(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
製鉄の燃料として、コークスが使用される。コークスは、石炭を還元雰囲気下で蒸し焼きにすることで製造される。コークスを蒸し焼きにする際には、複数の炭化室を備えるコークス炉が使用される。
【0003】
一般的なコークス炉は、特許文献1の
図1に示されるように複数の炭化室(符号24、特許文献中の符号を示す、以下同じ)と複数の燃焼室(符号21)とを備えており、これらを炉壁で区画している。
【0004】
特許文献2の
図1に示されているように、各炭化室は開閉可能に構成された炉蓋(符号4)を備えており、炉蓋を開いて石炭を搬入する。コークス炉(符号1)の炉壁は耐火煉瓦を積み上げて構成される。耐火煉瓦の上に金属製の保護板(特許文献2の
図1において符号12の下方に配置された部材)を被せてコークス炉の外壁を構成している。炭化室の開口部の縁には、金属製の枠が固定されている。この枠はドアフレームなどと呼ばれている(符号3)。ドアフレーム3と炉蓋4との隙間については、炉蓋を閉めた状態で炉蓋から突出する炉蓋ブロックに設けたナイフエッジと呼ばれる部材(符号9)とドアフレームとを密着して気密にしている。ドアフレームとコークス炉の外壁の隙間については、耐火物から構成したロープ(特許文献2の
図1においてドアフレームの下方に配置された断面円形の部材)をドアフレームと保護板との間に介装させて気密にしている。ドアフレームと保護板の気密が確実でないと、コークスガスが炉外に噴出して危険であるし、隙間から外気が炉内に入ると炭化室や燃焼室の温度が下がるし、また炉内に酸素が入るなどしてコークスの製造に支障をきたす。
【0005】
このことから、従来においてはドアフレームとコークス炉の外壁との隙間には、餅状に練った耐火物を手や鏝で当該隙間に詰め込んで気密性を確保していた。しかし、ドアフレームの高さは4〜7mにも及ぶことから、ドアフレーム周りの隙間も当然に相当な高さになる。このため、従来はドアフレーム前のプラットホームと呼ばれる作業デッキの上に足場を組み、作業員が足場の上に乗って手作業で餅状に練った耐火物を手作業で詰め込んでいた。
【0006】
例えば、特許文献3には、フリット、粘土、シリカ微粉、及びリン酸を含有するコークス炉のガス止めシール材が開示されている。このシール材は、水と混錬することで容易に餅状の粘性となり、鏝の上に載せて垂直にしてもダレ落ちることがなく、炉枠の大小の目地や垂直な壁の亀裂に容易にシール材を詰め込むことができるとされている。例えば、
図1に記載したように金属炉枠と外壁レンガの間の目地にシール材を詰め込むものである。このシール材は鏝を使用して目地に詰め込むものであり、作業性に劣る。コークス炉内の温度は1000℃にも達し、コークス炉の外壁部分でも150〜200℃にもなることから、炉が熱い間にシール材を詰め込むような場合は、作業員が酷暑環境に長時間さらされるなど作業負担が大きかった。
【0007】
一方、コークス炉の炉壁にできた割れ目の補修材に関しては、特許文献4や特許文献5のような補修材料が提案されている。特許文献4には、水ガラスとけい石レンガ粉を含む補修材が開示されており、これをノズルを使用して吹き付けるものである。特許文献5には、シリカ微粉、フリット、アルミナ粉末、及び粘土等を含有する補修材が開示されており、これを炉床の損傷部位に流し込んだり、吹き付けたりするものである。
【0008】
