特許第6322034号(P6322034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322034
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20180423BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08K5/00
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-79442(P2014-79442)
(22)【出願日】2014年4月8日
(65)【公開番号】特開2014-218655(P2014-218655A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-82462(P2013-82462)
(32)【優先日】2013年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
(72)【発明者】
【氏名】安田 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】三ノ上 渓子
(72)【発明者】
【氏名】服部 光宏
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 太一
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−021083(JP,A)
【文献】 特開2007−171757(JP,A)
【文献】 特開平10−139870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 5/00−5/59
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量10000以下のポリエステル樹脂と、前記ポリエステル樹脂の耐熱性を向上させるための添加剤とを含む樹脂組成物であって、前記ポリエステル樹脂が非晶性であり、前記添加剤が下記式(1A)で表される9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物で構成された耐熱性向上剤である樹脂組成物。
【化1】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環、RおよびRは置換基、Rはアルキレン基、nは0以上の整数、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、pは1以上の整数を示す。)
【請求項2】
環Zがベンゼン環又はナフタレン環、Rがアルキル基、kが0〜1、Rがアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルコキシ基、mが0〜2、RがC2−4アルキレン基、nが0〜2、pが1〜3である請求項記載の樹脂組成物。
【請求項3】
9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物が、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレンから選択された少なくとも1種である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル樹脂の180℃における粘度が、5000mPa・s以下、ガラス転移温度が35〜75℃である請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエステル樹脂が、数平均分子量8000以下、180℃における粘度3000mPa・s以下、ガラス転移温度が40〜70℃のポリエステル樹脂である請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリエステル樹脂が、脂環族ジカルボン酸成分および芳香族ジカルボン酸成分から選択された少なくとも1種を含むジカルボン酸成分と、脂環族ジオールおよび芳香族ジオールから選択された少なくとも1種を含むジオール成分とを重合成分とするポリエステル樹脂である請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
添加剤が、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を向上させるための耐熱性向上剤である請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
耐熱性向上剤の割合が、ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.5〜50重量部である請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
トナー用の樹脂組成物である請求項1〜のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
数平均分子量10000以下の非晶性ポリエステル樹脂に、請求項1〜のいずれかに記載の耐熱性向上剤を添加し、数平均分子量10000以下の非晶性ポリエステル樹脂の耐熱性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上するための添加剤(又は改質剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
トナー用の樹脂として、ポリエステル樹脂が汎用されている。このようなポリエステル樹脂には、トナーを比較的低い温度で加熱溶融させて定着させるため、加温時に急速に(シャープに)溶融し、低粘度化することが要求される。
【0003】
ポリエステル樹脂としては、通常、樹脂を低粘度化する観点から低分子量のポリエステル樹脂が使用されている。しかし、低分子量化すると、耐熱性(ガラス転移温度)が低下するため、トナーが凝集(ブロッキング)し易くなる。そのため、低粘度を維持しつつ、耐熱性(ガラス転移温度)を向上させる必要がある。
【0004】
一般的には、低分子量のポリエステル樹脂と、高分子量のポリエステル樹脂とを組み合わせることにより、低粘度化と耐熱性とを担保している。しかし、近年、省エネルギー化などを目的として、より一層定着性(低粘度など)と耐熱性とを高いレベルで効率よく両立できる技術が求められている。
【0005】
一方、フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格など)を有する化合物は、高耐熱性などの優れた機能を有することが知られている。このようなフルオレン骨格の優れた機能を樹脂に発現し、成形可能とする方法としては、反応性基(ヒドロキシル基、アミノ基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などを樹脂の構成成分として利用し、樹脂の骨格構造の一部にフルオレン骨格を導入する方法が一般的である。
【0006】
例えば、特開2002−284864号公報(特許文献1)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂で構成された成形材料が開示されている。また、特開2002−284834号公報(特許文献2)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有し、架橋剤で架橋されたポリウレタン系樹脂が開示されている。これらの文献では、樹脂を構成するジオール成分の一部として、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンや、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン)などを使用することにより、樹脂中にフルオレン骨格を導入している。
【0007】
しかし、このような方法では、樹脂の骨格をフルオレン骨格で置換するため、煩雑な重合反応を必要とし、また、幅広い樹脂に適用できない。
【0008】
また、フルオレン化合物を、ポリマー化することなく、直接的に樹脂に添加する試みもなされつつある。
【0009】
