(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウム含有複合酸化物を含む非水系二次電池は、軽量、高エネルギー及び長寿命であることが大きな特徴であり、ノートブックコンピューター、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の携帯用電子機器電源として広範囲に用いられている。また、低環境負荷社会への移行に伴い、ハイブリッド型電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、以下「HEV」と略記する。)及びプラグインHEV(Plug−in Hybrid Electric Vehicle、以下「PHEV」と略記する。)の電源、さらには住宅用蓄電システム等の電力貯蔵分野においても注目されている。
自動車等の車両及び住宅用蓄電システムに非水系リチウムイオン二次電池を搭載する場合、サイクル性能及び長期信頼性等の観点から、電池の構成材料には、化学的、電気化学的な安定性、強度、耐腐食性等に優れた材料が求められる。さらに、非水系二次電池には、高い電気容量及び高出力性能も必要物性として求められる。
【0003】
ところで、非水系リチウムイオン二次電池の正極材料としては、LiCoO
2やLiNiO
2等の岩塩層状型正極材料やLiMn
2O
4等のスピネル型正極材料、LiFePO
4等のオリビン型正極材料などが知られている。代表的な正極材料である層状化合物のLiCoO
2は、比較的高価であり、また、充放電時にLiを50%以上引き抜くと層状構造が崩壊する為、Liの引き抜きには制限があり、電気容量の点で問題がある。
また、LiFePO
4等のオリビン型正極材料は、理論容量が約170mAh/gであるのに対して、正極材料として約150mAh/gのものが既に活用されており、さらなる容量向上の余地がほとんどない。
さらに、電気化学的に不活性であるが、約460mAh/gの高い理論容量を有するLi
2M’O
3(M’は平均酸化数4価の金属イオンを示す。)成分と電気化学的に活性なLiMO
2(Mは平均酸化数3価の金属イオンを示す。)成分とを組み合わせたLi過剰固溶体により高い電気容量を得る技術についての開示もある。
【0004】
例えば、以下の特許文献1には、xLiMO
2(1−x)Li
2M’O
3(xは、0<x<1の範囲であり、Mは、少なくともNiを含む、一つ以上の平均酸化数3価の金属イオンであり、M’は、少なくともMnを含む、一つ以上の平均酸化数4価の金属イオンである。)で表され、LiMO
2とLi
2M’O
3の組成から成る層状化合物について開示されている。
また、以下の特許文献2には、xLiMO
2(1−x)Li
2M’O
3(xは、0<x<1の範囲であり、Mは、少なくともMnを含む平均酸化数3価のイオンを示し、M’は、平均酸化数4価のイオンを含む。)で表され、LiMO
2とLi
2M’O
3の組成からなる層状化合物について開示されている。
さらに、以下の特許文献3には、Ni、Co、Mnを必須成分としてF、Cl及びIを組み合わせる技術について開示されており、いずれも高い電気容量が得られている。
さらにまた、以下の特許文献4、5と6には、xLiMO
2(1−x)Li
2M’O
3で表される構造を有し、Li
1+aNi
αMn
βCo
γO
2(a、α、β及びγは、それぞれ0.05<a<0.25、0.1<α<0.4、0.4<β<0.65、0.05<γ<0.3)の組成で表される正極活物質において、Li
1.2Ni
0.175Co
0.10Mn
0.525O
2組成の場合に、特に高い電気容量が得られることが開示されている。
【0005】
しかしながら、上記Li過剰固溶体は、Li
2M’O
3成分の導電性の低さから放電レートの特性が悪いという問題を抱えていた。この問題を解決するためにLi過剰固溶体表面の導電性を高めることによりレート特性を向上させる試みとして、例えば、以下の特許文献7には、インジウム系化合物をコーティングする技術が開示され、また、導電性カーボンをコーティングするする技術が、以下の非特許文献1に報告されている。
他方、導電性が低いLi
2M’O
3構造の導電性を改良するために、水素による還元技術によりLi
2M’O
3構造の4価Mnを導電性の高い3価Mnへ還元することにより導電性を改良する試みが、以下の非特許文献2に提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。尚、本明細書において「〜」を用いて記載される範囲はその前後に記載される数値を含むものである。
本実施形態における複合酸化物は、下記一般式:
Li[Li
XNi
aMn
bCo
c]O
2−σ
{式中、x+a+b+c=1、0.05<x<0.3、0<a<0.3、0<b<0.65、0<c<0.3、そして0.01<σ<0.05である。}で表され、かつ、X線回折測定における(003)面と(104)面の結晶面回折強度をそれぞれI(003)とI(104)としたとき、1.6<I(003)/I(104)<4.0であることを特徴とする層状構造を有する複合酸化物である。
【0024】
本実施形態における複合酸化物は、非水系リチウムイオン二次電池の正極活物質として有用である。尚、本実施形態において、X線回折測定により得られる回折強度は、電池の充電前の値である。
xの範囲は、0.05<x<0.3であり、好ましくは0.1<x<0.25である。xが0.05より大きい場合、十分な電気容量が得られ、また、0.3より小さい場合、過剰なLiを結晶構造に取り込むことができ、過剰なLiが抵抗要因となることを抑止することができる。
aの範囲は、0<a<0.3であり、好ましくは0.15<a<0.2である。aを0より大きくすることで結晶構造を安定化させることができ、また、0.3より小さくすることでサイクル特性が向上し、充電電圧を高め、放電容量を高くすることができる。
【0025】
bの範囲は、0<b<0.65であり、好ましくは0.4<b<0.55の範囲で用いられる。bを0より大きくすることで高い電気容量が得られ、また、0.65より小さくすることで、抵抗が小さくなり、十分な電気容量を活用できるようになる。
cの範囲は、0<c<0.3であり、好ましくは0.05<c<0.2である。cを0より大きくすることで結晶構造が安定するとともに、サイクル特性が向上し、また、0.3より小さくすることで十分な電気容量を得ることができる。
