物をいう。
【0034】
用語「セルロースナノファイバー膜」は、セルロースファイバーの湿った又は乾燥したシート状形成物をいう。該膜は、通常、適切なフィルターを用いた真空濾過装置による低濃度のセルロースナノファイバー分散液の濾過により製造される。溶媒キャスティング(Solvent casting)も、上記膜構造を得るのに使用し得る。得られた膜は、それ自体湿った状態で使用され得るか又は使用前に乾燥され得る。
【0035】
本発明のセルロースナノファイバー又はその誘導体は、セルロースナノファイバー又はナノファイバーの束の、化学的又は物理的に修飾された誘導体を含み得る。
【0036】
本発明の薬剤送達組成物は、ヒドロゲルの特性(特にヒドロゲルの注入性)に基づいている。前記組成物は、眼内、筋肉内、又は皮下治療におけるCNFヒドロゲル中の薬剤の注入に適しているが、該ヒドロゲルの特性は、局所的生産物に関しても該組成物を非常に適したものとする。該薬剤送達組成物は、セルロースナノファイバーヒドロゲルに取り込まれた、1以上の活性原薬又は薬物を含み得る。前記原薬は、局所的使用、筋肉内での使用、眼内での使用、皮下での使用、及び手術と関連した使用に適した原薬及び薬物から選択され得る。そのような薬剤の例としては、ホルモン、麻酔の、化学療法の、抗炎症性、抗菌性、鎮痛の原薬及び薬物、並びにバイオ技術の及び生物学的薬剤(ペプチド及びタンパク質薬剤)がある。
【0037】
本発明の薬剤送達組成物は、例えば、保存剤、皮膚軟化剤、吸収剤、保護剤、粘滑剤、抗酸化剤、緩衝剤、保湿剤、皮膚浸透促進剤、可溶化剤等の、当業者に周知であり、局所的、筋肉内、眼内、及び皮下の製剤に一般的に使用される、1以上の適切な医薬上許容される添加物をさらに含み得る。
【0038】
該薬剤送達組成物は、皮膚を介して容易に吸収される、原薬の局部的送達のための局所的生産物として、原薬の全身性送達のための局所的生産物として、適切であり、また、効果が望まれる部位又は臓器へ直接投与される薬剤の皮下送達及び注入可能な薬剤に適している。該組成物は、歯への適用、及び薬剤の眼内、硝子体内、筋肉内、及び皮下の送達にも特に適している。
【0039】
本発明は、セルロースナノファイバー及び/又はその誘導体を含むヒドロゲルの、薬剤送達組成物の担体としての使用を提供する。
【0040】
本発明は、セルロースナノファイバー及び/又はその誘導体を提供する工程;前記セルロースナノファイバー及び/又はその誘導体を水とともに混合する工程;並びに、得られた該混合物を、少なくとも1つの適切な薬物又は原薬と組み合わせる工程、を含む本発明による組成物を製造する方法にも関連する。
【0041】
該原薬は、水性溶液又は分散液としてヒドロゲル中に取り込まれ得る。好ましくは、無菌の又は医薬品グレードの水が使用される。
【0042】
該原薬又は薬物を含む得られた組成物(混合物)は、アプリケータ、注射器、キット等の薬剤送達のための適切な環境又は機器へ、配置又は移動され得る。
【0043】
前記組成物は、0.05〜20重量%のセルロースナノファイバー、及び0.001〜20重量%の少なくとも1つの原薬又は薬物、並びに水を適切に含む。
【0044】
本発明者らは、驚いたことに、特に植物由来のCNFヒドロゲルが、in vivoでの薬剤送達において、いかなる修飾も無く使用することができることを見出した。
植物由来セルロース及び微生物性セルロースは、局所的薬剤送達組成物において使用し得る。注入可能な生産物においては、植物由来セルロース(特に好ましくは天然の又は非イオン性のグレード)の使用が好ましい。
【0045】
組成物からのセルロースナノファイバーの除去は、例えば、セルロース分子の酵素分解を利用し、酵素を用いて実施し得る。適切な酵素は、例えば、市販のセルラーゼである。
【0046】
本発明は、特に、植物由来CNFヒドロゲルの物理的及び生体適合性の特性を開示する。植物のセルロースは製紙及び繊維産業において広く使用されており、天然に豊富に存在する。天然セルロースナノファイバーヒドロゲルは不透明である。機械的分解の前のセルロースパルプの化学修飾は、光学的に透明なヒドロゲルを生じる。
