(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322050
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】流体濃縮気化装置
(51)【国際特許分類】
B01D 1/00 20060101AFI20180423BHJP
C01B 15/013 20060101ALI20180423BHJP
A61L 2/20 20060101ALI20180423BHJP
A61L 2/26 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
B01D1/00 A
C01B15/013
A61L2/20 106
A61L2/26
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-104216(P2014-104216)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-217365(P2015-217365A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 信雄
(72)【発明者】
【氏名】日高 敦志
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】土肥 亮介
【審査官】
関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−501631(JP,A)
【文献】
特表2001−520532(JP,A)
【文献】
特開2011−125788(JP,A)
【文献】
特開2012−135378(JP,A)
【文献】
特開2013−094392(JP,A)
【文献】
米国特許第04744951(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0004384(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/20
A61L 2/26
B01D 1/
B01J 7/02
C01B 15/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口及び流出口を備え、過酸化水素水溶液が収容される気化チャンバと、
前記気化チャンバに収容された過酸化水素水溶液を加熱し、気化させるための加熱装置と、
前記気化チャンバで気化させた蒸気の流量を制御する流量制御装置と、
前記流量制御装置で流量制御された蒸気を放出する放出流路と、
前記放出流路から分岐する第1ドレン流路と、
前記放出流路と第1ドレン流路とを切り換える切換弁と、
前記気化チャンバ内の過酸化水素水溶液中の過酸化水素濃度が所定の推定濃度以上のときに前記第1ドレン流路を閉じて前記放出流路を開くように前記切換弁を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする流体濃縮気化装置。
【請求項2】
流入口及び流出口を備え、過酸化水素水溶液が収容される気化チャンバと、
前記気化チャンバに収容された過酸化水素水溶液を加熱し、気化させるための加熱装置と、
前記気化チャンバで気化させた蒸気の流量を制御する流量制御装置と、
前記流量制御装置で流量制御された蒸気をドレンする第2ドレン流路と、
前記気化チャンバ内の過酸化水素水溶液を排出する第3ドレン流路と、
前記第3ドレン流路から排液を流通または遮断する排液制御弁と、
前記気化チャンバ内の過酸化水素水溶液中の過酸化水素濃度が所定の推定濃度以上のときに前記気化チャンバ内の過酸化水素水溶液を排出するように前記排液制御弁を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする流体濃縮気化装置。
【請求項3】
前記気化チャンバ内で気化された蒸気温度又は気化チャンバ内の液温を検出する温度検出器を含み、該温度検出器によって検出された温度に基づいて過酸化水素濃度を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の流体濃縮気化装置。
【請求項4】
前記気化チャンバ内から前記流量制御装置に送られる蒸気の圧力を検出する第1圧力検出器を含み、該第1圧力検出器の検出圧力に基づいて過酸化水素濃度を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の流体濃縮気化装置。
【請求項5】