σは酸素欠損量を表し、分光学的方法、元素分析、滴定など通常の化学分析により求めることができる。
本実施態様においては、リチウム層−酸素層−遷移金属層が積層した層状構造を有する複合酸化物を用いる。σが所定範囲であり酸素欠損量が好ましい量であれば結晶構造に影響は無く、酸素欠損による電荷補償のため遷移金属の還元が生じ、遷移金属の価数が下がることにより結晶の導電性が向上する。他方、σが所定範囲から外れ、小さな値の場合は、結晶構造には全く影響は無いものの遷移金属の還元度合いが十分でなく、所望の結晶の導電性向上効果が得られず、また、σが所定範囲より大きな値となった場合、遷移金属が過剰に還元を受け、導電性の挙動が変化することで逆に抵抗要因となり、さらに、酸素層の酸素欠損量が多くなることにより酸素層へ遷移金属の一部が落ち込み、違う結晶相へ転移したり、酸素層の崩壊により、結晶性が著しく低下するようないわゆる「結晶の劣化」を引き起こし、導電性が著しく低下する。よって、σの範囲は、0.01<σ<0.05であり、好ましくは0.015<σ<0.04である。0.01より大きい場合、十分な放電レート向上効果が得られ、また、0.05より小さい場合、結晶構造の劣化を抑制することで十分な電気容量が得られる。
【0026】
X線回折(XRD)測定では、対陰極にCuKα線をX線源として得られるX線回折分析において、2θ値の回折パターンを読み取る。各ピークの強度は、回折パターンにおけるピークの無いポイントを結んだ線をベースラインとしてピークトップから垂線を引き、ベースラインと交わる線分の長さを強度として求める。また、半価幅は、横軸に2θを表し、縦軸に回折強度を表した回折パターンにおけるベースラインからピーク強度の半分の値でピークを水平に切った際のピーク形状の横幅で示される。尚、上記「ピークの無いポイント」とは、XRD測定において、縦軸に回折X線強度を取り、横軸に2θを取ったチャートにおけるいわゆるベースライン上のポイントを意味し、ピークの存在しないポイントを示す。通常、XRD測定においては、あるレベルのノイズ等を含むので、ピークの無い(回折点が無い)箇所でもあるレベルの回折X線強度を示す。そこで、測定機器の計算(全体の分析結果からノイズ、バックグラウンドを計算)により、回折X線強度がほぼゼロのラインを機械的に求め、これをベースラインとすることもできる。
【0027】
本実施形態における複合酸化物では、(003)面と(104)面の結晶面回折強度をそれぞれI(003)とI(104)としたとき、I(003)とI(104)の比が、1.6<I(003)/I(104)<4.0であり、好ましくは1.8<I(003)/I(104)<2.5である。
本実施態様においては、Niを含有する複合酸化物を用いる。Niを含む層状複合酸化物ではNiが比較的2価にまで還元されやすく、Li
+とNi
2+のイオン半径がほぼ等しいことからNi
2+がリチウム層のLi
+と部分的に入れ替わった岩塩型構造になりやすい。一部でもリチウム層にNi
2+が混入すると、その領域は不規則な配列を持つ不規則配列岩塩相となる。この不規則配列岩塩相は、電気的に不活性である。また、リチウム層に存在するNi
2+がリチウムイオンの二次元的な拡散を阻害するためNi
2+がリチウム層に入りこんだ層状複合酸化物では、電気容量が著しく低下する。この不規則配列岩塩相の存在は、例えば、電池ハンドブック(平成22年、(株)オーム社刊p.432)に示されるように粉末X線回折測定における(003)面の回折強度と(104)面の回折強度との比率を指標とすることができる。(003)面強度は層状構造の発達の程度をより反映するためI(003)/I(104)が大きくなれば不規則配列岩塩相の成長が少ないことを意味し、他方、I(003)/I(104)が所定範囲より大きくなれば過剰な結晶成長により粒子の比表面積が低下し、電気容量が低下する。よって、I(003)/I(104)には好ましい範囲が存在する。本実施形態においては、具体的には、I(003)/I(104)を1.6より大きくすることで十分に成長した結晶が得られ、結晶の劣化を抑止でき、十分な電気容量が得られ、また、4.0より小さくすることで、比表面積が大きくなり、十分な電気容量が得られる。
I(003)/I(104)は、焼成の温度を変えることで調整することができ、温度を下げることで小さくなり、逆に温度を上げることで大きくなる。また、σを変えることでも調整ができ、σが大きくなるとI(003)/I(104)は、小さくなる傾向があり、σが小さくなるとI(003)/I(104)は大きくなる傾向がある。本実施形態においては、I(003)/I(104)は適宜調整して好ましい範囲で用いる。
【0028】
本実施形態においては、(003)面の半価幅をH(003)としたとき、0.08°<H(003)<0.13°の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1°<H(003)<0.12°である。H(003)を0.08°より大きくすることで十分な比表面積得られ、サイクル特性が高まる傾向があり、また、0.13°より小さくすることで十分な複合酸化物の結晶成長が得られ、電気容量が高まる。
H(003)は、焼成温度を変えることで調整することができ、焼成温度を高くすると値は小さくなり、逆に焼成温度を低くすると値は大きくなる。
【0029】
本実施形態における複合酸化物の製造においては、定比率の複合酸化物を製造後、還元処理により酸素を脱離させ、酸素欠損複合酸化物を得ることができる。ここで、定比率の複合酸化物とは、例えば、通常の空気、酸素含有ガスによる焼成により得られた複合酸化物であり、酸素欠損の無い複合酸化物をいう。
定比率の複合酸化物の製造方法は、特に限定は無く一般的に用いられる製造法を使うことができる。元素を均一に分布させ、高い電池性能が得られる観点から、ゾルゲル法、共沈法、燃焼性ゲルを用いた燃焼法が好ましく用いられる。例えば、共沈法では、Li以外の各種金属の硫酸塩などを用い、炭酸塩として共沈させることで均質な前駆体を得、精製分離後、Li炭酸塩などLi原料を混合し、焼成することにより目的の定比率の複合酸化物が得られ、好ましく用いられる。
【0030】