さらに、コークス炉の補修材に関しては、特許文献6のような補修材が提案されている。この補修材はアルミナ、マグネシア等の球状の耐火物粉と、結合剤と、分散剤とを主材とする圧入施工用の耐火物である。施工に際しては、スクイズ式等のポンプで圧送し真空脱ガス装置の浸漬管の内周面に、当該耐火物を圧入すると記載されている。真空脱ガス装置は、溶鋼中のガス成分を除去するために使用する装置である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の特許文献3ないし6のように、コークス炉や高炉の炉壁等にできた割れ目に対して圧入したり吹き付けたりする補修材が既に知られている。しかし、これらの補修材は炉壁等に生じた細かな割れ目を塞ぐためのものであり、コークス炉のドアフレーム周りの隙間のように、ある程度の幅がある隙間を塞ぐことを目的としているものではない。そのような隙間のガスシール作業を容易にすることを考慮したものではないので、補修材をドアフレーム周りの隙間に対して吹き付けた場合は、吹き付け面からの吹き返しによるリバウンドロスが発生する。吹き返しが生じると、隙間への充填量が不足するし、ドアフレーム周りを汚染する。また、ドアフレーム周りの隙間のように相当な高さがある場合は、充填したガスシール材がダレ落ちてしまうことも問題である。
【0011】
コークス炉のドアフレームの高さは相当あるため、上述のようにプラットホームの上に足場を組んで充填作業に当たるのが通常である。プラットホームの面積は、コークス炉の大きさによっても異なるが、一例を挙げるとコークス炉の幅方向に沿って長手方向に約90mでコークス炉に直行する短手方向に約3mである。上述のようにプラットホーム上に足場を組むため、プラットホームの短手方向が特に狭く、作業空間が十分でない。このような狭小な作業空間では、取り回しのよい小型ポンプを使用してガスシール充填材を隙間に充填できることが望まれる。
【0012】
本発明は、以上のようなコークス炉のガスシール作業特有の問題点に鑑みて完成したものである。すなわち、本発明は、コークス炉のドアフレーム周りの隙間のように、酷暑環境でしかもある程度の幅がある隙間に対して小型ポンプを使用して容易に充填することができるコークス炉用ガスシール充填
材を提供することを目的とする。さらに、本発明は、小型ポンプを使用して当該コークス炉用ガスシール充填
材を施工するコークス炉用ガスシール充填材の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、耐火性繊維と、耐火性微粉末と、保水増粘剤と、水とを含有してなり、JIS R2506で測定した稠度が340〜420であり、JIS R2521で測定したフロー値が155〜185mmであるコークス炉用ガスシール充填材(以下、単にガスシール充填材と称することがある)によって、上記の課題を解決する。本発明者らは、コークス炉のドアフレーム周りの隙間のように、ある程度の高さがある隙間に対して小型ポンプを使用して充填することが可能で、しかも、十分な気密性を発揮することができるガスシール充填材について研究したところ、耐火性繊維と、耐火性微粉末と、無機系結合剤と、保水増粘剤と、水とを配合することによって、JIS R2506で測定した稠度を340〜420に設定し、かつJIS R2521で測定したフロー値を155〜185mmに設定したガスシール充填材が、小型ポンプでの施工性に特に優れ、硬化後は十分な気密性を発揮することを発見して本発明を完成するに至った。稠度とは、ペースト状の物質の軟らかさを示す指標である。フロー値は、ペースト状の物質の保形性を示す指標である。
【0014】
また、本発明は、上記のコークス炉用ガスシール充填
材を、最高吐出圧力が1.0MPa以下の小型ポンプを使用して被施工箇所に充填するコークス炉用ガスシール充填材の施工方法である。上記数値範囲の稠度及びフロー値を有するガスシール充填材は、最高吐出圧力が1.0MPa以下の小型ポンプで被施工箇所に充填することができる。最高吐出圧力が1.0MPa以下の小型ポンプであれば、コークス炉のドアフレーム前に組んだ足場の周辺においても取り回しがよいため施工作業の妨げにはならない。
【0015】
上記のコークス炉用ガスシール充填材の施工方法において、ガスシール充填材は、コークス炉のドアフレーム周りの隙間に対して好適に使用することができる。この場合、小型ポンプからホースを介して供給されるコークス炉用ガスシール充填
