特許第6322069号(P6322069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322069
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】変位検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   G01B11/00 G
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-136970(P2014-136970)
(22)【出願日】2014年7月2日
(65)【公開番号】特開2016-14600(P2016-14600A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】見寺 祥幸
(72)【発明者】
【氏名】田宮 英明
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−210228(JP,A)
【文献】 特開平01−112416(JP,A)
【文献】 特開2012−177701(JP,A)
【文献】 特開2014−025765(JP,A)
【文献】 特開2014−002139(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0145738(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G01B 9/00− 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を出射する光源と、
前記光源から出射された光を、第1の光束及び第2の光束に分割する光束分割部と、
前記光束分割部に分割され、かつ、被測定部材の被測定面によって反射された第1の光束を回折し、回折した前記第1の光束を再び前記被測定部材の被測定面に入射させる透過型の第1回折格子と、
前記光束分割部に分割された第2の光束を反射させる反射部と、
前記第1回折格子で回折された後に前記被測定部材の被測定面に入射され、前記被測定部材の被測定面によって反射された前記第1の光束と、前記反射部で反射された前記第2の光束を結合する光束結合部と、
前記光束結合部によって前記第1の光束と前記第2の光束を結合することによって得られた干渉光を受光する受光部と、
前記第1の光束の、前記被測定部材と前記受光部との間の光路上に配置され、前記第1回折格子で回折された後に前記被測定部材の被測定面に入射され、前記被測定部材の被測定面によって反射された前記第1の光束を回折する透過型の第2回折格子であって、前記被測定部材のチルトによる前記第1の光束の光路長の変位をキャンセルするように配置された第2回折格子と、
前記受光部により受光した干渉光の強度に基づいて前記被測定部材の被測定面の高さ方向の変位情報を出力する相対位置情報出力部と
を備える変位検出装置。
【請求項2】
前記第1の光束における前記光束分割部から前記第1回折格子を介して前記光束結合部までの光路長と、前記第2の光束における前記光束分割部から前記反射部を介して前記光束結合部までの光路長は略等しく設定されている
請求項1に記載の変位検出装置。
【請求項3】
前記第1回折格子の格子ベクトルは、前記被測定部材の被測定面に対して略直角に配置される
請求項1又は2に記載の変位検出装置。
【請求項4】
前記第1の光束の、前記第1回折格子及び前記第2回折格子への各々の入射角がブラッグ条件を満たし、かつ、前記光束分割部から出射された前記第1の光束が最初に前記被測定部材の被測定面に入射する際の入射角θと前記第1回折格子の格子ベクトルに対する前記第2回折格子の格子ベクトルの角度θ0とが、
θ0=π/2−θ−arctan[{tan(π/2−θ)}/2]
を満たす
請求項2に記載の変位検出装置。
【請求項5】
さらに、前記光源と、前記光束分割部との間の光路上に配置された第3回折格子を備える
請求項1〜4のいずれか一項に記載の変位検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源から出射された光を用いた非接触センサによって被測定面の変位を検出する変位検出装置に関し、詳しくは被測定面の垂直な方向の変位を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定面の変位や形状を非接触で測定する装置として光を用いた変位検出装置が広く利用されている。代表的な例としては、レーザ光を被測定面に照射し、反射光の位置の変化をPSDで検出する方法がある。しかしながら、この方法では、被測定面の傾きの影響を受けやすく、感度が低く、測定範囲を広げると測定の分解能が落ちるという問題があった。
【0003】
これに対し、被測定面をミラーとしてマイケルソンの干渉計を使用する方法がある。この方法は、検出範囲が広く、直線性に優れるが、測定範囲が広がると光源の波長の変化と空気の屈折率の変化を受ける。
【0004】
一方、光源から出射した光を対物レンズで被測定面に集光し、被測定面で反射した反射光を非点光学素子で集光して受光素子に入射させて、非点収差法によりフォーカスエラー信号を生成する。そして、フォーカスエラー信号を用いてサーボ機構を駆動させ、対物レンズの焦点位置が被測定面となるように対物レンズを変位させる。このとき、対物レンズに連結部材を介して一体的に取り付けられたリニアスケールの目盛を読み取ることで、被測定面の変位を検出する方式がある(例えば、特許文献1を参照)。この方法では、被測定面の傾きの変化を受けにくく、大きな測定範囲を高い分解能で計測できるメリットがあった。
【0005】
特許文献1に開示された変位検出装置では、変位検出の高精度化を図るために、対物レンズの開口数(NA:Numerical Aperture)を大きくして被測定面に集光させるビーム径を小さくしている。例えば、被測定面に結像されるビーム径を2μm程度にすると、リニアスケールの検出精度は、数nm〜100数nm程度になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−89480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の特許文献1に記載された変位検出装置では、例えば磁石とコイルを用いたアクチュエータ等のような駆動機構により対物レンズをその光軸方向に上下運動させている。そのため、アクチュエータの構造や質量によって対物レンズの上下運動のメカ的な応答周波数が制限されていた。その結果、特許文献1に記載された変位検出装置では、その使用条件に制約が生じてしまっていた。
【0008】
