特許第6322073号(P6322073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322073
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】動力伝動用ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/16 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   F16G5/16 G
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-146654(P2014-146654)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-23678(P2016-23678A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年1月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 勝爾
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−208136(JP,A)
【文献】 特開2006−153134(JP,A)
【文献】 国際公開第03/031841(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
張力帯と、
前記張力帯の長手方向に沿って所定ピッチで配列され、且つ、前記張力帯が嵌合される嵌合溝をそれぞれ有する複数のブロックとを備える動力伝動用ベルトであって、
前記張力帯の外周面および内周面において、各前記ブロックの前記嵌合溝と対向する領域のベルト長手方向中央部には、ベルト幅方向に延びる1つの嵌合山部が形成されており、
前記張力帯の外周面および内周面のうち少なくとも外周面において、各前記ブロックの前記嵌合溝と対向する領域内には、前記嵌合山部のベルト長手方向両側に位置するとともに、ベルト長手方向両側に側面を有し、ベルト幅方向に延びる2つの嵌合谷部が形成されており、
前記嵌合溝は、前記嵌合山部および前記嵌合谷部とそれぞれ嵌合する凹部および凸部を有することを特徴とする動力伝動用ベルト。
【請求項2】
前記張力帯と各前記ブロックとは、少なくとも前記嵌合山部と前記凹部との嵌合部において、接着剤によって固定されていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝動用ベルト。
【請求項3】
前記張力帯の内周面は、隣接する2つの前記嵌合山部の間に1つの谷部のみを有し、各前記ブロックの前記嵌合溝と対向する領域内に前記2つの嵌合谷部を有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝動用ベルト。
【請求項4】
前記張力帯の内周面は、各前記ブロックの前記嵌合溝と対向する領域内に、前記嵌合山部と前記2つの嵌合谷部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝動用ベルト
【請求項5】
前記ブロックは、ベルト厚み方向に並んで配置された上ビームと下ビームが、ピラーによって連結された構成であって、
前記ピラーのベルト幅方向両側に前記嵌合溝が形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝動用ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張力帯の長手方向に沿って複数のブロックを取り付けた構成を有する動力伝動用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト式無段変速装置等に使用される動力伝動用ベルトとして、2つの張力帯に複数のブロックをベルト長手方向に並ぶように取り付けた構成のブロックベルトが用いられている。ブロックは、高硬度で剛性が高い材料で形成されており、プーリから受ける力に耐える役割を果たしている。2つの張力帯は、ブロックのベルト幅方向両側に形成された2つの嵌合溝に嵌合されて係止される。
【0003】
一般的なブロックベルトは、例えば特許文献1に示すように、各ブロックの嵌合溝のベルト厚み方向の両面に1つずつ凸部が形成されており、この凸部が張力帯に形成された谷部と嵌合している(以下、このベルトを谷嵌合タイプという)。
【0004】
谷嵌合タイプのベルトを長時間走行させると、ブロックと張力帯との係止状態や走行条件によって、ブロックの接触面(側面)がプーリのベルト溝に必要以上に強く押し付けられて摩擦力が強くなることで、ブロックの側面のうち嵌合溝より外周側の部分と内周側の部分においてベルト溝との係合状態のバランスが崩れ、特に駆動プーリのベルト溝からベルトが抜け出す際に、スムーズにベルトが抜け出せない状態になる場合がある。このような状態が長時間繰り返されると、ブロックの揺動(プーリ径方向に対してブロックが傾く現象)が生じる。
【0005】
谷嵌合タイプのベルトにおいて、張力帯は厚みの薄い箇所である谷部で屈曲する。つまり、谷嵌合タイプのベルトは、ベルト長手方向に関して、ブロックと張力帯との嵌合部の位置と、張力帯における屈曲位置が一致するため、ベルトの屈曲により生じる応力がブロックと張力帯との嵌合部に集中しやすい。そのため、ブロックの揺動が発生すると、張力帯のへたり(劣化)とも相まって、ブロックと張力帯との嵌合部にがたつきが発生しやすい。嵌合部ががたつくことで、歯布摩滅、ブロック破損、ベルト切断等の致命的な故障に至る場合がある。
【0006】
