特許第6322018号(P6322018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6322018射出成形用金型及びそれを用いた樹脂成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322018
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】射出成形用金型及びそれを用いた樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/46 20060101AFI20180423BHJP
   B29C 45/43 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   B29C33/46
   B29C45/43
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-62982(P2014-62982)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-182400(P2015-182400A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】東 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 千恵
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−283752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/46
B29C 45/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な凹凸が形成された成形面を有する第1の金型と、当該第1の金型に型締めされて樹脂成形品の形状を有するキャビティを形成する第2の金型とを備え、前記キャビティ内に溶融した樹脂を射出し、固化させることで前記樹脂成形品を成形する射出成形用金型において、
前記キャビティに射出された樹脂と前記成形面との間にエアを供給するエア供給手段を備え
前記成形面は前記第1の金型に固定されており、
前記エア供給手段は、前記溶融した樹脂が前記成形面の微細な凹凸が形成された領域を通過したタイミングで、エアを供給する、
ことを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
前記エア供給手段は、型開きが行われるまでエアの供給を継続する、
請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
微細な凹凸が形成された成形面を有し、その成形面の一部にエアの吹出口が設けられた第1の金型と、当該第1の金型に型締めされて樹脂成形品の形状を有するキャビティを形成する第2の金型と、前記第1の金型の前記エアの吹出口から前記キャビティにエアを供給するエア供給手段とを備え、前記成形面が前記第1の金型に固定されている射出成形用金型による樹脂成形品の製造方法であって、
前記キャビティ内に溶融した樹脂を射出し、当該樹脂が前記成形面の微細な凹凸が形成された領域を通過したタイミングで前記エア供給手段により前記吹出口を介して前記キャビティ内にエアを供給することを特徴とする、樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記エア供給手段は、型開きが行われるまでエアの供給を継続する、
請求項3に記載の樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定金型と可動金型とで形成されるキャビティ内に溶融した樹脂を射出し、固化させることで樹脂成形品を成形する射出成形用金型及びそれを用いた樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内部品のインスツルメント・パネル(instrument panel 以下、「インパネ」と略称する。)のような樹脂製品を成形する成形技術として、固定金型と可動金型とで形成されるキャビティ内に溶融した樹脂を射出し、固化させることで樹脂製品を生成する射出成形法が広く用いられている。
【0003】
射出成形法では、成形品にアンダーカット部がある場合、スライド機構を用いることが一般的であるが、樹脂の固化に伴う熱収縮により成形品のアンダーカット部が白化することがある。
【0004】
