特許第6322017号(P6322017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6322017プレストレストコンクリートの製造方法およびプレストレストコンクリート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322017
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】プレストレストコンクリートの製造方法およびプレストレストコンクリート
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   E04G21/12 104Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-60348(P2014-60348)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-183425(P2015-183425A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達三
(72)【発明者】
【氏名】石井 祐輔
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−071575(JP,A)
【文献】 特開2005−330729(JP,A)
【文献】 特開2013−045286(JP,A)
【文献】 特開2000−186944(JP,A)
【文献】 特開2008−093991(JP,A)
【文献】 特開2011−186839(JP,A)
【文献】 特開2008−134117(JP,A)
【文献】 米国特許第04432175(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
G01N 33/38
B28B 21/00−23/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを打設した後、PC鋼材を緊張させるポストテンション方式を用いたプレストレストコンクリートの製造方法であって、
前記コンクリートのひずみ、または前記コンクリート内の鉄筋のひずみの少なくとも一方を検出するひずみセンサを設置する工程と、
前記コンクリートの温度を検出する温度センサを設置する工程と、
前記ひずみセンサから取得したひずみを示す情報、または前記温度センサから取得した温度を示す情報を出力するRFIDタグを設置する工程と、
前記RFIDタグから出力された温度を示す情報を用いて推定された緊張時期に、前記コンクリートと同配合で予め作製されたコンクリート供試体から取得された圧縮強度を示す情報並びにヤング係数を示す情報、および前記RFIDタグから出力されたひずみを示す情報を用いて推定されたプレストレス量に基づいて、前記PC鋼材を緊張する工程と、を少なくとも含むことを特徴とするプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項2】
σを、プレストレス量(N/mm)とし、Eを、コンクリート供試体のヤング係数(N/mm)とし、εを、ひずみ量(μ)とし、
前記プレストレス量を、下記の式(1)に基づいて算出する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
(1)σ=E×ε×10−6
【請求項3】
コンクリートを打設した後、PC鋼材を緊張させるポストテンション方式を用いたプレストレストコンクリートにおいて、
前記プレストレストコンクリートの中心軸の中央部に埋設され、前記コンクリートのひずみ、または前記コンクリート内の鉄筋のひずみの少なくとも一方を検出するひずみセンサと、
前記コンクリートに埋設され、前記コンクリートの温度を検出する温度センサと、
前記プレストレストコンクリートの中心軸上の前記ひずみセンサから離間した位置に埋設され、前記ひずみセンサから取得したひずみを示す情報、または前記温度センサから取得した温度を示す情報を出力するRFIDタグと、を備え
前記RFIDタグは、変形する材料で被覆されていることを特徴とするプレストレストコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートを打設した後、PC鋼材を緊張させるポストテンション方式を用いたプレストレストコンクリートの製造方法およびプレストレストコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリートを打設した後、PC鋼材を緊張させるポストテンション方式を用いたプレストレストコンクリートが知られている。プレストレストコンクリートを用いた構造物の品質を確保するためには、設計されたプレストレス量を確実に実現することが極めて重要である。ポストテンション方式のプレストレストコンクリートでは、プレストレス導入時に緊張管理を行なうことによって、設計されたプレストレス量を実現する。
