【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 無触媒石炭乾留ガス改質技術開発共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粉砕した石炭を乾留してコークスを製造する複数の炉室と、前記炉室をそれぞれ挟んで設けられ前記石炭を加熱する複数の燃焼室と、前記複数の炉室から排出されるガスを改質する改質炉とを備え、
前記複数の炉室は、それぞれ設定数の炉室からなる複数の炉室群に分割され、
前記改質炉は、前記炉室群ごと又は設定数の前記炉室群ごとに対応させて設けられ、
前記複数の炉室は、各炉室単位で装炭操作と前記石炭の乾留操作とコークス押出操作を順次行う操業サイクルが設定され、
前記操業サイクルは、前記石炭の乾留が終了した前記炉室に対してコークス押出操作を行い、該コークス押出操作された前記炉室は次の前記操業サイクルにおいて装炭操作を行い、前記装炭操作と前記コークス押出操作に係る前記炉室を除く全ての前記炉室に対して前記乾留操作を行うように設定され、
前記操業サイクルは、前記炉室群ごとに時間軸をずらして設定され、かつ前記コークス押出操作と前記装炭操作は互いに異なる前記炉室群に属する前記炉室に対して、同じ操業時間内に設定されていることを特徴とするコークス炉。
前記操業サイクルは、前記炉室群を構成する各炉室で発生する前記コークス炉ガスの時間変動を時間軸上でずらして順次設定されていることを特徴とする請求項1に記載のコークス炉。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コークス炉は炉室と燃焼室を横方向に20組以上積層配置した構成であり、1つの炉室(炭化室)で製造されたコークスを押出した後に新しい石炭を装入する操業が繰り返されることにより、連続してコークスが製造される。コークスを製造する過程で発生する石炭乾留ガスを無触媒で改質する改質装置は、連続する操業サイクルを考慮して、石炭乾留ガスを効率的かつ経済的に改質する必要がある。
【0007】
図10は、従来のコークス炉の構造を示した図である。
図10に示すように、従来のコークス炉は、石炭を装入してコークスに乾留する炉室(炭化室)26と、約1000℃のバーナ24の燃焼排ガスにより炉室26を加熱する燃焼室25が横方向に交互に20組以上(例えば、60組)積層配置されている。炉室26と燃焼室25は珪石レンガの壁により仕切られている。
【0008】
図11は、従来のコークス炉の全体を示した鳥瞰図である。
図11に示すようにコークス製造はコークス炉4の屋上に設けられた挿入蓋28を開けて粉砕した石炭を炉室(炭化室)26に投入した後に挿入蓋28を閉じて、隣接する燃焼室26からの珪石煉瓦の壁を通じての間接熱により加熱し、およそ17〜27時間乾留して製造する。炉室26内で乾留の完了したコークスは、コークス炉4のそれぞれの炉室の側面に設けられた炉蓋27を開けて、押出されて回収される。コークスを押出た後には炉蓋27閉めて、再びコークス炉4の屋上の挿入蓋28を開けて粉砕した石炭を投入し、再度挿入蓋28を閉じて、新しいコークスを乾留する工程を繰り返し行っている。コークス製造中に炉室26内に発生する高温のコークス炉ガスはコークス炉4の屋上に各炉室26それぞれに設置した上昇管29でアンモニア含有水によりクエンチ冷却して回収する。
【0009】
ここで、全炉室からの高温石炭乾留ガスを全量改質する改質装置を設置する場合、例えば60室の炉室規模を改質処理する改質装置の概略寸法は内径φ10m及び長さ8mとなり、改質装置の内部温度は1300℃〜1400℃となるため、内面耐火断熱材を内張りしなければならず、概略重量は300トンを超える試算となる。改質装置は、炉室の室数が増加するほど高温石炭乾留ガス量の増加に伴って内径が大きくなり重量も増加するので、改質装置をコークス炉上に設置する場合には、設置場所の構造強度やスペースなどの問題が生じる。また、大型の改質装置は非経済的で実証機や商用機としては適していない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、高温石炭乾留ガスを効率的かつ経済的に改質するコークス炉であって、コークス炉の操業に適した小型の改質装置を伴うコークス炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るコークス炉は、燃焼室からの間接加熱によりコークスが製造される複数の炉室と、前記燃焼室を挟んで隣接する前記複数の炉室を所定の炉室数で複数の炉室群に分割し、各炉室群に設けられ、前記炉室群からのガスを改質する改質炉とを備える。
