【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1では、金属材料への炭素の供給源として、活性炭粉末やグラファイト粉末といった炭素粉末と、鉄粉末または炭素を含有した鉄合金粉末(以下、鉄・鉄合金粉末)とを含む改質用粉末を利用している。そこで、資源の有効利用を図るため、使用済みの改質用粉末を繰り返し使用することが考えられる。
しかしながら、炭素は処理中に金属材料へ拡散し、さらに電気炉外に一酸化炭素として排出されるため、繰り返し使用することにより、改質用粉末に含まれる炭素量は低下する。これは、金属材料周辺における炭素の供給量の減少、さらに不動態皮膜に対する還元能力の低下をもたらす。したがって、繰り返し使用する回数が増加するほど金属表面の改質層が薄くなり、最終的にはその改質効果がほぼ消失する。
【0006】
この課題を簡便に解消する方法として、改質用粉末中の炭素粉末の割合を、あらかじめ改質用粉末の再使用回数分だけ増やすことが考えられる。しかしながら、たとえば、改質層中における炭素濃度や改質層の厚さについて所望する特性を満たした改質層を得るために、あらかじめ設定した配合比より炭素粉末の割合を大きくすれば、その分、改質層中の炭素濃度や、改質層の厚さが所望する値と変わるおそれがあり適切ではない。
逆に、改質用粉末中の鉄・鉄合金粉末の割合が小さくなり、その結果、鉄の触媒的な作用が不足し、処理対象の金属材料の表面改質効果が十分得られなくなるおそれもある。
【0007】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、改質用粉末の繰り返し使用により消失した炭素を、処理対象の金属から離間し、かつ炭素粉末とは異なる炭素供給源(以下、炭素補充源。ブロック状炭素材、有機液体、浸炭性ガスがこれに相当する)からの炭素によって補えば、上述した問題はすべて解消されることを知見し、この発明を完成させた。
【0008】
この発明は、炭素や窒素の拡散浸透能力を低下させず、改質用粉末を繰り返し使用することができる金属材料の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、金属材料を、
鉄を含む改質用粉末に埋没した状態で加熱することにより、この金属材料にその表面から炭素を拡散浸透させる金属材料の表面処理方法、
または、金属材料を、鉄を含む改質用粉末に埋没した状態で、かつ、窒素ガス雰囲気で加熱することにより、炭素および窒素を拡散浸透させる金属材料の表面処理方法であって、前記表面処理は、前記金属材料から離間して設けた炭素補充源から前記改質用粉末に炭素を補いながら行う金属材料の表面処理方法である。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、表面処理時、金属材料は改質用粉末と接触状態でこれに埋没しているため、改質用粉末に含まれた鉄の触媒的な作用により、金属表面の不動態皮膜が分解・消失し、金属材料への炭素または炭素および窒素の拡散が促進される。なお、窒素の拡散は、窒素ガス雰囲気で加熱した場合に起こる。
また、表面処理を通じて炭素が消費され、金属材料周辺における炭素の供給量が減少し、さらに不動態皮膜に対する還元能力が低下する。このため、改質用粉末を繰り返し使用して表面処理を複数回行った場合、表面処理の回数が増えるにつれて金属材料に対する改質効果が低下する。しかしながら、金属材料から離間して設けた炭素補充源が存在するため、炭素補充源からの炭素によって、金属材料周辺における炭素の不足分が補われる。その結果、表面処理能力を低下させず、改質用粉末を繰り返し使用することができる。
【0011】
ここでいう表面処理とは、浸炭性ガスを用いるガス浸炭法を併用したものも含む。
また、ここでいう「少なくとも使用済みの、鉄と炭素とを含む改質用粉末を利用した表面処理を行う際」とは、複数回の表面処理を行うにあたって、2回目以降の使用済みの改質用粉末を使って表面処理を行う場合だけでなく、新しい改質用粉末を使用する1回目の表面処理時にも、炭素補充源を使えることを意味する。
【0012】