材を、隙間に挿入可能な寸法の吐出口を有するノズルから吐出して、被施工箇所に充填することが好ましい。ノズルの吐出口を隙間に挿入可能な寸法とすることで、奥行きのある隙間でもむらなくガスシール充填材を充填することができる。
【0016】
上記のコークス炉用ガスシール充填材の施工方法において、小型ポンプに接続されるコークス炉用ガスシール充填材供給用のホースの内径は、15〜25mmの範囲とすることが好ましい。ホースの内径が大きいと、内部を流通するガスシール充填材が増大して、その重量のためにホースが重くなり、施工作業の効率を低下させる。特に高所の足場にホースを介してガスシール充填材を供給する場合は、作業効率の低下が顕著である。本発明のガスシール充填材は、適度な流動性を備えるので、内径の小さいホースを使用して供給することが可能である。これにより、ホースの重量を減じて、作業効率の低下を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
コークス炉は、複数の炭化室を幅方向に配置したものであるから、幅方向に長い。一例をあげると炭化室を64室有するコークス炉の幅は89.5mにもなる。このようなコークス炉のドアフレーム周りにガスシール充填材を充填するには、各ドアフレームの前をポンプを引いて移動して、個々のドアフレーム周りにガスシール充填材を充填していく。コークス炉の幅に応じてポンプに接続するホースも長くなる。ホースが長くなればなるほどポンプの吐出圧を高くしなければならず、必然的にポンプが大型化してしまう。本発明のガスシール充填材は、適度な軟らかさを備えるため、長めのホースを使用しても、小型ポンプを使用してガスシール用充填材を圧送することが十分に可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための形態について説明する。まず、
図1ないし8を参照しながら、本発明のガスシール充填材を施工する箇所(被施工部位)や、施工方法について説明する。
【0020】
本発明のガスシール充填材は、種々の隙間(例えば、袴部と呼ばれる上昇管12(
図1参照)の基部と本管との接合部など)に対して使用できるが、隙間に充填した後にダレ落ちるおそれがないので、コークス炉のドアフレーム周りの隙間のように相当な高さがある隙間に対して好適に使用することができる。例えば、本発明のガスシール充填材は高さが200mm〜10,000mmもあるような長い隙間に対して好適に使用することができる。幅や奥行については、幅10mm〜30mm、奥行10mm〜80mmの隙間に対して好適に使用することができる。温度については、150℃以上の温度(より好ましくは、150℃〜200℃)で好適に使用することができる。以下、コークス炉のドアフレーム周りの隙間に対して本発明のガスシール充填材を使用する場合を例に説明する。
【0021】
コークス炉11は、
図1ないし5に示したように、複数の炭化室13と複数の燃焼室14とを備える。炭化室13と燃焼室14とは炉壁16で区画されている。各炭化室13は背面側と正面側とに窯口17が開口しており、窯口17から石炭18を搬入し、乾留後のコークスを搬出する。炉口17の周りにはドアフレーム19と呼ばれる金属枠が取り付けられている。
図1ないし
図5に示すコークス炉11では、ドアフレーム19とコークス炉11の外壁20と間に隙間21が存在する(
図4)。当該コークス炉11では、耐火煉瓦22と耐火煉瓦22の上に被せられる金属製の保護板23と保護板23を拘束する支柱状のバックステー24とでコークス炉の外壁20を構成している。
図4に示したように、コークス炉11の外壁20とドアフレーム19との隙間21には、ガラスウールやセラミックス等からなるロープ25が介装されている。ロープ25だけでは気密性が不十分であるので、この隙間21に対して本発明のガスシール充填材26を充填することで確実な気密性が得られる。ドアフレーム19周りの隙間は、他の構成であってもよい。