【0012】
この構成によれば、炉室群ごとに改質炉を設けることで、コークス炉の操業に適した小型の改質装置を伴うコークス炉を提供することができる。
【0013】
本発明に係るコークス炉は、前記炉室群ごとに同様の前記コークスの製造操業を順次行う。
【0014】
この構成によれば、炉室群ごとに同様の操業を行うことで、各改質炉において同様の制御を行うことができ、各改質炉から同様の品質の改質ガスを安定的に生成することができるので、高温石炭乾留ガスを効率的かつ経済的に改質することができる。
【0015】
本発明に係るコークス炉は、前記炉室群を構成する各炉室で発生する前記ガスの時間変動を時間軸上でずらして前記コークスの製造操業を順次行う。
【0016】
この構成によれば、各炉室で発生するガス量及びガス組成の変動パターン(時間変動)を最適に調整することにより、炉室群から改質炉へ導入されるガス量及びガス組成を安定させることができる。
【0017】
本発明に係るコークス炉は、前記炉室と前記改質炉とを接続するガス取出管と、前記炉室の圧力、温度、ガス組成、及び炉蓋開閉の少なくとも1つを検出する検出器と、前記圧力、前記温度、ガス組成、及び炉蓋開閉の少なくとも1つの変化に基づいて遮断命令を発信する命令信号発信器と、前記ガス取出管に設けられ、前記遮断命令に応じてコークス押出または石炭挿入を行っている前記炉室から前記改質炉へのガス流路を遮断し、前記改質炉への空気混入を遮断する遮断装置とを備える。
【0018】
この構成によれば、ガス流路を遮断することにより、炉室の内圧や温度の変動が改質炉に与える影響を低減することができるとともに、コークス押出または石炭挿入操作時の空気の混入によるガス組成の変動が改質炉に与える影響を低減することができる。
【0019】
本発明に係るコークス炉では、前記改質炉は、酸化剤を前記改質炉に供給する酸化剤ノズルを備え、前記酸化剤ノズルは、前記炉室群から前記改質炉へのガス流量の増減比率に応じて、前記増減比率とほぼ同じ比率で前記酸化剤の量を増減させる。
【0020】
この構成によれば、改質炉へ導入されるガス量の変動予想に追従して酸化剤量を調整することにより、改質炉の反応部温度を安定させることができる。
【0021】
本発明に係るコークス炉は、前記炉室と前記改質炉とを接続するガス取出管と、前記炉室の圧力、温度、ガス組成、及び炉蓋開閉の少なくとも1つを検出する検出器と、前記圧力、前記温度、ガス組成、及び炉蓋開閉の少なくとも1つの変化に基づいて、前記炉室から前記改質炉へのガス流量の調節命令を発信する命令信号発信器と、前記ガス取出管に設けられ、前記調節命令に応じて前記炉室から前記改質炉へのガス流量を調節する調節装置とを備える。
【0022】
この構成によれば、各炉室におけるガス流量及びガス組成の変動による影響を軽減することが可能となり、改質炉へ導入されるガス量及びガス組成を安定させることができる。
【0023】
本発明に係るコークス炉では、前記調節装置は、各炉室から前記改質炉へ導入される各ガス流量をほぼ均一にする。
【0024】
この構成によれば、各炉室におけるガス発生量の変動の影響を受けることなく安定して一定量の改質ガスを得ることができる。
【0025】
本発明に係るコークス炉は、前記炉室と前記改質炉とを接続するガス取出管と、前記ガス取出管を加熱する加熱装置と、前記加熱装置と前記ガス取出管との間を遮断することにより、前記加熱装置を保護する保護装置とを備える。
【0026】
この構成によれば、加熱装置がガス取出管を加熱することで、タールやカーボンなどがガス取出管に付着することを防止でき、流路閉塞防止処理やカーボン焼き処理を効率的に行うことができる。
【0027】
本発明に係るコークス炉は、前記炉室と前記改質炉とを接続するガス取出管と、前記ガス取出管に設けられ、前記炉室から前記改質炉へのガス流路を遮断する遮断装置と、前記ガス取出管に設けられ、前記炉室から前記改質炉へのガス流量を調節する調節装置とを備え、前記調節装置は、前記遮断装置が前記ガス流路を遮断する前に、所定の時間をかけて徐々に前記ガス流量を増減させる。
【0028】