還元処理方法では、所望の組成、結晶状態が得られれば特に限定は無く、一般的に用いられる気相、液相による還元方法を用いることができる。還元程度の調整の容易さや複合酸化物結晶の還元による劣化を抑える観点から、気相による還元方法が好ましく用いられる。気相による還元では、例えば、加熱下において還元性ガスと不活性ガスを接触させることで還元処理を行うことができる。加熱温度は50℃〜800℃が用いられ、好ましくは200℃〜400℃が用いられる。加熱温度を50℃以上とすることで好ましいσを得るための還元処理が効率よく実施でき、800℃以下とすることで複合酸化物結晶の劣化を抑制することができる。還元処理時間は1分〜24時間の範囲であり、好ましくは0.5時間〜10時間の範囲である。還元処理時間を1分以上とすることで複合酸化物が均質に還元を受け、十分な還元処理の効果が得られるようになり、また、24時間以下とすることで効率よく還元処理が行え、複合酸化物の劣化も抑制することできる。還元性ガスとしては、所望の組成、結晶状態が得られる範囲で水素、CO、炭化水素など還元性を有するガスを用いることができる。複合酸化物の劣化を抑える観点から、炭化水素が好ましく用いられ、より好ましくは気体として容易に取り扱うことができ、気相による還元方法に使うことが容易であるため炭素数1〜5の炭化水素が用いられ、さらに好ましくは入手の容易さおよび経済性の観点からメタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、又はブタンが用いられ、複合酸化物の劣化を抑える傾向が高く、気相での還元方法に供することが容易である観点からプロピレンが最も好ましく用いられる。還元性ガスは、還元による複合酸化物の劣化を抑制し、好ましいσの範囲を得ることを目的としてN
2、Ar、He等不活性ガスで希釈して用いることもでき、希釈比率は還元ガス0容量%〜90容量%、好ましくは0.1容量%〜10容量%である。
【0031】
σは、気相で還元を実施する場合、還元剤の種類、還元剤の濃度、還元処理温度、還元処理時間を変えることで調整することができる。
複合酸化物のσは、構成元素比率から求める方法、X線光電子分光法(XPS)、電子エネルギー損失分光法(EELS)、粉末X線、X線吸収微細構造法(XAFS)などの分光学的方法で求めることができ、例えば、金属の構成比率を原子吸光分析により求め、滴定法により遷移金属の平均価数を求め、その原子構成比率と平均価数から電荷補償に必要な酸素量を割り出し、σを求めることもできる。
複合酸化物の数平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されないが、好ましくは0.05μm〜100μm、より好ましくは1μm〜10μmである。複合酸化物の数平均粒子径が上記範囲であると、電極作製の際、均質性と充填密度のバランスが良好となる傾向にあり、0.05μm以上とすることで、例えば、塗布電極の場合、良好な電極が作製でき、また、粒子径を100μm以下とすることで粒子の充填が良好になり、電池の正極活物質の充填量が増えることで電池としての十分な電気容量が得られる。
【0032】
<非水系リチウムイオン二次電池>
本実施形態における非水系リチウムイオン二次電池は、上述した複合酸化物を正極活物質として用いた電池であり、例えば、
図1に概略的に断面図を示すリチウムイオン二次電池である。
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、セパレータ110と、そのセパレータ110を両側から挟む正極120と負極130と、さらにそれらの積層体を挟む正極集電体140(正極の外側に配置)と、負極集電体150(負極の外側に配置)と、それらを収容する電池外装160とを備える。正極120とセパレータ110と負極130とを積層した積層体は、電解液に含浸されている。これらの各部材としては、正極活物質として本実施形態の複合酸化物を用いること以外は、従来のリチウムイオン二次電池に備えられるものと同様のものを用いることができ、例えば、後述のものであることができる。
【0033】
<正極>
正極は、本実施形態の複合酸化物を正極活物質とし、非水系二次電池の正極として作用するものであれば特に限定されず、例えば、下記のようにして得られる。
まず、上記正極活物質に対して、必要に応じて、導電助材やバインダー等を加えて混合した正極合剤を溶剤に分散させて正極合剤含有ペーストを調製する。次いで、この正極合剤含有ペーストを正極集電体に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、それを必要に応じて加圧し、厚みを調整することによって、正極が作製される。正極の作製にあたって、必要に応じて用いられる導電助材としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、炭素繊維が挙げられる。導電助剤の数平均粒子径(一次粒子径)は、好ましくは10nm〜10μm、より好ましくは20nm〜1μmである。また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム及びフッ素ゴムが挙げられる。
ここで、正極合剤含有ペースト中の固形分濃度は、好ましくは30〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔により構成され、また、カーボンコートが施されたものや、メッシュ状に加工されたものでもよい。
【0034】
<負極>
負極としては、非水系リチウムイオン二次電池の負極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。負極は、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料及び金属リチウムからなる群より選ばれる1種以上の材料を含有すると好ましい。そのような材料としては金属リチウムの他、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、カーボンブラックに代表される炭素材料が挙げられる。これらのうち、コークスとしては、例えば、ピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークスが挙げられる。また、有機高分子化合物の焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものである。炭素材料には、炭素以外にも、O、B、P、N、S、SiC、B