【0047】
本発明のセルロースナノファイバーは、ヒドロゲル又は乾燥した若しくは湿った膜の形態で使用することができる。CNFヒドロゲルのゲル強度は、希釈により容易に変更できる。セルロースナノファイバー又は類似の特性を有するその誘導体は、細胞に対し有毒ではない。
【0048】
セルロースナノファイバーヒドロゲルを、ヒアルロン酸又はPEGヒドロゲルの様なUV架橋可能な細胞培養ヒドロゲルと比較した場合、CNF材料はより毒性が低いと考えられる。UV架橋可能なゲルにおいては、ゲル化を開始するために、有害な光開始剤を要するが、一方で、CNFヒドロゲルは自発的に形成される。CNFヒドロゲルの非共有結合性の性質が、希釈による多孔度の調節も可能にする。
【0049】
著しく高い降伏応力は、沈降に対して組成物を安定化する。
【0050】
細菌性セルロースは発酵後、直接使用されてきたが、その場合、もたらされる膜構造は本発明のヒドロゲル(即ち、セルロースナノファイバーからのヒドロゲル)よりもかなり堅固である。従って、先行技術の方法は、ヒドロゲルマトリックスをより多孔性にするためにさらなる過程を必要とする。
【0051】
ゲル形態のセルロースナノファイバーを含む細胞培養培地の堅固さは、細胞培養の特性に影響することなく調節することができる。また、細菌由来のセルロースナノファイバーは、その他の起源からのセルロースナノファイバーよりも粘度が高い。
【0052】
本発明の材料は、注入可能であり得、又は適切な表面トポロジーを有するシート状の膜であり得る。
【0053】
CNFの特性は:透明、毒性がない、高度に粘性、高い懸濁力、高い水分保持、良好な機械的接着、非動物ベース、ECMの大きさと類似する、塩、温度又はpHに非感受性、分解可能でない、自家蛍光がない、である。CNFは、材料の化学構造に起因して、無視できる程度の蛍光バックグラウンドを有する。さらに、CNFゲルは細胞に対し有毒ではない。従って、CNFゲルは、ヒト及び動物に対する注入可能な局所的生産物として安全に使用される。
【0054】
拡散研究に基づいて、CNFヒドロゲルは高度に浸透性であり、酸素、栄養分、及び細胞の水溶性代謝物の自由な交換を促進する。
【0055】
クライオ透過型電子顕微鏡は、CNFヒドロゲルが個々のセルロースナノフィブリル及びファイバーの束の混合物から構成されることを示している。CNFの大きさは、天然のECM成分であり、細胞の支持として一般に使用される、天然のヒトコラーゲンに類似する。CNFヒドロゲルの強度(弾性)は、使用した振動数0.01〜1Hzの関数としてほぼ一定である。流動学的データは、静止中(低せん断応力)のおよそ数百キロパスカルのせん断粘度が、1パスカルのせん断応力以内で数パスカルまで落ちることを明らかにしている。そのような挙動は生体材料ヒドロゲルについてはかなり特有のものである。それは極めて良好な懸濁性能を可能にし、せん断で粘度が減少する(shear-thinning)挙動により、望みの容易な分配を可能にし、使用した針のサイズに関わらず注入を可能にする。弾性及び剛性の機械的特性は、CNFヒドロゲル及び注入に関して最適である。
【0056】
セルロースナノファイバー又はその誘導体のフィブリルネットワークの大きさは、コラーゲンナノファイバーの天然ECMネットワークに非常に近似している。さらに、セルロースナノファイバー又はその誘導体は、非動物ベースの材料であり、即ち、疾患の伝達のリスクがない。現在、市販製品のほとんどは動物から単離される。物理的形態を調節する可能性:ヒドロゲルから膜までのCNF材料を利用できる。CNF膜は透明で高度に多孔性である。大量生産は代替物と比べ容易である。
【0057】
天然のセルロースナノファイバーは細胞に対し毒性がない。セルロースナノファイバー又はその誘導体は、無視できる程度の蛍光バックグラウンドを有する。セルロースナノファイバーヒドロゲルは、最適な弾性、剛性、せん断応力、機械的接着、及び多孔性を有する。