この構成によれば、改質炉へ導入されるガス量の変動予想に追従してガス量の増減を徐々に行うことにより、改質炉へ導入されるガスのガス量や温度を安定させることができ、改質炉の反応部温度を安定させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、コークス炉の操業に適した小型の改質装置を伴うコークス炉を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係るコークス炉の一例を示した図である。
図1に示すように、コークス炉は、燃焼室からの熱によりコークスが製造される炉室と、前記燃焼室を挟んで隣接する複数の前記炉室を所定の炉室数で炉室群(炉室5a〜5e)に分割し、各炉室群(炉室5a〜5e)に設けられ、前記炉室群からのガス(石炭乾留ガス)を改質する改質炉1を含む改質装置とを備える。コークス炉は、炉室を所定の炉室数(
図1では5室)に分割して改質処理する。したがって、
図1のコークス炉は、所定の炉室数(5室)の炉室5a〜5eからなる同じ操業グループである1セットの炉室群に対して1つの改質炉1を備える。各炉室5a〜5eの高温石炭乾留ガスは、混合ガスとしてガス取出管6a〜6eからガス導入管6fを経て改質炉1へ導入される。改質炉1へ導入された混合ガスは、改質炉1の入口部に設置された酸化剤ノズル2からの酸化剤と混合され、部分酸化及び水蒸気改質され、改質ガスに転化される。混合ガスと酸化剤が反応する改質炉反応部15では、温度が約1300℃〜1400℃となる。改質炉1の出口部で改質ガスの冷却が必要な場合は、改質炉1の出口部に設置された蒸気ノズル3から冷却水蒸気16を投入することにより、改質ガス14が蒸気冷却され、冷却後の改質ガスは、後流の熱交換器9、遠心式固形物回収装置10、及び除塵・冷却設備である散水式冷却装置11へと送ガスされる。
【0032】
各炉室5a〜5eのガス取出管6a〜6eには、スライド式のダンパー7a〜7eがそれぞれ備えられ、ダンパー7a〜7eを閉鎖することにより炉室5a〜5eから改質炉1へのガス流路を遮断し、ガス流路が遮断された炉室5a〜5は改質炉1から切り離される。
【0033】
本実施の形態では、炉室全数をコークス炉の操業条件に適合した炉室数に分割して改質処理するコークス炉を提供する。炉室(炭化室)で生成されたコークスを押出した後に新しい石炭を装入する操業(製造操業)が繰り返されることにより、連続してコークスが製造される。コークス押出及び石炭装入時では、炉室のコークス押出蓋及び石炭装入蓋の開放により、炉室内の温度が急激に低下する。また、常温(石炭調湿設備がある場合は、50℃〜60℃)の新しい石炭を炉室へ装入することにより、炉室内の温度が急激に低下する。したがって、1つの燃焼室の両側に配置されている炉室において、同時に又は短時間の時間差でコークス押出又は石炭装入が行われると、両方の炉室内の温度が急激に低下し、両方の炉室が燃焼室の温度を奪い合うことになるので、燃焼室からの伝熱を維持することが困難となり、コークスの製造効率や品質が低下する。これは、一定の距離で近接する炉室において、同時に又は短時間の時間差でコークス押出又は石炭装入が行われる場合にも問題となる。そこで、この問題を解決するために、コークス炉は、前記炉室群ごとに同様の前記コークスの製造を順次行う。本実施の形態では、一定の距離以上を有する炉室群を1セットとして、炉室内の温度低下が影響しない炉室距離を維持しながら、1セット(又は、複数セット)ごとにコークス押出又は石炭装入が順次行われる。例えば、炉室間隔を炉室数N(又は、Nの倍数)ごとに分けて、コークス押出及び石炭装入を繰り返す操業グループ(操業単位)を構成して定期的なバッチ操業を行う。
【0034】
本実施の形態の特徴は、一定の距離以上を有する炉室群を1セットとして、1セット(炉室数N)ごとに1つの改質炉を備えることである。また、コークス炉は、複数セット(炉室数Nの倍数)ごとに1つの改質炉を備えてもよい。本実施の形態では、操業グループが5門単位である場合は同じ操業グループの5門(5室)の炉室5a〜5eを1セットとして、1セットの炉室群に対して1つの改質炉1を備える。操業グループが9門(9室)単位である場合は同じ操業グループの9門(9室)の炉室を1セットとして、1セットの炉室群に対して1つの改質炉1を備えてもよい。
【0035】
図2は、本実施の形態に係るコークス炉の一例を示すコークス炉の全体構造図を示した鳥瞰図である。
図2は操業グループが9門(9室)単位である場合で同じ操業グループの9門(9室)の炉室を1セットとして、1セットの炉室群に対して1つの改質炉1を備えたコークス炉4全体を示している。