4C等の異種化合物が含まれていてもよい。異種化合物の含有量としては、0〜10質量%であることが好ましい。
更に、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料としては、リチウムと合金を形成可能な元素を含む材料も挙げられる。この材料は金属又は半金属の単体であっても合金であっても化合物であってもよく、また、これらの1種又は2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものであってもよい。
【0035】
負極活物質の数平均粒子径(一次粒子径)は、好ましくは0.1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜10μmである。
負極は、例えば、下記のようにして得られる。
まず、上記負極活物質に対して、必要に応じて、導電助剤やバインダー等を加えて混合した負極合剤を溶剤に分散させて負極合剤含有ペーストを調製する。次いで、この負極合剤含有ペーストを負極集電体に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、それを必要に応じて加圧し厚みを調整することによって、負極を作製する。
ここで、負極合剤含有ペースト中の固形分濃度は、好ましくは30〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔などの金属箔により構成される。
負極の作製にあたって、必要に応じて用いられる導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、炭素繊維が挙げられる。導電助剤の数平均粒子径(一次粒子径)は、好ましくは0.1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜10μmである。また、バインダーとしては、例えば、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムが挙げられる。
【0036】
<電解液>
本実施形態における電解液としては、リチウムイオン二次電池の場合、少なくとも非水系溶媒とリチウム塩を含有し、非水系二次電池の電解液として作用するものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。電解液は、水分を含まないことが好ましいが、所望の作用効果を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してもよい。そのような水分の含有量は、電解液の全量に対して、例えば、0〜100ppmである。
非水系溶媒としては、特に制限はなく、例えば、非プロトン性溶媒が挙げられ、中でも、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非水系溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、トランス−2,3−ブチレンカーボネート、シス−2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、トランス−2,3−ペンチレンカーボネート、シス−2,3−ペンチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,2−ジフルオロエチレンカーボネートに代表される環状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンに代表されるラクトン;スルホラン、ジメチルスルホキシドに代表される硫黄化合物;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサンに代表される環状エーテル;メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルトリフルオロエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート;アセトニトリル、プロピオノニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、アクリロニトリル等のモノニトリル;メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリルに代表されるアルコキシ基置換ニトリル;ベンゾニトリルに代表される環状ニトリル;ジメチルエーテルに代表されるエーテル;メチルプロピオネートに代表される鎖状カルボン酸エステル;ジメトキシエタンに代表される鎖状エーテルカーボネート化合物が挙げられる。また、これらのフッ素化物に代表されるハロゲン化物等も挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0037】
非水系リチウムイオン二次電池の充放電に寄与するリチウム塩の電離度を高めるために、非水系溶媒は環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。また、リチウム塩の溶解性、伝導度及び電離度を全て良好にする観点から、2種以上の上記非水系溶媒の混合溶媒であることが好ましい。
リチウム塩としては、非水系二次電池の電解液に用いられているものであれば特に制限はなく、いずれのものであってもよい。リチウム塩は、非水系電解液中に0.1〜3mol/Lの濃度で含有されることが好ましく、0.5〜2mol/Lの濃度で含有されることがより好ましい。リチウム塩の濃度が上記範囲内にあることによって、電解液の導電率が高い状態に保たれると同時に、非水系二次電池の充放電効率も高い状態に保たれる傾向がある。
【0038】
本実施形態におけるリチウム塩は、特に制限はないが、無機リチウム塩であることが好ましい。無機リチウム塩は、通常の非水系電解質として用いられているものであれば特に限定されず、いずれのものを用いもよい。そのような無機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、Li