例えば、特開2005−162785号公報(特許文献3)には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する化合物と、熱可塑性樹脂とで構成された樹脂組成物が開示されている。そして、この文献には、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する化合物を、熱可塑性樹脂に添加することで、高屈折率などを熱可塑性樹脂に付与できると記載されており、具体的な実施例では、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、特定の化合物(ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレン又はビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート)を30〜40重量部混合した樹脂組成物を作成し、透明なフィルムを得たことや屈折率が上昇したことなどが記載されている。
【0010】
また、特開2011−8017号公報(特許文献4)には、透明樹脂と、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とで構成された光学用樹脂組成物が開示されている。そして、この文献には、透明樹脂の機械特性及び耐熱性を損なうことなく、複屈折を低下できると記載されており、具体的な実施例では、ポリカーボネート樹脂に対して、フルオレン含有ポリエステル系樹脂、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、又は9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンとを含む樹脂組成物から延伸フィルムを作成し、複屈折が低下したことが記載されている。
【0011】
さらに、特開2011−21083号公報(特許文献5)には、フェノール化合物が、ポリ乳酸などの結晶性樹脂にβ晶構造を形成するための核剤(β晶核剤)として機能することが記載されている。そして、この文献の実施例では、α晶(融点168℃)のポリL乳酸に対して、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンを1〜5重量%添加して溶融混練し、β晶(融点163℃)が形成されたポリL−乳酸を得たこと、また、結晶構造が変わったことに伴い、Tgが56.5℃から、60.9〜62.1℃に変化したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−284864号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開2002−284834号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2005−162785号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献4】特開2011−8017号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献5】特開2011−21083号公報(特許請求の範囲、実施例)[0058])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、ポリエステル樹脂の耐熱性(例えば、ガラス転移温度など)を向上(又は改善又は上昇)できる添加剤(又は改質剤)を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、ポリエステル樹脂の低粘度(又は溶融粘度)を維持しつつ耐熱性を向上(又は改善又は上昇)できる添加剤を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、ポリエステル樹脂を急速に(シャープに)溶融するのに有効な添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の通り、樹脂に対してフルオレン骨格を有する化合物を添加する技術がいくつか報告されているものの、特定の樹脂に対して添加することにより、屈折率の向上、複屈折の低減や結晶構造がα晶からβ晶への変化が見られるにとどまっており、未だ十分な開発がなされていないのが現状であった。なお、特許文献5ではTgが向上しているが、ポリ乳酸がα晶からβ晶に変わったことに伴って、Tgが上昇したことを開示するにすぎず、樹脂自体の耐熱性が向上したことを開示するものではない。
【0017】
このような中、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、樹脂の中でも、ポリエステル樹脂(特に、低分子量及び/又は低粘度のポリエステル樹脂)に対して、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物を添加すると、意外にも、低分子化合物を添加剤として用いる場合における一般的な現象である耐熱性[例えば、ガラス転移温度(Tg)]の低下が見られないだけでなく、むしろ、ポリエステル樹脂の耐熱性が向上すること、また、前記樹脂の粘度(溶融粘度)を極端に高粘度化させることなく維持できること、さらには前記樹脂がシャープに(急速に)溶融されることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の添加剤は、ポリエステル樹脂(例えば、数平均分子量10000以下のポリエステル樹脂)の耐熱性[例えば、ガラス転移温度(例えば、DSC(示差走査熱量測定)によるガラス転移温度)など]を向上(又は上昇又は改善)させるための添加剤であって、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物で構成された耐熱性向上剤(耐熱性改善剤)である。
【0019】
9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0020】
【化1】
【0021】
[式中、環Zは芳香族炭化水素環、RおよびRは置換基、Xは、基−[(OR)n−Y](式中、Yは、ヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシ基、Rはアルキレン基、nは0以上の整数を示す。)又はアミノ基、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、pは1以上の整数を示す。]
特に、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物は、下記式(1A)で表される化合物であってもよい。
【0022】
【化2】
【0023】
(式中、Z、R、R、k、m、R、n、pは前記式(1)と同じ。)
上記式(1)又は(1A)において、環Zは、ベンゼン環又はナフタレン環であってもよく、Rはアルキル基であってもよく、kは0〜1であってもよく、Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルコキシ基であってもよく、mは0〜2であってもよく、RはC2−4アルキレン基であってもよく、nが0〜2であってもよく、pは1〜3であってもよい。
【0024】
9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物は、代表的には、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレンから選択された少なくとも1種であってもよい。
【0025】
特に、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物は、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレンから選択された少なくとも1種であってもよい。
【0026】
ポリエステル樹脂の180℃における溶融粘度は、例えば、5000mPa・s以下であってもよい。また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、35〜75℃程度であってもよい。代表的なポリエステル樹脂は、数平均分子量8000以下、180℃における溶融粘度3000mPa・s以下、ガラス転移温度40〜70℃のポリエステル樹脂であってもよい。