【0022】
コークス炉11の各炉口17を炉蓋27で気密に閉じてから、石炭18を乾留する。
図1ないし
図5のコークス炉の炉蓋27は、
図3及び
図5に示したように、炉蓋本体28とナイフエッジ29とリブ30とスプリング部31とを含む。炉蓋を閉じるときには、
図5に示したように、炉蓋27を炉口17に嵌めて、スプリング部31の先端にカンヌキ32を押し当てて、ドアフレーム19に設けたカンヌキ受け33にカンヌキ32を嵌め込むことで炉蓋27を固定する。ナイフエッジ29がドアフレーム19に密着して炭化室13は気密に保たれる。
【0023】
本発明のガスシール充填材は、適度な軟らかさを備えるので、
図1に示したように、小型ポンプ34にホース35(フレキシブルホース)を接続し、ホース35の先端にノズル36を接続して、小型ポンプ34からノズル36にガスシール充填材を圧送することで、隙間21にガスシール充填材26を極めて簡単に充填することができる。炉蓋27のドアフレーム周りの隙間21は高さが4〜7mもあるため、充填したガスシール充填材26がその自重でダレ落ちたり、流れ出たりすることが懸念される。しかし、本発明のガスシール充填材は、適度な保形性を有するため、ダレ落ちが生じたり隙間から流れ出たりすることがない。
【0024】
充填作業は、
図6に示したように、ノズル36の先端を被施工部位1に沿って動かすことで被施工部位1の隙間にガスシール充填材26を極めて簡単に充填することができる。ドアフレーム19の隙間21の周りは150〜200℃の酷暑環境である。ノズル36を使用すれば、隙間21に手を近づけることなく、充填作業を行うことができるので作業員の負担を減じることができる。このときノズル36の先端の吐出口37は、
図6に示したように、隙間に挿入可能な寸法にすることが好ましい。ノズル36を隙間に対して挿入可能に構成することで、隙間の奥行きが深い場合でも、ノズル36の先端を隙間の中に入れることで奥までガスシール充填材26を簡単に充填することができる。
図6に示したように、ノズル36はその中ほどに角度45度の屈曲部38を備えており、充填作業を行いやすい形状としている。そして、
図7に示したようにノズル36の吐出口37は、断面円形のアルミニウムなどの金属製のパイプの先端部分に圧力をかけて扁平に加工し、隙間に挿入しやすいようにしている。
【0025】
本発明のガスシール充填材26は、適度な軟らかさと保形性を備えるため、最高吐出圧力が1.0MPa以下の小型ポンプ34を使用して上記のような隙間に容易に充填することができる。コークス炉は
図1に記載したように、複数の炭化室13を備えており、幅方向に長い。炭化室13の前のプラットホーム39に足場40を組んで、コークス炉11の外壁20とドアフレーム19との隙間21にガスシール充填材26を充填する作業を行うことになる。最大吐出圧力が1.0MPa以下の小型ポンプ34であれば、軽量でサイズも小さいことから、作業空間の狭いプラットホーム39の上でも複数の炭化室13の間を小型ポンプ34を引いて移動することが容易である。
【0026】
本発明のガスシール充填材26は、内径が15〜25mmのホース35を使用しても、十分に圧送することが可能である。ホース35の内径が小さいと、吐出圧が上昇しやすい傾向がある。しかし、本発明のガスシール材26は、適度な軟らかさと保形性を備えるため、細めのホースも好適に使用することができる。細めのホースを使用すれば、ホース内を流通するガスシール充填材26の量が少なくなるため、ホースの重量を小さくすることができる。これにより、ホース35の取り回しが格段に向上し、施工作業をさらに効率化することができる。
【0027】
次に、本発明のガスシール充填材について説明する。本発明のガスシール充填材は、JIS R2506で測定した稠度が340〜420であり、JIS R2521で測定したフロー値が155mm〜185mmである。稠度とフロー値を上記数値範囲内に設定することで、小型ポンプを使用して本発明のガスシール充填材を被施工部位に容易に充填することができる。稠度とフロー値を上記数値範囲に設定するには、耐火性繊維、耐火性微粉末、無機系結合剤、保水増粘剤、及び水の配合比を調節することで実現できる。