そこで、ブロックと張力帯との嵌合部のがたつきを抑制するために、例えば特許文献2に記載のベルトのように、各ブロックの嵌合溝のベルト厚み方向の両面に1つずつ凹部を形成して、この谷部を張力帯(センターベルト)に形成された山部と嵌合させたベルトが提案されている(以下、このベルトを山嵌合タイプという)。この山嵌合タイプのベルトは、ブロックと張力帯との嵌合部の位置と、張力帯における屈曲位置がベルト長手方向にずれている。そのため、ベルトの屈曲作用がブロックと張力帯との嵌合部に及び難く、係止状態が安定するため、谷嵌合タイプのベルトと比較して、ブロックの揺動やブロックと張力帯との嵌合部のがたつきが生じ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭64−055344号公報
【特許文献2】意匠登録第1470922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、山嵌合タイプのベルトであっても、ベルトへの負荷を上げて長時間走行させた場合、何らかの原因で一旦ブロックの揺動が発生すると、谷嵌合タイプと比較してその程度は小さいもののブロックと張力帯との嵌合部にがたつきが発生することがあった。また、山嵌合タイプのベルトを高負荷で長時間走行すると、張力帯の特に外周面(屈曲により伸張される側の面)の山部の根元部において内部ゴムの亀裂が生じる場合があった。
【0009】
そこで、本発明は、従来よりも高い負荷がかかっても、ブロックと張力帯との嵌合部のがたつきおよび張力帯のゴム亀裂を抑制することができる、動力伝動用ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明の動力伝動用ベルトは、張力帯と、前記張力帯の長手方向に沿って所定ピッチで配列され、且つ、前記張力帯が嵌合される嵌合溝をそれぞれ有する複数のブロックとを備える動力伝動用ベルトであって、前記張力帯の外周面および内周面において、各前記ブロックの前記嵌合溝と対向する領域のベルト長手方向中央部には、ベルト幅方向に延びる1つの嵌合山部が形成されており、前記張力帯の外周面および内周面のうち少なくとも外周面において、各前記ブロックの前記嵌合溝と対向する領域内には、前記嵌合山部のベルト長手方向両側に位置するとともに、ベルト長手方向両側に側面を有し、ベルト幅方向に延びる2つの嵌合谷部が形成されており、前記嵌合溝は、前記嵌合山部および前記嵌合谷部とそれぞれ嵌合する凹部および凸部を有することを特徴とする。
【0011】
この構成によると、従来の山嵌合タイプのベルトと同様に、張力帯の外周面と内周面にそれぞれ形成された2つの嵌合山部と、ブロックの嵌合溝に形成された2つの凹部との嵌合部の位置は、張力帯の屈曲位置(隣り合う嵌合山部の間の位置)からベルト長手方向にずれている。そのため、張力帯の嵌合山部とブロックの凹部との嵌合部の係止状態を安定化でき、ブロックの揺動およびブロックと張力帯との嵌合部のがたつきを抑制できる。
従来の山嵌合タイプのベルトでは、張力帯の外周面と内周面にそれぞれ形成された2つの山部と、ブロックの嵌合溝に形成された2つの凹部との嵌合だけで、張力帯とブロックとは嵌合している。そのため、張力帯の外周面(内周面)の山部のベルト長手方向両側の側面のうち片方の側面だけが、張力帯の外周面(内周面)の1つのブロックに対する動力伝達面となる。
これに対して、本発明の動力伝動ベルトでは、張力帯の外周面に形成された嵌合山部とその両側の嵌合谷部が、ブロックの嵌合溝に形成された凹部とその両側の凸部に嵌合する。そのため、この2つの嵌合谷部のそれぞれのベルト長手方向両側の側面のうち片方の側面が、張力帯の外周面における1つのブロックに対する動力伝達面となる。つまり、張力帯の外周面における1つのブロックに対する動力伝達面は、ベルト長手方向に離れた2箇所に存在する。したがって、ベルト走行時に張力帯に作用する応力を、従来の山嵌合タイプのベルトに比べて分散させることができる。これにより、従来の山嵌合タイプのベルトでは耐久性に問題が生じるような高い負荷がベルトにかかっても、張力帯の嵌合山部の根元部に局所的に大きい歪みが生じるのを防止でき、それにより、張力帯とブロックとの嵌合部のがたつきを抑制できると共に、張力帯の嵌合山部の根元部におけるゴム亀裂を抑制できる。その結果、動力伝動ベルトの動力伝達能力および動力伝達効率を向上できるとともに、高負荷での耐久性を向上できる。
【0012】
本発明の動力伝動用ベルトでは、前記張力帯と各前記ブロックとは、少なくとも前記嵌合山部と前記凹部との嵌合部において、接着剤によって固定されていることが好ましい。
【0013】
この構成によると、張力帯と各ブロックとをより強固に固定でき、張力帯と各ブロックとの嵌合部のがたつきをより確実に抑制できる。
【0014】
本発明の動力伝動用ベルトでは、前記張力帯の内周面は、隣接する2つの前記嵌合山部の間に1つの谷部のみを有し、各前記ブロックの前記嵌合溝と対向する領域内に前記2つの嵌合谷部を有しなくてもよい。
【0015】
この構成によると、嵌合山部と凹部との嵌合だけで、張力帯の内周面とブロックは嵌合している。したがって、張力帯の内周面とブロックとは、ベルト長手方向に関して張力帯の屈曲位置とずれた箇所だけで嵌合する。そのため、張力帯の内周面に、ブロックの部と嵌合する嵌合谷部が形成されている場合に比べて、ベルトの屈曲ロス(屈曲による動力伝達ロス)を小さくできる。したがって、巻き掛け径の大きいプーリだけでなく、巻き掛け径の小さいプーリに使用した場合であっても、動力伝達効率をより向上できる。
【0016】
本発明の動力伝動用ベルトでは、前記張力帯の内周面は、各前記ブロックの前記嵌合溝と対向する領域内に、前記嵌合山部と前記2つの嵌合谷部とを有していてもよい。
【0017】
