特許第6322218号(P6322218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322218
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】酸素吸蔵材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/00 20060101AFI20180423BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20180423BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20180423BHJP
【FI】
   C01G25/00
   B01J23/63 A
   B01D53/94 245
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-60675(P2016-60675)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-171544(P2017-171544A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2017年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】後藤 能宏
(72)【発明者】
【氏名】田辺 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真秀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−114180(JP,A)
【文献】 特開2015−051396(JP,A)
【文献】 特開2003−033663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−47/00
C01G 49/10−99/00
B01J 21/00−38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア−ジルコニア複合酸化物、ランタナ−ジルコニア複合酸化物及びセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物の3種類のパイロクロア型複合酸化物が共存する酸素吸蔵材料であり、
前記パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物とからなる第1の二次粒子、及び
前記パイロクロア型ランタナ−ジルコニア複合酸化物と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物とからなる第2の二次粒子
を含有することを特徴とする酸素吸蔵材料。
【請求項2】
酸素吸蔵材料全体において、前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物中のセリウムとランタンとの合計量に対するセリウムの含有量が原子比〔Ce/(Ce+La)〕で0.50〜0.90であることを特徴とする請求項1に記載の酸素吸蔵材料。
【請求項3】
パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物とランタナ−ジルコニア複合酸化物とを1:8〜8:1の質量比で含有する原料混合物に1200〜1600℃の温度で還元処理を施して、セリア−ジルコニア複合酸化物、ランタナ−ジルコニア複合酸化物及びセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物の3種類のパイロクロア型酸化物が共存し、前記パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物とからなる第1の二次粒子及び前記パイロクロア型ランタナ−ジルコニア複合酸化物と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物とからなる第2の二次粒子を含有する酸素吸蔵材料を得ることを特徴とする酸素吸蔵材料の製造方法。
【請求項4】
前記原料混合物におけるランタナ−ジルコニア複合酸化物がパイロクロア構造を有しないものであることを特徴とする請求項3に記載の酸素吸蔵材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物からなる酸素吸蔵材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な金属酸化物を含有する複合酸化物が排ガス浄化用触媒の担体や助触媒等として利用されてきた。このような複合酸化物中の金属酸化物としては、雰囲気中の酸素分圧に応じて酸素の吸放出が可能である(酸素貯蔵能を有する)ため、セリアが好適に用いられてきた。そして、近年では、セリアを含有する様々な種類の複合材料が研究されている。
【0003】
例えば、特開2005−231951号公報(特許文献1)には、CeとZrを含むパイロクロア構造を有する複合酸化物であって、Ceの40〜90%をCe以外の希土類金属イオン又はアルカリ土類金属イオンで置換した複合酸化物材料が開示されており、この複合酸化物が酸素吸蔵放出能に優れていることも記載されている。しかしながら、この複合酸化物は、1種類のパイロクロア型複合酸化物からなるものであるため、酸素吸蔵放出速度が十分に速いものではなかった。
【0004】
一方、特開2014−114180号公報(特許文献2)には、セリア−ジルコニア複合酸化物のパイロクロア構造を有する結晶粒子と、この粒子表面に存在するランタナ−ジルコニア複合酸化物のパイロクロア構造を有する結晶とを含み、前記ランタナ−ジルコニア複合酸化物の結晶が少なくとも一部において前記セリア−ジルコニア複合酸化物の結晶粒子表面に固溶している複合酸化物材料が開示されており、この複合酸化物材料が高温下における安定性に優れていることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−231951号公報