【0028】
耐火性線維は、ガスシール充填材に保形性を与えて、ガスシール充填材を充填した後に隙間からガスシール充填材がダレ落ちることを防止する。耐火性繊維は被施工箇所が到達すると予想される温度に対して容易に変性、変質しない素材であればよく、特にその種類は限定されない。そのような素材の例としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム(カルシア)、ムライトなどのセラミックスからなる繊維が挙げられる。例えば、アルミナ又はシリカを主成分とするロックウール、ムライトファイバー、アルミナ-カルシア-マグネシアファイバーなどである。これらの中でも安価に入手することができるアルミナやシリカ又は両者の混合物を好適に使用することができる。繊維長及び繊維径は、自由に選択することができるが、繊維長2〜10mm、繊維径1〜1000μmの範囲のものを使用することができる。耐火性繊維の配合量は、ガスシール充填材の全重量に対して4〜12重量%とすることが好ましい。耐火性繊維の配合量が少ないとガスシール充填材の保形性が低下する傾向がある。これに起因してガスシール充填材が隙間からダレ落ちて充填不足が生じることがある。一方、耐火性繊維の配合量を多くすると、保水増粘剤の比率が小さくなる。これに起因して粘性が低下し水分の分離が発生することがある。
【0029】
耐火性微粉末は、ガスシール充填材の嵩増材として配合する。耐火性微粉末の粒径は、ガスシール充填材の緻密さとそれに基づくガスシール性能に影響を与える。コークス炉用のガスシール充填材としての使用に耐える粒径値であれば特に粒径は限定されない。例えば、粒径の分布範囲が1.0〜200μの耐火性微粉末を使用するとよい。耐火性微粉末の素材は、被施工箇所が到達すると予想される温度に対して容易に変性、変質しない素材であればよく、特にその種類は限定されない。そのような素材の例としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化ケイ素(シリカ)、コーディライト、ムライトなどのセラミックス微粉末が挙げられる。アルミナやシリカは安価で入手可能なことに加えて、高温から急冷されたような場合であってもひび割れが生じにくいガスシール充填材が得られるので、好適に使用することができる。耐火性微粉末の配合量は、ガスシール充填材の全重量に対して20〜32重量%とすることが好ましい。耐火性微粉末の配合量が少ないと、ガスシール充填材の流動性が不足してポンプで圧送する際の圧力が上昇する傾向がある。また、フィラーが不足してガスシール材の組織が脆弱化する傾向がある。一方、耐火性微粉末の配合量を多くすると、相対的に増粘剤の比率が小さくなり、粘性が低下して水分の分離が発生することがある。
【0030】
無機系結合剤としては、被施工箇所の熱で硬化し、被施工箇所の熱で軟化したり、ひび割れたりするなど容易に変質、変性しないものであればよく、その種類は特に限定されない。そのような素材の例としては、コロイダルシリカ、リン酸ソーダ、ケイ酸ソーダなどが挙げられる。これらのうち、乾燥後の寸法変化やひび割れがすくないコロイダルシリカを好適に使用することができる。コロイダルシリカは、シリカ含有率30〜50重量%であることが好ましい。
結合剤の配合量は、ガスシール充填材の全重量に対して1〜25重量%とすることが好ましく、1〜8重量%とすることがより好ましい。無機系結合剤の配合量が多いと、ガスシール充填材の強度が高くなるが可縮性が低くなる傾向がある。これに起因して金属製のドアフレームが温度変化によって伸縮するときにガスシール充填材が追随できずに剥離することがある。
【0031】