この構成によると、張力帯の外周面と内周面の両方に、ブロックの凸部とそれぞれ嵌合する嵌合谷部が形成されている。そのため、張力帯の外周面だけでなく、張力帯の内周面においても1つのブロックに対する動力伝達面が、ベルト長手方向に離れた2箇所に存在する。これにより、張力帯の外周面にのみ嵌合谷部を有する場合に比べて、張力帯に作用する応力をより分散させることができ、張力帯とブロックとの嵌合部のがたつきや張力帯の嵌合山部の根元部におけるゴム亀裂をより確実に抑制できる。したがって、張力帯の外周面にのみ嵌合谷部を有する場合に比べて、より高い負荷での耐久性を得ることができる。
また、張力帯の外周面と内周面の両方が嵌合谷部を有するため、張力帯の外周面にのみ嵌合谷部を有する場合に比べて、ブロックと張力帯との嵌合部の接触面積が大きくなる。そのため、動力伝達能力をより向上できる。
また、ベルト長手方向に関して、張力帯の嵌合山部とブロックの凹部との嵌合部は、張力帯の屈曲位置からずれるが、張力帯の嵌合谷部とブロックの山部との嵌合部は、張力帯の屈曲位置と一致する。そのため、張力帯の外周面のみ嵌合谷部を有する場合に比べて、ベルトの屈曲ロスが大きくなる。したがって、巻き掛け径の大きいプーリに使用した場合であれば、高い動力伝達効率を確保できる。
【0018】
本発明の動力伝動用ベルトでは、前記ブロックは、ベルト厚み方向に並んで配置された上ビームと下ビームが、ピラーによって連結された構成であって、前記ピラーのベルト幅方向両側に前記嵌合溝が形成されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る動力伝動用ベルトの部分斜視図である。
図2図1の動力伝動用ベルトをVプーリに巻き掛けた状態の断面図であって、ブロック間で切断した断面図である。
図3図1の動力伝動用ベルトの部分側面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る動力伝動用ベルトの部分側面図である。
図5】比較例1の谷嵌合タイプのベルトの部分側面図である。
図6】比較例2〜5の山嵌合タイプのベルトの部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の動力伝動用ベルト1(以下、単にベルト1と称する)は、平行に並んで配置される2つの無端状の張力帯2と、この2つの張力帯2に対してベルト長手方向に沿って所定ピッチ(L)で取り付けられた複数のブロック3とから構成されている。
【0021】
図2に示すように、ベルト1は、V溝の対向面50aに挟持された状態でVプーリ50に巻き掛けられて使用される。ベルト1は、2つのVプーリ50(駆動プーリと従動プーリ)に巻き掛けられて使用される。ベルト1(詳細にはブロック3)の両側面のなす角度は、Vプーリ50のV溝の角度と同じになっている。以下の説明において、ベルト幅方向、ベルト厚み方向、ベルト長手方向とは、図1図3に示す方向のことである。また、以下の説明において、図1〜3における上下方向を、単に上下方向という場合がある。なお、図1〜3中、ベルト1の上側がベルト1の外周側であって、ベルト1の下側がベルト1の内周側である。
【0022】
図1および図2に示すように、張力帯2は、心線4がスパイラル状に埋設されたゴム層5と、ゴム層5の上下両面を被覆するカバー帆布6とから構成されている。ゴム層5は、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、天然ゴム等の単一材もしくはこれらを適宜ブレンドしたゴム、または、ポリウレタンゴムで形成されている。
【0023】
心線4としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなるロープや、スチールワイヤ等が用いられる。なお、心線4の代わりに、上記の繊維からなる織布や編布、または金属薄板等をゴム層5内に埋設してもよい。
【0024】
カバー帆布6は、ベルト走行時にゴム層5がブロック3との摩擦により摩耗するのを防止するためのものである。カバー帆布6は、平織り、綾織りまたは朱子織り等の織布であって、その繊維材料としては、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等が用いられる。
【0025】
図1および図3に示すように、張力帯2の上面(外周面)2aには、ベルト幅方向に延びる多数の山部21、22が、ベルト長手方向に所定ピッチで並んで形成されている。山部21と山部22は、ベルト長手方向に交互に形成されている。隣り合う山部21と山部22の間には、ベルト幅方向に延びる谷部23が形成されている。山部21と山部22の配列ピッチは、複数のブロック3の配列ピッチ(L)の半分となっている。
【0026】
ベルト幅方向から見て、山部21、22の先端部と谷部23の底は円弧状に形成されている。本実施形態では、山部21と山部22の形状はほぼ同じであるが、山部21と山部22の形状(例えばベルト長手方向の長さ、先端部の曲率等)は異なっていてもよい。但し、山部21と山部2の突出高さは、同じであることが好ましい。例えば、ベルト1の最小厚さが1.5〜3.5mmの場合、山部21、22の突出高さ(谷部23の深さ)は、0.5mm以上であることが好ましい。
【0027】
張力帯2の下面(内周面)2bには、ベルト幅方向に延びる多数の山部24が、ベルト長手方向に所定ピッチで並んで形成されている。隣り合う山部24同士の間には、ベルト幅方向に延びる谷部25が形成されている。複数の山部24の配列ピッチは、複数のブロック3の配列ピッチ(L)と同じである。ベルト幅方向から見て、山部24の先端部は円弧状に形成されており、谷部25の底はほぼ平坦状に形成されている。山部24の突出高さ(谷部25の深さ)の好適範囲は、山部21、22と同様である。
【0028】
図1および図3に示すように、複数のブロック3は、全て同じ形状であって、ベルト長手方向に沿って所定の隙間を空けて配列されている。ブロック3のベルト幅方向の両側には、2つの張力帯2がそれぞれ嵌合される2つの嵌合溝10が形成されている。本実施形態では、嵌合溝10に嵌合された状態の張力帯2の側面は、ブロック3の側面とほぼ面一となっているが、ブロック3の側面よりも若干奥まった位置に設けられてもよい。