【0027】
また、ポリエステル樹脂は、例えば、脂環族ジカルボン酸成分および芳香族ジカルボン酸成分から選択された少なくとも1種を含むジカルボン酸成分と、脂環族ジオールおよび芳香族ジオールから選択された少なくとも1種を含むジオール成分とを重合成分とするポリエステル樹脂であってもよい。
【0028】
本発明には、前記ポリエステル樹脂(例えば、数平均分子量が10000以下のポリエステル樹脂)と、前記耐熱性向上剤(又は9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物)とを含む樹脂組成物も含まれる。このような樹脂組成物において、耐熱性向上剤の割合は、ポリエステル樹脂100重量部に対して0.5〜50重量部程度であってもよい。
【0029】
前記樹脂組成物は、特に、トナー用の樹脂組成物[又はトナー用のバインダー(樹脂)]であってもよい。
【0030】
さらに、本発明には、ポリエステル樹脂(例えば、数平均分子量10000以下のポリエステル樹脂)に、前記耐熱性向上剤を添加し、ポリエステル樹脂(例えば、数平均分子量10000以下のポリエステル樹脂)の耐熱性を向上させる方法も含まれる。
【0031】
なお、本明細書において、「9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類」および「9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類」とは、「9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格」や「9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格」を有する限り、アリール基やフルオレン骨格(詳細にはフルオレンの2〜7位)に置換基を有する化合物を含む意味に用いる。さらに、本明細書において、「9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン」とは、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレンおよび9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシアリール)フルオレンを含む意味に用いる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の添加剤は、ポリエステル樹脂の耐熱性(例えば、ガラス転移温度など)を向上(又は改善又は上昇)できる。しかも、このような添加剤は、前記樹脂をシャープに溶融でき、樹脂の粘度(又は溶融粘度)を高粘度化させることなく維持できる。そのため、本発明の添加剤によれば、通常、両立しがたい、低粘度化と、耐熱性の向上とを実現でき、非常に有用性が高い。このような本発明の添加剤により改質されたポリエステル樹脂(又は樹脂組成物)は、シャープな溶融特性(低粘度化、定着性)と共に、耐熱性(耐ブロッキング(凝集)性)を有するため、トナー用の樹脂(又は樹脂組成物又はバインダー)などとして好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の添加剤は、ポリエステル樹脂の耐熱性(例えば、ガラス転移温度など)を向上(又は改善又は上昇)させるための添加剤(耐熱性向上剤、耐熱性改善剤)である。そして、この添加剤は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(以下、フルオレン化合物ということがある)で構成されている。
【0034】
[フルオレン化合物]
フルオレン化合物は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有していればよく、反応性基を有しない化合物[例えば、9,9−ビスアリールフルオレン(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン)などの後述の式(1)においてpが0である化合物など]であってもよいが、通常、反応性基を有している。
【0035】
反応性基としては、例えば、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基(例えば、グリシジルオキシ基)などが挙げられる。フルオレン化合物は、これらの反応性基を、単独で又は2種以上組み合わせて有していてもよい。
【0036】
反応性基は、9,9−ビスアリールフルオレンに直接的に結合していてもよく、適当な連結基(例えば、(ポリ)オキシアルキレン基など)を介して結合していてもよい。
【0037】
具体的なフルオレン化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物などが挙げられる。
【0038】
【化3】
【0039】
[式中、環Zは芳香族炭化水素環、RおよびRは置換基、Xは、基−[(OR)n−Y](式中、Yは、ヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシ基、Rはアルキレン基、nは0以上の整数を示す。)又はアミノ基、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、pは1以上の整数を示す。]
上記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合二乃至四環式炭化水素など]、環集合炭化水素環(ビフェニル環、テルフェニル環、ビナフチル環などのビ又はテルC6−10アレーン環)が挙げられる。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。好ましい環Zには、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環が含まれ、特に、ベンゼン環であってもよい。
【0040】
前記式(1)において、基Rとしては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]、アシル基(例えば、メチルカルボニル、エチルカルボニル、ペンチルカルボニルなどのアルキルカルボニル基)などの非反応性置換基が挙げられ、特に、アルキル基などである場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−12アルキル基(例えば、C1−8アルキル基、特にメチル基などのC1−4アルキル基)などが例示できる。なお、kが複数(2〜4)である場合、複数の基Rの種類は互いに同一又は異なっていてもよい。また、異なるベンゼン環に置換した基Rの種類は互いに同一又は異なっていてもよい。また、基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2および7位などが挙げられる。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、2つの置換数kは、同一又は異なっていてもよい。
【0041】
環Zに置換する置換基Rとしては、通常、非反応性置換基、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−8シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−10アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などのC1−8アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などの基−OR[式中、Rは炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基などのC1−8アルキルチオ基など)などの基−SR(式中、Rは前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0042】