図2のコークス炉4は、所定の炉室数(9室)の炉室26からなる同じ操業グループである1セットの炉室群に対して1つの改質炉1を備える。各炉室から出た高温石炭乾留ガスは、混合ガスとして9個のガス取出管から1本のガス導入管6fを経て改質炉1へ導入される。改質炉1へ導入された混合ガスは、改質炉1内で水蒸気改質され、改質ガスに転化される。改質ガスは、改質ガス出口管30を経由して改質ガス集合管31に集合し、後工程に送ガスされる。なお、
図2ではコークス炉4の屋上に設けた鉄骨架台32の上に改質炉1を設置した例を示したが、ガス導入管6fを地上部まで延長して、各改質炉1をコークス炉4の屋上ではなく、地上面に設置することもできる。
【0036】
また、各炉室5a〜5eへの石炭装入は、コークス炉の操業ノウハウにより、所定の間隔及び順序で行われる。石炭装入の間隔や順序により、炉室全体からの高温石炭乾留ガスのガス量やガス組成は変動する。また、石炭装入後の時間経過とともに、高温石炭乾留ガスのガス量やガス組成は変動する。
【0037】
図3は、1つの炉室における石炭装入からコークス押出までの間に発生する高温石炭乾留ガスのガス量の変動を示した図である。
図4は、1つの炉室から発生した高温石炭乾留ガスの主要成分である水素とメタンの濃度変化を示した図である。1セットの炉室全体(炉室5a〜5e)からの高温石炭乾留ガス(混合ガス)を安定的に改質するためには、1セットの炉室全体から改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させる必要がある。つまり、
図3及び
図4に示す1つの炉室からのガス量及びガス組成の変動パターンを考慮して、改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させる必要がある。
【0038】
本実施の形態の特徴は、1セットを構成する各炉室5a〜5eからのガス量及びガス組成の変動パターンを考慮して、改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させることである。つまり、コークス炉は、前記炉室群を構成する各炉室5a〜5eで発生する前記ガスの時間変動を時間軸上でずらして前記コークスの製造を順次行う。コークス炉は、各炉室5a〜5eからのガス量及びガス組成の変動パターン(時間変動)を最適に調整し、改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成の変動を極力小さくすることにより、改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させる。例えば、コークス炉は、
図3及び
図4に示す変動パターンを時間軸で均等にずらすことにより、ガス量及びガス組成が変動する時間(変動時間)が炉室ごとに異なる時間で生じるように調整することで、改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させる。この場合、変動時間の調整に応じて、炉室内の温度低下が影響しない炉室距離を維持しながら、1セットごとにコークス押出又は石炭装入が順次行われる。
【0039】
また、コークス押出時及び石炭装入時では、炉室5a〜5eのコークス押出蓋及び石炭装入蓋の開放(すなわち、炉蓋の開放)により空気が混入して炉室5a〜5eの内圧や温度が急激に変動するとともに混合ガスのガス組成が変動するので、これらの変動が改質炉1に与える影響を軽減する必要がある。また、乾留末期(コークス押出前)では、炉室の上昇管内に付着したカーボンを焼くためのカーボン焼き処理が開始される際、アンモニア含有水の噴霧により炉室5a〜5eの内圧や温度が急激に変動するので、これらの変動が改質炉1に与える影響を軽減する必要がある。
【0040】
本実施の形態の特徴は、コークス押出又は石炭装入を行っている炉室5a〜5eから改質炉1へのガス流路を遮断することである。このガス流路を遮断することにより炉室を改質炉1から切り離すことができ、遮断を開放することにより炉室を改質炉1に再接続することができる。ガス流路を遮断することにより、炉室5a〜5eの内圧や温度の変動が改質炉1に与える影響を低減することができるとともに、空気の混入によるガス組成の変動が改質炉1に与える影響を低減することができる。
【0041】