【0029】
ブロック3は、ベルト厚み方向に並んだ上ビーム7および下ビーム8と、これら上下ビーム7、8のベルト幅方向の中央部同士を連結するピラー9とから構成されている。ブロック3の上側略半分(上ビーム7とピラー9の一部)のベルト長手方向の両面は、ベルト長手方向にほぼ直交している。また、ブロック3の下側略半分(下ビーム8とピラー9の残りの部分)のベルト長手方向の両面は、下側(内周側)ほど両面の間隔が狭くなるように、ベルト長手方向に直交する方向に対して傾斜している。
【0030】
2つの嵌合溝10は、ピラー9のベルト幅方向両側に形成されている。嵌合溝10は、上ビーム7の下面10a(以下、溝上面10aという)と、下ビーム8の上面10b(以下、溝下面10bという)と、ピラー9の側面とによって形成されている。溝上面10aは、張力帯2の上面(外周面)2aと対向し、溝下面10bは、張力帯2の下面(内周面)2bと対向する。
【0031】
溝上面10aのベルト長手方向中央部には、ベルト幅方向に延びる凹部31が形成されている。また、溝上面10aの凹部31のベルト長手方向両側には、ベルト幅方向に延びる2つの凸部32が形成されている。溝上面10aの凹部31と凸部32は、それぞれ、張力帯2の上面2aの山部21と谷部23に嵌合する。したがって、張力帯2の上面2aにおいて、各ブロック3の嵌合溝10と対向する領域内には、山部21と2つの谷部23が形成されていることになる。張力帯2の上面2aの山部21、22のうち、山部21だけが本発明の嵌合山部に相当し、山部22は本発明の嵌合山部には相当しない。
【0032】
溝下面10bのベルト長手方向中央部には、ベルト幅方向に延びる凹部33が形成されている。溝下面10bの凹部33は、張力帯2の下面2bの山部24に嵌合する。張力帯2の下面2bにおいて、各ブロック3の嵌合溝10と対向する領域内には、山部24が形成されているが、上面2aのように谷部は形成されていない。山部24は本発明の嵌合山部に相当する。
【0033】
このように、各ブロック3と張力帯2は、凹部31と山部21、凸部32と谷部23、および、凹部33と山部24の嵌合によって係止されている。
【0034】
溝上面10aの凹部31の深さ(凸部32の突出高さ)は、張力帯2の外周面2aの山部21の突出高さ(谷部23の深さ)と同じである。また、溝下面10bの凹部33の深さは、張力帯2の内周面2bの山部24の突出高さと同じである。
【0035】
ここで、ブロック3と張力帯2との嵌合部におけるベルト厚み方向の最大長さを嵌合最大長さD1MAXとし、ベルト厚み方向の最小長さを嵌合最小長さD1MINとする。嵌合最大長さD1MAXは、溝上面10aの凹部31の底から溝下面10bの凹部33の底までの長さである。嵌合最小長さD1MINは、溝上面10aの凸部32の先端から溝下面10bまでの長さである。張力帯2とブロック3とが嵌合していない状態において、ブロック3の嵌合溝10の嵌合最大長さD1MAXに対応する長さは、張力帯2の嵌合最大長さD1MAXに対応する長さよりも若干小さい。また、張力帯2とブロック3とが嵌合していない状態において、ブロック3の嵌合溝10の嵌合最小長さD1MINに対応する長さは、張力帯2の嵌合最小長さD1MINに対応する長さよりも若干小さい。したがって、張力帯2は、ベルト厚み方向に若干圧縮された状態で、ブロック3の嵌合溝10に嵌合している。これにより、ブロック3と張力帯2とをより強固に係止できる。
【0036】
また、ブロック3と張力帯2は、少なくとも凹部31と山部21の嵌合部、および、凹部33と山部24との嵌合部において、接着剤によって固定されている。これにより、ブロック3と張力帯2をより強固に固定できる。凹部31と山部21との嵌合部を接着剤で固定するとは、少なくとも、凹部31の底部分(本実施形態では円弧状の部分)と山部21の先端部とを接着剤を介して固定した状態をいう。なお、接着剤によって、上記箇所以外に、凸部32と谷部23の嵌合部を固定してもよく、溝下面10bにおける凹部33のベルト長手方向両側の部分と谷部25の一部とを固定してもよい。また、嵌合溝10の張力帯2と接する全範囲を接着剤で張力帯2に固定してもよい。
【0037】
ブロック3は、樹脂組成物のみで構成されていてもよいが、アルミニウム合金等の金属やセラミック等で形成されたインサート材の表面に樹脂組成物を被覆したもので構成されていてもよい。樹脂組成物としては、合成樹脂に、補強材や摩擦低減材等が配合されたものが用いられる。
【0038】
上記樹脂組成物を構成する合成樹脂としては、液晶樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂、特に、ポリアミド樹脂が好ましい。また、合成樹脂の代わりに、JIS‐A硬度90°以上の硬質ゴム、または硬質ポリウレタンを用いてもよい。
【0039】
上記樹脂組成物に配合される補強材としては、例えば、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などの繊維状補強材や、酸化亜鉛ウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ等のウィスカ状補強材が挙げられる。これらの補強材を配合することによって、ブロック3の曲げ剛性等の強度を高めることができ、ウィスカ状補強材を用いた場合には、プーリとの摩擦によるブロック3の摩耗を抑制することができる。また、ウィスカ状補強材を用いる場合には、張力帯2がブロック3と接触する部分においてウィスカ状補強材によって摩耗するのを防止するために、ブロック3の張力帯2と接触する部分(嵌合溝10周辺部)を構成する樹脂組成物には、ウィスカ状補強材を配合しないことが好ましい。