本発明の目的は、高精度に被測定部材の高さ方向の変位を検出でき、高速で安定した計測が可能な変位検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の変位検出装置は、光を出射する光源と、光束分割部と、第1回折格子と、反射部と、光束結合部と、第2回折格子と、相対位置情報出力部とを備える。光束分割部は、光源から出射された光を、第1の光束及び第2の光束に分割する。第1回折格子は、光束分割部に分割され、かつ、被測定部材の被測定面によって反射された第1の光束を回折し、回折した第1の光束を再び被測定部材の被測定面に入射させる透過型の回折格子である。反射部は、光束分割部に分割された第2の光束を反射させる。光束結合部は、第1回折格子で回折された後に被測定部材の被測定面に入射され、被測定部材の被測定面によって反射された第1の光束と、反射部で反射された第2の光束を結合する。受光部は、光束結合部によって第1の光束と第2の光束とを結合することによって得られた干渉光を受光する。第2回折格子は、第1の光束の、被測定部材と受光部との間の光路上に配置され、第1回折格子で回折された後に被測定部材の被測定面に入射され、被測定部材の被測定面によって反射された第1の光束を回折する透過型の回折格子であって、被測定部材のチルトによる第1の光束の光路長の変位をキャンセルするように配置された回折格子である。相対位置情報出力部は、受光部により受光した干渉光の強度に基づいて被測定部材の被測定面の高さ方向の変位情報を出力する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被測定部材がチルトした場合にも被測定部材の高さ方向の変位を高精度に検出でき、高速で安定した計測が可能な変位検出装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係る変位検出装置の概略構成図である。
図2図2Aは、第1回折格子の一例を示す断面図、図2Bは、第1回折格子の他の例を示す断面図である。
図3】被測定部材の表面が、第1の光束の光路が形成される面に対して垂直な軸を回転軸としてチルトした場合の光路を示す図である。
図4】被測定部材がある角度チルトする前後における第2回折格子周辺部の光束の様子を拡大して示した図である。
図5】第2回折格子を配置した場合と配置しない場合の第1の光束の光路長を示した図である。
図6】変位検出装置の受光部の概略構成を示す。
図7】相対位置情報出力部の構成を示すブロック図である。
図8】被測定部材が基準位置からz方向へx/2だけ移動した場合の光路の変化を示す図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る変位検出装置の概略構成図である。
図10】本発明の第3の実施形態に係る変位検出装置の概略構成図である。
図11】変位検出装置の第1の利用例について示す模式図である。
図12】変位検出装置の第2の利用例について示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る変位検出装置の一例を、図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態は以下の順で説明する。なお、本発明の技術は、以下の例に限定されるものではない。
1.第1の実施形態:光路長の変化をキャンセルする回折格子を配置した変位検出装置
1−1.構成
1−2.変位検出方法
2.第2の実施形態:光路長の変化及び光源の波長変化をキャンセルする回折格子を配置した変位検出装置
3.第3の実施形態:光路長の変化及び光源の波長変化をキャンセルする回折格子を配置した変位検出装置
3−1.構成
3−2.変位検出方法
4.変位検出装置の利用例
【0013】
《1.第1の実施形態:光路長の変化をキャンセルする回折格子を配置した変位検出装置》
[1−1.構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る変位検出装置の概略構成図である。本実施形態の変位検出装置1は、透過型の第1回折格子7を用いて、被測定部材5の高さ方向の変位を検出する装置である。ここで、高さ方向とは、被測定部材の被測定面5aが平面であるとした場合に、その被測定面5aに垂直な方向を指し、図1では、高さ方向をz方向として示す。図1に示すように、変位検出装置1は、光源2と、光束分割部4と、第1回折格子7と、反射部6と、受光部10と、第2回折格子9と、相対位置情報出力部11とを備える。
【0014】
光源2は、例えば半導体レーザダイオードやスーパールミネッセンスダイオード、ガ
スレーザ、固体レーザ、発光ダイオード等を用いることができる。
【0015】
光源2として、可干渉距離が長い光源を用いると、被測定部材5の被測定面5aのチルト等による物体光と参照光との光路長差の影響を受けにくくチルト許容範囲が広くなる。また、光源2の可干渉距離が短くなるほど、不要な迷光の干渉によるノイズを防ぐことができ、高精度な計測をすることができる。
【0016】
さらに、光源2として、シングルモードのレーザを用いた場合、波長を安定させるために、光源2の温度をコントロールすることが望ましい。また、シングルモードのレーザの光に、高周波重畳などを付加して、光の可干渉性を低下させてもよい。さらに、光源2として、マルチモードのレーザを用いた場合も、ペルチェ素子等で光源2の温度をコントロールすることで、不要な迷光の干渉によるノイズを防ぎ、さらに安定した計測が可能になる。
【0017】
なお、光源2の数は、1つに限定されるものではなく、複数の光源2を配置して互いの光りを重ね合わせることで光量を増加させてもよい。
【0018】
この光源2から出射された光Lは、光束分割部4に入射する。なお。光源2と光束分割部4の間には、コリメートレンズ等からなるレンズ3が配置されている。レンズ3は、光源2から出射された光を平行光にコリメートする。そのため、光束分割部4には、レンズ3により平行光にコリメートされた光が入射される。その他、光源2と光束分割部4との間に、被測定部材5に集光したり、後述する受光部10の受光素子に集光したりするようなレンズを配置してもよい。
【0019】
光束分割部4は、コリメートされた光を物体光となる第1の光束L1と、参照光となる第2の光束L2とに分割する。第1の光束L1は、被測定部材5に照射され、第2の光束L2は、参照光用の反射部6に照射される。光束分割部4としては、例えば、偏光ビームスプリッタやハーフミラーを用いることができる。
【0020】
本実施形態では、光束分割部4として偏光ビームスプリッタを用いる例とする。したがって、本実施形態の光束分割部4は、入射した光のうちs偏光を反射し、p偏光を透過するため、光束分割部4で分割された第1の光束L1はp偏光となり、第2の光束L2はs偏光となる。
【0021】
また、光源2と光束分割部4との間に偏光板を設けてもよい。これにより、それぞれの偏光に対して直行した偏光成分としてわずかに存在する漏れ光、ノイズを除去することができる。
【0022】
本実施形態の変位検出装置1では、図1に示す位置に配置した被測定部材5の被測定面5aに垂直な高さ方向(すなわち、図1に示すz方向)における被測定部材5の変位を検出する。なお、本実施形態の変位検出装置1で変位検出が可能な被測定部材5としては、ミラーが挙げられる。その他、例えばガラス基板の面、シリコンウェハの面、反射膜の表面、反射膜の中層面など、光を反射できる面を備えていれば被測定部材5とすることができ、それらの表面高さを測定することができる。
【0023】