前記気化チャンバ内の液面を検知する液面レベル検出器を含み、該液面レベル検出器の検出値に基づいて過酸化水素濃度を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の流体濃縮気化装置。
【請求項6】
前記気化チャンバ内の液面高さを検出する液面レベル検出器を備え、該液面レベル検出器により検出された液面レベルが所定レベル迄下がったときに、気化されるべき過酸化水素水溶液を前記気化チャンバ内に追加供給するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体濃縮気化装置。
【請求項7】
前記流量制御装置によって流量制御された蒸気の積算流量に基づいて過酸化水素濃度を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の流体濃縮気化装置。
【請求項8】
前記流体濃縮気化装置が複数台併設され、各流体濃縮気化装置の濃縮時間が異なる時間帯に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体濃縮気化装置。
【請求項9】
前記加熱装置によって、過酸化水素水溶液が115〜130℃の範囲の所定温度に調節されることを特徴とする請求項1又は2に記載に流体濃縮気化装置。
【請求項10】
前記過酸化水素水溶液を貯液するための貯液タンクを備え、前記第1ドレン流路は、該貯液タンク内の過酸化水素水溶液と熱交換して該第1ドレン流路内を流通する蒸気を凝縮させる熱交換部を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体濃縮気化装置。
【請求項11】
前記流量制御装置が、蒸気流量を制御するための制御弁と、該制御弁の下流側流路に介在されたオリフィスプレートと、前記制御弁と前記オリフィスプレートと間の流路内の圧力を検出する第2圧力検出器と、前記第2圧力検出器の検出圧力に基づいて前記制御弁を制御する制御部とを備え、前記制御弁が、圧電駆動型金属ダイヤフラム弁であることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体濃縮気化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素水溶液等の2成分の溶液を濃縮し、気化させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、過酸化水素水溶液等の殺菌・除菌液を気化させて、医療施設内や救急搬送車内等を殺菌、滅菌する装置が知られている(例えば、特許文献1〜7等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3915598号公報
【特許文献2】特許4421181号公報
【特許文献3】特許第4330940号公報
【特許文献4】特許第5222140号公報
【特許文献5】特開2011−125788号公報
【特許文献6】特開2012−034781号公報
【特許文献7】特開2012−135378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の装置のうち、過酸化水素濃度が30〜35wt%程度の低濃度の過酸化水素水溶液を気化させる装置は、輸送困難な高濃度の過酸化水素水溶液を扱う必要は無いが、多くの水分を含んだ蒸気を放散して電子機器等に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0005】
他方、過酸化水素水溶液を濃縮して気化させている従来の装置は、高濃度の過酸化水素水溶液を輸送することもなく、水分含有率が低いため電子機器への悪影響も少ないが、真空ポンプを備える等のために装置が大型化する。
【0006】
そこで、本発明は、高濃度の過酸化水素水を輸送する必要がなく、電子機器への悪影響も少なく、且つ、小型化し得る流体濃縮気化装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る流体濃縮気化装置は、第1の態様として、流入口及び流出口を備え、2成分を含む溶液が収容される気化チャンバと、前記気化チャンバに収容された溶液を加熱し、気化させるための加熱装置と、前記気化チャンバで気化させた蒸気の流量を制御する流量制御装置と、前記流量制御装置で流量制御された蒸気を放出する放出流路と、前記放出流路から分岐する第1ドレン流路と、前記放出流路と第1ドレン流路とを切り換える切換弁と、前記気化チャンバ内の溶液中の一方の成分濃度が所定の推定濃度以上のときに前記第1ドレン流路を閉じて前記放出流路を開くように前記切換弁を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る流体濃縮気化装置は、第2の態様として