【0040】
上記樹脂組成物に配合される摩擦低減材としては、例えば、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化エチレンプロピレンエーテル(PFPE)等のフッ素樹脂や、二硫化モリブデン、グラファイト等が挙げられる。このような摩擦低減材を配合することにより、ブロック3とプーリとの摩擦係数が低減されるため、ブロック3の摩耗を抑制することができる。
【0041】
以上説明した本実施形態のベルト1は、以下の特徴を有する。
【0042】
本実施形態のベルト1は、張力帯2の外周面2aと内周面2bのそれぞれベルト長手方向に関して同じ位置に山部(嵌合山部)21、24を有し、この2つ山部21、24は、ブロック3の嵌合溝10に形成された凹部31、33にそれぞれ嵌合する。ベルト1の一部がVプーリ50に巻き掛けられて屈曲する際、張力帯2は、厚みの薄い部分である谷部23の底と谷部25の底の間の部分において屈曲する。したがって、従来の山嵌合タイプのベルトと同様に、張力帯2の山部21、24とブロック3の凹部31、33との嵌合部の位置は、張力帯2の屈曲位置からベルト長手方向にずれている。そのため、張力帯2の山部21、24とブロック3の凹部31、33との嵌合部の係止状態を安定化でき、ブロック3の揺動およびブロック3と張力帯2との嵌合部のがたつきを抑制できる。
【0043】
従来の山嵌合タイプのベルトでは、張力帯の外周面と内周面にそれぞれ形成された2つの山部と、ブロックの嵌合溝に形成された2つの凹部との嵌合のみで、張力帯とブロックとは嵌合している。そのため、張力帯の外周面(内周面)の山部のベルト長手方向両側の側面のうち片方の側面だけが、張力帯の外周面(内周面)の1つのブロックに対する動力伝達面となる。
【0044】
これに対して、本実施形態のベルト1では、張力帯2の外周面2aに形成された山部21とその両側の谷部(嵌合谷部)23が、ブロック3の嵌合溝10に形成された凹部31とその両側の凸部32に嵌合する。そのため、例えば図3中左方向にベルト1が走行する場合には、張力帯2の外周面2aのうち図3中太線で示した領域A1、A2が、駆動プーリ50と係合する際の張力帯2の外周面2aにおける1つのブロック3(図3中左端のブロック3)に対する動力伝達面となる。このように、張力帯2の外周面2aにおける1つのブロック3に対する動力伝達面は、ベルト長手方向に離れた2箇所に存在する。したがって、ベルト走行時に張力帯2に作用する応力を、従来の山嵌合タイプのベルトに比べて分散させることができる。これにより、従来の山嵌合タイプのベルトでは耐久性に問題が生じるような高い負荷がベルト1にかかっても、張力帯2の山部21の根元部に局所的に大きい歪みが生じるのを防止できる。そのため、張力帯2とブロック3との嵌合部のがたつきを抑制できると共に、張力帯2の山部21の根元部におけるゴム亀裂を抑制できる。その結果、ベルト1の動力伝達能力および動力伝達効率を向上できるとともに、高負荷での耐久性を向上できる。
【0045】
なお、図3には、図3中左方向にベルト1が走行する場合に、駆動プーリ50と係合する際の張力帯2の内周面2bにおける1つのブロック3(図3中左端のブロック3)に対する動力伝達面Bを表示している。
【0046】
上述したように、張力帯2に作用する応力を分散させるには、張力帯2の外周面2aの山部21、22の突出高さ(谷部23の深さ)は0.5mm以上とすることが好ましい。突出高さが0.5mmよりも小さいと、張力帯2の外周面2aに動力伝達面をベルト長手方向に分散して確保するのが困難となり、張力帯2に作用する応力を分散させるのが困難になるからである。また、山部21と山部24の突出高さを同じにすることにより、張力帯2に作用する応力をバランスよく分散させることができる。
【0047】
本実施形態では、張力帯2の内周面2bは、隣接する2つの山部(嵌合山部)24の間に1つの谷部25のみを有しており、山部24と凹部33との嵌合だけで、張力帯2の内周面2bとブロック3は嵌合している。したがって、張力帯2の内周面2bとブロック3とは、ベルト長手方向に関して張力帯2の屈曲位置とずれた箇所においてのみ嵌合する。そのため、後述する第2実施形態のように、張力帯102の内周面102bに、ブロック103の山部134と嵌合する谷部(嵌合谷部)127が形成されている場合に比べて、ベルト1の屈曲ロス(屈曲による動力伝達ロス)を小さくできる。したがって、巻き掛け径の大きいVプーリ50だけでなく、巻き掛け径の小さいVプーリ50に使用した場合であっても、動力伝達効率をより向上できる。
【0048】
また、本実施形態では、張力帯2と各ブロック3とは、少なくとも山部21と凹部31との嵌合部、および、山部24と凹部33との嵌合部において、接着剤によって固定されている。そのため、張力帯2と各ブロック3とをより強固に固定でき、張力帯2と各ブロック3との嵌合部のがたつきをより確実に抑制できる。
【0049】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
図4に示すように、本実施形態の動力伝動用ベルト101(以下、単にベルト101と称する)は、張力帯102の下面(内周面)102bの構成とブロック103の嵌合溝110の溝下面110bの構成が、第1実施形態のベルト1と異なっており、その他の構成は、第1実施形態のベルト1と同様である。
【0050】
張力帯102は、心線4が埋設されたゴム層105と、ゴム層105の上下両面を被覆するカバー帆布6とから構成されている。張力帯102の下面(内周面)102bには、ベルト幅方向に延びる多数の山部124、126が、ベルト長手方向に所定ピッチで並んで形成されている。山部126と山部124は、ベルト長手方向に交互に形成されている。隣り合う山部124と山部126の間には、ベルト幅方向に延びる谷部127が形成されている。山部126と山部124の配列ピッチは、複数のブロック103の配列ピッチ(L)の半分となっている。