被測定部材5は、光束分割部4で分割された第1の光束L1を反射し、第1回折格子7に入射させると共に、第1回折格子7によって回折された第1の光束L1を再度反射して光束結合部8に入射させる位置に配置されている。
【0024】
第1回折格子7は、透過型の回折格子であり、その格子ベクトルg1が被測定部材5の被測定面5aに対して略直角、すなわち第1回折格子7の回折面と被測定部材5の被測定面5aで形成される角度がほぼ90°となるように配置されている。ここで、格子ベクトルg1は、図1に示すように、第1回折格子7の格子パターンが並ぶ方向と平行な方向を指す。
【0025】
なお、第1回折格子7における被測定部材5に対する配置する精度は、変位検出装置1に要求する測定精度によって種々設定されるものである。すなわち、変位検出装置1に高い精度を要求する場合、第1回折格子7を被測定部材5の被測定面5aに対して90°±0.5°の範囲に配置することが好ましい。これに対し、第1回折格子7を被測定部材5の被測定面5aに対して90°から±2°の範囲で配置しても、変位検出装置1を工作機械等の低精度の測定に用いる場合には、十分である。
【0026】
また、第1回折格子7には被測定部材5の被測定面5aで反射された第1の光束L1が入射し、第1回折格子7に入射した第1の光束L1は第1回折格子7によって回折される。この第1回折格子7の格子ピッチd1は、回折角が第1回折格子7への入射角とほぼ等しくなるように設定されてもよく、また等しくなくてもよい。第1回折格子7の格子ピッチd1は、第1の光束L1の被測定面5aへの一回目の入射時における入射角をθ1、第1の光束L1の被測定面5aへの2回目の入射時における入射角をθ2、波長をλとすると、以下に示すブラッグの条件式を満たす値に設定することが好ましい。
[式1]
d1=nλ/(sin(π/2−θ1)+sin(π/2−θ2))
ここで、nは、正の次数である。
【0027】
なお、上述したように、第1回折格子7は、その格子ベクトルg1が被測定部材5の被測定面5aに対して直角(90°)となるように配置されているため、第1の光束L1の第1回折格子7への入射角はπ/2−θ1となる。
【0028】
ここで、第1回折格子7として適用可能な回折格子の例を説明する。図2Aは、第1回折格子7の一例を示す断面図、図2Bは、第1回折格子7の他の例を示す断面図である。
【0029】
図2Aに示す第1回折格子7Aは、略透明なガラス基板7aの一面に例えばクロム(Cr)からなる格子部7bを形成したものである。一般的に、格子部7bは、ガラス基板7aの一面にクロム等の薄膜を真空蒸着によって形成されるため、その厚みは、1μm以下である。
【0030】
図2Bに示す第1回折格子7Bは、写真乾板を用いた、いわゆるボリュームタイプのホログラムである。吸収型のホログラムを用いてもよいが、ここでは位相型のホログラムについて説明する。この第1回折格子7Bにおける格子部7cは、例えば次のようにして形成される。
【0031】
まず、ガラス基板7aの一面に光に感光する銀塩の乳剤を塗布し、干渉縞を露光し、現像後、漂白する。これにより、格子部7cには、銀の粒子が残っている箇所7dと、残っていない箇所7eが形成される。ここで、銀の粒子が残っている箇所7dは、屈折率が高く、銀の粒子が残っていない箇所7eは、屈折率が低くなる。すなわち、位相型のホログラムである。また、材料として写真乾板の代わりにホログラム記録用フォトポリマーを使用してもよい。
【0032】
このような構成を有する第1回折格子7Bの場合、所定の角度(入射角)で光が入射すると、所定の角度(回折角)で光が出力(回折)される。さらに、式1に示すブラッグ条件を満たすときに、第1回折格子7Bによって回折される回折光の出力を最大にすることができる。すなわち、第1回折格子7Bによって回折された回折光の光量が低下することを防ぐことができる。
【0033】
この第1回折格子7Bの格子部7cの厚みN1は、格子ピッチd1の4倍以上が好ましい。しかしながら、光が格子部7cで吸収されることを考慮すると、格子部7cの厚みN1は、格子ピッチd1の約4〜20倍程度に設定することが好ましい。
【0034】
また、図2Bに示すような、ボリュームタイプのホログラムからなる第1回折格子7Bは、被測定部材5から反射した第1の光束L1の回折効率を高めることができ、信号のノイズを低下させることができる。
【0035】
図1に戻り、反射部6について説明する。反射部6は、図1に示すように、光束分割部4によって分割された第2の光束L2を反射し、光束結合部8に入射させる。反射部6は、第1の光束L1における光束分割部4から光束結合部8までの光路長と、第2の光束L2における光束分割部4から光束結合部8までの光路長とが等しくなるように配置される。反射部6を設けたことにより、第1の光束L1及び第2の光束L2における光路長、及び、光軸の角度が調整しやすくなる。これにより、気圧、湿度、温度などの環境の変化による光源2の波長変動の影響を受けにくい変位検出装置1を得ることができる。
【0036】
さらに、第1の光束L1の光路長と第2の光束L2の光路長とが等しく設計されているため、気圧、湿度、温度などの環境の変化による光源2の波長変動があったとしても、第1の光束L1及び第2の光束L2が受ける影響を等しくすることができる。その結果、気圧補正、湿度補正、温度補正などを行う必要がなく、周囲環境に関わらず安定した測定を行うことができる。
【0037】
光束結合部8は、被測定部材5から反射されてきた第1の光束L1、及び、反射部6から反射されてきた第2の光束L2を重ね合わせて第2回折格子9に入射させる。光束結合部8としては、偏光ビームスプリッタを用いることができる。光束結合部8に到達した第1の光束L1と第2の光束L2は、互いに直交した直線偏光となっている。したがって、互いに直交した直線偏光の第1の光束L1及び第2の光束L2が光束結合部8で重なり合い、その重なり合った光束が第2回折格子9に入射する。
【0038】
第2回折格子9は、透過型の回折格子で構成されており、光束結合部8で重ね合わされた第1の光束L1及び第2の光束L2を回折して受光部10に入射させる。第2回折格子9は、被測定部材5の被測定面5aが、第1の光束L1の光路が形成される面に対して垂直な軸を回転軸として傾いた(チルトした)場合の第1の光束L1の光路長の変化をキャンセルするための部材である。以下に、第2回折格子9の構成について詳述する。
【0039】
図3は、被測定部材5の被測定面5aが、第1の光束L1の光路が形成される面に対して垂直な軸を回転軸としてチルトした場合の光路を示す図である。図3において、チルトしていない時の被測定部材5と第1の光束L1の光路を二点鎖線で示しており、Δθだけチルトしたときの被測定部材5と第1の光束L1の光路を実線で示している。
【0040】
被測定部材5が、図3に示すようにΔθだけチルトした場合、第1の光束L1の入射位置がずれると共に、被測定部材5への第1の光束L1の入射角も変化する。これにより、第1の光束L1の光路が変化し、結果的に、光束分割部4から光束結合部8までの第1の光束L1の光路長が変化する。そして、このとき、第1の光束L1の被測定部材5の被測定面5aにおける2回目の反射位置から出射される光路は、元の光路(被測定部材5がチルトしていないときの光路)に対してほぼ並行に移動する。本実施形態は、この現象を利用して、被測定部材5のチルトによる光路長の変化を、第2回折格子9を配置することでキャンセルする。