【0058】
水性の環境において、セルロースナノファイバーは、分散したナノファイバー又はナノファイバーの束の連続的なヒドロゲルネットワークを形成する。該ゲルは、非常に低濃度においてでさえお互いに絡み合う、高度に水和したフィブリルにより形成される。該フィブリルは水素結合を介しても相互作用し得る。巨視的構造は、機械的な攪拌で容易に破壊される(即ち、高められたせん断応力で、ゲルが流動を開始する)。セルロースナノファイバーヒドロゲル及び/又はその誘導体は、細胞培養材料として使用されることが以前には述べられていない。
【0059】
本発明の応用として、薬剤投薬応用、バイオテクノロジー又は生物学的医薬及びこれらの投薬を提供することが挙げられる。CNFヒドロゲルの特有の流動学的特性は、眼内、筋肉内、又は皮下の治療におけるCNFヒドロゲル中の薬剤の注入のような、ヒドロゲルの注入性に基づいたいくつかの応用、並びに局所用生産物を可能にする。
【0060】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために記載されており、本発明の範囲を限定することを意図しない。本明細書に基づいて、当業者は多くの方法で本発明を修飾することができるであろう。
【実施例】
【0061】
材料及び方法
CNFヒドロゲルの調製
不透明な天然CNFヒドロゲル(1.7重量%)を、湿セルロースパルプファイバーの高圧ホモジナイゼーションにより得た。従って、該過程からの直接の生産物は希釈セルロースナノファイバーヒドロゲルである。透明なCNFヒドロゲル(0.9重量%)は、化学的に修飾された(TEMPO−酸化した)セルロースパルプの同様のホモジナイゼーション過程により得た。該サンプルはオートクレーブで滅菌した。細胞の研究については、該CNFヒドロゲルを適切な濃度に希釈し、機械的な混合又はソニケーションでホモジナイズした。天然CNF及び透明CNFのクライオ−TEMの写真を
図1に示す。天然のセルロースナノファイバーヒドロゲルは、個々のセルロースナノフィブリル及びファイバーの束の混合物で構成される(
図1A)。最も小さいファイバーの直径はおよそ7nmであるが、セルロース材料の大部分は束になった構造内で50〜100nmを形成している。正確な長さのスケールは、材料の絡み合い束ねられている性質に起因して、写真から推定することはできないが、個々のナノファイバーが数マイクロメーター長であることは明白であると思われる。光学的に透明なCNFヒドロゲルのクライオ−TEMの写真は、均一に分布した個々のセルロースナノファイバーのネットワークを示す。これらのナノファイバーの直径はおよそ7nmであり、長さは1マイクロメーターを超える。該ナノファイバーは、100〜200nm長の直線部分を有し、ファイバーのアクセル(axel)に沿って急なねじれが続く。これらの直線部分は高結晶質のセルロース領域からなる−曲がっている部分は非結晶部により形成される。
【0062】
CNF膜の調製
CNF膜は、水性0.2重量%の天然CNFの分散液の真空濾過により調製した。濾過後、湿った膜を55℃のオーブンで48時間、重りの下で乾燥させた。乾燥した薄い膜は、坪量70〜80g/m
2で、滑らかで不透明であった。
【0063】
酵素加水分解
CNFヒドロゲルの酵素分解を、Celluclast 1.5 LFG, CCN0367(Novozymes, pHopt 5)、Prot.90mg/mlを用いて0.5%ヒドロゲルを含む砂利を加水分解することにより示した。天然CNFの分解をpH5、50℃で4日間、及び透明CNFの分解をpH7、21℃で1時間行った。酵素量は1グラムのCNFに対し5mgの酵素であった。
【0064】
バックグラウンドの蛍光測定値(ネガティブコントロール)は、ヒドロゲル及び色素試薬を培養培地中に含むが、細胞を含まないウェルから決定した。全ての蛍光測定値についての平均及び標準偏差は、バックグラウンドに対して計算し、次いで補正し、相対蛍光として表した。
【0065】