【0003】
プレストレストコンクリートを緊張する時期は、コンクリートに所定の圧縮強度が必要と定められている。所定の強度に達する期間は、あらかじめコンクリートの供試体を製作して求めている。しかし、一方で工期短縮のニーズがあるため、コンクリートを打設した後は、できるだけ早い段階で緊張することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−102776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から知られている緊張管理では、緊張ジャッキの油圧(緊張力)は、マノメータの示度を用いて、また、PC鋼材の伸びはスケールなどで測定されていたが、これらの測定手法では、人為的な読み取り誤差が生じる可能性が高く、また、緊張開放時に、若干、緊張力が低下するため、緊張作業後の正確な緊張力を把握することができなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電源、配線が不要で、測定の際の煩わしさを軽減することが可能で、さらに、最適な緊張時期にPC鋼材の緊張を行なうことが可能なプレストレストコンクリートの製造方法およびプレストレストコンクリートを提供することを目的とする。さらには、コンクリートの内部で緊張力をより正確に測定でき、簡易に緊張量の把握が可能となる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の本発明のプレストレストコンクリートの製造方法は、コンクリートを打設した後、PC鋼材を緊張させるポストテンション方式を用いたプレストレストコンクリートの製造方法であって、前記コンクリ―トの温度を検出する温度センサを設置する工程と、前記温度センサから取得した温度を示す情報を出力するRFIDタグを設置する工程と、前記RFIDタグから出力された温度を示す情報を用いて推定された緊張時期に、前記PC鋼材を緊張する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0008】
このように、RFIDタグから出力された温度を示す情報を用いて推定された緊張時期に、PC鋼材を緊張させるので、確実に所定の養生(温度履歴)を経たことを確認し、コンクリートに必要な強度が確保された最適な緊張時期にPC鋼材の緊張を行なうことが可能となる。その結果、工期短縮を図ることが可能となる。
【0009】
(2)また、本発明のプレストレストコンクリートの製造方法は、前記コンクリートのひずみ、または前記コンクリート内の鉄筋のひずみの少なくとも一方を検出するひずみセンサを設置する工程と、前記ひずみセンサから取得したひずみを示す情報を出力するRFIDタグを設置する工程と、前記RFIDタグから出力されたひずみを示す情報を用いて推定されたプレストレス量に基づいて、PC鋼材を緊張する工程をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
このように、RFIDタグから出力されたひずみを示す情報に基づいて、プレストレス量を確認しながら緊張作業を実施するので、緊張ジャッキの油圧とPC鋼材の伸びを測定する手法よりも容易かつ正確にプレストレス量を測定することが可能となる。
【0011】
(3)また、本発明のプレストレストコンクリートは、コンクリートを打設した後、PC鋼材を緊張させるポストテンション方式を用いたプレストレストコンクリートにおいて、前記コンクリートのひずみ、または前記コンクリート内の鉄筋のひずみの少なくとも一方を検出するひずみセンサと、前記コンクリートに埋設され、前記コンクリートの温度を検出する温度センサと、前記ひずみセンサから取得したひずみを示す情報、または前記温度センサから取得した温度を示す情報を出力するRFIDタグと、を備えることを特徴とする。
【0012】
このように、RFIDタグを用いて、ひずみセンサから取得したひずみを示す情報、または温度センサから取得した温度を示す情報を出力するので、電源、配線が不要で、測定の際の煩わしさを軽減することが可能となる。また、供用中においても、定期的に鉄筋またはコンクリートのひずみ、およびコンクリート内部の温度を測定することが可能となる。
【0013】
(4)また、本発明のプレストレストコンクリートにおいて、前記RFIDタグは、変形する材料で被覆されていることを特徴とする。
【0014】