【特許文献2】特開2014−114180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高温に曝された後においても速い酸素吸蔵放出速度を有する酸素吸蔵材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物とランタナ−ジルコニア複合酸化物とを特定の割合で含有する原料混合物に特定の温度で還元処理を施すことによって、セリア−ジルコニア複合酸化物、ランタナ−ジルコニア複合酸化物及びセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物の3種類のパイロクロア型複合酸化物が共存しており、少なくともセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物を含む2種類の二次粒子を含有する複合酸化物が得られ、この複合酸化物が高温に曝された後においても速い酸素吸蔵放出速度を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の酸素吸蔵材料は、セリア−ジルコニア複合酸化物、ランタナ−ジルコニア複合酸化物及びセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物の3種類のパイロクロア型複合酸化物が共存する酸素吸蔵材料であり、前記パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物とからなる第1の二次粒子、及び、前記パイロクロア型ランタナ−ジルコニア複合酸化物と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物とからなる第2の二次粒子を含有することを特徴とするものである。
【0009】
このような酸素吸蔵材料全体において、前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物中のセリウムとランタンとの合計量に対するセリウムの含有量が原子比〔Ce/(Ce+La)〕で0.50〜0.90であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の酸素吸蔵材料の製造方法は、パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物とランタナ−ジルコニア複合酸化物とを1:8〜8:1の質量比で含有する原料混合物に1200〜1600℃の温度で還元処理を施して、セリア−ジルコニア複合酸化物、ランタナ−ジルコニア複合酸化物及びセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物の3種類のパイロクロア型酸化物が共存し、前記パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物とからなる第1の二次粒子及び前記パイロクロア型ランタナ−ジルコニア複合酸化物と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物とからなる第2の二次粒子を含有する酸素吸蔵材料を得ることを特徴とするものである。
【0011】
このような酸素吸蔵材料の製造方法において、前記原料混合物におけるランタナ−ジルコニア複合酸化物がパイロクロア構造を有しないものであることが好ましい。
【0012】
なお、本発明の酸素吸蔵材料が高温に曝された後においても速い酸素吸蔵放出速度を有する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の酸素吸蔵材料は、セリア−ジルコニア複合酸化物、ランタナ−ジルコニア複合酸化物及びセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物の3種類のパイロクロア型複合酸化物が共存するものである。パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物(CeZr)(以下、「パイロクロア型CZ」と略す。)は、気相中の酸素分圧に応じてκ構造(CeZr)との間で相変化することにより、理論限界に近い高いCeの利用効率を示す。しかしながら、パイロクロア型CZは準安定相であるため、高温に曝されると、超格子格子構造が崩れ、Ce利用効率が低下し、酸素貯蔵放出速度(OSC−r)が遅くなる。一方、パイロクロア型ランタナ−ジルコニア複合酸化物(LaZr)(以下、「パイロクロア型LZ」と略す。)は安定相であるため、パイロクロア型CZに比べて耐熱性に優れている。パイロクロア型CZとパイロクロア型LZが共存する複合酸化物は、結晶系が同じ成分が共存することにより、互いの構造を安定化することができ、複合酸化物としての耐熱性が向上する。また、本発明の酸素吸蔵材料にはパイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物(以下、「パイロクロア型CZL」と略す。)が更に共存している。このパイロクロア型CZLは、パイロクロア型CZに比べて速い酸素貯蔵放出速度(OSC−r)を有するため、本発明の酸素吸蔵材料は、Ceの利用効率を保ったまま、速い酸素吸蔵放出速度(OSC−r)を発現すると推察される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温に曝された後においても速い酸素吸蔵放出速度を有する酸素吸蔵材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】実施例1〜2で得られた複合酸化物粉末のX線回折パターンを示すグラフである。
図1B】比較例3〜4で得られた複合酸化物粉末のX線回折パターンを示すグラフである。
図2A】実施例1で得られた複合酸化物粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
図2B図2A中の領域Aを拡大した走査型電子顕微鏡写真である。
図2C図2A中の領域Bを拡大した走査型電子顕微鏡写真である。
図3A図2B中の粒子1のEDXスペクトルを示すグラフである。
図3B図2B中の粒子2のEDXスペクトルを示すグラフである。
図3C図2C中の粒子3のEDXスペクトルを示すグラフである。
図3D図2C中の粒子4のEDXスペクトルを示すグラフである。
図3E図2C中の粒子5のEDXスペクトルを示すグラフである。
図4A】比較例3で得られた複合酸化物粉末のセリウム含有量と格子定数との関係を示すグラフである。
図4B】実施例1〜2得られた複合酸化物粉末中のパイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物におけるセリウム含有量と格子定数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