保水増粘剤は、ガスシール充填材に粘りと保水性を与える。保水性充填材は、粘土及び増粘剤の一方又は両方を含有する。すなわち、保水増粘剤として粘土を添加する組成と、保水増粘剤として増粘剤を添加する組成と、保水増粘剤として、粘土及び増粘剤を添加する組成がある。
【0032】
増粘剤は、ガスシール充填材に粘りと保水性を与える。増粘剤は被施工箇所が到達すると予想される温度に対して容易に変性、変質しない素材であって、粘りと保水性を付与できるものであればよく、その種類は特に限定されない。そのような素材の例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール又はこれらの混合物などの有機系糊剤が挙げられる。増粘剤の配合量は、ガスシール充填材の全重量に対して0.1〜0.55重量%とすることが好ましく、0.3〜0.5重量%であることがより好ましい。増粘剤の配合量が多いと、粘性が増加してガスシール充填材を圧送するときの圧力が上昇してしまう傾向がある。
【0033】
粘土は、ガスシール充填材が硬化する前においては、ガスシール充填材に粘りと保水性を与える。ガスシール充填材が熱により乾燥して硬化する際には硬化剤の役割を果たす。粘土は、被施工箇所が到達すると予想される温度に対して容易に変性、変質しない素材であって、粘りと保水性を付与できるものであればよく、その種類は特に限定されない。そのような粘土の例としては、ベントナイト、カオリナイトが挙げられる。粘土の配合量は、ガスシール充填材の全重量に対して4〜10重量%とすることが好ましい。粘土の配合量が少ないと粘性が低下することによって保水性が低下し、水が浮く傾向がある。一方、粘土の配合量が多いと粘性が増大してガスシール充填材をポンプで圧送するときの圧力が上昇する傾向がある。また、ガスシール充填材が熱によって膨張したり放熱によって収縮するときに亀裂が発生する傾向がある。
【0034】
水は、その添加量によってガスシール充填材の軟らかさと保形性を調節する。水は、ガスシール充填材の性能に悪影響を与えない限りにおいて、添加物を添加しても構わないし、イオンなどの夾雑物を含んでも構わないし、pHも取扱いに不便でない限り特に限定されない。水としては、例えば、水道水、工業用水などが挙げられる。水の配合量は、ガスシール充填材の全重量に対して50〜57重量%とすることが好ましい。
【0035】
上で説明した耐火性繊維、耐火性微粉末、無機系結合剤、保水増粘剤及び水をJIS R2506で測定した稠度が340〜420であり、JIS R2521で測定したタップフロー値が155〜185mmとなるように配合して、混合する。稠度が340未満でフロー値が155mm未満の場合は、ガスシール充填材の流動性が低くなり、小型ポンプにガスシール充填材を例えばホッパを使用してフィードすることが困難になったり、フィードできたとしても小型ポンプで圧送することが困難になったりして圧送の効率が低下する傾向がある。一方で稠度及びタップフロー値が高ければ、ガスシール充填材の流動性が高くなり、小型ポンプで圧送する点では有利であると考えられる。しかし、稠度420を越え、タップフロー値185mmを超えるように配合しようとすると、水の配合量が過剰になってしまう。水が過剰量存在するとガスシール充填材の固形分と水が不均一化して、不均一化した固形分がポンプ圧を上昇させてしまう傾向がある。また、ガスシール充填材の流動性が過多となり、施工後にガスシール充填材のダレ落ちが生じる傾向がある。
【0036】
以下、本発明の実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0037】
〔実施例1〕ないし〔実施例4〕及び〔比較例1〕