2SiF
6、LiSbF
6、LiAlO
4、LiAlCl
4、Li
2B
12F
bH
12−b〔bは0〜3の整数〕、多価アニオンと結合されたリチウム塩等が挙げられる。
これらの無機リチウム塩は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。中でも、無機リチウム塩としてフッ素原子を有する無機リチウム塩を用いると、正極集電箔の表面に不働態皮膜を形成するため、内部抵抗の増加を抑制する観点から好ましい。また、遊離のフッ素原子を放出しやすくなる傾向にあるため、無機リチウム塩としては、リン原子を有する無機リチウム塩がより好ましく、LiPF
6が特に好ましい。
無機リチウム塩の含有量は、非水系電解液の全量に対して0.1〜40質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましく、5〜25質量%であることが更に好ましい。
【0039】
本実施形態における非水系電解液には、リチウムイオン二次電池の場合、少なくとも非水系溶媒とリチウム塩とが含有されていればよいが、更に、添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、本発明の奏する効果を阻害しないものであれば特に制限はなく、リチウム塩を溶解する溶媒としての役割を担う物質、すなわち、上記の非水系溶媒と実質的に重複してもよい。また、添加剤は、本実施形態における非水系電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含し、1成分を単独で又は2成分以上を組み合わせて用いる。
【0040】
添加剤の具体例としては、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、シス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4,5,5−テトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4,5−トリフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンに代表されるフルオロエチレンカーボネート;ビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートに代表される不飽和結合含有環状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトンに代表されるラクトン;1,2−ジオキサンに代表される環状エーテル;メチルホルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート、メチルブチレート、エチルホルメート、エチルアセテート、エチルプロピオネート、エチルブチレート、n−プロピルホルメート、n−プロピルアセテート、n−プロピルプロピオネート、n−プロピルブチレート、イソプロピルホルメート、イソプロピルアセテート、イソプロピルプロピオネート、イソプロピルブチレート、n−ブチルホルメート、n−ブチルアセテート、n−ブチルプロピオネート、n−ブチルブチレート、イソブチルホルメート、イソブチルアセテート、イソブチルプロピオネート、イソブチルブチレート、sec−ブチルホルメート、sec−ブチルアセテート、sec−ブチルプロピオネート、sec−ブチルブチレート、tert−ブチルホルメート、tert−ブチルアセテート、tert−ブチルプロピオネート、tert−ブチルブチレート、メチルピバレート、n−ブチルピバレート、n−ヘキシルピバレート、n−オクチルピバレート、ジメチルオキサレート、エチルメチルオキサレート、ジエチルオキサレート、ジフェニルオキサレート、マロン酸エステル、フマル酸エステル、マレイン酸エステルに代表されるカルボン酸エステル;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドに代表されるアミド;エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3−メチルスルホラン、3−スルホレン、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,3−プロパンジオール硫酸エステル、テトラメチレンスルホキシド、チオフェン1−オキシドに代表される環状硫黄化合物;モノフルオロベンゼン、ビフェニル、フッ素化ビフェニルに代表される芳香族化合物;ニトロメタンに代表されるニトロ化合物;シッフ塩基;シッフ塩基錯体;オキサラト錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
本実施形態における非水系電解液における添加剤の含有量について特に制限はないが、非水系電解液の全量に対して、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
【0041】
<セパレータ>
本実施形態における非水系リチウムイオン二次電池は、正負極の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極と負極との間にセパレータを備えることが好ましい。セパレータとしては、公知の非水系二次電池に備えられるものと同様であってもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータとしては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、あるいは、これらのポリオレフィンを共に含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製など、耐熱樹脂製の多孔膜が用いられる。
セパレータは、1種の微多孔膜を単層又は複数積層したものであってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。
【0042】
<電池の作製方法>