このように、RFIDタグは、変形する材料で被覆されているので、PC鋼材を緊張する際に圧縮応力が加わったとしても、通信障害が発生することを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電源、配線が不要で、測定の際の煩わしさを軽減することが可能となる。また、供用中においても、定期的に鉄筋またはコンクリートのひずみ、およびコンクリート内部の温度を測定することが可能となる。さらに、最適な緊張時期にPC鋼材の緊張を行なうことが可能となる。その結果、工期短縮を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施例に係るプレストレストコンクリートの透視図である。
図2】コンクリートの物性値を示す図である。
図3】PC部材のコンクリート温度の測定結果を示す図である。
図4】緊張による応力度(設計値)を示す図である。
図5】PC部材の緊張後のひずみと、ひずみから算出した推定プレストレス量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態では、コンクリート内部に温度センサを埋設し、温度センサより取得した温度履歴からコンクリートの強度を推定し、最適な緊張時期を決定する。本発明に適応できる温度センサとしては、測温抵抗体、サーミスタ、熱電対の他、トランジスタの温度特性を利用したIC温度センサなどが利用できる。コンクリート内部に温度センサを埋設した場合、PC鋼材を緊張する際に加わる圧縮応力によって変形し、測定値の正確性に欠けるなどの不具合が想定される。そこで、好ましくは変形に追従する材料、例えば、ゴム、プラスチックで被覆する、さらに好ましくは変形に追従する材料で被覆したRFIDタグに収納し、コンクリート中に埋設することで圧縮応力による変形が生じた場合においても不具合を防止できる。なお、変形に追従する材料で被覆した温度センサやRFIDタグは、ひずみセンサの測定値に影響を与えないように、ひずみセンサから離して設置する。
【0018】
コンクリートの強度推定にあたっては、予め同様の配合としたコンクリート供試体の圧縮強度と積算温度の関係のデータを作成しておき、実際のプレストレストコンクリート製品の温度履歴から強度を推定し、緊張時期を決定する。積算温度は、例えば、以下の式を用いて求めることができる。
【0019】
M=Σ(θ+10)Δt
ただし、Mは、積算温度(℃・日または℃・時)、θは、Δt時間中のコンクリート温度(℃)、Δtは、時間(日または時)である。
【0020】
また、予め緊張が可能な所定強度となる積算温度の基準値を求めておき、コンクリート内部に埋設されたRFIDタグと無線通信を行なって取得した温度履歴より、積算温度を通信機器内で計算させ、その基準値以上であれば「合格」という表示とし、緊張工程に入るといった簡易な管理も可能である。
【0021】
コンクリート製品の場合、製品に打込むコンクリート配合と、設置するセンサの固有IDは事前に分かっているので、その情報を予め通信機器に入れておけば、様々な製品、配合の場合が入り混じった場合においても、緊張が可能であるか否かが短時間で連続的に判定でき、製品管理が容易となる。
【0022】
さらに、本実施形態では、コンクリート内部にひずみセンサを埋設し、ひずみセンサより取得したプレストレス量から緊張作業を実施することができる。本発明に適応できるひずみセンサとしては、ひずみセンサは、抵抗変化を捉えるひずみゲージ、光ファイバー、振動弦形計器、差動トランス型等を用いることができ、コンクリート中に埋設、あるいは鉄筋に貼り付けて使用する。
【0023】
プレストレス量の推定にあたっては、予め同様の配合としたコンクリート供試体の圧縮強度とヤング係数を求めておき、実際のプレストレストコンクリートのひずみ量から推定する。プレストレス量は、例えば、以下の式を用いて求めることができる。
【0024】
σ=E×ε×10−6
ただし、σは、プレストレス量(N/mm)、Eは、コンクリートのヤング係数(N/mm)、εは、ひずみ量(μ)である。
【0025】
緊張工程において、緊張作業を実施しながらコンクリート内部に埋設されたRFIDタグと無線通信を行なって取得したひずみ量より、プレストレス量を計算し、必要とするプレストレス量に達したことを確認して緊張作業を終了し、次のグラウト注入工程に進む。また、緊張開放時にくさび方式の定着方法では、定着具のめり込みによりプレストレス量が低下することがあるが、本実施形態ではひずみを計測している部分の解放後の正確なコンクリート内のプレストレス量を把握することができ、安全性を担保できる。
【0026】
プレストレス量は、通信機器内で計算させ、その基準値以上であれば「合格」という表示とし、緊張工程を終了するといった簡易な管理も可能である。