、流入口及び流出口を備え、2成分を含む溶液が収容される気化チャンバと、前記気化チャンバに収容された溶液を加熱し、気化させるための加熱装置と、前記気化チャンバで気化させた蒸気の流量を制御する流量制御装置と、前記流量制御装置で流量制御された蒸気をドレンする第2ドレン流路と、前記気化チャンバ内の溶液を排出する第3ドレン流路と、前記第3ドレン流路からの排液を流通または遮断する排液制御弁と、前記気化チャンバ内の溶液中の一方の成分濃度を所定の推定濃度以上のときに前記気化チャンバ内の溶液を排出するように前記排液制御弁を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記第1又は第2の態様において、前記気化チャンバ内で気化された蒸気温度又は気化チャンバ内の液温を検出する温度検出器を含み、該温度検出器によって検出された温度に基づいて前記一方の成分濃度を推定することが好ましい。
【0010】
上記第1又は第2の態様において、前記気化チャンバ内から前記流量制御装置に送られる蒸気の圧力を検出する第1圧力検出器を含み、該第1圧力検出器の検出圧力に基づいて前記一方の成分濃度を推定することとしてもよい。
【0011】
上記第1又は第2の態様において、前記気化チャンバ-内の液面を検知する液面レベル検出器を含み、該液面レベル検出器の検出値に基づいて前記一方の成分濃度を推定することとしてもよい。
【0012】
上記第1又は第2の態様において、前記気化チャンバ内の液面高さを検出する液面レベル検出器を備え、該液面レベル検出器により検出された液面レベルが所定レベル迄下がったときに、気化されるべき水溶液を前記気化チャンバ内に追加供給するように構成されていることが好ましい。
【0013】
上記第1又は第2の態様において、前記流量制御装置によって流量制御された蒸気の積算流量に基づいて前記一方の成分濃度を推定することとしてもよい。
【0014】
上記第1又は第2の態様において、前記流体濃縮気化装置が複数台併設され、各流体濃縮気化装置の濃縮時間が異なる時間帯に設定されていることが好ましい。
【0015】
上記第1又は第2の態様において、前記2成分を含む溶液が過酸化水素水溶液とした場合、前記加熱装置によって、過酸化水素水溶液が115〜130℃の範囲の所定温度に調節されることが好ましい。
【0016】
上記第1の態様において、前記溶液を貯液するための貯液タンクを備え、前記第1ドレン流路は、該貯液タンク内の溶液と熱交換して該第1ドレン流路内を流通する蒸気を凝縮させる熱交換部を備えることが好ましい。
【0017】
上記第1又は第2の態様において、前記流量制御装置が、蒸気流量を制御するための制御弁と、該制御弁の下流側流路に介在されたオリフィスプレートと、前記制御弁と前記オリフィスプレートと間の流路内の圧力を検出する第2圧力検出器と、前記第2圧力検出器の検出圧力に基づいて前記制御弁を制御する制御部とを備え、前記制御弁が、圧電駆動型金属ダイヤフラム弁であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、2成分の混合溶液を気化させることによって濃縮し、一方の成分の濃度が所定の推定濃度になるまで蒸発させ、その蒸気をドレンし、所定の推定濃度以上になった後に、流路を切り換えて高濃度の溶液を利用することができるため、装置の小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る流体濃縮気化装置の第一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の構成要素である流量制御装置の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明に係る流体濃縮気化装置の一例を示す外観斜視図である。
【
図4】本発明の説明のための実験結果を過酸化水素水溶液の相図とともに示す図表である。
【
図5】本発明の説明のための実験結果を示す棒グラフである。
【
図6】本発明に係る流体濃縮気化装置の第2実施形態を示す概略断面図である。
【
図7】本発明に係る流体濃縮気化装置の第3実施形態を示す概略断面図である。
【
図8】本発明に係る流体濃縮気化装置の第4実施形態を示す概略断面図である。
【
図9】第4実施形態の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る流体濃縮気化装置の実施形態について、以下に
図1〜
図9を参照しつつ説明する。なお、全図及び全実施形態を通して同一又は類似の構成部分には同符号を付した。
【0021】