変動する高温石炭乾留ガスを無触媒で改質する技術において供給酸化剤量を制御することにより改質反応温度を一定の規定温度に保持することは公知であるが、複数の炉室からの高温石炭乾留ガスが変動するので、高温石炭乾留ガスの変動に応じて供給酸化剤量を調整して改質反応温度を制御しなければならない。一方、本実施の形態の特徴は、コークス押出及び石炭装入(装炭)を行っている炉室の切り離しまたは再接続により、改質反応温度を保持することができ、更に改質反応圧力やガス組成を保持することができる。
【0042】
本実施の形態の特徴は、複数の炉室5a〜5eから発生する石炭乾留ガスをまとめて改質することであり、特に、炉室全数で発生する高温石炭乾留ガス(混合ガス)を所定の炉室数(炉室単位)で改質処理することである。また、本実施の形態の特徴は、炉室から改質炉1へのガス流路を遮断することにより、改質炉1の圧力や温度やガス組成を安定させることである。
【0043】
次に、本実施の形態に係るコークス炉の動作について説明する。
図1に示すように、所定の炉室数(5室)の炉室5a〜5eからなる1セットの炉室群に対して、コークス押出又は石炭装入が順次行われる。例えば、コークス炉が炉室と燃焼室を横方向に20組積層配置した構成である場合、コークス炉は、5室(N=5)の炉室群からなる4セット(炉室番号1〜5,6〜10,11〜15,16〜20:Nの倍数)の炉室群からなり、1セットごとに1つの改質炉を備える。つまり、この場合のコークス炉は4つの改質炉を備える。そして、1セットごとに所定の順番でコークス押出又は石炭装入が順次行われる。例えば、炉室5a〜5e(炉室番号1〜5)において左から右に所定の時間間隔でコークス押出又は石炭装入が行われると、他の炉室群(炉室番号6〜10)においても左から右に所定の時間間隔でコークス押出又は石炭装入が行われる。また、炉室5a〜5e(炉室番号1〜5)において左から右に所定の距離間隔(例えば、炉室番号1,3,5の次に炉室番号2,4の順序)でコークス押出又は石炭装入が行われると、他の炉室群(炉室番号6〜10)においても左から右に所定の距離間隔(例えば、炉室番号6,8,10の次に炉室番号7,9の順序)でコークス押出又は石炭装入が行われる。このように、炉室内の温度低下が影響しない炉室距離を維持しながら、1セットごとにコークス押出又は石炭装入が順次行われる。また、炉室全数を複数の炉室群に分割することにより、1つの改質装置が処理を行う炉室数を減らすことができるので、コークス炉の操業に適した小型の改質装置を備えることができ、経済的で実証機や商用機として適した改質装置を備えることができる。
【0044】
図5は、1セットの炉室群における石炭装入からコークス押出までの間に発生する高温石炭乾留ガスのガス量の変動を示した図である。
図6は、1セットの炉室群から発生した高温石炭乾留ガスの主要成分である水素とメタンの濃度変化を示した図である。
図5及び
図6に示すように、1セットの炉室群において所定の時間間隔でコークス押出又は石炭装入が行われると、
図3及び
図4に示す混合ガスのガス量及びガス成分の変動パターンを時間軸で所定の時間間隔ずらして加算した加算変動パターンとして、1セットの炉室群から改質炉1へ混合ガスが導入される。つまり、ガス量及びガス組成が変動する時間(変動時間)が炉室ごとに異なる時間で生じるように調整することで、改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させることができる。
図3及び
図4に示す変動パターンを時間軸で所定の間隔ずらして加算すると、1セットの炉室群5a〜5eから発生する混合ガスのガス量及びガス成分に関する加算変動パターンが算出され、加算変動パターンが安定するように(例えば、変動値が所定の値の範囲内に収まるように)、コークス炉の操業を制御することで、高温石炭乾留ガスのガス量及びガス組成は安定し、酸化剤ノズル2から高温石炭乾留ガスに供給される酸化剤の量を無駄なく安定的に供給することができる。また、1セットごとに所定の順番でコークス押出又は石炭装入が順次行われることにより、1セットごとの加算変動パターンが同様の変動パターンになるので、1セットごとに備えられた改質炉における酸化ガス量を同様に制御することにより、各改質炉から同様の品質の改質ガスを安定的に生成することができる。
【0045】
次に、炉室5a〜5eから改質炉1へのガス流路を遮断する動作について説明する。
図7は、炉室5a〜5eから改質炉1へのガス流路を遮断するダンパー7a〜7eを備えたコークス炉の一例を示した図である。
図7に示すように、コークス炉は、高温石炭乾留ガスの炉室5a〜5eのガス取出管6a〜6eにそれぞれ設けられたスライド式のダンパー7a〜7e、圧力検出器19a〜19e、及び命令信号発信器20a〜20eを備える。