従来、上記の成形品のアンダーカット部の白化を防止する方法として、例えば、特開2009−101640号公報に、アンダーカット部を成形するための入れ子を可動部と支持部とで構成し、可動部を樹脂の熱収縮に応じて可動させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−101640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、樹脂成形品には、例えば、自動車内部品のインパネのように、意匠面にシボが設けられる成形品がある。自動車内部品のインパネを射出成形法で成形する場合、シボは微細な凹凸であるため、インパネの意匠面がアンダーカット部となる。このため、型開き動作や射出成形中の樹脂流動に起因して、シボの部分に圧力が掛かり、インパネの意匠面に白化やカジリが発生することがある。
【0007】
この問題に対し、スライド機構によって対策することが考えられるが、個々のシボに対応してスライド機構を設けることは不可能で、製品形状やシボパターンに制約を設けることで対策するのが現状となっている。このため、インパネの設計の自由度が低いという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、樹脂成形品の白化やカジリの発生を抑制することができる射出成形用金型及びそれを用いた樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面で提供される射出成形用金型は、微細な凹凸が形成された成形面を有する第1の金型と、当該第1の金型に型締めされて樹脂成形品の形状を有するキャビティを形成する第2の金型とを備え、前記キャビティ内に溶融した樹脂を射出し、固化させることで前記樹脂成形品を成形する射出成形用金型において、前記キャビティに射出された樹脂と前記成形面との間にエアを供給するエア供給手段を備えたことを特徴とする(請求項1)。
【0010】
好ましい実施形態によれば、前記エア供給手段は、前記第1の金型の成形面に設けられた前記エアの吹出口と、その吹出口に連通する連通路と、その連通路にエアを供給するエア供給部と、を含む構成にするとよい(請求項2)。
【0011】
また、前記エアの吹出口と前記連通路は、前記第1の金型の成形面に入れ子を設けることによって形成されるとよい(請求項3)。
【0012】
本発明の第2の側面で提供される樹脂成形品の製造方法は、微細な凹凸が形成された成形面を有し、その成形面の一部にエアの吹出口が設けられた第1の金型と、当該第1の金型に型締めされて樹脂成形品の形状を有するキャビティを形成する第2の金型と、前記第1の金型の前記エアの吹出口から前記キャビティにエアを供給するエア供給手段とを備えた射出成形用金型による樹脂成形品の製造方法であって、前記キャビティ内に溶融した樹脂を射出し、当該樹脂が前記吹出口を通過した後の所定のタイミングで前記エア供給手段により前記吹出口を介して前記キャビティ内にエアを供給することを特徴とする(請求項4)。
【発明の効果】
【0013】
請求項1,4に記載の発明によれば、第1の金型と第2の金型とで形成されるキャビティ内に溶融した樹脂を射出し、固化させる際、当該樹脂と第1の金型の成形面との間にエアを供給するので、そのエアの層によって、第1の金型の成形面と密着することを防止することができる。これにより、金型の型開きをする際に固化した樹脂が第1の金型の成形面に形成された微細な凸凹部分と擦れて樹脂成形品の表面(微細な凸凹の意匠が施される面)に白化やカジリが生じるのを防止することができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、第1の金型の成形面に設けられるキャビティへのエアの吹出口を微小サイズに設定することで、キャビティ内に射出された樹脂が吹出口から連通路側に進入し、それによって成形不良となることを防止することができる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明によれば、入れ子を用いて射出成形用金型にエアの供給路を設けることができるので、射出成形用金型への通常の加工で容易に白化やカジリの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る射出成形用金型の一例を示す図で、射出成形用金型が型締めされた状態を示す断面図である。
図2】射出成形用金型で成形される樹脂成形品を示す斜視図である。
図3】射出成形金型のキャビティ内への溶融した樹脂の射出を開始したときの状態を示す図である。
図4】射出成形金型のキャビティ内にエアを供給するときの状態を示す図である。
図5】キャビティ内に供給されたエアにより樹脂と成形品表側成形面の間にエアの層が形成された状態を示す図である。