図1は、本発明に係る流体濃縮気化装置の第1実施形態を概略的に示している。流体濃縮気化装置1は、流入口2及び流出口3を備えていて2成分を含む溶液Lが収容される気化チャンバ4と、流出口3から流出した蒸気の流量を調節する流量制御装置5と、気化チャンバに収容された溶液を加熱して気化させるための加熱装置6と、流量制御装置5で流量制御された蒸気を放出する放出流路7と、放出流路7から分岐する第1ドレン流路8と、放出流路7と第1ドレン流路8とを切り換える切換弁9と、気化チャンバ4内の溶液L中の一方の成分濃度が所定の推定濃度以上のときに第1ドレン流路8を閉じて放出流路7を開くように切換弁9を制御する制御装置Cと、を備えている。
【0022】
気化チャンバ4は、図示例のように、オリフィス10、11が其々設けられた隔壁12、13によって3つのチャンバ4a、4b、4cを備えることにより、蒸気の十分な加熱を行うとともに、流量制御装置5への液体流入が防止されている。原料となる溶液は、図外のタンクからオリフィス14を介して流入口2に供給され、オリフィス14の上流部に設けられた液供給バルブ15により供給量が制御される。
【0023】
図示例の流量制御装置5は、公知の圧力式流量制御装置であり、
図2に断面図で示すように、蒸気の流量を制御するための制御弁20と、制御弁20の下流側流路に介在されたオリフィスプレート21と、制御弁20とオリフィスプレート21と間の流路内の圧力を検出する第2圧力検出器22と、第2圧力検出器22の検出圧力に基づいて制御弁20を制御する制御回路を有する制御部23とを備える。図示例の制御弁20は、圧電駆動型金属ダイヤフラム弁であり、圧電素子20aの伸縮によって流路を開閉する金属製ダイヤフラム弁20bを備えている。
【0024】
圧力式流量制御装置は、オリフィスプレート21のオリフィスを通過するガスの流量Qが、オリフィス上流側の絶対圧力P
1がオリフィス下流側圧力P
2の約2倍以上の臨界膨張条件(P
1≧約2P
2)を満たすときに、Q=KP
1(Kは定数)で算出される原理を利用し、高精度の流量制御を可能にする。
【0025】
加熱装置6は、気化チャンバ4の内部を所定の高温状態に保ってチャンバ内の溶液を気化させるとともに、望ましくは、流量制御装置5内の流路等の所望個所も所定の高温状態に保つことができる。
【0026】
気化チャンバ4はステンレス鋼によって箱形に形成されており、その場合、加熱装置6は、例えば、
図3に示すように、シーズヒータ6aを埋め込んだ金属プレート6b(アルミプレート等)として、気化チャンバ4の外側面、及び、流量制御装置5の側面に取り付けることができる。また、前記ヒータ内蔵金属プレートの外側を図示しない断熱材によって覆ってもよい。また、
図2に示されているように、流量制御装置5の本体ブロック内に、カートリッジヒーター6cや補助シーズヒータ6dを付加することもできる。
【0027】
切換弁9は、方向切換弁とすることができるが、例えば放出流路7と第1ドレン流路8との各々に開閉弁(図示せず)を設けてもよい。
【0028】
気化チャンバ4には、標準沸点が100℃より高い高沸点液体の溶液Lとして、例えば、殺菌、滅菌に使用される過酸化水素や過酢酸の水溶液が供給され得る。過酸化水素水溶液は、30wt%程度の濃度のものが市販されている。表1に過酸化水素水溶液の物性表を示す。過酸化水素の標準沸点は、151.4℃であるが、過酸化水素は水に溶解しており、過酸化水素水溶液の沸点は過酸化水素の濃度によって表1のように変化する。
【0030】
市販の過酸化水素水溶液をマントルヒーターで加熱し、所定時間経過毎に過酸化水素水溶液の温度と過酸化水素の濃度を測定した実験結果を表2、表3に示す。加熱設定温度は、それぞれ、表2が190℃、表3が230℃である。
【0033】
表2、表3より、水溶液の液温が高くなるにつれて過酸化水素の濃度が高くなり、濃縮が進む傾向が確認でき、また、加熱設定温度を上げて入熱量を増やせば、効率的に水分を蒸発させることができ、効率的に濃縮が進むことが確認できる。そして、水溶液の液温と水溶液中の過酸化水素の濃度とは相関があることが分かる。
図4は、表3を、過酸化水素水溶液の相図とともに示しており、この相図からも過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度と水溶液の温度との相関が分かる。
【0034】
この相関関係を用いることによって、気化チャンバ4内の過酸化水素水溶液の温度を検出すれば、過酸化水素の濃度を推定することができる。
【0035】
次に、マントルヒーターの加熱設定温度を230℃にしておいて、液温が115℃、120℃、130℃になった時点での、過酸化水素の濃度と残存量とについて調べた結果を表4に示し、表4の結果を棒グラフにした図を
図5に示す。
【0037】
表4、及び