本実施形態における非水系リチウムイオン二次電池は、上述の非水系電解液、複合酸化物を用いて作製した正極、負極、及び必要に応じてセパレータを用いて、公知の方法により作製される。例えば、正極と負極とを、その間にセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体に成形したり、それらを折り曲げや複数層の積層などによって、交互に積層した複数の正極と負極との間にセパレータが介在する積層体に成形したりする。次いで、電池ケース(外装)内にその積層体を収容して、電解液をケース内部に注液し、上記積層体を電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態の非水系二次電池を作製することができる。あるいは、ゲル化させた電解液を含む電解質膜を予め作製しておき、正極、負極、電解質膜、及び必要に応じてセパレータを、上述のように折り曲げや積層によって積層体を形成した後、電池ケース内に収容して非水系二次電池を作製することもできる。本実施形態の非水系二次電池の形状は、特に限定されず、例えば、円筒形、楕円形、角筒型、ボタン形、コイン形、扁平形、ラミネート形などが好適に採用される。
【0043】
本実施形態における非水系リチウムオン二次電池は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電の際に電解液の一部が分解することにより安定化する。本実施形態における初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電が0.001〜0.3Cで行われることが好ましく、0.002〜0.25Cで行われることがより好ましく、0.003〜0.2Cで行われることが更に好ましい。また、初回充電が定電圧充電を途中に経由して行われることも好ましい結果を与える。尚、定格容量を1時間で放電する定電流が1Cである。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、SEI(Solid Electrolyte Interphase)が電極表面に形成され、正極を含めた内部抵抗の増加を抑制する効果がある。また、反応生成物が負極のみに強固に固定化されることなく、何らかの形で正極やセパレータ等、負極以外の部材にも良好な効果を与えるため、電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは非常に有効である。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例などによって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[参考例]
<定比率複合酸化物の調製>
遷移金属硝酸塩およびLi炭酸塩を原料として、Li
1.2Ni
0.175Co
0.10Mn
0.525O
2で表される組成を有する定比率複合酸化物を調製した。
上記組成に相当する量のNiSO
4・6H
2O、CoSO
4・7H
2O、MnSO
4・5H
2Oを蒸留水に溶解し、硝酸塩濃度は、2mol/Lとして硫酸塩水溶液とした。別に、Na
2CO
3及びNH
4OHを溶かし、Na
2CO
3濃度は2.5mol/L及びNH
4OHの濃度は1mol/LとしてNa
2CO
3/NH
4OH水溶液を調製した。次いで、硫酸塩水溶液にNa
2CO
3/NH
4OH水溶液を撹拌しながら徐々に添加し、金属炭酸塩の沈殿を得た。金属炭酸塩は濾過後、蒸留水で数回洗浄し、110℃で16時間乾燥を実施した。乾燥後、質量を測定し、上記組成に相当する量のLi
2CO
3を混合し、乳鉢で混合撹拌後、500℃で5時間、大気雰囲気下で1段目の焼成を実施した。次いで、乳鉢で粉砕混合し、900℃で5時間、2段目の焼成を行い、複合酸化物を5g得た。ICP(高周波誘導結合プラズマ)測定の結果、得られた複合酸化物はLi:Ni:Co:Mn=1.2:0.175:0.10:0.525となり、上記組成を有することを確認した。
【0045】
尚、ICPを光源とする発光分光測定は、以下のとおりに行った。複合酸化物をメノウ乳鉢で微細粉砕し、0.05gをテフロン(登録商標)容器に取り、王水8mLを加え、マイクロウェーブ加熱を行うことで均一に溶解した。この液に超純水を加えて100gとしてICP測定試料とした。ICP−発光分光分析装置を用い、下記条件で測定を実施した。
測定条件:水溶媒用・サイクロンチャンバーを使用
プラズマガス(PL1):13(L/min)
シースガス(G1):0.3(L/min)
ネブライザーガス圧:3.0(bar)
ネブライザー流量:0.2(L/min)
高周波パワー:1.0(kw)
定量値は市販の原子吸光分析用標準液の分析値と比較することで算出した。
【0046】
<複合酸化物の遷移金属平均価数の定量及びσの算出>
<EDTA(エチレンジアミン四酢酸)滴定>
まず、EDTA滴定により複合酸化物の全遷移金属含有比率を求めた。すなわち、複合酸化物0.015gを正確に秤量し、200mlコニカルビーカーに加え、分析グレードの塩酸10mlを加え、20分間超音波照射を行うことで複合酸化物を完全に溶解した。コニカルビーカーに撹拌子を加え撹拌を継続しながらイオン交換水を加え、液量をビーカーの目盛で約100mlに合わせ、1M NH
4Cl水溶液を10ml添加した。28容量%アンモニア6mlをゆっくり加えて中和を行い、pHを8.0付近とした。MX試薬(プルプリン酸アンモニウム/硫酸カリウム:1/250重量比混合粉末)0.2gを添加後、3分間撹拌を継続し、発色を安定させた。この時、液の色は燈黄色となった。25mlビュレットを用いて0.01M EDTA標準液により滴定を行い、鮮やかな紫色に発色した時点を終点として滴定量を求めた。上記EDTA滴定操作を3回実施し、その平均値は、13.33mlであった。
【0047】
<ヨウ素還元滴定>
次いで、ヨウ素還元滴定により3価以上の遷移金属の含有比率を求めた。まず、複合酸化物の滴定に先立ち、ブランクの測定を実施した。すなわち、100mlのコニカルビーカーにKI飽和溶液0.2mlを添加し、分析グレード塩酸10mlを加え、10分間の超音波照射を実施後、でんぷん溶液(滴定用でんぷん飽和水溶液)1mlを加えた。この時液の色は紫色に発色した。この後25mlビュレットを用いて0.01Mチオ硫酸ナトリウム標準液により滴定を実施し、液の色が無色となった時点を終点として滴定値を求め、ブランク値とした。次いで、別の100mlコニカルビーカーに複合酸化物0.015gを正確に秤量して加え、KI飽和溶液0.2mlを添加後、分析グレード塩酸10mlを加え、10分間の超音波照射によりKI及び複合酸化物を完全に溶解した。