【0041】
図4は、被測定部材5がある角度チルトする前後における第2回折格子9周辺部の光束の様子を拡大して示した図である。図4では、被測定部材5がチルトしていない場合の第第1の光束L1を二点鎖線で示し、被測定部材5がチルトした場合の第1の光束L1’を実線で示している。また、図4の一点鎖線S(以下、直線S)は、第1の回折格子7の格子ベクトルg1と平行な線である。さらに、直線S上に回折格子が配置された場合の、第1の光束L1、L1’のそれぞれの回折光L1、L1’を破線で示す。
【0042】
第1の光束L1と第1の光束L1’において、第1回折格子7への入射角と第1回折格子7からの射出角の和が一定であると近似した場合、すなわち、以下の式2が成立する場合、第1の光束L1と第1の光束L1’は平行である。
[式2]
π/2−θ+sin−1{λ/d1−sin(π/2−θ)}≒Const
【0043】
このとき、第1の光束L1と第1の光束L1’の第1回折格子7と平行な直線Sまでの光路長はほぼ等しい。第1の光束L1から第1の光束L1’の平行移動量をaとし、平行移動量aの第2回折格子9への射影、すなわち、第1の光束L1と第2回折格子9との交点をP1、第1の光束L1’と第2回折格子9との交点をP2とした場合のP1−P2間の距離L(θ3)とする。そうすると、第2回折格子9が第1の光束L1及びL1’に直行する面から角度θ3だけチルトしている場合、L(θ3)とaは、L(θ3)・cosθ3=aを満たす。しかしながら、受光部10等は、光束の進行方向に対して直交して配置されるため、第2回折格子9が配置されない場合、受光部10で受光される第1の光束L1と第1の光束L’とでは、光路長差Dが発生する。
【0044】
すなわち、第2回折格子9が配置されない場合、図4では、第1の光束L1’が第1の光束L1に対して距離Dだけ短い。そのため、本実施形態では、第2回折格子9により、距離Dを補うように第1の光路L1’を補正する。第2回折格子9を配置することによる光路長差の変化は、点P1から第1の光束L1’に対して下ろした垂線と第1の光束L1’との交点をP3,P4とすると、P3−P2−P4間の距離となる。この距離が先に述べた距離Dと等しいとき、被測定部材5がチルトした際に生じる光路長変化を低減できる。すなわち、第2回折格子9に対する入射角θ3が、以下の式3を満たすときである。
[式3]
2{L(θ3)sinθ3}=D
【0045】
ここで、L(θ3)・cosθ3=aであるため、以下の式4を得る。
[式4]
tan(θ3)=D/2a
【0046】
また、D/a=tan(π/2−θ)であるため、式4は、以下の式5となる。
[式5]
tanθ3={tan(π/2−θ)}/2
ここで、θは第1の光束L1の被測定面5aへの入射角、π/2−θは第1の光束L1の第1回折格子7への入射角、θ3は第1の光束L1の第2回折格子9への入射角である。すなわち、式2で示される条件を満たすように第2回折格子9が配置されたとき、被測定部材5のチルトによる光路長の変位をキャンセルすることができる。
【0047】
なお、式5に示す条件は、ブラッグの条件を満たす近辺で成立するが、その範囲については限定されるものではない。例えば、被測定面5aが基準の位置から±3度程度傾いても、傾きによって発生した光路長の変位をキャンセルすることができる。
【0048】
また、第1回折格子7及び第2回折格子9の入射角はブラッグ条件が満たされているため、第1回折格子7の格子ピッチd1、及び第2回折格子9の格子ピッチd2はそれぞれ以下の式6で表すことができる。
[式6]
d1=λ/(2×sin(π/2−θ))
d2=λ/(2×sinθ3)
【0049】
そして、第1回折格子7の格子ベクトルg1に対する第2回折格子9の格子ベクトルg2の好ましい角度をθ0とすると、θ0は、以下の式7で表すことができる。
[式7]
θ0=π/2−θ−θ3
そして、この式7を式5に代入することで、以下の式8を得ることができる。
[式8]
θ0=π/2−θ−arctan[{tan(π/2−θ)}/2]
【0050】
したがって、第1回折格子7の格子ベクトルg1を被測定部材5の被測定面5aに対して垂直に配置し、かつ、式5を満たすθ0を第2回折格子9の格子ベクトルg2として設定することにより、被測定部材5のチルトによる第1の光束L1の光路長の変化をキャンセルすることができる。
【0051】
このように設定された第2回折格子9において、光束分割部4から光束結合部8までの第1の光束L1の光路長の変化を補正する。図5は、第2回折格子9を配置した場合と配置しない場合の第1の光束L1の光路長を示した図である。図5の横軸は、被測定部材5の基準の位置からのチルト量(Δθ)であり、縦軸は、被測定部材5がチルトしていないときと、Δθだけチルトしたときの光路長差である。
【0052】
図5に示すように、第2回折格子9を配置しない場合には、チルト角Δθが大きくなるにつれて光路長差も大きくなっているが、第2回折格子9を配置することで、チルト角Δθが大きくなっても光路長差を低減することができる。なお、第2の光束L2は、被測定部材5の位置に関係なく常にほぼ一定の光路を辿るため、第2回折格子9は第2の光束L2の光路長には影響を及ぼさない。
【0053】
図1に戻り、変位検出装置1の受光部10の構成について説明する。受光部10は、第2回折格子9で回折された第1の光束L1及び第2の光束L2を受光し、干渉させる。その干渉強度を電気的な信号に変換して、その信号を相対位置情報出力部11に送る。
【0054】
図6に、受光部10の概略構成を示す。図6に示すように、受光部10は、光束結合部8で重ね合わされた第1の光束L1と第2の光束L2を集光する集光レンズ14と、光を分割するハーフミラー16と、第1の偏光ビームスプリッタ18と、第2の偏光ビームスプリッタ19とを有している。また、ハーフミラー16と第2の偏光ビームスプリッタ19との光路上には、1/4波長板等からなる受光側位相板17が配置されている。
【0055】
第1の偏光ビームスプリッタ18は、入射される光束の偏光方向が入射面に対して45度傾くように配置されている。この第1の偏光ビームスプリッタ18における光の出射口側には、第1の受光素子33と、第2の受光素子34が設けられている。また、第2の偏光ビームスプリッタ19における光の出射口側には、第3の受光素子35と、第4の受光素子36が設けられている。
【0056】
これら第1の偏光ビームスプリッタ18及び第2の偏光ビームスプリッタ19は、s偏光成分を有する干渉光を反射させ、p偏光成分を有する干渉光を透過させて、光を分割するものである。そして、受光部10では、第1の受光素子33〜第4の受光素子36において干渉強度を電気的な信号に変換し、その信号を相対位置情報出力部11に送る。
【0057】