図5のグラフから、過酸化水素の残存割合は、120℃が最も多く、115℃、130℃の順に少なくなっていることが分かる。従って、115℃と130℃の間に、残存割合が最高値となる温度が存在すると考えられる。液温が115℃〜130℃の場合の過酸化水素濃度は、表4を参照すれば、53.6〜87.1%である。
【0038】
従って、過酸化水素水溶液を濃縮する場合は、過酸化水素の残存割合が高くなる液温又は過酸化水素濃度で気化させることが効率的である。液温が120℃の場合、表4から過酸化水素濃度は67.2wt%であるが、この程度の濃度があれば、気化させて殺菌、消毒等に用いても電子機器への影響も少ないと考えられる。
【0039】
流量制御装置5を構成する圧力式流量制御装置は、一般に、流量制御するガスの温度を検出する温度検出器30(
図1、
図2)を備えており、この温度検出器30による検出温度によって制御流量の温度補正を行う。温度検出器30によって検出された蒸気温度は、液温とほぼ同じか相関を有しているので、検出された蒸気温度から過酸化水素濃度を推定することができる。もちろん、気化チャンバ4内の液温を直接検出する温度検出器を別に設けて、過酸化水素濃度を推定することもできる。逆に、過酸化水素濃度の所定の推定濃度を得るための、蒸気温度又は液温が求められ得る。検出された蒸気温度又は液温は、制御装置Cに送られ、制御装置Cにおいて、検出温度に対応する過酸化水素濃度(一方の成分の濃度)の推定濃度が演算される。
【0040】
温度検出器30により検出された蒸気温度(又は液温)が所定の温度になるまで、すなわち、推定される所定の過酸化水素水濃度まで濃縮されるまでは、制御装置Cの指令によって切換弁9が第1ドレン流路8の側に切り換えられており、過酸化水素水濃度の低い蒸気はドレンする。ドレンした蒸気は、第1ドレン流路8の下流側で、
図1には図示していないが、凝縮手段により凝縮させて液化することができる。
【0041】
温度検出器30により検出された蒸気温度(又は液温)が所定の温度になって、推定される所定の過酸化水素水濃度まで濃縮されると、制御装置Cによって切換弁9が放出流路7の側に切り換えられ、高濃度の過酸化水素水溶液の蒸気が放出される。
【0042】
上記構成を有する流体濃縮気化装置は、水溶液中の水と高沸点液体の標準沸点の温度差に基づき、水溶液中の高沸点液体が所定の推定濃度になるまで蒸発させた蒸気をドレンし、所定の推定濃度以上になった後に蒸気流路を切り換えて殺菌等に利用するため、真空ポンプ等が不要であり、小型化可能である。
【0043】
上記の実施形態では、蒸気温度又は液温により過酸化水素濃度を推定していたが、表1の物性表や
図4に示した沸点図を参照すれば、蒸気圧と過酸化水素水溶液中の過酸化水素濃度との間にも相関があることが分かる。
【0044】
従って、
図6に本発明に係る流体濃縮気化装置の第2実施形態として示すように、気化チャンバ4内から流量制御装置5に送られる蒸気の圧力を検出する第1圧力検出器40を設け、第1圧力検出器40によって検出された検出圧力に基づいて過酸化水素水濃度を推定することが可能である。そこで、第1圧力検出器40の検出圧力が所定値になったときに、切換弁9を切り換えるように制御してもよい。図示例では、第1圧力検出器40は、気化チャンバ4と制御弁20との間の流路内圧力を検出する位置に設けられているが、気化チャンバ内の蒸気圧力を検出する位置に設けてもよい。
【0045】
気化チャンバ4内の液面高さを検出する液面レベル検出器(図示せず)を設けることができ、気化チャンバ4内の過酸化水素水溶液の残量が所定レベルにまで減少したことを液面レベル検出器で検出し、この検出出力を制御装置Cで受けて、制御装置Cにより、過酸化水素水溶液の追加供給するように液供給バルブ15を制御し、空焚きを防止することができる。図示例では、チャンバ4aにのみ液体が存在するため、液面レベル検出器はチャンバ4aに設けられる。
【0046】
液面レベル検出器は、フロート式液面レベルセンサ、光学式レベルセンサ、超音波式液面レベルセンサ、静電容量式液面レベルセンサ、電導率式レベルセンサ等の公知のレベルセンサを利用することができる。
【0047】
また、液面レベル検出器による液面レベルの検出値からも過酸化水素水濃度を推定することが可能である。気化チャンバ4内に供給される過酸化水素水溶液の初期の過酸化水素濃度(例えば30wt%)及び供給量(液面レベル)が分かっていれば、気化によりある高さの液面レベルに達したときには、気化チャンバ4内の容積は既知であるので、加熱によって蒸発・減少した液量が分かり、その結果、過酸化水素の濃度も分かる。液面レベルと過酸化水素水濃度との関係を予め試験等によりシミュレーションしデータ化しておいて、制御装置Cの記憶装置に記憶させておいてもよい。