先ず、本発明の酸素吸蔵材料について説明する。本発明の酸素吸蔵材料は、セリア−ジルコニア複合酸化物、ランタナ−ジルコニア複合酸化物及びセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物の3種類のパイロクロア型複合酸化物が共存する酸素吸蔵材料であり、前記パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物(パイロクロア型CZ)と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物(パイロクロア型CZL)とからなる第1の二次粒子、及び、前記パイロクロア型ランタナ−ジルコニア複合酸化物(パイロクロア型LZ)と前記パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物(パイロクロア型CZL)とからなる第2の二次粒子を含有するものである。これにより、本発明の酸素吸蔵材料は、高い耐熱性と速い酸素吸蔵放出速度が発現する。このような特性を有する本発明の酸素吸蔵材料を排ガス浄化用触媒の担体や助触媒として使用すると、車両等において頻繁に発生する酸素濃度の急速な変化に対応することができ、エミッションの悪化を抑制することが可能となる。
【0017】
本発明にかかるセリア−ジルコニア複合酸化物は、CeとZrとがパイロクロア型に規則的に配列した結晶構造(パイロクロア構造)を有するもの(パイロクロア型CZ)である。また、本発明にかかるランタナ−ジルコニア複合酸化物は、LaとZrとがパイロクロア型に規則的に配列した結晶構造(パイロクロア構造)を有するもの(パイロクロア型LZ)である。さらに、本発明にかかるセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物は、CeとZrとLaとがパイロクロア型に規則的に配列した結晶構造(パイロクロア構造)を有するもの(パイロクロア型CZL)である。
【0018】
本発明の酸素吸蔵材料において、X線回折パターンのピーク強度比により求められる前記パイロクロア型CZの含有比率としては、パイロクロア型CZとパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLとの合計に対して40〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。パイロクロア型CZの含有比率が前記下限未満になると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐熱性が低下する傾向にある。
【0019】
また、X線回折パターンのピーク強度比により求められる前記パイロクロア型LZの含有比率としては、パイロクロア型CZとパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLとの合計に対して10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。パイロクロア型LZの含有比率が前記下限未満になると、耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にある。
【0020】
さらに、X線回折パターンのピーク強度比により求められる前記パイロクロア型CZLの含有比率としては、パイロクロア型CZとパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLとの合計に対して10〜60質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。パイロクロア型CZLの含有比率が前記範囲から逸脱すると、高温に曝された後の酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にある。
【0021】
なお、本発明において、酸素吸蔵材料のX線回折パターンは、酸素吸蔵材料を、大気中、1100℃で5時間加熱した後、CuKαをX線源として測定したものである。
【0022】
本発明の酸素吸蔵材料全体における前記パイロクロア型CZ中のCeの含有量としては、CeとZrとの合計量に対して原子比〔Ce/(Ce+Zr)〕で0.40〜0.70が好ましく、0.40〜0.60がより好ましい。Ceの含有量が前記下限未満になると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Ceの利用効率が低下する傾向にある。なお、酸素吸蔵材料全体におけるパイロクロア型CZ中のCeの含有量は、酸素吸蔵材料のX線回折パターンにおけるパイロクロア型CZの回折ピークに基づいてパイロクロア型CZの格子定数を求め、パイロクロア型CZの原子比〔Ce/(Ce+Zr)〕と格子定数とがZrOとCeOとを両端とするVergard則に従うとして、X線回折ピークから求めた格子定数から算出する。
【0023】
本発明の酸素吸蔵材料全体における前記パイロクロア型LZ中のLaの含有量としては、LaとZrとの合計量に対して原子比〔La/(La+Zr)〕で0.40〜0.60が好ましく、0.45〜0.55がより好ましい。Laの含有量が前記下限未満になると、耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、パイロクロア構造が形成されにくくなる傾向にある。なお、酸素吸蔵材料全体におけるパイロクロア型LZ中のLaの含有量は、酸素吸蔵材料のX線回折パターンにおけるパイロクロア型LZの回折ピークに基づいてパイロクロア型LZの格子定数を求め、パイロクロア型LZの原子比〔La/(La+Zr)〕と格子定数とがZrOとLaとを両端とするVergard則に従うとして、X線回折ピークから求めた格子定数から算出する。
【0024】
本発明の酸素吸蔵材料全体における前記パイロクロア型CZL中のCeの含有量としては、CeとLaとの合計量に対して原子比〔Ce/(Ce+La)〕で0.30〜0.90が好ましく、0.50〜0.90がより好ましい。Ceの含有量が前記下限未満になると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐熱性が低下する傾向にある。なお、酸素吸蔵材料全体におけるパイロクロア型CZL中のCeの含有量は、酸素吸蔵材料のX線回折パターンにおけるパイロクロア型CZLの回折ピークに基づいてパイロクロア型CZLの格子定数を求め、パイロクロア型CZLにおける原子比〔Ce/(Ce+La)〕と格子定数とがLaZrとCeZrとを両端とするVergard則に従うとして、X線回折ピークから求めた格子定数から算出する。
【0025】
また、本発明の酸素吸蔵材料全体における前記パイロクロア型CZL中のZrの含有量としては、CeとLaによる作用効果が損なわれない限り、特に制限はないが、CeとZrとLaとの合計量に対して原子比〔Zr/(Ce+Zr+La)〕で0.40〜0.80が好ましく、0.45〜0.60がより好ましい。Zrの含有量が前記下限未満になると、構造の耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にある。