【0027】
一方、RFID方式は、電源、配線が不要であり、供用後においても、定期的にひずみを計測することによって、PC鋼材の破断などの異常が生じた場合には容易に把握することが可能である。さらに固有のIDが割り振られているため、製品情報も記憶しておくことができ、管理が容易である。
【0028】
また、コンクリート内部に電子部品を内蔵したRFIDタグを埋設した場合、PC鋼材を緊張する際に加わる圧縮応力によって変形し、通信障害を生じ、また、測定値の正確性に欠けるなどの不具合が想定される。そこで、本実施形態では、RFIDタグの外装の周囲を変形に追従する材料、例えば、ゴム、プラスチックで被覆し、圧縮応力による変形が生じた場合においても通信障害がなく正確な測定ができるように構成した。
【0029】
<検証例>
図1は、本検証例に係るプレストレストコンクリートの透視図である。このプレストレストコンクリート1は、2本のPC鋼棒3が、シース管5に挿通されている。そして、200mm×400mmの一定断面で長さ2400mmのPC部材内に、コンクリートひずみセンサ7および温度センサ付きのRFIDタグ9が設けられている。また、本検証例では、PC部材内に、鉄筋ひずみセンサ11および温度センサ付きのRFIDタグ13が設けられている。これらのセンサは、それぞれ中央部断面の中心に設けられている。
【0030】
センサとRFIDタグは、それぞれケーブルで接続されている。図1のように各センサおよびRFIDタグを設置し、その後、コンクリートを打設して蒸気養生を行ない、さらに気中で養生を行なった。
【0031】
図2は、打設したコンクリートの物性値を示す図である。図2に示すように、本検証例で用いたコンクリートは、水セメント比が45%であり、圧縮強度が40N/mmのときのヤング係数は、29853N/mmであり、圧縮強度σ(N/mm)と積算温度M(°D・日)の関係式は、次のように表わされる。
σ=8.5log10M+22.3
【0032】
図3は、PC部材のコンクリート温度の測定結果を示す図である。プレストレス導入時の設計強度を40N/mmと設定した。その場合、関係式より算出すると積算温度Mは120.9(°D・日)となる。図3において、PC部材のコンクリートの温度履歴より、材齢81時間以上であれば積算温度120.9(°D・日)以上となり、この時点で緊張可能となることが分かる。
【0033】
本検証例では、緊張を材齢4日で行なった。緊張の手順は、図1で示したように、2箇所のシース(外径43mm)内にPC鋼棒(直径32mm)を挿入した。端部は定着金具とボルトを使用した。油圧ジャッキを用いてPC鋼棒を引張り、今回は、PC鋼棒による緊張力を測定するためロードセルを挟んで荷重を測定した。PC鋼棒1本あたりのプレストレス力は482.5kNとした。本検証例では、ボルト方式の定着方法を用いたため、緊張開放時のひずみの値が変化せず、緊張力の損失はなかった。なお、同時に製作しておいた供試体の材齢4日における圧縮強度は41N/mmと、設計強度と同等であった。
【0034】
図4は、緊張による応力度(設計値)を示す図である。図4に示すように、PC鋼棒1本あたりのプレストレス力が482.5kNであり、鋼材面積が804.2mmであり、導入プレストレス量が600N/mmであり、PC鋼材本数が2本であり、従来から求められる設計値としてコンクリート中央部における応力が12.2N/mmとなる。
【0035】
図5は、PC部材の緊張後のひずみと、ひずみから算出した推定プレストレス量を示す図である。ひずみ計の種類が、鉄筋ひずみ計である場合は、ひずみ量が412μであり、推定プレストレス量が12.3N/mmであった。一方、ひずみ計の種類が、コンクリートひずみ計である場合は、ひずみ量が409μであり、推定プレストレス量が12.2N/mmであった。ひずみから算出した推定プレストレス量と、従来から求められる設計値である緊張導入による応力は同等であり、RFIDひずみセンサによる緊張管理が可能であることが示された。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば、RFIDタグを用いて、ひずみセンサから取得したひずみを示す情報、または温度センサから取得した温度を示す情報を出力するので、電源、配線が不要で、測定の際の煩わしさを軽減することが可能となる。また、供用中においても、定期的に鉄筋またはコンクリートのひずみ、およびコンクリート内部の温度を測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1 プレストレストコンクリート
3 PC鋼棒
5 シース管
7 コンクリートひずみセンサ
9 RFIDタグ
11 鉄筋ひずみセンサ
13 RFIDタグ
図1
図2
図3
図4
図5