【0048】
流量制御装置5によって流量制御された蒸気の積算流量からも、蒸発後の残液の液量が分かるため、液面レベル検知と同様に、濃縮度合いを推定することが可能である。その他、気化チャンバ4内の溶液の比重や屈折率を検知することにもよっても、過酸化水素の濃度の推定値を得ることが可能である。
【0049】
気化チャンバ4の液体残量は、第1圧力検出器40によっても検出することができる。すなわち、気化チャンバ4内の溶液が残り少なくなると、気化チャンバ4内の圧力が減少するため、第1圧力検出器40の検出圧力が所定値にまで低下した場合に、過酸化水素水溶液を追加供給するように制御することができる。
【0050】
流体濃縮気化装置1を複数台併設し、各流体濃縮気化装置の濃縮時間が異なる時間帯に設定し、交互に蒸気が放出されるようにしてもよい。すなわち、流体濃縮気化装置1は気化チャンバ4内が所定温度になるまで一定の時間を要し、また、蒸気の放出にも一定の時間を要するので、一つの流体濃縮気化装置が蒸気を放出している間に他の一つの流体濃縮気化装置1が流体を所定温度まで加熱し、これを繰り返すことにより、できるだけ蒸気を放出していない時間帯がなくなるようにすることができる。
【0051】
図7は、本発明に係る流体濃縮気化装置の第3実施形態を示す概略断面図である。
【0052】
第3実施形態の流体濃縮気化装置1は、溶液を貯液するための貯液タンク50を気化チャンバ4の上部に備え、第1ドレン流路8は、貯液タンク50内の溶液と熱交換して第1ドレン流路8内を流通する蒸気を凝縮させる熱交換部51を貯液タンク50内に備えている。貯液タンク50内の溶液は、熱交換により予熱される。第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0053】
図8は、本発明に係る流体濃縮気化装置の第4実施形態を示す概略断面図である。
【0054】
第4実施形態の流体濃縮気化装置は、濃縮した液体を蒸気として取り出すのではなく、液体の状態で取り出すように構成されている点が上記第1〜第3実施形態と相違している。
【0055】
第4実施形態の流体濃縮気化装置1は、流量制御装置5で流量制御された蒸気は、第2ドレン流路60を介してドレンされ、溶液の流入口2に接続された溶液供給流路61に、排液制御弁62を介して第3ドレン流路63が接続されている。図示例の排液制御弁62は方向切換弁であるが、溶液供給流路61と第3ドレン流路63の各々に開閉制御弁を設けることにより排液制御弁を構成してもよい。
【0056】
第4実施形態では、上記と同様に溶液として過酸化水素濃度が30wt%の過酸化水素水溶液を用いる場合、溶液供給流路61から溶液を気化チャンバ4に供給できるように排液制御弁62を切換制御しておいて、気化チャンバ4内に溶液供給路61を通じて所定量供給する。そして、気化チャンバ4内の溶液を加熱し、気化させて濃縮することにより、過酸化水素の濃度が所定濃度になったところで、排液制御弁62を第3ドレン流路63側に切り換えて、第3ドレン流路63から所定濃度に濃縮された過酸化水素水溶液を図外の容器等に収容し、高濃濃度に濃縮された過酸化水素水溶液を得ることができる。第4実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0057】
図9は、第4実施形態の変形例であり、第3ドレン流路63が気化チャンバ4の内底に連通接続されており、第3ドレン流路3に開閉弁で構成される排液制御弁62が介在されている。その他の構成は上記第4実施形態と同様である。
【0058】
上記の説明では、主として過酸化水素水溶液について説明したが、本発明は、その他の流体についても適用できることは当業者に自明である。また、上記の説明では、殺菌・滅菌の用途について主として説明したが、半導体製造分野等のその他の分野にも応用できる。本発明は、上記実施形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【0059】
例えば本実施形態においては、気化チャンバの上部に流体制御装置が積層される構造となっているが、流体制御装置は、気化チャンバの側面や、気化チャンバの後方に配置される構造であっても良いのは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 流体濃縮気化装置
2 流入口
3 流出口
4 気化チャンバ
5 流量制御装置
6 加熱装置
7 放出流路
8 第1ドレン流路
9 切換弁
20 制御弁
21 オリフィスプレート
22 第2圧力検出器
30 温度検出器
40 第1圧力検出器
50 貯液タンク
51 熱交換部
60 第2ドレン流路
62 排液制御弁
63 第3ドレン流路