図6】射出成形用金型を型開きするときの樹脂成形品の意匠面の状態を示す図である。
図7】自動車のインパネを射出成形する場合にエアの吹出口を形成するための入れ子を設ける位置の一例を示す図である。
図8】エアの吹出口を形成するための入れ子の形状の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る射出成形用金型の一例を示す図で、射出成形用金型が型締めされた状態を示す断面図である。図2は、射出成形用金型で成形される樹脂成形品を示す斜視図である。なお、図2に示す樹脂成形品の形状は、説明の便宜上、簡単な仮想の形状としている。
【0019】
射出成形用金型1(以下、単に「金型1」という。)は、固定金型2と、この固定金型2に型締めされて樹脂成形品5(図2参照)と同一形状のキャビティ4を有する金型を構成する可動金型3とで構成される。
【0020】
固定金型2は、キャビティ4内に溶融した樹脂を射出する射出成形機(図示省略)に固定される金型であり、固定金型本体21と入れ子22で構成されている。固定金型本体21の内部には、射出成形機のノズル6から射出される溶融した樹脂R(図3参照)をキャビティ4に供給するためのスプルー211が穿設されている。また、固定金型2の内面には、スプルー211に連設された成形品表側成形面212が形成されている。
【0021】
成形品表側成形面212は、図2に示すように、樹脂成形品5の表面のうち、意匠を施す面を成形する面である。本実施形態では、樹脂成形品5の「く」の字形の表面のうち、上側の表面51(以下、「意匠面51」という。)にシボ(シワ模様)を形成するため、成形品表側成形面212にシボ形成用の微細な凹凸212aが設けられている。入れ子22は、キャビティ4に溶融した樹脂Rが供給された後、当該樹脂Rが固化する際に当該樹脂Rと成形品表側成形面212の間にエアを供給するエア供給路23を固定金型本体21内に形成するためのものである。
【0022】
射出成形時にキャビティ4内にエアを供給するのは、樹脂Rが固化するときに当該樹脂Rと成形品表側成形面212の間にエアの層を形成して当該樹脂Rが成形品表側成形面212に密着しないようにするためである。エアの層を形成することの作用・効果については後述する。
【0023】
エア供給路23は、エアコンプレッサー8に接続される連通路231と、キャビティ4内にエアを吹き出すエア吹出口232とで構成される。エア吹出口232は、成形品表側成形面212の適所に設けられている。図1の例では、上側の傾斜した成形品表側成形面212の中央部に設けられている。従って、固定金型本体21内の、成形品表側成形面212のエア吹出口232を形成する部分に入れ子22が設けられている。
【0024】
入れ子22は、直方体形状を有し、キャビティ4に臨む傾斜した面(以下、「シボ形成面」という。)には固定金型本体21の成形品表側成形面212と同様のシボ形成用の微細な凹凸212aが設けられている。入れ子22は、シボ形成面を固定金型本体21の成形品表側成形面212に合わせて固定金型本体21に固定されている。
【0025】
エア吹出口232は、連通路231よりも間隔を狭くするように、入れ子22のシボ形成面側の端部に段差232aを設けることによって形成されている。エア吹出口232の間隔を連通路231の間隔よりも狭くしているのは、キャビティ4内に供給された樹脂Rが連通路231側に進入して固化したときに不要なバリになることを防止するためである。従って、エア吹出口232のサイズは、スプルー211からキャビティ4内に押し出された樹脂Rがエア吹出口232から連通路231側に進入できないサイズ(例えば、0.05mmよりも狭いサイズ)に設定されている。
【0026】
次に、図3図6を用いて、本発明に係る射出成形用金型を用いた射出成形の作用と効果について、説明する。
【0027】
図3は、金型1のキャビティ4内への溶融した樹脂Rの射出を開始したときの状態を示す図、図4は、金型1のキャビティ4内にエアを供給するときの状態を示す図である。図5は、キャビティ4内に供給されたエアにより樹脂Rと成形品表側成形面212の間にエアの層が形成された状態を示す図である。
【0028】
射出成形機のピストン7が金型1側に押し出され、当該ピストン7の先端が固定金型本体21のスプルー211の基端から所定の寸法LAだけ手前の位置Aに達すると、図3に示されるように、溶融した樹脂Rのキャビティ4内への射出が開始される。金型1には、図示省略の冷却装置が設けられているので、スプルー211の先端からキャビティ4内に射出された樹脂Rは、冷却されながら(固化しながら)キャビティ4の先端側に移動する。
【0029】