実施例1
CNFヒドロゲルを介したデキストランの拡散
材料の拡散特性についての詳細な知見は重要である。細胞培養材料は、栄養分及び酸素を培養細胞へ拡散させるのを可能にするため、及び細胞からの代謝物の効率的な拡散を可能にするために十分に多孔性であるべきである。CNFヒドロゲルの拡散特性は、以下の方法で様々な分子量のデキストランを用いて示した:
【0066】
400μlの透明又は不透明CNF(1%)を、Transwell
TMフィルターウェルプレート(フィルター孔サイズ0.4μm)の頂端側区画上へフィルター当りに植えた。1mlのPBSを基底外側へ添加し、100μl(25μg)の蛍光標識したデキストランを、ヒドロゲル上へ添加した(MW20k、70k、及び250k)。プレートをしっかりと固定し、ウェルプレートロッカー上に静置した。100μlのサンプルを基底外側から採取し、等量をPBSで置き換えた。最初のサンプルは15分間隔で採取し、その他のサンプルは30分〜2時間におよぶ様々な時点で採取し、最後のサンプルは24時間で採取した。全168サンプルを採取した。励起波長及び発光波長をそれぞれ490nm及び520nmで、標的プレート(OptiPlate
TM-96 F)を測定した。
【0067】
1%の天然セルロースナノファイバーゲルを介した、様々な分子量のデキストランの拡散を
図2に示す。モデル化合物の拡散は一定の割合で起き、それは化合物の分子量(サイズ)にかなり依存する。ゲルの構造は細胞懸濁液を安定化するのに十分堅固であるが、CNFヒドロゲル中で分子が効率的に拡散することができることは明白である。
【0068】
観察された拡散特性は、様々な薬剤送達の製剤及び適用においても利用することができる。薬剤の拡散は、薬剤分子若しくはタンパク質(薬剤として使用される)のサイズ、又はCNFヒドロゲル濃度の関数として、制御することができる。明らかな持続した放出特性は、特にペプチド又はタンパク質薬剤の場合のような、より長い放出が好ましい特定の治療に対し特に有益である。
【0069】
実施例2
ゲル強度
培地の重要な機能は沈降を防ぐことである。CNFは、非常に低い濃度(0.5%)でゲルネットワークを形成するその性能により、この要求を満たす。CNFのゲル様構造は、動的振動流動学的測定によりその粘弾性特性を決定することで示された。振動数掃引の結果は、典型的なゲル様の挙動を示す。貯蔵率(G’)は、損失率(G’)よりも桁違いに高く、振動数にはほぼ無関係であり、これは弾性(固体様)特性が、粘性(液体様)の特徴よりも、より明白であることを意味する(
図3)。また、ゲルは通常、G’及びG’’が両方とも振動数とは相対的に無関係である。CNFゲルの粘弾性特性は、0.1%の歪み(strain)でのレオメーター(AR-G2, TA Instruments)による発振振動数掃引測定で決定した。
【0070】
実施例3
CNFヒドロゲルの流動特性
CNFヒドロゲルの流動学的な流動特性は、いくつかの有益な特徴をもたらす。該ヒドロゲルは、低せん断(又は静止)では、細胞の最適な懸濁能力のための、高い粘度を有するが、より高いせん断率ではせん断で粘度が減少する挙動も示し、容易な分配及び注入を可能にする。これらの種の流動学的特性を提供するCNFの性能は、CNF分散液の粘度を回転式レオメーター(AR-G2, TA Instruments, UK)で広範なせん断応力(率)範囲に渡って測定した試験シリーズにおいて示された。
【0071】
図4に示されているように、CNF分散液は、その他の水溶性ポリマーよりもかなり高いゼロせん断粘度(小さなせん断応力での一定粘度の領域)を示す。CNFのゼロせん断粘度は、出発原料の先行する化学的前処理により誘導される、より小さいナノフィブリルの直径により顕著に増加する。せん断で粘度が減少する挙動が開始する応力(降伏応力)も、CNF分散液ではかなり高い。材料の懸濁性能がより良好であると、降伏応力はより高くなる。例えば、細胞は、高いゼロせん断粘度、及び高い降伏応力、及び高い貯蔵率の組み合わされた効果により、沈降に対して効果的に安定化される。細胞により適用される重力は降伏応力よりもかなり弱い。従って、懸濁された細胞は、CNFと混合した場合にはゲルマトリックス内部で「凍結」され、又はゲル上に沈着させた場合にはゲル上で「凍結」される。