【0026】
本発明の酸素吸蔵材料は、前記パイロクロア型CZと前記パイロクロア型CZLとからなる第1の二次粒子、及び、前記パイロクロア型LZと前記パイロクロア型CZLとからなる第2の二次粒子を含有するものである。
【0027】
このような本発明の酸素吸蔵材料において、前記第1の二次粒子の含有量としては、酸素吸蔵材料全体に対して40〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。第1の二次粒子の含有量が前記下限未満になると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐熱性が低下する傾向にある。
【0028】
また、前記第2の二次粒子の含有量としては、酸素吸蔵材料全体に対して10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。第2の二次粒子の含有量が前記下限未満になると、耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にある。
【0029】
なお、前記第1の二次粒子及び前記第2の二次粒子の含有量は以下の方法により測定されるものである。すなわち、酸素吸蔵材料に含まれるパイロクロア型CZと同じ原子比(Ce/Zr)のパイロクロア型CZ粉末と、酸素吸蔵材料に含まれるパイロクロア型LZと同じ原子比(La/Zr)のパイロクロア型LZ粉末とをそれぞれ調製し、これらを混合比を変化させて粉末混合する。得られた混合物のX線回折パターンをそれぞれ測定(X線源:CuKα)し、得られたX線回折パターンにおける2θ=29°付近の2本の回折線の強度比を求める。この回折線強度比を前記パイロクロア型CZ粉末と前記パイロクロア型LZ粉末との混合比に対してプロットし、前記混合比と前記回折線強度比に関する検量線を作成する。次に、酸素吸蔵材料のX線回折パターンにおける2θ=29°付近の2本の回折線の強度比を求め、前記検量線に基づいて、酸素吸蔵材料中のパイロクロア型CZとパイロクロア型LZの含有比率を求める。本発明において、パイロクロア型CZLは、第1の二次粒子と第2の二次粒子にほぼ均等に分配されるため、前記パイロクロア型CZとパイロクロア型LZの含有比率が酸素吸蔵材料中の第1の二次粒子と第2の二次粒子の含有量となる。
【0030】
このような第1の二次粒子において、前記パイロクロア型CZの含有量としては、50〜90mol%が好ましく、70〜90mol%がより好ましい。パイロクロア型CZの含有量が前記下限未満になると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐熱性が低下する傾向にある。
【0031】
また、前記第2の二次粒子において、前記パイロクロア型LZの含有量としては、20〜80mol%が好ましく、30〜60mol%がより好ましい。パイロクロア型LZの含有量が前記下限未満になると、耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にある。
【0032】
なお、前記第1の二次粒子中のパイロクロア型CZの含有量及び前記第2の二次粒子中のパイロクロア型LZの含有量は以下の方法により測定されるものである。すなわち、酸素吸蔵材料のX線回折パターンからパイロクロア型CZLの格子定数を求め、この格子定数からVergard則に基づいてパイロクロア型CZLの原子比を決定する。このようにして決定した原子比と同じ原子比のパイロクロア型CZL粉末と、酸素吸蔵材料に含まれるパイロクロア型CZと同じ原子比(Ce/Zr)のパイロクロア型CZ粉末とをそれぞれ調製し、これらを混合比を変化させて粉末混合する。得られた混合物のX線回折パターンをそれぞれ測定(X線源:CuKα)し、得られたX線回折パターンにおける2θ=29°付近の2本の回折線の強度比を求める。この回折線強度比を前記パイロクロア型CZ粉末と前記パイロクロア型CZL粉末との混合比に対してプロットし、前記混合比と前記回折線強度比に関する検量線を作成する。次に、酸素吸蔵材料のX線回折パターンにおける2θ=29°付近の2本の回折線の強度比を求め、前記検量線に基づいて、酸素吸蔵材料中のパイロクロア型CZとパイロクロア型CZLの含有比率を求める。本発明において、パイロクロア型CZLは、第1の二次粒子と第2の二次粒子にほぼ均等に分配されるため、前記パイロクロア型CZとパイロクロア型CZLの含有比率から、第1の二次粒子中のパイロクロア型CZの含有量が求められる。また、第2の二次粒子中のパイロクロア型LZの含有量についても同様に、酸素吸蔵材料中のパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLの含有比率から求められる。
【0033】
本発明の酸素吸蔵材料において、前記第1の二次粒子の平均粒子径としては、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。第1の二次粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にある。
【0034】
また、前記第2の二次粒子の平均粒子径としては、0.1〜3μmが好ましく、0.2〜2μmがより好ましい。第2の二次粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にある。
【0035】
なお、これらの二次粒子の平均粒子径は以下の方法により測定されるものである。すなわち、先ず、酸素吸蔵材料について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行い、得られたSEM画像とEDX元素マッピングを対応させながら、パイロクロア型CZとパイロクロア型CZLとからなる第1の二次粒子及びパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLとからなる第2の二次粒子をそれぞれ複数個(好ましくは50個以上)無作為に抽出する。抽出した各二次粒子において最大径と最小径を測定し、これらの算術平均値を求め、これをその二次粒子の直径とする。この測定を、第1の二次粒子及び第2の二次粒子についてそれぞれ複数個行い、その算術平均値をそれぞれ第1の二次粒子の平均粒子径及び第2の二次粒子平均粒子径とする。
【0036】
次に、本発明の酸素吸蔵材料の製造方法について説明する。本発明の酸素吸蔵材料の製造方法は、パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物(パイロクロア型CZ)とランタナ−ジルコニア複合酸化物とを1:8〜8:1の質量比で含有する原料混合物に1200〜1600℃の温度で還元処理を施して、セリア−ジルコニア複合酸化物、ランタナ−ジルコニア複合酸化物及びセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物の3種類のパイロクロア型酸化物が共存する酸素吸蔵材料を得る方法である。