相対位置情報出力部11は、受光部10から送られてきた信号を元に、被測定部材5のz方向の変位量を出力する。図7は、相対位置情報出力部11の構成を示すブロック図である。図7に示すように、相対位置情報出力部11は第1の差動増幅器61aと、第2の差動増幅器61bと、第1のA/D変換器62aと、第2のA/D変換器62bと、波形補正処理部63と、インクリメンタル信号発生器64とを有している。
【0058】
第1の差動増幅器61aには、第1の受光素子33及び第2の受光素子34が接続されており、第2の差動増幅器61bには、第3の受光素子35及び第4の受光素子36が接続されている。また、第1の差動増幅器61aには、第1のA/D変換器62aが接続されており、第2の差動増幅器61bには、第2のA/D変換器62bが接続されている。そして、第1のA/D変換器62a及び第2のA/D変換器62bは、波形補正処理部63と接続している。
【0059】
[1−2.変位検出方法]
次に、図1図6及び図7を参照して、本実施形態の変位検出装置1を用いた変位検出方法について説明する。
【0060】
図1に示すように、光源2から出射した光は、レンズ3によりコリメートされて平行光となる。そして、レンズ3によりコリメートされた平行光は、光束分割部4に入射する。光束分割部4に入射した光は、第1の光束L1と第2の光束L2に分割される。ここで、光束分割部4は、光のうちs偏光を反射し、p偏光を透過する。そのため、光束分割部4に分割された第1の光束L1はp偏光であり、第2の光束L2はs偏光である。
【0061】
光束分割部4で分割された光束のうち、第1の光束L1は被測定部材5の被測定面5aにおける第1の照射スポットPc1に入射角θ1で入射する。そして、被測定部材5は、第1の照射スポットPc1に入射した第1の光束L1を第1回折格子7に反射させる。
【0062】
被測定部材5によって反射された第1の光束L1は第1回折格子7を透過し、第1回折格子7に回折されて被測定部材5の被測定面5aにおける第1の照射スポットPc1とは異なる第2の照射スポットPd1に入射する。そして、被測定部材5は、第1回折格子7により回折され、第2の照射スポットPd2に入射した第1の光束L1を光束結合部8に入射させる。
【0063】
一方、光束分割部4で分割された光束のうち、第2の光束L2は反射部6に入射する。そして、反射部6は第2の光束L2を光束結合部8に入射させる。上述したように、反射部6は、第1の光束L1における光束分割部4から光束結合部8までの光路長と、第2の光束L2における光束分割部4から光束結合部8までの光路長が等しくなるように配置されている。そのため、気圧や湿度、温度の変化による光源2の波長変動があったとしても、第1の光束L1及び第2の光束L2が受ける影響を等しくすることができる。
【0064】
光束結合部8に入射した第1の光束L1及び第2の光束L2は、光束結合部8において重ね合わされて、干渉光となる。光束結合部8によって重ね合わされた第1の光束L1及び第2の光束L2は第2回折格子9に入射され、第2回折格子9によって回折されて、回折された第1の光束L1及び第2の光束L2は受光部10に入射される。
【0065】
本実施形態では、図3及び図5を用いて説明した原理により、被測定部材5がチルトした場合に発生する第1の光束L1の光路長の変化は、第1の光束L2が第2回折格子9に回折されることでキャンセルされる。これにより、受光部10では、被測定部材5のz方向の変位量の情報のみを持った第1の光束L1を受光することができる。
【0066】
ここで、被測定部材5のz方向への変位によって受光部10に入射する第1の光束L1の変化について説明する。図8は、被測定部材5が基準位置からz方向へx/2だけ移動した場合の光路の変化を示す図である。
【0067】
被測定部材5が高さ方向にx/2だけ移動すると、被測定部材5の被測定面5aに照射される第1の光束L1は、第1の照射スポットPc1から第2の照射スポットPc2に移動する。また、被測定部材5に反射された第1の光束L1は、第1回折格子7の回折位置T1から回折位置T2に移動する。ここで、第1回折格子7は、被測定部材5の被測定面5aに対して略直角に配置されているため、回折位置T1と回折位置T2の間隔は、照射スポットPc1と照射スポットPc2の間隔の2倍のxとなる。すなわち、第1回折格子7上を移動する第1の光束L1の移動量は、被測定部材5を移動した際の2倍のxとなる。
【0068】
また、第1回折格子7が被測定部材5の被測定面5aに対して略直角に配置されているため、被測定部材5がz方向に変位しても、Pc2−T2間の距離と、Pc2−Pc1−T1間の距離が一定であることから、第1の光束L1の光路長は常に一定となることが分かる。すなわち、第1の光束L1の波長は、変化しない。そして、被測定部材5がz方向に変位すると、第1回折格子7に入射する位置だけが変化する。
【0069】
よって、回折された第1の光束L1には、Kxの位相が加わる。Kは2π/d1で示される波数である。つまり、被測定部材5がz方向に対してx/2だけ移動すると、第1の光束L1は第1回折格子7上ではxだけ移動する。そのため、第1の光束L1にはKx分の位相が加わり、1周期分の光の明暗が生じる干渉光が受光部10によって受光される。
【0070】
そして、互いに直交した直線偏光の第1の光束L1と第2の光束L2が重なった光束Laが第2回折格子9で回折される。第2回折格子9では、前述したように、被測定部材5がチルトした場合には、第1の光束L1の光路長の変化をキャンセルするように第1の光束L1を回折する。
【0071】
受光部10では、光束Laは、集光レンズ14によって集光されて、ハーフミラー16に照射される。ハーフミラー16は、光束Laを2つの光に分割する。ハーフミラー16を反射した光束Laは、第1の偏光ビームスプリッタ18に入射する。
【0072】
ここで、第1の偏光ビームスプリッタ18は、互いに偏光方向が90度異なる第1の光束L1及び第2の光束L2の偏光方向が、第1の偏光ビームスプリッタ18の入射面に対してそれぞれ偏光方向が45度傾くように傾けて配置されている。これにより、第1の光束L1及び第2の光束L2は、第1の偏光ビームスプリッタ18に対してそれぞれp偏光成分とs偏光成分を有することになる。したがって、第1の偏光ビームスプリッタ18を透過した第1の光束L1及び第2の光束L2は、同じ偏光方向を有する偏光同士が干渉する。よって、第1の光束L1と第2の光束L2を第1の偏光ビームスプリッタ18によって干渉させることができる。
【0073】
同様に、第1の偏光ビームスプリッタ18によって反射される第1の光束L1及び第2の光束L2は、第1の偏光ビームスプリッタ18に対して同じ偏光方向を有する偏光同士が干渉する。そのため、第1の偏光ビームスプリッタ18によって干渉させることができる。
【0074】
第1の偏光ビームスプリッタ18によって反射された第1の光束L1及び第2の光束L2との干渉光は、第1の受光素子33によって受光される。また、第1の偏光ビームスプリッタ18を透過した第1の光束L1及び第2の光束L2との干渉光は、第2の受光素子34によって受光される。ここで、第1の受光素子33と第2の受光素子34とによって光電変換される信号は、180度位相の異なる信号となる。
【0075】