好ましい基Rとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。さらに好ましい基Rには、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などが含まれる。なお、基Rがアリール基であるとき、基Rは、環Zとともに、前記環集合炭化水素環を形成してもよい。
【0043】
なお、同一の環Zにおいて、mが複数(2以上)である場合、基Rの種類は互いに同一又は異なっていてもよい。また、2つの環Zにおいて、基Rの種類は同一又は異なっていてもよい。また、置換数mは、環Zの種類に応じて選択でき、例えば、0〜8、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2であってもよい。なお、異なる環Zにおいて、置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0044】
前記式(1)の基−Xにおいて、基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基、好ましくはC2−4アルキレン基、さらに好ましくはC2−3アルキレン基が挙げられる。なお、nが2以上であるとき、アルキレン基は異なるアルキレン基で構成されていてもよく、通常、同一のアルキレン基で構成されていてもよい。また、2つの芳香族炭化水素環Zにおいて、基Rは同一であっても、異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0045】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)nは、0以上(例えば、0〜20)であればよく、例えば、0〜15(例えば、1〜12)、好ましくは0〜10(例えば、1〜6)、さらに好ましくは0〜4(例えば、1〜4)、特に0〜2(例えば、0〜1)であってもよい。また、樹脂の種類によっては、nが0である場合又はnが1以上である場合において、顕著な改善効果が得られる場合などがある。そのため、樹脂の種類などによって、nが0である化合物、nが1以上である化合物のいずれかを選択してもよい。なお、置換数nは、異なる環Zに対して、同一又は異なっていてもよい。
【0046】
好ましいXは、基−[(OR)n−Y]であり、特に、Yはヒドロキシル基であるのが好ましい。なお、式(1)において、Yがヒドロキシル基である化合物は、下記式(1A)で表される。
【0047】
【化4】
【0048】
(式中、Z、R、R、k、m、R、n、pは前記式(1)と同じ。)
基Xの置換数pは、1以上(例えば、1〜6)であればよく、例えば、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。なお、置換数pは、それぞれの環Zにおいて、同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。
【0049】
また、前記式(1)[又は(1A)]において、基Xの置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な置換位置に置換していればよい。例えば、基Xは、環Zがベンゼン環である場合、フェニル基の2〜6位に置換していればよく、好ましくは4位に置換していてもよい。また、基Xは、環Zが縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位など)に少なくとも置換している場合が多い。
【0050】
具体的なフルオレン化合物(又は前記式(1)又は(1A)で表される化合物)には、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類[又は9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類]、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類[又は9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類]などの前記式(1)においてXが基−[(OR)n−OH]である化合物;これらの化合物において、ヒドロキシル基が、メルカプト基、グリシジルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシ基に置換した化合物などが含まれる。
【0051】
9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン]などが挙げられる。
【0052】
また、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(5−ヒドロキシ−1−ナフチル)フルオレン]などが含まれる。
【0053】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(1)において、nが1である化合物);9,9−ビス(ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシジC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類(前記式(1)において、nが2以上である化合物)などが含まれる。
【0054】
また、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0055】
これらのフルオレン化合物のうち、特に、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどの前記式(1A)においてnが0である化合物;9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}などの前記式(1A)においてnが1以上(例えば、1〜4、好ましくは1〜2、さらに好ましくは1)である化合物が好ましい。
【0056】
なお、耐熱性を向上効果の点では、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類などの前記式(1)(又は(1A))においてnが0である化合物が好ましい。一方、低粘度を高いレベルで保持しつつ、耐熱性を向上するという観点からは、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類などの前記式(1)(又は(1A))において、nが1以上である化合物が好ましい。
【0057】
フルオレン化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、フルオレン化合物は、市販品を用いてもよく、慣用の方法により合成してもよい。
【0058】
[耐熱性向上剤および樹脂組成物]
本発明の添加剤(フルオレン化合物)は、前記の通り、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上(又は上昇又は改善)させるための添加剤(耐熱性向上剤、耐熱性改善剤)として使用できる。すなわち、フルオレン化合物をポリエステル樹脂に添加又は混合することにより、ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物の耐熱性が高くなる。
【0059】
本発明において、耐熱性の促進(又は向上)効果は、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス転移温度の上昇などにより、確認できる。なお、ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定)、DMA(動的粘弾性測定)などにより測定できる。
【0060】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ジカルボン酸成分およびジオール成分とを重合成分とするポリエステル樹脂が挙げられる。
【0061】
ジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体が挙げられる。なお、エステル形成性誘導体としては、例えば、エステル{例えば、アルキルエステル[例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(例えば、C1−4アルキルエステル、特にC1−2アルキルエステル]など}、酸ハライド(酸クロライドなど)、酸無水物などが挙げられる。エステル形成性誘導体は、モノエステル(ハーフエステル)又はジエステルであってもよい。ジカルボン酸成分は、適宜ポリエステル樹脂の製造方法に応じて選択できる。