以下の表1に記載したように、耐火性繊維として、アルミナ繊維(繊維長6mm、繊維径2.7μm)45重量部とシリカ繊維(繊維長6mm、繊維径2.7μm)55重量部とからなる混合繊維(アルミナ繊維/シリカ繊維)を使用した。耐火性微粉末として、粒径の分布範囲が2〜4μm(カタログ値)のアルミナ超微粉末(純度100%)と、粒径の分布範囲が75μm以下(カタログ値)のけい石微粉末(純度96%)とを使用した。保水増粘剤である粘土には、シリカ含有率70重量%(wt%)(カタログ値)の市販のベントナイトを使用した。同じく保水増粘剤である増粘剤として、粘度10〜20mPa/s(カタログ値)の市販のカルボキシメチルセルロースを使用した。無機系結合剤として、シリカ含有率40重量%、粒子径10〜20nm、粘度5〜25mPa・s、pH9.0〜10.5の市販のコロイダルシリカを使用した。水は工業用水を使用した。これらを以下の表1に記載した配合比(wt%)で、以下の方法により混合して、実施例1ないし実施例4、及び比較例1のガスシール充填材を製造した。
【0038】
室温雰囲気の温度(約15〜20℃)で、表1に記載した配合で上述の耐火性繊維、耐火性微粉末、粘土、無機系結合剤、増粘剤、及び水(約17℃)を混練機(新東工業株式会社、MSG-OL)に投入して混錬した。
【0039】
【表1】
【0040】
〔実施例5〕ないし〔実施例7〕及び〔比較例2〕
以下の表2に記載したように、耐火性繊維として、アルミナ繊維(繊維長6mm、繊維径2.7μm)を使用した点、耐火性微粉末として、粒径の分布範囲が2〜4μm(カタログ値)のアルミナ超微粉末(純度100%)を使用した点、保水増粘剤の一方である増粘剤として、粘度10〜20mPa・s(カタログ値)の市販のポリビニルアルコールを使用した点、各成分の配合比(wt%)を以下の表2のように変更した点以外は実施例1と同様にして実施例5ないし実施例7及び比較例2のガスシール充填材を製造した。
【0041】
【表2】
【0042】
〔実施例8〕ないし〔実施例11〕及び〔比較例3〕
以下の表3に記載したように、耐火性微粉末として、粒径の分布範囲が75μm以下(カタログ値)のけい石微粉末(純度96%)を使用した点、及び各成分の配合比(wt%)を以下の表3のように変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例8ないし実施例11及び比較例3のガスシール充填材を製造した。
【0043】
【表3】
【0044】
〔実施例12〕ないし〔実施例15〕及び〔比較例4〕
以下の表4に記載したように、耐火性繊維として、マグネシア繊維(繊維長6mm、繊維径2.7μm)を使用した点、及び各成分の配合比(wt%)を以下の表4のように変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例12ないし実施例15及び比較例4のガスシール充填材を製造した。
【0045】
【表4】
【0046】
上述のようにして得た実施例1ないし15のガスシール充填材及び比較例1ないし4のガスシール充填材について、JIS R250及びJIS R2521に基づいて稠度とタップフロー値とを調べる試験を行った。結果を表1ないし表4の下段に記載する。
【0047】
実施例1ないし15のガスシール充填材及び比較例1ないし4のガスシール充填材を、小型ポンプを使用してコークス炉のドアフレームとコークス炉の外壁との隙間に簡易に充填することができるか、隙間に充填した後もガスシール充填材がダレ落ちがないか、十分なガスシール性能を有するかの3点について施工テストを行った。隙間は、幅20mm、奥行が20mm、高さが約7m、鉄皮(ドアフレーム、保護板の表面)の温度は200℃である。小型ポンプとして、川機械製のスクイズ式ポンプを使用した(KT-10-1INV、最大吐出圧力1.0MPa、吸引圧力-101kPa)、重量65kg)。小型ポンプには長さ15m、内径20mmのホースを接続し、ホースの先端には内径20mmのアルミニウム製のパイプの先端を潰して、縦35mm、横6mm(いずれもパイプ内周面を結ぶ直線距離)の扁平な吐出口を備える専用ノズルからガスシール充填材を隙間に充填した。なお、