第1の受光素子33と第2の受光素子34によって、Acos(Kx+δ)の干渉信号が得られる。Aは、干渉の振幅であり、Kは2π/d1で示される波数である。また、xは、被測定部材のz方向への変位に起因する第1回折格子7上における第1の光束L1の移動量である。δは、初期位相を示している。d1は、第1回折格子7における格子のピッチである。
【0076】
ここで、第1の受光素子33及び第2の受光素子34によって得られる干渉信号には、光源2の波長に関する成分が含まれていない。よって、気圧や湿度、温度の変化による光源2の波長に変動が起きても干渉強度には影響を受けない。
【0077】
一方、図6に示すように、ハーフミラー16を透過した光束Laは、受光側位相板17に入射する。互いに偏光方向が90度異なる直線偏光である第1の光束L1及び第2の光束L2からなる光束Laは、受光側位相板17を透過することにより、互いに逆回りの円偏光となる。そして、この互いに逆回りの円偏光は同一光路上にあるので、重ね合わされることにより直線偏光となり、第2の偏光ビームスプリッタ19に入射する。
【0078】
この直線偏光のs偏光成分は第2の偏光ビームスプリッタ19によって反射され、第3の受光素子35に受光される。また、p偏光成分は、第2の偏光ビームスプリッタ19を透過し、第4の受光素子36によって受光される。
【0079】
上述したように、第2の偏光ビームスプリッタ19に入射する直線偏光は、互いに逆回りの円偏光の重ね合わせによって生じている。そして、第2の偏光ビームスプリッタ19に入射される直線偏光の偏光方向は、被測定部材5が高さ方向にx/2だけ移動すると1回転する。したがって、第3の受光素子35と第4の受光素子36でも同様に、Acos(Kx+δ’)の干渉信号が得られる。δ’は初期位相である。
【0080】
また、第3の受光素子35と第4の受光素子36とで光電変換される信号は、180度位相が異なる。
【0081】
なお、本実施形態では、第1の偏光ビームスプリッタ18に対して、第3の受光素子35と第4の受光素子36に受光される光束を分割する第2の偏光ビームスプリッタ19を45度傾けて配置している。このため、第3の受光素子35と第4の受光素子36において得られる信号は、第1の受光素子33と第2の受光素子34において得られる信号に対し、90度位相がずれている。
【0082】
したがって、例えば第1の受光素子33と第2の受光素子34で得られる信号をsin信号、第3の受光素子35と第4の受光素子36において得られる信号をcos信号として用いることによりリサージュ信号を取得することができる。
【0083】
これらの受光素子によって得られる信号は、相対位置情報出力部11によって演算され、被測定面5aのz方向への変位量がカウントされる。
【0084】
図7に示すように、例えば、本実施形態の相対位置情報出力部11では、まず、第1の受光素子33と第2の受光素子34で得られた位相が互いに180度異なる信号を第1の差動増幅器61aによって差動増幅し、干渉信号の直流成分をキャンセルする。
【0085】
そして、この信号は、第1のA/D変換器62aによってA/D変換され、波形補正処理部63によって信号振幅とオフセットと位相とが補正される。この信号は、例えばA相のインクリメンタル信号としてインクリメンタル信号発生器64において演算される。
【0086】
また同様に、第3の受光素子35及び第4の受光素子36で得られた信号は、第2の差動増幅器61bによって差動増幅され、第2のA/D変換器62bによってA/D変換される。そして、波形補正処理部63により信号振幅とオフセットと位相とが補正され、A相と位相が90度異なるB相のインクリメンタル信号としてインクリメンタル信号発生器64から出力される。
【0087】
こうして得られた2相のインクリメンタル信号は、図示しないパルス弁別回路等により正逆の判別が行われ、これにより、被測定部材5のz方向の変位量が、プラス方向であるかマイナス方向であるかを検出できる。
【0088】
また、図示しないカウンタによってインクリメンタル信号のパルス数をカウントすることにより、第1の光束L1と第2の光束L2の干渉光強度が上述の周期の何周期分変化したのかを計測できる。これにより、被測定部材5のz方向の変位量が検出される。
【0089】
なお、本実施形態の相対位置情報出力部11の出力する相対位置情報は、上述の2相のインクリメンタル信号であってもよいし、それから算出された変位量、変位方向を含む信号であってもよい。
【0090】
以上のように、本実施形態では、第1回折格子7をその格子ベクトルg1が被測定部材5の被測定面5aに略垂直となるように配置する。これにより、被測定部材5がz方向に変位した場合にも、物体光である第1の光束L1の光路長が変化せず、第1の光束L1の第1回折格子7への入射位置だけが変化する。この結果、受光部10で得られる干渉信号には、光源2の波長に関する成分が含まれない。このため、本実施形態の変位検出装置1は、気圧、湿度、温度などの環境の変化に起因した光源2の発振波長の変動による干渉強度への影響を低減することができる。
【0091】
また、本実施形態では、第2回折格子9を配置することにより、被測定部材5の被測定面5aがチルトすることによって物体光である第1の光束L1の光路長の変化を打ち消すことができる。これにより、被測定部材5がチルトしている場合にも、被測定部材5の被測定面5aのz方向の変位量をより正確に検出することができる。
【0092】
そして、本実施形態の変位検出装置1によれば、従来の変位検出装置のように、例えば磁石とコイルを用いたアクチュエータのような駆動機能が不要であるため、使用時に発生する熱を抑制できる。さらに、それらの駆動機構を駆動させる必要が無いので、応答周波数が制限されるといった問題も解消され、使用条件を広くすることができる。そして、本実施形態の変位検出装置1では、駆動機構を用いないため、高速で安定した計測が可能となる。
【0093】
ところで、光源2に半導体レーザ等を用いた場合、前述したように、光源の温度によって光源2の発振波長がわずかに変化する。この変化は第1回折格子7や第2回折格子9の回折角の変化となる。このため、第1の実施形態に係る変位検出装置1のように、物体光の光路長が被測定部材5の変位によって変わらない場合でも、光軸ずれを生じ、干渉信号の出力低下を引き起こす可能性がある。そこで、以下に、光源2の発振波長の変化による光束の傾き変化を抑制することができる変位検出装置について説明する。
【0094】
《2.第2の実施形態:光路長の変化及び光源の波長変化をキャンセルする回折格子を配置した変位検出装置》
図9は、本発明の第2の実施形態に係る変位検出装置の概略構成図である。本実施形態の変位検出装置20は、第2の光束L2を第1回折格子7で回折させる点と、光源2の近傍に第3回折格子21が設けられる点で、第1の実施形態に係る変位検出装置1と異なる。図9において、図1に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0095】