キャビティ4にはエア吹出口232が設けられているが、エア吹出口232のサイズは溶融した樹脂Rが進入できない微小なサイズに設定されているので、樹脂Rは、エア吹出口232から連通路231側に浸透することなくキャビティ4内をスプルー211から先端側に移動する。
【0030】
そして、射出成形機のピストン7が位置Aから金型1側に所定の寸法だけ離れた位置B(スプルー211の基端から寸法LB(<LA)だけ手前の位置)に達したときがキャビティ4内を進行する樹脂Rの先端が成形品表側成形面212の入れ子22の部分を通過したタイミングであるとすると、そのタイミングでエアコンプレッサー8が作動し、図4に示されるように、エア吹出口232からエアがキャビティ4に供給される。エアコンプレッサー8によるエアの供給は、金型1の型開きが行われるまで継続される。
【0031】
キャビティ4内に充填された樹脂Rは冷却によって固化し、樹脂成形品5となるが、金型1の型開きまでエアが供給されるので、図5に示されるように、固定金型本体21の成形品表側成形面212と樹脂Rの間にエアの層が形成され、樹脂Rが固化したとき(樹脂成形品5ができたとき)に、固定金型本体21の成形品表側成形面212と樹脂Rが密着することがない。
【0032】
従って、図6に示すように、可動金型3を固定金型本体21から水平に引いて型開きをしたときに、樹脂成形品5の意匠面51の凸凹51aのエッジ部分(図6の点線で示すエッジ部分P)が固定金型本体21の成形品表側成形面212の凸凹212aのエッジ部分(図6の点線で示すエッジ部分Q)と擦れることがないので、樹脂成形品5の意匠面51に白化やカジリが生じることを確実に防止することができる。
【0033】
また、キャビティ4内に供給された樹脂Rは、冷却されながら(固化しながら)スプルー211からキャビティ4の先端側に移動するため、キャビティ4の先端側では樹脂Rの粘度が上昇し、これにより成形品表側成形面212の凸凹212aと擦れて白化やカジリが生じ易くなるが、本実施形態では、樹脂Rが入れ子22のシボ成形面を通過すると、当該樹脂Rと成形品表側成形面212の間にエアを供給して隙間を形成するので、固化しつつある樹脂Rが成形品表側成形面212の凸凹212aと擦れて白化やカジリが生じるのを防止することができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、金型1のキャビティ4の成形品表側成形面212にエア吹出口232を設け、キャビティ4内に溶融した樹脂Rを射出した後、所定のタイミングでエア吹出口232からキャビティ4内にエアを供給するようにしているので、成形品表側成形面212によってシボが形成される樹脂成形品5の意匠面51に白化やカジリが生じるのを好適に防止することができる。
【0035】
本発明に係る金型1を自動車のインパネ等の大型の樹脂成形品に適用する場合は、樹脂成形品5の意匠面51が広いので、固定金型本体21の成形品表側成形面212の複数箇所に入れ子22によってエア吹出口232を設けるようにするとよい。例えば、樹脂成形品5が自動車のインパネの場合、図7に示すように、樹脂成形品(インパネ)5の意匠面51の左右の端部の部分51a,51bと中央部の部分51cに対応する金型1の成形品表側成形面212の部分に、入れ子22によってエア吹出口232を複数個設けるようにするとよい。
【0036】
また、樹脂成形品5にアンダーカット部がある場合はそのアンダーカット部を成形するために射出成形用金型にスライド機構が用いられるが、そうした既存のスライド機構のスライド金型を利用してキャビティ4の成形品表側成形面212にエア吹出口232を形成するようにしてもよい。
【0037】
また、入れ子22によって形成されるエア吹出口232が直線的であった場合、エア吹出口232の形状が樹脂成形品5の意匠面51に残り、その直線的な模様が固定金型本体21の成形品表側成形面212で樹脂成形品5の意匠面51に形成される曲線のシマ模様に対して違和感を与えるので、図8に示すように、入れ子22の成形品表側成形面212を形成する面の周辺22aを曲線にしてエア吹出口232を非直線的にし、固定金型本体21の成形品表側成形面212で形成されるシマ模様にエア吹出口232で成形される模様を紛れ込ませて目立たなくするようにするとよい。
【符号の説明】
【0038】
1 射出成形用金型
2 固定金型
21 金型本体
211 スプルー
212 成形品表側成形面
22 入れ子
22a 入れ子の成形品表側成形面の周辺
23 エア供給路
231 連通路
232 エア吹出口
232a 段差
3 可動金型
4 キャビティ
5 樹脂成形品
51 意匠面
6 ノズル
7 射出成形機のピストン
8 エアコンプレッサー
R 樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8