【0051】
ベルト幅方向から見て、山部124、126の先端部および谷部127の底は円弧状に形成されている。山部126は、山部124よりも若干先細りに形成されている。このように本実施形態では、山部124と山部126の形状は若干異なっているが、同じであってもよく、本実施形態とは異なる形態で互いに異なっていてもよい。山部124と山部126の形状が異なることにより、隣り合う2つの谷部127は、ベルト長手方向に関して対称形となっている。山部124、126の突出高さ(谷部127の深さ)の好適範囲は、第1実施形態の山部21、22、24と同様である。
【0052】
ブロック103は、上ビーム7と、下ビーム108と、これらを連結するピラー9とから構成されており、ピラー9のベルト幅方向両側に2つの嵌合溝110を有する。嵌合溝110の溝下面110bのベルト長手方向中央部には、ベルト幅方向に延びる凹部133が形成されている。また、溝下面110bの凹部133のベルト長手方向両側には、ベルト幅方向に延びる2つの凸部134が形成されている。溝下面110bの凹部133と凸部134は、それぞれ、張力帯102の下面102bの山部124と谷部127に嵌合する。したがって、張力帯102の下面(内周面)102bおいて、各ブロック103の嵌合溝110と対向する領域内には、山部126と2つの谷部127が形成されていることになる。張力帯102の下面102bの山部124、126のうち、山部124だけが本発明の嵌合山部に相当し、山部126は本発明の嵌合山部には相当しない。
【0053】
このように、各ブロック103と張力帯102は、凹部31と山部21、凸部32と谷部23、凹部133と山部124、および凸部134と谷部127の嵌合によって係止されている。
【0054】
溝下面110bの凹部133の深さ(凸部134の突出高さ)は、張力帯102の内周面102bの山部124の突出高さ(谷部127の深さ)と同じである。
【0055】
ブロック103と張力帯102との嵌合部におけるベルト厚み方向の最大長さを嵌合最大長さD2MAXとし、ベルト厚み方向の最小長さを嵌合最小長さD2MINとする。嵌合最大長さD2MAXは、溝上面10aの凹部31の底から溝下面110bの凹部133の底までの長さである。嵌合最小長さD2MINは、溝上面10aの凸部32の先端から溝下面110bの凸部134の先端までの長さである。
【0056】
張力帯102とブロック103とが嵌合していない状態において、ブロック103の嵌合溝110の嵌合最大長さD2MAXに対応する長さは、張力帯102の嵌合最大長さD2MAXに対応する長さよりも若干小さい。また、張力帯102とブロック103とが嵌合していない状態において、ブロック103の嵌合溝110の嵌合最小長さD2MINに対応する長さは、張力帯102の嵌合最小長さD2MINに対応する長さよりも若干小さい。したがって、張力帯102は、ベルト厚み方向に若干圧縮された状態で、ブロック103の嵌合溝110に嵌合している。これにより、ブロック103と張力帯102とをより強固に係止できる。
【0057】
また、図4には表れていないが、張力帯102とブロック103とが嵌合していない状態において、張力帯2の谷部127の底の曲率半径は、ブロック103の凸部134の先端部の曲率半径よりも若干大きい。これにより、ベルト1が屈曲する際に張力帯102の谷部127に作用する応力を緩和させて、張力帯102の内部ゴムの発熱を抑制できる。発熱を抑制することにより、張力帯102に対するブロック103の動きを抑制できるため、張力帯102の摩耗を抑制できる。巻き掛け径の小さいVプーリ50に使用する場合には、張力帯102の屈曲角度が大きくなるため、この構成は特に有効である。なお、張力帯102とブロック103とが嵌合していない状態において、張力帯2の谷部127の底の曲率半径が、ブロック103の凸部134の先端部の曲率半径と同じであってもよい。
【0058】
また、ブロック103と張力帯102は、少なくとも凹部31と山部21の嵌合部、および、凹部133と山部124との嵌合部において、接着剤によって固定されている。これにより、ブロック3と張力帯2をより強固に固定できる。なお、接着剤によって、上記箇所以外に、凸部32と谷部23の嵌合部、および、凸部134と谷部127の嵌合部の少なくとも一方を固定してもよい。
【0059】
以上説明した本実施形態のベルト101は、以下の特徴を有する。
【0060】
第1実施形態のベルト1と同様に、ベルト101は、張力帯102の山部21、124とブロック3の凹部31、133との嵌合部の位置が、張力帯102の屈曲位置からベルト長手方向にずれているため、張力帯102の山部21、124とブロック3の凹部31、133との嵌合部の係止状態を安定化でき、ブロック3の揺動およびブロック3と張力帯2との嵌合部のがたつきを抑制できる。
【0061】
また、第1実施形態のベルト1と同様に、張力帯102の外周面2aにおける1つのブロック3に対する動力伝達面が、ベルト長手方向に離れた2箇所に存在するため、張力帯2に作用する応力を分散させて、張力帯2の山部21の根元部に局所的に大きい歪みが生じるのを防止でき、張力帯2とブロック3との嵌合部のがたつきや張力帯2の山部21の根元部におけるゴム亀裂を抑制できる。