本実施形態では、反射部22は、第1回折格子7を挟んで被測定部材5と対向する位置に配置される。また、反射部22は、被測定部材5と第1回折格子7の関係と同様、反射面が第1回折格子7の格子ベクトルに対してほぼ直角になるように配置されるのが好ましい。そして、反射部22は、光束分割部4によって分割されてきた第2の光束L2を第1回折格子7に入射させると共に、第1回折格子7で回折された第2の光束L2を再び反射させて光束結合部8に入射させるように配置される。また、反射部22は、光束分割部4から光束結合部8までの第1の光束L1の光路長と、光束分割部4から光束結合部8までの第2の光束L2の光路長とが等しくなるように配置されている。
【0096】
また、本実施形態では、光源2と光束分割部4との間に第3回折格子21が配置されている。第3回折格子21は、温度や湿度の変化に起因する光源2の発振波長の変化による第1回折格子7の回折角の変化と第2回折格子9の回折角の変化を打ち消すように配置される。
【0097】
また、図9に示すように、第1回折格子7への入射角をπ/2−θとし、第2回折格子9への入射角をθ3とし、第3回折格子7への入射角をθ4とした場合、それぞれの回折格子への入射条件は、ブラッグ条件をみたしている場合、次の式9で表すことができる。
[式9]
θ4=π/2−θ−θ3
【0098】
そして、本実施形態の変位検出装置20においても、第1の実施形態と同様にして、被測定部材5のz方向の変位量を検出することができる。
【0099】
本実施形態では、第1の光束L1だけを第1回折格子7で回折させるのではなく、第2の光束L2も第1の光束L1と同様に第1回折格子7で回折させる。これにより、光源2の発振波長の変化に起因した第1回折格子7での光軸ずれを、第1の光束L1及び第2の光束L2の両方に発生させる。これにより、光束結合部8で重ね合わせた後の第1の光束L1及び第2の光束L2の傾きの変化量を合わせることができ、安定した干渉光を得ることができる。
【0100】
さらに、本実施形態では、光源2の発振波長の変化による第1回折格子7の回折角の変化と第2回折格子9の回折角の変化は第3回折格子21によってキャンセルされる。これにより、受光部10に入射される光束の傾きの変化を抑制することができる。
【0101】
一般的に、変位検出装置を小型化するため、各光学パーツの有効径を小さく設計しなければならないが、光束の傾きが大きくなるとケラレが発生する問題があった。これに対し、本実施形態の変位検出装置20では、光源2の発振波長が変化した場合にも、光束の傾きの変化を抑制することができるので、光学パーツの有効径を小さくした場合にもケラレを抑制することができ、変位検出装置20をより広い温度範囲で使用することができる。
【0102】
その他、本実施形態においても、第2回折格子9を用いることにより第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0103】
《3.第3の実施形態:光路長の変化及び光源の波長変化をキャンセルする回折格子を配置した変位検出装置》
次に、本発明の第3の実施形態に係る変位検出装置について説明する。図10は、本実施形態の変位検出装置の概略構成図である。本実施形態の変位検出装置30は、第1の光束L1及び第2の光束L2を2回、第1回折格子7に入射させた後に、受光部10に入射させる点で第2の実施形態に係る変位検出装置20と異なる。図10において、図1及び図9に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0104】
[3−1.構成]
図10に示すように、本実施形態の変位検出装置30では、光束分割部4と被測定部材5との間には、第1の位相板31が配置されており、光束分割部4と反射部22との間には第2の位相板32が配置されている。第1の位相板31と第2の位相板32はそれぞれ1/4波長反等で構成されている。
【0105】
また、本実施形態の変位検出装置30では、反射部22に対して、光源2が配置される側とは反対側の位置の、第1の光束L1及び第2の光束L2の光路上に戻り用反射部37が配置されている。さらに、本実施形態では、第2回折格子9は戻り用反射部37と被測定部材5との間の第1の光束L1の光路上に配置されている。
【0106】
戻り用反射部37は、第1の反射面37aと、第2の反射面37bとを有する三角形状のミラーで構成されている。戻り用反射部37の第1の反射面37aには、光束分割部4を透過した後、被測定部材5の被測定面5aで2回反射されてきた第1の光束L1が入射する。そして、第1の反射面37aは、入射してきた第1の光束L1を、入射したときと同じ光路で被測定部材5側に反射させる。したがって、第1の反射面37aで反射された第1の光束L1は、第2回折格子9で回折され、被測定部材5の被測定面5aで反射され、第1回折格子7で回折され、再度、被測定部材5の被測定面5aで反射された後、第1の位相板31を介して光束分割部4に入射する。
【0107】
戻り用反射部37の第2の反射面37bには、光束分割部4で反射された後、反射部22の反射面で2回反射されてきた第2の光束L2が入射する。そして、第2の反射面37bは、入射された第2の光束L2を、入射したときと同じ光路で反射部22側に戻す。したがって、第2の反射面37bで反射された第2の光束L2は、反射部22の反射面で反射され、第1回折格子7で回折され、再度、反射部22で反射された後、第2の位相板32を介して光束分割部4に入射する。
【0108】
また、戻り用反射部37は、光束分割部4と戻り用反射部37との間の第1の光束L1の光路長と、第2の光束L2の光路長とが略等しくなるように配置される。戻り用反射部37を設けることで、変位検出装置30を製造する際に、第1の光束L1の光路長と第2の光束L2の光路長や、光軸の角度を調整し易くすることができる。その結果、気圧、湿度、温度などの環境の変化による光源2の波長変動の影響を受けにくくすることができる。
【0109】
本実施形態では、戻り用反射部37によって第1の光束L1及び第2の光束L2を反射することにより、第1の光束L1及び第2の光束L2は、第1回折格子7で2回回折されて光束分割部4に入射する。そして、光束分割部4では、戻ってきた第1の光束L1及び第2の光束L2を結合し、受光部10に入射させる。すなわち、本実施形態では、光束分割部4が光束結合部8を兼ねる。
【0110】
[3−2.変位検出方法]
次に、図10図6及び図7を参照して、本実施形態の変位検出装置30を用いた変位検出方法について説明する。
【0111】
図10に示すように、光源2から出射した光は、レンズ3によりコリメートされて平行光となる。そして、レンズ3によりコリメートされた平行光は、光束分割部4に入射する。光束分割部4に入射した光は、第1の光束L1と第2の光束L2に分割される。ここで、光束分割部4は、光のうちs偏光を反射し、p偏光を透過する。そのため、光束分割部4を透過したp偏光による第1の光束L1は、第1の位相板31に照射され、光束分割部4により反射されたs偏光による第2の光束L2は、第2の位相板32に照射される。
【0112】
そして、第1の光束L1及び第2の光束L2は、第1の位相板31及び第2の位相板32により円偏光となる。図10に示すように、円偏光となった第1の光束L1は、被測定部材5の被測定面5aに入射する。そして、第1の光束L1は、被測定部材5によって反射され、第1回折格子7に入射する。