【0046】
コークス押出時及び石炭装入時や乾留末期(コークス押出前)において、圧力検出器19a〜19eが、炉室5a〜5e内の圧力変化を検出する。圧力検出器19a〜19eが所定の圧力変化を検出した場合、命令信号発信器20a〜20eがダンパー7a〜7eに遮断命令を発信する。遮断命令に応じて、ダンパー7a〜7eが炉室5a〜5eから改質炉1へのガス流路を遮断する。また、圧力検出器19a〜19eの代わりに(又は、圧力検出器19a〜19eとともに)、温度検出器やガス組成検出器(酸素濃度検出器)や炉室の炉蓋開閉検出器を備えてもよい。なお、炉蓋には、コークス押出蓋及び石炭装入孔が含まれる。検出器が所定の温度変化や所定のガス組成や炉蓋開閉を検出した場合、命令信号発信器20a〜20eがダンパー7a〜7eに遮断命令を発信し、ダンパー7a〜7eが炉室5a〜5eから改質炉1へのガス流路を遮断する。これにより、コークス押出及び石炭装入(装炭)を行っている炉室を切り離しまたは再接続することで、空気が混入して炉室5a〜5eの内圧や温度が急激に変動することやカーボン焼き処理の際におけるアンモニア含有水の噴霧により炉室5a〜5eの内圧や温度やガス組成が急激に変動することを防止することができ、圧力や温度が改質炉1に与える影響を軽減することができる。つまり、コークス炉は、前記炉室5a〜5eと前記改質炉1とを接続するガス取出管6a〜6eと、前記炉室5a〜5eの圧力、温度、ガス組成、及び炉蓋開閉の少なくとも1つを検出する検出器と、前記圧力、前記温度、ガス組成、及び炉蓋開閉の少なくとも1つの変化に基づいて遮断命令を発信する命令信号発信器20a〜20eと、前記ガス取出管6a〜6eに設けられ、前記遮断命令に応じて前記炉室5a〜5eから前記改質炉1へのガス流路を遮断するダンパー7a〜7e(遮断装置)とを備えることで、改質反応温度を保持することができ、更に改質反応圧力やガス組成を保持することができる。
【0047】
また、コークスがバッチで製造される場合、炉室数は例えば32室〜124室となることから、コークス炉は、これらの多数の炉室のうち操業単位である炉室数N(又は、Nの倍数)の炉室から高温石炭乾留ガスを取り出して改質炉1に導入し、酸化剤を吹き込んで高温石炭乾留ガスを改質する。この場合、改質運転中に乾留が終了した炉室においてコークス押出及び石炭装入(新しい石炭の装入)が行われ、乾留終了時から石炭装入完了までの間、炉室の上昇管部における水封により炉室はドライメーン(改質炉1など)と切り離される。1つの炉室がドライメーンと切り離されると、乾留末期では炉室から発生する高温石炭乾留ガスのガス量がほぼゼロとなり、同じ操業グループである1セットの炉室5a〜5eから改質炉1に導入される高温石炭乾留ガスのガス量が約1/N(1つの炉室分)減少する。そして、石炭装入後に炉室の上昇管部における水封の開放により炉室がドライメーンと再接続された場合、高温石炭乾留ガスのガス量が約1/N(1つの炉室分)増加して改質炉1に導入される。そこで、乾留末期となる時間に合わせて、酸化剤ノズル2は、高温石炭乾留ガス量の減少(約1/Nの減少)とほぼ同じ比率で、改質炉1に投入される酸化ガス量を現状の酸化ガス供給量から約1/N減少させる。一方、石炭装入後に合わせて、酸化剤ノズル2は、高温石炭乾留ガス量の増加(約1/Nの増加)とほぼ同じ比率で、改質炉1に投入される酸化ガス量を約1/N増加させる。つまり、酸化剤ノズル2は、前記炉室群5a〜5eから前記改質炉1へのガス流量の増減比率(例えば、1/N)に応じて、前記増減比率とほぼ同じ比率で酸化剤の量を増減させる。この結果、改質炉1へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量の変動予想に追従して酸化ガス量(酸化剤量)を調整することにより、改質炉1の反応部温度を安定させることができる。
【0048】
図8は、各ガス取出管6a〜6eに設けられた調節弁(調節装置)21a〜21eにより各炉室5a〜5eから改質炉1に導入される混合ガスのガス量を調節することを示した図である。