【0037】
本発明の酸素吸蔵材料の製造方法においては、先ず、原料であるパイロクロア型CZとランタナ−ジルコニア複合酸化物とを1:8〜8:1の質量比で混合する。パイロクロア型CZとランタナ−ジルコニア複合酸化物との質量比が前記範囲から逸脱すると、パイロクロア型CZLが形成されず、得られる酸素吸蔵材料は、高温に曝された後の酸素吸蔵放出速度が遅くなる。また、高温に曝された後の酸素吸蔵放出速度がより速い酸素吸蔵材料が得られるという観点から、パイロクロア型CZとランタナ−ジルコニア複合酸化物との質量比は1:8〜5:1が好ましく、1:8〜3:1がより好ましく、1:1〜2:1が特に好ましい。
【0038】
本発明の酸素吸蔵材料の製造方法に原料として用いられるパイロクロア型CZとしては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。このようなパイロクロア型CZにおいて、Ceの含有量としては特に制限はないが、CeとZrとの合計量に対して原子比〔Ce/(Ce+Zr)〕で0.40〜0.90が好ましく、0.50〜0.80がより好ましい。Ceの含有量が前記下限未満になると、得られる酸素吸蔵材料の酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、構造の耐熱性が低下する傾向にある。このようなパイロクロア型CZは、例えば、セリウムの塩(例えば、硝酸塩)とジルコニウムの塩(例えば、硝酸塩)とを含有する水溶液を用い、アンモニアの存在下で共沈殿物を生成させ、得られた共沈殿物を焼成することによってセリア−ジルコニア固溶体を調製し、このセリア−ジルコニア固溶体を40〜350MPaの条件で加圧成形し、得られた加圧成型体に還元雰囲気下、1450〜2000℃で加熱処理を施すことによって得ることができる。
【0039】
また、本発明の酸素吸蔵材料の製造方法に原料として用いられるランタナ−ジルコニア複合酸化物としては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。このようなランタナ−ジルコニア複合酸化物において、Laの含有量としては特に制限はないが、LaとZrとの合計量に対して原子比〔La/(La+Zr)〕で0.40〜0.60が好ましく、0.45〜0.55がより好ましい。Laの含有量が前記下限未満になると、得られる酸素吸蔵材料の耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、パイロクロア構造が形成されにくくなる傾向にある。このようなランタナ−ジルコニア複合酸化物としては、例えば、ランタンの塩(例えば、硝酸塩)とジルコニウムの塩(例えば、硝酸塩)とを含有する水溶液を用い、アンモニアの存在下で共沈殿物を生成させ、得られた共沈殿物を焼成することによって得られるランタナ−ジルコニア固溶体が挙げられる。また、本発明の酸素吸蔵材料の製造方法においては、このランタナ−ジルコニア固溶体を40〜350MPaの条件で加圧成形し、得られた加圧成型体に還元雰囲気下、1450〜2000℃で加熱処理を施すことによって得られるパイロクロア型LZを、前記ランタナ−ジルコニア複合酸化物として用いてもよいが、合成工程を簡略化するためには、前記ランタナ−ジルコニア複合酸化物としてはパイロクロア構造を有しないもの(例えば、前記ランタナ−ジルコニア固溶体)が好ましい。
【0040】
次に、前記パイロクロア型CZと前記ランタナ−ジルコニア複合酸化物とを前記質量比で含有する原料混合物に1200〜1600℃の温度で還元処理を施す。還元温度が前記下限未満になると、パイロクロア型CZLが十分に形成されず、得られる酸素吸蔵材料は、高温に曝された後の酸素吸蔵放出速度が遅くなる。他方、還元温度が前記上限を超えると、パイロクロア型CZとパイロクロア型LZとが反応してパイロクロアCZLのみが存在することとなり、高温に曝された後の酸素吸蔵放出速度が遅くなる。また、高温に曝された後の酸素吸蔵放出速度がより速い酸素吸蔵材料が得られるという観点から、還元温度としては1300〜1600℃が好ましく、1400〜1600℃がより好ましい。還元時間としては1〜25時間が好ましく、2〜5時間がより好ましい。還元時間が前記下限未満になると、パイロクロア型CZLが十分に形成されず、得られる酸素吸蔵材料は、高温に曝された後の酸素吸蔵放出速度が遅くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、パイロクロア型CZLの形成が飽和する傾向にある。
【0041】
還元処理の方法としては、還元雰囲気下で前記原料混合物を所定の温度で加熱処理することが可能な方法であれば特に制限はなく、例えば、(i)真空加熱炉内に前記原料混合物を設置し、真空引きした後に、炉内に還元性ガスを流入させて炉内の雰囲気を還元雰囲気として所定の温度で加熱して還元処理を施す方法、(ii)黒鉛製の炉を用いて炉内に前記原料混合物を設置し、真空引きした後に、所定の温度で加熱して炉体や加熱燃料等から発生するCOやHC等の還元性ガスにより炉内の雰囲気を還元雰囲気として還元処理を施す方法、(iii)活性炭を充填したルツボ内に前記原料混合物を設置し、所定の温度で加熱して活性炭等から発生するCOやHC等の還元性ガスによりルツボ内の雰囲気を還元雰囲気として還元処理を施す方法等が挙げられる。これらの還元処理方法の中でも、簡便で特殊な反応炉を必要としないという観点から、前記(iii)の方法が好ましい。
【0042】
また、このような還元雰囲気を達成するために用いられる還元性ガスとしては特に制限はなく、CO、HC、H、その他の炭化水素ガス等が挙げられる。このような還元性ガスの中でも、後処理が容易であるという観点から、CO、Hが好ましい。
【0043】
本発明の酸素吸蔵材料の製造方法においては、このようにして得られる還元生成物に酸化処理を施すことが好ましい。これにより、得られる酸素吸蔵材料において、還元処理中に失われた酸素が補填され、酸素吸蔵材料としての安定性が向上する。このような酸化処理の方法としては特に制限はなく、例えば、酸化雰囲気下(例えば、大気中)で前記還元生成物を加熱する方法が挙げられる。また、このような酸化処理における加熱温度としては特に制限はないが、300〜800℃が好ましい。また、加熱時間も特に制限はないが、0.5〜5時間が好ましい。
【0044】