【0062】
具体的なジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分、芳香族ジカルボン酸成分などが挙げられる。ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0063】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、アルカンジカルボン酸成分[例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、これらのエステル形成性誘導体(前記誘導体など)などのC2−12アルカンジカルボン酸成分など]などが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0064】
脂環族ジカルボン酸成分としては、例えば、シクロアルカンジカルボン酸(例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などのC3−10シクロアルカン−ジカルボン酸、好ましくはC4−8シクロアルカン−ジカルボン酸)、ビ又はトリシクロアルカンジカルボン酸(例えば、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸など)、シクロアルケンジカルボン酸(例えば、シクロヘキセンジカルボン酸などのC4−8シクロアルケン−ジカルボン酸)、ビ又はトリシクロアルケンジカルボン酸(例えば、ノルボルネンジカルボン酸など)、これらのエステル形成性誘導体(前記誘導体など)などが挙げられる。脂環族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0065】
芳香族ジカルボン酸成分としては、単環式芳香族ジカルボン酸成分、多環式芳香族ジカルボン酸成分に大別できる。単環式芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、単環式アレーンジカルボン酸[例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、アルキルイソフタル酸(例えば、4−メチルイソフタル酸などのC1−4アルキルテレフタル酸)などのC6−10アレーンジカルボン酸]、これらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0066】
多環式芳香族ジカルボン酸成分としては、多環式芳香族ジカルボン酸、そのエステル形成性誘導体が挙げられる。多環式芳香族ジカルボン酸としては、例えば、縮合多環式芳香族ジカルボン酸[例えば、ナフタレンジカルボン酸(例えば、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの異なる環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸;1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸などの同一の環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸)、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10−24アレーン−ジカルボン酸]、アリールアレーンジカルボン酸[例えば、ビフェニルジカルボン酸(2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸など)などのC6−10アリールC6−10アレーン−ジカルボン酸]、ジアリールアルカンジカルボン酸[例えば、ジフェニルアルカンジカルボン酸(例えば、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸などのジフェニルC1−4アルカン−ジカルボン酸など)などのジC6−10アリールC1−6アルカン−ジカルボン酸]、ジアリールケトンジカルボン酸[例えば、ジフェニルケトンジカルボン酸(4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸など)などのジC6−10アリールケトン−ジカルボン酸]などが挙げられる。
【0067】
また、芳香族ジカルボン酸成分には、芳香脂肪族ジカルボン酸成分も含まれる。このような芳香脂肪族ジカルボン酸成分には、上記例示の芳香族ジカルボン酸において、芳香族骨格とカルボキシル基とが脂肪族炭化水素基[例えば、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基などのC1−10アルキレン基、好ましくはC1−4アルキレン基)など]を介して結合したジカルボン酸、例えば、ジ(カルボキシアルキル)アレーン[例えば、1,4−フェニレン二酢酸(1,4−ジ(カルボキシメチル)ベンゼン)、1,3−フェニレン二酢酸、1,4−フェニレン二プロピオン酸などのジ(カルボキシC1−4アルキル)ベンゼン]、これらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0068】
芳香族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。ジカルボン酸成分は、代表的には、脂環族ジカルボン酸成分および芳香族ジカルボン酸成分から選択された少なくとも1種で構成してもよく、特に、少なくとも芳香族ジカルボン酸成分で構成してもよい。なお、ジカルボン酸成分全体に対して、脂環族ジカルボン酸成分および芳香族ジカルボン酸成分から選択された少なくとも1種の割合は、例えば、10モル%以上、好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上、特に70モル%以上であってもよい。
【0069】
ジオール成分としては、例えば、脂肪族ジオール(又は脂肪族ジオール成分)、脂環族ジオール(又は脂環族ジオール成分)、芳香族ジオール(又は芳香族ジオール成分)などが挙げられる。ジオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0070】
脂肪族ジオール(鎖状脂肪族ジオール)としては、例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−10アルカンジオール、好ましくはC2−6アルカンジオール、さらに好ましくはC2−4アルカンジオール)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2−4アルカンジオールなど)など飽和脂肪族ジオールが挙げられる。脂肪族ジオールは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0071】
脂環族ジオールとしては、例えば、シクロアルカンジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオールなどのC4−10シクロアルカンジオール、好ましくはC5−8シクロアルカンジオール)、ポリシクロアルカンジオール(例えば、ノルボルナンジオール、アダマンタンジオールなどのジ又はトリシクアルカンジオール)、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン[例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C4−10シクロアルカン、好ましくはジ(ヒドロキシC1−3アルキル)C5−8シクロアルカン、さらに好ましくはジ(ヒドロキシC1−2アルキル)C5−6シクロアルカンなど]、ジ(ヒドロキシアルキル)ポリシクロアルカン[例えば、トリシクロデカンジメタノール(トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノール)、アダマンタンジメタノール、ノルボルナンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)ビ又はトリC4−10シクロアルカン、好ましくはジ(ヒドロキシC1−3アルキル)ビ又はトリC5−8シクロアルカン、さらに好ましくはジ(ヒドロキシC1−2アルキル)ビ又はトリC5−6シクロアルカン]、ヘテロシクロアルカン骨格を有するジオール{例えば、オキサモノ又はポリシクロアルカンジオール(イソソルビドなど)、オキサスピロ環骨格を有するジオール[例えば、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのジ(ヒドロキシアルキル)テトラオキサスピロアルカン(例えば、ジ(ヒドロキシC1−10アルキル)テトラオキサスピロアルカン)など]、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加体(後述の化合物など)の水添物[例えば、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体の水添物]などが挙げられる。脂環族ジオールは単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0072】