図8に示すように、コークス炉は、圧力検出器19a〜19e及び命令信号発信器20a〜20eを備え、圧力検出器19a〜19eが所定の圧力変化を検出した場合、命令信号発信器20a〜20eがダンパー7a〜7eに遮断命令を発信し、ダンパー7a〜7eが炉室5a〜5eから改質炉1へのガス流路を遮断する。また、圧力検出器19a〜19eが所定の圧力変化を検出した場合、命令信号発信器20a〜20eが調節弁21a〜21eに調節命令を発信し、調節弁21a〜21eが炉室5a〜5eから改質炉1へのガス量を調節する。このように、調節弁(ガス流量調節部)21a〜21eを設け、各炉室5a〜5eにおける高温石炭乾留ガスの発生量に応じて、炉室圧信号に基づき調節弁21a〜21eの開度を調節することで、各炉室5a〜5eからの高温石炭乾留ガスの流量を調節することができ、各炉室5a〜5eにおけるガス流量及びガス組成の変動による影響を軽減することが可能となり、改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させることができる。
【0049】
また、各炉室5a〜5eから改質炉1へ導入される混合ガスの各ガス流量をほぼ均一に制御することができ、各炉室5a〜5eにおける高温石炭乾留ガス発生量の変動の影響を受けることなく安定して一定量の改質ガスを得ることができる。
【0050】
また、圧力検出器19a〜19eの代わりに(又は、圧力検出器19a〜19eとともに)、温度検出器やガス組成検出器(酸素濃度検出器)や炉室の炉蓋開閉検出器を備えてもよい。検出器が所定の温度変化や所定のガス組成や炉蓋開閉を検出した場合、命令信号発信器20a〜20eが調節弁21a〜21eに調節命令を発信し、調節弁21a〜21eが炉室5a〜5eから改質炉1へのガス流量を調節する。これにより、各炉室5a〜5eにおけるガス流量及びガス組成の変動による影響を軽減することが可能となり、改質炉1へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させることができる。つまり、コークス炉は、前記炉室5a〜5eと前記改質炉1とを接続するガス取出管6a〜6eと、前記炉室5a〜5eの圧力、温度、ガス組成、及び炉蓋開閉の少なくとも1つを検出する検出器と、前記圧力、前記温度、ガス組成、及び炉蓋開閉の少なくとも1つの変化に基づいて、前記炉室5a〜5eから前記改質炉1へのガス流量の調節命令を発信する命令信号発信器20a〜20eと、前記ガス取出管6a〜6eに設けられ、前記調節命令に応じて前記炉室5a〜5eから前記改質炉1へのガス流量を調節する調節弁(調節装置)21a〜21eとを備える。
【0051】
図9は、ガス取出管から改質炉までのガス温度を予熱することを示した図である。
図9(a)は予熱機構を備えたガス取出管の正面図であり、
図9(b)は予熱機構を備えたガス取出管の側面図である。本実施の形態における石炭乾留ガスの無触媒改質装置では、炉室5a〜5eから取り出した高温石炭乾留ガスをガス取出管6a〜6eから改質炉1までの流路で400℃以上800℃以下に予め加熱する。
図9に示すように、コークス炉は、前記炉室5a〜5eと前記改質炉1とを接続するガス取出管6a〜6eと、前記ガス取出管6a〜6eを加熱するバーナ(加熱装置)22と、バーナ(加熱装置)22と前記ガス取出管6a〜6eとの間を遮断することにより、前記加熱装置を保護するバーナ保護用スライドダンパー(保護装置)23を備え、ダンパー23を開放しバーナ22の燃焼ガスによりガス取出管6a〜6e内を予熱する。これにより、高温石炭乾留ガスに含まれる重質炭化水素の液化凝集による(例えば、タールによる)流路閉塞又は高温石炭乾留ガスに含まれる炭化水素の高温熱分解カーボン析出による流路閉塞を防止することができ、炭化水素の液化凝集や析出などによる高温石炭乾留ガス中の成分損失を防止することができ、各炉室から改質炉に安定的に高温石炭乾留ガスを導入することができる。また、コークス炉は、メンテナンスとして、コークス押出及び石炭装入(装炭)を行っている炉室の切り離し状態において、ダンパー23を開放し、バーナ22のバーナ燃焼ガスによってガス取出管6a〜6eのカーボン焼き処理を行うことができる。また、調節弁(ガス流量調節部)21a〜21eにより調節されたガス量に応じて、バーナ22の火力を変化させることにより、流路閉塞防止処理やカーボン焼き処理を効率的に行うことができる。
【0052】
以上のように、本実施の形態に係るコークス炉によれば、炉室を所定の炉室数(
