【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した各種酸化物粉末は以下の方法により調製した。
【0046】
(調製例1)
硝酸セリウム六水和物347.4g(0.8mol)、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物221g(0.8mol)及び18%過酸化水素水199.5gをイオン交換水900mlに溶解した。この溶液と25%アンモニア水溶液326.4gとを用いて、逆共沈法により水酸化物沈殿を得た。この沈殿物をビーカーに分取し、150℃で7時間加熱して水分を除去した後、大気中、400℃で5時間仮焼してセリア−ジルコニア固溶体(Ce/Zr=1/1(原子比)。以下、「CZ固溶体」という。)を得た。このCZ固溶体を3000kgf/cm
2(294.2MPa)で加圧成形して5cm×5cm×0.5cmの成型体を得た。この成型体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1675℃で5時間還元焼成した。得られた還元焼成物を室温まで冷却した後、ルツボから取り出し、さらに、大気中、500℃で5時間焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有するCZ粉末(パイロクロア型CZ粉末)を得た。
【0047】
(調製例2)
調製例1と同様にしてCZ固溶体(Ce/Zr=1/1(原子比))を得た。このCZ固溶体を、大気中、500℃で5時間焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有しないCZ粉末を得た。
【0048】
(調製例3)
硝酸ランタン346.4g(0.8mol)及びオキシ硝酸ジルコニウム二水和物221g(0.8mol)をイオン交換水900mlに溶解した。この溶液と25%アンモニア水溶液326.4gとを用いて、逆共沈法により水酸化物沈殿を得た。この沈殿物をビーカーに分取し、150℃で7時間加熱して水分を除去した後、大気中、400℃で5時間仮焼してランタナ−ジルコニア固溶体(La/Zr=1/1(原子比)。以下、「LZ固溶体」という。)を得た。このLZ固溶体を、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有しないLZ粉末を得た。
【0049】
(調製例4)
調製例3と同様にしてLZ固溶体(La/Zr=1/1(原子比))を得た。このLZ固溶体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1400℃で25時間還元焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有するLZ粉末(パイロクロア型LZ粉末)を得た。
【0050】
(調製例5)
硝酸セリウム六水和物347.4g(0.8mol)、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物442g(1.6mol)、硝酸ランタン346.4g(0.8mol)及び18%過酸化水素水199.5gをイオン交換水1800mlに溶解した。この溶液と25%アンモニア水溶液652.8gとを用いて、逆共沈法により水酸化物沈殿を得た。この沈殿物をビーカーに分取し、150℃で7時間加熱して水分を除去した後、大気中、400℃で5時間仮焼してセリア−ジルコニア−ランタナ固溶体(Ce/Zr/La=1/2/1(原子比)。以下、「CZL固溶体」という。)を得た。このCZL固溶体を3000kgf/cm
2(294.2MPa)で加圧成形して5cm×5cm×0.5cmの成型体を得た。この成型体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1675℃で5時間還元焼成した。得られた還元焼成物を室温まで冷却した後、ルツボから取り出し、さらに、大気中、500℃で5時間焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有するCZL粉末(パイロクロア型CZL粉末)を得た。
【0051】
(実施例1)
調製例1で得られたパイロクロア型CZ粉末と調製例3で得られたパイロクロア構造を有しないLZ粉末とをCZ/LZ=1/1の質量比で、メッシュ径75μmのふるいを用いた混合操作を3回繰り返して均一に混合し、得られた原料混合物を3000kgf/cm
2(294.2MPa)で加圧成形して5cm×5cm×0.5cmの成型体を得た。この加圧成型体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1600℃で5時間還元焼成した。得られた還元焼成物を室温まで冷却した後、ルツボから取り出し、大気中、500℃で5時間焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、複合酸化物粉末を得た。
【0052】
(実施例2)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=2/1に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0053】
(実施例3)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=4/1に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0054】
(実施例4)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=8/1に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0055】
(実施例5)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=1/2に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0056】
(実施例6)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=1/4に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0057】
(実施例7)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=1/8に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0058】