芳香族ジオールとしては、例えば、ジヒドロキシアレーン(ハイドロキノン、レゾルシノールなど)、ビスフェノール類、芳香脂肪族ジオール{例えば、ジ(ヒドロキシアルキル)アレーン[例えば、ベンゼンジメタノール(1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノールなど)などのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C6−10アレーンなど]、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加体など}などが挙げられる。
【0073】
ビスフェノール類としては、例えば、ジヒドロキシアレーン[例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどのジ(ヒドロキシC6−10アレーン)]、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン類、好ましくはビス(ヒドロキシフェニル)C1−8アルカン類]、ビス(ヒドロキシフェニルアリール)アルカン類[例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,3’−ビフェニル)プロパンなどビス(ヒドロキシビフェニリル)C1−10アルカン類、好ましくはビス(ヒドロキシビフェニリル)C1−8アルカン類]、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類[例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C4−10シクロアルカン、好ましくはビス(ヒドロキシフェニル)C5−8シクロアルカン]、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルホンなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルホキシドなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルフィドなど)、ビス(ヒドロキシフェニル−アルキル)アレーン類[例えば、4,4’−(o,m又はp−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールなどのビス(ヒドロキシフェニル−C1−4アルキル)C6−10アレーン、好ましくはビス(ヒドロキシフェニル−C1−4アルキル)ベンゼン]などが挙げられる。
【0074】
なお、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加体において、アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのC2−6アルキレンオキサイド(好ましくはC2−3アルキレンオキサイド)などが挙げられる。また、アルキレンオキサイドの付加体において、アルキレンオキサイドの付加割合は、例えば、ビスフェノール類のヒドロキシル基1モルに対して、例えば、1モル以上(例えば、1〜10モル)、好ましくは1〜6モル(例えば、1〜5モル)、さらに好ましくは1〜4モル、特に1〜3モル(例えば、1〜2モル)程度であってもよい。
【0075】
芳香族ジオールは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0076】
ジオール成分は、代表的には、脂環族ジオールおよび芳香族ジオールから選択された少なくとも1種で構成してもよく、特に、少なくとも芳香脂肪族ジオール(例えば、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加体)で構成してもよい。なお、ジオール成分全体に対して、脂環族ジオールおよび芳香族ジオールから選択された少なくとも1種の割合は、例えば、10モル%以上、好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上、特に70モル%以上であってもよい。
【0077】
また、脂環族ジオールおよび芳香族ジオールから選択された少なくとも1種と、脂肪族ジオールとを組み合わせる場合、これらの割合は、前者/後者(モル比)=99.5/0.5〜10/90(例えば、99/1〜15/85)、好ましくは98/2〜20/80(例えば、97/3〜25/75)、さらに好ましくは95/5〜30/70(例えば、95/5〜35/65)、特に93/7〜40/60(例えば、90/10〜45/55)程度であってもよく、通常99/1〜50/50(例えば、95/5〜60/40、好ましくは90/10〜70/30)程度であってもよい。
【0078】
なお、ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分およびジオール成分を、所望の特性を得られる範囲であれば、3官能以上の成分と組み合わせてもよい。このような3官能以上の成分としては、例えば、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸成分(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸、これらのエステル形成性誘導体など)、3以上のヒドロキシル基を有するポリオール成分[例えば、アルカンポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなど)など]などが挙げられる。
【0079】
なお、3官能以上の成分を使用する場合、3官能以上の成分の割合は、モノマー全体(すなわち、ジオール成分、ジカルボン酸成分および3官能以上の成分の総量)に対して、20モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下であってもよい。
【0080】
なお、ポリエステル樹脂は、直鎖状構造であってもよく、分岐状構造を有していてもよい。また、ポリエステル樹脂は、結晶性であってもよく、非晶性(非結晶性)であってもよい。
【0081】
ポリエステル樹脂の分子量は、構成モノマー(ジカルボン酸成分、ジオール成分)の種類などにもよるが、トナー用などに用いる場合には、比較的小さいのが好ましく、例えば、数平均分子量で、30000以下(例えば、500〜25000)程度の範囲から選択でき、20000以下(例えば、800〜15000)、好ましくは10000以下(例えば、1000〜9000)、さらに好ましくは8000以下(例えば、1200〜7000)、特に6000以下(例えば、1500〜5500)であってもよく、通常5000以下(例えば、1000〜5000、好ましくは2000〜5000、さらに好ましくは2500〜4500)であってもよい。
【0082】