図1では5室)に分割して改質処理することで、コークス炉の操業に適した小型の改質装置を備えることができ、経済的で実証機や商用機として適した改質装置を備えることができる。また、分割された炉室ごとに改質処理を行い、各炉室からのガス量及びガス組成の変動パターンを最適に組み合わせて改質炉へ導入される混合ガスのガス量及びガス組成を安定させることができる。また、炉室から改質炉へのガス流路を遮断することにより、炉室の圧力変化、温度変化、及び空気混入が改質炉に与える影響を軽減することができる。また、1セットの炉室群から発生する混合ガスの加算変動パターンを制御することにより、高温石炭乾留ガスのガス量及びガス組成を安定させることができ、酸化剤ノズルから高温石炭乾留ガスに供給される酸化剤の量を無駄なく安定的に供給することができる。また、調節弁によりガス量を調節することで、1セットの炉室全体から改質炉へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量、温度、及びガス組成を安定させることができる。また、ガス取出管にバーナ及びバーナ保護用スライドダンパーを設置することにより、バーナの燃焼ガスでガス取出管内面を予熱又は加熱して、流路閉塞防止処理やカーボン焼き処理を行うことができる。
【0053】
以上、本発明にかかる実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において変更・変形することが可能である。
【0054】
例えば、ダンパー(遮断装置)7a〜7eによりコークス押出及び石炭装入(装炭)を行っている炉室を切り離しまたは再接続する場合、高温石炭乾留ガスのガス量の減少及び増加が急激に生じ、1セットの炉室全体から改質炉1へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量や温度が安定しなくなることがある。
【0055】
そこで、
図8に示すように、乾留末期となる時間に合わせて、コークス炉は、調節弁21a〜21eによりガス量を調節することで、同じ操業グループである1セットの炉室全体から改質炉1へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量を約1/N(1つの炉室分)徐々に減少させる。例えば、炉室5aをドライメーンから切り離す場合、調節弁21aを徐々に閉鎖することで、1セットの炉室全体から改質炉1へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量を約1/N(1つの炉室分)徐々に減少させる。この場合、高温石炭乾留ガス量の減少に合わせて、コークス炉は、酸化剤ノズル2からの酸化ガス量を調節することで、酸化ガスのガス量を現状の酸化ガス供給量から約1/N徐々に減少させる。つまり、高温石炭乾留ガス量の減少比とほぼ同じ比率で酸化ガスのガス量が徐々に減少する。一方、炉室がドライメーンと再接続される場合、コークス炉は、調節弁21a〜21eによりガス量を調節することで、1セットの炉室全体から改質炉1へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量を約1/N(1つの炉室分)徐々に増加させる。例えば、炉室5aをドライメーンに再接続する場合、調節弁21aを徐々に開放することで、同じ操業グループである1セットの炉室全体から改質炉1へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量を約1/N(1つの炉室分)徐々に増加させる。この場合、高温石炭乾留ガス量の増加に合わせて、コークス炉は、酸化剤ノズル2からの酸化ガス量を調節することで、酸化ガスのガス量を約1/N徐々に増加させる。つまり、高温石炭乾留ガス量の増加比とほぼ同じ比率で酸化ガスのガス量が徐々に増加する。
【0056】
このように、コークス炉は、前記炉室5a〜5eと前記改質炉1とを接続するガス取出管6a〜6eと、前記ガス取出管6a〜6eに設けられ、前記炉室5a〜5eから前記改質炉1へのガス流路を遮断する遮断装置と、前記ガス取出管6a〜6eに設けられ、前記炉室5a〜5eから前記改質炉1へのガス流量を調節する調節弁(調節装置)21a〜21eとを備え、調節弁(調節装置)21a〜21eは、前記遮断装置が前記ガス流路を遮断する前に、所定の時間をかけて徐々に前記ガス流量を増減させる。このように、改質炉1へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量の変動予想に追従して高温石炭乾留ガス量の減少及び増加を徐々に行うことにより、1セットの炉室全体から改質炉1へ導入される高温石炭乾留ガスのガス量や温度を安定させることができ、改質炉1の反応部温度を安定させることができる。