【0113】
第1回折格子7に入射した第1の光束L1は第1回折格子7によって回折され、再び被測定部材5に入射する。次に、再び被測定部材5に入射した第1の光束L1は、被測定部材5で反射されて、第2回折格子9に入射され、第2回折格子9で回折された第1の光束L1は戻り用反射部37の第1の反射面37aで反射される。そして、戻り用反射部37で反射された第1の光束L1は、光束分割部4から戻り用反射部37に到達するまでの光路と同じ光路を辿って、再度、光束分割部4に入射する。再度、光束分割部4に入射される第1の光束L1は、第1の位相板31によって行きと直交した直線偏光、すなわち、s偏光となる。
【0114】
一方、光束分割部4によって分割され、第2の位相板32によって円偏光となった第2の光束L2は、反射部22の反射面に入射する。そして、第2の光束L2は、反射部22によって反射され、第1回折格子7に入射する。
【0115】
第1回折格子7に入射した第2の光束L2は第1回折格子7によって回折され、再び反射部22に入射する。次に、再び反射部22に入射した第2の光束L2は、反射部22で反射されて、戻り用反射部37に入射し、戻り用反射部37の第2の反射面37bで反射される。そして、戻り用反射部37で反射された第2の光束L2は、光束分割部4から戻り用反射部37に到達するまでの光路と同じ光路を辿って、再度、光束分割部4に入射する。再度、光束分割部4に入射される第2の光束L2は、第2の位相板32によって行きと直交した直線偏光、すなわち、p偏光となる。
【0116】
そして、光束分割部4に入射された第1の光束L1及び第2の光束L2は、光束分割部4によって重ね合わされて受光部10に入射する。受光部10から後段の処理は、第1の実施形態と同様であるので重複説明を省略する。
【0117】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様、受光部10において、第1の光束L1及び第2の光束L2の干渉光を得ることにより、被測定部材5のz方向への変位量を求めることができる。ここで、本実施形態の変位検出装置30では、第1の光束L1を第1回折格子7で2回回折している。そのため、2回回折された第1の光束L1には、図8を用いて説明した原理により、2Kxの位相が加わる。Kは、第1の実施形態と同様、2π/d1で示される波数である。また、xは、第1回折格子7上における第1の光束L1の移動量を示している。つまり、被測定部材5がz方向にx/2だけ移動すると、第1の光束L1は、第1回折格子7上では2倍のxだけ移動する。さらに、第1の光束L1は、第1回折格子7で2回回折することで、第1の光束L1には2Kxの位相が加わり、2周期分の明暗が生じる干渉光が受光部10によって受光される。
【0118】
したがって、第1の受光素子33と第2の受光素子34では、Acos(2Kx+δ)の干渉信号を得ることができる。また、第3の受光素子35と第4の受光素子36では、Acos(2Kx+δ’)の干渉信号を得ることができる。
【0119】
このように、本実施形態の変位検出装置30の第1回折格子7の格子ピッチと、第1の実施形態における変位検出装置1の第1回折格子7の格子ピッチを同じとした場合、本実施形態の変位検出装置30は第1の実施形態の変位検出装置1と比較して2倍の分解能とすることができる。
【0120】
そして、本実施形態においても、第1の実施形態と同様、第2回折格子9が配置されていることにより、被測定部材5がチルトした場合にも、光路長の変化をキャンセルすることができる。これにより、被測定部材5のz方向の変位量をより正確に検出することができる。
【0121】
さらに、本実施形態においても、第2の実施形態と同様、第3回折格子21が配置されていることにより、温度、湿度、気圧などの環境変化に起因して光源2の発振波長が変動した場合にも、光軸ずれを補正することができる。これにより、干渉強度の低下を防ぐことができる。
【0122】
《4.変位検出装置の利用例》
次に、上述した第1〜第3の実施形態に係る変位検出装置の利用例について図11及び図12を参照して説明する。図11は、第1の利用例について示す模式図である。図12は、第2の利用例について示す模式図である。なお、図11及び図12に示す利用例における被測定部材5は、例えば、回折格子スケールを用いたものである。
【0123】
図11に示す利用例では、被測定部材5における被測定面5aと平行をなす第1の方向Xの変位検出するX軸用リニアエンコーダ901と、被測定部材5における被測定面と平行をなし、第1の方向Yと直交する第2の方向Yの変位を検出するY軸用リニアエンコーダ902が設けられている。また、被測定部材5の被測定面5aの高さ方向(Z方向)の検出するために上述した第1の実施形態の変位検出装置1を設けている。
【0124】
これにより、X軸用リニアエンコーダ901及びY軸用リニアエンコーダ902によって、被測定部材5のX軸Y軸の変位を計測し、第1の実施形態の変位検出装置1によって被測定部材5の被測定面5aの高さ方向、すなわちZ方向の変位を検出することができる。これにより、3次元の計測が可能となる。
【0125】
図12に示す利用例における被測定部材5Hは、Z軸を中心に回転するものである。そして、この利用例では、被測定部材5Hの角度情報を検出するロータリーエンコーダ903と、被測定部材5の高さ方向Zの検出するために上述した第1の実施形態に係る変位検出装置1を設けている。この利用例では、被測定部材5Hの角度情報θと、Z軸の変位を検出することができ、3次元の計測が可能となる。
【0126】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。上述した実施の形態例では、光源から照射される光は、気体中だけでなく、液体中又は真空中の空間を飛ばして光を供給するようにしてもよい。
【0127】
また、参照光用の反射部6、22を被測定部材5の移動に連動するように移動させてもよい。すなわち、被測定部材5における高さ方向の移動量と同じ移動量だけ参照光用の反射部6、22を移動させる。これにより、第2の光束L2に第1の光束L1と正負の異なる位相を加えることができる。
【0128】
また、上述した第1〜第3の実施形態において記載された各種のレンズは、単レンズであってもよく、また、複数のレンズで構成されたレンズ群であってもよい。
【符号の説明】
【0129】
1,2,30…変位検出装置、2…光源、3…レンズ、4…光束分割部、5…被測定部材、6…反射部、7…第1回折格子、8…光束結合部、9…第2回折格子、10…受光部、11…相対位置情報出力部、14…集光レンズ、16…ハーフミラー、17…受光側位相板、18…第1の偏光ビームスプリッタ、19…第2の偏光ビームスプリッタ、21…第3回折格子、22…反射部、31…第1の位相板、32…第2の位相板、33…第1の受光素子、34…第2の受光素子、35…第3の受光素子、36…第4の受光素子、37…戻り用反射部
図1
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図10
図11
図12