また、本実施形態では、張力帯102の外周面2aと内周面102bに、ブロック103の凸部32、134とそれぞれ嵌合する嵌合谷部23、127が形成されている。そのため、例えば図4中左方向にベルト1が走行する場合には、張力帯102の内周面102bのうち図4中太線で示した領域C1、C2が、駆動プーリ50と係合する際の張力帯102の内周面102bにおける1つのブロック103(図4中左端のブロック103)に対する動力伝達面となる。したがって、張力帯102の外周面2aだけでなく、張力帯102の内周面102bにおいても1つのブロック103に対する動力伝達面が、ベルト長手方向に離れた2箇所に存在する。これにより、第1実施形態のベルト1のように、嵌合山部24と凹部33との嵌合だけで張力帯2の内周面2bとブロック3とが嵌合している場合に比べて、張力帯102に作用する応力をより分散させることができる。したがって、張力帯102とブロック103との嵌合部のがたつきをより確実に抑制できると共に、張力帯102の山部21の根元部におけるゴム亀裂をより確実に抑制できる。そのため、第1実施形態のベルト1に比べて、より高い負荷での耐久性を得ることができる。
【0062】
また、第1実施形態のベルト1に比べて、ブロック103と張力帯102との嵌合部の接触面積が大きくなるため、動力伝達能力をより向上できる。
【0063】
また、本実施形態では、ベルト長手方向に関して、張力帯102の山部21、124とブロック103の凹部31、133との嵌合部は、張力帯102の屈曲位置からずれるが、張力帯102の谷部23、127とブロック103の凸部32、134との嵌合部は、張力帯102の屈曲位置と一致する。そのため、第1実施形態のベルト1に比べて、ベルト101の屈曲ロスが大きくなる。したがって、巻き掛け径の大きいプーリに使用した場合であれば、高い動力伝達効率を確保できる。
【0064】
第1実施形態のベルト1と第2実施形態のベルト101とは、以上のような特徴の差異を有するため、第1実施形態のベルト1は、低負荷から中負荷領域での小径プーリ(巻き掛け径の小さいVプーリ)への使用に適しており、第2実施形態のベルト101は、低負荷から高負荷領域での大径プーリ(巻き掛け径の大きいVプーリ)への使用に適している。第1実施形態のベルト1は大径プーリにも適用可能であるが、第2実施形態のベルト101は、第1実施形態よりも動力伝達効率は劣るものの、第1実施形態より動力伝達能力が高いため、大径プーリには第2実施形態のベルト101を適用することが好ましい。
【0065】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0066】
上記第1および第2実施形態では、張力帯2、102とブロック3、103との嵌合部の少なくとも一部を接着剤で固定しているが、接着剤による固定は無くてもよい。
【0067】
上記第1および第2実施形態では、ベルト幅方向から見て、張力帯2、102の山部21、22、24、124、126の先端部は円弧状に形成されているが、平坦状に形成されていてもよい。また、上記第1および第2実施形態では、ベルト幅方向から見て、張力帯2、102の谷部23、127の底は円弧状に形成されているが、平坦状に形成されていてもよい。
【0068】
上記第1および第2実施形態では、ベルト1、101は、2つの張力帯2、102と複数のブロック3、103で構成されているが、本発明のベルトは、1つの張力帯と複数のブロックで構成されていてもよい。この場合、ブロックの側面もしくは上下面に形成された嵌合溝に、張力帯が嵌合される。また、本発明のベルトは、3つ以上の張力帯と複数のブロックで構成されていてもよい。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の具体的な実施例および比較例について説明する。
【0070】
<実施例1>
実施例1のベルトは、図1図3に示す第1実施形態のベルト1と同様の形態を有する。実施例1のベルトの張力帯(2)のゴム層(5)は、水素化ニトリルゴムで形成した。心線(4)には、アラミド繊維で形成された直径0.7mmの撚りコードを用いた。カバー帆布(6)には、アラミド繊維の緯糸(ベルト長手方向)と、ポリアミド繊維の経糸(ベルト幅方向)で綾織された厚み0.9mmの帆布を使用した。また、ブロック(3)は、ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂組成物に、補強材として炭素繊維が配合された構成とした。
【0071】
ブロックと張力帯との嵌合部は以下の手順により接着した。まず、成形加硫された張力帯を、ポリイソシアネート化合物50重量%とトルエン50重量%からなるイソシアネート系の接着剤で浸漬処理した。その後、張力帯を常温(15〜25℃)で30分間自然乾燥させてから、複数のブロックに組み付けてベルトを形成した後、槽内温度150℃で30分間オーブン乾燥を行った。これにより、ブロックと張力帯との全ての嵌合部を接着剤で接着した。
【0072】
張力帯の外周面および内周面の全ての山部(21、22、24)の突出高さ(谷部(23、25)の深さ)は、0.7mmとした。ブロックの嵌合溝の全ての凹部(31、33)の深さも同じ寸法である。また、ブロック厚(ブロックのベルト長手方向の最大長さ)は3mmとし、心線ピッチライン上のベルト周長は612mmとし、心線ピッチライン上のベルト幅は25mmとした。実施例1のベルトのその他の寸法を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
なお、表1中のブロックの「嵌合溝最小間隔」および「嵌合溝最大間隔」とは、張力帯が取り付けられていない状態のブロックの嵌合溝のベルト厚み方向の最小間隔および最大間隔のことである。また、表1中の張力帯の「最小厚さ」および「最大厚さ」とは、ブロックに取り付けられていない状態の張力帯のブロックと嵌合する範囲(対向する範囲)の最小厚さおよび最大厚さのことである。
【0075】
<実施例2>
実施例2のベルトは、図4に示す第2実施形態のベルト101と同様の形態を有する。ベルトの材質は、実施例1のベルトと同様である。また、実施例1のベルトと同様に、ブロックと張力帯との嵌合部を接着剤により接着した。実施例2の張力帯の山部の突出高さ(谷部の深さ)、ブロック厚、ベルト周長、およびベルト幅は、実施例1のベルトと同様であり、その他の寸法は表1に示す通りである。