ビーカーの目盛で50mlとなるようにイオン交換水を加えた後、撹拌を開始し、25mlビュレットを用いて0.01Mチオ硫酸ナトリウム標準液により滴定した。液の発色が燈黄色から黄色に変化するまで滴定を進め、液の色が薄い黄色になった時点ででんぷん溶液1mlを添加した。この時液の色は紫色となり、ゆっくり滴定を進め、液の色が無色となった時点を終点とした。この滴定量からブランク滴定量を差し引き、滴定値とした。上記、ヨウ素還元滴定を3回実施し、その平均値を求めたところ、滴定値は、20.34mlであった。
【0048】
σは、ICPの結果及び滴定値から以下のように求めた。ICP測定結果、この複合酸化物は、Li:Ni:Co:Mn=1.2:0.175:0.10:0.525であるため、Li
2MnO
3とLiMO
2(M=Mn、Ni及び/又はCo)の固溶体である。この複合酸化物は、Mnが4価、3価、2価、Niが2価、3価、Coが2価、3価の価数を採る。複合酸化物0.15gにMn
4+、Mn
3+、Mn
2+、Co
3+、Co
2+、Ni
3+、Ni
2+がそれぞれa、b、c、d、e、f、g mol存在したとするとヨウ素還元反応では以下の反応が生じる。
【0049】
<Mn
4+>
aMn
4++4aI
−→aMnI
2+aI
2
aI
2+2aS
2O
32-→aS
4O
62−+2aI
−
【0050】
<Mn
3+>
bMn
3++3bI
−→bMnI
2+(1/2)bI
2
(1/2)bI
2+bS
2O
32−→(1/2)bS
4O
62−+bI
−
【0051】
<Mn
2+>
cMn
2++2cI
−→cMnI
2
Mn
2+は、I
2を遊離しないためチオ硫酸ナトリウムとは反応しない。
【0052】
<Co
3+>
dCo
3++3dI
−→dCoI
2+(1/2)dI
2
(1/2)dI
2+dS
2O
32−→(1/2)dS
4O
62−+dI
−
【0053】
<Co
2+>
eCo
2++2eI
−→eCoI
2
Co
2+は、I
2を遊離しないためチオ硫酸ナトリウムとは反応しない。
【0054】
<Ni
3+>
fNi
3++3fI
−→fNiI
2+(1/2)fI
2
(1/2)fI
2+fS
2O
32−→(1/2)fS
4O
62−+fI
−
【0055】
<Ni
2+>
gNi
2++2gI
−→gNiI
2
Ni
2+は、I
2を遊離しないためチオ硫酸ナトリウムとは反応しない。
【0056】
以上を纏めると、チオ硫酸ナトリウム滴定値は(2a+b+d+f)molであり、他方、EDTA滴定では(a+b+c+d+e+f+g)mol分の滴定値が得られる。
よって、遷移金属平均価数=4×a/(a+b+c+d+e+f+g)+3×(b+d+f)/(a+b+c+d+e+f+g)+2×(c+e+g)/(a+b+c+d+e+f+g)=(4a+3b+3d+3f+2c+2e+2g)/(a+b+c+d+e+f+g)=2+(2a+b+d+f)/(a+b+c+d+e+f+g)=2+(ヨウ素還元滴定値)/(EDTA滴定値)
EDTA滴定値は13.33mlであり、ヨウ素還元滴定値は20.34mlであったため、上記式により遷移金属平均価数は3.53であった。
ICP測定によりLiの含有比率は、Li/M(Ni、Co、Mn総量)=1.2/0.8であり、Liは1価であるため、遷移金属平均価数3.53であることから酸素はO
2.012となり、σは、σ=−0.012であった。
【0057】
[実施例1]
<酸素欠損複合酸化物の調製>
上記参考例で調製した定比率複合酸化物を磁性皿に入れ、ガス流通可能な石英製反応管を備えた横型管状炉に導入した。反応管に、窒素を導入し、ガス流通経路に組み込んだ酸素濃度計により濃度が0.1容量%以下まで酸素が除去されていることを確認した後、窒素導入に変え、窒素によりプロピレン濃度が3.5容量%になるように希釈調整した混合ガスを1L/minの流速で反応管へ流通を開始した。上記混合ガスの流通を継続しながら管状炉の加熱を開始し、導入した定比率複合酸化物の温度が450℃になるまで1時間かけて昇温を実施し、450℃に達した後は、3時間温度を保ったまま加熱を継続した。加熱終了後、ガス流通を窒素のみの流通に切り換え、5℃/minの速度で室温まで徐冷した。試料を反応管から取り出し、酸素欠損複合酸化物とした。参考例と同様の方法でσを求めたところσ=0.020であった。
【0058】
[実施例2]
酸素欠損複合酸化物の調製条件において450℃において保持する時間を5時間とすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.036の酸素欠損複合酸化物が得られた。
【0059】
[実施例3]
酸素欠損複合酸化物の調製条件においてプロピレンの窒素希釈濃度を4.0容量%とすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.040となった。
【0060】
[実施例4]
酸素欠損複合酸化物の調製条件においてプロピレンの窒素希釈濃度を3.0容量%とし、450℃に保持する時間を8時間とすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.032となった。
【0061】
[実施例5]
酸素欠損複合酸化物の調製条件において加熱温度を480℃とすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.028となった。
【0062】
[比較例1]
酸素欠損複合酸化物の調製条件において還元性ガスとして窒素で希釈した3.5容量%の水素を用い、加熱温度を300℃とし、保持時間を6Hrすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.016となった。
【0063】
[比較例2]
酸素欠損複合酸化物の調製条件において還元性ガスとして窒素で希釈した3.5容量%の水素を用い、加熱温度を250℃とし、保持時間を3Hrすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.000となった。
【0064】
[比較例3]