(比較例1)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=9/1に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0059】
(比較例2)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=1/9に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0060】
(比較例3)
実施例1と同様にして調製した加圧成型体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1675℃で5時間還元焼成した。得られた還元焼成物を室温まで冷却した後、ルツボから取り出し、大気中、500℃で5時間追加焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、複合酸化物粉末を得た。
【0061】
(比較例4)
調製例1で得られたパイロクロア型CZ粉末の代わりに調製例2で得られたパイロクロア構造を有しないCZ粉末を用い、調製例3で得られたパイロクロア構造を有しないLZ粉末の代わりに調製例4で得られたパイロクロア型LZ粉末を用いた以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0062】
(比較例5)
調製例1で得られたパイロクロア型CZ粉末と調製例4で得られたパイロクロア型LZ粉末とを1:1の質量比で、メッシュ径75μmのふるいを用いた混合操作を3回繰り返して均一に混合し、パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア型LZ粉末との混合粉末を得た。
【0063】
(比較例6)
パイロクロア型LZ粉末の代わりに調製例5で得られたパイロクロア型CZL粉末を用いた以外は比較例5と同様にしてパイロクロア型CZ粉末とパイロクロア型CZL粉末との混合粉末を得た。
【0064】
(比較例7)
パイロクロア型CZ粉末の代わりに調製例5で得られたパイロクロア型CZL粉末を用いた以外は比較例5と同様にしてパイロクロア型CZL粉末とパイロクロア型LZ粉末との混合粉末を得た。
【0065】
<耐久試験>
実施例1〜7及び比較例1〜4で得られた複合酸化物粉末、並びに比較例5〜7で得られた混合粉末を、大気中、1100℃で5時間加熱した。
【0066】
<X線回折測定>
耐久試験後の前記複合酸化物粉末及び前記混合粉末のX線回折パターンを、X線回折装置((株)リガク製「RINT−Ultima」)を用い、CuKαをX線源として測定した。例として、実施例1〜2及び比較例3〜4で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)のX線回折パターンを
図1A〜
図1Bに示す。
【0067】
図1Aに示した結果から明らかなように、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末とからなる加圧成型体を1600℃で還元焼成した場合(実施例1〜2)には、セリア−ジルコニア複合酸化物のパイロクロア構造(CZパイロクロア構造(Ce
2Zr
2O
8))に由来する回折ピークとランタナ−ジルコニア複合酸化物のパイロクロア構造(LZパイロクロア構造(La
2Zr
2O
7))に由来する回折ピークに加えて、その中間的な組成を有するセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物のパイロクロア構造(CZLパイロクロア構造)に由来する回折ピークが観測された。
【0068】
また、実施例3〜7で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)についても同様に、CZパイロクロア構造、LZパイロクロア構造及びCZLパイロクロア構造に由来する3本の回折ピークが観測された。
【0069】
一方、
図1Bに示した結果から明らかなように、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末とからなる加圧成型体を1675℃で還元焼成した場合(比較例3)には、CZパイロクロア構造及びLZパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されず、CZLパイロクロア構造に由来する回折ピークのみが観測された。また、パイロクロア構造を有しないCZ粉末とパイロクロア構造を有するLZ粉末とからなる加圧成型体を1600℃で還元焼成した場合(比較例4)には、CZパイロクロア構造に由来する回折ピークとLZパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されたが、CZLパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されなかった。
【0070】
さらに、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末とを1:9又は9:1の質量比で含有する加圧成型体を1600℃で還元焼成して得た複合酸化物粉末(比較例1〜2)、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有するLZ粉末との混合粉末(比較例5)についても同様に、CZパイロクロア構造及びLZパイロクロア構造に由来する2本の回折ピークは観測されたが、CZLパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されなかった。
【0071】
また、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有するCZL粉末との混合粉末(比較例6)については、CZパイロクロア構造及びCZLパイロクロア構造に由来する2本の回折ピークは観測されたが、LZパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されなかった。さらに、パイロクロア構造を有するCZL粉末とパイロクロア構造を有するLZ粉末との混合粉末(比較例7)については、CZLパイロクロア構造及びLZパイロクロア構造に由来する2本の回折ピークは観測されたが、CZパイロクロア構造由来する回折ピークは観測されなかった。
【0072】