このようにして得られる酸素吸蔵材料は、パイロクロア型CZとパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLとが共存するものであり、好ましくは、パイロクロア型CZとパイロクロア型CZLとからなる第1の二次粒子及びパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLとからなる第2の二次粒子を含有するものである。このような酸素吸蔵材料は、高温に曝された後においても速い酸素吸蔵放出速度を有するものである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した各種酸化物粉末は以下の方法により調製した。
【0046】
(調製例1)
硝酸セリウム六水和物347.4g(0.8mol)、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物221g(0.8mol)及び18%過酸化水素水199.5gをイオン交換水900mlに溶解した。この溶液と25%アンモニア水溶液326.4gとを用いて、逆共沈法により水酸化物沈殿を得た。この沈殿物をビーカーに分取し、150℃で7時間加熱して水分を除去した後、大気中、400℃で5時間仮焼してセリア−ジルコニア固溶体(Ce/Zr=1/1(原子比)。以下、「CZ固溶体」という。)を得た。このCZ固溶体を3000kgf/cm(294.2MPa)で加圧成形して5cm×5cm×0.5cmの成型体を得た。この成型体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1675℃で5時間還元焼成した。得られた還元焼成物を室温まで冷却した後、ルツボから取り出し、さらに、大気中、500℃で5時間焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有するCZ粉末(パイロクロア型CZ粉末)を得た。
【0047】
(調製例2)
調製例1と同様にしてCZ固溶体(Ce/Zr=1/1(原子比))を得た。このCZ固溶体を、大気中、500℃で5時間焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有しないCZ粉末を得た。
【0048】
(調製例3)
硝酸ランタン346.4g(0.8mol)及びオキシ硝酸ジルコニウム二水和物221g(0.8mol)をイオン交換水900mlに溶解した。この溶液と25%アンモニア水溶液326.4gとを用いて、逆共沈法により水酸化物沈殿を得た。この沈殿物をビーカーに分取し、150℃で7時間加熱して水分を除去した後、大気中、400℃で5時間仮焼してランタナ−ジルコニア固溶体(La/Zr=1/1(原子比)。以下、「LZ固溶体」という。)を得た。このLZ固溶体を、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有しないLZ粉末を得た。
【0049】
(調製例4)
調製例3と同様にしてLZ固溶体(La/Zr=1/1(原子比))を得た。このLZ固溶体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1400℃で25時間還元焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有するLZ粉末(パイロクロア型LZ粉末)を得た。
【0050】
(調製例5)
硝酸セリウム六水和物347.4g(0.8mol)、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物442g(1.6mol)、硝酸ランタン346.4g(0.8mol)及び18%過酸化水素水199.5gをイオン交換水1800mlに溶解した。この溶液と25%アンモニア水溶液652.8gとを用いて、逆共沈法により水酸化物沈殿を得た。この沈殿物をビーカーに分取し、150℃で7時間加熱して水分を除去した後、大気中、400℃で5時間仮焼してセリア−ジルコニア−ランタナ固溶体(Ce/Zr/La=1/2/1(原子比)。以下、「CZL固溶体」という。)を得た。このCZL固溶体を3000kgf/cm(294.2MPa)で加圧成形して5cm×5cm×0.5cmの成型体を得た。この成型体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1675℃で5時間還元焼成した。得られた還元焼成物を室温まで冷却した後、ルツボから取り出し、さらに、大気中、500℃で5時間焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、パイロクロア構造を有するCZL粉末(パイロクロア型CZL粉末)を得た。
【0051】
(実施例1)
調製例1で得られたパイロクロア型CZ粉末と調製例3で得られたパイロクロア構造を有しないLZ粉末とをCZ/LZ=1/1の質量比で、メッシュ径75μmのふるいを用いた混合操作を3回繰り返して均一に混合し、得られた原料混合物を3000kgf/cm(294.2MPa)で加圧成形して5cm×5cm×0.5cmの成型体を得た。この加圧成型体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1600℃で5時間還元焼成した。得られた還元焼成物を室温まで冷却した後、ルツボから取り出し、大気中、500℃で5時間焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、複合酸化物粉末を得た。
【0052】
(実施例2)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=2/1に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0053】
(実施例3)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=4/1に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0054】
(実施例4)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=8/1に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0055】
(実施例5)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=1/2に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0056】
(実施例6)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=1/4に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0057】