図4に示したように、コークス炉と炉蓋の隙間にはセラミックスを主材とするセラミックスロープ(新日本サーマルセラミックス株式会社製)を装着してある。
【0048】
表1に記載した実施例2ないし4、実施例5ないし7、実施例10及び11、並びに実施例12ないし15では、ガスシール充填材の施工性は良好であり、小型ポンプと専用ノズルを使用してコークス炉の周りの隙間に容易に充填することができた。充填後は隙間からガスシール充填材がダレ落ちることなく、コークス炉の熱で水分が蒸発して硬化した。硬化後における気密性も問題なく、コークス炉の操業中にガス漏れが生じるようなことはなかった。実施例1では、稠度が低く小型ポンプで圧送するには軟らかさがやや不足していた。また、タップフロー値が小さく保形性が高すぎて自重でホッパに供給され難かった。このことから作業性を考慮すると、実施例1は、小型ポンプを実用的に使用することができる限界であることが分かった。一方の比較例1は、実施例1ないし4よりも多めに水を配合して稠度が高くなっているため小型ポンプを用いて圧送するには問題ないと予測された。しかし、予想に反して固形分と水分が不均一化しやすく(水浮しやすく)、固形分と水分が不均一になった状態ではガスシール充填材を圧送するのに必要な圧力がやや高めとなった。また、比較例1は、タップフロー値が大きく、保形性が十分でないために隙間からガスシール充填材がダレ落ちやすかった。
【0049】
比較例2は、耐火性繊維の配合量を増やしたものである。この場合、タップフロー値が高く過度に保形性が高いものとなり、小型ポンプでは圧送することが困難であった。
【0050】
実施例8及び9は、水の配合量に対して粘土の配合量を減らしたものである。この場合、原料を混合した直後は、タップフロー値及び稠度は共に良好であったが、時間が経過すると固形分と水分が不均一化する傾向が見られた(水浮しやすい)。混合直後は、小型ポンプで十分に圧送可能であったが、混合後にあまりに時間が経過すると、水分と固形分が不均一になり、固形分が圧送の妨げになることがあった。しかし、ポンプで圧送前に撹拌すれば、小型ポンプでも圧送することができたし、充填したガスシール充填材が隙間からダレ落ちることもなかった。比較例3は、水の配合量に対して粘土の配合量を増やしたものである。この場合、タップフロー値及び稠度共に低く、硬くそして保形性の高いものとなり、小型ポンプでは圧送することが難しかった。
【0051】
比較例4は、水の配合量に対して増粘剤の配合量を増やしたものである。この場合、タップフロー値及び稠度共に低く、硬くそして保形性の高いものとなり、小型ポンプでは圧送することが難しかった。一方の実施例12は、増粘剤の配合量を少なくしたものである。この場合、やや固形分と水分が不均一化しやすい(水浮しやすい)傾向があった。しかし、ポンプで圧送前に撹拌すれば、小型ポンプでも圧送することができた。充填したガスシール充填材が隙間からダレ落ちることもなかった。
【0052】
以上の結果から、小型ポンプで圧送して容易に施工し、しかもコークス炉のドアフレームのような高さのある隙間からガスシール充填材がダレ落ちにくくするためには、JIS R2506で測定した稠度を340〜420に設定し、JIS R2521で測定したフロー値を155〜185mmに設定するとよいことが確かめられた。稠度とタップフロー値を調節する方法は特に限定されず、水の配合量を増減させたり、増粘剤や粘土や耐火性繊維の配合量を増減することで実現することができる。ガスシール充填材を製造してから、施工するまでに時間がある場合は、増粘剤の添加量は、重量比で、水の5/1000〜9/1000量とすることが好ましく、粘土の添加量は、重量比で、水の13/100〜19/100量とすることが好ましい。増粘剤及び粘土を上記数値範囲内で添加すれば、時間が経過した際にも固形分と水分が不均一化し難くなるので、予め各原料を混合してプレミックスのガスシール充填材として流通させるときに好ましい。施工現場で混合する場合は、増粘剤及び粘土の配合量は自由に決定することができる。