【0072】
図5において、粘度は測定したせん断率の関数として示している。この
図5から、CNF分散液の粘度は相対的に小さいせん断率で下降し、せん断率約200s
−1で、参照材料について測定したのと同様なレベルに達することは明白である。
【0073】
CNFのネットワーク構造はせん断すると崩壊する(
図4)。特定の応力を適用すると、該システムの粘度は劇的に落ち、固体様挙動から液体様挙動への移行が起きる。例えば、適度な機械的せん断により、細胞のCNF懸濁液中への均一な混合を可能にするため、この種の挙動は有益である。凝集CNF分散液等の二相の液体をせん断した場合(例えば、レオメーター内で又はチューブ内で)、分散した相は固体界面から遠ざかるように動く傾向があり、これは容器の壁において、液体のより低い粘度の層を生じさせる(
図6)。この現象は、流れに対する抵抗(即ち、粘度)は、分散液の大部分よりも界面においてより低いことを意味する(Barnes, 1995)。注射器及び針を用いた、又はピペットを用いたCNFヒドロゲルの注入は、それぞれ、高濃度(1〜4%)においてさえ容易である。当該現象は、最少の細胞の障害での細胞懸濁液の容易な分配も可能にする(即ち、大部分の細胞は針の中央部に位置し実質的に静止状態にある)(
図6)。
【0074】
注入可能な製剤を考慮する場合、CNFヒドロゲルの容易な注入性も重要な特徴である。実施例1に記載されたように、CNFヒドロゲルは持続した及び制御された薬剤放出の適用において利用し得る放出特性を有する。CNFヒドロゲルについてのこれら2つの知見は、眼内、筋肉内、皮下の治療、又は例えば、粘弾性の点眼製剤のような、様々な潜在的な薬剤治療の応用を可能にする。
【0075】
実施例4
せん断停止後の構造回復
CNFヒドロゲルのさらなる重要な流動学的特性は、せん断(例えば、注入又は混合)が停止した後に、高レベルの粘度が保持されることである。CNF分散液の構造回復は、初めに材料をレオメーター(StressTech, Reologica Instruments Ab)内で、高せん断率でせん断し、せん断を停止した後、ゲル強度(G’)の回復を振動時間掃引測定で観測する試験シリーズにより示された。せん断サイクルは、同心円筒形状内で40Paの一定応力で61秒間行った。この試験の間のせん断率及び粘度の漸進的変化を
図7に示す。当該材料を、相対的に高いせん断率(1000s−1)で、少なくとも40sの時間せん断し、その間に、該材料の粘度は40mPa sを下回るまで下降した。
【0076】
せん断を停止した後、G’の漸進的変化(ゲル強度の測定)を、一定振動数(1Hz)及び小さい応力(0.5Pa)での振動測定により調査した。該測定は、せん断を停止した後、正確に10sで開始した。
図8から、CNF分散液を高せん断率でせん断した後に該CNF分散液を静止させる場合、ゲルネットワークが非常に迅速に形成されることが明白である。実質的な構造回復は、せん断停止(
図8の時間0と同等)後10sですでに観測される。CNF分散液を静止状態に10分未満の間維持した後、一定の貯蔵率(G’)レベルに達する。広範にせん断したCNF分散液が生じたG’レベルは、構造回復試験前にガラス棒で穏やかに混合しただけのCNF分散液のものと同程度であった。
【0077】
0.7%の天然CNF分散液を、レオメーターの同心円筒形状内で、40Paの一定応力でせん断した際の、せん断率及び粘度の漸進的変化を
図8に示す。
【0078】
高せん断率でのせん断後と、ガラス棒を用いて穏やかに混合した後とを比較した、0.7%の天然CNF分散液の構造回復を
図8に示す。
【0079】