(実施例7)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=1/8に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0058】
(比較例1)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=9/1に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0059】
(比較例2)
パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との質量比をCZ/LZ=1/9に変更した以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0060】
(比較例3)
実施例1と同様にして調製した加圧成型体を、活性炭を充填したルツボに入れ、大気中、1675℃で5時間還元焼成した。得られた還元焼成物を室温まで冷却した後、ルツボから取り出し、大気中、500℃で5時間追加焼成した後、粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて粒径が75μm以下となるように粉砕し、複合酸化物粉末を得た。
【0061】
(比較例4)
調製例1で得られたパイロクロア型CZ粉末の代わりに調製例2で得られたパイロクロア構造を有しないCZ粉末を用い、調製例3で得られたパイロクロア構造を有しないLZ粉末の代わりに調製例4で得られたパイロクロア型LZ粉末を用いた以外は実施例1と同様にして複合酸化物粉末を得た。
【0062】
(比較例5)
調製例1で得られたパイロクロア型CZ粉末と調製例4で得られたパイロクロア型LZ粉末とを1:1の質量比で、メッシュ径75μmのふるいを用いた混合操作を3回繰り返して均一に混合し、パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア型LZ粉末との混合粉末を得た。
【0063】
(比較例6)
パイロクロア型LZ粉末の代わりに調製例5で得られたパイロクロア型CZL粉末を用いた以外は比較例5と同様にしてパイロクロア型CZ粉末とパイロクロア型CZL粉末との混合粉末を得た。
【0064】
(比較例7)
パイロクロア型CZ粉末の代わりに調製例5で得られたパイロクロア型CZL粉末を用いた以外は比較例5と同様にしてパイロクロア型CZL粉末とパイロクロア型LZ粉末との混合粉末を得た。
【0065】
<耐久試験>
実施例1〜7及び比較例1〜4で得られた複合酸化物粉末、並びに比較例5〜7で得られた混合粉末を、大気中、1100℃で5時間加熱した。
【0066】
<X線回折測定>
耐久試験後の前記複合酸化物粉末及び前記混合粉末のX線回折パターンを、X線回折装置((株)リガク製「RINT−Ultima」)を用い、CuKαをX線源として測定した。例として、実施例1〜2及び比較例3〜4で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)のX線回折パターンを図1A図1Bに示す。
【0067】
図1Aに示した結果から明らかなように、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末とからなる加圧成型体を1600℃で還元焼成した場合(実施例1〜2)には、セリア−ジルコニア複合酸化物のパイロクロア構造(CZパイロクロア構造(CeZr))に由来する回折ピークとランタナ−ジルコニア複合酸化物のパイロクロア構造(LZパイロクロア構造(LaZr))に由来する回折ピークに加えて、その中間的な組成を有するセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物のパイロクロア構造(CZLパイロクロア構造)に由来する回折ピークが観測された。
【0068】
また、実施例3〜7で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)についても同様に、CZパイロクロア構造、LZパイロクロア構造及びCZLパイロクロア構造に由来する3本の回折ピークが観測された。
【0069】
一方、図1Bに示した結果から明らかなように、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末とからなる加圧成型体を1675℃で還元焼成した場合(比較例3)には、CZパイロクロア構造及びLZパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されず、CZLパイロクロア構造に由来する回折ピークのみが観測された。また、パイロクロア構造を有しないCZ粉末とパイロクロア構造を有するLZ粉末とからなる加圧成型体を1600℃で還元焼成した場合(比較例4)には、CZパイロクロア構造に由来する回折ピークとLZパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されたが、CZLパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されなかった。
【0070】
さらに、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末とを1:9又は9:1の質量比で含有する加圧成型体を1600℃で還元焼成して得た複合酸化物粉末(比較例1〜2)、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有するLZ粉末との混合粉末(比較例5)についても同様に、CZパイロクロア構造及びLZパイロクロア構造に由来する2本の回折ピークは観測されたが、CZLパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されなかった。
【0071】
また、パイロクロア構造を有するCZ粉末とパイロクロア構造を有するCZL粉末との混合粉末(比較例6)については、CZパイロクロア構造及びCZLパイロクロア構造に由来する2本の回折ピークは観測されたが、LZパイロクロア構造に由来する回折ピークは観測されなかった。さらに、パイロクロア構造を有するCZL粉末とパイロクロア構造を有するLZ粉末との混合粉末(比較例7)については、CZLパイロクロア構造及びLZパイロクロア構造に由来する2本の回折ピークは観測されたが、CZパイロクロア構造由来する回折ピークは観測されなかった。
【0072】