酸素欠損複合酸化物の調製条件において還元性ガスとして窒素で希釈した3.5容量%の水素を用い、加熱温度を320℃とすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.008となった。
【0065】
[比較例4]
酸素欠損複合酸化物の調製条件において加熱温度を450℃として、保持する時間を2Hrとすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.004となった。
【0066】
[比較例5]
酸素欠損複合酸化物の調製条件において加熱温度を450℃として、保持する時間を10Hrとすること以外は実施例1と同じ条件で調製を実施したところσ=0.068となった。
実施例1〜5及び比較例1〜5の調製条件及びσの一覧を以下の表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
<複合酸化物のXRD測定>
調製した複合酸化物のXRD分析は下記条件で実施した。
(測定条件)検出器:半導体検出器、管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:40mA、発散スリット:0.3°、ステップ幅:0.02°/step、計測時間:3sec
調製した複合酸化物を乳鉢で粉砕し測定を実施した。(003)面のピークとしては、2θ=18.6±0.2°のピークを用い、(104)面のピークとしては2θ=44.6±0.2°のピークを用いた。各ピーク強度は、回折パターンにおけるピークの存在しない点を結んだ線をベースラインとしてピークトップから垂線を引き、ベースラインと交わる線分の長さを強度とした。半価幅は、求めた強度の線分を二等分した点において水平線を引き、回折パターンとの交点の長さを半価幅として2θで表した。測定結果を以下の表2に示す。
【0069】
<電極作製>
電極はそれぞれ以下のとおりに作製した。
(正極の作製)
上記で調製した複合酸化物を正極活物質として用い、これに、導電助剤として数平均粒子径48nmのアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、4:5:1の質量比で混合した。得られた混合物にエタノールを含ませながら混合し、引き伸ばし、シート状にした。乾燥後、20mgを切り出し、正極シートとした。次に、15.958mmφアルミニウムメッシュに、切り出した正極シートを2トン/cm
2で圧着し、真空乾燥し、正極(P)を得た。
(負極の作製)
負極活物質として数平均粒子径12.7μmのグラファイト炭素粉末及び数平均粒子径6.5μmのグラファイト炭素粉末と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース溶液(固形分濃度1.83質量%)と、ジエン系ゴム(ガラス転移温度:−5℃、乾燥時の数平均粒子径:120nm、分散媒:水、固形分濃度40質量%)とを、90:10:1.44:1.76の固形分質量比で、全体の固形分濃度が45質量%になるように混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を厚さ10μmの銅箔の片面に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、ロールプレスで圧延して負極(N)を得た。尚、負極(N)において得られた電極における真空乾燥後の合材について、片面あたりの目付量が5.0mg/cm
2±3%、片面での厚さが40μm±3%、密度が1.25g/cm
3±3%、塗工幅が銅箔の幅200mmに対して150mmになるように溶剤量を調整しながら、上記スラリー状の溶液を調製した。
【0070】
<電解液の調製>
溶媒としてエチルメチルカーボネート(EMC)及びエチレンカーボネート(EC)を容量比で7:3の割合で混合した溶媒を用い、リチウム塩としてLiPF
6を1mol/Lの濃度となるように添加して電解液を調製した。
【0071】
<評価用電池作製>
上述の方法により得られた電極と電解液とを組み合わせることにより、小型非水系二次電池を作製した。具体的な作製方法を以下に示す。
(小型非水系二次電池の組み立て)
上述のようにして得られた正極(P)と、上述のようにして得られた負極(N)を直径16mmの円盤状に打ち抜いたものとをポリエチレンからなるセパレータ(膜厚25μm、空孔率50%、孔径0.1μm〜1μm)の両側に重ね合わせて積層体を得た。その積層体をSUS製のコイン型電池ケースに挿入した。次いで、その電池ケース内に電解液を0.1mL注入し、積層体を電解液に浸漬した後、電池ケースを密閉して25℃で24時間保持し、積層体に電解液を十分馴染ませて小型非水系二次電池を得た。
【0072】
<評価>
上述のようにして得られた評価用電池について、下記の手順に従って特定の放電電流における放電容量を測定して非水系二次電池の放電特性を評価した。測定は、アスカ電子(株)製の充放電装置ACD−01(商品名)及びヤマト科学(株)製の恒温槽IN−804(商品名)を用いて行った。0.2mA(0.1C Rate)の定電流で充電して4.7Vに到達した後、4.7Vの定電圧で合計8時間充電を行った。参考例で調製した複合酸化物による正極を用いた評価用電池を前記充電後に0.2mA(0.1C Rate)において2Vまで放電し、放電容量を求めたところ248.2mAh/gであった。次に、実施例1〜5及び比較例1〜5で調製した複合酸化物について前記充電後、0.6mAの定電流(0.3C Rate)及び10mA(5C Rate)により2.0Vまで放電し、放電容量を求めた。このときの電池の周囲温度は25℃に設定した。
【0073】
放電レート特性は、下記式に従い評価した。
放電容量比=[5C Rateでの放電容量]/[0.3C Rateでの放電容量]
【0074】
実施例1〜5、比較例1〜5、及び参考例で得られた複合酸化物のXRD測定の結果、及びそれらを正極活物質として用いて作製した電池の初回放電容量を以下の表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示す結果から、本実施形態における複合酸化物を正極活物質として用いた電池(実施例1〜5)は、比較例1〜5で作製した電池と比較して放電容量比が顕著に高いことが分かる。