速い構造回復は、2つの理由でヒドロゲル型の細胞培養材料では重要である。第1に、それは、細胞をヒドロゲルと混合した後のCNFヒドロゲル中で、細胞が均一に分配されることを可能にする。第2に、例えば、細胞移植を考慮した際に、CNFヒドロゲルが培養した細胞を運搬するのに使用される場合、ゲル構造の速い回復は細胞を望ましい場所へ効率的に捕捉し、移動が最小となる。速い回復は、注入可能な薬剤放出製剤においても必須である。
【0080】
実施例5
安定性
CNFの非常に希薄な分散液でさえ、低せん断率で非常に高い粘度を有する。注入等のせん断を停止すると、ヒドロゲル構造も回復する。静止状態において、CNFは高い弾性率及び非常に高い降伏応力を有するヒドロゲルネットワークを形成する。これらの特性に起因して、CNFは、非常に低濃度においてでさえ、固体粒子の非常に高い懸濁力を有する。
【0081】
静止状態での懸濁性能は砂利の懸濁液を用いて示される。天然CNF及び透明CNFの0.5%分散液は、2〜3mmサイズの砂利の粒子でさえ、非常に長期間安定化することができる(
図9を参照)。透明CNFは天然CNFよりも低い濃度で粒子懸濁液を安定化することができるということは注目すべきである。
【0082】
実施例6
酵素加水分解
特定の酵素(セルラーゼ)はセルロース中のβ−(1−4)−結合を加水分解することができることが一般に知られている。例えば、鎖の末端から離れたランダムな位置においてセルロース鎖を標的とするエンド−1,4−β−グルカナーゼ(EG);セロビオースダイマーを産生しながら鎖の両端から分子を切り離すことによりセルロースを分解するエキソグルカナーゼ又はエキソセロビオヒドロラーゼ(CBH);及びセロビオース単位(EG及びCBHの攻撃間に産生される)をグルコースへ加水分解するβ−グルコシダーゼ(BGL)。それぞれ、セルロースナノファイバーは、セルラーゼを活用して酵素的にグルコースへ加水分解され得る(Ahola, S., Turon, X., Osterberg, M., Laine, J., Rojas, O.J., Langmuir, 2008, 24, 11592-11599)。
【0083】
セルロースの酵素加水分解は、様々な理由で、細胞培養システムを含むセルロースナノファイバーに利用することができる。CNFヒドロゲルを加水分解すると、培地の粘度は劇的に低くなり、培養した細胞構造へ容易にアクセス可能である(例えば、染色のために)。また、加水分解後、細胞構造は、セルロース含有材料なしで移動又は移植することができる。分解産物であるグルコースは、通常、細胞に対し非毒性であり、細胞培養において栄養分として使用できる。
【0084】
セルロースナノファイバーの酵素加水分解は、様々なセルラーゼを活用して、様々な環境で行うことができる。
図10において、ゲルの懸濁力に対する市販のCelluclast酵素の効果が示されている。天然及び透明CNFヒドロゲルは両方とも、ゲル構造の酵素分解に起因して懸濁力を緩める。また、培養細胞株は、培養システム中へ、必要な酵素タンパク質を産生するように遺伝的に操作し得る。
【0085】
実施例7
眼用組成物
天然セルロースナノファイバーに基づく0.5重量%ヒドロゲルを、精製水を使用して作製する。眼での使用に適した均一な分散液を得るために、0.1重量%のヒアルロン酸、0.1重量%のEDTA、0.2重量%のプロピルパラベン、0.2重量%のTween 80、及び0.8重量%のグリセロールをヒドロゲル中に取り込む。あるいは、該成分を精製水中に取り込み、次いで、セルロースナノファイバーと混合し得る。同様の方法で、例えば網膜の圧力を制御するため、又はその他の適応症のための薬剤を含む組成物を得ることができる。
【0086】
実施例8
局所麻酔用組成物
天然セルロースナノファイバーに基づく1.2重量%ヒドロゲルを、精製水を使用して作製する。0.2重量%のプロピルパラベン及び15重量%のベンゾカインを、薬剤の溶解を補助するためのエタノールとともに、ヒドロゲル中に取り込む。あるいは、原薬はアルコールなしでヒドロゲル中に粒子形態で分散することができ、それにより、薬剤の制御された放出が達成される。