以上の結果から、実施例1〜7で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型セリア−ジルコニア複合酸化物(パイロクロア型CZ)、パイロクロア型ランタナ−ジルコニア複合酸化物(パイロクロア型LZ)及びパイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物(パイロクロア型CZL)が共存していることが確認された。一方、比較例1〜2、4で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)及び比較例5で得られた混合粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型CZ及びパイロクロア型LZが共存しているものの、パイロクロア型CZLは存在していないことがわかった。また、比較例3で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型CZLのみが存在し、パイロクロア型CZ及びパイロクロア型LZは存在していないことがわかった。さらに、比較例6で得られた混合粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型CZ及びパイロクロア型CZLが共存しているものの、パイロクロア型LZは存在していないことがわかった。また、比較例7で得られた混合粉末(耐久試験後)には、パイロクロア型CZL及びパイロクロア型LZが共存しているものの、パイロクロア型CZは存在していないことがわかった。
【0073】
<エネルギー分散型X線(EDX)分光分析>
耐久試験後の前記複合酸化物粉末について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なった。例として、実施例1で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)のSEM写真を図2Aに示す。また、図2A中の領域A及びBを拡大したものを図2B及び図2Cに示す。さらに、図2B及び図2C中の粒子1〜5についてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なった。図3A図3Eには、それぞれ粒子1〜5のEDXスペクトルを示す。
【0074】
図3A図3Eに示した結果から明らかなように、粒子1、4〜5はセリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物(CZL)、粒子2はセリア−ジルコニア複合酸化物(CZ)、粒子3はランタナ−ジルコニア複合酸化物(LZ)であることがわかった。
【0075】
以上の結果から、図2Aの領域Aで示される二次粒子はCZとCZLからなるものであり、領域Bで示される二次粒子はCZLとLZからなるものであることが確認された。
【0076】
<パイロクロア型セリア−ジルコニア−ランタナ複合酸化物中のセリウム含有量>
先ず、比較例3で得られたパイロクロア型CZL粉末(耐久試験後)の格子定数を図1Bに示したCZLパイロクロア構造に由来するX線回折ピークに基づいて求め、これを、パイロクロア型CZL中のセリウムとランタンとの合計量に対するセリウムの含有量の原子比〔Ce/(Ce+La)〕に対してプロットした。その結果を図4Aに示す。なお、原子比〔Ce/(Ce+La)〕はパイロクロア型CZ粉末とパイロクロア構造を有しないLZ粉末との仕込比から算出した。
【0077】
図4Aに示した結果から明らかなように、パイロクロア型CZLの原子比〔Ce/(Ce+La)〕と格子定数は、LaZr(PDFカード:01−078−5597)とCeZr(PDFカード:01−075−6757)とを両端とするVergard則に従うことがわかった。
【0078】
そこで、実施例1〜2で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)中のパイロクロア型CZLの格子定数を、図1Aに示したCZLパイロクロア構造に由来するX線回折ピークに基づいて求め、パイロクロア型CZLの原子比〔Ce/(Ce+La)〕と格子定数がLaZr(PDFカード:01−078−5597)とCeZr(PDFカード:01−075−6757)とを両端とするVergard則に従うとして、実施例1〜2で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)中のパイロクロア型CZLの原子比〔Ce/(Ce+La)〕に対してプロットした。その結果を図4Bに示す。
【0079】
図4Bに示したように、パイロクロア型CZL中の原子比〔Ce/(Ce+La)〕は、パイロクロア型CZ粉末とパイロクロア型LZ粉末の仕込比にほぼ対応していることがわかった。
【0080】
<酸素吸蔵能(OSC)測定>
パラジウム担持アルミナ粉末(Pd担持量:25質量%)と耐久試験後の前記複合酸化物粉末又は前記混合粉末とを1:1の質量比で混合した後、得られた混合物を1000kgf/cm(98.07MPa)で加圧成形した。この加圧成型体を、乳鉢を用いて粉砕し、粒径0.5〜1mmのペレット触媒を得た。
【0081】
このペレット触媒0.5gを固定床流通装置(ベスト測器(株)製「CATA5000−SP7」)に設置した。このペレット触媒に、CO含有ガス〔CO(2%)/N(残り)〕と酸素含有ガス〔O(1%)/N(残り)〕とを5分毎に切り替えながら、触媒入りガス温度600℃、流量10L/分の条件で交互に流通させ、CO含有ガスに切り替えてから5秒間に発生するCO量の平均値から、酸素吸蔵放出速度(OSC−r、単位:μmol/(g・s))を求めた。その結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示した結果から明らかなように、実施例で得られた複合酸化物粉末(耐久試験後)を用いて調製したペレット触媒は、比較例で得られた複合酸化物耐久試験後又は混合粉末耐久試験後を用いて調製したペレット触媒に比べて酸素吸蔵放出速度(OSC−r)に優れていることがわかった。パイロクロア型CZとパイロクロア型LZとパイロクロア型CZLとが共存することによって、パイロクロア型CZの酸素吸蔵能(OSC)がパイロクロア型CZLによって向上するためと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明によれば、高温に曝された後においても速い酸素吸蔵放出速度を有する酸素吸蔵材料を得ることが可能となる。
【0085】
したがって、本発明の酸素吸蔵材料は、高温に曝された後においても十分に速い酸素吸蔵放出速度を発現することができるため、排ガス浄化用触媒の担体や助触媒、触媒雰囲気調整材等として有用である。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B