金属材料としては、例えば、元素周期表の4族、5族、6族の金属またはこれらの合金を使用することができる。すなわち、処理対象の金属材料は、元素周期表の4族であるチタン、ジルコニウム、ハフニウム、5族であるバナジウム、ニオブ、タンタル、6族であるクロム、モリブデン、タングステン、のいずれかの金属、またはこれらのいずれかの金属に、他の元素を添加して形成した合金でもよい。この金属材料は、純鉄や普通鋼、さらにステンレス鋼のようにクロムをはじめとした合金元素を含んだ合金鋼(総称して鉄・鉄合金)でもよい。また、元素周期表の4族、5族、6族の金属の合金と鉄・鉄合金との複合材料であることとしてもよい。これらの金属材料の形状およびサイズは任意である。
本発明では、表面処理時、改質用粉末に含まれた鉄の触媒的な作用により、金属表面の不動態皮膜に対する還元能力が高められ、改質用粉末あるいは炭素補充源から金属材料への炭素の拡散が、また窒素ガス雰囲気中で加熱した場合には金属材料への窒素の拡散がそれぞれ促進される。このため、改質層は、金属材料の種類、改質用粉末の種類、炭素補充源の種類、加熱温度、加熱時間、加熱雰囲気によって変化し、金属材料の表面付近において炭素を固溶する場合、炭素と窒素の両方を固溶する場合、炭化物をつくる場合、炭化物と窒化物の両方をつくる場合、炭窒化物をつくる場合がある。
【0013】
ここでいう
鉄を含む改質用粉末とは、炭素粉末と鉄・鉄合金粉末との混合粉末、この混合粉末に焼結を防ぐための酸化アルミニウム(Al
2O
3)のようなセラミックス粉末を添加した粉末、炭素を含有した鉄・鉄合金粉末、または鉄・鉄合金粉末とセラミックス粉末との混合粉末である。このうちの鉄粉末とは、炭素含有量が0.008重量%未満の純鉄であり、また鉄合金粉末とは、炭素含有量が0.008〜2.0重量%までの鋼、炭素含有量が2.0重量%を超える鋳鉄である。炭素を多く含む鋼または鋳鉄のような鉄合金粉末は、比較的安価に入手でき、また炭素粉末と混合しなくても改質用粉末として十分な効果が得られる。
炭素粉末の原料としては、例えばグラファイト、活性炭、木炭のような炭素を主成分とする材料を粉末状にしたものを使用することができる。炭素粉末を用いることで、金属材料の表面処理を良好に行えると同時に、比較的安価に入手しやすく、改質用粉末の焼結防止にも役立つ。
改質用粉末の粒径(平均粒径)は、例えば、数μm〜数百μmである。改質用粉末の粒径が数μm未満では表面処理の加熱時に改質用粉末が焼結しやすくなって、処理対象の金属材料に対する改質層の形成が阻害されたり、処理後の金属材料の取り出しが困難となる。また、改質用粉末の粒径が数百μmを超えれば、金属材料の不動態皮膜に対する還元や酸化抑制などの機能が低下し、処理効率が劣化する。なお、炭素粉末と鉄粉末との混合粉末のように、2種以上の粉末を混合して使用する際には、粒径を揃えた方が好ましい。
炭素粉末と鉄・鉄合金粉末との混合比は任意である。例えば、体積比で3:7〜9:1である。
【0014】
表面処理時の加熱温度は、炭素粉末と鉄・鉄合金粉末との混合粉末の場合、鉄と炭素との共晶温度の関係から600℃〜1150℃である。600℃未満では、金属表面の不動態皮膜に対する還元がほとんど実現できない。また、加熱温度が高いほどより短時間で金属表面を改質することができるものの、1200℃を超えるような高温になると、金属材料そのものの組織や機械的性質にダメージを与えて、金属材料自体が劣化するおそれがある。したがって、加熱温度は、表面処理が可能な加熱温度の範囲において、できるだけ低い温度に設定することが好ましい。
加熱時間は任意であるが、加熱時間が長いほど、処理対象の金属材料表面の改質層が厚くなる。
また、炭素補充源として浸炭性ガスを用いて表面処理する時以外は、窒素ガスを供給しながら加熱することが好ましい。これにより、金属表面の酸化が抑制され、さらに炭素または炭素と窒素の両方を拡散浸透させることができる。
【0015】
表面処理の操作を繰り返す回数は複数回であれば任意である。例えば、2回、3回または4回以上でもよい。各回の表面処理の条件は、同一でも異なってもよい。
表面処理の回数が増えるごとに改質用粉末に含まれる炭素量は、処理対象の金属材料への炭素の拡散や一酸化炭素としての電気炉外への排出によって徐々に減少する。このときの炭素の減少量は、各回の処理条件によって異なる。
炭素補充源としては、例えば、ブロック状炭素材、有機液体、浸炭性ガスなどを採用することができる。
炭素補充源の使用数は1つでも、2つ以上でもよい。