以上の結果から、実施例1〜7で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物(パイロクロア型CZ)、パイロクロア型ランタナ−ジルコニア複合酸化物(パイロクロア型LZ)及びパイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物(パイロクロア型CZL)が共存していることが確認された。一方、比較例1〜2、4で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)及び比較例5で得られた混合粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型CZ及びパイロクロア型LZが共存しているものの、パイロクロア型CZLは存在していないことがわかった。また、比較例3で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型CZLのみが存在し、パイロクロア型CZ及びパイロクロア型LZは存在していないことがわかった。さらに、比較例6で得られた混合粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型CZ及びパイロクロア型CZLが共存しているものの、パイロクロア型LZは存在していないことがわかった。また、比較例7で得られた混合粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型CZL及びパイロクロア型LZが共存しているものの、パイロクロア型CZは存在していないことがわかった。
【0073】
<エネルギー分散型X線(EDX)分光分析>
耐久試験後の前記複合酸化物粉末について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なった。例として、実施例1で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)のSEM写真を
図2Aに示す。また、
図2A中の領域A及びBを拡大したものを
図2B及び
図2Cに示す。さらに、
図2B及び
図2C中の粒子1〜5についてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なった。
図3A〜
図3Eには、それぞれ粒子1〜5のEDXスペクトルを示す。
【0074】
図3A〜
図3Eに示した結果から明らかなように、粒子1、4〜5はセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物(CZL)、粒子2はセリア−ジルコニア複合酸化物(CZ)、粒子3はランタナ−ジルコニア複合酸化物(LZ)であることがわかった。
【0075】
以上の結果から、
図2Aの領域Aで示される二次粒子はCZとCZLからなるものであり、領域Bで示される二次粒子はCZLとLZからなるものであることが確認された。
【0076】
<パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物中のセリウム含有量>
先ず、比較例3で得られたパイロクロア型CZL粉末(耐久試験後)の格子定数を
図1Bに示したCZLパイロクロア構造に由来するX線回折ピークに基づいて求め、これを、パイロクロア型CZL中のセリウムとランタンとの合計量に対するセリウムの含有量の原子比〔Ce/(Ce+La)〕に対してプロットした。その結果を
図4Aに示す。なお、原子比〔Ce/(Ce+La)〕はパイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との仕込比から算出した。
【0077】
図4Aに示した結果から明らかなように、パイロクロア型CZLの原子比〔Ce/(Ce+La)〕と格子定数は、La
2Zr
2O
7(PDFカード:01−078−5597)とCe
2Zr
2O
8(PDFカード:01−075−6757)とを両端とするVergard則に従うことがわかった。
【0078】
そこで、実施例1〜2で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)中のパイロクロア型CZLの格子定数を、
図1Aに示したCZLパイロクロア構造に由来するX線回折ピークに基づいて求め、パイロクロア型CZLの原子比〔Ce/(Ce+La)〕と格子定数がLa
2Zr
2O
7(PDFカード:01−078−5597)とCe
2Zr
2O
8(PDFカード:01−075−6757)とを両端とするVergard則に従うとして、実施例1〜2で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)中のパイロクロア型CZLの原子比〔Ce/(Ce+La)〕に対してプロットした。その結果を
図4Bに示す。
【0079】
図4Bに示したように、パイロクロア型CZL中の原子比〔Ce/(Ce+La)〕は、パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア型LZ粉末の仕込比にほぼ対応していることがわかった。
【0080】
<酸素吸蔵能(OSC)測定>
パラジウム担持アルミナ粉末(Pd担持量:25質量%)と耐久試験後の前記複合酸化物粉末又は前記混合粉末とを1:1の質量比で混合した後、得られた混合物を1000kgf/cm
2(98.07MPa)で加圧成形した。この加圧成型体を、乳鉢を用いて粉砕し、粒径0.5〜1mmのペレット触媒を得た。
【0081】
このペレット触媒0.5gを固定床流通装置(ベスト測器(株)製「CATA5000−SP7」)に設置した。このペレット触媒に、CO含有ガス〔CO(2%)/N
2(残り)〕と酸素含有ガス〔O
2(1%)/N
2(残り)〕とを5分毎に切り替えながら、触媒入りガス温度600℃、流量10L/分の条件で交互に流通させ、CO含有ガスに切り替えてから5秒間に発生するCO
2量の平均値から、酸素吸蔵放出速度(OSC−r、単位:μmol/(g・s))を求めた。その結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示した結果から明らかなように、実施例で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)を用いて調製したペレット触媒は、比較例で得られた複合酸化物耐久試験後又は混合粉末耐久試験後を用いて調製したペレット触媒に比べて酸素吸蔵放出速度(OSC−r)に優れていることがわかった。パイロクロア型CZとパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLとが共存することによって、パイロクロア型CZの酸素吸蔵能(OSC)がパイロクロア型CZLによって向上するためと推察される。