なお、ポリエステル樹脂は、低分子量(比較的低分子量)のポリエステル樹脂を少なくとも含んでいればよく、低分量のポリエステル樹脂と、高分子量(比較的高分子量)のポリエステル樹脂とを適宜組み合わせてもよい。このような場合、上記分子量範囲で、低分子量(例えば、数平均分子量10000以下)のポリエステル樹脂と、高分子量[例えば、数平均分子量10000超(例えば、数平均分子量12000〜30000程度)]のポリエステル樹脂とを組みあわせてもよく、上記分子量範囲のポリエステル樹脂と、さらに高分子量[例えば、数平均分子量30000超(例えば、数平均分子量32000〜50000程度)]のポリエステル樹脂とを組み合わせてもよい。なお、数平均分子量は、例えば、ポリスチレン換算で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)において測定される値であってもよい。
【0083】
また、ポリエステル樹脂は、通常、常温においては固体状であるが、トナー用などにおいては、トナーの定着性及び省エネルギー化の観点から、加熱下においてシャープに(急速に)溶融し、低粘度化するのが好ましい。
【0084】
ポリエステル樹脂の溶融温度(Tm)は、40℃〜200℃程度の範囲から選択でき、例えば、50℃〜170℃、好ましくは50℃〜130℃、さらに好ましくは60℃〜100℃(例えば、70℃〜90℃)程度であってもよい。溶融温度は後述する実施例の方法により測定できる。
【0085】
また、ポリエステル樹脂の180℃における粘度(溶融粘度)は、例えば、10000mPa・s以下(例えば、10〜8000mPa・s)の範囲から選択でき、7000mPa・s以下(例えば、50〜6000mPa・s)、好ましくは5000mPa・s以下(例えば、100〜4000mPa・s)、さらに好ましくは3000mPa・s以下(例えば、150〜2500mPa・s)、特に2000mPa・s以下(例えば、200〜1800mPa・s)であってもよく、通常1500mPa・s以下(例えば、100〜1200mPa・s、好ましくは150〜1000mPa・s、さらに好ましくは200〜800mPa・s)であってもよい。
【0086】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、例えば、20℃以上(例えば、25〜150℃)、好ましくは30℃以上(例えば、35〜120℃)、さらに好ましくは40℃以上(例えば、40〜100℃)、特に45℃以上(例えば、45〜80℃)であってもよく、通常30〜80℃(例えば、35〜75℃、好ましくは40〜70℃、さらに好ましくは45〜60℃)であってもよい。本発明では、耐熱性向上剤の添加により、ガラス転移温度を向上できるため、比較的低いガラス転移温度のポリエステル樹脂であっても使用可能である。なお、上記ガラス転移温度は、示差走査熱量分析(測定)により測定されるガラス転移温度であってもよい。
【0087】
樹脂が急激に又は急速に溶融されるか否かは、溶融温度(Tm)とガラス転移温度(Tg)との差Tm−Tg(℃)、及びガラス転移温度(Tg)に対する溶融温度(Tm)の割合Tg/Tm(℃/℃)の指標を用いて評価する場合が多く、Tm−Tg(℃)が小さいほど、またTg/Tm(℃/℃)が大きいほど、樹脂がシャープに溶融される。ポリエステル樹脂のTm−Tg(℃)は、例えば、20〜80℃、好ましくは30〜70℃、さらに好ましくは35〜50℃(例えば、40〜45℃)程度であってもよく、Tg/Tm(℃/℃)は、例えば、0.2〜0.7(℃/℃)、好ましくは0.3〜0.65(℃/℃)、さらに好ましくは0.4〜0.6(℃/℃)(例えば、0.5〜0.55(℃/℃))程度であってもよい。
【0088】
なお、ポリエステル樹脂は、慣用の方法により製造できる。例えば、ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とを反応(重合又は縮合)させることにより製造できる。重合方法(製造方法)としては、慣用の方法、例えば、溶融重合法(ジカルボン酸成分とジオール成分とを溶融混合下で重合させる方法)、溶液重合法、界面重合法などが例示できる。好ましい方法は、溶融重合法である。
【0089】
また、反応において、ジカルボン酸成分やジオール成分などの使用量(使用割合)は、前記と同様の範囲から選択できるが、前記のように低分子量化させる場合などには、必要に応じて(例えば、ポリエステル樹脂を低分子量化する場合において)、一方の成分(例えば、ジカルボン酸成分)を過剰に用いて反応させてもよい。このような場合、一方の成分(例えば、ジカルボン酸成分)の使用割合(仕込み割合)は、他方の成分(例えば、ジオール成分)1モルに対して、例えば、1.01モル以上(例えば、1.02〜5モル)、好ましくは1.03モル以上(例えば、1.04〜3モル)、さらに好ましくは1.05モル以上(例えば、1.07〜2.5モル)、特に1.09モル以上(例えば、1.1〜2モル)程度であってもよい。
【0090】
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、ポリエステル樹脂の製造に利用される種々の触媒が使用できる。触媒としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)、遷移金属(マンガン、亜鉛、カドミウム、鉛、コバルトなど)、周期表第13族金属(アルミニウムなど)、周期表第14族金属(ゲルマニウム、錫など)、周期表第15族金属(リン、アンチモンなど)などを含む化合物が用いられる。化合物としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩、2−エチルヘキサン酸など)、無機酸塩(ホウ酸塩、炭酸塩など)、金属酸化物などが例示できる。これらの触媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分およびジオール成分の総量100重量部に対して、例えば、0.001〜10重量部、好ましくは0.005〜5重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部程度であってもよい。
【0091】
また、反応は、必要に応じて、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤など)などの添加剤の存在下で行ってもよい。反応は、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行ってもよい。また、反応は、減圧下(例えば、100〜20000Pa、好ましくは200〜15000Pa程度)で行うこともできる。反応温度は、重合法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は、150〜300℃、好ましくは160〜280℃、さらに好ましくは180〜270℃程度であってもよい。
【0092】
耐熱性向上剤(フルオレン化合物)の使用割合は、例えば、ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上(例えば、0.2〜200重量部)程度の範囲から選択でき、0.3〜100重量部、好ましくは0.5〜80重量部、さらに好ましくは1〜50重量部程度であってもよく、通常0.5〜50重量部(例えば、0.5〜40重量部、好ましくは0.7〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部)程度であってもよい。
【0093】
本発明の耐熱性向上剤は、少量でも効率よく耐熱性向上効果を得ることができるため、例えば、耐熱性向上剤の使用割合を、ポリエステル樹脂100重量部に対して、10重量部以下(例えば、0.1〜9重量部)、好ましくは8重量部以下(例えば、0.2〜7重量部)、さらに好ましくは6重量部以下(例えば、0.3〜5.5重量部)、特に5重量部以下(例えば、0.5〜3重量部)とすることもできる。
【0094】
また、本発明の耐熱性向上剤は、ポリエステル樹脂に対する親和性に優れ、比較的多い割合で添加しても樹脂特性を高いレベルで維持又は向上できる場合が多いため、耐熱性向上剤の使用割合を、ポリエステル樹脂100重量部に対して、10重量部以上(例えば、10〜80重量部)、好ましくは12重量部以上(例えば、12〜50重量部)、さらに好ましくは15重量部以上(例えば、15〜30重量部)とすることもできる。
【0095】