【0076】
<比較例1>
比較例1のベルトは、図5に示す谷嵌合タイプのベルト81である。ベルトの材質は、実施例1のベルトと同様である。比較例1のベルトは、ブロック83と張力帯82との嵌合部の接着処理は行っていない。比較例1の張力帯の山部の突出高さ(谷部の深さ)、ブロック厚、ベルト周長、およびベルト幅は、実施例1のベルトと同様であり、その他の寸法は表1に示す通りである。張力帯はベルト厚み方向に若干圧縮された状態でブロックに嵌合している。なお、表1中、比較例1のブロックの「嵌合溝最小間隔」および張力帯の「最小厚さ」とは、図5中のD3MINに対応する長さのことであり、比較例1のブロックの「嵌合溝最大間隔」および張力帯の「最大厚さ」とは、図5中のD3MAXに対応する長さのことである。
【0077】
<比較例2>
比較例2のベルトは、図6に示す山嵌合タイプのベルト91である。ベルトの材質は、実施例1のベルトと同様である。比較例2のベルトは、ブロック93と張力帯92との嵌合部の接着処理は行っていない。比較例2の張力帯の山部の突出高さ(谷部の深さ)、ブロック厚、ベルト周長、およびベルト幅は、実施例1のベルトと同様であり、その他の寸法は表1に示す通りである。張力帯はベルト厚み方向に若干圧縮された状態でブロックに嵌合している。なお、表1中、比較例2のブロックの「嵌合溝最小間隔」および張力帯の「最小厚さ」とは、図6中のD4MINに対応する長さのことであり、比較例2のブロックの「嵌合溝最大間隔」および張力帯の「最大厚さ」とは、図6中のD4MAXに対応する長さのことである。
【0078】
<比較例3、4>
比較例3、4のベルトは、比較例2と同じ構成のベルトであって、ブロックと張力帯との嵌合部を実施例1と同様の手順により接着剤で接着した。
【0079】
<比較例5>
比較例5のベルトは、表1に示すように、ブロック高さが比較例3、4と異なっているが、その他の構成は比較例3、4のベルトと同じである。
【0080】
上述した実施例1、2および比較例1〜5のベルトの耐久性試験を行った。
各ベルトを駆動プーリと従動プーリに巻き掛けて、従動プーリの軸荷重を表1に示す値に設定して、100℃の雰囲気下で駆動プーリを回転させた。なお、静止状態でのベルト張力は、軸荷重の半分の値である。ベルトの負荷を決める駆動プーリの駆動モータの電力値は表1に示す値とし、従動プーリの軸荷重が無負荷の場合に回転数が6000rpmとなる設定で駆動プーリを回転させた。走行中、従動プーリの軸荷重が一定となるように、両プーリの軸間距離は固定されていない。従動プーリの軸荷重は、駆動モータの電力値に基づく負荷に対してベルトがスリップしない程度の値に設定した。なお、駆動プーリおよび従動プーリのV溝の角度は26°であり、ベルト巻き掛け径は表1に示す値とした。
【0081】
250時間ベルトを走行させた後、ブロックと張力帯との嵌合状態の評価、張力帯の損傷(摩耗、亀裂)の有無の確認、ブロックの上ビームの幅(ベルト幅方向長さ)の変化量(摩耗量)の測定を行った。
【0082】
実施例1、2および比較例1〜5のブロックと張力帯との嵌合状態の評価は、以下の通りである。実施例1、2および比較例3では、ブロックのベルト長手方向のがたつきはほとんど無かった(表1中○評価)。比較例2、4、5では、ブロックのがたつきは若干あるが、ブロックを張力帯に対して動かしても、嵌合溝と張力帯との間に隙間が見られなかった(表1中△評価)。比較例1では、ブロックと張力帯との嵌合部に明らかに緩みが生じており、嵌合溝と張力帯との間に隙間が確認された(表1中×評価)。
【0083】
実施例1、2および比較例1〜5の張力帯の損傷状態については、以下の通りである。実施例1、2および比較例3では、張力帯の損傷は無かった。比較例1では、張力帯の内周側のカバー帆布が摩滅していた。比較例2では、張力帯の内周側のカバー帆布が摩耗していた。比較例4では、張力帯の外周面の山部の根元部における小さい亀裂が2箇所確認された。比較例5では、張力帯の外周面の山部の根元部における小さい亀裂が4箇所確認された。
【0084】
また、ブロックの上ビームの幅の変化量(摩耗量)は表1に示す通りである。一般的に、動力伝達に関して機能上許容される範囲は0.20mm以下であり、磨耗なしと認められる最良の範囲は0.05mm以下である。
【0085】
ブロックと張力帯との嵌合状態、張力帯の損傷状態、ブロックの上ビームの幅の摩耗量に基づき、動力伝動用ベルトとして許容できるか否かの判定結果も表1に示した。表1の判定結果中の○は良好であることを示し、△は許容範囲内であることを示し、×は許容できないことを示している。
【0086】
表1の試験結果から明らかなように、ブロックと張力帯との嵌合部を接着した山嵌合タイプのベルトは、駆動モータの電力値が20kWと比較的低い場合には、嵌合部のがたつき等を抑制できるが(比較例3)、駆動モータの電力値が30kWになると、嵌合部のがたつきや張力帯の亀裂が生じてしまう(比較例4、5)。
これに対して、実施例1のベルトは、駆動モータの電力値が30kWでも、嵌合部のがたつきや張力帯の損傷を抑制できる。また、実施例2のベルトは、駆動モータの電力値がさらに高い40kWでも、嵌合部のがたつきや張力帯の損傷を抑制できる。
【符号の説明】
【0087】
1、101 動力伝動用ベルト
2、102 張力帯
2a 張力帯の外周面
2b、102b 張力帯の内周面
3、103 ブロック
7 上ビーム
8、108 下ビーム
9 ピラー
10 嵌合溝
10a 溝上面
10b 溝下面
21、24、124 山部(嵌合山部)
22、126 山部
23、127 谷部(嵌合谷部)
25 谷部
31、33、133 凹部
32、134 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6