ここでいう「炭素補充源が金属材料と離間する」とは、炭素補充源がブロック状炭素材の場合、炭素補充源と金属材料との間に改質用粉末が存在することを意味する。また、炭素補充源が浸炭性ガスの場合には、浸炭性ガスの供給源(例えば、滴下式ガス浸炭法に則って炉内滴下される有機液体)が、金属材料から離間していることを意味する。なお、炭素補充源が有機液体の場合、液体状態では改質用粉末にしみ込んでいくため、炭素補充源と金属材料との間に改質用粉末が存在しても、「金属材料と離間している」と厳密に言えないことがある。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記炭素補充源は、前記改質用粉末に接して配設されたブロック状炭素材または有機液体である請求項1に記載の金属材料の表面処理方法である。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、炭素補充源として、改質用粉末と接触するブロック状炭素材を採用したため、表面処理時の加熱によりブロック状炭素材の炭素(炭素原子)が、ブロック状炭素材側の改質用粉末に熱拡散する。また、炭素は、改質用粉末内を順次熱拡散し,最終的に処理対象である金属材料の表面まで到達する。
この発明にあっては、炭素補充源の取り扱いが容易となり、炭素補充源として浸炭性ガスを利用する場合に比べて、設備コストおよびランニングコストが大幅に低下する。また、表面処理の繰り返しに伴う炭素補充源の消耗状態を容易に目視確認できる。
【0018】
ブロック状炭素材としては、例えば、グラファイト、活性炭、木炭のような炭素を主成分とするブロック材を採用することができる。
ブロック状炭素材の形状は任意である。例えば、板状、直方形状、球形状、棒形状などが挙げられる。
ブロック状炭素材の大きさも任意である。
ブロック状炭素材の使用数は、1つでも2つ以上でもよい。
ブロック状炭素材の金属材料からの離間距離は任意である。ただし、ブロック状炭素材は改質用粉末と接触状態でなければ、表面処理時の加熱に伴い、ブロック状炭素材の炭素原子が改質用粉末を介して金属表面まで熱拡散することができない。
炭素材の極端な形状として液体状も想定される。例えば、エチレングリコールのようなものは「有機液体」として、ブロック状炭素材と区別する。
炭素補充源がブロック状炭素材や有機液体の場合、表面処理を窒素ガス雰囲気で行うと、金属材料に炭素または炭素と窒素の両方が拡散浸透されることになる。その結果、金属材料の表面硬さや耐摩耗性などの表面改質効果をさらに高めることができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、前記炭素補充源は浸炭性ガスであって、この浸炭性ガス雰囲気中に前記改質用粉末が配設された請求項1に記載の金属材料の表面処理方法である。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、表面処理時、改質用粉末の外方に存在する浸炭性ガスは、改質用粉末に接触しており、その加熱に伴い、浸炭性ガスに含まれた炭素が改質用粉末に熱拡散される。また、改質用粉末から処理対象の金属材料に対してはその接触表面から炭素が拡散浸透する。
浸炭性ガスとしては、炭素成分を含むガスであれば任意である。具体的には、一酸化炭素(CO)が約20容量%、水素(H)が約40容量%、窒素(N)が約40容量%でもよい。
【0021】
前記
鉄を含む改質用粉末は、炭素粉末と鉄・鉄合金粉末との混合粉末、この混合粉末に焼結を防ぐための酸化アルミニウム(Al
2O
3)のようなセラミックス粉末を添加した粉末、炭素を含有した鉄・鉄合金粉末、または鉄・鉄合金粉末とセラミックス粉末との混合粉末とすることができる。
【0022】
セラミックス粉末は、表面処理による該改質用粉末の焼結を防止する焼結防止剤として添加することができる。
【0023】
改質用粉末に焼結防止剤を添加しているため、表面処理時に改質用粉末同士が凝集しにくくなり、表面処理後、使用済みの改質用粉末を再利用するために行う、改質用粉末の粉砕作業が容易となる。また、改質用粉末が金属材料の表面に焼き付くことがなく、表面処理後の金属表面のクリーニングが不必要となる。
焼結防止剤としては、酸化アルミニウム以外に、例えば、酸化チタン(TiO
2)、炭化ケイ素(SiC)などを選択することができる。この焼結防止剤の添加量は、改質用粉末が凝集しにくくなる程度であればよい。