このように本発明の耐熱性向上剤により、耐熱性が向上(又は改善)されたポリエステル樹脂(樹脂組成物)が得られる。本発明は、このような樹脂組成物、すなわち、ポリエステル樹脂と、耐熱性向上剤とを含む樹脂組成物も含まれる。なお、このような樹脂組成物において、ポリエステル樹脂、耐熱性向上剤の種類、混合割合(使用割合)は前記の通りである。また、樹脂組成物において、分子量(数平均分子量)及び溶融温度(Tm)もまた、前記と同様の範囲から選択できる。
【0096】
樹脂組成物のガラス転移温度は、ポリエステル樹脂(又はフルオレン化合物を含まないポリエステル樹脂)に比べて上昇している。具体的には、ポリエステル樹脂のガラス転移温度をA(℃)とすると、樹脂組成物(ポリエステル樹脂およびフルオレン化合物からなる樹脂組成物)のガラス転移温度は、A(℃)超、例えば、A+0.1(℃)〜A+30(℃)、好ましくはA+0.3(℃)〜A+25(℃)、さらに好ましくはA+0.5(℃)〜A+20(℃)程度であってもよく、A+1(℃)以上[例えば、A+1.5(℃)〜A+25(℃)、好ましくはA+2(℃)〜A+20(℃)、さらに好ましくはA+3(℃)〜A+15(℃)]とすることもできる。
【0097】
また、本発明の耐熱性向上剤の添加により、Tm−Tg(℃)が減少及び/又はTg/Tm(℃/℃)が増加し、ポリエステル樹脂をシャープに溶融できる。ポリエステル樹脂のTm−Tgの値をB℃とすると、添加後のポリエステル樹脂組成物のTm−Tg(℃)は、例えば、B−10〜B−0.1℃、好ましくはB−7〜B−0.5℃、さらに好ましくはB−5〜B−1℃(例えば、B−4〜B−2℃)程度であってもよく、Tg/TmをC(℃/℃)とすると、添加後のポリエステル樹脂組成物のTg/Tm(℃/℃)は、例えば、C+0.01〜C+0.3(℃/℃)、好ましくはC+0.01〜C+0.2(℃/℃)(例えば、C+0.02〜C+0.15(℃/℃))、さらに好ましくはC+0.05〜C+0.1(℃/℃)程度であってもよい。
【0098】
また、樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤[例えば、充填剤又は補強剤、着色剤(染顔料)、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、炭素材など]を含んでいてもよい。特に、トナー用として用いる場合には、着色剤、分散剤、電荷制御剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0099】
なお、樹脂組成物は、ポリエステル樹脂とフルオレン化合物(耐熱性向上剤)と[さらに、必要に応じて他の成分(添加剤など)と]を混合することで得ることができる。混合方法は、特に限定されず、例えば、溶融混練により混合してもよく、溶媒に各成分を溶解させて混合してもよい。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例において、各種特性は以下のようにして測定した。
【0101】
(分子量)
重量平均分子量Mw及び多分散度を算出するための数平均分子量Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。装置として東ソー(株)製HLC−8320GPC型を使用し、溶離液にはテトラヒドロフラン(試薬特級)を使用し、検出器に示差屈折計を使用し、測定流量は1.00mL/minとし、分子量標準には東ソー株式会社製ポリスチレンを使用した。
【0102】
(ガラス転移温度(Tg))
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により測定した。DSCには、装置としてセイコーインスツル(株)製EXTAR DSC6220を使用し、アルミパンに試料を入れ、測定温度範囲を30〜200℃とし、測定した。
【0103】
(溶融粘度)
溶融粘度は溶融粘度計(BROOKFIELD社製 CAP2000+)を用いて測定した。測定条件は180℃、900rpmで行い3回測定時の平均値を値とした。
【0104】
(メルトフローレート(MFR))
メルトインデックサ((株)東洋精機製作所 C−5059D2)を使用し、JIS K7210に準拠し、温度100℃、荷重2.16kgfに設定して測定した。
【0105】
(溶融温度(Tm))
特開平06−110250号公報の実施例と同様の方法にて、溶融温度(Tm)を測定した。
【0106】
(実施例1〜9、比較例1〜7)
攪拌機付きの300mlのセパラブルフラスコに、2,2−ジ[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン(ビスフェノールA1モルに対して2モルのエチレンオキサイドが付加した付加体)を表に示す所定量投入し、120〜150℃で加熱溶融させた後、さらに表に示す割合で触媒(ジ(2−エチルヘキサン酸)すず)を投入して、十分溶解させた。そして、さらにテレフタル酸を表に示す所定量投入した後に昇温・減圧を開始し、水の留出を確認しながら、180℃で100torrまで昇温・減圧した。引き続き、昇温・減圧を進め、220℃、10torrにて外観が白色から透明に変化するまで反応させた(反応時間4〜5時間)。
【0107】
その後、表に示す添加剤[フルオレン化合物、ビスフェノールA(BisA)又はBPA−2EO]を表に示す所定量添加して、目視にて均一に混合されたことを確認した後、150℃まで降温し、樹脂組成物を得た。なお、樹脂組成物は、離型紙(テフロン(登録商標)フィルム)の上に排出後、ミキサーで粉砕した。
【0108】
得られた樹脂組成物について、各種特性を測定した。結果を表に示す。なお、表において、各種略称は以下の通りである。
【0109】
BPA−2EO:2,2−ジ[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン(日本乳化剤(株)製、BA2グリコール)
BCF:9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
BPEF:9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
BNF:9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
TA:テレフタル酸(東京化成工業(株)製)
表には、比較のため、添加剤を使用しない比較例1及び2、フルオレン化合物に代えて、ビスフェノールA(BisA)又はBPA−2EOを使用した比較例3〜7の結果も記載した。また、表において、「添加割合」は、モノマーおよびフルオレン化合物の総量(すなわち、BPA−2EO、TA、およびフルオレン化合物の総量)に対する割合である。
【0110】
なお、前記のようにTm−Tg(℃)の値が小さいほど、またTg/Tm(℃/℃)の値が大きいほど、樹脂をシャープに溶融できる。
【0111】
【表1】
【0112】
表1の比較例1、2及び実施例に示されるように、ポリエステル樹脂に実施例の添加剤を添加するとガラス転移温度(Tg)が向上すると共にTg/Tmの値も増加し、耐熱性が改善され、かつ樹脂がシャープに溶融される。また、実施例5〜7では、Tg/Tmの値が増加すると共に、Tm−Tgの値も減少することから実施例の添加剤の添加により樹脂がシャープに溶融することが示される。さらに、添加剤を添加しても溶融粘度は高粘度化せず、むしろ実施例6、7では改善されている。
【0113】
一方、比較例では、ポリエステル樹脂に比較例の添加剤を添加すると、ガラス転移温度が減少すると共に、Tg/Tmの値も減少し、Tm−Tgの値は添加量が大きくなると増加する。すなわち、比較例の添加剤を添加しても、耐熱性は改善されず、かつ樹脂はシャープに溶融しない。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の添加剤は、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上又は上昇させるための添加剤として使用できる。しかも、このような添加剤は、ポリエステル樹脂の各種特性を損なうことがないため、非常に有用性が高い。特に、本発明の添加剤は、高粘度化させることなく(ポリエステル樹脂の粘度を維持しつつ)、耐熱性を向上でき、樹脂をシャープに溶融できるため、トナー用のポリエステル樹脂に対して好適に使用できる。